大規模,高信頼に対応するVoIPネット ワークソリューション - Fujitsu

大規模,高信頼に対応するVoIPネット
ワークソリューション
Network Solution for Achieving Large-Scale, High-Availability VoIP
Services
あらまし
57, 4, 07,2006
インターネット上で音声メディアを交換するVoIP技術は普及期に入っている。この技術
を基にしたIP電話サービスをキャリア(通信事業者)各社が提供しており,今後の加入者
拡大が見込まれることから,通信ビジネスにおける巨大市場と考えられている。さらに現在
稼働している交換機をVoIP技術で巻き取る,いわゆるネットワークマイグレーションも視
野に入れており,ライフライン化に向けて更なる技術革新が求められている。
本稿では,上記の技術革新要求に応え,大規模かつ高信頼なIP電話サービスを実現する
サーバプラットフォーム構築技術を紹介し,この技術領域における富士通の製品化実績,お
よび今後の製品展開に対する取組みについて述べる。また,さらなるサービスの多様化に向
け,VoIPで用いられるセッション制御の高度化技術についても動向および取組みを紹介
する。
Abstract
VoIP technologies that allow Internet voice communication are spreading, and many
telecommunication carriers already provide VoIP services based on these technologies. The
market size of this area is expected to become large because the number of subscribers will
continue to increase. However, VoIP technologies need to be enhanced before VoIP services
can support all the voice services of the existing switching system, including lifeline services
such as emergency calls. In this paper, we introduce our server platform technologies for
controlling not only highly scalable but also highly reliable VoIP services.
Next, we
introduce our lineup of products in this field and future development plans. Lastly, we
introduce our session control technology, which is one of the key technologies used for VoIP
services in the development of various advanced services.
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繁野潔史(しげの きよふみ)
関根久幸(せきね ひさゆき)
高橋英一郎(たかはし えいいちろう)
テレコムソリューション開発セン
ター 所属
現在,通信サービス系サーバシステ
ムのプラットフォーム製品開発に
従事。
テレコムソリューション事業部
所属
現在,通信事業者向けソリューショ
ン企画の開発に従事。
テレコムソリューション事業部
所属
現在,通信事業者向けソリューショ
ン企画の開発に従事。
FUJITSU.57, 4, p.426-431 (07,2006)
大規模,高信頼に対応するVoIPネットワークソリューション
ワークノードシステムであり,旧来の電話交換機に
ま え が き
匹敵する「高信頼性」が求められている。また,旧
VoIP技術を基にしたIP電話サービスは,社会基
来の電話交換機が提供している多彩な接続系サービ
盤を支える通信インフラへと変遷している。そのた
スの包括,さらには次世代ネットワークに向けての
め,当該サービス市場では,システムのキャリアグ
新サービス提供をタイムリに実現することが必要で
レード化(通信事業者向け高信頼製品)に対する要
あり,そのための「サービス性(アプリケーション
求が高まっており,高度な製品化技術が必要とされ
開発の短期化,低コスト化を支援すること)」も同
ている。
時に求められている。
このような市場の要求に応えるため,富士通はキャ
これらの要求を満足するサーバアーキテクチャの
リア向け大規模VoIPサーバシステム“GeoServe”
確立と,それに基づく製品化を早期に行うことで,
を開発した。
キャリア(通信事業者)の課題であるIP電話サー
本稿では,富士通のVoIPサーバアーキテクチャ
ビスのための堅ろうなネットワーク構築を支援する
とそれに基づく製品化実績,キャリアグレード化要
ものである。
求に応えるプラットフォーム構築技術,マルチメ
富士通は,キャリア向け大規模VoIPサーバシス
ディアを念頭に置いたサービス多様化への取組みを
テムであるGeoServeを開発した。当該システムは,
紹介する。
キャリア各社の商用サービスにおいて採用されてお
り,多くの運用実績を持つ。GeoServeは図-1に示
サーバアーキテクチャと製品実績
すサーバアーキテクチャを用いることでキャリアグ
本章では,富士通のVoIPサーバアーキテクチャ
レードの「高信頼性」および「サービス性」を実現
とそれに基づく製品化実績について述べる。
している。
● サーバアーキテクチャへの要件
● 高信頼性の実現
VoIPサーバはIP電話サービスを実現するネット
GeoServe
SCSサーバ
GeoServe
IMSサーバ
GeoServeでは,システムを構成するハードウェ
GeoServe
SGSサーバ
GeoServe
IVRサーバ
GeoServe
CNVサーバ
GeoServe
MCUサーバ
機能パッケージ組合せにより各種サーバを実現
Open API
Parlay
Parlay-Web
IM
プレゼンス
アプリ
ケーション
音声交換
アプリ
ケーション
信号変換
アプリ
ケーション
音声応答
アプリ
ケーション
V4V6変換
アプリ
ケーション
TV会議
アプリ
ケーション
サービスAPI
SIP
基盤
OAM
基盤
認証
基盤
V4/V6
変換
基盤
No.7
基盤
システムAPI
SAF-AIS
ミドルウェア(GeoHA)
LSB+CGL特有インタフェース
SAF-HPI
OS(Solaris/Linux)
OS(CGL)
ハード(PRIMEPOWER/PRIMERGY)
ハード(ATCA)
基盤部分
クラスタミドルウェア
図-1 GeoServeサーバアーキテクチャ
Fig.1-GeoServe server architecture.
