第23号 2004年夏(PDF 121K) - ユアサハラ法律特許事務所

ユアサハラ企業法務ニュース
第23号
ユアサハラ法律特許事務所
職務発明に関する外国の特許を受ける権利
及び包括的クロスライセンス契約における
企業の利益 − 東京高裁平成16年1月29日判決
1. はじめに
従業員がなした職務発明に関し、
特許法第35条第3項及び
第4項は以下のとおり規定している。
「3 従業者等は、
契約、勤務規則その他の定により、職務発明
について使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承
継させ、
又は使用者等のため専用実施権を設定したときは、
相
当の対価の支払を受ける権利を有する。
4 前項の対価の額は、
その発明により使用者等が受けるべき
利益の額及びその発明がされるについて使用者等が貢献し
た程度を考慮して定めなければならない。」
従業員が特許法第35条第3項に基づいて「相当の対価」
の支払を求める幾つかの訴訟について、
200億円の支払い請
求を認めた平成16年1月30日東京地裁判決(平成13年(ワ)第
17772号特許権持分確認等請求事件)
を含め、
近時億単位の
支払いを認める幾つかの判決が下されている。企業側から
は、判決で決定される
「相当の対価」の額は予測ができず、
巨
額の支払いを命ずる判決が事後的に突然下されることになれ
本号のハイライト
職務発明に関する外国の特許を受ける権利及び
包括的クロスライセンス契約における企業の利益
−東京高裁平成16年1月29日判決
(深井 俊至)
[日本/特許法]…1
社員の引抜き・競業行為を巡る問題
[日本/民法等]…3
(棚橋 美緒)
●税務情報:平成16年度税制改正、
日米新租税条約に
ついて ……………………………………………5
●海外法律情報:番外編∼米国弁理士試験を受験して …6
●国内法律情報:職務発明制度の改正動向と近時の
裁判例、裁判所法等の一部を改正する法律案、公益通
報者保護法案 ……………………………………7
●連載コラム:国際機関における弁護士の役割
−世銀・アジ銀での経験から−[上]
………………10
2004年夏
ば企業の経営基盤を揺るがす等の批判が出されている。
こう
した状況の中、
今国会(第159回)
において、特許法第35条の
改正案が提出されている
(本ニュース
「国内法律情報:職務発
明制度の改正動向と近時の裁判例」を参照されたい。)。
職務発明に関する特許法第35条については、
「相当の対価」
の額の他にも論ずべき法律上の問題点が多々あるが、本稿で
は、
平成16年1月29日東京高裁判決(平成14年(ネ)第6451号
各補償金請求控訴事件)
を取り上げ、同事件における争点
中、外国の特許を受ける権利の譲渡について特許法第35条
が適用されるかどうかの争点と、包括的クロスライセンスの場合
の「発明により使用者等が受けるべき利益の額」の算定方法
についての判示を紹介する。
2. 外国の特許を受ける権利と特許法第35条
本件は、被告会社に対し、職務発明(「本件発明1」
「本件
発明2」及び「本件発明3」があり、
これらを総称して「本件各発
明」
という。)
について被告会社の元従業員が被告会社に対
し特許を受ける権利を譲渡したことに関し、
特許法第35条第3
項に基づき、相当の対価の支払を請求した事案である。本件
各発明は、
日本以外に米国、
イギリス等の外国において特許権
が成立している。
原審東京地裁は、
外国における特許を受ける権利には特許
法第35条は適用又は類推適用されないと判示したが
(平成10
年(ワ)第16832号補償金請求事件、平成12年(ワ)第5572号
補償金請求事件平成14年11月29日判決)、本東京高裁判決
は、
原審判断を覆し、
以下のとおり、
外国における特許を受ける
権利についての特許法35条3項に基づく対価の請求を認め
た。
「特許法35条3項及び4項は、従業者等が職務発明につい
て使用者等に特許を受ける権利等を譲渡した場合に、
「相当
の対価の支払を受ける権利を有する」と規定する。この規定
は、従業者と使用者との間の職務発明に係る譲渡契約の対
価を強行法規により定めることによって、従業者と使用者との
間の雇用契約上の利害関係の調整を図り、
これにより
「発明
の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、
もって産業
の発達に寄与することを目的とする。」
(特許法1条)
との特許
法の目的を達成しようとするものである。
このように、特許法35
条は、
特許法中に規定されているとはいえ、我が国における従
業者と使用者との間の雇用契約上の利害関係の調整を図る
強行法規である点に注目すると、特許法を構成すると同時に
労働法規としての意味をも有する規定であるということができ
る。職務発明についての規定がこのようなものであるとすると、
職務発明の譲渡についての「相当の対価」は、
外国の特許を
受ける権利等に関するものも含めて、使用者と従業者が属す
る国の産業政策に基づき決定された法律により一元的に決定
ユアサハラ企業法務ニュース 1
されるべき事柄であり、
当該特許が登録される各国の特許法を
準拠法として決定されるべき事柄ではないことが明らかであ
る。」
「特許法35条が、
特許法の他の規定と比べ異質なものであ
り、
同条中の用語を他の特許法の規定と同じ意味に解さなけ
ればならない合理的理由がない以上、同条における「特許を
受ける権利」は、
その規定の趣旨を合理的に解釈し、上記のと
おり、我が国の職務発明について、
日本国のみならず外国の
特許を受ける権利等をも含む意味であると解すべきである。」
「仮に、特許法35条3項及び4項が我が国の職務発明につ
いて我が国の特許を受ける権利等についてのみ適用があり、
外国の特許を受ける権利等について適用がなく、
各登録国の
特許法が適用になるとの原判決の立場を採用すると、
次に述
べるとおり、
これと異なる職務発明制度を採用している世界の
主要国との調和を欠くことになり、従業員発明者はいずれの
国においても保護を受けられない事態が生じたり、
また、裁判
所も、外国の特許を受ける権利の譲渡の対価について、
外国
法に基づく請求があれば、各登録国の法制度を調査し、各登
録国の法制度に従って、
これを判断する必要が生じるなど、
極
めて煩瑣な事態が生じる結果となる。このような結果を招く解
釈を合理的なものとすることはできない。」
「仮に、
アメリカ合衆国が、
出願前の「特許を受ける権利」の
承継を認めない国であるとしても、出願後の承継契約は可能
なのであるから、我が国の使用者と従業者は、特許法35条に
基づき、
その職務発明について特許を受ける権利の譲渡契約
を締結する際に、出願前の譲渡契約を認めない国について
は、
これを譲渡契約の予約とすることを合意する、
あるいは、
譲
渡契約の合理的解釈により、
譲渡契約の予約と同趣旨のもの
と解釈するなどの方法により、
従業員発明者がアメリカ合衆国
で特許出願をし、
その後、使用者が特許を受ける権利を承継
する手続をとる、
とすることも可能であり、
これにより、
特許法35
条の趣旨に合致した結果を導くことができる。」
「以上からすれば、
我が国の従業者等が、
使用者に対し、
職
務発明について特許を受ける権利等を譲渡したときは、相当
の対価の支払を受ける権利を有することを定める特許法35条
3項の規定中の「特許を受ける権利若しくは特許権」には、
当
該職務発明により生じる我が国における特許を受ける権利等
のみならず、
当該職務発明により生じる外国の特許を受ける権
利等を含むと解すべきである。」
上記東京高裁判決の判示が最高裁で覆らない限り、
今後、
