日本 IBMコーポレート・レスポンシビリティー・レポート 2011

IBM Corporate Responsibility Report
日本 IBMコーポレート・レスポンシビリティー・レポート2011
2 0 1 1 年 、創 立 1 0 0 周 年を迎えた I B M 。
その歴 史は、不 断 のイノベ ーションだったと
言っても過 言ではありませ ん。
次の 1 0 0 年に向けて、これからも私 たちは社 会とともに歩み 、
「世界に価 値あるイノベ ーション」の 実 現を目指していきます。
表紙の凧の中にある写真は、2010 年 12 月に IBM が発表した「IBM Next 5 in 5」
( 今後 5 年間で人々
の生 活を一 変させる 5 つのイノベーション)のイメージを表したものです。2006 年の発 表 以 来
5 回目となる今回は、次の 5 つの未来を展望しました。
空気を利用して携帯機器に動力を供給するバッテリー
私たちが呼吸している空気との反応を利用する、現在よりもはるかに長持ち
し、軽量でパワフルな充電式の電池が実現します。
私にぴったりのマイ・ルート
先進の解析技術が、一人ひとりに最適化されたルート情報を、状況に応じて
柔軟に素早く提供します。
あなたも地球を救う市民科学者
誰もが持つ携帯電話や財布に組み込まれたカメラやセンサーから、いつでも
どこでも、リアルタイムで研究に役立つ貴重なデータを送れるようになります。
友人との通信も 3D で
携帯電話やインターネットのチャットを使った友人との双方向通信が、ホログ
ラム( 3 次元立体画像)かつリアルタイムで行えるようになります。
コンピューターを都市生活のエネルギー源に
新しく開発される冷却技術が、コンピューターから放出される熱エネルギーを
効率的にリサイクルし、オフィスや家庭に提供します。
Contents
〈社長と社員の対話〉
「社会に貢献する真に価値ある企業とは?
次の100 年に向けた共創と実践」…………………………………… 02
日本 IBM の CSR について ……………………………………………………… 06
〈特集〉
Smarter Planet の進化と深化
今起きつつある変化
…………………… 08
~スマーター・プラネットは“現実”のものに~
Smarter Planet 事例
……………………………………………………… 12
人命と地球環境を守る、スマートなシップリサイクルの実現に向けて
── 一般財団法人日本海事協会
ステークホルダーとともに、都市の未来を賢く描く
── SmarterCities フォーラム
一人ひとりの“健幸”を増進し、スマート・ウェルネス・シティーの創造に挑む
── 株式会社つくばウエルネスリサーチ
実現を支えるテクノロジー ………………………………………………… 18
複雑で大量なデータをリアルタイムで分析し、迅速で効果的な意思決定へ
── IBM の質問応答システム、Wa tson
距離と時間の壁を越えて世界中のメンバーが一つのチームに
── グローバルなコラボレーションを可能にするソフトウェア
お客様とともに、付加価値の高いソリューションを世界へ
── スマーター・プラネットの実現にグローバルな役割を担う大和研究所
編集方針
◦ IBM はグローバルにさまざま
な CSR 活動を推進しています。
その全体の内容は、IBMコー
ポレーションが毎年発行する
レポートで包括的に紹介され
ています。
◦ この日 本 IBM の 2011 年 版レ
ポートは、その中でも特に日
本 IBM の活動に焦点を当てた
ものです。
◦ とりわけ今 回は、IBM の事 業
である情報技術( IT )の提供を
通して価値を創造し、社会に
貢献する取り組みを中心にま
とめています。
◦ 当報告書に記載されている内
容 は 2010 年 の 事 象 で す が、
一部、2011 年 6 月までのもの
を含んでいます。
社会とともに …………………………………………………………………… 22
IBM コーポレーション創立 100 周年にあたり / IBM プロボノ・プロジェクト /
クラウドによる NPO・NGO のコラボレーション支援 / 誰もが参加できる情報化社会を目指して / 幼・小・中教育支援 / ヤング天城会議 / 大学との連携・支援 / 日本 IBM 科学賞 /
IBM ユーザー研究会 / 天城エグゼクティブ・プログラム
社員とともに …………………………………………………………………… 30
IBM が進める多様性とその受容 / こがも保育園 / IBM 海外支援チーム( CSC )
環境への取り組み …………………………………………………………… 33
環境配慮製品・環境ソリューション/環境マネジメント・システム / 地球環境保全への取り組み
経営の基盤 ……………………………………………………………………… 35
リスク・マネジメントと事業継続 / ビジネス・インテグリティーの取り組み / 情報セキュリティー /
プライバシー(個人情報の取り扱い)
東日本大震災からの復旧・復興へのご支援について
会社概況・案内
創立 100 周年を迎えた IBM 、
良き企業市民としての伝統のもとに
技術の面白さを伝えるボランティアに参加しています。
森 : 私は昨年、将来の日本を担う世代である高校生を
集め、グローバルに活躍するために何をすべきかを議
橋本 : 2011 年、IBM コーポレーションは創立 100 周年
論するための会合「ヤング天城会議 * 4」を企画し、実施
を迎えました。また来年は、日本 IBM が創立 75 周年を
しました。これまでに天城会議をはじめとする有識者会
迎えます。「良き企業市民」であることは創立以来の伝
議の開催を会社が長年ご支援してきた経験を生かし、
統として現在も受け継いできた理念ですが、皆さんは
成功裏に終了することができました。大切なのは、どの
それをどのように実感していますか。
時代においても「IBM ならではの特長は何か。それを生
勝 見 : 昨 年、全 社 横 断 的な活 動にかかわった 中 で、
かして、社会のために何ができるかを真剣に考えるこ
IBM の社 会 貢 献 活 動について知る機 会がありました。
と」だと実感しました。
従来の小中学校向けの教育支援だけでなく、IBM 海外
山下 : 日本 IBM は“誰もが生き生きと働ける企業”を目
支援チーム * やプロボノ* ・プロジェクトといった新しい
指し、他社に先駆けて障がい者雇用や男女同一賃金を
取り組みをスタートさせている点に、IBMらしさを感じま
実現してきました。現在では、仕事と生活それぞれの
す。私自身は「ロボラボ * 3」という、子どもたちに科学
充実を図るワーク・ライフ・バランスや、国籍や信条の
1
2
社 長と社 員 の 対 話
社会 に貢献する真 に価値 ある企業とは?
次 の 100 年 に向 けた 共創と実践
「イノベーター(Innovator;変革者)」であり続けること、そして「良き企業市民」であることは、
創立以来 100 年間、IBM が変わることなく受け継いできた理念です。
本業を通じた社会への貢献が求められる今、次の 100 年に向けた
「世界に価値あるイノベーション」について、社長の橋本と4 名の社員が意見を交わしました。
橋本 孝之
黒川 亮
勝見 啓子
森 直之
山下 めぐみ
2
日本アイ・ビー・エム株式会社 代表取締役社長
営業.金融第二事業部.第二営業部
グローバル・テクノロジー・サービス事業(GTS).SO 事業部.金融 CS.第四クライアント・サービス
グローバル・ビジネス・サービス事業(GBS).GID 推進
営業.保険事業.第一事業部.第三営業部
IBM Corporate Responsibility Report 2011
異なる社員の活躍を支援するマルチカルチャーなど、
中心に社員の参画が進んでいるのを心強く思います。
職場ではごく当然のこととして皆が受け止めています。
森 : 阪神淡路大震災の時、大学生だった私は、現地に
このような幅広いダイバーシティー(多様性)の取り組
赴き避難所の情報収集を支援しました。今回は 2 児の父
みを経営戦略の柱に組み込み実践していることに、
「良
となり守るべき家族もいる中で、まずできることから始
き企業市民」としての姿勢と伝統を実感します。
めようと考えました。子どもたちに被災地の様子や困っ
黒川 :コンビニ ATM のように IBM がご支援した世界初、
ている人たちをどうやって助けられるかを説明し、寄付
日本 発 信 の I T サービスが自分 の 家 族 や 地 域コミュニ
をしたり節電を心掛けることについて対話をしました。
ティーに浸透しており、IBM のソリューションが社会に
勝見 : 被災地支援策を討議する社内の電子掲示板な
役立っていることを実感します。また、今回の東日本大
どを見て、被災された方々の力になりたいと思ってい
震災を経て、IT が社会インフラとして果たしている役割
る社員がたくさんいることを知りました。私の場合、担
の大きさを痛感しました。IBM 自身の変革、そしてその
当しているお客様が被災されたため、数日間プロジェク
経験を通じたお客様への変革のご提案によって、さらに
トルームに待機し、状況把握に努めました。
社会に貢献できるのではないかと考えています。
黒川 : 私は営 業としてお客 様の金 融サービスの復 旧
橋本 : それぞれに自分のものとして実感していること
チームを組織する立場にいたのですが、皆が迅速に行
をうれしく思います。とはいえ、
「良き企業市民」となる
動したことに驚かされました。お客様のシステムの被
ために、言葉だけではなく、会社や社員自らがいかに
災状況の確認と復旧作業のために、エンジニアは地震
行 動 するかが大切です。3 月 11 日には、日本にとって
発生当日に福島や仙台に入りました。中には別のお客
大変痛ましい出来事となる、東日本大震災が発生しま
様のご了解を得て、北海道から駆けつけてくれた人も
した。企業として、そして市民として、対応しなければ
いました。自発的に東京から仙台まで向かった IBM パー
ならないことがたくさんあると思います。
トナー様もおられ、また社内のマネジメントは 24 時間現
山下 : 震災直後に社内で呼び掛けられた義援金募集
地の作業をサポートする態勢を整えていました。こうし
や、被災地の子どもたちに本や文房具を届ける支援活
た緊急時におけるメンバーのさまざまな行動に感銘を
動に参加しました。また、創立 100 周年の今年は、全世
受けました。
界の IBM 社員が一人 8 時間以上の社会貢献活動をとい
橋本 : 社員やパートナー様からは、お客様のシステム
う取り組みが始まっていますが、日本では被災地支援を
を保護したいという強い気持ちを感じました。私自身も
それを誇りに思いますし、多くのお客様から感謝の言葉
をいただきました。
震 災 後のお客 様や被 災 地の皆 様 へのご 支 援 策も、
会社として迅速に発表しました。災害対策には「復旧」
「復興」そして「トランスフォーメーション」
( 将来へ向け
ての新たなまちづくり)という 3 つのフェーズがありま
す。まず被 害 状 況の把 握や最 低 限のシステムの稼 働
といった「復 旧」フェーズは、阪 神 淡 路 大 震 災 のとき
のノウハウに加えて、新型インフルエンザ対策での危
機対応手順が役立ちました。緊急時の社内態勢がきち
んと機能し、お客様や被災地の復旧フェーズをご支援
することができています。「復 興」フェーズは、Smart
Business Cloud など、最新の IT を使ってお客様のビジ
ネスや自治 体の活 動をご支 援していきます。加えて、
*1 IBM 海外支援チーム:Corporate Ser vice Corps( CSC )P.32 参照
*2 プロボノ:専門スキルを生かしたボランティア P.23 参照
*3 ロボラボ:エンジニアによるロボットを使った授業 P.25 参照
*4 ヤング天城会議:グローバル人材育成を目的とした高校生対象の会議 P.25 参照
社長と社員の対話
3
BCP(事業継続計画)や節電対策などもIBM がご支援で
きる分野です。「トランスフォーメーション」フェーズで
は、都市を持続可能なスマートな都市にしていくため、
日本 IBM だけでなく、グローバルな IBM の知見を生かし
た提案をして、実践へとつなげていこうとしています。
黒川 亮
(くろかわ りょう)
営業.金融第二事業部.第二営業部
企業の伝統と継続性を支えるもの、
変革を続ける力
不断のイノベーション、ステークホルダー
との価値の共創
森 : 実践できることの基盤にある「良き企業市民」とし
山下:全世界の IBM 社員の行動指針となっている IBMers
ての IBM の企業文化、その継続を支えているものは何
「私たち、そして世界
Value(IBM 社員の価値観)にも、
でしょうか。
に価値あるイノベーション」とあります。
橋本 : 2 つの大きな要素があります。1 つは「変えては
橋本 : IBM はおよそ 20 年に一度、自らの戦略を変え、
いけないもの」。もう1 つは「常に変え続ける力」。IBM
新たな挑戦を続け、常に新しい製品やサービスを市場
にとっての「変えてはいけないもの」とは、
「良き企業市
に提供してきました。例えば、PC は、誕生してからおよ
民たれ」
「 つねにイノベーターである」という理念です。
そ 30 年たった今では、一般化した存在ですが、生まれ
この確固たる軸足の上で、変化に対応し、アクションを
たときはイノベーティブな製品でした。そういう意味で、
実践し、変革を続けていくのです。この 2 つのバランス
コモディティー化しやすい IT の世界において、変革をし
をとり、うまく回ることで、企業は大きな原動力を得る
続けることには大きな意味があります。市場の変化より
ことができます。変えてはいけないものを明確に理解
も早く、自らが変わっていくのが IBM なのです。
し、それ以外はすべて変えていく。この DNA が根付い
黒川 : IBM がイノベーターとして力を発揮し、お客様、
ているかどうかが非常に重要です。
そして社会の進化に貢献するというビジョンとして発表
勝 見 :「 つ ねにイノベ ーター で ある」という理 念 は、
されたのが、Smarter Planet だと理解しています。
YouTube で公開されている IBM 創立 100 周年を紹介す
橋本 :IBM は IT を使って企業や社会の変革を支援して
る動画「 100×100 」をみると、IBM が行ってきたさまざ
きました。バックオフィスの合理化や、インターネットを
まな変革が紹介されており、よくわかりました。
活用した e-business などが挙げられます。しかし世の
橋本 : IBMコーポレーションの歴史は、まさに変革の歴
中を見ると、IT が役立つさらに大きな領域があるという
史です。創業時のはかりや統計機に始まり、時代の変
ことですね。交通渋滞、食のサプライチェーン、電力
遷に合わせてコンピューターに変わり、それも真空管か
送電網、ヘルスケアなど、IT でもっともっと効率化でき、
らトランジスター、半導体、大規模な集積力を持つシス
地球規模の課題の解決に貢献できます。テクノロジー
テムへと進化し、そして現在のソフトウェアとサービス
も進化しています。次の 20 年は IT の適用範囲がさらに
も合わせた情報システムに至っています。一方、こうし
広がり、IT がライフラインになり、持続可能な地球をつ
た企業活動の基盤となる変革の DNA は何も変わってい
くるための強力なツールになってくると思います。非常
ません。
に夢のある話ですね。
森 : そうなると、橋本さんが強調される「価値の共創」
という意味でも、社会との接点がますます重要です。企
業のお客様はもちろん、政府や自治体、NPO や NGO な
ども交えて力を合わせ、価値を創造していかなければ、
大きな課題を解決していくことは難しいと思います。
橋本 : まさに、そのとおりです。IT の会社として、NPO
や NGO を含めた新しい組織、新しい人たちと協業し価
山下 めぐみ
(やました めぐみ)
営業.保険事業.第一事業部.第三営業部
4
IBM Corporate Responsibility Report 2011
値を創造していくことが非常に重要だと思います。
勝見 啓子
(かつみ けいこ)
グローバル・テクノロジー・サービス事業(GTS).
SO事業部. 金融CS.
第四クライアント・サービス
社会に貢献する真に価値ある企業とは?
