体育・スポーツ科学研究 第12号(2012年) - 国士舘大学

ISSN 1880−9316
【総 説】
災害とその対処
中山 友紀 ……………………………………………………………………………… 1
2012年 第
目 次
体育・スポーツ科学研究
2012
体育・スポーツ科学研究
2012 年 第 12 号
12
号
【研 究】
柔道の受け身に対する意識調査の一考察
─Kokushikai Judo Camp(USA)参加メンバーを対象に─
森脇 保彦,中島 たけし,田中 力 ……………………………………………… 13
高校弓道部員への心理支援について
─前向きな自己イメージと精神的安定のために─
山口 豊,窪田 辰政,相原 幸音,森脇 保彦 ………………………………… 23
自己イメージに焦点を当てたストレスマネジメントに関する事例検討
─スポーツ競技者を対象として─
上田 敏子,窪田 辰政,森脇 保彦,宗像 恒次 ……………………………… 31
自己カウンセリングシートを活用した大学生のためのストレスマネジメント教育の試み
窪田 辰政,樫 健太郎,山口 豊,野村 良和
難波 邦雄,田崎 健太郎,森脇 保彦,宗像 恒次 …………………………… 39
試合に向けての高校テニス部員への心理支援
窪田 辰政,山口 豊,羽田 碧,羽田 萌
三橋 大輔,山田 幸雄,森脇 保彦 ……………………………………………… 49
【書 評】
深刻なスポーツ傷害に対するレフリーの責任:イギリスにおける展開
松宮 智生 ……………………………………………………………………………… 69
生涯スポーツの心理学
─生涯発達の視点から見たスポーツの世界─
羽田 碧,窪田 辰政,森脇 保彦 ………………………………………………… 79
野村再生工場
─叱り方、褒め方、教え方─
伊藤 公俊,窪田 辰政,森脇 保彦 ……………………………………………… 81
体育・スポーツ科学学会活動報告(2011)…………………………………………………… 83
投稿規程/体育・スポーツ科学学会会則
…………………………………………………… 87
FACULTY OF PHYSICAL EDUCATION KOKUSHIKAN UNIVERSITY
国士舘大学 体育・スポーツ科学学会
ジュニア競泳選手の泳速度と筋量の関係
須藤 明治 ……………………………………………………………………………… 57
国士舘大学 体育・スポーツ科学学会
目 次
【総 説】
災害とその対処
中山 友紀 ……………………………………………………………………………… 1
【研 究】
柔道の受け身に対する意識調査の一考察
─Kokushikai Judo Camp(USA)参加メンバーを対象に─
森脇 保彦,中島 たけし,田中 力 ……………………………………………… 13
高校弓道部員への心理支援について
─前向きな自己イメージと精神的安定のために─
山口 豊,窪田 辰政,相原 幸音,森脇 保彦 ………………………………… 23
自己イメージに焦点を当てたストレスマネジメントに関する事例検討
─スポーツ競技者を対象として─
上田 敏子,窪田 辰政,森脇 保彦,宗像 恒次 ……………………………… 31
自己カウンセリングシートを活用した大学生のためのストレスマネジメント教育の試み
窪田 辰政,樫 健太郎,山口 豊,野村 良和
難波 邦雄,田崎 健太郎,森脇 保彦,宗像 恒次 …………………………… 39
試合に向けての高校テニス部員への心理支援
窪田 辰政,山口 豊,羽田 碧,羽田 萌
三橋 大輔,山田 幸雄,森脇 保彦 ……………………………………………… 49
ジュニア競泳選手の泳速度と筋量の関係
須藤 明治 ……………………………………………………………………………… 57
【書 評】
深刻なスポーツ傷害に対するレフリーの責任:イギリスにおける展開
松宮 智生 ……………………………………………………………………………… 69
生涯スポーツの心理学
─生涯発達の視点から見たスポーツの世界─
羽田 碧,窪田 辰政,森脇 保彦 ………………………………………………… 79
野村再生工場
─叱り方、褒め方、教え方─
伊藤 公俊,窪田 辰政,森脇 保彦 ……………………………………………… 81
体育・スポーツ科学学会活動報告(2011)…………………………………………………… 83
投稿規程/体育・スポーツ科学学会会則
…………………………………………………… 87
1
総 説
災害とその対処
Disaster Management
中山 友紀
Yuuki NAKAYAMA
1.はじめに
い、社会機能を広く麻痺させ、日常生活を困難に
する。また、自然災害だけでなく、列車や航空機
このたび発生した東日本大震災は、さまざまな
事故、化学工場や放射性物質を扱う施設での事故
影響を与え、今もなお私たちの記憶に「味覚」
「嗅
など、人間が関与するいわゆる人為災害も同様に
覚」「聴覚」「視覚」「触覚」という五感を通して
大きな被害をもたらす。テロなども災害に含まれ
ストレスとなり、あるいはすべてに対してストレ
る。図1に災害の分類についてまとめた。
ッサーがストレスとして与え続け、アロスタティ
ック負荷を引き起こしていく。
経 済 開 発 機 構(Organization for Economic
Co-operation and Development:OECD)は災害
地震などの災害が発生した直後から、ホメオス
を「地域の対応能力を超えており、国内あるいは
タシスを維持するため、 被災者自身および救出
国際レベルの外部援助を要請する必要がある状況
者・救助者は環境の変化、精神面での変化により
や出来事」と定義している。また、災害看護学で
困惑する。個人としてはアロスタシスのしくみを
は「突然のしかも大規模な環境の変化であり、誰
うまく活用し、日頃から何を準備し、災害に対し
も望まないようなつらい現実を新たに生み出すも
てどのように対処すればよいのだろうか。
の」とも定義されており、地震や火災などによる
数多くの災害現場に立ち会った救急救命士とい
一次的な被害に加え。二次的に生命や健康への脅
う立場から、災害とその対処について述べる。
2.1 災害の種類
私たちが「災害」と聞いて思い浮かべるのは、
地震や台風などの自然現象に伴う被害であろう。
我々人類は、海、山、川、草木などに囲まれた自
然豊富な地球上で、その豊かな自然の恩恵を受け
て生活を営んでいる。しかし、自然は時として猛
威をふるい、風水害や地震・津波、火山の噴火・
爆発、干ばつなどを引き起こし、我々の生命を奪
図1 災害の分類
国士舘大学体育学部スポーツ医科学科(Kokushikan University, Faculty of Sport Science, Division of Sport Medicine)
2
中山
威となることも多いとしている。そこで大切なこ
に起こる災害であり、広域災害として区別される。
とは、災害により引き起こされた被害として、災
表1に自然災害による影響をまとめた。
害に直結しておこる傷害だけでなく、災害の結果、
私有財産が失われたりすることに伴う二次的な生
命や健康への被害を含んでいる。つまり災害とは、
2.1.2 人為災害
人為災害は、人為的ミスを含めた原因により発
大きな破壊、損害をもたらし、地域あるいは国内
生した化学爆発、都市大火災、大型交通災害(船
だけでは対応が困難となる、予測不能で突然起こ
舶、航空機、列車)、ビル・地下街災害、炭坑事
る現象で、それらが原因で長期に及ぶ避難所生活
故などで、人命や社会生活に対する被害を生じる
や仮設住宅生活に適応できず、持病である慢性疾
現象である。こうした人為災害は、自然災害等の
患が悪化したり、 感染症が蔓延する二次的な人
広域災害と比較して局地災害としてとらえられ
的・物的被害をもたらすものと定義する。以下で
る。 例としては、2000 年に発生した営団日比谷
はまず、災害の種類と災害が健康に与える影響に
線 脱 線 衝 突 事 故 や 2001 年 歌 舞 伎 町 ビ ル 火 災、
ついて述べる。
2005 年に発生した JR 福知山線脱線事故があげら
れ、その事故により多数の死者および傷者が発生
2.1.1 自然災害
し社会影響をあたえた。
自然災害といえば、まず思い浮かぶのは地震で
あるが、世界的に最も発生件数の多い自然災害は
2.1.3 特殊災害
洪水である。我が国の津波災害はもちろん、世界
特殊災害には、本来局地的である人為災害が広
的に見ても風水害は多い。台風、ハリケーン・サ
域化したものや、自然破壊と自然災害が相まって
イクロンの発生しない年はなく、地球温暖化とと
引き起こされた災害などが含まれる。前者の例と
もにその被害は増加している。また、災害の期間
しては、2011 年の東日本大震災に伴って発生し
で見ると、台風、集中豪雨、地震、津波、雷、火
た東京電力福島第一原子力発電所の事故をはじ
山噴火・爆発などの短期間型と、旱魃・洪水など
め、1986 年に旧ソ連で発生したチェルノブイリ
の長期型とに大別できる。いずれも比較的広範囲
原子力発電所事故、1997 年に日本海で発生した
表1 自然災害による影響
災害とその対処
ロシア船籍のタンカーによるナホトカ号重油流出
3
者の搬送が困難となる。
事故などがあげられる。開発により森林伐採が進
んだ地域に、台風などの豪雨が降った場合に引き
起こされる泥流災害などは、後者の例である。
2.1.5 広域災害と局地災害
災害は一般にその原因と規模から広域災害、局
地災害、特殊災害に分類されると述べた。その原
2.1.4 都市型災害と地方型災害
因と規模に沿った視点の類型化し、被害の範囲、
災害自体の種類だけでなく、災害が起こる場所
発生のスピード、コミュニティーの準備状態、中
によっても災害は分類される。都市型災害では、
心性か周辺性か、衝撃の持続、被害は不可視的か
高い人口密度と、高層ビルや地下街がある建築物
により分類する。
の複雑な構造により、多くの被災者が発生しやす
い。その一方で、交通網が発達しており、病院な
どの医療施設も多いため、被災者の搬送や医療の
2.2 災害が身体に及ぼす影響
表 2-1 に示すように災害は人びとに身体的や心
提供は行いやすい。それに対して地方型災害では、
理的ストレス、物的損傷、経済的損失を与え、被
人口密度が低く、建物も分散しているため、被災
災者の健康や生活に多くの影響をもたらす。災害
者の発生数は一般に少ない。しかし、都市部より
による被害の大きさや種類、公衆衛生への影響は、
高齢化が進んでおり、また交通の便が悪く、医療
災害の種類により異なる。また、災害の種類によ
施設も少ないため孤立しやすく、救援物資や被災
り、被災者のストレスの受け方が異なるため、傷
表 2-1 災害が身体に及ぼす影響
4
中山
病の種類や病態も異なることになる。さらに、災
じやすい。
害の種類のみならず、災害の時期や被災後の生活
場所、被災者の年齢などによっても、人びとが受
ける影響は異なる。
事例1
2007 年7月 16 日に発生した新潟中越沖地震で
被災した小学生に対し、
「地震直後を思い出して、
2.2.1 時期の影響
災害発生後すぐ(災害初期)は、外傷を中心と
する物理的外傷が多い。それに対して災害中期以
地震を色で表してごらん」と聞いてみたところ、
「赤色」という回答が圧倒的に多く、続いて「黄
色」という回答があった。
降になると、管理不十分による慢性疾患の悪化や、
「地震を臭いで表してごらん」と聞くと「カビ
免疫機能の低下に伴う感染症の発生、ストレスに
の臭い」「土の臭い」という回答が多かった。次
起因する精神症状の悪化などが問題となる。
に「地震の手触りはどんなかな」と問いかけると、
地震を例にとると、災害初期は建物の倒壊など
「棘が手に刺さりそう」
「ひやっとする」という回
による打撲、骨折、切創、裂創、挫滅、頭部・腹
答であった。最後に「地震はどんな味かな」と問
部外傷などの物理的外傷が多く見られる。災害中
いかけると「砂埃の味」という回答が多かった。
期以降は、高血圧、脂質異常症、糖尿病、肝臓病
生きるために必死になり、感覚を研ぎ澄ませ情
などの慢性疾患の悪化や、ストレスに起因するア
報収集をしようとした結果、このように地震の影
ルコール依存症、心的外傷後ストレス障害などの
響が今もなお五感に焼きついている。つまりスト
精神疾患が問題となる。
レスが過剰反応しつづけているのである。
2.2.2 場所の影響
2.3 災害後の心理的ストレス
被災後の生活の場が、自宅であるのか、避難所
災害は人びとに大きな衝撃を与える。その衝撃
あるいは仮設住宅であるのかによっても、健康へ
がもたらす心のゆがみが心理的ストレスである。
の影響は異なる。避難所では、集団生活が長くな
心理的ストレスは災害を受けたすべての人に起こ
ると、不眠症や便通の異常、食欲不振、頭痛、感
るので、異常な状況における正常な反応ともいえ
染症などの健康問題が生じる。仮設住宅では、プ
る。ストレス反応は、身体、思考、感情、行動な
ライベートは守られるものの、慣れない場所での
どに現れ、時間経過とともに変化する。
生活や、将来への強い不安などにより、身体的、
精神的症状が現れることも多い。
災害後に被災者において生じるストレス反応
は、時間の経過と災害からの復興とともに徐々に
収まるが、災害によって受けたトラウマ的な体験
2.2.3 年齢の影響
小児では、将来的に災害の体験が見えない心の
によって、感情へ悪影響が現われることがある。
これは、過覚醒、再体験、回避という反応を示す。
傷として残ることがある。成人は、災害後の地域
こうした状態が1ヶ月以内に自然治癒するものは
復興の担い手としての働きが期待され、また小児
急性ストレス傷害(acute stress disorder:ASD)
や高齢者の世話に追われるなど、社会と家庭のい
と呼ばれ、1ヶ月以上続く場合には心的外傷後ス
ずれにおいても責任ある立場を任されることが大
ト レ ス 傷 害(posttraumatic stress disorder:
きなストレスとなる。高齢者は、もともと慢性疾
PTSD)と呼ばれる。
患を抱えていることが多く、管理が必要となる。
一方で、災害時のストレス反応は被災者だけで
また、避難所生活や長期化する仮設住宅での生活
はなく、「隠れた被災者」ともいわれる救援者に
では、環境の変化に対応できず、健康に問題が生
も現れる。救援者は悲惨な現場を目の当たりにし
5
災害とその対処
ながらも、使命遂行のために、我を忘れて救護活
迫症候群がある。また、こうした救援者のストレ
動を行う中で、時に最悪感や無力感にとらわれて
スを慢性化させないためには、表 2-3 に示すよう
しまうことがある。救援者は、自らは万能ではな
なあらかじめ救援内容を確認すること(ブリーフ
く、自分の背中は見えない、つまり自分の行って
ィング)
、救護中の息抜き(デフュージング)
、最
いることを客観的に見るのは困難であるというこ
終的な救援の総括(デブリーフィング)などの個
とを理解する必要がある。
人で行う自己管理と、チームでの日々のミーティ
救援者に起こるストレス反応には、表 2-2 に示
ングや相互に支援する方法がある。
すような燃え尽き症候群、被災者離れ困難症、脅
私たちは、日常多くのストレッサーに対処する
ことを余儀なくされているが、災害時に
表 2-2 救護者に起こるストレス反応
は人びとの生命や財産を脅かす出来事、
つまり日常以上のストレッサーが次々と
降りかかることになる。深刻な状態に陥
ることを防ぐためには、こうしたストレ
ッサーに適切に対処する、こころのケア
が重要なのである。
2.4 大災害によるこころの変化
大災害が発生すると、こころの均衡が
崩れた状態となり、人は災害および災害
が自分に及ぼす影響を正しく認識するの
が難しい。五感の感覚が多く失われるほ
ど大災害と感じる。
多くの場合、大災害発生直後から正常
な生体反応や、五感のいずれかあるいは
いくつかが失われ、パニックになる。
五感が失われた場合、それを自覚する
ことが重要であり、緊急事態の認識にも
表 2-3 救護者に起こるストレスを慢性化させないための方法
つながる。自分の中でどのようなバラン
スが崩れたのかを冷静に認識するととも
に、危機回避行動を開始する必要がある。
以下では、災害発生後、時間経過ととも
に被災者および援護者のこころはどのよ
うに変化していくのかについて、2011
年3月に発生した東日本大震災での例を
中心に見ていく。
2.4.1 大災害発生直後
[被災者は]
2011 年3月 11 日 14 時 46 分に発生した
6
中山
東日本大震災は、地震発生直後は「激しい縦揺れ・
は、自分自身の生命を維持する方法の確認や、家
横揺れ」「突き上げるような地震」「立っていられ
族などの安否確認が行われ、具体的方法を下記表
ない状況」であると被災者は証言している(2011
2-4 に示す。
年3月 12 日毎日新聞朝刊記載)。ニュース番組な
[救護者は]
どのメディアを通して、この地震をバーチャル的
に体感した非被災地の方は「映画みたいな光影」
「戦争の後のよう」 と感じ(2011 年3月 13 日 朝
日新聞朝刊記載)、間接的に被災体験をした。
被災者にとっても非被災者にとっても、それ以
救援要請が震源地都道府県全職員、同全警察職
員、同全消防職員、同内全市職員、全国緊急援助
隊登録隊員(警察、消防、海上保安庁)
、各自衛隊
に伝達され、災害出動マニュアルに沿った形で派
遣準備および関係職員の緊急招集が実施される。
上もそれ以下もないだろう。誰しも地震発生直後
はパニックで頭の中は真っ白であり。柱などの固
災害時に情報を確認、認識するための方法
定物に掴まるのがやっとではないだろうか。防災
大災害発生直後は思考能力が崩壊し、感情機能
避難訓練などでは机に下へ隠れ、揺れが収まった
も低下・崩壊する。その中で、情報を確認、認識
後に外へ避難するということがずっと教育され、
するための方法を、東日本大震災を例にして、以
安全であると信じられてきたが、こんな
強い揺れで何を考え行動すればよいのだ
ろうか。筆者であれば、柱などの固定物
につかまるだろう。
[救護者は]
「地震発生、直ちに初動措置に当たれ」
という出動指令を受けた全国の消防救助
隊をはじめ、陸上・海上・航空自衛隊、
警察、海上保安庁は、集まってくる情報
や実際の状況から大災害を認識した。し
かし、 救護者も一人の人間であるため、
被災者同様にパニックになり、頭の中は
真っ白となるであろう。だが、揺れが収
まった瞬間、すぐに庁舎内外の被害状況
の確認、近隣地域の被害把握、無線・メ
ディアなどでの情報収集などを経て、業
務遂行へと移行する。
2.4.2 発 生から1時間 ―「何が起きた
かわからない」ところから始まる
[被災者は]
発生から1時間経過すると、人びとは
突然の震災発生から我に返り、おおよそ
自分自身の身に降り掛かった状況が認識
できるようになる。この頃からしばらく
表 2-4 災害発生から一時間後における生命の維持や家族の安否確
認の方法
7
災害とその対処
下にあげる。
れられている。
(1)過去の震災との比較
2004 年に発生した新潟中越地震では約 70 名の
2.4.3 発生から 24 時間―震災で失ったもの、生
死者が発生した。地震の規模は M6.8、震源の深さ
まれたもの、 変わらなかったものを確認
は 13 km であった。東日本大震災では、太平洋三
していく
陸沖を震源に M9.0 の地震が発生した。 規模の大
[被災者は]
きさの比較から、新潟中越地震よりも大きな津波
発生から 24 時間が経過すると、 災害によるシ
が発生することを自ら予測しなければならない。
ョック状態は過ぎ、災害によって生まれた新しい
(2)テレビからの状報・情報
現実に直面しなければならない。しかし、新しい
東日本大震災の際には、テレビから緊急地震速
現実は、災害以前にあったものをすべて否定して
報のけたたましい独特の警告音が鳴り響いた数、
いるわけでもないことにも気づき始める。自分に
激しい揺れに襲われた。余震により、さらに多く
とって災害などで失ったもの、生まれたもの、変
の被害が発生するおそれもある。こうしたテレビ
わらなかったものを確認していく時期であり、発
からの情報などをもとに、自らの安全を確保しな
生した出来事を自分で見て感じたことや身のまわ
ければならない。
りの物から現実を理解する時期でもある。
(3)時間帯に伴う被災者予測
[救護者は]
JR 福知山線の電車脱線転覆事故は、 通勤・ 通
関係機関から派遣された救護者達は、各被災地
学時間帯での事故であったため、乗客の数が多か
の任務地に集結して活動を開始している時期であ
ったことがけが人の増加を招いた。このような時
る。彼らの目に飛び込んでくるのは、やはり被害
間帯に生じる大災害では、地域住民の人口以上の
状況である。しかし、被害を受けているのかいな
被災者が発生することが予測される。
いのかを確認すべき判断材料は、救護者自身がも
(4)ライフラインの被害予測
ライフラインは文字どおり生命維持に直結する
ため、災害発生後、迅速に維持あるいは獲得しな
つ空間記憶だけである。救護者は、被災地をより
深く理解し、その場の人びとの言葉を理解するこ
とに重点を置かなければなければならない。
ければならない。直下型の地震などであれば、甚
大な被害を受ける範囲は、限定的であることが予
測できる。震源から離れた地域では、ライフライ
ンを含めた都市機能も保持している可能性がある
と推測できる。
(5)交通に関わる被災予測
2.4.4 発生から 72 時間―震災によって生まれた
心身変調について知る
[被災者は]
災害の専門家の間には、GOLDEN 72 HOURS
と表現されるものがある。 災害発生後、72 時間
災害後直後は、列車や道路などの交通網が麻痺
のうちに人命・安全を確保しなければならないと
することも予測しなければならない。現時点から
いう時間的制約を示すと同時に、 災害発生から
の移動手段などを考慮する必要性がある。
72 時間を過ぎると生存率が一割弱まで低下する
(6)危険予測トレーニング
とされており、24 時間以内で 70%の被災者生存
日頃から防災意識を持ち、準備することは重要
率は、48 時間まででは 30%未満に低下、72 時間
であるが、日常的に防災用品を持ち歩くことは困
以内は 15%となり、 これを過ぎると 10%を割り
難である。そのため、咄嗟の判断能力を向上する
込むと報告されている。
ための危険予知トレーニング(KYT) が、 企業
この頃になると、震災によって生まれた新しい
をはじめ、救出・救助の専門家の間でも、取り入
現実から、自分自身でできることと、できないこ
8
中山
とが明らかになり、震災が原因なのか、自分自身
宿舎、テントにこちらから出向き、その人が新し
の力不足が原因なのか、または疲れが原因なのか、
い現実へ適応する支援する試みである。それを可
被災者および救出・救助者は自暴自棄となる時期
能にする必要条件は、信頼である。つまり、恊働
である。
的実践を展開するために現場、被災者、救出・救
これらは災害ストレスに起因する心身変調であ
助者と密接な関わりをもつため、よき理解者とな
り、再体験や生理的緊張の諸症状を自覚する被災
り、相互に絡み合って、事態の改善を目指す姿勢
者が多いが、こうした心身変調の意味を理解して
である。思いやる姿勢がこの時期の重要である。
いた人は少ない。「何か変だ、何かおかしい」、
「自
分は変になったのか」という気持ちを抱く人が多
いが、おそらく、災害ストレスによる心身変調で
2.4.5 発 生から1週間―ボランティア支援によ
り希望を目指した生活スタイルを確立
あるとは自覚せずに、自らの体験やそのつらさ、 [被災者は]
震災における悩みを語っている。いずれにせよ、
この頃になると、震災によって生まれた新しい
安心できる相手、信頼できる相手を見つけて自己
現実を脆弱ながらも受け入れ、各個人レベルで生
開示する必要がある。
活、救出・救助活動のスタイルが確立してくる。
[救護者は]
また、阪神・淡路大震災以来、大規模な災害が発
派遣されてきた各救護チームは、隊員の体力、
物 資 力 を 考 慮 し て 48 時 間 で、 緊 急 援 助 隊 は
「GOLDEN 72 HOURS」の可能性の 72 時間で救護
生すれば、いつもボランティアの姿が見られるよ
うになっており、被災者は彼らと共存ししばらく
自立に向け生活スタイルを確立していく。
活動を中断し、第二陣の救護チームに引
き継ぐ。
表 2-5 災害発生から 72 時間以内に見られる心身の変化
活動を中断したチームの隊員に対して
は活動後のこころのケアが行われ、打ち
明け話を基本とするデブリーフィングを
実施している。それにより自分たちの体
験や対応についての共通認識の確立を行
っている。その場合には、被災地で活動
する救出・救助者間で心理的な抵抗感な
しに打ち明けることのできる環境を整え
ることが大切である。打ち明け話をする
ことによって、震災後の心身変調が異常
な状況に対する正常な反応であることを
理解させることが中心課題となる。その
ために用いられる方法論が、相手のもと
にこちらから出向いて話をするアウトリ
ーチである。アウトリーチもデブリーフ
ィングも従来の意味での医科診療とは異
なる。医師と患者、上司と部下、あるい
はカウンセラーと相談者という明確な役
割規定は存在しない。 相手の生活の場、
表 2-6 災害発生から一週間前後に見られる心身の変化
9
災害とその対処
生活必需品の入手について、計画上で「災害救
助法」により、自治体が管理している救助、生活
物資を活用するが、この度発生した東日本大震災
では、その中心的な自治体が人員、建物、機能と
そしてこうした支援から共存性が生まれ、共存
性からお互いにかけがえのなさ
が感じられるようになり、生活再建のための勇
気が生まれることになる。
もに壊滅状態になった。その時被災者は避難所で
2.4.6 発 生から1 ヵ月―新しい現実の安定化と
物資を待ち、
[救護者は]
自立支援
この時期の被災地では、駆けつけたボランティ
[被災者は]
アによるさまざま復興支援一色である。救護者の
最初は混沌としていた新しい現実もやがて落ち
一員である災害ボランティアは、被災者の傍らに
着きを見せ始める。阪神・淡路大震災では約3ヶ
おり、あくまでも被災者を活動の中心に据え、臨
月でライフラインが復旧したが、その頃からボラ
機応変に、被災者や被災地の支援を行う。支援活
ンティアと呼ばれた若者は去り、自衛隊も完全撤
動の内容は、個々の被災者や、被災地の風土、土
退した。また、ひとたび真新しい出来事が発生す
地柄などを想定して行う。災害ボランティアによ
るやいなや、たちまち被災地からマスコミも去り、
る支援活動は、既存の社会からみれば非日常的で
被災地のことはあまりマスコミでも取り上げなく
あることが多く、社会に対して新鮮な情報を提供
なった。被災地の人びとの生活は震災前のように
することとなる。
彼らだけの生活に戻った。つまり、被災地に日常
災害ボランティア活動は「ただ傍らにいるこ
と」「何でもあり」
「一人一人が大切」「最後の一
が戻ったのである。
震災後の現実そのものが安定し、輪郭がはっき
人まで」と語られている。「ただ傍らにいること」
りしてきたときにはじめて、本当の意味での現実
とは、何らかの救援を展開できるボランティアで
適応過程が始まる。この段階までの被災地は「み
あっても、まずは無条件に被災者の傍らにいて、
んな一緒」であり、そこに暮らす人びとの生活も
被災者の声を聴くことから具体的な活動へと移る
「おたがいさま」が通常であった。しかし、この
ことの必要性を示している。また、「何でもあり」
時点から被災者の格差が明確になり始める。被災
は、想定していたことを超える事柄が発生した場
の程度の違いや復興に当てることのできる資金な
合、それを被災者とともに受け止め、既存の制度
どの違いから、その後の生活もおのずと違ってく
やしくみでは対応できなくても、ボランティアと
る。それまでは地域共通の課題であった災害から
して、何らかの支援活動を創出していくことの必
の復旧が、復興段階に入ると個人単位あるいは世
要性を示している。続いて、
「一人一人が大切」は、
帯単位での個別課題へと変化する。
「みんな一緒」
文字どおり、個々の被災者の個別に対応
し、被災者を何らかのカテゴリーで集約
して考えないことの必要性を示してい
る。さらに、「最後の一人まで」は、ど
んな支援活動を行っても、必ずその活動
では十分ではない人がいるが、それを容
認して支援活動を停止するのではなく、
十分な支援を得られなかった人にこそ注
目しながらさらに支援活動を継続するこ
との必要性を示している。
表 2-7 発生から一ヶ月前後に見られる心身の変化
10
中山
「おたがいさま」は喪失する。およそ現実
表 2-8 災害発生から半年前後に見られる心身の変化
が定まったことで、その現実が自分の人
生にとってどのような意味をもつかを検
証することが求められる。
[救護者は]
福祉や看護の世界では、慢性疾患の傷
病者をケアする場合、手厚く介護するほど自立力
変化に対する注意を集中する必要がある。人びと
は弱まり、依存性が助長されることが知られてい
はその代償として疲労を蓄積しながら、 いわば
る。災害復興でも同じ問題が発生している。復興
「燃え尽きながら」毎日を送ってきた。半年か経
の到達目標は、「被災者」を「市民」に戻すこと
過し復興計画が樹立され、実行段階に移ると、新
である。言い換えれば、自己決定と自己責任のた
しい変化が起きなくなった。
めの環境を整えることである。自らが行動を選択
また、被災地以外では、震災関連の報道は激減
し、自らがその責任をとるという習慣を段階的に
し、国民全体が「なかったこと」にしてしまう風
復活させることが必要になる。東日本大震災から
潮が出始め、緊急援助隊や広域援助隊をはじめ各
の復興における被災者の最大の関心は、自らの健
種ボランティアたちでさえも、日常の仕事・生活
康と住まいである。そのため、多くの人にとって、
に戻り、まるで過去の活動を懐かしむように、仲
自らの健康を管理し、住まいを再建するための対
間同士で武勇伝を語り合う程度になってしまう。
応が自分にとってどのような意味をもつかを学ぶ
プロセスが重要になる。それを支援することがこ
の時期のこころのケアの中心となる。折にふれ、
2.5 巨大災害後の法整備
前節までと少し話は変わるが、巨大災害の後は
震災で失ったものへの哀悼の気持ちがよみがえる
災害への対策・対応について新たな法律が成立す
が、全体としては新しい現実のなかで、自己中心
る状況にある。日本国憲法では、
「第3章 国民の
的に決してならず、
「できるだけ有利な場所」に
権利及び義務」 として、 基本的人権の享有(第
自分を位置づけることが重大な方法である。
11 条) ならびに個人の尊重と公共の福祉(第 13
条)、 国民の生存権と国の社会的任務(第 25 条)
2.4.7 発生から半年
が保障されている。憲法におけるこうした条項は、
この時期は、震災発生以来活動し続けてきた人
災害により被災した国民が救援を受けるにあた
びとの疲労が極限に達する時期である。救出者・
り、最も基本的なよりどころとして解釈されてお
救助者などは交代任務を行っているものの、蓄積
り、過去には次のような法律が巨大災害の後に制
疲労からくる免疫力の低下から体調不良となり、
定されている。
「出口が見えない」という言葉が災害対応に従事
してきたほとんどの担当者の口癖になる時期でも
ある。
・災害対策基本法
1959 年(昭和 34 年) に九州を除く全国(特に
震災を契機として創出された現実がまだ明確な
愛知県)にわたって、死者・行方不明者5千余名
輪郭をもたない間は、日々の状況は変化し続け、
もの大きな被害を及ぼした伊勢湾台風から2年後
人びとを興奮させ、気持ちを高揚させる。流動的
の 1961 年 11 月に成立した。我が国の国土並びに
な現実に対応する、あるいは遅れをとらないよう
国民の生命、身体及び財産を災害から保護するた
にするだけで気が張っていた時期である。自分が
め、防災に関し国・地方公共団体及びその他の公
取り巻く環境が次々と変化する以上、外的な環境
共機関を通して必要な体制を確立し、責任の所在
災害とその対処
11
を明確にすることを、防災関係法令の基本に位置
百年に一度、千年に一度といった災害対策に巨
づけられており、災害対策のおける国や地方公共
額の税金を投入する事は、国民の理解が得られに
団体をはじめとした公共機関の責務として、防災
くい。そこで近年では政府の中央防災会議により
計画の作成、災害予防、災害応急対策、災害復旧
「災害被害を未然に軽減する(減災) 国民運動」
及び防災に関する財政金融措置その他必要な災害
が提唱され、災害によって生じた被害を最小化す
対策の基本を定めることにより、総合的且つ計画
るための取り組みが進められている状況にある。
的な防災行政の整備、推進をし、社会の秩序の維
防災とは被害を出さないための取り組みであるの
持と公共の福祉の確保をする事を明確にするもの
に対し、減災とはあらかじめ被害の発生を想定し
として策定された。
たうえで、その被害を低減させるための取り組み
を意味し、具体例としては、緊急地震速報や建物
・大規模地震対策特別措置法
の耐震化だけでなく、家具の転倒防止などもあげ
駿河湾から御前崎沖の東海地域を震源とするマ
られる。一部の人だけ、あるいは、行政だけが取
グニチュード8クラスの地震(東海地震)に備え、
り組むものではなく、文字どおり我が国の総力を
発生の予兆が出現、もしくは発生が予知された場
あげて、多種多様な主体がいろいろな方法で、減
合に、国や地方公共団体、企業、団体などがとる
災という目的達成のための活動を行うべきである
べき対策として、地震防災対策強化地域の指定、
という流れに変化してきている。
地震観測体制の整備、地震防災体制の整備に関す
る事項、地震防災応急対策などの地域防災対策等
を整備するために、1978 年(昭和 53 年) 6月に
策定されたものである。
3.おわりに
振り返ると地震発生直後、身の危険を感じあら
ゆる情報を得ようと直視し、1時間後は家族の安
・国民保護法
否を確認し現実を把握しようとしていた。24 時
2001 年(平成 13 年) 9月に発生したアメリカ
間後は生き残りを考え、72 時間後はあらゆるも
同時多発テロや、 同年 12 月に発生した九州南西
のに不満を抱き、1週間後では毎日の生活だけで
海域工作船事件を受け、「武力攻撃事態などにお
大変だったが復興に希望をもち、被災地は善意で
ける国民の保護のための措置に関する法律(通
あふれていた。1ヶ月後はさまざまな問題に直面
称、 国民保護法)」 をはじめとした有事関連 7 法
しながらも自立に向け努力し、半年が経過し燃え
案が 2004 年6月に成立した。 我が国が武力攻撃
尽きてしまうという経過をたどる。
や大規模テロを受けたときに、国民の生命・財産
を守る方法として、国、地方公共団体の責務、国
こうした経験から未来に向け何を伝えなければ
ならないのか?
