出隅部アンカーボルトの力学的性状に関する実験的研究 その 1 引抜実験

出隅部アンカーボルトの力学的性状に関する実験的研究
その 1 引抜実験
正会員
同
アンカーボルト
出隅
○野木 章延*
中尾 雅躬***
同
松岡
徹**
引抜試験
1.序
の場合、全試験体ボルトの抜け出し、被り部分破壊はほとん
住宅用アンカーボルトの引抜耐力、せん断耐力の力学的性
ど確認されず、コンクリート梁の破壊が進行してそれに伴う
状について実験を行った結果を報告する。対象としたのは、
加力部コンクリートの浮上が確認された。
実大鉄骨構造建築物の基礎出隅部柱脚である。柱脚部アンカ
3.2
性能値
表2に各試験体の実験結果を示す。剛性は M20 アンカー
ーボルト本数は4で、柱脚部を介して4本同時に載荷を行っ
た。実験結果から、構造設計用評価式の検討を行った。
仕様の場合、補強筋を施すことにより、高い値を示した。
2.実験概要
2.1 引抜実験及びせん断実験
M22 アンカー仕様の場合、M20 に比べ同値、あるいは低値
を示している。また補強筋の有無による値の変化もほとんど
本実験は引抜実験及びせん断実験の2種類について行った。 みられない。これは M22 仕様の大部分の試験体で基礎梁コ
本報その1では、引抜実験を行った結果について報告する。
ンクリートの曲げ破壊が先行して生じ、アンカーボルトまわ
2.2
りの破壊にまで至らなかった、ためである。最大荷重は M20
試験体仕様
試験体仕様は、「アンカーボルト径」、「アンカーボルト埋
アンカー仕様の試験体に関しては、補強筋の有無による最大
め込み深さ」、「基礎コンクリート補強筋の有無」、「ベースプ
荷重の違いが確認され、補強筋を施すことにより約 60%上回
レート−柱型溶接方法」の4種類をパラメータとした5種類
る最大荷重を示した。M22 仕様では前述の理由から最大荷重
で あ る 。 ア ン カ ー ボ ル ト は 埋 め 込 み 型 を 使 用 し 、 110 ×
はコンクリートの曲げ強度で決定している。許容最大荷重は、
110mm 間隔で4本打設した。試験体数は各種4体の合計 20
両試験体仕様においても背面角上部のクラック発生時での荷
表1
体とした。試験体仕様詳細を表1、基礎コンクリート配筋詳
細を図1、試験体コンクリート上面図を図2に示す。
径
M20
M20
M20
M22
M22
基礎コンクリートは普通コンクリート(早強)を使用し、
コンクリート圧縮強度は、試験体数が多いことから実験実施
日が前後することを考慮して、実験初日、中日、最終日の3
試験体仕様詳細
アンカーボルト
基礎コンクリート 溶接方法
素材
埋込深(L)
SS400
500
補強筋無
隅肉
SS400
500
無
突合せ
SS400
500
有
突合せ
SS400
550
無
突合せ
SS400
550
有
突合せ
試験体数
各数
合計
4
4
20
4
4
4
回に分けて圧縮試験を行い、試験結果の内挿により、各実験
における圧縮強度を定めた。
110
60
3-D16
実験位置
補強筋
D10-@150
920
STP. D10@200
L
D10-@250
柱型上部プレート(PL)に2ヶ所、コンクリート上下部に各
図2
長ナット(M27)
PL(25mm)
油圧ジャッキ
載荷方向
加力治具
る。最終では M20 アンカー仕様の場合アンカーボルトの抜
け出し、アンカーボルト設置付近の被り部の破壊が発生する。
一方、M22 アンカー仕様については補強筋無の場合、アンカ
ーボルトの抜け出し、基礎コンクリート梁の破壊が起こるも
のと起こらないものの2種類の破壊モードを示し、補強筋有
PL(50mm)
ベースプレート
加力治具
柱型
30
溶接方法
(隅肉 or 突合せ)
溶接方法
(隅肉 or 突合せ)
PC鋼棒(M27)
ベースプレート
加力治具
アンカーボルト
正面図
上面図
ボルト径
M20
M20
M22
L(埋込深さ)
出隅部内側上部より開始する。その後、外側へ破壊が移行す
PL(50mm)
柱型
(75X75X4.5)
300
3.実験結果
3.1 破壊性状
PC鋼棒(M27)
300
上量を減算したアンカーボルトのみの引抜変位とした。