橋本 孝之
(はしもと たかゆき)
日本アイ・ビー・エム株式会社
代表取締役社長
いて、理 解を深めてもらえたと思います。では、次の
100 年に向けて、皆さんがこれから何をどう実践してい
勝見 : 課題が広く社会や経済の領域にわたる場合、ビ
こうと考えているか、聞かせもらえますか。
ジネスと社会への貢献とがより不可分になってくると強
勝見 :まだ挑戦したことのない社会貢献活動に積極的
く感じます。本業と一体となった CSR が重視される理由
に参加したいと思います。もっと周りの人にも参加して
がそこにあるのでしょうか。
もらえるようにプログラムを工夫する活動もしていきた
橋本 : CSR には 3 つの要素があります。1 つは経営の信
いです。本業を通しても、その他でも、IBMer としてで
頼の基盤となる法令遵守、コンプライアンスなどです。
きることを実践していきたいと考えています。
2 つ目はボランティア活動など、本業とは必ずしも直結
森 : ワークライフ・インテグレーション * 5を大切にしま
しない、企業として行う社会貢献活動。そして最も力を
す。これからの社会に必要なものを考えるときに、その
発揮できるのは、3 つ目の本業を生かした活動です。本
ヒントは必ず私たちの生活にあるからです。そのために
業であれば、一人の社員が支援活動をしたときに、そ
も引き続き、地域のコミュニティーへの参画や、子ども
の背後にある企業の真の力をより発揮できます。
たちの夢、妻や祖父母、両親の話、友人の話に耳を傾
山下 : 一人の力ではできないことでも、会社としてで
け、未来を考えます。
きることがあること、また IBM だけの力ではなく、さま
山下 : 次の 100 年も想像をはるかに超える変化に富ん
ざまなステークホルダーの皆様と力を合わせての価値
だ時 代がやってくると思いますが、これまで以上に人
の創造が大切なのは、私自身のこれまでの経験からも
のつながりを大切にし、仕事を通じて社会に貢献したい
感じるところです。
と思います。具体的には、新たに生み出される商品や
森:CSR を実践する根底には IBMers Value があります。
サービスで、お客様自身が社会をより良い方向に変え
この IBMers Value も、会社から与えられたものではな
ていくことにつながるようなご支援やご提案をしていき
く、世界中の社員たちが意見を交わしてできたもので
たいと思います。
す。私たち社員一人ひとりが納得し実感できるものとし
黒川 : 自分よりも若い社員に IBM の DNA を伝えていき
て共有されていることが素晴らしいと感じています。
たいと思います。ビジネスの世界では、自らの事業に
ついてとことん考え尽くした方々と IBM が知恵を出し合
次の 100 年に向けて、
その第一歩となる私たち一人ひとりの実践
うことでイノベーションが生まれてきました。お客様以
上にお客様の成功を考え尽くす IBM の価値観を、若い
人たちと体現していきたいと思います。
橋本 : IBM の CSR の考え方、
「良き企業市民たれ」につ
橋本 : 重要なのはお客様、そして社会に価値を認めら
れるということ、その価値とは何なのかを常に考えてい
くことです。そのベースとして「良き企業市民」であり
「 変 革し続ける」ことがあるわけで す。なぜ 地 球 上に
IBM が、日本に日本 IBM が存在するのかを問い続ける
こと、CSR とはまさにそういうことです。一言で言うと
「生き様」です。社長としてそう認識しているし、皆さん
にも是非そういう気持ちで頑張ってほしいと思います。
森 直之
(もり なおゆき)
グローバル・ビジネス・サービス事業(GBS)
. GID推進
社員 4 名:私たちも、同じ気持ちで頑張ります。
*5 ワークライフ・インテグレーション:仕事と個人生活の調和
社長と社員の対話
5
日本 IBM の CSR について
100 年 の 歴史を持 つ IBM の CSR
IBM の創 立 者であるトーマス・J・ワトソン Sr. の言 葉「良き企 業 市 民であれ( IBM should be a good cor“ IBM は社会とともに発展していく”との強い思いが表れています。CSR に通じるその
porate citizen. )」には、
考えは、社内にしっかりと根付き、
「 良き企業市民」であることは創立以来の理念として受け継がれてきました。
そして、創立 100 年を迎える今日まで、CSR への取り組みは IBM の企業活動の大きな柱として存在し、時には、
社会の先頭に立つ先進的な取り組みを進めてきました。
下の数字の 100 をかたどったアイコンは、この 100 年間の IBM の主要な成果から 100 の事例を選んで作ら
れたものです。時代に先駆けた CSR の先進的な取り組みも選ばれています。
1914 年
障がいを持つ社員の雇用を始めました。
1954 年
1930 年に同じ職務を行う場合の男女の同一賃金を実現し、
米国公民権法制定の 11 年前の 1954 年に、
男女雇用機会均等を実現しました。
2005 年
世界で初めて、採用にあたって遺伝構造から
収集される情報による差別を行うことを禁止しました。
また、選ばれた 100 の事例の中には、日本 IBM が生んだイノベーションによって世界に大きな貢献を果たし
た事例も含まれています。例えば、1981 年にパーソナル・コンピューター時代の到来となった IBM PC が登場
し、その後、日本 IBM が開発したノート PC の ThinkPad が世界中の人々に使われるようになったことなどが挙
げられています。
1981 年に IBM PC が登場
日本 IBM が世界に向けて開発した ThinkPad*
* 写真は 2003 年に発表されたモデル。ThinkPad は現在レノボ( Lenovo )社の製品です。
IBMers Value(IBM 社員の 価値観)
世界の IBM グループ社員( IBMer )の行動指針となっているのが、
「 IBMers Value 」と呼ばれる共通の価値
観です。
◦お客様の成功に全力を尽くす
Dedication to every client's success.
◦ 私たち、そして世界に価値あるイノベーション
Innovation that matters for our company and the world.
◦あらゆる関係における信頼と一人ひとりの責任
Trust and personal responsibility in all relationships.
6
IBM Corporate Responsibility Report 2011
日本 IBM の CSR への 取り組 み
IBM の伝統は日本 IBM にも受け継がれ、2010 年 1 月に示された日本 IBM グループの新しいビジョンの中でも、
「良き企業市民」としての決意を明確に位置づけています。
IBM Japan Group New VISION
新たな価値をお客様と共創し、テクノロジー・リーダー、そして良き企業市民として、
日本の変革に地球視点で貢献するリーディング・カンパニー
Drive Japan's transformation from a global perspective through collaborative value creation
with our clients as a technology leader and a good corporate citizen.
◦ 社会とお客様の価値創造をリード
◦ 新たな変革を支えるテクノロジーをリード
◦ 良き企業市民としての社会的責任の遂行
Differentiate IBM by focusing on Client Value
Drive transformation through technology
Corporate Social Responsibility
創業からの IBM の伝統を受け継ぎ、全世界の IBMer と共通の価値観に立ち、そしてこのビジョンのもとで、
日本 IBM の CSR の取り組みが推進されています。
CSR の 考え方
日本 IBM では、CSR の取り組みを大きく次の 3 つの分野に分けて考えています。
1. 本業と一体となった社会への貢献
2. 社会の課題を解決する貢献活動
3. 信頼を確かなものとする経営の基盤
、あるいは
CSR を日本 語にした「企 業の社 会 的 責 任」は、コンプライアンスや企 業 倫 理の実 践(上 記の 3 )
IBM が力を入れている教育界や学界、NPO/NGO への支援(上記の 2 )といったイメージが強いかもしれません。
しかし、企業の事業そのものと一体となった社会への貢献こそが最も大きな部分を占めるべきと考えています。
IBM が事業として提供する情報技術( IT )は、生産性向上のツールにとどまらず、現在はより積極的な変革
の手段になっています。世界にはさまざまな無駄や非効率がまだ多く存在していますが、高度な IT を活用する
ことで、私たちの 世 界 の 仕 組みをより良く働かせることが可 能になってきました。本 業においてさまざまな
お 客 様 や パ ートナ ー の 皆 様と価 値 の 創 出を行うことで、I B M は自らの 企 業 価 値 の 向 上に努 めるとともに、
地球と社会への貢献を果たしていきたいと考えています。
本業と一体となった
社会への貢献
信頼を確かなものとする
経営の基盤
社会の課題を解決する
貢献活動
こうした CSR の考え方に立ち、未来に向けて、IBM はこれからも「世界に価値あるイノベーション」を通して、
皆様とともに社会の発展に貢献していきます。
日本IBMのCSRについて
7
Smarter Planet の進化と深化
地球を、より賢く、よりスマートに 。
­ Smarter Planet
今 起 き つ つ あ る 変 化 ~ スマ ー タ ー ・
持 続 可 能 な 地 球 を 目 指 して 、世 界 中 で 取 り 組 み が 進 んで い ます
IBM コー ポレ ーション は、お かげさまで 今 年 創 立
ようにもなってきました。RFID(無線自動識別)や携帯
100 年を 迎 えました。この 1 0 0 年 の 間 、I B M は 常 に
電 話、GPS(全 地 球 測 位システム)などをセンサーと
イノベーター であること、そして「良き企業市民」であ
するセンサー・ネットワークの実 現が進 展してきてい
ることを、創立以来の伝統として受け継いできました。
ます。さらに、2011 年 3 月に 発 生した 東 日 本 大 震 災
未 来に向けて、IBM はこれからも「世 界に価 値あるイ
の時に、ツイッターやフェースブックといったソーシャ
ノベーション」を通して、皆 様とともに社 会の発 展に
ル ・ネットワークを活用して、人間自身も“事象のセン
貢献していきます。
サー”として即時の情報発信媒体になってきたことが
顕著に現れました。
複雑化する課題と IT の進化
さらに、センサー・ネットワークからリアルタイムで
連 続 的に 流 入 する膨 大なデ ータを瞬 時に 処 理 する、
IBM は、2008 年に「スマーター・プラネット
( Smarter
高速の計算能力を持つストリーム・コンピューティング
Planet;地 球を、より賢く、よりスマートに。)」という
も登場しています。膨大なデータを即時に処理するこ
新しいビジョンを提 唱しました。それから今日に至る
とにより、将来の事象を予測し、限りある資源の最適
までの 2 年 間に、多くの国、社 会、都 市、そして企 業
化や活動の効率化を図ることができるのです。高度に
や団体のリーダーの方々と議論し、実際の取り組みを
進 化した IT の技 術を使うことにより、エネルギー問 題
進める中で、社会における課題が顕在化してくるとと
やさまざまな非 効 率を解 消 する社 会 インフラを構 築
もに、そのあるべき姿も見えてきました。
し、より快適な生活と社会環境を提供するスマーター・
例 えば 交 通 渋 滞。渋 滞 は 日 本 で 年 間 38 億 時 間、
プラネットの実現が可能となってきています。
12 兆 円もの非 効 率を生み出しています。食 料も日本
で 年 間に流 通 する 9,000 万トンのうち 21 %が廃 棄さ
れています。生 産、流 通、消 費の情 報が互 いに共 有
されていないために、このように多くの無駄と非効率
8
進化していく
スマーター・シティー
が発生しているのです。
2050 年には、世 界 人 口の 70 %が 都 市に居 住 する
一方、IT の進化で、社会の多くの事象が把握できる
と試算されています。都市化が進むにつれ、社会イン
IBM Corporate Responsibility Report 2011
プ ラネットは“ 現 実 ”の もの に ~
フラの負 担は 増 大し、仕 組みが 複 雑 化し、事 態が 深
ビジネス 変 革 の 支 援に 取り組 んで いきます。日本は
刻化してくる中では、総合的なアプローチが取られな
今回の東日本大震災からの復興に向け、新しい都市の
い限り課題の解決は困難です。
あり方について多くの方々と知 恵を出し合 い、考え、
IBM の考えるスマーター・シティー( Smarter Cities;
実 行し て い か なくて は なりま せ ん。災 害にも強 い、
都市のスマート化)は、エネルギーとユーティリティー、
持続可能な都市(スマーター・レジリエント・シティー)
交通、医療、教育、公共安全、行政サービスといった
の実現もその一つです。
領 域をテーマにしています。進 化した IT を使って、よ
新エネルギーの活 用なども加えたエネルギー政 策
り効率的で機能的、かつ安心 ・ 安全な暮らしやすい都
の見直しは急務となります。IBM は 2010 年 8 月に、有
市 づくりを目指 すだけでなく、限りある資 源の利 用を
識 者の方々と“ 低 炭 素 社 会を実 現 する持 続 可 能なス
最 適 化 する方 策について世 界のリーダーの方々と取
マートな社会を目指して”というテーマでエネルギー・
り組んでいます。例えば、デンマークでは風力発電を
サミットを開 催し、限られた資 源で必 要なエネルギー
利 用した蓄 電と電 気自動 車の展 開のためのインフラ
を確保していくための有益な議論を行いました。そこ
構築、米国では犯罪予測システムの開発による安心・
で得られた知見をもとに、皆様と協力して進めていき
安全な生活を提供してきています。このように限られ
たいと考えています。また、供給が安定している日本
た資 源、限られた予 算の中で、都 市の抱える課 題の
ではまだそれほど関心が高くなかった水の管理も、水
選 択と集 中、変 革に向けての価 値 観の共 有と合 意 形
源 管 理、インフラ 管 理、効 率 的な使 用といった 観 点
成、変 革 実 施によるコスト削 減と住 民 の 生 活 の 質 的
で、IBM は海外での実績や経験を生かし、支援してい
向 上に 向けて、IBM は IT の 観 点から世 界 で 150 以 上
きたいと考えています。
ものプロジェクトを支 援しています。日本 企 業ととも
安心・安全で、暮らしやすい都市を実現すると同時
に参加しているインドのデリー-ムンバイ間産業大動
に、私たちのかけがえのない地球を持続可能(サステ
脈 構 想、北 九 州スマート・コミュニティ創 造 事 業の企
ナブル)にすることをサポートする I T の 技 術 要 素は、
業コンソーシアムへの参加もその一部です。
既に出 揃ってきています。重 要なことは、スマートな
都 市づくりを目指して、どのようなロードマップを描き、
日本の未来に向けて
どのようなアプローチを選択するかです。これまでの
100 年で培った技 術、経 験、そして知 見を、これから
これからもスマーター・プラネットのビジョンのもと、
の日本、そして 世 界 の発 展 のために活 用し支 援を続
さらに高度に進化する IT を駆使して、市民生活や社会、
けていきます。
Smarter Planetの進化と深化
9
Smarter Planet の進化と深化
地球を、より賢く、よりスマートに 。
­ Smarter Planet
スマ ー タ ー ・プ ラネットが 実 現 する 価 値 創 造
新 たな可 能 性をお 客 様 や パ ートナー 様とともに 切り
お客様の価値創造をリード
開いていきたいと考えています。
スマーター・プラネットには 2 つの要素「スマーター・
「スマーター・エンタープライズ(Smarter Enterprise;
シティー( Smarter Cities;都 市のスマート化)」
、
「ス
企業のスマート化)
」では、お客様企業のグローバル化
マーター・エンタープライズ( Smarter Enterprise;企
の支援に注力しています。IBM は 1990 年代半ば以降、
業 のスマート化 )」があり、さらに そ れを 可 能 に す る
財務、生産、人事など、あらゆる機能を地球規模で最
要素として、先進的なテクノロジーやサービスを位置
適化する「 G l o b a l l y I n t e g r a t e d E n t e r p r i s e( G I E =グ
づけています。
ローバルに統合された企業)
」へ進化を遂げています。
「スマーター・シティー」は、都市にはそれぞれ価値
そのポイントは標準化と統合、つまり、各国バラバラ
観や強みがあり、その特色に合わせてスマートな都市
で は なく、グロ ー バ ル 規 模 で 機 能 ごとにビジ ネス・
をデザインしていく取り組みです。世界的に都市への
プロセスを共 通 化・統 合し、拠 点を最 適 配 置しサービ
人 口 集 中が進む一 方で、渋 滞 緩 和、社 会インフラ整
スを共 有 化 することでした。この経 験をもとに、日本
備、治 安 維 持など都 市 化により同 時 発 生 する課 題の
のお客様がグローバル標準の経営基盤を実現するため
解 決 が 求 められ て います。IBM で は 行 政 サ ービ ス、
に 課 題となるエリアにフォーカスし、
「 財 務・経 理 」
、
エネルギー、交通、医療、教育、公共安全の 6 つの機
「人財」
、
「営業」
、
「 IT 」など 7 つのソリューション領 域
能が複 合 的に進 化して 都 市 全 体をスマートにする取
を定義。それぞれの領域で、
「計画」
、
「実行」
、
「展開」
り組みを進めています。日本 IBM はその実 現に向け、
までのソリューション群を体系化し、ロードマップを策
さまざまな自治体や教育機関、企業と協業し、都市の
定しました。また、業 種ごとにスマート化を実 現 する
賢い地球(スマーター・プラネット)が実現する価値創造
Smarter Cities
Smarter Enterprise
スマートな都市構築
グローバル化への対応
Capabilities
クラウド・コンピューティング
アナリティクス(BAO)
スマート化を支えるテクノロジー / 製品・サービス
10
IBM Corporate Responsibility Report 2011
今起きつつある変化 ~スマーター・プラネットは“現実”のものに~
~ 具 体 的 な 取り組 み ~
枠 組みとして、あらかじめ用 意されたフレームワーク
( ひな形 )を使うことで、グロー バ ル で 実 証され た 変
取り組みの事例
革への成果を柔軟かつスピーディーに進めることがで
スマーター・プラネットの価 値 創 造が実 際にどのよ
きるよう「インダストリー・フレームワーク」を定 義し
うに行 われ ているのか、その 具 体 的な例を次 ページ
ています。
以降で紹介します。
そして、スマーター・プラネットを可能にする要素と
最初は、人命と地球環境を守るスマートなシップリ
して、先 進 的なテクノロジ ーやサービスがあります。
サイクルの実現を目指しているお客様の事例です。そ
主 要なものとしては、クラウド・コンピューティングと
こでは、グローバルな展開とクラウド・コンピューティ
高度な解析ソリューション( BAO;Business Analytics
ング技術の活用が、価値実現における大きなポイント
and Optimization )が 挙げられます。クラ ウド・コン
となっています。
ピューティングは、コスト削 減 だけではなく、例えば
次に、スマーター・シ ティーを進 める上 で 大 切な、
ビジネス・スピ ードの 向 上 や セキュリティー の 強 化、
都 市にかかわる行 政、企 業、団 体などさまざまな方々
新 規ビジネスの 創 出 など、さまざまな目 的 の た めに
との対話を深める場として、
「 SmarterCities フォーラム」
活 用されはじめています。高 度な解 析ソリューション
を開 催しています。2010 年には「環 境 首 都・札 幌」を
( BAO )は、データインフラの整備や統合、ビジネス情報
目指す札幌市で、2011 年はスマートなモビリティー都市
の可視化に加え、企業内のリスク管理のための情報の
「歩くまち・京都」を目指 す京 都 市で、開 催しました。
可視化などにも適用範囲が拡大しています。いずれの
また、スマートで 持 続 可 能な都 市 の 構 築に重 要な
テクノロジーやソリューションも、東 京 基 礎 研 究 所を
住民の健康づくりと維持に、クラウド・コンピューティ
はじめとする世界 9 カ所の IBM の研究所で常に最新の
ングと高度なデータ分析技術で IT を活用し取り組んで
研究が進められています。
いるお客様の事例も合わせて紹介します。
スマートな都市構築 6つの領域
行政サービス
交通
エネルギーと
ユーティリティー
教育
シティー・オペレーション・
センター
公共安全
医療
Smarter Planetの進化と深化
11
Smarter Planet の進化と深化
事例 1
一般財団法人日本海事協会
人命と地球環境を守る、
スマートなシップリサイクルの 実現 に向 けて
寿命を終えた船舶を解体する際に有害物質が漏れ
処 理などをスムーズに 進 められ る体 制 が 整うととも
出し、深刻な環境汚染や労働災害を招いているシップ
に、煩 雑な運 用 管 理 作 業が効 率 化されることが期 待
リサイクル問 題。その解決に向けた国際条約 * の採 択
されています。
を受け、一般財団法人日本海事協会(以下、ClassNK)
このスマートな船のリサイクルの実現に向けた取り
は、安全で環境に配慮した船のリサイクルを支援する
組みについて、C l a s s N K の上 田 德 会 長に伺いました。
「 船 舶 有 害 物 質 情 報 管 理ソリューション」を日本 I B M
と共 同で研 究 開 発しました。
*「 2009 年の船舶の安全かつ環境上適正な再生利用のための香港国際条約
(仮称)」
(通称、シップリサイクル条約)
船は、建造から運航、解体まで、およそ 30 年にわたる
ライフサイクルを通じて、材料・部品メーカー、造船所、
船主、リサイクル施設、関係国等、多くの当事者がかか
わります。船のどこに、どのような有 害 物 質が含まれ
――まず ClassNK について簡単にご紹介をお願いします。
ているかを、
「インベントリー」と呼ばれる有 害 物 質の
上 田: ClassNK は、船 の 格 付けである船 級 業 務を行
リストを用いて関係者間で一元管理することで、30 年
う第 三 者 機 関です。海 上における人 命と財 産の安 全
後に適正な処理が可能になります。
確 保および 海 洋 環 境の汚 染 防 止のために、定められ
C l a s s N K で は、業 界 に 先 駆 け てシップリサ イクル
た 基 準 が 建 造 時と就 航 後 の 船 舶に 適 用され て いる
条 約 対 応のソリューションを開 発し、検 証を重ねてき
ことの検査・認証を行うほか、先進技術の研究開発や
ました。今 回 構 築したシステムでは、そのインベント
技 術サービスの提 供に努 めています。世 界 118 カ所
リー作 成 部 分を I B M のクラウドを利用した We b システ
に検査員事務所を展開、船級登録総トン数は 2011 年
ムとして 構 築。この 仕 組みをグロー バ ル 標 準 へと発
1月末時点で 1 億 8,043 万トンと、世界の船舶の約 20%
展させることを目指しています。
に及びます。また ClassNK は現在、国際船級協会連合
これにより、全 世 界 で 関 係 者 が デ ータを 共 有し、
インベントリー作 成から解体作業の準備、有害物質の
12
インタビュー
IBM Corporate Responsibility Report 2011
( IACS )の議長国を務めており、国際的な枠組みの中
でも大きな責務を果たしています。
―― シップリサイクルとはどのような問題ですか?