実施状況に応じて発明者に対して補償金(特許法第35条第
3項の「相当の対価」の支払いとされるもの)
を支払っている企
業は、外国における当該発明の実施許諾状況にも応じて、発
明者に対し補償金を支払う必要に迫られよう。
3. 包括的クロスライセンスの場合の「発明により使用者等が
受けるべき利益の額」の算定方法
本東京高裁判決は、
包括的クロスライセンスの場合の「発明
により使用者等が受けるべき利益の額」の算定方法につい
て、次のとおり判示した。
「包括的クロスライセンス契約とは、
当事者双方が多数の特
許発明等の実施を相互に許諾し合う契約のことであるから、
こ
の契約において、一方当事者が自己の保有する特許発明等
の実施を相手方に許諾することによって得るべき利益とは、
相
手方が保有する複数の特許発明等を無償で実施することが
できること、
すなわち、
相手方に本来支払うべきであった実施料
の支払義務を免れることであると解することができる。
もっとも、
この契約は、
見方を変えてみれば、
相互に実施を許諾し合う合
意のほかに、相手方に本来支払うべき実施料債務と、相手方
から本来受け取るべき実施料債権とを、
事前の包括的な相殺
の合意により相殺している契約であると解することもできる
(し
たがって、両者が有している特許等の間で釣合い(バランス)
が取れないことが、
契約締結時に明らかである場合には、一方
から他方にいわゆるバランス調整金が支払われることにな
る。)。そして、
合理的な取引を行うことが期待されている営利
企業同士の契約である以上、特段の事情が認められない限
り、相互に実施料の支払を生じさせない包括的クロスライセン
ス契約においては、
相互に支払うべき実施料の総額が均衡す
ると考えて契約を締結したと考えるのが合理的であるから、包
括的クロスライセンス契約においては、
「その発明により使用者
等が受けるべき利益の額」については、
相手方が自己の特許
発明を実施することにより、本来、相手方から支払を受けるべ
きであった実施料を基礎として算定することも、
原則として合理
的である。そうすると、
包括的クロスライセンス契約については、
相手方が当該発明の実施に対するものとして支払うべきで
あった実施料の額を算定することも、使用者等が相手方の複
数の特許を実施することにより本来支払うべき実施料の額に、
相手方に実施を許諾した複数の特許発明等における当該発
明の寄与率を乗じて算定することも、
いずれも、
「使用者が受
けるべき利益の額」
を算定する方法として採用することが可能
となるということができる。そして、
多数の特許発明等の実施が
包括的に相互に許諾されている契約における「その発明によ
り使用者等が受けるべき利益の額」の主張立証の困難性を
考えると、
当該事案において、実際に行うことが可能な主張立
証方法を選択することが認められるべきである。ただし、
その場
合でも、
包括的クロスライセンス契約においては、
契約期間内に
相手方がどの特許発明等をどの程度実施するかは、
互いに不
確定であり、契約締結時においては、
あくまでもお互いの将来
の実施予測に基づいて、互いの特許等を評価し合うことによ
り、契約を締結するものである、
ということは、
忘れてはならない
点である。上記事情があるため、本件でいえば、本件発明1を
相手方が実施することにより相手方が1審被告に対し本来支
払うべき実施料の金額、
と、1審被告が相手方の複数の特許
を実施することにより本来支払うべき実施料の額に1審被告が
相手方に実施許諾した複数の特許発明等全体における本件
発明1の寄与率を乗じた金額、
とが同じになるとは限らない、
と
の不確実性が常に生じ得るのである。包括的クロスライセンス
契約における「その発明により使用者等が受けるべき利益の
額」は、
厳密には、
後者の方法により算定した金額であり、
前者
の方法により算定した金額ではないこと
(合理的な営利企業
同士は、
相互に支払うべき実施料の総額の均衡を考えるはず
であるものの、結果として、相互に支払うべき実施料の総額が
同じになるとは限らないこと)
からすれば、
前者の方法により算
定する場合には、上記の不確実性を考慮して、
前者の方法に
ユアサハラ企業法務ニュース 2
より算定される金額を事案に応じて減額調整して、
「その発明
により使用者等が受けるべき利益の額」を算定すべきである
(民訴法248条参照)。」
包括的クロスライセンス契約において、現実には相手方から
実施料の支払いを受けなくとも上記認定のとおり、企業には
「相手方が保有する複数の特許発明等を無償で実施するこ
とができること、
すなわち、
相手方に本来支払うべきであった実
施料の支払義務を免れる」
という利益がある。
この考え方によ
ると、
「1審被告が相手方の複数の特許を実施することにより
本来支払うべき実施料の額に1審被告が相手方に実施許諾
した複数の特許発明等全体における本件発明1の寄与率を
乗じた金額」が特許法第35条3項における
「その発明により使
用者等が受けるべき利益の額」
となるはずである。
しかし、
この
算定方法では、
1審被告が相手方から実施を許諾された多数
の特許発明等について、
相手方に本来支払うべきであった実
施料の全額と、
1審被告が相手方に実施許諾した多数の特許
における本件発明の寄与率を主張・立証する必要がある。企
業(1審被告)
にとってもこの算定は容易ではないが、
自己の発
明と無関係な発明の評価が必要となる当該算定は従業員に
は極めて困難であろう。本判決は、上記のとおり包括的クロス
ライセンス契約の法的性質を前提として、
「本件発明1を相手
方が実施することにより相手方が1審被告に対し本来支払う
べき実施料の金額」を基礎とし、
当該金額を事案に応じて減
額調整して算定する方法をも認めた。この算定方法をも認め
ることは妥当な判断であろう。
(弁護士 深井 俊至)
社員の引抜き・競業行為を巡る問題
1. 社員が引抜きを受けて退職し、
他の競業会社に入社するこ
とを巡る問題は、
①会社が当該社員や当該社員を引抜いた他
の社員に対して退職金支払を拒絶することの適否、②会社
が、社員を引抜かれたため営業損害を蒙ったことを理由とす
る、
引抜かれた社員、
引抜いた者や当該社員の転職先の会社
に対する、損害賠償請求や営業差止請求が認められるかと
いった形で表れる。
2. 在職中に引抜きや競業行為を行うことは、特約を結んでい
なくとも、従業員の場合には、労務提供の債務不履行又は誠
実義務に違反し、役員の場合には、善良な管理者としての注
意義務、忠実義務、競業避止義務に違反する場合がある。
3. これに対して、
退職後の競業避止義務については、
法定の
義務等がある場合や当事者間の特約がない場合には、
「会社
の取締役又は従業員は、
その退任後又は雇用関係終了後に
おいては、
在任又は在職中に知り得た知識や人間関係等をそ
の後自らの営業活動のために利用することも、
それが使用者
の財産権の目的であるような場合を除いては、
原則として自由
である」
(中央総合教育研究所事件、東京地判平5・8・25)。
他方、
営業活動を制限する特約が結ばれていた場合でも、
合理的な範囲内でのみその有効性が認められるべきであると
一般的に解されている。
例えば、
司法試験予備校Xの専任講師を務め監査役にも就
任していたY1外1名が、
X退職後に株式会社Aを設立し司法
試験塾を開業したため、
XがY1外1名に対し、
就業規則及び個
別の特約に基づき、
司法試験塾の営業等の差止めの保全申
立を行った事件において、裁判所は却下決定を下した
(司法
試験予備校事件、
東京地決平7・10・16)。裁判所は、
例外とし
て「一定の限定された範囲では、実体法上労働契約終了後
の競業避止義務を肯定すべき場合がある。」と述べた上で、
