日本建築学会 2004年度 北海道大会 発表論文

文章情報学習と地図情報学習について
-都市街路空間における初期教示別探索行動の特性に関する研究
経路探索
概念的
1.研究目的
都市街路空間
文章
その2-
正会員
同
同
学習
地図
○小田達也*
金森主計**
赤木徹也***
の文章情報で求める図形)の等価性が認められた。よって
この文章情報から、少なくともこちらの意図した略図を、
習と地図学習という学習方式を概念的情報学習と位置づけ、 文章を見ながら同一な図形として描写することが可能であ
ることが言える。
これらの情報学習が都市街路空間の把握に与える影響を検
(3)まとめ
討するものである。この結果に基づいて、都市空間を計画
以上のことから、これらの文章は本実験で使用する地
する際の基礎的知見を得ることを目的とする。本研究は
図情報と等価性のある文章情報であると判断する。
[Ⅰ]予備実験(文章情報と地図情報の持つ情報量の等価
本研究は、経路探索実験における初期学習として文章学
性の検証)と、[Ⅱ]本実験(概念的情報学習を行った被
験者の街路空間における Wayfinding 実験)からなる。
2.研究結果
[Ⅰ]予備実験(文章情報と地図情報の等価性の検証)
(1)実験概要
2種類の異なる初期学習を行った被験者に対して
Wayfinding 実験を行う際、両学習の情報量を近似にする
必要がある。実験A・B・Cを試み両情報の等価性を検証
し、本実験で使用する文章情報の作成を試みる。図-1に
予備実験概要、図-2に使用する地図情報を示す。
(2)実験結果と考察
実験A:被験者に地図情報を 10・20・30 秒と時間制限別
に見せ、記憶した図形情報を描写させた。表-1に実験結
果の概要を示す。10/12 人の被験者が、まず「START」と
「GOAL」を記入し、それらを通る外周の街路を描写した。
次に、その内側に存在する街路・建物等に対する描写を行
っている。街路の本数に関する描写はされているが、その
幅員・長さに関しての描写はほとんどされていない。建物
に関する描写は、時間制限が長いほど少なくなっていた。
また、時間制限が短いと、建物の位置や数が正確ではなか
った。これらのことから、
「START」
「GOAL」
「街路」が注視
されている情報であることが認められる。加えて、20 秒
という時間制限は、全ての図形情報において最も多くの情
報が描写されていることが認められる。これらの結果を基
に地図情報を略図化した。この略図を図-3に示す。
実験B:作成した略図を被験者に見せ、その図形情報を文
章記述してもらう。それらを被験者に対して複数回試み、
文章の選択・補正を行った上で、最終的な文章情報を決定
した。その結果を表-2に示す。なお、街路は丹羽 1)の略
図作成に関する研究に従い「上位」と「下位」の階層に分
類する。また、小林 2)のいう言語特性である「線条性」を
抑えるため、文章情報を要素別に放射状のレイアウトとし
た。このレイアウトを図-4に示す。
実験C:最終的に、本実験用として作成した文章情報から
図形を描写させた結果 86%(実際に描写された図形/U~K
実験 A
a 1~a 12 計 12 名
被験者数
被験者属性
図-1
実験 B
b 1~b 12 計 12 名
概ね、20 代前半の大学生
予備実験概要
図-3
図-2 地図情報
表-1 実験 A の結果概要表
時間制限
被験者
領域特定
外周(縁)
外周(形)
実験 C
c 1~c 12 計 12 名
10秒
a2
●
a1
●
4辺
四角
略図
20秒
a3
●
3辺
扇形
なし
不規則に点在
建物
建物の隙間として
内部街路
なし
内部特徴 十字街路
a1
外部迂回路
a4
●
a5
●
4辺
四角
なし
a6
●
台形
あり
a7
a8
なし
なし
2辺
四角
a9
●
3辺
なし
a10
●
四角
なし
30秒
a11
●
4辺
台形
a12
●
四角
あり
街路沿い
なし
なし
特徴的な格子状街路構成
均一的な格子状街路構成
十字に密 中央密 なし 十字に密 隅空白 中央密
中央空白
なし
a4
a7
a10
街路沿い
事例
表-2
情報
記号
U
D
S
G
H
K
文章情報
情報
区分
文章情報
上位層の ・大きく四角に走る道、その内側には縦2本、横2本の交差して走る道。・
