臨床看護師の看護技術の技・美・快の特徴

実践報告
臨床看護師の看護技術の技・美・快の特徴
─看護学生との比較─
Characteristics of Skillful, Aesthetic, and Comfortable Nursing
Practices in Clinical Nurses and Nursing Students.
長崎ひとみ,西山佐知子,中村美知子,西田 頼子,内田 一美,
古屋 洋子,大日向陽子
NAGASAKI Hitomi, NISHIYAMA Sachiko, NAKAMURA Michiko, NISHIDA Yoriko, UCHIDA Hitomi,
FURUYA Yohko, OOHINATA Yohko
要 旨
目的:臨床看護師が患者に行う看護技術の技・美・快の関連を明らかにし,技・美・快をふまえた看護技術
教育の方法を検討する。
方法:対象は臨床看護師(以下:看護師群)3 名,A 大学看護学科学生(以下:学生群)3 名,患者役の看護学生(以
下:模擬患者)6 名,教員 6 名であった。調査は看護技術の【技】【美】【快】(臨床看護技術評価票)を用
い,看護師(学生群,看護師群)が排泄援助,食事援助,移動援助を患者に実施後,患者と評価者がそ
れぞれ評価を行った。
結果:患者の主観的評価の看護師群は,学生群より【技】
【美】
【快】とも有意に高値であった。看護師が特に優
れていた技術は,
【技】
の
「言葉がよい」
,
【美】
の
「無駄がない」
,
【快】
の
「柔軟である
(対応)
」
であった。
考察:看護師の優れた看護技術実践能力をモデルとして,看護師が臨床指導や学内演習などの指導場面に参
画できるような教育体制作りが課題である。
キーワード 看護技術,技,美,快,臨床看護師
Key Words Nursing Practice, Skillful, Beautiful, Comfortable, Clinical Nurse
Ⅰ.はじめに
看護学は古くから“実践の科学”,“看護科学と芸術”と
術の多くは患者のニーズを充足するための【技】である。
【技】【美】【快】
の要素を哲学,心理学,社会学,現象学,
認知科学の側面からみてみると,【技】とは,ある物事を
いわれ,看護学部・学科の英表記を School of Nursing
行うための一定の方法や手段であり 1),Skillful と表され,
Art and Science とするところも少なくない。芸術は,
熟練した,腕前の巧みさ器用さをさす 2)。また,【技】の
特殊な素材・手段・形式により,技巧を駆使して美を創
習得は必ずしも段階的ではなく,学習者の能動的な動き
造・表現しようとする人間活動,およびその作品であり,
による師の立ち振る舞いの模倣とその繰り返しであ
芸・技芸・技である(広辞苑)。昨今,医療現場では高度
る 3)。【美】とは,うつくしいこと,よいことであり知覚・
医療の進歩,それに伴う医療技術の開発など,国をあげ
感覚・情感を刺激して内的感覚を引き起こすものであ
て取り組んでいる。一方で,臨床看護独自の技術,特に
る 1)。Aesthetic と表され,美的な,上品な,趣のある
患者の生活を充足させる【快】の開発・進歩・発展は十分
ことをさしている 2)。カントによると,【美】とは普遍的
とはいえず,芸術的観点から論じられる機会は極めて少
に【快い】ものであるとも言われている 4)。【快】とは,快
ない。看護は健康時,健康障害時にかかわらず,対象者
いこと,心にかなうことであり 1),Comfortable と表され,
の生活上のニーズを充足するための援助であり,看護技
心地よく,安楽であり苦痛がないこと 2),欲求の満足と
結び付いた情動である 5)。【快】が生理的・個人的・偶然
受理日:2011 年 8 月 1 日
山梨大学大学院医学工学総合研究部基礎・臨床看護学講座:
Interdisciplinary Graduate School of Medicine and
Engineering(Fundamental and Clinical Nursing), University
of Yamanashi
的・主観的であるのに対して,【美】は個人的利害関心か
ら解放され,より普遍的・必然的・客観的・社会的であ
る 1)。これらのことから臨床看護師による患者のケアの
【技】は,【美】的であることがのぞましく,その【技】を通
Yamanashi Nursing Journal Vol.10 No.1(2011)
11
長崎ひとみ,他
して患者は【快】を得るものと考える。
本調査は,多くの患者が必要とする排泄援助,食事援
3.