民の協力、住民の避難に関する措置、避難住民等
こうした出来事や復興までの経過を伝えるので
の救護に関する措置、武力攻撃災害への対処に関
はなく、大災害発生後のその瞬間瞬間で何を考え、
する措置を定めることと、自立して生活を再建す
何を感じ、何をやらなくてはいけないのかについ
る事が困難なものに対し、都道府県が相互扶助の
て学び、伝えていかなければならない。日常生活
視点から拠出した資金を活用して被災者再活再建
のなかで展開されている家事、仕事、勉強や、子
支援金を支給することを定めた法律であり、主と
供の安全確保、高齢者に向けたさまざまな福祉、
して国と地方公共団体の役割を規定したものであ
社会問題、地域の伝統などをすべて組み込みなが
る。
ら、みんなで繰り返し、地域特性に合わせた災害・
防災教育をしなければならないと考える
12
中山
参考・引用文献
1)日 本赤十字社 事業局看護部編集: 災害看護学・
国際看護学,医学書院,東京(2010)
2)京 都大学防災研究所編集: 防災学ハンドブック,
朝倉書店,東京(2004)
3)ベ ン・ ワーズナー, 岡田 憲夫訳: 防災学原論,
築地書館,東京(2010)
4)守 屋 克也, 渥美 公秀 編著者, 近藤 誠司,
宮本 匠 著者:防災・減災の人間科学,新曜社,
東京(2011)
5)都甲 潔,飯山 悟:トコトン追求 食品・料理・
味覚の化学,講談社,東京(2011)
13
研 究
柔道の受け身に対する意識調査の一考察
―Kokushikai Judo Camp(USA)参加メンバーを対象に―
An Examination of the Attitude Survey Concerning the Judo Ukemi
―A Study of Participants in the Kokushikai Judo Camp USA―
森脇 保彦,中島 たけし,田中 力
Yasuhiko MORIWAKI,Takeshi NAKAJIMA and Chikara TANAKA
Abstract
The ukemi , or falling method employed in judo, is a technique with which to
protect one’s self in the event of losing balance or upon being thrown or knocked
down by an opponent. The poet Aida wrote about ukemi:“Ukemi is the basis of
Judo. Ukemi is the practice of falling. Ukemi is the practice of being defeated. The
practice of being thoroughly disgraced in front of others. Those who master ukemi
are masters. Because they recognize the importance of losing.”Even in the case of
falling on a hard concrete floor, it is exceedingly important to execute the ukemi
with a tremendous sound, thereby expending the energy of the fall propagating
through the body. At the moment of falling, the chin is pulled in to prevent the back
of the head from hitting the floor, and the entire body is made momentarily rigid
while executing the slap to the floor, and instantly following the slap, the body is
relaxed. This is said to be the knack of doing ukemi properly. However, it is common
for, fearing injury or pain, anxiety and tension to prevent supple use of the body to
perform a masterful ukemi. It is often noted that there is greater interest in
throwing one’s opponent than in falling correctly. Accordingly, observation by the
untrained eye leads to an image of judo being dangerous. Recently, a study
concluded that head and neck injuries in mandatory middle-school physical
education judo classes were higher than in judo club activities(by 2.4 times).This
has become a significant problem. On December 12, 2011, the Asahi Shimbun
Newspaper reported that seminars focusing on teaching methodology that promotes
safety are to be conducted throughout the country. The aim of these seminars is to
improve the conditions surrounding judo. This is a further effort to ensure the
thoroughgoing pursuit of the advancement of judo teaching methods.
In this study, we examined the perceptions of middle-school students participating in
国士舘大学(Kokushikan University)
14
森脇・中島・田中
judo classes made mandatory in 2012 with regards to ukemi. This study draws on a
previous study by Ogitsuka, et al(1),the“Study of the Image of Judo Ukemi.”
Taking into consideration the results of that study, we compared our results with
the data collected during the 3rd Kokushikai Judo Camp conducted in New York in
August of 2011, and other available data.
Key words; Ukemi, Self-protection, Judo, Safety guidance
平成 24 年より実施の武道必修化に伴い中学生が
Ⅰ.緒言
柔道の受け身に対してどの様なイメージを持って
柔道の受け身は、相手から技を掛けられて投げ
いるかの調査を行った。
られたり、自分自身でバランスを崩して倒れた時
その結果を参考に、 平成 23 年8月にニュ ーヨ
などの怪我から身体を守る技術である。詩人の相
ークで開催された第3回 Kokushikai Judo Camp
は、 受け身について次のような詩を
参加メンバーを対象に同様の調査を行った。その
田みつを
15)
読んでいる。「柔道の基本はほんらい受け身、受
結果と先行研究を比較し報告する事とした。
け身とはころぶ練習、負ける練習、人の前にぶざ
まに恥をさらす練習、受け身が身につけば達人、
負けることの尊さが解るから」と。どんなに硬い
コンクリートの床に倒れたとしても、受け身を取
Ⅱ.研究方法
(1)調査対象者
った瞬間は、身体に電流が走った様に乾いた大き
アメリカ(ニュ ーヨーク州) にて平成 23 年年
な音がする受け身を取る事が大事である。その瞬
8月 15 日~ 27 日に開催された Kokushikai Judo
間は後頭部を打たないように顎を引き、全身を瞬
Camp.参加者 151 名(男子 105 名、女子 46 名)
、
時に剛体として床を叩く、そして叩き終ったら瞬
平均年齢 19.8 歳 標準偏差 13.5 歳(20 歳以下:
時に身体の力を緩めることが求められる。これが
106 名、以上:45 名)であった。
受け身のコツと言われている。しかし、怪我や痛
みに対する恐怖感、不安から身体が緊張して満足
(2)調査方法
扇塚 1)らの先行研究において使用したアンケー
のいく受け身が身につかない場合が多い。しかし、
ト調査の「柔道の受け身に関する意識の調査」表
一般的に相手を投げる技術には興味を持って取り
1(英訳) の通り6要素・ 質問項目(30 項目)
組む場合が多く見られる。従って受け身が不十分
を採用した。※日本文表2参照
で未熟さから怪我に繋がり、柔道は危険だという
A 「身体的効果」1)
,8)
,15)
,23)の4項目、
イメージだけが認識されやすいと思われる。最近、
B 「体力的効果」 2)
,20)
,24)の3項目、
中学の柔道で頭や首を負傷するリスクは、部活動
C 「日常的効果」 3)
,9)
,16)
,25)の4項目、
中より体育の授業中の方(部活の 2.4 倍)が高い
D 「 受 け 身 の 位 置 付 け 」 4), 6),10),12)
と云う調査結果が示され、大きな問題になってい
る。(朝日新聞 2011.12.17 朝刊掲載)、柔道界では
問題改善のための安全指導講習会を全国的に開催
し、指導法の意思徹底に勤めている。
そこで本研究は、扇塚1)らの先行研究において、
「柔道の受け身に対するイメージ調査の検討」で、
17)
,19)
,26)
,29)の8項目、
E 「心理的効果」 5)
,7)
,11)
,18)
,21)
,27)
28)
,30)の8項目、
F 「その他」 14)
,22)の2項目を採用し、主催
者と調査対象者に調査依頼し同意を得て調査
用紙を配布、調査終了後に回収を行った。
柔道の受け身に対する意識調査の一考察
− Kokushikai Judo Camp(USA)参加メンバーを対象に−
表1 アンケート用紙
15
16
森脇・中島・田中
表2 平均値と標準偏差
(3)分析方法
因子分析について Comrey.A.L(1980)は、そ
本研究は、受け身に対する意識の構造を統計的
の著書の中で「多数の変量について相関行列が大
立場から推定するための方法として因子分析法を
きな値の相関係数を持っていると云う事は、その
用いる事とした。
中にある変量が相当に強く関与していることを示
因子分析(Factor analysis)は、1900 年代の初
している。変量が多くその間に多数の高い相関が
めから心理学における統計的手法として発達し、
ある時は、様々な相互関係のあることが予想され
その後医学、生理学、社会学、教育学等広範囲の
るが、これをそのまま同時に考慮して考察する事
分野において応用されている。その根本的な思想
は非常に困難である。このような場合、因子分析
は、“ある領域での一件複雑に見える種々の現象
は相関行列に見られる数値を説明するために潜在
も、極めて少数の潜在的因子(Latent factor)に
的な因子の存在を仮定したり、或は、因子と云う
よって説明し得る”という、科学の根底に横たわ
名の構造物を想定し、このような複雑な相互関係
る簡素(Parsimonny) の原則に基づいている。
を出来るだけ簡単な形で捉える手段を提供するも
(奥野ら
)
13)
のである」と述べている。また、松浦 14)は、「あ
柔道の受け身に対する意識調査の一考察
− Kokushikai Judo Camp(USA)参加メンバーを対象に−
る種の能力を測定する諸テスト変数は、テスト結
(平均値 =4.556、標準偏差 =0.717)
果として測定された成果にはいくつかのより単純
15)受け身は衝撃を和らげる
な能力領域が関与していると考えられる場合が多
(平均値= 4.496、標準偏差 =0.823)
い。 この単純な能力領域を各テスト変数の関連
8)受け身はケガを防ぐもの
(相関係数、または共分散)を手がかりとして見
(平均値 =4.490、標準偏差 =0.847)
つけていく統計的方法の一つが因子分析法と云わ
得点の低い順に 4 項目
れるものである」と述べている。因子分析には、
13)受け身は恥ずかしい
その方法として、二因子解法、二重因子解法、セ
ントロイド解法、主成分解法、主因子解法、多因
子解法、多群子解法等の方法がある。
非常にそう思う ・・・・・・・ 5
やや思う ・・・・・・・・・・・・・ 4
17
(平均値 =1.384、標準偏差 =0.823)
7)受け身は怖い
(平均値 =1.642、標準偏差 =1.015)
18)受け身は難しい
(平均値 =1.847、標準偏差 =1.024)
どちらでもない ・・・・・・・ 3
5)受け身は痛そう
あまりそう思わない ・・・ 2
(平均値 =2.278、標準偏差 =1.312)
ぜんぜん思わない ・・・・・ 1
として調査内容を得点化し、得られた結果につ
2.受け身に対する意識の構造
いて平均値、標準偏差、相関行列(30 × 30)を計
調査対象者全体の 151 名について、得られたデ
算し、主因子法(Principal factor solution)を施
ータすべてを得点化した結果、表4の回転後の因
し、固有値 1.0、因子負荷量 0.4 以上の主成分につ
子負荷行列に見られるように8因子が抽出され、
いてノーマル・バリマックス(Normal varimax)
第1因子から第8因子までの全分散に対する累積
基準による直行回転を適用して多因子解を求め
貢献度は 63.162%であった。ここでは因子負荷量
た。
0.4 以上を解釈のための基準とした。 表3は相関
行列(30 × 30)である。また、Cronbach のα係
Ⅲ.結果
1.項目ごとの得点の平均値と標準偏差
調査対象者 151 名から得られたデータを項目ご
数を算出したところ、 α= 0.845 と云う意味ある
数値が得られた。
第1因子は、全分散に対する貢献度は 11.188%
であり、因子負荷量が 0.4 以上の項目を高いもの
とに得点化し、30 項目の平均値と標準偏差を算
から順に列挙すると
出し、表2に示した。その結果、最も肯定された
3)受け身は転んだ時に使える(0.831)
、
項目は、4)受け身は転んだ時に使える(平均値
15)受け身は衝撃を和らげる(0.793)
、
=4.70、標準偏差 =0.70)である。反対に、最も同
1)受け身は体を守る(0.707)
、
意されなかった項目、13) 受け身は恥ずかしい
23)受け身は命を守る(0.650)
、
(平均値 =1.38、標準偏差 =0.82)である。
以下得点順に並べると、得点の高い順に5項目
25)受け身は普段の生活の中でも使える(0.476)
の5項目が抽出された。
3)受け身は転んだ時に使える
3)日常的効果、15)身体的効果、1)身体的効
(平均値 =4.702、標準偏差 =0.700)、
果、23)身体的効果、25)日常的効果に関する項
1)受け身は身体を守る
目が抽出された。受け身は日常的に身体を守る事
(平均値 =4.589、標準偏差 =0.695)
に繋がる事から「日常・身体的効果因子」と解釈
16)受け身は身につけておくと便利
した。
18
表3 相関行列(N=151)
1)
受け身は体を守る
2)
受け身は首を強くする
3)
受け身は転んだ時に使える
4)
受け身は基本的動作である
5)
受け身は痛そう
6)
受け身は準備運動でする事の一つである
7)
受け身は怖い
8)
受け身はけがを防ぐもの
9)
受け身は事故にあった時に使える
10)
受け身はなくてはならない動作
11)
受け身はストレス解消になる
12)
受け身はたくさん種類がある
13)
受け身は恥ずかしい
14)
受け身は自分がどうやってとっているのか分らない
15)
受け身は衝撃を和らげる
16)
受け身は身につけておくと便利
17)
受け身は相手の技をきれいに見せるもの
18)
受け身は難しい
19)
受け身は練習したら上手くなる
20)
受け身は目が回る
21)
受け身は楽しい
22)
受け身はコツをつかめばすぐにできる
23)
受け身は命を守る
24)
受け身は自然に体が動くようになる
25)
受け身は普段の生活のなかでも使える
26)
受け身は出来ていないと知っていないと危険
27)
受け身は美しいきれい
28)
受け身はいざという時に使えるか不安
29)
受け身は柔道が強くなるための一歩
30)
受け身はカッコいい
表4 回転後の因子負荷行列(N=151)
3)
受け身は転んだ時に使える
15)
受け身は衝撃を和らげる
1)
受け身は体を守る
23)
受け身は命を守る
25)
受け身は普段の生活のなかでも使える
24)
受け身は自然に体が動くようになる
16)
受け身は身につけておくと便利
10)
受け身はなくてはならない動作
14)
受け身は自分がどうやってとっているのか分らない
8)
受け身はけがを防ぐもの
12)
受け身はたくさん種類がある
9)
受け身は事故にあった時に使える
7)
受け身は怖い
18)
受け身は難しい
13)
受け身は恥ずかしい
5)
受け身は痛そう
22)
受け身はコツをつかめばすぐにできる
20)
受け身は目が回る
4)
受け身は基本的動作である
29)
受け身は柔道が強くなるための一歩
2)
受け身は首を強くする
30)
受け身はカッコいい
21)
受け身は楽しい
27)
受け身は美しいきれい
26)
受け身は出来ていないと知っていないと危険
17)
受け身は相手の技をきれいに見せるもの
11)
受け身はストレス解消になる
19)
受け身は練習したら上手くなる
6)
受け身は準備運動でする事の一つである
28)
受け身はいざという時に使えるか不安
森脇・中島・田中
柔道の受け身に対する意識調査の一考察
− Kokushikai Judo Camp(USA)参加メンバーを対象に−
第2因子は、全分散に対する貢献度は 10.916%
7)受け身は怖い(0.765)
、
であり、有意な項目を列挙すると
18)受け身は難しい(0.739)
、
24)受け身は自然に体が動くようになる(0.765)、
13)受け身は恥ずかしい(0.607)
、
16) 受 け 身 は 身 に つ け て お く と 便 利(0.692)、
5)受け身は痛そう(0,531)
、
10) 受 け 身 は な く て は な ら な い 動 作(0.607)、
22)受け身はコツをつかめばすぐにできる
14)受け身は自分がどうやってとっているか分ら
ない(0.594)、
19
(− 0.457)
、
20)受け身は目が回る(0.421)
8)受け身はけがを防ぐもの(0.580)、
の6項目が抽出された。
12)受け身はたくさん種類がある(0.485)、
7)心理的効果、18)心理的効果、 13)心理的効
9)受け身は事故にあった時に使える(0.474)
果、5)心理的効果、22)その他、 20)体力的効
の7項目が抽出された。
果に関する項目が抽出された。上位4項目に心理
24)体力的効果、16)日常的効果、10)受け身の
的な影響が高いことを示し 「心理的マイナス効果
位置付け、14)その他8)身体的効果、12)受け
因子」 と解釈した。
身の位置付け、9)日常的効果に関する項目が抽
第4因子は、 全分散に対する貢献度は 7.685%
出された。ここでは因子負荷量の高い上位2つの
であり、有意な項目を列挙すると
24)受け身は自然に体が動くように成る。16)受
4)受け身は基本動作である(0.747)
、
け身は身につけておくと便利に注目して 「体力・
29)受け身は柔道が強くなるための一歩(0.710)
、
日常効果因子」 と解釈した。
2)受け身は首を強くする(0.492)
第3因子は、 全分散に対する貢献度は 8.616%
であり、有意な項目を列挙すると
の3項目が抽出された。
4)受け身の位置付け、29)受け身の位置付け、
20
森脇・中島・田中
2)体力的効果に関する項目が抽出された。柔道
されたかどうかについても明確なものではないの
の基本技術の向上及び怪我予防に関する項目であ
でここでは「解釈不能」とした。
り、「基礎的因子」 と解釈した。
第5因子は、 全分散に対する貢献度は 7.561%
であり、有意な項目を列挙すると
30)受け身はカッコいい(0.841)、
21)受け身は楽しい(0.789)、
27)受け身は美しい・きれい(0.521)
の3項目が抽出された。
この結果、Kokushikai Judo Camp 参加者の受
け身の意識構造は、
●第1因子:「日常・身体的効果因子」日常生活
における受け身の必要性、便宜性に関する記述
●第2因子:「体力・日常効果因子」日常生活に
おける受け身の必要性に関する記述
●第3因子:
「心理的マイナス効果因子」受け身
30)心理的効果、21)心理的効果、27)心理的効
によって得られるメンタル的要素に関する記述
果に関する項目が抽出された。3項目すべて心理
●第 4 因子:
「基礎的因子」 柔道の基本技術及び
的関係因子であり、「心理的プラス効果因子」 と
解釈した。
第6因子は、 全分散に対する貢献度は 6.869%
であり、有意な項目を列挙すると
26)受け身は出来ていないと知っていないと危険
(0.664)、
17)受け身は相手の技をきれいに見せるもの
(0.612)、
11)受け身はストレス解消になる(0.523)
怪我予防に関する記述
●第5因子:
「心理的プラス効果因子」受け身に
よって得られるメンタル的要素に関する記述
●第6因子:
「心理的効果因子」受け身の楽しさ、
期待に関する記述
●第7因子:
「基礎的因子」柔道における基本的
な受け身の取り組みに関する記述
●第8因子は、一項目のみの抽出のため解釈不能。
以上の因子から構成されていた。
の3項目が抽出された。
26)受け身の位置付け、17)受け身の位置付け、
3.各因子の男女間の比較
11)心理的効果に関する項目が抽出された。技の
因子分析の結果より、男子 105 名、女子 46 名に
効果の表現やストレス解消を表しており 「心理的
ついて、各因子の因子得点係数を算出し、個人ご
効果因子」 と解釈した。
との因子得点を(回帰法)によって算出した。そ
第7因子は、 全分散に対する貢献度は 5.037%
であり、有意な項目を列挙すると
の結果、表5に示す様に第1~8因子すべてに於
いて男女間に有意な差は認められなかった。
19)受け身は練習したらうまくなる(0.680)、
6)受け身は準備運動の一つである(0.563)
の2項目が抽出された。
19)受け身の位置付け、6)受け身の位置付けに
関する項目が抽出された。基本の徹底に関する事
と思われるので 「基礎的因子」と解釈した。
第8因子は、 全分散に対する貢献度は 4.777%
であり、28)受け身はいざというときに使えるか
不安(- 0.743) の一項目にのみ有意な負荷量を
示した。心理的効果に関する項目である。通常因
子の解釈にあたっては、単一の項目からの因子を
定義するのは非常に困難であり、かつ正しく解釈
表5 性差の検定(T検定)
柔道の受け身に対する意識調査の一考察
− Kokushikai Judo Camp(USA)参加メンバーを対象に−
Ⅳ.考 察
21
第6因子の「心理的効果因子」26)受け身は出
来ていないと知っていないと危険 17)受け身は
この結果、平均値から受け身の意識を考察する
相手の技をきれいに見せるもの 11)受け身はス
と、平均値 4.0 以上の項目は 13 項目あり、中でも
トレス解消になる、受け身の必要性及び爽快感を
一番高い3)受け身は転んだ時に使える の様に
持って取り組んでいる事が伺える。
受け身をすることによって安全に怪我から身体を
第7因子の「基礎的因子」19)受け身は練習し
守ることが出来る。 逆に、 得点の低い 13) 受け
たら上手くなる 6)受け身は準備運動の一つで
身は恥ずかしい の様に投げられることに対して
あるの様に、柔道が強くなるための基礎であると
不安や抵抗感はあるものの、楽しさや技がきれい
捉えていることが伺える。
に決まるようになりたいという希望と期待を持っ
て取り組んでいる様子が伺える。
また、因子分析から受身の意識を考察すると第
Ⅴ.まとめ(Conclusions)
1因子 「日常・身体的効果因子」、第2因子 「体
本研究では、Kokushikai Judo Camp 参加メン
力・日常効果因子」 と解釈できることから、参加
バーの受け身に対する心理学的意識(イメージ)
者の年齢平均が 19.8 歳、 下は6歳から上は 75 歳
についてアンケート調査による検討を行った結
であるが、参加者の 2/3 が 20 歳以下の若者が多く
果、次の結論が得られた。
参加していた事から、指導者から受身の必要性や
1)参加メンバーの 2/3 が 20 歳以下の若いメンバ
取り組み方について徹底的に指導されている事が
ーであり、また、初心者が大半であった。従
窺われる。参加者は、柔道の練習や日常生活にお
って、日頃指導者から受け身の必要性や重要
いて安全に身体を護る技術であることを潜在的に
性について徹底して指導を受けている事が推
意識していると推測される。
第3因子の 「心理的マイナス効果因子」 7)受
測される。
2)受け身の意識は、解釈不能一つの因子を除き
け身は怖い 18)受け身は難しい 13)受け身は
「日常 ・ 身体的効果因子」
恥ずかしい 5)受け身は痛そうの 4項目がマ
「体力 ・ 日常的効果因子」
イナスイメージに対して 22)受け身はコツをつ
「心理的マイナス効果因子」
かめばすぐにできるという様に、20 歳未満の若
「基礎的因子」
者が多く参加している為、指導者の指導通り積極
「心理的プラス効果因子」
的に希望を持って取り組み、痛い・怖いという不
「心理的効果因子」
安な気持ちを越えようとする葛藤が伺われる。
「基礎的因子」
第4因子の 「基礎的因子」 4)受け身は基本的
の7因子から構成されていた。
動作である 29)受け身は柔道が強くなるための
扇塚 1)らの先行研究の中学生と比較すると、投
一歩 2)受け身は首を強くするは、受け身の必
げられる事への恐怖感や受け身の痛みから逃避観
要性・重要性を認識しており、日頃から指導・徹
を抱く者については同様の印象が認められた。し
底されていることが伺える。
かし、日常生活の中で怪我の防止、安全面との関
第5因子の「心理的プラス効果因子」30)受け
連性については、中学生よりも Camp 参加者の方
身はカッコいい 21)受け身は楽しい 27)受け
が高い意識を示していた。このことは、柔道が強
身は美しい・きれい、受け身を見た印象そのまま
くなる(柔道の技を早く教えてもらいたい)ため
希望と期待・ あこがれを抱いている事が伺われ
には、楽しんで行うと共に、技を教えて欲しくて、
た。
早く受け身が出来るようになりたいと、強く認識
22
森脇・中島・田中
している結果と思われる。
3)C amp 主催者(松村先生・ セリータ氏) は、
思春期の若い子供達が多く参加している、従
って怪我をさせない為に受け身を徹底する事
を常に心がけて指導されている。さらに飽き
させない為、色々な遊びを取り入れて楽しく
遊びの中からいかに柔道に興味を持たせるか
と云う事に神経を注いで指導されている事が
影響していると考えられる。
受け身が出来ない者には技を教えない事を教
え、受け身の徹底を即されている。
本研究は、アメリカ柔道家の受け身に対する意
識の検討であるが、指導者の指導法が強く影響し
ている事が伺え、生徒自ら真剣に取り組んでいる
様子を伺うことができた。
以上の事から、受け身の徹底指導を行う事が求
められ、何故 「受け身」 を覚えなければならない
のかを理解させ、上手い受け方、倒れ方、対応方
法等を指導する事が大事である。これが柔道本来
の技術向上にも繋がると共に怪我予防に大事であ
ると考える。
本稿作成に当たり、kokushikai Judo Camp 主
催者の松村洋一郎先生(国士舘大学体育学部3期
卒)、Celita Schutz 氏 オリンピアン(アトラン
タ・シドニー ・ アテネ)、Tommi.S.Freeburg 氏、
Hiromi karagiannis 氏には、アンケート調査及び
翻訳にご協力いただき、貴重な資料を得る事がで
きました。また、藤田主一先生(日本体育大学教
授)
、吉川和利先生(電気通信大学教授)にはデ
ータ分析等ご指導頂きましたこと深く感謝申し上
げます。誠にありがとう御座いました。
参考文献
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10)伊藤政展「水泳技能の観察学習に関するフィール
ド・リサーチ」体育学研究 24-4.P291-299.1980.
