Twinkle:Tokyo Womens Medical University - 東京女子医科大学

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エリテマトーデスの免疫組織学的研究、特に皮疹に浸潤
するリンパ球のCD4/8値について
豊田, 裕之
東京女子医科大学雑誌, 59(1):12-21, 1989
http://hdl.handle.net/10470/6915
Twinkle:Tokyo Women's Medical University - Information & Knowledge Database.
http://ir.twmu.ac.jp/dspace/
12
〔東女医大誌 第59巻 第1号頁
12∼21 平成元年1月〕
原 著
エリテマトーデスの免疫組織学的研究,特に皮疹に
浸潤するリンパ球のCD4/8値について
東京女子医科大学
皮膚科学教室(主任
量
旦
ダ
ヒロ
田
裕
肥田野信教授)
ユキ
之
(受付 昭和63年8月29日)
Immunohistological Studies of Lupus Erythematosus:CD4/8 Ratio of the
Infiltrating Lymphocytes in Skin Lesions
Hiroyuki TOYODA
Department of Dermatology(Director:Prof. Akira HIDANO)
Tokyo Women’s Medical College
The lymphocytes infiltrating in the skin lesions of 12 patients with systemic lupus erythematosus
(SLE)and of 13 patients with discoid lupus erythematosus(DLE)were examined by avidin−biotin
peroxidase complex method using mon㏄lonal antibodies as follows:anti・Leu4(CD3;peripheral blood
Tlymphocyte), anti−Leu3a(CD4;helper/inducer T lymphocyte), anti−Leu2a(CD8;cytotoxic/sup−
pressor T lymphocyte)and anti−HLA−DR(Ia−like). CD4/8 ratio was obtained by counting Leu3a−
positive and Leu2a・positive cells infiltrating in the epidermis and upper dermis of the lesions.
CD4/8 ratio in SLE(2.23±0.60)was higher than that in DtE(1.36±0.21)(p<0.01). In SLE,
CD4/8 ratio in the lesions of patients treated with steroids was lower than that of patients treated
without steroids(p<0.05). There was no correlation between CD4/8 ratio in the lesions and the renal
dysfunction or early onset of SLE. CD4/8 ratio in the lesions correlated inversely with the number of
HLA−DR−positive epidermal cells.
This finding suggested that HLA・DR−positive epidermal cells were attacked by CD4−positive T
cellS.
エリテマトーデス(LE)は代表的な自己免疫性
びDLEにおける皮疹部浸潤細胞の性状を検討
し,T細胞特にCD4陽性細胞が多く,このT細胞
疾患であり,全身性エリテマトーデス(SLE),円
が直接に表皮細胞を障害している可能性を示唆し
板状エリテマトーデス(DLE)とともに,皮膚の
た.このようにLEにおける皮疹の浸潤細胞は病
病理組織所見で液状変性,リンパ球の表皮内浸潤,
因論的に重要な役割を演ずると考えられるが,こ
表皮細胞の個細胞壊死等特徴的な病変を示す.両
れについて未だ十分な検討が行なわれているとは
疾患における表皮基底膜部の組織障害について
言い難い.
緒
言
著者はモノクローナル抗体を用いてSLE, DLE
は,Bieseckerら1)はmembrane attack complex
が,Norisら2)はantibody−dependent cellular
の皮疹に浸潤するリンパ球の免疫組織学的検討を
cytotoxicity(ADCC)が関与していると主張して
行なうとともに,浸潤リンパ球のCD4/8値と疾患
いる.
一:方,Andrewsら3), Sioharaら4)は, SLEおよ
の種々のパラメーターとの関連について検討し
た.
一12一
13
SLEはアメリカリウマチ協会(ARA)の1982年改
対象および方法
訂基準を満足する例に限った.播種状型DLEは
SLEとの中間型と考えられるので,これを除外
対象
昭和58年から62年に当科で経験し,組織学的検
し,DLEはすべて臨床的,組織学的に診断確実な
捲加えたSLE 12例, DLE 13例を対象とした.