1) 調査場所
助,移動援助の【快】に焦点を当て,看護師の手技,立ち
振る舞い,言葉の 3 要素をもとに,患者に【快】をもたら
A 大学看護学科実習室
2) 調査期間
す【技】
【美】との関連を明らかにする。臨床看護師の行
う看護技術を看護学生と比較することで,看護師の優れ
調査方法
平成 23 年 3 月 8 日∼ 9 日
3) 調査手順
た技術の特徴を見出し,臨床実習や学内演習で役割モデ
基礎看護技術の日常生活援助技術において代表的な技
ルとなることで学生の看護技術教育の質の向上を図る。
術を,排泄援助技術・食事援助技術・移動援助技術とし,
看護学生および看護師に各援助技術の簡単な手順を文書
および口頭で説明した後,看護援助を実施した。患者設
Ⅱ.目的
定は,倦怠感が強く,体力低下している臥床中の高齢女
臨床看護師が患者に行う看護技術の技・美・快の関連
性患者,意識状態は清明であるが左上下肢に軽度麻痺が
を明らかにし,技・美・快をふまえた看護技術教育の方
あるとした。排泄援助ではベッド上での便器挿入,おむ
法を検討する。
つ交換,手浴を行った。食事援助では,患者の設定に両
眼視力低下を加え,配膳,食事介助,口腔ケアを行った。
Ⅲ.用語の操作的定義
看護技術:看護師が看護学実習室において模擬患者(学
移動援助では,車いすへの移乗,横シーツ交換,ベッド
への移乗を行った。各援助終了後,模擬患者と教員が臨
床看護技術評価票を記入し回収した。
生)に行う日常生活援助技術であり,技術の
要素を【技】【美】【快】とする。
4.
臨床看護師:経験年数 11 年以上のベテラン看護師。
倫理的配慮
対象者に研究の趣旨・内容・手順を説明し,同意が得
看護学生:A 大学看護学科 4 年生。
られた者を対象者とした。調査で得られたデータは,個
模擬患者評価:患者役学生による看護技術の【技】【美】
人を特定できる形で公表せず,研究以外では用いないこ
【快】の評価。
教員評価:教員による看護技術の【技】【美】【快】の評価。
と,学生に対しては,成績には関係ないことを口頭で伝
えた。同意が得られたものについては同意書に署名を得
た。
Ⅳ.調査方法
1.
5.
対象
分析方法
3 場面の看護技術の【技】
【美】
【快】の平均値と標準偏
本研究の趣旨について説明し,同意が得られた看護学
差を算出した。看護技術の評価について学生群と看護師
生 9 名(6 名は模擬患者役,3 名は看護学生役)
,臨床看
群の比較には Mann-Whitney の U 検定を用いた。看護
護師 3 名,教員 6 名。
師群の【技】
【美】
【快】の関連をみるために Spearman の
2.
統計には統計ソフト PASW Statistics ver.17.0 を用いた。
順位相関係数を用いた。有意水準は P < 0.05 とした。
調査内容
1) 対象者の属性:年齢,性別,臨床看護師経験年数
2) 看護技術の技・美・快(看護技術評価)
看護技術の測定概念を
【技】
【美】
【快】とする。【技】は,
手技,立ち振る舞い,言葉,手順,巧み,の 5 項目で測
Ⅴ.結果
1.
