FEM 解析による緩み域の推定 (1)地盤物性値の整理 地盤の変形係数に関しては、岩石試験や原位置試験を引用した。地盤の変形係数が推定で きなかった礫混じり凝灰質砂岩①に関しては、コアの変形係数が小さいことから、不連続面 の影響も比較的小さいと考え、低減させずにコアの変形係数を用いた。 単位体積重量は岩石試験結果の値より決定した。ポアソン比、粘着力、内部摩擦角に関し ては一般値を用いた。 表.1 地盤の変形係数一覧 地層区分 地盤変形係数 ポアソン比 (MN/m2) 単位体積重量 粘着力 C 内部摩擦角 (g/㎝ 3) (MN/m2) φ(°) 地表緩み域 398 0.3 1.89 0 30* 安山岩質火砕岩 1536 0.3 1.95 0 30* 安山岩溶岩 3013 0.3 2.33 0.085 35.0 赤色酸化安山岩溶岩 1534 0.3 2.22 0 40.5 礫混じり凝灰質砂岩 1337 0.3 1.86 0 40** 砂岩泥岩互層 1337 0.3 1.86 0 45*** * :軟岩 D 級、一般値を使用(設計用地盤定数の決め方―岩盤編―,p49) ** :CM~CH 級、一般値を使用(設計用地盤定数の決め方―岩盤編―,p49) ***:B 級、一般値を使用(設計用地盤定数の決め方―岩盤編―,p49) (2)地震力の想定 3.12 地震における最大地震力(NS 方向 934gal, EW 方向 947gal)を検討断面方向に合成する と 1307gal となる。この加速度が作用した場合の安全率、変位量を検討する。 図.1 地震における地震力及び観測方向 (気象庁 HP より引用) 1 (3)解析結果 FEM解析による解析結果として、安全率分布図及び変位ベクトル図を作成する。 ①安全率分布図 外力(地震力)が地盤に作用した際に、地盤の断面部位における許容応力の外力(発生応 力)に対する安全率の分布を図示する。 地盤の許容応力と外力による発生応力の関係について、図.2 に示す。 最大主応力 最小主応力 せん断応力 内部摩擦角 粘着力 1 最小主応力 最大主応力 垂直応力 図.2 発生応力と許容応力の模式図(FEM ソフトマニュアルから抜粋) 上図に示すように、ある堤体部位に発生する最大主応力と最小主応力からなる応力円が、 モール・クーロンの破壊基準(τ=c+σtanφ)にどの程度接近しているかを示したものが 局所安全率 Fs である。 Fs=L2/L1 局所安全率がF<1.0 の場合、その部位は発生応力が許容応力を上回っていることから破壊 に至る可能性がある。 但し、局所安全率は部位固有の数値であることから、崩壊面や緩み域を推定するには、安 全率の連続性について考慮すると共に、既往崩壊箇所における同定解析結果等を参考とする ことが望ましい。 ②変位ベクトル図 外力(地震力)が地盤に作用した際の、地盤の断面部位における変位の発生方向及び変位 量をベクトルとして図示する。 以上に基づく解析結果について次項に示す。 2 ④崩壊発生前の地形に地震力を作用させたケース(同定解析) 安全率分布図の F≦0.75 境界線は、概ね崩壊後の地形に一致している。 破壊領域は頭部を主体に発生 崩壊後地形線 最小安全率 0.48 赤色酸化安山岩溶岩が弱層となったた め崩壊範囲を拡大した可能性がある。 図.3(1) 地震力作用時の安全率図 崩壊後地形線 5.5m の水平変位が発生 図.3(2) 地震力作用時の変位ベクトル図 3 図.3(1)に示したように、斜面の中間部に挟在している赤色酸化安山岩溶岩が弱層であった ことから、頭部を主体に発生した破壊領域が斜面全体に及んだ可能性がある。 上記を検証することを目的として、斜面全体の地盤物性値を頭部(安山岩質火砕岩)と均 質な状態と仮定して解析を行った。 比較的深い崩壊は頭部のみに発生し、斜面中 下部は表層崩壊であった可能性がある。 崩壊後地形線 仮想緩み領域 図.4(1) 斜面全体を安山岩質火砕岩と仮定した場合の安全率図 最大変位は 3.4m、発生域も縮小 図.4(2) 斜面全体を安山岩質火砕岩と仮定した場合の変位ベクトル図 以上のように、強度が低い赤色酸化安山岩溶岩が介在したことが、崩壊が広範囲に及んだ 素因となっている可能性がある。 4 ⑤崩壊により応力が解放されたケース(現況) 崩壊前の地形が消失し、除荷された場合の現況地形の緩み範囲を示す。安全率 1.00 及び 0.70 を境界とみなした場合の緩み発生域は以下のとおりである。 崩壊前地形線 緩み発生領域(F≦0.75) 緩み発生領域(F≦1.00) 崩積土 図.5(1) 図.5(2) 崩壊後の安全率図(1.0 以下は破壊領域とみなされる) 崩壊後の変位ベクトル図(崩壊による変位量のみを表示) 5 緩み領域としては、F≦0.75 を境界とする範囲と、F≦1.00 を境界とする範囲が想定される。 ここで、当該斜面の対策工としては、アンカー工等の抑止工及び排土工が考えられるが、 アンカー工を検討する場合、緩みが想定される範囲(F≦1.00)に定着部を確保すると十分な 抑止効果を期待できず、引抜きや再崩壊が発生する可能性がある。 したがって、対策工を検討する上では F≦1.00 を境界とする範囲を緩み領域とする。 ⑥解析結果の総括 地震時及び地震後におけるFEM解析結果について、以下のように総括する。 <<地震時の崩壊現象>> ・地震力の作用方向と斜面方向 3.12 地震は南北方向に 934gal、東西方向に 947gal が記録されており、このことは地震の震度 方向が概ね北東-南西方向であることを示している。これは1号崩壊地の斜面方向に概ね合致し ており、尾根状の地形であることも相まって、極めて大きな地震力が斜面に作用した可能性があ る。 ・地質構造を素因とする崩壊範囲の拡大 地質調査結果により、斜面中間部付近に赤色酸化安山岩溶岩が介在していること、この部分 は準岩盤強度 3.42MN/㎡と、その上位の安山岩溶岩の約 1/2 の強度となっている。このため、 層状に介在した赤色酸化安山岩溶岩が弱層となってこれより上位の斜面に大きな地震力を伝 搬させたことが、崩壊が大規模となった一因である可能性がある。 <<崩壊発生後の緩み域>> ・崩壊発生により、それまで作用していた斜面自重による荷重が除荷されたことから、応力が解 放され局所安全率<1.0 となるゾーンが広範囲に出現している。 ・崩壊前地形における地震発生時の緩み域をみると、F≦0.75 の境界付近が崩壊後の地形によく 一致している。 このことから、応力解放により発生した緩み域についてもF≦0.75 の境界面とすべきであるが、 対策工において抑止工を考慮した場合、破壊の可能性がある(F≦1.00)ゾーンにおいてアンカ ー定着部を確保することになるため、対策工検討状の緩み領域はF≦1.00 の境界面とする。 6
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