元素分析に携わって 宮崎新一 熊本大学工学部技術部 応用分析技術系 1. はじめに 私は昭和 41 年 8 月に化学系教室に採用され、古家研究室へ配属されました。研究棟は木造建築の平 家建てで、昭和 28 年の熊本白川大水害の傷跡(背丈程の高さ)が壁にクッキリと残っている教官室で仕事 を始めました。最初の仕事は英文の論文を投稿するので、タイプライターをマスターして下さいとの事 でした。それで、英文のタイプライターを一日中、たたいていた様に思います。そして、投稿された研 究論文が学会誌に採用されましたら、先生の驕りで飲みに行くのが楽しみでした。 昭和 42 年 3 月に工学部 3 号館が完成しました。化学教職員一同、屋上で缶ビールを飲みながら、 完 成をお祝した事が思い出されます。学生は全てが新しくなり、快適な研究室で実験ができました。当研 究室では、研究費が不足して新型の分光光度計が購入できずに困っておられました。そこで、他研究室 から借りて分割払いで購入されるように提案しましたら、喜んで受け入れていただいた事が懐かしく思 い出されます。それから、学会への参加は研究室の修学旅行と言う事で先生からお誘いがあり、毎年自 費で参加しました。12 年間ほど研究室で仕事をしましたがとにかく助手が居なかったので、毎日遅くま で働いていた様に思います。 3 号館の東側の空地を整地して、工学部教職員の親睦と健康維持のために、ソフトボール大会を行う 事になりました。最初のうちは化学系チームで参加していましたが、途中から工研チームでプレイする 事になりました。そして、ピッチャーで負け知らずの優勝をした事もあります。 2. 元素分析を担当 昭和 53 年 4 月から、相次ぐ定員削減により旧工研機器センター(4 階建)の元素分析を担当することに なりました。このセンターにはエレベーターが無いので、ヘリウムガスボンベは学生さん達にお願いし て、当番制で 4 階まで上げてもらいました。また、天井は低く、照明も暗くて、夏は熱く、冬は寒かっ たので働く環境はあまり良くなかったように思います。また、分析依頼の試料が多かったので、いつも 昼休みは食事を取りながら分析をしていました。 1)53 年 4 月(昭和 42 年に購入)∼昭和 55 年 3 月 元素分析装置:柳本高速 C・H・N コーダー MT-2 型 この元素分析装置は 2 年間ほど使用しましたが、良い分析値が得られずに苦労しました。また、この 装置の C・H・N 元素の分析データは、 記録紙上に基準シグナルと試料シグナルが棒グラフで出てきます。 それらを定規で測り、それぞれを差し引きして、計算式にて分析値を計算しますので時間がかかりまし た。分析作業(試料導入棒は燃焼管の中へ 6 分毎に出し入れをしなければならない。また、その間には試 料の秤量をする。)は進みますが、分析値の計算が間に合わずに大変な苦労をしました。そして、この分 析値は重量パーセントですから、天秤があまり良くなかったので、試料の秤量に時間かかり、分析値の 精度への影響は大きかったと思われます。 図 1 元素分析装置(柳本高速 C・H・N コーダー MT-2 型) 2)昭和 55 年 4 月∼平成 11 年 3 月 元素分析装置: Yanaco CHN CORDER MT-3(パーソナルコンピューター付) 天秤: METTLER ME 22(BE 22) この分析装置は本体とパーソナルコンピューターおよび天秤の 3 点セットで購入していただき非常に 有り難く思っています。途中でコンピュータが修理できなくなり使用不能になりましたが、19 年間も使 用しました。天秤での試料の秤量は 30 秒以内で秤量できるようになり、分析値への影響は無くなりま した(ただし、この天秤では白金ボートの重量を覚える必要があった)。 図 2 元素分析装置(Yanaco CHN CORDER MT-3) 平成 8 年に新しく工学研究機器センター(5 階でエレベータ付)が完成しました。照明も明るくて、冷 暖房完備の職場環境が非常に良い元素分析室(4 階)で仕事をする事になりました。 