第75回 海洋フォーラム(2010/11/17) 尖閣諸島問題を考える 海洋政策研究財団 秋山昌廣 平成22年11月17日 魚釣島 1尖閣諸島位置関係 久場島 大正島 中国 約380km 約410km 尖閣諸島 久場島 約170km 沖縄本島 大正島 魚釣島 北小島・南小島 北小島(手前) ・南小島(奥) 宮古島 台湾 石垣島 西表島 約170km 第75回 海洋フォーラム(2010/11/17) 2.尖閣諸島の概要 • 座標:北緯25度‐26度/東経123度‐125度 • 島数:5島3岩礁 – 魚釣島・久場島・大正島・北小島・南小島等 • • • • 面積:5.56㎢ 都道府県:沖縄県 市町村:石垣市 その他 – 現在は無人島・民間人所有(国が借受け) ・私設 灯台(国の管理) 3.尖閣諸島の領有権についての基本見解 (外務省HP) • • • • • 尖閣諸島は、1885年以降政府が沖縄県当局を通ずる等の方法により再三にわた り現地調査を行ない、単にこれが無人島であるのみならず、清国の支配が及んでい る痕跡がないことを慎重確認の上、1895年1月14日に現地に標杭を建設する旨の 閣議決定を行なって正式にわが国の領土に編入することとしたものです。 同諸島は爾来歴史的に一貫してわが国の領土たる南西諸島の一部を構成してお り、1895年5月発効の下関条約第2条に基づきわが国が清国より割譲を受けた台湾 及び澎湖諸島には含まれていません。 従って、サン・フランシスコ平和条約においても、尖閣諸島は、同条約第2条に基づ きわが国が放棄した領土のうちには含まれず、第3条に基づき南西諸島の一部とし てアメリカ合衆国の施政下に置かれ、1971年6月17日署名の琉球諸島及び大東諸 島に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定(沖縄返還協定)によりわが国に 施政権が返還された地域の中に含まれています。以上の事実は、わが国の領土と しての尖閣諸島の地位を何よりも明瞭に示すものです。 なお、中国が尖閣諸島を台湾の一部と考えていなかったことは、サン・フランシスコ 平和条約第3条に基づき米国の施政下に置かれた地域に同諸島が含まれている事 実に対し従来何等異議を唱えなかったことからも明らかであり、中華人民共和国政 府の場合も台湾当局の場合も1970年後半東シナ海大陸棚の石油開発の動きが表 面化するに及びはじめて尖閣諸島の領有権を問題とするに至ったものです。 また、従来中華人民共和国政府及び台湾当局がいわゆる歴史的、地理的ないし 地質的根拠等として挙げている諸点はいずれも尖閣諸島に対する中国の領有権の 主張を裏付けるに足る国際法上有効な論拠とはいえません。 第75回 海洋フォーラム(2010/11/17) 4.尖閣諸島を巡る中国の動き ○国連アジア極東経済委員会(ECAFE)の調査の結 果、東シナ海に石油埋蔵の可能性(1968年) ○沖縄返還協定署名(1971年) • 台湾(6月)、中国(12月)からの抗議 • 日中平和友好条約発効、鄧小平の領土問題棚上 げ発言(1978年) • 領海及び接続水域法制定、含魚釣島(1992年) • 中国・台湾の活動家の尖閣渡航(1996年以降) • 中国人活動家の魚釣島不法上陸(2004年) • 中国海洋調査船の尖閣領海内侵入(2008年) • 中国・台湾漁船の領海侵犯多数(近年) 5.