以下のように判示した。①競業避止義務を定める特約が約定
されたのが、
もともと当事者間の契約なくして実定法上労働契
約終了後の競業避止義務を肯定しうる場合(労働者の職務
内容が使用者の営業秘密に直接関わるため、労働契約終了
後の一定範囲での営業秘密保持義務の存続を前提としない
限り、
使用者が労働者に自己の営業秘密を示して職務を遂行
させることができなくなる場合)
には、競業行為禁止の内容が
不当なものでない(競業禁止の内容が、元労働者が退職後も
負うべき秘密保持義務確保の目的のために必要かつ相当な
限度を超えていない)限り特約は原則として有効と考えられ
る。
これに対し、
②競業避止義務を合意により創出する場合に
は、労働者はもともとそのような義務がないにもかかわらず、専
ら使用者の利益確保のために特約により退職後の競業避止
義務を負担するのであるから、
使用者が確保しようとする利益
に照らし、競業行為の禁止の内容が必要最小限度にとどまっ
ており、
かつ、
十分な代替措置を執っていることを要するものと
考えられる。
4. 他方、法令や特約の定めがある場合以外であっても、例外
的に、不法行為に該当する場合があるところ、
引抜きや退職の
場合の不法行為の成否の判断基準としては、
被侵害利益(会
社の営業利益、主なものとしては営業秘密(技術・経営情
報)、人材及び顧客が挙げられる)
と侵害行為者とされた者の
側の利益
(職業選択・営業の自由)
の利益衡量が必要となる。
但し、
その場合、個人の転職の自由は最大限に保障されなけ
ればならない
(ラクソン事件、
東京地判平3・2・25)。
したがって、
元従業員等の競業行為が、
①雇用者の保有する営業秘密に
ついて不正競争防止法で規定している不正取得・開示行為
等に該当する場合はもとより、②社会通念上自由競争の範囲
を逸脱した違法な態様で雇用者の顧客や業務ノウハウ等を奪
取したとみられるような場合、③雇用者に損害を加える目的で
一斉に退職し会社の組織的活動が機能しえなくなるようにした
場合等には、
不法行為を構成することがあると解されている
(フ
リーラン事件、東京地判平6・11・25)。以下、
これらに関して若
干の説明を加える。
(1)
まず、
上記①を否定した裁判例としては、
前記中央総合教
育研究所事件がある。有名学習塾(X)の講師8名(Yら)
が一
斉に退職して、
Xの所在地と同一通学圏内に学習塾Aを開設
したという事案において、
裁判所は、
AのテキストにはXのテキス
トと共通の問題が多く含まれていると認めたものの、
「Xにおけ
る授業方法や教材等といっても、
もともとYらが多年の経験に
ユアサハラ企業法務ニュース 3
基づいて蓄積してきたひとつの教育観とでもいうべきもので
あって、
Yらの属人的要素が強く、
Xの企業秘密に属するもので
もなければ、
その財産権の目的となっているものでもない」
とし
て、Yらの上記行為は、
自由競争の範囲から明らかに逸脱した
違法なものであるとはいえないとした。
(2)②については、専ら引抜かれる側の会社を淘汰する目的
でなされた場合等がこれに当たると解されている。
(3)上記③の範疇に含まれると思われる判例としては、
芦屋学
院事件が挙げられる
(大阪地判昭和63・9・9)。
これは、
Y2は、
営業譲渡前の学習塾の中心的で有能な教師であり、営業譲
渡に伴い譲渡先会社(X)
に雇用された者であるが、
当該譲渡
に関与した譲渡人の元代表者(Y1)
とともに、
他の従業員の移
籍を勧誘し、退職後、Xの経営する学習塾と至近距離で学習
塾を開業し、Xの学習塾の小学生の部においては教師が1人
になり、生徒数も激減したという事案である。裁判所は、Y1及
びY2の共同不法行為による損害賠償請求を認めたが、Y2の
共同不法行為を認める理由として、
「Y2も自らの力量を知り、
Y1同様にXに損害を与えることを予見し又予見できたのに、…
自らの営業行為をし、
又その一環としてXに対する営業妨害行
為をしたのであるから、
Xの受けた営業損害とYらの行為の態
様とを相関的にみると、
右営業侵害行為は正当な営業行為の
範囲を逸脱する違法なものである。」と判示した。
いたこと、
当該旅行がXに発覚するや、
急遽別のホテル・バスを
その費用負担において手配するなど、
移籍の勧誘のための場
所作りに積極的に関与し、
セールスマンらにY2の説明会を開
催したこと等を総合判断し、
Y2の行為は、
単なる転職の勧誘を
越えて社会的相当性を逸脱した引抜行為であると認めた。
5. 従業員の退職金減額
以上は損害賠償請求や営業差止めの可否の問題である
が、
会社が従業員に対して引抜き等を理由に退職金の支給額
を減額する場合がある。印刷会社Yの元従業員Xら
(殆どが課
長以上の役職にあった)
が、
Yが退職金の一部を支払わないと
して、未払退職金(退職金の概ね3∼4割)の支払を求めたの
に対し、Yは、XらがYの競合会社を設立した上、他の従業員を
勧誘したこと等が、
退職金規程(会社に重大な損害を与える等
の行為により退職した者に対しては退職金を減額して支給す
る)
に該当するとして争った事案において、裁判所は、元従業
員らの殆どについて、退職金を減額して支給したことが著しく
不合理であるということはできないとした。例えば、
ある従業員
は、営業部課長として10数社の営業を担当していたが、特に
業務の引き継ぎをしないまま上記競合会社に移籍し、
また、退
職の直前から退職後まで、
営業担当従業員らに対して移籍の
勧誘を続けた事実を認定し、Yによる退職金の約33%の減額
決定が認められた
(新潟地判平13・12・10)。
7. 自由競争範囲からの逸脱の有無の判断要素
上記各判例及びその他の判例を踏まえると、裁判所は、
引
抜きや退職後の競業が自由競争の範囲内かという判断をな
すにあたって、
以下の諸要素(侵害行為の態様や被侵害利益
たる営業利益の具体的内容等)
を総合勘案していることが認
められる。①業種(労働市場の流動化が進んでいる産業であ
ればもともとリスクが高いし、
また、
従業員の身分が不安定な場
合もある/職業訓練がかなり必要な業種であれば、雇用中の
人材育成が会社によって行われている)、②従業員・役員の
会社における地位、業務の具体的内容、③退職の動機・経緯
(合理的な理由のない降格人事・減収措置に対する不満
等)、
④退職前における営業のための準備・計画性の有無、
引
き継ぎ等の有無、⑤新会社の設立時期・位置、顧客勧誘活
動・顧客の移動の有無、⑥引抜かれた会社の経営状態の変
化及びその原因要素、⑦退職者間の退職時期の近接性、退
職人数等、⑧書類や物品・情報の持ち出しの有無、
⑨当該従
業員の在職中における、会社のノウハウ・営業の機会の獲得・
維持・拡大の可能性の大小、
それらにおける会社と従業員の
寄与度(会社の人的物的投資による蓄積なのか、
従業員自体
の営業努力等により顧客誘引力が生じているのか)、⑩顧客
側の取引先変更の経緯
(取引先からの要望が主なのか、
社員
の働きかけが強かったのか、
元から競争が激しく他社に仕事を
取られるのが珍しくない業種か)、⑫その他(引抜かれた会社
の信用を害するような虚偽事実の陳述の有無、
営業譲渡に関
与した者による競業か等)
また、
引抜きが争点となる場面が、
損害賠償請求か、
営業差
止の保全申立か、
あるいは退職金の満額支払請求なのか
(退
職金は、賃金の後払い的性格と従業員に対する功労報奨的
性格を併せ持つものであり、会社に対する非違があった場合
に、
その非違の程度に応じ、退職金を不支給や減額とする旨
を定めることは合理性があり、
その減額が著しく不合理で会社
の裁量の範囲を超えると判断されない限り、会社は退職金の
額を減額することができると解されている)
によっても、
その判
断基準に相違点が見られる。
