巻 頭 言 我国のエネルギー政策 - 関西電力

ISSN 0913-4352
関西電力
2003 414号
5
May
最近の新素材の開発動向
巻 頭 言
我国のエネルギー政策
トピックス
消防機器用非常電源機能を持つ
レドックスフロー電池の実証試験を開始
ミ ニ 解 説 ■IP NEWS 007
■数値モデルを用いた原子力施設の
大気拡散評価について
■最近の新素材の開発動向
5月号 2003 No.414
CONTENTS
■巻頭言
我国のエネルギー政策
■トピックス
消防機器用非常電源機能を持つレドックスフロー電池の実証試験を開始
3
4
■研究紹介
6
ドロップケーブル用ジョイントケースの開発について
8
有機ハイドライドから水素を抽出するシステムの紹介
10
世界最高レベルの高温耐熱特性を有するニッケル(Ni)基単結晶超合金の開発 12
エネルギー家計簿ソフトの開発
14
新しいPVカーブの計算手法の開発
■ミニ解説
IP NEWS 007
数値モデルを用いた原子力施設の大気拡散評価について
最近の新素材の開発動向
■設備紹介
異常電圧が発生出来、その影響度を評価する装置を設置
■社内案内
第3回 総合技術研究所『外部委員による研究評価会』を開催
平成15年度優良省エネルギー設備顕彰で
(社)日本冷凍空調設備工業連合会会長優秀賞(新設設備部門)受賞
建設工学の分野で当社研究所員に博士(学術)の授与
■アクセスマップ
■見学者数の紹介
16
18
20
22
24
25
26
27
28
巻・頭・言
我国のエネルギー政策
東京農工大学大学院 生物システム応用科学研究科
教授 柏木 孝夫
エネルギー政策基本法が成立し、その
対応のため総合資源エネルギー調査会に
基本計画部会が新設された。本年5月か
ら7月にかけて我国のエネルギー政策の
バイブルとも言える提言を行うことに
なる。筆者は、エネルギー基本法を高
く評価している一人である。
我国のエネルギー政策の基本は、①
安定供給の確保 ②環境への適合 が
今後最も重要であり、これらの政策目
的を十分考慮しつつ ③市場原理を活
用する事 としている。上記①の論点は、
原子力を中心にどうバランスのとれた21世紀型エネルギーミックスを考えるかであり、天然ガス
や自然エネルギーの明確な位置付けが必要となる。②ではCO2問題への対応であり、省エネル
ギー、新エネルギー政策に加え原子力がこの鍵を握る。京都議定書の発効は炭素制約経済社会
の到来を意味し、我国の経済・社会へ及ぼすインパクトは想像を超える程大きい。③のエネル
ギー市場自由化では、すでに電気事業法の改正が国会へ提出され2004年に500kW以上、2005年に
50kW以上の需要家が、自由化の対象となり、電力取引所も創設されることになる。電力の自由
化は我国に合った適正なスピードで進めてゆくことが、重要であるが、自由化による経済活性
化の効果も見逃せない。ただし、市場原理だけを、最優先させると高コスト構造の電源は生き
残らない。①と②に深く関与する原子力は現状では、コスト競合性を持っているが、バックエ
ンドコストや中間コストを考えると今後競争力を失う可能性が大きく、自由化の中にどう原子
力を位置付けるかが最重要の課題であろう。エネルギーシステムはインフラを伴うため急激な
変化は不可能である。まず、短中期的にみて、原子力の必要性について国家的視点からの判断
を明確に示すことが重要となる。必要とするなら信念を持って進めるべきであり、自由化の中
に何らかの規制的措置を講じても、市場に原子力を位置付け、組み込んでゆくことが大切である。
例えば、4月から施行されている新エネルギー分野でのRPS法のように、新規の原子力発電に
対する利用義務化を課す手法もあり得る。筆者は、原子力を我国のような工業国に不可欠な基
幹電源として位置付けるべきであると考えている。 仮に原子力をやめるという選択をした場合 、
京都議定書の発効と共に原子力によるCO2削減対策という選択肢を失う分、安易な議論は慎み
たいが、膨大な価格でCO2排出権を買ってこなければならない事態も起こり得る。国際的な排
出権取引きで買い手となる国は日本しかないことも肝に銘じておく必要がある。
エネルギー基本法に則り、今後の電源構成を考えると大規模集中型あるいは分散型という
二者択一の答えは出ない。両者のメリットを取り合った中間点に省エネルギー国家・日本とし
ての解がある。
安定供給、環境性、市場原理を考え
併せると、ベース電源である原子力の
良さ、需要地に近接した分散型の良さ
を組み合わせるかたちが望ましく、最
小の一次エネルギー投入で最大の効果
を出すことが可能となる。
アメリカ商務省NBS
(現:N
I
ST)等を経て現職
総合資源エネルギー調査会新エネルギー部会長
国連IPCC執筆代表など役職多数
専門は、熱工学、
エネルギーシステム工学
著書に「分散型電源システムの最新動向と将来展望」
(エヌ・
ティ・エス)
「マイクロパワー革命」
(TBSブリタニカ)
など
ト ピ ッ ク ス
消防機器用非常電源機能を持つ
レドックスフロー電池の実証試験を開始
研究推進グループ
1.負荷平準化により電気使用の
ピークカットが可能
レドックスフロー(RF
∼
電池)は、夜間電力で充電
し、昼間に放電して使用す
ることで電力使用のピーク
充電
負荷
放電
双方向インバータ
バナジウム
硫酸水溶液
+
ー
セル
をカットする電池で、当社
は昭和60年から住友電工
e-
V5+ / V4+
電解液タンク
と共同で開発を開始しまし
V2+
H+
V3+
電極
計自由度も高い上、瞬時電
隔膜
(カーボンフェルト)
(イオン交換膜)
ポンプ
放電
正極:V5+ +e-
るといった特長から、お客
V2+ / V3+
電解液タンク
e-
V4+
た。クリーンで長寿命、設
圧低下補償機能も付加でき
V5+
様ニーズに対応した多機能
充電
ポンプ
放電
V4+
負極: V2+
V3++e-
充電
図1.
レドックスフロー電池の原理
な商品として、すでに数件
設置箇所
運転開始年月
電池規模
目 的
の実績があります。
住友電設 本社ビル
2000/ 3
100kW×8hr
ピークシフト機能検証
レドックスフロー電池の
関電・巽実験センター
2000/ 12
168kW×8hr
低コスト化実証
原理と設置状況は図1およ
ほりかっぷ発電所
(NEDO プロジェクト)
2001/ 3
170kW×6hr
風力発電の出力平準化
ゴルフクラブ
2001/ 3
30kW×8hr
ピークシフト/太陽光発電
と組合せ検証
液晶工場
2001/ 4
瞬低防止 3,000kW×1.5sec
瞬低防止/ピークシフト
ピークシフト1,500kW×1hr
関西学院神戸三田
2001/ 7
500kW×10hr
ピークシフト
南アフリカ/ESKOM
2001/ 9
250kW×2hr
ピークシフト/瞬低防止
イタリア/CESI
2001/ 12
42kW×2hr
ピークシフト
九州電力
2003/ 2
100kW×1hr
瞬低・負荷平準化
ビル
2003/ 2
126kW×8hr
負荷平準化
鉄道会社
2003/ 3
30kW×1
瞬低・負荷平準化
び表1の通りです。
2.過負荷運転が
可能で非常用電源と
して使用が可能
今回の試験は、RF電池
が定格を超える出力で比較
的長時間運転できるという
表1.
