平成 22 年度 二酸化炭素回収技術高度化事業 成果報告書 平成 24 年 3 月 公益財団法人 地球環境産業技術研究機構 まえがき 二酸化炭素回収・貯留(CCS:Carbon dioxide Capture and Storage)は、世界的にも中長期 的な地球温暖化対策として期待されており、2008年に開催されたG8北海道洞爺湖サミットでは、 2050年までにCO2排出量を世界で半減するという目標の共有が合意された。そして地球温暖化へ の取組としてエネルギー効率の改善、風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーの促進等 とともにCCSを含む先進的なエネルギー技術の開発と展開の必要性が確認された。 国際エネルギー機関(IEA)の試算によると、2050年に温室効果ガスを半減させるためにはCCS が約2割の削減分を担うとされている。 2050年に世界の温室効果ガスを半減するためには、日本としても先進国の一員としてCO2の削 減に取り組むことが重要であり、そのためには、 省エネルギーや再生可能エネルギーのみならず、 CCSも活用しなければ大量のCO2削減を達成することは困難であると考えられる。 これらを踏まえ、平成20年3月に公表された「Cool Earth -エネルギー革新技術計画-」にお いて、CCSは今後重点的に取り組むべき21の革新技術のひとつとして位置づけられており、さら に、平成22年6月に閣議決定された「エネルギー基本計画」においても、2020年頃のCCSの商用 化を目指した技術開発の加速化を図ることが述べられているところである。 経済産業省は、平成12年度から国内において二酸化炭素の地中帯水層への貯留に係る圧入試験 等を実施してきており、平成20年度からは大規模実証試験のための調査を進めている。また、CCS 研究会において、CCS大規模実証試験を実施する際に安全面・環境面から遵守することが望まし い基準として「CCS実証事業の安全な実施にあたって」を策定した。 以上のように、我が国においては、地球温暖化対策としてCCSの実用化に向けた対応を速やか に進めることが求められており、CCSの実用化に資するため、コストを低減する技術、特にコス トの大部分を占める分離・回収分野の技術開発の加速化が必要とされているところである。 本事業では、化学吸収液をベースにした新規固体吸収材の開発及び化学吸収法のプロセスシミ ュレーション技術の高度化を行うことにより、二酸化炭素回収技術の高度化を図ることを目指し て、常圧ガスからの CO2 吸収分離(post-combustion)において、①「固体吸収材の開発」、およ び②「化学吸収液の評価を行なう標準的手法の開発」の 2 つのテーマに関して研究を開始した。 平成 24 年 3 月 公益財団法人 地球環境産業技術研究機構 目 次 要約 ························································································································ ⅳ 第1章 事業概要 1-1 事業の概要 ··································································································1 1-2 事業の内容及び実施方法················································································1 1-2-1 新規固体吸収材の開発··········································································2 1-2-2 化学吸収液の評価を行う標準的手法の開発 ··············································2 1-3 研究開発実施スケジュール·············································································4 1-3-1 事業実施期間······················································································4 1-3-2 実施スケジュール················································································4 1-4 第2章 事業の実施計画····························································································5 固体吸収材の開発 2-1 はじめに ·····································································································7 2-2 固体吸収材・吸着分離技術開発の内外の動向 ····················································7 2-3 固体吸収材および化学吸収液に関する情報交換 ··············································· 12 2-3-1 概要 ································································································ 12 2-3-2 NETL との打合せおよび情報交換 ························································ 12 2-3-3 まとめ····························································································· 14 2-4 新規固体吸収材向けの化学吸収液の選定 ························································ 16 2-4-1 概要 ································································································ 16 2-4-2 検討指針·························································································· 16 2-4-3 試験方法·························································································· 19 2-4-4 結果と考察······················································································· 23 i 2-4-5 2-5 まとめ····························································································· 36 RITE 提供の化学吸収液をベースとした新規固体吸収材の作製 ··························· 37 2-5-1 概要 ································································································ 37 2-5-2 固体吸収材の作製·············································································· 40 2-5-3 まとめ····························································································· 45 2-6 新規固体吸収材の評価················································································· 46 2-6-1 概要 ································································································ 46 2-6-2 固体吸収材のキャラクタリゼーション ·················································· 46 2-6-3 吸収・脱離性能の評価方法·································································· 50 2-6-3 結果と考察······················································································· 54 2-6-4 まとめ····························································································· 65 2-7 第3章 3-1 2章まとめ ································································································ 66 化学吸収液の評価を行う標準的手法の開発 NETL とのプロセスシミュレーション技術に関する情報交換····························· 