第117回山口大学医学会学術講演会

山口医学 第60巻 第6号 265頁〜279頁,2011年
265
プログラム
第117回山口大学医学会学術講演会
会 期 : 平成24年2月18日(土)
会 場 : 霜仁会館
平成23年度総務幹事 : 乾 誠,武藤正彦,正村啓子
会場案内図
1 講演会
2 駐車場
3 駐車場出入口
1
2
3
※山口大学医学部及び附属病院配置図
266
山口医学 第60巻 第6号(2011)
第117回山口大学医学会学術講演会
会期:平成24年2月18日(土)
学術講演会会場:霜仁会館3階
平成23年度総務幹事:乾 誠・武藤正彦・正村啓子
開 場 ・ 受 付
9:20
10:10
10:50
11:30
開会挨拶 乾 誠
一般演題Ⅰ №1~№5
座長 岸 博子
一般演題Ⅱ №6~№9
座長 倉増敦朗
一般演題Ⅲ №10~№13
座長 野垣 宏
特別講演Ⅰ 玉田耕治 教授
座長 佐々木功典
12:00
12:55
13:00
13:20
13:50
14:40
15:00
15:50
昼休み
平成22年度山口大学医学会学会賞小西賞授賞式
第116回山口大学医学会学術講演会奨励賞授賞式
小西賞受賞者講演 湯尻俊昭
座長 武藤正彦
特別講演Ⅱ 廣瀬春次 教授
座長 高橋睦夫
一般演題Ⅳ №14~№18
座長 山﨑隆弘
ミニレクチャー 武藤正彦「発疹は語る(Ⅰ)
」
座長 乾 誠
一般演題Ⅴ №19~№23
座長 太田康晴
閉会挨拶 正村啓子
第117回山口大学医学会学術講演会
267
特別講演演者・小西賞受賞者講演の方へ
・特別講演は発表質疑を含めて30分です.
・小西賞講演は発表質疑を含めて20分です.
一般演題演者へ
・一般演題は発表7分・質疑3分です.演者台に
でない方は,入会下さいますようお願い申し上
準備したランプで,発表開始から6分経過を赤
げます.入会申込書に必要事項をご記入の上,
ランプで,7分経過をベルを鳴らしてお知らせ
会費を添えてお申し込み下さい.会費は,5000
します.
円です.但し大学院生は3000円,学部学生は会
・演者は自分のセクションが始まるまでに会場に
費免除されます.入会申込書は,山口大学医学
入って下さい.
会ホームページからダウンロード出来ます.詳
・本学術講演会は医学研究科共通基礎コース(Ⅱ)
しくは,医学会事務局までお問い合せ下さい.
です.発表者は4ポイント,受講者は2ポイン
・一般演題の発表者の中から2名の優れた演題発
トです.履修手帳は当日受付にご提出下さい.
表を行った発表者に学術講演会奨励賞を授与し
・演者の方で山口大学医学会へのご入会がお済み
ます.
発表方法について
・特別講演・学会賞受賞者講演・一般演題すべて発
い.発表内容作成は,50MB程度でお納め下さい.
表方法はパソコンを使った発表に統一いたしま
発表用パソコンは,Windows7・PPT2007(予
す.Power Pointで作成した発表内容をUSBメモ
備はVISTA・2007)です.
リに記録し,2月17日(金)までに医学会事務局
・演者台にパソコンを設置しますので,発表中のパ
までご提出下さい.発表内容に動画を含む場合は
ソコン操作は演者が行って下さい.演者台にレー
あらかじめお知らせ下さい.USBメモリは,演
ザーポインターを準備いたします.
題番号・演者名がわかるようにしてご提出下さ
座長へ
・質疑応答に関する進行は全て座長に一任いたしま
す.
・一般演題座長の方々には奨励賞審査をお願いいた
します.審査資料をあらかじめお届けいたします
・一般演題は発表7分・質疑3分です.演者台に準
ので当日ご持参下さい.ご担当セクションがおす
備したランプで,発表開始から6分経過を赤ラン
みになりましたら,すみやかに審査結果をご記入
プで,7分経過をベルを鳴らしてお知らせします.
の上,受付までお届け下さい.
お問い合せ
〒755-8505 山口県宇部市南小串1丁目1−1 霜仁会館1階事務室内 山口大学医学会事務局
電話:0836−22−2179 ファックス:0836−22−2180 E-mail:[email protected]
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山口医学 第60巻 第6号(2011)
プ ロ グ ラ ム
【特別講演Ⅰ】
NO.2
「次世代の癌免疫療法開発に向けた医学研究」
メカニカルストレスに着目した心筋再生療法に関す
る研究
細胞シグナル解析学(寄生体学)
○玉田耕治
器官病態外科学分野(外科学第一),長崎大学大学
院医歯薬学総合研究科幹細胞生物学研究分野1)
【特別講演Ⅱ】
「混合研究法のパラダイムと展望」
○藏澄宏之,李 桃生1),山本由美,西本 新,
久保正幸,濱野公一
基礎看護学分野(基礎看護学)
NO.3
○廣瀬春次
ウイルス性心筋炎に対するグルココルチコイドの心
筋保護効果の検討
【小西賞受賞者講演】
「末梢血造血幹細胞動員に関する研究」
地域医療推進学,器官病態内科学分野(内科学第二)1)
○中村浩士,松﨑益德1)
病態制御内科学(内科学第三)
○湯尻俊昭
NO.4
アンギオテンシンIIはToll-like receptor 4を介して
【ミニレクチャー】
炎症を惹起し糸球体硬化を促進する
「発疹は語る(Ⅰ)
」
器官病態内科学分野(内科学第二),臨床試験支援
皮膚科学分野(皮膚科学)
センター1)
○武藤正彦
○岡本匡史,作村俊浩,中島忠亮,松田 晋,
梅本誠治1),松﨑益德
【一般演題】
NO.1
NO.5
血管異常収縮を特異的に抑制・予防可能な新規の植
ホスホランバン・アプタマーの作成と機能解析
物由来成分
