独占愛欲 - 竹の子書房

玉
手
箱
独占愛欲
く
せ
ん
あ
玉置真珠
ど
い
著
竹の子書房文庫
よ
く
※本書に登場する人物名・団体名・描かれている内容は架空のものです。作
中において現代では若干耳慣れない言葉・表記・表現が登場する場合があり
ますが、これらは差別・侮蔑を意図する考えに基づくものではありません。
カバー 九神杏仁
青い孤独
苦労らしい苦労というやつを味わったことがない。
両親は普通だし、勉強をしなくても成績は悪くない。
きっとこのまま押し出されるように高校から大学へ進み、
やがて社会の輪に組みこまれるのだろう。
へ ど
そう考えると、反吐が出そうになる。
それでいいと諦めている自分自身にも。
玉手箱 独占愛欲
5
草の傾斜
午後一の授業科目はサッカー。
この日照りの下、くそ真面目に参加するやつは脳みそ
まで筋肉でできているに違いない。
体育教師に頭痛を訴え、グラウンドわきの草の傾斜へ
悠々と横たわる。
ふと通りかかった古文の先生が、そんな僕を気遣わし
げに見て言った。
「大丈夫かい?」
玉手箱 独占愛欲
6
午睡
気まずくて柔らかな瞳から目を逸らす。
陶器人形のように綺麗な先生。
「こんな処にいたら熱中症になるよ。おいで」
先生はわざわざ僕の手を引き、保健室に連れこむと
ベッドを指した。
「不安なら、しばらくいてあげようか?」
なま
背筋が粟立つほど艶めかしい声に、言葉を失う。
玉手箱 独占愛欲
7
浮かび来る影
「冗談だよ。じゃ、お大事に」
先生は柔らかく微笑み、部屋を出て行こうとした。
「待って!」
とっさに起き上がり、細い腰を抱きしめた。
え、と半開きになった口唇を塞ぐ。
ひと回り近く年上とはとても思えない、濡れた口唇。
「先生はいつもこうして生徒を誘っているの?」
「なぜ?」
玉手箱 独占愛欲
8
先生は薄く笑い、首をかしげる。
その時、窓の外がかげって彼の顔に影が差す。
まつげ
睫毛が長い。
僕の心臓が大きく跳ねた。
「……そうだといいなと、思って」
我ながらめちゃくちゃだ。
でも、先生は嬉しそうに言った。
「放課後またここにおいで。待ち合わせをしよう」
玉手箱 独占愛欲
9
夜色
やすぶ し ん
安普請のアパートは思ったより片付いていた。
が、手際よく押し入れから出てきた道具の数々を眺め
ているとざらついた気分になった。
男と繋がるための道具。
僕は舌を舌で絡めとりながら、滴り落ちるほどロー
ションを塗布し、わざと大きな音を立てて先生の恥部を
かき回した。
先生は両手で口を覆う。
玉手箱 独占愛欲
10
「今さら隠さなくても」
つい笑ってしまうけれど、そこだけうぶな仕草に胸が
苦しくなった。
指を抜くと切なそうに蕾をひくつかせるので、いきり
勃ったものを添える。
夜色の内でもなお白い腰を両手で引き寄せ、震える肉
襞へゆっくりと差し入れる。
玉手箱 独占愛欲
11
怒りの苦さ
「あぁ、っ」
最奥へ到達すると、先生は甘い声で喘いだ。
「もっと……」
尻を振ってねだる。
獣みたいだ――そう感じた瞬間、口内の唾液が急に苦
く変わった。
耐えきれずにプッと吐きかけても、あさましい獣は気
づきもしない。
玉手箱 独占愛欲
12
「誰とでも、こんな風にしているんだ、変態」
苛立ちにまかせて秘所をえぐる。
乱暴にされたほうがいいみたいだ。
「は、あっ」
のど
突き上げるたびに細い咽からはしたない嬌声が上がる。
ぎゅうぎゅうと根元を締めつけてくるくせに肉筒の中
はねっとりと僕のものをしごき上げてくる。
僕はいつしか我を忘れて腰を振っていた。
玉手箱 独占愛欲
13
うき恋に
「先生、せんせっ」
熟しきった内壁に絡めとられて、僕のものは呆気なく
弾けた。
すぼ
いやだ。まだこの細い躰を離したくない。先生の窄ま
りが震え、僕のものを必死で押し返そうとしている。
「先生」
口唇へキスを落とすと、繋がったところから信じられ
ない量の白濁がこぼれ落ちた。
玉手箱 独占愛欲
14
愛のほのめき
さすがに四度も精を放つとくたくたになって、布団へ
転がった。
小さな窓から細い月が見える。
「君の言う通りだ」
不意に、隣で寝転ぶ先生が呟いた。
