全文

ジェットルームのよこ入れ性予測技術の研究
新谷隆二*
森大介*
ジェットルームを使用した織物の多品種少量生産では,品種変更に伴う段取り換えを迅速に行うこと
が必要である。商品開発に用いられるよこ糸は,必ずしもジェットルームでよこ入れしやすい糸ではな
く,その糸のよこ入れ条件は実際に試織して決定するため,未だ経験と勘によるところが大きい。そこ
で本研究では,よこ糸の挿入に空気噴流を用いるエアジェットルームを対象として,ポリエステル加工糸
のよこ入れ性を評価する方法とそのよこ入れ条件との関連性について調べた。その結果,糸の空気抗力係数
を求めることによりよこ入れ性を評価可能であることを明らかにした。また,メインノズル圧力がよこ糸挿
入速度の増加に寄与することを明らかにした。さらには,よこ入れ条件からよこ糸の挿入速度を計算可能で
あることを明らかにした。
キーワード:エアジェットルーム,よこ入れ条件,空気抗力係数,よこ糸挿入速度
A Study on the Prediction Technology of Weft Insertion for Jet Looms
Ryuji SHINTANI and Daisuke MORI
In the large variety and small production of textiles used jet looms, it is required that the setting condition is quickly
changed to the next production. A weft yarn used for new development is not necessarily the suitable yarn for the weft insertion in
jet looms. The condition of weft insertion for the yarn is determined by experience and intuition from trial weaving. In this paper,
it investigated about the estimation method of the weft insertion performance and the relationship with weft insertion condition
for polyester textured yarn in air jet looms. Consequently, we observed that the weft insertion performance can be evaluated by
the air-drag coefficient of yarns. It is clear that the main nozzle pressure contributes to the increase in weft insertion speed.
Furthermore, it shows that the weft insertion speed is able to calculate from weft insertion conditions.
Keywords:air jet loom, weft insertion condition, air-drag coefficient, weft insertion speed
1.緒
言
織物製造業は消費者ニーズに対応して,強撚糸や
異原糸,複合糸などを用いた高付加価値製品の開発
そのため,よこ糸のよこ入れ性を評価し,その糸に
対する製織条件を適確に予測する手法を確立するこ
とは,迅速な新製品開発が促進されると考える。
が必要となっており,多品種少量生産への移行が余
本報では,ジェットルームの中で空気噴流をよこ
儀なくされている。またジェットルームを使用した
糸の挿入に用いるエアジェットルームを対象として,
多品種少量生産では,品種変更に伴う段取り換えを
ポリエステル加工糸のよこ入れ性を評価する方法と
迅速に行うことが必要であり,たて糸準備の効率化
その製織条件との関連性について調べたので報告す
と 製 織 条 件 (エ ア ジ ェ ッ ト ル ー ム で は 空 気 圧 力 と 空
る。
気 噴 射 タ イ ミ ン グ )の 決 定 が 重 要 な 課 題 と し て 挙 げ
2.理
