(LTE) 平成23年度特許出願動向調査 - 特許庁技術懇話会

TECHNO
TREND
抄録
携帯高速通信技術
(LTE)
現在普及している第 3 世代携帯電話の延長線上で、
次世代の技術を先取りした通信規格である LTE(Long
Term Evolution)については、国際標準化団体である
3GPP にて標準化の作業が進められ、2009 年 3 月に
仕様が確定しました。すでに国内外の一部の携帯電話
事業者が LTE を用いたサービスを開始しているほか、
他の携帯電話事業者も今後商用化を予定しています。
今回のテクノトレンドでは、このように社会的注目
を集めている「LTE」について、平成 23 年度特許出願
技術動向調査の調査結果から、特許動向、標準化動向
をご紹介し、最後に、今後我が国が目指すべき方向性
について示します。
─平成 23 年度
特許出願動向調査─
特許審査第四部デジタル通信
(前特許審査第四部審査調査室)
浦口 幸宏
1.
本稿では、このように近年注目を増している LTE につ
はじめに
いて、平成 23 年度特許出願技術動向調査の調査結果 3)から、
特許動向、標準化動向をご紹介します。そして、最後に、
みなさんは、「LTE」という名前を聞いたことがありま
今後我が国が目指すべき技術開発、研究開発の方向性につ
すでしょうか?
いて示します。
通信分野以外の方には、あまり馴染みのない名前かも知
2.
れません。しかし、
「Xi(クロッシィ)」
(株式会社エヌ・ティ・
ティ・ドコモの登録商標)であれば、耳にしたことがある
という方も多いのではないでしょうか。
LTE(Long Term Evolution)とは、この Xi で採用されて
LTE とは
(1)LTE とは
いる通信規格です 1)。携帯電話機と基地局との間
(無線区間)
〜第 3.9 世代……第 3 世代と第 4 世代の橋渡し〜
の通信を、従来よりも大幅に高速・大容量化するものであり、
これまでにない新たなサービスを実現できるとともに、近年
携帯電話システムは段階的に進化しており、アナログ方
大きな問題となっている回線の逼迫を解消できる手段とし
式の第 1 世代(1G: 1st Generation)
、デジタル方式の第 2 世
て、大変注目されています。2009 年 12 月に、欧州の携帯電
代(2G)を経て、現在の日本では、W-CDMA、CDMA2000
話事業者である TeliaSonera 社がスウェーデン及びノル
などの通信方式を用いた第 3 世代(3G)
、あるいは 3G の通
ウェーにおいて商用サービスを開始したのを皮切りに、世
信速度を高速化した第 3.5 世代(3.5G)が主流になっていま
界中で導入が進められており、我が国においても、株式会
す。 さ ら に、 現 在、2015 年 以 降 の 実 用 化 を 目 指 し て、
社エヌ・ティ・ティ・ドコモ(2010 年 12 月)
、イー・アクセ
1Gbps の超高速通信を可能とする第 4 世代(4G)携帯電話
ス株式会社(2011 年 3 月)が既にサービスを開始しているほ
システムの標準化が進められています。
か、KDDI 株式会社、ソフトバンクモバイル株式会社も、今
LTE とは、3G/3.5G から 4G への円滑な移行を図るとい
後 LTEを用いたサービスの開始を予定しています 2)。
うコンセプトの下、4G で採用される予定の技術の一部を
1)L
TEとは、元々は、国際標準化団体 3GPP(3. 参照)におけるプロジェクト名であったが、現在は、規格や技術の名称としても定着している。
2)LTE とは異なるが、ソフトバンクモバイル株式会社は、2012 年 2 月より、LTE と同等の高速通信サービス「ソフトバンク 4G」の提供を開
始している。
3)調査結果の概要は、右 URL から参照可能。http://www.jpo.go.jp/shiryou/pdf/gidou-houkoku/23lte.pdf
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TECHNO TREND
1980s
1990s
2000s
2010s∼
世代
1G
2∼2.5G
3G
3.5G
3.9G
4G
方式
アナログ方式
デジタル方式
PDC, GSM,
cdmaOne等
W-CDMA,
Cdma2000等
HSPA,
EV-DO等
LTE,
モバイルWiMAX等
LTE-Advanced,
Wimax2
サービス名
mova等
mova,
cdmaOne,
SoftBank6-2等
FOMA,
CDMA 1X,
SoftBank3G等
FOMAハイスピード,
CDMA 1x WIN,
WIN HIGH SPEED,
3Gハイスピード等
Xi,
EMOBILE LTE等
∼64kbps
∼384kbps
∼数十Mbps
100Mbp超s
1Gbps
※mova、FOMA、Xiは、株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモの登録商標。 ※SoftBankは、ソフトバンク株式会社の登録商標。
