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ファイナンスのための数理ワークショップ
2007年 10月26日
デリバティブ・プロダクツと数理ファイナンス
野村證券株式会社 金融工学研究センター
デリバティブ プロダクト リサーチ グループ
大本 隆([email protected])
本論は筆者の個人的見解に基づ
いており、野村證券の公式見解に
基づくものではありません。
Global Quantitative Research
リスク(Risk)
„ リスクとは単なる危険を意味しない・・・
„ 確実に予測することができない損失(金額で表示できない、または、蓋然的に予期される場
合は、ファイナンスの数理ではリスクとは言わない)
„ 対象資産の価格や参照指数の確率的(ないしはカオス的)変化によってもたらされる
„ 様々なリスク
„ 事業リスク ・・・・・・企業活動におけるコストの増加、営業収益の変動、資産価値の変動など
„ 金融リスク
„ マーケットリスク・・・価格やレートなどの予期しない変化のリスク
„ クレジットリスク・・・クレジット・クォリティの予期しない変化に関連して,価値(価格)が
変化するリスク
„ 流動性リスク ・・・ ポジション(ポートフォリオ,資産と負債)の変更をする際のコスト
が増加するリスク(特に、クローズ時のアンワインンド・コスト)
<注>他にオペレーショナルリスク、システミックリスク等
マーケットでリスク移転(ヘッジ)
大数の法則による分散効果
-2-
Global Quantitative Research
デリバティブとは何だろうか(1)
伝統的(トラディショナル)な投資手法
• 株や債券、不動産を購入する(ロング)
• 無いものを売ることはできない?→ 空売り(ショート)
または貸りて売る(レポ)
デリバティブを用いた投資手法
• オプション性(選択する権利)がある金融商品
• 何らかの参照資産に応じてペイオフが決まる金融商品
債務や金利コ
スト等
<特徴>
負債
有効なリスク移転(オプションと保険は親戚)
レバレッジを効かせたリスクの取り方
リスクとは・・・確率的な価格変動から生じる期待損失
資産価値
(企業価値)
自己資本
クッションの役割
を果たす
実物資産、金融資産、
営業収益、等
-3-
Global Quantitative Research
デリバティブとは何だろうか(2)
上場物: 標準物、取引所取引、高(低?)流動性
例) 日経平均先物、日経平均オプション
z 市場出来高、取引量で示される換金性
z 突然、流動性を喪失することがある(質への逃避)
金融市場: OTC物(店頭取引)、相対取引
例) 特に、為替、金利物
<標準物(プレーンバニラ)>
フォワード(先渡), オプション, スワップ市場;大きい取引量、高流動性
<エキゾティック物>
バリアー、トリガー、ラチェット付(経路依存型)
仕組債、スワップション; 膨大な残高、低流動性
より収益性の高いプロダクツ組成へ
-4-
Global Quantitative Research
デリバティブとは何だろうか(3)
<特徴的な例;オプション>
z キャッシュ・フローの分解と合成が基本
満期(maturity)
→ ペイオフの非線形性
t =T
(ST − K )+
= max(ST − K ,0 )
At
European Call CT
Put-Call Parity
注)ST − K
= (ST − K ) − (K − ST )
+
Call
Put
(配当支払いの
無い)原資産の
瞬間的な価格変
化率(リターン)
+
0
ST
K
<注>配当のない原資産
µ = r + λσ
z 原資産(参照指数)が確率過程
→ ボラティリティ(価格変動性)が重要
dSt
µ −r ⎞
⎛
= µ dt + σ dBt = r dt + σ dWt ⎜ Wt = Bt +
t ⎟
St
σ
⎝
⎠
Market price of risk
λ
riskpremium
BlackScholes
Model
-5-
Global Quantitative Research
デリバティブとは何だろうか(4)
現在(評価時点)
At t = 0
Time
Value
European
Option
CallCall
Option
40
[
C = e − rT E Q (ST − K )
≥ e − rT E Q [(ST − K )]
30
Premium
+
= S − Ke − rT
20
Prem1
10
Intrinsic
Value
0
Ke
− rT
K
-10
60
70
80
満期
T= 2(年)
無リスク金利
r=
5%
ボラティリティ
行使価格
σ=
K=
20%
100
90
100
S-Kexp(-rT)
Intrinsic
Prem2
S
110
σ=20%
S
120
130
原資産価格
(underlying asset price)
σ>20%(S<100
で増加)
S = e − rT E Q [ST ]
= e − µT E P [ST ]
<注>
• Black-Scholesの枠組では、σ T
がタイムバリューを規定する重要な量である
• 本来はボラティリティ・スマイル、スキューはSが所与でKの関数として与えられる
-6-
]
Global Quantitative Research
デリバティブ・プロダクツの分類
„ 株式デリバティブ(株価指数オプション、株価指数先物、エクイティ・スワップなど)
„ 金利デリバティブ(金利オプション、金利スワップ、金利先物、FRAなど)
„ 為替デリバティブ(通貨オプション、通貨スワップ、通貨先物など)
„ コモディティ・デリバティブ(商品先物(原油、金属)、コモディティ・スワップなど)
„ クレジット・デリバティブ(CDS,CDO等)
<店頭デリバティブ統計(BIS)>
店頭デリバティブ残高=415兆ドル
(想定元本ベース、2006年)
その他, 10%
クレジット関連, 7%
コモディティ関連,
2%
エクイティ関連, 2%
店頭デリバティブ総額=9.7兆ドル
(時価ベース、2006年)
為替関連, 10%
クレジット関連, 5%
その他, 17%
為替関連, 13%
コモディティ関連,
7%
金利関連, 50%
金利関連, 70%
エクイティ関連, 9%
出所:BIS OTC derivatives
statistics 2006
-7-
Global Quantitative Research
デリバティブ・プロダクツの潮流
„ 金融商品(フィナンシャル・プロダクツ)&
グローバル・マーケット(グローバルな金融市場)
<最近の潮流>
z 90年後半以降の潮流として、金融業界においてデリバティブ・ビジネスのプレゼンスは徐々に高まり、
現在では大きな収益の柱になっている。
z 金利デリバティブが主流であった時期と比較して今日では、原資産クラスは多様化している。収益の
源泉の分散化(diversification)が図られている。
z デリバティブ・トレーディングは、伝統的な株(Equity)、債券(Debt)のトレーディングとは別個に、全て
の資産クラスやビジネスのカテゴリーにアクセス可能な、グローバルでハイブリッドな着想になりつつ
ある。
z プレイン・バニラ、エキゾティックを問わず、デリバティブ・モデルは差別化の源泉として、否応なく高度
化、複雑化、グローバル・スタンダード化を指向する。
z 仕組債やスワップ、オプション商品は多様化しており、資本市場(起債等ファイナンス)のビジネス、証
券化商品の組成が進化している。
z 資本市場では、ブリッジ・ローン、自己資本調達、あるいは、保険リスクや事業リスクの移転手法など、
様々な形態が出現すると考えられる。
z 商品開発は武器商人のビジネスに似て、ある種の近代兵器の開発競争を彷彿とさせる。また、デリバ
ティブ・ハウスは装置産業的なビジネスであるとも言える。
z リスク管理上、キャピタル(自己資本)の充実と適切な最適化配分、P/Lとリスクの計測を徹底し、効率
的な経営が(株主、監査法人、監督官庁(FSA)からも)求められている。
-8-
Global Quantitative Research
仕組債(structured note)
投資家
Investor
購入
元本100円
発行体
Issure
C(X)
資金調達
L+α
Swap
House
C(X)
ヘッジ
売却
証券会社
C ( X ); 仕組クーポン
L;LIBOR(6 M )
α ;スプレッド
引受
金融市場
グローバル化/
ボーダーレス化
•
•
•
•
•
•
仕組債も、CB(転換社債)等の起債も、大枠としては似ている
債券仕立てなっているのと、スワップやオプション等とニュアンスが異なる
発行体の信用力を反映してスプレッドαが決まる(sub LIBOR; α<0)
特に過去10年間、円金利の低水準の環境下で、仕組債は隆盛
クーポン エンハンスメント(見栄え良くする)ためにデリバティブを組み込む
投資家は暗黙に何がしかのオプションを売っている
<注>
• MTN (Medium Term Note) は、文字通りの中期という意味ではなく、短期から超長期まである(発行が容易な形態)
• 発行体がSPC (Special Purpose Company)になる場合もあるが、相対的に運営・発行コストは高くなる
-9-
Global Quantitative Research
プライシング(価格付け)の考え方 )(1)
<プライシングの前提>
z 市場の無裁定性(No Arbitrage)
→
無リスクで確率1の収益は得られない。
(このとき、同値マルチンゲール(martingale)測度が存在する。)
z 複製可能性(自己金融取引による)
→
原資産と割引債(リスクフリー資産)をリバランスする(期中の
キャッシュフロー流入・流出がない)適当な自己金融取引戦略
で、デリバティブのペイオフを複製できること。
<注> 任意のデリバティブを複製できる場合、完備市場(complete market) であると呼ぶ。このとき、
同値マルチンゲール測度は一意的で、また、無リスク資産が基準財(ニューメレール)であるため、リスク
中立測度という。
z デリバティブ(派生証券)=自己金融取引のポートフォリオ価値
z デルタヘッジ(Delta Hedge)戦略
-10-
Global Quantitative Research
プライシング(価格付け)の考え方 (2)
1.2
<ディスカウント・ファクター>
2.5%
1
確定的なディスカウント・ファクター = 額面1円の割引債価格
確率的なディスカウント・ファクター ≠ 額面1円の割引債価格
2.0%
0.8
1.5%
0.6
1.0%
0.4
ディスカウント・ファクター
z 固定利付債=割引債のポートフォリオ
0.5%
ゼロ・レート
0.2
0
0.0%
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
n
V = ∑ ci D (ti ) = c1 D (t1 ) + c2 D (t 2 ) + L + cn D (t n )
j =1
e.g.
