普通強度の構造体コンクリートにおける供試体条件が強度に及ぼす影響

普通強度の構造体コンクリートにおける供試体条件が強度に及ぼす影響に関する実験的研究
玉井研究室 07535 前畑佑二・07543 横山亮平
1
はじめに
2009 年に大改正された、日本建築学会編「建築工事
標準仕様書・同解説 鉄筋コンクリート工事」(以下
JASS 5)で強度の基準を構造体コンクリートとするこ
とにした。構造体コンクリート強度はコアによった試
験で求めることとなっているが、試験の方法について
の基準がまだ決まっていない。これはコアによる圧縮
試験の日本工業規格(JIS A 1107)の変遷からもわかる
ようにコアの採取方向や、試験前の乾湿条件に規定が
ない。イギリスの BS では採取方向によって 15%の強度
差があるといわれ乾湿についても乾燥条件のほうが強
度が高くなることはよく知られた現象である。現代の
日本の仕様書は高強度コンクリートの研究を受け規定
されているが本校のある地方では高強度なコンクリー
トの出荷は少なく首都圏の実状だけが反映されている。
本研究は JASS 5 の一般規定のコンクリート強度で作
成した模擬試験体からコアを採取しコアの採取方向と
圧縮試験時の乾湿条件が圧縮強度に及ぼす影響につい
て報告する。
2 実験概要
2.1 使用するコンクリート
(1)使用材料
試験に用いたコンクリートは、普通ポルトランドセ
メントを用い、細骨材に加工砂、粗骨材には砕石を用
いた。材料の産地、品質を表 1 に示す。材料の特徴と
して鳥取県や島根県の山陰両県で多く使用されている
風化花崗岩による加工砂を用いている。
(2)調合
使用したコンクリートは、水セメント比を 35%、45%、
65%とし、スランプを 18cm とし、目標空気量を、4.5%
とした調合を表 2 に示す。ここで使用した混和剤は 35%
を高性能 AE 減水剤、45%及び 65% を AE 減水剤とした。
(3)製造及び打ち込み
レディーミクストコンクリートは 2010 年 6 月 19 日(標
準期)と 2010 年 8 月 21 日(夏期)、2011 年 1 月 29 日(冬
期)に練混ぜた。製造は強制 2 軸ミキサー(キタガワ製
作所ジクロス)を用い、練混ぜ、工場から打設地点ま
で約 10 分間輸送された。
表1
番号
産地・品名
ガイド
引き抜いたコア
写真 1
単位量(kg/m )
3
表乾密度(g/㎝ ) 粗粒率・実績率(%) 吸水率(%) 表乾密度(g/㎝ ) 粗粒率・実積率(%) 吸水率(%)
島根県仁多郡横田町
鳥取県西伯郡伯耆町
2.52
2.53
2.68
2.89
1.29
1.41
2.54
2.55
2.68
2.69
1.34
1.43
C1
C2
山口県美称市秋芳町
鳥取県日野郡日野町
2.68
2.67
60.1
60.1
0.46
0.58
2.69
2.68
60.1
60.1
0.42
0.6
60.1
0.57
2.67
60.1
0.6
2.67
普通ポルトランドセメント、宇部興産株式会社製 密度:3.16g/cm3
上水道水
調合表
3
冬期
3
コア抜き機
コアの採取風景
表2
使用材料
標準期・夏期
S1
S2
C3
鳥取県日野郡日野町
セメント
水
2.2 コア供試体の準備
(1) コアの採取
コアは専用のコアドリルを用いて採取後のコアの直
径が 100 ㎜となるように図 1 に示すような位置から採
取した。採取したコアは約 1mとなっており軟式コン
クリートカッターで高さが 200 ㎜となるようにカット
した後研磨機で端面を研磨した。
(2) 乾湿状況の影響
コア供試体を研磨した後すべての供試体を 20℃の
水槽にいったん浸透した後、乾試験では 48 時間気中に
おき乾燥させ湿試験は試験直前に水中から引き揚げ圧
縮試験を行った。
2.3 強度比較のルール
(1) 試験日
乾湿及び採取方向の影響を確認する際に異なる試験
日のものを比較することを避けるため、以下に述べる
ルールで比較する供試体はすべて同一試験日となるよ
うにした。
(2) 乾湿条件の影響
比較のルールは図 1(b)に示すように定めた
・ 同一打ち込み高さであること
・ 発熱温度を考慮しコンクリート表面からまたは中
心からの距離がほぼ同じであること
(3)採取方向の影響
比較のルールは図 1(c)に示すように定めた
・ 同一打ち込み高さであること
・ 横抜きは原則縦抜きの湿試験と比較する
・ 中央の供試体は縦抜き 2 本の平均と比較する
時期
標準期
夏期
冬期
W/C(%)
AE剤
s/a(%)
3
W
C
S1
S2
G1
G2+G3
(kg/m )
35
43.9
175
500
351
350
562
376
4.5
45
47.3
185
411
387
391
546
360
4.11
65
53.2
184
