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木岡信治*
Shinji KIOKA、
山本泰司**
菅原健司***
Yasuji YAMAMOTO and Kenji SUGAWARA
冬期の北海道北東部沿岸域などの流氷域での津波の発生の可能性、 ならびに近年の流氷量あるいは
密接度の減少に伴う流氷運動の高速化が憂慮され、 海氷の構造物への衝突力推定法の構築が重要かつ
急務である。
本報では、 自由落下による海氷衝突実験、 ならびにその数値計算手法について述べた。 海氷の衝突
力は、 運動エネルギ−とともに増加するが、 ある程度運動エネルギ−が大きくなると一定値になるこ
と、 また運動エネルギ−は、 主に海氷の破壊・側方への飛散などに消費される割合が大きいことが推
察された。 また、 衝突力は氷温の低下にともなって直線的に増加し、 準静的に得られる一軸圧縮強度
の氷温依存性よりも大きく、 温度の低下に比例するとした引張に基づく力の氷温依存性と同等程度で
あった。 これにより、 比較的小規模な氷塊については、 引張による破壊が卓越し、 Saekiら10) に基づ
く引張応力に関連づけた衝突力の概略推定が可能であることが分かった。 また、 衝突力は、 運動エネ
ルギ−の変化 (特に質量) よりも氷温依存性の方が大きいことも推察された。 これは、 ある程度氷塊
が大きくなると、 その寸法に依存しないような有限の (引張) クラック長や、 構造物規模できまる
(圧縮) 破壊領域に支配されていることを示唆しているとも考えられる。 また、 適切なパラメータ設
定が実現できれば、 個別要素法により、 海氷の破壊挙動とその構造物応答などが良好に再現できるこ
とが分かった。
《キーワード:海氷;津波;衝突;個別要素法》
This paper reports on the results of a medium-scale model test regarding the impact of ice on a
structure by the free-fall of an ice floe under various conditions and its numerical simulation using the
discrete element method [DEM]. Although the impact load increased with the kinetic energy of the
ice floe, it was presumed to approach a constant value when the energy reached a certain level. The
impact load increased linearly with decreasing ice temperature; accordingly, it was presumed that the
effect of ice temperature on the impact load was larger than that on compressive strength. However,
the effect of temperature on the impact load was assumed to be in roughly the same order as that on
tensile strength obtained by Saeki et al. (1978), which also increased linearly with decreasing ice
temperature. We also developed a fundamental numerical method to simulate the impact of ice on a
structure. In this method, DEM with tension resistance among particles and FEM were applied to sea
ice and a structure respectively. The simulation results showed a close correlation with the experimental
results in terms of the time series change of impact loads and the failure modes of ice floes.
《
寒地土木研究所