※EMOBILEは、イー・アクセス株式会社の登録商標。 ※WINは、KDDI株式会社の登録商標。
※3Gハイスピードは、ソフトバンクモバイル株式会社の登録商標。
図2-1 携帯電話システムの進化
先取りして 3G/3.5G に導入することで、無線区間の通信
②大容量
の高速・大容量化を図るものです。3G/3.5G と 4G とを橋
LTE で は、 通 信 に 使 用 す る 周 波 数 の 利 用 効 率 を
渡しする通信方式であることから、「第 3.9 世代(3.9G)
」
3G/3.5G より高めることで、3G/3.5G と同じ周波数帯域
と呼ばれています 。
幅に対して約 3 倍の通信容量を実現しています。つまり、
4)
従来の 3 倍の量の通信を同時に行えるようになります。
スマートフォンの普及等に伴うデータ通信量の急増によ
(2)LTE の特長 〜高速・大容量・低遅延〜
り、携帯電話事業者各社の通信容量は逼迫し、通信できな
LTE の大きな特長として、
「高速」、
「大容量」、
「低遅延」
い、あるいは通信速度が低下するといった事象が増加して
が挙げられます。以下、それぞれについて説明します。
きています。LTE は、このような通信容量の問題を解決
する手段として、大きな期待を集めています。
①高速
現行 3G/3.5G の下り(基地局から携帯電話機への通信)
③低遅延
通信速度が最大でも数十 Mbps にとどまるのに対し、LTE
3G/3.5G では、携帯電話機がネットワークと接続を確立
では、下り通信速度が最大 326.4Mbps であり、光ファイバー
するまでに数秒程度かかっていましたが、LTE では、こ
並みの通信速度を実現できます。ただし、実際の通信速
れ を 100 ミ リ 秒 以 下 に す る こ と が で き ま す。 ま た、
度は、使用する周波数帯域幅や周囲の環境等によって異
3G/3.5G では、無線区間の伝送遅延が数十ミリ秒程度発
なるため、必ずしも規定の速度を実現できるわけではあ
生していましたが、LTE では、これを 5 ミリ秒以下に抑
りません。
えることができます。このため、オンラインゲームや IP
高速
大容量
低遅延
下り最大 326.4Mbps
下りの通信容量が
HSPA の 3 倍
接続遅延:100ms
伝送遅延:5ms(片側)
LTE
(3.9G)
下り最大 14.4Mbps
HSPA
(3.5G)
図2-2 LTE(3.9G)とHSPA(3.5G)との比較
4)電
気通信関連の国際標準を策定する国連機関である国際電気通信連合(ITU)が、LTE に「第 4 世代(4G)
」の名称を使用することを認めたた
め、LTE を「4G」と呼ぶ事業者もいる。
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技術
多重化方式(データ通信)
・OFDM ・SC-FDM ・コード多重
・PAPR ・MIMO
課題
ハイレベル要求条件
多元無線アクセス方式
コスト低減
高速化
小型化
低電力化
低コスト化
周波数帯域の柔軟な利用
大容量化
低遅延化
単純なアーキテクチャ
オープンインタフェース
多サービス
好体感性
ユーザ体感の改善
通信制御
・リソース管理/スケジューリング
・制御信号 ・フィードバック情報
・動的(適応)制御 ・再送制御
・符号化
通信システム
・マルチセル協調 ・複信方式
・セル ・ハンドオーバ
・セルサーチ ・リレー
・MBMS ・DRX/DTX
・位置情報サービス ・マルチバンド
利便性
常識的な端末消費電力
チャネルの種別
ハンドオーバの高速化
調査項目
LTE に関係する
項目のみ調査
・物理チャネル ・論理チャネル
・トランスポートチャネル
音声サービス
・Voice メッセージ受信
・緊急通報接続
図2-3 LTEの技術俯瞰図
電話のようなリアルタイムな反応が必要とされるサービス
連盟(ATIS)
、中国通信標準化協会(CCSA)
、欧州電気通
を快適に利用できるようになります。
信標準化機構(ETSI)
、韓国情報通信技術協会(TTA))が
連携して運営するパートナーシッププロジェクトで、主に
3G システム関連の標準仕様の検討・策定を行っています
(3)LTE の技術俯瞰
(図 3-1)
。あくまで標準化機関間の
“共同作業の場”であり、
LTE は、(2)で挙げた特長に加え、コスト低減・ユー
ザ体感の改善・周波数帯域の柔軟な利用等のハイレベル要
法的な団体ではありません。
求条件を満たすことが求められています。
3GPPは、プロジェクト全体の管理を行うプロジェクト調
これらの要求条件に基づき、LTE の技術を整理すると、
整グループ(PCG: Project Coordination Group)と、技術仕
図 2-3 のようになります。
様の検討・作成を行う技術仕様グループ(TSG:Technical
Specification Group)とから構成されています。TSGは、技
3.
