日本バーチャルリアリティ学会第 10 回大会論文集(2005 年 9 月) 高密度ピンマトリクスによる触覚呈示の可能性 -パッシブタッチ時の検討を中心に- Passive Touch with a High-density Pin-Matrix 仲谷正史 1),段原尚輝 2),梶本裕之 1),川上直樹 1),舘暲 1) Masashi NAKATANI, Naoki DANBARA, Hiroyuki KAJIMOTO, Naoki KAWAKAMI and Susumu TACHI 1) 東京大学 情報理工学系研究科 2) 東京大学 工学部 計数工学科 (〒113 東京都文京区本郷 7-3-1, {nakatani, kaji, kawakami, tachi}@star.t.u-tokyo.ac.jp) Abstract: A pin-matrix tactile display capable of dynamic stimulation could provide richer information than previous displays. However we have only a few knowledge about how fast response rate is enough for these displays. To investigate this, we generated dynamic movement of a non-actuated prototype by moving it over textures etched onto a flat surface. We use linear actuator to move the texture at any speed, for driving the pin matrix. We found that the faster the speed of the texture, the narrower human perceives the width of the engraved shape of the texture, We expect that our result can be used both for deciding the design parameter of the pin-matrix type tactile displays and for creating the patterns presenting using such type of displays. Key Words: High Density Pin Matrix, Passive Touch, Tactile Sensation, Velocity Detection 1. はじめに これにより,時間応答特性において理想的な高密度 PM 型 本研究の目的は,ピンマトリクス(Pin Matrix, PM)型触 触覚ディスプレイをバーチャルに実現することが可能で 覚ディスプレイが持つべき更新レートがどの程度まで必 あり,目的とする知見を得ることが可能となると考えた. 要であるのかを求めることである.その目的を達成する第 以下の節では,高密度 PM について簡単な紹介を行い,速 一ステップとして,本稿では触覚ディスプレイの駆動速度 度が変化してゆく場合に呈示されている形状がどのよう と知覚できる幅について検討する. に知覚されるのか検討する. これまでに多くの PM 型触覚ディスプレイが提案されて 2. 高密度ピンマトリクスとは きているが,皮膚感覚に関して情報を呈示するために必要 な更新レートがどの程度であるのかについて詳細に検討 高密度 PM とは,図 1のように支持板に高密度で直径 1mm している文献は少ない.更新レートが速いほど多様な触覚 のホールを加工し,そこに径 0.8mm のピンを挿すことで構 呈示ができる可能性があると考えられるが,一方で触覚呈 成したものである.ピンは垂直方向にのみスムーズに上下 示を第一目的とするならば人の検出域をはるかに超える 動できるため,マトリクスの下に何らかのテクスチャを敷 ほどのハードウェアを製作する必要はないと考えられる. き,PM 上に指を置きながら観察者が自由に動かすことでテ これまでの PM 型触覚ディスプレイは,可能な限り高密度 クスチャの形状を時間遅れなく離散サンプリングし,かつ に配置できるアクチュエータを用いてさまざまな工夫を 同時に触覚呈示を行うことができる.一方,PM を固定して 重ねて製作されているが,それらのディスプレイより得ら れた知見は,製作したハードウェアの限界と密接に関係し ていた.それゆえ,触知覚に関する研究,特に時間知覚に 関する研究は,単一刺激子による知見が大多数を占めてい た. そこで,本研究はテクスチャの形状に合わせて上下動す るパッシブな PM を使用して,その下にリニアステージに よって速度制御されたテクスチャ動かす実験系を考える. 