分子薬理学分野(薬理学)
生体機能分子制御学分野(生理学第一)
○田中貴絵,乾 誠
○宮成健司,野地本和孝,岸 博子,加治屋勝子,
高田雄一,木村友彦,萩原 弘,小林 誠
NO.6
t-SNAREであるSNAP29はGLUT4小胞のインスリ
ン感受性コンパートメントを形成し維持する
病態制御内科学分野(内科学第三)
○松井久未子,江本政広,福田尚文,野見山隆太,
谷澤幸生
第117回山口大学医学会学術講演会
269
NO.7
NO.12
インスリン様成長因子-1 Cドメイン由来のテトラペ
末梢組織傷害後の痛覚過敏発症・維持における痛
プチドSSSRによる単一HaCat細胞の遊走促進作用
覚-情動系シグナル変調
分子薬理学分野(薬理学)
基礎検査学分野(基礎検査学)
,検査部1)
○酒井大樹,松浦健二,乾 誠
○岸下裕輔,山本 悟,石川浩三,安田聖子,
福原佳世子,有吉 亨1),石川敏三
NO.8
KRAS/BRAF変異型大腸癌に対するADCC活性の
NO.13
誘導
第1頚神経根より発生したダンベル型神経鞘腫の一
例
消化器・腫瘍外科学(外科学第二)
脳神経外科学分野(脳神経外科学)
○井上由佳,硲 彰一,前田祥成,新藤芳太郎,
○稲村彰紀,五島久陽,出口 誠,貞廣浩和,
吉村 清,鈴木伸明,吉野茂文,岡 正朗
丸田雄一,野村貞宏,藤井正美,鈴木倫保
NO.9
NO.14
脂肪細胞分化におけるPDZRN3の役割
腹臥位で分離肺換気下に行なった鏡視下食道亜全摘
術での呼吸管理
分子薬理学分野(薬理学)
○石井愛子,本田 健,乾 誠
麻酔・蘇生・疼痛管理学分野(麻酔科蘇生科)
NO.10
○山縣裕史,石田和慶,鴛渕るみ,山下 理,
うつ併発難治性疼痛における前帯状回および下降性
福田志朗,脊戸山景子,松本美志也
抑制系変調の関与
NO.15
基礎検査学分野(基礎検査学)
,川崎医療福祉大学
1)
○井田唯香,石川浩三,山本 悟,安田聖子,
下関市内で発生したE型急性肝炎に関する遺伝子学
的検討
増澤あゆみ,掛田崇宏1),石川敏三
社会保険下関厚生病院消化器内科,山口大学農学部
NO.11
獣医微生物学1)
抗AQP4抗体陽性患者血清によるアストロサイト傷
○沖田幸祐,原田克則,谷岡ゆかり,平野厚宣,
害のメカニズムの解析
木村輝昭,加藤 彰,小野恭平,山下智省,
沖田 極,原 由香1),下島昌幸1),前田 健1)
神経内科学分野(神経内科学),東京医科歯科大学
医歯薬総合研究科脳神経病態学1),新潟大学脳研究
NO.16
所脳機能解析学分野
ビルダグリプチン投与中に重症急性膵炎を発症した
2)
○春木明代,佐野泰照,清水文崇,尾本雅俊,
一例
安部真彰,前田敏彦,斎藤和幸1),中田 力2),
神田 隆
病態制御内科学分野(内科学第三),消化器病態内
科学分野(内科学第一)1)
○太田康晴,戒能聖治1),大野高嗣1),仙譽 学1),
坂井田功1),谷澤幸生
270
山口医学 第60巻 第6号(2011)
NO.17
NO.21
プロテオーム解析を用いた膵癌の抗癌剤感受性に関
炎症巣におけるF-18 FDG PET/CT所見;最近の動
する検討
向
消化器病態内科学分野(内科学第一),プロテオー
セントヒル病院放射線科,放射線医学分野(放射線
ム・蛋白機能制御学分野(生化学第一)
医学)1)
○吉田加奈子,末永成之,植木谷俊之,仙譽 学,
○菅 一能,河上康彦,松永尚文1)
1)
原野 恵,戒能聖治,藏滿保宏1),中村和行1),
NO.22
坂井田功
全身麻酔下帝王切開術後の静脈内自己疼痛管理法
NO.18
(iv-PCA)の現状
胃十二指腸動脈の破綻を伴い外科的止血術を要した
麻酔・蘇生・疼痛管理学分野(麻酔科蘇生科)
十二指腸潰瘍の一例
○坂本誠史,内田雅人,山下 理,松本美志也
国立病院機構関門医療センター総合診療部,国立病
院機構関門医療センター消化器科1),国立病院機構
NO.23
関門医療センター外科 ,国立病院機構関門医療セ
大学病院のがん相談支援室における患者サロンの運
ンター臨床研究部3)
営
2)
○稲益良紀,中鉢龍徳1),佐伯俊宏2),上村吉生2),
古谷卓三2),柳井秀雄3)
診療連携室
○高砂真明,椙村光枝,武藤正彦
NO.19
イメージサイトメトリーによる四倍体細胞の同定及
び評価
分子病理学分野(病理学第二)
○伊藤秀明,河内茂人,池本健三,天川玄太,
帖地康世,近藤智子,小賀厚徳,佐々木功典
NO.20
光干渉断層法3次元再構成画像によるエベロリムス
溶出性ステント留置後組織被覆状態および血管内腔
性状の評価
器官病態内科学分野(内科学第二)
○前田貴生,岡村誉之,山田寿太郎,名尾朋子,
末冨 建,吉村将之,日野昭宏,小田隆将,
中島忠亮,白石宏造,中島唯光,中村武史,
西村滋彦,三浦俊郎,松﨑益德
第117回山口大学医学会学術講演会
271
講 演 抄 録
【特別講演Ⅰ】
しかしながら,社会構成主義の広がりの中,質的研
究が市民権を得るにつれ,質と量の混合という新た
「次世代の癌免疫療法開発に向けた医学研究」
な研究の枠組みを模索する研究者が出てきた.もち
ろん,明確な方法論として意識しないで質的研究と
細胞シグナル解析学(寄生体学)
量的研究を併用した研究も少なからず存在した.講
○玉田耕治
演では,混合研究法の意義と実際を紹介するととも
に,J. W. クレスウェルらが提案した4つの混合
近年の医学研究及び医療技術の進歩により,癌に
研究法の分類に基づき,日本での質と量の両者を含
対する様々な先進医療が実施されるようになったに
めた研究の分析を行い,将来の混合研究法のあり方
もかかわらず,進行性癌は依然として我が国の死亡
について考察する.
