世界経済危機に関連する資金調達と配分 - FASID

第
4章
世界経済危機に関連する資金調達と配分
◆
秋山スザンヌ(原文英語)
1.概要
2008 年夏に世界を襲った戦後最悪と言われる「世界金融・経済危機」は、
2009 年夏までに底を打った(図表 4 ― 1)。2010 年現在では貧困国が富裕
国の問題の巻き添えになる危険性はまだ存在するが、状況は安定し、改善
しつつあるように見える。多くの所得の低い途上国の経済に対する今回の
経済危機による影響は大きかった。この章の目的は、この経済危機に対処
するためにドナーがこれらの国へどのような支援をしたかを検討すること
である。
まず、経済危機の初期の影響、そしてその後の影響の分析、当初の対応
の要請、それらの要請に対する主要開発機関(多国間開発銀行、国際連合、
地域組織、各国政府)による対応に関して簡単に考察する。次に、多くは
分析や勧告という形での、非財政的対策に関して考察する。今回の危機は
比較的短期の出来事にとどまり、諸国の中央銀行による迅速かつ大々的な
対応策により、全世界を巻き込む本格的大恐慌になる事態を防ぐことがで
きた。現在もまだ予断は許さないが、2010 年初頭では状況は一段落して
いる。そのように、経済危機の余波の中で何が起きたかという概要を簡単
に紹介し、最後に、短い結論で全体をまとめる。
96
第 4 章 世界経済危機に関連する資金調達と配分
図表 4 ―1 世界の GDP(年末の変化率%)
%
%
予測値− 2009 年 1 月
予測値− 2009 年 3 月
5
5
4
4
3
3
2
2
1
1
0
0
−1
1982
1986
1990
1994
1998
2002
2006
−1
2010
出所:オーストラリア準備銀行(国際通貨基金 IMF の算定に基づく)
http://www.rba.gov.au/Speeches/2009/sp_so_150409.html
2.背景
2.1
最初の反応
世界経済危機が最初に表面化した時点では、貧しい途上国には大きな影響
を与えず、むしろ、高度に発達した経済、金融機関、投資家を伴う先進国
にほぼ限定されると予想された。
危機が最初に出現したのは、米国でサブプライムローンのバブルが崩壊
した 2006 年後期である。それが次に、資産担保証券市場の崩壊につなが
ったが、これは信頼のおけるリスク評価が不可能になった結果である。次
に、これが金融システムの凍結を引き起こし、最終的に米連邦政府が講じ
た大規模な景気刺激策により、ようやくこの金融システムの凍結は緩和さ
れた。
経済のグローバル化が進んだ今日、これらの問題が国境の内側にとどま
るはずはなく、問題は全世界に広がった。それでもなお、それらの問題が
貧困国に深刻な影響を与えるとは考えにくかった。これは、貧困国にはサ
ブプライムローンも高度な金融制度も資産担保証券市場もなく、つまり必
97
図表 4 ―2 GDP に対する比率で表した政府の財政状況
6
4
2
0
−2
−4
−6
2008 2009
−8
− 10
南アジア
中南米・ 欧州・
欧州・
中東・
東アジア・ サハラ
以南
カリブ 中央アジア 中央アジア 北アフリカ 太平洋
アフリカ
石油輸入国 石油輸入国
出所:Thomas 2009(IMF と世界銀行のデータから)
要な水準まで発達した市場がないからである。
一方、一部の新興市場は、この危機に巻き込まれた。例えば、インドネ
シア、マレーシア、ロシアでは、パニック的な売りを防ぐために、一時的
に株式市場が閉鎖された。しかし、世界経済の主流から外れている貧しい
途上国は、影響から隔離されていると考えられていた。図表 4 ― 2 に示す
ように、サハラ以南アフリカ諸国は政府の金融市場に占める割合は非常に
低く、世界危機とは無関係と想定しやすかった。
2.2
脅威の認識
貧困国に対する脅威が認識されたのは、リスク評価の不確実性が極度に高
まり、リスクを吸収する金融システムが崩壊する恐れが生じたために信用
フローが縮小した時である。結局、多くの途上国は、世界的な経済崩壊に
対して脆弱であり、経済を支えるための資金もなく、先進国より深刻な打
撃を受けた。大半の国で、2002 ∼ 2007 年の順調な成長が、一気に逆転し
た。
貧困国、特にサハラ以南アフリカ諸国において、健全な経済成長が中断
したことは、貧困撲滅を目指す動きの深刻な後退を意味した。さらに、途
98
第 4 章 世界経済危機に関連する資金調達と配分
上国はグローバル経済から「切り離されている」という想定の誤りも、明
らかになった(IMF/World Bank 2009)
。
民間レベルでは、富裕な消費・貿易国における信用収縮が、取引と資本
フローの縮小、そして途上国の輸出品に対する需要の縮小を引き起こして
いることが明らかになった。この状況は貧困国において、国際収支面での
深刻な圧力、インフレの進行、所得分配の悪化となって現れた。世界経済
と結びつくために十分な強さを持つ国の経済の成長エンジンが弱体化した
ため、経済への影響はいくつかの地域に対しても脅威になった。例えば、
欧州連合(EU)がその実例である。また、南アフリカが自国よりも弱い
近隣隣国に対して強い影響力を持つ南部アフリカでも、地域経済問題とな
った。
全般的な景気後退により、また、先進国が自国を守るために打ち出した
莫大な額の緊急救済策のため、開発援助の縮小も懸念された。その理由は、
この救済資金は何らかの形で貧困途上国経済圏に流れたはずの資金が流用
されたことになるからである。2005 年のグレンイーグルズ G8 サミットで
は、主要ドナー国は、毎年 US$500 億(その内 US$250 億がアフリカ向
け)、2010 年までに合計 US$1,300 億に達する援助額の増額を約束した。
しかし、これらの資金が実際途上国へ供与されるか疑問である。
海外で働く途上国の労働者の多くが職を失い、母国への送金額が減るこ
とが見込まれ、それもさらなる負の要因になることが予想された。
ブレトンウッズ機関(世界銀行と IMF)はこの状況を「開発非常事態」
と形容し、この言葉は、両機関が 4 月に刊行した共著の報告書、『グロー
バル・モニタリング・レポート 2009 :開発非常事態』(IMF/World Bank
2009)でも使用された。開発の専門家は、保護策を実施できるよう、負
の影響に対して最も脆弱な国を特定する作業を進めた。
2.3
脆弱性
『グローバル・モニタリング・レポート 2009』では、経済・金融危機によ
る被害に対する経済の脆弱性を、輸出額、海外直接投資、送金額、対外債
務比(特に新興市場)、援助額(特に低所得国)に関連する状態に従って
判定した。2007 年 1 月から 2008 年 7 月に起きた世界的な燃料・食糧価格
99
の高騰により、低所得国がすでに打撃を受けていたとすれば、それらの
国々の脆弱性は、さらに悪化するものと予想された。
世界銀行(世銀)の評価によれば、グローバルな問題に対する脆弱性が
最も高いのは、以下の 3 項目の特性を持つ国である。
• 輸出収入への依存。すなわち、一次産品の輸出国であり、かつ輸
出が GDP に占める比率が高い、またはそのいずれか。
• 海外直接投資(FDI)、海外援助、または海外からの送金という海
外からの資金流入への依存が高い。
• 外貨準備高、対外債務、経常収支、財政収支の状態に関するガバ
ナンス上の欠陥により、対応力が低い(Commission of the European Communities 2009)
。
従って、最も深刻な問題を抱えそうな地域は、緩衝のない状態で西欧の
1)
金融・投資・市場にさらされる中・東欧 、援助への依存度が極端に高い
太平洋島嶼国、複数の脆弱性を兼ね備えたサハラ以南アフリカである。こ
れらの国々が痛手を受けることに気づいた援助関連機関は、直ちに被害を
食い止め、逆転させ、または緩和するための活動を開始した。
また、基本的な点として、次の 3 項目が指摘された。
• 経済が比較的小規模で脆弱な貧困途上国は、経済危機による打撃
に耐える能力が最も低い。
• 経済が比較的小規模で脆弱な貧困途上国は、決して今回の危機の
要因ではない。
• それまで開発が遅れていたサハラ以南アフリカの諸国が、5.5 ∼
6.5 %の範囲の極めて順調な成長率を上げていた。この長年待望さ
れた順調な傾向を、世界的な景気後退で中断してはならない。
★下線用12文字分ダミー★
1) ただし、欧州復興開発銀行(EBRD)は、「欧州の新興市場は他の新興市場ほど影響
を受けない」と主張している。http://www.ebrd.com/new/am/transcripts/090515.htm
100
第 4 章 世界経済危機に関連する資金調達と配分
3.救済と対策の要請
3.1
全般的な状況
貧困途上国、G20 諸国、開発 NGO の代表、経済協力開発機構/開発援助
委員会(OECD/DAC)高官の最初の反応は、約束された援助レベルを維
持するよう援助ドナー国に要求することであった。(NGO は支援先が困
るだけでなく、団体自体に集まる資金も減り、支援力が低下することを懸
