新潟大学工学部建設学科建築学コース 卒業論文梗概 平成15年度 家庭用エアコンの実使用時における成績係数に関する研究 T00K680K 佐藤 久遠 指導教官 赤林 伸一 教授 1 研究目的 我が国におけるエネルギー消費量のうち、住宅部門で 消費されるエネルギーの割合は、全体の14%を占め、室 内の快適性の追求や IT 化などにより住宅部門のエネル ギー消費量は今後更に増加すると予想される。住宅で消 費されるエネルギーの内訳では、冷暖房によるエネル ギー消費が最も多く、冷暖房機器の性能向上が重要であ ると考えられる。 本研究では、住宅に設置されているエアコンの実使用 時における成績係数(COP=エアコンの熱出力/消費電力) を明らかにするため、COP 簡易測定手法を開発し、実使 用時のエアコンの COP と外気温湿度、エアコンの運転状 況などとの関係を明らかとすることを目的とする。 2 研究概要 2.1 研究対象:調査対象住宅を表1に示す。対象住宅 は、新潟県の一戸建住宅5戸とする。 表1 調査対象住宅 住宅A 住宅B 住宅C 住宅D 住宅E 新潟市 新潟市 新潟市 新潟市 新潟市 床面積 構造・工法 家族人数 1996年 150㎡(居住部分) 木造(一部RC造) 2002年 117.49㎡ 木造 2002年 178.23㎡ 木造 2002年 130.83㎡ 木造 2001年 241.76㎡ 木造 3人 4人 5人 4人 2人 出力[W] 所在地 建築年 2.2 測定方法:測定には、簡易測定手法を用いる。エア コンの機器効率を示す COP を算出するために、エアコン に吹出・吸込部の温湿度、室外機のインバータ周波数、 ファンの回転数、消費電力量を計測するモジュールを設 置する。また、室外機の吹出・吸込部に温湿度計を設置 する。 3 簡易測定手法の有用性について エアコンの COP は、日本工業規格 JIS B 8615 に規定 されているカロリーメータ型空気エンタルピー測定装置 等によって定格運転時の測定が行われている。住宅に設 置されたエアコンは、居住者によって頻繁に使用パター ンが変更される。家庭用エアコンの電力消費量や運転状 況、COP の実態を明らかにするためには、カロリーメー タに替わって、家庭用エアコンに取り付け可能な簡易測 定手法を開発する必要がある。簡易測定手法の測定精度 を明らかとするため、カロリーメータと簡易測定手法の 比較検証を行った。図1にカロリーメータ値と簡易測定 表2 実使用時平均 COP とカタログ COP 住宅B 住宅C 住宅D 住宅E カタログCOP 5.00 4.94 5.79 5.77 5.83 5.97 3.06 5.88 表3 冷房測定結果 (住宅A) 積算電力消 積算エアコン 費量 [Wh] 熱出力[Wh] 8/9 11時間00分 1581 8133 8/16 6時間49分 1110 7854 8/24 11時間22分 1835 10596 運転時間 平均 平均外気 平均外気 平均室内 COP 温度[℃] 湿度[%] 温度[℃] 5.14 24.6 90.8 25.1 7.08 22.8 70.4 25.6 5.77 26.1 84.6 25.1 平均室内 湿度[%] 69.1 61.7 65.4 表4 暖房測定結果 (住宅A) 積算電力消 積算エアコン 費量 [Wh] 熱出力[Wh] 12/18 10時間54分 2758 8157 12/21 13時間24分 3448 10673 12/22 10時間48分 2515 7839 運転時間 平均 平均外気 平均外気 平均室内 COP 温度[℃] 湿度[%] 温度[℃] 2.96 4.5 93.8 26.4 3.10 4.4 92.0 26.4 3.12 10.3 86.0 26.4 平均室内 湿度[%] 39.0 39.0 41.9 カロリーメータ値[W] 簡易測定値[W] 0 10 20 30 40 運転時間[分] 50 60 70 (1)冷房 出力[W] 住宅A 運転状態 測定日 実使用時平均COP 冷房 8/1∼9/30 6.61 暖房 10/1∼1/9 2.89 冷房 9/11∼9/15 10.90 暖房 12/20∼12/24 6.70 冷房 9/2∼9/5 5.53 暖房 12/5∼12/8 1.82 冷房 8/26∼8/31 2.89 暖房 11/14∼11/17 4.00 4500 4000 3500 3000 2500 2000 1500 1000 500 0 4500 4000 3500 3000 2500 2000 1500 1000 500 0 カロリーメータ値[W] 簡易測定値[W] 0 10 20 30 運転時間[分] 40 50 (2)暖房 図1 カロリーメータ値と簡易測定値の時間変化 値の時間変化を示す。 