原因第一位の疾患であり,現在の外科的治療,化学
療法,放射線療法の3大療法の枠を超えるような,
革新的な癌治療法の開発が強く求められている.免
【小西賞受賞者講演】
疫療法は癌に対する第4の治療法として長らく期待
されてきたが,近年までは臨床評価に耐えうるだけ
「末梢血造血幹細胞動員に関する研究」
の有効な治療効果を示せなかった.しかしながら,
これまでの多くの試行錯誤に基づく研究結果の蓄積
病態制御内科学(内科学第三)
により,臨床的有効性を示す癌免疫療法が最近3年
○湯尻俊昭
程度で多く開発されてきた.本講演では,2010年以
降,米国FDAにて認められた最先端の癌免疫療法
現在,自家および同種造血幹細胞移植において末
を紹介するとともに,演者らの研究グループが進め
梢血造血幹細胞は移植ソースとして欠かせないもの
ている次世代の癌免疫療法に関する研究結果を示
になっている.通常この細胞は顆粒球系増殖因子G-
し,
今後の癌免疫療法の方向性について討議したい.
CSFによって動員され,実際の臨床の場で使用され
ているが,その動員機構については十分解明されて
いない.G-CSFによる造血幹細胞動員においては,
【特別講演Ⅱ】
骨髄内の造血微少環境,いわゆるニッチから離れた
造血幹細胞が末梢血中に動員されることが推測され
「混合研究法のパラダイムと展望」
ている.また動員された造血幹細胞は様々な組織の
修復・再生に貢献していることから,多彩な臨床的
基礎看護学分野(基礎看護学)
応用が検討されている.この幹細胞動員機構を臨床
○廣瀬春次
的側面から明らかにするため,我々はG-CSF投与に
よる同種末梢血造血幹細胞ドナーの臨床研究を行っ
従来,社会科学や人文科学,健康科学の研究者は
てきた.G-CSF投与時に交感神経系,脂肪細胞,骨
様々な方法を用いて研究を進めてきた.厳密に対応
代謝が変動している事を見いだし,その結果と考察
しているわけではないが,基礎的な領域ではモデル
を加えて報告する.
検証型の量的な研究が,実践的領域では参加観察や
対象者のテクストに基づく質的な分析が多く見られ
た.研究者は量的研究を進める者と質的研究をする
者に分かれ,両者間での学術的交流は少なかった.
272
山口医学 第60巻 第6号(2011)
【ミニレクチャー】
NO.2
メカニカルストレスに着目した心筋再生療法に関す
「発疹は語る(Ⅰ)
」
る研究
皮膚科学分野(皮膚科学)
器官病態外科学分野(外科学第一),長崎大学大学
○武藤正彦
院医歯薬学総合研究科幹細胞生物学研究分野1)
○藏澄宏之,李 桃生1),山本由美,西本 新,
皮膚は内臓の鏡であると古来から知られている.
久保正幸,濱野公一
今回当科で経験したいくつかの症例(①膵頭部癌を
合併した好酸球性膿疱性毛包炎,②MTX関連偽リ
【背景】Cardiac stem cells(CSCs)は,再生医療
ンパ腫他)を供覧し,発疹を視ることの重要性を紹
における新たな幹細胞ソースとして注目されてい
介する.
る.一方で,心臓はポンプ臓器であり絶えず拍動す
ることから,心筋内に注入された幹細胞は
mechanical stress(MS)に絶えず曝されている.
【一般演題】
【目的】MSが心筋再生療法に及ぼす影響を検証し
た.【方法と結果】進展刺激装置にてMSを与えつ
NO.1
つ培養することで,MSがCSCsへ及ぼす影響を検討
血管異常収縮を特異的に抑制・予防可能な新規の植
した.MSによりCSCsの生存は低下したが,血管再
物由来成分
生因子の産生や筋細胞への分化を促進した.次に,
マウス異所性心移植モデルを用いて,in vivoでの
生体機能分子制御学分野(生理学第一)
MSと細胞治療の関係を調べた.MSの軽減により
○宮成健司,野地本和孝,岸 博子,加治屋勝子,
ドナー細胞の生着が増加することが分かった.【考
高田雄一,木村友彦,萩原 弘,小林 誠
察】MSは,CSCsに様々な影響を及ぼした.MSは
細胞移植による心筋再生治療に多大な影響を及ぼす
我々は,血管攣縮の原因分子としてスフィンゴシ
と考えられる.
ルホスホリルコリン(SPC)を同定した.SPCは,
血圧維持を担う正常収縮とは異なる新規機構で,血
管を異常収縮させるが,異常収縮のみを抑制する特
NO.3
効薬を探索し,魚油成分EPAを見出した.食品成
ウイルス性心筋炎に対するグルココルチコイドの心
分であるEPAは,発症後に処方される医薬品とは
筋保護効果の検討
異なり,発症“前”に摂取可能であり,実際に,ヒ
ト脳血管攣縮の予防に対して著効を示した.しかし
地域医療推進学,器官病態内科学分野(内科学第二)1)
ながら,魚油は,海洋汚染等の環境の影響を受け易
○中村浩士,松﨑益德1)
く,供給が不安定である.そこで,我々は,環境と
供給が安定している植物に着目し,再度,探索した
副腎皮質ステロイドはグルココルチコイド受容体
結果,異常収縮を抑制する植物を発見した.しかし
を介して心筋保護的に作用することが報告されてい
ながら,同時に正常収縮も抑制したため,液クロを
る.そこでマウスウイルス性心筋炎モデルを用いて
用いて,異常収縮を選択的に抑制できる分画を見出
dexamethasone(DEX)の心筋保護効果を検討し
すことができた.これらの結果は,この植物中に血
3
た.3週令♂A/Jマウスにcoxsackievirus B(CVB3)
管攣縮の特効薬成分が含まれている可能性,および
を接種し心筋炎を誘発した.CVB3のみを投与した
血管病を予防できる機能性食品としての可能性,を
群,DEXを前投与した群,DEXを後投与した群の
示唆している.