念していた。)前述のグレンイーグルズにおける G8 の公約にもかかわら
ず、経済危機がピークに達した 2008 年末までに確保された援助増加額は、
わずか US$200 億であった。この間、米国は金融/債務救済のために、
US$7,000 億規模の緊急経済刺激策を打ち出していた。
アフリカ開発銀行(AfDB)理事会は、英国のゴードン・ブラウン首相
に提出した 2009 年 3 月の報告書(Committee of African Finance Ministers
and Central Bank Governors 2009)で、見解を明らかにした。
「危機前のアフリカの成長水準を持続するだけでも、2009 年に US
$500 億、2010 年に US$560 億の追加資金が必要と推定している。
ミレニアム開発目標(MDGs)を達成すべく、さらに高い成長率を達
成するために必要なレベルまで投資を増やすには、2009 年に US
$1,170 億、2010 年に US$1,300 億の追加投資が必要である。以前に
繰り返し約束されたアフリカへの援助増額を、直ちに実行しなければ
ならない。資金へのアクセスのスピードが不可欠である。しかし、ア
フリカが貧困削減に十分な成長率を回復できるようになるには、それ
だけでは不十分である。新規の追加財源を開拓しなければならない。
アフリカを危機に対抗する世界的対策の一部に組み込まねばならな
い。
」
貧困国の窮状に対しては、同情的な反応があり、援助一般、そして特に
ミレニアム開発目標の課題を、今後も支持し続けるという約束が示唆され
101
た。ただし、それを躊躇する動きもあった。当時、副大統領候補であった
Joseph Biden は、米国が「約束した支援を遅らせる必要があるかもしれ
ない」と認めた。英国では、ゴードン・ブラウン首相は、政府による援助
を全く削減しないと強調したが、英国の納税者の間には援助の増額をしぶ
る傾向が見られた。英国下院は、開発援助に対する富裕国の納税者の意欲
2)
が不況により低下したかどうかを調べる調査を開始した 。
3.2
多国間開発機関
多国間開発銀行(MDB)は、被援助国政府から追加資金の要請を受けた。
これらの訴えに対し、世銀、IMF、地域開発銀行では特にアジア開発銀行
(ADB)とアフリカ開発銀行(AfDB)という大規模機関が最大の対応を
行った。
ブレトンウッズ機関は事実上、財政援助のペースメーカーの役目を果た
すため、これらの機関への資金要求が最も多かった。世銀は 6 月 30 日に
終了した 2009 会計年度(FY2009)に、これまでの最高記録である US
$588 億の融資を行い、これは前年度の総額 US$382 億を 54 %上回って
いた。世銀グループ(WBG)主要部門間の融資額の内訳は以下の通りで
。
ある(図表 4 ― 3)
US$329 億:国際復興開発銀行(IBRD)
、主要融資部門
US$140 億:国際開発協会(IDA)
、譲許的融資部門
US$105 億:国際金融公社(IFC)
、民間担当部門
US$ 14 億:多国間投資保証機関(MIGA)
ゼーリック総裁の説明によれば、援助額急増の直接の要因は必要投資額
の増大であるとされた。9 月にイスタンブールで開催された 2009 年世銀/
IMF 年次総会に向けて作成された世銀の報告書(World Bank 2009b)で
は、2009 年 7 月 1 日から始まった 2010 会計年度第 1 四半期に、IBRD に
よる中所得国への融資額は過去最高の US$80 ∼ 110 億に達し、年間では
US$400 億を超えると推定された。最貧国に関しては、2009 会計年度に
★下線用12文字分ダミー★
2) 国際開発委員会(IDC)調査の発表:“Aid under pressure:support for development
assistance in a global economic downturn”
http://www.parliament.uk/parliamentary_committees/international_development/ind0809an03.cfm
102
第 4 章 世界経済危機に関連する資金調達と配分
図表 4 ―3 世界銀行グループの危機対応
WBG
融資約束額
(US$10 億)
60
MIGA
IFC
50
40
MIGA
30
IDA
IFC
20
IDA
IBRD
10
IBRD
0
FY08
FY09
出所:World Bank 2009b, p.17
前年度から 25 %上昇した IDA の融資決定額が、2010 会計年度に再び上昇
し、US$124 ∼ 164 億に達するものと予想された。必要額の増大は IFC に
も影響を与え、同機関は民間部門融資での財源不足に直面している。
潜在的被害を判定し、どのような種類のどれだけの額の援助が必要かを
算定するために、2 機関の経済学者が状況の分析を行った(図表 4 ― 4)。
2009 年 3 月に世銀が発表した結果によれば、経済危機の影響に対処する
ために、途上国は US$2,700 ∼ 7,000 億の追加援助(オバマ政権が米経済
の救済策として投じた額に匹敵)を必要とする(World Bank 2009a)
。
3.3
要請内容
援助要請は大まかに 2 種類に分類できる。まず、承認済みまたは実施中の
援助プログラムおよび戦略の増強や継続に関する要請がある。これにはす
でに決定された資金を獲得するための活動が含まれ、インフラ、教育、保
健などに使われることになっている。次に、世界経済危機が新たにもたら
した特別な問題と取り組むことを意図した要請がある。これは主に、途上
国政府の貿易、投資、財政上の適応性と強く結びついている流動資産を拡
大するための措置である。
103
図表 4 ―4 主要被援助国に関する 2008 年の経常支出に占める援助額比率(%)
ブルンジ
ルワンダ
アフガニスタン
コンゴ民主共和国
マダガスカル
ブータン
ハイチ
タンザニア
ギニアビサウ
ニジェール
0
20
40
60
80
100
出所:IMF 2009a, p.23(IMF による算定)
4.約束と講じられた対策
世界経済危機は、4 つの主なリスク領域を生み出した(AfDB 2009a)
。
• 民間資本の逆流と民間資本フローの不安定化により、為替相場お
よび経常収支赤字への資金投入能力が影響を受ける資本流出リスク
• 歳入減少(特に国際貿易での税収)、金融機関支援費の増大、国債
費による財政リスク
• 輸出産品に対する需要の減少と価格低下に関係する輸出リスク
• 世界金融市場の弱体化により引き起こされ、国内金融部門と政府
に影響を与える流動性リスク
おそらく危機の到来が突然であったため、また当初、事態の把握という
点で混乱があったため、ドナー機関はすでに実施していたことを増強する
という方法で対応した(上記の最初の分類)。これは第一に、最小限の努
力で可能であったため、第二に、新規のプログラムやイニシアティブのた
めに即座に追加資金を見つけることは不可能であったためである。これは、
種々の発言や勧告にもかかわらず、現実には、この危機をきっかけとして
導入された新規の開発政策や開発手段がほとんどなかったことを意味する。
最終的に状況に合わせた対策が講じられたときには、それらは景気の悪
化による影響を緩和するための反景気循環的措置(「景気循環増幅効果の
緩和」と呼ばれるプロセス)または信用フローを維持するための流動性強
104
第 4 章 世界経済危機に関連する資金調達と配分
化、あるいはその両方の組み合わせという形を取った。
4.1
世界銀行
世銀は危機を感知すると直ちに警鐘を鳴らし、同行または他の機関が講じ
るべき対策の検討に乗り出した。必要額として経済学者らが試算した US
$2,700 ∼ 7,000 億という広い範囲の中で、最も低い額の US$2,700 億の
調達すら、国際金融機関の既存の資金では不十分と思われた。ましてや上
限値の資金調達が必要となれば、あるいはそれよりもさらに悪い状況に陥
れば、必要額と財源の間に莫大なギャップが生じることになる(World
Bank 2009a)
。
しかし、世銀の対応は法的枠組みによる制約を受けた。ソフトローンの
窓口である国際開発協会(IDA)は、第 15 次増資期間中であり、2011 年
6 月まで更新されない。金融市場からの資金調達窓口である国際復興開発
銀行(IBRD)では、融資の原資を拡大するために、株主から一般増資を
受ける必要がある。これは必要な資金が即座に調達できず、何らかの新た
な財源が必要であることを意味した。
諸方面からいくつかの可能性が提案された。最初の案は、IDA に対す
る増資の前倒しである。IBRD の一般増資の要請も提案された。第 3 の案
は、世界金融市場での資金調達であった。第 4 の可能性として、相当の準
備期間を要するが、特別増資と併せ、途上国の発言権と議決権比率を引き
上げることが提案された。この最後の案は、より広汎な組織ガバナンス改
革の一部として行わねばならない。
