太陽ライマンα線偏光分光観測ロケット実験CLASP

太陽ライマンα線
偏光分光観測ロケット実験
CLASP
国立天文台・鹿野良平
坂東貴政, 成影典之, 石川遼子, 勝川行雄, 久保雅仁, 石川真之介, 木挽俊彦(NAOJ), G. Giono(総研大), 宮川健太(東大), 後藤基志(NIFS), 原 弘久, 末松芳法, 加藤成晃(NAOJ), 一本 潔(京大), 清水敏文, 坂尾太郎(ISAS/JAXA), 今田晋亮(名大), K. Kobayashi, T. Holloway, A.Winebarger, J. Cirtain (NASA/MSFC), B. Robinson (UAH), B. De Pontieu (LMSAL), R. Casini (HAO), J. Trujillo Bueno (IAC), J. Štĕpán (ASCR), R. Manso Sainz, L. Belluzzi, A. Asensio Ramos (IAC), F. Auchère (IAS), M. Carlsson (U.Oslo)
NASA観測ロケットによる国際観測ロケット実験
CLASP計画
Chromospheric Lyman-Alpha SpectroPolarimeter
• 太陽の彩層・遷移層が放つLyα輝線(121.6nm)を、
世界で初めて偏光分光観測する。
• Lyα輝線の直線偏光を高精度(~0.1%)で
検出し、ハンレ効果を用いて彩層・遷移層
磁場の直接測定を目指す。
• 次期太陽観測衛星計画SOLAR-Cの、
科学的・技術的パスファインダーである。
• 2015年夏、観測実施予定。
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太陽研連シンポジウム
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CLASPに世界の主要研究機関が参加
日米欧にまたがる5か国12研究機関
日本 : 鹿野良平 (PI, 国立天文台)
米国 : K. Kobayashi (PI, NASA/MSFC)
• すべてのCLASP観測装置
(但し、CCDカメラと
回折格子を除く)
• 核融合研と連携したハンレ効果によ
る磁場計測の確立
• CCDカメラ, 搭載エレキ, 観測ロケット, フライト運用
France : F. Auchère (PI, IAS)
連携
Norway : M. Carlsson (Oslo U.)
• 彩層・遷移層を含む
3D大気モデル
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•
球面回折格子
Spain : J. Trujillo Bueno (PI, IAC)
• ハンレ効果を含む
偏光線輪郭形成モデル
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なぜLyα輝線か?
Lyα core
Lyα
遷移層
Lyα wing
121.567nm
プラズマβ: Gary (2001) 輝線: Vernazza et al. (1981)
太陽大気中のプラズマβ
変化とLyα輝線形成域
太陽の真空紫外スペクトル
•
•
•
•
彩層・遷移層輝線が多い真空紫外線域で最も明るい輝線。
活動領域のみならず静穏領域でも明るい。
ハンレ効果による偏光度変化が彩層・遷移層での静穏領域磁場測定に適当。
太陽の彩層上部~遷移層で輝き、光学的に厚い。
 Lyα線の精密な偏光分光観測が可能となると、最もコロナに近い
プラズマβ<1の領域での磁場診断が太陽全面で可能となりうる。
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ハンレ効果で切り開く
彩層・遷移層磁場測定
• 光球磁場 = 100~1000ガウス以上
– ゼーマン効果によって磁場の直接観測が可能。
「ひので」も用いている一般的な手法。
• 彩層・遷移層磁場 = 10~100ガウス程度
– 激しいプラズマ運動による線幅増大も考慮すると、
ゼーマン効果による磁場測定は極めて困難。
– 100ガウス以下の磁場でも偏光率が変化し、
その偏光率変化がプラズマ運動によって
相殺されない
10”
ハンレ効果であれば磁場が測定
できる。
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ライマンα線彩層像(VAULT実験)
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Patsourakos et al. (2007, ApJ)
ハンレ効果の定性的な理解
鉛直軸に対する量子化 量子化軸の変更
STEP1
非等方放射場による
不均一な励起が生じる
(atomic polarization)。
励起状態
mz=–1
mz=0
mz=+1
スピン+1の
光子の吸収
スピン-1の
光子の吸収
mz=0
基底状態
磁場の軸に対する量子化
STEP2
STEP3
量子化軸変更でatomic 磁場により縮退が解かれ、
polarizationが混合し、
atomic coherence度が変化
副準位間が同位相化
自然幅
励起状態
(atomic coherence)
mB=+1
する。
mB=0 mB=–1 観測対象の
水素原子
STEP4
磁場
STEP1,2,3で決まる量子状態
にある原子が再放射すると、
非等方放射場
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原子からの
再放射
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その量子状態を反映した直線
偏光スペクトルが観測される。
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Lyα線の“Hanle効果”
“FAL‐C大気モデル” と“CRD散乱”
+Q:磁場
に平行
に基づく計算 (Trujillo Bueno et al. 2011, ApJ)
+Q:リム
に平行
400”‐slit
μ=0.3
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CLASP観測装置:光学系
モニター光学系
カセグレン望遠鏡
偏光分光装置
CCDカメラ
-1次光
スリット
回転波長板
開口