3群にて比較検討した.2週間後に左室内径,壁厚,
ウイルス力価,サイトカインを測定し比較した.さ
第117回山口大学医学会学術講演会
らにNS-398を使用したCOX-2阻害実験も施行した.
NO.5
CVB3群は,左室内径の拡張と壁厚の減少,ウイル
ホスホランバン・アプタマーの作成と機能解析
273
ス力価の上昇を認めたが,DEX-pre/CVB3, DEX-
post/CVB3群においてはその変化は有意に抑制さ
分子薬理学分野(薬理学)
れていた.NS-398を用いた阻害実験ではウイルス
○田中貴絵,乾 誠
接種と共にNS-398を使用した群の方が全例とも超
早期に死亡したが,DEXの早期投与により生存率
心臓の収縮・弛緩は心筋小胞体のCa2+-ATPase
は有意に改善した.マウスウイルス性心筋炎におい
(SERCA)によるCa2+輸送により制御されている.
てDEX早期投与はウイルス性心筋炎の治療に有効
ホスホランバンは,SERCAの抑制性の調節蛋白質
であり,その一因としてCOX-2が心筋保護的に作用
として働いている.今回,ホスホランバンの
している可能性が示唆された.
SERCA抑制作用を解除し,強心作用を発揮する新
たな心不全治療薬の開発を目的として,ホスホラン
バンに直接結合して心筋小胞体へのCa2+輸送を促進
NO.4
するホスホランバン・アプタマーの取得と機能解析
アンギオテンシンIIはToll-like receptor 4を介して
を行った.
ホスホランバンに結合するアプタマーは,
炎症を惹起し糸球体硬化を促進する
40塩基のランダムな配列を持つ1本鎖ヌクレオチ
ド・ライブラリから,ホスホランバンの細胞質ドメ
器官病態内科学分野(内科学第二),臨床試験支援
インの融合蛋白質を用いてSELEX法で選別した.
センター1)
得られたアプタマーは,ホスホランバンの細胞質ド
○岡本匡史,作村俊浩,中島忠亮,松田 晋,
メ イ ン に 強 い 結 合 能 を 示 し , SERCAの Ca 2+ -
梅本誠治1),松﨑益德
ATPase活性を著明に促進した.今回の結果は,ホ
スホランバン・アプタマーの新たな心不全治療薬と
【目的】アンギオテンシンII(AngII)がToll-like
しての可能性を示すものである.
receptor 4(TLR4)を介して糸球体内の酸化スト
レス(ROS)を増加させ,炎症ならびに糸球体硬
化を惹起する可能性について検討した.【方法】
NO.6
wild-type(WT)とTLR4機能欠損(TLR4lps-d)
t-SNAREであるSNAP29はGLUT4小胞のインスリ
マウスを用い,AngIIとノルエピネフリン(NE)
ン感受性コンパートメントを形成し維持する
負荷高血圧,低用量イルベタン(IRB)追加投与モ
デルを作成し,糸球体リモデリングと線維化並びに
病態制御内科学分野(内科学第三)
糸 球 体 内 の ROS, MCP-1を 検 討 し た .【 結 果 】
○松井久未子,江本政広,福田尚文,野見山隆太,
AngII ,NEはWT,TLR4lps-dともに同等に血圧を
谷澤幸生
上昇させた.TLR4lps-dでは,AngIIによる糸球体
メサンギウム基質の増生とROS,MCP-1の増加が
WTに比し抑制された(p<0.05).低用量IRBは,
【目的】t-SNARE分子SNAP29を新規に同定し,イ
ンスリン作用における役割を検討した.【方法】
AngIIによるこれらの作用を相殺した.一方,NE
SNAP29 KOマウスは胎生致死であるため,脂肪細
はこれらの指標に影響を及ぼさなかった.【結論】
胞を用いてインスリン依存性糖輸送やGLUT4の小
AngIIはTLR4を介してROSを増加させ,炎症を惹
胞リサイクリングを検討した.【結果】SNAP29はt-
起して糸球体硬化を促進することが示唆された.
Golgiからリサイクリングエンドゾーム領域に存在
しGLUT4小胞と共局在した.免疫沈降により小胞
リサイクリングに重要なsyntaxin6やEHD1との結
合を確認した.SNAP29をノックダウンした脂肪細
胞では,GLUT4小胞の核周囲への集簇が障害され,
274
山口医学 第60巻 第6号(2011)
インスリン刺激後の糖輸送が減弱した.SNAP29過
dependent cellular cytotoxicity (ADCC)活性を
剰発現細胞では,GLUT4が核周囲に過剰集簇し,
有する可能性が示唆され,KRAS/BRAF変異症例
インスリン依存性糖輸送も障害された.【結論】
へもC-mabの恩恵が期待される.KRAS/BRAF変
SNAP29はインスリン感受性GLUT4コンパートメ
異大腸癌に対しC-mabを介するADCC活性,並びに
ントの形成を担う重要な分子であると考えられた.
Fcγ受容体(FCγR)の遺伝子多型とADCC活性
の関連について検討した.BRAF変異を持つ細胞株
の細胞増殖速度は野生株と比べ約3倍であり悪性度
NO.7
の高さが伺えた.KRAS/BRAF変異株へのC-mab
インスリン様成長因子-1 Cドメイン由来のテトラペ
の直接効果は認めなかった.ADCC活性はC-mabの
プチドSSSRによる単一HaCat細胞の遊走促進作用
濃度依存性に上昇した.FCγRⅡa:HHの症例が
HRの症例と比べ,より強いADCC活性を認めた.
