コンクリート工学年次論文集 Vol.31 - 日本コンクリート工学協会

コンクリート工学年次論文集,Vol.31,No.1,2009
論文
土間・床コンクリートの性能評価に関する基礎的研究
竹内
博幸*1・高橋
祐一*2
要旨:工場や倉庫建築では,比較的大面積の土間や床スラブコンクリートが採用されることが多い。また,
食品工場などでは,土間・床スラブ自体は水掛かりが常態であり,ひび割れなどはもとより,湿潤状態でも
滑りにくく,かつ汚れにくい仕様が要求される。個々の評価要因に対してはある程度評価手法が確立されて
いるものの,複数の評価要因に対し,総合的に評価できる手法は,未だ整備されていない。そこで,筆者ら
は,食品工場などの水掛かりの土間・床スラブコンクリートを対象に定量的な評価について検討した。その
結果,基本的な評価試験方法により床の総合的な性能評価の基本となる定量的な指標が得られた。
キーワード:土間・床スラブ,大面積,水掛かり,個々の評価要因,複数の評価要因,定量的評価
1. はじめに
拡大効果が得られるとして,撥水剤を併用した仕様を追
工場・倉庫建築では,比較的大面積の土間や床スラブ
加している。
コンクリートが建築要素として採用されることが多い。
2.2 検証方法
当該用途の中でも,食品工場などは,土間・床スラブ自
所要性能の検証は,定量的に把握できる手法として,
体が水掛かりとなることが常態であり,ひび割れなどの
室内レベルで概ねの方向性を抽出することを目指した。
不具合はもとより,安全面については湿潤状態でも滑り
検証方法の概要を表-3に示す。
にくく,かつ衛生面については汚れにくい仕様が要求さ
ひび割れについては,「JIS A 1151」を改変した拘束式
れるのが通常である。しかしながら,個々の評価要因に
収縮試験方法を適用し,各適用材料につき図-1に示す
対してはある程度評価手法が確立されているものの,複
試験体を作製し,ひずみを測定した。試験体端部の拘束
数の評価要因に適切に対応し,かつ総合的に評価できる
用鋼棒は面積比約 4%で,通常の土間・スラブの配筋に
手法は,未だ整備されていないのが現状と言える。
表-1 検討対象
そこで,本報では,食品工場など水掛かりの土間コンク
目標
性能
リートを対象に,広面積でもひび割れの発生しない,か
つ湿潤状態でも滑りにくく,汚れにくい仕様の工法を目
指し,基本的な評価法について検討した結果を報告する。
ひ
び
割
れ
防
止
2. 実験方法
2.1 検討対象
ひび割れ防止と滑り・汚れ防止を目標とし,表-1に
示す各材料・工法について検討する。なお,検討対象の
材料・工法
摘 要
製造
単位水量
低減
≒160kg/m3
生コン
工場
膨張材
H-Ex
TM 社
収縮低減剤
TG-AS21
〃
ひび割れ
低減養生剤
カッター
目地
中,ひび割れ低減については一般によく用いられる手法
を利用して拘束式収縮試験により,その効果を定量的に
CS
〃
PCM 詰め 1]
左官工
ほうき目
〃
表面凹凸
評価した。膨張材,収縮低減剤は市販のもので実績の多
滑
り
防
止
・
汚
れ
防
止
いものを対象としている。一方,ひび割れ低減養生剤は
コンクリート面に直接塗布してその表面張力により収
縮を低減するタイプの材料である。防滑・防汚の検討対
象とした仕上げ材の仕様を表-2に示す。防滑について
は,表面に凹凸を形成するもの(表面凹凸,付着促進)
や通常の塗床材や塗膜材に防滑性を付与したものを対
象とした。防汚については,防滑と同様の対象とし,表
面を油分と混合した水で汚し,その色の違い(色差)で
評価した。付着促進剤「SN」については,表面微細孔の
NSM
防滑性
塗床材
塗膜
防滑剤
付着
促進剤
FH-C
メーカ
施工
標準
施工
CC-E
〃
BF
〃
SN
表面
塗布
SN
(撥水剤)
〃
備 考
石灰系
低級アル