11)西田保、勝見篤美、猪俣公宏、小山哲、岡沢祥訓、
伊藤政展「運動イメージの明瞭性に関する因子分
析研究」体育学研究、 26-3.P189-205、1981
12)鶴原清志、渡辺章、中川昭、荒木政信「運動学習
の領域における用語の問題(その 2)」スポーツ心
理学研究、8-1.P48-50.1972
13)奥野忠一、久米均、芳賀敏郎、吉沢正「多変量解
析法」日科技連出版社、P323.1983.
14)松浦義行「因子分析法」不昧堂、P101-109.1972.
15)相 田みつを「一生感動一生青春」 文化出版局、
P76、77
16)藤 堂良明「体育科教育」P10 〜 P13 53 巻 11 号
11. 2005.
17)児 島義明 「柔道投技の受身の分析」 武道学研究
10-3. 1978
23
研 究
高校弓道部員への心理支援について
―前向きな自己イメージと精神的安定のために―
Psychological support for Japanese high school archers
―For a positive self-image and mental stability―
山口 豊 *,窪田 辰政 **,相原 幸音 *,森脇 保彦 ***
Yutaka YAMAGUCHI*,Tatsumasa KUBOTA**
Yukine AIHARA* and Yasuhiko MORIWAKI***
Abstract
Japanese archery is greatly affected by the mind of the archers. Japanese archers
in high school need a positive self-image and mental stability to hit their target. The
purpose of this study is to examine the improvement of the self-image and mental
health of Japanese high school archers through SAT image therapy. The subjects
were 27 students of the tenth grade and eleventh grade level. This intervention was
performed in November, 20XX. In the intervention, students’ psychological indeces of
"Self-esteem", "Self-repression," "Self-denial", "State-trait anxiety inventory," and "Selfrating Depression Scale," improved significantly(Wilcoxon signed-rank test).In the
subjects’ free descriptions of Self -image(for psychological support),18(10)people
were positive, 5(3)people were neutral, 0(3)people were negative, and 4(9)people
did not respond.
The results of our intervention showed the effectiveness of psychological support
for Japanese high school archers through SAT image therapy.
Key words; Japanese archery(Kyudo)
,self-image, mental stability, psychological support
Ⅰ.緒 言
スポーツのパフォーマンスがアスリートの精神
は、弓と矢を持って外的に何事かを行おうとする
ことではなく、自分自身を相手にして内的に何事
かを果たそうとする意味を持っている」という 1)。
性に影響を受けることは、もはや自明のことであ
また、森ら(1991)は、弓道をしているものの脳
るが、中でも弓道は特に精神性の高い競技である
波は、座禅中の脳波パワースペクトルに類似する
といえよう。オイゲン・ヘリゲル(1936)は、
「弓術
ことを指摘し、弓道と座禅の精神性の類似点を科
* 筑波大学(University of Tsukuba)
** 静岡産業大学(Shizuoka Sangyo University)
*** 国士舘大学(Kokushikan University)
24
山口・窪田・相原・森脇
学的に示している 2)。もちろん、射術との関係に
定した心理状態を維持することが重要であろう。
おいても精神性は重要である。多くの射手は、習
このような心理的課題に対しては、身体的指導や
い始めのころは的中することにあまりこだわらな
技術的トレーニングだけでは限界がある。徳永ら
いため、心理的要因が射術に影響する度合いは、 (2007)は、約1月間で6回のプログラムを実践
それほど深刻では無い。しかし、月日が過ぎ、あ
し高校弓道部員に対してメンタル指導介入を行っ
る程度的中ができるようになると、的中への欲が
た。その結果、パフォーマンスを高めるには心理
出て、かえって射術に悪影響がでてくる場合もあ
的スキルを高めることが有効であるとしている 10)。
る。例えば、「ゆるみ」「早気」などは、修正の難
また、煙山(2010)は、15 日間にわたって心理支
しい深刻な射癖であり、多くの弓術者を悩まして
援を行い大学弓道部員に対して、心理面の改善・
きた。ついには修正できず弓を捨てる射手もいる。
安定を図った。そして、競技パフォーマンスの向
この射癖のはっきりとした要因はわからないが山
上には、リラクゼーション効果の有効性を指摘し、
口・窪田ら(2010)は、心理的支援によって修正
同時にメンタルトレーニングの継続的実践には、
した事例を報告した 。つまり、離れ時における
セルフモニタリングが効果的であると言う 11)。
3)
「あてたい」という強い欲が心の葛藤となり射術
ただし、これらの先行研究による弓道部員への
への集中力を失わせ、的に対する「狙い」や「離
心理支援は実施日数やセッション数が多く、また
れ」といった身体的動作に狂いを生じさせてきた
指導者が専門的な心理的トレーニング能力を持っ
と考えられる。わずかな精神的な働きであっても
ている必要がある。多くの高校弓道部における顧
弓道の射術は影響される。弓道の教歌においても、
問は、担任・教科指導の合間に短時間で指導する
「離れ」 時における精神性についての重要性が、
ことが多く、時間的ゆとりが少ない。更に、顧問
次のように述べられている。“矢をかけて 引き
は弓道経験者とは限らず専門的なメンタルトレー
しぼるは 覚(おぼ)ゆるぞ 離れどきには 無
ニング方法を学ぶのは容易ではない。そこで、高
念無想に”4)。日置当流の稲垣源四郎氏も、最上
校弓道部の顧問でも、負担が小さくかつ少ない介
の離れに至らない射手は、やがて離れの段階で働
入回数でも効果的に心理支援できる方法の開発が
く意識に妨げられて、見事な離れが不可能になる
望まれる。
といい、心理的要因が射術に与える影響を述べて
これらのことから、筆者らは短期的な心理介入
いる 5)。実際、高柳ら 6)の生理学的研究によると、
でも身体的効果のエビデンス 12)13)14) を有する
行射中は、高度な集中力を必要とするため、交感
SAT イメージ療法に注目した。SAT イメージ療
神経を緊張させていることが示されている。白倉
法は、宗像恒次が開発した第3世代に属する認知
らも、的中においては心理的な影響があることを
行動環境療法である。SAT イメージ療法は、 潜
報告している 7)。洋弓においても同様であり、高
在情報の身体出力を重視するので精神性の高い弓
柳(1994)は、弓は自分との闘いであり、ほんの
道競技には、適切な手法といえる。また、前述し
わずかな雑念でもミスにつながり、安定した精神
たように高校弓道選手に対して、SAT イメージ
集中が必要であるという 8)。さらに、このような
療法介入を行い、パフォーマンスが改善された事
精神的安定と同時に、浦上(1998)は、「離れ」に
例が報告されている 15)。本研究の目的は、高校生
際しては、心を安定させると同時に、自分で意識
弓道部員に SAT イメージ療法による心理介入を
して心を高揚させることも重要であるという 。
行い、心理支援が弓道部員の前向きな心理的安定
これらのことから、射手にとっては射術安定の
のためのプログラムとして有効であるかを検討す
9)
ために、日頃から練習時に、気持ちを高揚させる
前向きな自己イメージを持つことと、落ち着き安
ることである。
高校弓道部員への心理支援について
−前向きな自己イメージと精神的安定のために−
25
( S tructured)
」問いかけによって、問題解決脳の
Ⅱ.方 法
右脳を活性化させ、変性意識での「ひらめき、連
1.研究対象者
」を用いて、問題解決法の気づ
想(Association)
本研究対象者は、関東地方 A 県の B 高等学校の
」を意味し、この方
きを促す「技法(T echnique)
弓道部員1・2年生 27 名(男 15 名・女 12 名)年
法によって脳内の扁桃体や脳幹などの潜在記憶情
齢 16.04 歳± 0.65 である。
報にアクセスしていく認知行動環境療法である 17)。
SAT イメージ療法は、 短期間で問題解決を支援
2.倫理的配慮
していくところに特色がある。通常の「心理カウ
倫理的配慮としては、対象者に対し、心理支援
ンセリング」が心理的な面から心の問題を扱うの
前に研究の意図を話し、自由記述内容や数量的デ
に対して、SAT イメージ療法は身体性を重視し、
ータのみを使用し、個人を特定する情報は一切公
身体に現れた症状を入り口として心の問題に迫っ
表しない等を口頭にて告げ、承諾を得た。
ていく。なぜなら,宗像は心の深奥の問題は、顔
表情や動作などの身体に出力され,こうした身体
3.介入時期と時間
症状にこそ潜在記憶情報が影響していると考えて
心理介入は、20XX 年 11 月(下旬)午前中に1
回、約3時間程度実施した。
いるからである 18)。これら潜在記憶情報は、大脳
の海馬や扁桃体、脳幹、小脳に記憶されていると
考えられるが、従来のカウンセリング技法では、
4.介入者
容 易 に ア ク セ ス で き な い 領 域 で あ る。 一 方、
NPO 法人ヘルスカウンセリング学会公認心理
カウンセラーの筆者であった。
SAT イメージ療法では、 目を閉じた変性意識に
おいて構造化された問いかけを受けることによっ
て、この潜在情報にアクセスできると考えられて
5.介入方法
いる。そのため、イメージ法を用いて肯定的な潜
SAT 法による5種類の介入を行った。 1つは
在記憶情報を構築していくことができる。脳神経
SAT 気質コーチング法であり、残りの4つは SAT
活動パターンは、ニューロン(神経細胞)とニュ
法の①「未来自己イメージ法」、②「宇宙自己イ
ーロンがシナプス結合することで形成される。こ
メージ法」
、 ③「光イメージ法」、 ④「SKP イメ
のニューロンには、樹状突起と呼ばれる情報の入
ージ法」である。
力機能を持つ数千もの突起がついているが、出力
は軸索が1本のみである。そこで、クライアント
1)SAT 気質コーチング法
気質コーチング法は、クレッチマー、下田光造、
の嫌悪系潜在記憶情報よりも強く報酬系潜在記憶
情報を入力することで、扁桃体の嫌悪系部位を刺
クロニンジャーらの気質理論や最近の行動遺伝子
激する信号を OFF にして報酬系部位を刺激する
的研究や自らの臨床経験を踏まえ、宗像が系統立
信号を ON にすることができる。SAT イメージ療
てた遺伝的気質論に基づき6つの気質論を作成
法は、 そのことを応用して 19) 宗像の開発したイ
し、それに基づいてセルフケア行動、対人行動を
メージ法である。これらのことから,比較的短期
円滑に進めていく技法
となっている。
16)
間で効果的に自己イメージ,メンタルヘルスを良
好に変容していくことが可能となる。今回用いた
2)SAT イメージ療法
SAT イメージ療法は下記の4種類である。
SAT イメージ療法は、 宗像恒次によって開発
さ れ た 技 法 で あ る。SAT と は「 構 造 化 さ れ た
①未来自己イメージ法
26
山口・窪田・相原・森脇
過去の記憶に頼らず、100 代前から子が親に無
ち自分を守護してくれる人、あるいは自分が守護
条件に愛されてきたと仮定し、またこれからクラ
したい共依存関係になる人のことであり、クライ
イアントを無制限に支援してくれる人がいること
アントが SKP の代理顔表象を意識的にもつこと
を仮定して、自分を無条件に愛する未来型の自己
で安心した気持ちや緊張しない身体の自己イメー
イメージを作る方法である 20)。
ジを持つことできる。 そのことを応用した SAT
イメージ療法の一部である 22)。
②宇宙自己イメージ法
(具体的な支援経過は、下記表2を参照)
人は、1029 個の原子で構成されている複雑系原
子配列体である。それを利用して、人を原子とい
うナノ自己イメージで捉え、原子としての自己が、
6.測定尺度の構成
測定尺度の構成については下記表3を参照。
全宇宙において、守護されているという環境の中
で、捉えられた自己をイメージする方法である 21)。
7.分析方法
統計解析は,SPSS ver19 によって解析した。
③光イメージ法
クライアントをイメージ上で、分子原子素粒子
などの粒子に還元し、暖色系の光に守られて、
「本
来の自分」に気づかせ行動目標化していく方法で
ある。
(具体的な支援経過は下記表1を参照)
Ⅲ.結果
1.心理特性尺度
心理指標:前向きな精神的安定のための弓道部
生徒への SAT イメージ療法による自己イメージ・
メンタルヘルス改善の効果を検討するために、心
④ SKP イメージ法
スピリチュアル・キーパーソン(SKP)とは、
胎内退行法によって気づいた不条理死(流産、早
理介入前後の心理指標を比較したところ、自己イ
メ ー ジ を 測 定 す る「 自 己 価 値 感 」
(z=3.223,
p=.001)
、「 自 己 抑 制 型 行 動 特 性 」
(z=−2.05,
死、事故死、病死など)した「きょうだい」のう
表2 SKP イメージ法支援経過表
表1 光イメージ法支援経過表
高校弓道部員への心理支援について
−前向きな自己イメージと精神的安定のために−
p=.040)、「自己否定感」
(z= − 2.15, p=.032)の尺
2)イメージ法を受けた感想
度値が有意に改善した。さらに、メンタルヘルス
肯定的記述 10 名(37%)
27
を 測 定 す る「 特 性 不 安(STAI)」(z= − 3.192,
「気持ちがとても穏やかで落ち着いた。
」
「イメ
p=.001)、「抑うつ(SDS)」(z=−3.33, p=.001)も
ージを良くすることで行動を変えられたらいいな
有意に改善した。
と思った。
」
「思っていたより楽しく、自分を見な
おししていきたい。」「少し、 気が楽になった。」
2.自由記述
「こんなやり方があるのかと思った。」「本当の自
1)自己イメージの変化について
分がわかってびっくりした。
」
「将来のためになっ
肯定的記述 18 名(67%)
た。
」
「気持ちが軽くなった。
」
「ちょっと落ち着い
「もう少し自分に自信をもってもいい事に気づ
いた。」「前向きになれた。」「明るくなった感じが
する。」「自分に少し自信が持てるようになった。」
「イメージは難しかったが、イメージの中に本来
た。
」
「冬休みに実施するのが楽しみです。
」など。
中立的記述3名(11%)
「実施した後なのでよくわからない。
」
「イメー
ジした自分と今の自分の違いに驚いた。
」
「親や気
の自分を見つけられた気がした。」「少し良くなっ
質で自己イメージが変わることがわかった。
」
た。
」
「良くなった。」「明るくなった。」「おだや
否定的記述3名(11%)
か。」「明るく感じるようになった。」「なんとなく
「イメージが作れず困った。
」
「イメージが難し
丸く穏やかなイメージ。」「受ける前と比べると良
かった。
」
「ガイダンスに難しい内容があった。
」
くなった。」「プラスに変化した。」「以前よりも良
無回答9名(33%)
いメージがついたと思う。」「とっても良くなりま
した。」「よくなったと思う。」「良い方向に変わっ
ていったと思う。」「明るくなった。」など。
中立的記述5名(19%)
「よくわからない。」「思っていたより(自分は)
Ⅳ.考 察
昔の武士が、生涯をかけて弓術を実につけてい
く時代とは異なり、現代の高校生弓道部員は、実
自己中心的な考えだった。」「本来の自分は、思っ
質2年と数ヶ月で練習が終了するという状況にあ
ている以上に社交的イメージと思った。」「あまり
る。その短い期間で射術を身につけ、的中率を向
変わらない。」など。
上していくには、技術習得とともに、心理的要因、
否定的記述0名(0%)
特に前向きな精神的安定も必要とされる。
無回答4名(15%)
表3 心理特性尺度の構成
(STAI)
(SDS)
今回の結果から、各心理指標が有意に改善し、
28
山口・窪田・相原・森脇
弓道部員への心理支援として、SAT イメージ療
とメンタルヘルスをすみやかに改善したのではな
法を用いることで、前向きな自己イメージと精神
いかと考えられる。弓道部員への前向きな心理的
的安定が作り出される可能性が示唆された。これ
安定に SAT イメージ療法による心理支援の有効
は、宗像が言うように脳内のバーチャルな体験は
性が示唆されたといえよう。
現実体験に近く、メンタルヘルス・身体出力改善
への効果を有していることから、SAT イメージ
療法によって、脳内にバーチャルではあるが、
「本
Ⅴ.研究の限界
来の自分」が生成され、明るく元気な自分の笑顔
本研究の心理指標の測定は、介入前後の数値で
をイメージすることができたと考えられる。その
あり、効果の継続性については、はっきりしたこ
ことで、自由記述にもあるように「前向きになれ
とはわからない。フォローアップなどを通した縦
た」「明るくなった」「気持ちがとても穏やかで落
断的測定が望まれる。また、対象者は1つの高校
ち着いた。」などと対象者の自己イメージが前向
の弓道部員であり、他の高校の弓道部員に関して
きになり、メンタルヘルスの安定がもたらされた
も同様な知見が得られるかどうかはわからないの
のではないかと考えられる。
で、今後は対象者を広めて研究を継続していきた
このような1回だけの簡便な方法によって心理
い。
支援が可能なのは、SAT イメージ療法が、 その
特色において、問いかけが構造化されている、イ
メージ法を多用しているためである。この特色に
より、対象者はひらめきを生じやすく、イメージ
を容易に作りやすかったと考えられる。イメージ
は、現実体験に類似しているため脳は同じ部位を
反応させ、言語による誘導よりも実際に心身に強
く影響を与えている可能性があると考えられる。
また対象者は目を閉じた変性意識において実習し
ていくので、通常意識ではアクセスしづらく接近
できない大脳辺縁系の海馬や扁桃体に蓄積 23) さ
れた嫌悪系世代間伝達の潜在情報 24) にもアクセ
スしていると考えられる。そのためより深く記憶
情報を報酬系に変容していくので情動変容がポジ
ティブに行われている可能性もある。また、仮定
法を用いていて実践するので、クライアントに心
理的負担が少なくイメージングがしやすいと考え
られる。効果が短期的に現れたのは、右脳は左脳
に比べて直感的に答えを出していくため、イメー
ジングとともに構造化された問いかけが、対象者
の右脳に直接働きかけ、問題の答えや解決の方向
性が早く確定していくと考えられるからである。
以上のことから、SAT イメージ療法は、 1回
のセッションによっても弓道部員の自己イメージ
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5)稲 垣 源 四 郎 義 典: 弓 の 心 THE SPIRIT OF
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6)高柳茂美、丹羽劭昭:競技場面における生理心理
的反応(1)─弓道を中心に─ p202
7)白倉伸助、武山 秀:弓道に関する研究─的中率
に及ぼす心理的影響─ 体育学研究、1961、p271
8)高柳憲昭:アーチェリー、成美堂出版、1994、p12
9)浦 上博子: 型の完成に向かって、 言叢社、1998、
p74-75
10)徳永幹雄・織田憲嗣・安達淳一:
「スポーツ選手に
対するメンタル指導の実践─大会1ヶ月前からの
高校弓道部員を対象にして─ 第一福祉大学紀要
4, 113-131, 2007
11)煙山千尋:弓道選手に対するメンタルトレーニン
グの効果─弓道選手版心理的スキル尺度の作成お
よびトレーニング効果の検討─ 博士学位論文:
桜美林大学大学院 2010
高校弓道部員への心理支援について
−前向きな自己イメージと精神的安定のために−
12)T sunetsugu MUNAKATA, Noriko HIGUCHI,
Kazue NAKASHIMA, Kiriko MURAKAMI, Yoko
WATANABE, Yutaka YAMAGUCHI, Hiroko
IKENO, Yuka IWANAGA, Wen-yan HU, Yoko
ICHINOSE, Atsushi NOMOTO:Examining the
Effects of the group intervention using SAT to
ameliorate mental distress among Cancer
Survivors
13)W en-Yan, Hu, Tsunetsugu, Munakata, Sayuri,
Hashimoto, Wen-Jie, Yang, Ying, Feng:SATbased Self-image Improvement Intervention to
Ameliorate Anxiety in Chinese College Students
14)N oriko Higuchi and Tsunetsugu Munakata:
Long-term prognosis of psychogenic visual
disturbances(PVD)in children following SAT
therapy
15)前掲論文3)
16)宗像恒次、田中京子、小林由実:SAT 気質コーチ
ングによる人間関係のコラボレーション、ヘルス
カウンセリング学会年報、第 13 号、2007、1-11
17)宗像恒次:SAT 療法、金子書房、2006、p8
18)前掲書 17)p8
19)前掲書 17)p45
20)宗像恒次:SAT 法を学ぶ、金子書房、2007、p130
21)前掲書 20)p131
22)宗像恒次:ヘルスカウンセリング学会年報、第 16
号、2010、1-9
23)宗像恒次:がんの SAT 療法、春秋社、2007、p24
24)宗像恒次:遺伝子を見方にする生き方、きこ書房、
2007、pp34-35
29
31
研 究
自己イメージに焦点を当てたストレスマネジメントに関する事例検討
―スポーツ競技者を対象として―
Stress management focusing on self-image for athletes: A case study
上田 敏子 *,窪田 辰政 **,森脇 保彦 ***,宗像 恒次 **
Toshiko UEDA*,Tatsumasa KUBOTA**
Yasuhiko MORIWAKI*** and Tsunetsugu MUNAKATA**
Abstract
The purpose of this study was to examine stress management focusing on selfimage for athletes. A case study was carried out for two female university longdistance runners using the Structured Association Technique(SAT)-based selfimagery method. This method is used to clarify the self-image and emotions of
subjects and guide them to set goals by themselves. The time of intervention was
approximately ten minutes. The results indicated that the level of daily and
competitive stressors of subjects decreased and that their General Self-Efficacy and
Self-Esteem increased immediately before, after, and one month after the
intervention. It is considered that it is possible to clarify self-image through SATbased self-imagery, which results in the easier setting of future goals. It was
demonstrated that the SAT-based self-imagery method is useful for athletes in
reducing levels of cognitive stressors.