術分野別に4 つ(TSG-RAN、TSG-SA、TSG-CT、TSG-
LTE の標準化プロセス
GERAN)設けられており、LTEのような無線区間の高速・
大容量化に関する技術は、主に TSG-RAN(Radio Access
Network: 無線アクセスネットワーク)で扱われています。各
LTE の標準化は、2004 年より、国際標準化団体の一つ
である 3GPP(3rd Generation Partnership Project)にお
TSG の配下には、さらに、いくつかの作業部会
(WG:Working
いて進められ、2009 年 3 月に仕様が確定しました(3GPP
Group)が置かれており、それぞれ特定の作業項目が割り当
Release 8)。その後、3GPP において、LTE の更なる高機
てられています(図 3-2)
。各 WG は、年に 4 回、定期的に開
能化に向けた標準化が進められ、2010 年 3 月に仕様が確
催されますが、不定期に開催されるアドホックワーキンググ
定しています(3GPP Release 9)。以下では、3GPP の構
ループと呼ばれるものもあります。
成及び標準化プロセスについて、ご紹介します。
(2)3GPP の標準化プロセス
〜 TSG で仕様策定、各標準化機関で個別に発行〜
(1)3GPP の構成
〜各国・地域の標準化機関が連携して運営〜
個々の3GPPメンバー企業からの技術提案は、TSG配下の
3GPP とは、標準化機関パートナー(OP: Organizational
WGで検討され、技術仕様が策定されます。各OPは、3GPP
Partner)と呼ばれる 6 つの標準化機関(日本の電波産業会
で策定された技術仕様を各自の国・地域の標準として発行し
(ARIB)、情報通信技術委員会(TTC)、米国電気通信産業
ます 5)。さらに、各 OPは、3GPPの技術仕様を国際標準とす
5)各 OP は、3GPP で作成された技術仕様をそれぞれの国・地域の標準として採用することにあらかじめ合意している。
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TECHNO TREND
個々のメンバー企業
TSG-RAN
3GPP
技術提案
無線アクセス・ネットワーク
PCG
RAN WG1
TSG-RAN
無線区間のレイヤ 1
TSG-SA
ITU
TSG-CT
RAN WG2
無線区間のレイヤ 2 と
レイヤ 3 の無線リソース管理
国際勧告
TSG-GERAN
運営サポート等
RAN WG3
Iub/Iur/Iu 仕様と無線アクセス
ネットワークの保守運用条件
3GPP 仕様
を提案
技術仕様
標準化機関パートナー
( OP )
ARIB
TTC
ATIS
CCSA
ETSI
RAN WG4
TTA
無線性能とプロトコル関連
RAN WG5
移動機試験
3GPP 仕様を各機関の国・地域の標準として発行
図3-1 3GPPの組織構成と標準化プロセス
図3-2 TSG-RANの構成
るべく、協力して国際電気通信連合(ITU)に技術仕様を提案
2008 年以降の出願件数は、全データを反映していない可
し、ITUが国際勧告として発行するよう活動しています 6)。
能性があります。
4.
(1)全体動向
特許動向
〜日本からの出願が多い、外国出願の出願先は米
欧中が中心〜
LTE のうちレイヤ 1 に属する技術を中心に、特許動向
7)
の調査を行いました。調査対象の特許出願は、出願日(優
図 4-1 に、日米欧中韓への出願における、出願人国籍別
先権主張日)が 2006 年〜 2009 年、出願先が日本、米国、
の出願件数の割合及び推移を示します。
欧州、中国、韓国のものとしました。なお、発行された特
各年とも日本国籍の出願が多く、日米欧中韓における出願の
許文献がデータベースに収録されるまでの時間差や PCT
大きな割合を占めています。また、韓国籍の出願の占める割
出願が各国の国内段階に移行するまでの時間差のために、
合が増加してきており、米国籍の出願に近づきつつあります。
6,000
その他
318 件
2.0%
日本
6,713 件
41.6%
中国
801 件
5.0%
出願件数
韓国
2,926 件
18.1%
5,531
5,342
5,000
3,956
4,000
優先権主張
2006 年∼ 2009 年
3,000
2,000
1,301
1,000
欧州
1,635 件
10.1%
0
米国
3,737 件
23.2%
合計
16,130 件
2006
2007
2008
2009
出願年(優先権主張年)
出願人国籍
日本
米国
欧州
中国
韓国
その他
合計
※ファミリーは重複してカウントしている。
※2008 年∼ 2009 年は、PCT 出願が国内移行するまでの期間が長いこと等によるデータベースの収録遅れに注意を要する。
図4-1 出願人国籍別出願件数比率及び出願件数推移
6)L
TE 及びその後継規格である LTE-Advanced は、いずれも国際勧告化されている。LTE については、3G の無線インタフェースに関する国
際勧告である ITU-R 勧告 M.1457 に規定されている。また、LTE-Advanced については、2012 年 1 月の ITU の無線通信総会において、
WiMAX2とともに次世代規格(図 2-1 の「4G」
)として正式に承認され、ITU-R 勧告 M.2012として発行されている。
7)ネ
ットワークの物理的な接続・伝送方式を定めるもの。ネットワークにおけるプロトコルの機能を表したOSI参照モデルの第1層目に位置する。
「物理層」とも呼ばれる。
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6,000
韓国
2,615 件
16.2%
5,531
5,342
5,000
出願件数
日本
3,934 件
24.4%
中国
2,670 件
16.6%
3,956
4,000
優先権主張
2006 年∼ 2009 年
3,000
2,000
米国
3,857 件
23.9%
欧州
3,054 件
18.9%
1,301
1,000
0
合計
16,130 件
2006
2007
2008
2009
出願年(優先権主張年)
出願先国
日本
米国
欧州
中国
韓国
合計
※ファミリーは重複してカウントしている。
※2008 年∼ 2009 年は、PCT 出願が国内移行するまでの期間が長いこと等によるデータベースの収録遅れに注意を要する。
図4-2 出願先国別出願件数比率及び出願件数推移
次に、図4-2に、日米欧中韓への出願における、出願先国別