レドックスフロー電池の設置状況
特性を活かして、スプリンクラーポンプや排煙ファンといった非常時の消防機器用電源として
適用可能なことを実証することを目的に、平成15年3月にオープンした梅田DTタワー(図
2)にRF電池を設置し、実証試験を開始しました。
今後、平成18年3月まで、平時は負荷平準化運転を行い、ビルの使用電力のピークをカッ
トすると共に、3ヶ月に1回程度 、
非常時を想定した模擬的な停電状
態を起こして、消防用電源機能へ
の切替試験、停止状態からの電池
システムの起動試験、消防機器の
起動試験等を行います(図4)。
なお、この実証試験は、住友電
気工業株式会社、株式会社竹中工
務店との共同研究によるものです 。
3.平成14年度までに
多くの性能試験を実証済
(1)電池基本システム試作、実証
負荷平準用基本電池システム
建築地: 大阪市北区梅田1丁目10番1号
建築主: 株式会社 竹中リアルティ
設計・施工:株式会社 竹中工務店
構造規模: SRC造、RC造、S造、B4F、27F、P2F
延床面積: 47,613.18m2
に非常用電源機能を付加した 、
消防非常用兼用システムを設計・試作し、負荷平準化性能の確認を行いました。
(2)試験用追加仕様および付帯設備試作・実証
a. システム開発
負荷平準常用セルに常時電解液を溜める
(無停電用セルの機能)構造を検討し、設計・試作しました。
b. 消防非常用電源としての信頼性向上および
電池盤
設置箇所
B-3
多機能化
常用電源が停電したときは自動的に、R F電池に高速スイッチにより無停電動作が 可
機械式駐車場
機械式駐車場
機械式
駐車場
能な切替、ならびにポンプの定格時間連 続運
転が可能な構造を検討し、設計・試作 ・性能
確認を行いました。
交直変換装置他
設置箇所
(特高電気室内)
c. 実ビルでの施工方法効率化(図3)
梅田DTタワー地下3、4階の限られた 電解液タンク設置箇所
スペースに設置するため、電池のユニット 化
B-4
などの効率的な施工方法の検討を行いま した
機械式駐車場
機械式駐車場
機械式駐車場
。
機械式駐車場
(3)巽実験センターでの事前評価回路試 作・実証
DTタワーでの性能評価試験に先がけ、
上記2項bの無停電切替動作の事前評価を 行うため、巽実験センターにて、既設の非 常
図2.
梅田DTタワーの概要
用システムの電池を組み合わせてDTタ
ワー納入予定の制御機器を運転し 、
制御回路のチェックを行いました 。
今後は、システムの実証試験に
よる実績により、システムの信頼
一般負荷への電力供給
による負荷平準化運転
120kW×1時間
性・安全性を示していく予定です 。
4.消防庁形式取得に
向けて
現状では、RF電池を正式に消
防機器用非常電源用蓄電池設備と
して利用いただくには、1箇所設
置する毎に消防当局の審査を受け 、
個別認定をいただくことが必要で
防災負荷・保安負荷
への電力供給
188kW×30分
す。当社と住友電工は、この研究
で得られたデータを適宜商品に反
映させ、採用実績を増やすことで
*今回 の実証試験 に
おいては、火災 によ
る停電を模擬的に発
生させ、負荷平準化
運転 から消防用電
源供給機能 への切
替試験を行う。
将来的には個別認定が不要になる
「形式認定」の取得を目指し、R
F電池の商品としての魅力をさら
に充実させてまいります。
(八木 靖幸)
図4.
消防用電源機能の概要
研 究 紹 介
研 究 紹 介
新しいPVカーブの計算手法の開発
電力系統の電圧安定性を検討する手法としてPVカーブの算出がありますが、系統の規模や潮流
状態によっては数値計算が収束しない場合があるという問題点がありました。本研究においては、
電力潮流方程式に電圧解を与えることによって収束性を向上させるアルゴリズムを開発しました。
電力システム事業本部系統技術グループ
電圧安定性の管理手法として、
PVカーブがあるが
数値計算が収束しない場合がある
電力自由化の進展に伴い電源立地箇所およびタイミングの管理が困難となり、電力系統にお
ける潮流の不確定性が高まるものと考えられます。 このような状況下では、これまでのように 、
事前にオフラインで検討した結果をもとに系統運用を行うだけでなく、オンラインで系統の状
態を監視することが一層重要になると考えられます。電力系統の状態を表すものの一つとして
電圧安定性があり、有効電力(P)と電圧(V)をプロットしたPVカーブと呼ばれる表現方法が
あります。ところが、PVカーブの計算は、電圧の限界を意味するカーブの突端部分において潮
流計算が収束しにくく、これまでにいろいろな検討がされてきました。 潮流計算の収束性を向上させる手法を
検討することによって課題解決を図る
これまでに、PVカーブを描く方法としては、PVカーブを描くためにカーブの突端部分の計算
アルゴリズムを変更するものがありました。本手法では、潮流計算のアルゴリズムそのものの
方法を変更することなく、計算の収束性を向上させる工夫をすることで、PVカーブを計算する
ことができます。
第1図 PVカーブの算出方法の新旧比較
1
通常の潮流計算においては、
有効電力および無効電力を潮流
方程式に与えて電圧解を求めます。
ところが、第1図に示しますよう
に、2つの解があることや、有
効電力の与え方によっては、電
圧解が存在しない場合など、数
値計算を行う上で取扱いが難し
い場合がありました。本手法では、
電圧値を方程式に与えることに
第2図 WEST30機系統モデル
よって、一つの固有の有効電力
解を求めることで、収束性を向
上させています。
従来では困難であった
大規模 な系統においても
PVカーブを算出できる
具体的なアルゴリズムは以下
の通りです。
第3図 PVカーブの計算例
1.あるノードに、有効電力0、
電圧をある値としたダミーの
発電機を接続。
2.潮流計算結果、ダミー発電
機の無効電力出力が0となるよ
うに潮流を調整する。
潮流調整の方法としては系統
全体の需要を変化させたり、融
通潮流を変化させるなど、検討
目的に応じた方法をとります。
このときの系統状態が、ある指
第4図 PVカーブによるコンデンサの効果の確認
定した電圧に対する有効電力解
求めたことなります。
電気学会標準モデルWEST30機モデル(第2図)を用いて計算した結果を第3図に示します。系
統の負荷が増加すると、電圧安定性が低下する様子が確認できます。
また、本手法を用いることで、国における実系統規模に相当する、60,000母線系統でのPVカー
ブの計算もできることを確認しました。
本手法によりPVカーブを用いた電圧対策設備の検討等が可能
本手法によって、電力用コンデンサなどの電圧対策設備の検討にPVカーブを利用することが
可能となります。また、PVカーブの突端までを電圧安定性からみた系統運用上のマージンとし
て利用することも可能です。
さらに、PVカーブを用いると、電圧安定性を視覚的
執筆者
に表現できるようになるため、電圧対策の効果が理解
しやすくなります。第4図に電圧安定性に対する電力用
コンデンサの効果を計算した例を示します。電力用コ
ンデンサによってPVカーブが右上に推移しています。
これは、電圧安定性が向上したことを示しています。
今後は、本手法を用いて、海外における系統計画や
電源計画のコンサルティングにも利用していきたいと
考えています。
執筆者:
小山 泰史
電力システム
事業本部系統技術
グループ
主な業務:系統解析に従事
連絡先 社用:92-3525
PHS:070-5788-0937
研 究 紹 介
ドロップケーブル用
ジョイントケースの開発について
インターネットの高速化要請に応える光ファイバーの普及が進みつつあります、それに欠かせな
い製品としてドロップケーブル用ジョイントケースを開発しました。
お客さま本部 マルチサービース ネットワークグループ室
FTTHの普及増に応え宅内作業の減少を可能とした
近年、インターネットサービスを中心とした家庭とのインタラクティブなやりとりを可能に
する通信手段として、各家庭宅内まで光ファイバケーブルを引き込むFTTH(Fiber To The
Home)サービスが急速に普及してきています。
このFTTHにおけるラストアクセス手段としては、ドロップクロージャから、光ケーブル