街路情報 縦と横に走る道の交差により四角状に走る道の内側は9つの区画に分割。た
だし、中央の区画の左辺部分の道は切断。
・9つに分割された区画のうち、隅の4つ以外の5つの区画は、それぞれ十
下位層の 字に走る道により更に4つに分割。・9つに分割された区画のうち、右上隅
街路情報 の区画は縦に走る道により、左右2つに分割。・2つに分割された左辺部分
は横に走る道により更に上下2つに分割。
START
の情報 ・スタートは右下の角。
D
GOAL
G
の情報 ・ゴールは左上の角。
方位 ・スタート地点からみて、ゴー
情報 ル地点の方向は南。
H
K
距離 ・スタート地点からゴール地点
で 、 直 線 距 離 な らば 7 5 0
情報 ま
S
m。
図-4
A sentence and map information instruction
-Study on characteristic of wayfinding according to initial instruction in urban street space. No2-
レイアウト図
U
ODA Tatsuya*
KANAMORI Kazue**, AKAGI Tetsuya***
[Ⅱ]概念的情報学習者による Wayfinding 実験
(1)実験概要
図-5に実験概要を示す。なお、被験者は予備実験の被
験者を含まず、実験地区への来訪経験のない 20 代前半の
地図学習者
文章学習者
図-6
大学生で、初期学習として文章学習を行った 8 名(L1~L8)
歩行軌跡
と、地図学習を行った 6 名(M1~M6)である。
(2)実験結果と考察
行動観察法:図-6に歩行軌跡分布を示す。文章学習者は
START から GOAL に向かい、外周に沿った歩行、地図学習
者は中央を横切る商店街に誘引される歩行軌跡を描く。こ
の結果、文章学習者は歩行中の環境よりも初期学習による
概念図を優先し、地図学習者は実際の環境から得られる情
報を優先する傾向にあると考えられる。
スケッチマップ法・写真判別法:図-7に両属性の描画事
例を示す。表-3より、文章学習者はスケッチマップを概
念図全体から描き始めるのに対し、地図学習者には広域を
描画する傾向は見られない。つまり、文章情報が地図情報
よりも鮮明に記憶され、スケッチマップにも影響を与える
といえる。また、表-4より、両属性共に描画交差点正解
率が高い者は、写真判別表記エレメント数が多く、写真判
別正解率も高いため、正確に街路空間を把握できていると
いえる。全体的に文章学習者より、地図学習者の方が正確
な描写をしている。
各交差点において写真判別正解率を図-8、表記エレ
メント数を図-9に示す。写真判別正解率は街区中央を横
切る商店街において文章学習者は 0%、地図学習者は 100%
である。環境を構成する要素数が増えると文章学習者は記
憶が不正確になるのに対し、地図学習者は正確に記憶する。
また、両属性共に各々が重要視したと考えられる交差点ほ
ど正解率が高い。表記エレメント数は、START と GOAL を
重要視した文章学習者だけが両地点で多数の表記を行い、
地図学習者は街路構成全体を基準とするため表記がなされ
なかったと考えられる。表記エレメントの内容は、両属性
共、初期学習では学習できなかった事象を印象深いものと
して挙げ、概念図と実空間との差異に比例して環境が印象
深く捉えられ記憶されるものと考えられる。
(3)まとめ
表-5は本実験の結果をまとめたものである。環境は両
学習者の街路歩行に影響を与える。それは、概念図と実空
間との差異が著しいほど、かつ、重要視する場所が多いほ
ど強くなる。文章学習者は概念図に環境を適応させようと
するため、全てが概念図の学習程度に左右され、通過経路
の記憶も不正確で、個人差も大きくなる。これに対し、地
図学習者は、環境を正確に記憶・分析して、随時、直面す
る環境に概念図を適応させる。その影響は通過経路の正確
地図学習者
文章学習者
図-5
表-3
本実験の概要
スケッチマップ描画手順
上位層
下位層
START・GOAL
方位
距離
公園・建物
進行経路
その他
表-4
記号 順序
U
1
D
2
S
3
H
4
K
5
B
6
P
7
F
8
L8
U
H
S
U
P
D
B
L3
U
D
B
S
D
P
B
L2
U
D
B
S
B
L6
U
S
P
B
L7
P