6. 引抜かれた社員の移籍先の会社
前記ラクソン事件において、裁判所は、X社(英語教材販売
業)の取締役営業部長Y1と引抜先の競争会社Y2の共同
不法行為の成立を認めた。すなわち、本件では、Y2は、Xに
おけるY1及びY1組織の役割と、
それらが抜けた場合のXの受
ける影響を十分認識しながら、
Y1組織の集団的移籍のための
方法をY1と協議していたこと、
右移籍はXに内密に行われるこ
とを前提にし、
いわば不意打ち的な集団移籍の計画であった
こと、予めY1組織が移籍することを前提としてY1に事務所を
提供していたこと、
また、慰安旅行先に出向いてセールスマン
らに対し会社の説明をすることを旅行以前に打ち合わせて
8. 立証の問題
現実問題としては、引抜きの画策は隠密裏に行われること
が多く、
引抜いた者の引抜かれた者等に対する勧誘行為や競
業の準備等の具体的な内容は、
引抜かれた社員の供述がな
ければ直接に立証することは極めて困難である。
しかしながら、
そのような直接証拠による立証が困難な場合
でも、
外形的事実(書類の持ち出し、
退職人数、
退職時期の近
接性、退職理由の不合理性・虚偽性、顧客への営業活動内
容等)
を積み重ねることによって違法性を主張・立証していく
ことも可能と思われる。
(弁護士 棚橋 美緒)
ユアサハラ企業法務ニュース 4
税 務 情 報
平成16年度税制改正
[法人税の主な改正点]
渡資産の譲渡による所得以外の所得との通算及び翌年
1. 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越期間を5
年から7年に延長することとした。
以後3年内の各年分(合計所得金額が3,000万円以下であ
る年分に限る。)の総所得金額等からの繰越控除を認める
2. 帳簿書類の保存期間について、現行5年とされている帳簿
書類の保存期間を7年に延長する。
こととした。また、純損失の繰越控除制度及び純損失の
繰戻し還付制度の純損失の金額には、当該譲渡資産に
係る譲渡損失の金額を含めないものとした。
[所得税の主な改正点]
4. 土地、建物等の長期譲渡所得の課税の特例
1. 住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除につ
いて、次の通り改正する。
長期譲渡所得の課税の特例について、土地、建物等を
譲渡した場合の税率軽減の特例を廃止し、
次のように税率
を引き下げる。
居 住 年 控除期間 住宅借入金等の年末残高
平成16年
5,000万円以下の部分
平成17年
平成18年
4,000万円以下の部分
10年間
3,000万円以下の部分
平成19年
2,500万円以下の部分
平成20年
2,000万円以下の部分
適用年・控除率
1年目から10年目まで 1%
1年目から8年目まで 1%
9年目及び10年目 0.5%
1年目から7年目まで 1%
8年目から10年目まで 0.5%
1年目から6年目まで 1%
7年目から10年目まで 0.5%
1年目から6年目まで 1%
7年目から10年目まで 0.5%
改正前:特別控除後の譲渡益の20%
改正後:特別控除後の譲渡益の15%
長期譲渡所得の100万円特別控除を廃止した。
土地、
建物等の長期譲渡所得の金額の計算上生じた損
失の金額については、
土地、
建物等の譲渡による所得以外
の所得との通算及び翌年以後の繰越しを認めないことと
した。
5. 土地、建物等の短期譲渡所得の課税の特例
2. 特定の居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の繰越
控除について、
その個人が譲渡資産の譲渡をした年の一
短期譲渡所得の課税の特例について、次のように税率
を引き下げる。
定の日において当該譲渡資産の取得に係る一定の住宅借
入金等の残高を有することとする要件を除外した上、
その
改正前
適用期限を3年延長する。
この特例については、譲渡資産
次のいずれか多い方の税額による。
に係る譲渡損失の金額があるときは、
当該譲渡資産の譲渡
・譲渡益の40%相当額
による所得以外の所得との通算及び翌年以降の繰越しを
・全額総合課税をした場合の上積税額の110%相当額
認める。
また、
純損失の繰越控除制度及び純損失の繰戻し
ただし、国等に対する譲渡については、次のいずれか
還付制度の純損失の金額には、
当該譲渡資産に係る譲渡
多い方の税額による。
・譲渡益の20%相当額
損失の金額を含めないものとする。
3. 特定居住用財産の譲渡損失の繰越控除制度の創設
個人が、平成16年1月1日から平成18年12月31日までの
間にその有する家屋または土地等でその年1月1日において
所有期間が5年を超えるものの当該個人の居住の用に供し
・全額総合課税をした場合の上積税額
改正後
譲渡益の30%相当額。ただし、国等に対する譲渡につ
いては譲渡益の15%相当額。
ているもの(以下「譲渡資産」という。)の譲渡をした場合
(当該個人が当該譲渡に係る契約を締結した日の前日に
土地、
建物等の短期譲渡所得の金額の計算上生じた損
おいて当該譲渡資産に係る一定の住宅借入金等の金額を
失の金額については、
土地、
建物等の譲渡による所得以外
有する場合に限る。)
において、
当該譲渡の日の属する年に
の所得との通算及び翌年以後の繰越しを認めないことと
当該譲渡資産に係る譲渡損失の金額(当該譲渡資産に係
した。
る一定の住宅借入金等の金額から当該譲渡資産の譲渡
6. 上場株式等以外の株式等を譲渡した場合における株式
の対価の額を控除した残額を限度とする。)があるときは、
等に係る譲渡所得等の金額に対する税率を15%
(改正前
一定の要件の下で、
その譲渡損失の金額について当該譲
20%)
に引き下げる。
ユアサハラ企業法務ニュース 5
日米新租税条約について
New Joiner
日米新租税条約が両国で批准され、2004年3月30日より発
効することとなった。
源泉徴収される租税に関しては、
2004年7月1日以後に租税
ユアサハラ法律特許事務所では、平成16年4月より新
が課される額、源泉徴収されない所得に対する租税に関して
たな弁護士を迎えています。
は、2005年1月1日以後に開始する各課税年度の所得につい
弁護士・弁理士 弓 削 田 博
YUGETA, Hiroshi
て適用される。
主な改正点は、次の通りである。
1. 配当:50%超出資の子会社からの配当は、
源泉地国での
明治大学法学部法律学科卒業。2000年3月に司法修
課税を免除する。10%以上、50%以下出資の会社からの
習を終えて、同年4月に弁護士登録(第二東京弁護士会
配当は、
5%の源泉税、
10%未満出資の会社からの配当は、
所属)、田宮合同法律事務所勤務(2000年-2003年)、
虎
10%の源泉税をそれぞれ.源泉地国で課税する。
ノ門総合法律事務所勤務(2003年-2004年)
を経て、
2004
2. 利子:金融機関等が受け取る利子は、
源泉地国での課税
を免除する。金融機関等以外が受け取る利子は、従来どお
年3月より、ユアサハラ法律特許事務所に所属。
これまで、企業法務をはじめとする民事・商事事件と知
的財産権事件を担当して参りました。
り、10%の源泉税が課される。
3. 使用料(ロイヤルティー):特許権、商標権等の使用料は、
今後とも、
クライアントの皆様にご満足いただける法的
サービスの提供を第一に考え、
業務に邁進していく所存で
源泉地国での課税を免除する。
(公認会計士 五味 才行)
ございます。何卒、
よろしくお願い申し上げます。
海外法律情報
番外編∼米国弁理士試験を受験して
平成15年8月から米国の法律事務所に勤務し、主として米
特許実務でどのように処理されるかを念頭において、米国の
国特許実務について研鑚しております。勉強の区切りとして、
