ADR 法およびテンシオメーター法を用いたモデル斜面崩壊 - 土木学会

土木学会第65回年次学術講演会(平成22年9月)
Ⅲ-022
ADR 法およびテンシオメーター法を用いたモデル斜面崩壊実験のモニタリング
日本大学理工学部
正会員
日本大学大学院
学生会員
下辺
悟
○五内川
譲
の位置に ADR プローブ 10 本、テンシオメーター8本
1.はじめに
を埋設し、斜面が崩壊するまで降雨強度 40mm/h で8
我が国は地質構造が脆弱で台風が多く、近年では局
地的集中豪雨による土砂災害の影響で尊い命が犠牲に
時間連続降雨させ、各プローブの測定を行った。
なっていることは記憶に新しい。降雨に対する地盤防
3.試験結果と考察
災・減災の一助として、土砂災害の発生メカニズムの
(1)ADR 法による含水量のキャリブレーション
出力電圧と体積含水率の関係を図-1、2に示す。
解明が必須であり、そのためには土の含水量・サクシ
その結果、今回の校正実験に使用したプローブ⑦、⑮
ョン分布状況の把握が重要である。
本研究は ADR(Amplitude Domain Reflectometry)
(山砂)、プローブ⑦(関東ローム)のキャリブレーシ
ョンカーブは既往の試験結果と一致した。
法による土の含水量測定の実用性を調べるとともに、
その工学的応用として ADR 法と従来のテンシオメー
また、プローブ間の器差については体積含水率の絶
ター法を併用した土壌カラム試験およびモデル斜面崩
対誤差は山砂Ⅲで±1%以内、関東ロームⅣで±2%
壊のモニタリング手法について検討を加えたものであ
以内に、次いで相対誤差は山砂Ⅲ、関東ロームⅣとも
る。
に±5%以内に収まった。さらに、当該キャリブレー
2.試験装置と試験方法
ションカーブにはヒステリシス現象は認められないこ
ADR 土壌水分計(以降、ADR プローブと略す)は、
とから、ADR 法の実用性はかなり高いといえる。
50
土の誘電率 ε をその出力電圧で求める装置である。本
2008年全データ
2009年プローブ⑦(給水過程)
試験では、あらかじめ対象土における出力電圧 Vwet
体積含水率 θw (%)
と体積含水率θw のキャリブレーションカーブを求め
ておき、これに出力電圧の測定値を代入し体積含水率
1)
を求める 。所定の含水状態に設定した対象土を供試
体作製用モールドに均一に詰め、ハーバード・ミニチ
山砂
2009年プローブ⑮(給水過程)
40
2009年プローブ⑦(蒸発過程)
2009年プローブ⑮(蒸発過程)
多項式 (2008年全データ)
多項式 (2009年プローブ⑦(給水過程))
30
多項式 (2009年プローブ⑮(給水過程))
多項式 (2009年プローブ⑦(蒸発過程))
多項式 (2009年プローブ⑮(蒸発過程))
20
10
ュアコンパクターで締固めを行い、供試体の表面3箇
0
所に ADR プローブを差し込み、出力電圧の平均値を
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
0.9
1
出力電圧 Vwet (V)
求めた。その後、炉乾燥法により含水比 w と体積含水
図-1 出力電圧と体積含水率の関係(山砂)
率θw を求め、キャリブレーションカーブを作成した。
80
土壌カラム試験(内径 20cm、高さ 73cm)では、カ
70
ラム上層部に関東ローム、下層部に山砂を用い、降雨
60
体積含水率 θw (%)
関東ローム
による浸潤・排水過程(平均降雨強度 20mm/h、連続
降雨8h)における土の含水状態の経時変化を上記
ADR プローブで、土のサクションの経時変化を測定で
きるマイクロ・テンシオメーター(以降、テンシオメ
50
40
30
2007年全データ
2008年全データ
2009年プローブ⑦(給水過程)
2009年プローブ⑦(蒸発過程)
多項式 (2007年全データ)
多項式 (2008年全データ)
多項式 (2009年プローブ⑦(給水過程))
多項式 (2009年プローブ⑦(蒸発過程))
20
10
ーターと略す)を用いて計測を行った。
0
0
モデル斜面崩壊実験では実験土槽(幅 80cm、長さ
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
0.9
1
1.1
1.2
出力電圧 Vwet (V)
120cm、高さ 90cm)内に上層部が関東ローム、下層部
図-2 出力電圧と体積含水率の関係(関東ローム)
が山砂を用いて斜面の勾配 33°に設定した二層モデ
(2)二層土壌カラム試験
降雨による二層カラム試験の浸潤・排水過程におけ
ル斜面を作製し、降雨による崩壊実験を行った。所定
キーワード ADR 法、モニタリング、斜面崩壊、含水量、サクション
連絡先 〒274-8501 千葉県船橋市習志野台 7-24-1 TEL 047-469-5241 FAX 047-469-2581
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土木学会第65回年次学術講演会(平成22年9月)