S
B
L5
S
P
S
B
F
L4
P
S
F
B
描画事例
M1
U
S
P
S
D
B
F
M2
S
P
S
B
F
M3
S
P
S
UD
B
F
M4
P
B
S
B
F
M5
P
B
S
P
B
F
スケッチマップ法
行動観察
描画特徴
交差点
距離誤差
角度誤差 歩行経路
正解率 紙の向き 図の大小 道幅表記 描写範囲 直線距離 歩行距離
L4 100%
斜め
過小
2重2種 狭範囲
-15
217
-9 外周
L1 75%
縦
過小
単線2種 広範囲
-15
209
8 内部
L3 67%
横
適正
単線1種 狭範囲
735
887
7 内部
L8 55%
横
適正
単線2種 広範囲
-65
209
10.5 内部
L5 50%
横
適正
単線1種 広範囲
-15
215
0.5 外周
L7 44%
横
適正
単線1種 広範囲
735
1187
6.5 内部
L6 30%
横
不適正 単線1種 狭範囲
-15
-11
5 内部
L2 8%
横
適正
2重1種 広範囲
235 計測不能
-11 内部
54%
198
416
2
M2 89%
横
適正
単線1種 広範囲
-165
-200
1.5 内部
M3 89%
横
過小
2重1種 狭範囲
35
-50
3 内部
M1 82%
横
適正
単線1種 狭範囲
-265
-100
14 内部
M5 55%
横
適正
2重1種 狭範囲
35
-50
3 内部
M4 42%
横
過小
2重1種 狭範囲
-515
-895
-6.5 内部
M6 33%
横
不適正 2重1種 狭範囲
235
-88
16 内部
65%
-107
-231
5
文章学習者
地図学習者
図-8
写真判別正解率
地図学習者
図-9
文章学習者
表記エレメント数
地図学習者と文章学習者の特徴比較
実験方法 分析項目
行動観察
歩行軌跡
法
描画特徴
実験結果
影響と特性
地図
文章
街路歩行中、環境から受ける影響大
商店街沿い
外周沿い
環境優先の経路選択
概念図優先の経路選択
歩行経路周辺 街区全体
歩行空間環境の影響大
概念図の影響大
狭域詳細描画 広域単純描画 初期学習の影響、個人差小 初期学習の影響、個人差大
正確な記憶
不正確な記憶
高い
低い
一見による、まとまった記憶 階層的な、連続した記憶
大きい
小さい
横長街区を学習
正方形街区を学習
適正(やや短) 不適正(長い)
距離を意識せず
距離を意識する
地図
文章
スケッチ 交差点正
マップ法
解率
角度誤差
距離誤差
交差点正
100%
0%
多見→多記憶
多見→少記憶
写真判別 解率
法
概念図構成は全体街路基準 概念図構成はSG基準
表記エレ
重要視するほど記憶
初期教示から学習出来てない事象が印象的
メント 印象深い交差点ほど多表記
な記憶としてだけでなく、経路探索行動としても表れ、個
引用文献
人差も少ないといえる。
,1992
1)丹羽寿男:知識情報処理による地図情報システムと文字認識後処理に関する研究,学位論文(名古屋大学)
2) 小林英夫(訳):一般言語学講議, 岩波書店, 1940
*
フリー
M6
P
S
B
F
スケッチマップを中心とした被験者別データ
写真判別法
実験方法
表記エレ
(項目)
正解率
メント数
L4 100% L4 27個
L8 100% L1 23個
L3 75% L8 21個
文章情報 L1 54% L6 20個
学習者 L7 50% L3 19個
L2 50% L2 15個
L5 30% L7 11個
L6 19% L5 10個
文章平均
60%
18個
M3 100% M3 23個
M1 91% M2 20個
地図情報 M5 91% M5 16個
学習者 M2 82% M1 13個
M4 73% M4 12個
M6 25% M6 7個
地図平均
77%
15個
表-5
L1
U
S
D
P
D
B
図-7
*
Free-lance
** 工学院大学大学院工学研究科・大学院生
**
Graduate Student, Graduate School of Engineering, Kogakuin Univ.
*** 工学院大学工学部建築学科・助教授・博士(工学)
*** Assoc. Prof., Dept. of Architecture, Faculty of Engineering, Kogakuin Univ., Dr. Eng.