630
ロード
セル
General Yield 法を適用した。引抜変位は、コンクリート浮
全ての試験体仕様において、初期破壊は基礎コンクリート
基礎コンクリート詳細
(上面図)
基礎コンクリート配筋詳細
2350
図1
降伏耐力の評価においては、荷重−引抜変位関係に対して
920
評価方法
70
2箇所の計10箇所設置した。実験装置概要を図3に示す。
200
で行った。測定変位位置は、各アンカーボルト頂部に1ヶ所、
2.3
60
50
30
ドセルにて荷重を、ひずみゲージ式変位計にて変位を測定し
た。載荷は荷重が最大荷重を超え、その約 80%に低下するま
325
110
実験方法
120t 用油圧ジャッキにて載荷を行い、ひずみゲージ式ロー
920
2.3
各種詳細
溶接方法 ベースプレート厚(mm)
隅肉
19
突合
22
突合
25
下面図
PL-柱型-ベースプレート詳細
基礎コンクリート
図3
実験装置概要
Experimental Study on Structural Behavior of Anchor Bolts at Convex Corner
Report-1:Pullout Test
NOGI akinobu et al.
表2
試験体名称
アンカーボルト径
基礎コンクリート
補強筋有無
溶接方法
M20
無
突合せ
M20
有
突合せ
M20
無
隅肉
M22
無
突合せ
M22
有
突合せ
RM20L500T_1
RM20L500T_2
RM20L500T_3
RM20L500T_4
AM20L500T_1
AM20L500T_2
AM20L500T_3
AM20L500T_4
RM20L500S_1
RM20L500S_2
RM20L500S_3
RM20L500S_4
RM22L500T_1
RM22L500T_2
RM22L500T_3
RM22L500T_4
AM22L500T_1
AM22L500T_2
AM22L500T_3
AM22L500T_4
各試験体実験結果
設定コンクリート強度
剛性
降伏荷重
最大荷重
許容最大荷重
最終破壊
(tf/mm)
(tf)
(tf)
(tf)
(kg/cm2)
モード※
198.6
6.8
27.5
31.2
31.2
A
198.6
8.0
17.5
19.4
18.5
A
213.3
16.9
31.1
33.3
20.8
A
213.3
7.1
30.0
31.8
31.1
A
189.6
39.9
33.0
B
192.5
43.1
42.7
46.8
37.1
A
192.5
17.3
42.5
45.6
28.4
A
194.0
19.9
38.3
44.5
29.5
C
213.5
30.1
25.7
27.1
21.5
A
213.5
7.7
19.8
30.9
28.0
A
213.7
8.1
17.9
37.0
24.9
A
213.7
22.2
16.0
26.6
26.0
A
240.4
9.7
19.5
28.2
17.8
A
240.4
10.9
34.9
40.1
25.3
B
244.0
22.6
24.2
38.6
31.1
A
242.8
42.5
27.6
B
248.2
39.9
28.8
B
248.5
37.3
22.2
B
249.8
24.2
20.4
B
250.2
25.0
11.9
B
※ A:アンカーボルト抜け出し B:基礎コンクリート曲げ破壊 C:アンカーボルト破断
(-)部は降伏前にコンクリート梁の破壊が先行しておこり評価不能
40
比較結果より短期許容
35
力、最大耐力ともに全体
30
投影面積(Ac)
45°
的に危険側の結果となる
25
埋込深(L)
のが目立つ。安全側の設
920
32
5
②
20
RM20L500S_1
①
筋無のものに関しては平
RM20L500S_4
RM20L500S_2
920
有の試験体のみで、補強
RM20L500S_3
10
均で約 35%の超過がみら
5
図4
10
20
30
変位(mm)
40
50
60
荷重変形曲線(M20 アンカーボルト補強筋無)
重低下に起因している。最大荷重同様、M20 仕様に関しては
45°
③
基礎コンクリート
れる。これより補強筋無