上田: 船 舶の解 体の多くは、安 い労 働 力や再 生 鉄 需
要が得られる新 興 国で行われています。部 品 等に含
まれている PCB やアスベスト等 の 有 害 物 質が適 切な
処 理をされないまま廃 棄され、甚 大な海 洋 汚 染 や 労
働災害を起こしてきました。しかも船舶は利害関係者
一般財団法人 日本海事協会
会長
が複数国に跨っていることや、どの時点で廃棄物とな
上田 德 氏
るかが特 定できないなど、従 来 の国 際 ルールでは対
処できない問題も存在していました。そこで、2009 年に
国 際 海 事 機 関( IMO )によってシップリサイクル 条 約
の船 だけで 部 品 数は数 千から 1 万 点ほどに及 ぶため
が採 択され、各 国 の 船 舶 へ の 適 用 の 動きが始まりま
データは膨 大で、もはや I T なしでは 解 決できないもの
した。
になっています。また、船は使 用 途 中で船 級 登 録 先が
変 わる場 合もあります。そうした 際にデータがない、
―― ClassNK はどのような取り組みをされているのですか?
あるいはシステムが違って過去のデータが読めないと
上田: 新条約へのスムーズな対応を図っていくために、
いった事態にならないよう、30 年先を見据えて全世界で
2008 年 4 月に「シップリサイクル条約対応プロジェクト
フォーマットの共通化を図っていかなければなりません。
チーム」を立ち上げ、戦略的に取り組んでいます。イン
ベントリー作 成にかかわる作 業の効 率 化を図るソフト
―― IBM との共同開発でどのような価値が生まれるでしょ
ウェアを開 発し、多くの 造 船 所 や 船 主 の 協 力を 得 て
うか?
テスト・検 証を 実 施。ノウ ハ ウを 蓄 積 す るとともに、
上田: 長期間にわたってグローバルにデータ管理をし
業界のデファクトスタンダードにしていくことを目指して
て いくにあたり、世 界 中 で 実 績と信 頼を積 んだ 安 心
います。
感のあるパートナーと組んでいきたいという思いがあ
りました。加えて、IBM が自動車業界で培った有害物質
―― 難しいのはどのようなところですか?
管 理 の 経 験と、我 々 が 持 つ 船 舶 に お け るイン ベ ン
上田: 有害物質管理の手順として、造船所にインベン
トリー管理のノウハウとを組み合わることにより、短期
トリーを作成いただき、船級協会で承認するのですが、
間 で 高 品 質 なシ ス テ ムを 構 築 できると考 えました。
この方法では紙の大量な資料の保管・受け渡しや有害
ま た 、今 回 開 発し た 業 界 クラ ウド の ような 多 様 な
物 質 含 有 量の計 算に相 当な作 業が発 生します。一 つ
ステークホルダーがつながる仕組みは応用がきくため、
他 の領 域 へも拡 大し、業 界 全 体の効 率 化が図れると
期待しています。
図:船舶有害物質情報管理ソリューション イメージ
NK
船主
承認プロセス
承認
顧客要求を充たす
データの再利用性向上
Inventory
造船
メーカー
作成
業界で統一された
環境の提供
Webシステムの構築
SDoC
インベントリー管理
船舶
ロケーション
調達品
進捗管理
調査依頼
調査回答
複数の入力方式
(Web,
PDFファイル)
グローバル展開
が可能
舶用メーカー
単一認証
収集
部品メーカー
素材メーカー
上 田: 日本は強 力な造 船 会 社と海 運 会 社を併せ持 つ
海 事 大 国 であり、海 事 業 界 へ の さまざ まな 貢 献 を
MD
物質情報収集
―― 今後の抱負をお聞かせください。
作成
造船
メーカー
調査
ワークロード
削減
セキュリティー
の向上
中小
素材メーカー
期 待 され て います。 C l a s s N K は 本 2 0 1 1 年 4 月より
一 般 財 団 法 人という形 態で民 間 化され、従 来 以 上に
活 動 範 囲が広がりました。今 後も IBM とのパートナー
シップを生かしつ つ、環 境 問 題など 国 際 的な課 題 や
震 災 復 興に対し、海 事 産 業 関 係 者とともに一 致 団 結
して取り組むとともに、その牽 引役を果たしていきた
いと考えています。
Smarter Planetの進化と深化
13
事例 2
Smarter Planet の進化と深化
スマーター・シティー 実現への取り組み
ステークホルダーとともに、都市 の 未来を賢く描く
SmarterCities フォーラム
私たちの暮らしやビジネスが営まれる都市は、あらゆる仕組みやプロセスが相互に連携して機能し、
地球の縮図とも言えます。一方で都市は、それぞれが独自の歴史と環境、そして目標とするビジョンを持っています。
都市の未来を賢く描いていくためには、さまざまなステークホルダーとの対話が欠かせません。
そうした場として、IBM は毎年「SmarterCities フォーラム」を開催し、
官公庁、自治体、学界、企業、市民団体の皆様と討議を重ねることで、
それぞれの都市が描くグランド・デザインの実現をお手伝いしようとしています。
昨年 6 月に開催された「SmarterCities - 札幌」
、
そして今年 2 月に開かれた「SmarterCities - 京都」の、両フォーラムをご紹介します。
SmarterCities - 札幌
環境 にやさしい 地産地消型新エネルギーの 活用 に向 けて
2010 年 6 月 18 日、環 境 首 都 宣 言を
14
を掲げ、官公庁、自治体、学界、企業、
きる仕組みをご支援したいと、フォーラ
して 2 年目を迎える札幌市で、
「Smar-
そして市民団体から多数の参加者を得
ムの目的を説明しました。
terCities - 札幌」フォーラムを開催しま
て、スマートな都市の実現を目指し、知
これを受けて、開催都市である札幌
した。「地球にやさしい地産地消型新
見に富んだ講演と活発な討議が行われ
市の上田文雄市長が、
「『環境首都・札
エネルギーの活用に向けて」のテーマ
ました。
幌』を目指して」と題した講演をされま
オープニングでは当社社長の橋本孝
した。札 幌 市は、2008 年の洞 爺 湖サ
之が、世界中で都市のスマート化の実
ミットを受けて「環境首都・札幌」を宣言
践例が多数報告されていることを述べ、
し、環 境 問 題を市 政 の 最 重 要 課 題 の
IBM Corporate Responsibility Report 2011
「スマートなエネルギー」
、
「スマートな
一つと位置づけて、CO 2 削減などに取
交通」
、
「スマートな医療」
、
「スマートな
り組んでいます。
「省エネルギー」
、
「新
公共安全」
、
「スマートな教育」
、
「スマー
エネルギー」
、
「自動車」
、
「エコライフ」
、
トな行政サービス」の 6 項目について事
「ごみ減量」の 5 分野でさまざまな取り
例を紹 介しました。そして「Smarter-
組みを推進しており、例えば、家庭ごみ
Cities- 札幌」が、北に位置する内外の
の有料化の導入によりリサイクル量が
大都市の環境モデル都市として発信で
導 入 前 の 2.3 倍に 増 加し、1 人 が 出 す
1 日あたりの廃棄ごみ量が日本トップレ
うとの、熱い想いに満ちたパネル・ディ
して、新しい取り組みが生まれることを
ベルの少なさになるなど、市民とともに
スカッションとなりました。
期待したい」と述べ、フォーラムを締め
世 界に誇れる環 境 都 市に向けて札 幌
その後に、環 境 省の南 川 秀 樹 大 臣
くくりました。
市が着実に前進していることの説明が
官 房 長が特 別 講 演をされ、温 室 効 果
なお、札幌市は、IBM の新しい社会
ありました。
ガスの 人 為 的 排 出 量 は 既に自然 の
貢献プログラムである「スマーター・シ
続くパネル・ディスカッションでは、
吸 収 量 の 2 倍 以 上となり喫 緊 の 対 策
ティーズ・チャレンジ(Smarter Cities
「札 幌 市 の 環 境 に やさし い 新 エ ネル
が必要であること、日本の中長期目標
Challenge)」の実施先として選ばれて
ギービジョンについて」をテーマに、札
( 1 9 9 0 年 比 マ イナ ス 2 5 %)を目 指し
います。スマーター・シティーズ・チャレ
幌 市 環 境局の中 村 敬 臣局 長、北 海 道
て地球温暖 化 対 策 基 本 法 案 の 提 出、
ンジは、今 後 3 年 間に世 界 中から 100
大 学の近 久 武 美 教 授、北 海 道ガス株
エコポイント制度の導入、ゼロエミッシ
都市を選定し、総額 5,000 万ドルに相
式 会 社の稲見 雅寿 常 務 執 行 役員、住
ョン住宅・自動車の推進などを進めて
当する IBM のテクノロジーやサービス
友大阪セメント株式会社の鈴木昌二環
いること、また生物多様性の保全にも
を提 供 する公 募 方 式 のプログラムで
境 副 事 業 部 長、省エネ普 及 指 導員で
積極的に取り組んでいることなどの説
す。選定された都市には、IBM のトップ
消費生活アドバイザーの宮森芳子氏、
明がありました。
クラスの専門家がよりよい都市にして
当 社の久 世 和 資が登 壇、当 社の志 済
最後に、当社の橋本が、
「市町村の
いくための方法を分析し、提案してい
聡 子がモデレーターをとなり、活 発な
ような一つのエコシステムの中で、産
きます。札幌市は、
「札幌市における効
討論が行われました。札幌から『エネル
官学が協力して環境問題に対応する、
果的な温暖化対策の推進」で応募し、
ギールネッサンス(エネルギーを中心と
“環境 3.0 ”とも言える時代になってい
した生産・消費構造の変革)』を起こそ
る。このようなフォーラムをきっかけに
2011 年の支援先として選定された世
界 24 都市のうちの一つです。
SmarterCities - 京都
スマートなモビリティー 都市「歩くまち・京都」の 未来 に向 けて
2011 年 2 月 に は、1,200 年 の 歴 史
のまちづくりと交通に関する新たな政
の都・京 都 市にて、スマートなモビリ
策展開について」と題して国の政策が
ティー 都 市「歩くまち・京都」をテーマ
紹介され、
「新たなまちづくりには、トー
に「SmarterCities - 京都」フォーラムを
タルな展 開とダイナミックな発 想が必
開催しました。
要」と指 摘された上で、
「京 都が 21 世
最初に当社の橋本が世界のスマート
紀に輝く都市になっていただきたい」と
な都市の事例を紹介し、
「産官学さらに
のエールが送られました。
市民の協働により、悠久の都、京都の
後 半 の パネル・ディスカッションで
スマート化を推進しましょう」と提起を
は、オムロン株式会社の勅使川原執行
行いました。
役員、国 土 交 通 省の渋 谷 和 久 総 合 政
それを受けて、開催都市である京都
策局長、京都市の由木副市長、京都大
の門川大作市長が、
「持続可能な低炭
学 院 工 学 研 究 科の土 井 勉「 安 寧 の 都
しました。
素社会の実現に向けて」と題した講演
市 ユ ニット」特 定 教 授、スポーツコメ
最後に橋本から、
「今日は 新 たな京
をされました。自らが率先して実施され
ンテーターで「歩くまち・京都」推進会
都の魅力と力強さを知りました。産官
ている環境モデル都市としての取り組
議の奥 野 史 子 委員、当 社の岩 野 和 生
学と民が一 体となってスマーター・シ
みについて、
「歩くまち・京都」憲章の
が登壇し、当社の志済聡子がモデレー
ティーをつくっていくことができる。IBM
制 定、既 存 の公 共 交 通 の活 性 化、EV
ターとなって、
「道路は誰のものか、道
としても大いに支援をさせていただき
(電気自動車)バスの運行実証実験開
路の主役は誰か」について会場の参加
ます」と述べ、フォーラムを終えました。
始など、具体的な取り組みが紹介され、
者とともに活発な議論が展開されまし
日本 IBM はこれからも、都 市にかか
参加者一同に感銘を与えました。
た。最後にパネリスト全員が、スマート
わるさまざまな皆様との対話を深めな
続く基調講演では、国土交通省総合
なモビリティー都 市「歩くまち、京 都」
がら、持続可能な「スマートな都市」の
政策局の北村隆志局長より、
「これから
の実現に向けてそれぞれの考えを披露
実現を支援していきます。
Smarter Planetの進化と深化
15
Smarter Planet の進化と深化
事例 3
株式会社つくばウエルネスリサーチ
一人ひとりの“健幸”
を増進し、
スマート・ウェルネス・シティーの 創造 に挑 む
今 後 、日本に確 実に訪れる少 子 高 齢・人口減 社 会。
を支 援。参 加 者のプログラム継 続をサポートする「脱
社 会 保 障 制 度を維 持し、地 域 経 済の活 力を持 続して
落 防 止エンジン」や、生 活 パターンやヘルス・リテラ
いくためには、
「個人の健康寿命が延伸され、高齢者が
シ ーなどに 合 わせ た 個 別プログラムを作 成 する「ラ
元気に就 労できる社会」の創造が求められています。
イフスタイル 型 エンジン」の 共 同 開 発 にも取り組 ん
「日本 全 国を元 気にする!」ことを使 命に 筑 波 大 学
でいます。
の研 究プロジェクトから生まれたベンチャー企 業 、株
S m a r t We l l n e s s C i t y の創 造に挑む、久 野 教 授に
式 会 社 つくば ウエ ルネスリサー チ( 以 下、T W R )は、
お話を伺いました。
「エビデンス(科 学 的 根 拠)に基 づく健 康 づくり」事 業
を推 進。I T を活 用し、個 人 の 身 体 的 特 性 や 能 力に 応
じて 健 康 管 理を 行う「 e - w e l l n e s s 」システムを 開 発
し、地 域 や 職 域 の 健 康 増 進 策に成 果を上げてきまし
16
インタビュー
た。さらに、T W R の 代 表 取 締 役 で 筑 波 大 学 大 学 院
―― 最初に、大学発のベンチャーを興された理由をお聞か
人 間 総 合 科 学 研 究 科 の 久 野 譜 也 教 授 は、個 人を取
せください。
り巻く多 様な要 因を考 慮した総 合 的な健 康 施 策を提
久野: 研究の中で得られた、運動と食事をコントロール
唱し、自治 体に呼 び 掛けて 2 0 0 9 年に「 S m a r t We l l -
すれば、老化を遅延させたり、一定レベルまで回復さ
「ウエルネス
n e s s C i t y( S W C )首長研究会」を発足。
せられるという成 果を全 国に広げたいと考え、2002
( 健 幸:一 人 ひとりが 健 康か つ 生きがいを持ち、安 心
年に事業化しました。当時、高齢化の課題対策は「医
安 全 で 豊 かな生 活を営むことのできること)
」をまち
療」が中心で、
「予防」のビジネスは行われていません
づくりの 中 核 に 据 える先 進 モデ ル 都 市をつくり、全
でした。医療の発達により寿命だけを延ばすのではな
国に波 及させることを目指しています。
く、予 防 策を進 めることで 参 加 者はより健 康になり、
I B M は、このエビデンスに基 づく健 康 づくり施 策を
自治体にとっては医療費が下がり、そして、我々も研
可 能に する「 健 康クラウド( 電 子 健 康 記 録 )」の 構 築
究を進めるための費 用を回 収できる持 続 可 能な仕 組
IBM Corporate Responsibility Report 2011
みになると考えました。
―― e-wellness システムを構築されて、利用者が飛躍的に
伸びましたが、新たな壁にぶつかったそうですね。
ログ ラ ム 導 入 後 3 年 で 、医 療 費 が 年 間 一 人 あ たり
筑波大学大学院
人間総合科学研究科
スポーツ医学専攻 教授
株式会社つくばウエルネスリサーチ
代表取締役
10 万円程度削減されました。しかし、会員数が増える
久野 譜也 氏
久野:はい。これまで最も成 果が出たところでは、プ
と辞める人も多くなります。マスへと効 果を広げるた
めにはリテラシ ーが 低 い 層を動かすアプローチが必
要ですが、そういった成功例は世界にもなく、我々は
今そこを「健康クラウド」で解決しようとしています。
そうし たノウ ハ ウもア ル ゴリズ ムとし て 組 み 込 み、
一 人 ひとりに合った 有 用な健 康プログラムの 提 供が
――「健康クラウド」でどのようなことが可能になりますか?
