24G-05(5頁) 川村洋次(近畿大学経営学部): 広告映像編集システムの

24G-05
広告映像編集システムの試み-ショットから広告へ-
川村洋次
近畿大学
1.広告映像制作支援情報システムの構想
筆者は、クリエイターによる広告映像制作、クリエイターとマーケターによる共同制作、さらに
は、広告会社と消費者・生活者による共同制作等を、映像修辞に基づいて支援する情報システム(図
1)を構築することを目指している(川村,2004)。情報システムは、映像データベースを具備し、
映像修辞処理に基づき広告映像を検索・生成するデータベースシステムである。
広告会社
クリエイター
広告映像制作支援
情報システム
映像ショット
技法修辞登録
広告映像
映像評価
シナリオ分析
マーケター
広告映像
生活シナリオ
図1
検索・生成
(映像技法・修辞)
広告映像
キーワード
生活シナリオ
消費者・生活者
映像
データベース
広告映像制作支援情報システムの概念
2.既に開発したシステムの機能
筆者は、上記のシステムの実現に向けて、280 本の広告映像を対象に、内容技法・編集技法の分
析を行い、内容技法の主要なものとして、全体型・提供者ストーリー型・消費者ストーリー型・イ
メージ型、編集技法の主要なものとして、時系列型・商品機能挿入型・商品受容挿入型、を抽出し
た(川村,2009b)。また、それらの広告映像(280 本)の映像ショット(3643 ショット)を映像
データベースとして構築して、分析した内容技法と編集技法をメニューとして実装し、メニューの
クリックによりショットを自動的に編集する広告映像制作支援情報システム(以下、「CFSPS」と
呼ぶ。)を開発した(川村,2009a;2009c;2009d)。
しかし、開発した CFSPS は、あくまで既往の広告映像を基にした編集システムであり、特定の
商品、決められた演出(構図、画面要素)の映像ショットを組み合わせるシステムとなっている。
3.開発しているシステムの機能
筆者は、演出技法と効果との関係を探るための実験に向けて、仮想のビール商品を設定し、様々
な演出技法を取り込んだ映像ショットをデータベース化することを試みている。
1)仮想のビール商品を設定
仮想のビール銘柄を「refresh」と設定した。
2)様々な演出技法を取り込んだ映像ショットのデータベース化
「refresh」を基に「消費状況」「商品機能」「商品受容」「消費効果」に関連して、
・主人公の年代:20 代(今のところ 20 代のみ、今後は幅広くする予定)
・主人公の性別:男性、女性
・空間的特徴:家、海(今後は、街、山など撮影する予定)
・時間的特徴:昼間(今後は、夜、夕方など撮影する予定)
・撮影:固定、ズーム
・表情・ポーズ:笑顔、商品を頭に乗せる、手を伸ばす、ジャンプ
・ショット秒数:1.5 秒、3 秒
などが異なる映像ショットを撮影し実装した。また、映像ショットを検索するためのインデッ
クスファイルを作成し実装した。
1
表1
区分
映像
データ
ベース
入力
検索
生成
出力
CFPSS の機能概要
項目
商品ジャンル
広告映像ショット数
検索インデックス数
インデックス内容
映像ショット秒数
入力情報
仕様
ビール
286 ショット
286 ファイル
54 項目(ショット要約、広告ストーリー、主役特徴等)
3秒
キーワード、文章
基本類似度、応用類似度(内容注目フィルター、演出注目フィル
検索方法選択
ター、時間・効果注目フィルター、視聴者注目フィルター)
作品検索
利用者に指定された作品の映像ショットをサムネイル表示
基本類似度と応用類似度に基づき、利用者が入力したキーワード
キーワード検索(①の操作) や文章に近い映像ショットを抽出しサムネイル表示(ショット表
示、広告ストーリー別ショット表示)
利用者の選択(広告ストーリー型<全体型、提供者ストーリー型、
消費者ストーリー型、イメージ型>、編集型<時系列型、商品機
自動生成(②の操作)
能挿入型、商品受容挿入型>)に基づき、サムネイル表示した映
像ショットを自動的にストーリーボードに登録
利用者の手動(ドラッグ&ドロップ)に基づき、サムネイル表示
した映像ショットをストーリーボードに登録
手動生成(③の操作)
利用者の手動(ファイル設定)に基づき、付加する音響ファイル
を登録
映像ショット再生
画面上でクリックされた映像ショットを再生
ストーリーボードに登録された映像ショットをつなげ、音響を付
広告映像再生(④の操作)
加して再生
再生条件記録
入力情報、検索方法、ストーリーボードの映像ショット名を記録
映像ショットのデータベース化は、現在、作業中であるが、現時点で実装している機能は表 1 の
通りである。全体として、①~④に示す操作イメージである。
①映像ショット検索
利用者は、広告コンセプト、キーワード、文章等を入力し、映像データベースから映像ショ
ット群(広告映像の候補となる映像ショット)を検索する。
②自動(既往技法・修辞)による広告映像生成
利用者は、既往の広告映像技法・修辞の中から技法・修辞(内容技法、編集技法;川村,2009b)
を選択し、CFSPS は、自動的にその技法・修辞に基づき①で検索した映像ショット群から映像
ショットを抽出して、時間順序を並べ替える。
③利用者による広告映像生成
利用者は、①で検索した映像ショット群の中から映像ショットを選択し、時間順序を並べ替
える。あるいは、利用者は、②で抽出した時間順序の映像ショットを変更したり、並べ替える。
そして、利用者は、付加する音響ファイルを選択する。
④広告映像再生
CFSPS は、並べ替えた映像ショット群をつなげ、それに音響を付加して再生する。