南シナ海での中国海洋戦略 • 南シナ海領有権拡大 – – – – – 南ベトナム軍と交戦、西沙諸島支配(1974年) フィアリークロス(永暑)礁占拠(1988年) ベトナム軍と交戦、ジョンソン(赤瓜)礁占拠(1988年) ガベン礁占拠(1992年) ミスチーフ(美済)礁占拠(1995年) • 海洋関連法規 – – – – 領海及び接続水域法(1992年) 経済水域と大陸棚法(1998年) 海域使用管理法(2001年) 海島保護法(2009年) 第75回 海洋フォーラム(2010/11/17) 6.「 中国の海」 の回復 7.中国対外政策・海洋戦略の展開 • 静かなる拡大戦略(韜光養晦) • • • • 「戦略的辺彊」概念(1980年代) 劉華清「海洋戦略」(1980年代):近海防衛 海洋権益の確保(国防・資源・海上輸送) 対外協調路線(2000年台前半) • 韜光養晦路線(1980-1990年代)からの変化? • • • • • 胡錦涛体制と海洋戦略の重視 第一列島線を越え第2列島線までの活動積極化:遠海作戦 接近拒否(anti‐access/area denial)戦略→米国の強い反応 南シナ海を「核心的利益」(2010年)?→米国の強い反応 対話路線から再び強硬路線(2000年台後半)へ→周辺諸国の 警戒的反応 – – – – フィリピン領海基線(2009年)への抗議 日本・ベトナム・マレーシアの大陸棚延伸申請への抗議(2009年) 海域における各種衝突(海洋調査・漁船を巡るトラブル) 米国への牽制 第75回 海洋フォーラム(2010/11/17) 8.第一及び第二列島線 9.近海防衛・遠海作戦 9.近海防衛・遠海作戦 2009年6月 ルージョウ級駆逐艦等5隻が南西諸島を ① 通過し、沖ノ鳥島の北東260km付近の海 域に進出 2008年11月 ルージョウ級駆逐艦等4隻が沖縄本島と宮古島 ⑩ の間を抜けて太平洋に進出 2010年3月 ルージョウ級駆逐艦等6隻が沖縄本島と宮古島 ⑪ の間を抜けて太平洋に進出 グアム 1999-2004年 ② 中国海洋調査船による海洋調査活 動 第二列島線 2008年10月 ソブレメンヌイ級駆逐艦等4隻が津軽 ③ 海峡を通過(中国海軍戦闘艦艇とし て初)後、我が国を周回 2010年4月 キロ級潜水艦、ソブレメンヌイ級駆逐艦等10隻 が沖縄本島と宮古島の間を抜けて太平洋に進 出。その際、海自護衛艦に対して中国の艦載ヘ リコプターが近接飛行する事案が複数回発生。 島 原諸 小笠 2005年9月 横須賀 ④ ソブレメンヌイ級駆逐艦等5隻が樫ガ 2010年7月 ⑬ ルージョウ級駆逐艦等2隻が沖縄本島と宮古島 の間を抜けて太平洋に進出 沖ノ鳥島 ス田付近を航行。うち3隻は同ガス 田採掘施設を周回 ⑤ 日本海 2010年5月 奄美大島沖の我が国 EEZにおける我が方海保調査船に 対し、海監船が接近・追跡。中国側 は「中国の主張・管轄する海域にお ける巡航・法執行任務」との見解 沖縄 2010年9月 ⑥ 尖閣諸島周辺の我が国領海内にお 黄海 2008年12月 中国海洋調査船2隻が尖閣諸島周辺 の我が国領海内に侵入し、漂泊、徘 徊 ⑦ 国家海洋局長は、「海監船は釣魚島 海域に進入して法執行のパトロール を実施し、実際の行動により中国政 府の釣魚島問題に対する立場と主 張を公に示した」旨発言 ⑧ 渤海 青島 北京 ⑭ 2004年11月 中国原子力潜水艦が我が国領海内を潜没航行 ⑮ 中沙諸島(マックスレスフィールド 岩礁群スカポロ礁): 国際法上の島の基準を満 たしているか疑義、占領国 はないが、中国、フィリピン、 台湾が領有権を主張 南沙諸島(スプラトリー諸島): 中国、台湾、ベトナム、フィリピン、マレー シア、ブルネイが領有権等を主張。 