特許実務を学んでいけば、
共通する点については容易に理解
平成15年10月15日に、
米国弁理士試験(正式名称the exami-
でき、異なる点については、
新鮮な印象を得られるからです。
nation for registration to practice before the United States
日本の特許実務と米国の特許実務は、
国際的な観点からあ
Patent and Trademark Office(USPTO))
を受験し、
合格す
る程度制度がハーモナイズされている面もありますが、
むしろ異
ることができました。本試験は、原則として大学で理工系の一
なっている点が多いように感じました。たとえば、
日本における
定の学部を卒業することが受験資格として必要です。試験
進歩性(inventive step)の判断と、米国における非自明性
は、午前の部(Morning Session)3時間50問、午後の部
(nonobviousness)の判断には、
相当大きな違いがあります。
(Afternoon Session)3時間50問の合計100問の択一式で、
具体的なケースにおいて両国の特許実務を比較すると、結論
米国特許法、米国特許規則、MPEP(Manual of Patent Ex-
において違いが生ずることが少なくないことが分かります。一
amining Procedure)等について出題されます。米国市民権、
般的には、米国の特許実務は、
日本の特許実務よりも、
発明を
米国永住権(Green Card)のある合格者はPatent Agent と
はるかに強く保護していると感じます。
して登録して業務を行なうことが可能ですが、
私は一時就労ビ
米国においては、CAFC(米国連邦巡回控訴裁判所)の設
ザのため登録はできず、
ビザ記載の一時就労先事務所の顧
立以後、
発明の保護が相当に強化されたと言われています。
客について限定された権限を与えるLimited Recognition(37
日本においても、
米国のCAFCの制度を参考にして、
知的財産
CFR 10.9(b))
を米国特許商標庁(USPTO)
から受けました。
高等裁判所が設立されました。日本における今後の実務の動
試験の勉強は、
日本の特許実務と米国の特許実務を比較
向が注目されます。
して整理していくことにより効率的にできると思います。
日本の
ユアサハラ企業法務ニュース 6
(弁護士
岡本 義則)
国内法律情報
職務発明制度の改正動向と近時の裁判例
ことは困難であることを前提としつつ、①対価を取り決めるに
際し、使用者が一方的に決めるのではなく、従業者の意見が
一、特許法は、職務発明について、
その発明に関する特許を
十分に反映されるような手続が行われるようにすること、②従
受ける権利が従業者(発明者)に帰属することを前提としつ
業者に取り決めが開示されるべきこととし、取り決めの透明性
つ、
それを契約や勤務規則等により、使用者に承継する場合
を確保すること
(以上同条4項)、③手続不備等の場合、現行
には、従業者は「相当の対価」の支払いを受ける権利を有す
どおり裁判所が対価の額を決定するが、
その際には発明によ
る旨規定する
(特許法35条3項)。そして、
「相当の対価」の算
る使用者の利益等に加え、新たに従業者の処遇や使用者の
定基準に関しては、
「その発明により使用者等が受けるべき利
生産・販売面における努力も考慮可能にすること
(同条5項)
を
益の額及びその発明がされるについて使用者等が貢献した
内容とする点で、
「相当の対価」の認定についての裁判所の
程度を考慮して定めなければならない。」と規定する
(同条4
裁量を制限するものといえる。ただし、
各規定がいう
「不合理と
項)。
認められる」場合を具体的にどのように判定するかについて
しかし、
上記の算定基準は明確とはいえず、
また、
平成15年
ため、各企業において職務発明に関する規程をどのように定
の最高裁判決(最高裁第三小法廷平成15年5月22日判決)
めるべきかは、引き続き問題になると思われる。
は、
今後の裁判例の蓄積を待つ必要があると考えられる。その
は、
特許を受ける権利等の承継に関し、
使用者が勤務規則等
に基づき従業者にその対価を支払っても、
その額が「相当の対
なお、上記の各規定は、平成17年1月1日から施行されるが
価」の額に満たないときは、従業者は事後的に不足額の支払
(附則1条)、
附則2条1項は、
「この法律の施行前にした特許を
いを求めることができると判示したことから、
使用者は従業者か
受ける権利若しくは特許権の承継…に係る対価については、
ら事後的にその不足額を請求される可能性がある。
しかも近
なお従前の例による。」
と規定しているため、
今回の改正法の
時、
後述するような高額の「相当の対価」
を認める裁判例が現
施行前に特許を受ける権利等が使用者に移転された場合に
れたことから、
主に産業界を中心に国内における企業による研
は、
依然として改正前の35条が適用されることになる。
したがっ
究開発への投資活動の不安感が増大するとの指摘がなされ
て、
「相当の対価」に関する紛争について、
今後も使用者に高
ていた。他方、
従業者からは使用者による
「相当の対価」算定
額の支払いを命じる裁判例が出現する可能性は残される。
のベースとなる規程が使用者により、一方的に定められること
が多いため、従業者によっては、
「相当の対価」に対する納得
二、
「相当の対価」に関する近時の主な裁判例は、
以下のとお
感が低いといった点が指摘されていた。
りである。
1. 日立製作所事件控訴審(東京高裁第6民事部・平成16年
これらの問題点に鑑み、今回の改正では
(本稿執筆時、同
1月29日判決)
改正法案は衆議院を通過して、参議院で審議中)、
「相当の
一審原告である従業者が求めた金2億5000万円及び遅延
対価」の算定基準を見直し、以下のように規定した。すなわ
損害金の支払請求に対して、
東京高等裁判所は、
金1億2810
ち、
法35条4項は「契約、
勤務規則その他の定めにおいて前項
万6300円(「相当の対価」の額を1億6516万4300円とし、
この
の対価について定める場合には、
対価を決定するための基準
金額から支払済みの補償金額等231万8000円及び原審が認
の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議
容した3474万円を差引いた額)及びこれに対する遅延損害金
の状況、策定された当該基準の開示の状況、対価の額の算
の支払いを一審被告(使用者)
に命じる判決を下した。
定について行われる従業者等から意見の聴取の状況等を考
本件は、
楕円発光半導体レーザから発せられる楕円光を半
慮して、
その定めたところにより対価を支払うことが不合理と認
値幅以内の円形開口で絞り込むと、形成されるスポットがほぼ
められるものであってはならない。」
とし、
また、同条5項は、
「前
円形状となる装置に関する発明で、
日本以外にも、米国、
カナ
項の対価についての定めがない場合又はその定めたところに
ダ、
イギリス、
フランス、
オランダの各国で特許登録されているも
より対価を支払うことが同項の規定により不合理と認められる
のに関する特許を受ける権利承継の「相当の対価」が争われ
場合には、第三項の対価の額は、
その発明により使用者等が
たものである。
受けるべき利益の額、
その発明に関連して使用者等が行う負
判決は、
日本法人と、
その従業員として勤務していた日本人
担、貢献及び従業者等の処遇その他の事情を考慮して定め
(日本に在住している)
との間における、
職務発明にかかる日本
特許及び外国特許を受ける権利の譲渡契約の成立及び効
