スパッタリング法を用いた機能性 薄膜の高速低温結晶化成膜技術 都城工業高等専門学校 物質工学科 准教授 野口 大輔 20110628 南九州発新技術説明会 薄膜の応用分野 薄膜とは・・・物質の形態の一つ。文字通り薄い膜のことである。 応用分野 / 応用例 環境エネルギー 記録メディア 半導体 太陽電池・建材 DVD・CD±RW・CR-R・CD などの光学部品 半導体部品・レーザー スイッチ 表示 光通信 液晶プロジェクタのレンズや 光部品・液晶・有機ELなど DWDMフィルタ コンシューマー製品 カメラ・デジタルカメラ・ビデオのレンズ や光学部品携帯電話部品・自動車 関係部品・光学機器 1 スパッタリング法(反応性スパッタ法) RF-Power Matching Box 外観 + Ti Vacuum Pump Ar Gas Glow discharge 概略図 Matching Box RF-Power Ar+ Ar Ti e- Insulator O2 Secondary electron N S S N N S DG Heater Substrate DC-Power IG Arc less Earth Ar Pig 特長 TMP Shutter Target N S DC-Power Reflector S N Arc less N S RP Earth ① ② ③ ④ 薄膜材料の種類を問わない 高品質の薄膜が作製できる 制御性が非常に良い 膜の密着性が良い 2 生産技術上の課題(1) スパッタ法・・・構造制御された薄膜を大面積に均一にコーティング ●反応性スパッタ法 Deposition rate ターゲット:金属 スパッタガス:Ar 反応性ガス:O2 利点:ターゲットに加工できる 物質は殆ど成膜可能 Metal mode Transition Oxidation mode mode O2 Partial pressure 問題点:温度上昇 問題点:成膜速度の低下 3 生産技術上の課題(2) 再蒸発 入射原子 入射原子 反 射 クラスター 臨界核 表面拡散 安定核 運動エネルギー 熱エネルギー 表面拡散 核形成 が重要 核成長 薄膜構造制御のパラメータ スパッタによる 薄膜構造制御因子 基板温度 ガス圧力 耐熱性に劣る有機系の基板では 基板温度を十分に操作できない 熱エネルギーに変わる新たなエネルギーの検討 4 RAS(Radical Assited Sputtering)法 O2+ Target (Metal) Target (Metal) Radical Source Ar+ O2 O Load-lock Chamber MFC MFC MFC Target O22 O Target Cylindrical type substrate holder Sputter power supply Sputter power supply TMP RF power Substrate Ar Ar Radical oxidation source Matchingbox TMP MFC MFC MFC Ar Ar metal-compound ultrathin films metallic ultrathin films metallic ultrathin films 金属超薄膜 スパッタ工程 (金属ないし金属の 不完全反応物) 金属化合物薄膜 反応工程 (ラジカルの接触 および反応) 空間的・時間的に分離 O22 O 高速且つ低温で金属化合物薄膜の成膜可能 5 我々のアプローチの特色 2段階ステップ成膜手法 金属化合物薄膜成膜 Seed-TiO2 ラジカル処理 Substrate ① 反応性スパッタ領域と原子状励起種を利 用したTiO2核形成ステップ 金属及び 金属不完全薄膜成膜 ラジカル処理 ② 原子状励起種を用いて低温化(100℃以下) でTiO2薄膜を堆積させる成長ステップ TiO2 Seed-TiO2 Substrate 6 核形成層の導入 多数の微小成長核とアモルファス相からなる数十nm程度の薄膜層を 薄膜成長直前に堆積 核形成層ナシ 核形成層アリ nucleation site substrate 横方向成長 3次元成長 核形成密度の向上により横方向成長ならびに島同士の合体を促進 7 化学アニーリング効果 RAS法における薄膜成長モデル 再蒸発 入射原子 反 射 クラスター 臨界核 安定核 2) 1) Ti or TiOx O* 表面拡散 金属超薄膜 3) 表面拡散が重要 ラジカル照射 4) O* 核形成 核成長 ラジカルの 衝突・拡散に注目 Ti or TiOx Ti or TiOx TiO2 ラジカル 表面拡散 化合物化 金属化合物薄膜 (化学アニーリング効果) エネルギー付与 化学アニーリング効果によって薄膜構造を変化 8 実施例:TiO2光触媒薄膜材料 透光遮音壁 セラミックパネル 光親水化反応 ・脱臭 ・防汚 ・抗菌 防曇ガラス 光触媒タイル 光触媒分解反応 9 成膜速度の検証 従来技術である反応性スパッタ法との比較を行った 0.024 0.022 0.020 0.018 0 0.250 0.225 0.012 AC Power 