spot rate (zero coupon
rate) r
default free, deterministic
D(ti ) : 満期tiの額面1円の割引債価格
キャッシュフロー
(クーポン、元本)
c
0
c
t1
<注> スポットレート(ゼロレート)
∆t
t2
rT = −
1
ln D(T )
T
c
t3
cn = c + 100
c
t4
tn
t
D (t ) = exp ⎡ − ∫ ru du ⎤
⎢⎣ 0
⎥⎦
Ν
= 0
Νt
t(年)
は一定ではなく、期間構造(term-structure)がある。自明だが、金利と債券価格の変動は逆向き
-11-
Global Quantitative Research
プライシング(価格付け)の考え方 (3)
<Arrow-Debreu証券>
z デリバティブ=AD証券のポートフォリオ
m
U = ∑ ci Α Si = c1Α S1 + c2 Α S 2 + L + cn Α S n
j =1
e.g.
ディジタル
オプション
の一種
満期Tでの原資産価格 S (T )がS i
であるような場合に限 り、 1円
を支払うAD証券の現 在価値
⎛ ∂
(K − S (T ))+ = 1[ST ≤ K ]
⎜
⎜ ∂K2
⎜ ∂ (K − S (T ) )+ = δ ( K − S (T ))
⎜
⎝ ∂K 2
<注> 弱微分(超関数の意味で)
δはDiracのδ超関数(Dirac測度)
推移確率密度の情報を表す
Α Si = D (T ) × Q(S (T ) ∈ Si )
m
∑ Q(S (T ) ∈ S ) = 1 , Q(S (T ) ∈ S ) ≥ 0
i
i
i =1
確率微分方程式(SDE)
⎛ Ft = E Q [St ]
dX t
= σ ( X t , t )dWt , ⎜⎜
Xt
⎝ St = Ft X t
リスク中立測度 Qにおける到達確率
∀i
Si
(i = 1,L , m )
; m種の事象
<注> Local Volatility (LV) model の一種;
パス毎の一意性のある強解が存在すれば議論には十分で、
必ずしも指数マルチンゲール(或いは、幾何Brown運動)
である必要はない。
-12-
Global Quantitative Research
プライシング(価格付け)の考え方 (4)
区分的にAD証券で表される
<European型デリバティブ価格>
V = D (T ) E Q [ϕ ( S (T ))]
具体的には、
ϕ ( S (T )) = ∑ ci 1[S (T )∈S ]
i
i
⎛1
1[ x∈Si ] = ⎜⎜
⎝0
(if
(if
x ∈ Si )
x ∉ Si )
満期Tでのペイオフ関数
m
V = D (T )∑ ϕ i Q ( S (T ) ∈ S i )
積分表示すると、
i =1
(0, ∞) = U Si
i =1
Si = [ si −1 , si ), sm = ∞
V = D (T ) ∫
現実の確率測度(実測度)Pの下で
(Qと同値)で観測するパスとは異
なり、分布も変わリ得る。但し
、対数正規(e.g. 幾何Brown運動)
では平均がシフトするだけ
m
∞
−∞
ϕ ( x )Q ( x ≤ S (T ) < x + dx )
∫
t=0でSにいるところから出発して、時点
Tで原資産価格がxの近傍に推移する確率
(測度Qの下で)
∞
−∞
ϕ ( x)φ ( x)dx
φ ( x) =
∂Q
∂x
<注> well-defined でありさえすれば良く、連続なBrown運動を用いたSDEで状態変数(あるいは株価)Sの過程が表される必要はない
(Levy過程でもよい)。
-13-
Global Quantitative Research
プライシング(価格付け)の考え方 (5)
<基底による展開(expansion)>
Fourier級数展開、Hermit多項式展開を思い出してみよう・・・複製戦略を表すもの・・・
伊藤の表現定理[Hilbert(ヒルベルト)空間でのRiesz(リース)定理の応用]
e.g.
payoff = a + b(S (T ) − S 0 )
+
推移確率(連続的)
派生証券の
ペイオフ
payoff
推移確率(離散的)
原資産の
サンプルパス
S1
(現在0での)原資産
スポット価格
S2
S
S3
S4
S5
S6
S7
S8
t=0
S9
t=T
満期Tでの原
資産価格S(T)
(現在0での)
Q
派生証券価格 VE = D (T ) E [ payoff ( S (T ))]
upfront premium
-14-
Global Quantitative Research
バイノミアル・ツリー (1)
<二項モデル>(Binomial Tree) − 1期間モデル
S
Su = S 0 (1 + ru ∆t ) では、Vu の価値がある
q
S d < S f < Su を仮定する
S f = S 0 (1 + rf ∆t )
S0
さもなければ、裁定機会が生じる
1− q
S d = S 0 (1 + rd ∆t ) では、Vd の価値がある
t0 = 0
r; リスクフリーレート(短期金利,例;1%)
自己金融複製戦略
N; 無リスク資産価値(現在価値1円)
S; 株価(原資産価格)(例;100円)
⎛ xSu + y (1 + r∆t ) = Vu
⎜⎜
K; 行使価格(例;95円)
⎝ xSd + y (1 + r∆t ) = Vd
x; リスク資産の株数
y; 無リスク資産への投資金額(負値は調達)
~
⎛ xSu + y = V~u
即ち、 ⎜
[ ]
~
~
~
E S ∆t = qu Su + qd S d
Q
= S0
t
t1 = ∆t
デルタヘッジ(数値微分)
~ ~
⎛
Vu − Vd
∂V
⎜ x= ~ ~ =
∂S
Su − S d
⎜
~
~
~
~
⎜
V S −V S
⎜⎜ y = d ~u ~u d
Su − S d
⎝
⎜ xS~ + y = V~
d
⎝ d
~
現在価値PV(・) Z = PV ( Z ) = Z /(1 + r∆t )
リスク中立確率
複製ポートフォリオ
xS + y
~
~
~ Su − S ~ S − S d
= Vd ~ ~ + Vu ~ ~
Su − S d
Su − S d
~
~
~
= quVu + qdVd = E Q V∆t
[ ]
qu + qd = 1
qu , qd ≥ 0
-15-
Global Quantitative Research
バイノミアル・ツリー (2)
<ノード再結合(recombine)しない二項モデル>(Binary Tree)
S
Suu L Suu では、Vuu の価値
Su
Sud L Sud では、Vud の価値
S0
S du L S du では、Vdu の価値
Sd
t1 = ∆t
t0 = 0
V (T ) = payoff ( ST (ω ))
qV + (1 − q)Vud
⎛
⎜ Vu = uu
1 + r∆t
⎜
⎜
qVdu + (1 − q)Vdd
⎜ Vd =
1 + r∆t
⎝
qV + (1 − q)Vd
V0 = u
1 + r∆t
S dd L S dd では、Vdd の価値
(t = T )
一般にud とduは
異なるノードなので、
(t = ∆t )
(t = 0)
⎛ Vud ≠ Vdu
⎜⎜
⎝ Sud ≠ S du
T = t n (maturity)
n
での状態数は 2
t 2 = 2∆t
t
V0 =
1
E Q [V (T )]
2
(1 + r∆t )
n
E [V (T )] = ∑ QT , jVT , j
Q
j =0
⎛ Q0 = 1
, Quu = q 2
⎜
⎜ Qu = q
, Qud = Qdu = q (1 − q)
⎜
⎜ Q = 1 − q , Q = (1 − q) 2
dd
⎝ d
-16-
Global Quantitative Research
バイノミアル・ツリー (3)
<ノード再結合(recombine)する二項ツリー>−CRR (Cox-Ross-Rubinstein) model
S