分子薬理学分野(薬理学)
KRAS/BRAF変異株ではC-mabの直接効果は認めな
○酒井大樹,松浦健二,乾 誠
かったが,LAKを併用することでin vitroでのC-mab
の殺腫瘍効果を高めることが出来た.FCγRⅡaの
IGF-1のCドメイン由来のテトラペプチド(SSSR)
が皮膚創傷治癒を促進することを明らかにしてき
遺伝子型がADCC活性に関与する可能性があり更な
る検討を行っていく必要がある.
た.また,サブスタンスPのC末端のテトラペプチ
ド(FGLM-amide)存在下では,SSSRに対する感
受性を1000倍以上に亢進する.しかし,これらの作
NO.9
用機序は明らかでない.本研究では,SSSRによる
脂肪細胞分化におけるPDZRN3の役割
上皮細胞の遊走促進効果が単一細胞レベルでも起こ
り得るか検討した.HaCat細胞を用い,タイムラプ
分子薬理学分野(薬理学)
スイメージ法により播種4時間後から1時間での単
○石井愛子,本田 健,乾 誠
一細胞の遊走を解析した所,SSSRによる遊走促進
が認められた.FGLM-amide存在下では,遊走促進
PDZRN3は,PDZドメインおよびPDZ結合モチー
に対するSSSRの感受性が亢進した.さらに,SSSR
フを併せ持つ,RING型E3ユビキチンリガーゼであ
による促進効果は,集団遊走と同様にTGF-β受容
る.これまで我々は,間葉系幹細胞の分化過程に着
体阻害薬やEGF受容体の阻害抗体の添加で消失し
目し,PDZRN3は筋管細胞分化では必須,骨芽細胞
た.以上の結果より,SSSRは単一細胞の遊走を集
分化では抑制的に働くことを解明してきた.今回,
団遊走と同様のメカニズムで促進することが明らか
間葉系幹細胞分化におけるPDZRN3の役割をより包
となった.
括的に理解すべく,PDZRN3の機能解析を脂肪細胞
分化へと展開した.前駆脂肪細胞株3T3-L1は分化
刺激により脂肪細胞へと成熟するが,PDZRN3の発
NO.8
現を抑制すると脂肪蓄積や分化マーカー発現の亢進
KRAS/BRAF変異型大腸癌に対するADCC活性の誘
が認められた.また,これは脂肪分化のマスター制
導
御因子PPARγの発現増強に起因することが分か
り,PDZRN3はPPARγ経路を介して脂肪細胞分化
消化器・腫瘍外科学(外科学第二)
を抑制していることが示された.さらに,PPARγ
○井上由佳,硲 彰一,前田祥成,新藤芳太郎,
上流のシグナル因子群についても解析を行い,
吉村 清,鈴木伸明,吉野茂文,岡 正朗
PDZRN3はPPARγ発現の制御因子に作用する知見
を得たので報告する.
Cetuximab(C-mab)の細胞傷害機序はEGFRを
介したシグナル伝達阻害作用に加え,antibody-
第117回山口大学医学会学術講演会
275
NO.10
NO.11
うつ併発難治性疼痛における前帯状回および下降性
抗AQP4抗体陽性患者血清によるアストロサイト傷
抑制系変調の関与
害のメカニズムの解析
基礎検査学分野(基礎検査学)
,川崎医療福祉大学1)
神経内科学分野(神経内科学),東京医科歯科大学
○井田唯香,石川浩三,山本 悟,安田聖子,
医歯薬総合研究科脳神経病態学1),新潟大学脳研究
増澤あゆみ,掛田崇宏1),石川敏三
所脳機能解析学分野2)
○春木明代,佐野泰照,清水文崇,尾本雅俊,
【背景】神経障害性疼痛に,痛覚-情動系(前帯状
回:ACC)変調およびそれに関連すると思われる
安部真彰,前田敏彦,斎藤和幸1),中田 力2),
神田 隆
下降性抑制系の機能低下が関与すること,またその
機能低下に神経栄養因子(BDNF)不足が示唆され
【目的】Neuromyelitis optica(NMO)は,抗
ている.BDNF誘導剤(4-MC)あるいは磁気刺激
AQP4抗体が補体介在性にアストロサイト(AST)
(AT)は,培養細胞でBDNF mRNAを増加するが,
を傷害することが病態の本質とされているが,その
疼痛に伴う気分障害への効果は明らかでない.本研
詳細な機序は未だ不明であり,抗AQP4抗体のAST
究ではラット慢性痛モデルにおいて,脳内4-MCや
に対する効果を検証する.【方法】AQP4を強発現
末 梢 AT刺 激 の 鎮 痛 ・ 抗 う つ 作 用 の 他 , ACCの
したヒトAST不死化細胞株へのNMO患者血清と補
pERK-BDNF変調の修飾作用を調べる.【方法】ラ
体によるASTの形態学的変化,AQP4蛋白量の変化
ットに坐骨神経損傷(CCI)術を施したのち,経時
と,NMO患者血清によるASTのサイトカインの発
的に痛覚過敏(痛覚閾値低下)およびうつ様行動
現量の変化を生化学的に検討した.【結果・結論】
(強制水泳の不動時間延長)で,それぞれ評価した.
NMO患 者 血 清 に よ り ASTの 突 起 は 縮 小 化 し ,
行動観察後,4%PFAで環流固定し,組織標本で
AQP4はASTの細胞質内に顆粒状に集積し,AST細
ACCの , 1 ) 抗 pERK1/2免 疫 染 色 , 及 び 2 )
胞傷害を生じた.補体の添加でASTは死滅した.
BDNF mRNA 定量(RT-PCR)を行った.治療群
NMO患者血清によりASTの炎症性サイトカインの
には4-MC(100nM)脳室内3日間連続投与或いは
発現量が増加し,抗AQP4抗体の補体介在性AST傷
7日間損傷部への経皮的AT照射(10min)を行っ
害以外にAST自体が分泌する炎症性サイトカイン
た.【結論】ラットはCCI後14〜21dayに持続的な痛
がAST傷害をきたす機序の一つである可能性が考
覚過敏と鬱様行動を呈し,ACCのpERK活性化と
えられた.
