Ⅰ.唾液腺の解剖 唾液腺疾患の画像診断 2014年12月19日(金) 担当:林 孝文 • 大唾液腺 耳下腺 Parotid gland 耳下腺管 Parotid duct; ステノン管 Stensen’s duct 顎下腺 Submandibular gland 顎下腺管 Submandibular duct; ワルトン管 Wharton’s duct 舌下腺 Sublingual gland • 小唾液腺 口唇腺・口蓋腺・頬腺・臼歯腺・舌腺 1.単純エックス線写真 Plain films II.唾液腺の画像診断(総論) ・エックス線不透過物として検出される唾 石や石灰化物の位置・数の確認 ・これらの石灰化度が低い場合には検出で きず、唾液腺疾患における意義は低い 2.唾液腺造影 Sialography ・陽性造影剤を導管開口部より逆行性に注入し、導 管系を描出する ・耳下腺・顎下腺に適応(小唾液腺には注入不可能、 舌下腺への選択的な注入は困難) ・侵襲的検査であり、CT・MRI・USの普及により 検査件数は著明に減少 ・唾液腺の導管系の微細構造の描出に有用だが、臨 床的に必要な場合に限定 ・急性炎症の場合には禁忌 ・油性造影剤は漏出すると異物として残る 1 耳下腺造影のための耳下腺乳頭へのアプローチ ←涙管ブジー 唾液腺造影に必要な器具類 顎下腺造影のための舌下小丘へのアプローチ 耳下腺造影の実際 正常耳下腺造影像 正常顎下腺造影像 2 3.CT ・耳下腺では、 1)正常の耳下腺の density は成人では筋より低いが、 小児と一部の成人では筋と同程度であり、病変を検 出困難な場合がある 2)腺体内導管は評価できず、ステノン管は病的に 拡張した場合に指摘可能 3)咬合平面レベルは歯冠修復物によるアーティ ファクトの影響を受けやすい ・顎下腺は耳下腺よりdensity が高く造影CTでは筋よ り強く造影され、ワルトン管はステノン管よりも指 摘しやすい ・唾石などの石灰化物の検出に鋭敏 単純CT 造影CT早期相 単純CT 造影CT早期相 T1強調像 脂肪抑制T2強調像 4.MRI ・唾液腺腫瘤性病変に対する第一選択 ・耳下腺は、正常の耳下腺の信号強度はT1強調像 で中∼高信号、T2強調像で中信号 ・顎下腺はT1強調像で耳下腺より低信号で、T2強 調像で耳下腺より高信号 ・石灰化物の検出は不良 ・CT・MRIともに良悪性の鑑別は困難だが、造影 ダイナミック撮影やMRIの拡散強調画像は有用 ・Sjögren症候群の診断への将来的な有用性が期待 される T1強調像 原因不明の耳下腺導管拡張症例 脂肪抑制造影T1強調像 脂肪抑制T2強調像 脂肪抑制造影T1強調像 脂肪抑制T2強調像 脂肪抑制T2強調像 MR sialography (hydrography) 3 正常顎下腺(右側)矢状断 5.超音波検査 Ultrasonography, US ・唾液腺腫瘤性病変の存在診断の第一選択 ・視野が限定されるため、深部の進展範囲の評価 が困難 ・唾液腺は全般的に高エコーに描出され、顎下腺 は耳下腺よりやや低エコー ・ステノン管・ワルトン管は病的に拡張した場合 に検出可能 ・唾石などの石灰化物は音響陰影により検出可能 だが、CTほど鋭敏ではない ・Sjögren症候群の診断への将来的な有用性が期待 される 顎下腺 顎舌骨筋 顎二腹筋後腹 正常耳下腺(右側)水平断 ←胸鎖乳突筋 顎下腺 耳下腺 耳下腺 咬筋 下顎枝 顎下腺腫瘍の例 原因不明の耳下腺導管拡張症例 耳下腺腫瘍の例 6.核医学的検査 Radionuclide studies 耳下腺 ・Technetium (Tc) 99m pertechnetate の集積で判断 ・Warthin腫瘍 と oncocytoma に特異的に集積 (参考) 骨シンチグラフィ:99mTc-MDP (methylene diphosphonate) 99mTcで標識されたリン酸化合物 唾液腺シンチグラフィ:Technetium 99m pertechnetate , 99mTcO4− ジェネレータから溶出した過テクネチウム酸 4 唾液腺シンチグラム III.唾液腺疾患の画像診断(各論) 1.