Suu L Suu では、Vuu の価値
Su
<注>
実務上は、バイノミアル
より、むしろトリノミア
ル(三項)ツリー (PDEを
近似するFDMの一種)が
用いられるが、これは
完備なモデルではない
Sud (= S du ) L Vud (= Vdu ) の価値
S0
Sd
S0
S dd L S dd では、Vdd の価値
t0 = 0
V (T ) = payoff ( ST (ω ))
qV + (1 − q)Vud
⎛
⎜ Vu = uu
1 + r∆t
⎜
⎜
qVud + (1 − q)Vdd
⎜ Vd =
1 + r∆t
⎝
qV + (1 − q)Vd
V0 = u
1 + r∆t
(t = T )
(t = ∆t )
(t = 0)
t1 = ∆t
t 2 = 2∆t
t
V0 =
CRRでは再結合す
る二項ツリーなので、
⎛ Vud = Vdu
⎜⎜
⎝ Sud = S du
T = t n (maturity)
での状態数は n + 1
1
Q
[V (T )]
E
2
(1 + r∆t )
n
E [V (T )] = ∑ n C j q j (1 − q) n − j VT , j
Q
j =0
⎛ Q0 = 1
, Quu = q 2
⎜
⎜ Qu = q
, Qud = 2q(1 − q)
⎜
⎜ Q = 1 − q , Q = (1 − q ) 2
dd
⎝ d
-17-
Global Quantitative Research
伊藤確率解析 (Ito Calculus)
バシェリエは最初に、確率解析の
基礎を築いた(1900)、アインシュタ
インは拡散方程式を与えた(1905)
Kiyoshi
Ito
Gauss
Gauss
Prize
Prize
伊藤 清 京大名誉教授
第1回ガウス賞を授賞
国際数学連合(IMU、2006年)
∂f
1 ∂2 f
df ( X t ) =
dX t +
d Xt
∂x
2 ∂x 2
„ 伊藤の補題
ブラック・ショールズ・(マー
トン)モデルを構築した
ScholesとMertonは1997年
ノーベル経済学賞を受賞し
た。 これらはBrown運動を
扱う伊藤積分(1942) に基
づいて理論構成したもの
t
„ 伊藤の表現定理 M t − M 0 = ∫ ψ u dX u
0
幾何Brown運動
[(
)
S t = Ft exp − σ 2 / 2 t + σWt
]
Wt Brown運動
6
11.5
Brownian motion
geom etr ic B row nia n mo tio n
Ft = E [S t ]
Bachelier Finance Society
世界大会(第4回)は今夏
東京で開催
11
10.5
10
4
2
0
-2
-4
Fischer Black
-6
0
2
4
6
time
8
10
0
2
4
6
time
8
10
-18-
Global Quantitative Research
ブラック・ショールズ(B-S)・モデル
Black-Scholes(B-S)-Merton Model
金利r やボラティリティσ は含まれる
が、期待リターンμ は含まれない。
Black-Scholes偏微分方程式(PDE)
∂f
∂f 1 2 2 ∂ 2 f
+ rS
+ σ S
− rf (t , S ) = 0
2
∂t
∂S 2
∂S
+
f (T , ST ) = (ST − K ) (≡ max(ST − K ,0 ))
⎞
⎛
µ−r
⎜⎜θ =
, dWt = dBt + θdt ⎟⎟
σ
⎠
⎝
dSt
= µ dt + σ dBt
St
= rdt + σ dWt
z 市場は摩擦がなく、また、無裁定である
z 原資産価格は幾何ブラウン(Brown)運動で表される
σ ∆t = var(∆ log S t )
満期Tにおける行使価格K
のヨーロピアン・コール・オ
プションのペイオフ関数
z パラメータ r, σ、μは一定とする
に注意して、日次データから求め
た標準偏差σ(年率換算)を
HV(ヒスト リカル・ボラティリティ)
という。
Q とは、 Wt が標準
Brown運動になる、
実測度と同値な測度
<B-Sモデルの拡張>
B-S 公式(closed form;閉形解)
BSCall = e
− rT
E
Q
[(S (T ) − K ) ]
= S 0 N ( d + ) − Ke
BSPut = e
− rT
E
Q
+
− rT
N (d − )
[(K − S (T )) ]
+
= Ke − rT N (−d − ) − S 0 N (−d + )
(
)
log S 0 /( Ke − rT ) 1
± σ T
d± =
2
σ T
N (d ) = ∫
d
−∞
⎡ ξ2⎤
1
exp ⎢− ⎥ dξ
2π
⎣ 2⎦
標準正規分布関数
z 配当が存在する原資産の
場合のB-Sモデル
z 変数係数、複数資産の下
でのB-Sモデル
z Black 76 モデル(フォワー
ドを原資産とする)
z Jumpを含んだB-Sモデル
-19-
Global Quantitative Research
感応度(Greeks)
<European Call (B-S)>
„ Greeksの計算法
Delta
∂C
∆C ≡
= N (d + )
∂S 0
Gamma
φ (d + )
∂ 2C
ΓC ≡
=
2
∂S 0
S 0σ T
Theta
ΘC ≡
Rho
Vega
Vanna
Volga
d± =
i) 有限差分(Finite Difference)
∂C S 0σ
φ (d + ) + Ke − rT φ (d − )
=
∂T 2 T
∂C
= TKe − rT φ (d − )
∂r
∂C
= S 0 T φ (d + )
∂σ
∂ 2C
d
= − − φ (d + )
∂S∂σ
σ
∂ 2C S 0 T
=
d − d +φ (d + )
∂σ 2
σ
(
log S 0 /( Ke
σ T
− rT
)
)± 1σ
⎡ ξ2⎤
1
φ (d ) =
exp ⎢− ⎥
2π
⎣ 2⎦
2
C ( S + ∆S , T ) − C ( S − ∆S , T )
2∆S
C ( S + ∆S , T ) − 2C ( S , T ) + C ( S − ∆S , T )
ΓC ≅
(∆S )2
∆C ≅
ii) Pathwise 法
⎡ ∂S ∂ − rT
⎤
e ( ST − K ) + ⎥
∆C = E Q ⎢ T
⎣ ∂S 0 ∂ST
⎦
⎡ S
⎤ ~
= E Q ⎢ TrT 1[ST ≥ K ] ⎥ = Q ( ST ≥ K )
~
⎣ S0e
⎦
Wt = Wt − σ
標準Brown運動に
なる同値な測度
iii) Likelihood Ratio 法
[
∆ C = E Q ωTδ × e − rT ( ST − K ) +
T
=∫
∞
−∞
e − rT ( y − K ) +
tが
]
⎛ δ WT ⎞
⎜ ωT =
⎟
SσT ⎠
⎝
∂π
( y, T | S ,0) dy
∂S
-20-
Global Quantitative Research
B-S方程式の導出
„ 伊藤のlemma
(w/B-Sモデルの仮定)
∂C
1 ∂ 2C
⎛ ∂C
⎞
d (Ct − H t St ) =
dt + ⎜
− H t ⎟dSt +
d S t = r (Ct − H t St )dt
2
∂t
2 ∂S
⎝ ∂S
⎠
Ct = C (t , St ) , d St = (σSt ) dt
2
リスク・フリー期待運用
(採算価格と意味では、ネットでの調達コスト)
Brown運動による価格
変動リスクをヘッジする
デルタ ヘッジ
Ht =
B-S PDE (典型的)
∂C
∂C 1 2 2 ∂ 2C
+ rS
+ σ S
− rC (t , S ) = 0
∂t
∂S 2
∂S 2
市場の無裁定性
∂C
(t , St )
∂S
<注>
微小区間の間ではリバランスしない(伊藤積分)、複製戦略の
議論を経れば、中間的な仮定は実は結果である
„ しかし、実際は・・・・
„二種類の市場価格の考え方
1∂ C
∂C