欧中韓への出願を積極的に行っていることがうかがえます。
の出願件数の割合及び推移を示します。日本国籍の出願件数
また、日本への出願件数は、米欧中韓への出願件数を上
が他国籍の出願件数を大幅に上回っている(図4-1)のに対し、
回ってはいるものの、
その多くが国内出願で占められており、
日本への出願は、他の国への出願件数と同規模であり、日本
他国からの出願件数に限って見ると、米欧中韓いずれより
の出願人が活発に海外出願を行っていることが読み取れます。
も低い値となっています。
次に、図4-3に、日米欧中韓における出願収支を示します。
一方、中国における他国からの出願件数は、米国・欧州
日本国籍の出願は、いずれの国・地域においても、大き
と並んで高い水準にあり、多くの企業が、中国への出願に
なシェアを占めており、この図からも、日本の出願人が、米
も重点を置くようになってきていることがうかがえます。
中国籍
51 件
1.3%
韓国籍
305 件
7.8%
欧州国籍
284 件
7.2%
米国籍
612 件
15.6%
1,444 件
日欧中韓へ :2,711 件
日欧中韓から:2,723 件
米国への出願
3,857 件
日本国籍
2,643 件
67.2%
284 件
305 件
51 件
日本国籍
1,444 件
37.4%
中国籍
116 件
3.0%
欧州国籍
392 件 10.2%
米欧中韓へ:4,070 件
米欧中韓から:1,252 件
612 件
その他
108 件
2.8%
韓国籍
771 件
20.0%
その他
39 件 日本への出願
3,934 件
1.0%
800 件
392 件
米国籍
1,026 件
26.6%
771 件
米国籍
800 件
26.2%
中国籍
496 件
18.6%
欧州国籍
263 件
9.9%
欧州への出願
3,054 件
407 件
535 件
936 件
韓国籍
300 件
11.2%
日米中韓へ :1,112 件
日米中韓から:2,455 件
日本国籍
1,155 件
37.8%
中国籍
93 件
3.0%
93 件
620 件
中国への出願
2,670 件
その他
76 件
2.5%
韓国籍
407 件
13.3%
欧州国籍
523 件
17.1%
116 件
日米欧韓へ :305 件
日米欧韓から:2,119 件
1,155 件
その他
55 件
2.1%
263 件
その他
40 件
1.5%
679 件
日本国籍
936 件
35.1%
米国籍
620 件
23.2%
45 件
韓国籍
1,143 件
43.7%
300 件
中国籍
45 件
1.7%
図4-3 日米欧中韓における出願収支
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67
tokugikon
173 件
日本国籍
535 件
20.5%
米国籍
679 件
26.0%
欧州国籍
173 件
6.6%
日米欧中へ :1,783 件
日米欧中から:1,432 件
韓国への出願
2,615 件
TECHNO TREND
どの技術区分においても、日本国籍の出願が他国の出願
(2)技術区分別の動向
よりも多くなっています。また、日米欧中韓とも、通信制
〜各国・地域とも通信制御の出願が多い〜
御、多重化方式、通信システムの分野の順に出願件数が多
日米欧中韓への出願における、出願人国籍別の技術区分
くなっています。
別出願件数を図 4-4 に示します。
多重化方式(データ信号)
技術区分
2414
937
655
219
1048
通信制御
3123
1356
629
368
1343
通信システム
984
907
251
204
542
112
チャネル
その他の LTE 関連技術
521
50
517
日本
米国
33
6
122
133
65
155
欧州 中国
出願人国籍
※1 つの特許出願に対して
複数の技術区分を付与して
いるものが含まれている。
韓国
図4-4 技術区分別─出願人国籍別出願件数
トップであり、表 4-1 においても、多くの日本企業が上位
(3)出願人別動向
10 社にランクインしていますが、出願人個々の出願件数
〜出願件数上位に日本企業多数、しかし、首位は
を見ると、米国のクゥアルコムの出願件数が他の出願人を
クゥアルコム〜
大きく上回っていることがわかります。
日米欧中韓への出願における、出願件数上位 10 社の推
また、LG エレクトロニクス、三星電子といった韓国企
移を表 4-1 に示します。
業が出願件数の上位を維持し続けており、LTE の分野に
(1)で見たように、出願人国籍別の出願件数では日本が
おいて、韓国企業の存在感が高いこともうかがえます。
表4-1 出願件数上位10社の推移
2006年~
2009年
件数
2006年
クゥアルコム
(米国)
2,417
1
2
NTT ドコモ
1,500
3
LG(韓国)
1
三星電子
(韓国)
4
件数
2007年
クゥアルコム
(米国)
964
1
2
NTT ドコモ
466
1,438
3
富士通
1,046
4
LG(韓国)
三星電子
(韓国)
件数
2008年
クゥアルコム
(米国)
818
1
2
NTT ドコモ
505
422
3
LG(韓国)
357
4
342
5
件数
2
LG(韓国)
456
2
399
3
NTT ドコモ
404
3
NTT ドコモ
391
4
富士通
230
4
富士通
85
パナソニック
334
5
シャープ
215
5
シャープ
77
シャープ
286
6
三星電子
(韓国)
186
6
日立製作所
71
エリクソン
247
(スウェーデン)
7
京セラ
168
7
三菱電機
54
京セラ
51
インテル
(米国)
45
三星電子
(韓国)
三星電子
(韓国)
5
6
パナソニック
777
6
パナソニック
267
6
7
シャープ
695
7
日本電気
195
7
8
日本電気
531
8
インターデジ
タル(米国)
167
8
日本電気
184
8
パナソニック
157
8
507
9
163
9
三菱電機
183
9
日本電気
130
9
158
10
富士通
180
10
エリクソン
109
(スウェーデン)
10
10
京セラ
464 10 京セラ
226
1
917
華為技術
(中国)
LG(韓国)
603
富士通
エリクソン
(スウェーデン)
件数
クゥアルコム
(米国)
5
9
2009年
韓国電子通信
研究院(韓国)
※ファミリーは重複してカウントしている。
※2008年~2009年は、PCT出願による国内移行までの期間が長いこと等によるデータベースの収録遅れに注意を要する。
tokugikon
68
2012.8.21. no.266
127
125
38
5.