られる。製織条件に注目すると商品開発に用いられ
論
るよこ糸は,必ずしもジェットルームでよこ入れし
2.1
よこ糸の運動
やすい糸ではなく,その糸の製織条件の決定は実際
エアジェットルームのよこ糸挿入時の糸運動につ
に試織を行い,よこ糸の飛走状態を確認しながら行
い て 考 え る 。 図 1は 変 形 お さ 補 助 ノ ズ ル 方 式 の エ ア
なわれるため,未だ経験と勘によるところが大きい。 ジェットルームでドラム方式のよこ糸貯留装置が採
*
用されている場合のよこ入れ機構概略とよこ糸の運
繊維部
- 13 -
よこ糸貯留装置
L2
L1
F3
x=0
x
lp
F1
よこ糸
F2
変形おさ
メインノズル
圧力変換器 Pm
補助ノズル
よこ糸パッケージ
圧力調整器
Ps0
空気圧縮機
圧力調整器
空気タンク
L1 : メ イ ン ノ ズ ル 加 速 管 内 の よ こ 糸 長
L2 : よ こ 糸 貯 留 装 置 か ら メ イ ン ノ ズ ル 加 速 管 入 り 口 ま で の よ こ 糸 長
lp
:補助ノズル取り付けピッチ
Pm : メ イ ン ノ ズ ル 圧 力
Ps0 : 補 助 ノ ズ ル 圧 力
図1 変形おさ補助ノズル方式のエアジェットルームのよこ入れ機構とよこ糸運動モデル
動モデルである。よこ糸の運動方程式は,よこ糸に
ズ ル 加 速 管 内 噴 流 速 度 , Ubは よ こ 糸 飛 走 路 で の 噴 流
作用する力として,メインノズル加速管内で噴流か
速度,Lはメインノズル先端からよこ糸先端までの
ら 受 け る 力 F1 , お さ 内 で の メ イ ン ノ ズ ル と 補 助 ノ ズ
長 さ , お よ び αは 糸 と 貯 留 ド ラ ム と の 接 触 角 度 で あ
ル の 噴 流 か ら 受 け る 力 F2 , お よ び 貯 留 ド ラ ム か ら よ
る 。 ま た , 式 (4)は , よ こ 糸 が 貯 留 ド ラ ム か ら 引 き
こ 糸 が 引 き 出 さ れ る 時 の 力 F3を 考 慮 す る と ,
出 さ れ る 時 の 力 と し て Adanur1)に よ り 導 か れ て い る 。
mV 2 + m ( x + L1 + L2 ) dV / dt = F1 + F2 − F3
(1)
式 (1) に 式 (2) か ら (4) を 代 入 し 積 分 す る こ と に よ
で 与 え ら れ る 。 こ こ で , mは よ こ 糸 の 質 量 , Vは よ こ
り,よこ糸の速度を数値計算することが可能となる。
糸 速 度 で あ る 。 ま た , 図 1に 示 し た よ う に L1は メ イ ン
ノ ズ ル 加 速 管 内 よ こ 糸 長 , L2 は よ こ 糸 貯 留 装 置 か ら
2.2
空気抗力係数
メインノズル加速管入り口までのよこ糸長である。
糸 の 空 気 抗 力 係 数 は , 式 (2) と (3) に お い て 使 用 さ
また,仮定として,よこ糸はメインノズルの軸中
れ,よこ糸を空気で挿入するときの重要な因子であ
心上を一次元的に運動するものとし,重力,回転力
るとともにそのよこ糸のよこ入れ性を表す指標と考
の影響,およびよこ糸の飛走にしたがい糸の姿勢が
えられる。また,糸の種類によって空気抗力係数は,
次第に変化することによる瞬間中心周りの遠心力の
異 な る こ と が 研 究 者 に よ り 明 ら か に さ れ て い る 2) ∼ 4) 。
式 ( 2 )か ら よ こ 糸 の 速 度 V=0 と す る と , 糸 の 空 気 抗
影響は無視している。
式 (1) 右 辺 に 示 さ れ る 糸 に 作 用 す る 力 は , 空 気 速
力係数は,次式で与えられる。
度とよこ糸の速度との相対速度によって関係付けら
Cf =
れ,それぞれ次式で表される。
1
2
F1 = C f πDL1ρ (U a − V )
2
F2 =
F3 =
2 F1
ρU a πDL1
2
(5)
ま た , 糸 の 空 気 抗 力 係 数 Cf は , 次 式 の 糸 直 径 を 代
(2)
表 長 さ と す る レ イ ノ ル ズ 数 Re d の 指 数 関 数 と し て 整 理
L
1
2
πDρ∫ C f (U b − V ) dx
0
2
(3)
1
mV 2 eµα
2
(4)
することができる。
C f = K Re d