これらの何れの選択肢でも、世銀自体の財源を拡大することは困難であ
り、十分なスピードでそれを行うことは不可能である。ロバート・ゼーリ
ック総裁は、“Vulnerability Fund(脆弱国向け基金)”の創設を提案した。
それは世銀により設立され管理されるが、資金は富裕先進国から別に調達
される。世銀の文書では、この基金を活動の「中心」として位置づけてい
る(World Bank 2009a)
。
この基金の提案にあたり、ゼーリック総裁は経済危機との関連を述べ、
この基金を「世界のための景気刺激策」と呼んだ。2009 年 1 月に、New
York Times 紙の論評(Zoellick 2009a)で初めて紹介されたこの「脆弱国
105
向け基金」は、深刻化する世界経済による被害のため「救済措置を賄えず、
赤字を持ち堪えられない」国を支援する目的で、先進国が自国の経済およ
び国民を守るために導入した景気刺激策の 0.7 %に相当する金額を拠出し
て設立される予定であった。この 0.7 %は、政府開発援助(ODA)の目標
と想定される GNI の 0.7 %と同程度ということで出された。
構想によれば、「脆弱国向け基金」は 3 つの重要分野への投資を行うと
される。ただし、これらは新規分野ではなく、世銀がすでに活動を実施し
ている分野であった。
• 安全保障プログラム、特に保健、教育、栄養
• 基本的な公的サービスの提供を含むインフラ
• 中小企業(SME)とマイクロファイナンス
2009 年 2 月、世銀のチーフ・エコノミスト Justin Yifu Lin は、提案の見
直しを行い、経済規模の大きい国々に対し、彼が新「マーシャル・プラン」
と呼ぶ基金に US$2 兆の資金を拠出し、低所得国が現在の不景気の嵐を
切り抜ける手助けをしてほしいと訴えた。これはゼーリック総裁の「脆弱
国向け基金」案に、次のような修正を加えた提案であった。まず、資金お
よび資源に富む新興経済圏に要請の範囲を拡大した。次に、世界の国内総
生産のおそらく 1 %が必要になることを示唆した。しかし、7 月になると、
世銀の Marwin Muasher 対外関係担当上席副総裁が再び、各種の景気刺激
策の 0.7 %をこの目的に使うべきであると提案した。
この「脆弱国向け基金」は、提示されたどの形でも、自国経済の救済で
手一杯の先進国の支持を得ることはできなかった。元世銀の経済学者で現
在はブルッキングス研究所の上席研究員である Homi Kharas は、2009 年
2 月 11 日付けの記事で、現在の政治情勢では、「脆弱国向け基金」という
構想は、大幅な援助増額を発表した日本を除いてはあまり牽引力を持たな
いと述べた(Kharas 2009)
。
106
第 4 章 世界経済危機に関連する資金調達と配分
図表 4 ―5 世界銀行グループの「脆弱国向け資金調達ファシリティの枠組み」
脆弱国向け資金調達ファシリティの枠組み
脆弱国向け資金調達ファシリティ
インフラ再建・資産プラット IFC 民間セクター・
低所得国(LIC)および中所得国(MIC)中
プラットフォーム
フォーム(INFRA)
の貧困で脆弱な国に重点を置く
世界食糧危機 IDA
対応プログラ ファスト
ム(GFRP) トラック
緊急社会
対応
INFRA
貧困で脆弱な
金融危機の影
食糧危機の影 金融危機の影
社会層が存在
響を受けた
響を受けた 響を受けた
する LIC と
LIC と MIC
LIC
LIC と MIC
MIC
インフラ、貿易金融、
貧困国のため 銀行資本増強、
のエネルギー マイクロファイナン
ス
不安定なエネ
ルギー価格に
打撃を受けた
LIC と MIC
LIC と脆弱な MIC
のための危機関連活
動に関する民間セク
ター支援
融資財源:IDA、IBRD、ほか信託基金(TF)を通じ、もしくは並行/協調融資(PF)として供
給される資金
グラント融資
IDA
IDA
IBRD
信託基金
(TF)
TF
並行融資
(PF)
PF
IDA
IDA
IDA
IBRD
IBRD
IBRD
IFC 自体の資金
TF
TF
官(例えば国際金融
機関 IFI や二国間)
と民両方の動員
PF
PF
DPO, IL, TA
DPO, IL, TA
TF
手段
国際政策融資
( D P O )、 投
資融資(IL)、 DPO, IL, TA
グラント、技
術協力(TA)
DPO, IL, TA
投資顧問サービス
重点分野
運用と保守の
保護、優先プ
雇用、社会保 ロジェクトの
財政/予算支
障、基本的社 実施保証、官
援、農業、栄 IDA の全業務
会サービスの 民連携(PPP)
養、安全保障
の支援、雇用
保護
創出投資
貿易金融、銀行資本
エネルギーと
増強、インフラ・フ
安全保障への
ァシリティ、マイク
手頃なアクセ
ロファイナンス・フ
ス
ァシリティ
共同事務局:SDN(持続可能な開発ネットワーク)、OPCS(業務政策・国別サービス部)、PREM
(貧困削減・経済運営局)、HDN(人間開発ネットワーク)、CFP(パートナーシップ局)、FINCR、
MIGA(多国間投資保証機関)、FPM(資源動員部)
運用とガバナンスの枠組み
GFRP と IDA ファストトラ
ックの理事会承認、処理の迅
速化、権限の委任
理事会承認済み、実
施進行中
開発パートナーの拠出金のガバナンスは拠出額により異なる
運用/結果に関する報告
運用に関する週次報告と結果
未定
に関する四半期ごとの報告
未定
未定
月次報告
出所:European Parliament 2009, p19(2009 年 3 月に発行された世銀文書から引用)
107
その代わりに、世銀は「脆弱国向け資金調達ファシリティの枠組み」を
作り、インフラ・プロジェクト、安全保障プログラム、中小企業(SMEs)
の資金援助を行うことにした(図表 4 ― 5)。「脆弱国向け枠組み」は基本
的に、既存の関連する財源とファシリティで構成される。それらは、国際
3)
金融公社(IFC)のインフラ危機ファシリティ (Infrastructure Crisis
Facility)、インフラ再建・資産プラットフォーム(Infrastructure Recovery
Assets Platform:INFRA)、世界食糧危機対応プログラム(Global Food
Crisis Response Program:GFRP)、IDA ファスト・トラック(IDA Fast–
Track)、緊急社会対応基金(Rapid Social Response Fund:RSRF)である。
最後の RSRF 基金は、最貧国の最貧困層の日常的なニーズを満たすために、
直ちに援助を行うことを意図したものである。
現状を考慮すれば、2010 年半ばまでに IBRD の融資は「深刻な制約に
直面し」、その結果、最貧国を優先する形で融資の「供給制限」を行う可
能性がある、とゼーリック総裁は述べ、IBRD への一般増資の必要性を強
調した。しかし、フランス、英国、米国などの主要国の当局者は、「世銀
にはまだ十分な余裕があり、既存の資金で継続できる」(United Kingdom
2009)という見解を表明した。
世銀の経済学者らは、世界を席巻する経済的混乱が貧困国に壊滅的打撃
を与え、中所得国にさえ深刻な被害を与えるのではないかと懸念し続けて
いた。しかし、状況に合ったプログラムを実施することができず、世銀は
基本的に、既存の手段を講じるしかなかった。それらは貧困国を支援し、
中所得国に流動性を提供するために、即座に利用可能な手段であった。具
体的には、次のような措置が講じられた。
• 中所得国の健全な金融・投資状況を支援するために、2009 年に
US$26 億の IBRD 融資を承認。
• 途上国金融機関の資本増強を補助し、それらの機関が国家経済に
必要な資金を提供できるようにするために、2008 年 12 月に、US
$30 億の新規 IFC 資本増強基金を発表。その内訳は、IFC から US
★下線用12文字分ダミー★
3) http://www.ifc.org/ifcext/about.nsf/AttachmentsByTitle/IssueBrief_ICF/
$FILE/IssueBrief_ICF.pdf
108
第 4 章 世界経済危機に関連する資金調達と配分
$10 億、そして国際協力機構(JICA)を介し日本からの US$20
億である。世銀理事会は US$50 億の上限を承認したが、特定地域
の資金調達を促進するためのサブファンドは可能とされる。
• 新興国と途上国の不良資産を銀行から買い取り、それらの経済に
おける信用フローの回復を目指す、IFC を通じた US$55 億のイニ
シアティブ。これには IFC の資金 US$15 億と途上国自体の資金
US$40 億が使われる。
• 危機による打撃を緩和するイニシアティブに対する US$83 億の
追加資金の動員。
• 今後 2 年間に、安全保障と社会的保護への投資を 3 倍の US$120
億まで拡大し、メキシコ、ブラジル、フィリピンなどの中所得国に
暮らす 5,600 万人の貧困層に対する安全保障を強化するために、
