脂質系試薬によるマウス繊維芽球NIH 3T3細胞のトランスフェクション

Protein Expression コーナー
脂質系試薬によるマウス繊維芽細胞 NIH 3T3 のトランスフェクショ
ン-その比較検討
イントロダクション
脂質系トランスフェクション試薬が入手可能と
細胞のトランスフェクション
なる前は、マウス繊維芽細胞 NIH 3T3 は本質的に
細胞はそれぞれの使用説明書と推奨の至適化パ
トランスフェクションできず、レトロウイルスに
ラメータに従い、以下のトランスフェクション試
よる遺伝子導入などの方法が、この問題を克服す
薬で行いました:FuGENE 6、FuGENE HD、LT-1、
るために採用されてきました。レトロウイルスは
LX、LX + PLUS の各トランスフェクション試薬で
100%の細胞でのトランスジーンの発現に使用で
す。
きますが、その発現は弱いものでした。それに加
え、NIH 3T3 細胞は伝統的に細胞の形質転換研究
トランスフェクション効率と細胞毒性
に使用され、癌遺伝子を作るレトロウイルスは安
トランスフェクションされた細胞のパーセンテ
全性の問題からも有用ではありません。最近は、
ージは蛍光顕微鏡の各視野内の GFP 発現細胞の数
レンチウイルスが細胞での高遺伝子発現(100%ま
を数え、トータルの細胞数で割り、測定しました。
で)の目的で使用されています。しかしながら、、こ
これはウェル毎に 5 回行い、平均を取りました。
の方法はやはり安全性の問題が大きく、安全性レ
次に細胞を 4%パラフォルムアルデヒドで固定し、
ベル 2+の培養施設の新設が要求され、コスト的に
スライド上で Leica SP2 顕微鏡を用いて、可視化
高く時間もかかります。それゆえ、施設の新設や
および定量化しました。細胞毒性は未トランスフ
癌遺伝子を持つウイルスを使用することなく細胞
ェクション細胞と比較して、トランスフェクショ
の形質転換研究が行える、NIH 3T3 細胞をトラン
ンの 48 時間後に生細胞数を数えることで評価しま
スフェクションできる最良の脂質系試薬を決定す
した。
ることには大きな興味があります。NIH 3T3 細胞
で良好に作動すると主張する、3 つのメーカーより
の 5 種類の脂質系試薬を細胞毒性、トランスフェ
クション効率、至適化の負担の点について比較し
ました。
材料と方法
細胞培養
結果
至適化
すべての試薬で至適化は容易で、1 ラウンドの実
験のみしか必要ではありませんでした。トランス
フェクション試薬 LT-1 はテストしたすべてのパラ
メータで最小の差異で、至適化では効率や細胞毒
性に変化は見られませんでした。他の試薬はすべ
NIH 3T3 細胞(ATCC CRL-1658)と HA-RAS
てのテスト条件間で変動が見られました。トラン
形質転換 NIH 3T3 細胞を 24 ウェルディッシュの
スフェクション効率のパーセンテージは表 1 に要
1 ウェル中の 4 枚からなるカバースライド当り
約してあります。とりわけ、トランスフェクショ
25,000 個の密度で播種しました。24 時間後に、細
ン試薬 LX は脂質:DNA コンプレックスのインキ
胞を 0.5μg の EGFP プラスミドでトランスフェク
ュベーションの後に培地交換を必要とし、細胞毒
ションし、その 48 時間後に GFP 発現細胞数を数
性も他の試薬と異なり 50%以上でした(データ未
えることでトランスフェクション効率を測定しま
掲載)。また、他のトランスフェクション試薬では
した。
トランスジーンの発現を測定するまで更なる操作
ステップは必要としませんでした。
Protein Expression コーナー
細胞毒性
他の試薬のトランスフェクション効率は無視でき
るものでした。
トランスフェクション試薬 LX 単独、あるいは
LX + PLUS で細胞毒性が観察されましたが、他の
討論
試薬は脂質:DNA コンプレックスとのインキュベ
ーションを延長しても細胞を殺さず、最小限の細
トランスフェクション試薬 LX は、in vivo スタ
胞毒性でした。
ディでは同等のレベルでトランスフェクションで
きました;しかしながら、細胞毒性があり、健康
トランスフェクション効率
な NIH 3T3 細胞が必要とされる研究では採用でき
ないでしょう。この試薬はまた、トランスフェク
すべての試薬は、トランスフェクション効率の
指標である EGFP を発現した細胞のパーセンテー
ションとその至適化に多大な時間を必要とします。
ジを見るため、至適な条件化で比較されました。
LT-1 は 至 適 化 パ ラ メ ー タ に わ た り 均 質 で 、
FuGENE HD と FuGENE 6 は形質転換 NIH 3T3
FuGENE 6 は未形質転換細胞に置いて僅かに高い
細胞において最も良いトランスフェクション効率
トランスフェクション効率を示しましたが、
を示し、特に FuGENE HD は未転換細胞において
FuGENE 6 と LT-1 はすべてのテストされたパラ
すべての試薬を凌駕していました(表 1、図 1 と 2)。
メータでほぼ同等の性能を示しました。FuGENE
トランスフェクション試薬 LX + PLUS では大量
HD は形質転換および未転換 NIH 3T3 細胞の両方
の細胞死を引き起こしましたが、トランスフェク
において最良のトランスフェクション効率を示し、
ション試薬 LX を除くすべての試薬が形質転換細
細胞毒性もありませんでした。また、他の試薬に
胞において、60%の細胞をトランスフェクション
比べて至適化も簡単でした。これら事実を総合す
できました(表 1)。未形質転換細胞においては、
ると、NIH 3T3 の脂質系でのトランスフェクショ
FuGENE 6 と FuGENE HD は他の試薬を凌駕し、
ンにおいて、FuGENE HD は最良の試薬でした。
表 1:この研究に使用した脂質系試薬の至適化のサマリー
トランスフェクションされた HRAS NIH 3T3 細胞(%)
試薬:DNA 比
3:2
2:1
5:2
3:1
7:2
4:1
6:1
8:1
細胞毒性
(%細胞死)
FuGENE HD
10
FuGENE 6
50
40
55
65
75
75
60
LT-1
0
55
60
60
60
0
45
0
LX
10
35
45
30-40
LX + PLUS(0.5μl)
10
30
60
30-40
LX + PLUS(1.0μl)
10
30
60
30-40
トランスフェクションされた NIH 3T3 細胞(%)
試薬:DNA 比
3:2
2:1
5:2
3:1
7:2
4:1
6:1
8:1
細胞毒性
(%細胞死)
FuGENE HD
5
FuGENE 6
15
LT-1
15
25
28
28
35
30
20
0
25
10
10
0
20
0
LX
0
10
15
40-80
LX + PLUS(0.5μl)
10
10
15
40-60
LX + PLUS(1.0μl)
5
15
30
50
Protein Expression コーナー
図 1:NIH 3T3 細胞の GFP トランスフェクション効率。
(a) トランスフェクション試薬 LT-1、(b) FuGENE 6、(c) FuGENE HD。
図 2:Ras-NIH 3T3 細胞の GFP トランスフェクション効率。
(a) トランスフェクション試薬 LT-1、(b) FuGENE 6、(c) FuGENE HD。