:Sea ice, Tsunami, Impact, DEM》
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筆者等は、 こうした背景を踏まえ、 主に津波による
冬期の北海道北東部沿岸域などの流氷域に津波が発
流氷・結氷盤の挙動およびその陸への遡上域の推定、
生すれば、 大きな被害を及ぼす可能性がある。 事実、
遡上氷による構造物への衝突力の推定法、 さらには流
1952年3月、 十勝沖地震で発生した津波により流氷が
氷・結氷盤の影響を考慮したハザードマップ作成の要
遡上し、 写真-1に示すように、 家屋が損壊した例も報
素技術の確立を目標とした研究に着手している。 本稿
告されている。 また、 流氷期ではなかったものの、
ではその要素研究の一つ、 海氷の構造物への衝突時の
2006年、 2007年に千島沖で発生した地震により、 オホー
力学特性について述べる。 過去に早川ら3) が、 海水の
ツク海でも数10cmの津波が観測された。 これを契機
結氷盤を利用した自由落下方式による衝突実験を実施
としてオホーツク海に面した自治体でもハザードマッ
し、 海氷の破壊機構等を明らかにしている。 本研究で
プを整備するに至った。 また、 近年の流氷量あるいは
は、 低温室で同様な実験を実施し、 さらに破壊強度に
密接度の減少に伴い、 個々の流氷が波浪によって活発
大きく影響する氷温を制御するとともに、 構造物 (杭)
に運動しやすい状態となり、 高速で構造物に衝突する
の剛性をやや小さくし、 構造物応答も考慮できるもの
頻度が増加することも考えられる。 過去に、 網走港南
とした。 そこで海氷のもつ運動エネルギ−と衝突力と
防波堤で、 流氷接岸時の大時化で多量の海氷が越波と
の関係や、 氷温の変化が衝突力へ与える影響などにつ
ともに防波堤を越える越氷現象により、 パラペット背
いて考察した。 また、 衝突時の海氷の破壊挙動の数値
後のパイプラインやドルフィン等が破壊したほか、 上
計算手法についても検討した。
架中の漁船等にも被害を与えている。 このことから、
港湾・海岸付近の重要構造物、 その防護構造物、 それ
に津波避難設備などの設計には流氷による衝突も考慮
前述のように、 過去に早川ら3) が、 野外にて海水の
する必要があるが、 その研究例は少ない。 釧路港では、
結氷盤を利用した自由落下方式による衝突実験を実施
津波漂流物を止める目的で金属製支柱とワイヤロープ
し、 様々な寸法 (幅1.5m、
からなる防護柵 (津波スクリーン) が一部完成してい
の直方体の海氷を衝突速度が7∼9m/sとなるよう所定
る。 これまでに木材やコンテナなどの津波漂流物に関
の高さから落下させ、 直径100mmおよび200mmの鋼
1) 2) など
厚さ0.2m、
長さ1∼2m)
があるが、 流氷の場合には、 その
製円断面杭 (両端支持、 支間長0.6m) の比較的剛な
量が半無限であること、 また、 衝突時に脆性的破壊が
構造物へ衝突させている。 本実験は、 規模ではやや劣
生じる場合が多いことが特徴的といえる。
るが、 低温室で同様な実験を実施した。 なお、 破壊強
する研究事例
度に大きく影響する氷温を制御するとともに、 構造物
の剛性をやや小さくして構造物応答も考慮できるとこ
ろに本実験の特徴がある。
に示すように、 衝突実験は自由落下方式によ
り、 人工海氷を落下高h=0.5m∼1.5m(衝突速度V0は
3.1∼5.4m/s)と変化させて、 円断面杭構造物 (梁) へ
衝突させることにより行った。 海氷の力学特性は一般
的には異方性をもつが、 海氷の衝突の向きとしては、
実際に頻度が多いと思われる氷の成長方向に垂直とし
た。 設定した落下高 (衝突速度) は実験装置の制約に
よるものであるが、 越氷であれば実際の速度 (波の周
期により異なるが、 例えば、 辺長4mの氷盤では1∼
8m/sと推定されている)4) に比べて決して小さくはな
いし、 津波の遡上流速よりも通常小さいと考えられる
海氷の漂流速度に対しても決して小さくないと考えら
れる。 人工海氷 (供試体) は、 低温室にて25‰の塩水
を凍らせ、 約25kg∼100kgの質量(M)となるよう直方
体に整形した (厚さtを約0.15mと一定)。 塩水を満た
す容器は、 実際の海氷の成長過程を再現するため、 成
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長方向を主に鉛直方向に限定し、 側部・底部を50mm
ジを配置し、 衝突時の支点反力やひずみをサンプリン