∂C
∂C
∂C
dt +
dSt +
d
S
+
d
σ
+
drt + L
t
t
2 ∂S 2
∂t
∂S
∂σ
∂r
2
dCt =
Higher order の微分で説明する
G: Greeks
1∂ G
∂G
∂G
dt +
dSt +
d St + L
2 ∂S 2
∂t
∂S
2
dGt =
任意の原資産価格の
パス(path) S t (ω )
で成立
実務的な要因分解
(時点が変われば、
パラメータが変わる)
更に、その他の
非線形なコスト項
z 公正価格 (fair price)
z 採算価格 (break-even price)
„市場の完備化
z ボラティリティ(バリアンス)スワップ
z 配当スワップ
„その他の評価手法
z 動的計画(ガンマ制約等)
z 効用関数アプローチ(非完備市場)
-21-
Global Quantitative Research
B-Sモデルの単純な拡張
単位リスク当たりの
期待超過収益率
(期待値;実測度下)
„ コンビニエンス・イールド (Convenience Yield)
取引不能な資産(幾何Brown運動)の上に書かれたデリバティブが U t = u ( St , t ) と表されるとき、
∂U
∂U
∂ 2U
∆U =
, ΓU = 2 , ΘU =
∂S
∂S
∂t
と表せば、伊藤のlemmaを用いて、
dU t
= µU dt + σ U dWt
Ut
⎛ dSt
⎞
⎜⎜
= µ dt + σ dWt ⎟⎟
⎝ St
⎠
1
2
ΘU + µ St ∆U + σ 2 St ΓU
S∆
2
=
dt + t U σ dWt
Ut
Ut
Black-Scholes方程式に帰着
(実務的にしばしば取り扱われる)
1
2
0 = ΘU + ( µ − λU σ ) St ∆ F + σ 2 St ΓU − rU t
2
1
2
= ΘU + (r − (λU − λ )σ )St ∆ F + σ 2 St ΓU − rU t
2
コンビニエンス
イールド
α = (λU − λ )σ
リスクの市場価格
Market price of risk
µU − r
µ −r
= λU ≠ λ =
σU
σ
完備市場では一致
(λ U
= λ)
dSt
= βdt + σdWt
St
Ft = E Q [ST St ] = St e β (T −t )
(β = r − α )
β < 0 ; backwardat ion (バックワーデーション )
β > 0 ; contango (コンタンゴ )
β = r + c − α (測度 Qでの期待成長率 )
α ; convenienc e yield (現物を保有する便益 )
c ; strage cost ( 保管コスト )
-22-
Global Quantitative Research
より高度なプライシング・モデル
B-Sモデルの拡張
変数係数(決定論的)
• 決定論的なタームストラクチャー(ゼロ・レート、クレジット・スプレッド(CDS)が時間tの関数)
• 局所ボラティリティモデル(LV)ーボラティリティが状態変数と時間の関数
確率的パラメータ
• 金利・為替・期間構造モデル (IR/FX term structure model)ー HW, BDT, CIR, LMM, HJM
• クレジット・リスクモデル ー 構造モデル, 誘導モデル(確率強度モデル)
• 確率的ボラティリティモデル(SV)ー Heston, SABR w/jump
d
∂u 1 d ij
∂ 2u
∂u
+ ∑ α (t , x)
+ ∑ β i (t , x)
− γ (t , x)u (t , x) = 0
∂t 2 i , j =1
∂xi ∂x j i =1
∂xi
dX t = β (t , X t )dt + α (t , X t ) dWt (R dに値を取る)
⎡
T
u (t , x) = E ⎢exp ⎡− ∫ γ ( s, X s )ds ⎤ u (t , X T )
⎥⎦
⎢⎣ ⎢⎣ t
Q
確率微分方程式、経路依存、制御問題
• PDEで記述できないモデル 過程
• SPDE
⎤
Xt ⎥
⎥⎦
(例) X t = (log S t , rt , λt , σ t )
α ;Lipschitz連続、可積分性、
正値性、強圧性、
β ;Lipschitz連続、可積分性
γ ;非負値性
-23-
Global Quantitative Research
数値解法の進化
z コンピュータ・リソースに強く依拠する
z 数値計算テクノロジー研究開発は日進月歩
z IT技術(ハードウェア、ソフトウェア)の急速な進歩が金融工学の発展に多大に貢献
最近の傾向
IT的性質
モンテカルロ法(Monte Carlo)
z エキゾティック条項、多資産/多ファクター物に強味がある(American型は難しい)
z 径路依存型Americanオプションの問題も研究されている(例:LSM(最小2乗MC))
z Malliavin解析など高等確率論の応用研究がされはじめた
z コンピュータ・パワーの膨大な進化、Grid Computing (並行処理計算)等
z LDS(差異の小さい点列;Low Discrepancy Sequence)の応用
2000
ツリー(Tree, Lattice)/PDE法
z 偏微分方程式(PDE)の解法として、有限差分法や有限要素法がある
z Americanオプション評価に強味、径路依存性は次元拡大法を要する
z ツリーは金利系のモデルで発展してきた。しかし、ナイーブな手法では高々3,4次元程度
の状態変数の問題にしか対応不可
解析的手法(閉形解,Closed form)/数値積分法
z (解析的手法が効く場合)収束性の高い、精密な計算手法。BSモデル(幾何Brown運動)周
辺では強力
z 低次元の数値積分は可能、特に、1次元積分では非常に高精度で収束性がよい(DE, GQ)
z 閉形解(closed form)を用いた解析的な近似
1990
1980
1970
<注> ハイブリッドな手法、例えば、treeと解析解を複合的に使うなどのアイディアもある。
-24-
Global Quantitative Research
デリバティブ実務上の課題(1)
プライシング・モデルXYZ
モデル・パラメータ(α、β、γ…)
min
(α , β ,γ )
(単に理論価格算出のみならず
パラメータ感応度、リスク量も計算)
∑w
k
Vk
XYZ
(α , β ,γ )
− Vk
Market 2
k
<キャリブレーション>
モデル・パラメータ推定
(マーケットとモデル乖離誤差の最小化)
<エキゾティック商品>
価格評価
By XYZ(α、β、γ…)
<リスク管理>
標準物を用いたヘッジ
(信用枠、VaR、デルタ、ベガ・
リスク、ストレス・テスト)
<マーケット・データ>
• フォワード価格
• プレーンバニラ(ヨーロピアン)オプション
(インプライド・ボラティリティ)
<注> 現実にデリバティブの市場価格が得られれば、リスク中立化法によって、パラメータを逆算して推定(インプライド・ボラティリティ
等)をする操作を、頻繁に行う。(有限個のサンプルであるから、真のモデルが特定はできないが)。キャリブレーション(パラメータ推
定)が安定的にできるなら、価格評価やリスク管理が可能になる。
-25-
Global Quantitative Research
デリバティブ実務上の課題(2)
„ EOD (End of day;日締処理)
z P/L(損益)計算
(要因分解含む)
PV(α(t1)、β(t1) 、γ(t1)…) ー PV(α(t0)、β(t0) 、γ(t0)…)
z リスク計算
(要因分解含む)
z ストレス・テスト
PVは金融商品
の現在価値
=
∑
(α、β 、γ…) の期間(s,t]に関する変位の寄与
(極端なケース)
zクレジット・リスク、
カウンター・パーティ
リスク
(ネッティング・エクスポー
ジャー、リザーブ等)
∆V = PV (α1 , β1 ) − PV (α 0 , β 0 )
時価評価(marked
to market)
<分解法1>