表5-1 規格提案採用件数上位25社
標準化動向
順位
企業名
採用件数
1
エリクソン(スウェーデン)
255
3GPP の TSG-RAN(無線区間の仕様策定を担当する技
2
モトローラ(米国)
146
術仕様グループ。図 3-1 参照。)のうち、レイヤ 1 の仕様作
3
ノキア(フィンランド)
144
成を担当する WG1(図 3-2 参照)の会合において、2006 年
4
クゥアルコム(米国)
140
から 2011 年 3 月会合までに提出された規格提案文書 8)
(「寄
5
三星電子(韓国)
123
書」と呼ばれる)を対象に、LTE(レイヤ 1)の標準化動向
6
華為技術(中国)
122
の調査を行いました。
7
(1)
全体動向 〜欧米からの提案が多い、中韓も増加〜
規格提案における主要プレーヤであると考えられる、規
格提案採用件数 9)上位 25 社を、表 5-1 に示します。
ノキア ・ シーメンス ・ ネットワークス
(フィンランド)
117
8
LG(韓国)
107
9
アルカテル・ルーセント(フランス)
101
10 NTT ドコモ
86
11 パナソニック
85
12 テキサス ・ インスツルメンツ(米国)
81
この表を見ると、採用件数の上位は、米欧中韓企業で占
13 中国電信科学技術研究院(中国)
80
められており、日本企業は、中位〜下位に位置しているこ
14 中興通訊(中国)
77
とがわかります。
15 中国移動(中国)
50
次に、表 5-1 の 25 社について、企業(研究機関を含む。
16 ノーテル(カナダ)
43
以下同じ。)国籍別の規格提案件数 (寄書提出件数)の割
17 日本電気
41
合及び提案件数の推移を図 5-1 に示します。
18 韓国電子通信研究院(韓国)
30
2007 年以降は、欧州国籍の提案が最も多く、LTE の規
19 三菱電機
28
格提案の多くに、欧州企業が関与していることがわかりま
20 フィリップス(オランダ)
27
す。また、中国国籍・韓国国籍の提案が年々増加しており、
21 中国電気通信伝送研究所(中国)
26
22 ボーダフォン(英国)
25
23 シャープ
23
24 リサーチ ・ イン ・ モーション(カナダ)
22
24 オレンジ(フランス)
22
10)
日本や米国を上回るようになってきている点も注目され
ます。
一方、日本企業の規格提案件数は、2006 年には、特許
出願件数同様、トップであったものの、その後順位が低下
※連名による共同提案については、各企業がそれぞれ1件の提案をし
たとしてカウントしている。
し、2008 年以降は、4 〜 5 位に位置しています。
10,000
日本
4,265 件
16.3%
8,000
提案件数
韓国
3,921 件
15.0%
その他
905 件
3.5%
米国
4,867 件
18.6%
中国
4,417 件
16.9%
6,000
合計
26,188 件
8,029
5,065
4,809
4,000
3,751
3,454
2,000
0
欧州
7,813 件
29.8%
提案
2006 年∼ 2011 年 3 月
1,080
2006
2007
2008
2009
2010
2011
提案年
企業国籍
日本
米国
欧州
中国
韓国
その他
合計
※連名による共同提案については、各企業がそれぞれ 1 件の提案をしたとしてカウントしている。
※2011 年は、3 月までの件月までの件数。
図5-1 企業国籍別規格提案件数比率及び提案件数推移
8)LTE 関連の寄書だけでなく、その後継規格である LTE-Advanced 関連の寄書も含む。
9)TSG-RAN WG1 会合で「Agreed」、「Approved」又は「Endorsed」と決定された規格提案文書の数(CR(Change Request)を除く)
。
10)CR(Change Request)を除く。
2012.8.21. no.266
69
tokugikon
TECHNO TREND
500
2,000
1,622
提案件数
提案件数
1,307
1,116
1,000
883
853
453
500
0
日本
米国
提案
2006 年∼ 2011 年 3 月
400
1,500
欧州
中国
韓国
349
300
211
200
192
150
150
49
100
0
その他
2006
2007
2008
2009
2010
2011
提案年
企業国籍
企業国籍
日本
米国
欧州
中国
韓国
その他
全体
※連名による共同提案については、各企業がそれぞれ 1 件の提案をしたとしてカウントしている。
※2011 年は、3 月までの件数。
図5-2 1社当たりの規格提案件数及び推移
次に、図 5-1 の件数を提案企業 1 社当たりの件数に換算
その一方で、日本企業の 1 社当たり件数は、2006 年に
したものを図 5-2 に示します。
は米国と同等の高い水準にあったものの、その後低下し、
2007 年以降、米欧韓企業の 1 社当たり件数が、相対的
米欧中韓に大きく差を開けられた状態にあります。
に高い水準を維持しており、これらの国・地域の企業が
次に、表5-1の25社について、企業国籍別の規格提案採用
LTE の標準化活動に注力していることがうかがえます。
件数の比率及び採用件数の推移を図5-3に、図5-3の件数を
また、2008 年以降、中国企業の 1 社当たり件数が急増
提案企業1社当たりの件数に換算したものを図5-4に示します。
しており、米欧韓と肩を並べる水準に達しています。中国
規格提案の採用件数についても、提案件数と同様の傾向が
企業が、LTE の標準化において存在感を増しつつある状
見られ、米欧韓企業が標準化に強い影響力を持っていること、