コール系
低級アル
コール系
極微細孔
非磁性
防錆
エポキシ
樹脂系
防滑
粒子
微細孔
表面張力
撥水剤
併用
注)1]:カッター目地にポリマーセメントモルタル(PCM)を詰める。
*1 五洋建設(株)建築エンジニアリング部
部長
*2 五洋建設(株)建築エンジニアリング部
主任
(正会員)
-1633-
比較して拘束比が大きい。試験体は,コンクリート打ち
6要因とした。滑りと汚れについては,試験体および検
込み後,表面をコテ押さえし,20±2℃の気中で養生し
討要因を同一とし,表面形状,塗床材,塗膜剤および付
た。翌日,型枠を取り外し,試験体中央部の裏表にひず
着促進剤など,計5種類とした。なお,滑り,汚れの試
みゲージを貼付し,ひずみ測定を開始した。なお,各試
験体については,適用事例の実績から各試験体の仕上げ
験体の収縮ひずみは,試験体自体のひずみから試験体を
下地として,表面強化剤をあらかじめ施した。
拘束している鋼材のひずみ分を減じて算出した。
滑りについては,小野らが開発し,JIS A 1454 に規定さ
表-2 防滑・防汚検討対象の仕上げ材仕様
れている滑り試験機 O-Y・Pull Slip Meter1)~4)を用いるこ
名 称
ととし,滑り片・介在物の試験条件を同一として,各適
用工法につきその指標である滑り抵抗係数 C.S.R
NSM
1)~4)
を
測定した。
FH-C
汚れについては,「JIS A 1919」を参考とし,B 法(ス
プレー法),C 法(滴下拭取り法)の2種類を適用し 5),
CC-E
色差にて相対的に汚れにくさ・落ちやすさについて評価
BF
した。なお,滑りと汚れの試験体は,図-2に示すよう
に,いずれも 350×450×100 の寸法とし,同一形状・兼
SN
用とした。
SN
2.3 要因と水準
(撥水)
摘 要
特 徴
溶剤で表面処理
表面張力による
吸盤効果
非磁性、防錆
防滑:刷毛引き
高耐久・防食性
微細孔(2~7μm)
無機系 Cr,Ni
含有,t=5mm
エポキシ樹脂系
t=3.0mm
表面コーティング
防滑粒子
既存微細孔拡張
(7~10μm)
防滑処理後の
撥水剤適用
製造者
MK 社
A 商会
〃
ペースト防滑工法
表面凹凸仕上げ
高耐久性
表面張力による
吸盤効果
∵微細孔拡張
効果の増大
HJ 社
MT
建設
〃
各試験体に用いたコンクリートの調合を表-4に,各
目標性能における検討要因と水準を表-5に示す。
表-3 所要性能の検証方法
ひび割れについては,単位水量低減やカッター目地の
一般的な要因に加えて,混和材料や塗布型養生剤など計
目標
性能
検証方法
ひび
割れ
防止
拘束式
乾燥収縮
ひび割れ
試験方法
試験対象コンクリート
-100×40
(H=100)
φ13:拘束用
(両端ナット止め)
40
170
型枠材(底板)
40
φ12@30:拘束用
-100×40
試験対象コンクリート
滑り試験機
(H=100)
O-Y・Pull
Slip Meter
カッター目地
:W=2㎜
滑り
防止
φ13:拘束用
100
170
40
拘束ひずみ測定ゲージ(裏表)
(両端ナット止め)
参照)
40
170
(JIS A 1454
拘束形鋼ひずみゲージ 600
汚れ
防止
170
単位:㎜
940
防汚性
試験
(JIS L1919
参考)
図-1 拘束試験体
試験体下地コンクリート
仕上げ材
(H=100)
350
床面(底面)
単位:㎜
図-2 滑り・汚れ試験体
ひび割れ状態
(数・幅・長さ・形状
・時期)の確認
ひずみゲージに
て自動測定
滑り抵抗係数
滑り片:靴・ゴム
介在物:無・散水
状態(粉体混合)
汚れ難さ・
落ち易さ評価
B 法(スプレー)
C 法(滴下拭取り)
JIS A 1151:
比較試験体
(スランプ 18cm
・無処置)との
相対比較
試験体
:350×450
比較試験体
