自家用電気設備機器における絶縁劣化統計と予防保全-(PAS関係) 1.目的 近年の急激な社会の高度化・情報化に伴い、電力の安定供給に対する要求はますます厳しくなっている。一方、需要設 備においては点検のための停電作業の困難化や電気設備の経年化も進んでいる。今回、このような情勢を受けて、自家用 電気設備機器の事故の発生状況および保全手法などの現状を改めて調査するとともに、今後の予防保全のあり方について 検討した。 2.自家用電気設備機器のトラブル分析 (1)自家用波及事故件数の推移 ① H19の自家用波及事故件数は136件、 配電線事故件数1819件の7.5% ② 発生件数は減少傾向とはいい難い 発 生 (2)自家用波及事故の機器内訳 件 ① GR付PAS・・・44件、32% 数 ② ケーブル類・・・・47件、35% (3)不良および事故に至る年数(PAS) ①不良指摘内容は錆41%、制御動作不良30% ②不良に至る経年は10年以降(10年以前は雷等) (4)自家用波及事故と損害 ① 経済産業局のアンケート結果(自社分の損害) ・50~100万円・・・34% ・1000万円以上・・・ 5% ② 波及事故時の停電軒数・時間の推定 (関東電気保安協会による試算値) ・1事故あたり停電軒数・・・約700軒 (公衆街路灯を含む) ・停電時間・・・約80分 (5)分析結果 ・波及事故を減らすためにはPASとケーブル の対策することがポイントである ・波及事故の社会的影響の周知が必要 波及事故機器類の内訳 自家用波及事故の推移 400 負荷側 10件、7% 30% 波及事故発生件数 構成率 300 支持物 4件、3% 20% 構 成 率 200 発生件数 136件 10% 100 0% H元 H3 H5 H7 H9 H11 H13 H15 H17 H19 年度 PASの経年別絶縁劣化指摘状況 100% 90% 7.1% 26.3% 20年以上25年 未満 45.5% 15年以上20年 未満 21.4% 80% 70% 60% 9.1% 26.3% 28.6% 40% 18.2% 10年以上15年 未満 27.3% 10年未満 30% 20% 47.4% H16年度 H16 H17 5.PASの経年劣化の進 展モード分析(FMECA) 件数 30 25 20 15 10 5 0 22 21 20 19 18 17 16 15 14 13 12 11 10 経過年数 9 8 7 6 5 4 3 2 1 PASのハザード分析 2007年 ln(経年) 2006年 0 -1 ln(累積ハザード) 高圧需要家件 数10件 2 -2 2.2 (9.0) 2.4 2.6 (11.0) 2.8 (13.5) 3 (16.4) 3.2 (20.1) 2005年 2004年 -3 2003年 -4 2002年 -5 2001年 -6 y = 4.238x - 16.371 -7 線形 0.005 0.000 1 3 5 7 9 経年 11 13 15 17 19 高圧需要家件 数20件 ) 高圧需要家1 件 0.010 PASの推定不良発生数(経年16年~21年分) 70 60 発 50 生推 数 定 40 不 30 件良 20 10 0 (1)FMECA (故障モード・影響及び致命度解析) ① 劣化モードを洗い出し、危険 優先度、致命度により信頼性を評価 ② 保全面からの分析を実施 ③ 「致命度」順位:事故可能性を評価 [外箱]・腐食(57) (腐食は外箱の穴あきに至るもの) ・錆(44) [制御回路]電解コンデンサ(34) ④「危険優先度」順位:発見と対策を評価 [外箱]腐食(24) [制御回路]電解コンデンサ(40) 2000年 -8 21年 8.2 ( 高圧需要家件 数12件 率 0.015 PASの解体調査結果(抜粋) H18年度 図3.1.3 経過年数別PASの不良指摘数 