厚のスタイロフォームで断熱した容器を用いた。 また
グ間隔5kHzで計測した。 ただし、 支点部は浮き上が
破壊強度に敏感な氷温を-10℃ (目標値) を中心とし、
り防止のため金具で上下に固定した (支点部での回転
-15∼-5℃ (目標値) の範囲で変化させた。 その制御
は許容)。 また破壊モードは高速ビデオカメラなどで
のため、 低温室内の雰囲気温度をその温度に設定し、
観察するとともに、 個々の供試体の氷温、 密度、 塩分
海氷の厚さが約0.2mまで成長したのち、 容器から取
量、 人工海氷の結晶粒径 (偏光装置による撮影写真よ
り外し、 約24時間その温度下で暴露させた。 その後、
り推定) などを計測した。
供試体厚が約0.16mとなるよう、 塩分濃度が比較的高
くなっている下部層数cmを切り落とした。 なお、 落
下装置は低温室の外に設置されており、 外気温の影響
を受けないよう、 冬期に実施するとともに、 海氷のセッ
トおよび落下を極力短時間 (15分以内) で終了させる
よう努めた。
ここで表-1に本実験の主な条件と試験
後の供試体の氷温、 密度、 塩分量の計測結果をまとめ
た。 また、 参考のため、 淡水氷(Fresh water)について
も実施した。 氷温は目標値よりもやや高めであったが、
氷温依存性を検討するのには十分な成果であった。 ま
た、 海氷の機械強度を大きく決定づける因子である塩
分量 (ブライン量) は、 First-year ice (生成して1年
目の氷) の場合、 通常3∼7‰の範囲5) であること、 ま
た、 密度が0.86-0.92 kg/cm3 (淡水の場合には0.917kg/
cm3) の範囲5) であること、 さらに、 結晶粒径が5mm
∼20mmの柱状の結晶構造であったことから、 概ね実
物の海氷構造を再現できた。
一方、
に、 標準的と思われる実験条件(
=0.6m、
=1m)と、 本実験で実施したケースのうち最も運動エ
ネルギ−が大きなケース( =1.2m、
=0.6m、
=1.5m)
に示すように、 衝突を受ける構造物と
を例として、 その衝突力 (ロードセルによる各支点反
して、 今回は前述の防護柵などを想定した杭構造物と
力) の経時変化 (実線) と、 その時の海氷の破壊状況
した。 杭は、 支間を0.6mとした両端単純支持のSS材
を示した。 なお、 同図にはシミュレーション結果も示
の丸棒 (直径d:60mm、 固有振動数:338Hz) で、 両支
したが、 これについては後述する。 衝突してからおお
点部にロードセル(定格容量:20kN)、 杭の下側に歪ゲー
よそ3×10-3s程度で荷重がピークを迎えたのち、 構造
物の減衰振動が生じていることが分かる。 また、 その
時の破壊モードは、 同図(a)のように比較的海氷の寸
法、 特に衝突方向の寸法が小さい場合には、 引張によ
るスプリット破壊が卓越し、 海氷上端部までクラック
が及んで海氷が二つに破壊・分離した。 一方、 同図(b)
のように海氷の寸法が大きい場合は、 クラッシング
(貫入) が卓越して、 その後クラックが生じる破壊モー
ドであった。 しかし、 海氷上端部まで及ばず、 途中で
分岐して側部に到達した。 以上の破壊モードは早川
ら3) と同様であり、 その詳細な機構については、 早川
ら3) が考察している。 なお、 本実験でも正味の衝突力
を計測できなかったが、 次項で述べる理由と後述のシ
ミュレーションによる推定値 (
) から、 本実験
条件での正味の衝突力のピーク値より、 その構造物の
応答 (慣性力) を含む反力のピーク値の方が若干大き
くなると予想された。 しかし、 3.3節の考察も含め、
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冒頭に述べたような基本的な衝突特性を理解するため、
ほぼ同一の値であったため、 以降も衝突力の代表値と
反力を代用して検討することに不都合はないと考えら
してロードセルの値を用いる。
れる。 また、 構造物下面に配置した歪みゲージによる
支点反力推定値推定値とロードセルによる測定値とは
まず、 簡単なモデルを用いて、 破壊を生じない場合
(海氷を弾性体と仮定) の衝突力と運動エネルギ−と
の関係について考察してみる。
運動エネルギ−はすべて杭と海氷の弾性歪みエネル
ギ−に変換されると仮定すると式(1)を得る。
(1)
ここに、
: 氷の質量、
: 衝突速度、
、
: それぞ
れ杭、 氷に作用する力、 δ 、 α: それぞれの杭、 氷
の最大変位、 である。
を杭の等価剛性とすると、
(2)