0
0
アンカーボルト
920
15
載荷方向
計となったのは、補強筋
60
の試験体において、低減
③
図4
65
投影面積
Ps_min=P
安全側
55
50
比の設定を行った。結果
を表3に示す。
P(実験値)
荷重(tf)
②
①
45
40
35
30
25
補強筋の有無による違いが確認された。補強筋を施すことに
また、上記モデルはア
より降伏荷重の値が大きくなっている。
ンカーボルト個々につい
4.評価式の検討
て考慮した円の集合体と
コンクリート躯体中に定着されたアンカーボルトが引抜力
20
危険側
15
10
10
15
20
25
30
短期許容耐力(M20・無)
最大耐力(M20・無)
35
40
45
Ps_min(計算値)
短期許容耐力(M22・無)
最大耐力(M22・無)
図5
したモデルであるが、こ
50
55
60
65
短期許容耐力(M20有)
最大耐力(M20・有)
比較結果
をうける場合の短期許容引張力、最大引張耐力は、下式(1)、 れを簡略化し、アンカーボルト打設位置の中心線を結んだ四
(2)で算定される 1)。
角型モデルとして計算し、実験値との比較を行った(「コー
◆短期許容引張耐力
Ps = min( 0.6 ⋅ Fc ⋅ Ac , σ y ⋅ a c ⋅ nb , 2 ⋅ f n ⋅ Ao ⋅ nb )
3
◆最大引張耐力
Pm = min( Fc ⋅ Ac , σ b ⋅ a c ⋅ n b , f n ⋅ Ao ⋅ n b )
ン破壊と「アンカー耐力」に関する式のみを採用」)。結果、
(1)
円型モデルとした場合と同様に、短期許容、最大耐力とも補
強筋無の試験体に関してほとんど危険側を示し、平均で約
(2)
2
Fc:コンクリート圧縮強度(kg/cm )
Ac :コンクリートのコーン破壊面の有効水平投影面積で図3による。
(cm2)
Ao:アンカーボルト頭部の支圧面積(cm2)
σ:アンカーボルト降伏応力、最大応力(kg/cm2)
ac:アンカーボルトの軸部断面積とネジ部有効径断面積のうち小さいほう
の値をとる。(cm2)
fn:コンクリートの支圧強度で√Ac/Ao・Fc とする。ただし、√Ac/Ao が 10
をこえる場合は 10 とする。(kg/cm2)
34%の超過がみられた。補強筋有についてはすべて安全側を
示す結果となった。補強筋無の試験体に関して低減比の設定
を行った結果についても併せて表3に示す。
表3 低減比(%)詳細
モデル 補強筋の有無
円型
有
:
有効水平投影面積(図4)は、各アンカーボルト埋込深の
45°に上方投影した円の集合体として考える。上記に示した
無
最小計算値
※1
コーン破壊で決定 (α・√Fc・Ac)
アンカーボルトで決定 (σ・ac・nb)
※1
支圧破壊で決定 (β・fn・Ao・nb)
※1
支圧破壊で決定 (β・fn・Ao・nb)
短期許容引張耐力 最大引張耐力
57
- ※3
68
- ※3
※2
※2
71(50)
70(50)
100
100
※1
無
四角型
有
評価方法を今回行った出隅部引抜実験に適用し、実験値と計
コーン破壊で決定 (α・√Fc・Ac)
アンカーボルトで決定 (σ・ac・nb)
コーン破壊で決定 (α・√Fc・Ac)※1
アンカーボルトで決定 (σ・ac・nb)
※2
70(59)
67(54)※2
100
- ※3
※1:α、βは短期許容の場合にのみ設定 α=0.6、β=2/3
※2:()内は全試験体を安全側とする場合の低減比
算値の比較検討を行った。比較の対象としたのは、最終破壊
※3:今回の試験範囲において、最小値を示す場合が無かった為、評価不能
【参考文献】
形態がアンカーボルトの抜け出し、又は、破断に至った試験
体のみとした。比較結果を図5に示す。
*大東建託株式会社
*DAITO TRUST CONSTRUCTION CO.,LTD.
**株式会社本間組
**HONMAGUMI CO.,LTD.
***東京電機大学・工博
***Prof., Tokyo Denki University,Dr.Eng
※2
58(51)
70(45)※2
- ※3
100
1)日本建築学会:各種合成構造設計指針・同解説(1985)