非腫瘍性病変 Technetium 99m pertechnetate (1)急性唾液腺炎 ・ウイルス感染 流行性耳下腺炎:mumps virus の感染 ・細菌感染 溶血レンサ球菌・ブドウ球菌などによる 全身の抵抗力低下時(大きな外科手術後0.74%に発生) 画像診断 1)唾液腺造影 ・急性症状のある場合は原則禁忌 ・ステノン管・ワルトン管・腺体内主導管のソーセージ状の 拡張と末梢導管の不明瞭化 2)CT ・ステノン管・ワルトン管は拡張し管壁は造影される ・腺体は腫大し細胞浸潤により density が上昇し強く造影さ れる ・唾石があれば明瞭に指摘可能 (2)唾石症 Sialolithiasis ・唾石の80∼90%が顎下腺に、10∼20%が耳下腺に、1∼7% が舌下腺に生じる ・顎下腺唾石の85%はワルトン管に生じる(30%が導管開口 部、20%が導管中間部、35%が顎舌骨筋後縁の屈曲部) 画像診断 1)単純エックス線写真 ・石灰化が十分な唾石は検出可能だが、小さいか石灰化の不 十分な場合は検出困難 2)唾液腺造影 ・石灰化の不十分な唾石も陽性造影剤中の透過像として検出 可能な場合がある 3)CT ・唾石の検出に最も鋭敏 左側顎下腺唾石 顎下腺 ←唾石 音響陰影→ 5 右側顎下腺唾石 左側耳下腺唾石 (3)シェーグレン症候群 Sjögren syndrome ・外分泌腺に対する全身系統的自己免疫疾患 ・診断基準は、以下の4項目の中で2項目以上が陽 性の場合(1999年厚生省) ①口唇小唾液腺の生検組織でリンパ球浸潤がある ②唾液分泌量の低下がガムテストやサクソンテス ト、唾液腺造影、シンチグラフィなどで証明さ れる ③涙の分泌低下がシルマーテスト、ローズベンガ ル試験、蛍光色素試験などで証明される ④抗SS-A抗体か抗SS-B抗体が陽性である 6 Sjögren症候群(続き) 画像診断 1)唾液腺造影 ・初期段階では導管系は正常像なるも辺縁部に多数の点状・斑 紋状陰影、病変の進行に従いより大きな球状の造影剤の貯留 を散在的に認めるようになる 2)CT ・初期段階では正常像、進行すると腺体は腫大し density が上 昇する ・さらに施行すると蜂巣状となり、嚢胞状構造を認める場合も ある 3)MRI ・T1強調像やT2強調像で内部不均一な像を呈する ・MR唾液腺造影法(MR sialography)が従来の唾液腺造影に 代わる可能性が示唆されている 4)US ・多数の類円形の低エコー域(hypoechoic area)や線状高エ コー帯(hyperechoic band)がみられる Sjögren症候群疑い症例の耳下腺US縦断像・CT横断像 Sjögren症候群 autoimmune pseudosialectasis branchless fruit-laden tree appearance Sjögren症候群疑い症例の耳下腺MRI・CT hypoechoic area hyperechoic band (4)嚢胞 cysts ラヌーラ(ガマ腫・ranula) ・大唾液腺の導管の炎症・唾石・外傷等による閉塞により、薄 い嚢胞壁を有する嚢胞が形成される(mucous retention cyst) ・舌下腺に生じたmucous retention cystをranulaと呼称する ・顎舌骨筋上で口底に限局している場合をsimple ranula(舌下 型ラヌーラ)と呼び、顎舌骨筋を越えて隣接組織に進展した 場合をplunging ranula(顎下型ラヌーラ)と呼ぶ 1)CT ・ranula は均一で水に近いdensityを呈し、嚢胞壁は非常に薄い か認められない ・simple ranulaはオトガイ舌筋の外側で顎舌骨筋の上方に限局 するが、plunging ranulaは後方ないし下方へ飛び出し顎下隙 に進展する 2)MRI ・内部が唾液であることから、T1強調像で低信号・T2強調像 で高信号 T1強調像 脂肪抑制T2強調像 T1強調像 脂肪抑制T2強調像 舌下型ラヌーラ Simple ranula 単純CT 造影CT 7 顎下型ラヌーラ Plunging ranula 造影CT 造影CT T1強調像 脂肪抑制T2強調像 造影T1強調像 (5)IgG4関連疾患・ミクリッツ(Mikulicz)病 ・血清IgG4高値とIgG4陽性形質細胞やリンパ球の組 織浸潤を特徴とする疾患 ・涙腺、唾液腺、膵臓などに生じ、臨床的にはミクリッツ 病、自己免疫膵炎などを呈する全身性疾患 ・ステロイド治療に対する良好な反応性を認める ・部分症として慢性硬化性顎下腺炎が認められる場合 がある(IgG4関連慢性硬化性顎下腺炎) 画像診断 1)CT・MRI・US ・CT・MRIでは特徴的所見に乏しい ・USではリンパ球の組織浸潤に伴う低エコーの病変と して認められる T1強調MRI 造影CT 脂肪抑制T2強調MRI 慢性硬化性顎下腺炎 Küttner腫瘍 Chronic sclerosing sialadenitis 顎下腺部US 矢状断・右側 造影CT 矢状断・左側 8 多形腺腫 Pleomorphic adenoma III.