況がうかがえます。
及び、
中国企業の影響力も強まりつつあることがうかがえます。
600
その他
65 件
3.2%
採用件数
韓国
260 件
13.0%
500
日本
263 件
13.1%
米国
367 件
18.3%
中国
355 件
17.7%
427
527
400
377
300
321
286
200
100
63
0
欧州
691 件
34.5%
提案(採用)
2006 年∼ 2011 年 3 月
2006
2007
2008
企業国籍
合計
2,001 件
2009
2010
2011
提案(採用)年
日本
米国
欧州
中国
韓国
その他
合計
※連名による共同提案については、各企業がそれぞれ 1 件の提案をしたとしてカウントしている。
※2011 年は、3 月までの件数。
図5-3 企業国籍別規格提案採用件数比率及び採用件数推移
40
150
提案(採用)
2006 年∼ 2011 年 3 月
122
提案件数
提案件数
99
100
87
71
50
53
30
23
18
20
15
12
13
10
33
3
0
日本
米国
欧州
中国
企業国籍
韓国
0
その他
2006
2007
2008
企業国籍
日本
2009
米国
欧州
中国
韓国
※連名による共同提案については、各企業がそれぞれ 1 件の提案をしたとしてカウントしている。
※2011 年は、3 月までの件数。
図5-4 1社当たりの規格提案採用件数及び推移
tokugikon
70
2010
2011
提案(採用)年
2012.8.21. no.266
その他
全体
次に、表 5-1 に示した 25 社のうち、日米欧中韓の企業
(2)企業別動向
23 社について、企業国籍別の共同規格提案の関係を図 5-5
〜米欧韓企業が上位を維持、中国企業の躍進も目
に示します。
立つ〜
いずれの国籍の企業も、多くの欧州企業と共同規格提案
を行っていることがわかります。
表 5-1 の 25 社のうち、規格提案件数上位 10 社の推移を
また、米韓企業は、自国企業との共同規格提案をあまり
表 5-2 に、規格提案採用件数上位 10 社の推移を表 5-3 に示
行っていないこともわかります。
します。
提案件数、採用件数ともに、欧州のエリクソン、アルカ
テル・ルーセント、ノキア、ノキア・シーメンス・ネット
企業国籍
日本
2211
1499
3086
1333
1313
2171
米国
1499
517
2938
1613
1346
3707
欧州
3086
2938
3547
3422
2418
2794
中国
1333
1613
3422
1621
1454
2353
韓国
1313
1346
2418
1454
465
ワークス、米国のクゥアルコム、韓国の三星電子が上位を
維持しており、これらの企業が LTE の標準化に強い影響
力を持っていることがうかがえます。
また、韓国の LG エレクトロニクス、中国の華為技術、
電信科学技術研究院(CATT)
、中興通訊(ZTE)が上位に
入るようになってきており、LTE の標準化における、中
韓企業の躍進ぶりがうかがえます。
2899
単独提案
韓国
中国
欧州
米国
日本
その一方で、米国のモトローラは、2008 年までは提案
件数 1 位、採用件数 2 位を維持していましたが、その後順
位を下げています。
共同提案企業の国籍
日本企業は、2006 年には、提案件数上位 10 社中 4 社を
占め、採用件数も最高で 4 位に入っていましたが、その後
※連名による共同提案については、各企業がそれぞれ 1 件の
提案をしたとしてカウントしている。
順位が低下し、近年では、上位 10 社に日本企業が入るこ
とは、少なくなっています。
図5-5 企業国籍別共同規格提案件数の分布
表5-2 規格提案件数上位10社の推移
2006年~
件数
2011年
2006年
件数
2007年
件数
2008年
件数
2009年
件数
2010年
件数
2011年
件数
アルカテル・
エリクソン
エリクソン
332 1 ルーセント
452 1
851 1
139
(スウェーデン)
(スウェーデン)
(フランス)
アルカテル・
モトローラ
ノキア
ノキア
クゥアルコム
2
1,986 2 NTT ドコモ 327 2
456 2
313 2
379 2 ルーセント
833 2 LG(韓国) 99
(米国)
(フィンランド)
(フィンランド)
(米国)
(フランス)
アルカテル・
三星電子
エリクソン
三星電子
NSN
華為技術
三星電子
3
1,901 3
268 3
385 2
313 3
359 3
648 2 ルーセント
99
(韓国)
(スウェーデン)
(韓国)
(フィンランド)
(中国)
(韓国)
(フランス)
ノキア
エリクソン
エリクソン
華為技術
三星電子
4
1,811 4 日本電気
244 4
372 4
279 4 LG(韓国) 350 4
588 4
89
(フィンランド)
(スウェーデン)
(スウェーデン)
(中国)
(韓国)
エリクソン
モトローラ
2,227 1
(スウェーデン)
(米国)
1
モトローラ
345 1
(米国)
モトローラ
606 1
(米国)
クゥアルコム
三星電子
NSN
1,746 5
242 5
330 5 LG(韓国)
(米国)
(韓国)
(フィンランド)
アルカテル・
クゥアルコム
クゥアルコム
三星電子
6 ルーセント
1,734 6
239 6
322 6
(米国)
(米国)
(韓国)
(フランス)
5
エリクソン
267 5
318 5 LG(韓国)
(スウェーデン)
クゥアルコム
538 5
(米国)
ノキア
ノキア
華為技術
266 6
312 6
496 6
(フィンランド)