「君に言われた通り僕は、気が向けば誰とでも寝る」
そして、先生は。
「だけど、私からキスをしたのは君がはじめてだよ……」
玉手箱 独占愛欲
15
髪みだれ
ピンと立った乳首に吸いつく。
舌先で転がすと先生は上体をのけ反らせた。
僕はやんわりと双珠を揉みしだき、そり返った彼の鎌
首を指の腹でいじめる。
「あっ」
すらりとした脚を折り曲げさせ、座位で欲望を突き入
れる。
髪を振り乱しながら、浅く深く、甘い声に導かれるまま。
玉手箱 独占愛欲
16
目の底に
「もう、駄目だよ……」
かす
切なく掠れる声を、聞こえないふりで押し通す。
馬鹿だろう、先生のくせに馬鹿だろう。
ひと回りも年上のくせに、こんな躰をしているくせに。
「止められるわけ、ないだろっ?」
僕の心臓は早鐘を打っているんだ。
あなたの目の底に映る真実がたとえ嘘でも。
玉手箱 独占愛欲
17
熟れたる恋の
しゃん、と腹に薄い蜜がかかった。
ぱ
す く
掬って舐めると、ほのかな苦味と塩気。
先生は恥ずかしいのか、耳たぶまで紅くしている。
われなかったので満足ゆくまで蜜を食む。
やめろとは言
きゃしゃ
再び先生の華奢な腰をつかんで動かした。
しゅうれん
熟れた肉筒が収斂――果てたのは、同時だった。
玉手箱 独占愛欲
18
魔の声
先生は絶叫し、腕の中で崩れ落ちた。
いくら自分から誘ったとはいえ、まさかこんなにされ
るとは思わなかったのだろう。
先生の白い首。
意識を失っくた
び
くら
このまま縊り殺してしまえ、と深い冥がりから声が聞
こえた。
明日になったら先生はまた誰かを惑わせ、この部屋へ
連れこむのだ。
玉手箱 独占愛欲
19
そんなのいやだ。
しとね
分かっている、今まで先生は僕の知らない誰かと褥を
共にし、これからも好き勝手に生徒たちやそのへんの男
どもに抱かれるのだろう。
今日、彼が僕に目を付けたのはたまたまだ。
これから――もちろん、彼を誘えばすぐにのってくる
だろう。
だけど、でも。
それでは駄目なのだ。
右手が細い首へ伸びる。
玉手箱 独占愛欲
20
左手で必死に抑える。
さまよ
しかし指先はしつこく咽元で彷徨う。
耳の後ろから腹の中から声が聞こえる。
殺せ殺せ殺せ――うるさい、僕の耳元で怒鳴っている
のは誰だ?
と顔を上げると、窓ガラスには血走った目の〈僕〉
ふ
わら
が嗤っていた。
玉手箱 独占愛欲
21
裏町を行く
おぼろ
かす
裏町を歩いていると全てのできごとが朧な夢と霞んで
ゆく。
家に着く頃には夜が明け始めていた。
僕は父母を起こさぬよう手早くシャワーを浴びた。
「あれ? レオン、母さんは水をくれなかったの?」
「くうん」
飼い犬の餌皿に水を汲み、鼻を撫でてベッドへ入り、
目を閉じた。
玉手箱 独占愛欲
22
ちりて腐れり
同窓会。
僕は十年ぶりに再会した級友に軽く手を上げた。
「久しぶり過ぎ」
「仕事で忙しいんだ」
「そういえばさ」
級友は言う。
がん
「古文の先生、癌で亡くなったんだって」
「へえ」
玉手箱 独占愛欲
23
「ここだけの話、少しだけ憧れていたんだ」
「へえ」
綺麗なひとだったから、という言葉にうなずく。
あの夜、僕は結局首を絞めずに逃げ出した。
だが、鏡ごしに僕たちは約束を交わしていた。
。
僕は己の内にある想いを〈僕〉にやける
いしじょう
存在し続ける限り先生を愛する、形而上的なもうひと
りの僕の誕生だ。
その代わり、もう誰も何も彼を自由にできない。
そう――僕が先生を殺した。
玉手箱 独占愛欲
24
パピレス
帝都艶上
玉置真珠 著
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竹書房タナトス文庫 定価 650 円(税込)
25
玉手箱 独占愛欲
目次
青い孤独
草の傾斜
午睡
浮かび来る影
夜色
怒りの苦さ
うき恋に
愛のほのめき
髪みだれ
玉手箱 独占愛欲
26
5
6
7
16 15 14 12 10 8
目の底に
裏町を行く
ちりて腐れり
(目次出題:雨宮淳司)
玉手箱 独占愛欲
27
熟れたる恋の
魔の声
23 22 19 18 17
本書の続きを、
読みたいですか?