よりも細く作業性の良いドロップケーブルを引き出し、これをお客さまの宅内へと引き込んで
います。
しかし、このドロップケーブルが、電柱移設等によりケーブル長が不足した場合や、小動物
の噛み付き等によりケーブル断線した場合などにおいては、ドロップケーブル部分を全て張り
替える、または、お客さま宅内に成端箱(光ケーブル屋外接続箱)を取り付けることで、ドロ
ップケーブル相互を接続することにより対応していました。
今回は、ドロップケーブル張り替えに伴うお客さま宅内作業回数を減少させることを目指し 、
ドロップケーブル相互を電柱上や屋外で直接接続するための簡易な接続箱(以下ドロップケー
ブル用ジョイントケース)を開発しましたので、以下に概要を説明します。
開発品の要求品質の検討と試験
ドロップケーブル用ジョイントケースの開発にあたっては、既述のような問題点を解決する
ため、以下の項目を開発コンセプトとしました。
第1図
FTTHサービス
形態と主要資材
<ドロップケーブル>
2mm
支持線
5mm
1
2
光ファイバ素線
テンションメンバ
<ドロップクロージャ>
光ケーブル
ドロップケーブル
ドロップクロージャ
宅内引込み用のドロップケーブルを引き
出すためのクロージャ
(光心線収容箱)
電柱
宅内機器
2
・小型、軽量であること
・耐候性、防水性を持っていること
・電柱上や家屋壁面への取付が可能である。さらに取付作業性、接続作業性が良いこと
・接続余長が確保できるとともに伝送品質に影響を与えないこと
・安価であること
形状については、接続作業性や接続余長確保の必要性から、ボックス型を採用しました。
試作品について、防水試験、挿入したドロップケーブルの機械特性試験、内部の芯線収容状況、
取付作業性などを評価し、改良を重ねました。
[特 長]
今回開発したドロップケーブル用ジョイントケースについては、
・寸法107mm×119mm×10mmと小型である
・総重量76gと軽量である
・環境特性に優れている(ABS樹脂を使用)
・JIS-C-0920保護等級3級以上の防水性がある
研究開発概要
開発したドロップケーブル用ジョイントケースについて、実フィールド試験を実施したところ、
作業時間は、心線接続も含め約20分程度と作業性も良好であることが確認できました。
電柱支障移設による
ドロップケーブル長不足時
【開発前】
ドロップケーブル張り替え
【開発後】
不足区間の延長
吊線
ドロップケーブル
電柱
光ケーブル
ドロップケーブル(既設)
ドロップケーブル(新設)
ドロップクロージャ
宅内機器
ジョイントケース
第3図 開発品の適用例
ドロップケーブル用ジョイントケース
第2図 開発品の取付例
・電柱上および家屋壁面への取り付けができる
執筆者
・光心線の曲げ半径30mm以上が確保できる
・安価である
といった仕様に仕上げることができました。これは、
当初掲げていた開発コンセプトを十分に満足するもの
になりました。
本研究で開発されたドロップケーブル用ジョイント
ケースについては、ケイ・オプティコムの「eoホー
ムファイバー」サービスにも使われており、以下のよ
うに、ドロップケーブル張り替えやお客さま宅内作業
の軽減に役立つものと考えています。
執筆者:
桑下 敬康
お客さま本部
マルチサービース
ネットワーク
グループ
主な業務:伝送路工法・
資機材開発に従事
連絡先 社用:92-3942
PHS:070-5788-0026 ■研究に携わった人
林 宏厚
神戸支店お客さま室配電工事所
研 究 紹 介
「有機ハイドライドから
水素を抽出するシステムの紹介」
水素は、21世紀を担う新しいクリーンエネルギーとして期待されています。水素輸送として有機
ハイドライドを利用した水素貯蔵システムは、可逆的な化学反応を利用して水素を貯蔵する新しい
技術です。その概要と要素技術について紹介します。
発電設備研究室(火力・原子力)
水素エネルギー社会の実現に向けてのインフラ整備課題
今世紀の半ばには水素エネルギーが石油にとって代わるものとして考えられています。そこ
で21世紀は、水素エネルギーの世紀とも言われています。水素エネルギーを燃料とするエン
ジンやガスタービン、燃料電池等の多くの研究が進めらており、近年著しく性能向上した固体
高分子型燃料電池(PEFC)を搭載した電気自動車が販売され、水素エネルギー時代がより
実現的なものになってきています。
PEFCは、燃料の水素と空気中の酸素から電気、熱、水を生成します(水の電気分解の逆
です)ので、燃焼に伴う排ガスが
生じないクリーンなエネルギーです。
しかし、水素は気体でありかさば
るという欠点がありますので、水
素をコンパクトに貯蔵し運搬する
には、圧縮、液化、水素吸蔵合金
への貯蔵等の方法を考えなれけば
なりません。しかし、これらの方
法は容器がかさむという不具合が
生じます。そこで、本研究は、効
率の良い輸送として、有機ハイラ
イドを利用した水素貯蔵方法の要
450
5
kg
水
素
タ
ン
ク
体
積
︵
r
︶
400
350
300
コ
ン
パ
ク
ト
圧縮水素タンク
250
水素吸蔵合金タンク
200
液体水素タンク
150
有機ハイドライドタンク
100
50
0
軽 量
100
200
300
400
500
600
5kg水素タンク質量(kg)
素技術開発について取り組みまし
たので、その概要について紹介し
第1図 5kg水素の質量、体積密度
ます。
水素の液相化輸送として有機ハイドライド利用システムに着目
有機ハイドライド利用システムは、下式のとおりメタンを起源とした化学反応を利用して水
素を製造、貯蔵、輸送、供給する方法で、水素製造・水素化・水素取り出しの3つの反応を利
用したものです。
[水素製造化学反応]
10CH4→C10H8+16H2
[水素化化学反応]
C10H8+5H2→C10H18
[水素取り出し化学反応]
3
C10H18
→C10H8+5H2
*CH4:メタン
気化器
C10H8:ナフタレン
ヒーター1
C10H18:デカリン
P
H2:水素
TC 温度調節器
定量送液ポンプ
例えば、海外の天然ガ
ス田で水素製造、水素化
設備により天然ガスをデ
カリン(液相炭化水素)とし、
水素分離膜
デカリン
排気
e
空気
脱水素触媒
有機ハイドライド
タンク
これを効率的に輸送して
ヒーター2
H2
O2
燃料電池
TC
温度調節器
国内で水素を取り出し利
用する。取り出し後のナ
H+
水素
流量計
排気
背圧弁
気液分離器
フタレンはリサイクル材
として再び海外天然ガス
ナフタレン
田まで輸送し、水素化に
利用することが考えられ
第2図 構造図
ます。水素化されたデカ
リンの特徴として、常温では液体であるため取扱いが容易であるとともに質量、体積とも第1
図のとおりコンパクトになりかさばりません。
又、水素化化学反応と水素取り出し化学反応を、繰り返しますのでナフタレンは何度もリサ
イクル出来ることから、化学反応でのCO2排出量も極めて少なくなります。
ハイドライド利用システムでの
効果的な水素取り出し技術
水素取り出し化学反応は、有機ハイドライドで
あるデカリンを加熱して水素とナフタレンに分解
して、ガス状の水素、ナフタレンを分離する技術
です。デカリンを加熱分解するには、化学反応を
促進する白金触媒を用いますが、白金は高価であ
るため、白金と他の安価な金属を混合したバイメ
タリック触媒とした、最適な反応条件の検討を行
っています。現時点では、白金とロジウムの組合
せおよび白金担持量(wt%)を少なくして効果的
に白金を分散した構造を採用しています。また反
応温度別評価では、デカリンと、触媒温度を300
℃から350℃に加熱すると良好な結果が得られる
ことを確認しています。一方、水素分離膜は、パ
ラジウムを用いると高純度の水素が得られるものの
、
パラジウムも白金と同じく高価な材料です。
従って、
パラジウムに代わる新たな材料を選定するため調
写真1 外観
執筆者
査研究中です。
水素取り出し装置プロトタイプ機
有機ハイドライドから水素を取
り出す装置を試作しました。
(写真1)
水素取り出し装置
プロトタイプ概要
装置の能力
水素取り出し量:
4
50mr/分
水素取り出し要素技術開発を進
(PEFC出力 30W相当)
めるとともに、燃料電池を接続し 水素純度:99.