2500W 3000W 3500W 3800W 0.010 0.008 0.006 0.200 0.004 0.002 0.000 100 200 300 400 0.05000 500 Ar flow [sccm] 0.1000 0.175 0.1500 0.150 0.2000 0.125 0.024 Deposition rate[nm/s] 0.022 0.2500 0.100 0.020 0.018 0.016 0.075 Ar flow 100sccm 150sccm 200sccm 250sccm 300sccm 350sccm 400sccm 450sccm 0.014 0.012 0.010 0.008 0.006 0.004 0.002 0.3000 0.050 0.3500 2000 2200 2400 2600 2800 3000 3200 3400 3600 3800 4000 AC Power [W] 0.000 2600 2800 3000 3200 3400 3600 3800 4000 AC Power [W] 高速(金属Tiと同等)低温(基板温度100℃以下)での成膜可能 10 Rate [nm/s] 0.014 Ar pressure [Pa] Rate [nm/s] 0.016 TEMによる薄膜構造評価 TiO2の結晶成長 核形成層あり 核形成層なし 明視野 本研究では結晶化が柱状的 に起こっているのがわかるが、 従来技術では殆どが小さい 結晶かアモルファス状態、一 部結晶化している部分が存 在するような構造。 暗視野 TiO2明視野/暗視野像×200 電子線回折像から判断して アナターゼ型多結晶 TiO2層の電子線回折像 11 薄膜構造の特徴 SiO2界面の結晶核層×1.2M SiO2界面付近10nm範囲でのFFT 1 columnar crystal 2 Nucleation site SiO2 3 SiO2界面に沿って5-7nm程度のTiO2の核形成層が確認できる。核形成層は アモルファスであるが、その直上から結晶構造が見られ、TiO2層が2層になっ ている様子が伺われる。その結晶核層の凸部分を基点として放射状に結晶 が成長しているのがわかる。FFTからもスポットが確認できる。 12 光触媒特性(酸化分解・親水性)評価 油分解特性 光励起親水化特性 UV照射前 84.2° 評価手順 ブラックライト ①24時間BLBに照射し表面状態 をクリーニングする ②サンプル表面にWAXを塗り 1時放置する ③サンプル表面を中性洗剤を 含んだスポンジで洗浄し、 WAXの固形成分を洗い落とす。 ④蒸留水を塗布し、オーブンで 乾燥 ⑤BLB(500uw/cm2)に照射し、 定期的に水滴の接触角を測定 酸化チタン 接触角 TiO2 100 90 3.2° この油分解評価法は、光触媒薄膜を形成 した基材に、紫外線(ピーク波長:350n m)を24h照射し、純水を定量滴下して接 触角測定装置によって接触角を測定し、さ らに純水が乾燥した基材に油を滴下して 前面に塗り伸ばしたのち、紫外線(ピーク 波長:350nm)を10h照射して、純水を 滴下してさらに接触角測定装置によって 接触角度を測定した。 80 接触角 [°] UV照射1.0h後 70 60 50 40 30 20 本研究技 術(結晶核層あり) 従来技術 (結晶核層なし) 従来技術 (加熱なし) 従来技術 (300℃加熱) 10 0 0 5 10 15 20 25 30 35 UV照射時間 [h] 13 まとめ・今後 高速低温条件下で結晶性TiO2光触媒薄膜 の作製に成功 金属化合物薄膜成膜 Load-lock Chamber MFC MFC MFC 2段階ステップ成膜手法を開発:RAS法を 応用した新技術 (特開2011-042854) Target 金属及び 金属不完全薄膜成膜 Sputter power supply TMP RF power ラジカル処理 O22 O Target Cylindrical type substrate holder Sputter power supply 現在の性能 (結晶性・光触媒特性) Ar Ar TMP Radical oxidation source MFC Matchingbox ラジカル処理 Ar Ar MFC MFC O22 O 100 90 この油分解評価法は、光触媒薄膜を形成 した基材に、紫外線(ピーク波長:350n m)を24h照射し、純水を定量滴下して接 触角測定装置によって接触角を測定し、さ らに純水が乾燥した基材に油を滴下して 前面に塗り伸ばしたのち、紫外線(ピーク 波長:350nm)を10h照射して、純水を 滴下してさらに接触角測定装置によって 接触角度を測定した。 columnar crystal 接触角 [°] 80 70 60 50 40 30 20 Nucleation site SiO2 本研究技 術(結晶核層あり) 従来技術 (結晶核層なし) 従来技術 (加熱なし) 従来技術 (300℃加熱) 10 0 0 5 10 15 20 25 30 35 UV照射時間 [h] アモルファス/結晶構造 の多層構造 市販のレベルをクリアーしている 14 研究成果とその応用・活用 本技 本技術の 術の特徴 特徴 LLSSII, ,IC IC 光 光半 半導 導体 体 RAS方式により波長シフト のない高 品質な 光学薄膜を低温で再現性良く 成膜で きる。 