3)平成 11 年 4 月∼ 元素分析装置: Yanaco CHN CORDER MT-6(オートサンプラーおよび情報処理装置付) 天秤: METTLER UMT 2 今回も元素分析装置は本体(オートサンプラー付)と情報処理装置および電子天秤の 4 点セットで購入 していただきましたので、分析料金は安くて精度の高い分析値を迅速に提供できるようになりました。 試料導入棒の出し入れはオートサンプラーで自動的になり楽になりましたが、白金ボートは手動で乗せ ています。また、情報処理装置の計算処理が画面上でできるようになりましたので、特殊な試料に対し ても即座に対応できるようになりました。 図 3 元素分析装置(Yanaco CHN CORDER MT-6) 3. 過塩素酸マグネシウム(アンヒドロン)とソーダタルクの節減と分析日数および分析回数 の改善 元素分析装置には、消耗品として燃焼ガス中の水分および炭酸ガス吸収剤があります。これらを吸収 管に充填し、従来は平均で分析回数が約 220 回、日数にして約 10 日ごとにアンヒドロン(約 8.1g)とソー ダタルク(約 7.4g)の全てを交換(廃棄)していました(表 1)。これにより交換作業が多く、 環境上(産業廃 棄物)も好ましくない状況が続いていました。 そこで、充填したアンヒドロン(水分吸収管内も含む)はそのままにして、炭酸ガス吸収管内(アンヒド ロン:ソーダタルク=1:1)のソーダタルクを一度に全部廃棄するのではなく、機能しなくなった部分の みを廃棄しました。吸収管内のソーダタルクの量を変化させて、有機元素分析用標準試料の元素分析の 分析値を比較し、測定精度への影響が無い事を考慮しながら分析しました。そうする事によって、ソー ダタルクは殆ど最後まで使用する事ができ(図 4)、平均で分析回数が約 637 回、日数にして約 28 日間に 延ばす事ができました(表 2)。また、水分および炭酸ガス吸収剤はある程度の期間、充填したまま分析 を続けても測定精度への影響はありませんでした。吸収剤の交換作業と環境中に放出される水分および 炭酸ガス吸収剤の量を削減し、環境負荷の改善をする事ができました。 表 1 改善前の消耗品交換状況の一例 分析 アンヒドロン ソーダタルク 日数 (8.1g) (7.4g) 5.11 11 〃 〃 224 5.27 11 〃 〃 205 6.11 11 〃 〃 238 6.29 9 〃 〃 210 7.13 14 〃 〃 298 8.18 9 〃 〃 169 9.10 9 〃 〃 189 9.25 9 〃 〃 224 83 64.8g 59.2g 1,757 交換日 分析回数 図 4 ソーダタルクの使用状況 表 2 改善後の消耗品交換状況の一例 分析 アンヒドロン ソーダタルク 日数 (9.3g) (7g) 12.5 32 〃 〃 675 2.21 32 〃 〃 629 5.31 23 〃 〃 495 7.18 30 〃 〃 635 10.6 31 〃 〃 764 12.4 23 〃 〃 589 1.19 26 〃 〃 681 3.5 24 〃 〃 626 221 74.4g 56g 5,094 交換日 分析回数 4. おわりに 元素分析に関しての技術発表は今回で 4 回目になりましたので、内容的にはあまり発表する事があり ませんでした。意外な先輩から、初期の頃の元素分析は大変な作業であったとお聞きする機会がありま した。私が元素分析を担当した頃も随分と苦労しましたが、現在は部屋の空調環境は元より元素分析装 置と情報処理装置および天秤に関しては雲泥の差があり、精度の高い分析値が提供できるようになりま した。早いもので、元素分析を担当してから 29 年になり、26 年間は毎日昼食を食べながら分析業務を してきました。依頼試料はできるだけ制限をもうけずに、分析料金は安く、正確な分析値を迅速に提供 してきました。
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