= {PV (α1 , β1 ) − PV (α1 , β 0 )}+ {PV (α1 , β 0 ) − PV (α 0 , β 0 )}
<分解法2>
全ての金融商品に関して
ポートフォリオ・ベースで
のP/L、リスク管理は多大
な計算コストが発生する。
z モデル検証
=
∂
∂α
PV (α 0 , β 0 )(α1 − α 0 ) +
∂
PV (α 0 , β 0 )( β1 − β 0 )
∂β
+ ∑ (高次微分項) + (残差項)
(要因分解含む)
z 取引戦略検証
(ヘッジ・シミュレーション)
<注> P/L、リスク計測はエンジニアリング的な要素が強く、厳格な定義があるわけではないが、FSA(金融監督当局)的に言えば、
自己資本規制(e.g. バーゼル)などより厳密化、整合性と運用の確からしさが求められるため、多大な計算処理、文書管理、運用コスト
が生じる
-26-
Global Quantitative Research
デリバティブ・プロダクツ (1)
European Call (payoff at Maturity)
European Call Premium
C0 = C (S 0 , T , K )
CT = (ST − K )
+
= max(ST − K ,0)
0
K
ST
0
S0
K
現在0において
満期Tにおいて
European Put
CT − PT
PT = (K − ST )
+
Put Call Partiy
= max(K − ST ,0)
0
0
K
満期Tにおいて
ST
K
ST
満期Tにおいて
-27-
Global Quantitative Research
デリバティブ・プロダクツ (2)
Option Spread ( ≠ Spread Option )
Range Forward (Zero Cost-type)
プレミアム(価格)
プレミアム(価格)
高ボラティリ
ティ
高ボラティリ
ティ
0
低ボラティリ
ティ
K1
K1
0
S
K2
Digital Option
S
K2
低ボラティリ
ティ
Range Accrual Note
S(t )
(cash-or-nothing call)
H
1
1[ST ≥ K ]
0
K
満期Tにおいて
S
ST
0
τ1
τ2
τ3
T
t
時間
LT
× 想定元本
T
但し、LT = (τ 2 −τ1) + (T −τ 3 ) (滞在時間 )
償還金
-28-
Global Quantitative Research
デリバティブ・プロダクツ (3)
<Dirichlet 境界値・終期値問題>
Single Barrier KO-Call
Double Barrier Digital
τ = min{τ H ,τ L }
H
τ = min{t > 0 | S (t ) = H }
[
D(0, T ) E Q 1[τ >T ] (S (T ) − K )
t
τH
+
]
First Hitting Time
(到達時刻)
Premium
償還金
なし
1円償
還
S
(Down and Out Call)
L
0
Premium
0
t
τL
T
Reverse KI-Put
τ = min{t > 0 | S (t ) = L}
+
D(0, T ) E Q 1[τ ≤T ] (K − S (T ) )
[
H
S
K
Reverse KO-Call
τ = min{t > 0 | S (t ) = H }
+
D(0, T ) E Q 1[τ >T ] (S (T ) − K )
]
[
]
Premium
High
Volatility
Low Volatility
(Up and Out Call)
0
L
K
(Down and In Put)
0
K
H
S
-29-
Global Quantitative Research
デリバティブ・プロダクツ (4)
償還価額
Nikkei 225 Auto-Callable(日経平均オートマチック・コーラブル債)
(”callable” とは金利デリバティブではAmerican ないしBermudan の意味であるが、
ここではtriggerの意味。オプションでなくオートマチックに早期償還が発生)
日経平均
t2
バリアに一度もヒット
しなかった場合
100
で早期償還
0
17,000
バリアにヒット
した場合
18,000円
ST
満期Tにおいて
100円 (S (T ) > 17,000)
17,000円
100円 (τ > T )
<注>
Long position = 買い(買い持ち)
Short position = 売り(空売り)
13,000円
S (T )
×100
17,000
(S (T ) ≤ 17,000 & τ ≤ T )
0
t1
t2
初回クーポン
クーポン(イールド) エンハンスメントの一例
t3
T = t4
t
2回目の利払以降
クーポン
-30-
Global Quantitative Research
デリバティブ・プロダクツ (5)
累積支払クーポン
TARN (TArget Redemption Note)
ck = (α + β X (t k ) )
+
(仕組クーポンはオプションの形)
k
τ ≤ ∑ c j ⇒ early redemption (早期償還トリガー)
期中償還のトリガー起動
トリガー水準
(レベル)
τ = 10 %
期中償還(償還金)
j =1
⎛ S (t )
⎞
− 1 ⎟⎟ × 100 L " worst of"
X (t ) = min ⎜⎜ i
i =1,L, N
⎝ S i (0) ⎠
X (t ) =
1
n× N
⎛ S i (t k ) ⎞
⎜⎜
− 1 ⎟⎟ × 100 L basket
∑
∑
(
0
)
S
k =1 i =1 ⎝
i
⎠
n
N
⎛ X (t j ) = (α + β (S (t j ) / S (t0 ) ))+
; Power Equity TARN
⎜
⎜ X (t ) = (α + β (FX (t ) / FX (t ) ))+ ; Power F/X TARN
0
j
j
⎜
⎜ X (t ) = (CMS 20 y − CMS 2 y + α )+ ; CMS - Spread TARN
j
⎝
t0
t1
t2
t3
tx
t
エクイティTARN
早期償還(キャッシュ・セトル)
t x = t3 + ∆tε < t 4
原資産(個別株式など)の場合、Putショート型では、
行使価格以下の場合、現株引渡しもある
IR/FX-TARN
t x = t 4 − ∆tε
„ 更に変則的なペイオフのケースもある(e.g. Snowball, Thunderball)
„ リバース・フローターのケース (K−L)+、スプレッド・オプションの場合もある(CMS spread)
„ ワースト・オブ(Worst of, Least of )型を参照指数とするケースもある(多通貨TARN, エクイティ
TARN)
„ (スワップハウスによる) コーラブル条項(Bermudan)が付帯したケースもある
-31-
Global Quantitative Research
デリバティブ・プロダクツ (6)
ECO (Equity Collateralized Obligation)
„ CDOと類似の構造(CDSでなく、EDS(Equity Default Swapーノックイン・デジタル)の型もある)
„ シンセティック・シングル・トランシェ(e.g. エクイティ(Equity), メザニン(Mezzanine))
„ ポートフォリオの毀損額は構成銘柄のReverse KI Putのバスケット
Loss of Mezzanine
4 yr
100
1 yr
2 yr
3 yr
Probability of loss
AP
V
DP
Loss of Portfolio
70
Expected loss of portfolio
50
ボラティリティ
T=1(年)
プレミアム
40
100%
10%
20%
30%
30
20
Individual KI
Puts
10
・
・
・
DP%
0