できます。また、人と人とが関 係して行 動 するところ
久野: 一つには、分散している健康情報を一元化し見
は数式ですべてを解決することはできないため、
「人」
える化しようとしています。そうすることで地域の健康
と I T をうまく組み合わせ仕 組みをつくることが成功の
事業をより効果的に進めたり、データベースを生かし
ポイントです。
て、利用者に対して高齢になっても元気に暮らすため
の予報的な情報と対策をお知らせすることができます。
―― IBM との共同開発でどのような価値が生まれるでしょ
現在の仕組みは結果としてのデータだけで、なぜそう
うか?
なったかがわかりません。ライフスタイルや嗜好、考え
久野: とてもいいパートナーだと感じています。SWC
方なども含めた情報を取り入れることで、個人に合っ
プロジェクトの立ち上げにあたっては、IBM のスマー
た勧誘方法や、継 続を促 すプログラム提 供が可 能に
ター・シティーの考えに共感したところも大いにありま
なってくると考えます。
した。国民が求める、高齢になっても元気で活躍して
いける社 会をつくる―これ は 不 退 転 の 決 意 で あり、
―― なぜ「まち」を含めた取り組みが重要なのでしょう?
我々に「撤退」という文字はありません。IBM とはそう
久野: まちの構造と健康の関係について、さまざまな
いう気 持ちも含 めて 方 向 性が 一 致しており、互 いが
データが出てきています。美的景観の良い地域に住ん
持 つ 異なる強みを合 わせることで 世 の 中に最もい い
で いる人 やソーシャル・キャピタル( Social Ca pital;
価値を提供できると信じています。
社会資本)が高いところほど健康度が高い。その実態
を明らかにして 新 たな仕 組 み づくりに 役 立 てるには
―― 今後の抱負をお聞かせください。
エビデンスが必 要で す。例えば 車を入 れない 地 区を
久野:高齢化、人口減する社会の課題解決は、日本人
つくり、近隣の人が歩くようになって、健康度が上がり
が問われるテーマだと思っています。予防のところは
医 療 費 が 減 るような 仮 説 が 本 当 に 成り 立 つ の か。
日本が間違いなく進んでおり、私はこの領域はグロー
まちぐるみで社会実験をする準備をしています。
バルで勝てる領域だととらえています。
S W C 首 長 研 究 会 で 多くの自 治 体 に 横 串を通 せ た
―― IT の活用で期待されるのはどのようなところですか?
ことで、より強い力を得ています。国からの支援も得て、
久野:IT の仕組みのいいところは「進化し続ける」こと
まず は 成 功 例 を つくるた め 健 康 クラ ウドを 開 始し、
です。データが集まれば集まるほどより確実な姿が見
まち づくりやソフト政 策 も含 め て 加 えて 何をす れ ば
えてきて、より良い 提 案ができます。さらに、データ
いいかを探っていきます。その結果を評価しノウハウ
は集まれば いいわけではなく、どういうデータをどう
を残して次の解決策を考える、そういう循環を繰り返
分 析 するかというノウハウが重 要です。IT の活 用で、
しながら前進していきたいと考えています。
Smarter Planetの進化と深化
17
Smarter Planet の進化と深化
実現を支えるテクノロジー
複雑で大量 なデータをリアルタイムで分析し、
迅速で効果的 な 意思決定 へ
「米国人気クイズ番組 に挑戦した IBM の 質問応答システム、Watson」
2011 年 2 月 14 日から 16 日にかけて、情報科学の歴
にわかります。人 間と同じ仕 組みをコンピューター上
史に新たな 1 ページが刻まれました。IBMリサーチが
で そのまま再 現 することは、知 識 の 整 理と体 系 化に
開 発した質 問 応 答システム Watson(ワトソン)が、米
人 手による膨 大な作 業を要 する点から現 実 的ではあ
国 の 人 気クイズ 番 組「 Jeopardy!
(ジョパディ!)」で 過
りません。また質問を人間のように正確に理解するこ
去最強のチャンピオン 2 名に挑戦し、3 日間( 2 ゲーム)
とも技術的に不可能です。
の獲 得 賞 金 総 額で首 位となる快 挙を成し遂げたので
このため、Watson では、人 間とは違う方 法で質 問
す。ここで「質問応答」という技術が人との対戦の鍵と
に対 する解 答を求 める、図( P.19 )のようなアーキテ
なりました。クイズ番組では質問に対して正しく解答す
クチャー( 設 計 方 式 )が採 用されました。質 問 文から
ることを競いますが、これに相当する技術は情報科学
何が解答として問われていそうか、また解答の手がか
の分野では質問応答と呼ばれ、先進的な情報検索の
りとなる情 報が何かを推 定 するために言 語 解 析の手
手法として過去 10 年間に盛んに研究されてきました。
法が駆使されています。次に解答の候補となりそうな
語句を、事前に収集された大量の文書やデータベース
質問応答システム
Wa tson とは?
語彙の体系など)と質問文から推定し、100 - 1,000 個
程度の候補を列挙します。ここで集められた解答候補
Wa tson とは、質問文の内 容を分析して、事前に収
をそれぞれ 元の質 問 文の手がかりと組み合わせて仮
集され た 大 量 のテキスト情 報から質 問 の 解 答 候 補と
説を作成し、再度情報源にこの仮説を満足するような
その根拠・確信度を計算し、高い確信度の候補が得ら
「根拠」があるかどうかを調べます。根拠の確からしさ
れた場 合に解 答 する、という一 連の知 的 処 理を高 速
は、仮 説と根 拠との合 致 度に応じて数 値 化されます。
に実行するコンピューター・システムです(写真)。人
有望な解答候補や仮説は情報源の多数の根拠で支持
間が質 問に解 答 する場 合には、長 年にわたり蓄 積さ
されやすく、その総 和が確 信 度として 計 算されます。
れた知識を体系化して記憶しており、質問を正しく理
最も高い確 信 度の解 答 候 補を選 択し、その確 信 度が
解することができ、解答を思いつくかどうかは直感的
十分な値以上であるときに、Watson はその質問に解
上が Watson の実 機。右がクイズ 番 組での対 戦の模 様。
写真中央が Watson の回答席。
18
などの情報源(ニュース記事、百科事典、ブログ記事、
IBM Corporate Responsibility Report 2011
Watsonの質問応答処理
情報源
百科事典・語彙体系・ニュース記事・
ブログ・聖書・歌の歌詞…
入力
質問+カテゴリー
出力
検索
解答+確信度のリスト
マッチング
順位付け
問われている
内容の解析
解答の
候補の生成
解答の
解答の
解答の
根拠探し
解答の根拠探し
根拠探し
根拠探し
学習データ
(過去問)
スコアリング・
同義語の統合
統計モデル
根拠の重み付け
複雑な質問を解析、解答候補を推定し、根拠に基づく正しい解を導き出す、質問応答処理のプロセス。
答します。
必 要な手 段を探したり、医 療の現 場で 患 者の潜 在 的
Jeopardy! は早押しのクイズ番組であるため、質問
な病 気を発 見したり、金 融 の 世 界で 金 利 上 昇 の 影 響
が表示されてからボタンを押す判断をするまで、数秒
を確信度付きで予測したり、といった極めて広い範 囲
程 度の時 間で処 理を終えなければなりませんでした。
の分 野に応 用できる可 能 性があります。医 療 分 野 へ
これを実 現したのが P.18 左 下 の 写 真にあるような約
の応 用については、既にニュアンス・コミュニケーショ
3,000 コアの IBM Power 750 で構成された大規模な
ンズ・インク社と共 同 で 開 発を進 め て います。この
並列処理プラットフォームです。
プロジェクトには、コロンビア 大 学メディカル・セン
ターとメリーランド大 学 医 学 部 が 協 力して おり、膨
質問応答技術のさまざまな分野への
応用の可能性
大 な量 の 情 報 の 中 に 埋 もれ て い る重 要 な知 識 や 事
実を明らかにし、思 い つかなかったかもしれ ない 解
答を提 示 することにより、医 師 や 看 護 師など 意 思 決
Watson で実現された質問応答技術は、人が知りた
定 者 の ア イデ ア や 仮 説 の 立 証を 支 援 す ることが 期
い情 報を質 問として表 現したときに、膨 大なテキスト
待されています。他 の 分 野 でも同 様に、今まで 有 効
情 報に基 づいてその解 答を瞬 時に獲 得できる能 力を
活 用 できて いなかった 膨 大な自然 言 語コンテンツや
提 供します。Watson では、搭 載されているデータや
デジタル・デ ータの 中に 埋もれ て いる重 要な知 識を
アルゴリズムを入 れ 替えるだけ でさまざまな分 野 に
発 見 することを可 能にし、また 情 報を効 率 的に、人
適用可能な一 般 的なアーキテクチャーを採用しており、
間 の 利 用 用 途に合 わせて 加 工 することができるよう
ニュース記事や個人のつぶやきなどのテキスト情報だ
になります。問 題 の 解 決 にど のようなデータが利 用
けでなく、センサーから得られるデータ、健 康 情 報な
可 能であるか、どのような質 問に解 答 す れ ば 業 務 上
ど個人のデータ、そのほかさまざまな情報を大量に処
の 課 題を克 服 できるか、といった 観 点 で 新しいシ ス
理して多 用な情 報 要 求に対 する解 答をその確 信 度と
テムを設 計して いくことが 今 後 の 研 究 の 一 つの 柱と
ともに提示することができます。現在ではまだ英語で
なっていくことでしょう。
記述された質問や情報源のみを対象としていますが、
Watson の研究開発には IBM 東京基礎研究所の 2 名の
研究員も参画しており、日本語を対象とした質問応答
技術に取り組むとともに、大学や研究機関との交流を
推進しています。
例えばこのような技 術は、製 造 業で 部 品 の 改 良に
なお IBM は、今 回 Watson が獲 得した賞 金 100 万ドルの全 額を慈 善
事業に寄付しています。そのうち半分の 50 万ドルが、IBM が仮想スー
パ ーコンピューター・シ ス テ ム「ワ ー ルド・コミュニ ティ・グリッド
( WCG)」を用いて支援を行っている世界の人道的研究プロジェクトに
寄付され、その中には千葉県がんセンターと千葉大学による神経芽腫
(小児がんの一種)の新しい治療薬開発を目的とした「ファイト! 小児
がんプロジェクト」が含まれています。
Smarter Planetの進化と深化
19
実現を支えるテクノロジー
Smarter Planet の進化と深化
距離と時間 の 壁を越えて
世界中 のメンバーが 一 つのチームに
グローバルなコラボレーションを可能にするソフトウェア
スマーター・プラネットの実現を支える重要なテクノ
つ複 雑 化したソフトウェアの開 発には、プログラムを
ロジーとしてソフトウェアがあります。グローバル化が
書く人 だけ ではなく、プロジェクトの 管 理 者 、ソフト
急速に進む中、組織や会社、さらには国を越えて効果
ウェアをテストする人など、さまざまな役 割の人々が
的なコラボレーション環 境を整えることは、人々が知
参画します。さらに、ソフトウェアを構成する部品である
恵と力を合わせて共生し、より豊かな社会を築く上で
コン ポ ーネント(プ ログラム のか たまり)も、複 数 の
欠かせません。
場所で作られていることも少なくありません。
IBM では、メールやカレンダーを中 心とした従 来 型
IBM も自らのソフトウェア開 発において、地 理 的に
のツールから、チャットや電 子 会 議を実 現 するリアル
離れた多くの仲 間が参 画し、効 率 的に共 同 作 業でき
タイム・コラボレーションのツール、さらには近年注目
る環境を構築しています。
され て いるソーシャル・ソフトウェアで 実 現される次
開発における作業項目やソフトウェアのコード、必要
世代のツール、さらにそれらをオープンかつ軽量なイ
な文書などがデータベースに格納され、世 界 中の開 発
ンターフェースで連携・統合するなど、あらゆるタイプ
メンバーがいつでも最 新の情 報にアクセスすることが
のコラボレーション・ツー ルを研 究 開 発して います。
できます。作 業 項目を起 点として、開 発 者 間 のコラボ
社 会 のより多くの 場 面においてソーシャル・コミュニ
レーションを促 進 する目的でソーシャル・コミュニケー
ケーションが実現されることで、組織や国境を越えて
ション・ツールが 活 用され、ディスカッションの 内 容は
の関 係 強 化と人 材の可 能 性を最 大 化し、アイデアの
データベースに自動的に蓄積されます。これにより、誰
迅 速な創 出と具 体 化を進 めるといった、現 代 社 会 の
がい つ、何をしているのかを、地 理 的な隔たりや時 差
変革を効率的に進めることができます。
などに関係なく知ることができます。蓄えられた情報は
解析レポートとして作成し、次の開発への指針作成や、
問題発生時の原因究明に活用することができます。
効率的なコラボレーション環境で
世界をよりスマートに
開発にかかわる世界中の情報を連携させ、一元管理
することによって、あたかも同じ場 所で作 業をしてい
今やソフトウェアは身の回りのいたるところで活 用
るような開 発 環 境 の 構 築 が 進 められ て います。ソー
され、その量も増 大しています。例えば自動 車 1 台に
シャル・コミュニケーション・ツールの活用で、グローバル
使われるソフトウェアのプログラムの長さ(コード)は
化が進む社 会で効 果 的なコラボレーションを実 現し、
1,000 万ステップ以上になると言われます。大規模か
世界がよりスマートになることが期待されます。
IBMのソフトウェア製品の開発における世界分担の例
サーバー・ソフトウェア開発など
カナダ
イギリス
スイス
フランス
アメリカ
プロジェクト管理、コアロジック開発など
サーバー・ソフトウェア開発など
メキシコ
要求管理ツール開発など
開発者の数
: 2000+人
コード変更量 : ∼50000件
変更要求
20
: 80000+件
IBM Corporate Responsibility Report 2011
ブラジル
スウェーデン
ポーランド
イスラエル
モデルツール開発など
中国
システム・テストなど
日本
Web UI開発など
インド
管理ツール開発など
オーストラリア
お 客様とともに、
付加価値 の 高 いソリューションを世界 へ
スマーター・プラネットの実現にグローバルな役割を担う大和研究所
日本 IBM の大和研究所(神奈川県大和市)は、IBM
最新の例では、小惑星探査機「はやぶさ」の地球帰
の日 本 および 世 界 に おける重 要 な研 究 開 発 拠 点 で
還で話題になった独立行政法人宇宙航空研究開発機
す。基 礎 研 究をはじめ、ハードウェア、ソフトウェア、
構( JAXA )の 次 期 固 体 燃 料ロケットの 設 計 開 発を支
ソリューション・サービスまでのすべての研 究 開 発 機
援 する「イプシロンロケット開 発プロセス管 理システ
能を備え、世界に数多くある IBM の研究所の中でもユ
ム」開発への参画があげられます。複数企業によるロ
ニークな存在となっています。その大和研究所に、ス
ケット開 発において、必 要な技 術 情 報を企 業 間 で 容
マーター・プラネットを実現する研究開発において、グ
易にかつ安全に共有することを可能とし、これまで個
ローバル・リーダーとしての役割を担う新たな役割が
別 の開 発 者に蓄 積されていたロケット開 発 の知 識 や
加わりました。
経 験をシステムに蓄 積 することで、過 去 の 投 資 の 成
果も生かせる効 率 良い開 発 体 制を築き、設 計 品 質の
7つの産業・技術分野で
研究・開発を展開
向上や開発の効率化を支援しています。
日本では世界最高水準の品質を支えてきた熟練工
の技術をどう継承するかが大きな課題となっています
大和研究所の新たな役割は、産業分野で極めて優
が、それにも取り組んでいます。例えば鉄道の状態監
れた技 術 力を持 つ日本のお客 様をパートナーとして、
視で、潤滑油の臭いや色といった微妙な兆候をとらえ
そこに IBM が世 界 中で 事 業 展 開し蓄 積した技 術 力を
て異 常の兆 候を察 知してきた技 術について、その一
合わせることで、高 い付 加 価 値を持 つ再 利 用 可 能な
部をセンサーで 計 測したデータの解 析と高 度な数 理
ソリューションを共 同 開 発し、新 興 国をはじめ全 世 界
解析技術を使って置き換える、などの試みです。
へと展 開して いくことで す。カバ ー する分 野として、
IBM は、日本のお客 様との先 進 的なプロジェクトを
交通システム、エネルギー、医療システム、設計・製
さらに拡大し、世界中のお客様に価値の高いテクノロ
造エンジニアリングの産業分野に加え、技術分野とし
ジー・ソリューションをお届けすることで、より豊かな
てデータ・アーカイブ、被ネットワーク接続物(エンド・