FUJITSU.57, 4, (07,2006)
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大規模,高信頼に対応するVoIPネットワークソリューション
ア に オ ー プ ン サ ー バ 製 品 ( PRIMEPOWER ,
高信頼プラットフォーム
PRIMERGY ) を 採 用 し , OS に は オ ー プ ン OS
(Solaris,Linux)を搭載している。また,アプリ
ケーションレベルを含めた情報の継続性を満足する
本章では,高信頼プラットフォームの実現技術に
ついて述べる。
ためのクラスタミドルウェア,およびサービスの継
本章で述べる「高信頼性」とは,世界中の人が
続性を満足するための高信頼ミドルウェアを独自に
「いつでも,どこでも,誰とでも」コミュニケー
実装することで総合的な高信頼性を満足するプラッ
ションできる利便性である。したがって,24時間
トフォームを実現している。
365日サービス無中断であることが必須要件となる。
高信頼プラットフォーム技術は,次章で詳しく解
この要件を実現するのが高信頼プラットフォームで
説する。
あり,サービス継続性に加え,システム拡張性,保
● サービス性の実現
守容易性を実現するためのフレームワークを提供す
サービス性は,機能のパッケージ化とサービス
るものである。高信頼プラットフォームは,図-1に
API(Application Program Interface)を定義する
示すサーバアーキテクチャでの基盤部分に相当する
ことで実現している。GeoServeでは,VoIP技術
ハードウェア,OS,ミドルウェアを総称するもの
の根幹であるセッション制御プロトコル(SIP:
である。
Session Initiation Protocol)(1)をベースとしたアプ
● 富士通の取組み
リケーションサービスの提供に対し,共通機能であ
富士通では,高信頼プラットフォームを構築する
るSIP基盤,OAM基盤,認証基盤,No.7基盤,
ためのミドルウェア(GeoHA)を開発した。GeoHA
IPv4-IPv6変換基盤の5機能をパッケージ化してい
のコンセプトは,旧来の電話交換機における高信頼
る。また,これらの基盤機能上にサービスAPIを定
機能を汎用サーバで実現することである。結果,交
義し,下位の機能を意識することなくVoIP系アプ
換機が保有するほとんどの機能を実現し,かつ既存
リケーションソフトウェアを開発可能としている。
ソフト資産の移植を可能にしたことで,GeoServe
富士通では,このアーキテクチャを基に,以下の
シリーズを短期間でリリースすることに成功した。
アプリケーションサーバをGeoServeシリーズとし
GeoHAが提供する主な機能を図-2に示す。GeoHA
て製品化している。
(1) GeoServe SCS ( SIP 向 け セ ッ シ ョ ン 制 御
サーバ)
(2) GeoServe IMS(インスタントメッセージ・
プレゼンスサーバ)
は,仮想リアルタイムOSと,その実行環境を利用
し交換機相当の各種保守機能を提供する共通基盤か
らなる。
次世代に向けたキャリア市場の要求は,汎用サー
バの製品サイクルの短さ,OS仕様のクローズ性,
(3) GeoServe SGS(IP電話-既存加入電話接続
サーバ)
ミドルウェア(GeoHA)
(4) GeoServe IVR(音声自動応答サーバ)
(5) GeoServe CNV(IPv4-IPv6間接続サーバ)
(6) GeoServe MCU(TV会議サーバ)
また,次世代に向けた新サービスをタイムリに提
供するため,Open APIとしてParlay(2)を提供して
いる。Parlayは国際標準規格であり,開発環境も
共通基盤機能
ACT/SBY
データ照合
旧ファイル
復帰
一般化していることから,次世代に向けたアプリ
ケーション開発を支援するAPIとして重要である。
また,Webサービスとの連携強化を推進するため,
無中断
ファイル更新
プラグイン
汎用
装置管理
系切替
系間メモリ
同期制御
プロセス
監視・生成
ファイル
世代管理
段階的
再開処理
仮想リアルタイムOS
優先制御
スケジューラ
スレッド
監視
仮想スレッド
制御
スレッド個別
初期設定
Parlay-Webサービスインタフェース(XML/SOAP)
を実装し,アプリケーション連携によるサービス領
域拡大を図っている。
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図-2 ミドルウェア(GeoHA)提供機能
Fig.2-Functions provided by GeoHA middleware.
