ダイナミック造影 MRI を用いた子宮筋腫に対する 子宮

393
原 著 日産婦関東連会報 39:393―397,2002
ダイナミック造影 MRI を用いた子宮筋腫に対する
子宮動脈塞栓術の効果判定法
裕紀子1)
青木
寛明1)
松本
直樹1)
石塚
康夫1)
篠!
英雄1)
西井
寛1)
渡辺
明彦1)
落合
和彦1)
田中
忠夫2)
森
The Utility of Dynamic Contrast-Enhanced MR Imaging to Evaluate
the Effect of Uterine Artery Embolization for Uterine Leiomyoma
Yukiko MORI, Hiroaki AOKI, Naoki MATSUMOTO, Yasuo ISHIZUKA, Hideo SHINOZAKI
Hiroshi NISHII, Akihiko WATANABE, Kazuhiko OCHIAI, Tadao TANAKA
Department of Obstetrics and Gynecology, Jikei University School of Medicine Aoto Hospital 1)
Department of Obstetrics and Gynecology, Jikei University School of Medicine 2)
概
要
子宮筋腫に対する子宮動脈塞栓術(UAE)は注目されているが,中には筋腫の再腫大がみ
られるものがある.本研究では UAE の治療効果を知る方法として UAE 後 3 か月目のダイナ
ミック造影 MRI を用いて子宮筋腫核の血流の有無を調べ,再腫大との関連を検討した.12
症例 13 個の筋腫核の中で,UAE 後のダイナミック造影 MRI にて造影されなかった筋腫はす
べて再腫大しなかった.一方,造影された筋腫 2 個は再腫大した.UAE 後のダイナミック造
影 MRI で造影した筋腫は再腫大の可能性があるため定期的に経過観察が必要である.UAE
後のダイナミック造影 MRI は非侵襲的に子宮筋腫核の血流の程度を知ることができ,UAE
による個々の子宮筋腫核にたいする縮小率の長期予後を知る有用な方法と考えられた.
Key words:Uterine artery embolization,Uterine leiomyoma,Dynamic contrast-enhanced
MR imagine
緒
embolization)
を施行し,筋腫の縮小を認めたと報
言
告した.以後,子宮筋腫に対して世界各地で UAE
Serdinger 法での選択的血管造影による動脈塞
の有効症例が報告され,UAE は子宮筋腫に対する
栓術は 1968 年に Doppman らが脊髄動静脈奇形
治療法の一つとして認められつつある4,5).しかし
1)
に対しての動脈塞栓術を最初に報告した .婦人
UAE を施行した症例の中には再発例もみられ,
科領域では 1970 年代に外科的に止血困難な子宮
UAE 後に定期的な経過観察が必要である.今回
2)
出血に対して緊急止血目的に行われていた .
我 々 は UAE 後 1∼3 か 月 に ダ イ ナ ミ ッ ク 造 影
1995 年にフランスの Ravina3)らが子宮筋腫に応
MRI を行い子宮筋腫核の血流量を調べ,子宮筋腫
用し,子宮動脈塞栓術(以下 UAE : Uterine artery
の再発に関して検討した.
1)
東京慈恵会医科大学附属青戸病院産婦人科
東京慈恵会医科大学産婦人科
2)
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日産婦関東連会報
第 39 巻 4 号
用あるいは gelatine sponge のみ)を注入した.最
対象と方法
後に骨盤動脈造影で子宮筋腫への血管塞栓が十分
当院では UAE の適応を,
(1)有症状の子宮筋
腫,
(2)悪性腫瘍を否定できる,
(3)挙児希望がな
行われたことを確認した.
UAE 後の経過観察期間は 4∼25 か月(平均 13.5
い,
(4)ホルモン療法,
手術療法を希望しない,
(5)
か月)
であった.評価方法は UAE 後 3 か月後ダイ
15 cm 未満,以上 4 項目を満たすものとしている.
ナミック造影 MRI を検査し,造影曲線は造影強度
今回の対象は 1999 年 8 月から 2001 年 11 月まで
より分類した.ダイナミック造影 MRI は造影剤
に前述の適応を満たし UAE を施行した症例 26
Gd-DTPA を 2 ml !
sec で 15 ml 静 注 し な が ら
例のうち 3 か月後にダイナミック造影 MRI 検査
MRI を撮影し,MRI の intensity の経時的変化を
を施行した 12 例(筋腫核 13 個,1 例は 2 個の筋腫
みる検査で,横軸が時間(秒)で縦軸が intensity
核をもつ)で,年齢は 36 歳から 53 歳(平均 45.1
の造影曲線の傾きで造影の程度を知ることができ
±5.5 歳)であった.筋腫核の位置は,粘膜下筋腫
る.MRI は Siemens 社 製 の Magnetom Sympho-
が 6 例,筋層内筋腫が 6 例,漿膜下筋腫が 1 例で
ny 1.5 T を使用した.子宮筋腫の大きさは基本的
ある.筋腫核の大きさは長径 30 mm 以上を測定対
に MRI で 3 方向を計測し縮小率{
(1-V 1!
V 0)×
象とした.各症例の筋腫核は 43 mm から 130 mm
100(%)
V 0 : UAE 前, V 1 : UAE 後}
を出したが,
(平均 65.8±25.9 mm)であった.
術後 MRI が施行していない場合はエコーで代用
UAE はインフォームドコンセントを得た後,右
鼡径部に局所麻酔し,大腿動脈からカテーテルを
した.縮小率は体積比とし,変化しない場合を 0
%,消失した場合を 100% と表した.
挿入.透視下で選択的子宮動脈造影を行い,子宮
成
筋腫の栄養血管を確認し,血流が途絶するまで塞
栓 物 質(polyvinyl alchol と gelatine sponge の 併
績
造影曲線は 2 群に大別された.1 群は造影曲線
1:子宮筋腫,完全に塞栓され造影なし.