(フィンランド)
(中国)
中国電信科学
クゥアルコム
NSN
クゥアルコム
322 7
242 7
310 7
484 7 技術研究院
(米国)
(フィンランド)
(米国)
(中国)
華為技術
モトローラ
NSN
8
8
8
8
8
8
8
1,566
シャープ
187
NTT ドコモ 300
パナソニック 241
285
452
パナソニック
(中国)
(米国)
(フィンランド)
テキサス・イン
テキサス・イン
中国電信科学
NSN
ノキア
三星電子
中興通訊
9
1,454 9
185 9 スツルメンツ 275 9 スツルメンツ 224 9
271 9 技術研究院
444 9
(フィンランド)
(フィンランド)
(韓国)
(中国)
(米国)
(米国)
(中国)
テキサス・イン
中国電信科学
華為技術
中興通訊
ノキア
10 パナソニック 1,255 10 スツルメンツ 179 10 パナソニック 236 10
193 9 技術研究院
271 10
394 10
(中国)
(中国)
(フィンランド)
(米国)
(中国)
NSN
10
(フィンランド)
7
LG(韓国) 1,717 7 三菱電機
197 6 LG(韓国)
※連名による共同提案については、各企業がそれぞれ1件の提案をしたとしてカウントしている。
※NSNは、ノキア・シーメンス・ネットワークの略。
※2011年は、3月までの件数。
2012.8.21. no.266
71
tokugikon
80
73
67
61
52
49
49
TECHNO TREND
表5-3 規格提案採用件数上位10社の推移
2006年~
件数
2011年
2006年
件数
2007年
エリクソン
エリクソン
255 1
40
(スウェーデン)
(スウェーデン)
1
モトローラ
(米国)
38
2
ノキア
クゥアルコム
144 3
25
(フィンランド)
(米国)
2
クゥアルコム
ノキア
140 4
22
(米国)
(フィンランド)
4
三星電子
(韓国)
22
5
18
5
1
2
モトローラ
146 2
(米国)
3
4
5
123 4 NTT ドコモ
華為技術
(中国)
三星電子
122 6
(韓国)
中国電信科学
NSN
7
117 7 技術研究院
(フィンランド)
(中国)
華為技術
8 LG(韓国) 107 8
(中国)
アルカテル・
ノーテル
9 ルーセント
101 8
(カナダ)
(フランス)
6
10
NTTドコモ
13
86 10 日本電気
件数
2008年
エリクソン
42
(スウェーデン)
1
モトローラ
(米国)
37
2
ノキア
37
(フィンランド)
3
クゥアルコム
31
(米国)
3
三星電子
(韓国)
5
30
NSN
30
(フィンランド)
テキサス・イン
7 スツルメンツ
23
(米国)
件数
2009年
エリクソン
44
(スウェーデン)
1
モトローラ
(米国)
32
2
ノキア
31
(フィンランド)
3
NSN
31
(フィンランド)
4
クゥアルコム
26
(米国)
4
三星電子
(韓国)
5
26
エリクソン
45
(スウェーデン)
クゥアルコム
29
(米国)
華為技術
(中国)
NSN
25
(フィンランド)
5
モトローラ
(米国)
アルカテル・
6 ルーセント
(フランス)
三星電子
8
(韓国)
中国電信科学
9 技術研究院
(中国)
5
パナソニック 26
華為技術
(中国)
20
9
ノーテル
(カナダ)
テキサス・イン
20 10 スツルメンツ 19 10 LG(韓国)
(米国)
12
9
10
9
華為技術
(中国)
20
華為技術
(中国)
4
22
LG(韓国)
エリクソン
80
(スウェーデン)
アルカテル・
2 ルーセント
50
(フランス)
ノキア
25
(フィンランド)
6
件数
1
3
LG(韓国)
8
2010年
26
5
12
26
件数
LG(韓国)
39
32
2011年
三星電子
(韓国)
1
1
アルカテル・
ルーセント
(フランス)
華為技術
4
(中国)
1
NSN
29
(フィンランド)
5
ノキア
27
(フィンランド)
5
クゥアルコム
26
(米国)
5
三星電子
(韓国)
26
8
6
21
7
17
7
16
9
NTT ドコモ
23
8
14
9
パナソニック 23
8
中興通訊
(中国)
23
6
6
6
5
エリクソン
4
(スウェーデン)
21
9
LG(韓国)
件数
パナソニック
4
中興通訊
(中国)
4
モトローラ
(米国)
3
クゥアルコム
(米国)
3
NTT ドコモ
3
中国電信科学
技術研究院
(中国)
3
8
※連名による共同提案については、各企業がそれぞれ1件の提案をしたとしてカウントしている。
※NSNは、ノキア・シーメンス・ネットワークの略。
※2011年は、3月までの件数。
この図において、日本企業と他国企業とを比較すると、
(3)特許出願件数と規格採用件数との関係
日本企業は、相対的に、特許出願件数は多いものの、規格
〜日本は特許出願中心〜
採用件数は少ない傾向にあることがわかります。このこと
LTE 分野の主要企業について、特許出願件数と規格採
から、日本企業においては、技術開発は活発に行われてい
用件数との関係を図 5-6 に示します。
るものの、規格策定につながる技術の開発や、開発した技
術を標準化につなげる活動などが、他国企業と比べて必ず
しも十分には行われていないことがうかがえます。
600
パナソニック
500
特許出願件数
シャープ
400
日本電気
300
クゥアルコム
三星電子
NTTドコモ
LG
中興通訊
100
0
50
100
提言
これまで見てきたように、我が国は、特許出願件数は世
エリクソン
華為技術
200
0
6.