中国(7)、台湾(1)、ベトナム(21)、マ レーシア(3)、フィリピン(8)、ブルネイ(0) ※(括弧内は現在占拠中の島嶼数) 2010年4月 マレーシア軍艦が中国漁船団を追跡(報道) 中沙 群島 東沙 群島 2010年6月 中国当局船がベトナム漁船31隻を拿捕(報道) 南シナ海 西沙 群島 西沙諸島(パラセル諸島): 1974年1月の中国軍・南ベト ナム政府軍(当時)の交戦以 降、中国が全域を制圧。ベト ナム、台湾も主権を主張 400km 第一列島線 2006年10月 ソン級潜水艦が米空母キティホークの近傍に浮 上 台北 湛江 2009年7月29-31日 ⑨ 中国海軍南海艦隊の高速艦隊が海 監、海警、海巡の部隊と協同し海上 対テロ実働演習を実施 0 寧波 東沙諸島(プラタス諸島): 1945年以来、台湾が占拠、 中国も主権を主張 南シナ海を「核心的利益」と 位置付ける発言をしている 模様 2009年9月4日 東シナ海において、海軍(病院船)、 海巡、海監、海警、漁政等多くの部 門が捜索救助演習に参加 (注) 列島線の具体的な位置は文 献により異なるが、本図は米国 防省報告書に拠る。 宮古島 東シナ海 いて、海上保安庁巡視船と中国漁船 が接触 ⑫ 21 南沙群島 ⑯ 2009年6月 インドネシア領ナツナ諸島EEZ内で、インドネシア が中国漁船8隻及び乗組員77名を拿捕。 7月の中国インドネシア外相会談で、中国側 は同海域が中国の伝統的海域である旨 主張(報道) ⑰ 2010年5月及び6月 インドネシア領ナツナ諸島EEZ内でインドネシアが 中国漁船を拿捕。中国「漁政311」からの 警告により、その後解放(報道) ⑱ 中 2009年12月 中国海軍艇がベトナム漁船を拿捕(報道) ⑲ 2009年3月 中国の海軍情報収集船、トロール漁船等が南シ ナ海で活動していた米海軍音響測定艦「インペ カブル」に接近、一部が妨害行為を実施 ⑳ 国 ( ) ( ) フィリピン( ) ベトナム マレーシア( ) ブルネイ ) ( 第75回 海洋フォーラム(2010/11/17) 10.中国の海洋実力と三戦 • (海洋実力) • 五龍(海軍・海警・海監・海巡・漁政)総合力とその強化 • 大型艦艇導入:漁政311(4500t)、海巡31(3250t)、海監 83(4000t) • 国防費5年間に2倍、艦艇950隻(うち潜水艦60隻)、134万t、 キロ級潜水艦整備など近代化、(空母の導入) • (三戦) 「人民解放軍政治工作条例」改定(2003年) – 輿論戦: 正義の宣伝・国内外の支持獲得・敵のマイナス 宣伝・マスメディアや国際会議の利用・アジェンダの設定 – 心理戦: 敵の抵抗意思の破砕・自軍の堅固な心理防戦 – 法律戦: 我の合法性と敵の違法性主張・国際法と国内 法の順守・国際ルールの変更 11.とるべき日本の戦略 (尖閣諸島対策) • 直接防護 – – – – 実効支配の具体化 体制(態勢)の整備 日米同盟の実効確保 危機対応の準備 • 世論戦・法律戦のソフト パワー活用 – 尖閣諸島領有の積極的 説明 – 国際社会への発信 – 中国国民への発信 (中国海洋戦略への対応) • 直接対応 – 航行の自由と海洋利用 の自由の追求 – 海上実力の増強 – 日米同盟の実効化 – 日(米)中信頼醸成の追求 • 大国中国との関係 – 国際秩序への組み込み – 明確な意見交換による相 互理解の追求
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