唾液腺疾患の画像診断(各論) 1)良性腫瘍 多形腺腫(続き) 画像診断 1)CT ・比較的小さい場合は境界明瞭な腫瘤で周囲の耳下腺 よりもdensityが高い ・腫瘍が増大すると壊死や古い出血、嚢胞化により低 い density の部分が混在 ・造影剤投与後の経時的な造影のされ方は、非常に緩 やかでwashoutも遅い傾向がある 2)MRI ・比較的小さい場合にはT1強調像で低信号・T2強調像 で高信号 ・腫瘍が増大するとT1強調像・T2強調像ともに不均一 ・造影剤投与後の経時的な造影のされ方は、非常に緩 やかでwashoutも遅い傾向がある ・唾液腺腫瘍で最も高頻度、大唾液腺の良性腫瘍の 70∼80%を占める ・84%は耳下腺、8%は顎下腺、6.5%が小唾液腺、 0.5%が舌下腺 ・小唾液腺腫瘍は悪性が多いが、それでも多形腺腫 が最多 ・一般に、緩徐な増大を示す無痛性の腫瘤形成 ・女性に多く、40歳以上に多い ・通常、単発性で丸みのある境界明瞭な腫瘤 ・腫瘍が大きくなれば多胞性となり、内部に壊死や 出血、石灰化や骨化を有する 多形腺腫(続き) 3)US ・一般に境界明瞭で辺縁に凹凸を有する低エコー病変 で、内部エコーは多彩 ・ドプラ画像での血流はWarthin腫瘍と比較すると乏 しい傾向 4)RI ・唾液腺シンチグラムでは Warthin腫瘍のような集積 はみられない 10mm 顎下腺 左側顎下腺多形腺腫 Pleomorphic adenoma of the lt-submandibular gland 脂肪抑制T2強調像 顎下腺 下顎下縁 顎下腺 顎舌骨筋 下顎下縁に平行な断面 Back→ 下顎下縁に垂直な断面 Medial→ 9 右側顎下腺多形腺腫 Pleomorphic adenoma of the rt-submandibular gland T1強調像 脂肪抑制T2強調像 造影T1強調像 T1強調像 脂肪抑制T2強調像 脂肪抑制造影T1強調像 唾液腺造影CT Sialo-CT, CT-sialography 単純CT 造影CT早期相 造影CT遅延期相 ball in hand appearance 10 CT 右側耳下腺多形腺腫 Pleomorphic adenoma of the rt-parotid gland 単純CT 造影早期相 造影遅延期相 MRI dynamic study MRI start 20s 40s 60s 80s 100s 120s 140s 160s 180s 脂肪抑制造影T1強調像 脂肪抑制T2強調像 T1強調像 CT dynamic study /ROI Time-density curve, pleomorphic adenoma time-density curve (pleomorphic adenoma) 200 180 160 140 MM→ ICA IJV lesion A lesion B lesion C MM 120 100 lesion A□ Lesion B□ Lesion C□ ←ICA ←IJV 80 60 40 20 0 time (sec) 11 MRI 左側頬部多形腺腫 (頬隙・頬腺由来) Pleomorphic adenoma of the lt-buccal space T1強調像 脂肪抑制T2強調像 脂肪抑制造影T1強調像 MRI T1強調像 Warthin(ワルチン)腫瘍 脂肪抑制T2強調像 ・耳下腺では二番目に多い良性腫瘍(全耳下腺腫 瘍の2%∼10%) ・ほとんど耳下腺に限られ、10%は両側性 ・男性に多く、90%が40∼70代 ・通常、丸みがあり被膜を有し境界明瞭で内部は 嚢胞状の部分と実質部分とが混在 ・発生母体は腺内あるいは腺辺縁部のリンパ節内 への唾液腺管組織の封入 脂肪抑制造影T1強調像 Warthin腫瘍(続き) 画像診断 1)CT ・比較的小さい場合は多形腺腫と同様に境界明瞭な腫 瘤で周囲の耳下腺よりもdensityが高い ・大きくなると嚢胞を形成することがあるが、辺縁部 に結節状構造を有し、他の嚢胞性病変とは異なる ・同一腺内多発性あるいは両側性であれば Warthin腫 瘍が最も考えられる 2)MRI ・比較的小さい場合は多形腺腫と類似しT1強調像では 