界でトップレベルにありますが、標準化への影響力は、必
モトローラ
ずしも高いとは言えません。その一方で、中国・韓国企業
ノキア
の躍進は著しく、規格提案件数・採用件数の点では、我が
150
200
250
国を上回り、欧米企業に並ぶ地位に就きつつあります。
300
携帯高速通信技術の分野において、我が国の技術が世界
規格採用件数
最先端の地位にありつづけられるようにするためには、
※特許出願件数:
・出願日
(優先権主張)を基準として、2006 年∼ 2009 年に
日米欧中韓になされた特許出願の件数。
・ファミリーは重複を排除してカウントしている。
※規格採用件数:
・2006 年∼ 2011 年 3 月に採用された規格提案文書の件数。
・連名による共同提案については、各企業がそれぞれ 1 件
の提案をしたとしてカウントしている。
LTE とさらにその先の次世代通信技術(LTE-Advanced、
Beyond LTE-Advanced)において、日本企業の国際競争
力をより一層向上させるための取組が必要不可欠です。
このような背景を踏まえ、本技術動向調査では、今後
の我が国の方向性として、以下の 3 つの提言をまとめまし
た。
図5-6 特許出願件数と規格採用件数との相関
tokugikon
72
2012.8.21. no.266
に、それらを研究開発戦略・事業戦略と結びつけていく取
【提言 1】採用率の高い規格提案を行うための国内研究
組が不可欠です。
者の育成と技術の垂直連携
3GPP の標準化会議では、性能評価の高い技術が規格と
平成 23 年度特許出願技術動向調査報告書「携帯高速通
して採用される傾向にあるため、日本からの規格提案の採
信技術(LTE)
」がそのような取組を進める上での一助と
用率を向上させるには、性能の高い技術を開発することに
なれば幸いです。
加えて、技術の発案から性能評価までの一連の過程を、他
なお、報告書本編には、本稿で掲載したもの以外にも、
国・地域の企業よりもタイムリーに実行していくことが重
LTE の特許動向、標準化動向に関する様々なデータが掲
要です。
載されております。ご興味のある方は、是非、ご参照くだ
このため、日本企業が産学連携を積極的に行い、理論解
さい。
析や、早急性が求められない先駆的な技術開発を国内外の
大学にアウトソーシングすることにより、規格への採用可
能性が高い技術の開発を効率的に行える体制を整備するこ
とが望まれます。
また、標準化会議の場において、海外企業との交渉・調
整を的確に行えるよう、技術力はもちろんのこと、高いレ
ベルの交渉力と語学力とを備えた研究者を育成していくこ
とも必要です。
【提言 2】グローバル市場獲得のための外国企業との連
携強化
グローバル市場獲得のため、国内メーカが海外オペレー
タ、特に今後の市場拡大が見込まれるインドや中国のオペ
レータとグローバルなオペレータ・メーカ連携を構築すべ
きです。そして、それらのオペレータを介して各国のニー
ズをいち早く獲得し、それぞれのニーズに適合する製品の
開発とその権利化を、他国・地域の企業に先駆けて行うこ
とが望まれます。
【提言 3】成長市場の技術分野に関する開発強化
LTE は、 携 帯 電 話 の み な ら ず、 ヘ ル ス ケ ア や ITS
(Intelligent Transport Systems: 高度交通システム)
、ス
マートグリッドなど、様々な分野での活用が期待されてい
ます。LTE をこれらの新しい分野に適用するためのサー
ビス条件を調査し、製品をタイムリーに開発するとともに、
他国・地域に先駆けて権利化及び標準化を進めていくこと
が望まれます。
7.
おわりに
profile
世 界 中 で LTE の 導 入 が 始 ま る 中、 既 に 次 世 代 方 式
(LTE-Advanced)の標準化も完了しつつあり、さらに、そ
浦口 幸宏(うらぐち ゆきひろ)
の次の世代の方式(beyond LTE-Advanced)についても検
平成 15 年 4 月 特許庁入庁(特許審査第四部電話通信)
平成 19 年 4 月 審査官昇任
特許審査第一部調整課、特許審査第四部伝送システム、総務部総
務課、特許審査第四部審査調査室を経て、
平成 24 年 7 月より現職
討が始まっているなど、携帯高速通信技術の標準化は目ま
ぐるしい動きを見せています。
我が国企業がこの動きに取り残されることなく、国際的
に主導的地位を保持していくためには、標準化戦略、知財
戦略の一方に注力するのではなく、両者を連携させ、さら
2012.8.21. no.266
73
tokugikon