高圧需要家件 数8件 自家用需要家1件あたりの 年間事故発生率の5年平 均値=0.0057 PASの劣化判定基準 H18 H17年度 高圧需要家の直列系信頼度(PAS) 0.040 (2)塩害のメカニズム ① トラッキングの発生メカニズム:漏れ電流と微小放電の繰り返し ② 塩害発生条件:主に海岸線の重汚損地域で発生 (3)錆と亜鉛めっき ① 腐食と錆のメカニズム:金属表面の局部電池作用 ② ステンレスの局部腐食(孔食、粒界腐食他):現実的には被害例なし ③ めっきの理論的耐食性・・・海岸地帯で25年 (PASの点検結果では、施設後10年で発錆あり) (4)電解コンデンサの劣化(制御回路) ① 電気部品の中で最も寿命が短い・・・裕度を持った設計を採用 ② 推定寿命・・・最大15年、推奨9年 (5)PASの解体調査 ① 点検不良のPAS6台を解体調査 ② 1台はメーカーにて精密解体調査 ③ 解体調査結果→異常なし (6)PAS劣化の判定基準 ① 高圧受電設備規程に判断基準が記載 ② 関東電気保安協会では、さらに厳しい基準を設定 0% -9 単 0.035 年 0.030 度 0.025 不 良 0.020 P A S の 解 体 調 査 状 況 42.9% 10% (1)解析データ ① 関東電気保安協会の不良指摘データを使用(45,231台) ② 不良指摘は経年12~13年がピーク (2)ハザード解析 ① ワイブル分布を仮定し、打切りデータを含むため累積 ハザード解析を実施 ②実施結果 形状パラメータ m=4.24(摩耗故障型) 尺度パラメータ η=47.6(単位[年]) (3)高圧需要家の直列系信頼度 ① 1配電線路あたり8~12軒の需要家を推定 ② 自家用需要家1軒あたり事故発生率(0.0057)に 相当するPASの信頼度→経年10~11年(全体推定値) (4)不良発生数の推定 ① 2007年以降不良指摘数が増加傾向と推定 ② 全体の経年別内訳としては、今後、経年18年以降の 不良指摘数が増加(経年別施設数分布も影響) 0.045 4.劣化メカニズムの整理と劣化判断基準(2) 50% 3.PAS絶縁劣化のハザード分析 0.050 平成22年1月 財団法人 関東電気保安協会 公益活動推進本部 自家用電気設備機器における絶縁劣化統計と予防保全研究会 14.6 20年 12.5 14.6 2.3 4.8 6.0 5.6 7.0 10.6 12.4 12.9 1.1 2.0 4.0 5.0 7.4 8.9 10.4 10.8 8.5 8.6 8.9 7.1 7.3 5.8 7.0 5.7 7.0 6.3 2007 2008 2009 2010 2011 19年 18年 17年 16年 年度 4.劣化メカニズムの整理と劣化判断基準(1) (1)絶縁材料の劣化要因 ① 熱劣化 寿命は10℃半減則が成り立つ ③ 機械的劣化 クリープ応力緩和と繰返し応力 ② 電気劣化 不平等電界の部分放電による劣化 ④ 吸湿・吸水 材料の物理的・化学的変化を誘発 トラッキングの発生とトリーの形成 ⑤ 化学薬品による劣化 6.予防保全に向けた提言および課題 (1)PASの劣化状態の捕捉についての提言 ① 環境に応じた劣化様相推定の推奨 外観点検の充実と点検結果のトレンド管理が重要 ② 有効性を踏まえた点検メニュー整理の推奨 ・本体水浸入確認:トリップコイルの絶縁抵抗測定 ・制御回路劣化 :トリップ回路電圧測定 ③ 制御回路と本体とを区分管理(コンデンサ劣化対応) (2)PASの推奨更新時期 ① PASの重要性 PASは通常の電気設備と異なり、波及事故を 防止するというきわめて重要な役割を保有する。 ② 波及事故の影響の大きさ、総合的コストダウン等 を考慮すると、早めの計画的な取替えが望ましい ③ 劣化進展面から経年10年以降は取替えを視野に 入れた点検充実と、経年15年以降の計画的取替 を推奨(取替は施設環境も考慮) (3)今後の課題 ① 湿度センサ、雷電流センサの開発 ② 情報技術を活用した状態監視への移行 PASの更新推奨状況の比較 自家用電気設備機器における絶縁劣化統計と予防保全-(ケーブル関係) 1.目的 自家用電気設備機器の事故の発生状況については、「自家用電気設備機器における絶縁劣化統計と予防保全(PAS 関係)で示したように、PASとケーブル事故の減少が予防保全のポイントである。ここでは、特にケーブルについて、 事故発生状況や保全手法などの現状を改めて調査するとともに、今後の予防保全のあり方について検討した。 2.自家用電気設備機器のトラブル分析 (1)自家用波及事故件数の推移 ① H19の自家用波及事故件数は136件、 配電線事故件数1819件の7.5% ② 発生件数は減少傾向とはいい難い (2)自家用波及事故の機器内訳 ① GR付PAS・・・ 44件、32% ② ケーブル類・・・・ 47件、35% (3)不良および事故に至る年数(ケーブル) ①不良指摘内容は絶縁劣化85% ②不良に至る経年・・・15年(施設環境による) (4)自家用波及事故と損害 ① 経済産業局のアンケート結果(自社分の損害) ・50~100万円・・・ 34% ・1000万円以上・・・ 5% ② 波及事故時の停電軒数・時間の推定 (関東電気保安協会の試算値) ・1事故あたり停電軒数・・・約700軒 (公衆街路灯を含む) ・停電時間・・・約80分 (5) 分析結果 ・波及事故を減らすためにはPASとケーブル の対策をすることがポイント ・波及事故の社会的影響の周知が必要 波及事故機器類の内訳 負荷側 10件、7% 自家用波及事故の推移 400 30% 波及事故発生件数 構成率 300 発 生 件 数 支持物 4件、3% 20% 発生件数 136件 構 成 率 200 10% 100 0% H元 H3 H5 H7 H9 H11 H13 H15 H17 H19 年度 ケーブルの経年別絶縁劣化指摘状況 100% 30年以上35年未満 25年以上30年未満 80% 20年以上25年未満 10年以上15年未満 40% 5年以上10年未満 5年未満 20% 0% H16年度 H17年度 H18年度 5.ケーブルの経年劣化の 進展モード分析(FMEA) 図3.2.3 経過年数別ケーブルの不良指摘数 件数 12 10 (1)解析データ 8 ① 関東電気保安協会の不良指摘データを使用(106千本) 6 ② 不良指摘は経年15年がピーク 4 (2)ハザード解析 2 ① ワイブル分布を仮定し、打切りデータを含むため累積 0 30 29 28 27 26 25 24 23 22 21 20 19 18 17 16 15 14 13 12 11 10 9 8 ハザード解析を実施 経過年数 ② 実施結果 形状パラメータ m=3.23(摩耗故障型) 尺度パラメータ η=127.7(単位「年」) ケーブルのハザード分析 (3)高圧需要家の直列系信頼度(PASがないと仮定) ln(経年) ① 自家用需要家1軒あたり事故発生率(0.0057)に 0 相当するケーブルの信頼度→概ね経年24年(全体推定値) -2 (9.0) (11.0) (13.5) (16.4) (20.1) (24.5) (30.0) ② PASを加味すると、配電系統からみた高圧需要家の -4 y = 3.2291x - 15.661 信頼度はPASに大きく依存する -6 (4)不良発生数の推定 -8 ① 2007年以降不良指摘数が増加傾向と推定 -10 ② 施設数分布の影響もあり、26年以降の不良指摘数が増加 2.2 2.4 2.6 2.8 3 3.2 3.4 ln(累積ハザード) 2 3.6 7 6 5 4 3 2007年 高圧需要家 件数8件 0.011 高圧需要家 件数10件 