(表面無処置)
との相対比較
試験体
:350×450
色差にて相対
的判定
単位量(kg/m3)
W/C
(%)
100
摘 要
表-4 試験体コンクリートの調合
調合
450
概 要
W
C
S
G
Ad
Ex
基本
170
337
786
956
3.4
-
SL18
基本
158
313
774 1020
3.1
-
SL12
50.5
膨張
170
317
786
956
3.4
20
SL18
収縮
低減
170
337
786
956
3.4
-
SL18
注]
・SL:スランプ(cm)
・Ad:AE 減水剤(リグニン系) ・Ex:膨張材
・DS:収縮低減剤
-1634-
DS
-
-
-
6
3. 試験結果と検討
みは材齢に伴い収縮側に推移し,各要因に応じた傾向が
3.1 収縮試験結果
見られ,比較試験体に対し,膨張材,収縮低減剤,ひび
拘束収縮試験体の表裏にひずみゲージを貼付して測
割れ低減養生剤,単位水量低減の順に収縮が緩和されて
定したひずみ(表裏の平均)の経時変化を図-3に示す。
いる。膨張材適用の場合は,比較試験体に比べて 300μ
カッター目地の試験体は,材齢2日目に目地部にひび
程度の収縮低減量が見られる。なお,カッター目地を除
割れが発生し大きく開いたため,表側のゲージが切断さ
く試験体については,いずれも試験体中央の試験区域に
れ測定が不可となった。それ以外の試験体におけるひず
ひび割れは発生しなかった。
表-5 目標性能に対する検討要因と水準
目標性能
要 因
水 準
W≒160kg/m
膨張材:20kg/m3
収縮低減剤適用
収縮低減剤:6kg/m3
ひび割れ低減養生剤
塗布型:125g/㎡
カッター目地
W=2 ㎜,深さ:断面の 1/2
比較試験体
表面:金ごて押さえ
汚れ防止
940L×100~170W×100H
裏面ひずみゲージ貼付
目地:PCM 詰 1)
滑り試験体:(単位㎜)
ほうき目仕上げ
防滑性塗床材
・
SL≒12 ㎝
拘束試験体:(単位㎜)
膨張材適用
表面凹凸
滑り防止
SL≒18 ㎝
3
単位水量低減
防止
備 考
W≒170kg/m3
比較試験体
ひび割れ
試験体
塗膜防滑剤
付着促進剤
350W×450L×100H
極微細孔:150ml/㎡
NSM
無機質系
FH-C
350W×450L×100H
エポキシ樹脂系
CC-E
B 法・C 法:試験体の
浸透性硬化剤:800ml/㎡
BF
促進剤塗布:150ml/㎡
SN
汚れ試験体:(単位㎜)
防滑ペースト
各半面(350 ㎜×225 ㎜)
に対し実施
SN
同上・撥水剤併用
刷毛引き
各試験体に表面強化剤適用
(撥水)
注)1]:カッター目地にポリマーセメントモルタル(PCM)を詰める。
2000
比較試験体
単位水量低減
1500
1〕
膨張材
収縮低減剤
1000
ひずみ (μm)
j・
m
ハ
・i
・
ン
・
ク
ミ・
・
ひび割れ低減養生
カッター目地
500
0
0
5
10
15
20
25
30
35
40
45
50
-500
-1000
注)1〕:単位水量低減の試験体は,ひずみゲージ破損につき,測定値は経過 12 日まで。
図-3 拘束収縮試験体のひずみ経時変化
-1635-
55
60
経過日数
65
剤(BF)とほうき目については高い C.S.R 値を示した。
3.2 滑り試験結果
硬底と長靴では,一般に底が軟らかい後者が高い
表-6に,滑り試験結果を示す。また,今回実施した
C.S.R 値を示すことが多いが,今回の試験における介在
ものと同種の滑り試験機を写真-1に示す。
1)~4)
と称され,靴底を切り取った
物なしでは,両者はほぼ同程度か,硬底の方が若干高い
滑り片(底面 7×8cm)を試験対象床に置き,784N の鉛
C.S.R 値を示している。一方,散水状態の場合は,C.S.R
直荷重を載荷した上で,一定の引張荷重速度(784N/s)