瀞磯’
轟、
激愛鱗
a:Leu3a陽性細胞(×100)
.畷乾州㍉
、,7、げ
瓢ン遍歴∼ノゼ ♂
、灘ガ 継\
卜
需轡,、
㌦
冨
、臼 \等▽♂
螂
総踊:駕・
.
レ
胴
隔 “や
も 炉》
ド藷瀦鍵盤、、
隷
極
㌧重無鱒讐踏継
職艶織.
ぴ
ま マ
響轟
盤賊・蜜,澱細
威
瞬
彫
〉 絶∫
鉱∵餐
・艦
航識
バ
む
ち
ギ
㌔’!◎㍉欝慮拳”
毒糟 廓\、、弩
職 。づサボ
・
審 侮 酬㍉.鴨 無難.
婁 一驚も ㌦揖㍉
ツ輝
キ
聯1 ㌔ボ・零・ @や塾 ・事’ヤ
モゲぢ
・、総論罪蜘
1慧避∫㍉灘
勢・.・鳴
野癖}
宅
臣
旨
礁
毒熟…藷凱
1 触ザ駕
∵
』
爵
濃口
・唖
志
歯
b:Leu2a陽性細胞(×100)
写真1
SLEの浮腫性紅斑部の組織に浸潤するリンパ球
一13一
外
ノ
劉
タ
い回心
鷲序
嵐
14
歳(平均40。7±10.5歳),罹病期間は1ヵ月∼10年
局在型の例とした.
夏平均2.4±2.9年)であった.
SLEは男1例,女11例,年齢は28∼55歳(平均
SLEでは浮腫性紅斑部, DLEでは角化性紅斑
36.8±9.1歳),罹病期間は2週∼10年(平均3.1±
部より採取した生検材料を用いた.
3.2年),DLEは男5例,女8例で,年齢は20∼57
総碁鰯
鰐
奪毎壁
鱒熱
翻
犠
謬
!l
;蕪
曝
無
騨晦
侮
{毒繋
’甜
唇
・耀
“・
難
麟
難嫉
酔
鉾撰
’鞭
撃ぎ
鞍鵯蔑 購、
震
争
嚇、
・磯
ぐ畦
’、
曝 鞍紹欝, ’
岬轡ぞコづ∫薫
写真2
鱒警 漁
’事・’、癬饗
引縄
謎轟
轟
セや
表皮のLeu6陽性細胞(ランゲルハンス細胞)(×400)
写真3 HLA−DR抗原陽性の表皮細胞(×400)
一14一
蓼
15
免疫組織化学的染色法
評価方法
浸潤リンパ球のモノクローナル抗体による染色
CD4/8値については,染色標本を顕微鏡で観察
はavidin−biotin peroxidase complex method
して主に表皮および真皮上層に浸潤しているリン
(ABC法)を用いた.生検した組織片は直ちに
パ球を撮影し,キャビネ版に引き伸ばしてそれぞ
OCT compoudに包埋し一80℃で凍結保存した.
れの陽性細胞を数えた.そしてLeu3a(CD4)陽
組織片はクリオスタットで4μmの厚さに切り1
性細胞数とLeu2a(CD8)陽性細胞数の絶対数の
時間風乾して,アセトンで10分間常温で固定した.
比をCD4/8値とした(写真1a, b).
モノクローナル抗体としてはBecton Dickinson
表皮Leu6陽性細胞数(Langerhans細胞数)は,
倍率400倍にて4視野を観察しその平均値を実測
社のLeuシリーズを用いた.
抗しeu3a(CD4),抗しeu2a(CD8),抗
値とした(写真2).
しeu6(CD1),抗しeu4(CD3),抗HLA−DRを一
HLA−DR抗原陽性表皮細胞については,表皮細
次抗体とし,4℃で約12時間反応させた.次に
胞全体に対する陽性細胞数の百分率を算出し以下
biotinで標識したヒツジ抗マウスIgG(H十L),お
のように評価した(写真3).