69 3-1-1 概要 ································································································ 69 3-1-2 NETL との情報交換 ·········································································· 70 3-1-3 まとめ····························································································· 89 3-2 RITE 開発液を対象とした CO2 分離回収プロセスのプロセスシミュレータの改良·· 90 3-2-1 概要 ································································································ 90 3-2-2 RITE 開発液の物性値測定 ·································································· 90 3-2-3 プロセスシミュレーションモデル ······················································ 100 3-2-4 まとめ····························································································111 3-3 CO2 分離回収プラントの試験データの集積とプロセスシミュレータの高度化 ······ 112 3-3-1 概要 ······························································································ 112 3-3-2 東芝でのパイロットプラント試験 ······················································ 113 3-3-3 CSIRO でのプラント試験に関するデータ収集······································ 120 3-3-4 化学吸収液の環境影響に関する調査 ··················································· 129 3-3-5 まとめ··························································································· 144 ii 3-4 化学吸収液の評価技術高度化······································································ 145 3-4-1 概要 ······························································································ 145 3-4-2 プロセスシミュレーションモデル ······················································ 145 3-4-3 結果と考察····················································································· 147 3-4-4 まとめ··························································································· 160 3-5 第4章 3章まとめ ······························································································ 168 結び 4-1 本事業の研究成果まとめ············································································ 170 4-2 研究成果の公表························································································ 170 iii 要 約 本事業では、二酸化炭素分離回収コストの大幅削減のため、公益財団法人地球環境産業技術研 究機構(以下、RITE という)が保有する優れた化学吸収液と米国のエネルギー技術国立研究所 (以下、NETL という)が保有する優れた固体吸収材およびプロセスシミュレーションの知見を ベースに化学吸収液をベースにした新規固体吸収材の開発及び化学吸収法のプロセスシミュレー ション技術の高度化を行うことにより、二酸化炭素回収技術の高度化を図る。 「新規固体吸収材の開発」 本事業では国内外の固体吸収材開発の動向について調査するとともに、米国 NETL と固体吸収 材の開発についての情報交換を実施した。双方の現状の技術開発状況について紹介を行なった後、 契約締結後に実施する SOW(Statement of Work)を作成して4つの Task を確認し、今後の研 究協力体制を構築することができた。 上記の交換情報をベースに、RITE は新規固体吸収材の開発を開始した。これまでに蓄積して きた化学吸収液に関する知見のもと、量子化学計算をはじめとする高度な解析手法を用いてモデ ルを構築し、固体吸収材に適した吸収剤(アミン)を選定するツールを開発した。 さらに、化学吸収液として用いられるアミン類をベースとする新規固体吸収材を調製し、CO2 吸着・脱着性能を評価した。その結果、低温での CO2 放散量が大きな固体吸収材を見出した。 「化学吸収液の評価を行なう標準的手法の開発」 プロセスシミュレーション技術を用いた化学吸収液の評価手法の開発に着手し、本事業では NETL との情報交換をベースに、RITE 開発液を対象としたプロセスシミュレータの構築を進め た。また、東芝保有の 10t/d 規模のパイロットプラント設備において、石炭燃焼排ガスを対象と する CO2 分離回収試験を実施した。その結果、低 CO2 回収エネルギー(2.9GJ/t-CO2)の結果を 得て、製鉄プロセスを対象に開発した RITE 開発液が燃焼排ガスへも適用出来ることを確認した。 更に、試験で得られたプロセスデータをもとに化学吸収法のプロセスシミュレーションを実施し、 種々の運転条件において吸収液の性能評価が可能なプロセスシミュレーション技術の基盤を構築 した。 iv 第1章 1-1 事業概要 事業の概要 CCS は地球温暖化対策の重要な選択肢の一つとして期待されており、その実用化のために低エ ネルギー・低コスト型の二酸化炭素(CO2)分離回収技術の開発が必要である。また、経済産業 省は平成 21 年 5 月に米国エネルギー省とエネルギー・環境分野における研究開発について協力 することに合意している。ここで CCS 技術は本合意の対象とする技術分野の一つであり、優れ た技術を保有する日米両国の研究機関の連携・協力により、CO2 分離回収技術を高度化させ、CCS の技術開発を加速することとしている。 RITE は、NETL において研究実績のある CO2 高効率回収・低エネルギー消費型の固体吸収材 に着目し、その研究開発について NETL と情報交換を始めている。固体吸収材による CO2 分離 回収技術は化学吸収法と異なり、蒸気放散によるエネルギー損失が無視できるため、CO2 分離回 収エネルギーの低減の可能性がある。この研究はアミンを吸収剤として固体の基材(担体)に担 持させた固体吸収材の開発で、RITE が蓄積する化学吸収液とそのデータベースを活用すること で固体吸収材の高性能化が期待できる。 また RITE は、これまでに低エネルギー・低コスト型の化学吸収液を開発し(経済産業省補助 事業「低品位廃熱を利用する二酸化炭素分離回収技術」(平成 16~20 年度)、世界トップレベル の低 CO2 分離回収エネルギー(2.5GJ/t-CO2)を達成している。この化学吸収液は近い将来の実 用化が期待されており、産業技術として確立するために化学吸収液の耐久性および環境影響等の 調査が必要である。更に、CO2 発生源を含めたシステム全体を対象にエネルギー及びコストの両 面から化学吸収液を評価する必要があり、システム設計や最適運転条件を高精度に推定するため にプロセスシミュレーション技術の高度化が急がれている。 以上に示した CCS 技術開発の現状を勘案し、CO2 分離回収技術の高度化を目的に、米国研究 機関の NETL と連携・協力し、化学吸収液をベースにした固体吸収材の開発(「新規固体吸収材 の開発」)及びプロセスシミュレーション技術の高度化(「化学吸収液の評価を行う標準的手法の 開発」)を実施する。 1-2 事業の内容及び実施方法 以下に事業の内容及び実施方法を記述する。なお、本事業では図 1-2-1 に示した固体吸収材等 の単語を使用する。化学吸収液はアミン等の吸収剤と溶媒(水)で構成され、固体吸収材は担体 と、それに固定化または含浸させた吸収剤で構成される。 -1- 吸収剤 (固定化、含浸) 溶媒(水) 固体吸収材 化学吸収液 吸収剤 担体 図 1-2-1 本事業における単語の定義 1-2-1 新規固体吸収材の開発 ①固体吸収材および化学吸収液に関する情報交換 RITE は化学吸収液の開発実績があり、その中で多くのアミンを評価し、CO2 とアミン の反応特性に関するデータベースを保有している。一方 NETL はアミンを吸収剤として 担体に担持させた固体吸収材の研究を積極的に実施しており、CO2 吸着量・脱着量および CO2 回収容量といった CO2 吸着特性や、反応熱等の物性測定も実施している。高性能な 新規固体吸収材を開発するため、両者の間で情報交換を実施する。 ②新規固体吸収材向けの化学吸収液の選定 RITE は①の情報交換をもとに吸収剤の候補となる化学吸収液を選定する。また化学吸 収液の選定ツールとして量子化学計算等の可能性を検討する。 ③RITE 提供の化学吸収液をベースとした新規固体吸収材の作製 RITE は RITE の化学吸収液をベースとする新規固体吸収材を作製する。 ④新規固体吸収材の評価 RITE は RITE の化学吸収液をベースに作製した新規固体吸収材の CO2 吸着・脱着試験 を実施する。また新規固体吸収材の CO2 吸着特性、CO2 回収容量、耐久性、安定性等を 評価する。 1-2-2 化学吸収液の評価を行う標準的手法の開発 ①NETL とのプロセスシミュレーション技術に関する情報交換 RITE は低エネルギー・低コスト型の化学吸収液(RITE 開発液)を開発し、それを使 用した CO2 分離回収プロセスに対する速度論型のプロセスシミュレータを保有している。 NETL は既存の化学吸収液を使用する CO2 分離回収プロセス及び発電システムのそれぞ -2- れの高精度なプロセスシミュレータを保有している。RITE は CO2 分離回収プロセスの高 度なプロセスシミュレータを開発するため、NETL との間でプロセスシミュレーション 技術に関する情報交換を実施する。 ②RITE 開発液を対象とした CO2 分離回収プロセスのプロセスシミュレータの改良 RITE は、①において入手した NETL の高精度なプロセスシミュレータの技術情報をも とに、RITE が所有する CO2 分離回収プロセスのプロセスシミュレータを改良する。 ③CO2 分離回収プラントの試験データの集積とプロセスシミュレータの高度化 RITE は国内民間企業が保有するパイロットプラント(10t/d 規模)を用いて RITE 開 発液を評価し、プロセスデータを入手する。また、RITE は平成 21 年度に CSIRO (Australian Commonwealth Scientific and Research Organisation,豪州)と共同実施 した RITE 開発液のプラント試験(1t/d 規模)の結果からプロセスシミュレーションに必 要なプロセスデータを収集する。更に RITE は化学吸収液の環境影響を調査する。 ④化学吸収液の評価技術高度化 ③で収集した異なるスケールのプラントから得られたプロセスデータをもとに②で改 良したプロセスシミュレータによりシミュレーションを実施する。得られた推算結果を試 験結果と比較検討し、プロセスシミュレータの解析精度向上に反映させ、RITE 開発液の シミュレーション技術の高度化を図る。 -3- 1-3 研究開発実施スケジュール 1-3-1 事業実施期間 契約締結日から平成24年3月30日まで 1-3-2 実施スケジュール 表 1-3-1 実施スケジュール H22 H23 H24 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1011 12 1 2 3 1)新規固体吸収材の開発 ①固体吸収材および化学吸収液 に関する情報交換 ②新規固体吸収材向けの化学吸 収液の選定 ③RITE提供の化学吸収液をベー スとした新規固体吸収材の作製 ④新規固体吸収材の評価 2)化学吸収法の評価を行う 標準的手法の開発 ①NETLとのプロセスシミュレー ション技術に関する情報交換 ②RITE開発液を対象としたCO2分 離回収プロセスのプロセスシミュ レータの改良 ③CO2分離回収プラントの試験 データの集積とプロセスシミュ レータの高度化 ④化学吸収液の評価技術の 高度化 3)NETLとの研究協力体制の構築 ① 共同研究契約 ② 技術連絡会 4)報告書作成 -4- 1-4 事業の実施計画 「新規固体吸収材の開発」に関して、NETL は固体にアミンを担持させた固体吸収材の開発を 進めている。一方、RITE は化学吸収法の研究開発を通じて低エネルギー・低コスト型の化学吸収 液を開発し、その性能を評価してきた。固体吸収材の性能は担持する吸収剤の性能に大きく左右 されるため、RITE の化学吸収液開発の知見を新規固体吸収材の開発に有効に活かすことが出来 れば、CO2 分離回収コストを大幅に削減する高効率な新規固体吸収材の開発に繋がる。本事業に おいて、図 1-4-1 に示すとおり RITE 及び NETL の持つ長所を融合させるため、RITE の高性能 化学吸収液に関する知見と NETL の固体吸収材に関する知見をもとに情報・意見交換を実施し、 更なる研究開発を展開する。 RITE NETL 固体吸収材開発 固体吸収材開発 研究協力 ・低エネルギー・低コスト型の化学吸収液 ・アミンを担持させた固体吸収材開発 ・化学吸収液のデータベース (RITE開発液) ・RITE開発液をベースとする固体吸収材の作製と評価 高性能の新規固体吸収材 図 1-4-1 本事業の実施項目と研究機関の役割 (「新規固体吸収材の開発」) -5- 一方「化学吸収液の評価を行う標準的手法の開発」に関して、NETL は既存の化学吸収液につ いての高精度なプロセスシミュレーション技術を構築している。これは CO2 分離回収技術のプロ セスシミュレータと発電プラント全体を対象としたシステムレベルの評価手法を含む。RITE は、 保有する低エネルギー・低コスト型の化学吸収液に関する高精度なプロセスシミュレーション技 術を開発中である。本事業では、RITE は RITE の優れた化学吸収液を対象にプラント試験デー タを収集し、RITE の保有するプロセスシミュレータにより解析を実施する。得られた結果を NETL のシミュレーション技術をベースに検討し、RITE の化学吸収液に対するシステムレベル の評価手法の高度化を図り、標準的な評価手法を開発する(図 1-4-2)。 また、RITE は NETL との協力体制を適切に構築するために、平成 22 年 3 月に機密保持契約 (Nondisclosure agreement: NDA)を結び、情報交換をスタートさせた。両機関は、平成 23 年 度に CRADA(Cooperative Research and Development Agreements)を修正した新たな契約基 本案のもとで共同研究契約を結び、本格的な共同研究を実施する計画である。さらに、研究進捗 管理、研究開発促進、及びより密接な研究交流を目的に事業実施期間中 3 回程度、技術連絡会を 開催する。 RITE NETL 化学吸収液開発 化学吸収液開発 研究協力 ・低エネルギー・低コスト型の化学吸収液 ・既存の化学吸収液の評価技術 ・RITE開発液の速度論プロセス シミュレーション技術 ・プロセスシミュレーション技術 ・プラント試験データ (RITE開発液) ・RITE開発液の評価試験(ラボ) ・RITE開発液を対象とした プロセスシミュレータの開発 1 t-CO2/d規模 10 t-CO2/d規模 化学吸収液 評価装置(ラボ) プロセスおよびシステムのプロセスシミュレータ 評価手法の高度化・標準化 図 1-4-2 本事業の実施項目と研究機関の役割 (「化学吸収液の評価を行う標準的手法の開発」 ) -6- 第2章 2-1 固体吸収材の開発 はじめに 本事業では二酸化炭素分離回収コストの大幅削減のため、高効率な回収が可能なアミノ基を固 体に担持した新規の固体吸収剤の開発を目指し、RITE が保有する優れた化学吸収液と米国 NETL が保有する優れた固体吸収材の知見をベースに新規固体吸収材を開発する。固体吸収材は 化学吸収法と異なり再生時に蒸気損失が無いため分離回収エネルギーの低減が期待されてい る。これまでに RITE が蓄積した化学吸収液とそのデータベースを活用することで固体吸収 材の高性能化が期待できる。本事業は国内外の動向について調査するとともに、米国 NETL との情報交換を通じて、分離回収エネルギーが 2.0 GJ/t-CO2 以下 を達成しうる新規固体吸収材 の開発およびそれを用いた CO2 の分離回収プロセスを構築することを目的とする。 2-2 固体吸収材・吸着分離技術開発の内外の動向 CO2 の吸着分離法はこれまでにも一部実用化されている技術であり、大規模発生源からの CO2 の分離回収法として検討されている技術の一つでもあるが[1]、さらなる分離エネルギーの低減と ともに装置のコンパクト化が必要とされている[2,3]。装置の起動停止や運転が簡単なことや、廃 液処理が不要なことは大きなメリットであり、高性能な材料が開発されれば大幅なコスト低減・ 省エネも可能である。以下に固体吸収・吸着法に関する国内外での最近の動向について記載する。 日本と欧州では高炉から発生する CO2 を大幅削減するプロジェクトの一環として吸着分離技 術が検討されている。一方、米国では石炭火力発電所からの CO2 回収技術として固体吸収剤によ る吸着分離が検討されている。 (1)ULCOS プロジェクト[4] 欧州では ArcelorMittal や ThyssenKrupp など 48 の企業、研究機関が参加する“ULCOS(Ultra ”プロジェクトのなかで CO2 分離回収技術として吸着分離法が検討され Low CO2 Steelmaking) ている。ULCOS はいくつかのサブプロジェクトで構成されているが、中心は酸素吹きの CO2 循 環型の新型高炉の開発である。新型炉では排出ガス中の CO2 濃度が高いため、CO2 濃度が高い場 合に有効である吸着法が検討されている。ULCOS プロジェクトは第 1 ステップが 2004~2009 年、第 2 ステップ 2009~2014 年、第 3 ステップとして 2015~2020 年が計画されている。 (2)COURSE50 プロジェクト[5] 一方、わが国では新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「環境調和型製鉄プロセ ス技術開発」の中で、製鉄メーカを中心に“COURSE50(CO2 Ultimate Reduction in Steelmaking -7- process by innovative technologies for Cool Earth 50)”プロジェクトが推進されている。プロ ジェクトの中で CO2 吸収液の開発と平行して、CO2 の吸着分離プロセスの開発が実施されている。 簡易なシステムであり、かつ低エネルギーで CO2 を分離・回収可能であるという観点から物理吸 着法が検討されている。