太陽電池 ダ ダイ イオ オード 光 光デ デ ィ スク スク セラミック 部品 セラミッ ク部品 ハード ディスク ハードデ ィスク 水晶関連部品 半導体産 業 半導 体産業 各 種フ 各種 フィル ィ ルタ ター フ ロッ ロッヒ ピーテ ゚ー ディス ゙ィス ク 電 子産業 電子 産業 各 種セ ンサー 情報 産業 情報産業 磁 磁気 気テ テー ープ 各種デ ィスプレイ 各種テ ゙ィスプレイ 真空技術 反 射防 反射 防止 止膜 膜 EM EMIIシー ル ド ド 光学工 業 光 学工業 その他 その 他 低温化・低コスト化を実現 金糸 ・銀糸 金 糸・銀 糸 各種 各 種 フィルター フィルター 各種レ ンズ 各種レン ズ 光 触媒 光触媒 自 自動車産 動車産業 業 バ ック バッ クミラ ミラー ー 燃 料電 燃料 電池 池 ランフ ラン プリフ ゚リ フ レク レク タター ー プ ラメ ッキ プラメ ッキ 最近、注目度 最 近、注目度 UP フラットパネルディス プレイ (FPD)用 フラットパネルディスプレイ 透明導電膜 (ITO,ZnO ) などの機能性 薄膜への応用が可能 本技術は物質と基板を選ばず,また処理時間が短いことから広い工業分野の製造ライン に組み込むことが期待できる 15 研究・ビジネスプラン 2012 高速(金属と同等)低温(100℃以下) 条件下での結晶化に成功 2段階ステップ成膜手法により多層 TiO2光触媒薄膜を作製 2013 目標値:更なる低温(80℃) での結晶化 目標値:核形成層 の薄膜化 (d≦10nm) 1) RAS法によるTiO2光触媒薄膜合成における金属不完全極薄膜構造制御 と薄膜成長モデルに関する研究 2) RAS法によるTiO2光触媒薄膜合成と反応気相診断に基づいた薄膜構 造変調手法の開発に関する研究 3) 光触媒多層TiO2薄膜における結晶核層の最適化とその制御技術 開発に関する研究 共同研究(既存):高速低温スパッタ法における機能性薄膜製造技術の研究 共同研究(既存):スパッタ法による機能薄膜技術の研究 共同研究(求む):TiO2光触媒薄膜以外の機能性薄膜への応用 量産装置開発および実用化プロセスの樹立 共同研究等 研究課題 目標値 現在 16 パテント情報 本件に関する知的財産権 発明の名称: 光触媒多層金属化合物薄膜及びその作製方法 出願番号:特願2009-193027(特開2011-042854) 出願人:独立行政法人国立高等専門学校機構, 株式会社ホンダロック, 株式会社シンクロン 発明者:野口大輔, 河野慶彦, 清文博 お問い合わせ先 都城工業高等専門学校 企画係 TEL:0986-47-1305 E-mail:[email protected] 17 参考資料 参考文献 1) D. Noguchi, K. Okutsu, S. Onitsuka, Y. Kawano, F. Sei. Preparation of TiO2 Thin Film Photocatalyst by High-rate Low-temperature Sputtering Method. Vol. 53, No.1 J. Vac. Soc. Jpn. 41-45. (2010). 2) D. Noguchi, T. Eto, K. Kodama, Y. Higashimaru,, Y. Kawano, F. Sei. A Technique for HighRate, Low-Temperature Deposition of TiO2 Photocatalytic Thin Film Using Radical-Assisted Sputtering. Vol. 50. Jpn. J. Appl. Phys. 010204-1-010204-3. (2011). 3) D. Noguchi, S. Fukudome,, M. Shimoniihara, Y. Kawano, F. Sei. Preparation of WO3 reduction coloring thin films by a high-speed low-temperature sputtering method. J. Vac. Soc. Jpn. (accepted) 4) 野口大輔. RAS法を用いた機能性薄膜の高速低温結晶化成膜技術. No. 444. コンバーテック. 96-99. (2010). 謝辞 本研究の一部は、H18-19年度科学研究費補助金 若手研究(B)の助成の元で行われた。 本研究の一部は、H19年度日本板硝子材料工学助成会の助成の元で行われた。 本研究の一部は、H21年度九州産業技術センター(九州地域戦略イノベーション創出事業) の元で行われた。 18
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