値が低い工法・材料については,両者の同値はほぼ同程
と角度(18°)で引き上げた際の滑り片の滑り始めの抵
度となるものが多く,同値が比較的高い工法・材料につ
抗値であり,原則として2回実施し小さい方を採用する。
いては,硬底の方が高くなる傾向にある。これは,C.S.R
表中の試験値は,靴底と試験体間の介在物の状態を,介
値が比較的高い工法・材料は,靴底の硬度よりも試験体
在物なし,散水状態(魚油混合水[魚油:水=1:2]3ml
表面の硬軟や凹凸の程度による靴材との接触状態によ
を 100 ㎜×100 ㎜の範囲に散布)の2水準に,靴底の状
り防滑性が発揮されているものと推察される。
試験値は,C.S.R 値
態を,硬底,長靴の2水準に設定して試験を行った結果
である。なお,「ほうき目」試験体については,目の方
向と平行および直交の2通りについて試験を行った。2
回ずつ行った各試験値は,いずれの工法・材料について
も有意差は見られなかった。
建築に適用する場合,一般に,C.S.R 値が 0.4 以下の場
合「滑りやすく危険」とされる 6)が,今回適用した工法
は,介在物なしではいずれも C.S.R 値 0.7 を上回り,防
滑工法としての効果を示している。一方,散水状態とし
た場合については,比較試験体をはじめ,表面に凹凸を
形成させる工法(NSM,SN)と塗床材(CC-E)・長靴
については C.S.R 値 0.4 を下回る結果となっている。全
写真-1 滑り試験機
般的には,介在物の有無に限らず,塗床(FH-C),塗膜
表-6 滑り試験結果
滑り試験:C.S.R 値 1〉
No
1
2
試験体
比較試験体
ほうき目
摘 要
金鏝押さえ
刷毛引き
介在物なし
散水状態(魚油混合)
硬底
長靴
硬底
長靴
0.703
0.748
0.730
0.742
0.205
0.181
0.272
0.250
平行
直交
平行
直交
平行
直交
平行
直交
0.894
0.894
0.866
0.823
0.628
0.609
0.431
0.490
0.876
0.887
0.840
0.813
0.670
0.639
0.426
0.495
3
極微細孔
NSM
0.817
0.787
0.779
0.821
0.331
0.327
0.314
0.296
4
防滑性塗床
FH-C
0.855
0.854
0.826
0.848
0.668
0.629
0.537
0.528
5
〃
CC-E
0.937
0.910
0.811
0.785
0.483
0.471
0.309
0.296
6
塗膜防滑剤
BF
0.992
0.971
0.918
0.914
0.583
0.579
0.484
0.482
7
付着促進剤
SN
0.755
0.711
0.738
0.755
0.249
0.239
0.238
0.251
8
付着促進剤
(撥水剤併用)
SN+撥水剤
0.748
0.749
0.741
0.773
0.235
0.235
0.269
0.249
注] 1〉:滑り試験測定は原則として2回実施。太字は採用値。
-1636-
また,ほうき目については,全般的に高い C.S.R 値を
より,色差を算出し,汚れの残存程度を判定した。なお,
示し,目に対する方向性による滑りにも有意差は見られ
各試験体における測定は,測点5箇所につき行い,それ
ない。ただし,散水状態における長靴では他の条件に比
らの平均値を試験値とした。色差は,表-7の表外に示
較して低い C.S.R 値を示している。
すように,色相:a,彩度:b,明度:L のそれぞれの差
(Δa,Δb,ΔL)の相乗平均(ΔE)となる。
なお,撥水剤を併用することにより防滑性が高くなる
表-8に色差の評価例 7)を示す。また,それにより,
とされた付着促進剤(SN)は,いずれの条件下において