対象者の属性
定し,【美】は,みごと,きれい,心身によい,無駄がな
模擬患者の学生 6 名は平均年齢 21.2 歳,看護学生 3
い,すばらしい,の 5 項目,【快】は,心地よい,違和感
名は平均年齢 22.0 歳,臨床看護師 3 名は平均年齢 46.7 歳,
がない,楽である,苦痛がない,柔軟である,の 5 項目
平均臨床看護師経験年数 17.3 年,教員 6 名は平均年齢
で測定する。各項目において「全くそうでない」∼「全く
35.8 歳,平均教育経験年数 6.1 年であった。対象者は全
そうだ」の 1 点∼ 6 点の 6 段階評価とし,点数が高いほ
て女性であった。
ど評価が高い。この尺度のクロンバックα係数は,【技】
0.96,【美】0.97,
【快】0.96 であった。
2.
看護技術の実施者による比較 学生群と看護師群
1) 看護技術の看護師群と学生群の比較(表 1)
排泄援助,食事援助,移動援助の 3 場面での
【技】【美】
【快】の特徴を看護師実施群(以下:看護師群)と看護学生
12
Yamanashi Nursing Journal Vol.10 No.1(2011)
臨床看護師の看護技術の技・美・快の特徴
表 1 看護技術の実施者による比較 ─看護師群・学生群─
1)2)
模擬患者評価(n=18)
評価者
実施者
看護師群
場面
美
快
有意差
学生群
Mean
±
SD
Mean
±
SD
技
5.74
±
0.31
4.56
±
0.62
美
5.65
±
0.40
4.37
±
0.64
快
技
教員評価(n=36)3)4)
看護師群
Mean
±
*
5.32
*
5.12
学生群
有意差
SD
Mean
±
SD
±
0.63
3.34
±
0.83
*
±
0.67
2.97
±
0.87
*
5.59
±
0.37
4.56
±
0.79
*
5.40
±
0.57
3.35
±
0.92
*
排泄
5.63
±
0.40
4.51
±
0.34
*
5.39
±
0.50
3.19
±
0.82
*
食事
5.73
±
0.27
4.98
±
0.47
*
5.37
±
0.56
3.69
±
0.76
*
移動
5.86
±
0.19
4.20
±
0.73
*
5.18
±
0.79
3.14
±
0.80
*
排泄
5.60
±
0.48
4.26
±
0.55
*
5.13
±
0.65
2.78
±
0.88
*
食事
5.70
±
0.35
4.80
±
0.55
*
5.29
±
0.56
3.32
±
0.82
*
移動
5.66
±
0.37
4.06
±
0.66
*
5.10
±
0.80
2.81
±
0.83
*
排泄
5.56
±
0.37
4.70
±
0.70
*
5.42
±
0.60
3.14
±
0.90
*
食事
5.70
±
0.32
4.98
±
0.52
*
5.47
±
0.46
3.76
±
0.92
*
移動
5.50
±
0.41
4.00
±
0.79
*
5.32
±
0.64
3.16
±
0.84
*
Mann-Whitney 検定 * P < 0.01
1)模擬患者 6 名が看護師(n=3)に行った評価数(n=18) 2)模擬患者 6 名が学生(n=3)
に行った評価数(n=18)
3)教員 12 名(6 名× 2 日間)が看護師群(n=3)に行った評価数(n=36)
4)教員 12 名(6 名× 2 日間)が学生群(n=3)