FUJITSU.57, 4, (07,2006)
大規模,高信頼に対応するVoIPネットワークソリューション
冗長切り替え時のサービス中断時間短縮などの改善
の「UB300/NGNプラットフォームシステム」を
である。近年,これらの課題を解決するための標準
参照)。
仕様が整いつつあり,富士通でも製品への展開を積
サービス多様化へのアプローチ
極的に実施している。
● 高信頼プラットフォームの標準化対応
キャリア市場の製品調達は,システム仕様の標準
化,安定した機器供給,継続的な技術協力が基本で
あり,さらに競争原理によるコストダウンメリット
本章では,サービス多様化への取組みについて述
べる。
● サービス多様化への対応技術
次世代ネットワークでは,IP電話で確立した
の期待も高まっている。これは世界的な傾向であり,
ミッションクリティカルな通信環境において,音声
システム仕様の標準化動向としてATCA(Advanced
以外の様々なメディアが流通し,新たなサービスを
Telecom Computing Architecture)
,CGL(Carrier
生み出すことが期待されている。
Grade Linux)
,SAF(Service Availability Forum)
が挙げられる。以下に,それぞれの特徴を示す。
また,既存加入電話,携帯電話,IP電話などア
クセス技術に特化して構築された通信インフラを
ATCAは,ブレード構成を特徴としたサーバハー
シームレス化し,それぞれに特性が異なるサービス
ドウェアの仕様であり,システム管理に必要なボー
間の相互接続,メディア連携などを実現することが
ド,バックプレーン,シェルフの機械的仕様,およ
必要となる。
び配電やその接続方法について規定するものである。
このような,マルチメディアをターゲットとした
これにより,ブレード単位でのマルチベンダ実装を
サービスの相互接続を実現するためのゲートウェイ
可能とし,ブレードサーバの特徴を生かした保守容
技術が製品戦略上重要であり,SIPを中核とした高
易性や拡張性に優れたプラットフォームの構築を実
度セッション制御が必要となる。
現している。
本章では,高度セッション制御システムを実現す
CGL は , OSDL ( Open Source Development
るための実装基盤としてB2BUA(Back to Back
Labs)が提唱しているLinuxOSのキャリア向け拡
User Agent)技術への取組みを紹介する。B2BUA
張仕様である。LinuxOSのオープン性に,リアル
は,ユーザエージェントサーバとしてサービス利用
タイム処理,冗長処理,故障監視処理を強化したも
者からアプリケーションへの要求の受信と処理を行
のであり,ATCAおよびSAFとも緊密に連携して
う論理エンティティであり,アプリケーションへの
いる。
セッション接続や,異なるサービス網間の接続シス
SAFは,サービスアプリケーションを開発する
テムを構築する際に有効な基盤技術である。次世代
ためのプラットフォーム全体の統一性を図るもので
ネットワークにおけるB2BUA技術の適用領域の例
あり,以下の3種のインタフェース仕様から成る。
を図-3に示す。図中の網掛けしたボックスがB2BUA
(1) HPI(Hardware Platform Interface)
ハードウェアの個別仕様隠ぺい
(2) AIS(Application Interface Specification)
クラスタ(等価なサービスを提供するサーバ群)
全体におけるミドルウェアインタフェース統一
(3) SMS(System Management Service)
技術の適用領域となるシステムである。例えば,
APLサービス接続GWは,複数のサービス利用者か
ら複数種類のAPLサーバへのアクセス振り分けや,
APLサーバからの利用者勧誘(サーバからの呼び
出し)を行うためのシステムであり,B2BUA基盤
と,アクセス制御のやり方を示す多種類のシナリオ
システム管理(保守運用)のフレームワーク統一
ソフトを連携させることで実現するものである。
本節で示した三つの標準仕様(ATCA,CGL,
● 製品化への取組み
SAF)は,顧客ニーズに応えるとともに,ベンダ
前節で例示した適用領域をターゲットに,富士通
の効率的投資にも有効である。富士通では,
では,B2BUA技術を用いた高度セッション制御基
GeoHAの実績をベースに,標準仕様の取り込みや
盤を構築している。この基盤上でセッション制御を