世界の実現に貢献していきます。
ポイント)管 理、アナリティクス & ハイ・パフォーマン
ス・コンピューティングの、合わせて7つがあります。
大 和 研 究 所はこれまでも、グロー バルな製 品の開
発や基 礎 研 究のみならず、お客 様と一 緒に先 進 的な
プロジェクトに取り組んでビジネスと社 会に貢 献する
革新的な研究成果を生み出してきました。
例えば、これまで主に製 品 開 発で使われていた熱
お客様
お客様の
ビジネス戦略
お客様が有する
IP・アセット
流 体 解 析 の 技 術を Smarter Building( スマ ートなビ
IBM
共同リサーチ
共同開発
グローバルIBMの
IP・アセット
IBM大和研究所
開発チーム
ソリューション・アセットの創造
ル)に活用し、環境負荷低減の取り組みで成果を上げ
ています。さらに、お客 様のデータセンターのグリー
ン 化 支 援 でこ の 技 術を 使うことにより、データセン
ター内の温 度や気 流の分 布を可 視 化し、最 適な空 調
機の配 置や風 量 調 節を策 定 することで、空 調 消 費 電
力を削減する実績を上げています。
IBMの
新ソリューション・
サービス
日本の
お客様へ提供
交通システム
エネルギー
医療システム
設計・製造
エンジニアリング
データ・アーカイブ
被ネットワーク
接続物管理
アナリティクス&
ハイ・パフォーマンス・
コンピューティング
IBMの
グローバル・
ネットワークと
チャネル
グローバルのお客様へ
早期に確実に展開
Smarter Planetの進化と深化
21
社会とともに
良き企業市民としての 伝統を受 け 継ぎ、
社会とともに歩 む
2011 年 6 月 16日、IBM コーポレーションは創立 100 年を迎えました。IBM では、100 周年を単なる記念日とするのではなく、
お客様、パートナー様、地域社会、社員など IBM にかかわるすべての人との結び付きを強めるための貴重な機会と位置
づけています。創業以来の伝統である「良き企業市民」として、IBM は社会とともに歩み続けていきます。
IBM コーポレーション創立 100 周年 にあたり
お 客様や社会 への 感謝を行動で示す一年 に
世界中の全社員による社会貢献活動
( Ser vice for Centennial )
IBM の礎を築いたトーマス J. ワトソン Sr. は「ビジネ
スを展開するということは、その地 域 社 会に対しても
責 任を持 つこと」と語っています。この信 条は時 代を
ます。
社会における IBM の存在意義を、
社員一人ひとりが考える機会に
越えて受け継がれ、2 0 0 3 年に設立された I B M のボラ
これまで、社会変革の大きなうねりの中で、いくつ
ン ティア・プ ログラ ム「 オン デ マンド・コ ニュニ ティ
もの企業や技術、科学が生まれ、また淘汰されてきま
( On Demand Community )
」では、数多くの社員や退
した。その間、IBM は世の中の流れに合わせてビジネ
職者の皆さんが活躍しています。日本でも、主に教育
ス形 態を変 革しながら成 長し、世 界 中 のお 客 様 や 社
や 科 学 の 分 野 などで、既 に 2 6 万 時 間 以 上 の ボラン
会のイノベーションと成 功を支 援してきました。日本
ティア活 動 が 行 われ て います。また 社 員のスキルと
IBM も、東京オリンピックでの日本初のリアルタイム・
専 門 知 識を生 かした N P O / N G O 支 援 ボランティアで
オンラインシステム構築や、ワークスタイルを劇的に
ある「 IBM プロボノ・プロジェクト」も、2010 年の開始
変えた ThinkPad の開 発など、IBM の名を歴 史に刻む
以来、ますます活性化してきています。
大きな貢献を果たしてきました。
創立 100 周年となる 2011 年は、こうした取り組みを
2011 年は、社 会における IBM の存 在 意 義と、その
さらに拡 大し、地 域 社 会やお客 様、パートナー 様など
中での自らの役 割について、日本 IBM の社 員 一 人 ひ
に感謝の意を表すため、全世界の IBM 社員 40 万人に、
とりが改めて考える機会ととらえています。
On Demand Community のボランティアには定期的にニュースが配信される
22
年間 8 時間以上の社会貢献活動への参加を奨励してい
IBM Corporate Responsibility Report 2011
社員の 専門的 なスキル、IT を活用した 新しい 社会貢献 の 試 み
新しい公共の担い手を支援する
「 IBM プロボノ・プロジェクト」
IBM プロボノ・プロジェクトは、Corporate Ser vice
ジ・フォー・スマイル)を加えて 5 団体を支援しています。
参加する社員も第一期の 8 名から 18 名に増加しました。
今 後はさらに NPO 団 体サービス・グラントと協 力して、
支援する団体を全国に広げていく予定です。
Corps( CSC:P.32 参照)に参加した社員や、外部のプ
ロボノに参加した社員が中心となって実現したプログ
ラムです。プロボノとは「公共善のために」という意味
のラテン語「 pro bono publico 」を省 略した 言 葉で、
クラウドによる
NPO・NGO のコラボレーション支援
米国において弁護士や医師が恵まれない人たちに対
国際緊急支援に取り組む NGO が抱える情報共有や
して無償でプロフェッショナル・サービスを提供したボ
情報連携の課題を IBM のソフトウェア・ソリューション
ランティア活 動が発 祥です。現 在は、こうした専 門 家
で支援ができないか。こんな発想から生まれたプログ
だけではなく企業に勤める社会人の間で、急速に存在
ラムです。クラウド上でインターネットをベースとした
感を増しています。
ファイル共有や仮想会議の開催、プロジェクトの管理
IBM プロボノ・プロジェクトは、2010 年 2 月から 6 月末
などを行える IBM のソーシャル・ウェア「 LotusLive 」。
まで第一弾を実施しました。新しい公共の担い手であ
この 製 品 の 試 用 期 間を 1 カ月から 1 年 間に拡 張して、
る NPO や NGO 。その中 間 支 援 組 織であるチャリティ・
2010 年 10 月より国際緊急支援 NGO(国境なき子ども
プ ラットフォー ム の 協 力を得 て、日 本 に おけ る教 育
たち、ピースウィンズ・ジャパン)および 中 間 支 援 組
問 題に 取り組む団 体(シブヤ 大 学、育 て 上げネット、
織のチャリティ・プラットフォームに無償提供しました。
TRYWARP )を支援先として選定。各団体の問題意識や
ソフトウェア事業部の社員がプロボノ・ワーカーとして
組織の現状などをお聞きしながら、中長期に取り組むべ
各 団 体 に 対し、LotusLive の 導 入 支 援 や さまざまな
き課題や将来の構想などを導き出 すお手伝いをしまし
機 能の説 明やガイド、質 疑 応 答などを行っています。
た。支援した団体からはいずれも高い評価をいただき、
支 援 先の NPO と NGO には今 後も使 用を継 続してもら
2010 年 10 月より開 始した第 二 弾でも継 続して支 援し
うとともに、支 援 する団 体のさらなる拡 大も検 討して
ています。第二弾では新たに 2 団体(キッズドア、ブリッ
いきます。
共にプロジェクトを作り上げていこうという
「想い」を共有
特定非営利活動法人
TRYWARP
代表理事
虎岩 雅明 氏
交流のきっかけの創出に寄与しています。
日本 IBMとの接点は「IBMプロボノ・プロジェク
ト」で始まり、NPO を支援する側・される側の枠
組みを超えて、共にプロジェクトを作り上げていこ
うという「想い」の共有を行うことができました。
また、
「 外からの視点」としての役割を担ってもら
特定非営利活動法人 TRYWARP(トライワープ)
い、ミッションや現状の課題が可視化されたこと
では、千葉県の西千葉地域でパソコンに苦手意識
により、今後の展開および展望のアドバイスを明
を持っている方を対象にパソコン教室の運営を
確に把握するに至りました。今では学んだ手法を
行っています。また、パソコン教室を運営している
用いて業務全般およびスタッフの取り組む姿勢
強みを生かし、地域 SNS「あみっぴぃ」の運営も併
までが少しずつ変化しています。
せて 行っており、それらの 活 動は地 元 商 店 街・
今後の活動に向けて大変有意義であり、このよ
大 学 生・地 域 住 民の世 代 間 交 流および 地 域 間
うな貴重な機会を得られたことを感謝しています。
「自分の問題解決力やリーダー
シップをフルに生かした結果、
支援先 NPO の方が新しい知見
を得て、感謝してくださったこ
とがうれしかったです」
グローバル・ビジネス・サービス事業(GBS)
コンサルティング・サービス
ビジネス・アナリティクス&オプティマイゼーション
久原 誉子
社会とともに
23
社会とともに
を実現します。
誰もが参加できる情報化社会を目指して
例 えば、Web ペ ージ に 画 像 が 掲 載され て い ても、
~情報通信技術が実現するアクセシブルな社会~
何の絵や写真なのかを端的に説明する情報が HTML 上
情報アクセシビリティの普及は、人々の社会参加の
に 記 載 され て い な い と、視 覚 障 が い 者 の 目となる
機会の創出や“クオリティー・オブ・ライフ( Quality of
Web 読み上げソフトがその内 容を伝えることができま
Life;生 活 の 質 )”の 向 上に つながります。IBM では、
せん。視覚障がい者が、Web ページ上の読めない画像
高 齢 者や障がい者をはじめ、発 展 途 上 国の非 識 字 者
の存在を報告すると、修正を行う人は即座に、かつ 容
など、さまざまな困難、ニーズを持つ誰もが情報化社
易にその画像が何かを端的に説明する情報を、外付け
会に参 加できるよう、アクセシビリティ技 術の研 究 開
メタデータとして付 与 することができます。付 与され
発や啓発活動、ソリューションの提供、標準化の推進
た情 報はサー バー上に保 存され、次 回 同じページを
などに取り組んでいます。
閲 覧した際には読めなかった画 像の説 明 情 報が自動
ソーシャル・コンピューティングの時代を迎え、ネット
的に取り込まれ、読み上げられるようになります。この
ワーク上ではさまざまな人のつながりが生まれていま
仕 組みの特 徴として、元の Web ページの内 容を変 更
す。日本 IBM の研究員は、ソーシャル・ネットワークを通
する必要がなく、また修正を行う人にプログラミング等
じた人と人とのコラボレーション(協働)を Web アクセ
の高度な知識が必要ないことなどが挙げられ、さまざ
シビリティ向上に活用する試み「ソーシャル・アクセシビ
まな人が修正作業に参画することを可能にしています。
リティ・プロジェクト」を 2008 年夏に立ち上げました。
鳥 取 県 庁では、We b コンテンツ提 供 者の視 点でア
Web コンテンツにアクセスしたくてもできないとい
クセシビリティの配 慮に取り組んできました。その取
う問 題に直 面 することが多々ある視 覚 障がい 者が問
り組みをより一層発展させるため、情報を受け取る側
題点を報告し、ボランティアがその問題を容易に、かつ
( 利 用 者 )の 視 点を取り入 れ た 試 みを実 現 する日 本
速やかに改 善できるようにするツール 等 の研 究 開 発
I B M の We b アクセシビリティ向上システムを活用して
を行い、これが現在、日本 IBM が提供している Web アク
います。障がい 者 相 互が 支 援 するというアイデアを
セシビリティ向 上システムと呼ばれるソリューション
取り入れ、利用者である障がい者がアクセシビリティ
へとつながりました。
上の問 題 点を登 録し、その問 題 点の修 正 情 報を作 成
Web アクセシビリティ向上システムは、インターネッ
する作業は福祉団体を通じて障がい者にお願いする、
ト・ユーザーが日々 Web サイトを閲 覧 する上で困って
世界に先駆けた画期的な試みです。障がい者の雇用
いる Web のアクセシビリティに関する問題をユーザー
拡 大につなげたいと考えており、このような取り組み
の声として聞き、多くの人々が協 働して解 決し、より
が、日本各地、ひいては世界に広がることを願ってい
質が高く有 用な Web 上の情 報にアクセスできる環 境
ます。
Webアクセシビリティ向上システム 事業イメージ
問題個所
アクセシビリティ閲覧支援ツール
(音声読み上げ等)
自治体
Webサイト
Webコンテンツ
一般ユーザー
(高齢者・障がい者等)
④修正された
コンテンツを利用
③修正メタデータの反映
アクセシビリティ上の問題の発見だけでなく解決も
障がい者・高齢者自身の手で行う
新しい
「アクセシビリティ向上モデル」
を実現
24
IBM Corporate Responsibility Report 2011
Webサイト
評価機能
① 不具合発見
(自動検査方式)
不具合情報
修正メタデータ
㈱鳥取県情報センター
アクセシビリティ向上 クラウドセンター
修正ツール
問題個所
② 問題個所の確認と修正
修正ツール
(担当者方式)
① 不具合の発見・報告
問題個所
高齢者・障がい者を含めた新たな雇用機会の創出
②問題個所の
確認と修正
修正作業担当者
アクセシビリ ティ技 術 人 材 育 成
修正
インターネット
① 不具合の発見・報告
(ユーザー参加方式)
・管理機能
・配信機能
未来 の 力をはぐくむ 次世代教育支援
幼・小・中教育支援
の 90 パ ーセント以 上が「 楽しかった。役に立った」と
答えています。
IBM では、幼 児から小 中 学 校 の 生 徒に 対して 教 育
一 方、教 育 支 援プログラムの準 備や実 施を支える
支 援を行っています。国 語、算 数、理 科、社 会といっ
のは多くの社員ボランティアです。「子どもたちが一
た科目・単元に絞った内 容ではなく、科学や IT に対す
所 懸 命 取り組む姿を見ると、また明日から頑 張ろうと
る興味を喚起し、環境に代表される社会的な課題に対
いう気持ちになります」
「子どもたちと接することで発
する意識を向上させるものになっています。
見する喜び、考えることの楽しさ、学ぶことの意欲な
ロボット・プログラミングを通じて 科 学 や 数 学 の 面
ど、会社でも必要なことを改めて感じました」。自ら支
白さを理 解 するとともに、エンジ ニアというキャリア
援に取り組むことで、社員にとっても新たな気づきや
に対 する興 味を涵 養 する「ロボラボ( Robolab )
」。身
充実感を得る機会になっています。
近な素材や道具を利用して科学の楽しさ、素晴らしさ
を実感できる「トライサイエンス( Tr yScience )
」
、太陽
幼い頃から IT が身近にある環境を
光、地熱、風力といった新エネルギーの重要性を理解
最近の子どもたちは、パソコンや携帯、ゲーム機器
しながらエンジニアがコンピューターだけ ではなく環
に囲まれ た 中 で 成 長して いきます。
「キッズスマート
境 問 題 の 解 決 にも貢 献 できることを伝える「パワー
( KidSmart )
」は、簡 単な知 育ソフトを導 入したおもち
アップ( PowerUp )
」。これらのプログラムを通じて 子
ゃのような端末「ヤングエクスプローラー」を保育園や
どもたちは実に多くのことを学びます。
幼稚園に寄贈するプログラムで、日本でも既に 800 台
以上が寄贈されています。単にコンピューターの使い方
科学の楽しさやエンジニアの仕事を
体験する機会に
を覚えるだけではなく、幼い頃からコンピューターが身
「何 度も失 敗して、でもいろいろパソコンを使って
生活の大切さを学んでもらうことを目的としています。
プログラムを作って、そして 成 功 すると、ものすごく
「生徒たちが非常に生き生きと楽しくやっていたのが
達成感があってよかった」
「エンジニアの人になったよ
印象的でした。抽象的な職業であるエンジニアを肌で
うで、楽しかったです!
一 つの物をつくるのにすごく
感じてくれたのではないかと思っています」
( 先生の声)
大変なのが分かりました。エンジニアの人はすごいと
今年度から新しい教育指導要領のもとで、これまで
思 いました」――これらは、参 加した子どもたちの声
とは異なる教育が求められます。企業が行政や学校、
のほ んの 一 例 で す。授 業 の 現 場には、目を輝かして
保 護 者と連 携し、自社 の 強みを生かして 教 育 のお 手
実験に熱中する姿がありました。参加した子どもたち
伝いをすることで、これまで以上の相乗効果が生まれ
近にある生活環境に慣れ親しみ、遊びの楽しさや集団
ると考えています。
「目指すはグローバル! 高校生の熱い思いが結集」
ヤング天城会議
2010 年 8 月、
「第 1 回 ヤング天城会議」が日本 IBM
天城ホームステッドで開催されました。ヤング天城会
議は、日本 の 次 世 代を担う高 校 生が、将 来グロー バ
ロボラボの授業風景。科学技術やエンジニアの仕事を楽しみながら体験!