に行った評価数(n=36)
実施群(以下:学生群)でみたところ,看護師群・学生群
看護師群および学生群の看護技術の【技】【美】【快】の
ともに排泄援助・食事援助・移動援助の各場面による評
模擬患者評価は,3 要素間で有意な相関がみられた(看
価の差は認められなかった。
護師群:0.53 < r ≦ 0.95,P < 0.05)
。看護師群では特
模擬患者による看護技術の
【技】
【美】
【快】の評価(以下:
に「技」と「美」では排泄援助場面(r = 0.95,P < 0.01),
「技」
模擬患者評価)は,看護師群が学生群より有意に高値で
と「快」でも排泄援助場面(r = 0.81,P < 0.01),
「美」と「快」
あり(P < 0.01),特に学生群との差が大きかった要素は
では移動援助場面(r = 0.85,P < 0.01)で相関が強かった。
【技】
(5.74 ± 0.31,P < 0.01)
であった。
細項目では,
「手順がよい【技】」と「違和感がない【快】」(r
教員による看護技術評価(以下:教員評価)も,看護師
= 0.78,P < 0.01),「立ち振る舞いがよい【技】」と「柔軟
群は学生群より有意に高値であった(【技】5.32 ± 0.63,P
である(対応)【快】」(r = 0.72, P < 0.01),「言葉がよい
< 0.01)
。看護師群の評価は,模擬患者評価・教員評価
(技に伴う)【技】」と「苦痛がない【快】
」(r = 0.63 P <
ともに高値で差はなかったが,学生群では模擬患者評価
0.05)
,
「無駄がない【美】」と「柔軟である(対応)【快】」(r
が教員評価より高値であった。
= 0.77,P < 0.01),に強い相関がみられ特徴的であった。
2) 看護師群で高値であった看護技術の技・美・快
(表 2)
模擬患者評価が高値であった看護技術細項目は,看護
師群の【技】の「言葉がよい(技に伴う)」(5.89 < Mean ≦
Ⅵ.考察
看護師が行う看護技術は,学生よりも【技】【美】【快】
6.00),
【美】の「無駄がない」(5.67 < Mean ≦ 5.83),
【快】
の「柔軟である(対応)」
(5.78 < Mean ≦ 5.89)であった。
いずれの評価も高く,3 場面において【技】【美】【快】に
教員評価も模擬患者評価と同様に看護師群が学生群より
それぞれ相関関係がみられた。今回は模擬患者が認識す
有意に高値であった。
る看護師の看護技術の特徴について考察した。
3) 学生群の低値であった看護技術の技・美・快
(表 2)
模擬患者評価で学生群が特に低値であった項目は,
【技】の,
「巧みである(技)」( 3.72 < Mean ≦ 4.61)
,
【美】
1.
看護師が優れている看護技術の技・美・快の特徴
看護師の行う看護技術は【技】も【美】も【快】も優れてい
の「無駄がない」(3.83 < Mean ≦ 4.83)
,【快】の「違和感
た。特に,言葉がよい【技】,無駄がない【美】,柔軟であ
がない」(3.83 < Mean ≦ 4.78)
であった。
る【快】という点で患者から優れていると認識されてい
教員評価も模擬患者評価と同様にこれらの項目では看
護師群が学生群より有意に高値であった。
た。看護師の看護技術の要素として,人間関係を発展さ
せる技術,生活を支える援助技術,安全を守る技術,安
楽な看護技術がある 6)。これらのどの要素の中にも言葉
3.