99999
今後の取組
た開発装置を製作する予定です。
執筆者:
大山 眞一
電力技術研究所 発電設備研究室
(火力・原子力)
主な業務:新燃料技術の開発に従事
連絡先 社用:97-6466
PHS:070-5770-7374
研 究 紹 介
世界最高レベルの高温耐熱特性を有する
ニッケル(Ni)基単結晶超合金の開発
総合技術研究所 材料技術研究室は、名古屋大学大学院 工学研究科 森永研究室、株式会社日立
製作所 日立研究所と共同で、世界最高レベルの超高温に耐えるガスタービン羽根用Ni基単結晶超合
金の開発に成功しました。
材料技術研究室
4μm
2μm
ガンマー相の中にきれいに整ったガンマー
プライム相が見える
第1図 本研究のN
i基超合金により鋳造したGT
(H−25)動翼の写真
第2図 本単結晶超合金のミクロ組織
地球環境問題と電力自由化が迫るこれからの
電気事業に必要な発電コストの低減のために
これからの火力発電は、発電効率をより高めていくことがますます必要となっています。現
在の材料技術では、発電用ガスタービン羽根は最高で1400℃程度のガス温度にしか耐えることが
できず電力用では、主に1300℃級のガスタービンが普及しています。熱効率は、燃焼温度の上昇
により高く出来るので、平成9年7月から材料技術研究室では名古屋大学、日立製作所日立研
究所と共同で1500℃以上の高温に耐えるガスタービン羽根を開発するための材料研究に取り組み
ました。
開発に当たっては名古屋大学 森永正彦教授、村田純教助教授が提唱する分子軌道理論を適用
し、各種合金元素の個性を表す電子パラメータを用いて、最適な合金組成を決定しました。今
回開発しましたNi基単結晶超合金をタービン羽根に使用しますと燃焼温度1540℃でのガスタービ
ン発電が可能になります。これにより発電効率(高位発熱量基準)を当社最高の 49 %から 55 %
にまで引き上げることが可能になり、1ユニット(60万kw)あたりの発電コストを燃料費ベー
スで約11%程度、金額に直すと年間で10億円程度低減できるようになります。またCO2排出量
で見ましても、従来型に比べて約11%、年間10万トン程度の削減ができることになります。
<新材料の概要>
開発したNi基単結晶超合金の特徴
① 組成
4
第3図 コンバインドガスタービン概念図
第4図 日立発電用ガスタービン(H−25型)
従来機実績に基づく設計予測値
ニッケルをベースにコ
ステン、アルミ、チタン 、
フニウムなどの合金元素
により構成されたNi基単
結晶超合金です。
60
発電端熱効果(%)
タンタル、レニウム、ハ
:低位発熱量基準
:高位発熱量基準
58.4%※
60%
品川1号系列
54.2%※
55
55.3%※
富津
50
52.8%※
48.4%※
49.0%※
50.0%※
43.8%※
横浜7・8号系列
千葉1
・
2号系列
姫路第一6号系列
1100°
C級
1300°
C級
45
② 高温耐熱特性
タービン入り口ガス温
GE
F7H
60.8%
(計画)(予測値)
65
バルト、クロム、タング
55%
54% (予測値)
川崎1・2号系列
開発品
40
1450°
C級 1500°
C級 1540°
C級
度1540℃級の過酷な燃焼
※従来機実績:日本ガスタービン学会誌(vol.25、No.97(1997)
:P47
ガスに対しても、使用可
第5図 開発単結晶材を適用した場合の発電端熱効率
能な高い高温引張強度と
安定したクリープ強度、優れた高温耐食性、耐酸化性を有し、国内、欧州、米国などで開発中
の材料よりバランスの良い優れた高温特性を有しています。
③鋳造性
開発した合金で日立H25ガスタービン(2 6 , 9 0 0 kw天然ガス燃料)の第一段動翼(全長170mm)
の実機モデル単結晶翼を試作し、単結晶化が可能である事を確認しております。
国内外の他の研究機関による最新合金との比較
今回開発した単結晶合金は、既にジェットエンジン動翼として実用化されている第2世代単
結晶合金CMSX4より20℃以上の高い温度で使用できる強度があり、更に耐食性、耐酸化性、及
び高温組織安定性に優れていることから、ガスタービンの空冷動翼としての使用が期待できます。
一方、1000℃以上の高温強度に優れた、第3世代単結晶合金と呼ばれる幾つかの新しい合金も開
発されていますが、これらの合金は1000℃以上の高温では耐酸化性が悪くなり、また合金によっ
ては有害な針状結晶相が出て強度が低下するなどの問題があると聞いております。
今後の研究計画
今回開発した合金については将来の新規電源となる火力発電所のガスタービンへの採用も視野
に入れ、発電用高効率GT動翼として必要な特性を備えた合金を完成するために、①動翼とし
て実用性能に関する各種特性試験の実施。②鋳造プロセスの最適化を中心として更に研究を進
める予定です。また、本合金はジェットエンジン用ター
執筆者
ビン羽根にも使用できることから、将来的にはマスター
インゴットとしての販売にも取り組んで行きたいと考え
ています。
この研究から感じたこと
電力の材料研究では経年劣化評価研究が主体と考えら
れていますが、このような材料開発研究も平行して行う
ことによってさらに材料の本質が理解できるものと確信
を深めました。
執筆者:
橋詰 良吉
材料技術研究室
主な業務:耐熱材料の開発研究
連絡先 社用:97-6542
PHS:070-5770-5715
研 究 紹 介
エネルギー家計簿ソフトの開発
今後家庭内に、ホームネットワークが入ってくることが予想されています。本研究では、ホーム
ネットワーク技術を使い、家電機器の制御や使用電力量の確認ができるアプリケーションを開発・
評価しました。
商品評価研究室
エネルギー家計簿
2.4G無線LAN
パソコン
ディスプレイ
テレビ
電力量収集ソフト
GWソフト
エアコン
制御情報
GW
ECHONET方式
電灯線搬送
消費電力等
冷蔵庫
電子レンジ
PLC
インピーダンスアッパー
第1図 エネルギー家計簿ソフトの構成例
家電機器の制御や使用電力量確認ができる
一般住宅へのインターネット導入が進んでいますが、今後はインターネットに加え、ホーム
ネットワークが普及していくものと予想されています。ホームネットワークとは、家電機器の
制御、使用状況の確認や住宅のセキュリティ確保などを、遠隔操作などを自動的に行うことが
できる住宅内の情報通信網のことです。 本研究では、ホームネットワークの通信技術として注目されているエコーネット(注)規格を利
用して家電機器の制御や使用電力量の測定結果を家庭内で確認できるアプリケーション「エネ
ルギー家計簿ソフト」を開発し評価しました。
データ収集用センサーや制御用配線が不要 家電機器の消費電力は、電力センサー内臓の通信用モジュール(PLC)によりデータ化され
た情報が、屋内配線を通じてゲートウェイ(GW)へ
送られます。したがって、住宅内に情報通信用の配線
を施設する必要がなく、PLCやGWをコンセントに
差し込むだけでネットワーク化ができます。住宅シス
テム化としては比較的簡単に工事が可能です。
(注):エコーネット(ECHONET)
安心・快適・便利を提供することを
目標としている日本で作っているホ
ームネットワーク規格
5
家電機器の使用状況や
使用電力量がすぐに分かり、
制御も可能
家電機器が動いているかどうかの確認や
今まで使った使用電力量を汎用のパソコ
ンで記録することができます。使用電力
量のグラフ表示は第2図の例で示すとお
りです。
さらに、1ヶ月間の目標電力量を設定す
ることにより、実際の使用量との比較を
第2図 使用電力量グラフ表示例
行うこともでき、その結果、エネルギー消費量の管
理を行うことが可能となります。
パソコンからの入力で家電機器の制御をすること
ができ、エアコンを例にとるとオン・オフ制御、設
定温度の変更やタイマー運転などを選択することが
できます。
システムの試験を実施
「エネルギー家計簿ソフト」の機能等の動作検証
を行った内容は以下の通りです。
(1)家電機器との通信
写真1 GW
・エネルギー家計簿に家電機器を登録すること
・家電機器との通信状況が表示されること
(2)家電機器の使用状況
・家電機器の使用電力量の取得
・使用電力量のグラフ表示
(3)家電機器の制御(エアコンを使用した機器制御)
・動作モード(冷房・暖房等)の設定
・設定温度の設定
・オン・オフ制御
・タイマー設定
写真2 PLC
エネルギー家計簿ソフトの機能を確認
実際の住宅に取りつけて検証試験を行いました。現在、通信機能を内蔵した家電機器がほと
んどないため、代わりに電力測定センサーと制御機能を内蔵した通信モジュール(写真2 P
LC)を取りつけて試験を行いました。