Key words; athletes, SAT self-imagery method, stress management, General SelfEfficacy, Self-Esteem
Ⅰ.はじめに
競技成績の停滞というストレス認知の上昇に伴っ
てバーンアウト傾向が高くなるとの報告や 2)、日
競技スポーツにおいては、競技力の向上が図ら
常生活や競技生活での人間関係におけるストレッ
れる一方、さまざまな健康に関わる課題も報告さ
サー認知の高さが抑うつや認知的混乱、引きこも
れている 。そのうち、競技者が日常生活や競技
りを強く表出することが報告されている 3)。また、
生活で認知する心理的ストレスとの関連が指摘さ
日常生活や競技生活での人間関係、他者からの期
れている。たとえば、大学生アスリートにおいて
待・プレッシャーといったストレッサーは、スポ
1)
* 筑波大学(University of Tsukuba)
** 静岡産業大学(Shizuoka Sangyo University)
*** 国士舘大学(Kokushikan University)
32
上田・窪田・森脇・宗像
ーツ外傷・ 障害の発生頻度と関連するとの報告
トレーニング症候群が多く報告されている陸上競
や 、高校生における部活動の適応感においても
技長距離種目のうち 11)、摂食障害の発症が比較的
日常生活及び競技生活でのストレス認知が関連す
多く 12)13)、 ストレスマネジメントが必要と思わ
ることが報告されている 5)。このように競技者の
れる女子競技者とする。
4)
心身の健康問題には、日常生活や競技生活におけ
るストレス認知との関連が示唆されている。こう
したなか、スポーツ競技者を対象としたストレス
マネジメントとして、認知的評価の変容によるス
トレスマネジメントが注目されている。例えば、
Ⅱ.方 法
1.研究対象および調査時期
私立 T 大学の陸上競技部に所属し、長距離を専
Gould, D. et al. によるフィギアスケートのオリ
門種目とする女子学生のうち、研究への協力を得
ンピック代表選手を対象とした調査では、理性的
られた2名の事例を紹介する。 調査時期は 200X
な思考、セルフトーク、積極的思考といったスト
年6月中旬であった。質問紙調査は自記式であり,
レス対処法の実践が報告されている。また、近年
介入前後および追跡調査として介入1 ヵ月後
では認知に焦点を当てたカウンセリングも取り入
(200X 年7月中旬)に実施した。介入1ヵ月後に
れられるようになった 7)。ところで、自己イメー
おける質問紙の配布及び回収は委託調査法を用い
ジとは、自己観察して認知できる心像を指し、自
た。質問紙調査の回収率は 100%であった。なお、
己についてのあらゆる感覚器から入力される感覚
本研究は、対象者に対し介入実施前に介入内容に
情報と感情情報から構成されるものである 。宗
ついての説明し,了解を得た上で実施した。
6)
8)
像 9) によると、人は普段、他者(自分以外の人)
に対する感情や期待を投影した「他者イメージ」
をもつことが多く、そうした自分ではコントロー
ルできない他者イメージ(他者に対する感情や期
2.測定尺度
介入前後および介入1ヶ月後において、下記の
3尺度を測定した。
待)ばかりをもつことは、不満や不安を生起させ
ると述べられている。このように、私たちは普段
①大学生アスリートの日常・競技ストレッサー尺
から他者へのイメージをもちやすく、自分へのイ
3)
度(岡・竹中ら,1998,35 項目)
メージを自覚しないことが多いと考えられる。こ
岡・竹中ら 3) によって開発された尺度であり、
うした自己イメージに関連するものとして、スポ
6因子(日常・競技生活での人間関係、競技成績、
ーツ競技ではメンタルトレーニングの一つとして
他者からのプレッシャー、自己に関する内的・社
、ストレスマネ
会的変化、クラブ活動内容、経済状態、学業)35
ジメントの手法として自己イメージに着目したも
項目で構成されている。その出来事の過去1年間
のは見当たらない。自己イメージは、自分に対す
の経験頻度(0:全くなかった~3:よくあった)
る感情や欲求を投影したイメージといわれてお
と嫌悪度(0:なんともなかった~3:非常につ
り 8)、 自己イメージを明確化することによって、
らかった)をそれぞれ 4 段階で評定するというも
ストレスに対する効果的な対処を導くことができ
のであった。回答の点数化に関しては、その経験
ると考える。
頻度と嫌悪度を掛け合わせたものを項目の得点と
自己認識を深める内容はあるが
10)
そこで本研究は、自己イメージに着目したスト
して分析に用いた。
レスマネジメントをスポーツ競技者に実施し、ス
トレスマネジメントの効果について検討すること
を目的とする。なお、本介入の対象は、オーバー
②一 般的自己効力感尺度(坂野・ 東條,1986,
16 項目)14)
自己イメージに焦点を当てたストレスマネジメントに関する事例検討
−スポーツ競技者を対象として−
一般的自己効力感とは、Bandura15) によって
提唱された、ある行動を起こす前に個人が感じて
33
表1 ストレスマネジメントのための SAT 自己イメージ
連想法の手順
いる「自己遂行可能感」といわれる自己効力感の
Q1 .「競技において気にかかっていること」
を質問
うち、個人や行動に対して長期的に影響を及ぼす
する。また、その気にかかっていることに対
一般的自己効力感である。本研究では、坂野・東
する主観的ストレス度(%)を答えてもらう。
條
14)
によって作成された、 個人が一般的に自己
効力感をどの程度高く、あるいは低く認知する傾
Q2 .「気にかかっていること」
に対する気持ちや
感情を明確にする。
向にあるかを測定する尺度を使用した。得点範囲
は0~ 16 点であり、高得点者ほど自己効力感が
高いことを示す。
感情表を元にして、その事に対する感情を明
確にする
Q3 . その気持ちや感情をもつ自分へのイメージに
ついて、ひらめきを用いて連想する。
③自己価値感尺度(Rosenberg ,1965,宗像訳,
1990,10 項目)16)17)
Q4 . Q
3 . でひらめいた自己イメージに対して、ど
のような気持ちや感情をもつかを明確にする。
Rosenberg16) により開発され、宗像 17) によっ
て邦訳された self-esteem 尺度を使用する。本尺
Q5 .「どのような自分になりたいか」
、今後の自分
への期待について、ひらめきを用いて連想する。
度は全 10 項目からなり、「大いにそう思う」、「そ
う思う」、「全くそう思わない」の3件法で回答を
行う。得点範囲は0~ 10 点であり、得点が高い
Q6 . Q5. でひらめいた自分になるための具体的な
目標や行動を決める。そして、その事に対す
ほど自己価値感(自己への肯定的評価)が高いこ
る実行自信度(%)と主観的ストレス度(%)
とを示す。
3.ス トレスマネジメントのための SAT 自己イ
メージ連想法の内容
本介入では、自己イメージに焦点を当てた手法
を答えてもらう。
Q7 . カウンセラーから共感的励ましを行う。
クライエントに感想を尋ねる。最後に、主観的ス
トレス度(%)及び実行自信度(%)を尋ねる。
として、「SAT 自己イメージ連想法」 を用いた。
SAT(Structured Association Technique:構造
化連想法)とは、宗像 18)により開発された、構造
化された問い方による連想法にもとづき、ひらめ
きを重視した本人の気づきを支援するカウンセリ
ング技法である。本介入は,1年間にわたり SAT
カウンセリング技法の訓練を受けた筆頭著者が実
施した。介入時間は約 10 分であった(表1)。
(1)事例 A 大学2年(19 歳)
Q1 . 競技において気になっていることはどのよ
うなことですか。
A:練 習が続かないこと。走れているときはい
いが、腰や足が痛くて走れないときがある。
(主観的ストレス度 80%)
Q2 . その気になっていることに対する、 あなた
Ⅲ.結 果
事例として2例を紹介する。事例の掲載にあた
の気持ちや感情(不安、 怒り、 悲しさ、 苦
しさ)はどのようなことですか。
A:不安。後輩がいるということで、焦りもある。
っては本人に了解を得た上で行った。なお、プラ
Q3 . そのような気持ちや感情をもつ自分を自己
イバシーの保護を配慮し、本論文の本質に影響し
観察すると、どのような自分を感じますか?
ない部分について一部修正を加えながら紹介する。
ひらめいた自己イメージをお答え下さい。
34
上田・窪田・森脇・宗像
A:元気がない、暗い。陸上(競技)を楽しん
でいないようなイメージ。
Q4 . その自己イメージに対して、 どのような気
事例 A の心理尺度の変化(表2)
大学生アスリートの日常・競技ストレッサーは、
介入後および介入1ヵ月後において低下した。一
持ちや感情(不安、怒り、悲しさ、苦しさ)
般的自己効力感は、介入後および介入1ヵ月後に
を持ちますか。
おいて上昇した。自己価値感は、介入後に上昇し
A:情けない、惨めだなと思う。
たが、介入1ヵ月後は介入前と同じ点数であった。
Q5 . これからどのような自分になっていくとい
いですか?考えずにひらめいたことをお答
え下さい。
A: そういう時期もあるのだ、 と頭において、
辛抱強く、ポジティブにやっていく自分
(になっていく必要がある。)
Q6. たとえば、 あなたが無理なく実行できる具
体的な行動とはどのようなことですか。 考
えずにひらめいたことをお答え下さい。
A: 考え込まない。 悪かったら悪かったで次を
頑張ったらいい、 と全ての考えをいいよう
に考えていく。 自分のことを先生に話して
みる。
(主観的ストレス度 80%,実行自信度 60%)
Q7.カウンセラーからの共感的励まし
自己イメージに対して「情けない」 という
感情は今の状態を変えたいという向上心の
表れですよね。 競技に対してまっすぐな気
持ちをもっているのだなと感じ、 素晴らし
いと思いました。
(A の感想)
マイナス思考や不安があったけど、自分をもう一
度見つめ直したことで安心した。自分を客観的に
みることができてよかった。また頑張ろうという
気持ちになった。
(主観的ストレス度 50%,実行自信度 80%)
表2 事例 A の心理尺度の変化
(1)事例 B 大学2年(19 歳)
Q1 . 競技において気になっていることはどのよ
うなことですか。
B: けがをしてこれから一年間走れるかどうか
心配(主観的ストレス度 50%)
Q2 . その気になっていることに対する、 あなた
の気持ちや感情(不安、 怒り、 悲しさ、 苦
しさ)はどのようなことですか。
B:不安
Q3 . そのような気持ちや感情をもつ自分を自己
観察すると、 どのような自分を感じます
か?ひらめいた自己イメージをお答え下さ
い。
B:つらそうな自分
Q4 . その自己イメージに対して、 どのような気
持ちや感情(不安、怒り、悲しさ、苦しさ)
を持ちますか。
B: もっと楽に構えていったらいい。 楽にして
あげたい。
Q5 . これからどのような自分になっていくといい
ですか?考えずにひらめいたことをお答え
下さい。
B: 今できることを積み重ねて、 目標を達成し
ていく
Q6 . たとえば、 あなたが無理なく実行できる具
自己イメージに焦点を当てたストレスマネジメントに関する事例検討
−スポーツ競技者を対象として−
体的な行動とはどのようなことですか。 考
えずにひらめいたことをお答え下さい。
B: 早寝早起きをする。 自分からあいさつをす
る。必ず毎日補強(運動)を行う。
(主観的ストレス度 40%,実行自信度 80%)
35
そのことに対する感情は不安や焦りの感情であっ
た。そのような感情をもつ自己イメージは、
「元
気がない、暗い、陸上(競技)を楽しんでいない
ようなイメージ」であった。こうしたイメージは
ネガティブな自己イメージであり、その自己イメ
Q7 .カウンセラーからの共感的励まし
ージに対し、情けない、みじめという感情をもっ
自分を楽にしてあげたい、 という気持ちは
ていた。ところで、こうした感情は、その意味に
前向きな気持ちがあるからですね。 早寝早
よって5つに分類されており、喜び系(期待がか
起きをするという自己決定ができたように、
自分の生活全体をよく把握していることが
伺え、 よく考えているのだなと感心しまし
た。 また、 必ず毎日補強(運動) をすると
いう自己決定は、 秘めた闘志をもっている
ように感じました。
(B の感想)
気持ちがすっきりした。
(主観的ストレス度 30%,実行自信度 80%)
なえられたり、 かなえられそうなときの感情)、
不安系(期待どおりにいく見通しがつかないとき
の感情)、怒り系(当然得られるべき自分や他人
への期待が得られなかったり、得られそうにない
ときの感情)、悲しさ系(期待したものを失った
り、失いそうなときのあきらめの感情)、苦しさ
系(期待どおりにいかないことが続くときの感
情) がある 18)。 最初に、「練習が続かないこと」
に対して不安や焦りがあったが、このことは、練
習を続けたいと思っているが、その期待通りにい
く見通しがつかないため、不安を感じている、と
事例 B の心理尺度の変化(表3)
大学生アスリートの日常・競技ストレッサーは、
言い換えることができる。このように感情を明確
化することによって、どのような期待や要求を今
介入後および介入1ヵ月後において低下した。一
自分自身がもっているかを自覚することができ
般的自己効力感においては、変化はみられなかっ
る。宗像 9)によると、日頃気になることがあると
たが、自己価値感は介入1ヵ月後に上昇した。
きというのは、他者への感情や期待を持っている
ことが多く、「自分がどうしたいか」という意識
Ⅳ.考 察
(1)事例 A の考察
をあまり持たないことが指摘されている。そこで、
自己イメージを明確にし、自分の感情や要求を自
覚できると、本当は自分がどうしたいかが明確と
介入前後および介入1ヵ月後において、ストレ
なり、自己決定できるようになる。本事例のよう
ッサー認知の低下、一般的自己効力感と自己価値
に、自分へのイメージをもち、その感情を明確化
感の上昇がみられた。Aの事例では、気になって
していくと、「そういう時期もあるのだとポジテ
いることとして「練習が続かないこと」を挙げ、
ィブに考え、辛抱強くやっていく」という言葉に
表3 事例 B の心理尺度の変化
36
上田・窪田・森脇・宗像
表れされているように、これからどうしていけば
見通し(Predictability)、支援(Support)の3つ
いいか、自分自身によって今後の見通しを見出す
の変数からなる「ストレス関数」によって説明さ
ことができる。このように、本イメージ法では自
れている。それによると、要求はあるが見通しや
己イメージに対する感情を明確化することによ
自信がなく、支援がないと認知するとき、ストレ
り、自分自身による気づきを支援することが特徴
ス源認知が増加するというものである。B の事例
として挙げられる。そうした気づきにより、見通
の場合、走りたいという要求はあるが、けがをし
しがもちやすくなり、ストレス源認知が低下した
ているため、一年間走れないかもしれないという
と考えられる。そして、本イメージ法の最後には、
見通しのなさがあり、ストレス源認知が高い状況
カウンセラーから共感的励ましを行う。共感的励
が推察できる。こうしたストレス源認知を低下さ
ましとは、カウンセラーが相手の気持ちを感じた
せるためには、要求水準を適正にし、見通しをも
上で、共感したことや感動したことを伝えるもの
てるようにすること、また支援の認知を得られこ
である。樽木 19) によると、中学生に対し教師か
とが必要である。本イメージ法では、自己イメー
ら肯定的評価(フィードバック)を行ったところ、
ジの明確化から、自らのアイデアで今後の目標を
生徒の自信得点および自己評価得点が上昇したこ
自己決定し、見通しをもつことができたこと、ま
とが報告されている。このように、肯定的な評価
たカウンセラーという他者からの支援の認知が得
により自信が上昇し、一般的自己効力感や自己価
られ、ストレス源認知が低下したと考えられる。
値感が上昇したと考えられる。
Ⅳ.結 論
(2)事例 B の考察
介入前後および介入1ヵ月後において、ストレ
大学生アスリートに対し、SAT 自己イメージ
ス源認知の低下がみられた。一般的自己効力感と
連想法によるストレスマネジメントを実施したと
自己価値観が介入前後では変化みられなかった。
ころ、日常・競技ストレッサー認知の低下、一般
B の事例では、気になっていることとして「けが
的自己効力感および自己価値感の得点が上昇し
をしてこれから一年間走れるかどうか心配」であ
た。本研究は事例の検討ではあるが、本イメージ
ることを挙げ、そのことに対する感情は不安であ
法が現場で簡便に実施できるストレスマネジメン
った。そして、そのような感情をもつ自己イメー
トの一手法として一定の効果があることが示唆さ
ジは「つらそうな自分」であった。この自己イメ
れた。
ージに対して、「もっと楽に構えていったらいい。
楽にしてあげたい。
」という気持ちが明確化され
今後の課題
た。その後、どのような自分になっていくといい
本研究は事例の検討であるため、今後は対象者
かを問うと、「今できることを積み重ねて、目標
を増やし、本イメージ法の効果を検討する必要が
を達成していく」という前向きな回答が得られた。
ある。また、今後は男性の競技者を対象とした介
そして、「早寝早起きをする。自分からあいさつ
入を実施し、その効果を検討することや、中学生・
をする。必ず毎日補強(運動)を行う。」など具
高校生を対象とした調査も実施し、その効果を検
体的な行動・目標が見出され、今後の見通しをも
証する必要がある。また、本研究では筆者がカウ
によると、心のストレ
ンセラーとして携わっているが、本手法は構造化
スや心理社会的ストレスは「自分の思い通りにな
されているため、自己カウンセリングが可能であ
らない事」を認知しているときに生じるものであ
る。今後は、自己カウンセリングによる効果につ
り、 こうしたストレス源は、 要求(Demand)、
いても検討していく。
つことができた。宗像
20)
自己イメージに焦点を当てたストレスマネジメントに関する事例検討
−スポーツ競技者を対象として−
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39
Study
An Attempt at Stress Management Education for University Students
Utilizing a Self-counseling Sheet
Tatsumasa KUBOTA*, **,Kentaro KASHI**,Yutaka YAMAGUCHI**
Yoshikazu NOMURA**,Kunio NANBA***,Kentaro TAZAKI****
Yasuhiko MORIWAKI***** and Tsunetsugu MUNAKATA**
Abstract
The objective of this study was to determine the effects of this stress
management among university students using the self-counseling sheet for stress,
which employs the SAT method and can be conducted by anyone familiar with the
SAT procedure.
The samples are from students who took physical education(tennis lessons)
taught by the author at T university. The survey papers were collected after the
lesson, and incomplete forms and answers with filling mistakes were omitted. 38
samples(18 males, 20 females, average age 19.03 ± 0.4 years old, response rate 95%)
participated in the analysis. The survey was held in class(75 min long)at the
beginning of February in 2009.
The following 3 educational materials were used for the teaching: 1. Stressor check
table 2. Emotional Guideline Table 3. Self-counseling sheet for stress management
based on the“SAT self-imaging method”
(The author has partially modified the
content of Munakata 1997).The term SAT(Structured Association Technique)
here means the techniques which promote the self solution of problems and enable a
realistic and proportionate assessment of their life by inspiration, association and
intuition utilizing the conscious and the subconscious mind on the right side of the
brain, which functions to solve the problem by asking structured questions. In class,
after spending approximately 20 minutes explaining the“SAT self-imaging method,”
the subjects instructed to proceed on their own following the practice sheet.
The changing ratio of subjective stress level, before and after the self-counseling
sheet and evaluation of all other completed forms, was used to measure the effect on
stress management of the intervening lessons. SPSS ver.11 for Window was used for
the analysis. The Wilcoxon signed-rank test was adopted for comparison of the scale
value before and after the lessons.
As a result, sheet completion was high and the subjective stress levels of the
samples were significantly decreased after the lesson(z=-5.398, p=.000).Because
*
**
***
****
*****
静岡産業大学(Shizuoka Sangyo University)
筑波大学(University of Tsukuba)
静岡大学(Shizuoka University)
流通経済大学(Ryutsu Keizai University)
国士舘大学(Kokushikan University)
40
窪田・樫・山口・野村・難波・田崎・森脇・宗像
only one intervention demonstrated a positive effect, it is believed that this method
will have a definite effect on stress management by conducting the interventions
periodically. In the future, it is desired to compare and determine the education
efficacy of this method by setting a control, along with increasing the number of
samples, to obtain more accurate data.
Key words; stress management education, self-counseling sheet, university students
stress is generated when one is aware of
Ⅰ.Introduction
“things that one cannot get that one wants”
,
In recent years, a variety of problems related
and the“thing that one cannot get that one
to the mental health of university students, such
wants”is defined as a stressor. Furthermore,
as pleading the symptoms of depression and
stressors are explained using three variables;
fatigue, have become serious social troubles of
demand that is defined by the“stress function
.It has been inferred that
model”
,predictability and support. Increase of
these problems are produced as a result of a
demand, decrease of predictability and decrease
failure to cope with stress effectively when
of support maximizes the awareness of the
students feel some sort of psychological anxiety
stressor. Thus, when“predictability”looks good,
in various situations in daily life.
i.e. specific responses to the stressor have been
some concern
1-7)
Although supportive care(symptomatic
planned or established, stress decreases.
t h e r a p y)i s c o m m o n l y u s e d t o a l l e v i a t e
Therefore, Munakata9-10)et al. developed a
increasing stress problems in university
counseling sheet that can be used in the field of
students, the approach toward preventative
education to help to set up such goals for action
education is lacking at present. In order to
through self-counseling. In this study, lessons of
remain physically and mentally healthy, not
stress management that is utilized the
only in their time at university but also
counseling sheet using SAT self-image method
throughout their life, it is indispensable for
d ev elop ed b y Mu n ak at a. T h e t erm S AT
students to acquire self-care behavior to
(Structured Association Technique)here
maintain and enhance their health in their
means the techniques which promote the self
school days. Specifically, acquiring techniques of
solution of problems and enable a realistic and
stress management through health and physical
proportionate assessment of their life by
education to identify and cope with stressors
inspiration, association and intuition utilizing the
that affect each student, promptly and
conscious and the subconscious mind on the
effectively, by themselves and to prevent the
right side of the brain, which functions to solve
risk of adult disease including stress-related
the problem by asking structured questions11).
disorders is considered an extremely significant
The objective of this study is to determine
form of preventative education.
According to Munakata et al., psychosocial
8)
the effects of this stress management among
university students using the self-counseling
自己カウンセリングシートを活用した大学生のためのストレスマネジメント教育の試み
41
sheet for stress, which employs the SAT
2 points are given if“Very true”is selected. If
method and can be conducted by anyone
“Mostly true”is selected, 1 point is given. The
familiar with the SAT procedure.
accumulative score of all 34 questions is the
total score of the scale. A higher score shows a
higher recognized stressor. From 0 to 4 points
Ⅱ.Methods
shows weak recognition, from 5 to 9 points
1.Participants
moderate, from 10 to 18 stronger and a score of
The samples are from students who took
19 or more shows a very strong stressor. The
physical education(tennis lessons)taught by
self-counseling sheet was used to identify the
the author at T university. The survey papers
strongest stressor(Selecting 70% or above for
were collected after the lesson, and incomplete
the subjective stress is desirable when the
forms and answers with filling mistakes were
maximum stress is 100% .)among the items
omitted. 38 samples(18 males, 20 females,
that had been marked“Very true”
(or,“Mostly
average age 19.03 ± 0.4 years old, response rate
true depending on the case”)along with
95%)participated in the analysis.
understanding the true and current stressor
The survey was held in class(75 min long)
at the beginning of February in 2009.
cognition among participants in this research.
When a stressor has already been concretely
For ethical consideration, the participants
identified by a subject, then the subject will
were given an explanation of the procedure and
have usually adopted stress coping behavior
were asked for the consent to the research
which reduces the effectiveness of the SAT
orally and in writing. The consent for
technique.
participation was regarded as agreed by
submission of the self-counseling sheet.
In the class,“SAT self-imaging methods”
were explained to the participants in detail,
orally and with overhead projector slides, in
2.Teaching Materials and Course Content
order to conduct the self-imaging effectively.
The following 3 educational materials were
used for the teaching:1. Stressor check table
12)
The teaching materials of Tables 1 and 2 were
included. Then, they were instructed to
2. Emotional Guideline Table (Table 1)3. Self-
complete their sheet individually in accordance
counseling sheet for stress management based
with the practical worksheet.
13)
(Table 2)
on the“SAT self-imaging method”9)
(The author has partially modified the content
of Munakata 1997).
3.Analysis method
The changing ratio of subjective stress level,
The outline of 1, the Stressor check table, is
as follows:
before and after the self-counseling sheet and
evaluation of all other completed forms, was used
This research adopts the scale that was
to measure the effect on stress management of
et al. in order to
the intervening lessons. SPSS ver.11 for Window
measure daily life stressors, and the reliability
was used for the analysis. The Wilcoxon signed-
and validity of the scale have been verified.
rank test was adopted for comparison of the
developed by Munakata
12)
With regards to the scoring for all questions,
scale value before and after the lessons.
42
窪田・樫・山口・野村・難波・田崎・森脇・宗像
Table 1.Emotional Guidelines
Basic Emotions
(Table A)Derived Emotions
Happiness
The emotion that matches or closely matches
up to expectations.
Happy, delightful, pleasure, sympathy, hope, interest,
happiness, relief, confidence, hospitable feeling
friendliness, appreciation, touched feeling, impressed
feeling, motivation, growth, expectation, courage,
sense of fulfillment, determination, beloved feeling,
satisfaction, sense of responsibility, feeling of freedom,
comfort , sense of peace, desire, wishful feeling,
feeling of awe, feeling of yearning
Anxiety, feel uneasy, feeling of little impatience
Anxiety
Feeling impatient accompanied with confusion, panic,
The emotion that is a future-oriented mood in fear
which one is ready or prepared to attempt to (Which of the following anxiety do you have?)
cope with negative expectations.
crisis of life, abandoned feelings, low self-worth,(I am
pathetic.)
Anger
The emotion when expectations that are
considered to be normal to obtain cannot be
obtained, or about not to be obtained(from
oneself and others) Contempt, frustrated, dissatisfaction, hostility, sense of
guilt, distrust, anticipating an onrush, feeling of
rejection, resentment, hate, grudge, rage,
embarrassed, self-hatred, compassionate feeling for
someone/something, regret, self-dispraise, feeling of
guilt,(strong)pathetic feeling
Sadness
The emotion of resignation when you miss or
are about to miss out on expected
expectations.
Sorrow, feeling of loneliness, sense of isolation, feeling
of helplessness , feeling of despair, sense of loss,
empty feeling, wistful feeling, irrationalness,
disappointment, disgusted with oneself, misery,
resignation
Suffering
(The emotion when the continued situation
cannot match up to expectations.)
Hard feeling, suffering, taxing feeling, torment
(Table E)Explanatory Note to the key situations
自己カウンセリングシートを活用した大学生のためのストレスマネジメント教育の試み
(Table B)Words or Phrases to Express
Inner feelings
(Table C)Clarification of Meaning
of Emotions(expectations and
requests)[want to …] [should …]
[want someone to …]
43
(Table D)Clarification of
the basic needs of the mind
Sense of relief, pleasant feeling, glad, want
to dance, happy, feel refreshed, fun,
greatly pleased. "Wow, it’s electrifying!",
"Up and at them!"," Let’s do it!", "I can do
it!"," I want to do it!"," I hope to be that
way.", beloved feeling, sweetness, hope to
be so, mutual understanding, funny, being
touched, electrifying feeling, "Thank god
for that!", appreciation, "I shall never
forget that day"
The emotion when there are some
expectations and/or demands that
have come true or are about to come
true.
What kind of expectations or
demands have come true or are
about to come true?
When the expectation is
realized, which of the
following 3 essential demands
of the mind are satisfied?
"What will happen?", "I cannot do as I was
expected", "Someone will criticize me",
"How do I handle this?" , "I am stumped",
being scared, "I am on pins and needles",
needing forgiveness, "Don’t leave me!",
"I'm scared", "I'm an idiot", life is
worthless, the situation is hopeless, a
trapped in your mind feeling, "Stop it!",
"Help!"
The emotion when there are some
expectations and/or demands, and
there is no certainty. What kind of
expectations does it take to make
you unrealized the matter?
What do you want the situation to
be?
[Affection Seeking Need]
Need recognition, to be loved,
to get accepted, need praise,
become well loved, to be
counted on, considered to be
a nice person, The situation
goes as well as expected.
One's concept of values is
understood by others.
The emotion when you expect
something, from yourself or other
parties, but it is impossible to obtain
or it is difficult to obtain:
What do you want the situation to
be?
[Self-trust Need]
Giving credit to yourself
regardless of the evaluation of
the others. Wanting to love,
wanting to believe, wanting to
be like, wanting to mature,
wanting to cherish oneself
The emotion when you give up hope
on a matter that you expected of
yourself or the other person/people.
What matters did you give up on or
are about to give up on?
What do you want the situation to
be?
[Affection for Others Need]
Wanting to acknowledge the
person unconditionally,
regardless evaluation.