BDNF mRNA低下を伴った.4-MC投与および経皮
的AT刺激は,軽度の鎮痛と抗うつ効果を認め,
ACCにおけるBDNF mRNA低下の抑止作用の関与
NO.12
が示唆された.また経皮的AT刺激は,先行研究に
末梢組織傷害後の痛覚過敏発症・維持における痛
よる脊髄5-HT放出亢進およびnaloxoneによる鎮痛
覚-情動系シグナル変調
拮抗を考え合わせると,痛覚-情動系神経を快情動
へ改善し,その結果下降性抑制系機能を保持するこ
基礎検査学分野(基礎検査学)
,検査部1)
とが示唆される.
○岸下裕輔,山本 悟,石川浩三,安田聖子,
福原佳世子,有吉 亨1),石川敏三
末梢組織傷害後には,
しばしば痛み閾値が低下し,
長引くと気分障害を伴う.最近,脳イメージ画像か
らこの病態に前帯状回(ACC)の細胞活性化が関
与し,また鬱患者では神経栄養因子(BDNF)低下
が特徴とされている.したがって,痛覚過敏の発症
276
山口医学 第60巻 第6号(2011)
及び維持機構における脊髄-情動系細胞機能の解明
transcondylar fossa approachにC1後弓切除を加
が必要である.そこで,ラット炎症性疼痛モデルを
え,腫瘍摘出を行った.硬膜内腫瘍は硬膜貫通部で
用い,時系列的痛覚-情動系におけるBDNF mRNA,
分断し,C1前根,後根を切断して摘出した.硬膜
pERK1/2, NMDA受容体活性関連であるc-Fos発現
外成分も癒着する椎骨動脈と剥離し,全摘出した.
より細胞活性を調べた.また,これらの阻害薬によ
上位頚椎神経鞘腫は,その骨解剖学的特徴や神経症
る修飾作用より検討した.SDラット左後肢皮下に
候学的特徴から,比較的大きく,dumbbell型を呈
20%Mustard Oil(MO)を注入後flinchingが増加
するものが多い.C1神経鞘腫の手術は,①椎骨動
し次第に消失し,8hで熱刺激に対する反応潜時
脈,②副神経脊髄枝,③C1後根のバリエーション
(PWL)が減少した.MO 1hで脊髄Iba-1(microglia)
の存在から,摘出難度は高いと考える.その手術治
と c-Fos, pERK1/2の 増 加 が , ま た 8hで GFAP
療について考察する.
(astrocyte)増加とACCのc-FOS, pERK1/2免疫活
性の増加が起きた.MO注入前p38-MAPK, MEK,
Trk-B阻害薬がこれらを抑制し,また8hでのPWL
NO.14
低下はJNK-1阻害薬,MEK阻害薬およびNMDA-2B
腹臥位で分離肺換気下に行なった鏡視下食道亜全摘
阻害で抑止された.本研究から,ラット持続痛モデ
術での呼吸管理
1)
ルで以下の時系列的細胞活性の特徴が判明した.
侵害受容初期には脊髄の炎症担当細胞のpERK1/2
麻酔・蘇生・疼痛管理学分野(麻酔科蘇生科)
活性やBDNF mRNAの発現が起き,また2)遅発
○山縣裕史,石田和慶,鴛渕るみ,山下 理,
性に前帯状回のpERK1/2活性,c-Fos発現が起こる.
福田志朗,脊戸山景子,松本美志也
さらに,この2相性の細胞変調はグリアと合わせ
NMDA-2BおよびTrk-B受容体阻害薬で抑制された.
分離肺換気(DLV)を必要とする腹臥位鏡視下
以上から,痛覚過敏症の発症・維持に,痛覚-情動
食道亜全摘術19例(P群)での血液ガスの変化を,
系におけるグリアの他,Glutamate, BDNFおよび
側臥位鏡視下食道亜全摘術29例(L群)と比較した.
関連pERK1/2とc-Fos活性の2相性変化の関与が示
両群の患者背景,術中因子,DLV前・中・仰臥位
唆される.
への体位変換後のP/F比およびPaCO2,DLV中
PaCO2最高値との関連因子を検討した.P群(64±
9歳)ではL群(66±7歳)と比べ手術・胸腔鏡時
NO.13
間が長く,PaCO2最高値が高く,出血量は少なか
第1頚神経根より発生したダンベル型神経鞘腫の一
った.DLV中にP/F比<100となった症例はP群で
例
少なく,仰臥位体位変換後のP/F比はP群で高かっ
た.二腔チューブがずれた症例はP群に多い傾向に
脳神経外科学分野(脳神経外科学)
あった.P群でPaCO2最高値は,身長,術前肺活量,
○稲村彰紀,五島久陽,出口 誠,貞廣浩和,
1秒量と負の相関があった.P群では人工気胸によ
丸田雄一,野村貞宏,藤井正美,鈴木倫保
り換気肺へ早期に血流が移行するため,DLV中P/F
比<100となる症例は少なかった.仰臥位体位変換
ダンベル型の脊髄神経鞘腫は頚椎,特に上位頚椎
後のP/F比はP群で高く,側臥位に比べ腹臥位は換
に高率に発生する.しかし第1頚(C1)神経根よ
気肺の無気肺形成を減少させたと考える.しかし,
り発生する神経鞘腫は稀である.今回,C1神経根
P群では二腔チューブがずれやすく,低身長,低肺
由来のダンベル型神経鞘腫症例を提示する.症例は
活量,低1秒量は高CO2血症となり注意が必要であ
57歳の女性.後頚部痛,右舌根部の違和感,右手指
る.
しびれの精査で見つかったC1神経鞘腫の手術治療
のため当院入院した.腫瘍は右環椎外側塊の背側を
首座とし,硬膜内延髄腹側に伸展していた.