2009 年に US$30 億弱を承認する。
• 今後 3 年間に、US$550 億のインフラ・プラットフォームを設け、
2009 年に世銀グループのインフラ資金調達で US$210 億を承認す
る。
• 世界経済危機の打撃を受けた国を支援するために、2009 年に US
$600 億弱の資金調達を約束。
• 社会安全保障や基本インフラなどを支えるために、3 年間に US
$1,000 億を IBRD から支出。
欧州議会に提出した報告書(European Parliament, Directorate General
for External Policies 2009)で指摘されたように、危機対策への世銀の貢献
は、ほとんど追加財源を使わずに既存の IBRD および IDA 融資を組み直
すことで達成された。しかし、世銀は経済危機の影響を抑制するための対
策の一部として、他の機関が実行しようとしているさまざまな対策を管理
することに意欲的であった。「脆弱国向け基金」は、そのような手段の一
4)
つであった。それ以外には、IFC が運営するインフラ危機ファシリティ 、
および「脆弱国向け資金調達ファシリティの枠組み」の構成要素になった
★下線用12文字分ダミー★
4) http://www.ifc.org/ifcext/about.nsf/AttachmentsByTitle/IssueBrief_ICF/
$FILE/IssueBrief_ICF.pdf
109
英国の緊急社会対応基金(RSRF)があった。
4.2
国際通貨基金(IMF)
国際通貨基金(IMF)はある意味で、今回の世界経済の悪化により復活で
きたといえる。それまで、潤沢な民間投資と海外直接投資(FDI)により、
IMF が支援を行う機会が奪われ、また、危機以前までの途上国の順調な
経済成長は、経済の安定化という IMF の専門能力を発揮する必要がない
ことを意味した。同機関はすでに破綻回避のための財源を探しており、そ
の目的で、保有する金の一部を売却していた。また、職員の削減も考慮し
ていた。
このような状況下、この危機は IMF を復活させただけでなく、危機を
乗り越えるための主導的立場に立たせたというのが、大方の見方である。
IMF は主に、大規模でタイムリーな資金調達パッケージ、そして融資条
件、財政・金融政策、金融制度リスクという側面での支援国のニーズへの
対応に追われた。
世銀の場合と異なり、IMF の株主の間には、融資に回す財源を拡大す
るために資本の再構成を行うべきだという点で、コンセンサスが成立して
いた。当初、その額についてやや論争があり、米国は US$7,500 億を、
EU は US$5,000 億を主張したが、最終的に米国案が承認された。しかし、
資本再構成には時間がかかり、IMF の対応能力は突然の金融崩壊に追い
つくことができなかった。IMF は貧困国の危機回避を支援するために
2009 年に US$250 ∼ 1,400 億が必要と算定した。2009 年 7 月までに IMF
は低所得国向けの財政支援をすでに倍以上に増額していたが、その時点で、
今後 2 年間の US$80 億を含め 5 年間に US$170 億の追加資金を投入す
5)
ると発表した 。
十分な流動性を供与することが IMF の最優先事項の一つであった。世
界経済に注入するために特別引出権(SDR)として新規に US$2,500 億の
一般配分が要求された。この内 US$180 億以上が外貨準備高を引き上げ、
★下線用12文字分ダミー★
5) IMF Survey Magazine, July 29, 2009
http://www.imf.org/external/pubs/ft/survey/so/2009/POL072909A.htm
110
第 4 章 世界経済危機に関連する資金調達と配分
低所得国の財政上の制約を緩和するために使われた。IMF の他の危機対
応策としては、特に低所得国に対し、資金を入手し易くするための 3 種類
6)
の新規融資窓口が用意された 。
(1)柔軟な中期支援を行うための拡大信用ファシリティ(ECF)
(2)短期および予備的なニーズと取り組むためのスタンドバイ信用ファシ
リティ
(3)低い融資条件で緊急支援を行う緊急信用ファシリティ
それに加え、それまで順調であったハンガリーやウクライナのような経
済圏で、資金の流れが枯渇したところに流動性をもたらすために、IMF
は大規模な緊急融資プログラムの計画を導入した。今回の危機は従来にな
い深刻なもので、それまでの IMF の対応パターンであった資金調達と政
策調整の組み合わせが適切ではなく、プログラムの資金調達部分のみを必
要とするような国までもが危機に引き込まれることになった。この新たな
状況と取り組み、流動性を高めるために、緊急支出を行う短期流動性ファ
シリティ(SLF)が提案され、2008 年 10 月に理事会により承認された。
当初、US$2 億規模の SLF が提案されたが、最終的にはそれをはるかに
上回る額が可能になり、3 か月満期で割り当ての 500 %に達した 7)。
世界経済危機への対応として IMF が講じた措置は、主に高所得新興市
場と中所得国向けであったため、IMF に対する批判もあった。欧州議会
に提出された分析によれば、新規 IMF ローンの 82 %が欧州域内諸国に配
分され、アフリカ諸国に配分された比率はわずか 1.6 %であったと報告さ
れている(European Parliament 2009, p3)。しかし、IMF が開発融資に携
わることは、IMF の権能を超え世銀の責任領域に踏み込むことになると
8)
外部審査委員会が判断したため 、IMF はそのような動きを明確に封じら
れていたのである。世銀と IMF の協力に関する外部審査委員会は、「低所
得国における IMF の融資活動は、その中心的責任を超え、世銀の仕事と
★下線用12文字分ダミー★
6) IMF Survey Magazine July 29, 2009
http://www.imf.org/external/pubs/ft/survey/so/2009/POL072909A.htm
7) IMF Survey Magazine, October 29, 2008
http://www.imf.org/external/pubs/ft/survey/so/2008/POL102908A.htm
8) この審査は、従来の IMF サービスに対する需要の低下と新規の活動領域の模索を背
景として実施された。
111
重複することになる。
」と述べている(IMF/World Bank 2007)
。
4.3
他の国際開発金融機関(MDBs)
(1)アフリカ開発銀行(AfDB)
アフリカ開発銀行(AfDB)は、危機という現象を深刻にとらえ、それを
軽減するための努力に強い関心を示した。地域首脳らは、先進国が自国経
済への信用危機の影響を抑制するために世界の資本市場を独占しようとす
る動きに対し、何らかの対抗策を講じない限り、アフリカは「最悪の開発
危機」に陥ると警告した。
それまでアフリカ諸国は、平均 5.5 ∼ 6.5 %あるいはそれを上回る率で
順調に成長しており、それを維持する能力があるようにみえた。しかし、
それらの国々の成長はいまだに危ういものであり、危機の中で成長を維持
することに関しては、相当の懸念があった。実際その懸念は正しかった。
2009 年 1 月に公表された図表 4 ― 6 は、2009 年 4 月と 11 月時点での予想
値を示す。10 か月後の 10 月までに、AfDB は 2009 年の成長率予測を 2 %
以下に下げた。この低下は一人当たりの所得の低下、そして貧困層の増加
を意味した 9)。
海外からの援助が加盟国の経済にとり極めて重要であるため、AfDB 独
自の活動の大半は、対策よりもむしろ分析の領域で行われるが、いくつか
の危機対策も実施してきた 10)。その一つが AfDB 自体の財源を用いた基金
で設立した US$15 億の緊急「救済」ファシリティである。さらに、2009
年 3 月の AfDB 理事会で採択された政策文書(AfDB 2009b)には、検討
事項として 4 項目のイニシアティブが盛り込まれた。
• 生産セクターへの貸付を行う中所得国、中央銀行、その他の機関
を支援するための US$15 億規模の緊急流動性ファシリティ
11)
★下線用12文字分ダミー★
9) AfDB Web サイト
http //www.afdb.org/en/2009-african-economic-conference/background/
10)AfDB の Web サイトには、広範囲な関連政策要約と作業文書が掲載されている。
http //www.afdb.org/en/2009-african-economic-conference-november-11-13-addis-ababa-ethiopia/
11)AfDB Web サイト
http //www.afdb.org/en/projects-operations/financial-products/emergency-financing/