自家用需要家1件あたり の年間事故発生率の5 年平均値=0.005 7 0.009 0.007 2005年 2004年 2003年 線形 0.005 高圧需要家 件数12件 高圧需要家 1件 0.001 -0.001 1 6 11 16 21 26 経年 31 36 41 46 高圧需要家 件数20件 21-25年以下 16-20年以下 ) 0.003 経年26年以降 が増加している 26年以上 ( 単 年 度 不 良 率 ケーブルの経年別推定不良発生数 45 40 推 35 定 不 30 良 発 25 生 20 数 15 件 10 5 0 11-15年以下 2007 2008 2009 2010 2011 (1)FMEA ① 劣化モードを洗い出し、危険 優先度、致命度により信頼性を 評価 ②危険優先度」順位 ・二層同時押し出し・水トリー(36) ・電気・サルファイドトリー(15) ・半導電層熱劣化(内外部)(15) 2006年 高圧需要家の直列系信頼度(ケーブル) 0.013 ケーブル劣化の種類 (2)ケーブル製造方法(水トリーの防止) ① 三層同時押出し(民需は二層押出しも混在) ② 乾式架橋 ③ 内部・外部半導電層の平滑化 (3)ケーブルの種類 ① T-T(初期・半導電層テープ巻・水蒸気架橋) ② E-T(現在、民需用の大部分に採用。湿式もあり) (1975~、二層同時押出し・外部半導電層テープ巻) ③ E-E(電力会社では全数採用。民需は限定採用) (1985~、三層同時押出し、乾式架橋) (4)ケーブルの劣化メカニズム ① 水トリー劣化が最大要因 ② 遮へい銅テープ破断、熱劣化等 (5)ケーブル劣化診断 ① 絶縁抵抗試験 ② 直流高圧絶縁抵抗試験 ③ 誘電正接試験 ④ 交流耐電圧試験 ⑤ 直流耐電圧試験 ⑥ 部分放電試験 ⑦ 各種活線診断法の開発 (6)ケーブル劣化の判断基準 ① 高圧受電設備規程に判断基準(例)を記載 ② 各電力会社、電気保安協会等でそれぞれ判断基準を設定 15年以上20年未満 60% 3.ケーブル絶縁劣化のハザード分析 0.015 4.劣化メカニズムの整理と劣化判断基準(2) 平成22年1月 財団法人 関東電気保安協会 公益活動推進本部 自家用電気設備機器における絶縁劣化統計と予防保全研究会 10年以下 4.劣化メカニズムの整理と劣化判断基準(1) (1)絶縁材料の劣化要因 ① 熱劣化 寿命は10℃半減則が成り立つ ③ 機械的劣化 クリープ応力緩和と繰返し応力 ② 電気劣化 不平等電界の部分放電による劣化 ④ 吸湿・吸水 材料の物理的・化学的変化を誘発 トラッキングの発生とトリーの形成 ⑤ 化学薬品による劣化 6.予防保全に向けた提言と課題および課題 (1)ケーブルの劣化状態の捕捉についての提言 ① 現在はケーブル種別に関わらず一律管理であるが、 今後はE-TとE-Eの区分管理を推奨 ・E-Tは、施設環境により水トリーの可能性大 ・E-Eは、水トリーに対し信頼性は大きく向上 ② 測定結果の履歴管理による、段階的な劣化捕捉を推奨 ③ 劣化診断装置の効果的な活用 ・橋絡トリーの発見:直流漏れ電流試験が有効 ・停止が困難な場合:活線診断を活用 (2)ケーブルの推奨更新時期 ① ケーブルは事故時の経済的損失が大きく、劣化判断の 困難性を踏まえ、早めの計画的な取替えが望まれる ② E-Tケーブルは15年超過(水気のない場合は20 年)で取替促進、E-Eケーブルは経年20年以降 の点検充実と取替推奨 ③ 信頼性からE-Eケーブルの採用 ④ 波及事故防止面からはPASの新設・取替の優先も必要 (3)今後の課題 ① E-Eケーブルへの統一化 ② 将来的には情報技術を活用した状態監視への移行 ケーブルの更新推奨状況の比較
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