よびavidin化西洋ワサビペルオキシダーゼとそ
0 : 0%, 1 : 0∼25%, 2 :25∼50%, 3 :
れぞれ30分間室温で反応させた.各反応間には
50∼75%, 4 :75∼100%.
PBS 5分間3回洗浄を加えた.最後に3,3−
結果の平均値の差および相関係数の有意性の検
diaminobenzine(DAB)一H202と30∼60秒反応さ
せた後,ヘマトキシリンを用いて対比染色し,脱
定にはt検定を用いた.
結
水および封入し光顕的に観察した.
果
1.SLE・DLEにおけるCD4, CD8, HLA・DR,
基底膜への免疫グロブリンと補体の沈着は
Cappe1社のFITC標識goat anti−human IgG
CD1染色の結果
1)形態(写真1∼3)
それぞれの抗原を有する細胞は細胞表面に沿っ
(H十L),goat anti−human IgM, goat anti−human
て茶色く輪状に認められた.
Clq, goat anti・human C3, goat anti−human C4
2)算定値
を用いて螢光抗体直接法(IF)にて観察した.
表1 SLE症例:CD4/8値と臨床症状および検査値
CD
生検
罹 病
ステロイ
S/8値
蝿ハ
?間
h剤内服
F
1.93
前腕
6年
無
28
F
2.49
顔面
10年
無
一
皿
一
3
47
F
3.90
顔面
4年
無
『
一
一
4
40
F
2.43
顔面
.3ヵ月
無
十
十
十
5
28
F
2.08
顔面
2ヵ月
無
十
一
十
6
36
M
2.85
顔面
1ヵ月
無
十
一
十
十
十
一
No
年齢
性
1
36
2
リンパb 血小板。
CH50d
発熱
心膜炎
腎障害
貧血a
一
一
一
一
十
十
十
『
一
十
十
十
十
十
十
十
十
十
十
十
十
十
十
十
7
28
F
1.74
手背
7年
有
十
8
44
F
1.85
前腕
10年
有
十
一
9
44
F
1.68
顔面
5年
無
十
一
10
32
F
L84
顔面
2年
有
一
一
一
?ク少
ク少
オ値
}
一
十
一
『
一
一
十
十
十
一
十
十
一
一
一
十
11
23
F
2.05
手指
3年
有
十
十
十
『
十
十
十
12
55
F
!.96
前腕
2年
無
一
一
『
一
一
一
一
a:Hb10g/d1未満, b:1500/mm3未満, c:105/mm3未満, d:30U/m1未満
15
16
SLEのCD4/8値は!.68∼3、90で平均2.23±
表3 DLE症例:CD4/8値と免疫組織学
0.60,表皮HLA−DR抗原陽性細胞率は0∼4で
平均1.5±L5,表皮CDI陽性細胞は0∼19で平均
No.
4.5±5.3であった(表1,2).
年齢
性
CD
生検
S/8値
蝿ハ
表皮ELA
表皮
ステロ
@Leu6
Cド剤
O用
z性細胞
@.DR
z性率
1
52
M
1.09
顔面
一
1.8
3
DLEのCD4/8値はLO9∼1.59で平均1.36±
2
28
F
1.11
顔面
一
3.5
3
0.21,表皮HLA−DR抗原陽性細胞率は0∼4で
3
43
1.53
顔面
一
6.0
1
平均2.0±1.1,表皮CD1陽性細胞は1.0∼10.3で
4
40
1.52
顔面
一
8.3
3
5
48
M
M
M
6.8
2
6
57
F
平均4.4±2.7であった(表3).
3)螢光抗体法所見
SLEにおいて基底膜に免疫グロブリンまたは
補体の沈着は7例に認められた(表2).