283
463
465
514
344
2.83
35
43.9
175
500
351
350
562
376
5
45
47.3
185
411
387
391
546
360
5.14
65
53.2
184
283
463
465
514
344
3.54
35
43.9
175
500
351
350
562
376
3
45
47.3
185
411
387
391
546
360
2.05
65
53.2
184
283
463
465
514
374
1.41
平均
写真 2
3
コア供試体の乾湿の影響
コア供試体の乾湿の影響について、図 2 に全試験結
果について、乾燥時と湿潤時の強度の関係についてま
とめたものを示し、図 3 および図 4 に水セメント比別
のヒストグラムを示す。図 3 は湿潤状態の圧縮強度か
ら乾燥時の強度を引いた強度差を図 4 は湿潤時強度を
乾燥時強度で割った強度比を示す。また強度差および
強度比のデータ数、強度の平均、差または比の平均、
標準偏差をまとめたものを表 3 に示す
図 2 に示す乾試験と湿試験の結果は、おおむね乾試
験のほうが高く、これは一般的に言われていることと
同様の結果であった。
湿試験を基準に圧縮強度の差を強度別に見ると、
W/C=35%では、標準偏差が 9.03N/mm2 と大きく、そ
の分布は-3~0N/mm2 の区間にピークがあるものの、デ
ータとしては-18~6N/mm2 の区間に同じような頻で
分布していた。W/C=45%では、標準偏差は 4.00N/mm2
で、分布のピークは-6~-3/mm2 の区間にあり分布形状
は 0N/mm2 よりも大きいデータはほとんどないもので
あった。W/C=65%では、標準偏差は 3.33N/mm2 で、
分布のピークは-3~0N/mm2 であり、分布形状は正規分
布に近いが、3N/mm2 をこえるデータは少なかった。
実験風景
また、湿試験を乾試験で除した強度比でみると、
W/C=35%では、標準偏差は 0.21 と大きいものの、分
布形状は正規分布しており、そのピークは 0~0.8 の区
間にあった。W/C=45%では、標準偏差は 0.10 で、ピ
ークは 0~0.8 の区間にあった。W/C=65%では、標準
偏差は 0.16 で、ピークは 0~0.8 の区間にあった。
湿試験と乾試験の強度の違いを評価するためには、
強度の差を用いた場合、35%で-3.48、65%で-1.89 と
異なった値を持ちいらなければならなかったが強度比
で整理すると、35%で 0.95、65%で 0.93 とほぼ同じ値
で評価できることが分かった。また、従来言われてい
た強度が高くなると乾湿条件は強度に影響が少ないと
言われていたが、今回の実験では JASS 5 の一般既定
のコンクリート強度の範囲では湿試験は乾試験よりも
低く、その傾向は強度に依存していないことが分かっ
た。
全強度を通じてみた場合、乾試験の圧縮強度の 90%
は湿試験の強度と同等であることが分かった。しかし、
ここには試験結果のばらつきがあり、ばらつきを考慮
し、標準偏差分を差し引くことがいいと思われ、その
場合約 75%とすると安全側の推定ができることが分
かった。
35%
45%
65%
70
60
40
30
図 3 乾湿強度差ヒストグラム
y = 0.9006x 20
10
0
0
10
20
30
春35%
春45%
春65%
夏35%
夏45%
夏65%
40
50
60
70
乾試験(N/mm2) 図 2 乾湿強度比較散布図
図 4 乾湿強度比ヒストグラム
表 3 乾湿強度差・比まとめ 35%
45%
60
50
縦(N/mm2) 湿試験(N/mm2) 50
40
30
図 6 縦横強度差ヒストグラム
20
y = 1.057x 10
春35%
春45%
春65%
夏35%
夏45%
夏65%
0
0
10
20
30
40
横(N/mm2) 50
図 5 縦横強度比較散布図
60
図 7 縦横強度比ヒストグラム
表 4 縦横強度差・比まとめ 65%
4
コア供試体の採取方向による影響
コア供試体の採取方向による影響について、図 5 に
全試験結果について、コア採取時の方向で縦抜きと横
抜きの強度の関係についてまとめたものを示し、図 6
および図 7 に水セメント比別のヒストグラムを示す。
図 6 はあらかじめ決めたルールに基づき、縦抜きした
コア供試体の圧縮強度から横抜きの圧縮強度を引いた
強度差を、図 7 は縦抜き強度を横抜き強度で割った強
度比を示す。また強度差および強度比のデータ数、強
度の平均、差または比の平均、標準偏差をまとめたも
のを表 4 に示す。
図 5 に示す縦抜きと横抜きの結果は、おおむね縦抜
き強度の方が高く、これは一般的に言われている約 8%
高い 2)ことと同様の傾向であった。