Mezzanine
50
60
70
80
90
100
AP%
0%
-32-
Global Quantitative Research
ボラティリティの構造 (1)
Implied Volatility (IV)
BS公式(S , K , T , r, y;σˆ ) =
σˆ = σ IV ( K , T )
„
ヨーロピアン オプション市場価格
BSCall ( S , K , T , r , α ; σˆ ) = BSCall @ Market
BSPut ( S , K , T , r , α ; σˆ ) = BSPut @ Market
インプライド・ボラティリティ
ブラック・ショールズ式の仮定は理想化された世界で、現実的には妥当と言い難い仮定が含まれている
ブラック・ショールズ式の仮定
現実
金利が一定
金利は期間構造を持っている
ボラティリティ(収益率の標準偏差)が一定
時間と原資産価格、満期と行使価格に依存している
原資産価格の収益率が正規分布に従う
収益率の分布は正規分布とはいえない
取引コスト、税金がない
実際には存在する
すべての証券が任意の単位に分割可能
単位株までしか分割できない
配当は連続的に支払われる
配当は離散的(年に数回)
原資産の空売り(short sale)可能
空売り規制銘柄もある
満期=現金支払日という仮定
実際に支払われるのは数日後
原資産が連続的に取引される
実際には離散的な取引
原資産(例えば株式)は正値
倒産した企業の株は0円
-33-
Global Quantitative Research
ボラティリティの構造(2)
σ
(出所;Bloomberg)
0
スマイルでは両端が上昇
x =1
(ATM)
x=
右下がりのスキュー
K
S
„ 右上の図は、(インプライド)ボラティリティー・サーフェスの断面をとったもの(満期Tでスライス)。
一般に、足元のボラティリティは高く、長年限になるほど低下傾向にある(特にエクイティでは)
„ スマイル(smile)は現在値より行使価格が高くあるいは安くなればなるほど、ボラティリティが
高くなって笑っているように見えること(正確に言えば、両翼はウィングが形成され、発散するこ
とはない)
„ スキュー(skew)とは、非対称的に、行使価格が高くなればなるほど(あるいは安くなればなる
ほど)、ボラティリティが低くなることをいう。
„ ボラティリティの表示方法は必ずしも行使価格Kの関数とならず、FX(為替)のケースではリス
ク・リバーサルやバタフライを用いたデルタ表示(例:25%デルタ、50%デルタ)。
-34-
Global Quantitative Research
ボラティリティの構造(3)
日経平均IV (2007/4/2)
日経平均IV (2007/8/1)
50%
50%
40%
1M
3M
6M
12M
2Y
3Y
40%
30%
1M
3M
6M
12M
2Y
3Y
30%
4Y
4Y
20%
20%
10%
10%
0%
0%
80
85
90
95
100
105
110
115
120
80
K
x = × 100
S0
85
90
95
100
105
110
115
120
日経平均IV (2007/10/16)
日経平均IVサーフェス(2007/10/16)
50%
(%)
50
40-50
30-40
20-30
10-20
0-10
40
30
40%
1M
3M
6M
12M
2Y
3Y
30%
4Y
20%
20
24M
10
0
80 85
10%
9M
5M
90
1M
95 100 105
110 115 120
0%
80
85
90
95
100
105
<出典>野村證券金融工学研究センター
110
115
-35-
120
Global Quantitative Research
ボラティリティの構造(4)
30%
vol 20%
2y
10%
1y term
150%
K/S0
100%
0%
125%
„ Vegaを経由した微分(chain rule)を使うべきか否か(stickydelta)
40%
75%
„ しかし、その一方で、市場価格のインディケーションには、
BS公式で逆算したインプライド ボラティリティでの表示法が
確立している。
„ IVを行使価格の関数として、1次係数をスキュー、2次係数を
スマイルという(些か不正確な表現ではあるが)。
„ コモディティのみならず、金利、為替(FX)、エクイティ(株式)
でもボラティリティ・スキュー、スマイルに関するモデル研究
がなされている。
„ Delta の定義法
Vol Surface WTI($)
50%
„ ボラティリティ構造
„ 「プレーンバニラな」 ヨーロピアン オプション(プットとコール)
の価格はボラティリティσについて単調増加なので、価格に
整合するインプライド ボルを一意的に算出できる。
„ ブラック ショールズ(BS)公式の仮定には非常に理想的であ
り現実的には妥当とは言い難い仮定がかなり含まれる。
0
<出典>野村證券金融工学研究センター
„ スポット価格が変動してもボル構造が変化しないケースがあ
る
„ バスケットやスプレッド・オプションでは相関構造が問題に
-36-
Global Quantitative Research
数理ファイナンスの基礎(1)
マルチンゲール(Martingale)
条件付期待値が、過去の原資産価格の履歴
に依存せず、足元の原資産価格だけに依存
する場合、原資産価格はマルコフ(Markov)
性を持つ。
{Λn}n=0,1,・・・をσ−集合族の系列とし、増大族であるとする。
直感的には、時刻nまでに観測できる事象の全体と捉えればよい。
(フィルトレーション;filtration)
X n −1 = E [X n Λ n −1 ] (∀n = 1,2, L , N )
⇔ ( X n , Λ n ) は(或いは X nが) martingale
条件付期待値はマルチンゲール(tower property)
X n = E [Z Λ n ]
[
(n = 1,2,L)
]
⇒ E [X n Λ n −1 ] = E E [Z Λ n ] Λ n −1 = E [Z Λ n −1 ] = X n −1
{Mn }n=0,1,・・・をマルチンゲール、
{Hn }n=0,1,・・・を可予測(predictable)な列、
すなわち、HnがΛn-1可測であるとする。
賭の公平さの概念
マルチンゲール変換
X 0 = H 0M 0
X n = H 0 M 0 + H 1 ∆M 1 + L + H n ∆M n
n
n
i =1
i =1
= H 0 M 0 + ∑ H i ∆M i = H n M n + ∑ M i ∆ H i
{Xn }n=0,1,・・・もマルチンゲール
注)
E n [Z ] = E [Z Λ n ] と略記することがある。
(∆M
n
= M n − M n −1 , n = 1,2, L)
-37-
Global Quantitative Research
数理ファイナンスの基礎(2)
Black-Scholes (BS) model
Eˆ [ X ] = ∫
原資産は幾何Brown運動に従う
dSt
dF dM t
= βdt + σdWt = t +
St
Ft
Mt
(β = r − α )
−∞
x(ω )dQˆ T (ω )
dQˆ (ω )
= ∫ x(ω )
dQT (ω )
−∞
dQT (ω )
∞
⎡ dQˆ T ⎤
= E⎢X
⎥
dQ
T ⎦
⎣
ST = FT M T
⎛
FT = E Q [ST ] = Se βT
⎜
~
⎜ M = dQT = e −(σ 2 / 2)T +σWT
T
⎜
dQT
⎝
∞
Drift係数の変更
拡散係数は不変
<CMG (Cameron-Martin-Girsanov) 定理>
~
~
CMG定理より、QT と同値な測度 QT の下で、 W
t = Wt − σ t
は標準Brown運動である。指標関数と併せて、四則演算により
オプション価格を計算できる。
多資産BSでも使われる
最も単純な例
<時間変更(Time-Change)>
1
c. f .