7
34
M
8
35
1.09
顔面
1.36
顔面
一
10.3
2.3
1
皿
0.25
3
4.5
1
1.59
顔面
F
1.46
顔面
一
1.07
顔面
十
9
20
F
1)臨床的パラメーターとの関連(表1,4)
57
F
1.17
前腕
十
(1)罹病期間との関連性
11
34
F
1.57
指
一
CD4/8値と罹病期間との間には相関関係は認め
12
40
F
1.50
顔面
一
13
41
F
1.50
顔面
一
られなかった(r=一〇.11).
1
0
10
2.SLEのCD4/8値
4.5
3.3
4
5.5
2
1.0
2
(2)生検時のステロイド剤内服の有無との関連
性
表4 SLEの臨床症状および検査値とCD4/8値
ステロイド剤内服例のCD4/8値は,1.87±
CD4/8値
0.11,未使用例は2.44±0.66と未使用例の方が高
臨床症状および検査値
値となりその差に有意性を認めた(p<0.05)(図
ステロイド剤の内服
有
無
1.87±0.11
2,44±0.66
1).
発
表2 SLE症例:CD4/8値と免疫組織学
熱
2.10±0.39
2.40±0.77
炎
2.24±0.19
2.23±0.65
害
2.20±0.39
2.25±0.72
2.67±0.72
1,92±0,11
2.49±0.67
1.86±0,08
血小板数減少
2.51±0.71
1.96±0,25
CH50値低下
2.36±0.74
2.06±0.23
2.36±0.74
2.06±023
心
膜
腎
No
1
表皮Leu6
z性細胞
表皮HLA−DR
0.25
1
@ 陽性率
? 膜の沈着
補体の
末梢リンパ丁数減少
1.5
2
3
1.3
1
IgG, M
IgG
19
0
5
11
3
6
0
一
bIq
IgG, M
bIq
7
1.0
4
8
3.0
1
IgG, M
9
3.0
2
IgG,M
10
8.0
1
3
12
4.3
1
4
一
0
1.8
基底膜へのIgの沈着
blq, C3
IgG
11
血
一
2
4
障
貧
禦
等
∈∋
bIq
2
一
IgG
blq
有
一
無
図1 ステPイド剤内服の有無とSLEのCD4/8値
一16
17
20
(3)SLEの二三との関連性
o
①発症年齢
相関関係は認められなかった(r=0.26).
譲
②生検時の発熱
鑛
発熱例ではCD4/8値:は2.10±0.39,発熱のない
例では2.40±0.77であり発熱のない例の方が高値
O
墾10
£
O
£
を示したが,その差に有意性は認められなかった.
③心膜炎
心膜炎の認められた例ではCD4/8値の平均値
1
2
o
O
3
4
CD 4/8値
図2 SLEのCD4/8値と表皮Leu6陽性細胞数
0.65であり,両者に差は認められなかった。
④腎障害
4
腎生検で異常または持続性蛋白尿の認められた
例ではCD4/8値の平均値は2.20±0.39,異常の認
曇
められなかった例では2.25±0.72と差はなかっ
島
。
σ)
蔭
2)臨床検査値との関連(表1,4)
轄2
塁
(1)貧血との関連性
幾
ヘモグロビン10g/dl未満を貧血とした.貧血例
O
o
0
は2.24±0.19,認められなかった例では2.23±
た.
r;一〇.083
o
o O
o
r夏一〇.381
ヨ
におけるCD4/8値は2.67±0.72,貧血のない例で
0
は1.92±0.11と,貧血例の方が高値を示したが有
o
(⊃(D
2
3
4
CD 4/8値
意差は認められなかった.
図3 SLEのCD4/8値と表皮HLA−DR抗原陽性細
(2)末梢リンパ球減少との関連性
胞率
末梢リンパ回数1500/mm3未満を減少とした.
減少例のCD4/8値の平均値は2.45±0.67, IE常例「
は1.86±0.08と,リンパ回数減少例の方が高値を
た例ではCD4/8値の平均値は2.36±0.74,沈着を
示したが有意差は認められなかった.