112
第 4 章 世界経済危機に関連する資金調達と配分
• 第 1 期に貿易融資信用枠(TF LoC)と多目的 LoC、第 2 期に US
$5 億の世界貿易融資プログラムを含む、貿易融資イニシアティブ
12)
• 条件を満たす国への「アフリカ開発基金の財源の資金移動を迅速
化するための枠組み」
• 政策アドバイスの面での支援強化
図表 4 ―6 アフリカの地域別実質 GDP 成長率(%)
:2009 年 1 月 16 日時点での中間評価
9.0
8.0
7.0
6.0
2007
5.0
2008 4 月
2008 11 月
4.0
2009 4 月
2009 11 月
3.0
2.0
1.0
0.0
中央アフリカ 東アフリカ 北アフリカ 南アフリカ 西アフリカ アフリカ全体
出所:AfDB 2009a, p13
(2)アジア開発銀行(ADB)
世銀同様、アジア開発銀行(ADB)も経済危機の緊急事態に対し、すで
に実施中の対策の強化で応じた。ADB の場合、これらは 2008 年 4 月に
「戦略 2020」として開始された 2008 ∼ 2020 年長期戦略枠組みの中で行わ
13)
れる取り組みであった 。また、ADB は政策分析と能力向上に関する助
成金を通じた危機関連支援も拡大し、ソフトローン窓口であるアジア開発
基金(ADF)に US$4 億の追加資金を配分した。
実体経済への信用フロー維持を目的とする緊急支出危機支援を行い、流
動性を改善するために、US$30 億の景気循環相殺政策支援ファシリティ
★下線用12文字分ダミー★
12)AfDB Web サイト
http://www.afdb.org/en/topics-sectors/initiatives-partnerships/trade-finance-initiative/
13)ADB Web サイト http://www.adb.org/LTSF/default.asp
113
(CSF)が創設された。ADB は特に開発途上加盟国(DMC)について懸
念し、CSF で意図したのは、アフリカの AfDB が直面した現象と同様に、
世界的な信用縮小の拡大による海外での資金調達の減少を相殺することで
あった。しかし、このファシリティではその他にも、外部から新たに受け
た打撃に対し、成長を全般的に維持すること、そして、国内需要や生産の
拡大、社会的保護の強化、貿易の促進や雇用の保護を行うことで、マクロ
経済的な条件を改善することも意図していた(ADB 2009)。フィリピンが、
この新たな貸付の承認を受ける最初の国になった。
図表 4 ―7 ADB の危機対応
危機以前(2007 ―2008)
通常資本財源(OCR):US$170 億
アジア開発基金(ADF):US$49 億
技術協力:US$5.24 億
協調融資:US$25 億
危機以後(2009 ―2010)
OCR(景気循環相殺政策支援ファシリティ
含む):US$261 億
ADF:US$58 億+ US$4 億
技術協力:US$5.67 億
協調融資:US$45 億
地 域
政策分析と
知識支援
地域機関の支援
(ASEAN、ASEAN
+ 3、SAARC 等)
公共セクター
需要ベースの支援
・財政拡大
・社会保護
・開発の勢いの維持
・国内のモニタリン
グと調査の強化
景気循環相殺
政策支援
ファシリティ
アジア・
インフラ・
イニシアティブ
出所:ADB 2009, p19
民間セクター
需要ベースの支援
・流動性規制の緩和
・景況感の改善
貿易金融促進
プログラム
アジア・
インフラ・
イニシアティブ
114
第 4 章 世界経済危機に関連する資金調達と配分
ADB は 2009 年 4 月に、流動性を維持し促進するためのさらなる対策と
して、貿易金融促進プログラム(TFFP)を US$10 億に拡大した。そし
てこれは、2013 年末までに、貿易支援で最大 US$150 億を生むと予測さ
れる。TFFP の目的として、以下の 3 項目が規定されている。1)確認銀
行に対して保証を、DMC 内の発行銀行に対して回転信用を提供すること、
2)輸出入業者が金融サービスを利用できるよう銀行の能力を強化するこ
と、3)貿易金融システムに融資能力、流動性、安定性を提供するために、
14)
民間セクターと協力すること 。TFFP には以下の 2 つの主要商品がある。
• 加盟地域・国際銀行(確認銀行)に対し、承認された発行銀行が
発行する貿易信用の支払を保証する信用保証
• 民間の輸出入業者(多くは中小企業)の貿易関連取引に貸し付け
を行っている発行銀行に提供する回転信用
開発途上のアジアでいまだ展開中の経済危機と、それに対するアジア銀
15)
行の対応に関する 2009 年 5 月の報告書の中で 、この地域開発銀行の危
機関連貸付支援額は、2009 ∼ 2010 年に US$100 億以上増加し、その 2 年
間の総額は US$320 億に達すると推定された(因みに、2007 ∼ 2008 年の
総額は約 US$220 億)。増額分の US$100 億のうち、US$10 億は貿易金
融支援に、US$30 億は CSF、約 US$60 億はインフラ投資などを目的と
する融資に使われる予定である。
(3)欧州復興開発銀行(EBRD)
欧州復興開発銀行(EBRD)は 1991 年に、中欧、東欧、南欧、中央アジ
アの 29 か国を支援するために設立され、現在、これらの国々が世界の金
融状況により重大な影響を受けている。これらの諸国は旧ソ連を構成した
国またはその衛星国であり、多くが欧州連合(EU)加盟国、加盟候補国
であるか、または EU と結びついた国々との密接な貿易相手国である。
厳密な意味では、EBRD は開発銀行ではなく、投資銀行である。その任
務は、支援対象国の民間セクターへ投資を行い、適正に機能する市場経済
の整備を補助することである。民間セクターについても市場経済について
★下線用12文字分ダミー★
14)ADB Web サイト http://www.adb.org/Tradefinance/default.asp
15)ADB Web サイト http://www.adb.org/Documents/Reports/Economic-Crisis/default.asp
115
も、ほぼ未経験の国がほとんどである。世界の金融制度が崩壊の瀬戸際に
追い込まれ、資金の流れが止まり、民間融資、株式での資金調達、公共・
国からの資金調達が困難になったとき、これらの諸国は危機による深刻な
打撃を受けた。
バブルの崩壊が今回の危機を招いたのであるが、それまで、バブルは継
続する健全な経済成長であるという思い込みにより、これらの国々の経済
は、より強力な西欧諸国の経済と絡み合うようになった。不況に襲われた
とき、これらの国々は制御不能な状況に陥り、深刻な打撃を受けた。この
ため、かなり残酷な予想外の展開であるが、崩壊により最悪の打撃を受け
たのは、開かれた体制へと最も迅速な進歩を遂げていた国であった。その
一例がバルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)で、この三国は
極めて好調だったため、2006 年に EBRD はこれら三国に投じていた資金
を、さらに東のより貧困な国々に移す計画を発表したほどであった。
バルト三国の成長予測は、今や−15 %の範囲にまで低下した。2009 年
の地域経済全体に関しては、近刊の『EBRD 移行報告書 2009』で、6.3 %
の平均縮小率が示されている 16)。
EBRD は多国間パートナーと協力し、投資、銀行、そして特に重視する
要素として中堅中小企業(SME)に対する支援を強化するという方法で
その状況に対応した。やはりこの地域への主要多国間投資・貸付機関であ
る世銀および欧州投資銀行(EIB)との共同 IFI(国際金融機関)行動計
画を通じ、銀行部門の支援および世界経済危機により打撃を受けた事業へ
の融資のために、2 年間に 245 億の資金が投入されてきた。
17)
EBRD が特別に注目した対応項目は次の通りである 。
• 2009 年の投資計画の規模を 80 億に拡大
• いまだに健全な銀行の資本増強
• 貿易促進プログラムの拡大
• エネルギーとインフラ・プロジェクトへの資金調達
•
2 億 5,000 万の企業支援ファシリティを設立
• 他の IFI とのより密接な連携
★下線用12文字分ダミー★
16)EBRD Web サイト http://www.ebrd.com/pubs/econo/tr09.htm
17)EBRD Web サイト http://www.ebrd.com/new/fin_crisis.htm
116
第 4 章 世界経済危機に関連する資金調達と配分
資金の提供以外に、EBRD の行動計画では、企業再編成を支援し、また、
一般家庭と企業の両方の部門で、外貨による多大な影響を削減するための
支援も行う。
(4)米州開発銀行(IADB)
図表 4 ―8 中南米における GDP 成長率の実際および反事実モデル推定値