縦抜きを基準に圧縮強度の差を強度別に見ると、
W/C=35%では、標準偏差が 8.95N/ mm2 と大きく、そ
の分布は 9~12N/ mm2 の区間にピークがあるものの、
データとしては 9N/mm2 以上のデータが少なくなるも
ののおおむね正規分布していた。W/C=45%では、標準
偏差が 5.62N/mm2 で、分布のピークは 0~3N/mm2 の
区間にあるが、-3N/mm2 をこえるデータは極端に少な
い。W/C=65%では、標準偏差が 2.15 N/mm2 と小さく、
その分布は 0~3 N/mm2 の区間にピークがあるものの、
6~12N/mm2 の区間にも大きな分布がみられるが、3
N/mm2 をこえるデータは少なかった。
また、縦抜きを横抜きで除した強度比でみると、
W/C=35%では、標準偏差は 0.22 と大きいものの分布
形状は正規分布しており、そのピークは 0~1.2 の区間
にあった。W/C=45%では、標準偏差は 0.19 でピーク
は 0~1.2 の区間にあった。W/C=65%では、標準偏差は
0.12 と大きく分布のピークは 0~1.2 の区間にあった。
縦抜きと横抜きの強度の違いを評価するためには、
強度の差を用いた場合、35%で 1.93、65%で 0.92
と強度別の値が必要であるが、強度比で整理すると、
35%で 1.07、65%で 1.06 とほぼ同じ値で評価すること
ができることが分かった。また、従来言われてきた強
度が高くなるとコアの採取方向による影響は少ないと
言われてきたが今回の実験では JASS 5 の一般規定の
コンクリート強度の範囲では横抜きは縦抜きよりも強
度は低く、その傾向は強度に依存していないことが分
かった。またこれは、BS 1881:Part 120:1983 の変
換式と同じであり、J. R. Graham3),4)のブリーディング
水の影響によるものであるとの報告を裏付けるものと
なった。
全強度を通じてみた場合、縦抜き強度は、横抜き強
度の 1.06 倍であり、ばらつきを考慮し、標準偏差を差
し引くと、約 1.25 倍となった。
5
まとめ
本論文では、経年した実構造物の調査において、コ
ア供試体の試験状況、コアの採取方向などの取り扱い
に関する基礎資料となるべく行った実験である。実構
造物に対する調査を行おうとすると、柱、壁は打込み
方向に対して垂直(横抜き)となり、床などは垂直(縦
抜き)となる。現在は採取方向に関する補正はされて
おらず、調査の評価はあいまいである。また、JIS A
1107 ではコアの直径と高さ比による補正は行われて
おり、今回の実験結果よりも小さな補正値である。今
後調査の適正な評価を考えるうえで、重要となってい
くと思われる。
本実験の結果について以下にまとめる。
1) コア供試体における乾燥・湿潤条件が圧縮強度に
与える影響は、乾燥状態のものの圧縮強度が高い。
2) 乾湿状態の強度の差は、比率として整理すると、
コンクリートの強度にかかわらず、乾燥状態時の
強度の 0.90 倍が湿潤時の強度となった。
3) コアの採取方向による圧縮強度の影響は、打込み
方向に対して平行(縦抜き)に抜いたものの方が、
垂直(横抜き)に抜いたものの圧縮強度が高い。
4) コアの採取方向の違いは、比率として整理すると
強度に関係なく整理することができ、縦抜きのコ
ア供試体の強度は、横抜きのコア供試体の 1.06
倍となった。
5) コアによる強度の補正は、高さ直径比による補正
よりも、コアの乾湿試験条件や採取方向による補
正値の方が大きい。
6
謝辞
最後に、本実験を行うにあたり、よなご共同生コン
の山本和信氏、フローリックのコンクリート研究所の
西祐宜氏、西日本支店中国営業所の安武和雄氏、米子
高専玉井研究室、2010 年度在席、粟木喜祥(エクスプ
ラン)、加藤純(LAZUDA 編集部)、藤原翔(鴻池組)、
渡辺安奈(美容関係)、2011 年度在席、小椋健史君、
松本幸太郎君、薮内さやかさん、絹田裕輔君、高下義
博君、中西和さん、渡辺真大君に協力していただきま
した。ここに記し謝意を表します。
参考文献
1) 日本建築学会:建築工事標準仕様書・同解説 鉄筋コン
クリート工事、pp.223-229、2009.3
2) A. M. Neville:ネビルのコンクリートバイブル、技報
堂出版、p.743、2004.6.10
3) A. M. Neville:ネビルのコンクリートバイブル、技報
堂出版、p.762、2004.6.10
4) J.
R. Graham : Concrete Performance in
Yellowtail Dam, Montana, Laboratory Report
No.C-1321 US. Bureau of Reclamation,(Denver,
Colorado, 1969).