認めなかった例では2.06±0.23と,免疫グロブリ
(3)一血小板減少との関連性
ンまたは補体沈着の認あられる例の方が高値を示
血小板数105/mm3を減少とした.減少例の
したが有意差は認められなかった.
CD4/8値の平均値は2.51±0.71,正常例は1.96±
(2)表皮Leu6陽性細胞数
0.25と血小板減少例の方が高値を示したが有意差
CD4/8値が高くなるほど表皮Leu6陽性細胞数
(4)CH50値低下との関連性
は減少する傾向,すなおちCD4/8値と表皮Leu6
陽性細胞数との問には僅かに負の相関(r=一
CH50値30U/ml未満を低下とした. CH50低値
〇.083)が認められたが有意ではなかった(図2).
は認められなかった.
例のCD4/8値の平均値は2,36±0.74,正常例は
(3)表皮HLA−DR抗原陽性細胞率
2.06±0.23とCH50二値例の方が高い値を示した
CD4/8値と表皮HLA−DR抗原陽性細胞率とは
が有意差は認められなかった.
3)SLEのCI)4/8と免疫病理組織所見(表2)
負の相関(r=一〇381)を示したが有意性は認めら
れなかった(図3).
(1)螢光抗体法による免疫グロブリン(lgG)ま
ステロイド内服例はr;一〇。099,内服していな
たは補体の沈着の有無
い例はr=0.377と両方共負の相関関係が認めら
基底膜に免疫グロブリンまたは補体沈着を認め
れるが,内服していない例の方がその傾向が強く
一17一
18
4
みられた.
o
表皮Leu6陽性細胞数と同様, CD4/8値が高くな
l1
る程,つまりCD4陽性細胞が表皮および真皮上層
に優位に浸潤すれぼする程,表皮細胞のHLA−DR
坦
抗原の陽性率は低下していく傾向が認められた.
等2
8
1王
3。DI、EのCD4/8値
1)臨床的パラメーターとの関連(表3)
(1)発症年齢との関連性
0
相関関係は認められなかった(r=一〇.078).
(2)性別との関連性
SLE
DLE
図6 SLEとDLEのCD4/8値
男性における平均値は1.36±0.23,女性におけ
CD4/8値と表皮Leu 6陽性細胞数の相関係数
る平均値は1.35±0。20で男女間に差は認められな
はr=0.349と,やや正の相関を示すが有意性は認
かった.
められなかった(図4)
(3)ステロイド剤外用との関連性
(2)表皮HLA−DR抗原陽性細胞率
ステロイド剤外用例では1.35±0.21,外用して
CD4/8値と表皮HLA−DR抗原陽性細胞率との
いない例では1.38±0.21と差はなかった.
2)DEのCD4/8値と免疫組織所見(表3)
間には負の相関関係(r=一〇.256)を認めたが有意
(1)表皮Leu6陽性細胞数との関係
性はなかった(図5).
4.SLEとDIEにおけるCD4/8値の比較
15
SLEでは2.23±0.60, DLEでは1.36±021で
あり,SLEの方が有意に高値を示した(p<0.01)
藷
(図6).
O
蒙10
坦
考
○
o
£
正常皮膚に存在するリンパ球のCD4/8値は,
む
ヨ5
・二〇・349ノ!
o
o
o
Bosら5)によると乳頭層で0.96,網状層で0.99と
o
CD4とCD8陽性細胞はほぼ同数程度であるとさ
れている.一方,SLEおよびDLEの皮疹部に浸潤
するリンパ球については以下のような報告があ
o
0
1.O
l.2
/.4
1.6
図4 DLEのCD4/8値と表皮Leu6陽性細胞数
4
察
る.SLEではCD4優位3), CD8優位6),差はない7),
DLEではCD4優位3)6), CD8優位8),差はな:い7)と,
o
結果は一定していない.山本ら9)はSLEの浮腫性
蟹
ooo
轟
紅斑部では1.86±1.03,DLEは0.93±0,44と
SLEの方が高値を示す傾向があるが有意差はな
o
r=一〇.256
紹2
唐
o
o
いとしている.