吸光/吸熱板
+1次光
軸外し
放物面鏡
等間隔溝
反射型
球面回折格子 偏光板
偏光分光装置
カセグレン望遠鏡
口径
φ270.0 mm
光学系
逆Wadsworthマウント
有効焦点距離
2614 mm (F/9.68)
観測波長
121.567 ± 0.61 nm
可視光除去
• 主鏡の“Cold Mirror”化
• 黒色板での吸光/吸熱
スリット
1.45 秒角(幅), 400 秒角(長)
回折格子
球面, 等間隔溝 3000本/mm
CCDカメラ
512×512 pixel
13μm/pixel
モニター光学系
観測波長
121.567 nm (フィルター)
スケール
0.0048 nm/pixel
1.11 秒角/pixel
スケール
1.03 秒角/pixel
分解能
0.01nm
3 秒角
視野
527×527秒角
偏光精度
0.1%
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偏光測定の原理
偏光測定の光学系
Ipol
偏光成分
CCDが受ける強度変動
Ipol
principal axes
incident Lyα light
CCDでの取得データ
D1 D2
68˚
Iunpol
無偏光成分
Iunpol
回転波長板
反射型偏光板
CCDデータから算出されるStokes成分
Q
U
I
= aK{(D1 – D2 – D3 + D4) + …}
D3
D4
time
time
観測時間全体を積分した場合の
想定される偏光プロファイル
= aK{(D2 – D3 – D4 + D5) + …}
= K{(D1 + D2 + D3 + D4) + …}
a: modulation coefficient
K: throughput value
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続々と完成するフライト光学素子
フライト・MgF2製 1/2波長板
フライト・反射型偏光アナライザー
フライト品最終設計値はIshikawa,R. et al. (2013, Appied Optics)にて確定
Bridouet al.(2011. Applied Physics A)提案の多層膜を使用。
まさにLyで遅延量180度!
空間的に一様で高偏光効率
98.9%!
Rs~54.7%
主鏡用“Cold mirror”コーティング
(試作品データ。フライト品は今春コーティング予定)
Rp~0.3%
主鏡サイズ全面にわたり一様な
高反射率@ Ly
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>50%
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望遠鏡・副鏡
フライト品・開発状況
望遠鏡・主鏡
望遠鏡・トラス構造
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主鏡パッド接着風景
モニター光学系: 光学系 & フィルター
波長板回転モータ & 駆動装置
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軸外し放物面カメラ鏡
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Values indicate azimuth.
磁場導出について
R.Ishikawa et al. (2014, submitted)
磁場の解は一意に決まらない。
• 「偏光(U/I, Q/I)磁場」の逆問題が
原理的にもつ不定性。
• 観測データのノイズ。
「磁場偏光」の順方向計算モデルの
データベースに観測データノイズを加え、
逆問題で解を一意に求める方策を検討した
(詳細は石川講演)。
 彩層の2次元画像データ (CLASPモニ
ター光学系、IRIS衛星、地上観測所)で、
筋構造の方位角から磁場の方位角を
限定する必要がある。
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不定性
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ライマンα線彩層像(VAULT実験)
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Patsourakos et al. (2007, ApJ)
彩層・遷移層の3次元構造の影響
• 実際には、彩層/遷移層は層構造ではない。
その影響評価は今後の課題。
• 詳細な磁場評価には3次元シミュレーション
(Carlssonら)と結合させた偏光線輪郭形成計算を
使った診断も検討している。
τ=1@Ly-alpha
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Stepan et al. (2012)
今後のスケジュール
• ~2014年春
各フライト品製作
– 日本(CCDカメラ&回析格子以外の装置全体)
– 米国(CCDカメラ&ロケット関連)・仏国(回折格子)
• ~2014年末
観測装置の組立・較正@日本
• ~2015年夏
フライトエレキとの噛合せ@米国MSFC
• 2015年夏
観測実施@米国White Sands
 観測時間=約5分。18UTころ。
 IRIS ・「ひので」・SDO等の衛星、および、地上観測
所との共同観測。
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2015年夏、White Sands Missile Rangeへ
砂漠の端から中央に向け打上げ。
>150kmに300s弱滞在。
パラシュートで装置は回収可。
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まとめ
• 彩層・遷移層磁場を、特に静穏領域で直接測定を
目指して、ロケット実験CLASPを準備している。
• 2014年に国内で観測装置の組立・試験・較正。
2015年初頭に米国に輸送し、夏に観測実施。
• 磁場導出の際の不定性を解くために、
彩層2次元画像を取得して、
磁場の方位角をある程度制限を与える必要がある。
CLASPモニター光学系や他装置との協調観測を
実施予定。
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