吸着分離法はこれまでに製鉄所の熱風炉排ガスからの CO2 除去等の実績 があるが、高炉ガスからの CO2 分離・回収や大規模なガス処理へ適用するのは日本初の試みとの ことで、本プロジェクトを担当する JFE は処理能力 3 ton/d のベンチ試験装置(ASCOA-3: Advanced Separation system by Carbon Oxides Adsorption)を建設し、実ガスからの CO2 分離 性能を評価するとともに、ガス前処理方法やコスト削減方法の検討を進めている。ゼオライト系 の CO2 吸着剤を用いて、すでに CO2 回収率 80%以上、回収 CO2 濃度 90%以上を達成している。 今後さらなる低エネルギー化、スケールアップ技術に向けた様々な開発に取り組む予定とのこと である。 (3)米国 NETL 固体吸収材プロジェクト[6] CO2 の分離回収技術としてはこれまで化学吸収法を中心に実証試験や商業規模の事業検討が進 められているが、加熱再生エネルギーの低減が課題である。米国ではこれまでに NETL がアミン を粘土鉱物等に担持した固体吸収材を開発している。アミンを水溶液として用いる化学吸収法と 異なり、CO2 解離に伴う蒸気エネルギー損失が無視できるため CO2 分離回収エネルギー低減の可 能性がある。2011 年に R&D Magazine から革新的な技術に授与される R&D 100 Award を受賞 している。彼らの試算によるとこの固体吸収材を移動床あるいは流動床での吸着分離に適用する と分離回収エネルギーが 1.8GJ/t-CO2 にまで低減できるとしているが、試算の詳細は不明であり 今後検証が必要である。すでに 2010 年度に 15 億円を投じて 1kw pilot plant の試験を実施して いる。今後、さらに大規模試験を予定しており、1MW、>30MW の実証試験を経て、2020 年 には商業化を目指すとしている。 (4)RITE におけるこれまでの固体吸収材開発の取り組み これまでに RITE ではメソ細孔シリカの表面へアミノ基を化学修飾し、CO2 との親和性を向上 させた「耐水蒸気型吸着剤」を開発している(NEDO 先導研究「省エネルギー型二酸化炭素分離回 収技術の開発」平成 13~15 年)。メソ多孔体は細孔径が 2~50nm 程度の多孔体であり、マイクロ ポーラス物質と比較して大きな細孔径と細孔容積を有しているため、比較的大きな分子を多量に 細孔内に導入できる可能性がある。すなわち、細孔内を化学修飾する場合、マイクロポーラス物 質に比べその自由度が大きい。このような材料を利用するメリットとして耐水蒸気性によるプロ セスの簡略化と省エネルギー化以外にも、アミンの固体表面への固定化による吸収質の放散防止 やハンドリングの容易性などが期待できる(図 2-2-1)。また、担体はシリカ以外にも、硫化物、 リン酸塩、カーボンなど種々の組成や細孔構造の異なる物質の合成が可能であり、表面を多様な 官能基で修飾、ハイブリッド化が可能である。このように材料設計の自由度が高く、従来にない 高いガス吸着・脱離性能の発現を可能とする材料の創出が期待できる。 -8- NH2 OH OH Reflux in toluene Mesoporous Silica APS: H2N AEAPS: H2N Si O O + TA: NH2 Si(OCH2CH3)3 H2N NH NH NH Si O Amine modified Mesoporous Silica Si(OCH3)3 Si(OCH3)3 図 2-2-1 メソ多孔体の表面修飾による CO2 吸着剤調製 その中で、グラフト法によりアミンを高密度に修飾したメソ多孔体は水蒸気共存下においても高 い CO2 吸着性能を有することを明らかとしている。これは、アミンのペアサイトがカルバメート を形成することで CO2 を吸着するためであり、この反応は 60℃以上では共存水蒸気の影響を受 けない。特にトリアミンを担持した MSU-H(TA/MSUH)は水蒸気共存下でゼオライト 13X の水 蒸気非共存下での CO2 吸着と同等の CO2 吸着性能を示すことを見出している(図 2-2-1)[7]。除 湿工程の省略/簡略化が達成されるならば、装置のコンパクト化が可能である。今後、安価で簡 便な(有機)吸収剤-無機ハイブリッド材料の合成・修飾方法や吸収剤の安定性や共存被毒物質 の影響についての検討が必要である。 (5)炭酸カリウムを担持した活性炭[8] NEDO の先導研究では、この他に四国総合研究所により、炭酸カリウム担持活性炭の検討が実 施されている。 (株)四国総合研究所では、化学吸収法で用いられている炭酸カリウム(K2CO3)を細孔に保持 した活性炭を CO2 吸着剤として用い、実用化装置の概念設計を行うことによって CO2 回収エネ ルギーやコストを試算し実用性の可能性を検討している。また、K2CO3 だけでなく Na2CO3 や Rb2CO3 などのアルカリ炭酸塩についても評価している。 アルカリ炭酸塩の種類のよって CO2 捕捉温度が異なったことから(表 2-2-1)、40~130 ℃付近 の排ガスに対して最適な活性炭に担持するアルカリ炭酸塩を選定することができる。 表 2-2-1 各種アルカリ炭酸塩の CO2 捕捉温度 CO2 捕捉温度 20 ℃ 40 ℃ 80 ℃ アルカリ炭酸塩の種類 Rb2CO3, Cs2CO3 Na2CO3, KNaCO3 K2CO3 -9- アルカリ炭酸塩の結晶水の有無で CO2 吸脱着メカニズムが異なり、炭酸カリウムや炭酸ルビジ ウム、炭酸セシウムを担持した活性炭では、K2CO3・1.5H2O、Rb2CO3・H2O、Cs2CO3・2H2O と して担持され、CO2 と反応し炭酸水素塩を形成する。よって、結晶水を持つアルカリ炭酸塩では、 水が共存しなくても CO2 を捕捉できる。 M2CO3・xH2O + CO2 = 2MHCO3 + (x-1)H2O (M, x) = (K, 1.5), (Rb, 1), (Cs, 2) 一方、炭酸ナトリウムや炭酸カリウムナトリウムは水和塩を形成しないため、外部から水を補給 することによって CO2 を捕捉する。 N2CO3 + CO2 + H2O = 2NHCO3 N = Na, NaK 炭酸カリウム担持活性炭の実用性について小規模(100,000 Nm3/h)および 600MWLNG 火力 規模(1,263,000 Nm3/h)の排ガスに担持活性炭を適用した場合、CO2 回収コストは 10.2~8.8 円 /kg- CO2 となり、モノエタノールアミン吸収法による CO2 回収コストよりも安価になったと報告 されている。したがって、K2CO3 担持活性炭は小型から中規模の排ガスに適しており、実用性が 高いと言える。 (6)セラミック吸収剤を用いた回収システム[9] 東芝は、CO2 と反応しやすい酸化リチウム(Li2O)と安定な酸化物であるシリカ(SiO2)を組 み合わせたリチウムシリケートを主成分とした CO2 吸収材を開発している。この CO2 吸収材は 吸収材体積の 400 倍の CO2 を吸収でき吸収材 100 g あたり CO2 吸収量は 17 g であった。 550~650 ℃で CO2 を吸収し、800~850 ℃で放出し、CO2 の吸収と放出を可逆的に繰り返し行う ことができるが、CO2 吸収量が吸収・放出の繰り返しで低下する傾向があり、実用化に向けた課 題となっている。 産業用ボイラの排ガスから CO2 を分離するシステムに適用した場合、CO2 単位質量を回収する のに必要な熱エネルギーである CO2 回収熱原単位は、約 3 MJ/kg-CO2 となり、CO2 吸収量が維 持できれば省エネルギー面でも非常に優れたシステムとなる可能性がある。 (7)ポリエチレンイミンを担持した MCM-41[10] Xiaochun Xu は細孔内にポリエチレンイミン(PEI)を担持したメソ多孔体 MCM-41 を用い て CO2 吸着性能の研究を行っている。MCM-41 は表面積 1,480 m2/g、細孔容積 1.0 cm3/g、細孔 径 2.75 nm の 2D 構造を有している。また、PEI を含浸法によって担持した。75 ℃の純 CO2 気 流下において、CO2 吸着量は PEI を 50wt%担持した吸着剤の場合、215 mg-CO2/g-PEI であり、 MCM-41 の 24 倍、PEI の 2 倍の吸着量に相当し、CO2 吸脱着を繰り返しても CO2 吸着量は不変 であった。しかし、CO2 吸着に 44%のアミンしか使われておらず、さらなる改善が必要である。 - 10 - (CH2-CH2-N) x (CH2-CH2-NH) y CH2 CH2 NH2 図 2-2-2 ポリエチレンイミン(PEI) (8)ハイドロタルサイトによる高温での CO2 吸着[11] Mg-Al-CO3 のハイドロタルサイト化合物(HTlc)を用いた CO2 吸着は、加熱することによ って層状構造の変化を利用している。Mg-Al-CO3 のハイドロタルサイト化合物は、200 ℃ま で加熱する(HTlc-200)と脱水によって層間の距離が小さくなり骨格中の Mg2+と CO2 が化学吸 着し、MgCO3 を形成する。さらに、400 ℃まで加熱する(HTlc-400)と CO32-が分解し、三次 元構造になる。三次元構造によって表面積や細孔容積が減少するため Mg2+と CO2 との相互作用 が弱くなり、物理吸着になる(表 2-2-2)。 表 2-2-2 200 ℃および 400 ℃におけるハイドロタルサイトの CO2 吸着能[11] CO2 adsoportion capacity, mmol/g %chemisorption Sample combined physisorption chemisorption contribution HTlc-200 0.604 0.274 0.330 54.6 HTlc-400 0.896 0.731 0.165 18.4 - 11 - 2-3 固体吸収材および化学吸収液に関する情報交換 2-3-1 概要 RITE は化学吸収液の開発実績があり、その中で多くのアミンを評価し、CO2 とアミンの反応 特性に関するデータベースを保有している。