ルで活躍するために必要な視点や考え方を身に付ける
社会とともに
25
社会とともに
「きっかけ」を提 供 するプログラムで す。参 加 高 校 生
たちが、社 外の有 識 者や IBM でグローバルに活 躍 す
る社員・経営陣による講義を受け、仲間と議論を重ね
る中で自身の考えを深める場となることを目的として
います。
テーマに沿った社外講師による講義
今 回は「世 界における日本の価 値や他 国との関 係
全国から 26 名が参加。チーム別にディスカッショ
ンを重ね、ユニークな提案の数々が発表された。
を学 び、考える」
「グロー バ ルな世 界 で 生きてゆくた
めの 力を身に付ける」
「 世 界 で 活 躍 する理 想 の自分、
理 想 の 未 来をイメージし、新しい チャレンジに 挑む」
事をしている社員から話を聞き、必要な心構えや態度
という 3 つのテーマを設け、社外から世界で活躍する
について理解を促します。ツールとしての英語の必要
ジャー ナリストや 海 洋 冒 険 家 の 各 氏を講 師 に 迎 え、
性も認識できるように、パネリストによるディスカッシ
実 体 験 や 豊 富な具 体 例を交えた 熱 いメッセージをい
ョンはあえて英語でのみとしました。
た だきました。い ず れ も参 加 高 校 生 の 視 野を広 げ、
グローバルで活躍するために日本人としてどうあるべ
初開催を終えて きかを考える機会になりました。
参 加 者からは、
「最 高の出 会 いと経 験の連 続!」
「素
晴らしいプログラムのもと、リーダー力やグローバル
IBM の発展途上国への支援活動プログラム
CSC ※ 参加者とのディスカッション
な力を得るきっかけとなりました」
「講師や IBM 社員の
支援先での実際の活動内容や実体験を聞き、考える
へのステップを一段進めたと思います」といった感想
機 会を提 供します。海 外 支 援を経 験した IBM 社 員 の
が寄せられました。スタッフである社員にとっても、参
生の声は高校生の心に響いたようで、グローバル・リー
加高校生の積極的で真剣な姿勢や意見に刺激を受け
ダーシップに必要な資質について真剣に考え、ディス
る大変貴重な体験となりました。
カッション終了後も積極的に質問をする姿が印象的で
IBM では、参加メンバーが将来グローバルに飛躍し、
した。
仲 間 同 士のネットワークも生かして、優れたリーダー
皆さんが本 気 で 対 応してくださって 私は将 来 の 躍 進
シップを発揮し活躍する―そんな日の実現に向けて、
外国籍社員とのパネル・ディスカッション
「 外 から見 た日 本 」
「 異 文 化 に おけるコミュニ ケー
ション」などを考える機 会として、実 際に異 文 化で仕
プログラムを継続していきたいと考えています。
*CSC( Corporate Ser vice Corps ):新 興 国や発 展 途 上 国 への、グローバル
IBM による支援活動プログラム( P.32 参照)
日本 のさらなる科学技術 の 発展を支援
大学との連携・支援
央 大 学と東 京 工 業 大 学に贈 賞しました。また IBM クラ
ウド・アカデミーは、IBM が各 国の大 学と連 携し、スキ
大 学 の研 究・教 育を支 援 する IBM の大 学 連 携プロ
ルとリソースを提 供して 教 育 分 野でのクラウド利 用を
グラムの中の 2 つを紹介します。IBM SUR* アワードは
促 進 するフォーラムで す。2010 年には日本 で 支 部 会
I T 分 野 で 優 れ た 研 究を 行って い る大 学を 支 援して
を開 催しました。その 他にもソフトウェアや 教 材 の 提
サーバー等の IBM 機 器を寄 贈します。2010 年には中
供、大学への出講等のさまざまな支援を行っています。
*SUR:Shared University Research の略
26
IBM Corporate Responsibility Report 2011
学・生物工学専攻教授)
:
「リビングラジカル重合法
基礎科学研究の振興を支援
「日本 IBM 科学賞」
の開発と精密高分子合成」
◦ 林 正 人 氏( 東 北 大 学 大 学 院 情 報 科 学 研 究 科 准 教
2011 年 に 25 回 目を迎 える日 本 IBM 科 学 賞 は、日
授)
:
「量子情報におけるユニバーサルプロトコル理
本の基礎科学研究の振興と優れた若手研究者の育成
論の構築と量子暗号への応用」
に寄与することを目的とするものです。江崎玲於奈氏
◦平山秀樹氏(独立行政法人理化学研究所テラヘル
( 1973 年ノーベル物理学賞受賞)を委員長とする審査
ツ量子素子研究チームチームリーダー)
:
「 AlGaN 系
委 員 会により、多 数 の 推 薦 応 募 の 中から厳 正な選 考
半導体結晶の高品質化と深紫外 LED の先導的開発」
の上で受賞者が選ばれます。これまでに 142 名の方々
が受 賞され、受 賞 後も優れた業 績を挙げて国 際 的に
も高い評価を受け、第一線で活躍を続けています。
24 回目となる 2010 年度は、対象の物理、化学、コ
ンピューター・サイエンス、エレクトロニクスの 4 つの
分 野で、それ ぞれ 次の方々が受 賞 者として選ばれま
した。
◦木村剛氏(大阪大学大学院基礎工学研究科教授)
:
「らせん磁 性に伴うマルチフェロイクス効 果の先 駆
的研究」
◦ 上 垣 外 正 己 氏( 名 古 屋 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 化
2010 年度の受賞者および審査委員の方々
日本 IBM 科学賞 25 周年 に寄せて
江崎 玲於奈
日本 IBM 科学賞
審査委員長
(1973 年ノーベル物理学賞受賞)
副賞のニュートン『プリンキピア』の
表紙を模したメダル
り、賞の創設者でもあった椎名武雄氏は、
り、欧米語がそれに適していることは言う
日本 IBM 創 立 50 周 年を記 念し、社 会 貢 献
までもない。欧米語と日本語の大きな違い
活動の一環として、日本のサイエンスに新
は冠詞の有無であろう。英語においては、
たな刺激を与えて、その活力を高めようと
既に話 題に上がっているものには定 冠 詞
いう賞の意義を強調した。
“ the ”
、初めて話題に上がる新しいものには
ところで、私は、1960 年から 1992 年ま
不定冠詞“ a ”
、をつけることは周知のとおり
日本 IBM 科 学 賞 第 1 回 授 賞 式は、1987
での 32 年間、ニューヨーク市近郊のヨーク
である。
年 12 月 18 日、帝国ホテル 富士の間で盛大
タウンハイツにある IBM ワトソン研究所で十
私は 1969 年、IBM 研究所で半導体超格
に挙行された。8 人の受賞者は、物理、化
数 人の若 手を集めて研 究 活 動を行ってき
子を発案し、先駆的な研究を行ってきたが、
学、コンピューター・サイエンス、エレクトロ
た。1987 年には、日本人の客員研究者の
初 めて 国 際 会 議 で 発 表 する時、
“ I would
ニクスの 4 分野にわたり、日本のアカデミア
経歴者だけでも86 人に達し、毎年一度、親
like to propose a semiconductor super
で活躍する選り抜きの研究者であった。こ
睦会を開いて集まっていた。1987 年、この
“ the superlattice ”で
lattice ”と切り出した。
の賞の画期的な性格は若者の創造力と想
親睦会に日本 IBM 創立 50 周年の記念事業
はなく、
“ a superlattice ”である。これはか
像性を喚起することを目指し、年齢制限を
に何かよいものはないだろうか、という相
なりの反響を呼んだと思われる。
加えたことである。受賞者 8 人のうち、40
談があった。我々の返答がこの日本 IBM 科
日本で“ a ”の研究を高めることが、日本
歳代が 3 人、30 歳代が 5 人であった。たぶ
学賞設立であり、賞の研究 4 分野は、実は、
IBM 科学賞設立の真の目的であることをそ
ん、このように賞に年齢制限を加えるとい
客員研究者の研究分野であり、当然、IBM
の創設に関わった一人として、ここに明言
う前例はなく、このアイデアは賞設立に関
研究所における研究分野でもあった。
させていただきたい。そして、近年、日本
においても、
“ a ”の研究がやや増加の傾向
係した我々が考案したのだと言えるのでは
研究者が研究成果を的確な英文で報告
ないであろうか。
することは極めて重要である。サイエンス
にあると思われるが、それには本賞もいさ
開 会の挨 拶に当って、当 時の社 長であ
は欧 米の風 土で内 発 的に発 展してきてお
さか貢献していると信じたいところである。
社会とともに
27
社会とともに
時代を先取りした 経営変革をお 客様とともに
50 周年を迎える IBM ユーザー研究会
1961 年に発足した全国 IBM ユーザー研究会連合会
( U 研 )は、今 年 で 50 周 年を迎えました。この 50 年 の
間に IT システムは大きな発展を遂げ、今や社会のイン
フラとして欠かせないものとなっています。それを構築
する IT 技術者もまた、社会の期待に応えるべく、数々
の 技 術 的 な 課 題 に チャレンジ をし てきまし た。U 研
は そうした 中 で、高 度・多 様 化 する IT 技 術 の 習 得と
業 務 への適 用を目指して、業 種や企 業を超えた研 鑽
研 鑽と交 流の場、ユーザー研 究
会。各 地 区 研で学んだ成 果を全
国大会で発表。
と交 流 の 場を提 供し続けてきました。2009 年 6 月に
は Vision 委 員 会が発 足し、次 の 10 年に向けて U 研を
価 値 提 供の場としてさらにどう進 化させていくのか、
1 年半にわたって議論をしてきました。 “変わっていく”U 研
会 員 企 業 の 皆 様 からの 期 待と要 望 の 変 化を受 け
会への参加が可能になり、これもまた進化の事例とな
りました。
て、U 研の活動も内 容を進化させています。昨年行っ
た新しい取り組みの幾つかをご紹介します。
28
“変わらない”U 研
まず、U 研 の 研 究 会 活 動自体をいっそうネットワー
進化の一方で、U 研の変わらない存在価値はやはり
クや最新の IT 技術を活用したものにしました。新たに
人 材 育 成であり、顔を合わせてじっくりと話し合う場
Web ベースの e- ラーニングで IT 系の研修 55 コースを
の提供です。各地区研での IT 研究会やシステム部門
提 供し、会員企 業の IT 技 術 者 育 成に活 用していただ
長フォーラム(通称「 U 研倶楽部」)などの研鑽活動が、
いています。これまで 497 社から 4,012 名の申し込み
変わることなく続いています。一つのテーマで同じ時
をいただきました。また、社会人として必要なコミュニ
間を共 有し議 論と研 究を行 い、異なる考え方 や 価 値
ケーション力 や 交 渉 力などの 一 般 教 養コースもバー
観も受け入れながら結果や結論を導き出すことで、達
チャルクラス(双方向の Webレクチャーシステム)で提
成 感とともに参 加 者 一 人 ひとりの 成 長を促して いま
供し、毎回定員を超える申し込みをいただいています。
す。IT 研究会で育った若い技術者が、次に JGS(日本
もう一つは、U 研委員が中心となる社会貢献活動の
ガイドシェア)活 動 へ 歩みを進めて専 門 性を深め、そ
開 始 で す。IBM の EWeek( Eng ineering Week )と 呼
の後さらにシンポジウム実行委員会や iSUC 実行委員
ばれる小・中 学 生 向けの IT 技 術 教 育プログラムを、U
会などの全国横断の活動・交流の場へ乗り出していき
研委員の皆様が中心に実施をしました。参加した子ど
ます。
もたちが目を輝 か せながら夢 中になって 取り組む姿
U 研の原 点でもあるこの交 流=「他 流 試 合」は、50
は、大人たちにも新鮮な感動と喜びを与えました。
年の歴史の中でも変わりなく存続しています。どんな
こうした企 画は、各 地 区 研や全 国 研 会 員サービス
にネットワークや IT 技術が発達しても、会員同士が顔
委 員 会 での 活 発な意 見 交 換から生まれてきます。そ
を合わせて「同じ釜の飯を食う」ことで相 手の魅 力を
れを促 進 するためにリモート TV 会 議システムの活 用
実感し、互いの人間性を尊びながらお互いを育てあう
を始め、会員企業にとっては自社から出張せずに委員
ことが、U 研の伝承すべき文化だと考えています。
IBM Corporate Responsibility Report 2011
天城エグゼクティブ・プログラム
日本 IBM では、お客 様に経 営 革 新や情 報システム
お客様企画の個別セッション
個別のお客様とともに企画し、戦略、事業計画など
をご検討いただくセッションです。
の活用について学んでいただくためのエグゼクティブ
研 修プログラムを、研 修 施 設「 天 城 ホームステッド」
また、参 加されたお客 様 同 士の業 界の枠を超えた
において提供しています。時代とともに刻々と変化す
交流は、人的ネットワーク構築など宿泊型研修ならで
る経 営 環 境の中、新たな価 値を創 造する企 業 経 営の
はの価値を提供しています。
探 求の場として多くのお客 様にご 利 用 いただいてい
ます。
斬新な発想は、
自然豊かな環境から
価値創造をご支援する多彩なプログラム
「天 城ホームステッド」は、富 士 箱 根 伊 豆 国 立 公 園
お客 様に関 心 の高 いテーマで、より実 践 的なプロ
内に位 置 する宿 泊 型セミナー 施 設 で す。多くのお 客
グラムを年間約 230 回開催しています。
様にご愛顧いただき、2010 年は、過去最多の 4,500
人、1968 年(昭 和 43 年)の 開 設 以 来 、延 べ 11 万 人
天城エグゼクティブ・セミナー
ものお 客 様をお 迎えしました。ロビーからは富 士 山、
企業トップの方や経営幹部の方に、経営戦略、イノ
駿 河 湾、相 模 湾が一 望でき、都 会の喧 騒から離れた
ベーション実践事例など企業成長の原動力となるヒン
自然豊かな環境は、研修中の憩いのひとときを演出し
トを提供しています。
ます。
参 加され たお 客 様からは、
「 今、自分 が 何を考え、
何をすべきか見えてきました。また、会社の置かれて
いる状 況の中で進むべき方 向 性および 正しい道は何
なのかの判 断をすることができました」といった感 想
が聞かれました。
インダストリー特化、
ソリューション特化セミナー
各業種固有の課題解決や IT 活用による経営革新な
ど、特化したテーマを取り上げ開催しています。
グローバルでビジネスを推進されるお 客様とともに
2010 China J-Top
これまで欧 米で開 催してきた日
エグゼクティブの皆様に、さまざま
用していただきました。今後も IBM
本企業トップ・エグゼクティブ・セミ
な講演を通じて、中国でのビジネス
ならではのグロー バ ルの強みを生
ナーを、2010 年 11 月 1 日~2 日に初
展開に関する多彩な知見をご紹介
かし、お客様のさらなるグローバル
めて中国北京で開催しました。セミ
するとともに、在 中 国 経 営 者 同 士
戦略をご支援していきます。
ナ ー で は、現 地 駐 在 の 日 本 企 業
のネットワーク構築の場としても活
社会とともに
29
社員とともに
みんなが 生き生きと働 ける企業を目指して
IBM がこれからも成長し、イノベーションを通して社会への貢献を継続していくためには、社員が生き生きと働き成長す
ることが不可欠です。多様な人材が個性を発揮できるように仕事と個人生活を両立できる環境の整備や、国境を越えた
チーム力を培う場の提供により、各分野のプロフェッショナルの育成に力を入れています。
用を呼 び 掛けてきました。短 時 間 勤 務や在 宅 勤 務と
IBM が進める多様性とその受容
( Diversity & Inclusion )
いった柔軟な働き方を推進する制度は、こうした社員
のニーズに密 着した 活 動から提 言され、男 女を問 わ
IBM はダイバーシティーを重要な経営戦略と位置づ
ず多くの社員に活用されています。 けており、年 齢、性 別、国 籍、人 種 や 性 的 志 向 の 違
2005 年、IBM は“ワークライフ・インテグレーション
い、障がいの有無によって差別や区別をしない、多様
(仕事と個人生活の調和)”という方針のもと、社員の
な人 材の採 用、登 用を積 極 的に行っています。また、
育児と介護に関する支援への投資を行うグローバル・
ダイバ ーシティー 推 進 の 鍵は、採 用した 多 様な人 材
ワークライフ基 金を設 立しました。日本 IBM もこの基
が定 着し、プロフェッショナルとして 活 躍できる環 境
金 の 支 援を 受 け、2011 年 1 月 11 日、箱 崎 本 社 内 に
をいかに整えるかであり、
「企業文化の醸成」
「労働環
「こがも保 育 園」を開 設し、女 性 社員の早 期 復 職だけ
境の柔 軟 性」
「育 児と介 護の支 援」を施 策の大きな柱
ではなく、男 性 社 員の 積 極 的な育 児も大 いに応 援し
としています。 ています(次ページ参照)。
日本 IBM では、1960 年代以降、四年制大学卒業の
なお、2010 年には、女性活用と両立支援の継続的
女 性 の 積 極 的な採 用を実 施 するとともに、仕 事と個
な取り組みにより、2 度目の「 均 等・両 立 推 進 企 業 表
人 生 活の両 立を支 援 するさまざまな人 事 制 度やプロ
彰の厚生労働大臣最優良賞」を受賞したほか、2011
グラムを整えてきました。1990 年代後半からは、ダイ
年にも、
「東洋経済ダイバーシティ経営大賞 大賞」を
バーシティーの本格的な推進とともに、社員の代表メ
受賞するなど、評価をいただきました。主な受賞内容
ンバーによるダイバーシティー委員会がワークスタイ
は下記のとおりです。
ル や 企 業 文 化 の 変 革を提 言し、先 進 的 な 制 度 の 活
〈 2011 年〉
仕事と個人生活の両立を支援する人事制度
時間のフレキシビリティー
・育児早退( 1 日 21 分)
空間のフレキシビリティー
(年)
1972
・産前・産後休暇(産前 7 週間/産後 8 週間) 1974
1987
・育児休職(出産から子が 2 歳まで)
1989
・フレックスタイム
・フレッシュアップ休暇(勤続 10 / 15 / 20 年)1990
1991
・介護休職( 1 年、再取得可)
・教育休職
・ボランティアサービス休暇(年間 12 日)
・ボランティアサービス休職(原則 1 年)
・看護休暇(年間 5 日間)
・短時間勤務( 60 % / 80 %)
2002
2004
・裁量勤務
・介護休暇(年間 5 日)
2010
・フレックス短時間勤務
30
IBM Corporate Responsibility Report 2011
(年)