看護場面における技・美・快の関連(表 3)
がよく,無駄がなく,柔軟な対応が求められると考える。
Yamanashi Nursing Journal Vol.10 No.1(2011)
13
長崎ひとみ,他
表 2 看護技術の実施者による比較 ─看護師群と学生群─
1)2)
模擬患者評価 (n=18)
評価者
実施者
項目
手技がよい
立ち振る舞いがよい
技
SD
学生群 Mean ±
±
有意差
SD
0.59
看護師群 Mean ±
**
5.47
±
SD
0.61
学生群 Mean ±
3.03
±
排泄
5.56
±
0.51
4.33
1.03
**
食事
5.50
±
0.51
4.94
±
0.64
*
5.17
±
0.74
3.72
±
0.97
**
移動
5.72
±
0.46
3.78
±
0.94
**
5.06
±
0.92
3.14
±
1.05
**
排泄
5.67
±
0.49
4.89
±
0.58
**
5.42
±
0.69
3.56
±
0.91
**
食事
5.89
±
0.32
5.17
±
0.51
**
5.47
±
0.61
4.08
±
0.77
**
5.72
±
0.46
3.78
±
0.94
**
5.06
±
0.92
3.14
±
1.05
**
5.94
±
0.24
5.00
±
0.69
**
5.44
±
0.61
3.75
±
0.77
**
言葉がよい
(技に伴う) 食事
5.89
±
0.32
5.11
±
0.58
**
5.61
±
0.60
4.11
±
0.89
**
**
きれいである
よい
(心身に)
みごとである 無駄がない
すばらしい
心地よい
違和感がない
楽である
苦痛がない
柔軟である
(対応)
移動
6.00
±
0.00
4.56
±
1.10
**
5.28
±
1.00
3.72
±
0.81
排泄
5.56
±
0.62
4.33
±
0.69
**
5.28
±
0.66
3.11
±
1.14
**
食事
5.61
±
0.61
5.06
±
0.80
*
5.44
±
0.61
3.75
±
0.84
**
移動
5.83
±
0.38
4.17
±
0.86
**
5.19
±
0.95
3.11
±
0.85
**
排泄
5.44
±
0.62
4.00
±
0.49
*
5.36
±
0.68
2.46
±
1.01
**
食事
5.78
±
0.43
4.61
±
0.70
**
5.17
±
0.88
2.78
±
0.99
**
移動
5.72
±
0.46
3.72
±
0.83
**
5.19
±
0.89
2.22
±
1.12
**
排泄
5.61
±
0.50
4.61
±
0.61
**
5.36
±
0.93
3.11
±
1.01
**
食事
5.78
±
0.43
4.83
±
0.38
**
5.47
±
0.61
3.69
±
0.86
**
移動
5.67
±
0.49
4.28
±
0.83
**
5.22
±
0.99
3.11
±
1.04
**
排泄
5.61
±
0.50
4.61
±
0.70
**
5.11
±
0.95
3.39
±
0.96
**
食事
5.61
±
0.50
4.94
±
0.54
**
5.28
±
0.78
3.92
±
0.81
**
移動
5.44
±
0.51
4.11
±
0.68
**
5.14
±
0.93
3.33
±
0.93
**
排泄
5.61
±
0.61
4.11
±
0.58
**
5.17
±
0.74
2.36
±
0.90
**
食事
5.67
±
0.49
4.72
±
0.67
**
5.22
±
0.80
2.86
±
1.02
**
移動
5.67
±
0.49
3.89
±
0.83
**
5.08
±
0.84
2.44
±
1.11
**
排泄
5.67
±
0.59
3.83
±
0.79
**
5.08
±
0.81
2.56
±
0.91
**
食事
5.67
±
0.49
4.83
±
0.71
**
5.47
±
0.74
3.28
±
1.03
**
移動
5.83
±
0.38
4.06
±
0.80
**
5.17
±
0.88
2.72
±
0.88
**
排泄
5.50
±
0.62
4.11
±
0.68
**
4.94
±
0.71
2.50
±
1.08
**
食事
5.78
±
0.43
4.67
±
0.69
**
5.03
±
0.61
2.83
±
1.03
**
移動
5.67
±
0.49
3.94
±
0.80
**
4.89
±
0.89
2.44
±
0.97
**
排泄
5.44
±
0.51
4.89
±
0.83
5.53
±
0.77
3.36
±
1.10
**
食事
5.61
±
0.50
5.00
±
0.69
*
5.39
±
0.69
3.72
±
0.85
**
移動
5.61
±
0.50
3.83
±
0.86
**
5.31
±
0.75
3.28
±
0.81
**
排泄
5.39
±
0.61
4.39
±
0.85