が成り立ち、 さらに、 ヘルツの弾性接触理論に基づく、
任意形状の物体間の接触における変位と接触荷重との
関係より、
(3)
ここに、
ν、
はポアソン比、 ヤング率を表し、 添え字 、 は
それぞれ杭と海氷を表す。
さらに、 杭と海氷の主曲率半径をそれぞれ、
、
とすると(直交する主曲率半径をそれぞれ∞とする)、
は、 物体の曲率や、 2つの曲面の主曲率平面とのなす
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角によって定まるパラメータで、 例えば、 Whittemore
and Petrenko
6)
によって与えられている。
いと考えられる。 このように脆性的破壊が生じる場合
には、 衝突荷重はかなり小さな値となり、 また、 ある
結局、 式(2)、 (3)を式(1)に代入して、
程度運動エネルギ−が大きくなると一定値になること
が推察される。
(4)
を得る。 これは、
に関する方程式であり、 数値的に
解くことにより、 破壊・分離を生じない弾性変形のみ
考慮した海氷の杭への衝突力が得られる。
には、 海氷の運動エネルギ− と合支点反力
(最大値)
との関係を示した。 同図には、 前述の簡
易モデルによる推定値に係数 (β) を乗じたものを示
した (破線)。 なお、 この場合、 梁の等価剛性 は29
MN/mである。 βは破壊モードなどに依存する補正係
数であると見なせる。 実測値を見ると、 概ねその簡易
モデルの傾向を表し、 氷温が低いほど反力が大きくなっ
ているのが分かる。 しかし、 ある程度運動エネルギ−
が増大すると、 反力は一定となることが推察される。
に合支点反力のピーク値発生時刻
と運動
これは後述の破壊シミュレーションによっても示すこ
エネルギ−との関係を示す。 なお、
とができる。 さらに質量と衝突速度に分けて調べたの
有周期T (0.003s)で無次元化している。 反力のピーク
が
である。 氷温によって異なるが、 大局的な傾
値発生時刻は運動エネルギ−の増加とともに急激に減
向は、 質量そして衝突速度それぞれある程度大きくな
少して、 一定値となることが分かる。 早川ら3) は比較
れば反力が一定となるように見受けられる。 その一定
的大きな運動エネルギ−領域で実施し、 この時間が一
となる速度あるいは質量は、 氷温そして速度・質量相
定値となることを報告しており、 本実験結果と同様な
互に依存する可能性がある。 しかし、 同一条件でもバ
傾向となっている。 さらに本実験よりそれは氷温にも
ラツキがあること、 データ数が少ないことから、 さら
依存しないことも推察された。 また、 この場合、 ピー
に追加実験をして今後も検討する余地がある。 また、
ク値発生時刻の2倍と仮定した衝突作用時間(τ)と梁
氷温に応じて異なるが、 この簡易モデルによる値と比
の固有周期 との比 (インパルス長比) は2∼3と推定
べておよそ1オーダー小さな値となっており、 海氷の
され、 バネ質点系に三角波あるいは半正弦パルス波の
破壊・側方への飛散などによるエネルギ−消費が大き
衝突荷重を加えた簡易モデルより推定される動的増幅
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は構造物の固
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率 (
参照) から、 正味の衝突力よりもその応答
結局、 これは、
=0.5と仮定したスプリット破壊発生
値 (反力) の方が若干大きな値であることが推察され
時の最大氷力の算定法9) と同様である。 また、 ここで
た。 これは後述のシミュレーション(
用いた引張強度σ は、 氷温-7℃∼-2℃、 塩分量3.8-6.5
)からも示
‰の海氷についての実験結果に基づき、 Saekiら10) に
される。
よって氷温の関数として提案されたものである。 図よ
り、 衝突力は温度の低下に比例して増大し、 圧縮に基
づく力の氷温依存性よりも大きい事が推察される。 こ
れは、 温度低下に比例するとした引張に基づく力10)
の氷温依存性と同等程度であることが見受けられる。
これより、 比較的小規模な氷塊については、 引張によ
る破壊が卓越し、 Saekiら10) に基づく引張応力に関連
づけた衝突力の概略推定が可能であることを示唆して
いる。 さらに、 衝突力は、 運動エネルギ−(特に質量)
よりも、 氷温による影響 (前述の氷温変化の範囲で)
の方が大きいことも推察される。 これは、 ある程度氷
塊が大きくなると、 その寸法に依存しないような有限