低信号でT2強調像では高信号 ・嚢胞形成がある場合はその程度に応じて多彩となる ・造影剤投与後の経時的な造影のされ方は、非常に速 くwashoutも速い傾向がある Warthin腫瘍(続き) 3)US ・多形腺腫と類似の境界明瞭で辺縁に凹凸を有する低 エコー病変だが、嚢胞形成を伴う場合には不均一 4)RI ・唾液腺シンチグラムで特異的に集積が認められる場 合が多い ・ただし、嚢胞形成が多い場合は集積が顕著ではない 12 T 右側耳下腺Warthin腫瘍 Warthin tumor of the rt-parotid gland 5mm PG T PG PG T T 縦断像 横断像 MRI 右側耳下腺Warthin腫瘍 Warthin tumor of the rt-parotid gland T1強調像 脂肪抑制T2強調像 脂肪抑制造影T1強調像 CT dynamic study start CT dynamic study/ROI 75 sec. MM→ 150 sec. 225 sec. lesion A□ Lesion B□ ←ICA ←IJV 13 Time-density curve, Warthin tumor 唾液腺シンチグラム Salivary gland scintigram time-density curve (Warthin tumor) 350 300 250 ICA IJV lesion a lesion b SCM MM 200 150 100 50 0 time (min) Technetium 99m pertechnetate (2)悪性腫瘍 粘表皮癌 Mucoepidermoid carcinoma ・全唾液腺腫瘍の10%に満たないが、唾液腺悪性腫瘍 の30%を占める ・50%は耳下腺、45%は小唾液腺で特に口蓋と頬粘膜 ・組織学的に低∼中∼高悪性に大別され、予後と関連 している ・成人では30∼40歳代に多く、女性に多い ・小児の唾液腺腫瘍では最多 粘表皮癌(続き) 画像診断 1)CT・MRI・US ・画像所見は悪性度の程度により多彩 ・低悪性の場合は多形腺腫に類似し、高悪性の場合 は境界不明瞭で浸潤性の辺縁を有する ・MRIでは高悪性で腫瘍細胞の多い部分はT2強調像 で高信号とならないことが多い ・造影剤投与後の経時的な造影のされ方は、造影直 後は速いがwashoutは緩やかな傾向がある ・USでは特異的所見には乏しい 単純CT CT 造影CT 右側上顎粘表皮癌 Mucoepidermoid carcinoma of the rt-maxilla 14 単純CT 造影CT CT MRI T1強調像 MRI 脂肪抑制T2強調像 脂肪抑制造影T1強調像 T1強調像 脂肪抑制T2強調像 脂肪抑制造影T1強調像 腺様嚢胞癌 Adenoid cystic carcinoma 腺様嚢胞癌(続き) ・耳下腺腫瘍の2∼6%、顎下腺腫瘍の12%、舌下腺 腫瘍の15%、小唾液腺腫瘍の30% ・全唾液腺腫瘍の約10%を占め、耳下腺・顎下腺・ 口蓋に多い ・40∼50歳代に多い ・小唾液腺に発生したものに限定すれば、5年生存 率は64%、15年生存率は23% ・リンパ節転移はまれだが、肺や骨への血行性転移 が20∼50%にのぼる ・神経に沿って進展する(神経周囲進展・ perineural invasion)傾向が強く、脳神経に沿って 頭蓋内に進展することがある 画像診断 1)CT・MRI・US ・境界不明瞭で浸潤性の辺縁を有する場合が多い が、境界明瞭で多形腺腫に類似する場合もある ・神経に沿った進展は顔面神経や下顎神経にしば しば認められ、CTでは骨における神経管の拡大 としてみられるが、MRIはより鋭敏であり、正 常な太さの神経においても造影性で判断できる ことがある ・USでは特異的所見に乏しい 15 単純CT CT 造影CT 左側上顎腺様嚢胞癌 (硬口蓋・小口蓋腺) Adenoid cystic carcinoma of the lt-maxilla 単純CT 造影CT 左側口底腺様嚢胞癌 (舌下隙・舌下腺由来) Adenoid cystic carcinoma of the lt-floor of the mouth MRI CT 単純CT 造影CT 脂肪抑制造影T1強調像 ADC map 脂肪抑制T2強調像 脂肪抑制造影T1強調像 脂肪抑制T2強調像 MRI T1強調像 16
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