Wanting to love, wanting to
respect, wanting to accept,
wanting to give a praise,
wanting to follow, wanting to
be kind to others
(Towards other parties)"Stop messing
around!", someone looking down on me,
"Behave!", "What an idiot!" "How come I
am always the unlucky one?", "How come
that person is chosen?", "No one can
understand how I feel"
(Toward oneself)"I am pathetic", "What
am I doing?", "Don’t be lazy!", I feel sorry
for someone/something"
"Help me", "I very feel alone", "Somebody,
anybody, please come", "Everything goes
well only if I am sacrificed", "I know that I
am a failure", "Gee, that’s how it goes",
"That would be pointless", "I have no
confidence", "I may make a nuisance of
myself", "It can’t be helped", "I am
disappointed", "I know I am a helpless",
"That's okay"
Ask yourself“Which emotions continue and make you suffer, anxious, anger or
sad?“and then clarify the emotion of anxiety, anger and sadness.
Directed toward a bothersome situation: when someone is working hard and alone, when someone has to bear a
burden without the understanding from others, when someone does something for only themselves, when there is
no one to support you, when only you are sacrificed, when problems occur one after another, when making oneself
endure, when one is spending life unlike oneself, when there is no one to share the happiness with you
Toward a situation that is uncomfortable: when wrestling with a matter that has no predictability
44
窪田・樫・山口・野村・難波・田崎・森脇・宗像
Table 2.SAT Self-counseling Sheet for Stress Management
自己カウンセリングシートを活用した大学生のためのストレスマネジメント教育の試み
Ⅲ.Results and Discussion
45
type behavior to self-rewarding type behavior
can be a key to decreasing stress. The setting
People feel stress when there are no specific
of the action goal by this sheet can be
action goals and a low level of future
considered a good method to enable and
predictability. The median of the subjective
increase the motivation to self-rewarding type
stress level of the students significantly
behavior. Moreover, it is inferred that it
decreased from 80 to 40 after the counseling
decreased the awareness of stressors.
sheet(z=−5.398, p=.000).We conclude that
The following is one example from the
the reason for this decrease is because the goals
submitted sheets of a decrease in subjective
of the samples were elicited in the making of
stress levels from before to after the lesson. The
the sheets, and they were able to see a clear
student agreed to be the case example.
way to their goals to decrease awareness of
their stressors.
As shown in Table 2, case example A shows
that the subjective stress level has drastically
In addition, we considered that stress
dropped down from 90 % to 20 %, and the
decreased because the planned action goals
completeness of the entire sheet was also good.
were not action goals to achieve“social self”,
In case example A, the sample could review the
they were action goals that were generated
self action through the preparation of the sheet.
from the self demand of“for what it is”,which
Furthermore, the self awareness“I want to be
is not influenced by others.
given praise for my good points”in question 4-3
People feel anxiety or fear when one has an
leads to satisfy the self-trust need in question
action goal that has been generated by the
4-4. This embodies the true self demand that
“social self”;which is influenced by teachers’
cannot be straightforwardly identified or
and adults’evaluations, and therefore there is a
expressed in daily life where there is a strong
possibility to lead to degeneration of self-image
consciousness of others. Based on the true self
and accumulation of stressors. When such an
demand, the setting up of action goals are
action goal has been set upon, it may not lead to
moved ahead through questions 5 and 6 to
a decrease in stress if one has experienced
drastically decrease the subjective stress level
failure in achieving a feeling of satisfaction,
of case example A from 90% to 20%.
because the goal addresses a target that has not
been fully considered.
This process has the effect of enabling one to
understand the demand of the“true self”by
In that regard, this sheet makes the
realizing self expectation and imaging oneself
participant aware of self image and self
objectively. Therefore, re-setting the action goal
expectation so that one can realize the actual
from the demand of others to that of the self
self demand that is not the social self. By doing
provides satisfaction and it leads to enjoyment
this, the participant can realize self-rewarding
of the action in itself.
Even if failure is
that is true self and it was
experienced, it does not generate anxiety or
hidden by other-rewarding type behavior14)due
fears because it is not influenced by the
to daily evaluation of others. According to
evaluation of the others. We conclude that
Munakata, modification from other-rewarding
setting the action goal by using this sheet leads
type behavior
14)
46
窪田・樫・山口・野村・難波・田崎・森脇・宗像
t o an e f f e ct iv e s t re ss d e cr ea se am on g s t
students.
Ⅳ.Conclusion and the Future Tasks
This study determined the effects of stress
management with university students using a
self-counseling sheet for stress, based on the
SAT method and can be conducted by anyone
who acquires the SAT procedure. As a result,
sheet completion was high and the subjective
stress levels of the samples were significantly
decreased after the lesson. Because only one
intervention demonstrated a positive effect, it is
believed that this method will have a definite
effect on stress management by conducting the
interventions periodically. In the future, it is
desired to compare and determine the
education efficacy of this method by setting a
control, along with increasing the number of
samples, to obtain more accurate data.
Reference
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relationship between mental health status and
life-style of college students, Japanese Journal of
School Health 40:425-438, 1998.
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12)Munakata T, Nakao U, Fujita K, Suwa S:The
Stress of Local Residents and Their Mental
Health Levels, Journal of Mental Health, 32, 47-68,
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13)Munakata T:op. cit. 11)142.
14)Munakata T:Knowing the nature of your own
D N A c h a n g e s y o u r l i f e s c i e n t i f i c a l l y , 17,
Kodansha, Tokyo, 2007.
自己カウンセリングシートを活用した大学生のためのストレスマネジメント教育の試み
47
自己カウンセリングシートを活用した大学生のための
ストレスマネジメント教育の試み
窪田 辰政 *, **,樫 健太郎 **,山口 豊 **,野村 良和 **
難波 邦雄 ***,田崎 健太郎 ****,森脇 保彦 *****,宗像 恒次 **
要 約
用いた。
その結果、介入授業実施前後で受講生の主観的
本研究の目的は、大学生を対象に、手順を習得
ストレス度が有意に低下し(z=-5.398, p=.000)
、
すれば誰にでも実施可能な SAT 法の1つである、
シート全体の完成度も概ね良好であった。たった
ストレスのための自己カウンセリングシートを用
1回の介入でも効果が見られたことから、定期的
いながら、本法のストレスマネジメントの効果を
に実践することで、本法はストレスマネジメント
検討することである。
に一定の効果をもたらすものと考えられる。今後
対象は、筆者が担当するT大学の共通体育(テ
はさらにサンプル数を増やし、より正確なデータ
ニス)の授業を受講した学生であり、介入授業後
を入手すると共に、統制群を設定し、本法の教育
に回収された実習用シートのうち、記入漏れや記
効果を比較検討することが望まれる。
入ミスのある回答を除外し、 最終的に 38 名(男
子 18 名、女子 20 名;平均年齢 19.03 ± 0.4 歳;有
効回答率 95%)を分析対象とした。実施期間は、
2009 年2月上旬の授業時(1回 75 分)であった。
教材には、1)ストレス源チェック表、2)感
情のガイドライン表、3)
「SAT 自己イメージ法」
によるストレスマネジメントのための自己カウン
セリングシート(宗像、1997 を筆者が一部修正)
を使用した。SAT は構造化された問いかけによ
って、右脳を活性化し、顕在意識や潜在意識のも
とで、ひらめき・連想・直感を用いて、問題解決
や本当の生き方への気づきを促す技法である。授
業では、「SAT 自己イメージ法」についての説明
を約 20 分間行なった後、 実習用のシートに従っ
て各自で進めるよう指示した。
介入授業におけるストレスマネジメントの効果
の測定には、自己カウンセリングシート実施前後
の主観的ストレス度の比率変化、及びシート全体
の完成度により評価し、分析には SPSS ver.11 for
Windows を使用した。介入授業実施前後の尺度
値の比較には、Wilcoxon の符号付き順位検定を
49
研 究
試合に向けての高校テニス部員への心理支援
Psychological Support for High School Tennis Club Students in
Preparation for a Tennis Match
窪田 辰政 *, **,山口 豊 **,羽田 碧 **,羽田 萌 **
三橋 大輔 ***,山田 幸雄 **,森脇 保彦 ****
Tatsumasa KUBOTA*, **,Yutaka YAMAGUCHI**,Midori HANEDA**
Moe HANEDA**,Daisuke MITSUHASHI***
Yukio YAMADA** and Yasuhiko MORIWAKI****
Abstract
The objective of this research is to provide psychological support for tennis
matches by determining the ameliorating effects of psychological intervention
employing Structured Association Technique(SAT)Therapy on the psychological
characteristics of 10 male samples belonging to a high school tennis club.
In this research, the“SAT future self-imaging technique”and“SAT cosmic selfimaging technique”were utilized for the psychological interventions, which are a
part of Structured Association Technique Therapy. The intervention experiment
was held once at the beginning of September in 2011. A range of psychological traits
(self-esteem, self-repression behavior, perceived emotional support, trait anxiety,
depression, subjective confidence for tennis match performance, and free
description)were used for measuring the effects of the intervention. SPSS ver.11.0
for Window was used for the analysis. The Wilcoxon signed-rank test was adopted
for comparison of the scale value of psychological traits before and after the
intervention.
As a result, all of the scale values of psychological traits except for“perceived
emotional support”improved significantly after the intervention. Moreover, 9
students wrote positive descriptions and 1 student wrote a neutral description, and
no negative descriptions for the free description of self-image for tennis match were
seen. All of the 10 samples wrote positive descriptions of the psychological support
in feedback. The results of this research suggest that Structured Association
Technique can be a psychologically supportive method for tennis matches among
high school tennis club students.
Key words; tennis matches, high school tennis club students, psychological support,
Structured Association Technique(SAT)Therapy
*
**
***
****
静岡産業大学(Shizuoka Sangyo University)
筑波大学(University of Tsukuba)
東海学園大学(Tokai Gakuen University)
国士館大学(Kokushikan University)
50
窪田・山口・羽田・羽田・三橋・山田・森脇
げられている。また徳永ら(1987)は、試合に向
1.緒 言
けて高校生6名を対象に、 約2 ヶ月間で 10 回の
近年の日本スポーツ界では、スポーツにおける
メンタルトレーニングを実施した。介入内容は、
心理的役割が重視されるようになり、心理学の成
バイオフィードバッグによるリラクゼーション・
果に基づいたメンタルトレーニングなどの心理的
トレーニングや試合をイメージしたイメージ・ト
支援の研究と実践の発展が望まれている
。
27)29)30)
レーニングである。その結果、リラクゼーション
テニス競技においても、競技能力の向上のため
効果などは得られたものの、不安軽減の度合いや
に、体力トレーニング研究 1)や技術向上に関する
試合での心理的効果については、はっきりとした
と共に、 心理学的支援に関する研究も行
結果は得られていなかった 32)。 また、 村上ら
なわれてきており 24)28)、 メンタルプログラム開
(2000)が、高校生6名を対象に、約3ヶ月間で
研究
13)
発の提言もなされた
。中山ら(2007)によれば、
26)
20 回の自律訓練法やイメージトレーニングを組
勝たなければならないという強迫的緊張はプレー
み合わせたメンタルトレーニングを実施した結
ヤーの筋肉を硬直させ、プレーに悪影響を与える
果、忍耐力・勝利意欲などの心理的競技能力が向
という
。Vic Braden(2000)によれば、筋肉は、
25)
適度な緊張感を維持しながらもリラックスしたな
上し、競技特性不安は減少したものの、試合に向
けての十分な効果は得られなかった 11)。さらに、
その能力を最大限に発揮
高校のテニス部選手6名に対して、夏の大会まで
させるという。加えて、徳永らは大学生テニス選
の約2 ヵ月半、 週1回のペースで計 13 回にわた
手を対象にイメージトレーニングを実施し、効果
って、精神面強化の目標設定や、自己分析、リラ
が認められる事例を報告している 31)。また、海野
クゼーション技法、イメージ法などの心理サポー
はテニスにおけるセルフトーク尺度を開発し、セ
トを行った結果によると、「セルフトークがとて
ルフトークと心理的競技能力との間に強い関連性
も役に立ち、気持ちがのってきてすごく自信が持
があることを指摘した。試合中に否定的なセルフ
てた」と精神面における心理サポートの効果を報
トークが多いプレーヤーは、それが実力発揮の妨
告している。しかし、心理的支援の実証的な数値
げになっているとし、否定的に考えることを止め
は示されていない 12)。
めらかな動きにより
33)
たり、他のことに注意を向けることが大切である
以上のことから、試合に向けての従来の心理支
と述べている 3)4)。また、高校生テニス選手に対
援は、効果がはっきりと出ていないことがわかる。
して、自律訓練法やイメージトレーニング法によ
また、心理学的支援も長期間複数回に渡るもので
る介入では、介入後に心理特性の改善が見られて
あり、顧問や監督が即利用できるような簡便さを
いる
。
備えた支援ではなかった。これらを踏まえて、テ
10)
このような競技能力向上のための心理支援の研
ニスの試合に向けて、簡便に用いることのできる
究は多く報告されているが、試合のために良好な
実証的な心理支援の効果を検討する必要がある。
メンタルヘルスを保つ研究の実証的報告はほとん
そこで、筆者らは数多く存在する心理療法のう
ど見られない。海野によると、テニスの試合では、
ち、SAT 法と言う、 構造化されていて誰でも修
不安や緊張、油断などは、集中力や自信、決断力
練すれば用いることができ、短期的な介入でのメ
などに悪影響を及ぼし、筋肉の硬直からプレー動
ンタルヘルス改善のエビデンス 2)を有する療法に
作の滑らかさが失われる可能性がある 5)ため、メ
着目した。SAT 法とは、 宗像恒次が開発した新
ンタルトレーニングの必要性を指摘している 6)。
世代の認知行動環境療法である 14)。SAT 法は、
具体的には、セルフトークを活用したり 7)、ポジ
自己イメージの改善や潜在記憶の身体への出力を
ティブシンキング 、ルーティーンの実施
重視する。そのため、心理的影響を受けるスポー
8)
9)
があ
試合に向けての高校テニス部員への心理支援
51
ツ競技の試合に向けた心理支援として、適切なカ
う際立った特色をもつ。SAT とは「構造化された
ウンセリング手法であると考えられる。事例報告
」問いかけによって、問題解決脳で
( S tructured)
として、既に SAT 法の手法を用いて高校弓道選
手の競技動作の改善
34)
やテニスプレーヤーのサ
ービスの正確性向上に関する報告がなされてい
る
。
ある右脳を活性化させ、変性意識での「ひらめき、
」を用いて、問題の解決法や新
連想(Association)
」
しい生き方への気づきを促す「技法(T echnique)
35)
を意味している。つまり SAT 法とは、脳内の扁桃
そこで、本研究の目的は、高校男子テニス部員
体や脳幹などの潜在記憶情報にアクセスしていく
10 名を対象に、SAT 法による心理介入を行い、
という認知行動環境療法である 15)。通常の「心理
試合における心理支援によって、対象者の心理特
カウンセリング」が、心理的な問題を扱うのに対
性の改善効果を検討することである。
し、SAT 法は身体性を重視し、身体に現れた症状
を入り口にして心の問題に迫っていく。心の深奥
2.方 法
の問題は、顔表情や動作などの身体に現れるが、
1)対象者
これらの潜在記憶は、大脳の海馬や扁桃体、脳幹、
関東地方のI県立高等学校男子テニス部員1・
小脳に存在すると考えられ、従来のカウンセリン
2年生 10 名であり、平均年齢は 15.6 ± 0.5 歳であ
グ技法では容易にアクセスできない領域であっ
った。
た。SAT 法は、 この潜在情報にアクセスし、 イ
メージ法を用いて、嫌悪系脳神経活動パターンを
2)介入実施時期と介入時間
変え、扁桃体の嫌悪系部位を刺激する信号をOFF
2011 年9月上旬(80 分)。
に、報酬系部位を刺激する信号を ON にすると考
えられる。つまり、否定的自己イメージスクリプ
3)介入者
トを肯定的自己イメージスクリプトに変容させ、
NPO 法人ヘルスカウンセリング学会公認心理
短期間で自己イメージやメンタルヘルス、行動特
カウンセラー(共同研究者)。
性を良い方向へとシフトさせていくのである 16)17)。
4)介入経過
・SAT 未来自己イメージ法
研究説明・倫理的配慮(5分)、介入前心理特
今回「SAT 未来自己イメージ法」 という技法
性尺度測定(5分)、SAT カウンセリング法のガ
を用いた。これは、100 代前から子が親に愛され
イダンス(20 分)、SAT 未
来自己イメージ法による介
入(20 分)、SAT 宇宙自己
イメージ法による介入(25
分)、介入後心理特性尺度
測定(5分)(表1参照)
5)介入技法:SAT 法
SAT 法は、 宗像恒次に
よって開発された技法であ
る。SAT 法は短期間で問
題解決を支援していくとい
表1 介入支援の経過
52
窪田・山口・羽田・羽田・三橋・山田・森脇
てきたこと、対象者を支援して
表2 SAT 未来自己イメージ法の支援内容
くれる人が無制限に存在すると
いう仮定のもとに、対象者が過
去の記憶情報に頼ることなく、
自分を無条件に愛する未来の自
己イメージを作るというもので
ある 22)。支援法の具体的内容に
ついては、表2参照。
・SAT 宇宙自己イメージ法
「SAT 宇宙自己イメージ法」
とは、SAT 法の一部を構成す
るものである 23)。
人は 1029 個もの原子で構成さ
れた、複雑な原子の配合体であ
る。 これを利用して、「人」 を
原子というナノ単位のイメージ
で捉え、原子としての自己が全
宇宙の中で保護されてきたこと
をイメージするという方法であ
る。支援法の具体的内容につい
ては、表3参照。
6)心理測定
自己イメージを測定する「自
己価値感(Rosenberg,1965)」、
「自己抑制型行動特性(宗像,
1990)」、情緒的支援認知を測定
する「情緒的支援認知(宗像,
1996)」、メンタルヘルスを測定
する「特性不安(STAI)」、
「抑
うつ(SDS)」尺度を使用した。
また、
「試合に向けての介入前
後の主観的自信度」
、 介入後の
試合に向けての自己イメージと
心理支援の感想の自由記述を求
めた。本研究で使用した心理特
性尺度については、表4参照。
表3 SAT 宇宙自己イメージ法の支援内容
試合に向けての高校テニス部員への心理支援
53
表4 心理特性尺度の構成
7)分析方法
表5 介入前後における心理特性尺度値の比較
心理介入前後の心理得点について
は、SPSS ver,11 を用いて、Wilcoxon
の符号付順位検定を実施した。また、
自由記述については、質的データと
して分析した。
8)倫理的配慮
倫理的配慮としては、対象者に対
して研究の意図を話し、匿名にした
数量的データのみを使用すること、人を特定する
られなかった。介入前後の心理特性尺度値の変化
情報は一切公表しないこと等を口頭にて告げ、承
については、表5参照。
諾を得た。
2)自由記述について
3.結 果
1)介入前後における心理特性尺度値の比較
試合に向けてのテニス部員への SAT 法介入に
よる自己イメージ・メンタルヘルス改善の効果を
試合に向けての自己イメージについては、
「サ
イドのコースに打ち分けることが出来そう」など
の肯定的記述が9人、中立的記述が1人、否定的
記述が0人であった。介入後の感想においては、
検討するために、心理介入前後の心理指標を比較
「とてもさわやかな感じになった」などの肯定的
したところ、自己イメージを測定する「自己価値
記述が 10 人、 中立的記述・ 否定的記述が0人で
感」
(z=2.81, p=.005)、
「自己抑制型行動特性」
(z=
あった。
− 2.81, p=.005)が有意に改善した。さらに、メン
タルヘルスを測定する「特性不安(STAI)」(z=
4.考 察
− 2.81, p=.005)、「 抑 う つ(SDS)」(z= − 2.68,
試合に向けた高校生テニス部員への SAT 法に
p=.007)も有意に改善した。試合に向けての主観
よる介入によって、
「自己価値感」
、
「自己抑制型
的自信度(z=2.818, p=.005)も同様であった。一
行動特性」の尺度値が有意に改善し、自己イメー
方で、
「情緒的支援認知」
(家族内:z=1.09, p=.276;
ジの改善効果が得られた。 さらに、
「特性不安
家族外:z= − 1.08, p=.279)は、有意な改善が見
(STAI)」「抑うつ(SDS)」も有意に改善し、メ
54
窪田・山口・羽田・羽田・三橋・山田・森脇
ンタルヘルスにも改善効果が見られた。これらの
であり、心理支援は達成されたといえよう。
結果から、試合に向けての心理支援は、十分達成
5.結 論
されたといえよう。
従来の長期的な心理支援に比べて、わずか1回
本研究の目的は、 高校男子テニス部員 10 名を
の SAT 法による心理支援がこのような効果をも
対象に、
「SAT 未来自己イメージ法」と「SAT 宇
たらしたのは、SAT 法が従来のカウンセリング
宙自己イメージ法」による心理介入を行い、試合
とは異なるアプローチの仕方をとっているからだ
における心理支援によって、対象者の心理特性の
と考えられる。SAT 法は、 構造化された質問に
改善効果を検討することであった。
よって支援が為されていく方法である。この方法
その結果、介入前後で測定した心理特性尺度の
が、問題解決につながる(直感機能を優先する)
うち「情緒的支援認知」の改善は認められなかっ
右脳のひらめきを促し、解決への変容をスピーデ
たものの、それ以外の尺度値は有意に改善した。
ィ ーにさせる 18)。 また、SAT 法は目を閉じて実
また、試合に向けての自己イメージの記述内容で
践していくために、通常意識とは異なる変性意識
は、肯定的記述が9名、中立的記述が1名であり、
においてセラピーが進む。そのために、扁桃体に
否定的記述は見受けられなかった。さらに、心理
あるとされる深い潜在意識の情報、つまり通常の
支援への感想については、10 名全員が肯定的記
バーバル的カウンセリングでは介入出来ない情報
述内容であった。 本研究の結果から、SAT 法に
。さ
よる試合に向けた高校テニス部員への心理支援の
にアクセスすることが可能になるのである
19)
らに SAT 法は、 通常のカウンセリングに比べ、
可能性が示唆された。今後はサンプル数を増やし、
イメージ法を多用していく。それによって、脳内
より正確なデータを入手すると共に、対照群を設
にバーチャルな肯定的自己イメージが映像化され
定し、 本法の効果を比較検討することが望まれ
やすく、脳がそれを現実体験と同じように反応し
る。
ていくため 20)、心身に好影響を与え、瞬時に自己
イメージの変容が進んだと考えられる。特に、今
回用いた SAT 宇宙自己イメージ法は、光やオー
ロラのイメージを用いたことで、自己イメージも
同様に、一気に光り輝くようなものに変容した可
能性が高い。つまり、短時間でテニス部員の記憶
情報の中に、過去の嫌悪系イメージスクリプトと
は異なる、ポジティブなイメージスクリプトが生
じ 21)、試合に向けたクイックな心理支援が達成さ
れたといえる。ただし、情緒的支援認知の改善が
見られなかったのは、 今回用いた「SAT 未来自
己イメージ法」や「SAT 宇宙自己イメージ法」は、
主として自己イメージの変容に関わる技法である
ことや、別の SAT 法の技法である再養育イメー
ジ法のような、養育者イメージ改善の技法ではな
かったことなどが要因だと考えられる。
結果として、試合に向けたテニス部員への自己
イメージ・メンタルヘルスが改善したことは確か
引用文献
1)祝原豊・窪田辰政・森脇保彦:テニスにおける体
力トレーニングの重要性に関する研究,国士舘大
学 体育・スポーツ科学研究,9,47-54,2008.
2)橋本佐由理・宗像恒次:SAT カウンセリングセミ
ナーの教育効果に関する研究,ヘルスカウンセリ
ング学会年報,15,75-92,2009.
3)海野孝:セルフトーク技法のテニスへの応用,体
育の科学,51(11),877-882,2001.
4)海野孝・山田幸雄:認知的セルフトークと心理的
競技能力の関係─テニス・セルフトーク尺度の開
発─, 宇都宮大学教育学部紀要, 第 1 部(60)
,
91-106,2010.
5)海野孝:試合で勝てる!テニス最強のメンタルト
レーニング,メイツ出版,東京,18,2011.
6)前掲書 5),20
7)前掲書 5),40,76,96
8)前掲書 5),22
9)前掲書 5),46-51,90
10)村上貴聡・岩崎健一・徳永幹雄:テニス選手に対
するメンタルトレーニングの実施と効用性,健康
試合に向けての高校テニス部員への心理支援
科学,22,183-190,2000.
11)前掲論文 10)
12)村上貴聡:徳永幹雄編:教養としてのスポーツ心
理学 , 大修館書店,東京,89-91,2005.
13)村松憲・吉成啓子・磨井祥夫・友末亮三:簡便で
信頼度の高いテニススキルテストの開発,テニス
の科学,4,46-52,1996.
14)宗像恒次:SAT 療法,金子書房,東京,8,2006.
15)前掲書 14),8
16)前掲書 14),8,20-21,32-35
17)前掲書 14),45
18)前掲書 14),9
19)前掲書 14),16
20)前掲書 14),44-45
21)前掲書 14),80-81
22)宗 像恒次, 小森まり子, 鈴木浄美, 橋本佐由理,
鈴木克則:SAT 法を学ぶ,金子書房,東京,130,
2007.
23)前掲書 22),130
24)中込四郎・吉村功・安田忍:軟式庭球選手へのメ
ンタルトレーニングの試み,筑波大学体育科学系
紀要,14,233-243,1991.
25)中山和義・林恭弘:テニスメンタル強化書,実業
之日本社,103-106,2007.
26)ニック . ボロテリ・チャールズ . A . マーハ―:
(訳)
海野孝:テニス・プレーヤーのメンタル開発プロ
グラム,大修館書店,13(1998)
27)日本スポーツ心理学会編:スポーツメンタルトレ
―ニング教本,大修館書店,15-17,2003.
28)ロバート・S・ワインバーグ(訳)海野孝:テニ
スのメンタルトレーニング, 大修館書店,14-23,
1992.
29)杉原隆:スポーツメンタルトレーニング ─改めて
その意味を問う─, 体育の科学,51(11)
,836841,2001.
30)徳永幹雄:スポーツ選手に対する心理的競技能力
のトレーニングに関する研究(1)─イメージトレ
ーニングの予備的調査・ 実験─, 健康科学,6,
165-179,1984.
31)徳永幹雄,橋本公雄:スポーツ選手の心理的競技
能力のトレーニングに関する研究(3)─テニス選
手のメンタル・トレーニングについて─, 健康科
学,9,79-87,1987.
32)前掲論文 31)
33)Vic Braden・Bill Bruns(訳)竹重一彦:TENNIS
2000 正しいストローク,戦略,心理学を身につけ
るために,学会出版センター,175,2001.
34)山口豊・窪田辰政:習慣的な弓道「ゆるみ」動作
生徒へのヘルスカウンセリングの効果について,
運動とスポーツの科学,16(1)
,61-69,2010.
35)山口豊・窪田辰政:テニスにおけるサービスの正
確性を高めるための SAT 療法支援に関する研究,
55
ヘルスカウンセリング学会年報,17,99-107,2011.
57
研 究
ジュニア競泳選手の泳速度と筋量の関係
The Relationship Between the Swimming Velocity
Japanese Top Junior Swimmers and
Their Muscle Mass According to Growth Development
須藤 明治
Akiharu SUDO
Abstract
This study examined the relationship between the swimming velocity Japanese
top junior competitive swimmers and their muscle mass according to growth
development. With swimmers involved in a swimming club as subjects, at the site of
a Japan Swimming Club Association-held swimming tournament(all-Japan interblock tournament),measurements were taken for body composition(weight,
amount of body fat, amount of muscle in and bilateral difference between arms/legs/
body trunk, etc.).The subjects were comprised of 502 between the ages of 11 and
18. For the swimming records, the records officially recognized by the Japan
Swimming Federation for this tournament were used. Physical attributes of
swimmers participating in this tournament were grouped by age and gender, and
with regards to the swimming records, four swimming styles(Free/butterfly/
backstroke/breaststroke)were used for 50m, and muscle mass(body trunk/arms
(bilateral)/legs(bilateral))measurement values were comparatively examined.