の (引張) クラック長や、 構造物規模できまる (圧縮)
破壊領域に支配されていることを示唆しているとも考
えられる。
海氷の温度 (氷温) は、 海氷底面では海水の結氷温
度 (約-1.8℃) に一致し、 表面ではおよそ気温に近い
と考えてよい (上部に積雪がある場合や日中の輻射熱
の影響が大きい場合はこの限りでない) ので、 その平
均的な氷温が-10℃以下になることもめずらしくない。
氷温は-1.8℃∼-10℃以下で常に変動するが、 海氷の機
械強度 (圧縮、 曲げ強度など) や破壊荷重 (貫入試験
などによる) は、 氷温に大きく依存することが知られ
ている。 このように木材、 コンテナ、 船舶などの他の
津波漂流物と異なり、 冒頭で述べた流氷の特徴以外に
も氷温ひいては外気温・気象条件に大きく依存するこ
とが特徴の一つに数えられる。
には、 絶対値で
表示した氷温と合支点反力との関係を示した。 図中の
点線は氷温の影響を考慮した1軸圧縮強度 (σc ) の
推算値に杭径( )と氷厚( )を乗じて力として表したも
のを示した。 一般に海氷の1軸圧縮強度は海氷のブラ
イン量 (塩分量、 氷温の関数) や密度を用いて推定す
本検討の主な目的は、 構造物応答も含めた衝突現象
ることができ、 幾つかの実験式が提案されている。 こ
の理解を助けるとともに、 かなりの労力 (コストと時
7)
こで示した推算値は、 Truskovら
8)
およびWeeks
に
間) がともなう実験によるデータを補完、 あるいは実
よるものを示した。 海氷の強度は歪み速度あるいは荷
験不可能な条件での結果を予測できるようなツールを
重速度にも依存するが、 前者は圧縮強度が最大となる
構築することにある。 最終的には、 数値実験を含めた
歪み速度領域で実施した結果から推定されたものであ
実験データを基に衝突力の簡易推定式を提案したいと
り、 後者は荷重速度の影響を除いた式であり、 圧縮強
考えている。
度指標とも呼ばれる。 また、 図中には、 引張強度σ
に、 氷の長さ と氷厚 を乗じて、 力に換算したものを
示した。 ただし、 表示の便宜上0.5を乗じて表示した。
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4. 2
計算手法の概要
本検討では、 前述のように、 構成粒子は円柱の細密
計算手法として、 粒子 (要素) 間に引張抵抗を与え
格子 (等径要素6角形配置) とし、 パラメータ設定に
た2次元の個別要素法(DEM)を用いた。 この手法は、
ついては、 初期値に一般に考えられる海氷の機械強度
特にRC構造物などの衝撃破壊解析への適用例が多い
例えば5) を参照し、 破壊モードや衝突力を実現象と合
例えば11)。
DEMでは、 要素の集合体において、 次式
うように適宜調整した。 杭構造物は、 はり要素の
に示すように、 個々の要素毎に独立した運動方程式を
FEM (要素数30) で解析し、 動的解析のための時間
たて、 これを差分近似して時間領域でステップ・バイ・
積分はニューマークのβ法を用いた。 なお、 減衰マト
ステップで前進的に解くことにより要素の挙動を追跡
リクスはレーリー減衰によるものとした。
し、 その集合体としての動的挙動を解析しようとする
ものである。
(5a)
(5b)
ここに、
:要素iの質量、
ベクトル、
:要素jが要素iに与える力
:要素iに作用する外力ベクトル、
:要素
に作用する外力モーメント、 :要素の慣性モーメント、
:要素 が要素iに与えるモーメント、
:要素の変位ベ
クトル、 φ:要素の回転変位、 である。
また、 要素間の接触は、
に示すようにスプリ
ングとダッシュポットから成るVoigt modelを用いる。
要素間の破壊 (分離あるいは結合の破断) の条件の
うち、 接線方向についてはMohr-Coulumbの破壊基準
まずパラメータの設定は、 本実験で標準的な条件
を適用する。 つまり、 接線方向の力が次式のせん断抵
(目標氷温-10℃、
=0.6m、
=0.6m、
=1m) での結果
抗力(FSCRT )を上回った場合にその粒子間結合を破断
を用いた。 実際の破壊モードや静的な変形特性に合わ
する
せてパラメータ設定すると、 衝突荷重はやや実験値よ
りも大きな値となるため、 主なパラメータにバラツキ
を与えることにより、 良好な結果が得られた。 実際の
ここに、 φ は氷の内部摩擦角、
は粘着応力、
(6)
海氷内の種々の物性値も空間的にバラついており、 こ
:は粒
のため機械強度も多少バラツキがあることを考えると、