(ブラジル、チリ、コロンビア、メキシコ、ペルー)
9
9
6
6
3
3
0
0
−3
−6
−9
−3
実際の成長経路
反事実モデル予測
Q1 Q2
2007
Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2
2008
2009
−6
−9
出所:IMF Direct 2009(IMF による算定)
脆弱性が高いと認識されてきた中南米地域であるが、この経済危機に極め
て良く耐えてきたように見える。実際、IMF は西半球に関する 2009 年 10
月の地域経済見通しに「回避された危機」というタイトルを付けたほどで
ある。IMF の Nicholas Eyzaguirre 西半球局長は最近のインタビューで、
なかでもブラジル、チリ、コロンビア、ペルーは、この不況の間、安定し
たマクロ経済政策、および国際金融市場との健全な関係を示したと説明し
た(Mapstone 2009)
。
この地域の多くの国が、反景気循環的な通貨・財政政策を導入すること
ができた。図表 4 ― 8 は、中南米の大半が、世界不況の最悪の影響(全て
の影響ではないが)の回避に成功したことを示している。この地域は危機
18)
の間、予想された最悪の状態よりも GDP にして約 4 %上回った 。
★下線用12文字分ダミー★
18)IMF Web サイト http://blog-imfdirect.imf.org/2009/10/21/latin-america-and-the-crisis/
117
おそらくこのような理由により、この地域の諸国を支援するための計画
または提案は驚くほど少ない。
4.4
国際連合(UN)関連
基本的には政治的機関である国際連合(UN、以下国連)は、経済危機の
管理においては積極的な役割を果たしてこなかった。国連は、政策と実践
的な施策のほとんどを、国際金融機関(IFI)と国際開発金融機関(MDB)
に委託してきた。2009 年 5 月に国連開発計画(UNDP)のヘレン・クラ
ーク総裁は、「この時点では、ブレトンウッズ機関との特に密接な連携が
不可欠だ」と語った(UNDP 2009)
。
そのような背景はあるものの、あらゆる国際機関の中で最も多くの国が
加盟する機関として(2008 年の第 63 回総会 2008 年で Miguel d’Escoto
Brockmann 議長は国連を G192 と呼んだ)、国連は政策と実施の両面で助
言を行った。国連の経済関連機関が毎年共同で作成する『世界経済状況と
見通し』の 2009 年版では、莫大な規模の国際協調による景気刺激策パッ
ケージを実施することを促した。それは一貫性、相互補強性、持続可能な
開発目標との整合性を備え、危機への対応としてすでに諸国が実施した流
動性および資本増強対策を補足する内容であるべきとされた(UN 2008)
。
4 月のロンドンサミットに参加した G20 代表に対し、バン・ギムン国連
事務総長は、世界経済危機の脅威にさらされる途上国を援助するために、
US$1 兆の景気刺激策パッケージを集めることを提案した。
「まず重要な点として、途上国のニーズに応じる真に世界的な経済刺
激策パッージが必要である[中略]国際連合は、危機の間、途上国を
支援するために必要な資金総額を、2009 ∼ 2010 年に最低 US$1 兆と
19)
」
推定している 。
この資金は開発援助を拡大し、気候変動対策費用に取り組み、それを必
★下線用12文字分ダミー★
19)Financial Times 関連 Web サイト http://media.ft.com/cms/1f749b5e-194c-11de-9d340000779fd2ac.pdf
118
第 4 章 世界経済危機に関連する資金調達と配分
要とする市場の流動性を改善するために使われる。会合に先立ち、G20 首
脳との意見交換の中で、バン事務総長は、資金の大半は既存の 3 種類のメ
カニズムおよび機関を通じて動員することができると説明した。
• ODA :問題が少なかった時代に合意された既存の目標額では追い
つかないため、ドナー国は援助目標額を増額する。
• IMF の財源:可能な手段が色々ある中で、特別引出権(SDR)の
拡大により財源を補強する。
• 世銀および他の多国間開発銀行による融資: 2009 ∼ 2010 年に、追
加的な長期融資を提供する。
また、国連は各国政府と協力し、世界的影響・脆弱性警報システム
(GIVAS)の開発も進めている。このシステムでは、世界規模の衝撃が最
も脆弱な人々に与える影響の全体像を明確にするために、リアルタイムの
20)
セクター横断データを整備する予定である 。これにより、世界危機が脆
弱な人々に影響を与えてから、それに関する確実な量的情報と分析が意思
決定者に届くまでの情報のギャップをなくし、よりタイムリーで効果的な
対応が実行できるようになる。
GIVAS の構想は、G20 ロンドンサミットで、最も貧しく脆弱な人々に
対する危機の影響を監視するための“Global Poverty Alert(世界貧困警報)
”
として生まれた(G–20 2009a)。より長期の取り決めとして、国際機関、
援助機関、研究グループをリンクし、テキストメッセージや E メールを
使うリアルタイムの更新含め、即時に更新できる整合性のあるネットワー
クを構築するには、国連を中心とする活動が最適であることを首脳らは認
識した。
このため、IMF と世銀に対する多額の新規財源確保に加え、G20 は国
連に対し、他の国際機関と協力し、効果的なメカニズムを考案・設立する
よう要請した。国連の文書によれば、「GIVAS は新たな『重い』システム
21)
を構築するのではなく、既存のデータをリンクする結合機能を提供し 」、
その基盤に、携帯電話や関連するメッセージ交換技術を想定する。これら
★下線用12文字分ダミー★
20)国連 Web サイト http://www.un.org/sg/GIVAS/backgrounder.pdf
21)国連 Web サイト http://www.voicesofthevulnerable.net/about-givas
119
の技術を通じ、GIVAS は、状況報告、警報、目撃報告など一連の“Global Alert Products(世界警報成果)
”を創出する。
GIVAS の構想は、2009 年 6 月に開催された世界金融・経済危機とその
開発への影響に関する国連会議で、総会により承認された。
[52(b)項]「国レベルで、国際連合の基金やプログラム、専門機関お
よび国際金融機関による調整の取れた方法を通じ、各国の開発戦略を
支援する国連開発システムの包括的危機対応をさらに発展させるこ
と。その対応では[中略]危機により生じた、または悪化した脆弱性
と取り組み、各国のオーナーシップをさらに強化しなければならない
(A/RES/63/303 Para 52(b)
)
。
」
Miguel d’Escoto Brockmann は、この制度を国際金融制度改革に関する
討論に向けることにより、経済危機の政治的側面を強調しようとしたが、
大部分の国連加盟国の国家元首が参加を見合わせたため、その努力は奏効
しなかった。
4.5
地域機関/共同行動
(1)G20
G20 は経済危機への対応を強く打ち出し、この世界的な危機への対応を通
じ、G7 や G8 に比べより参加国の多い枠組みとして、その影響力の強化
を試みた。一つには、主な新興経済圏を真の意思決定の場に引き込んだと
いう意味で、G20 は効果的な協調メカニズムとして機能してきた。これに
より、問題に関する視野が広がっただけでなく、おそらく他の方法よりも
多くの世界的な解決策を生んだと考えられる。
初の G20 首脳サミットとなった 2008 年 11 月のワシントンサミットに
おいて、各国政府首脳は「より密接なマクロ経済的協力に基づき、成長を
回復し、マイナスの波及効果を回避し、新興市場経済と途上国を支援する」
ために、政策対応の幅を拡大することを誓った。首脳らは以下の対策を講
じることに合意した(G–20 2008)
。
• 金融システムの安定化に向けた努力を継続し、さらに必要なあら
120
第 4 章 世界経済危機に関連する資金調達と配分
ゆる行動を実施すること
• 国内の状態に適した通貨政策支援の重要性を認識すること
• 財政の持続可能性に役立つ政策枠組みを維持しつつ、適切な限り、
財政措置を用い、迅速に国内需要を刺激すること
• 流動性ファシリティおよびプログラム支援を通じた方法を含め、
新興・途上経済の資金調達を支援すること
• 世銀および他の多国間開発銀行に対し、開発課題の支援に全力を
傾けるよう促すこと
• IMF、世銀、その他の MDB において、危機打開への各々の役割を
続行するために十分な財源を確保すること
首脳らは「改革のための共通原則 5 項目」も承認し、2009 年春にロン
ドンで開催される第 2 回サミットのために、より具体的な計画を準備する
よう求めた。ロンドンサミットで、首脳らは「過去に例のない規模の回復