Re d =
こ こ で , Cfは 糸 の 空 気 抗 力 係 数 , Dは よ こ 糸 の 直 径 ,
ρは 空 気 密 度 ( 20 ℃ の と き 1.205kg/m 3 ), U a は メ イ ン ノ
n
Ua D
ν
(6)
(7)
こ こ で , Kは 比 例 定 数 , nは 指 数 , νは 空 気 の 動 粘 性
係 数 ( 20 ℃ の と き 15.12 × 10 - 6 m 2 /s )で あ る 。
- 14 -
2.3
を 行 っ た 。 図 2か ら よ こ 糸 の お さ 端 へ の 到 達 を 示 す
よこ糸飛走路の噴流速度
従 来 の 研 究 5) は エ ア ガ イ ド 方 式 の エ ア ジ ェ ッ ト ル
フィーラ信号の立ち上がり角度とよこ入れ張力のピ
ー ム を 対 象 と し て い る た め , 式 (3) に お け る よ こ 糸
ークの立ち上がり角度が一致しているので,張力の
飛走路での噴流速度を一定として取り扱っている。
ピークの立ち上がり角度をよこ糸のおさ端への到達
しかしながら,変形おさ補助ノズル方式のエアジェ
タ イ ミ ン グ と し た 。 よ こ 糸 の 挿 入 速 度 Vy は , 織 機 回
ットルームでは一定の噴流速度として取り扱うこと
転 数 を Nと し て 次 式 で 計 算 し た 。
ができないので,補助ノズルからの噴流速度が軸対
称噴流の速度分布に従うと仮定して,よこ糸飛走路
の噴流速度を求めると次式で与えられる。
Ub
6.3
1
=
2 2
U S 0 S1 / d S 
 20.3r  
 1 + 0.125 
 

S1  



表1 よこ入れ条件
(8)
こ こ で , US0は 補 助 ノ ズ ル 出 口 噴 流 速 度 , dSは 補 助 ノ
7.22 s - 1
N
織機回転数
Pm
メインノズル圧力
147-294 kPa, 49kPa 毎
tj
メイン噴射時間
30.3-51.4 ms, 1.9ms 毎
Pj
常時圧力
Psub
補助ノズル圧力
49, 98 kPa
98-343 kPa, 49kPa 毎
補 助 ノ ズ ル 噴 射 1グ ル ー プ
86-166 °
2グ ル ー プ
111-181 °
式 (8) に お け る S1 と r は 補 助 ノ ズ ル の 取 り 付 け 角 度
3グ ル ー プ
140-210 °
および補助ノズル噴流の噴射角度から計算すること
4グ ル ー プ
169-239 °
5グ ル ー プ
198-359 °
ズ ル 出 口 直 径 , S1は 噴 流 軸 座 標 , お よ び rは よ こ 糸 飛
走点から噴流軸までの距離である。
ができる。
ピンタイミング
76-198 °
3.実験装置および方法
よ こ 入 れ 実 験 は , 加 速 管 長 さ 200mm と 出 口 直 径
2.5
TN
3.9mm の メ イ ン ノ ズ ル , 出 口 直 径 1.5mm の 補 助 ノ ズ
ル が 80mm の 取 り 付 け ピ ッ チ で 25 本 ( 5 本 1 グ ル ー プ で
張力
同 時 噴 射 ), 板 厚 0.26mm , お さ 密 度 28Dents/cm , お
さ 幅 1.9m の お さ が 装 着 さ れ て い る ベ ン チ テ ス ト 機 を
θs
2.0
θe
ピーク
張力
1.5
1.0
用いて行った。また,おさ端にはよこ糸のおさ端へ
0.5
の到達を感知するフィーラが取り付けてある。本ベ
0.0
ンチテスト機は,たて糸は装着されておらず,おさ
フィーラ信号
が静止した状態でよこ入れを行う。
0
よ こ 糸 貯 留 装 置 と メ イ ン ノ ズ ル の 間 に 3点 式 の 張
力 計 ( IRO 製
Yarn Tension Meter ) を , メ イ ン ノ ズ ル
90
180
270
回転角度 θ °
360
図2 よこ入れ時の張力とフィーラ信号
の 空 気 入 り 口 部 に 圧 力 計 (豊 田 工 機 製 PMS-5-10H )を
取り付け,よこ入れ時の張力とメインノズルの圧力
を 測 定 し た 。 よ こ 入 れ 条 件 は , 表 1に 示 す よ う に 補
表2 供試糸の物性値
繊度 フィラメ 等価直径
[tex]
ント数
[µm]
弾性率
[GPa]
助ノズルの噴射時間と噴射タイミングを一定として,
No.