子間の法線方向接触力、
:は氷厚、 そして は要素の
不都合な考え方ではない。 ここで、
接触面の幅であり、
に示すように、 要素に外接
主なパラメータを示すが、 重要と思われる幾つかのパ
に設定した
する正多角形の一辺の長さとする。 なお、 この場合、
ラメータを対数正規分布に従う確率変数として扱い、
要素配列は円柱の最密格子 (等径要素6角形配置) と
仮に0.4の変動係数を与えた。
している。
さらに法線方向の破壊基準は、 要素間に引張力が作
用した場合で、 次式のように、 時刻 での要素間ひず
みがある閾値を超えた場合に破断するものとする。
(7)
ここに、 [
] は要素 と の中心間距離、
は時刻ゼロ
前述の
に、 支点反力波形および破壊モードの
における要素 と の中心間距離、 βは閾値であり、 引
実測とシミュレーションとの比較例を示した。 なお、
張限界ひずみに相当するものである。
本計算では、 パラメータにバラツキを与えているため、
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計算結果もばらつく。 そこで、 計算結果は、 出力され
自由落下させた場合の破壊状況をシミュレーションし
た最初の2例のみを示した。 なお、 本研究における数
たものであるが、 3次元性を考慮する必要があると思
数値計算は、 自作コードによるものである。 計算値は、
われる例として示した。
海氷の破壊モードや構造物の自由減衰振動を含む反力
以上より、 わずかな考察ではあったが、 3次元DEM
波形などについては概ね再現できているものと思われ
の有効性も示唆され、 前節の課題とともに3次元DEM
るが、 負の支点反力値 (引張力) や、 同図(b)のよう
の実用化に向けてもさらに検討を進めていきたい。
に、 2つのピークを持つ場合があるなどの点で不具合
があり、 まだ改良の余地がある。 特に前者の不都合は、
支点部の再現が不十分であること (または実験の不備)
による。 図-11には、 合支点反力の最大値と運動エネ
ルギ−との関係の実測値と計算値 (計算コスト削減の
ため最初の3つの出力値の平均) との比較例を示した。
計算は、 前述の標準条件で設定した同一のパラメータ
(表-2) を用い、 運動エネルギ− (質量や落下高) の
みを変えて行った。 設定した標準条件よりも海氷サイ
ズが小さくなると実測値と合わなくなるようであるが、
反力と運動エネルギ−との関係、 特にある運動エネル
ギ−以上では反力が一定となる傾向などを大まかに再
現している。 まだ幾つかの課題は残されているが、 今
後、 氷温依存性も含めた適切なパラメータの設定によ
り、 個別要素法による計算が可能であると思われる。
海氷の衝突力は、 運動エネルギ−とともに増加する
が、 ある程度運動エネルギ−が大きくなると一定値に
氷塊の衝突方向が、 構造物の衝突面に対して垂直で
なること、 また、 運動エネルギ−は、 主に海氷の破壊・
ない場合や、 氷塊や構造物の形状によっては、 3次元
側方への飛散などに消費される割合が大きいことが推
の計算が必要と考えられる。 本報告の執筆時点におい
察された。 衝突力は氷温の低下にともなって直線的に
て、 2次元から3次元へ拡張した計算コード (自作) が
増加し、 準静的に得られる一軸圧縮強度の氷温依存性
完成したばかりで、 そのパラメータ設定や妥当性の検
よりも大きく、 温度の低下に比例するとした引張に基
証にはまだ時間はかかるが、 現時点で得られた試算の
づく力の氷温依存性と同等程度であった。 このことか
一例を図-12に示す。 同図(a)は前述の図-2(a)に対応
ら、 比較的小規模な氷塊については、 引張による破壊
したもので、 破壊状況ならびに、 図は省略するが、 衝
が卓越し、 Saekiら10) に基づく引張応力に関連づけた
突力の経時変化はかなりよく実験結果を再現する。 ま
衝突力の概略推定が可能であることが分かった。 また、
た、 同図(b)は、 衝突方向より氷塊を30°傾斜させて
衝突力は、 運動エネルギ−の変化 (特に質量) より氷
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温依存性の方が大きいことも推察された。 これは、 あ
4)
川合邦広・佐藤正樹・早川哲也・花田真州・佐伯
る程度氷塊が大きくなると、 その寸法に依存しないよ
浩:越氷防止施設に作用する氷荷重の評価と試設
うな有限の (引張) クラック長や、 構造物規模できま
計、 海洋開発論文集第13巻、 pp. 807-812, 1997.