o
今回の検討では,SLEではCD4/8値は2.23±
幾
畠
Q
0ユ.0
o
1.2
ユ.4
o
0.60,DLEでも1.36±0.21と両疾患ともCD4陽
o
性細胞が優位であり,かつSLEは有意に高値を
示した.DLEよりSLEの方が高値となる傾向に
ついて山本ら9)はSLEではCD8陽性細胞の減少
がDLEより著しいためとしている.
1.6
CD 4/8値
図5 DLEのCD4/8値と表皮HLA−DR抗原陽性細
本研究では未治療の皮疹およびステロイド剤内
胞率
一18
19
服中に再燃した皮疹を生検したが,生検時ステロ
例は二値を示す傾向が認められたが,発症年齢,
イド剤を内服していない例のCD4/8値は,ステロ
腎・心障害との関係は認められなかった.レイノー
イド剤内服中の例より高値を示す傾向を認めた
現象が認められたのは対象12例のうち2例のみ
(図2).つまりSLEの皮疹部に浸潤するリンパ
で,この2例の皮疹のCD4/8値は1,74,1.68と低
球のサブセットが,ステPイド剤の投与により影
値を示した.中枢神経障害を呈した例は今回の対
響されると推察された.因みに末梢血のCD4/8値
象例にはなかった.
以上要約すると,貧血,リンパ球減少,血小板
も正常人および非活動期SLEにおいてステロイ
ドの投与により二値となる傾向が報告されてい
減少,CH50値低下を示す例の皮疹部のCD4/8値
はやや高値を示す傾向がみられたが,腎障害と皮
る10).
疹のCD4/8値との間には相関関係は認めなかっ
市川11)はSLEの予後を悪くする因子として腎
障害,中枢神経障害,レイノー現象,20歳未満の
た.
若年発症を挙げている.SLEの皮疹および末梢血
SLEの病変部では90%に免疫グロブリンの沈
におけるCD4/8値がSLEの二丁と一定の関係が
着が認められ,病勢に並行し腎症状とも相関する
あるならぽ,予後判定上CD4/8値が重要な指標と
ことが報告されている14).今回の検討では,基底膜
なる可能性がある.
への免疫グロブリン沈着は12例中7例(58%)に,
SLEの末梢血リンパ球のCD4/8値と病像との
補体Clq, C3の沈着は6例(50%)に認められた.
関係についてSmolenら12)は,低値を示す患者群
沈着の陽性率が低かったのは,軽症例が多いため
には腎障害,血二二減少,20歳前の若年発症例が
と推察された.このように全例に免疫グロブリン
多く,高値を示す群にはリンパ節腫脹例が多く,
または補体の沈着が認められているわけではない
また高値および中間値群には筋痛,筋炎,中枢神
ので,免疫グロブリンと補体の沈着のみで基底細
経障害,肺病変,レイノー現象,乾燥症状,皮膚
胞の障害を説明することは困難と考えられた.
一般に免疫応答には主要組織適合性抗原
血管炎を示す例が多いとしている.上田ら10)によ
ると,血少板減少例や中枢神経障害を有する例は
(major histocornpatibility complex antigen:
低値群に,抗DNA抗体価の高い値は高値群に多
MHC antigen)の拘束性があり, CD4陽性細胞は
く,腎障害,自血球減少等の点では差が認められ
class II抗原を, CD8陽性細胞はclass I抗原を有
ない.また,疾患の活動性(発熱・関節炎・漿膜
する細胞と対応することができる.正常の状態に
炎・中枢神経障害・活動性腎障害)の高い例には
おいてはLangerhans細胞はclass II抗原を有し
CD4/8値が低値を示す傾向にあるが,全体として
ているが,有棘細胞にはclass I抗原のみでclass
は一定の傾向は認められないとしている10).