も,比較試験体の C.S.R 値とそれほど変わらない結果と
今回の汚れ試験結果を評価した結果を表-9に示す。
なった。
これより,試験前後の色差が最も小さいのは,塗膜剤
3.3 汚れ試験結果
(BF:灰色)と塗床材(CC-E:ゆず肌)であり,概ね,
表-7に,汚れ試験結果を示す。
表面に凹凸など不陸があるものは,その差が大きい傾向
汚れ試験は,各工法・材料につき,JIS L 1919「繊維製
にある。全般的には,C 法の方が B 法に比較して色差が
品の防汚試験方法」を参考にして,B 法(スプレー法)と
小さい傾向にあるが,色差が小さいものは,B 法と C 法
C 法(滴下拭取り法)により汚れ(魚油)を付着させ,前
における色差の差も小さい傾向にある。したがって,評
者の場合は乾燥後に,また後者の場合は拭取り後に,
価の目安としては,色差が小さいことと,B 法と C 法に
それぞれ表色値を測定し,試験前の同測定値との比較に
よる色差の差が小さいことが一例として挙げられる。
表-7 汚れ試験結果
汚れ試験:色差(ΔE)*1
No
試験体
摘 要
L
1
比較試験体
金鏝押さえ
a・b
初期値
(試験前)
B法
(スプレー法)
C法
(滴下拭取り法)
62.20
47.17
60.31
-1.41
ΔE
L
2
3
4
5
ほうき目
刷毛引き
極微細孔
NSM
防滑性塗床
FH-C
〃
CC-E
a・b
7
8
付着促進剤
付着促進剤
SN+撥水剤
(撥水剤併用)
注) *1: ΔE=
2
2
2
43.55
7.67
-0.26
53.22
9.05
-0.85
8.42
5.72
L
62.74
48.81
54.38
a・b
-0.96
6.95
-0.50
8.21
-0.58
8.61
ΔE
-
13.99
8.53
L
46.14
34.94
38.52
a・b
-15.91
11.68
-12.18
8.86
-14.04
10.52
ΔE
-
12.13
7.93
L
47.81
47.16
46.85
a・b
-17.18
14.34
-18.12
-
15.29
-18.06
1.49
35.66
-0.95
1.64
36.00
-2.73
-0.92
15.33
37.13
-2.33
-0.91
-2.73
ΔE
-
0.53
1.47
L
65.21
49.98
60.81
-1.10
7.78
-0.41
8.38
-0.92
8.94
ΔE
-
15.29
4.55
L
65.41
57.22
57.70
a・b
-1.00
ΔE
Δa +Δb +ΔL
1.90
15.44
a・b
SN
7.06
-
a・b
BF
-1.26
15.13
58.91
-1.07
8.41
ΔE
L
塗膜防滑剤
-0.29
-
ΔE
6
7.13
7.00
-
a:色相,b:彩度,L:明度
-1637-
-0.79
8.47
8.32
-0.69
9.58
8.14
しかしながら,色差は色の3要素を総合して数値化し
表-9 試験前後の色差による評価
ているものの,それに基づく評価は、各要素の絶対値や
光沢の具合,表面形状にも影響されるものと考えられ,
No
試験体
摘 要
B法
C法
1
比較試験体
金鏝押さえ
非常に
かなり
2
ほうき目
刷毛引き
非常に
目立って
3
極微細孔
NSM
非常に
大きい
4
防滑性塗床
FH-C
非常に
大きい
5
〃
CC-E
わずかに
かなり
6
塗膜防滑剤
BF
わずかに
わずかに
7
付着促進剤
SN
非常に
目立って
付着促進剤
SN
+撥水剤
大きい
大きい
汚れの評価対象としての適否については,未だ議論の余
地が多い。
4.まとめ
食品工場など水掛かりの土間・床スラブコンクリート
を対象に,広面積でもひび割れの発生を抑制する方法と
湿潤状態でも滑りにくく,汚れにくい仕様の仕上げ材料
を選定するにあたり,各検討要因に対する基本的な評価