Results showed that for height, values were high compared to the national average
for those aged 13 and under, and for those above 13 years old the values showed
tendencies similar to the national averages. With differences in amounts of body fat
between genders in particular, males showed body fat amounts of 10% or less for
those aged 15–16 years old. Also, regarding differences in upper limb muscle mass
between genders, males showed high values from age 15 and above. On the other
hand, while there were differences between genders with regards to lower limb
muscle mass, gradual increases in accordance with age were displayed. Additionally,
results of the examination of the relationship between swimming records and muscle
mass showed that for males, a significant direct correlation among the four
swimming styles was recognized, but those tendencies were only observed in the
国士舘大学体育学部(Faculty of Physical Education, Kokushikan University)
58
須藤
butterfly stroke for females. In particular, for females direct correlations between
lower limb muscle mass and swimming velocity were recognized in all swimming
styles. Particularly for the females’ freestyle, backstroke, and breaststroke, it can be
considered that the increasing of upper limb muscle mass is an important factor in
the improvement of competition power.
Key words; swimmers, top junior, muscle, velocity
Ⅰ.はじめに
握ることで体組成を測定した。 被験者は、11 歳
から 18 歳までの 502 名であった。競泳記録は、本
水泳は、技術をある程度習得しなければ泳げる
大会で実施された日本水泳連盟の公式認定記録を
ようにはならないが、初心者は泳ぎか速くなるほ
用いた。これらの大会に参加した選手の身体的特
ど、1ストロークの時間は速くなる。その1スト
徴を年齢別及び性別に分類し、比較検討した。ま
ロークの時間は、12 歳のグループでも 20 歳の一
た、泳記録については、50mの4泳法(クロール・
流選手でもおよそ 0.6 秒に近いことが知られてい
バタフライ・背泳ぎ・平泳ぎ)を取り上げ、筋量
る 。また、このような、くり返しを伴うリズミ
(体幹・上肢(左右)・下肢(左右))の測定値と
5)
カルな動作の調節は、5~ 10 歳程度の比較的低
比較検討した。
年齢時期に習得できることが知られている 9)。更
に、脳神経の発育年間量は、7~8歳がピークと
いわれていることからこの時期にリズミカルな動
作を習得することが望ましい 6)。そこで、本研究
Ⅲ.結 果
1)競泳選手の身体的特徴について
は、日本のトップジュニア競泳選手の泳速度と発
図1に 11 歳~ 18 歳の身長の変化を示した。男
育発達に即した筋量との関係を検討した。発育発
子が 12 歳~ 18 歳まで女子より高値を示した。特
達に応じたトレーニングの基礎資料としたい。
に、男子では 15 歳、女子では 16 歳に身長の伸び
のピークがあった。
Ⅱ.方 法
スイミングクラブに通っている水泳選手を対象
に社団法人日本スイミングクラブ協会主催水泳大
会(全国ブロック対抗競技会・JSCA 新年フェス
ティバル等)の会場にて、身体組成(体重、体脂
肪量、上肢・下肢・体幹の筋肉量と左右差など)
の測定を施した。身長は身長計で、体重などの体
組成はインピーダンス法を用いた体組成計によっ
て測定した。
測定は、被験者(出場選手)に水着になっても
らい、身長から測定を行った。その後、体組成計
にのり、性別・年齢・身長を入力し、グリップを
図1 年齢に伴う身長の変化
ジュニア競泳選手の泳速度と筋量の関係
図2に 11 歳~ 18 歳の体重の変化を示した。男
59
図5に11歳~ 18歳の除脂肪量の変化を示した。
子は 15 歳と 18 歳にピークがみられ、女子では緩
男女共に 11 歳から上昇する傾向がみられ、18 歳
やかに上昇し 15、16 歳でピークを迎え、18 歳に
において最も高値を示した。
向かって減少する傾向にあった。
図2 年齢に伴う体重の変化
図3に 11 歳~ 18 歳の体脂肪の変化を示した。
図5 年齢に伴う除脂肪量の変化
図6に 11 歳~ 18 歳の筋肉量の変化を示した。
男子は 14 歳から減少する傾向がみられ、 女子は
男子は11歳~ 18歳まで上昇する傾向が見られた。
11 歳から緩やかに上昇する傾向にあった。
女子は 11 歳~ 15 歳まで男子よりも緩やかに上昇
する傾向が見られた。
図3 年齢に伴う体脂肪の変化
図4に 11 歳~ 18 歳の脂肪量の変化を示した。
図6 年齢に伴う筋肉量の変化
図7に11歳~ 18歳の体水分量の変化を示した。
男子は 16 歳において最も低い値を示した。 女子
男子が 11 歳~ 18 歳まで女子より高値を示した。
は年齢とともに緩やかに上昇する傾向にあった。
女子は 15、6 歳でピークを迎え、18 歳に向かって
減少する傾向にあった。
図4 年齢に伴う脂肪量の変化
図7 年齢に伴う体水分量の変化
60
須藤
図8に 11 歳~ 18 歳の BMI の変化を示した。男
図 11 に 11 歳~ 18 歳の右腕筋肉量の変化を示し
子は 18 歳において最も高値を示し、女子は 15 歳
た。 男子 14 ~ 18 歳に上昇する傾向が見られた。
でピークを迎え、18 歳に向かって減少する傾向
女子は 16 歳において最も高値を示した。
にあった。
図8 年齢に伴う BMI の変化
図 11 年齢に伴う右腕筋肉量の変化
図9に11歳~ 18歳の推定骨量の変化を示した。
図 12 に 11 歳~ 18 歳の左腕筋肉量の変化を示し
男子が 12 歳~ 18 歳まで女子より高値を示した。
た。 男子は 18 歳において最も高値を示し、 女子
男女共に 15 歳に伸びのピークがあった。
は 15 歳において最も高値を示した。
図9 年齢に伴う推定骨量の変化
図 12 年齢に伴う左腕筋肉量の変化
図 10 に 11 歳~ 18 歳の体幹筋肉量の変化を示し
図 13 に 11 歳~ 18 歳の右足筋肉量の変化を示し
た。男子は 15 歳と 18 歳にピークがみられ、女子
た。男子は 11 歳~ 18 歳まで上昇する傾向が見ら
は 15 歳においてピークを迎えた。
れた。女子は男子よりも緩やかに上昇する傾向に
あった。
図 10 年齢に伴う体幹筋肉量の変化
図 13 年齢に伴う右足筋肉量の変化
ジュニア競泳選手の泳速度と筋量の関係
図 14 に 11 歳~ 18 歳の左足筋肉量の変化を示し
61
図 17 に 11 歳~ 18 歳の左腕脂肪量の変化を示し
た。男女共に右足筋肉量と同様の傾向を示した。
た。男女共に右腕脂肪量と同様の傾向がみられた。
図 14 年齢に伴う左足筋肉量の変化
図 17 年齢に伴う左腕脂肪量の変化
図 15 に 11 歳~ 18 歳の体幹脂肪量の変化を示し
図 18 に 11 歳~ 18 歳の右足脂肪量の変化を示し
た。男子は 14 ~ 18 歳において女子よりも低い値
た。 男子は 13 歳で最も高値を、16 歳で低値を示
を示した。女子は 11 歳から 15 歳まで緩やかに上
した。 女子は 16 歳でピークを迎え、18 歳に向か
昇した。
って減少する傾向にあった。
図 15 年齢に伴う体幹脂肪量の変化
図 18 年齢に伴う右足脂肪量の変化
図 16 に 11 歳~ 18 歳の右腕脂肪量の変化を示し
図 19 に 11 歳~ 18 歳の左足脂肪量の変化を示し
た。男子が 11 歳~ 18 歳まで女子より低い値を示
た。男女共に右足脂肪量と同様の傾向を示した。
した。 女子は 15 歳で伸びのピークを迎え、18 歳
に向かって減少する傾向にあった。
図 16 年齢に伴う右腕脂肪量の変化
図 19 年齢に伴う左足脂肪量の変化
62
須藤
図 20 に 11 歳~ 18 歳の立位体前屈の変化を示し
図 23 に男子身長における全国平均との比較を
た。 男子は 18 歳において最も高値を示した。 女
示した。11 歳~ 13 歳までは全国平均より高値を
子は 11 歳~ 16 歳まで男子より高値を示した。
示したが、14 歳からはほぼ同様の傾向を示した。
図 20 年齢に伴う立位体前屈の変化
図 23 男子身長における全国平均との比較
図 21 に 11 歳~ 18 歳の上肢筋肉量の変化を示し
図 24 に女子身長における全国平均との比較を
た。男子は 11 歳~ 18 歳まで上昇する傾向が見ら
示した。11 歳~ 14 歳までは全国平均より高値を
れた。女子は 11 歳~ 15 歳まで上昇する傾向が見
示したが、15 歳からはほぼ同様の傾向を示した。
られた。
図 21 年齢に伴う上肢筋肉量の変化
図 24 女子身長における全国平均との比較
図 22 に 11 歳~ 18 歳の下肢筋肉量の変化を示し
図 25 に男子体重における全国平均との比較を
た。男子は 11 歳~ 18 歳まで女子より高値を示し
示した。11 歳~ 18 歳において、全国平均とほぼ
た。女子は 11 歳~ 18 歳まで男子より緩やかに上
同様の傾向を示した。
昇する傾向にあった。
図 22 年齢に伴う下肢筋肉量の変化
図 25 男子体重における全国平均との比較
63
ジュニア競泳選手の泳速度と筋量の関係
図 26 に女子体重における全国平均との比較を
示した。男子同様、11 歳~ 18 歳において、全国
平均とほぼ同様の傾向を示した。
2)泳速度と筋量の関係について
図 27 に男子における体幹筋量と速度の関係を
示した。aにクロール、bにバタフライ、cに背
泳ぎ、dに平泳ぎを示した。4種目とも正の相関
を示した。
a)
(m/min)
図 26 女子体重における全国平均との比較
b)
(m/min)
c)
(m/min)
d)
(m/min)
図 27 体幹筋量と速度の関係(男子)
64
須藤
図 28 に女子における体幹筋量と速度の関係を
図 29 に男子における上肢筋量と速度の関係を
示した。aにクロール、bにバタフライ、cに背
示した。aにクロール、bにバタフライ、cに背
泳ぎ、dに平泳ぎを示した。クロール、バタフラ
泳ぎ、dに平泳ぎを示した。4種目とも正の相関
イにおいて正の相関を示した。
を示した。
a)
a)
(m/min)
b)
(m/min)
b)
(m/min)
c)
(m/min)
c)
(m/min)
d)
(m/min)
d)
(m/min)
図 28 体幹筋量と速度の関係(女子)
(m/min)
図 29 上肢筋量と速度の関係(男子)
65
ジュニア競泳選手の泳速度と筋量の関係
図 30 に女子における上肢筋量と速度の関係を
図 31 に男子における下肢筋量と速度の関係を
示した。aにクロール、bにバタフライ、cに背
示した。aにクロール、bにバタフライ、cに背
泳ぎ、dに平泳ぎを示した。バタフライにおいて
泳ぎ、dに平泳ぎを示した。4種目とも正の相関
のみ正の相関を示した。
を示した。
a)
a)
(m/min)
b)
(m/min)
b)
(m/min)
c)
(m/min)
c)
(m/min)
d)
(m/min)
d)
(m/min)
図 30 上肢筋量と速度の関係(女子)
(m/min)
図 31 下肢筋量と速度の関係(男子)
66
須藤
図 32 に女子における下肢筋量と速度の関係を
Ⅳ.考 察
示した。aにクロール、bにバタフライ、cに背
発育発達の先行研究にスキャモンの臓器別発育
泳ぎ、dに平泳ぎを示した。4種目とも正の相関
曲線(1930) がある。20 歳を成熟到達と考え、
を示した。
その値を 100 とした時の増加量の大きさを示して
いる。一般型とは、身長、体重、筋量、骨格(頭
a)
部を除く)、呼吸器系、心臓血管系、消化器系な
どの発育の様子を現している 4)。一般型の代表的
な例が身長や体重であるが、出生直後と思春期の
2回にわたって急激な増加がみられる。神経型と
は、脳・神経系、眼、上部顔面、頭蓋上部などの
発育の様子を現している。神経型の代表的な例が
(m/min)
脳重量であるが、男子では 15 歳、女子では 9 歳頃
にほとんど完成する。生殖型とは、男子では精巣、
性嚢、前立腺、陰茎、女子では卵巣、卵管、子宮、
b)
膣などの発育の様子を現している。生殖型の代表
的な例が男子の睾丸重量であるが、12 ~ 15 歳の
思春期にかけて急激な増加がみられ、20 歳頃に
成熟する。リンパ型とは、リンパ節、胸腺、扁頭、
消化管の組織リンパなどの発育の様子を現してい
(m/min)
る。リンパ型の代表的な例が胸腺重量であるが、
10 歳頃に成人の約2倍程度までピークとなるが
以後低下する傾向を示すと言われている 4)。脳の
c)
重さは、5歳~6歳頃までに成人の 90%に達し、
脳神経系の著しい成長は、乳幼年期の体のはたら
きの特徴である。そして、体の動かし方が神経系
の成長を示している。3歳までに歩行運動を習得、
3~5歳で協応・平衡機能が伸び始める。この時
(m/min)
期からの働きかけが重要となる。6~8歳(学童
期前半)は、からだのバランスもよく、脳神経系
もほぼ完成に近づき、からだの形とはたらきの両
面において非常に安定しているので、この時期に
d)
いろいろな運動を経験させ、運動基本動作を習得
させるのに適している 8)。筋持久力について、最
大筋力の3分の1の負荷で反復運動をさせた場
合、6~ 18 歳までで、反復回数は同じで年齢に
よる差はないことがわかっている。つまり、最大
(m/min)
筋力は増加するが、筋持久力はほとんど変わらな
いことを示している。6~9歳の時期は、身長・
図 32 下肢筋量と速度の関係(女子)
ジュニア競泳選手の泳速度と筋量の関係
67
体重・胸囲・座高は直線的となっている。体の成
12 ~ 13 歳までほぼ直線的に増加する。更に、女
長曲線としては安定した時期である。10 歳~成
子は、 その後横ばいの傾向を示す。 男子は、13
長が完了するまでを思春期とする。この時期に、
~ 15 歳にかけて急激な増加を示す。 これを体重
男女差が現れる。 9歳~ 10 歳あたりで女子の成
当たりの最大酸素摂取量についてみると、男子で
長が男子の値を超えてくるが、男子の成長曲線は
は 10 歳、女子では9歳までゆるやかに増加する。
11 歳~ 12 歳ころから盛んになる。女子は 15 歳前
思春期に入り一時期停滞あるいは減少するが、男
後でほとんどピークを向かえ、男子は、身長と座
子では 15 歳まで、女子では 13 歳まで再び増加傾
高は 17 歳ころまでに成長を終えるが、 体重と胸
向となり、その後は低下することがわかっている。
囲については 17 歳をすぎても増加がみられる。
近年、思春期成長の発現が年齢的に速くなってい
身長の成長がピークに達する年齢は 12 歳~ 15 歳
ることが明らかにされている 10)。つまり、現在に
であり、その間約3年の開きがあり、そのピーク
おいても発育促進現象が進んでおり、2000 年生ま
値も7cm ~ 14cmと差がある。これらのことから、
れの最大発育年齢は男子で 12.25 歳、女子は 10.39
思春期は成長の面で非常に個人差が大きい時期な
歳と予測され、 更に 2010 年生まれの最大発育年
ので、この時期の運動は、特に成長段階に応じた
齢は男子で 12.20 歳、女子は 10.36 歳と予測されて
個人差に注意する必要がある。男子の皮下脂肪断
いる。これらのことから、指導者は個々人の思春
面積(上肢・下肢)は、7~ 12 歳で年齢ととも
期成長の時期を見極めることが運動プログラムを
に増加するが、12 ~ 14 歳にかけては減少し、14
作成する上でとても重要であることがわかる 10)。
歳以降再び増加する傾向を示す。一方、女子は、
そこで、1年間に何 cm 背が伸びたか、暦年齢ご
11 ~ 14 歳にかけて急激に増加するがそれ以降に
との差をプロットすることで、成長速度曲線を算
増加は認められない。男子の筋断面積(上肢・下
出し、トレーニング計画に役立てることが重要で
肢) は、12 歳以降の増加が著しく、 その増加傾
あることが知られている。この曲線を以下のよう
向は 18 歳まで続く。 一方、 女子は、 年齢と共に
に分類する。思春期の身長成長促進現象の始まっ
増加するが、14 歳以降はほぼ一定の値を示す。
た年齢を take off age(TOA)とし、それ以前を
その原因として、 女子において、 男性ホルモン
第1期(Phase Ⅰ)
、その TOA から身長最大発育
(17- ケトステロイド)は 12 歳以降に減少し、女
年 齢(peak height age; PHA) ま で が 第 2 期
性ホルモン(エストロジェン) は 12 歳以降急激
(Phase Ⅱ)、TOA から身長増加が年間 1cm 未満
に増加する。 握力について、 男子は6歳~ 12 歳
となった時点(final height age; FHA)までが第
まで比較的安定した伸びを示し、13 歳以降に急
3期(Phase Ⅲ)
、FHA 以降を第4期(Phase Ⅳ)
激な増加を起こす。 女子は、10 歳頃から増加が
とする 10)。特に、ジュニア期のトレーニング計画
急激になり、14 歳でピークを向かえる。 これら
をする際には、身長が急速に伸び出す前の第1期
の要因として、思春期以降、男女ともに体重の増
までに、動きづくりの中で総合的な体力作りを中
加を示すが、その内容は男子は筋肉か主で女子は
心に行い、身長の成長速度がピークとなる年齢前
脂肪が主になっている。思春期前児童における筋
後1年が、最大酸素摂取量の伸び率が高い時期に
力トレーニングは、最大筋力の向上及び筋横断面
あたることから、この第2期に持久的なトレーニ
積の向上が認められているが、発育発達過程での
ングを行うとより効果的であることが知られてい
骨格系器官への障害となる可能性が高いことが明
る。次に、身長の成長速度のピークが過ぎた第 4
らかにされている。更に、暦年齢よりも生物学的
期から最大筋力を高めるような筋力トレーニング
年齢にパワーは依存していることがわかってい
を本格的に取り入れることが基本となる 10)。そこ
る。次に、最大酸素摂取量は、男女とも3歳から
で、本研究は、日本のトップジュニア競泳選手の
68
須藤
泳速度と発育発達に即した筋量との関係を検討し
示したが、それ以上では全国平均と同様の傾向を
た。 その結果、 身長は全国平均と比較して、13
示した。特に男女差における年齢に伴う体脂肪量
歳以下までは高値を示したが、それ以上では全国
の変化で、男子は 15 歳から 16 歳にかけて体脂肪
平均と同様の傾向を示した。特に男女差における
量が 10%以下であった。 また、 上肢の筋肉量は
年齢に伴う体脂肪量の変化で、 男子は 15 歳から
男女差において男子が 15 歳から高値を示した。
16歳にかけて体脂肪量が10%以下であった。また、
一方、下肢の筋肉量は男女差があるものの、年齢
上肢の筋肉量は男女差において男子が 15 歳から
とともに緩やかな向上を示した。さらに、泳記録
高値を示した。一方、下肢の筋肉量は男女差があ
と筋肉量の関係を調べた結果、男子において4泳
るものの、年齢とともに緩やかな向上を示した。
法では有意な正の相関関係が認められたが、女子
さらに、泳記録と筋肉量の関係を調べた結果、男
ではバタフライのみにその傾向が見られた。特に、
子において4泳法では有意な正の相関関係が認め
女子では下肢筋量と泳速度の関係が全ての泳法に
られたが、女子ではバタフライのみにその傾向が
おいて正の相関関係が認められた。本研究におい
見られた。特に、女子では下肢筋量と泳速度の関
ても、発育発達場面における先行研究の結果と同
係が全ての正の相関関係が認められた。本研究に
様であったが、泳記録との関係においては新たな
おいても、発育発達場面における先行研究の結果
関係を発見することができた。特に女子の自由形、
と同様であったが、泳記録との関係においては新
背泳ぎ、平泳ぎにおいて、上肢の筋量を増加させ
たな関係を発見することができた。特に女子の自
ることが競技力向上を目指すうえで重要な課題で
由形、背泳ぎ、平泳ぎにおいて、上肢の筋量を増
あることが考えられた。
加させることが競技力向上を目指すうえで重要な
課題であることが考えられた。
Ⅴ.まとめ
本研究は、日本のトップジュニア競泳選手の泳
速度と発育発達に即した筋量との関係を検討し
た。スイミングクラブに通っている水泳選手を対
象に社団法人日本スイミングクラブ協会主催水泳
大会(全国ブロック対抗競技会・JSCA 新年フェ
スティバル等)の会場にて、身体組成(体重、体
脂肪量、上肢・下肢・体幹の筋肉量と左右差など)
の測定を施した。 被験者は、11 歳から 18 歳まで
の 502 名とした。競泳記録は、本大会で実施され
た日本水泳連盟の公式認定記録を用いた。これら
の大会に参加した選手の身体的特徴を年齢別及び
性別に分類し、また、泳記録については、50m の
4泳法(クロール・バタフライ・背泳ぎ・平泳ぎ)
を取り上げ、筋量(体幹・上肢(左右)
・下肢(左
右))の測定値と比較検討した。その結果、身長
は全国平均と比較して、13 歳以下までは高値を
参考文献
1)服 部恒明「体型と身体組成」 子どもと発育発達,
Vol.2 No.4,杏林書院,p252-255,2004
2)勝部篤美「子どもに基本運動を指導する場合の問
題点と留意点」子どもと発育発達,Vol.2 No.1,杏
林書院,p40-43,2004
3)小林寛道「子どもにとって体力とは何か」子ども
と発育発達,Vol.1 No.1,杏林書院,p4-8,2003
4)小林寛道「子どもの臓器の発育」子どもと発育発
達,Vol.1 No.2,杏林書院,p85-89,2003
5)宮 下充正「スポーツスキルの科学」 大修館書店,
1987
6)武藤芳照, 深代千之, 深代泰子「子どもの成長と
スポーツのしかた」築地書房,1985
7)須藤明治「幼児・学童における水泳技術習得の臨
界期について」第 57 回日本体育学会,弘前,2006
8)須藤明治「水泳教師教本」大修館書店,2006
9)須藤明治「子どもの発育発達とスポーツ指導のあ
り方」国士舘大学 体育・スポーツ科学,1998
10)上杉憲司「コーチングクリニック」ベースボール
マガジン社,1998
69
書 評
深刻なスポーツ傷害に対するレフリーの責任:イギリスにおける展開
The Referee’s Liability for Catastrophic Sports Injuries:
A UK Perspective
松宮 智生
Tomoki MATSUMIYA
海外文献紹介
7〔1995〕年6月 30 日鹿児島地裁判決)
。この事
件で裁判所は、レフリーの注意義務の範囲を「競
本 稿 で 紹 介 す る 論 文 Caddell(2005)The
技規則(ルール)の公平な適用」に限定したうえ
Referee’s Liability for Catastrophic Sports
で、レフリーの義務違反を否定し、原告の請求を
Injuries: A UK Perspective は、イギリス・ウェー
棄却した。
ルズ大学(University of Wales)のリチャード・
しかし、 この判決の2年後の 1997 年、 イギリ
カデル(Richard Caddell)講師が、2005 年、ア
スでは、ラグビーの負傷事故をめぐる裁判におい
メリカ・マーケット大学(Marquette University)
て、
「ルールの適用・執行」についてのみならず、
の紀要 Marquette Sports Law Review. Vol.15 に
ゲームを適切に「コントロール」しなかったレフ
寄稿したものである。
リーの注意義務違反が認定された(Smoldon v.
紹介にあたって、この論文の意義を簡単に述べ
ておきたい。
Whitworse(1997)P.I.Q.R 133)
。さらに 2003 年
に も 同 種 の 判 決 が 出 さ れ(Vowles v. Evans
わが国においては、スポーツ競技における競技
(2003)1 W.L.R. 1607)
、イギリス法においては、
者の死亡・負傷事故について、審判(レフリー、
レフリーの法的責任の存在・性格がある程度明確
アンパイア等)が裁判の当事者となった事例はき
化されたといえる。本稿で紹介する論文 Caddell
わめて少ない。 吉田勝光・ 張林芳(2010)「スポ
(2005)は、これらイギリスの判例の事案概要と
ーツ審判に関する判例の分析と検討」(松本大学
法的論点を簡潔にまとめたものである。
研究紀要8号 133-140 頁)が、わが国におけるス
国外の判例がわが国の裁判を直接的に拘束する
ポーツの審判に関する判例を網羅的に検索した結
ことはないとはいえ、世界共通のルールでプレー
果、抽出された判例は 10 件にとどまった。
が行われるスポーツ競技の事故について、これら
それら数少ない判例のうち、公立高校同士のラ
の判例がわが国の同種の裁判に影響を与える可能
グビーの練習試合で発生した負傷事故(頚椎脱臼
性があることを否定はできない。Caddell(2005)
による四肢麻痺)をめぐり、負傷した原告がレフ
は、他国の裁判、およびスポーツそのものに対す
リーの注意義務違反を主張した事例がある(平成
る影響についても考察が及んでおり、今後のわが
国士舘大学大学院スポーツ・システム研究科(Graduate School of Sport System, Kokushikan University)
70
松宮
国のスポーツ法学における研究の進展ならびに審
技に備わったある種の重要な側面で安全な環境を
判の技術の向上に資する成果であると考えられ
維持するという、二重の役割を果たしている場合
る。そこで、本稿において同論文の翻訳を試み、
が多い。こういったルールが正しく適用されなけ
広くその内容を紹介したい。
れば、出場者が重傷を負うおそれがある。そのた
なお、本稿における翻訳は試訳の域を出ない。
め、レフリーは出場者からの相当な信用に応える
誤訳、不正確な記述等、ご指摘・ご教示をいただ
べき立場にある。出場者は、審判ができる限りの
ければ幸いである。
安全を確保し、プレーヤーが不当に高い傷害リス
クにさらされないように試合進行をコントロール
していることを当てにしているのである。
深刻なスポーツ傷害に対するレフリーの責任:
イギリスにおける展開
The Referee’s Liability for Catastrophic
Sports Injuries: A UK Perspective
Marquette Sports Law Review 15. 415-424(2005)
*.
リチャード・カデル
Richard Caddell
LL.B(Hons)
,LL.M. Lecturer in Law, University of Wales,
Bangor, Department of Law.