家電用機器にはインバータ使用機器があり、それらからノイズが屋内配線に入ることなど家
電機器の中には電力線搬送通信が行いにくい例があるため、場合によってはノイズ等を防ぐフ
ィルタ(第1図のインピーダンスアッパー)を取りつける対応をして試験を実施しました。また、
制御機能を確認するため、市販のエアコンをエコーネットで動作するように改造して試験を行
いました。その結果、
(1)家電機器との通信状況が表示されることを確認し
執筆者
ました
(2)使用電力量を取得し、グラフ表示できることを確
認しました。
(3)機器制御機能ついてエアコンを使って試験し、オ
ン・オフ制御、運転モード及び温度設定変更、タイ
マー起動及びタイマー停止ができることを確認しま
した。
今後の取組
当社ではホームネットワークに必要なゲートウェイ(第
1図のGW)の研究を別途行っており、本研究の成果
を含め、実用化に向けて推進していくことになってお
ります。
執筆者:
松岡 武彦
総合技術研究所
エネルギー利用
技術研究所
商品評価研究室
主な業務:ホームエネルギー調査 に従事
連絡先 社用:97-6615
PHS:070-5786-7421 ■研究に携わった人
氏名:田中 宏
所属:
(株)ケイ・オプティコム出向
ミ ニ 解 説
ミ ニ 解 説
研究開発室 研究開発グループ
医療技術に特許 −再生医療技術に限定した暫定対策へ
特許法より
4月2日に、産業構造審議会−知的財産
政策部会−特許制度小委員会−医療行為
WGの第4回会合が開かれ、再生医療技
術に限って特許を認める暫定的な対策が
合意されました。この医療行為WGでは
昨年10月から、医療行為関連発明に特許
を与えるかどうかの議論が重ねられてき
ましたが、議論が尽くされていないこと
から本格的な特許法の改正は困難だと判
断し、当面、審査基準を改訂して様子を
見ることにしたものです。
そもそも特許法では、「産業上利用す
ることができる発明」だけに特許が与え
られることになっていますが、医療行為
に関しては、法律ではなく特許庁の審査
基準により、特許対象から除外されてい
ました。これには、①研究開発が企業で
はなく大学や病院によって行われるため
インセンティブ付与のニーズが少ないと
いう研究開発政策的理由と、②緊急の患
者の治療にあたって医師が特許権者の許
特許・実用新案審査基準より
○人間を手術、治療、又は診断する方法は、産業上利用で
きる発明に該当しない。
・医療機器、医薬自体は、物であり、特許対象である。
人間を手術する方法
①
・外科手術方法,採血方法,美容整形手術方法,手術のため
の麻酔方法など
②
人間を治療する方法
・投薬方法,注射方法,物理療法の方法,義手を取り付ける
方法,リハビリ方法,看護処置方法,風邪の予防方法,マ
ッサージ方法など
・人間から採取したものを、同一人に治療のために戻すこと
を前提にして処理する方法(例:血液透析方法)
③
人間を診断する方法
・X線による人体の内部器官の状態の測定方法など
・治療目的以外で人体を測定する方法は特許対象である。
(例:服の仕立てのために体格を測定する方法)
諾を求めなければならないと患者を危険
に陥れるおそれがあるという人道的理由の、二つの大きな理由がありました。
過去には医薬品ですら特許権の対象から除外されていましたが、1975年の特許法改正で特許権
の対象にされ、その際に、薬剤師の調剤行為に特許権の効力が及ばないように第69条第3項が新
設されました。現在、医薬品や医療機器は、市場の大きさと個別特許の支配力により、最も厳
しい特許競争の舞台になっています。
この医療行為WGでの議論は、日本が欧米に比べて先端医療技術に遅れをとっているのは日
本で特許がとれないせいだという、研究者やベンチャー企業の指摘がきっかけでした。それを
受けて、知的財産戦略大綱をはじめとする政府関係各フォーラムでも、見直しが要請されてい
1
ます。ちなみに、日米欧の三極での取り
扱いは、次のようになっています。
医療関係技術全体の中でも、特に産業
競争力の観点から喫緊の特許付与ニーズ
がある再生医療技術は、病気やけがで失
医療関係特許の取扱いの三極比較
日本 欧州
○
○
医薬品 ○
○
医療機器
医
療
行
為
手術,治療,
診断方法
×
細胞の
培養方法
×
×
米国
○
○
○
医師の医療行為は侵害としない
(バイオテクノロジー特許を除く)
○
○
った臓器や組織を取り戻すために、患者
医師以外が
できる
の体から細胞を取り出し、それを培養し
て、同じ患者の体に移植するというもの
です。特許庁の審査基準では、人間から
② 細胞を培養
採取したものを同一人に治療のために戻
すことを前提にして処理する方法は、特
許対象から除かれていたので、医師が病
院で行うのではなく工業的に医師以外が
①人体から細胞
を採取
③培養した細胞
を人体に移植
行う細胞の培養も、特許対象にはなって
いませんでした。
このWGの議論の過程では、再生医療
技術を含む医療技術全体に特許を与える
ものの医師が行う行為または医療行為には特許権が及ばないようにするという「川下規制」案
が、有力でした。しかし、日本医師会の委員から、特許がその医療方法に安全性を担保したか
のように受け取られる懸念があるという意外な反対意見が出され、その他にも、川下規制で特
許権が及ばない範囲を定義するのが困難ではないかなどの議論が百出し、結局、医療行為全体
について合意目標期限である2002年度内には結論は得られませんでした。
そこで、暫定的な対策として、審査基準において、「人間に由来するものを原料又は材料と
して医薬品又は医療機器(例:培養皮膚シート、人工骨)を製造する方法」については、同一
人に治療のために戻すことを前提とするものであっても特許付与の対象とすることが、合意さ
れました。この合意案は特許庁ホームページで公表されてパブリックコメントが募集され、上
位委員会に報告されます。その後、特許庁は、この夏にも審査基準を改訂して、この分野の審
査を開始するようです。
知的財産戦略本部が第一回会合
イラク戦争開戦前夜の3月19日夕刻に、首相官邸において知的財産戦略本部の第一回会合が開
かれ、前身の知的財産戦略会議が決定した知的財産戦略大綱を実行するための「知的財産推進
計画」を7月を目途にとりまとめるこ
とが決定されました。本部長の小泉総
理は、「私は、施政方針演説で知的財
産立国を目指すことを約束しました。
日本経済再生のため、知的財産推進計
画は、従来の制度にとらわれない世界
一を目指した内容のものとし、3年間に
集中的な改革を進めることにしたいと思
本部長の小泉総理, 平沼経済産業大臣(左),
福田内閣官房長官(右, 司会)
※<http://www.kantei.go.jp/>より
います。」と述べました。
知的財産戦略本部は、小泉本部長以下、全閣僚と10名の有識者の計28名から構成されています
。事務局スタッフは25人の産官学混成部隊のようで、事務局長には、元特許庁長官で国家知財戦
略の主導者である荒井寿光(あらい・ひさみつ)氏が就任しました。荒井氏は、1966年通産省入
省で資源エネルギー庁公益事業部長も経
験していて、東京大学の中山信弘教授と
○角川書店の角川会長:コンテンツ産業の興隆が日本という
ブランドの向上に
並ぶ知財界の有名人です。
○久保利弁護士:
「権利のための闘争」に金を惜しまず弁護
士の養成を
第一回会合では、有識者からの注文が
○三菱電機の野間口社長:産学連携,
国際標準化 ,
模倣品
相次ぎましたが、主なものを紹介します 。 対 策の強化を進めて欲しい
(広瀬 道雄)
ミ ニ 解 説
数値モデルを用いた
原子力施設の大気拡散評価について
原子力施設を対象とした大気拡散数値モデル ―建屋影響予測手法―
原子力事業本部 プラント技術グループ
1.はじめに
現在、原子力施設においては、原子
風
力発電所から放出される放射性ガスの
大気拡散予測に施設構内の建屋や周辺
煙源
立方体
建屋
の地形がおよぼす影響が無視できない
場合、それらの影響を把握するための
第1図 想定した平地と建屋のイメージ
風洞実験が行われています。この風洞
実験は、個々の原子力地点を対象に地形・建屋の模型を製作し、複数の煙源を対象とする場合
等もあるため、必要な実験時間や経費も多大となる傾向があります。一方、最近の計算機性能
の向上、数値計算手法の発展にともない、いろいろな分野で大気拡散評価のモデルとして数値
シミュレーションモデルが適用されています。その中の一つとして、火力発電所の環境影響評
価に数値シミュレーションを用いることができるようになりました。しかし、原子力施設は、
火力発電所と同じ数値シミュレーションを適用することができません。それは、火力発電所と
異なり、原子力発電所は排ガス放出高さが低く地表に近いため、敷地境界内に存在する建屋の