・サテライトオフィス 1997
・e- ワーク
1999
・フリーアドレス
2005
(One Team for Client Work Style)
・ホームオフィス
2009
◦日経 BP 社(日経 WOMAN )
「女性が活躍する会社ベスト 100 」第 1 位を獲得
◦東洋経済新報社
「東洋経済ダイバーシティ経営大賞 大賞」受賞
〈 2010 年〉
◦均等・両立推進企業表彰
厚生労働大臣最優良賞を受賞
◦日本経済新聞社調査「働きやすい会社 2010 」において、
女性部長の人数ランキング第 1 位を獲得
◦東洋経済新報社
「東 洋 経 済ダイバーシティ経 営 大 賞 従 業 員 多 様 性 部
門賞」受賞
社員の「仕事と育児 の 両立」と、子どもの「健全 な 成長」を支援
こがも保育園
「こがも保 育 園」は、社 員が安 心して仕 事と育 児を
両立できるよう、また子どもの健全な成長を支援する
ために誕 生しました。「こがも」の 名 前 の 由 来は、か
つて IBM コーポレーションの 社 長を務 めたトーマス・
J・ワトソン Jr. が社員の自主独立を奨励する際に用い
ていた訓話「野鴨たれ(飼いならされ飛ぶのを忘れて
餌を待つ鴨になるのではなく、自分の考えを持って自
由に羽ばたく野生の鴨であってほしいという意)」にち
なみます。
看 護 師 常 駐 や 病 児 保 育、Web カメラによる子ども
の様子確認など安全・安心面のサポートや、英語教育
や I B M の 幼 児 教 育プログラム「 K i d S m a r t 」の 導 入と
いった充実の知育プログラムを提供しています。
英 語 やリトミックのプログラムを
実施
Web カメラで い つでも
子どもの様子を確認
自然にコンピューターに親しめる
「 KidSmart 」を導入
日本 IBM“育メン”社員の 声
Voice-1
子どもの 成長とともに歩 めるのは 今 だけ。娘と一緒 の 通勤 はとても幸せです
三浦才太郎 グローバル・ビジネス・サービス事業(GBS)EI. メインフレーム基盤推進(こがも保育園利用 妻は他社勤務)
職場に保育園があるのはとても良いと思います。 例えば、子どもの体調が悪くなった時にすぐに
駆けつけられます。 また、先日の大地震の際は、こがも保育園には被害が無い状況であることを、
Web カメラですぐに把握でき、安心することができました。
私が保育園の送迎を担当するようになるまでは、子どものことは妻にかなわないと思っていました
が、今は対等とはいかないまでも、差はだいぶ縮まったように感じます。子どもの成長とともに歩める
のは今しかないし、娘と一緒に通勤できる毎日はとても幸せです。
Voice-2
両立 の負担や家族 への 感謝 など、多くのことに気 づくことができるようになりました
倉本修平 グローバル・テクノロジー・サービス事業(GTS)SO 事業 . 流通クライアント・サービス(こがも保育園利用 妻も日本 IBM 勤務)
以前は切れ間なく仕事を続けていましたが、1 歳の娘を朝 8 時に会社の保育園に預けるようになっ
たので、早めの帰宅を心掛けるようになり、良い意味で仕事にメリハリをつけて取り組めるようになり
ました。娘とも平日に一緒にいる時間が増え、より深い信頼関係を築きつつあります。
私は営業職で就業時間が不規則になりがちなので、身内の協力、職場の理解なしでは仕事と子育
ての両立は不可能です。両立の難しさを身をもって感じ、共働きの妻の負担や、両親への感謝、子育
て中の先輩や同僚への配慮など、多くのことに気づくようになりました。
社員とともに
31
社員とともに
グローバルな人材育成と社会貢献を両立
IBM 海外支援チーム「Corporate Service Corps」
なる文化的背景や伝統を持つ人々との相互理解を深
め、さらには世界の動きを感じ取る力を養います。
IBM は社員の育成にも大きな力を注いでいます。グ
グローバルの経験を生かした日本での社会貢献
ロー バルに統 合された企 業として、高 度な専 門 能 力
CSC を終えて帰 国した社 員から、
「 CSC で経 験した
を持ってグローバルに力を発 揮 する社員こそが、
「世
こと、新たに身に付けたスキルや知識を生かして、日
界に価値あるイノベーション」を実 践 する原 動 力 だか
本社会の課題の解決にも貢献したい」という意見が多
らで す。そのためのユニークな人 材 育 成プログラム
く出ました。また 以 前 から、日 本 IBM 社 員 の 中 にも、
である「 Corpora te Ser vice Corps( CSC )」を紹 介し
情 報 通 信 技 術の専 門 家を必 要とする人たちを助けた
ます。
いという意見がありました。
こうした社員を中心に、日本 IBM の中で新しい社会
21 世紀に必要な
貢献プログラムが動き始めました。日本版 CSC とも言
グローバル・リーダーシップの育成
えるこのプログラムは、無償奉仕という意味のラテン
米国のケネディ大統領が提唱して 1961 年に発足した
語を由 来とする「プロボノ( pro bono publico )」を冠
「Peace Corps(平和部隊)
」は、青年を開発途上国に派
して「 IBM プロボノ・プロジェクト」と呼ばれています。
遣して教育、公衆衛生、手工業、農業技術の指導を行
CSC 参 加 者と主にコンサ ルタント職 の 社 員が 協 力し
うプログラムです。IBM の CSC は、
“企業版の平和部隊”
て、日本の教 育 課 題に取り組む NPO に対して 戦 略 立
として、2008 年に世 界 規 模 の IBM の 取り組みとして
案や課題発見・解決といった支援・サービスを提供す
開始されました。さまざまな国籍、年齢、専門性を持つ
るものです。( P.23 参照)
IBM の社員で編成されたチームを新興国に派遣して、
現地の中堅・中小企業、行政、学校、NPO や NGO など
の事業支援を無償で行います。2010 年末時点で、日本
IBM の 38 名を含む 932 名の社員が東欧、アジア、アフ
CSCプログラムに参加して
金融第二サービス・マネジメント
稲葉淳一郎
リカ、南米の 18 カ国に派遣されました。
2010 年 2 月から 1 カ月間インドのプネーに滞在し、
CSC は社 員が有 するスキルやノウハウを社 会 貢 献
現地の非営利団体のスタッフに対する IT システム設
活 動に役 立てると同 時に、参 加 する社員自身の成 長
を促し、さらに IBM としても 21 世紀に必要な社員のグ
ローバルなリーダーシップを育成するという、3 つのメ
リットを併せ持っています。
計手法の教育活動に従事してきました。言語、習慣、
文化など、現地で触れるすべてが日常と異なり、価
値観や考え方が大きく揺さぶられました。また、他の
8 カ国の IBM から集まったチームの仲間との充実した
共同生活、共同作業は、
“縁”と“成長の糧”という一
生の財産を私にもたらしました。社会貢献と社員の成
国境や人種を越えた「真の」チームワーク
選抜された社員は、国や事業部門を越えた約 10 名
の チ ー ムに 編 成されます。現 地 の NGO と連 携して、
1 カ月間という短い派遣期間の中で、支援先からの要
請内容に基づいて活動します。
CSC 参加者は、日々の作業において生じるさまざま
な課題に対して、同じく世界中から選抜されたチーム
メンバーと国境や言葉の違いを越えて協力しながら取
り組み、それ ぞれ の得 意 分 野を生かして 解 決 策を検
討し、提 供して いきます。そうして 成 果を出 す 中 で、
コミュニケーション能力や問題解決能力が育まれ、異
32
IBM Corporate Responsibility Report 2011
長を同時に達成する CSC のような素晴らしい体験が
できるのも、グローバル企業 IBM の底力あってのこと
と思います。私が得た財産を生かし、今後もIBM と社
会に、より一層貢献していきたいと考えています。
環境への取り組み
よりよい 地球環境 に向 けて
環境問題の解決に IBM の製品、サービス、専門技術を世界中で活用することを環境ポリシーで宣言しています。それを受
けて、環境配慮製品やエネルギー管理などの環境ソリューションの提供を行い、また、全世界共通の環境マネジメント・シ
ステムに基づき、エネルギー管理や廃棄物管理など環境にかかわるすべての活動を推進することで、地球環境の保護に
貢献しています。
環境配慮製品・環境ソリューションにおける
IBM のリーダーシップ
スペースとより少ないエネルギーで、より多くのデータ
を記憶することが可能になっています。
IBM はさらに、環 境 エネル ギー の 管 理 にかか わる
IBM は、世 界 共 通の IBM 環 境ポリシーを 1971 年に
多くのソリューションを提供しています。例えば、IBM
発行し、
“あらゆる事業活動において、環境面でのリー
のソフトウェア製品と環境情報収集装置を連携するこ
ダーシップを追 求 する”ことを宣 言しています。1991
とにより、エネルギー削減を推進する環境エネルギー
年には環境配慮製品プログラムを確立し、製品のエネ
管理ソリューションの提 供をしています(図)。これに
ルギー 効 率を主 要な環 境 項目の一 つに定 め、省 エネ
より、オフィス、工 場、店 舗などにおけるエネルギー
製 品に関する取り組みに加えて、IT 機器やデータセン
情報の可視化を実現しています。
ターのエネルギー効率を改善するハードウェア、ソフト
ウェア、サービスを含む統合ソリューションや技術革新
に、先駆的な取り組みと投資を行っています。
IBM の 高 い 技 術 力が結 集された POWER7 プロセッ
IBM のグローバルな
環境マネジメント・システム
サー搭載サーバー「 IBM Power Systems 」は、業界の
IBM の環境ポリシーは、世界中の事業活動を律する
従来製品と比較して同等性能あたりの電力コストを大
環 境 管 理 規 定によって支えられています。汚 染 防 止、
幅に削 減し、リスク
( RISK )
プロセッサーあるいはイン
化学物質・廃棄物管理、省エネルギーと気候変動の防
テルプロセッサー搭 載のサーバーの中で初の国 際エ
止、サプライヤーの環境評価、環境配慮製品(プロダ
ネルギースタープログラムの認定を受けました。この
クト・スチュワードシップ)
、事故の防止・報告などの分
POWER Systems はまた、単独のシステム上で 1,000
野を網羅し、IBM の環境保護に対するコミットメントは、
以上の仮想領域(パーティション)を実現し、システム
このグローバルな環境マネジメント・システム
( EMS)
を通
の 統 合と稼 働 率 の 改 善 によってシ ス テ ム・コストと
じて実施されています。EMS で重要な環境目標に関し
電 力 消 費 量を削 減して います。また、I B M が 提 供 す
ては、主なパフォーマンス指標として気候変動防止、省
るストレージ・システムでも、ハードウェアによる消費
エネルギーおよび 節 水、汚 染 防 止、廃 棄 物 管理、環境
電力の改善に加えて、仮想化技術により、より小さい
配慮製品などの項目をカバーし、目標と実績を年次報
告書として発行しているレポートで説明しています(次
IBM Maximo
ページ記載 URL 参照)。
IBM のビジネス・モデルが進化し、提供するサービス
が拡大していることを受けて、引き続き環境マネジメ
ント・システムを更 新し、サービス分 野での環 境に関
環境エネルギー
情報収集装置
する課題や機会に適切に対応していきます。
エネルギー情報の可視化を実現
施設および設備
こうした 全 世 界 で の 環 境 へ の 取り組 みに つ い て、
IBM は毎 年「環 境プログレス・レポート」を発 行し、進
環境への取り組み
33
環境への取り組み
捗の詳細な情報を公表しています。
Pitney Bowes Inc. 、ソニー株式会社が 2008 年 1 月に
URL 環境レポート
◦ http://www.ibm.com/ibm/jp/company/environment/responsibility/
◦ http://www.ibm.com/ibm/jp/company/environment/responsibility/2010/
pdf/CRR2010_environment.pdf(日本語版 PDF)
◦ http://www.ibm.com/ibm/environment/annual/IBMEnvReport_2009.
pdf( 英語版 PDF )
立ち上げました。その後、この取り組みに世界中の幅
ISO14001 環境マネジメント・システム
広 い業 種にわたる企 業が賛 同し、現 在では日本 企 業
を含む 13 社が参加しています。開放された特許には、
環境問題に焦点をあてたものや、汚染防止、省エネ、
省 資 源など、環 境 保 全にプラスの 効 果をもたらす 製
規格統合認証
造やビジネス・プロセスのイノベーションが含まれて
IBM は 1997 年に世界中に事業を展開する企業として
おり、現在では 100 件以上の特許が開放され、IBM は
初めて、ISO14001 統合認証を取得しました。当初は全
そのうちの 28 件を提供しています。
世界の IBM の事業部門における製造、製品設計、ハード
コモンズへの参加や、開放された特許の一覧など、
ウェア開発業務を網羅していましたが、その後、認証の
さらに詳しい情報は、エコ・パテントコモンズの Web サ
適 用 範 囲を化 学 物 質を使 用する研 究 所や各 国の製 造
イト
(下記)から入手できます。
業務以外の事業所、そしてグローバル・アセット・リカバ
リー・サービス(Global Asset Recovery Services)部門
URL
◦ http://www.wbcsd.org/web/epc/
にまで拡大し、日本 IBM では、製造・開発系として大和事
環境シンポジウム
業所が、営業・サービス系として箱崎本社、幕張、大阪、
日本 IBM は、
「 持続可能な社会の実現」に向けた産・
大阪南港の各事業所が含まれています。また、日本を含
官・学・民の協働を推進することを目的に、2000 年か
む IBM の全社員は、年に一度、最新内容に更新された環
ら毎年、環境シンポジウムを全国各地で開催してきま
境教育が必須であり、e- ラーニングで受講しています。
した。2000 年に第 1 回を東 京 都で 開 催して 以 来、北
九州市、四日市市、盛岡市、札幌市、高松市、熊本市、
高槻市、富山市、広島市と、環境活動の環(わ)
をつな
地球環境保全への取り組み
いできました。第 11 回の 2010 年は仙 台 市で開 催し、
エコ・パテントコモンズ
行 政、地 元 企 業、NGO の 協 力を得 て 800 名を超 える
環 境に貢 献 するユニークな取り組みの 一 つに、エ
皆 様に 参 加 い ただきました。
「 美しき 地 球( ほし)へ、
コ・パテントコモンズがあります。これは、企業が開放
緑の風 吹くみやぎから ~みんなで描こう、スマートな
した特許に誰もが自由にアクセスすることを可能にし
都市の未来~」
というテーマのもと、IBM のスマーター・
て、環 境 保 全につながる製 品 開 発を促 進 することを
プラネットをはじめとした 環 境 へ の 取り組みに 加え、
目的としています。
産官学民のさまざまな取り組みを共有・発信しました。
エコ・パテントコモンズは、持続可能な開発のための
詳細は次のリンク先に紹介されています。
世界経済人会議( World Business Council for Sus-
tainable Development )と IBM 、Nokia Corporation 、
URL
◦ http://www.ibm.com/ibm/jp/company/environment/symposium/
IBM の環境マネジメント・システム
緊急事態対応
取引先環境評価
化学物質管理
地下水・土壌管理
34
IBM Corporate Responsibility Report 2011
実施および運用
役割、責任
教育訓練
コミュニケーション
文書類
文書管理
運用管理
マネジメント・レビュー
事業所長レビュー・報告
環境配慮製品
環境ピア・レビュー
不動産取引事前評価
計画
環境側面
要求事項
実施計画
環境セルフ・アセスメント
廃棄物管理
環境事故防止・報告
環境ポリシー
環境管理規定/基準
エネルギー管理
点検
環境コーポレート・オーディット
方針
経営の基盤
信頼をより確 かなものへ
さまざまな皆様とともに社会の発展に貢献していくためにも、信頼をより確かなものにする経営の基盤づくりが欠かせ
ません。全世界にわたるさまざまなリスクの管理と有事における事業継続への対策、そして IBM のビジネスの根幹にか
かわる情報セキュリティーやコンプライアンス(法令遵守)強化に努めています。
的な成 長を確 保 するために、全 社でリスクを管 理し、
リスク・マネジメントと事業継続
悪 い 影 響が起こる前に最 善の策を決 定し、事 業 計 画
に反映することを実現しようとしています。
リスク・マネジメント
* ERM( Enterprise Risk Management )戦略的意思決定や業務遂行上の意思
決定を増強する組織的かつ統合的なリスク・マネジメントのアプローチのこと
未知のリスクを事業計画に反映する-- ERM*
IBM では、米 国 本 社が主 導 するエンタープライズ・
悪い影響を最小限にとどめる-- 危機管理
リスク・マネジ メント( ERM )という手 法 で 全 世 界 の
日本 IBM では、2006 年より危 機 管 理 体 制として 設
IBM の戦略の策定と実行、事業活動におけるリスクを
置された日本 IBM グループ危機対策本部のもと、既知
管 理して います。日本 では、社 内 の 主 要 機 能 および
のリスクに対応する「全社災害対策本部」
「情報セキュ
製 品・サービス事 業に責 任をもつ 役 員で 構 成される
リティー 対 策 本 部 」
「 組 織 別 緊 急 対 応 体 制 」が 設 置
ERM ステアリング・コミッティ( Steering Committee )
されています。日常 的なトラブルや問 題に対しては、
にお い て、日本 IBM の 事 業リスクの 特 定、影 響 度 分
それぞれのチームが対 応しますが、ハイ・リスク事 案
析を行 い、リスクの 優 先 順 位を決 め、担 当 責 任 者を
や全 社での判 断が求められる事 案については、危 機
決定します。これらのリスク項目を危機管理体制や各
対 策 本 部で 会 社としての対 応の検 討を行 います。こ
事業部に助言し、リスクの最小化の検討、実施をしま
れらの事案を通じて、不確定な要素は ERM ステアリン
す。例えば、情 報 セキュリティーに関 するリスク、自
グ・コミッティに報告し、リスクの特定へと連携します。
然 災 害に対 するリスク、社 内 の資 産の活 用に関 する
リスクなどが 2010 年に挙げられたリスクの一部です。