**
5.39
±
0.77
3.08
±
1.13
**
食事
5.44
±
0.62
4.78
±
0.73
*
5.50
±
0.56
3.69
±
1.01
**
移動
5.50
±
0.62
3.83
±
0.71
**
5.39
±
0.64
3.11
±
0.95
**
排泄
5.56
±
0.62
4.56
±
0.98
**
5.44
±
0.69
3.06
±
0.98
**
食事
5.89
±
0.32
4.89
±
0.68
**
5.50
±
0.65
3.72
±
0.97
**
移動
5.22
±
0.65
3.72
±
1.13
**
5.36
±
0.80
3.08
±
0.97
**
排泄
5.61
±
0.50
4.78
±
0.88
**
5.42
±
0.60
3.17
±
1.00
**
食事
5.67
±
0.59
4.94
±
0.64
**
5.56
±
0.56
3.92
±
1.16
**
移動
5.39
±
0.50
3.94
±
1.11
**
5.31
±
0.67
3.25
±
1.13
**
排泄
5.78
±
0.43
4.89
±
0.58
**
5.31
±
0.75
3.06
±
0.92
**
食事
5.89
±
0.32
5.28
±
0.57
**
5.42
±
0.69
3.72
±
1.14
**
移動
5.78
±
0.43
4.67
±
0.77
*
5.25
±
0.84
3.08
±
0.97
**
Mann-Whitney 検定 * P < 0.05 ** P < 0.01
1)模擬患者 6 名が看護師(n=3)に行った評価数(n=18) 2)模擬患者 6 名が学生(n=3)に行った評価数(n=18)
3)教員 12 名(6 名× 2 日間)
が看護師群(n=3)に行った評価数(n=36)
4)教員 12 名(6 名× 2 日間)が学生群(n=3)に行った評価数(n=36)
14
有意差
SD
移動
巧みである
(技)
快
Mean ±
排泄
手順がよい
(方法)
美
看護師群 場面
教員評価 (n=36)3)4)
Yamanashi Nursing Journal Vol.10 No.1(2011)
臨床看護師の看護技術の技・美・快の特徴
表 3 看護師群の模擬患者による看護技術評価の
技・美・快の関連
学生は患者へ丁寧で適切な説明ができないことが挙げら
(n=18)
場面
排泄
食事
移動
また,患者に違和感を与えてしまう要因の 1 つとして,
r
P
技 vs 美
0.95
**
技 vs 快
0.81
**
美 vs 快
0.72
**
技 vs 美
0.66
**
技 vs 快
0.55
*
美 vs 快
0.53
*
技 vs 美
0.84
**
技 vs 快
0.67
**
美 vs 快
0.85
**
r:Spearman の順位相関係数 * P < 0.05 ** P < 0.01
れる。技術に伴う患者への言葉かけ数の調査では 11),
学生は看護師と比較して言葉かけ数が少なく,本調査結
果で言葉がよい【技】ことが学生では看護師より不足して
いたことと一致していた。更に,言葉がよい【技】ことは,
違和感がない【快】,心地よい【快】,苦痛がない【快】こと
と相関関係にあったため,患者への言葉かけが患者の快
につながると考えられる。
以上,看護師の看護技術がすべての場面の【技】
【美】
【快】において優れているという結果から,看護師が臨床
実習や学内演習の看護技術教育現場で学生に与える影響
は大きいと考えられる。看護師の優れた看護技術実践能
力をモデルとして,学生にとって体験学習を増やすこと
が必要である。今後の教育上の課題として,看護教員に
このような要素は臨床経験を積むなかで培われる能力で
よる学生の看護技術実践場面での【技】【美】【快】を関連
あり,学習過程にある学生に不足している部分であるが
づけた教育方法の展開,臨床看護師が学内技術演習など
学内の技術演習のみで養うことは困難である。
指導場面に参画できる教育体制づくりなどが,明らかと
看護技術教育における看護師の役割は,学生に実践の
なった。
モデル行為を示すことであり 7),特に臨床実習において
看護師に求められる指導能力とは,日頃実践している看
護の力を,看護モデルとして学生に提示することである
と言われている 8)。臨床看護師は看護実践の手本・見本
9)
Ⅶ.結論
看護技術の【技】【美】【快】の模擬患者評価は,看護師
となる人であることが求められている 。よって,看護
が学生より有意に高値であり,看護師が特に優れている
師のこれらの優れた能力が学生の手本となるように,看
看護技術は,言葉がよい【技】,無駄がない【美】,柔軟で
護師が役割モデルとして臨床実習に限らず学内の看護技
術演習にも参加することは看護技術教育に有効であると
考えられる。
ある【快】であった。3 場面における看護技術の【技】
【美】
【快】は相関しており【技】【美】が患者の【快】につながっ
ていた。これらの結果を踏まえた看護技術教育の課題は,
看護師の優れた看護技術実践能力をモデルとして,学生
2.