2:正常筋層,時間とともに造影される.
縮小傾向が25ヶ月続いている.
図 1 MRI と造影曲線(非効造影群)
2002.
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1:正常筋層,時間とともに造影される.
2:子宮筋腫,時間とともに少し造影される.
UAE後3か月で変化無くし21か月後には10%腫大した.
図 2 MRI と造影曲線(造影群筋腫 I)
1:子宮筋腫,完全に塞栓され造影なし.
2:正常筋層,時間とともに造影される.
3:子宮筋腫,よく造影されている.
筋腫3は3か月は縮小したが,その後再腫大した.
図 3 MRI と造影曲線(造影群筋腫 II)
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第 39 巻 4 号
図 4 筋腫核の縮小率
で造影を認めなかったもので非造影群(図 1)と
縮小率に関係なく,全例 UAE 後の最初の月経よ
し,造影されたものを造影群(図 2,図 3)
とした.
り過多月経は改善し,経過観察期間中に症状の再
図 4 に 12 症例 13 筋腫核の経時的縮小率を示す.
燃は無かった.
13 筋腫核のうち非造影群は 11 筋腫核で,造影群
考
は 2 筋腫核だった.非造影群(実線)
の筋腫は UAE
察
後 3 か月で平均 63% の縮小率を示し,以後も経過
ダイナミック造影 MRI は通常の MRI に比べ,
観察中縮小し続けた.造影群の 2 筋腫核は造影曲
わずかな intensity の変化を検出することが可能
線の傾きに違いがあった.わずかに造影曲線で in-
で MRI は肝臓癌,乳癌,咽喉頭血管腫などの鑑別
tensity の変化を認めるが正常筋層ほど造影され
などの診断に使われている6∼8).UAE の効果を早
ない筋腫(造影群筋腫 I 図 2)と,正常筋層より in-
い時期に予測できることは患者の不安の除去とそ
tensity が 高 く 変 化 し た 筋 腫(造 影 群 筋 腫 II 図
の後の経過観察期間を設定する上で有意義と思わ
3)だった.造影群筋腫 I(点線細)は UAE 後 3
れる.今回の我々は,UAE 後早期に塞栓効果を予
か月目には変化が無かったが,その後経過観察中
測するためにダイナミック造影 MRI を用い,筋腫
に腫大傾向を示した.造影群筋腫 II(点線太)は
核への血流の有無と筋腫核の再腫大の有無を検討
UAE 後 3 か月では縮小していたが,その後再腫大
した.
した.
12 症例全例過多月経を認めていたが,UAE の
UAE 後のダイナミック造影 MRI で非造影群は
その後の筋腫の再腫大を認めなかった.造影群 2
2002.
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例は,UAE 後 3 か月時には再腫大していないが,
ダイナミック造影 MRI は非侵襲的に子宮筋腫核
実際はその時点で筋腫核に血流が生じていること
の血流の程度を知ることができ,UAE による個々
により以後再腫大したと考えられる.よって,造
の子宮筋腫核に対する UAE の縮小率の長期予後
影群は再腫大の可能性があると考えられた.
を知るのに有用な方法であると思われた.
今回の検討においてはダイナミック造影 MRI
の時期については,UAE による疼痛,炎症の症状
が消失した後の定期検査の時期(3 か月)にした.
縮小率の変化は,UAE 後 3 か月間がその後の 3
か月,半年より大きいため(図 4),ダイナミック
造影 MRI 検査の施行時期としては妥当と考える.
一方,Wei9)らは子宮動脈塞栓術後 3 日から 2 週間
後にダイナミック造影 MRI を施行し,短期間でも
正常筋層と塞栓後の筋腫核の造影曲線に差が生じ
ることを報告している.よって,UAE 後 1 か月と
早くても 3 か月と同様の結果が得られる可能性は
あり,より早い時期での血流の遮断の確認も今後
検討すべきと考えた.
筋腫の位置による違いとしては,筋層内筋腫 6
例のうち 2 例が造影群だった.粘膜下筋腫は 6 例
とも非造影群だった.Jha ら10)は粘膜下筋腫は血流
が多く,UAE にて縮小率が高いと報告しており,
粘膜下筋腫は筋層内筋腫に比べ UAE 後再開通が
生じにくい可能性がある.さらに Jha ら10)は UAE
前のダイナミック造影 MRI は筋腫核の縮小率の
予測に有効であると述べている.しかし,岡田ら11)
は,UAE 前のダイナミック造影 MRI の筋腫の造
影効果の強弱の差は術後の MRI 所見や自覚症状
の改善度に影響しなかったと述べている.
再腫大した 2 症例はダイナミック造影 MRI の
造影群であるが,造影曲線のパターンが違い,筋
腫核の径の変化も急激に増大したものと徐々に腫
大したものという 2 つの傾向がみられた.ダイナ
ミック造影曲線での定量的評価が可能であるか
は,さらにに症例を重ねた検討が必要である.
造影曲線によらず,過多月経は観察期間内で全
例改善したが,非造影群で UAE 後 1 年で筋腫核
は縮小しているが月経困難症のみ再燃した症例が
あった.月経困難症や過多月経は筋腫核のサイズ
のみならず,腺筋症の有無など他の因子により影
響を受けるため,ダイナミック造影 MRI の結果が
臨床症状を反映しない場合もあり得る.しかし,
本文の要旨は第 54 回日本産科婦人科学会学術講演
会において発表した.
文
献
1)泉
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11)岡田吉隆,佐藤哲也,安達英夫:ダイナミック造
影 MRI による子宮動脈塞栓療法の経過観察:日
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