一方 NETL はアミンを吸収剤として担体に担持させ た固体吸収材の研究を積極的に実施しており、CO2 吸着量・脱着量および CO2 回収容量といった CO2 吸着特性や、反応熱等の物性測定も実施している。本事業において高性能な新規固体吸収材 を開発するため、両者の間で情報交換を実施した。 2-3-2 米国 NETL との打合せおよび情報交換 (1)概要 本事業における米国研究機関との共同研究を推進するため、National Energy Technology Laboratory(NETL)を訪問し、情報交換を実施した。 (2)RITE-NETL の技術情報交換 a. 目的: 化学吸収法、固体吸収材はもちろんのこと、CO2 分離回収技術全般に関する既往の研究につい て、公開資料ベースで情報交換を実施し、両研究所の技術力を相互に理解することを目的とした。 以下に内容を記す。 b. 化学吸収液開発、シミュレーション “Development of novel absorbents for low-energy CO2 capture” RITE は 2004 年度から COCS プロジェクトの中で吸収液開発を行ってきた。本プロジェクト は低反応熱・高 CO2 吸収容量の吸収液を指向し、ラボ試験から 1t/d 規模のプラント試験を通し て高性能吸収液 RITE-5、RITE-6 の開発に成功した。これら開発液の性能は、実機レベルのプ ラ ン ト に お い て CO2 分 離 回 収 エ ネ ル ギ ー 2.5GJ/t-CO2 を 達 成 可 能 と 予 測 さ れ る 。 現 在 も COURSE50 プロジェクトから資金を得て、新規吸収液の開発を継続している。 “Process simulation with AspenPlus® in RITE” RITE 吸収液は従来 CO2 回収に使用されていたアミン化学種とは異なるために、汎用型のプロ セスシミュレーションソフトをそのままに使用することは出来ない。RITE はこれまでに AspenPlus の MEA シミュレーションをベースに RITE 吸収液の物性値(気液平衡、粘度、反応 熱の測定値)を組み込んだ簡易的な RITE 液シミュレーションモデルを構築した。更に現在は、 他の物性値を収集し、AspenPlus の高精度なシミュレーションモデルを構築している。 - 12 - c. 吸収液開発における計算化学 “Study on the amine-CO2-H2O system using a computational model” RITE ではこれまでアミンを主剤とした CO2 吸収液を多数開発している。開発においてはアミ ンの分子構造と吸収性能の相関に関する知見が有用であり、解析に実験的手法のみならず計算化 学的手法を用いてきた。活用している計算化学的手法の一つとして、RITE で構築した CO2 吸収 反応の自由エネルギー計算モデルがある。アミン水溶液による CO2 吸収はカルバメートあるいは バイカーボネートの生成反応で起こるが、その生成比は吸収液の性能を支配する重要な因子であ る。反応自由エネルギー計算モデルを適用することで生成比予測が可能であり、RITE では新規ア ミンを検討する際に本手法を活用している。発表ではこのような背景および現状に加え、モデル 化の為の諸仮定、モデル構築において採用した溶媒和モデルおよび量子化学計算手法について説 明した。さらにモデルの妥当性を検証する為に、核磁気共鳴分光法等で生成比を実測し、モデル による予測との比較検討を実施している。 d. RITE における吸着剤の研究開発 “Adsorption of carbon dioxide on amine-modified mesoporous silica in the presence of water vapor” RITE では過去に NEDO の先導研究プロジェクトとして、各種アミンを多孔質支持体に担持し た固体吸収材の開発を実施している。これまでに各種アミノシランをカップリング剤としてメソ ポーラスシリカ SBA-15 にアミノ基をグラフト担持した固体吸収材を調整し、CO2 の吸着性能評 価を実施している。特にトリアミンを担持した SBA-15 はアミンの CO2 吸着に関わる利用効率が 高く水蒸気共存条件下でも CO2 を吸着除去できること、アミンと CO2 の反応はアミノ基のペア サイトと CO2 によるカルバメートの形成反応であり、アミンの高密度担持が CO2 吸着に有効で あることを明らかとした。また、これらの知見から、細孔容積の大きなメソポーラスシリカであ る MSU-H を担体として用いると、3.1mol-CO2/kg にまで CO2 の吸着容量が増大し、本材料は 30 回の繰返し吸脱着後も安定であることを見出している。 e. NETL における固体吸収材の研究開発 “Solid sorbents and reactors” NETL では常圧排ガス用の CO2 分離回収技術として Solid Sorbent(固体吸収材)の開発を実 施している。固体吸収材としては、ゼオライト、アルカリおよびアルカリ土類金属化合物、活性 炭、MOF(Metal Organic Frameworks)などが提案されているが、それぞれ短所があることか ら、アミンを多孔質支持体に担持した固体吸収材を検討している。調製方法としては単純な含浸 法、合成(グラフト法) 、固体表面上でのポリメリゼーションの 3 種類を検討している。 これまでに PEI をポリマービーズに担持した材料(PEI/Cariact G10)などを合成している。 また、特に吸収液を担持した粘土鉱物を開発し、PEI/エーテル/グリコールの混合物を粘土に担持 し、極性物質が粘土の層間内に取込まれた構造となっている。これにより 1.7mol-CO2/k 程度の吸 - 13 - 着容量を得ている。また本材料は 80-100℃、スチーム再生の条件で CO2 共存条件でも再生でき るというユニークな特性を持っている。また、NETL では含浸担持、表面へのグラフト反応、ア ミン化合物の重合反応などを実施している。 表 2-3-1 固体吸収材調製手法 NETL 保有技術 RITE 保有技術 RITE および NETL のこれまでの検討による保有技術 IMMOBILIZATION SYNTHESIS PEI/PMMA, Amine-Clay など Aziridine の表面グラフト反 (極性担体との相互作用) 応など RITE 液 メソ細孔シリカへのグラフト 固定(TA/SBA,MSUH) (3)NETL との共同研究計画策定 RITE-NETL 間の契約書の別紙となる実施計画書(Statement of Work: SOW)の内容につい て平成 22 年 7 月に NETL と協議し、4つの項目からなる共同研究計画を策定した。 タスク1.ベンチ規模での湿式スクラビング実験 タスク2.システムと経済性の研究 タスク3.液体溶剤を用いたパイロット規模の試験(Optional) タスク4.固体吸収材の製造と試験 本事業の「固体吸収材の開発」に関連し、RITE-NETL の研究協力のもとで実施する研究項目 はタスク4に相当し、その内容を以下に記述する。なお、これらの研究項目は、RITE-NETL 間 の知的財産権の取り扱いを取極めた共同研究計画を締結後に開始する。 ・ RITE から提供される吸収液と NETL が提供する支持体や液の担持技術を用いて固体吸収材 を作製する。NETL が作製した固体吸収材に関して RITE-NETL 双方でその CO2 回収能力や 安定性などの特性を評価し、それらの評価結果をもとに新たな固体吸収材を調製する。 2-3-3 まとめ 本章では、固体級取材の開発を始めるあたり、これまでに検討されている固体吸収材・吸着分 離プロセスについて概説するとともに、米国 NETL と情報交換を実施した結果をとりまとめた。 RITE は化学吸収液の開発実績があり、その中で多くのアミンを評価し、CO2 とアミンの反応特 性に関するデータベースを保有している。またこれまでにメソ多孔体にアミンを担持した化学吸 着剤の基礎研究を実施している。一方、NETL はアミンを吸収剤として担体に担持させた固体吸 収材の研究を積極的に実施しており、CO2 吸着量・脱着量および CO2 回収容量といった CO2 吸 - 14 - 着特性や、反応熱等の物性測定も実施している。双方の現状の技術開発状況について紹介を行な った後、契約締結後に実施する SOW(Statement of Work)を作成して4つの Task を確認し、 今後の研究協力体制を構築することができた。 - 15 - 2-4 新規固体吸収材向けの化学吸収液の選定 2-4-1 概要 2-3で実施した固体吸収材に関する情報交換をもとに、NETL と同様、アミン系化学吸収液 を多孔体の細孔内に担持した新規固体吸収材の開発に着手した。その際、RITE で蓄積してきた 化学吸収液に関する知見を活用し、二酸化炭素吸収の反応機構を量子化学計算および実験的手法 を用いて詳細に解析した。解析に基づいて高性能が期待されるアミンの分子構造について検討し た。さらに、固体吸収材向けの化学吸収液を選定するツールとして、量子化学計算を用いた性能 予測モデルを構築した。 2-4-2 検討指針 25 °C、二酸化炭素分圧 101.325 kPa において、1 kg の純水に溶ける二酸化炭素量は 1.5 g であ り、溶解量は温度とともに減少する(図 2-4-1)[12]。これに比べ、塩基性水溶液に対する二酸化 炭素の溶解量は遥かに多い。例えば、代表的な化学吸収液である 30wt%モノエタノールアミン (MEA)水溶液の場合、1 kg で 100 g 以上の二酸化炭素を吸収することができる。 図 2-4-1 水に対する二酸化炭素溶解量の温度依存(二酸化炭素分圧 101.325 kPa)[12] 一般に、アミン水溶液が二酸化炭素を吸収するのは、アミンが二酸化炭素と次のような化学反 応を起こすからである。 2R1R2NH + CO2 ↔ R1R2NCOO− + R1R2NH2+ (1) R1R2R3N + CO2 + H2O ↔ HCO3− + R1R2R3NH+ (2) 16 ここで、Rn は置換基を表わす。反応(1)はアミンの窒素原子と二酸化炭素の炭素原子が化学結合を 形成する反応である。