II抗原は存在しない.しかし,種々の皮膚病変部
皮膚に浸潤するリンパ球と病像との関係につい
では有棘細胞にclass II抗原の発現が見られるこ
て,山本ら9)は尿蛋白陽性群において組織中の
とが知られている.その発現は皮疹部に浸潤し,
OKT・8陽性細胞の割合が有意に低下しているこ
遅延型過敏反応を惹起しうるCD4陽性細胞より
とを明らかにし,Morita13》は活動性の高いSLE
遊離されるγ一インターフェロンの作用により誘
ではLeu2a陽性細胞の減少が認められることを
導されるとされている15)16).LEにおいても有棘細
示している.
胞にclass II抗原の発現が見られることがあり,
以上,文献上では疾患活動性が高いと末梢血
Sioharaら4)はSLEでは皮疹が出現する前すでに
CD4/8値は二値を示し,逆に皮疹のCD4/8値は高
HLA−DR抗原陽性の有棘細胞の出現を認めると
値を示す傾向が若干認められているが,一定とは
報告している.またAndrewsら3)は真皮内のTリ
言い難い.
ンパ回数が増加すると表皮のLangerhans細胞数
本研究では,SLEの皮疹のCD4/8値と病像およ
およびHLA−DR抗原陽性の表皮細胞数が有意に
び検査値との関係について検討したところ,発熱
減少するとした(p〈0.01).
一19一
20
本研究で,SLE皮疹部に浸潤するリンパ球の
CD4/8値と表皮のLeu6陽性細胞(Langerhans細
原を認識して障害的に作用することにより発症す
る.Gleichmannら19),木村ら20)はGVH反応と本
質的に同様の機序が,薬剤投与,細菌・ウイルス
胞)およびHLA−DR抗原陽性細胞との関係を検
討したところ,CD4/8値が高いほど,すなおち
感染により自己のMHC抗原が修飾される結果
CD4陽性細胞が真皮上層と表皮へ優位に浸潤する
生じ得ると提唱している.そして,このGVH反応
ほどLeu6陽性細胞とHLA−DR抗原陽性表皮細
によりSLE様症状が生じることも明らかにして
いる19).またGVH反応によって,ヒトSLEで知
胞が減少する傾向を認めた。
られている殆どの自己抗体(主にIgGクラス)も
DLEにおける浸潤リンパ球についても,発症年
齢・性差・ステロイド外用との間には一定の関係
見出されている正8).
を認めなかったが,CD4/8値と表皮HLA−DR抗
関係が認められた.DLEの組織像は基底層を中心
GVH病には急性期と慢性期とがあり,急性
GVH病はしぼしぼ致死的であるが,慢性GVH
病はSLEや他の膠原病類似の症状を呈する.そ
とした変化である点,SLEとほぼ同様であり,
して,急性GVH病はdonorのsuppressor/
SLEもDLEも同様の機序によって皮疹が成立す
cytotoxic T細胞(CD8)がrecipientのMHCの
ると推察された.すなわち,class II拘束性のある
allo class I抗原と反応し,慢性GVH病はdonor
原陽性細胞数とは,SLEほどではないが類似した
CD4陽性細胞が皮膚組織に優位に浸潤するほど,
のhelper T細胞(CD4)がrecipientのMHCの
HLA−DR抗原(class II抗原)を発現するように
ailo class II抗原と反応することにより起こされ
なった有棘細胞が減少していくという事実と,前
るという19).GVH病の皮膚組織像の特徴は液状
述のMHCの拘束性を考え合わせると, class II
変性,表皮細胞の好酸性変性壊死,リンパ球の表
拘束性のあるCD4陽性細胞がclass II抗原陽性と
皮内浸潤であり21),これらの変化はSLEおよび
なった有棘細胞を標的細胞として直接に作用して
DLEにおける表皮病変に類似している.