る (圧縮) 破壊領域に支配されていることを示唆して
5)
Cammaert、 A. B. and D. B. Muggeridge : Ice
いるとも考えられる。 また、 適切なパラメータ設定が
Interaction with Offshore Structures, Van Nostrand
実現できれば、 個別要素法により、 海氷の破壊挙動と
Reinhold, pp.76-111, 1988.
その構造物応答などが良好に再現できることが分かっ
6)
た。
Whittemore, H.L. and S.N. Petrenko: U.S. Bur.
Standards Tech, Paper 201, 1921.
今後は、 本研究で残された課題を克服するとともに、
7) Truskov, P.A., Astafiev, V. N. and G. A. Surkov :
衝突体が木材や鋼製材料など他の材料である場合につ
Problems of Choice of Sea Ice Cover Parameters
いても同様な実験を行い、 海氷による衝突力と比較し
Design Criteria, The 7th International Symposium
たい。 また、 水が存在した場合の付加質量の影響も検
on OKHOTSK SEA & SEA ICE ABSTRACTS,
討していく必要がある。
pp.21-26, 1992.
8)
Weeks, W. F. : Sea Ice Properties and Geometry,
AIDJEX Bulletin, No.34, pp.137-172, 1976.
1)
廉慶善・水谷法美・白石和睦・宇佐美敦浩・宮島
9)
正悟・富田孝史:陸上遡上津波によるコンテナの
Laval, pp.304, 1978.
漂流挙動と漂流衝突力に関する研究、 海岸工学論
2)
10)
Saeki, H., Nomura, T., and A. Ozaki :
文集第54巻、 pp. 841-845, 2007.
Experimental Study on the Testing Methods of
有川太郎・大坪大輔・中野史丈・下迫健一郎・石
Strength and Mechanical Properties for Sea Ice,
川隆信:遡上津波によるコンテナ漂流力に関する
Proc. of IAHR Ice Symp., pp.135-149, 1978.
大規模実験、 海岸工学論文集第54巻、 pp.846-850,
3)
Michel, B.:Ice Mechanics, Les Press de L'univesite
11)
鈴木真次・石川隆信・古川浩平・水山高久・石
2007.
川芳治:個別要素法による鉄筋で補強した砂防ダ
早川哲也・花田真州・川合邦広・佐伯浩:越波お
ム袖部の衝撃破壊解析、 構造工学論文、 Vol.43A,
よび津波により杭構造物に作用する衝突氷力算定
pp. 1555-1566, 1997.
法、 海岸工学論文集第47巻、 pp. 976-980, 2000.
木岡
Shinji
信治*
KIOKA
寒地土木研究所
寒地水圏研究グループ
寒冷沿岸域チーム
主任研究員
博士 (工学)
寒地土木研究所
月報
№678
2009年11月
山本
Yasuji
泰司**
YAMAMOTO
寒地土木研究所
寒地水圏研究グループ
寒冷沿岸域チーム
上席研究員
博士 (工学)
菅原
健司***
Kenji SUGAWARA
寒地土木研究所
寒地水圏研究グループ
寒冷沿岸域チーム
研究員
35