Ⅲ-022
る経過時間 t と、ADR プローブによる予測体積含水率
ル hm との関係を示す。その結果、斜面上層部にある
θw*の関係を図-3に示す。
テンシオメーターの No.2から4の順に hm が反応し急
関東ロームⅥ(プローブ①)
関東ロームⅥ(プローブ②)
関東ロームⅥ(プローブ③)
山砂Ⅲ(プローブ⑤)
山砂Ⅲ(プローブ⑥)
山砂Ⅲ(プローブ⑨)
山砂Ⅲ(プローブ⑫)
降雨過程
120
予測体積含水率 θw (%)
関東ローム
100
関東ローム・飽和体積含水率
(θw)s =71.6%
降
雨
浸
潤
近へと順に逐次崩壊が起きていると考えられる。
平均降雨強度
20mm/h
*
山砂
激に低下している。このことから斜面先から斜面肩付
80
これらの試験結果より今回は崩壊警告時間を 30 分
60
とした。その根拠として、ADR プローブ①~④のθw
*
値が急激に上がり降雨開始から 30 分後に一定値に落
40
ち着いた点と、テンシオメーターの No.2、3、4の
山砂・飽和体積含水率
(θw)s =37.5%
20
hm 値が降雨開始 30 分後に急激に低下したことの2点
排水過程
0
0
240
480
720
960
1200
を考慮し、崩壊警告時間とした。
1440
経過時間 t (分)
80
降雨による二層カラム試験の浸潤・排水過程
マトリックポテンシャル hm(-cmH2O)
図-3
その結果、降雨浸潤過程ではカラム上部のプローブ
における経過時間と予測体積含水率の関係
①から下方へ順に予測体積含水率が上昇していった。
降雨終了後では、上部のプローブほど予測体積含水率
が減少した。これは、排水過程において重力の作用に
より下部ほど水が貯留され易いためだと考えられる。
(3)二層モデル斜面崩壊実験
平均降雨強度
40mm/h
70
60
斜面先崩壊
50
崩壊警告時間
40
斜面肩崩壊
30
テンシオメーター挿入位置
関東ローム
③
②
⑥
⑤
④
⑧
①
⑦
山砂
20
10
0
-10
-20
-30
モデル斜面の降雨浸潤過程における斜面崩壊実験の
No.2
No.3
No.4
No.5
No.6
No.7
No.1
No.8
0
30
60
120
180
240
300
360
経過時間 t (分)
経過時間 t と予測体積含水率θw*の関係を図-4に示
す。
図-5 経過時間とマトリックポテンシャルの関係
100
関東ローム・飽和体積含水率
(θw)s =71.6%
関東ローム(プローブ①)
関東ローム(プローブ③)
関東ローム(プローブ⑤)
山砂(プローブ⑨)
山砂(プローブ⑫)
平均降雨強度
40mm/h
予測体積含水率 θw (%)
80
4.結論
関東ローム(プローブ②)
関東ローム(プローブ④)
関東ローム(プローブ⑥)
山砂(プローブ⑩)
① 山砂、関東ロームを用いた含水量のキャリブレー
*
ション試験の結果、体積含水率の予測精度は JIS 炉
60
乾燥法と比べ、体積含水率の絶対誤差は山砂で±
40
1%以内、関東ロームで±2%以内、相対誤差は山
山砂・飽和体積含水率
(θw)s =37.5%
20
5
ADRプローブ挿入位置
斜面肩崩壊
0
4
3
関東ローム
1
崩壊警告時間
-20
0
30
60
斜面先崩壊
120
2
経過時間 t (分)
240
2
性は高い。
10
9
② 土壌カラム試験では、ADR プローブおよびテンシ
山砂
7
180
砂と関東ロームともに±5%以内で ADR 法の実用
6
12
300
360
オメーターを併用することで、降雨浸潤排水過程に
おける土壌カラム内の深度ごとの含水量・サクショ
図-4 降雨による二層モデル斜面崩壊実験の経過時
ンのモニタリングが可能である。
間と予測体積含水率の関係
その結果、各 ADR プローブのキャリブレーション
③ 二層モデル斜面崩壊実験では、ADR プローブおよ
カーブによってθw*の変化を比較してみると、地表面
びテンシオメーターを併用することで、降雨を伴う
にあるプローブ①から⑥まで順に反応している。また、
斜面内の含水状態のモニタリング、斜面崩壊過程の
プローブの値の変化に合わせて斜面が逐次崩壊パター
様相をリアルタイムで検知可能である。
ンを示していることから、予測体積含水率の急激に変
参考文献
化している点は斜面崩壊パターンを検知していると考
1) 井出裕介・山内賢一:ADR およびテンシオメータ
えられる。さらにその中で斜面先付近にあるプローブ
ー法を用いたモデル斜面崩壊実験のモニタリングに
①とプローブ②のθ w * が特に高い数値を示している
よる検知技術の実用性の検討、平成 21 年度日本大
点が注目すべき結果である。これは水分が斜面に沿っ
学理工学部社会交通工学科卒業論文、pp.17-25、
て移動しているためであると考えられる。
2009 年.
一方、図-5に経過時間 t とマトリックポテンシャ
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