(訳)松宮 智生
Ⅰ.序 論
スポーツ中に発生した傷害事件に関する訴訟
は、イギリスでは比較的目新しいものであり、試
合の観客 1) および他の競技者 2) に対する出場者
の注意義務が、いくつかの判例によって明確化さ
れている。しかし近年、スポーツ中の傷害に関す
る裁判で訴えられる可能性のある新しいカテゴリ
ーが浮上している。この問題に関して最近のイギ
リスに見られる重要な展開のひとつは、審判によ
る安全確保の責任が控訴院(Court of Appeal)ⅰ)
によって認められ、レフリーが出場者に対して注
意義務を有していることが公式に明確化されたこ
とである。この注意義務を明確化するに至った2
件の訴訟は、レフリーが試合における高度に技術
イギリスでもアメリカと同じように、プレーヤ
的な領域で適切なコントロールを怠った結果、重
ー同士が激しくぶつかり合うコンタクトスポーツ
度の脊椎損傷を負ったラグビー選手によって提起
が愛好されてきた長い伝統がある。土曜の午後に
されたものである。
なるとイギリス中いたるところで病院の待合室
この論文の目的は、これらの控訴院が下した判
に、泥まみれ、血だらけ、包帯だらけになったユ
決を分析し、 イギリス以外のコモンローⅱ) 諸国
ニフォーム姿の面々が列をなすことからもわかる
の裁判、およびスポーツそのものに対して及ぼし
ように、この種の活動では負傷するリスクが大き
得る影響について考察することである。すでに他
い。スポーツ中の負傷は、幸いにもほとんどが軽
のコモンロー諸国(最も顕著なのはオーストラリ
症であるが、それでも、長期にわたる身体障害や、
ア)でも、これらの判例にならって同種の事件に
場合によっては生命にかかわる深刻な負傷事故が
関する同様の訴えがなされていることを考えれ
大きく報道されることも少なくない。
ば、これら問題の判例は重要であろう。
忘れられがちなことであるが、コンタクトスポ
ーツにおけるレフリーの第一の役割は、試合進行
の調停役を務めたり、観客の野次を浴びたりする
ことではなく、正しくかつ的確なルールの適用に
Ⅱ.15 人制ラグビー(rugby union)とその
参加者
よって出場者の安全を確保することにある。これ
15 人制ラグビー(ラグビーユニオン) という
らのルールは、試合を統制すると同時に、その競
スポーツを言い表す言葉として、「紳士による荒
深刻なスポーツ傷害に対するレフリーの責任:イギリスにおける展開
71
くれ者のゲーム」という表現がよく使われている。
が重く、がっしりとした体格の選手であり、スク
プレーのフィールドに集う面々が荒くれ者であれ
ラムの安定性は、これらの選手の体力や技術によ
紳士であれ、ラグビーはいくぶん荒っぽい娯楽だ
って決まる部分が大きい。
という評判が定着している。門外漢から見ると、
スクラムの2列目は、ロックと呼ばれる2人の
ラグビーの試合はアメリカンフットボール(ただ
選手で構成される。ロックはチーム内で最も長身
し保護用ヘルメットや防具は着けない)と中世の
であり、パック内のさまざまなメンバー間の中継
戦場風景の要素を混ぜ合わせたような不可解な暴
役を担う。スクラムの最後列(バックロー)は、
動であり、クリケットのルールが単純に思えてく
ナンバーエイトおよび2人のフランカーの3人で
るような複雑なルールが支配するスポーツであ
構成され、スクラムの中から後方へ押し出された
る。 イギリスでは 15 人制ラグビー(と、 その姉
ボールを確保・統制する。
妹スポーツである 13 人制ラグビー(ラグビーリ
スクラムを組むとき、両チームのフォワードは、
ーグ))が、さまざまなレベルおよび年齢層で盛
敵のパックに可能な限りのプレッシャーを与える
んに行われている。ウェールズやイングランド北
べく、腰を落とした状態でがっちりと組み合う。
部など、一部の地方ではラグビーが地元の人々の
つまり、特にフロントローの選手には、首と肩に
精神に深く根付いており、ラグビー選手はかなり
直接強い力が加わり、相当な重圧を受けることに
の程度まで、その地方の典型的な人物像を代表す
なる。組み合うタイミングがずれたり、フロント
る存在である。
ローの選手たちの体力や技術に大きな格差がある
15人制ラグビーでは、1チーム15人がバックス、
ためにスクラムが崩れると、結果的にこれらの選
ハーフバックス、フォワードの3つのポジション
手たちが深刻な怪我を負うおそれがある。稀にで
に分かれて戦う。バックスは一般に最も足が速く
はあるが、このような負傷事故が起こる場合、一
運動能力に優れた選手が担当し、主にチームの得
番危険な目に遭うのは最も強い衝撃を受けるフッ
点をあげる役割を担う。フォワードの仕事はボー
カーである。というのは、スクラムの中心にいな
ルを確実に保持することだが、そのやり方は、慣
がら、プロップによって両脇を固められ、強い衝
れない目で見ると、まるで敵の集団に向かってま
撃が加わる場所から逃れられないからである。し
っしぐらに突っ込んでいくようである。ハーフバ
たがって、レフリーがスクラムに対してできるだ
ックスは最も小柄な選手が担当し、ボールを回し
け強いコントロールを発揮し、この戦術〔スクラ
て攻撃作戦を開始することで、フォワードとバッ
ム〕の安定性と選手の安全を確保することがきわ
クスの間を中継する。
めて重要なのである。
フォワードの重要な仕事のひとつは、試合再開
それぞれ別の試合でのスクラム崩壊が原因とな
時に8人でがっちりとスクラムを組み、ボールを
り、重度の脊椎損傷を負ったイギリスのプレーヤ
取り合うことである。そのため、フォワードの集
ーにより提起された2件の先行判例から明らかな
団は「パック」と呼ばれる。スクラムは、このス
ように、レフリーによるスクラムのコントロール
ポーツの最も特徴的かつ独特な要素と見られてい
に過誤があれば、重大かつ悲劇的な結果を招く可
る。スクラムのフォーメーションでは、各チーム
能性がある。この種の訴訟の先駆けとなったのは、
のパックが3列の陣形を作る。最前列(フロント
1997年に行われたスモルドン対ホイットワース事
ロー)は3人の選手で構成され、その中央がフッ
件 3)である。この裁判によって、試合の出場者の
カー(スクラムの中からボールを足で後ろへかき
安全を確保するという、レフリーの注意義務の存
出す役目)で、フッカーの左右を2人のプロップ
在が公式に認められた。この注意義務については、
が固める。この3人は一般にチーム内で最も体重
スモルドン事件の後、バウェルズ対エバンス 4)事
72
松宮
件を通じて、控訴院によりさらに踏み込んだ見解
の試合が行われた当時、スクラムの形成に関する
が示された。
いくつかのルールが存在し、ラグビーのこの部分
での安全性を確保するために実施されていた。具
Ⅲ.スモルドン対ホイットワース事件
(Smoldon v. Whitworth)
重大な傷害の判例に総じていえることだが、ス
体的には、15 人制ラグビーのルールを策定する
団体、国際ラグビーボード(IRB)によって、レ
フリーがスクラム形成のたびに「クラウチ(かが
んで)─ タッチ(プロップが相手に触れて)─
モルドン事件の状況も読むと非常に痛ましい気持
ポーズ(静止して)─ エンゲージ(組み合う)
」
ちになる。1991 年 10 月 19 日、当時 17 歳のベンジ
の手順を適用することが義務付けられていた。双
ャミン・スモルドン(Benjamin Smoldon)は、
方のフォワード同士が、可能な限り整然と安定し
サットン・コールドフィールド(Sutton Coldfield)
た形で組み合うようにするためである。原告側は、
の U-19 の一員として、 地元のライバルチーム、
レフリーがスクラムの組み方のルールを適用・執
バートン(Burton) との試合に出場した。 スモ
行しなかったために、許容しがたい回数のスクラ
ルドンが担当したポジションはフッカーである。
ム崩壊が起こり、結局それが自分の身体障害を引
この試合ではスクラムの違反行為が続けざまに起
き起こす原因になったと主張した。
こっていた。目撃者の証言からは、敵意むき出し
裁判の冒頭から第二被告は、運命の試合に出場
の選手たちによる殺伐とした試合の様子が生々し
したすべての選手に対し、自分が注意義務を負っ
く描写されており、レフリーは度重なる暴力的場
ていたことを事実として認めていた。そのため控
面に介入することを余儀なくされ、乱闘のため退
訴院は、このような注意義務に違反したと見なさ
場させられた選手はすでに2名に上っていた。
れる状況を明確に定義し、それに応じて適用され
荒々しい試合の雰囲気はスクラムにも反映され、
る責任の発生基準を線引きする必要に迫られた。
両チームのパックが互いに過剰な力でぶつかり合
この裁判で判決主文を読み上げたビンガム卿
うために、スクラムが崩れる頻度が異常に高かっ
(Load Bingham:首席判事)は、負傷した運動
た。
選手が審判の過失(negligence)ⅲ)を訴えるとい
試合の終盤でバートン側にスクラムが与えられ
う状況が、コモンローの世界ではどうやら前例が
た。フォワードの選手たちがうまく組み合えず、
ないという見解を示した。この判例が及ぼす潜在
スクラムが2回続けて崩れた。3回目にスクラム
的な影響という点で、控訴院が直面しているジレ
が組み直されたときも、双方のパックがきちんと
ンマについて、ビンガム卿は次のように雄弁に語
エンゲージできなかった。フォワードの選手たち
っている。
は押されて足が地面から浮き、スモルドンが身動
きできない状態に置かれた。彼が重傷を負ったの
[今回の]判決は、青春まっさかりの時期に自
は明らかだった。彼はその場ですぐ、腰から下の
立した活動的な生活の能力を奪われた原告にと
感覚がないと訴えた。病院に運び込まれた時点で
って、明らかに重大なものである。また、原告
重度の脊椎損傷が確認され、その結果、今も車椅
に有利な今回の判決によって、 何百万人もの
子の生活を余儀なくされている。
人々に喜びを与えている競技が、あって欲しく
数年後、スモルドンは損害賠償を求めて訴訟を
提起した。第一審で、レフリーのマイケル・ノー
ない法律上の骨折り仕事のために衰退するよう
な事態は、多くの人の懸念するところである 6)。
ラン(Michael Nolan:第二被告)が原告の負傷
に対し責任があるという判決が下された 5)。問題
この裁判では、出場者に対するレフリーの注意
深刻なスポーツ傷害に対するレフリーの責任:イギリスにおける展開
73
義務に違反した状況とはどのようなものであるか
った場合、限られた状況とはいえ、新しいカテゴ
という問題が争点となった。これについて第二被
リーとして審判が訴えられる可能性が生じる結果
告は、その数年前にウールドリッジ対サムナー事
となった。
件(Wooldridge v. Sumner) で明確化された基
控訴院は、スクラムに関連する審判の義務につ
準に基づいて、控訴院が責任の発生基準を明確に
いて、試合を停止してプレーヤーに対してコント
示すべきだと主張した。同事件の判決では、出場
ロール可能なときと、激しく動き回る実際の試合
者が観客に対して負う注意義務の基準が示されて
中(レフリーはプレーヤーをほとんど支配するこ
いたが、違反と見なされる基準は非常に高いもの
とができない)とで明確に区別した。試合が続行
であり、被告が他者の安全を故意に(intentional)
されている間、鍛えられた身体を持ち、勝つこと
ⅳ)
または無謀(reckless) により無視したことを、
しか眼中にないプレーヤー同士の激突によって生
原告側が証明してみせなければならないとしてい
じる事故を防ぐために、レフリーの立場でできる
た 8)。そのレフリーの主張は、訴訟の乱発から審
ことはほとんどない。このような状況で起こった
判を守るためには、これと同じくらい高い基準が
ことに対しレフリーが訴えられるとすれば、それ
7)
必要であり、発生基準を下げれば、審判を務めよ
は本来の意図がねじ曲げられた状況と言わざるを
うとするボランティアはいなくなってしまうとい
得ない。一方、試合が停止され、審判がどのような
うものだった。
選択肢があるかを考え、安全に関する注意事項を
控訴院はこの論法をしりぞけ、注意義務違反を
はっきりとプレーヤーに告げる時間があった場合、
判定するための適切な基準とは、次のようなもの
その状況でレフリーが明らかに怠慢(negligent)
であるという見解を示した。
であったなら、その事実は証明可能である。した
がって、その結果として起こった負傷に対する責
要求される注意のレベルとは、あらゆる〔個々
任を問うことは、それほど不当ではない。スクラ
の〕状況において適切なレベルであり、そして、
ムが正しくコントロールされていないときに脊椎
その状況が決定的に重要である。レフリーが任
損傷という大惨事が起こる可能性を考えれば、な
務を遂行する実際の事実関係の中で、十分な配
おさらである。
慮がなされなければならない。動きの速い活発
この判決は、さまざまなレベルのスポーツ関係
な競技という状況の中で、どのレフリーでも犯
者およびレフリーコミュニティに明らかな波紋を
す可能性のある判断ミス、見落とし、失敗に対
投げかけた。ただし、ここで線引きされた責任の
しては、レフリーの責任を問うことは正しくな
発生基準は、事実上きわめて高いものであったこ
い。責任の発生基準は高いものである。この発
とを忘れてはならない。また、幸いにも、このよ
生基準を超えるのは、決して容易なことではな
うなレフリーの職務怠慢はめったに見られるもの
い 。
ではなく、イギリスの裁判所が同じ種類の別の事
9)
件について考察するよう求められたのは、スモル
控訴院は、今回の状況でレフリーの責任を問う
ドン事件から5年ほど後のことだった。
のは妥当であるという見解を示し、ノーランがス
クラムを効果的にコントロールしなかったという
事実は、原告に対する注意義務違反に相当するも
のであり、この場合、発生基準を十分に超えてい
Ⅳ.バウェルズ対エバンス事件 (Vowles v. Evans)
たと裁定した。このようにして、スモルドン裁判
バウェルズ事件も、やはりフォワードのフロン
をきっかけに、スポーツの試合で負傷事故が起こ
トローが重傷を負った事故に関するものだった
74
松宮
が、スモルドンの場合とは状況がかなり違ってい
ランハランは重要なリーグポイントを失うこと
る。 当時 24 歳のプロボクサーであったリチャ ー
に神経を尖らせていたので、試合はそれ以降、フ
ド・バウェルズ(Richard Vowles)は、地元の
ランカーの1人だったクリストファー・ジョーン
チームであるランハラン(Llanharan:ウェール
ズ(Christopher Jones)がプロップを務めるこ
ズ南部の小さな町)の試合に時々出場していた。
とになった。ジョーンズは屈強な男だが、フロン
1995 年のワールドカップ以後、 ウェ ールズを含
トローでプレーした経験は数年前にほんの少しあ
むいくつかの国で 15 人制ラグビーがプロスポー
る程度で、問題の試合で要求されていた水準には
ツに昇格した。その当時、ランハランはウェール
まったく達していなかった。ジョーンズの懸命な
ズリーグの第二部に参加していた。第一部 XV の
努力にもかかわらず、彼がフロントローに入った
チームに所属するプレーヤーは全員がセミプロま
後は、ランハランのスクラムが目に見えて弱くな
たはプロであるが、バウェルズが所属していたの
り安定性を欠いていった。試合はそれ以降、スク
は完全にアマチュアのチームである第二部 XV だ
ラム崩壊が続発する結果となった。試合の勝敗を
った。1998 年1月 17 日、バウェルズは第二部 XV
分ける決定的な瞬間がおとずれ、トンドゥチーム
の試合でフロントローの交代要員に選ばれた。第
は必勝を期してスクラムに猛攻撃を加えた。この
一部 XV でフロントローに欠員が出たため、本来
ときもフォワードがきちんと組み合えなかったた
は第二部 XV のフッカーだった原告の兄弟が借り
め、スクラムが分かれるとバウェルズは崩れるよ
出されることになり、穴を埋める形でバウェルズ
うに地面に倒れこんだ。頚椎の脱臼による不完全
が先発メンバー入りした。
四股麻痺を発症していた。
対戦相手は隣町のトンドゥ(Tondu)であり、
スモルドンの場合と同様、バウェルズ事件でも、
試合は白熱した肉弾戦の様相を呈していたが、ス
第一審の判決で原告の負傷に対するレフリーの責
モルドンのときのような見苦しい小競り合いは起
任が認められたことを不服として控訴された(11)。
こっていなかった。天候が荒れ模様だったためフ
バウェルズ側は、レフリーがスクラムの安定性を
ォワードが試合を引っ張る形となり、このような
修復するための予防措置をとらず、自らの注意義
状況ではよくあることだが、スクラムが組まれる
務を適切に果たしていなかったと主張した。競技
回数が多かった。スクラム合戦は公平かつ安全に
規則3(12)には、プレーヤーがフロントローの
続けられていたが、ランハランのプロップの 1 人
ポジションを務める能力があると申告した場合、
がタックルで肩を負傷し、途中退場を余儀なくさ
レフリーは選手交代の提案についてチーム・キャ
れた。その結果、ランハランチームは二者択一を
プテンに問い合わせ、そのポジションに対するプ
迫られることになった。フロントローの交代要員
レーヤーの適性を確認する義務があると定められ
が、もともとバウェルズ1人しかいなかったから
ている 12)。問題の試合でレフリーを務めていたデ
である。ルール上、このような状況では、チーム
ビッド・エバンス(David Evans)は、ジョーン
は負傷したプレーヤーの代わりに「適切に訓練さ
ズのいささか頼りない「いちかばちか、やってみ
れ、経験を積んだ」10)別のプレーヤーを投入する
る」という申し出を受け、ジョーンズに対しても、
か、さもなければノンコンテストスクラム(通常
チーム・キャプテン(いずれにせよ彼はハーフバ
どおりスクラムを組むが、ボールの取り合いや押
ックのためフロントローでのプレーに関する知識
し合いなどの行為は禁止される)を選択しなけれ
に乏しかったが)に対しても、そのような確認を
ばならない。ノンコンテストスクラムを選択した
していない。
場合、そのチームが試合で獲得したポイントは無
効となる。
原告の主張によると、ジョーンズがこのポジシ
ョンに耐えうるかどうかを見きわめるための短い
深刻なスポーツ傷害に対するレフリーの責任:イギリスにおける展開
75
試用時間を設けたこと自体は、不適切とはいえな
施されるかどうかによって左右される。レフリ
い。ただし、合理的なレフリーなら、ジョーンズ
ーが果たすべき役割はルールの執行である。レ
がフロントローの厳しい攻防には適さないプレー
フリーがその任務を確実に遂行するところで
ヤーであるとすばやく見切りをつけ、自らの権限
は、その行動によってレフリーが相当の注意を
を行使して、試合は以降ノンコンテストスクラム
払っていることを、プレーヤーが信頼してしか
で行うよう指示していたはずである。ところが、
るべきであると考えるのは、明らかに正当かつ
スクラムがほとんど毎回のように崩れていたにも
妥当である。人がその作為または不作為によっ
かかわらず、エバンスはジョーンズがフロントロ
て、構造化された関係性の中で他者に対する物
ーのポジションでプレーし続けるのを 1 時間近く
理的な危害を引き起こす可能性が明白である場
も放置していたのである。レフリーがジョーンズ
合、法律によって注意義務が免除されることは
の能力不足は明らかであると認識し、スクラムに
きわめてまれである。ラグビーのレフリーは、
おけるプレーヤーの安全を確保するための対策を
プレーヤーに対して注意義務を負っている 13)。
講じなかったことは、責任の発生基準を超える、
重大な注意義務違反に相当すると原告側は主張し
た。
控訴院は、間に合わせのプロップという立場の
ジョーンズにプレーを続行させ、スクラムにおけ
2つの裁判は一見したところ類似性があるにも
るプレーヤーの安全確保に必要とされる措置を怠
かかわらず、両者の間にはいくつかの重要な相違
ったエバンスの行為が、レフリーに期待される妥
点があった。第一に、スモルドン事件の場合、注
当な水準に達していなかったと裁定した。この不
意義務が存在することをレフリーが最初から認め
作為は注意義務違反に相当するものであり、それ
ていたのに対し、バウェルズ事件の場合、そのよ
ゆえ被告は責任を問われるべきとした。事実認定
うな義務の存在に被告が異論を唱えた。第二に、
はこのようなものであったが、フィリップス卿は
スモルドン事件の場合、原告が事件当時未成年だ
スモルドン事件の判決にあった所感をそのまま繰
ったのに対し、バウェルズ事件の場合は成人のプ
り返して用い、動きの速いゲームという状況の中
レーヤーのチームで起こった事件である。そのた
で起こった判断ミス、見落とし、失敗については
め、少年の福祉の観点から高い注意基準が求めら
レフリーの責任を問うことはできない、
「責任の発
れたスモルドン事件の判決とは、バウェルズ事件
生基準は適度に高いものでなければならない」14)
は一線を画すべきだという議論がなされた。
と指摘した。
控訴院は、レフリーの責任を認めた第一審の判
バウェルズ事件で示された判断は、その前のス
決を支持し、被告の主張を断固として棄却した。
モルドン事件の判決から大きく逸脱するものでは
判 決 主 文 を 読 み 上 げ た フ ィ リ ッ プ ス 卿(Lord
なく、イギリス法におけるレフリーの立場を、か
Phillips:記録長官)は、試合をするのが成人か
なりの程度まで明確化した。バウェルズ事件の結
未成年者か、アマチュアかプロかを問わず、審判
審後、レフリーには出場者に対する注意義務があ
はプレーヤーに対する注意義務があるという明確
ること、とりわけ試合の停止時には安全に関わる
な見解を示した。
ルールを適切に執行する必要があることが明確に
された。レフリーがこれを怠った場合、その結果
ラグビーは本来、危険なスポーツである。一部
として出場者が負傷したことが示されれば、負傷
のルールは、この本来的な危険性を最小限にす
したプレーヤーは審判の過失(negligence)に対
る目的で制定されている。プレーヤーの安全が
し訴訟を提起することができる。
確保されるかどうかは、そのルールが正しく実
スモルドン事件とバウェルズ事件はどちらもス
76
松宮
クラムに関するものであり、このスポーツ特有の
の手法は今後、有効かつ説得力ある指針として、
高度に技術的なルールの適用が争点となった。し
この種の訴訟に枠組みを与える役割を果たす可能
かし、「試合の継続中」を別扱いとした控訴院に
性がある。
よる線引きは、プレーの流れの中で発生した事故
について、レフリーの責任を問う訴訟を、必ずし
も不可能にするわけではない。たとえばサッカー
Ⅴ.結 論
などの競技では、不適切なタイミングで実行され
スモルドン事件とバウェルズ事件の判決は、原
た(さらには悪質な)タックルによって、毎年多
告の主張が認められたことで、審判たちに対する
くのプレーヤーが脚に重傷を負っている。そのほ
同種の申し立てが堰を切ったように増えることを
かにホッケーでも危険なスティックの使い方によ
憂慮する各種の規則制定団体やレフリー団体か
って顔面に大怪我をする場合があり、状況は同様
ら、予想どおり非難の嵐をもって迎えられた。ど
である。
ちらの裁判もイギリス国内では大々的に報道され
両チームが殺気立った不穏な雰囲気の中で試合
たが、それに触発された訴訟が雪崩のように押し
が行われ、見苦しい小競り合いが続発しているに
寄せる見込みは薄く、実際にはこの種の裁判は今
もかかわらず、レフリーが自らの権限を行使して
後も稀であると予測される。激しいコンタクトス
それを防止する措置をとらなかったために、プレ
ポーツといっても重度の傷害はめったにあること
ーヤーが負傷した場合、そのプレーヤーは加害側
ではなく、このような負傷が審判の不注意によっ
のプレーヤーだけでなく、スモルドン事件やバウ
て起こるケースはさらに稀である。控訴院がレフ
ェルズ事件の場合と同じく、試合進行に対する適
リーの注意義務を認めたといっても、この義務に
切なコントロールを怠った審判を相手取って訴訟
違反したと見なされる基準が非常に的確に規定さ
を提起することができるという考え方は、これら
れているため、浅はかな訴訟意欲を減退させると
の判例以後、批判に耐えうるものとなった。この
ともに、最も勤勉なレフリーでさえ予防措置を実
ような命題が、理論上の可能性から現実の訴訟へ
施できないような状況で起こった事故に対する申
と発展するかどうかは、レフリーの責任放棄の程
し立ては、正当に却下されることになる。
度をはじめ、問題とされる事件における個々の事
運動選手がその全盛期で愛するスポーツの道を
実によって決まることになるが、興味深いテスト
閉ざされるのは確かに悲しいことだが、スポーツ
ケースになることは間違いない。
が訴訟という脅威に取り巻かれ、人質にとられる
15 人制ラグビーの人気が高く、 プレーヤー人
状況を想像すると、さらに寒々としたものがある。
口が多いため、問題の2つの裁判の原告と同じよ
この意味で、控訴院が示した手法は歓迎すべきも
うな負傷に苦しむ人の多いオーストラリアでは現
のである。なぜなら、原告の痛ましい損害を補償
在、レフリーを相手取った訴訟が係争中である。
すると同時に、最も指弾されるべきケースを別と
〔イギリスとオーストラリアという〕2つの裁判
して、訴訟というものの存在を競技場の片隅にし
管轄地では、不法行為法上の原則に関する議論の
っかりと追いやった点で、ビンガム卿の目的は達
交流が活発に行われてきた実績があるので、スモ
せられたからである。 責任に対するこのような
ルドン事件とバウェルズ事件の判例は、正しくオ
「独立当事者間主義」アプローチは、審判を務め
ーストラリアに輸出されるものと思われる。ニュ
ようとするボランティアの意欲を大きく損なうも
ージーランド、カナダ、アメリカなど、その他の
のではなく、それと同時に、危険なほど低水準な
コモンロー諸国で同様の訴訟が進められているか
レフリーが、結果として重大な事故を引き起こし
どうかについては確認できていないが、イギリス
た場合に適切な制裁措置が行われることを保証す
深刻なスポーツ傷害に対するレフリーの責任:イギリスにおける展開
る。この点で、スモルドン事件とバウェルズ事件
の判決は歓迎すべきものであり、同類の司法管轄
区域で規範となる優れたモデルを示している。
【訳注】
本稿で紹介する原典は、 マーケット大学ロースクー
ルのホームページ上に公開されている。
http://scholarship.law.marquette.edu/cgi/
viewcontent.cgi?article=1329&context=sportslaw
*
ⅰ)控訴院は、イギリスの司法組織における中間上訴
裁判所。わが国における高等裁判所に相当する。
ⅱ)コモンローは多義的な語であるが、ここでは、イ
ギリス・アメリカの判例を中心に形成された英米
法の体系全体をさす。
ⅲ)N egligence は英米法における不法行為としての過
失を意味する。その成立要件は、①相当の注意義務
(duty of due care)を負いながら、②その義務に
違反(breach of duty)し、③それが原因(causation)
となって、 ④損害(damage) が生じることであ
る。
ⅳ)英米法における reckless は、故意には至らないが、
通常の過失よりは非難性が大きく、我が国の「未
必の故意」及び「認識ある過失」に当たる。バウ
ェルズ事件の被告は、レフリーの責任の発生基準
が reckless 以上でなければならないと主張したの
である。
【原注】
1)Wooldridge v. Sumner,[1963]2 Q.B. 43(Eng.
C.A.):Wilks v. Cheltenham Home Guard Motor
Cycle and Light Car Club,[1971]1 W.L.R. 668
(Eng. C.A.).
2)C ondon v. Basi,[1985]1 W.L.R. 866(Eng.
C.A.).注意義務に関する見解の進展についての記
録は次を参照のこと。Vivien Pickford, Playing
Dangerous Games, 6 TORT L. REV. 221(1998)
.
3)[1997]P.I.Q.R. 133.
4)[2003]1 W.L.R. 1607. 詳しい記録は次を参照のこ
と。Richard Caddell & Ryan Morgan, Red Card
for the Welsh Rugby Union, 2 WALES L. J. 262
(2003).
