東九州自動車道 菱田川橋の設計・施工

プレストレストコンクリート技術協会 第18回シンポジウム論文集(2009年10月)
〔報告〕
東九州自動車道 菱田川橋の設計・施工
三井住友建設(株)
正会員 ○荻野目太志
西日本高速道路(株)
三井住友建設(株)
渡邉 芳弘
正会員
西村
(株)富士ピー・エス 正会員
公
岩下 義弘
1.はじめに
菱田川橋は,北九州市を起点とし福岡,大分,宮崎を通り鹿
児島県に至る東九州自動車道の鹿児島県末吉財部ICと大隅I
C(仮称)間に建設される橋長 688m,有効幅員 12m のPC8
径間連続ラーメン波形鋼板ウェブ箱桁橋である。
本橋では波形鋼板を架設材として利用する新しい架設工法を
採用し,従来のコンクリートウェブ箱桁橋の張出し架設で使用
する一般型移動作業車での施工を可能とした。また,支間割が
不等径間であるため,各径間の閉合部施工に課題があった。
本稿は,菱田川橋の設計と施工について報告するものである。
写真―1 張出し架設時全景
2.橋梁概要
本橋の橋梁概要を以下に示す。また,写真-1に張出し架設
12650
11760
445
185 1065
1750
600
2400
600
242
長:688.0m
560
754
支 間 長:[email protected]+124.0+75.0+54.0+52.9(m)
2800
員:全幅 12.65m(有効幅員 12.0m)
平面線形:R=3000m~4000m
P2
P3
P4
支間長 105000
支間長 124000
7000
7000
7000
7000
支間長 105000
支間長 75000
支間長 54000
川
菱田
川
8500
A1
0
33.
67+
.2
STA
P1
支間長 64900
P2
支間長 105000
P3
P4
橋 長 688000
桁 長 687000
支間長 105000
支間長 105000
川
29500
600
15000
3500
8000
7000
7000
8000
8000
500
600
菱田
23000
菱田
8000
3500
16000
5000
5000
支間長 52900
9000
17000
8000
43500
35500
5000
60900
52900
40200
33200
5000
20000
44800
37800
44800
16000
37800
3000
5000
0
21.
4+
.27
STA
500
8000
支間長 64900
600
A2
P7
P6
P5
橋 長 688000
桁 長 687000
支間長 105000
12000
P1
0
3.
7+3
500
18000
.26
STA
500
図-1 主桁断面図
8000
A1
1115 185
3058
700
1200
150
構造形式:PC8径間連続ラーメン波形鋼板ウェブ箱桁橋
幅
1750
3450
8000
220
560
置:鹿児島県曽於市大隅町~末吉町
橋
1500
1500
477
位
2905
300
1500
発 注 者:西日本高速道路㈱ 九州支社
2200
工 事 名:東九州自動車道 菱田川橋(PC上部工)工事
445
3000
3700
3180
250
500
時の全景を,図-1に主桁断面図を図-2に橋梁一般図を示す。
3000
300
2855
支間長 124000
支間長 75000
支間長 54000
8000
8500
8000
図-2 全体一般図
−307−
8000
0
21.
74+
A.2
ST
支間長 52900
7000
7000
8000
A2
P7
P6
P5
500
600
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〔報告〕
3.新架設工法の概要
移動作業車
従来の波形鋼板橋の架設工法は,先行して架設する波形鋼板の
ウェブ部のみを接合し,鋼板上下端に設置されている橋軸方向の
フランジプレートは施工性向上のため接合していない。このため
波形鋼板
1 ブロックの施工において,上下床版コンクリートの重量すべて
を移動作業車に受け持たせる必要がある。本橋では,波形鋼板ウ
ェブの上下フランジを接合し,下床版荷重を波形鋼板ウェブに受
け持たせ,波形鋼板を架設材として利用する新しい架設工法を採
用した。この工法には以下のような特徴がある。
1)一般型移動作業車の使用
図-3 新工法用移動作業車
従来の波形鋼板ウェブ橋の張出し架設で必要
となる波形ウェブ対応型の大型特殊移動作業車
【移動作業車分担分】
【波形鋼板分担分】
を用いることなく,コンクリートウェブPC箱
桁橋の張出し架設で使用する一般型移動作業車
移動作業車
上床版荷重
での施工が可能である(図-3)
。
2)施工ブロック数の減少
波形鋼板
下床版荷重を波形鋼板に負担させる(図-4)
下床版荷重
ことにより,移動作業車の受け持つ重量を少な
くできるため,従来工法では施工ブロック長を
作業台荷重
短くする必要がある柱頭部付近も,標準部同様
のブロック長とすることができ,施工ブロック
数を減少できる(図-5)
。本橋のサイクル工程
図-4 荷重分担概念図
を表-1に示す。新工法の採用により,各橋脚
につき2ブロックずつ減らすことができたため,
表-1 サイクル工程表
60 日程度の工程を短縮することができた。
(P4・
1
P5 橋脚張出し架設で 20 日,P2・P6 橋脚張出し架
移動作業車 移動・ 据付
設で 20 日,P1・P3 橋脚張出し架設で 20 日,合
下 床 版 型 枠 組 立
波形鋼板
3
2
4
6
5
7
8
架設・接合
下 床 版 鉄 筋 組 立
上 床 版 型 枠 組 立
計で 60 日短縮)
上 床 版 鉄 筋 組 立