影響を無視することができないからです。そのため、原子力施設の建屋影響を考慮した数値シ
ミュレーションモデルの開発を進めることが必要となり、大気拡散評価の分野の中で、原子力
施設の建屋影響を考慮できる数値シミュレーションモデルの研究がなされています。 ここでは、
その研究の成果、今後の展望について紹介します。
2.研究の内容
平地上にビルのような建屋が存在するとして(第1図参照)、建屋周辺の気流・拡散の計算
を行いました。さらに、現行手法である風洞実験結果との比較により、数値シミュレーション
の予測精度を確認しました。
3.研究の成果、結論
この研究で得られた主な成果は、次の(1)∼
(3)です。
(1)原子力施設における排ガスの大気拡散予測には、地形影響と建屋影響とを複合して考慮
する必要があります。そこで、将来の適用を踏まえ、地形影響の予測と共用できる座標系にお
できる数値シミュレーシ
ョンモデルを構築しまし
た。これまで、地形影響
を考慮する際に用いられ
る座標系では困難であっ
た建屋影響は、地表面上
地表面からの距離 Z(m)
いて、建屋影響の予測が
80
地形影響を考慮す
る際の座標系 中に
存在する建屋
0
0
風下距離 X(m)
240(m)
第2図 地形を対象とした座標系における建屋(計算格子の例)
2
にある計算格子にて建屋を表現し、建屋に接する計算格子上において、気流速度や気流乱れの
効果を表すことで計算が可能となりました。(第2図)
(2)現在の大気拡散評価手法である風洞実験では、平地における拡散との相対比較に基づき
排ガス拡散に及ぼす建屋・地形影響を把握しています。今後、数値シミュレーションでも同様
な方法で建屋・地形影響を把握することも想定されるため、また、構築した数値シミュレーシ
ョンモデルの予測精度を確認するため、平地を対象に数値計算を行いました。その結果、風洞
実験で定められている気流・拡散条件を再現できました。(第3.1図、第3.2図)
(3)平地に建屋が存在する場に数値シミュ
レーションモデルを適用し、建屋周辺で気流
乱れが増加すること、建屋背後に流れの循環
域が形成されること、排ガスが建屋を回り込
むことなど、風洞実験結果をほぼ再現できま
した。(第4.1図、第4.2図)
4.研究の特徴
この研究の特徴は、前項の研究の成果(1
)でも記しました地形影響を考慮する際に用
いられる座標系で記述された気流モデルに建
屋を組み込むことを試みた点です。具体的に
は、地形条件に適用されてきた座標系に基づ
き計算格子を作成し、その後、地表面付近に
存在する数個の計算格子を建屋として取り扱
うようにしました。この手法は扱いが簡単で
実用的なものになるものと考えられます。
5.今後の取り組み等
この研究では、構築した数値シミュレーシ
ョンモデルを用いて建屋周辺の気流および拡
散状況を計算し、風洞実験との比較をとおしてその予測精度を確認しています。今後は、建屋
影響と地形影響を複合した場において数値シミュレーションモデルの予測精度の確認を行う必
要があります。
将来の展望としては、火力発電所と同様に原子力施設においても数値シミュレーションが現
行の評価手法である風洞実験と置き換わるようになり、大気拡散予測評価費用の削減、期間の
短縮が図れるものと考えられます。
(安田 智美)
ミ ニ 解 説
最近の新素材の開発動向
材料技術研究室
1.はじめに
水素吸蔵合金、形状記憶合金、イン
300
体積エネルギー密度(Wh/L)
テリジェント材料などの新素材につい
て情報収集を行ってきたので、その結
果を紹介します。
2. 水素吸蔵合金
水素吸蔵合金とは、水素の吸放出を
可逆的に繰り返し使用できる材料のこ
とです。
水素吸蔵合金は、ニッケル-水素二次
ニッケル
水素電池
200
ニカド電池
100
鉛畜電池
0
電池の負極材として実用化され、市場
Li-ion電池
0
50
100
重量エネルギー密度(Wh/kg)
に多く出回っています。しかし、第1
第1図 二次電池エネルギー密度
図1)に示すようにエネルギー密度はラ
イバルのリチウムイオン二次電池よりも劣っているため、更なる高密度化が望まれています。
高密度化のため、水素吸蔵合金の水素吸放出量を増加させる研究が行われていますが、現状
ではTi-V-Cr系固溶体の水素吸蔵量2.6%が最大です。
またWE-NET(World Energy NETwork)計画においても、水素吸蔵量5.5%を目標としているが
達成は困難と考えられています。
いま話題の燃料電池自動車の水素貯蔵方式として、液体水素、高圧ボンベ、水素吸蔵合金が
候補としてあげられていますが、第2図2)に示すように水素吸蔵合金は他の方式に比べ重量エ
ネルギー密度が劣っており、最近市販された燃料電池自動車は、高圧ボンベ方式が採用されて
います。
水素吸蔵合金の水素貯蔵量増加の研究は多く行われていますが、頭打ちの感があります。そ
れ故、カーボンナノチューブ、ケミカルハイドライドなどの金属以外の新しい水素貯蔵材料が
注目を浴びています。
3. 形状記憶合金
形状記憶合金とは、変形を加
えてもある温度以上に加熱すれ
6767Wh/kg
Wh/L
Wh/kg
200
ば、元の形状に戻る合金のこと
重量エネルギー密度
です。
1980年代にブラジャーのワイ
1000
ヤや眼鏡のフレーム等に実用化
体積エネルギー密度
密度
体積
されました。
第1表3)に形状記憶合金の商
品化の動向を示します。
0
高圧容器
(Necar2)
液体水素タンク
水素吸蔵合金タンク
(Mazda)
第2図 車載水素貯蔵方法のエネルギー密度比較
3
初期の段階では、形状記憶機能
を用いた商品化が行われていまし
たが、最近では形状記憶合金のも
う一つの機能である超弾性機能を
用いた商品化が行われています。
携帯電話のアンテナがその代表例
であります。
形状記憶合金は1980年代のよう
にブーム的に用いられることは無
写真1 2方向形状記憶効果試験結果(時効前)
くなりましたが、医療用などで着
拘束処理条件:200°
C、1h 曲げひずみ:0.8%
Cu-10.92A1-1.51Ni-5.16Mn-1.01Ti
実に応用されています。
年
分野
’
81
’
82
’
83
’
84
’
85
’
86
家 電
フォグランプ
自 動車
生活関連
オモチャ
乾燥庫
火災報知器
ハウス換気口
建築
エネルギー
産業機器
’
88
’
89
’
90
’
91
’
92
’
93
’
94
’
95
’
96
’
97
’
98
アンテナ
ヘッドホン
ラジエータバルブ
蒸気トラップ
フアンクラッチ
エンジンガラ音防止
釣糸
シャワーバブル メガネフレーム
軒下換気口
床下換気口
浄水器
混合水栓
カメラシャッター
岩盤亀裂センサー
岩石破戒器
ヒートエンジン
パイプ継手
ファスナー
コネクター
ロボット
マイクロ
マシン
ブラジャー
コルセット
肩パット
ブラスレット
ガイドワイヤ マイクロシリンジ バスケット 鉗子
コルセット 人工歯根
カテーテル
衣料品
医療
’
87
電子レンジ コーヒーメーカー
炊飯器
エアコン VTRカバー ウォシュレット ゆで卵
アーチワイヤ
胆管ステント 血管ステント
超弾性
利用
第1表 形状記憶合金商品化表
よりインテリジェント化へ
研 究 分 野 研 究 内 容
情 報
ソフトウェア
システム
(
物 性
(
機 能
基礎研究
原子操作技術、微細加工技術、
マイクロマシーン、
微視的位置制御、
ニューラルネットワーク
生体材料
蛋白質の情報伝逢、蛋白質工学、生体超分子
自己組織、生体膜、骨の自己修復
医薬
ドラッグデリバリーシステム
高分子材料 分子デバイス、非線形光学材料、光双安定材料、
ケモメカニカル材料、LB膜
セラミックス
機械・全属
構造物
第3図 よりインテリジェント材料の概念
粒界機能制御センサ材料、圧電材料、
自已修復材料
自已診断材料、
自已修復材料。インテリジェントスキン
スマートマテリアル・ストラクチャー
第2表 インテリジェント材料研究の取り組み
4. インテリジェント材料
インテリジェント材料の概念は、第3図4)に示すとおりであり、一口で言えば、自らが検知
し(センサ機能)、自らが判断し自らが結論を出して(プロセッサ機能)、自らが指令したり
行動を起こす機能(エフェクタまたはアクチュエータ機能)を併せ持つ材料と言われています5)。
現在、これがインテリジェント材料であると言える材料は開発されていませんが、第2表5)
に示す研究取組みが行われています。
5. おわりに
(参考文献)
1980年代の新素材ブームが去ってか
1 )神 田 基 、
「 二次電池 の 現状 と将来 」、
日本電子材料
らは、新素材の研究も沈静化していま
技術協会秋期講演大会講演概要集、