379 図 1 高密度ピンマトリクス概観 おき,その下にテクスチャ移動させることでも触覚呈示が 可能である.本稿では後者の手法を採用し,被験者が PM 上に指を静止したパッシブタッチの状態での触知覚を検 討する. 3. 実験 3.1 実験内容 本実験の目的は,ピンマトリクス越しに移動するテクス チャの速度と知覚される幅の関係を明らかにすることで ある.実験系を図 3に示す.速度制御が可能なリニアステ ージ(横河プレシジョン株式会社製 LINEARSERV LM110)に, 中央部に一辺が 25mm,高さが 0.1mm の正方形が形作られ 図 2 実験結果.標準刺激の幅が狭くなるにつれて呈示 たテクスチャを固定し,その凹凸にそって上下動するよう 速度が速くなってゆく傾向が見られた. に PM を固定した.PM は横幅 10mm,縦幅 20mm をカバーす るよう,接触部の直径が 0.8mm のピン 200 本を 1mm 間隔で の違いによってピンマトリクス越しに知覚される形状の 並べたものより構成した.被験者は右手をリニアステージ 幅が狭くなることがわかった.さらに、速度の増加につれ 上の PM の上に,左手をある横幅の四角形が形作られてい て,誤差が大きくなることがわかった.これより,速度が るアルミ製の標準刺激金属プレート上に置く.その際,左 増加するほどに指で知覚できる形状の幅の正確さが失わ 手で触れている四角形の幅と同じになるまでリニアステ れてゆくことが示唆される.先行研究として,人間が日常 ージの速度を調節する.左手で触る四角形の幅は 2~ 生活の中で動かす腕の速度は 50-200 mm/s 程度であること 20mm(0.5, 1, 2, 4, 6, 8, 10, 15, 20)の範囲で金属プレ が示されており[2],PM を通した場合でもこの速度の範囲 ートを作成した.この金属プレートは 3D プロッタ(Roland を超える刺激に対しては十分な形状認識がされないこと 社製 Modela MDX-20)により製作した.被験者は 3 名(男 を表しているのではないかと考えられる.また,標準刺激 性 3 名,20 歳~30 歳代)であった.各々の幅に対して初 の幅が広い場合には被験者の回答したリニアステージの 期速度を変化させながらそれぞれ 5 回ずつ,計 55 回を 1 速度のばらつきが小さいことも,前述の先行研究からの知 セットとして実験を行った. 見で説明できると考えられる. 今回の実験では各ピンが下部を通過するテクスチャの 形状に合わせて上下動することを暗黙の上に仮定した.し かし,厳密な議論をするためには,指を乗せた状態での各 ピンの挙動を測定して確認する必要があるだろう.その手 法として,金属でピンが作られていることを利用した,渦 電流によるピンの上下動計測が有力候補である. 5. おわりに 本研究は,ピンマトリクス型触覚ディスプレイにおいて 任意の幅を呈示する際に必要な呈示パターンの移動速度 図 3 実験系の概観.ピンマトリクスの下を速度制御され について検討した.結果,速度が上昇するにつれて知覚で た金属製のプレートが移動することで,右手の人差し指に きる幅が狭くなることがわかったが,一方で,日常の中で 触覚呈示を行う.左手は標準刺激の金属プレート上に置き, 体験しない速度以上でテクスチャが移動すると知覚した 指示された幅と同じになるまで移動するテクスチャの速 形状の幅が正しく認識できないことが示唆された.今後は 度を変化させる. 速度がより遅い場合や PM の幅を広げた/狭めた場合の知覚 特性について検討する. 参考文献 3.2 実験結果 実験結果を図 2に示す.被験者に共通して標準刺激の幅 [1]仲谷正史,梶本裕之,川上直樹,舘暲:高密度ピンマ が狭くなるほどリニアステージの移動速度が速くなる傾 トリクスによる触覚呈示の可能性,日本機械学会ロボ 向がわかった.また,被験者 3 名ともにリニアステージの ティクス・メカトロニクス講演会'05,1P1-N-103, 2005. 移動速度が 200mm/s 以上になると PM 越しに知覚される形 [2]Whitsel BL, Franzen O, Dreyer DA, Hollins M, Young M, Essick GK, Wong C: Dependence of subjective 状の幅のばらつきが大きくなるという結果となった. traverse length on velocity of moving tactile stimuli, Somatosensory Research. Vol. 3 No. 3, pp. 4. 考察 185-196, 1986. 実験結果より刺激している形状が同じであっても,速度 380
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