第117回山口大学医学会学術講演会
277
NO.15
NO.16
下関市内で発生したE型急性肝炎に関する遺伝子学
ビルダグリプチン投与中に重症急性膵炎を発症した
的検討
一例
社会保険下関厚生病院消化器内科,山口大学農学部
病態制御内科学分野(内科学第三),消化器病態内
獣医微生物学
科学分野(内科学第一)1)
○沖田幸祐,原田克則,谷岡ゆかり,平野厚宣,
○太田康晴,戒能聖治1),大野高嗣1),仙譽 学1),
1)
木村輝昭,加藤 彰,小野恭平,山下智省,
坂井田功1),谷澤幸生
沖田 極,原 由香1),下島昌幸1),前田 健1)
83歳の男性.近医から経口血糖降下薬を処方され
【目的】急性肝炎の原因としてE型肝炎があり,主
ていたが,服用は不定期で当科初診時のHbA1cは
な感染源として海外渡航による輸入感染やイノシシ
10.5%であった.食事療法の改善とともに,経口血
やシカ肉の摂取があげられる.血清学的に実際のE
糖降下薬はビルダグリプチン100mg分2のみで治療
型肝炎の感染経路を同定すべく遺伝子解析を行っ
を開始した.血糖値は改善傾向にあったが,治療開
た.【方法】検体は,E型急性肝炎を発症した患者
始2ヵ月半後,朝食後に突然の上腹部痛と嘔吐が出
(下関市内で感染を確認した症例,イノシシのレバ
現し,当科を緊急受診した.腹部CTにて明らかな
ー生食が原因と考えられる)から採取した保存血清
膵腫大を認め,急性膵炎の診断で当院第一内科に入
および山口県内で捕獲されたイノシシから採取した
院となった.膵炎重症度スコアは4点で重症と判定
血清を用いた.それぞれのHEV-RNA解析を行い,
された.腹部CT上,少なくとも結腸間膜根部まで
両群の遺伝子間の相同性を検討した.【成績】本症
炎症が進展していた.絶飲食,輸液に加え,ウリナ
例はgenotype 4であり,準完全長塩基配列解析も行
スタチンの投与を継続し,
第60病日に退院となった.
うことができた.この遺伝子は,中国長春株
胆嚢結石は認められたが,肝胆道系酵素の上昇は軽
(CCC220)と高い近似性を示した.一方,山口県
微であった.また,腹部CTでも胆管拡張は指摘さ
(主に下関市内)で狩猟されたイノシシ63頭のうち
れず,胆石性膵炎は否定的であった.発症時の薬剤
ELISA法でHEV抗体陽性が確認できたのは17頭
はワーファリンとビルダグリプチンのみであり,特
(27%)おり他地域よりも陽性率が高いことがわか
定は出来ないが,ビルダグリプチンによるインクレ
った.そのうち,詳しい遺伝子解析が行えたものは
チンの上昇が発症の誘因になった可能性もある.
3頭であった. 興 味 深 い こ と に そ の 3 頭 全 て が
genotype 4であり,しかもCCC220と99%と高い相
同性を認めた.E型急性肝炎患者と捕獲されたイノ
NO.17
シシ双方は,遺伝子学的にもほぼ一致していると考
プロテオーム解析を用いた膵癌の抗癌剤感受性に関
えられた.【結論】今回の解析で,下関市内で発症
する検討
したE型急性肝炎は,同地域に生息しているイノシ
シの生食によるものであることが遺伝子学的にも証
消化器病態内科学分野(内科学第一),プロテオー
明された.
ム・蛋白機能制御学分野(生化学第一)1)
○吉田加奈子,末永成之,植木谷俊之,仙譽 学,
原野 恵,戒能聖治,藏滿保宏1),中村和行1),
坂井田功
膵癌は非常に予後不良な疾患である.現在,切除
不能膵癌に対しては,GemcitabineまたはS-1の単独
化学療法が標準的治療となっている.この2剤の効
果については明らかな有意差は報告されておらず,
278
山口医学 第60巻 第6号(2011)
併用療法が生存率を延長するとの報告もある.しか
は止血困難とされている.本例での止血困難要因等
し,症例によって効果にバラツキが大きいともいわ
について考案し,報告する.
れている.当科におけるこれまでの研究で,
Gemcitabine耐性膵癌細胞株ではHSP27の発現が亢
進しており,また,HSP27をノックダウンすること
NO.19
で感受性が改善することがわかった.さらに,S-1
イメージサイトメトリーによる四倍体細胞の同定及
についてもその感受性に関わる蛋白を同定すること
び評価
を目的とし検討を行った.膵癌の抗癌剤耐性発現に
関する機序を解明することにより,化学療法の治療
分子病理学分野(病理学第二)
効果改善が期待される.また,超音波内視鏡下穿刺
○伊藤秀明,河内茂人,池本健三,天川玄太,
吸引術(EUS-FNA)の手技を用いた抗癌剤の感受
帖地康世,近藤智子,小賀厚徳,佐々木功典
性予測と,これに基づいた抗癌剤選択やHSP27発現
抑制効果をもつIFN-γなどの薬剤注入療法の併用
が可能となれば,
生存率の向上に寄与すると考える.
二倍体細胞群からの四倍体細胞の出現は悪性化の
プロセスの一つと考えられている.四倍体細胞の出
現は少数であり,同定にはイメージサイトメトリー
が 有 効 で あ る . し か し , G0/G1期 四 倍 体 細 胞 は
NO.18
G2/M期二倍体細胞と同量のDNAを有しているた
胃十二指腸動脈の破綻を伴い外科的止血術を要した
め,DNA定量だけでは二倍体細胞と四倍体細胞の
十二指腸潰瘍の一例
区別は困難である.我々はDNA定量とFISHを同じ
細 胞で 行 い , そ れ ぞ れ イ メ ー ジ サ イ ト メ ー ター
国立病院機構関門医療センター総合診療部,国立病
(RS-100, Olympus)で解析することにより,四倍
院機構関門医療センター消化器科 ,国立病院機構
体細胞の同定を試みた.実験には培養乳癌細胞,線
関門医療センター外科 ,国立病院機構関門医療セ
維芽細胞及び乳癌手術検体を用い,PI染色を施行,
ンター臨床研究部
同じ細胞でセントロメアプローブ(cep7, cep11)
1)
2)
3)
○稲益良紀,中鉢龍徳 ,佐伯俊宏 ,上村吉生 ,
1)
2)
2)
を用いFISHを施行し解析した.