その際、アミノ基からプロトン(H+)が脱離し、カルバメートアニオン (R1R2NCOO−)が生成する。この反応は NH 結合を持つアミン、すなわち 1 級アミン(R1NH2) もしくは 2 級アミン(R1R2NH)で起き、NH 結合を持たない 3 級アミン(R1R2R3N)では起き ない。一方、反応(2)では水分子が反応に直接関与する。二酸化炭素は水分子から水酸化物イオン (OH−)を得て、重炭酸イオン(HCO3−)となる。その際、アミンはプロトン化され、プロトン 化アミン(R1R2R3NH+)となる。 上述のように、アミンを主成分とする化学吸収液においては、反応(1)や反応(2)を通して二酸化 炭素が吸収される。一般に、これらの反応は低温および高圧条件下で促進される。そのため、加 熱再生法(Thermal Swing Absorption)では二酸化炭素を吸収した化学吸収液を加熱することに よって、また、減圧再生法(Pressure Swing Absorption)では減圧することによって、逆反応(二 酸化炭素放散反応)を引き起こして二酸化炭素を回収するとともに、化学吸収液を再生する。し たがって、吸収速度、吸収量、放散量などの化学吸収液の性能は、反応(1)および反応(2)における アミンと二酸化炭素の反応性に支配される。特にアミンの分子構造、すなわち置換基 Rn の構成は、 吸収性能を決める大きな要素である。 量子力学の基礎方程式(Schrödinger Equation)を解くことで、分子構造に基づいて対象とす る系のエネルギーを算出し、反応性を予測することが可能となる。吸収材料に用いる最適なアミ ンを選定するにあたっては、置換基 Rn の組み合わせによって膨大な数のアミン分子の候補が考え られる。したがって、量子力学に基づいた計算(量子化学計算)によって、材料の分子構造から 吸収性能を予測することが可能になれば、吸収材料の開発において有用なツールとなるものと考 えられる。ここでは、吸収材料の性能予測のために、量子化学計算を用いたモデル構築を試みる。 量子化学計算を用いてアミンと二酸化炭素の化学反応を検討するにあたっては、二酸化炭素が アミンによって吸収される際に起こる化学結合の変化だけでなく、その反応が進行する場を形成 する分子環境についても考慮する必要がある。すなわち、化学吸収液のような水溶液中の反応で あれば、溶媒である多数の水分子を考慮に入れた検討を行う必要がある。溶媒分子は反応する分 子との相互作用によって、反応性を決める重要な役割を果たすからである。また、固体吸収材で の吸収反応機構を検討する場合でも、細孔内の水分子やガス中の水蒸気の存在、あるいはスチー ムを利用した再生法などを想定すると、水分子の果たす役割を理解しておくことの必要性は大き い。ここでは、反応する分子を取り巻く水分子を、①個々の分子としてではなく連続的な誘電体 として取り扱う方法(連続誘電体モデル)および、②個々の分子としてあらわに取り扱う方法(液 滴クラスタモデル)の二つの方法による検討を実施する。 1 級および 2 級アミンでは反応(1)および反応(2)がともに進行し、二酸化炭素が吸収されるとカ ルバメートと重炭酸イオンがある割合で共存することになる。それらの割合をカルバメート生成 比として次のように定義する。 r = [R1R2NCOO−]/[HCO3−] (3) カルバメート生成反応(1)と重炭酸イオン生成反応(2)はそれぞれ異なる特徴を持つ。一般に、カル 17 バメート生成反応は反応速度が大きい。また、重炭酸イオン生成反応では吸収量が多くなる。し たがって、カルバメート生成比 r は吸収材料の性能に関わる重要な要素の一つである。ここでは、 カルバメート生成比 r に関して 13C Nuclear magnetic resonance(13C NMR)分光法による高精 度の定量分析を実施し、その結果に対する量子化学計算による解析から、アミンの分子構造とカ ルバメート生成比の関係を考察する。これにより、高性能が期待されるアミンの分子構造を見出 す。 上述のように、量子化学計算を用いることで、アミンを主成分とする化学吸収液による二酸化 炭素の吸収機構を分子レベルで解明し、その吸収および放散性能を予測することが可能になるも のと期待される。ここでは、そのように構築された量子化学計算モデルを、固体吸収材料の開発 において、アミンの選定ツールとして利用することを検討する。 18 2-4-3 試験方法 (1)密度汎関数法 量 子 化 学 計 算 は 密 度 汎 関 数 法 ( B3LYP 汎 関 数 ) を 用 い 、 量 子 化 学 計 算 ソ フ ト ウ ェ ア Gaussian09[13] を 利 用 し て 実 施 し た ( 一 部 Gaussian03 を 利 用 )。 そ の 際 、 基 底 関 数 に は 6-311++G(d,p)を用いた。計算は真空条件下あるいは水和条件下で行った。後者においては、いく つかの連続誘電体モデルを用いた。系の安定配座を探索する際には分子力学計算(MMFF 力場) [14]を用い、ソフトウェア Spartan06 を利用して行った。 密度汎関数法では対象とする系の最適化構造と全エネルギーを求め、さらに基準振動解析を実 施し、最適化構造が安定構造であることを確かめた。また、基準振動解析結果を用いた熱力学補 正によって、系の自由エネルギーを得た。 NH3 HO 3 + HO O AMP H2O CO2 AMP HO H2 N O H2O H N HO O O 4 5 1 OH + H2O O AMP H 3O + HO H N O O 2 + NH3 HO 3 図 2-4-2 2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMP)による二酸化炭素吸収機構 連続誘電体モデルでは溶媒を分子としてあらわに取り扱うことをせず、溶質の周りには巨視的 に連続的な誘電体が存在するものとする。また、注目する溶質分子は連続誘電体中の空孔の中に 存在しているものとする。これにより、溶質溶媒間の静電的相互作用を取り入れた計算が可能と なる。これまでに、溶質分子の形状や相互作用の取り扱い方の異なる様々な連続誘電体モデルが 提案されている。PCM(Polarized Continuum Model)法では空孔の形状を実際の分子形状に近 いものとして取り扱う。分子形状は原子ごとに異なる原子半径を与えることなどによって規定さ れる。空孔の外側に広がる溶質の電荷分布を注意深く取り扱う IEF-PCM(Integral Equation Formalism PCM)法や空孔表面を導体として取り扱う CPCM 法(Conductor-like PCM)などが あり、また原子半径についても様々な決め方がある。したがって、取り扱う系に合うモデルの選 択を行う必要がある。ここでは、ヒンダードアミンとして良く知られている2-アミノ-2-メ チル-1-プロパノール(AMP)による二酸化炭素吸収機構について、水和条件下での反応経路 (図 2-4-2)をいくつかの連続誘電体モデルを用いて解析し、その結果からアミン-水-二酸化炭 素系の解析に適したモデルを検討した。解析では遷移状態を含む極限的反応座標計算[15]を実施 した。 19 (2)液滴クラスタモデル 上記の連続誘電体モデルを用いた検討とは別に、液滴クラスタモデル、すなわち、溶質分子の 周りに溶媒分子をあらわに配置したモデル(図 2-4-3)を用いて、QM/MC/FEP 法による検討を 実施した。図 2-4-3 のモデルでは、中心には反応するアミン、水、二酸化炭素の分子が、その周 囲にはそれ自身は反応しない溶媒分子(水分子)が配置されている。 QM/MC 法は量子化学計算(Quantum Mechanics)を用いてモンテカルロシミュレーション (Monte Carlo)を行う方法である[16]。クラスタ構造の安定化計算に量子化学計算を用いるため 精度良くエネルギーを求めることができる。液滴クラスタモデルを用いることで、溶質分子と溶 媒分子クラスタの相互作用エネルギー、すなわち溶媒和エネルギーも精度良く計算することがで きる。 図 2-4-3 液滴クラスタモデル QM/MC/FEP 法は QM/MC 法に自由エネルギー摂動(Free Energy Perturbation)法を加えた 方法である。反応座標に沿って QM/MC 法を行うことにより、溶媒中における反応の自由エネル ギー変化ΔGsol を計算することができる[16]。 ΔΔG sol 1− 0 = ΔG sol 1 − ΔG sol 0 ⎛ E1sol − E0sol = − k BT ln exp⎜⎜ − k BT ⎝ ΔG sol = ∫ ΔΔG sol ⎞ ⎟⎟ ⎠ (4) 0 (5) ここで、kB はボルツマン定数、T は絶対温度である。下付の 1 と 0 は二つの摂動構造を表わす。 20 Esol は 各 構 造 に お け る 溶 媒 和 エ ネ ル ギ ー で あ る 。 本 試 験 は 、 極 限 的 反 応 座 標 計 算 (B3LYP/6-311++G(d,p))で得られた反応座標に沿って、35 個の H2O 分子を配置させた半径 7.4 Å の液滴モデルを用いて、NPT アンサンブル(T = 298.15 K、P = 101.3 kPa)で実施した。 (3)13C 核磁気共鳴分光法 図 2-4-4 に示す2-プロピルアミノエタノールとその構造異性体のアミン水溶液(30wt%)に 二酸化炭素を吸収させた試料を対象に NMR 装置(RX-500,Bruker)を用いた分光測定を実施 した。測定はインバースゲーティッドデカップリング法を用いた定量モードで行った(周波数 125.8 MHz、90°パルス、積算回数 512 回)。定量測定に先立ち、反転回復法による縦緩和時間測 定を行い、高い定量性を確保するために十分な遅延時間を決定した。その際、回復時間を 0.1、 0.2、0.4、1、2、4、8、16 秒の 8 条件、遅延時間は 60 秒とした。 N H OH N H OH IPAE 2-(Isopropylamino) ethanol PAE 2-(Propylamino) ethanol OH H2 N APE 5-Amino-1-pentanol 図 2-4-4 2-プロピルアミノエタノールとその構造異性体 NMR 測定の試料は二重管の内管内に導入した。