更なる機能拡充を行い,次世代ネットワークに向け
利用した振る舞いを示すシナリオソフトを連携させ
た製品への展開を実施している(詳しくは本誌掲載
ることにより,以下のような機能を提供するノード
FUJITSU.57, 4, (07,2006)
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大規模,高信頼に対応するVoIPネットワークソリューション
既存電話
APLサービス
サーバ1
(公衆電話網)
APLサービス
サーバ2
IP電話
APLサービス
サーバ3
PSTN
エッジ(アクセス)
APLサービス
ドメイン
接続GW
SIP GW
(網間接続)
PSTN
GW
Web
業務サーバ
他VoIP網
(ASP)
Open-API
RFC3261
SIPサーバ
新サービス
GW
低機能TA
収容GW
コア ドメイン
新アクセス
(端末)GW
新端末
(端末アダプタ)
SIP NAT
(ALG)
3GPP
SIP GW
TA
既存電話
AP
デュアル端末
FMC
(アクセスポイント)
企業&宅内LAN
図-3 B2BUA技術の適用領域
Fig.3-B2BUA technology application areas.
IPテレフォニー
マルチメディア
・・・
ファンクションマネージャ群
OAM
マネージャ
-----保守機能/CDR
サービス
マネージャ
-----APLサーバ連携
ロケーション
マネージャ
-----Routing機能
・・・
データベース
マネージャ
-----Diameter/HTTP
B2BUA基盤標準部
アダプタ
アダプタ
SIP
SS7
H.323
アダプタ
・・・
アダプタ
H.248
プロトコル・インタフェース群
MEGACO
図-4 B2BUAソフトウェアアーキテクチャ
Fig.4-B2BUA software architecture.
システムを高効率に構築することが可能となる。
(1) 異プロトコル間の相互接続ノードシステム
(2) 異サービス間の相互連携ノードシステム
ション切替えといったサービス要件に対し,短期間
に製品展開を図ることができる。
B2BUA技術による基盤構築のためのソフトウェ
(3) 異ネットワーク間の秘匿的接続ノードシステム
アアーキテクチャを図-4に示す。図中のB2BUA基
(4) 複数セッションの複合制御ノードシステム
盤標記部がユーザエージェントサーバとして処理を
例えば,端末仕様の違いからコーデック変換を必
行う論理エンティティ部であり,この部分が,複数
要とするセッション接続,TV会議などにおけるマ
のプロトコルを利用したセッション制御と,各種マ
ルチセッション制御,音声自動応答と連動したセッ
ネージャソフトによるAPLサービスシナリオソフ
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FUJITSU.57, 4, (07,2006)
大規模,高信頼に対応するVoIPネットワークソリューション
トとの連携を実現する構造である。
代わるライフライン化に向けて進化過程にある。各
本章で示した,B2BUA技術による高度セッショ
通信事業者は早期にキャリアグレード製品による
ン制御基盤は,前章で示した高信頼性プラット
ネットワークの拡大を望んでおり,この要件を満足
フォーム上で実現しており,トータルソリューショ
する製品を求めている。こうした厳しい製品化要求
ンとしてキャリアグレード製品の基盤となるもので
に対し,本稿で示したプラットフォーム技術は必要
ある。
不可欠である。今後,このプラットフォーム技術を
む
す
び
本稿では,富士通のVoIPサーバアーキテクチャ
用いたサーバシステムにより,大規模かつ高信頼な
IP電話サービスの構築推進,およびマルチメディ
アサービスへの展開を積極的に推進していく。
とそれに基づく製品化実績,キャリアグレード化要
求に応えるプラットフォーム構築技術,マルチメ
参 考 文 献
ディアを念頭に置いたサービス多様化への取組みに
(1) IETF RFC 3261 “SIP: Session Initiation Protocol”.
ついて述べた。
(2) The Parlay Group.
次世代ネットワークは,既存の回線交換電話網に
FUJITSU.57, 4, (07,2006)
http://www.parlay.org/
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