W (at ) = Wt (a > 0; 厳密には、分布の意味で)
a
任意の θ ∈ ℜ に対して、RND(RadonNikodym Derivative);
dQˆ T
− (θ 2 / 2 )T −θ WT
=e
dQT
ˆ
で変換した同値な測度;QT の下で、
Wˆ = W + θ t
t
t
は、標準Brown運動である。
<注>
• 原資産価格(幾何Brown運動) = フォワード価格×RND(指数マルチンゲール)
• 幾何Brown運動のべき、他の幾何Brown運動との積や商(為替レート、無リスク資産、累積配当、クレジットファクター)も幾何Brown運動
• 同値な測度とは、双方向に絶対連続、すなわち、どちらの測度でも零集合は同じ(RNDの逆写像も定義できる)
-38-
Global Quantitative Research
数理ファイナンスの基礎(3)
<American/Bermudan-type>
Snell包(envelop)で表される(変分不等式、自由境界値問題)
{
VA = sup D(τ ) E Q [ϕ ( Sτ )] τ ∈ ℑT0
}
(ℑ
T
0
= 停止時刻(0, T)
)
Bermudanで近似し、[0,T]をΔtで分割した離散時点で行使可能とする。帰納的な演繹から、American オプション
価値は、次のように求められる。
通常は、各時点 t での各ノード上で行使価値と継続価値の大きい方を選択する意味合いになる。
V0 = max{ϕ ( S 0 ),U 0 } = (ϕ ( S 0 ) − U 0 ) + U 0
+
[
]
[
]
U t = EtQ (Φ t + ∆t − U t + ∆t ) + U t + ∆t = EtQ (Φ t + ∆t − U t + ∆t ) + EtQ [U t + ∆t ]
+
[
U t − EtQ [U t + ∆t ] = EtQ (Φ t + ∆t − U t + ∆t )
T − ∆t
∑ E [U
Q
t =0
V0 =
T − ∆t
[
t
− U t + ∆t ] =
+
∑ E [(Φ
T − ∆t
− U t + ∆t )
+
Q
t =0
]
+
t + ∆t
]
]
Φ t = D(0, t )ϕ ( St )
∑ E Q (Φ t − U t ) + E Q [ΦT ]
t =0
+
Early Exercise Premium
時点tでの判断に用いる期中ペイオフ
と継続価値を時点0までディスカウント
したものを各々ΦとUと表記
U t = D(0, t + ∆t ) EtQ [Vt + ∆t ]
European 価格
<注> American option
• FDMやtrinomial tree (explicit scheme)が主流。CRR (binomial tree)では、無リスク資産とリスク資産の動的リバランスを構成する完備なモデル(trinomial treeではそうではない)。
• MC (Monte-Carlo) を用いたAmericanの数値解法も近年研究されている(LSM, Andersen, LCG.Rogers, Glasserman等)。
• Bellman’s dynamic programming principle
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Global Quantitative Research
数理ファイナンスの基礎(4)
<Barrier Options>
• 離散時間バリアー(barrier)は、trigger; automatic callable ということがある。
• 吸収壁Hの問題(Hへの到達時刻 first hitting time τ = inf t ≥ 0 St = H は確率変数)の一種、乃至は、 Dirichlet境界値・終
期値問題(PDEの境界値問題の一種。Neumann問題はデリバの世界ではほとんど見受けられない)
• トリガーイベント発生で、KI(Knock-in);オプション効力発生, KO(Knock-Out);オプション失効である。一般に、standard barrier で
は、Down-and-Out call 等の言い方をする。ディジタル性が顕在化するような場合、reverseの形容詞が付く(例;reverse KI-Put
(deep-OTM; H<K)。他の条件が一定なら、European = KI + KO ( 1[τ >T ] + 1[τ ≤T ] = 1 )に注意。
• ペイオフ資産(若しくは別の参照指数)に対して、以下の参照の仕方がある。
z 離散時間モニター(例;4半期、半年、1年間隔)
z 連続時間モニター(例;連続時間参照、日次終値ベース参照)
{
}
VB = D (T ) E Q [1[τ >T ]ϕ ( ST )] + D (T ) E Q [1[τ ≤T ]φ ( ST )] + E Q [1[τ ≤T ] D (τ )ψ ( ST )]
KO (Knock-Out)
KI (Knock-In) At Mat
2β
KI (Knock-In) At Hit
−1
⎡
H2⎤
⎛ H ⎞σ 2
Q
Q
E ⎢1[ST > H ]φ ( ST ) S 0 =
E 1[S min (T )≤ H ]φ ( ST ) S 0 = S = ⎜ ⎟
⎥ + E 1[ST ≤ H ]φ ( ST ) S 0 = S
S ⎦
⎝S⎠
⎣
<鏡像原理 (Reflection Principle>
S min (t ) = min St , S > H
Q
[
]
0<t ≤T
Drift-lessなBrown運動についての定理。
FlatなパラメータのBSモデルでは(測度
変換を込めて)解析的に表される。
[
S
H
]
τ
S*
0
T
<注>
• バリアー境界価格Hに到達する到達時刻τ(確率変数)で、満期Tとの大小でKO/KIの識別をする。上記の様に類似に計算できる。
• BSモデル(定数パラメータ)の場合、CMG定理とBrown運動の鏡像原理から、KO推移確率やStandard Barrier価格がclosed formで計算できる。
• Monte-CarloでもBrownian bridge等の技法が用いられることがある。また、Kou等のバリアー価格近似がある。
-40-
Global Quantitative Research
数理ファイナンスの基礎(5)
リスク中立化法 (Risk-Neutral Pricing)
PDEの境界値問題の解として、あるいは、確率的な将来価値を割り引いたものとしての表現;
Feynman-Kac公式;European型 (類似の考え方として、Barrier等の問題に適用可)
Q ⎡ ϕ (S T ) ⎤
ϕ (S T ) ; 任意のペイオフ(満期T)
V (t , S t ) = N t E t ⎢
⎥
⎣ NT ⎦
Q⎡ 1 ⎤
⎡ t r ds ⎤ ; 無リスク資産(デフォルト・フリーな銀行預金)
D (t , T ) = N t E t ⎢
,
N
=
exp
t
s
⎥
∫
⎢
⎥⎦
0
⎣
N
⎣ T⎦
伊藤の補題;
(dSt )2 は正確
には、 d S t
∂V
∂V
1 ∂ 2V
2
(
)
dV (t , S t ) =
dt +
dS t +
dS
t
∂t
∂S
2 ∂S 2
リスク中立測度Q
Q
E t [dV (t , S t ) ] = rtV (t , S t ) dt
での期待リターン
は無リスク資産の
リターンに等しい
z モデルが含意するPDE(偏微分方程式)
z 原資産価格のSDE(確率微分方程式)
のどちらの手法からでも解くことができる
注) 後述と参考文献を参照
„ 資産価格付けの第一、第
二基本定理等は、90年代
に完成
„ 不完備市場での評価手法
も様々検討されている
(e.g. MEMM)
„ 効用関数を用いる期待効
用最大化アプローチを用
いる手法など
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Global Quantitative Research
数理ファイナンスの基礎(6)
評価測度の変換 (Change of Measures)
参照レート ( 指数 )
基準財 (ニューメレール )
rt
瞬間スポットレート
フォワードレート
LTi −1 ,Ti
バンク・アカウント
Nt
D (Ti )
割引債価格
同値な評価測度
リスク中立測度
フォワード測度
Q
Q Ti
n
スワップレート
s Ti
−
為替
レート
(F/X)
dQ f
dQd
t
0
t
=e
− (σ X 2 / 2 ) t +σ X W Xd ( t )
0
添字の f は外貨建、d は邦貨建を意味する。
∑ D (T )
i
i =1
リスク資産
dX t
= (rd − rf )dt + σ X dWXd (t )
Xt
X t D f (0, t ) dQ f
⇔
=
X 0 D d (0, t ) dQ d
年金 ( annuity )
クオント
(quanto)
St
T
QS i
~
最適成長測度
Q
スワップ測度
dS t
= ( r f − q ) dt + σ S dW S f (t )
St
= ( r f − q − ρ SX σ S σ X ) dt + σ S dW Sd (t )
コンポジット dAt = dS t + dX t + dS t dX t
(composite) A
St
Xt
St X t
t
( At
= St X t )
= ( rd − q ) dt + σ A dW Ad (t )
σ A = σ S 2 + 2 ρ SX σ S σ X + σ X 2
<注> 為替レートは内外金利差によるディスカウント比と指数マルチンゲールの積である。邦貨のリスク中立測度と外貨のリスク中立測度との変換比(RND)
-42-
Global Quantitative Research
数理ファイナンスの基礎(7)
自己金融取引戦略 (Self-Financing) による複製戦略
リスクフリー資産(デフォルト・フリーな銀行預金)の残高(正値なら運用、負値ならば調達)とリスク資産
(原資産)の枚数からなる時点tでの取引戦略を ψ t = ψ t0 ,ψ t1 と記す。これは自己金融取引(キャッシュ
フローの流出入がない(但し、配当収入はある))であり、許容可能(admissible)−無限大に借入やリス
クを取れない−取引戦略とする(伊藤のlemmaの適用以上に制約を与える)
(
VT = V0 + ∫ ψ t0 dN t + ∫ ψ t1 (dSt + αSt dt )
T
T
0
0
T
~
~
VT = V0 + ∫ ψ~t1dSt
[ ]
0
Q − a.s.
~
E Q VT = V0
)
P − a.s.