4.広告映像生成実験に向けて
映像データベースは 286 ショットの映像ショットを現在具備している。CFSPS は、例えば「木
の上でのんびり、芝生でビールを飲んで笑顔でOK。」という文章が入力されると(図 2)、文章入
力を分かち書きした単語群の出現頻度が高いインデックスを持つ映像ショット群を、消費状況、商
品機能、商品受容、消費効果、の中から抽出し(図 3)、検索結果として表示する(図 4)。そして、
既往の広告映像の内容技法や編集技法のルール(テンプレート)にあてはめてショットをつなげる
(図 5:図 5 は、消費者ストーリー型・時系列型を選択してストーリーボードを生成したものであ
る)。
2
図2
映像ショット
入力画面
インデックス
キーワード
文章
広告ストーリー
(内容技法)
木の上でのんび
消費状況
り。芝生でビール
女、木の上、
を飲んで笑顔で
のんびり・・・
OK。
消費状況
消費状況の中
から出現頻度
上位を抽出
商品機能
木の上、芝生、
商品機能の中
ビール、・・・
から出現頻度
上位を抽出
商品機能
消費効果
女、出会い、笑顔、
嬉しそう、
消費効果の中
OK・・・
から出現頻度
上位を抽出
図3
キーワードによる検索と映像ショットの抽出の方法
3
消費効果
図4
映像ショット検索結果画面
図5
広告映像生成画面
何を持って「広告映像」が構成されたかとするかの基準は明確ではないが、ショットをつなげて
広告映像を構成するための知見として、現在までの開発作業において気づいた点を以下に示す。
① ショットのつながり・連続性については、時間や内容が不連続であっても、15~30 秒の映写時
間であれば音楽が付加されるとそれなりにつながっているように感じる。特に、歌詞や演奏の
区切りと映像ショットの切り替わりが同期する箇所があれば、よりつながっているように感じ
る。
② 消費状況、商品機能、商品受容、消費効果、のストーリー段階において予め(映像に関する)
スクリプトを作成し、それに沿って映写順を設定するようにすれば、つながりのよい映像が構
成できると思われる。現在の CFSPS では、以下のようにショット番号を設定し、同じストーリ
ー段階においては、ショット番号の若い順に映像ショットを並べるようにしている。
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・ 01~10:消費状況:場面設定
・ 11~20:消費状況:主人公の登場
・ 21~30:消費状況:主人公が主体で商品も登場
・ 31~40:商品機能:商品の本格的登場
・ 41~50:商品機能:商品が主体で主人公や手が登場
・ 51~60:商品受容:商品を受容する(飲む)直前(乾杯など)
・ 61~70:商品受容:商品を受容する(飲む)場面
・ 71~90:消費効果:商品を受容した後の表情、商品も登場している
・ 91~99:消費効果:商品を受容した後の行動、商品は小さいか登場していない
③ 人が登場する映像ショットは、登場人物の演技的要素があまり介入しないように、静止画を映
像化することとした。映像ショットの秒数は 1.5 秒と 3 秒を採用したが、3 秒に静止している映
像は若干間延びするように感じる。3 秒の映像ショットにより構成する広告映像についてはズ
ームの方が視聴者を飽きさせない編集になると思われる。
④ インデックスファイルのテキストの量が少ないこともあるが、CFSPS に入力したキーワードや
文章に対し、あまり関係ない映像が抽出される場合もある。単なる出現頻度ではない抽出方法
(意味ベクトル、概念検索など)も検討する必要がある。
これらのことは、今後の実験により何らかの検証を行う予定である。なお、CFSPS のデータベ
ース化は現在進行中であり、2000~3000 ショットを目途に映像ショットを実装する予定である。
CFSPS を用いて、今後様々な実験を行うことを考えている。基本的には、記憶に残る、興味が
わく、購買意欲が増す、広告映像・演出要素を考察することであるが、当面考えている実験内容を
以下に示す。
・ 主人公の性別による効果の差
・ 主人公の人数による効果の差
・ 場面による効果の差
・ 1.5 秒の映像ショットによる広告映像と 3 秒の映像ショットによる広告映像との効果の差
・ カメラを固定とした場合とズームにした場合の効果の差
・ 場面に合う音楽の選定
謝辞
本研究は、科学研究費補助金基盤研究(C)の「映像修辞に基づく広告映像制作支援情報システ
ムに関する研究」(課題番号:22500102)による研究助成を受けている。
<参考文献>
1)川村洋次(2004)、「広告映像の修辞の分析-広告映像制作支援情報システムの構築に向けて-」、『広告科
学』第 45 集、122-139 ページ。
2)川村洋次(2009a)、「映像編集のシステム化」、『文学と認知・コンピュータ研究会Ⅱ(LCCⅡ)第 17 回定
例研究会予稿集』、17W-02-1-2 ページ。
3)川村洋次(2009b)、「広告映像の内容技法と編集技法の分析-広告映像制作支援情報システムの構築に向
けて-」、『広告科学』第 50 集、16-32 ページ。
4)川村洋次(2009c)、「広告映像制作の情報システム支援-大阪らしさを勝手につくる-」、
『日本広告学会第
2 回クリエイティブフォーラム資料』。
5)川村洋次(2009d)、「映像ショットの不連続と音響のリズム」、『文学と認知・コンピュータ研究会Ⅱ
(LCCⅡ)第 19 回定例研究会予稿集』、19W-06-1-2 ページ。
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