二重管の外管部にはロック用の重溶媒として C6D6(内部基準物質としてテトラメチルシランを含む)を導入した(図 2-4-5)。測定時の試料の 温度は 30 °C とした。 図 2-4-5 NMR 測定用二重管 (4)固体吸収材の作製と評価 21 量子化学計算を用いた化学吸収液の検討結果から、高い吸収量に繋がる性能が示唆された IPAE および AMP、さらに比較のために他の代表的アミンとして MEA、DEA(ジエタノールアミン)、 MDEA(N-メチルジエタノールアミン)を担持した固体吸収材を作製した。担体として PMMA (ポリメチルメタクリレート)ビーズ(有効径 0.3 mm 以上、比表面積 570 m2/g、細孔容積 1.3 mL/g)を用い、吸収材の 40wt%がアミンとなるように担持した。 固体吸収材をU字型ガラス管に入れ、恒温槽(25 °C)に浸した。ガラス管に二酸化炭素(20%) 窒素(80%)混合ガスを流し、出口側の二酸化炭素量を分析計(VA-3001,HORIBA)で測定し、 二酸化炭素吸収量を得た。その後、ガラス瓶を 50 °C の恒温槽に移し、二酸化炭素放散量を測定 した。その際、入口側のガス流量および二酸化炭素濃度は 25 °C での吸収量測定時と同じとした。 (5)性能予測モデルの検討 固体吸収材に適用した上記の各種アミン、それらのプロトン付加体およびカルバメートについ て、量子化学計算による構造最適化および基準振動解析を実施し、自由エネルギーを算出した。 計算は、初期構造に分子力学計算(MMFF 力場)によって得られた最安定配座を用い、溶媒和モ デルを採用した密度汎関法(SMD/IEF-PCM/B3LYP/6-311++G(d,p))[17]で実施した。計算結果 を用いて、放散性能を予測するモデルの構築を検討した。 22 2-4-4 結果と考察 (1)連続誘電体モデルの選定 水和条件下での AMP による二酸化炭素吸収に関して行った量子化学計算による解析結果を図 2-4-6 に示す。ここでは、図 2-4-2 で示した各反応について、反応系、遷移状態、生成系の構造最 適化および振動解析計算を行い、得られた各系の自由エネルギーを比較している。連続誘電体モ デルとして SMD 溶媒和モデル(SMD/IEF-PCM/B3LYP/6-311++G(d,p))を用いた。 上記の計算結果から、次のようなことが示唆された。①最も安定な系は重炭酸イオン生成反応 の生成系であり、吸収された二酸化炭素は主として重炭酸イオンとして液に残る。②各反応の反 応系と遷移状態の自由エネルギー差、すなわち活性化自由エネルギーの比較から、重炭酸イオン 生成反応よりもカルバメート生成反応の反応速度の方が大きいといえる。ただし、それらに大差 はなく、ともに室温で容易に起こる反応である。③カルバメートの生成は両性イオン R1NH2+COO−を中間体して進行する(ここで R1 は C(CH3)2CH2OH)。④次の反応(6)や反応(7)の 活性化自由エネルギーは大きく、室温では進行し難い。 R1NH2+COO− + H2O → R1NHCOOH + H2O (6) R1NHCOO− + H2O → HCO3− + R1NH2 (7) ここで、反応(6)はプロトン化アミンのプロトンが水分子を介して移動する反応である。また、反 応(7)はカルバメートが水分子と反応して分解し、重炭酸イオンが生成する反応である。 これまでに、AMP による二酸化炭素吸収の反応機構に関しては、実験によって多くの検討が なされている[18-22]。上記の計算結果は、概ねそれらの実験事実に合っていた。特に、AMP 水 溶液が二酸化炭素を吸収する反応の主生成物は重炭酸イオンであるということは、実験ではっき りと確かめられている[21,22]。したがって、SMD 溶媒和モデルによる上記の計算結果は実験事 実を良く説明し得るものであるといえる。他方、他の連続誘電体モデルを用いて同様の解析を実 施し(CPCM あるいは IEF-PCM で原子半径モデルとして UAHF、UFF、UAKS、Pauling、Bondi を比較検討) 、自由エネルギーの比較を行ったが、いずれのモデルでも上記の実験事実に合う結果 は得られなかった。 一般に、連続誘電体モデルは水素結合の取り扱いが不十分であるといわれている[23]。最新の 連続誘電体モデルである SMD 溶媒和モデルは、膨大な実測値を用いて決定した経験的パラメー タの導入により、その問題の改善に成功している[17]。本試験で計算対象としているアミン-水 -二酸化炭素系には、水分子、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシレート基、プロトンなどが 共存しており、これらによる水素結合の形成は、二酸化炭素の吸収反応機構に対して大きな影響 をもたらしているものと推察される。したがって、本試験で確認された SMD 溶媒和モデルの他 のモデルに対する優位性の要因として、そのような水素結合の取り扱い方の違いが考えられる。 以下、連続誘電体モデルを用いた計算では SMD 溶媒和モデルを採用することとした。 - 23 - - 24 - (2)反応に伴う溶媒和エネルギー変化 図 2-4-6 に示した解析の結果より、水和条件下で AMP が二酸化炭素吸収を吸収する場合、カ ルバメート生成反応(1)および重炭酸イオン生成反応(2)がともに、室温程度で容易に起こることが わかった。これらの反応に対して実施した極限的反応座標計算および QM/MC/FEP 計算の結果を 図 2-4-7 に示す。 Free Energy of Solvation [kcal/mol] 10 5 10.3 10.4 4TS 2TS 7.9 10 6.1 4+3 CO2 +AMP +H2O 4.9 1TS 5 1 0.0 0 0 0.0 0.3 ‐12.5 ‐5 ‐5 ‐3.0 ‐6.1 ‐8.2 ‐10 ‐10 ‐12.7 ‐15 2+3 ‐15 ‐20 ‐20 Toal Energy of Gas phase along IRC [kcal/mol] 15 15 ‐20.2 ‐25 ‐25 IRC trajectories (Reaction coordinates) [‐] QM/MC/FEP(Free Energy of Solvation) 4+3 1TS IRC(Total Energy) CO2 + AMP + H2O 4TS 1 2TS 2+3 図 2-4-7 極限的反応座標(IRC)計算による真空中でのエネルギー変化と構造変化およ び QM/MC/FEP 法による溶媒和自由エネルギー変化 - 25 - QM/MC/FEP 法による計算結果から、カルバメート生成反応および重炭酸イオン生成反応がと もに、水分子による溶媒和によって大きく安定化されることがわかった。反応系と生成系の溶媒 和自由エネルギーを比較すると、重炭酸イオン生成反応では−20.2 kcal/mol と溶媒和の効果で生 成系(4 + 3)が大幅に安定化される一方、カルバメート生成反応では、−12.7 kcal/mol と生成系 (2 + 3)に対する溶媒和効果は若干弱いことが確認された。このような計算結果からわかるよう に、溶媒和効果は反応の進行を大きく支配しているものと考えられる。ここでは、AMP 水溶液 に二酸化炭素が吸収された場合の主生成物が重炭酸イオンであるという事実が、生成系に対する 溶媒和効果で説明されることが示唆された。 QM/MC/FEP 法による溶媒和自由エネルギー計算の結果から、次のような重要な事柄を指摘す ることができる。溶媒による安定化効果が弱くなれば、主反応が重炭酸イオン生成反応からカル バメート生成反応に変わる可能性があるということである。そのような事態は、固体吸収材に担 持されたアミンと二酸化炭素の反応では十分に考えられる。 R1R2NH R1R2NH2+ R1R2COO− H N PAE O C IPAE APE 図 2-4-8 2-プロピルアミノエタノールとその構造異性体、それらのプロトン化アミンおよびカ ルバメートの最適化構造(SMD/IEF-PCM/B3LYP/6-311++G(d,p)) - 26 - (3)反応自由エネルギー差 2-プロピルアミノエタノールとその構造異性体(図 2-4-4)に対して密度汎関数法および SMD 溶媒和モデルで実施した構造最適化および基準振動解析の結果を図 2-4-8 および表 2-4-1 に示す。 計算はアミン、プロトン化アミン、カルバメート、重炭酸イオン、二酸化炭素、水、の各分子に 対して実施した。反応(1)および反応(2)の反応自由エネルギーの差を、計算で得られた各分子の自 由エネルギーから次のように決定した。 ΔG1 = G(R1R2NCOO−) + G(R1R2NH2+) − 2G(R1R2NH) − G(CO2) (8) ΔG2 = G(HCO3−) + G(R1R2NH2+) − G(R1R2NH) − G(CO2) − G(H2O) (9) ΔΔG = ΔG1 − ΔG2 (10) 表 2-4-1 SMD/IEF-PCM/B3LYP/6-311++G(d,p)による計算結果 Ea Gb [Hartree] [Hartree] ΔΔG c H2O −76.47211991 −76.468763 CO2 −188.64323899 −188.652513 HCO3− −264.66441400 −264.664057 APE −328.44855257 −328.300058 H+APE −328.91484190 −328.748768 APE carbamate −516.64727694 −516.498112 PAE −328.44157492 −328.292954 H+PAE −328.90937302 −328.746201 PAE carbamate −516.63743290 −516.490521 IPAE −328.44255811 −328.293701 H+IPAE −328.91184374 −328.749722 IPAE carbamate −516.63651914 −516.489509 a Total [kcal/mol] −1.73 −1.43 −0.32 energy. b Sum of electronic and thermal free energies at 298.15 K. c Difference of free energies of reactions (1) and (2) in infinitely dilute aqueous solutions at 298.15 K. 