のため(G–20 2009a)」の世界計画を採択した。この計画では、世界危機
と取り組むための中心的役割を IMF に与え(IMF が世界危機の事実上の
管理者になった理由がここである程度説明できる)、世銀に対しても、重
要な貢献を求めた。同計画では以下の行動を要求し、それらはバン国連事
務総長の US$1 兆の嘆願をはるかに満足させる内容であった。バン事務
総長は 2009 年 4 月 2 日付の書簡で、そのことに関し、首脳らに感謝した。
• IMF の財源を 3 倍に拡大し、US$7,500 億とすること
• US$2,500 億の新規の特別引出権(SDR)配分を支援すること
• 多国間開発銀行による最低 US$1,000 億の追加融資を支援するこ
と
• 貿易金融のための支援 US$2,500 億を確約すること
• 合意に基づく IMF の金売却による追加資金を、最貧国に対する譲
許的融資に使うこと
ロンドンで G20 首脳は、同年末までに再度会合を開き、進捗状況を検
討することに合意した。それが 2009 年 9 月のピッツバーグサミットであ
った。9 月までに、危機は最悪の時期を過ぎたようであった。G20 首脳は、
行動計画が「うまく行った」(G–20 2009b)と宣言した。ピッツバーグサ
ミットでの行動の一環として、首脳らは IMF の新規借入取極(NAB)に
121
対し US$5,000 億を超える資金を拠出するというロンドンサミットでの
約束を承認した。これは例外的な状況に対処するための補足財源を提供す
るために、IMF と加盟国・機関の間で行う信用取り決めである。
(2)アジア/東南アジア諸国連合(ASEAN)
米国のサブプライムローン市場で始まり世界に拡大した今回の危機は、ア
ジア、特に「アジア金融危機」の経験からほんの 10 年しか経過していな
い東南アジアと東アジアに対し、特別強い打撃を与えたといえる一面があ
る。新たな脅威が現実になったとき、当時の記憶がまだ新しく、後遺症は
いまだ残っていた。最も重要な対応の一部は、10 年前の経験に基づくも
のであった。
2009 年 2 月、ASEAN+3(ASEAN+日中韓)の財務閣僚は、チェンマ
イ・イニシアティブの枠内で、多国間化を促進することを決定した。この
イニシアティブは、1997 年に起きた地域経済危機の副産物の一つであり、
地域内の短期的な流動性の問題を管理し、他の国際金融取り決め、および
機関の業務を促進するために、ASEAN10 か国で設けた二国間通貨スワッ
プ取極(BSA)ネットワークである。
ASEAN+ 3 は危機による信用収縮状態で、流動性を回復するための緊
急基金を設立する計画を承認した。詳細はまだ明らかにされていないが、
チェンマイ・イニシアティブに基き、13 か国の政府が通貨スワップを通
じ、必要に応じ緊急短期資金を融通し合うためのメカニズムを創出すると
いう構想である。総額は 2008 年に US$800 億が設定され、2009 年には
US$1,200 億に増額された。中国、日本、韓国が基金の 80 %を、
ASEAN10 が残り 20 %を拠出する予定である。
現地通貨建債券市場はあまり利用されていないが、この地域の投資・金
融への大きな財源になる潜在性を秘めており、ASEAN+3 はその拡大も
検討している。
(3)欧州連合(EU)
中・東欧の経済問題に助力するために、世銀、欧州復興開発銀行(EBRD)
と欧州投資銀行(EIB)共同で行う“Joint IFI Action Plan(共同 IFI 行動
122
第 4 章 世界経済危機に関連する資金調達と配分
計画)”で、いくつかの対策が講じられた。4.3(3)で前述の、2 年間に
245 億を提供するという約束に加え、2009 年 9 月末までに、さらに 163
億の追加支援が約束された。
4.6
各国政府
(1)途上国政府
アジア諸国は通貨安定化のために単独で対策を講じており、景気刺激策を
打ち出した国は、アルメニア、バングラデシュ、カンボジア、中国、グル
ジア、香港、インド、インドネシア、カザフスタン、韓国、マレーシア、
モンゴル、パキスタン、パプアニューギニア、フィリピン、シンガポール、
スリランカ、台湾、タイ、ウズベキスタン、ベトナムである。信用危機に
対抗するための他の具体的な試みとしては、タイがインフラ整備への支出
を拡大し、台湾が内国法人への投資を行う権限を強化している。
アフリカは極めて多様な 53 か国で構成される大陸であり、対策を講じ
る能力には差がある(Committee of African Finance Ministers and Central
Bank Governors 2009, p5–6)。アフリカ諸国のほとんどは、一国での対応
は困難であると判断した。世銀アフリカ地域担当 Obiageli Ezekwesili 副総
裁は、「多くのアフリカ政府には、効果的に行動できるだけの財政的余裕
がない」と述べた。世界経済危機につきものの隠れた要素として、その破
壊的打撃を最も強く受けるのが、それに対してほとんど寄与しなかった
国々だという事実がある。Ezekwesili は、「この問題を起こしたのはアフ
リカではない。アフリカのみが[中略]その打撃に苦しむのはおかしい」
と指摘した多数の関係者の一人であった。
(2)ドナー国政府
ドナー国政府は、援助プログラムを正常に進めるために、全体的な原則や
基本的取り組みと一致した危機への取り組み方を、以下に記すように見出
した。
日本はこの状況に最も積極的に対応したドナー国の一つである。2009
年 4 月の G20 サミットに先立ち、日本は金融/信用危機により苦悩して
いた途上国を援助するための 2 つの対策を発表した。1 つは前述した世銀
123
IFC 資本増強基金への拠出である。もう 1 つは IMF に対する US$10 億
の融資で、「世界の成長の牽引役として、今後も役割を果たし続けること
が期待される新興市場経済を含め、今回の世界経済の混乱に巻き込まれた
IMF 加盟国に対し、タイムリーで効果的な国際収支に関する支援を行う
22)
同基金の機能を支援する 」ことを目的とした。
当時の麻生太郎首相は、アジア諸国が景気後退に耐える手助けをするた
めに、3 年間に最低 US$170 億を拠出することも約束した。
英国は、ゴードン・ブラウン首相と国際開発省(DFID)の Douglas
Alexander 大臣の両者による演説などの発言を通じ、崩壊により打撃を受
ける可能性が最も高い、貧困国の貧困層の救済を強く訴えた。政府は
2009 年 3 月、ロンドンで 4 月に開催される G20 サミットに先立ち、英国
が主催したアフリカ・アウトリーチ会合の準備段階において、前述の「脆
弱 国 向 け 枠 組 み 」 の 一 部 と し て 世 銀 が 運 営 す る「 緊 急 社 会 対 応 基 金
(Rapid Social Response Fund:RSRF)」に、£2 億を拠出すると発表した。
また、英国も「世界貧困警報」という概念を導入し、これは後に姿を変え、
前述の国連の世界的影響・脆弱性警報システム(GIVAS)へと発展した。
フランスとドイツは現在、いわゆる「トービン税」23)と呼ばれる国際金
融取引に課税する仕組みの採用を進めている。この提案は、2006 年にフ
ランスが中心となり発足した「開発資金のための連帯税に関するリーディ
ング・グループ」を通じ、進められている。
欧州連合(EU)は、単一と共同が混成する実体という特性を持ち、最
大の ODA 拠出地域として、総額の 59 %を占める(EU 加盟国政府個別の
ODA と EU の ODA の合計)。一つの実体として、EU は「連合全体」と
いう取り組みを推奨し、開発のために、輸出信用、投資保証、技術移転な
どの手段とプロセスを考慮に入れている(Commission of the European
Communities 2009)
。
★下線用12文字分ダミー★
22)2009 年 2 月の融資取極 http://www.imf.org/external/np/pp/eng/2009/021009.pdf
23)リーディング・グループの Web サイト http://www.leadinggroup.org/rubrique69.html
124
第 4 章 世界経済危機に関連する資金調達と配分
5.危機後
2007 ∼ 2009 年の世界金融危機は頂点を過ぎたかもしれないが、それは初
めての深刻な国際金融問題ではなく、従って、十分な知識を持つ関係者は、
それが最後であるとは考えない。この危機が本当に終わったとき、大恐慌
後最悪であった今回の世界金融危機は、開発援助の資金調達メカニズムと
配分に対し、どのような影響を残すのであろうか。これは重要かつ正当な
検討事項というだけでなく、幅広い機関で働く開発経済学者にとって、興
味深い問題でもある。これについては数々の考察が、また初歩的ではある
が計画さえ存在する。ノーベル経済学賞を受賞した Michael Spence が議
