グループワークにおけるソフトウェア開発テンプレートを用いた進捗状況把握支援システム Progress Management System for Group Work Software Development using a Software Process template ソフトウェア工学研究室 P01100 林祐治 指導教員 松浦佐江子 Yuji Hayashi 1. はじめに 昨年度、情報実験Ⅱにおいてグループワーク支援シ ステムが使用された。情報実験Ⅱは、電子情報システ ム学科 3 年を対象とした授業であり、グループワーク によるソフトウェア開発を行っている。グループワー クではコミュニケーションや情報の共有は重要な事項 となる。グループメンバーの作業は授業以外でも行わ れ、分散した環境下で行われることが多くある。それ らを支援する目的で作られた本システム[1][2]だが、著 者は 2003 年度本システム使用し、教員やグループメ ンバーに進捗度を伝えるための作業報告書では、入力 項目の自由度が高く学生によって判断基準が異なり、 進捗状況が把握しにくいなどの問題点を感じた。この 他にも学生と教員の状況把握にも問題があると感じら れた。本研究では著者の使用経験を生かし、2003 年度 システムにはない、 更なる進捗状況把握を目的とする。 Saeko Matsuura いては、 ここでの機能は作業報告書閲覧しかなかった。 図 1 2004 年度グループワーク支援システムモデル 2004 年度では大まかに 6 つの機能を追加した。適 応した新機能の中で、作業報告書と作業状況について 以下で述べる。 4.1.作業項目のタスクからの選択化 ソフトウェア開発プロセスのフェーズ毎に各フェー 2.2003 年度グループワーク支援システム ズの目標を達成するために必要な作業項目をタスクと 2003 年度の本システムの機能は主に、 何 (作業項目) して与え、このタスクを用いて作業計画を立案するこ をだれ(担当者)がいつ(日程)行うかという作業計 ととした。これにより、グループの作業の流れを把握 画の立案を支援する機能、作業項目ごとに学生が行う しやすくする。 作業報告の作成支援機能、情報を共有するためのアッ 4.2.作業報告書 プローダ、グループメンバーの意見や考えや議論を把 作業報告は作業項目単位で行うものである。前述の 握するための掲示板があり、 進捗状況把握、 情報共有、 ようにタスクを規定することにより、どのような作業 円滑なコミュニケーションを支援するシステムである。 に対して報告を行うのかが明確になる。しかし、自由 な記述方式では、学生がそのタスクをどのように考え 3.進捗状況把握における問題点 て実行したのかを把握できるとは言えない。各自の作 3.1.作業報告書 業状況を的確に把握するために作業を客観的に評価す 2003 年度の作業報告書では、 入力項目の自由度が高 るメトリクスを導入する。これにより 3.1 の問題の解 く学生によって判断基準が異なるため、情報の粒度に 決を図る。作業報告書の入力項目については以下の表 ばらつきが生じる。作業量の入力項目がなく、個人の 1で説明する。 作業量が計れず、客観的な評価もできない。 入力項目 説明 3.2. 作業計画書における作業項目名 自己評価 作業項目に対しての自分自身の評価を 4 段階で記入 進捗度 作業項目の進捗度を 10 段階で記入 2003 年度では、作業計画書における作業項目がシス メトリクス メトリクスはタスクに応じた作業量を測るための指 テム設計フェーズではクラス図の作成のみといったよ 標で作業項目においてどのような成果が出たか、タス うに、かなり大まかに作られていたためグループの作 クに応じて決められた成果で出た数値や名称(ユース ケース名、クラス名など)を記入 業の過程を把握するのが困難だった。 4.進捗状況把握支援 図1は 2004 年度の実験に使用した本システムのモ デルである。作業計画書から作業項目ごとの作業報告 書、掲示板、アップローダが作成される。2004 年度で 大きく変わったものは作業状況把握のための機能で、 図1において「作業状況把握」と囲まれている部分に あたる。これは、進捗状況や学生の今までの作業の状 況把握するための機能であり、 2003 年度システムにお 作業ステップ 作業状態 作業時間 考察 問題点 具体的な作業内容を簡潔に列挙したもの その作業ステップの進捗度合い その作業ステップに費やした時間 各自の作業について,考察を記述 作業にあたって感じた問題点 表1 作業報告書の入力項目の説明 4.3.作業状況 前述の通り、作業状況はフェーズ毎のタスクの列、 タスクは構成されるステップと各種のメトリクスによ って特徴付けられる。我々はこれをソフトウェア開発 テンプレートと呼ぶ。このテンプレートに基づいて作 成された作業報告から、学生の作業状況を抽出し、グ ループ内での進捗状況の把握に役立てる。抽出する作 業状況は次の通りである。 ・フェーズごとのタスクの流れと進捗度 ・作業時間・進捗度・メトリクスの値・問題点のタス ク毎の集計 ・フェーズ毎の個人の作業ステップ 5.評価と考察 本システムは 2004 年度の情報実験Ⅱに適応した。 実験終了時に行ったアンケート結果、システムデータ を元に各機能の有効性を評価する。