看護技術教育の課題
学生の行う看護技術で特に不足していたのが,巧みさ
【技】,無駄のなさ【美】,違和感のなさ【快】であった。違
にとっての体験学習を増やすこと,看護師が臨床指導や
学内演習などの指導場面に参画できるような教育体制づ
くりである。
和感とはしっくりこない感じ(大辞泉)であり,学生に
とって経験の少ない技術であればあるほど患者に違和感
を与えずに技術を行うことは難しい。看護基礎教育では,
学内から臨床実習において基礎看護技術を習得し,確実
謝辞
本研究調査にご協力くださいました看護師,学生のみ
な看護実践力を身に付けることが重要である。しかし,
なさまに心より感謝申し上げます。なお,本研究は平成
患者の人権への配慮や医療安全に関する意識向上の中
22 年度科学研究費補助金基盤(C)を受けて行った研究の
で,看護学生が臨床実習で看護技術を経験する機会が限
一部である。
定されてきている。成人看護学実習における学生の看護
技術の実践状況は,90%以上の学生が体験できたのは環
境整備のみで,安楽な体位・移動援助が約 50%,食事
文献
援助が約 40%,排泄介助はほとんど体験できていない
1) 新村出
(1991)広辞苑(第四版).岩波書店,東京,237, 409, 599.
状況である
10)
。本結果からも,患者にとっていずれも
日常よく行われている看護行為であるが,看護師と学生
の実施状況では【技】【美】【快】の要素に明らかな差がみ
られていることから,日常の看護技術こそより多く体験
することが有効であることを示している。
2) 小西友七,南出康世(2007)ジーニアス英和辞典(第 4 版).大修
館書店,東京,157, 352, 1749.
3) 日本認知科学会(2001)認知科学辞典(初版).共立出版,東京,
868.
4) Didier Julia(1998)ラルース哲学辞典(初版)(片山寿昭,山形
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15
長崎ひとみ,他
頼洋,鷲田清).弘文堂,東京,84-85, 111-112.
5) Norbert Sillamy(1999)ラルース臨床心理学辞典(初版)(滝沢
武久,加藤敏).弘文堂,東京,38.
6) 坪井良子,松田たみ子(2008)基礎看護学 考える基礎看護技術
Ⅰ 看護技術の基本.ヌーヴェルヒロカワ,東京,23-70.
7) 村島いさ子(2001)実習生の経験と向き合う臨床実習教育.看護
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8) 谷垣静子,松田明子(2005)教員は学生にケアリング教育ができ
ているのか─学生の立場から見た臨床実習における教員の関わ
りについて─.Quality Nursing,19
(12):91-98.
9) 渡部菜穂子,一戸とも子(2011)看護学実習における臨地実習指
導者の「看護実践の役割モデル」の認識.弘前学院大学看護紀要,
6:1-11.
10)西田頼子,佐藤一美,他(2008)本学成人看護学実習の実態と課
題.山梨大学看護学会誌,7(1):19-25.
11)工藤せい子,石岡薫,他(2010)看護学生と看護者の言語的コミュ
ニケーションの特徴.弘前大学大学院保健学研究科紀要,9:
11-20.
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