なければならない。」と規定する。
力の準拠法は日本法であるとした上で、相当の対価請求権を
今回の改正は「相当の対価」の算定方法を一律に定める
定めた特許法35条3項の規定は、
外国特許を受ける権利等の
ユアサハラ企業法務ニュース 7
譲渡についても適用されるとした。
本判決は、
まず、外国特許に対しても特許法35条の適用が
「使用者が受けるべき利益の額」については、
①包括的ライ
あると解した上で、
このような解釈も属地主義に反するもので
センス契約につき、被告が各社から得た実施料に本件発明の
はないと判示した。そして、被告の貢献度については、
①原告
寄与率を乗じた額及び②包括的クロスライセンス契約につき、
の職務内容(本件発明を期待される立場にあったこと)、②
被告が各社から得た実施料を基にこれを算定する場合には、
APM事業化の経緯(事業化に不可欠なライセンス契約の存
事案に応じて減額調整すべきとした上で本件発明の寄与率を
在)、③本件各発明がされた経緯(長年にわたる多額の費用
乗じた額とした。
この額に、
被告の貢献度を80%、
共同発明者
と人員の投入)、④本件各発明の意義(APM事業の一環で
の貢献度を30%とした上、上記の「相当の対価」を認定した。
あった)、
⑤本件各発明を権利化するに至る経緯、
⑥本件各発
明の事業化の経緯、
⑦原告の処遇等の事情を総合的に判断
2. 日亜化学事件(東京地裁民事46部・平成16年1月30日判決)
して、被告の貢献度を95%、共同発明者間における原告の貢
原告(従業者)
が、
特許法35条3項の「相当の対価」の一部
献度を50%として、
被告が受けるべき利益の額金79億7400万
として請求した金200億円及び遅延損害金の支払請求に対し
円から、被告の貢献度95%を控除し、共同発明者間における
て、東京地方裁判所は、金604億円余りを「相当の対価」
と認
原告の寄与度50%を乗じて「相当の対価」を算出した。
定して、原告の請求額である金200億円を全額認容した。
(弁護士 毛利 峰子、同 佐久間 幸司)
本件は、
窒素化合物半導体結晶膜の成長方法に関する発
明をした原告が、
被告(使用者)
に対して、
「相当の対価」の請
求を行ったものである
(当初、
原告は、本件発明に関する特許
を受ける権利は、
特許法35条に基づいて被告に移転されたも
のではなく、
特許権は自己に帰属するものである旨争っていた
裁判所法等の一部を改正する法律案(内閣提出第63号)
(衆議院可決、参議院議案受理[平成16年3月31日現在])
が、
当該争点に関しては、平成14年9月19日の中間判決で特
許を受ける権利は被告に承継されており、特許権は被告に帰
1. 今回の改正案は、近年のプロパテント政策に基づく司法イ
属する旨の判断がなされた。)。
ンフラの拡充の一環で、知的財産関係事件の審理の充実及
相当の対価算定にあたって、判決は、
まず、青色発光ダイ
び迅速化を図るために、①知的財産に関する事件における裁
オードに関する本件特許に基づくGaN系発光ダイオードとGaN
判所調査官の権限の拡大及び明確化を図り、
②知的財産の
系レーザーダイオードの特許権存続期間満了時までの被告の
侵害に係る訴訟の審理における営業秘密の保護の強化と侵
売上高を算出した
(金1兆2086億127万円)。その上で、被告
害行為の立証の容易化を図り、③特許等の侵害にかかる訴
が競業会社から得られると想定される実施料相当額を、本件
訟と特許等の無効の審判との関係を整理等する為の措置を
発明に基づく被告製品の競争力、市場の状況等を勘案して、
講じております。
少なくともその2分の1に実施料率20%を乗じた金額(金1208
2. ①知的財産に関する事件における裁判所調査官の権限の
億6012万円)であるとし、
さらに原告の貢献度の認定にあたっ
ては「小企業の貧弱な研究環境の下で、従業員発明者が個
拡大及び明確化(民事訴訟法92条の8、同条の9新設)
(1)改正の概要
人的能力と独創的な発想により、競業会社をはじめとする世
裁判所は、必要があると認めるときは、調査官に、口頭弁論
界中の研究機関に先んじて、産業界待望の世界的発明をな
期日等において訴訟関係を明瞭にするため事実上及び法律
しとげたという、職務発明としては全く稀有な事例である」
とい
上の事項に関し当事者に対して問いを発し、
または立証を促
う本件の特殊事情を考慮して、
発明者である原告の貢献度を
50%と認定した
(「相当の対価」:金604億3006万円)。
す等の事務を行わせることができます。
(2)改正案の趣旨・目的及びこれまでの制度との差異
本改正案の趣旨・目的は、
知的財産訴訟において専門的処
3. 味の素事件(東京地裁民事47部・平成16年2月24日判決)
理体制を一層強化し、審理の更なる充実・迅速化を図る為に
原告(従業者)の金20億円及び遅延損害金の支払請求に
裁判所調査官の中立性を確保しつつ、
その権限の拡大・明確
対して、東京地方裁判所は、被告(使用者)に対し、金1億
化を図ることにあります。
8935万円(「相当の対価」の額を1億9935万円とし、
この金額
これまでの制度は、調査官は、裁判官の命を受けて特許等
から、
支払済の報奨金1000万円を差引いた額)及びこれに対
に関する調査を行い、
その報告を裁判官に対して行うという建
する遅延損害金の支払を命じた。
前で行われていました。
この制度ですと、
裁判官は、
法廷等で
本件は、
人工甘味料アスパルテームを工業的規模で製造す
当事者らとやりとりをし、
それを踏まえて調査官に必要な調査を
る工程の一部をなす工業的晶析法及びAPM束状集合晶並
依頼するという形式、
すなわち、
調査官は裁判官というワンクッ
びに上記工業的晶析法によって得られるAPMの束状集合晶
ションを置いて当事者に説明を求めるなどの調査を行うことに
等に関する発明で、
日本及び外国各国で特許登録されている
なっていたのです。
これでは、迅速性も失われますし、
正確性
ものに関する特許を受ける権利承継の「相当の対価」が争わ
を欠くと言われていました
(もっとも、実際上は、弁論準備手続
れたものである。
等の準備室における期日には調査官も立ち会い、
当事者と直
ユアサハラ企業法務ニュース 8
接、問題となっている技術等について問答をするということが
し、更にこれに違反する場合は、3年以下の懲役または300万
行われていましたので、
この点について改正案は権限を明確
円以下の罰金に処することとして
(特許法202条の2新設、実
化したに過ぎないと考えます。)。
用新案法・意匠法・商標法・不正競争防止法・著作権法にも
これに対して改正案によりますと、
調査官は、
弁論準備等の
同様の規定新設)、開示範囲を制限し、営業秘密を知る者を
手続はもちろんのこと、
公開法廷で行われる口頭弁論・証拠調
限定して不正使用の防止を図ろうとしたのです。
期日等においても、
当事者・証人・鑑定人に対して、直接に問
また、改正案は、
当事者尋問等において、公開の法廷で陳
いを発し、
また、一定の事項について立証を促すことができま
述をすることにより当該営業秘密に基づく当事者の事業活動
すし、裁判官に対して意見を言うこともできるようになります。
に著しい支障を生ずることが明らかで、
かつ、
特許等の侵害の
これまでの制度と最も異なる点は、
公開の法廷で直接、
証人
有無についての適正な裁判をすることができない、
という2つ
らに質問をすることができる点です。これにより、調査官は、技
の要件を満たすときは、公開停止とすることができるとしてい
術的争点についてより詳細かつ的確な証拠に基づき、
裁判官
ます。
に対して意見を言うことができるようになるとされています。
(3)問題点
これらの規定により、
営業秘密が、
公開裁判によって公にな
り、