長 を 務 め る ス ペ ン ス 委 員 会 は、 こ の 件 に 関 す る 特 別 報 告 書 を 作 成 し
(Commission on Growth and Development 2009)、その中で、金融システ
ムの失敗が、それよりも広義の市場指向型資本主義システムの失敗をも意
味するのかという問題に注目している。
景気後退が重症であったため、対策は概して短期であり、目前の状況が
さらに悪化しないよう、あるいは手の施しようのない状態にならないよう
にすることが狙いであった。貧困途上国にとり、それは被害を最小限に食
い止め、被害の継続を防ぐことを意味した。しかし、関係者全員が推奨す
るのは、目前の危機を食い止めたと確信できた時点で、再発を防ぐための
長期対策を見つけることである。
国連のバン事務総長は、経済的打撃を回避するための早期警報システム、
GIVAS の重要性を強調した。Voices of the Vulnerable:the Economic Crisis
from the Ground Up(UN 2009b)という関連報告書の発表にあたり、バン
事務総長は「正しい政策対応を施すには、現場で何が起きているのかをリ
アルタイムで把握しなければならない」と述べた。
危機は米国発、西欧の先進国が誘発し、また、主な新興経済圏は終始持
ちこたえたように見えたため、考察と計画の大半は、確立された国際的権
力、すなわち G8、世銀、IMF の間の取り決めをめぐる改革に焦点を絞っ
ている。世界経済のバランスを仕切り直し、政策決定の場での権力を再配
分することが求められている。
125
未然に防ぐことは不可能であると仮定すると、次の危機に対処するため
には、共通した協力の枠組みが根本的に重要であると一般に考えられてい
る。2009 年 4 月の国連総会では、経済危機と取り組むだけでなく、回復
を加速しかつ貧困層や環境に配慮したグローバル化を実現するような枠組
みを設立すべきであることが合意された(A/RES/63/303)。UNDP のヘ
レン・クラーク総裁は、2009 年 9 月の講演で、それを実現するために改
善が必要な部分について説明した(UNDP 2009)
。
• 重点分野において効果が証明されたイニシアティブの加速と規模
の拡大
• 堅実な公共投資、制度強化、良い統治、効果的な社会経済政策へ
の支援
• 貿易と技術移転に加え、気候変動の緩和、低炭素成長計画、長期
的な人間開発を持続するための適応を支える国際的枠組みの創設
• ODA、債務救済、革新的取り組み、新しい資金調達手段を含め、
十分で予測可能かつ協調的な開発資金調達の確保
そのような枠組みへの動きは何年も前に始まっていた。2002 年の開発
資金(FfD)会議の成果文書である『モントレー合意』24)の会議前原案で
は、次のように強調されていた。「国際経済に関する意思決定および基準
設定において、途上国と移行経済国の参加を拡大し強化する必要性を我々
は強調する」{62 項}。「最優先課題は、途上国と移行経済国が有効的に国
際的対話と意思決定プロセスに参加できるような、現実的で革新的な方法
を見つけることである」(ブレトンウッズ機関における意思決定への参加
をも含む){63 項}
。
この傾向は年次 G8 サミットの多くの拡大会合などから明らかであった
が、経済危機における明瞭なグローバル化の要素により、その勢いが加速
された。2009 年 9 月 24 ∼ 25 日にピッツバーグで開催された会議において、
G8 を含む G20 は、「国際経済協力の主要な議論の場」として、G20 が G8
に取って代わることを宣言した(G–20 2009b)。G20 は、活発な新興市場
★下線用12文字分ダミー★
24)文書の日付は 2002 年 3 月 1 日であるが、会議の日付は 2002 年 3 月 11 ∼ 22 日である。
以下ではすでにアクセス不可能かもしれない。http://www.un.org/esa/ffd/Monterrey-Consensus-excepts-aconf198_11.pdf
126
第 4 章 世界経済危機に関連する資金調達と配分
と途上国の IMF クォータ(出資割当額)のシェアを変更し、欧州など代
表権の多すぎる国々から代表権の少なすぎる国々に、最低 5 %を移行する
ことを約束した。同様に、代表権の少なすぎる国々のために、投票権を最
低 3 %引き上げる「世銀における変化適応する(ダイナミック)方式を採
用すること」を求めた。
G20 首脳は、すでに実施あるいは承認した行動が与える影響に対して満
足の意を表明したが、現状に満足してはならないことも認識していた。首
脳らは「強力で持続可能な均衡の取れた成長のための枠組み」を採択し
(G–20 2009b)、21 世紀に必要な政策の採用を誓った。トルコのイスタン
ブールで開催された世銀/ IMF 年次総会に先立ち、9 月 28 日に行った政
策に関する演説で、ロバート・ゼーリック世銀総裁は、「均衡の取れた世
界の成長と経済的安定を促進し、気候変動を防ぐための世界的努力を支援
し、最貧困層のための機会を拡大する」「責任あるグローバル化」を構築
するために、多国間システムを作り直す必要があると述べた(Zoellick
2009b)。ゼーリック総裁は責任あるグローバル化の特徴として、以下の
項目をあげた。
• 「今日の解決策、明日の進歩、未来の繁栄の鍵を握る存在」として
の途上国の新たな役割
• 均衡がとれ、全ての国が参加する世界経済における成長の多極化
• 持続可能な成長の約束
• 食糧安全保障、燃料の確保、財政的安定を含め、最も脆弱な人々
を保護するメカニズム
25)
世銀は卓越した開発機関として、以下の 4 点の「推進要素」 を通じ、
責任あるグローバル化に取り組む予定である。
• 従来型および革新的な開発資金調達
• 情報、研究などの普及
• 地球公共財に関する検討課題
• 将来の危機に対する事前の備え
★下線用12文字分ダミー★
25)ゼーリック総裁は、一般増資を行わない限り、世銀が深刻な重荷を背負うことになる
と断言した(20 年間で初めて)
。
127
6.結論
「世界経済金融危機」は最富裕国で始まり、新興経済圏に進み、最終的に
最貧国まで達した。影響力のある諸方面から、根本的で革新的な行動の必
要性が訴えられたが、状況に対する対応のほとんどは、信用流動性の確保、
すでに交された約束の実現、そして既存の手段とプログラムの強化に集中
していた。残念ながら現実には、革新的な対策はほとんど講じられなかっ
た。
開発援助活動に関しては、以下の 2 点にまとめることができる。
(1)
貧困国への関心は、それらの国々が存続できるよう援助することに
集中し、一方、中核的な問題との取り組みは、それらの問題が発生
した国々で行われた。
(2)
開発援助機関と経済学者は、既存および構想されたプログラムと戦
略を支える形で、安定化と維持のための対策の強化に努めた。
危機は世界経済の基礎構造における弱点を浮き彫りにし、国連の監督下
で「警報システム」を、また、世銀の「脆弱国向け枠組み」のようなより
特化したシステムを設置する動きを促した。危機の影響は不均一に及んだ
が、それを完全に免れることができたといえる地域や国は存在しない。さ
らに、国連が指摘したように、当初の楽観的な予想に反し、いかなる種類
の衝撃に対しても最も脆弱な途上国が、不釣り合いに深刻な影響を受ける
結果となった。脆弱性は、低い開発レベルの一側面とさえいえそうである。
貧困国の苦難に対する対応は、主に次の 3 項目に沿って進められた。
• すでに結ばれた約束は勿論、むしろそれ以上の内容を確約するこ
と
• 貧困国への影響を緩和することに特化した新たな対策を立案・実
施すること
• 将来、同様の事態を回避するため、あるいはそれが不可能な場合
は、迅速かつ効果的で十分に練られた対策を行うために、あらゆる
関係者を巻き込んだ世界的枠組みを構築すること
128
第 4 章 世界経済危機に関連する資金調達と配分
国際社会が問題提起し分析した経済・経済開発面の懸念以外に、世界経
済危機は、世界貿易機関(WTO)のドーハ・ラウンド貿易交渉、気候変
動、主要多国間機関の統治構造の改革といった一連の注目度の高い国際問
題に世界の関心を集めたという役割も果たした。ピーターソン国際経済研
究所の Edwin M. Truman は、その点を次のように解説している(Truman
2009)
。
今回の危機による広義の教訓は、貿易、金融、労働力のグローバル化
が、1900 年代初期以降の約 1 世紀の間よりもはるかに強く諸国を結
びつけたということであり、この現実が過小評価されていた。その結
果、今日の世界では、世界経済または金融システム内で主要な役割を
果たす国または国の集団に影響を与えるいかなる危機も、ほとんどの
場合、他の国々に何らかの悪い影響を与える。従って、大小問わずあ
らゆる国の市民と政府は、他の国々、特に全体に影響力の強い国々の
経済金融政策に対して、利害を共有しているといえる。
129
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