冷房・暖房時ともにカロリーメータによるエアコンの 熱出力の値と簡易測定装置の値はよく一致しており、簡 易測定手法による測定は、有効であると考えられる。 4 解析結果 算電力消費量が大きく異っている。 図2に住宅Aにおける実使用時COPおよび室内外機の 吹出・吸込温度の時間変化を示す。冷房時は、運転開始 後約4時間の間では、COP が高く変動も大きい。また冷 房時に比べ、暖房時の COP は全体的に低い。 4.1 カタログ COP と実使用時における COP の関係 4.3 室内外温度差と実使用時 COP の関係 表2に各住宅の測定期間における実使用時の平均 COP 図3に住宅A、Cにおける室内外温度差と実使用時 とカタログに表示されているCOPを示す。実使用時COPと COP の関係を示す。室内外温度差は、室内機吸込温度か カタログ COP には相違が見られる。特に、住宅Bの冷房 ら室外機吸込温度を引いた値である。 どちらの住宅にお 時ではカタログ COP に比べ実使用時 COP が約2倍、住宅 いても、室内外温度差が大きくなるにつれて COP は高 Cの暖房時で はカタログ COPに比べ実使用時 COPが約1/3 くなる傾向がみられるが、相関係数は 0.0 ∼ 0.6 と高く となり、大きな差がある。また、住宅A、B、Cでは、カ ない。 タログ COP は冷房時と暖房時で差が殆どないのに対し、 5 まとめ 実使用時 COP は冷房時の場合が暖房時に比較して極めて ①家庭用エアコンに取り付け可能な COP 簡易測定手法 高くなっている。 は、実使用時の家庭用エアコンの COP 測定に有効で 4.2 実使用時の冷房時 COP と暖房時 COP の関係 ある。 住宅Aにおける冷房時の COP 測定結果を表3に、暖房 ②カタログ COP と実使用時 COP には大きな相違が見られ 時の COP 測定結果を表4に示す。8/9 と 12/18 を比較する る。住宅A、B、Cでは、カタログ COP は冷房時と暖 と、積算エアコン熱出力がどちらも約 8100Wh であるのに 房時で差が殆どないのに対し、実使用時の COP は冷房 対し、積算電力消費量がそれぞれ 1581Wh、2758Wh と大き 時の場合が暖房時に比較して極めて高くなっている。 な相違が見られる。同様に、8/16 と 12/22、8/24 と 12/21 ③冷房時に比べ暖房時は、同じエアコンの熱出力に対す を比較すると、同程度の積算エアコン熱出力に対し、積 る消費電力量が多い。 20 40 COP ●室外機吸込温度 ◆室外機吹出温度 ○室内機吸込温度 ◇室内機吹出温度 40 COP ●室外機吸込温度 ◆室外機吹出温度 ○室内機吸込温度 ◇室内機吹出温度 35 35 30 20 10 15 実使 用 時 COP 25 25 20 10 15 10 5 30 15 温度 [℃ ] 実使 用 時 COP 15 10 5 5 0 18:00 20:00 22:00 0:00 2:00 5 0 6:00 4:00 温度 [℃ ] 20 0 20:00 22:00 0:00 2:00 4:00 0 8:00 6:00 (2) 12/18(暖房) (1) 8/9(冷房) 図2 COP および室内外機の吹出・吸込温度の時間変化(住宅A) 10 10 9 y = 0.261x + 6.2714 R2 = 0.2517 8 冷房 暖房 全体 y = -0.1859x + 6.3442 R2 = 0.6253 5 4 3 y = 0.0135x + 2.6612 R2 = 0.0152 2 1 y = 0.7127x + 2.4834 R2 = 0.4861 8 7 6 △, □, 9 実使用時COP 実使用時COP △, □, 7 6 5 y = -0.0896x + 3.5911 R2 = 0.2249 4 3 2 y = 0.1345x - 0.5578 R2 = 0.6639 1 0 冷房 暖房 全体 0 -5 0 5 10 15 室内外温度差[℃] (1) 住宅A 20 25 30 -5 0 図3 室内外温度差と COP の関係 5 10 15 室内外温度差[℃] (2) 住宅C 20 25 30
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