または相手方に利用されることが防止され、特許等の侵害
調査官が裁判官に対して述べる意見は、口頭で行うか、
報
の事実の有無に関する証拠を十分に提出させて、
充実した審
告書を作成してもその報告書が非公開であることから、
当事者
理を行うことができるとされています。
が検証することができません。従いまして、
その意見が誤って
(3)問題点
いたとしても当事者からこれを正す機会はなく、裁判所がこの
当該規定には、秘密保持命令の対象と、命令の遵守につ
ような意見を採用して判断を行った場合は、上訴する他ありま
いて問題があります。
せん。
そもそも、
自己の知識と訴訟で得られた営業秘密を明確に
この対策としては、
現在のところ、調査官との質疑応答を充
分けることは困難であり、
当事者がその秘密を知ったとき、
それ
実させ、調査官に技術的事項等について誤解が生じていな
を一切使用しないということが可能であるのか甚だ疑問が残り
いか逐一確認していく他ありません。立法者もかような手段で
ます。特に、
特許等の事件は専門知識が必要であり、
それを理
判断ミスを防ぐことを予定しております。
解できる社内の研究者に証拠を閲覧させたとき、
その研究者
3. ②知的財産の侵害に係る訴訟の審理における営業秘密の
が今後その知識を全く活かさないでいられるとは考えがたいと
保護の強化と侵害行為の立証の容易化(秘密保持命令:特
言わざるを得ません。
許法105条の4乃至同条の6新設、実用新案法・意匠法・商標
また、
訴訟追行にあたっては、
当事者も記録を精査して代理
法・不正競争防止法・著作権法にも準用又は同趣旨の規定)
人と最終的な訴訟方針を決定する必要がありますが、
その当
(当事者尋問等の公開停止:特許法105条の7新設、
実用新
案法・不正競争防止法にも準用又は同趣旨の規定)
(1)改正の概要
事者が秘密保持命令を遵守できるのか、
また、
遵守していたと
しても、
競争相手から命令違反を主張されて新たな紛争となら
ないとは限りません。
裁判所は、
当事者等に対し、準備書面または証拠に含まれ
この点については、
まず、
専門家については社外の弁理士
る営業秘密を訴訟追行目的以外の目的で使用し、
または開示
等の技術の専門家を活用し、
方針決定については、
営業秘密
してはならない旨を命ずることができ、特許権等の侵害訴訟に
が記載された記録を閲覧する者を研究開発に携わっていない
おいて、
侵害の有無についての判断の基礎となる事項であっ
者に限定するといった対策が考えられます。
て営業秘密に該当するものに関する当事者尋問等について、
4. ③特許等の侵害にかかる訴訟と特許等の無効の審判との
一定の要件のもとにその公開を停止することができることとし
関係を整理等する為の措置(特許権者等の権利行使の制
ています。
限:特許法104条の3新設)
(訴訟との関係:特許法168条5
(2)改正案の趣旨・目的及びこれまでの制度との差異
本改正案の趣旨・目的は、特許等の侵害行為の立証の容
易化を図ることにあります。
項、6項等新設、実用新案法・意匠法・商標法にも準用又は同
趣旨の規定)
(1)改正の概要
これまでも、裁判所の訴訟記録の閲覧制限決定がある時
特許権等の侵害に係る訴訟において、特許等が無効審判
は、
第三者に対してノウハウなどの営業秘密(不競法2条4項に
により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者等
規定されている
「営業秘密」
と同じ意味です)
については非公
は、相手方に対しその権利を行使することができないこととす
開とすることができましたし、
その秘密を、不正の利益を得また
るとともに、侵害訴訟と無効審判との連携をより円滑化するた
は営業秘密の保有者に損害を与える目的を持って使用すれ
めに所要の規定を置くこととしています。
ば、不正競争に該当するとされていました。
(2)改正案の趣旨・目的及びこれまでの制度との差異
これに加えて、改正案は、
当事者などに対して秘密保持命
本改正案の趣旨・目的は、紛争の実効的解決、
侵害訴訟と
令を出し、
使用目的を制限するのはもちろんのこと、
その命令を
無効審判の判断齟齬の防止及び裁判所と特許庁の進行調
受けていない者に対してかかる秘密を公開してはならないと
整を充実させることにあります。
ユアサハラ企業法務ニュース 9
改正案は、
いわゆるキルビー判決
(最判平成12年4月11日民
集54-4-1368)の明白性の要件を不要とした規定と言えます。
国際機関における弁護士の役割
キルビー判決は、侵害訴訟における特許が無効とされていな
−世銀・アジ銀での経験から−〔上〕
い場合でも、無効となることが「明白」であるときは、権利濫用
としてその特許権に基づく請求を認めないとするものですが、
私はアジア開発銀行の営業局次長として、また後に世
本改正案は、
そのような明白性の要件が無くとも、特許等が無
界銀行の協調融資担当副総裁として通算7年3ヶ月勤務
効となる事由の有無を判断して特許権等の行使を認めないと
した。これらの機関では所謂機関内弁護士(in-house
することができます。
lawyer)
が大きな役割を果たしており、その間の事情はわ
また、侵害訴訟と無効審判との連携に関しては、侵害訴訟
が国における今後の弁護士の役割、
そして司法改革にも
への対抗手段として特許等の無効審判を申し立てた場合、
特
参考になると思われるので簡単に紹介してみたい。
許庁は侵害訴訟の係属裁判所に報告をするに止まり、
いかな
る攻撃防御を主張しているのかに関しては、審判官が必要と
世銀やアジ銀は行内に大勢(世銀では当時確か20人
認めたときに、
当事者に対して問い質していました。
に近かったかかと思う)の弁護士を抱えており、その親玉
しかし、
本改正案は、
特許庁長官は、裁判所に対して、
当該
がgeneral counselで、行内での地位は総裁に次ぐ。
これ
訴訟記録のうち審判官が必要と認める攻撃防御方法を記載
らはいずれも法曹の実務経験豊かな人達で、
世銀に来る
した書面の写しの送付を求めることができるとして、特許等の
前や退職した後は弁護士を開業している人が大部分だ
訴訟における攻撃防御方法と審判における攻撃防御方法を
から文字どおりのインハウスローヤーである。
共通化させ、
もって、訴訟と審判の判断齟齬を防止し、進行を
世銀は国連の特別機関(specialized agency)である
調整しようとしたのです。
から、多国間条約としての国連憲章やこれに基づく世銀
(3)問題点
憲章(チャーター)
が活動の法的基礎である。世銀は立場
本改正案によって裁判がどのような影響を受けるのかにつ
上コンプライアンスの概念は厳密に適用されており、
ゼネラ
いては、今後の運用を見なければ明確なことは言えません。
ルカウンセルのオフィスは世銀の分厚い内部規則や活動
特許権等の行使の制限については、
これまでも権利濫用の
がチャーターに則っているかを最終的に見届ける責任を
抗弁が提出された場合、
各裁判官によって明白性の判断がな
負っている。
されてきましたが、実質的に特許等が無効と言える程という基
その具体的な仕事は多岐にわたるが、
融資面で見てみ
準が用いられてきたと思われる裁判例もありますし、
そもそも、
裁
ると、先ず世銀の融資では開発プロジェクトがサステイナブ
判所は特許等が無効であると確信しない限り権利濫用とする
ルな形で根付くような経済政策を受入国政府が整えてい
ことはなく、
明白性の要件にどれほどの意義があるのか疑問視
ることを援助の条件としている。
これが所謂コンディショナ
されていました。
また、
どのような場合が改正案の「無効にされ
リティーであって、
これをどうアグリーメントに盛り込むかエコ
るべきもの」であるのか明確でなく、結局、