5)Smolden,[1997]P.I.Q.R. at 133. 第一被告、つま
り相手チームのフロントローの選手に対する申し
立ては、第一審で免訴された。抗告審判では、こ
の判決に対する異議申し立てはなされなかった。
6)Id. at 134.
7)Wooldridge,[1963]2 Q.B. 43.
77
8)この基準は、セラー判事が次のように公式化した。
「その行為が、そこにいると分かっている人を意図
的に傷つけようと行なわれたか、あるいは無謀な
行動で他者の安全を無視した結果、競技や試合を
続行するすべての人に当然のこととして要求され
る基準から逸脱した場合、その行為者は自分の行
為が原因となったいかなる傷害に対しても責任を
負う。」Wooldridge,[1963]2 Q.B. at 57.
9)Smolden,[1997]P.I.Q.R. at 139.
10)I NTERNATIONAL RUGBY BOARD, Law 3
(12),at http://www.irb.com/NR/rdonlyres/
AlF47EAA-EBD7-43F9-BD4F-64DC7368A6C2/0/
Law3.pdf(最終検索 2005 年 3 月 8 日)。練習を通
して、バックローのフォワードの多くは、フロン
トローのフォワード(またはフロントローのフォ
ワードがバックローのフォワード)を経験するの
で、本件のような状況が生じたときのように、ど
のチームにも技量と訓練のバランスが取れたフラ
ンカーが少なくとも一人はいる。
11)Vowels,[2003]1 W.L.R. at 1607. ウェールズのス
ポーツ管理団体であるウェールズラグビーユニオ
ン は、 公 式 戦 で の 怠 慢 な レ フ リ ー(negligent
refereeing) に 対 す る 代 位 責 任( 使 用 者 責 任:
vicariously liable)を問われた。
12)INTERNATIONAL RUGBY BOARD, supra, note
10.
13)Vowels,[2003]1 W.L.R. at 1617-18.
14)Id. at 1618.
79
書 評
生涯スポーツの心理学
―生涯発達の視点から見たスポーツの世界―
The Psychology of Lifelong Sports
―The world of sports in terms of lifelong development―
羽田 碧 *,窪田 辰政 *, **,森脇 保彦 ***
Midori HANEDA*,Tatsumasa KUBOTA** and Yasuhiko MORIWAKI***
生涯にわたってスポーツを行うことの重要性を
齢とされている青年や成人であった。そのため、
初めて指摘した人物は、古代ギリシャの哲学者の
ほかの世代は青年・成人期で得られた知見を応用
プラトンであるといわれる。 それから 2000 年以
することで対応してきた。だが、人間は年を取る
上経過した現在、生涯スポーツの重要性が広く知
とともに肉体的にも精神的にも大きく変化する。
れ渡るようになり、多くの人が一生涯にわたって
それに応じて、スポーツの持つ意味や価値はその
スポーツを楽しんでいる。
ときどきで大きく異なっていく。そのため、発達
なぜスポーツは幅広い年代に受け入れられてい
段階に応じたスポーツ心理学が求められていた。
くのであろうか。そしてどうして人はそんなにも
本書は、生涯発達の視点からスポーツ心理学が取
長い間スポーツを続けられるのだろうか。それは、
り上げられている初めての本として画期的な存在
スポーツが肉体的にも、精神的にも充足感を与え
である。
るからではないか。スポーツをすることは体力の
発達段階に応じたスポーツ心理学を最も求めて
向上、生活習慣病の予防といった、身体に良い効
いたのは指導者であろう。本書は特に指導者に向
果をもたらす。また体を動かすことで、爽快感や
けた本として最適である。構成は四部に分かれて
達成感を得ることができ、メンタルヘルスが保た
おり、Ⅰ部序説、Ⅱ部乳幼児・児童期、Ⅲ部青年・
れる。このようなスポーツの特性が人々をスポー
成人期、Ⅳ部中・高年期というように発達段階に
ツへと駆り立てるのだろう。そしてスポーツを語
よって書かれてある。この構成は特定の世代のみ
る上で看過できないのは、スポーツの汎用性であ
指導する指導者のみならず、様々な世代を教える
る。特にスポーツ心理学は日常生活の精神活動に
指導者にもとても分かりやすいものとなってい
も生かしうるという可能性を持っている。つまり
る。内容についての特徴は今までの指導法の問題
本書はすべての世代の人の心の支えとなりえるの
点であったスポーツ根性論に見られるような非科
ではないか。
学的で、いたずらに身体に負荷を掛けるような指
しかし大いなる可能性を持つはずのスポーツ心
導法を一切排している点である。本書では利にか
理学の対象の多くは、今まで競技スポーツの適年
なった指導法に終始しており、一見難しそうな科
* 筑波大学(University of Tsukuba)
** 静岡産業大学(Shizuoka Sangyo University)
*** 国士舘大学(Kokushikan University)
80
羽田・窪田・森脇
学的な手法もグラフや図が豊富であることで理解
しやすくなっている。
生涯スポーツという考えが広まり、幅広い年代
の人々がスポーツを行なっている。いかにしてそ
の個々人の年齢に合った指導をするか指導者にと
って大きな命題となっているであろう。スポーツ
指導に関わるあらゆる指導者にとって本書は生涯
スポーツの心理学の拠り所となるだろう。また生
涯スポーツをどのように楽しむのかについて多く
の情報がちりばめられている。指導者のみならず
スポーツに関わる全ての人々にとってなくてはな
らない一冊となるに違いない。
81
書 評
野村再生工場
―叱り方、褒め方、教え方―
“Nomura Saisei Koujo”
(Nomura Recycling Plant)
―How to scold, praise, and teach―
伊藤 公俊 *,窪田 辰政 *,森脇 保彦 **
Masatoshi ITO*,Tatsumasa KUBOTA* and Yasuhiko MORIWAKI**
は、著者自身が通ってきた野球の道を題材に展開
野村再生工場
―叱り方、褒め方、教え方―
されていくが、人格形成や人間教育といった著者
“Nomura Saisei Koujo”(Nomura Recycling
Plant)―How to scold, praise, and teach―
ない。随所に「組織」や「上司」といった表現も
角川書店
Kadokawa Shoten Publishing Co., Ltd.
野村克也 著
NOMURA, Katsuya
の理論の及ぶ範囲は、野球やスポーツにとどまら
散りばめられており、あらゆる教育現場やビジネ
スシーンにも活用できることは間違いない。
再生は、選手に失った自信を取り戻させること
から始まる。著者は、「失敗」と書いて「せいち
ょう」と読むと言う。そしてその失敗が成長に結
びつくためには、結果ではなく過程が非常に重要
なのだ。よく考え、十分に備えた上での失敗は、
「自分の力はこんなものです…」。伸び悩み、自
必ず次に活かすことができる。そのために指導者
分の能力に限界を感じて挫折を味わう人間は少な
は、予め選手に意識付けをしておく必要がある。
くない。そんな人間が自信を獲得し、能力を伸ば
その、目の覚めるような方法の詳細は本書に譲る
していくことを著者は再生と呼ぶ。世間からはも
こととする。指導者が再生を試みる上で最も大切
はやピークを過ぎたと思われた野球選手たちを
なことは、闇雲に選手の尻を叩くことではない。
次々と再生させてきた著者には、いつしか野村再
選手を徹底的に観察し、選手自身に「気づかせる」
生工場の異名がついていた。自信を失った選手、
こと、つまりやる気にさせることなのである。選
向上心を持てず負け犬根性が染み付いたチーム、
手自身が「復活してやる!」と強く思わない限り、
そんな弱者を再生させていった経験を、本書では
指導者が意気込んだところで再生は望めない。著
指導者の目線で語っている。各所における「指導
者は、多くの指導者が陥りやすい誤った指導法を
者は…」、「指導者たる者…」との書き出しが、指
事例として取り上げつつ、指導者の能力如何で選
導者のあり方というものを強く示している。本書
手の人生は良くも悪くも大きく変わってしまう、
* 静岡産業大学(Shizuoka Sangyo University)
** 国士舘大学(Kokushikan University)
82
伊藤・窪田・森脇
との苦言も呈している。
以上に述べてきたように、著者は野球の技術よ
りも、選手の人間的な成長に重きを置いている。
それは自身に「人間的成長なくして技術的成長な
し」という信条があるためである。選手が十人十
色なら、選手を伸ばすためのアプローチも十人十
色である。そのために指導者には、先入観や固定
観念の一切を排して選手を観察し、よく「気づく」
能力が必要なのである。 そしてそこからさらに
各々に適切なアプローチをもって「気づかせる」
ことが求められる。選手をよく観察する、一見し
て簡単なことでありながら、ほとんどの指導者が
おろそかにしがちな部分である。「気づかせる」
ための方法を説く指導書は多いが、「気づく」こ
との重要性を説く指導書は数少ない。再生の極意
はまさに「気づき」にある。
「自分の力はこんなものです…」。そうして下を
向いていた人間が、目を輝かせて活躍するように
なれば、まさに指導者冥利に尽きるのではないだ
ろうか。選手のレベルアップを促す多くの技術書
とは異なり、本書は指導者のスキルアップを喚起
する新しい技術書である。自身の指導法に疑問を
持つ指導者。成績の伸び悩む生徒を支援したい教
師。そんな方々にぜひ一読していただきたい一冊
である。
83
体育・スポーツ科学学会活動報告(2011 年度)
公開講演会
「子どもを叱れない大人たちへ」
講 師:桂 才賀氏(落語家)
実施日:平成 23 年 12 月 10 日(土)
84
公開講演会&シンポジウム
「東日本大震災からの復興・復旧 ~明日をあきらめない~」
●実施日:平成 23 年 12 月 13 日(火)
●会 場:パルテノン多摩大ホール
第1部 講演会
「東日本大震災からの復興・復旧
~今、私たちにできること~」
C. W. ニコル氏
(ウェ ールズ生まれの日本の作家、 ナチュラ
リスト)
第2部 シンポジウム
「震災復興と地域防災における
大学の役割」
コーディネーター:
永吉 英記(国士舘大学体育学部)
シンポジスト:
阿部 由紀(石巻市社会福祉協議会・
石巻災害ボランティア
センター)
中村 満(多 摩市社会福祉協議会
常務理事兼事務局長)
85
平成 23 年度 国士舘大学体育学部 体育・スポーツ科学学会 講演会
夢をあきらめない
Change
●実施日:2012 年 1 月 21 日(土)
●会 場:国士舘大学多摩キャンパス
201 教室
■講師
小川 修二
(千葉県立袖ヶ浦高等学校 体育科教諭 男子新体操部顧問、千葉県高体連体操
専門部副委員長、千葉県体操協会副理
事長)
■講師
初瀬 勇輔
(広州アジアパラ金メダリスト)
小川 修二
初瀬 勇輔
投稿規定
87
投稿規程
投稿方法
本誌への投稿は本学会評議員(正会員)の推薦を通じてなされるものとする。本学会評議員が著者及び共
同研究者の場合はその限りではない。また、推薦にあたり当該評議員は投稿原稿の内容について責任を負
うものとする。本学会からの依頼原稿についてはこの限りではない。
投稿種別
投稿論文の種別は、総説、研究、実践、資料、書評、調査、解析、問題提起等とし、その内容は体育・
スポーツ科学分野での具体的・発展的展望を明確にしたもので、かつ未発表のものに限る。
原稿の採否・掲載の時期
推薦者・査読者等の意見等に基づき編集委員会の判断により不採用、或いは大幅な修正を求める場合があ
る。採用された原稿は可能な限り至近の学会誌に掲載されるが、編集上の都合等により次回以降となる場
合がある。
原稿提出の条件と原稿枚数
1.原稿は原則としてパソコンまたはワープロを用いて作成し、A4 版横書き、1ページ 40 字 20 行とし、
上下左右に 2.5cm 以上の余白を置く事とする。
2.提出する原稿は、オリジナル1部とコピー1部の合計2部とし、標準の書式(Windows 上の Word か
一太郎で読み取り可能な形式)で記録された CD、フロッピーディスクを添付する事とする。
3.原稿の枚数に制限は置かないが、刷り上り10 枚以内が望ましい(800 字×20 枚程度)
。刷り上りの枚数
が 10 枚を超える場合及び、カラー印刷、写真等の特別な印刷を要する場合にはその費用の実費を請求
する事がある。
原稿の体裁
1.原稿は日本語又は英語を原則とする。
2.原稿には種別(総説、研究など)
、和文及び英文にて標題、著者名、所属機関名を明記する。
3.本文は読み易さを考慮し適宜見出しを入れる。
(例:Ⅲ.結果 1.飛距離 (1)中学男子)
4.単位などは標準的な表現を用いる。特殊な専門用語などは十分な説明を加える。
5.英語(外国語)の原稿には必ず日本語の抄録を付するものとする。また、日本の原稿にも原則的に英
語の抄録を付する。
6.図表、写真は1枚ずつ A4 の紙に貼付し、それぞれ裏に通し番号と著者名を記入し、本文とは別に番
号順に一括する。本文への挿入箇所は、原稿の欄外に赤で記入した番号により指示する。
7.参考文献
参考文献は本文の末尾に通し番号をつけて一括する。
雑誌は著者名、論文題名、雑誌名、巻号、頁、発行年の順に記載する。
単行本は著者名、書名、
(引用頁、
)出版社名、発行年の順とする。
88
投稿規定
本文中の引用箇所には右肩に 1)
、2)のように該当する文献番号をつける。
著者校正
著者校正は原則2回とする。
別刷り
別刷りは論文1編につき30 部とする。これ以上必要な場合は自己負担とする。
原稿送付の方法
原稿は評議員の推薦状を添えて体育・スポーツ科学学会事務局(多摩市永山 7-3-1 国士舘大学体育学部内)
まで送付する事。
評議員推薦状(様式見本)
私は体育・スポーツ科学学会の評議員として、本論文(題名: 著者名: 他)
を推薦し、編集委員会にこの論文の掲載の審査を求めます。
評議員名: 印
ただし、体育・スポーツ科学学会の評議員が論文の著者及び共著者の場合は不要とする。
会則
89
体育・スポーツ科学学会会則
第1章 総 則
(名称)
第1条 本会は、国士舘大学体育・スポーツ科学学会と称する。
第2章 目的及び事業
(目的)
第2条 本会は、学生及び教員の体育・スポーツに関する科学的研究ならびにその連絡共同を促進し、体
育・スポーツ科学の発展をはかり、さらに体育・スポーツの実践に資する事を目的とする。
第3条 本会は、前条の目的を達成するため次の事業を行う。
(1)研究会、講演会等の開催
(2)機関誌「国士舘大学体育・スポーツ科学研究」の刊行ならびにその他の出版
(3)会員の研究に資する情報の収集と公開
(4)学際的研究及び国際交流事業の推進
(5)他研究組織との共同事業
(6)その他本会の目的達成に必要と認める事業
第3章 会 員
(種別)
第4条 本会の会員は次の通りとする。
(1)正会員:本学体育学部専任教員及び大学院スポーツ・システム研究科助手ならびに体育学部研
究助手
(2)準会員:原則として (1) 以外の大学専任の体育担当教員、体育関係の非常勤講師及び本学部の卒
業生で本会の趣旨に賛同し、入会を希望するもので且つ正会員の推薦により、理事会
において承認された者
(3)学生会員:本学体育学部学生及び大学院スポーツ・システム研究科大学院生
(4)特別会員:本会の目的に賛同する他大学及び外国人研究者で、正会員の推薦により理事会にお
いて承認された者
(5)賛助会員:本会の事業を援助する個人及び法人で、理事会において承認された者
(会費)
第5条 本会は次に示す会費を納入しなければならない。
(1)正会員:年額 5,000 円
(2)準会員:年額 5,000 円
(3)学生会員:年額 5,000 円
(4)賛助会員:年額1口(2 万円)以上
2.特別会員は、会費を納めることを要しない。
90
会則
3.既納の会費は、いかなる事由があっても返還しない。
(会費納入の方法)
第6条 会費の納入について、正会員、準会員及び賛助会員は別途定める。
2.学生会員は年度始めに法人を通じて当該年度の諸費の一部として納めるものとする。
(会員の特典)
第7条 本会員は本会の行うあらゆる事業に参加することができる。また、本会の機関誌その他研究情報
に関する刊行物等への投稿及びその配布を受けることができる。
第4章 役 員
(役員)
第8条 本会に次の各員をおく。
(1)会 長 1名
(2)副会長 1名
(3)理事長 1名
(4)理 事 10名
(5)評議員 80名以内
(6)監 事 2名
(役員の専任)
第9条 会長は本学体育学部長がこれにあたる。
2.副会長は評議員の互選により選出し、会長が委嘱する。
3.評議員は正会員がこれにあたり、理事は評議員の互選により会長が委嘱する。
4.理事長は理事会の互選により評議員の互選により選出し、会長が委嘱する。
5.監事名は評議員会において評議員の互選により選出し、会長が委嘱する。
(役員の任務)
第10条 会長は本会を代表し、会務を統括する。
2.副会長は会長を補佐、会長事故ある時はこれを代行する。
3.理事長は会長、副会長を補佐するとともに事業計画、収支予算及び収支決算を作成し、その他の
会務を処理する。
4.理事は理事会を構成するとともに会務を分担し、本会運営の責にあたる。
5.評議員は評議員会を構成し、重要なる会務を決議する。
6.監事は本会の業務及び会計の監査にあたる。
(役員の任期)
第11条 本会の役員の任期は 2 年間とし、再任を妨げない。
2.役員を交代する場合、後任者の任期は前任者の残余期間とする。
会則
91
3.役員はその任期満了後でも後任者が就任するまでは、その会務を行う。
第5章 会 議
(会議の種類)
第 12 条 本会の会議は、評議員及び理事会とする。
(評議員会)
第 13 条 評議員会は本会の最高議決機関であり、本会則第8条に掲げる役員をもって構成し、会長がこれ
を招集する。
2.評議員会は年1回定例会を開く。ただし、会長が必要と認めた場合には理事会の議を経て臨時に
評議員会を招集することができる。
3.臨時評議員会は理事会が必要と認めたとき、ならびに評議員総数の3分の1から会議の目的及び
付議すべき事項を示して招集の請求があったときは、会長は遅滞なくこれを招集しなければならな
い。
4.議長は会長またはその指名した者があたる。
5.評議員会付議事項
①本会の基本方針に関する事項
②事業報告及び収支決算に関する事項
③事業計画及び収支予算に関する事項
④役員の選出決定に関する事項
⑤会則等の制定並びに改廃に関する事項
⑥その他必要と認める事項
(理事会)
第 14 条 理事会は会長・副会長・理事長・理事をもって構成し、会長の承認を得、必要に応じて理事会が
招集する。
2.議長は理事長または理事長指名の者があたる。
3.理事会付議事項。
①評議員会の議決に基づく企画・立案・運営に関する事項
②評議員会に付議すべき事項
③その他必要と認める事項
(会議の成立及び会則の改正)
第 15 条 本会の各議会(評議員会、理事会を指す。以下同じ)は役員総数の過半数(委任状を含む)の出
席者をもって成立し、議事は出席者(委任状を含む)の過半数をもって決する。可否同時の時は議
長の決するところとする。但し、会則の改正については評議員会における出席者(委任状を含む)
の3分の2以上の承認を必要とする。
92
会則
(議事録)
第 16 条 各会議において議事録を作成し、事務局がこれを保管しなければならない。
第6章 事務局
(事務局)
第 17 条 事務局は体育学内に設ける。
第 18 条 本会の会務を補佐するために事務職員をおくことができる。
第7章 編集委員会
(委員会)
第 19 条 本会の事業のうち機関誌の編集を行うために、編集委員会をおく。
2.編集委員会は理事長が兼務し、編集委員は理事会において若干名を選出する。
第8章 会 計
第 20 条 本会の経費は次の収入をもってこれにあてる。
①本会の会費
②事業収入
③賛助金及び寄付金
2.本会の会計年度は毎年4月1日より始まり翌年の3月末日までとする。
第9章 雑 則
(施行細則)
第 21 条 本会則の施行について必要な事項は別に定める。
附 則
1.本会則は平成5年4月1日より施行する。
2.本会則の施行により「国士舘大学体育学会会則」は廃止する。
3.事務局の運営は当分の間理事会がこれにあたる。
4.本会則は平成 15 年5月15日より施行する。
編 集 後 記
2011 年(平成 23 年)3月 11 日 14 時 46 分に日本の太平洋三陸沖を震源とした東北地方太平洋沖地震が
発生した。東北から関東にかけての東日本一帯に甚大な被害をもたらした。特に、明治三陸地震(1896
年)の津波を上回る最大溯上高 40.0m(岩手県大船渡市)を記録するなど、震源域に近い東北地方の太
平洋岸では、高い津波により甚大な被害をもたらした。この地震による死者・行方不明者計約2万人に
および、大学施設にも大きな被害が及んだ。また、発電施設被害により関東周辺においても計画停電、
節電対策が余儀無くされた。そして、福島第一原子力発電所事故が発生し、放射性物質漏れによる汚染
が起き、成長期の子供達が集う教育現場での対応が急務となった。そこで、特に今回は、国士舘大学体
育学部スポーツ医科学科を中心として、現場のボランティアを先導していただいた中山友紀先生に総説
として「災害とその対処」と称して寄稿していただいた。また、文部科学省では、平成 20 年3月 28 日に
中学校学習指導要領の改訂を告示し、新学習指導要領では中学校保健体育において、武道・ダンスを含
めたすべての領域を必修とすることを決定した。そこで、柔道研究の専門家である森脇保彦先生を中心
に「柔道の受け身に対する意識の国際的比較」を発表していただいた。特に、柔道の受け身動作は、転
倒時にも役立ち、体のこなしの基本となり、大怪我の予防につながることから、重要な学習課題である
と考えられる。次に、本研究誌としては、初めて「書評」を3題取り上げることができた。どの書評も
体育・スポーツ科学にとって重要であると思われた。最後に、2011 年度に体育・スポーツ科学学会の活
動報告として、12 月 10 日に行った桂才賀氏の講演、12 月 13 日パルテノン多摩で行われた C.W. ニコル氏
の講演、
「夢をあきらめない」と題し 2012 年 1 月 21 日に行われた小川修二氏、初瀬勇輔氏のプログラムを
添付させていただいた。第 12 号は、
「総説」1題、
「研究」論文6題、
「書評」3題を得ることができた。
本誌をきっかけに十分な論議を交わし、研究の発展に努めて頂ければ幸いである。
(A.S)
編 集 委 員
渡 辺 剛(会長)
青 山 利 春(副会長)
川 田 儀 博(理事長)
氏 家 道 男(監事)
池 田 延 行(監事)
岡 田 雅 次
須 藤 明 治
山 内 直 人
吉 岡 耕 一
中 山 友 紀
田 原 淳 子
三小田 美稲子
森 脇 保 彦
永 吉 英 記
体育・スポーツ科学研究 第 12 号
発行日 2012 年3月1日
発行人 国士舘大学体育・スポーツ科学学会
〒 206-8515 東京都多摩市永山 7-3-1
国士舘大学体育学部内
TEL 042-339-7200
FAX 042-339-7238
印刷所 株式会社リョーワ印刷
TEL 03-3378-4180
CONTENTS
Review paper
Disaster Management
Yuuki NAKAYAMA………………………………………………………………………………… 1
Study
An Examination of the Attitude Survey Concerning the Judo Ukemi
─A Study of Participants in the Kokushikai Judo Camp USA─
Yasuhiko MORIWAKI,Takeshi NAKAJIMA and Chikara TANAKA………………… 13
Psychological support for Japanese high school archers
─For a positive self-image and mental stability─
Yutaka YAMAGUCHI,Tatsumasa KUBOTA
Yukine AIHARA and Yasuhiko MORIWAKI………………………………………………… 23
Stress management focusing on self-image for athletes: A case study
Toshiko UEDA,Tatsumasa KUBOTA
Yasuhiko MORIWAKI and Tsunetsugu MUNAKATA… ………………………………… 31
An Attempt at Stress Management Education for University Students Utilizing
a Self-counseling Sheet
Tatsumasa KUBOTA,Kentaro KASHI,Yutaka YAMAGUCHI
Yoshikazu NOMURA,Kunio NANBA,Kentaro TAZAKI
Yasuhiko MORIWAKI and Tsunetsugu MUNAKATA… ………………………………… 39
Psychological Support for High School Tennis Club Students in Preparation for a Tennis Match
Tatsumasa KUBOTA,Yutaka YAMAGUCHI,Midori HANEDA
Moe HANEDA,Daisuke MITSUHASHI
Yukio YAMADA and Yasuhiko MORIWAKI… …………………………………………… 49
The Relationship Between the Swimming Velocity Japanese Top Junior Swimmers and
Their Muscle Mass According to Growth Development
Akiharu SUDO… …………………………………………………………………………………… 57
Review
The Referee’s Liability for Catastrophic Sports Injuries:A UK Perspective
Tomoki MATSUMIYA… ………………………………………………………………………… 69
The Psychology of Lifelong Sports ─The world of sports in terms of lifelong development─
Midori HANEDA,Tatsumasa KUBOTA and Yasuhiko MORIWAKI… ………………… 79
“Nomura Saisei Koujo”
(Nomura Recycling Plant)
─ How to scold, praise, and teach ─
Masatoshi ITO,Tatsumasa KUBOTA and Yasuhiko MORIWAKI……………………… 81
Programme Overview of the Kokushikan Society of Sport Science, 2011… ………………………… 83
Instruction to Authors/Regulations of Kokushikan Society of Sport Science… …………………… 87
ISSN 1880−9316
【総 説】
災害とその対処
中山 友紀 ……………………………………………………………………………… 1
2012年 第
目 次
体育・スポーツ科学研究
2012
体育・スポーツ科学研究
2012 年 第 12 号
12
号
【研 究】
柔道の受け身に対する意識調査の一考察
─Kokushikai Judo Camp(USA)参加メンバーを対象に─
森脇 保彦,中島 たけし,田中 力 ……………………………………………… 13
高校弓道部員への心理支援について
─前向きな自己イメージと精神的安定のために─
山口 豊,窪田 辰政,相原 幸音,森脇 保彦 ………………………………… 23
自己イメージに焦点を当てたストレスマネジメントに関する事例検討
─スポーツ競技者を対象として─
上田 敏子,窪田 辰政,森脇 保彦,宗像 恒次 ……………………………… 31
自己カウンセリングシートを活用した大学生のためのストレスマネジメント教育の試み
窪田 辰政,樫 健太郎,山口 豊,野村 良和
難波 邦雄,田崎 健太郎,森脇 保彦,宗像 恒次 …………………………… 39
試合に向けての高校テニス部員への心理支援
窪田 辰政,山口 豊,羽田 碧,羽田 萌
三橋 大輔,山田 幸雄,森脇 保彦 ……………………………………………… 49
【書 評】
深刻なスポーツ傷害に対するレフリーの責任:イギリスにおける展開
松宮 智生 ……………………………………………………………………………… 69
生涯スポーツの心理学
─生涯発達の視点から見たスポーツの世界─
羽田 碧,窪田 辰政,森脇 保彦 ………………………………………………… 79
野村再生工場
─叱り方、褒め方、教え方─
伊藤 公俊,窪田 辰政,森脇 保彦 ……………………………………………… 81
体育・スポーツ科学学会活動報告(2011)…………………………………………………… 83
投稿規程/体育・スポーツ科学学会会則
…………………………………………………… 87
FACULTY OF PHYSICAL EDUCATION KOKUSHIKAN UNIVERSITY
国士舘大学 体育・スポーツ科学学会
ジュニア競泳選手の泳速度と筋量の関係
須藤 明治 ……………………………………………………………………………… 57
国士舘大学 体育・スポーツ科学学会