メインノズルの設定圧力,メインノズルの噴射時間,
1
8.7
48
89.5
1.441
メインノズル常時圧力,および補助ノズルの設定圧
2
8.1
72
86.2
3.610
力を変更して実験を行った。
3
16.5
48
123.2
4.939
4
16.5
96
123.2
3.041
織機クランク回転角度およびよこ糸挿入速度を計測
5
21.7
48
141.3
2.766
し た 。 図 2は 計 測 さ れ た よ こ 入 れ 時 の 張 力 と フ ィ ー
6
21.7
72
141.3
4.373
ラ信号であり,横軸はトリガー信号の立ち上がりを
7
33.2
72
175.0
4.413
織 機 ク ラ ン ク 回 転 角 度 の 0 °と し て 回 転 角 度 へ の 換 算
8
33.9
96
176.8
4.178
また,ベンチテスト機からのトリガー信号により,
- 15 -
Vy = LR
360
N
(θ e − θ s )
(9)
レイノルズ数としては,あまり大きな値での実験が
行われていない。しかし,本実験では,エアジェッ
こ こ で , LR は メ イ ン ノ ズ ル 先 端 か ら フ ィ ー ラ 位 置 ま
で の 距 離 =1.895m , N=7.22s - 1 で あ り , 図 2 に 示 し た よ
う に θs は よ こ 糸 の 飛 走 開 始 角 度 , θe は よ こ 糸 の 織 端
への到達角度である。
トルームに用いられるメインノズルを用いた噴き出
し流であり,乱流中での実験であるにも関わらず,
レイノルズ数の増加による空気抗力係数の変化に関
し て は , Gould の 結 果 と 同 じ 傾 向 が あ る 。
実 験 に 用 い た よ こ 糸 は , 8.1tex か ら 33.9tex ま で の
ポ リ エ ス テ ル 加 工 糸 8種 類 で あ り , そ の 見 掛 け 繊 度
と フ ィ ラ メ ン ト 数 は , 表 2の と お り で あ る 。
このことは,空気抗力係数を求めるための本実験
装置および実験方法が,妥当であったことを示して
いると考えられる。
Gould に よ れ ば 式 ( 6 ) に お け る 比 例 定 数 K は 糸 の し
4.実験結果および考察
4.1
ま り 具 合 等 を 表 し , 指 数 nは 表 面 の 滑 ら か さ を 表 す
空気抗力係数
と考えられている。実験に用いたポリエステル加工
メインノズルを用いて,糸の一端を固定した状態
で 空 気 抗 力 を 計 測 し て , 計 算 し た 空 気 抗 力 係 数 Cf の
結 果 を , レ イ ノ ル ズ 数 を 横 軸 と し て 図 3に 示 す 。 図
中 に 示 す 実 線 は , Gould 3 ) が 行 っ た 両 端 支 持 条 件 下 で
のモノフィラメントの実験結果である。図から空気
抗力係数のレイノルズ数に対する変化は,繊度には
依 存 せ ず , 3つ の グ ル ー プ に 分 か れ て い る 。 特 に フ
糸 の nの 値 は , 繊 度 お よ び フ ィ ラ メ ン ト 数 に よ ら ず -
0.76 で あ っ た 。 ま た , ポ リ エ ス テ ル 加 工 糸 は , 荷 重
の変化に対する直径変化が直線的ではなく,荷重の
指数関数的に減少する。この荷重に対する直径変化
が , 式 ( 6 )に お け る 比 例 定 数 K の 値 に 大 き く 影 響 し ,
3グ ル ー プ 分 か れ た も の と 考 え ら れ る が そ の 有 意 性
については明確ではなく,今後の検討課題である。
ィ ラ メ ン ト 数 96 本 の 糸 16.5tex と 33.9tex が , 実 験 し た
中では一番大きな空気抗力係数となった。また,得
4.2
ら れ た 空 気 抗 力 係 数 は , Gould の 結 果 よ り も か な り
4.2.1
大きな値を示している。この理由としては,ポリエ
ステル加工糸は糸の構造から空気との接触面積が多
いことと,実験条件が片端支持であるので,主とし
て自由端の振動や曲率を持つことにより,空気抗力
係数が大きくなったものと考えられる。
よこ糸挿入速度
メインノズル圧力の影響
メインノズルに設定する圧力には,よこ糸挿入時
に作用する圧力とよこ糸が停止しているときによこ
糸 の 緩 み を 解 消 し て 初 動 を 補 助 す る 常 時 圧 力 の 2種
類 が あ る 。 図 4に 4種 類 の 糸 で メ イ ン ノ ズ ル 噴 射 時 間
39.9ms , 常 時 圧 力 98kPa , 補 助 ノ ズ ル 圧 力 196kPa の と
また,これまでの糸の空気抗力係数を求める実験