試験方法を適用した結果,以下に示される事項が明らか
になった。
8
(撥水剤併用)
(1) 拘束収縮試験の結果,比較試験体に対し,膨張材,
収縮低減剤,ひび割れ低減剤,単位水量低減の順に収
本研究の実施にあたり,試験体の作製に関して仕上げ
縮が緩和されている。膨張材適用の場合は,比較試験
材料・工法を御提供いただいたメーカ各社には深く謝意
体に比べて 300μ程度の収縮低減量が見られる。
を表します。また,本研究の評価方法につき,適切な助
(2) 滑り試験の結果,適用した工法は,介在物なしで
言をいただいた東京工業大学の横山裕准教授と,試験実
はいずれも C.S.R 値 0.7 を上回り,防滑工法としての
施にあたり,多方面にわたる御協力をいただいた東海大
効果を示している。散水状態とした場合については,
学の横井健講師には,あらためて深謝する次第です。
比較試験体をはじめ,表面に凹凸を形成させる工法と
塗床材・長靴が C.S.R 値 0.4 を下回る結果となってい
参考文献
る。全般的には,介在物の有無に限らず,塗床(FH-C)
1) 小野英哲,宮木宗和,河田秋澄,吉岡丹:床のすべりお
と塗膜剤(BF),ほうき目が高い C.S.R 値を示した。
よびその評価方法に関する研究 その1 研究方法およ
(3) 防汚性試験の結果,試験前後の色差の差が最も小さ
びすべり感覚の尺度化,日本建築学会論文報告集,第
いのは,塗膜剤(BF:灰色)と塗床材(CC-E:ゆず
肌)であり,概ね,表面に凹凸など不陸があるものは,
その差が大きい傾向にある。全般的には,C 法(滴下
321 号,pp.1-8,1982.11
2) 小野英哲:床のすべりおよびその評価方法に関する研究
その2 すべり試験機設計・試作のための基礎的資料の
拭取り法)の方が B 法(スプレー法)に比較して色差
集積およびすべり試験機の基本構想,日本建築学会論
が小さい傾向にあるが,色差が小さいものは,B 法と
文報告集,第 333 号,pp.1-7,1983.11
C 法における色差の差も小さい傾向にある。したがっ
て,評価の目安としては,色差が小さいことと,B 法
3) 小野英哲ほか:床のすべりおよびその評価方法に関する
と C 法による色差の差が小さいことが一例として挙げ
研究 その3 すべり試験機の設計・試作,日本建築学会
論文報告集,第 346 号,pp.1-8,1984.12
られる。
(4) 今回適用した拘束式収縮・滑り・汚れの各試験に
4) 小野英哲,須藤拓,武田清:床のすべり評価指標および
より,土間・床スラブコンクリートの総合的な性能評
評価方法の提示 床のすべりおよびその評価方法に関
価の基本となる定量的指標が得られた。
する研究(その4),日本建築学会構造系論文報告集,
第 356 号,pp.1-8,1985.10
表-8 色差値の評価**1
色差値
5) (財)日本染色検査協会:JIS A 1919「繊維製品の防汚性
試験方法」について,ニッセンケンだより,2006.5
色差の感覚
6) 日本建築学会 床工事 WG:床の性能評価方法の概要と
0~0.5
trace
かすかに感じられる
0.5~1.5
slight
わずかに感じられる
1.5~3.0
noticeable
かなり感じられる
色名分類方法と日本色研の系統色名分類方法との比較
3.0~6.0
appreciable
目立って感じられる
-,研究紀要「色彩研究」,Vol.26,No.1,pp.17-24,
6.0~12
much
大きい
12 以上
very much
非常に大きい
注]
性能の推奨値(案),2008.6
7) 細野尚志:色名分類方法に関する資料-ISCC-NBS の
1980.
**1
:NBS 単位(米国標準局)による。
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