これまで通りかかる
ノミスト、
エンジニア、
ローヤーなどの専門家が額を集め知
要件の該当性についての判断は、裁判所の広範な裁量に委
恵をしぼることになる。
ねられているからです。
世銀はプロジェクトの実施手続きについて詳しいガイド
(弁護士 遠藤 崇史)
ラインを持っており、機材の購入、工事の発注で談合が排
除されているか、関係者の間にコンフリクトはないか、
融資
金が軍事目的に転用されたり、一部の要路者の懐に入ら
ないような仕組みが担保されているか、
プロジェクトの実施
が受け入り国の国内法規に抵触することはないかなどの
チェックもローヤーが介入を要する事項である。主要出資
国である欧米の独占禁止法や公正取引法が受入国に
そのまま適用されるわけではないが、少なくとも世銀等の
前号(第22号2004年春)
活動がその精神から大きく逸脱することは許されないで
あろう。
・司法救済に関するカントリーリスク
・知的財産関連法改正の概説
このように世銀等の活動の全般が法的レビユーに服し
・税務情報:消費税法の改正
ており、私もアプレイザルミッションのリーダーとして数週間
・国内法律情報:株券不発行制度及び電子公告制
単位で出張した時も常にローヤーが一人同行し終始相談
度の導入に関する要綱
に乗ってくれた。
続く
(弁護士
ユアサハラ企業法務ニュース 10
大内 照之)
公益通報者保護法案
通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料
する場合に、
当該労務提供先等に対する公益通報をいうとさ
食品の偽装表示事件をはじめとして、
企業の不祥事が内部
れています(1号)。
告発により表面化することが多くなっており、
こうした状況を受
この「労務提供先」とは、労務提供先若しくは労務提供先
け、各企業も内部告発を受け付ける窓口を社内に設けるなど
があらかじめ定めた者をいうものとされていますので
(第2条1
の対応が整備されてきていますが、
こうした内部告発者の犯人
項)、
事前に通報先やその手順について定めておくことが必要
探しが行われたり、不利益な処分をされることも多いといわれ
となります。
ています。公益通報した者を保護することにより、
「国民の生
(2)行政機関への外部通報
命、
身体、
財産その他の利益の保護にかかわる法令の規定の
通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ず
遵守を図り、
もって国民生活の安定及び社会経済の健全な発
るに足りる相当の理由(真実相当性)
がある場合に、
通報対象
展に資すること」が本法の目的とされています。
事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関
に対する公益通報をした場合。
1. 公益通報とは
①労働者(これは労働基準法の概念と同一であるとされて
(3)行政機関以外への外部通報
おり、役員は含まれていません。)が、②不正の利益を得る目
通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ず
的、
他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく、
③そ
るに足りる相当の理由があり、
かつ、
次のいずれかに該当する
の労務提供先又は当該労務提供先の事業に従事する場合
場合に、
その者に対し当該通報対象事実を通報することがそ
におけるその役員、従業員、
代理人その他の者について通報
の発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であ
対象事実が生じ、
又はまさに生じようとしている旨を、④当該労
ると認められる者に対する公益通報をいうとされています。
務提供先若しくは当該労務提供先があらかじめ定めた者に、
①公益通報をすれば解雇その他不利益な取扱いを受けると
④当該通報対象事実について処分等をする権限を有する行
信ずるに足りる相当の理由がある場合
政機関又はその者に対し当該通報対象事実を通報すること
②公益通報をすれば当該通報対象事実に係る証拠が隠滅さ
がその発生若しくはこれによる被害の拡大を防止するために
れ、
偽造され、
又は変造されるおそれがあると信ずるに足りる
必要であると認められる者に通報することをいうものとされてい
相当の理由がある場合
ます(第2条1項)。
③労務提供先から前二号に定める公益通報をしないことを正
2. 対象となる事実
当な理由なく要求された場合
公益通報の対象となる事実は、
以下のとおりとされています
④書面により第一号に定める公益通報をした日から二十日を
(第2条3項)。
経過しても、
当該通報対象事実について、
当該労務提供先
(1)犯罪行為
等から調査を行う旨の通知がない場合又は当該労務提供
個人の生命又は身体の保護、
消費者の利益の擁護、環境
先等が正当な理由なく調査を行わない場合
の保全、
公正な競争の確保その他の国民の生命、
身体、
財産
⑤個人の生命又は身体に危害が発生し、又は発生する急迫
その他の利益の保護にかかわる法律(別表に刑法、
食品衛生
した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合
法、
証券取引法、
農林物資の規格化及び品質表示の適正化
4. 不利益取扱いの禁止(第5条)
に関する法律(JAS法)、大気汚染防止法、廃棄物の処理及
事業者は、
その使用し、又は使用していた公益通報者が第
び清掃に関する法律、個人情報の保護に関する法律が挙げ
三条各号に定める公益通報をしたことを理由として、
公益通報
られています。
したがって、
これら以外のもの、
例えば脱税等に
者に対して、
降格、
減給その他不利益な取扱いをしてはならな
ついては含まれないことになります。)
に規定する罪の犯罪行
いとされています。
為の事実。
5. 他人の正当な利益等の尊重(第8条)
公益通報をする労働者は、他人の正当な利益又は公共の
(2)法律違反行為が犯罪行為となる場合
上記法律の規定に基づく処分に違反することが前号に掲
利益を害することのないよう努めなければならないとされてい
げる事実となる場合における当該処分の理由とされている事
ますが、
この規定の実効性の程は未知数であり、労働者側の
実(当該処分の理由とされている事実が同表に掲げる法律の
制度濫用の懸念が指摘されています。
規定に基づく他の処分に違反し、
又は勧告等に従わない事実
6. 是正措置等の通知(第9条)
である場合における当該他の処分又は勧告等の理由とされて
書面により公益通報者から公益通報をされた事業者は、
公
いる事実を含む。)。
益通報に係る通報対象事実の中止その他是正のために必要
3. 公益通報を理由とした解雇及び労働派遣契約の解除無効
と認める措置をとったときはその旨を、
当該公益通報に係る通
以下の公益通報を理由とした解雇及び労働派遣契約解除
報対象事実がないときはその旨を、
当該公益通報者に対し、
遅
は、無効とされます(第3条、第4条)。
滞なく、通知するよう努めなければならないとされています。
(弁護士
(1)内部通報
ユアサハラ企業法務ニュース 11
小林 邦聡)
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法律部・会計部
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公認会計士 五味 才行
弁護士 大平 茂
弁護士 小林 邦聡
弁護士 遠藤 崇史
事務局 細矢 友子
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ユアサハラ企業法務ニュース 12