は,空気流の安定性から吸い込み流を用いており,
きのメインノズル圧力とよこ糸挿入速度との関係を
示す。実験した圧力範囲では,よこ糸の挿入速度は,
糸種によらずメインノズル圧力に比例して増加して
8.7tex/48f
8.1tex/72f
16.5tex/48f
16.5tex/96f
21.7tex/48f
21.7tex/72f
いる。また,このときの増加割合も糸種によらずほ
33.2tex/72f
33.9tex/96f
ぼ一定である。糸の繊度による違いは,繊度の小さ
10-1
よこ糸挿入速度 Vy m/s
空気抗力係数
Cf
45
10-2
Gould & Smith
Cf=0.41Red-0.61
Pj=98kPa
tj=39.9ms
40
8.7tex/48f
16.5tex/96f
21.7tex/72f
33.9tex/96f
35
30
10-3 3
10
150
4
10
レイノルズ数 Red
200
250
メインノズル圧力 Pm kPa
図3 空気抗力係数
図4 メインノズル圧力の影響
- 16 -
300
い糸の方が,同じメインノズル圧力で大きなよこ糸
助ノズル圧力を調整することによって可能となると
挿 入 速 度 と な る 傾 向 に あ る が , 21.7tex/72f の 糸 と
考える。
33.9tex/96fの 糸 で は ほ ぼ 同 じ よ こ 糸 挿 入 速 度 で あ る 。
こ れ は , 図 3 に 見 ら れ る よ う に , 21.7tex/72f の 糸 と
4.3
33.9tex/96f の 糸 と の 空 気 抗 力 係 数 の 違 い が 大 き く 影
図 6は , メ イ ン ノ ズ ル 圧 力 と よ こ 糸 挿 入 速 度 と の
関 係 を 式 (1) を 用 い て 数 値 計 算 し た 結 果 と と も に 示
響した結果であると考えられる。
4.2.2
数値計算結果
補助ノズル圧力の影響
す。数値計算にはルンゲ・クッタ法を用いた。実験
図 5に 3種 類 の 糸 に つ い て 補 助 ノ ズ ル 圧 力 と よ こ 糸
条 件 は , 16.5tex/96f の 糸 , メ イ ン ノ ズ ル 噴 射 時 間
挿 入 速 度 の 関 係 を 示 す 。 21.7tex/72f と 33.9tex/96f の 糸
39.9ms , 常 時 圧 力 49kPa , 補 助 ノ ズ ル 圧 力 196kPa の 場
は,補助ノズル圧力に比例してよこ糸挿入速度が増
合である。計算結果と実験値とを比較すると,計算
加 し て い る 。 16.5tex/96f の 糸 は , 補 助 ノ ズ ル 圧 力 が
結果のほうが実験値よりも少し大きいよこ糸挿入速
294kPa ま で は よ こ 糸 挿 入 速 度 は 補 助 ノ ズ ル 圧 力 に 比
度となっているが,メインノズル圧力とよこ糸挿入
例して増加しているが,それ以上の圧力では増加が
速度がほぼ比例関係にあることを良く表しており,
見られない。いずれの糸のおいても,補助ノズル圧
計算値と実験値は,定性的にも定量的にも一致して
力に対するよこ糸挿入速度の増加割合は,メインノ
いると考えられる。
ズルの圧力や噴射時間に対する増加割合よりも小さ
図 7 に , 実 験 条 件 と し て 16.5tex/96f の 糸 , メ イ ン ノ
くなっている。これは,メインノズルでは,高速空
ズ ル 圧 力 196kPa , 常 時 圧 力 49kPa , 補 助 ノ ズ ル 圧 力
気 が よ こ 糸 を 包 み 込 む よ う に 流 れ て い る の に 対 し て , 196kPa の と き に メ イ ン ノ ズ ル 噴 射 時 間 を 30.3ms ∼
変形おさのよこ糸通路内では,補助ノズルからの噴
51.4ms ま で 変 化 さ せ た 場 合 の よ こ 糸 挿 入 速 度 を 計 算
流速度がよこ糸の飛走方向とある角度を持って外部
結果とともに示す。
から流れ込んでいるため,補助ノズル圧力の増加に
噴射時間に対するよこ糸挿入速度は,噴射時間が
対するよこ糸挿入速度の増加が,メインノズル圧力
42ms を 超 え る と あ ま り 増 加 し な い が , そ れ ま で は ,
を増加したときに比べて,小さいと考えられる。
メインノズル圧力と同様に直線的な増加傾向を示し
エアジェットルームでの製織は,いかによこ糸を
て い る 。 噴 射 時 間 が 42ms を 超 え た と き に よ こ 糸 挿 入
安定させて飛走させるかが重要であり,よこ糸挿入
速度があまり増加しない理由は,噴射終了時には既
速度の標準偏差が小さくなるように,メインノズル
によこ糸先端が端に到達しており,貯留装置から糸