情報実験Ⅱの授業 は、授業回数 14 回、17 週(冬季休暇含む)である。 学生は 95.8%がインターネットを使える環境にある。 5.1.作業報告書 テンプレートを用いた作業報告書では、テンプレー トを決め入力形式を定めたことにより、それを理解し 作成者の意図した入力がなされるかが問題で、これが 満たされないと情報の粒度はそろわず、客観的評価は できない。アンケートよりどのくらい入力項目を理解 して答えていたかという質問に対して、進捗度 88.9%、 作業ステップ 80.2%が理解していたと答えた。しかし、 メトリクスは理解度を 10 段階で聞いたところ平均 65%だった。メトリクスの理解度は、ソフトウェア開 発プロセスの理解度にも関わってくる。学生の理解度 は、50%以下の学生が 32.1%の学生もおり、実際入力 されたデータを見てもメトリクスの値も個人の判断に より、自分が出した成果の報告か、報告段階の担当者 らの成果の報告かというところで粒度のばらつきがあ ったようだ。改善策として作業報告書の入力画面にお いて、入力項目の説明を入れるなどの工夫が必要であ る。又、メトリクスによってソフトウェア開発プロセ スの理解が深まったと答えているのは 23 人おり、正 確な理解が得られればソフトウェア開発プロセスの理 解度も更に深まると考えられる。 5.2.作業状況 アンケートより作業状況の利用頻度は平均約週 1 回、 「作業状況が役立ったか」は 47.2%となった。作業状 況について共感できるという項目を聞いたところ、 「報 告書の出されている作業項目が水色に変わり、作業項 目は時系列で並んでいるため、グループの作業進捗状 況がすぐ分かる」という意見に 85.2%が共感した。又、 他に「進捗度の項目を見ることによって作業の進捗状 況が分かる」は 48.1%、 「メトリクス一覧により、自 分の作業量が相対的に分かる」は 44.4%で比較的多か った。しかし、作業状況についてはやはり約半数しか 役立ったと答えておらず、その改善策としてアンケー トで学生も答えていたが、作業報告書のデータを使い それらをただ見せるのではなく、そのデータから何が 言えるか?データからこんなところが問題だという情 報を提示するなど、作業を進行する上で有益だと思わ れる情報を提示する機能を考える。 どのような利用をしたかという質問では、他人と比 較して進捗状況を分析する場合や、具体的に進捗状況 を把握できる、すぐ確認できるなどの回答があり、 2003 年度にはない進捗状況把握ができたと考える。 6.まとめ 948 202 600 1043 アップ ロ ーダ 作業項目掲示板 連絡用掲示板 作業報告書 0% 10% 2004年度 1371 105 140 作業項目 作業計画書 2003年度 2583 1485 1657 3549 412 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 図2 システム利用頻度の比較 図2はシステムのログから作成したグラフでそれぞ れの投稿総数を2003年度と2004年度で分けて表示し ている。これより、システムの利用頻度は格段に増え ているのが分かる。これは、作業項目が分かりやすく 作成されたためだと考えられ、システムでスケジュー ルを管理できるようになったことによる利用頻度の増 加や、今まで役割が曖昧だった作業項目から生成され る作業報告書、掲示板、アップローダの役割が明確に なったことによって、利用頻度が増加したと考えられ る。又、作業項目ごとの掲示板においては、関連研究 [3]によるインスペクションが作業項目ごとの掲示板 で行われていたというもの要因だと考えられる。これ らの要因で、システムの利用頻度が上がることでの相 乗効果で連絡用の掲示板の投稿数も増えたと考えられ る。そして、システムを利用することによりログが残 り、これを見ることにより学生、教員の進捗状況の把 握に役立てられる。又、グループメンバーの進捗状況 把握は、アンケートより 67/71 人(94.3%)の学生がシス テムのいずれかの機能により進捗状況を把握しており、 掲示板の進捗状況把握が一番多く、アップローダ、作 業報告書を閲覧するなどにより進捗状況把握を行って いるとも答えていた。 上述と 5 章より、改善点はまだあるものの、本シス テムによって学生間の進捗状況を素早く、さまざまな 視点から把握し、学生の効率的な学習に寄与できたと 考え、次なるシステムの一歩と考える。 謝辞 本システムの利用およびアンケートに協力し ていただいた 2004 年度受講生に謝意を表す。 参考文献 [1]青沼俊介、松浦佐江子:グループワークによるソフトウェア開発教育の ための進捗状況支援システム:情報処理学会 66 回全国大会、1Q-2、2004 [2]吉田明広、松浦佐江子:グループプログラミング授業における仕様書作 成ツールの研究:情報処理学会 66 回全国大会、1Q-3、2004 [3]松下永寿、松浦佐江子:グループワークによるソフトウェア開発におけ るインスペクション支援ツール:情報処理学会 67 回全国大会、3Z-3,2005
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