横 締 め 鋼 材 組 立
3)架設PC鋼材の低減
架
設
鋼
材
組
立
コ ン ク リ ー ト 打 設
大型特殊移動作業車と比較し,移動作業車の
養生・脱枠・打継処理
緊
張
重量が軽減できるため,架設PC鋼材が低減で
き,経済性に優れる。
<従来工法>
P4
P4
3200
① ②
9@4000
③
④
⑤
⑥
2@4800 5047
5000
⑦
⑧
⑨
⑩
⑪
⑫
P5
4@4800
⑭
⑬
⑫
9@4000
⑪
⑩
12BL
⑨
⑧
⑦
⑥
⑤
3200
④
③
② ①
14BL
曲線擦り付け
直線
P4
曲線擦り付け
P5
<新工法>
10@4800
P4
①
②
③
④
⑤
⑥
4800
⑦
⑧
⑨
⑩
12@4800
⑫
⑪
10BL
曲線擦り付け
P5
⑩
⑨
⑧
⑦
⑥
P5
⑤
④
③
12BL
直線
曲線擦り付け
図-5 張出しブロック数の比較(例:P4-P5 径間)
−308−
②
①
9
10
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4.P5-P6閉合部施工方法
P6支点部は支柱式支保工上に枠組み支保工を設置した
固定式支保工施工としたが,P6橋脚はラーメン構造では
ないため,P5-P6閉合までの間は,支保工を撤去する
ことができない。しかし,閉合部を施工するための足場お
よび支保工を設置するためには,一時的に枠組み支保工の
一部を撤去する必要があった(図-6)
。この問題を解決す
るため,P6橋脚上に油圧ジャッキを設置し(写真-2)
,
支保工で受け持つべき主桁の荷重をP6柱頭部で支持させ
写真-2 油圧ジャッキ設置状況
る施工法を採用した。
ステップ1 P5張出し-12BL施工
ステップ2 移動作業車本体 閉合ブロック施工位置へ移動
ステップ3 波形鋼板を架設し,P6支承部に油圧ジャッキをセット
油圧ジャッキ
移動作業車がこのまま前進すると
作業台と支柱が干渉
ステップ4 P6の支保工を一部解体
作業台は分離し,既設の主桁に
あずけ,作業車本体のみ前進
<油圧ジャッキセット位置>
ステップ5 閉合部足場支保工組立
2330
P7側
300tジャッキ
2330
300tジャッキ
②
1090
①
R側
1040
L側
③
④
300tジャッキ
300tジャッキ
P5側
図-6 P5-P6径間施工方法
5.P6片張出し施工における検討
P6横桁部はP7側への片張出しとなる架設内ケーブル(12S15.2:P5 側 10 本)が横桁面に定着される構造
であり,完成外ケーブル(19S15.2:P5 側 8 本,P7 側 10 本,予備ケーブル各々2 本)の定着と併せて,横桁面
に大きな引張力が発生することが懸念されたため,3次元FEM解析による検討を行った(図-7)
。
解析の結果,完成系での予備ケーブル緊張時を想定したケースにおいて,外ケーブル定着部の下側に
6.2N/mm2 の引張応力が発生することを確認
した。この引張応力を低減させるため,当
初 3.7mであった横桁厚を 4.5mに変更し
た。
これにより0.9N/mm2 の応力を改善した。
鉛直方向引張応力度比較(完成系予備ケーブル緊張時)
・横桁厚 3.7m,鉛直締め鋼材なしの場合:σ=6.2N/mm2
・横桁厚 4.5m,鉛直締め鋼材なしの場合:σ=5.3N/mm2
・横桁厚 4.5m,鉛直締め鋼材ありの場合:σ=3.6N/mm2
さらに,横桁面に鉛直締め鋼材(1S28.6)
を配置し,プレストレスを導入することに
より 1.7N/mm2 の応力を改善し,最終的に発
生応力度を 3.6N/mm2 まで低減した。なお,
横桁厚は自重増加によるP6橋脚への影響
を考慮して決定している。
図-8に本検討で決定したP6横桁部の
図-7 FEM解析結果(P6横桁部)
PC鋼材配置を示す。
−309−
プレストレストコンクリート技術協会 第18回シンポジウム論文集(2009年10月)
〔報告〕
【 側 面 図 】
【 断 面 図 】
1S28.6
12S15.2
19S15.2
19S15.2
図-8 P6横桁部PC鋼材配置
6.P6-P7径間の施工方法
P6-P7径間部において支間割の関係から,隣のP5の張出し架設後,P6からの片張出し架設で4ブ
ロックまでを施工し,次に波形鋼板を先行架設してP6-P7を閉合し,移動作業車で5ブロックから閉合
ブロックまで主桁の施工を行った(図-9)
。 P6-P7閉合時の荷重を先行した波形鋼板に受け持たせる
ことにより,PC鋼材量を低減することができた。
ステップ1 P6片張出し 1BL施工
54000
54000
P6片張出し施工
6700 7@4800 13700
P6片張出し施工
6700 7@4800 13700
A2
P7
P6
10 11 12 閉
ステップ3 P6片張出し 5BL~閉合BL波形鋼板先行架設
10 11 12 閉
ステップ2 P6片張出し 2BL~4BL施工
ステップ4 P6片張出し 5BL~閉合BL施工
54000
54000
P6片張出し施工
6700 7@4800 13700
P7
A2
1 2 3 4 5 6 閉
P6片張出し施工
6700 7@4800 13700
P6
10 11 12 閉
P7
P6
1
A2
1 2 3 4
P7
P6
10 11 12 閉
1 2 3 4 5 6 閉
図-9 P6-P7径間施工方法
7.おわりに
平成21年5月末時点で,上部工橋体についてはP1~
A2までの連結が完了し,橋面工についてはP2~A2ま
で壁高欄の施工が完了している(写真-3)
。現在,今年度
の完成に向けて鋭意施工中である。
最後に,本橋の設計・施工に関し,ご指導ご協力をい
ただいた関係各位に感謝の意を表します。
写真-3 全景写真
−310−
A2