取り組み
社員安否確認システム
ERM を通じて、経 営 層が日本 だけでなく世 界 中 の
危 機 管 理 の 一 環として、2007 年 の 新 潟 県 中 越 沖
IBM のリスクについて同じ認識を持つと同時に、継続
地震の経験に基づき、2008 年より社員安否確認シス
図 1:リスクマネジメント / 危機管理体制
IBM Corporation
エンタープライズ・
リスク・マネジメント
( ERM )
日本 IBMグループ危機対策本部
助言・支援
危機対応
リスクマネジメント・オフィス
J-ERM Steerig
Committee
災害対策本部
情報セキュリティー対策本部
過去の災害の知見
・大停電
・津波
・ハリケーン ・テロ
・SARS
Webによる復興支援
ディスカッション
(グローバルなネット会議)
ERM
…
事業部危機管理
報告
・製品保守サービス ・アウトソーシング ・保守運用サービス
災害・疫病報告
本社系部門危機管理
・コンプライアンス ・セキュリティー
システム・製品障害報告
事件・事故報告
危機管理
経営の基盤
35
経営の基盤
テムを日本 IBM グループ内に導入しました。このシス
及ぼすことから、全 IBM で対 策に取り組みました。特
テムは、携帯電話と社内システムの Lotus Notes を連
に、BCP については、世 界 中の IBM で対 策を検 討し、
携させたもので、グループ内の社員を対象とし、年に
立案しました。
数回の訓練を実施しています。このシステムは、地震
現 在でも、当 時の BCP をベースに脅 威の想 定を随
などの災害時を想定したメニューと新型インフルエン
時見直し、対策を強化しています。継続して BCP を見
ザのような疫病を想定したメニューがあります。2010
直すことで、その間に変更されたプロセスやルール、
年には、新 型 インフル エンザ の 流 行を想 定した 訓 練
組 織、アプリケーション、テクノロジー、IT インフラ、
が行われました。
設備に対応した計画を維持しています。
安 否 確 認システムは、全 社 員を対 象に実 施してい
ます。中でも技 術 部 門においては、技 術 員の安 否 確
インテグリティーの取り組み
認 状 況をもとに、いち早く被 災 地 へ の 技 術 員の 派 遣
指示にもつなげています。
日 本 IBM グル ープ は、インテグリティーを実 践し、
定着させるための取り組みを、社長、部門長、管理者、
社員が一丸となって推進しています。インテグリティー
事業継続
とは、
「誠 実な行 動・ビジネス」を意 味 する言 葉です。
IBM は、世 界 各 国で天 災、テロ、感 染 症などの非 常
法令遵守はもとより、広く企業倫理の向上を図るため
事態を経験する中で、自社やお客様、そして社会の被
の施 策を継 続 的に行 い、お客 様や社 会からの信 頼を
災に対し常に適切に対応してきました。設備、テクノロ
確かなものとしていくよう努めています。
ジー、アプリケーションとデータなど、IT や IT インフラ
にかかる領域だけでなく、ビジョンと戦略、組織、プロ
IBM 企業行動基準
セスといったビジネスや企業を構成する層に対して不
社 員 一 人 ひとりが 遵 守 す べき行 動 規 準を「ビジネ
慮の事 態を想 定して対 策を検 討しています。図 2 にあ
ス・コンダクト・ガイドライン( BCG )
」という形でまとめ、
るような企業における 6 つの層に対して、IBM では、①
全 社 員 がこれ に 従って 行 動 す るよう求 め て います。
脅 威の想 定 ②ビジネス影 響 分 析 ③ 想 定 脅 威に対 す
BCG は社員が IBM のビジネスを行うにあたって、個人
る課題分析 ④対策概要検討 ⑤対策実施計画 ⑥対策
としてすべきこと、してはいけないことの判 断 基 準を
実 施 ⑦ 対 策 管 理 ⑧ 対 策 管 理の評 価 という 8 つのプ
示すものです。BCG は毎年更新され、日本 IBM グルー
ロセスで、事業継続計画( BCP )の管理をしています。
プに所 属 するす べての 社 員は、入 社 時に、また 入 社
2006 年より着手した新型インフルエンザへの対応
後は毎 年 一 度、BCG を熟 読した上で同 意の署 名を行
では、この脅 威が広 範 囲かつ長 期 間にわたり影 響を
います。
図 2:継続的な事業継続計画の見直し
③想定脅威に対する課題分析
②ビジネス影響分析
ビジネス領域
組織・人事施策
④対策概要検討
調査
ビジョンと戦略
①脅威の想定
プロセス
計画・実行
⑤対策実施計画
アプリケーションとデータ
IT領域
テクノロジーと IT インフラ
設備
⑧対策管理の評価
評価
⑥対策実施
⑦対策管理
36
IBM Corporate Responsibility Report 2011
BCG 違 反 者に対しては解 雇を含む厳 正な処 分がな
識し、日頃から情 報セキュリティーの対 策を推 進 する
されます。
取り組みを実践しています。
BCG は IBM の Web サイトで公開されています。
URL
◦ http://www.ibm.com/jp/ibm/bcg/
情報セキュリティー・マネジメント体制
日本 IBM グループは、IBM コーポレーションの規 定
ビジネス・インテグリティー研修
および 日 本 IBM の 規 定に 基 づき、日 本 IBM グル ープ
社員一人ひとりが「インテグリティーなくしてビジネ
全 体で 取り組むべきセキュリティー 施 策を体 系 化し、
スなし」という強 い 決 意を持って業 務を遂 行していく
チーフ・インフォメーション・セキュリティー・オフィサー
ために、日本 IBM グル ープに所 属 する全 社 員を対 象
( CISO )と情 報セキュリティー 委 員 会を中 心とする体
に、毎年、ビジネス・インテグリティー研修を実施して
制を確 立して、情 報セキュリティー・マネジメント・シ
います。この研修はイントラネットにより実施され、研
ステム( ISMS )を実践しています。
修の都度、社員一人ひとりの理解度が確認されます。
また、昨年に引き続き全社方針である「重大事故ゼ
またすべてのライン管 理 者を対 象にした集 合 研 修
ロ」をはじめとして、重 要な情 報 資 産を守るために必
も行っています。これは過去の具体的事例に基づき、
要なセキュリティー目標を設 定し、日本 IBM グループ
管 理 者として取るべき行 動を自ら考えるとともに、グ
全体でそれらの達成度を可視化して実践しています。
ループ討 議を通じて適 切な判 断や部 下 への指 示を行
えるようにするためのより実践的な研修です。
日本 IBMグループの ISMS 統一認証
さらに、このような活 動により、社 員と組 織の中に
日本 IBM および日本 IBM グループ 会 社 16 社は、全
ビジネス・インテグリティーを重視する意識、風土が定着
従 業 員 が 参 加 す る ISMS 統 一 認 証 を 取 得し て おり、
して いることを確 認 するため、全 世 界 で、毎 年 2 回、
同じ方針・ルール・仕組みに基づいて ISMS の構築・運
定 期 的に社員に対 する意 識 調 査を実 施し、その結 果
用を行って います。日 本 I B M グ ル ープ 全 体 の セキュ
に基づいたアクションを取っています。
リティー・レベルの維持および向上に努め、お客様に
提供する価値を進化・深化さ
日々のビジネス遂行 のための
インテグリティー 三原則
◦常に、事実、数字などの情報を、正確に記録し報告
をすること
◦どんなに急いでいても、自らの権限を超えて独断に
走ったりせずに、判断に困ったときは、所属長や関
連の責任部門に、まずは相談すること
せ てこれまで 以 上 に 信 頼 さ
れるパ ートナーとなることを
目指します。
IT を活用した情報セキュリティーの推進
取り組み 1
スマートデバイス(スマートフォン)による
社内 IT 利用
◦過去の事例をもとに、自分が似たような状況に遭遇
日本 IBM では、社員向けにスマートデバイス(スマー
した際には、どのような危険が待ち受けているかを
トフォン)を活用した社内 ITリソースへのアクセスサー
予測しながら、常に慎重に行動をすること
ビスを提供しています。
スマ ートデ バ イスと IBM 社 内
ネットワークをインターネット回
情報セキュリティー
線 上 の 仮 想プライベ ート・ネット
ワ ー クを 介し て 接 続し、社 内 の
日本 IBM グループは、情 報セキュリティーがビジネ
メール、カレンダー、電話帳などを
スの根幹にかかわるものであること、また我が国では
利 用します。データはブラウザー
2005 年 4 月の 個 人 情 報 保 護 法 施 行 以 降、個 人 情 報
経由で閲覧するのでスマートデバ
の取り扱 いに対 する国 民の意 識が高 いことを十 分 認
イスには保存されず、セキュアな
経営の基盤
37
経営の基盤
利用が可能です。
携を行ったことにより、当 社の情 報セキュリティー推
その 他、USB メモリーキー 一つで 任 意 の PC 上 でセ
進室の社員が経済産業省より表彰を受けました。
キュアな環 境 で 社 内 業 務を遂 行 できる仕 組 みなど、
セキュリティーに配慮し、新しいテクノロジーを取り入
れたより柔 軟 性の高 い 作 業 環 境を提 供し、社 員の業
務の生産性向上を図っています。
平成 2 2 年度情報化促進貢献
経済産業省商務情報政策局長表彰「 情報セキュリティ促
進部門」
(1件)
表彰の理由は、ファイル共有ソフトによる情報漏え
い事 件を受けて、事 件の対 処に関 する経 験を講 演や
全従業員の業務用 PC のセキュリティー強化
セミナー等を通して積極的に共有する活動を行い、ま
情報セキュリティー・マネジメントを確実に、しかも
たセキュリティー・オペレーション・センター( SOC )や
効率的に実施するために、IT インフラの重要性がます
関係諸機関の間の連携に大きく貢献しているというも
ます高まっています。世界中の IBM の従業員全員のク
ので す。その 活 動を通して、興 味 本 位な情 報 漏えい
ライアント PC には、遵守すべきセキュリティー要件を
や情 報の拡 散は許さないという社 会 全 体の強い姿 勢
満 たし て い るかどうかを自 動 的 に 点 検 す るツ ー ル
を示すことにもなりました。
取り組み 2
( Workstation Security Tool )を導入しています。この
IBM のセキュリティー・オペレーション・センターで
ツール は IBM が 開 発したもの で あり、これ によって、
は、世 界 6 カ所のセンターと連 携して、24 時 間 365 日
万が一 従 業員が PC を紛 失しても、保 管している情 報
セキュリティーに関する監視活動を行っています。今回
が外部に流出したり等の事態が発生しないよう、日常
の表彰では、この活動も評価をされました。
的に点検と管理がされています。また、業務で使用す
日本 IBM ではさらに、事件への対応により得られた
るすべての PC には、HDD 全体を暗号 化するツールを
さまざまなノウハウを、実 績に裏 打ちされたコンサル
導入し、情報資産保護に努めています。
テーション、セキュリティー・ソリューションとしてお
客 様に役 立 てて いただけるように、積 極 的な活 動を
ポータブ ル 記 憶 媒 体 のセキュリティー 対
取り組み 3
行っています。
策の強化
近年 USB メモリーや外付け HDD などのポータブル記
憶媒体に関連した事件・事故が見られます。日本 IBM
プライバシー(個人情報の取り扱い)
グループでは、ポータブル 記 憶 媒 体 へ の情 報 の書き
日本 政 府は現 在、社 会 保 障・税に関わる番 号 制 度
出し時に自動 的に暗 号 化 するツールを開 発し、業 務
および 国 民 ID 制 度の導 入の検 討を進めており、その
用 PC に導入しています。
番号制度における個人情報保護の有効な仕組みを検
Peach
ポータブル記憶媒体
非暗号化領域
IBM
データ保護
ツール
( DPT )※
※暗号化ツール
討するワーキング・グループを設 置しています。従 来
の法制度におけるさまざまな問題点を洗い出し、プラ
イバシーに十 分 配 慮した法 規 制と安 全な IT システム
自動暗号化領域
(パスワード設定)
との連携によって実 現される、現実 的なリスクに応じ
ファイル毎暗号化
(自己復号ファイル)
(パスワード設定)
た柔軟で合理的な個人情報保護制度の確立が期待さ
れます。その過 程において、IBM はグローバルでの経
験やノウハウを持つ企業として、海外の ID 管理やデー
38
健全なインターネットの発展のために
タ保護にかかわる取り組み事例や、新技術やシステム
日本 IBM では、大 変 残 念なことに、2008 年にお客
開発においてプライバシーの保護機能を初期段階から
様にご迷 惑をおかけした個 人 情 報 漏えい事 件が発 生
織り込む Privacy by Design の考え方、さらに先進的な
しました。しかし一方で、その対応に全社を挙げて徹
セキュリティー技術の利用など、さまざまな個人データ
底的に取り組むことで情報の流出を最小限に抑え、ま
をプライバシーに十分配慮した革新的な方法で活用す
た 関 係 諸 機 関 やセキュリティー 関 連 団 体と優 れ た 連
ることを提案していきます。
IBM Corporate Responsibility Report 2011
東日本大震災からの復旧・復興へのご支援について
2011 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災により、多くの方の尊い命が失われたことに深い哀悼の意を表します。
同時に、被害を受けられた皆様に対し、心よりお見舞いを申しあげます。
今回の大震災発生を受けて、日本 IBM では被災地の一刻も早い復旧のために、IBMソリューションの無償提供や IBM
機器向けの保守サービスの特別対応を行いました。また、IBMコーポレーション創立 100 周年の全社員による社会貢献
活動は、日本 IBM では被災された方々へのご支援を中心に推進します。
当社の主なご支援内容は、以下のとおりです。
〈災害特別支援プログラム〉
◦ IBM Smart Business Cloud3 カ月間無償提供プログラム(2011 年 3 月 13 日発表・提供開始)
公共性の高い緊急情報提供用サーバーを必要とする、地方公共団体、社会貢献活動や慈善活動を行う非営利団体等を対象
に、海外の IBM クラウド・センターの仮想サーバーを最大 3 カ月間無償で提供しました。当プログラムは、これまでに以下の
用途などに活用されています。
・災害救助法適用地域向け災害情報・管理支援アプリケーション基盤
・電力・水道・ガス等のライフライン系ホームページのミラー・サイト 他
◦ LotusLive 3 カ月間無償提供プログラム(2011 年 3 月 14 日発表・提供開始)
情報共有やメールの手段が必要な組織(地方公共団体、社会貢献活動や慈善活動を行う非営利団体等)を対象に、Webブラウ
ザーのみで利用可能なLotusLive のコラボレーションやメール機能を提供しました。
◦保守サービス特別対応
被害を受けられたお客様に対して、保守契約および保証期間中の機械の修理については、技術料は無償、部品代は特別価格と
する保守サービスの特別対応を行いました。
〈支援のための技術・サービスの提供〉
◦ NPO や公的機関に技術・サービスを無償提供
スマトラ島大地震の際に開発されたオープンソース・ソフトウェアを活用した災害時救援情報共有システム「SAHANA(サハナ)」の
日本語化と、IBMクラウド上での構築を支援するとともに、被災地での運用・展開を進めています。また、システムの設定、情報の
入力、および現地の方向けの利用方法のレクチャーなどを、日本 IBM の社員ボランティアが実施しています。
〈物資支援および義援金〉
◦被災地への物資提供
水や食糧など生活必需品、避難所の子どもや学校向けの本や文房具、避難所で使うPC 等を提供しています。
◦全世界の IBM からの義援金
IBMコーポレーションによる100 万ドルの無償技術支援に加え、全世界の IBM 社員個人からの義援金を募集し、各国の赤十字など
を通じ被災地への寄付を実施します。
〈社員によるボランティア活動〉
◦被災地の災害ボランティアセンターと連携した、復旧・復興支援活動への社員の参加
◦アメリカン・フットボール部およびラグビー部による、被災地での泥出し作業、避難所でのストレッチ運動指導、ラグビー
スクールの開催
◦被災地支援を行う NPO オフィスの支援 他
当 社は引き続き、被 災 地の復 旧・復 興に向けてのご支 援を継 続していくとともに、今 後はさらに、I T を活 用す
ることで将来の災害に強い新たなまちづくりに貢献できるよう、全力で取り組んでまいります。
日本アイ・ビー・エム株式会社 会社概況
会
社
名
称 : 日本アイ・ビー・エム株式会社
会 社 設 立 年 月 日 : 1937 年(昭和 12 年)6 月 17 日
◦ 2010 年度の業績
売
上
経
代 表 者 氏 名 : 代表取締役社長 橋本孝之
税引前当期純利益 : 1,242 億 7,200 万円
資
当 期 純 利 益 :
事
本
業
金 : 1,353 億円
内
常
高 : 9,377 億 7,300 万円
本 社 所 在 地 : 〒103-8510 東京都中央区日本橋箱崎町 19 番 21 号
利
益 : 1,282 億 2,300 万円
733 億 1,600 万円
容 : 情報システムにかかわる製品、サービスの提供
IBMコーポレーションおよび日本 IBM の CSR の取り組みについては、それぞれ
http://www.ibm.com/ibm/responsibility/
IBM、IBMロゴおよび ibm.com は、世界の多くの国で登録された International Business Machines Corporation
の商標です。他の製品名およびサービス名等は、それぞれ IBM または各社の商標である場合があります。
現時点での IBM の商標リストについては、www.ibm.com/legal/copytrade.shtmlをご覧ください。
http://www.ibm.com/jp/ibm/responsibility/
インテルおよび Intel は Intel Corpora tion または子会社の米国およびその他の国における商標または
登録商標です。
でご覧いただけます。
は、変更されている可能性があることをご了承ください。
◦本誌に記載されている肩書きや数値、固有名詞等は一部取り組み実施時のものであり、閲覧される時点で
IBM Corporate Responsibility Report 2011
ibm.com/jp
〒103-8510 東京都中央区日本橋箱崎町19-21 電話( 03 )6667-1111( IBMグループ番号案内)