古谷卓三 ,柳井秀雄
2)
3)
症例は30歳代女性.H23年8月頃より嘔気・食欲
NO.20
不振を生じ,SMA症候群を疑われていた.11月中
光干渉断層法3次元再構成画像によるエベロリムス
旬に黒色便を認め,当院ERを受診.入院後の第6
溶出性ステント留置後組織被覆状態および血管内腔
病日に,タール便・Hb低下(10.2から6.3g/dl)を
性状の評価
生じたが,経鼻での上部消化管内視鏡検査(EGD)
では,十二指腸球部前壁に憩室様陥凹を見るものの
器官病態内科学分野(内科学第二)
出血源は同定されなかった.第7病日のEGD再検
○前田貴生,岡村誉之,山田寿太郎,名尾朋子,
時には,憩室様陥凹部に凝血付着を認め,同部を出
末冨 建,吉村将之,日野昭宏,小田隆将,
血源と考えクリップ・エピネフリン生食局注等を行
中島忠亮,白石宏造,中島唯光,中村武史,
ったが,活動性出血による血圧低下を見た.一時止
西村滋彦,三浦俊郎,松﨑益德
血を得たものの同日夜に再度ショック状態となり,
外科的止血術を行った.球部後壁の陥凹は潰瘍底に
光干渉断層法3次元再構成法を用い,エベロリム
胃十二指腸動脈の破綻した潰瘍であった.近年,消
ス溶出性ステント留置直後(BL)とフォローアッ
化性潰瘍よりの出血の大部分では内視鏡的止血法に
プ(FU)時のステント被覆状態および血管内腔を
より止血が得られているが,径1mmを越える露出
比較した.組織被覆厚と露出ストラット率を0.5mm
血管を有する場合や,重篤な基礎疾患を伴う場合に
ずつ定量解析した.同画像を3次元再構成し,
第117回山口大学医学会学術講演会
279
10mmごとに組織被覆の程度とステント圧着不良,
ンタニルによるiv-PCAを開始した.【対象と方法】
解離,血栓の有無を評価した.組織被覆評価には全
全身麻酔下帝王切開術に対して2011年7〜11月の
ストラットが見える0から全く見えない3までの4
iv-PCA併用11例(iv-PCA群)と2011年7月までに
段階分類を用い,組織被覆スコアとして算出した.
行われたiv-PCA非使用11例(非iv-PCA群)に対し,
対象は10患者でFU期間は12ヵ月だった.3次元画
術後2日目までの創痛,併用鎮痛薬の有無,副作用
像でFU時に薄い組織による良好な被膜を確認でき
や離床の程度を,iv-PCA群は前向きに,非iv-PCA
(BL 0.22±0.37, FU 1.38±0.47, p<0.001),組織被覆
群は後ろ向きに調査し比較した.【結果】iv-PCA開
スコアは定量解析と強い相関を示した(組織被覆厚
始前後で,安静時痛なしは2/3例(開始前/後),鎮
r=0.913, 露出ストラット率r=0.938).ステント圧着
痛薬併用は10/4例であった.iv-PCA開始前後で嘔
不良や解離,血栓像は,FU時に減少した.3次元
気0/1例,嘔吐1/2例であったが,離床に影響はなか
再構築法でステント留置後の血管内変化を視覚的に
った.【まとめ】全身麻酔下帝王切開術後のiv-PCA
評価できた.
群では,鎮痛薬併用減少から看護師の負担軽減と患
者満足度向上が期待できる.症例蓄積,PCA概念
の浸透と副作用対策が進むことで,iv-PCAでより
NO.21
良い術後痛管理が提供できると考える.
炎症巣におけるF-18 FDG PET/CT所見;最近の動
向
NO.23
セントヒル病院放射線科,放射線医学分野(放射線
大学病院のがん相談支援室における患者サロンの運
医学)
営
1)
○菅 一能,河上康彦,松永尚文
1)
診療連携室
F-18-FDG PET/CTは悪性腫瘍の診断のみなら
○高砂真明,椙村光枝,武藤正彦
ず,最近では動脈プラークの炎症を含め各種炎症
性・感染症性疾患の診断における有用性にも関心が
がん相談支援室では,がん患者や家族が悩みや体
持たれている.当施設で,経験した各種炎症性・感
験を自由に語り合える場を提供し,それぞれの持つ
染症性疾患のFDG PET/CT検査所見を提示すると
不安の軽減を目的として,平成22年2月に患者サロ
ともに,この領域における最近の動向を文献的考察
ンを設置した.月に1回,医療従事者による講義を
を加えて報告する.
30分,その後は参加者が自由に交流できる時間を設
け,計6回開催した.平成22年9月より,参加者が
自由に交流できる部屋を月に2回開放し,コーディ
NO.22
ネーターが常駐する体制に変更し,延べ162名の参
全身麻酔下帝王切開術後の静脈内自己疼痛管理法
加があった(平成23年11月末日現在).参加者から
(iv-PCA)の現状
は「自分自身の話もでき,皆さんのお話も参考にな
り良かった」「ここは居心地がいいので来るのが楽
麻酔・蘇生・疼痛管理学分野(麻酔科蘇生科)
しみ」などの感想が寄せられ,がん患者や家族の不
○坂本誠史,内田雅人,山下 理,松本美志也
安を軽減するためには,専門的ながん相談だけでは
なく,当事者同士が本音で語り合えるような,患者
【はじめに】術後痛管理は術後経過,患者満足度に
にとって癒しの場を提供することも必要であると実
影響する.自己疼痛管理法(PCA)は,質の高い
感した.今後は参加者のニーズに応じて開催頻度を
術後鎮痛法とされており,当院では硬膜外PCAを
増やすことが課題である.
行ってきた.しかし,抗凝固療法などのため硬膜外
麻酔が行えない症例も多く,代替鎮痛法としてフェ