T
~
s.t. E Q ⎡ ∫ ψ~t1dSt ⎤ = 0
⎢⎣ 0
⎥⎦
~
Vt はQ - martingale
Feynman - Kacより、
⎡ ϕ ( ST ) ⎤
~
Q ~
滑らかな解vの存在
Vt = EtQ ⎢
=
E
t Vt + ∆t = v (t , S t )
⎥
⎣ NT ⎦
~
EtQ ∆Vt
∂v
∂v 1 2 2 ∂ 2 v
0 = lim
= + β t St
+ σ t St
∆t →0
∆t
∂t
∂S 2
∂S 2
[ ]
[ ]
∂f
∂f 1 2 2 ∂ 2 f
+ βt S
+ σt S
− rt f (t , S ) = 0
∂t
∂S 2
∂S 2
Vt = ψ t0 N t +ψ t1St
ψ~1 = ψ 1e −αt
t
t
~ S t eα t
~ V
St =
, Vt = t
Nt
Nt
f (t , S ) = N t v(t , S )
∂f
∂
= ( N t vt (t , S ) )
∂t ∂t
∂v ⎞
⎛
= N t ⎜ rt + ⎟
∂t ⎠
⎝
dSt
= β t dt + σ t dWt
St
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Global Quantitative Research
数理ファイナンスの基礎(8)
資産価格付けの基本定理
(Fundamental Theory of Asset Pricing)
z 【第1基本定理】裁定機会が存在しない市場、即ち、無裁定な市場では、実測度(physical measure) P
に対して、同値なマルチンゲール測度の族 {Qλ} が存在し、その構成要素は一般に無限個ある。した
がって、デリバティブ価格を特定できないケースもある(無裁定性があり、到達可能な投資戦略があれ
ば特定される)。
z 【第2基本定理】無裁定で完備な市場では、(市場にある資産を組み合わせたポートフォリオで自己金
融な動的複製が出来るような)同値なマルチンゲール測度 Qが一意的に存在する。無リスク資産が基
準財(numeraire)となるため、Q はリスク中立測度(risk-neutral measure)と呼ばれる。
<注>
•
裁定機会、市場の無裁定性、完備性を測度論を用いて、Harrison-Pliska-Kreps(1981,1983)が最初に特徴付けた。その後、確率解析と関数
解析を利用して、Delbaen, Schachermayer, Follmer, Schweizer, Kramkov等が資産価格の基本定理を研究、数学的な整備がなされた。
•
当然ながら、現実の世界で、投資家(裁定者)がリスク中立投資家であることを意味しない(一般には、リスク回避型である)。あくまで、計算上の
便宜である。虚構という意見もあるが、数学的には深いテーマである。実際のマーケットでは、「リスク中立測度」でデリバティブ価格を評価する
ことが支配的。
•
リアル・オプションでは、効用関数アプローチに従うのが順当であろうが、リスク中立測度での評価が一般に提唱されており、これは実務には不
適切な考え方である。低流動性資産など、同様の問題もある。
•
無裁定で完備な市場は、プライシング・カーネル(確率的ディスカウント・ファクター)が一意的に存在するのと同値。RNDの特徴付けが重要であ
る(Stochastic Exponentialに留意)。
•
Black-Scholes (B-S) モデルでは議論はかなり単純で、複数資産を記述する独立なファクター次元が一致すれば、ボラティリティが退化(0)にな
らないなら、リスクの市場価値が一意的に求まって、市場完備性を示せる。しかし、部分不完備でも十分なこともある。半マルチンゲール(Semimartingale)の枠組では、議論は精緻になり、難しくなる。
•
PDEアプローチから言えば、確率過程論を用いてPDEの解を表現しているのに過ぎない(もっとも、偏微分方程式論で扱えない問題もあるが)。
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Global Quantitative Research
数理ファイナンスの基礎(9)
リスク尺度(Risk Measure)
最近では、Delbean等、直接的にリスク測度ρではなく monetary utility φと符号反転したものとして
定義する傾向がある。望ましい性質を列挙する(望ましい公理を作るのが目標)
L∞ = L∞ (Ω, ℑ, P) = {有界な確率変数全体}
<楠岡・Delbeanによる特徴付け>
ρ : L∞ → ℜ , φ ( x) = − ρ ( x)
(1) φ ( X + C ) = φ ( X ) + C
(2) X ≤ Y ⇒ φ ( X ) ≤ φ (Y )
(3) φ (0) = 0
(4) φ (λX + (1 − λ )Y ) ≥ λφ ( X ) + (1 − λ )φ (Y )
(5) X n ↓ X ⇒ φ ( X n ) ↓ φ ( X )
(6) φ (aX ) = aφ ( X )
∀X , Y ∈ L∞ , ∀λ ∈ [0,1]
(凹性)
( Fatou性)
( a > 0)
(7) X ≅ Y (同分布) ⇒ φ ( X ) ≅ φ (Y )
(8) X ∈ L∞ , f , g : ℜ a ℜ; 単調非減少、有界 ⇒ φ ( f ( X ) + g ( X )) = φ ( f ( X )) + φ ( g ( X ))
VaRα ( X ) = −q~α s.t. P( X ≤ q~α ) = 1 − α
CVaR ( X ) = − E [X X ≤ q~ ]
α
α
(1)∼(8)で(4)を除き満たす。コヒーレントではない
(1)∼(8)を全て満たす。コヒーレント(coherent)
<注>
• VaRは、リスク測度の劣加法性を必ずしも満たさない、したがって、期待ショートフォール、あるいは、CVaRの方が相応しいのではないかとも言われる。
• 確率過程のダイナミクスを如何に取り込むか、動的最適化に関して、議論は緒についたばかり(CVaRでも奇妙なことが生じる)
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Global Quantitative Research
Glossary
■ 原資産(Underlying Asset)
• 株式、債券等、それ自体で取引されるもの。
• 指標、LIBOR等、それ自体が資産ではないものもある。
• ペイオフ資産ではなく、トリガー・イベントを規定する参照資産もある
■ 派生証券(Derivatives)
„ 先物(Future)、先渡(Forward)
• 将来(満期)での決済価格は現時点で定められたもの。
• 満期で受渡や差金決済等の金銭授受が発生し、現時点では金銭の授受は無い(証拠金を除く) 。
• 金利期間構造が決定論的な場合、先渡価格=先物価格
„ オプション(Option)
現時点でプレミアム(オプション価格)を売り手に支払って、買い手は満期Tにて原資産を行使価格K
で売却(プット)あるいは購入(コール) する権利を持つ(ヨーロピアンという)。
• 0 ≤ t ≤ T で任意のタイミングで行使できるオプションをアメリカンという(しばしば、初期にロックアウ
ト期間(行使不可)が付される。予めスケジュールされた行使可能時点の場合では、バミューダという。
プレミアムの大小関係; European ≤ Bermudan ≤ American が成立。配当等キャリーコストが無ければ、
American Call = European Call (Putではそうではない)
• バリアーオプション、KOとはバリアーにヒットした場合、失効する(Knock-Out)。KI (Knock-In)はヒット
した場合、効力が発生。他の条件が一定ならば、KI + KO = European である。
•
„ スワップ(Swap)
• 一定の条件に従い、異なる商品や金利を満期迄、定期的な間隔で、相手方 (カウンターパーティ)との
間で金利の受け払いする契約(但し、クレジット・スワップの変動側はデフォルト発生直後)。
-46-
Global Quantitative Research
参考文献
z Martin Baxter-Andrew Rennie 著 “Financial Calculus” (1996) Cambridge,
藤田岳-高岡浩一郎-塩谷(訳)「デリバティブ価格入門」(2001)シグマベイスキャピタル
z エリエッテ・ジュマン(Helyette Geman)著
”Commodity and Commodity Derivatives”
(2005) Wiley
「コモディティ・ファイナンス」、
野村證券・野村総合研究所
事業リスク研究会(訳)
(2007)日経BP
z 木島 正明-田中 敬一 著「資産の価格付けと測度変換」 (2007)朝倉書店
z 楠岡 成雄-中川 秀敏-青沼 君明 著 「クレジット・リスク・モデル―評価モデルの実用化とクレ
ジット・デリバティブへの応用」(2001)、金融財政事情
z 今野 浩- 木島 正明- 刈屋 武昭 編「金融工学事典」(2004)朝倉書店
z 国友直人-高橋明彦著「数理ファイナンスの基礎」(2003) 東洋経済
z 関根 順 著「数理ファイナンス」 (2007) 培風館
z ドージェ・ブローディ著「ビジネスマンのための金融工学」(2005)東洋経済
z 三上芳広-四塚利樹著「ヘッジファンド・テクノロジー」(2000)東洋経済
z 渡辺信三著「確率微分方程式」 (1975) 産業図書
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Global Quantitative Research
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の親会社である野村ホールディングスの役職員は、このレポートに記載された証券について、買い持ちし
ている場合があります。野村證券およびその親会社である野村ホールディングスは、このレポートに記載
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