(1999),p23 2)渡辺正五、
「水素自動車の開発動向」、
すが、ニーズのあるところには着実に
燃焼研究No.115,(1999), p29
応用が行われてきています。
3)山内 清、
「形状記憶・超弾性合金の応用例」、
20世紀の材料では「丈夫で長持ち」
がキーワードであったのに対して、21
世紀は「環境調和」がキーワードにな
り材料開発の方向性も様変りしてきて
います。
形状記憶 合金に関する講演会予稿集、
2001 p13-22
4)高木俊宣、
「インテリジェンド材料とは」、
化学と工業、
Vol47,
No.7, (1994), p865
5)高木俊宣、
「インテリジェント材料について」、
インテリジェント材料フォーラム<特別号> 1999, 5.11 、
p36)新谷紀雄、
「金属材料強度に関するインテリジェンス」、
バウンダリー、
Vol.112, No.3, (1996)p8
(西村 勇作)
設 備 紹 介
設 備 紹 介
異常電圧が発生出来、その影響度を評価する装置を設置
―電力品質として(瞬低、不平衡、高調波など)の評価研究に利用―
流通設備研究室(系統・制御)
1. 背景、目的
インピーダンス負荷(18kVA)
当社では、安全で停電の無
リアクトル負荷
(0∼18kvar各相個別可変)
い電力供給を維持するために 、
様々な努力をしてきており、
世界最高レベルの供給信頼度
異常電圧発生用
電源装置(18kVA)
摸擬送電線
0-3-5-8%
at 18kVA
抵抗負荷
(0∼18kW各相個別可変)
を維持しています。しかしな
6%L
コンデンサ負荷
(0∼18kvar各相個別可変)
がら、規制緩和のもとでは、
サイリスタ負荷(3kVA)
分散型電源などの導入による
DCL
電力の品質低下が懸念されて
α角30∼150el連続可変
います。
回転機負荷(5kW)
電力品質で問題となる電圧
直入れ摸擬
第1表 電圧の異常現象の代表的な項目
No 項 目
持続時間
始動用L
内 容
インバータ連系摸擬
2∼20次程度 の高調
波による異常電圧波
数サイクル
1 高調波 ∼数時間 形による負荷機器 の
異常動作及び故障を
誘発
負荷模擬
・定トルク
・ω2特性
など
汎用インバータ
2 電 圧
フリッカ
数分∼
数時間
電圧が特定の周期で
瞬時変動 を繰り返し
照明 のちらつきや機
器の誤動作を誘発
電 圧
3
不平衡
数分∼
1日
三相電圧 の 不平衡
により回転機 の過熱
や故障、機器の誤動
作を誘発
電 圧
ディップ 5ms∼
4 (瞬低、 数秒
瞬断)
電圧の瞬時的な低下
で、インバータ機器の
停止や照明の消灯、
回転機トルク変動な
どを誘発
プログラマブル負荷(6kVA)
PLLによる周波数追従型定電流源
制御モード :定電流制御
定電力制御
定抵抗制御
任意波形によるクレストファクタ・高調波電流摸擬可
第1図 装置の全体構成
の異常現象の代表的な項目を第1表に示します。
これらの現象に対してお客さま側では、次の理由から、従来以
上に電力品質が重要視されています。
・コンピュータがあらゆる場所で プロセスに利用されている
・生産ラインの高性能化により一 旦停止すると、再起動などに多 くの費用や時間を要する
・インバータ等パワーエレクトロ ニクス応用製品が増加している
このようなお客さまの電力品質の維持に対するご要望に応えるために、総合技術研究所では
高品質で安価な電力を供給する研究を行っています。
そこで、総合技術研究所では、お客さま構内での各種電気設備の電力品質に対する影響を評
価するための試験設備を開発し設置しました。
異常電圧
発生装置
統括システムPC
(計測用モニター)
瞬低発生
試験装置
電源装置
計測盤
写真1 瞬時低下電圧発生用電源装置
2. 装置の概要
開発した装置は以下の機器から構成されています。
①異常電圧発生用電源装置:各種電圧の品質異常現象を模擬する電源装置
②送電線模擬装置:送電線インピーダンスを模擬する装置
③インピーダンス負荷装置:抵抗負荷・リアクトル負荷・コンデンサ負荷を模擬する装置
④サイリスタ負荷装置:サイリスタによる直流変換器を模擬する装置
⑤回転機負荷装置:直入れ及びインバータ連系の誘導機負荷を模擬する装置
⑥プログラマブル負荷装置:定電力負荷や任意電流波形による特殊な負荷を模擬可能な装置
第1図に装置の全体構成を示します。
3. 装置の特徴
本装置は次の特徴を有します。
(1)異常電圧発生用電源装置は、付属のパーソナルコンピュータで異常電圧発生のシュミレー
ションや波形を任意に作成が可能
(各相個別設定も可能)です。
(2)各種模擬負荷装置は実機のミ
第2表 瞬時低下等電圧発生用電源装置の品質仕様
一般仕様
ニモデルで構成(主回路構成は実
機と同等)しています。
(3)充実した計測・監視・保護機能
装置の構成機器を組み合わせるこ
とで、各種電圧の品質を制御し系
統に発生する異常現象に対して、
・負荷機器に対する影響評価
・複数の特性の違う負荷機器によ る複合現象の解析
・対策装置の検証
などが実施可能です。
第2表に瞬時等低下電圧発生用電
定格周波数:60Hz
発生可能電圧:3相各相0∼203.6Vpeak(定格115.5Vrms)
発生可能電力:18kVA(抵抗負荷、定格電圧発生時)
低下幅設定範囲:定格電圧に対して0%∼100%
瞬時電圧低下・
0.1%単位(各相個別)
瞬時停電機能
継続時間設定範囲:4ms∼65s 1ms単位
∼359.9°
瞬時位相変化 位相変化設定範囲:0.0°
0.1°
単位(各相個別)
機能
継続時間設定範囲:4ms∼65s 1ms単位
設定次数:2次∼25次(基本波周波数に対して)
重畳方法:各次数に対して任意の振幅・位相を設定し
基本波に加算(複数重畳が可能)
設定方法:変動前電圧及び変動後電圧、
スイープ時間
を設定する
電圧変動機能
設定範囲:電圧 0V∼144V 0.1V単位
スイープ時間 1s∼1000s 0.1s単位
高調波重畳
機能
フリッカ機能
設定方法:フリッカの変調周波数を設定(出力波形に乗算)
設定範囲:変調周波0.1Hz∼60Hz 0.01Hz単位
単位変調振0.0%∼100.0% 0.1%単位
変調方法 正弦波変調/三角波変調
を基本波に加算
次数間高調波 設定方法:任意の周波数(1種類)
設定範囲:周波数 0.1Hz∼1000Hz
機能
4. 今後の取り組み等
既に小容量の瞬低発生装置の開発は、R&D News 403号(2001/7)で紹介していますが、今回
開発した装置での負荷機器の瞬低耐量データは、R&D News 407号(2002/3)で報告していま
す。
今回、新しく開発した装置の機能を主体に紹介しましたが、今後、本装置により種々の瞬低
対策装置の瞬低に対する能力評価や分散電源など機器の電力品質耐力評価研究に精力的に取り
組み、瞬低に対する実体データの収集・把握に努めていきたいと考えています。
また、本装置の電源となっている電圧アンプを電力系統シミュレータのAPSAと配電シュ
ミレータの結合装置に適用する幅広い取り組みを検討しています。
なお、現場での不平衡障害や高調波問題などにも適用可能ですから、お客さまからのご要望
に応じて対応していきたいと考えています。
写真1は、設置主要部の姿図です。
(武内 康夫)
[連絡先 社用97-6323 PHS 070-5770-3675]
社内案内
第3回 総合技術研究所
『外部委員による研究評価会』
を開催
−外部の専門家を招き「構造物周辺の波浪場特性における
多方向性の影響に関する研究」の評価を受ける−
電力技術研究所・所長スタッフ
この度、総合技術研究所において第3回『外部委員による研究評価会』を開催しましたので、その概
要を紹介します。
1. ねらい
総合技術研究所が平成5年度から取り
組んできた基礎技術研究分野の内、社内
で適切な評価が困難な分野について、外
部の専門家から研究の進め方や方向性、
研究成果に対し客観的なアドバイスや評
価を頂き、更なる研究の活性化と効率化
に資することとしており、今回は湾岸・
海岸工学分野で研究評価会を行いました 。
2. 過去の研究評価会
写真 1. 外部評価会の状況
実施月
基礎技術分野 テ ー マ
第1回
H12/6
化学・バイオ
遺伝子操作を用いた耐ストレス植物の育種
奈良先端科学大:新名教授他
第2回
H13/12
パワエレ材料
パワー半導体素子の長期信頼性評価
東京理科大:正田教授他
外部評価委員
3. 実施概要
(1)日時 平成15年3月5日(水) 14:
00∼17:00
(2)総合技術研究所
(3)出席者
①外部評価委員
・ 高山 知司 氏(京都大学 防災研究所
水災害研究部門 教授)
・ 平石 哲也氏(港湾空港技術研究所 海洋・水工部 波浪研究室長)