圧力,噴射時間,および補助ノズル圧力を調整する
が引き出されるのを防ぐためのピンにより糸が押さ
必要がある。
えられるためによこ糸挿入速度が増加しないものと
織機回転数の増加に対するよこ糸挿入速度の向上
には,メインノズルの設定圧力または噴射時間を増
考えられる。また,計算結果と実験結果とは良く一
致していることがわかる。
し た が っ て , 式 (1) に 糸 の 空 気 抗 力 係 数 を 与 え る
加させれば良く,安定したよこ入れを行うには,補
ことにより,よこ糸挿入速度のシミュレーションが
38
Pm=196kPa
Pj=98kPa
tj=39.9ms
45
よこ糸挿入速度 Vy m/s
よこ糸挿入速度 Vy m/s
40
36
16.5tex/96f
21.7tex/72f
33.9tex/96f
34
40
16.5tex/96f
Pj=49kPa
tj=39.9ms
35
計算値
実験値
30
32
100
150
200
300
補助ノズル圧力 Psub kPa
200
250
300
メインノズル圧力 Pm kPa
図6 メインノズル圧力の影響
図5 補助ノズル圧力の影響
- 17 -
よこ糸挿入速度 Vy m/s
36
頂いた金沢大学工学部教授岡島厚氏ならびに金沢大
16.5tex/96f
Pm=196kPa
Pj=49kPa
学工学部教授新宅救徳氏に感謝します。
参考文献
34
1 ) S. Adanur and M. H. Mohamed: Analysis of Yarn
Motion in Single-nozzle Air-jet Filling Insertion Part
32
計算値
I: Theoretical Models for Yarn Motion, J. Textile
実験値
30
30
40
50
Institute, Vol.83, No.1, p.45 ( 1992 )
2) 樋 口 健 治 ,笠 原 要 亮 : 糸 の 空 気 力 学 的 性 質 , 繊 維 機
械 学 会 誌 , Vol.15, T335 ( 1962 )
メインノズル噴射時間 tj ms
図7 メインノズル噴射時間の影響
3 ) J. Gould and F. S. Smith: Air-Drag on SyntheticFiber Textile Monofilaments and Yarns in Axial Flow
at Speeds of up to 100 meters per second, J. Textile
可能である。また,よこ糸の運動を解析する上で,
Institute, Vol.71, No.1, p.38 ( 1980 )
よこ糸の運動方向をメインノズルの中心軸上と仮定
して数値計算を行ったが,定性的・定量的にもよこ
4) 八 田 潔 ,喜 成 年 泰 ,新 宅 救 徳 ,岩 木 信 男 : ス パ ン デ ッ
クス糸の空気抗力に及ぼす糸断面形状の影響, 繊
糸挿入速度の計算値と実験値は一致しており,よこ
維 機 械 学 会 誌 , Vol.50, T216 ( 1997 )
糸の飛走位置が,よこ糸挿入速度の平均値に与える
5) 宇 野 稔 : 補 助 気 流 を 併 用 し た エ ア ジ ェ ッ ト ル ー ム
影響は少ないと考えられる。
の 研 究 (第 1 報 )緯 糸 運 動 方 程 式 の 導 入 , 繊 維 機 械 学
5.結
会 誌 , Vol.25, No.3, T47 ( 1972 )
言
変形おさ補助ノズル方式のエアジェットルームを
対象として,ベンチテスト機でポリエステル加工糸
のよこ入れ性を評価する方法とその製織条件との関
連性について調べた結果,以下のことが明らかとな
った。
(1) エ ア ジ ェ ッ ト ル ー ム の メ イ ン ノ ズ ル を 用 い た 噴
出流で実験を行ったが,空気抗力係数を求める実
験としては妥当であり,糸のよこ入れ性を評価す
る方法として用いることが可能であると考えられ
る。
( 2 ) 実 験 し た ポ リ エ ス テ ル 加 工 糸 の 中 で は 96 フ ィ ラ
メ ン ト の 16.5tex と 33.9tex の 糸 の 空 気 抗 力 係 数 が 一
番大きく,よこ入れ性が良いと判断できる。
(3) 織 機 回 転 数 の 増 加 に 対 す る よ こ 糸 挿 入 速 度 の 向
上には,メインノズルの設定圧力または噴射時
間を増加させれば良く,安定したよこ入れを行
うには,補助ノズル圧力の調整が必要である。
( 4 ) 16.5tex/96f の よ こ 糸 挿 入 速 度 の 数 値 計 算 結 果 と 実
験値とは良く一致し,理論計算可能であることが
明らかとなった。
謝
辞
本研究を遂行するに当たり,終始適切なご助言を
- 18 -