竹の子書房文庫は、読者の皆様のご意見・
ご感想を糧に、ニョキニョキと成長します。
もっと読みたい、続きを読みたい、もうやらん
でいい、などなど、ご意見ご感想などありまし
たら、
【竹の子書房】玉手箱 独占愛欲 #tknk
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くださいませ。
RT がたくさん付くようでしたら、大慌てで続
きを書きます。
28
玉手箱 独占愛欲
竹の子書房文庫創刊に寄せて
竹野正法 竹野美恵
竹の子書房の前身である筍書房は、昭和二十年、終戦直後の東京に創立した。空襲により焼け野原となった国土を前に、我々
は何故負けたのかを自問自答した創業者・竹野正法は、そこに彼我の文化の差を痛感したという。当時の日本は学童の就学にも
事欠く有様であったが、良い図書を広く頒布せしめることで日本の教育水準を一層高めると同時に、知を愉しむ、娯楽としての
読書の価値を広めるべく、古今東西のあらゆる娯楽を書籍化することを決心した。当初、一刻も早い国土の再興を願った竹野正
法は、自らの姓から一字取り「竹書房」と名付けることを考えた。しかし、創立当時、空襲で焼け残った土に半ば埋もれたあば
らや住まいであった竹野は己の分を弁え、敢えて「未だ土の中」として筍書房と名付けた。竹野正法は、焦土の中から拾い集め
てきた焼け板に、燃え落ちた家屋の墨を溶いて「筍書房」と墨書した。焦土の苦しみを忘れまいぞと誓うこの看板は、平成頃ま
で長く筍書房の誇りと誓いを現すものとして本社正面玄関に掲げられてきた。その後、竹野正法の願いは須く実現された。昭和
二十七年、サンフランシスコ平和条約の発効により自由を取り戻し、続く朝鮮戦争特需で奇跡の復興を成し遂げた日本にあって、
筍書房は広く教育と娯楽を提供するべく粉骨砕身し、筍書房はウィットとペーソスを身につけた教養人の育成に努めた。
平成の初め、日本は空前のバブル景気に沸いた。筍書房は経営の拡大を目指して不動産経営など多角経営に乗り出していたが、
バブル崩壊と同時に経営が悪化。会社更生法適用が視野に入る、会社存続の危機に見舞われていた。創業者・竹野正法は、失意
の中、会社存続を願って世を去った。この筍書房の空前の危機を救ったのが、後に社長職を継ぐ竹野美恵である。既に萌芽はあっ
たものの、男社会であった出版界ではその内容に眉を顰める者も多く日陰に甘んじてきた「やおい」に着目した竹野美恵は、女
性読者の獲得を狙ってこの分野を表舞台に引き上げた。竹野美恵の狙いは的中し、日陰で腐り果てていた日本全国の腐女子、貴
腐人の心を掴むことに成功した。筍書房社内ではこれを「美恵流」と称して讃え、後の「BL」の語源ともなった、とされている。
筍書房は美恵流の成功により息を吹き返し、娯楽出版社として甦った。竹野美恵はさらに改革を推し進めた。旧来の筍書房とい
う社名では如何にも厳ついイメージが強く、美恵流に馴染んだ若い読者に近寄りがたいイメージを与えてしまう。そこで、CI
戦略に則り、社章と社名の刷新が進められた。社のシンボルマークである竹の子印はこのときに社章として選ばれた。竹の子印
はその後、数代に亘って修正が加えられ、平成二十二年に現在の形となった。社名については「筍」の文字を読めないゆとり世
代の若年層にも読める文字をという配慮から、音を同じくしつつ「竹の子」とした。昭和二十年の創立から六十五年をして、こ
こに現在の「竹の子書房」の名称が定着した。
竹の子書房はその後躍進を続け、電子書籍事業に進出、特化を果たした。しかし、創立時の竹野翁の気高い志を忘れることなく、
竹野美恵の柔軟さを蔑ろにすることなく、なお一層の進展と社会への貢献を続けていくべく、ここに誓いを新たにしたい。
玉手箱 独占愛欲
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玉手箱 独占愛欲
2010 年 10 月 10 日 初版発行
2010 年 10 月 11 日 改訂第二版発行
著者 玉置真珠
http://bit.ly/acKJ9q
目次出題 雨宮淳司
監修 カバー
加藤 一
九神杏仁
発行人
発行所
製版所
加藤 一
竹の子書房
http://www.takenokoshobo.com/
GLG 補完機構
©Tamaki Shinju/Takenoko-Shobo 2010 Assembled in Minami-Nagasaki