・ 榊山 勉 氏(電力中央研究所 我孫
子研究所 流体科学部 上席研究員)
写真 2. 発表中の目見田シニアリサーチャー
②社内メンバー
・ 土木建築室長、土木Gチーフマネジ
ャー、研究開発 Gチーフマネジャー
・ 総研所長、副所長、構築研究室主幹
③被評価者
・ 目見田シニアリサーチャー
(4)スケジュール
・ 総合技術研究所の取り組み概要
・ 構築研究室の概要と水理研究への取り
組み概要
・ 被評価者研究発表
・ 海岸水理実験棟視察
写真 3. 海岸水理実験棟視察
・ 質疑応答、診断、講評
4. 発表概要
「構造物周辺の波浪場特性における多方向性の影響に関する研究」において実施した、斜め入射
波が作用する海岸構造物の耐波特性評価や構造物周辺の波浪変形特性などについて発表しました。
5. 実施結果
各外部委員からは、多方向不規則波造波の実験設備を十分に活用し、数多くのデータを詳細に分
析されているといった評価を頂きました。
また今後、土木事業が減少し研究に対するニーズも減少していく中では、「独自の研究を行う。」
「既設設備を如何に維持補修していくか。」「実験設備などの施設を有効に活用する。」「少ない
人員で如何に技術力を向上させるか。」が重要であり、研究者の技術力向上には、他の研究機関や
大学との連携による共同研究も必要であるとのご意見も頂きました。
6. おわりに
総合技術研究所では、今後も自主研究分野の中からテーマを選定し、外部の専門家の方々の評価
を頂く計画です。
社内案内
平成15年度優良省エネルギー設備顕彰で
(社)日本冷凍空調設備工業連合会会長優秀賞(新設設備部門)受賞
−産業用・自然冷媒超低温二元冷凍装置−
総合技術研究所
受賞件名:産業用・自然冷媒超低温二元冷凍装置
受 賞 者:和歌山冷凍株式会社 株式会社前川製作所 関西電力株式会社
優良省エネルギー設備顕彰は、(社)日本冷凍空調設備工業連合会(日設連、栗屋利喜男会長)
が、冷凍空調設備の省エネルギー・環境保全を一層促進するために、優良事例を広く募り、こ
れを顕彰するものです。今回、田中辰明お茶の水女子大学教授を委員長とする審査委員会にお
いて審査された結果、(株)前川製作所と当社で開発した「産業用・自然冷媒超低温二元冷凍
装置」が、日設連会長優秀賞(新
設設備部門)を受賞いたしました。
今回受賞した産業用・自然冷媒
超低温二元冷凍装置は、フロン冷
媒の代替として、環境によい自然
冷媒を使用し、超低温域で既存の
冷凍装置に比べて約20%の効率ア
ップを達成した技術が評価されま
した。平成15年度優良省エネルギ
ー設備顕彰式は、東京虎ノ門パス
トラルで平成15年2月24日に行われ、
栗屋利喜男会長より表彰状を頂き
ました。
(左)和歌山冷凍株式会社 川野 社長
(右)株式会社前川製作所 川村 常務
(中)当社総合技術研究所 主幹 松永
産業用・自然冷媒超低温二元冷凍装置の概要
フロンを使わない超低温域(−40℃∼−55℃)
の自然
冷媒冷凍装置 において従来製品 に比べて約20 %
効率を向上させた業界最高水準 の高効率 の冷凍
装置を開発しました。
これまでに開発されている自然冷媒冷凍装置 は、
アンモニアや炭化水素系等 を冷媒に採用しており、
その性質上、
毒性や可燃性があるため、
万一漏れた
場合の対策が必要でありました。また、毒性や可燃
性のない空気などの冷媒を採用すると、
効率が悪く
なると言う問題がありました。
そこで、
アンモニアと二酸化炭素の2つの自然冷媒
を採用し、
アンモニアの系統と二酸化炭素 の系統と www.kepco.co.jp/→研究開発情報→トピックス→高効率自
然冷媒冷凍装置の開発で紹介しています。
で熱交換を行うことで、
毒性や可燃性がない二酸化
炭素を冷却部におくり、
お客様にとって安心・安全な
システムとしました。
社内案内
建設工学の分野で
当社研究所員に博士(学術)の授与
流通設備研究室(送電)
総合技術研究所 電力技術研究所 流通設備研究室(送電)の雪野昭寛主任研究員に、
平成15年3月25日、埼玉大学から博士(学術)の学位が授与されました。学位論文のテ
ーマは、「4導体2連続径間送電線のギャロッピングの要因分析」であり、埼玉大学工学
部山口宏樹教授指導のもと、当社での研究を続けながら成果をまとめたものです。
学位論文「4導体2連続径間送電線のギャロッピングの要因分析」の概要
社会基盤を支える電力供給を担
う基幹架空送電線は、野を越え山
を越えながら、雷、風、雪、塩等
着氷(雪)形状
電 線
の厳しい自然条件のなかでその機
能を果たすように、設計・保守・
運用されています。特に、日本海
初期発達角
風
動く範囲
揚力
側や高標高山岳地においては、着
抗力
氷雪した送電線が風に吹かれて上
風から受ける力
(空気力)
下に動揺する、ギャロッピング異
常振動現象が発生し、電気的短絡
事故や設備被害を受け、電力供給
吹き上げ角
軌 跡
モーメント
捻回周期
上下周期
共 振
の障害となっています。
このギャロッピング現象につい
て、基幹架空送電線としての4導
体2連続径間を架線した実規模試
図1 ギャロッピングに影響する主な要因
験線(敦賀試験線)のフィールド
観測から得られた気象条件と着氷
雪した電線の動揺状況データを要
因分析し、各種解析手法を駆使し、
観測では得られていない領域を補
足しながら、定量的に分析・解明
したことについてまとめたもので
す。
[電線着氷雪状況]
敦賀試験線で撮影された貴重な電
線着氷の写真です。
写真1 敦賀試験線で観測された電線着氷
[ギャロッピングに影響する
主な要因]
ギャロッピングとは、着氷雪し
た電線に風が吹くと、風から受
ける力により電線が持ち上がり 、
次に下がりながら縄跳びの縄の
ように主に上下に揺れる現象です。
この上下に動く範囲と密接に関
係する要因は、着氷雪の初期発
達角と風の吹き上げ角であるこ
とを数値的に明らかにしました 。
<アクセス> 関西電力 総合技術研究所
〒661-0974 兵庫県尼崎市若王寺3丁目11番20号
TEL 06-6491-0221
■阪急電鉄神戸線「園田駅」から徒歩約15分
■JR尼崎駅からタクシーで約10分、
またはバス約15分
■近松公園バス停下車徒歩約5分
●お問い合わせは
研究管理室 中西 瑞穂 TEL.06-6494-9800へ
2003.5
( 27 )
見学者数の紹介(15年4月現在)
研究管理室 (名)
15年3月実績
14年度累計実績
15年4月末実績
31
0
54
0
73
2
495
3
1,421
0
1,384
465
30
0
34
0
63
0
総合技術研究所
外国人再掲
巽実験センター
外国人再掲
南港CO2リサイクル研究施設
外国人再掲
編 集 後 記
最近の話題は、
イラクのサダム政権が、
米
り先行している現在、
当研究所研究者員が、
英の開戦から3週間で事実上崩壊したこと
博士号や社外表彰を受賞する暖かいニュー
です。1946年4月の日本の状況は中国撤退か、
スとともに、
将来のエネルギーを見据えた研
海外資産の凍結、
石油の輸入停止などの措
究など数多くの技術開発に貢献していること
置であり、
当時エネルギーが如何に大切であ
に心強く感じて頂きたい。
ったかが伺えます。
論語の李氏編に益者三友の友を持てとあ
今回執筆依頼したところ多くの新エネル
ります。
どうかその1人に今回掲載した研究
ギーや省エネルギー、
情報通信に係わる記
者が、
その友として役立てて頂きますように期
事を頂きました。不景気で暗いニュースばか
待しています。
●“R&D News Kansai”についてのお問い合わせまたはお気づきの点がありましたら、研究管理
室:奥田雅一まで電話(PHS 070-5770-5429、内線97-6726)または電子メールにてご連絡く
ださい。
●インターネット(URL∼http://www.kepco.co.jp/)→研究開発情報→R&Dで1998年4月号より掲
載内容をご覧いただくことが出来ますのでご利用ください。
●研究に対するお問い合わせ(技術的事項を含む)、ご意見、ご要望については、
技術相談窓口(PHS 070-5770-1763、内線97-6720)をご利用下さい。
R&D News Kansai 5月号
発行所
平成15年5月9日印刷 平成15年5月10日発行
関西電力株式会社 総合技術研究所
〒661-0974 尼崎市若王寺3丁目11番20号
TEL.06(6491)0221 FAX.06(6494)9727
印刷所
株式会社 大阪謄写館
本誌に記載されている記事、
写真等の無断掲載、複写、転載を禁じます。
〒530-0041 大阪市北区天神橋3丁目2番13号
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