いることが推察された.
今回の検討結果並びに上述した諸家の見解か
ら,SLEおよびDLEの皮膚組織像,特に表皮基底
またCD4陽性細胞は, helper inducer(4B4つ,
effectorの機能を有するとされている.さらに自
層を中心とした病変は,GVH反応と同様な免疫
学的反応が起こり,自己のHLA−DR抗原に対し
己のHLA−DR抗原に対し特異的に細胞障害活性
細胞障害的に作用するCD4陽性細胞が, HLA−DR
を有するCD4陽性細胞の存在も報告されてい
抗原陽性とな:つた有棘細胞を標的細胞として作用
る17).今回対象としたしEの皮疹に浸潤するCD4
するため発症するとの推察も無理ではないと思わ
陽性細胞の中に,このような自己HLA−DR抗原
れる.
suppressor inducer(2H4+),遅延型過敏反応
に対する特異的細胞障害性T細胞が含まれてい
結
抗原陽性となった有棘細胞を直接障害している可
球のCD4/8値について検討した.
能性も考えられる.
ところで,正常雑種第一代(F1)マウスに親系
語
1.SLEおよびDLEの皮疹に浸潤するリンパ
るとすると,浸潤したCD4陽性細胞がHLA・DR
2.SLEのCD4/8値は2.23±0.60, DLEは
1.36±0.21と,SLEの方が有意(p<0.01)に高値
マウスのリンパ球を移入するとgraft−vs−host
を示した.
(GVH)反応を生じ,様々な自己抗体が産生され,
SLE,強皮症,僧階関節リウマチ, Sjδgren症候群
3,ステロイド剤の内服がSLEの皮疹部に浸
潤するリンパ球のCD4/8値に影響を与えること
様等に類似した症状が発症することが知られてき
が推察された.
4.CD4/8値と腎障害および若年発症との間に
ている18).ヒトではGVH病は, recipientに免疫
不全等がある場合,移入されたdonorの免疫能力
一定の関係は認められなかった.
5.SLEでは血液障害を有する例とCH50値低
のあるT細胞が拒絶されず,recipientのアロ抗
一20一
21
discoid lupus erythematosus studied using
下例でCD4/8値は高値を示す傾向が認められた.
monoclonal antibodies. Acta Dermatovenereo1
6.SLEとDLEの皮疹に優位に浸潤している
(Stockholm)62:477−483,1982
CD4陽性細胞が, HLA−DR抗原陽性となった有棘
9)山本昇壮,片岡和洋,宮崎靖子ほか:1upus eryth・
細胞に対して細胞障害的に作用していることが推
ematosus皮疹部における浸潤リンパ球の解析.
厚生省特定疾患自己免疫疾患調査研究班,昭和61
年度研究業績集pp112−114,1986
10)上田寛之,岡田 純,柏崎禎夫:SLEの活動性並
びに病像と末梢血リンパ球表面抗原の関連性につ
察され,GVH反応との類似性が示唆された.
稿を終るにあたり,御指導,御校閲を賜わりました
肥田野信教授と実験に御協力頂いた佐久間美奈子嬢
いて.臨床免疫 19(Suppl 11):295−301,1987
!1)市川陽一:全身性エリテマトーデスの予後因子と
に深謝致します.
治療.日本医事新報 3322:3−14,1987
本論文の要旨は第646回日本皮膚科学会東京地方会
12)Smole皿JS, Chused TM, Leiserson WM et al l
で発表した.
文
Heterogeneity of immunoregulatory T・c611 sub−
献
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Cutaneous localizatin of the membrane attack
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13)Morita H:Immuno・histological study of the
complex in discoid and systemic lupus eryth−
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elnatosus. N Engl J Med 306:264−270,1982
1−7, 1985
2)Noris DA, Lee IA: Antibody−dependent cel・
14)稲垣安紀,河内山明,植木宏明:免疫病理像と免
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一2/一