式(10)で定義した反応自由エネルギー差ΔΔG は、注目するアミンが水和条件下で二酸化炭素を 吸収する場合に、カルバメート生成と重炭酸イオン生成のどちらが起きやすいかを表わす指標に なるものと考えられる。表 2-4-1 に示したように、SMD/IEF-PCM/B3LYP/6-311++G(d,p)レベル、 すなわち、SMD 溶媒和モデルを採用した密度汎関法による計算では、図 2-4-4 に示した構造異性 体に関して、次のような結果が得られた。 ΔΔG(APE) < ΔΔG(PAE) < ΔΔG(IPAE) - 27 - (11) 式(11)の関係からは、図 2-4-4 の構造異性体の中で最もカルバメートを生成しやすい傾向にある のは APE であり、最もカルバメートを生成し難い傾向にあるのは IPAE であるということが予 測される。一般に、カルバメートはアミノ基周りの立体障害が大きいほど不安定であるといわれ ている。計算の結果得られた式(11)の序列は、アミノ基周りの立体障害から考えられる序列と一 致している。ここでも SMD 溶媒和モデルを採用した密度汎関法により妥当な計算結果が得られ たものといえる。 (4)カルバメート生成比 高精度の定量モードで測定した含 CO2 アミン水溶液の 13C NMR スペクトルを図 2-4-9 から図 2-4-11 に示す。室温、二酸化炭素分圧約 101.325 kPa 条件下で、飽和二酸化炭素吸収量の約 50% を吸収させた試料を測定したものである。これらの図ではスペクトルのピークに対する帰属を分 子構造とともに示した。これらのスペクトルと同一条件下での測定を、飽和吸収量の二酸化炭素 を吸収させた試料でも行った。 本試験のスペクトルからは、重炭酸イオン(HCO3−)と炭酸イオン(CO32−)の区別はできな い。これらは同じピークとして観測されるからである。ただし、ここでは近似的に全てを重炭酸 イオンとして取り扱うことが可能である[22]。 得られた 13C NMR スペクトルでは、同一分子種に属する炭素のピークはほぼ同じピーク面積 を示し、高い定量性が確認された。したがって、これらのピーク面積を比較することで、試料中 の分子種の存在比がわかる。各試料に対して二酸化炭素ローディング(mol CO2/mol amine)お よびカルバメート生成比 r(式(3))を求め、プロットした結果が図 2-4-12 である。 図 2-4-12 からわかるように二酸化炭素ローディングが増えると、カルバメート生成比は減少す る。このように、カルバメート生成比は二酸化炭素を吸収した量によって変化するが、アミンの 種類によっても大きく異なる。図 2-4-12 から、カルバメート生成比には次のような序列があるこ とが明らかである。 r(APE) > r(PAE) > r(IPAE) (12) 特に IPAE のようなヒンダードアミンではカルバメートが不安定であり、二酸化炭素のローディ ングが増えると重炭酸イオンの割合が増え、最終的にカルバメートの存在量は検出限界以下とな る。その結果、IPAE では高い吸収量が実現される。このようなアミンに対しては、主生成物が 重炭酸イオンであることから、カルバメートはほとんど無視できるとする場合がある。しかし、 図 2-4-12 からも示唆されるように、低ローディング条件下では IPAE においても有意にカルバメ ートが生成することを考慮すると、水和環境が異なる固体吸収材においては、ヒンダードアミン においてもカルバメートの生成により注意を払う必要性が伺える。 上述のように、定量測定の結果は前に述べた SMD 溶媒和モデルを採用した密度汎関法 (SMD/IEF-PCM/B3LYP/6-311++G(d,p))による予測と良く合致していた。本計算手法はアミン -水-二酸化炭素系を良く扱い得る有力なモデルであると結論付ける。 - 28 - - 29 - - 30 - - 31 - 図 2-4-12 カルバメート生成比の二酸化炭素吸収量依存(30wt%アミン水溶液) (5)高性能アミンの分子構造 量子化学計算および核磁気共鳴分光法による解析の結果、IPAE や AMP などのヒンダードア ミン、すなわちアミノ基周りにある程度の立体障害置換基を持つアミンに共通した事実が明らか となった。これらヒンダードアミンの水溶液に二酸化炭素が吸収される場合、一般には重炭酸イ オンが主生成物であることがわかっているが、吸収量が少ない段階では有意な量のカルバメート が生成しているという事実がある。さらに、カルバメート生成反応の活性化自由エネルギーは重 炭酸イオン生成反応のそれよりも低く、アミンに二酸化炭素が近づくと、素早く CN 結合が形成 されることも示唆された。このようなヒンダードアミンの特徴は化学吸収液に有効に利用されて いるが、固体吸収材に適用しても高性能に繋がることが期待できる。固体吸収材では十分な水分 子が存在しないため、重炭酸イオンが主生成物とはならない。その代わり CN 結合(カルバメー トあるいは両性イオン)が素早く生成する。そのようにして、細孔中のアミンに捉えられた二酸 化炭素は、簡単に引き離すことができる。すなわち、高い放散性が期待される。 (6)固体吸収材の吸収量および放散量 図 2-4-13 に各種アミンを PMMA ビーズに担持した固体吸収材による二酸化炭素吸収量および 放散量の比較を示す。3 級アミンの MDEA を担持した固体吸収材は二酸化炭素をほとんど吸収し なかった。これに対し、他の 1 級および 2 級アミンはある程度の吸収反応を起こした。3 級アミ ンでは反応(1)は起こらないことを考慮すると、本固体吸収材では反応(1)、すなわちカルバメート - 32 - の生成が吸収反応を支配しており、反応(2)、すなわち重炭酸イオンの生成は無視できるものと考 えられる。先の考察と一致した結果である。 Absorption MDEA IPAE DEA AMP MEA Desorption 図 2-4-13 アミン担持固体吸収材による二酸化炭素吸収量および放散量の比較 (Amine/PMMA、25 °C 吸収、50 °C 放散) 図 2-4-14 アミン担持固体吸収材による二酸化炭素吸収量と担持アミン量の関 係(決定係数 0.99) - 33 - 図 2-4-13 で示したアミン担持固体吸収材による二酸化炭素吸収量を固体に担持されたアミン の物質量に対してプロットしたところ、明確な線形関係にあることがわかった(図 2-4-14)。し たがって、本試験条件では、吸収量はアミンの担持量で決まっていることになる。すなわち、吸 収量を増やすためには、担体の細孔の最適化等によって効率よく多くのアミンを担持することが 望ましい。一方、放散量については、アミンの担持量あるいは二酸化炭素の吸収量との相関は見 られなかった。 (7)固体吸収材の放散性能予測モデル SMD/IEF-PCM/B3LYP/6-311++G(d,p)による計算で得られた MEA、AMP、DEA、それらの プロトン付加体およびカルバメートの最適化構造を図 2-4-15 に示す。また、表 2-4-2 には式(10) で定義した反応自由エネルギー差ΔΔG の計算結果をまとめた。 R1R2NH R1R2NH2+ R1R2COO− MEA AMP DEA 図 2-4-15 アミン(MEA,AMP,DEA)、プロトン化アミン、カルバメートの最適化構造 (SMD/IEF-PCM/B3LYP/6-311++G(d,p)) - 34 - 表 2-4-2 反応自由エネルギー差 ΔΔG [kcal/mol] a MEA −4.27 AMP −0.76 IPAE −0.32 DEA −3.21 a Difference of free energies of reactions (1) and (2) in infinitely dilute aqueous solutions at 298.15 K calculated at the SMD/IEF-PCM/B3LYP/6-311++G(d,p) level. 上述のように、本固体吸収材による二酸化炭素吸収はカルバメート生成反応に支配されている ものと考えられる。したがって、放散性はカルバメートの安定性で説明できる可能性がある。カ ルバメートが不安定であるほど、式(1)の逆反応が起きやすく、放散反応が促進されると考えられ るからである。このような考えのもと、カルバメートの安定性の指標として反応自由エネルギー 差ΔΔG を使用し、第一近似として次のような関係を仮定する。 D = A exp(−ΔΔG) + B (13) ここで、D はアミンを坦持した固体吸収材の加熱再生時の二酸化炭素放散量、A および B は試験 条件に依存した定数である。 図 2-4-16 固体吸収材における二酸化炭素放散量と反応自由エネルギー差の関係 図 2-4-13 の放散量(実験値)と表 2-4-2 の反応自由エネルギー差(計算値)についてプロット し、式(13)を用いてフィッティングした結果を図 2-4-16 に示す。決定係数(R2 =)0.9 と、良い - 35 - 相関が得られた。このように、担持されたアミンの分子構造から、量子化学計算によって反応自 由エネルギーを計算し、式(13)に基づいて放散量を予測するモデルが構築された。 2-4-5 まとめ 固体吸収材に適用する化学吸収液を選定するために、量子化学計算に基づく手法を活用するこ とを検討した。化学吸収液、すなわち、アミン水溶液はアミンと二酸化炭素の化学反応によって 吸収機能を発現する。その反応に対しては、アミンの分子構造や水分子の与える影響が大きく、 これらをより良く取り扱うことのできる計算モデルを構築することが必要である。本試験ではい くつかのモデルを検討し、アミン-水-二酸化炭素系に適した計算モデルとして SMD 溶媒和モ デルを用いた密度汎関数法を見出した。本計算モデルの妥当性は、高精度の分光分析(13C NMR 測定)および高精度の量子化学計算(QM/MC/FEP 法)からも確認することができた。 上記解析に基づいて固体吸収材に担持するアミンとして、ヒンダードアミンの優位性を予測し た。IPAE や AMP などのヒンダードアミンを用いて固体吸収材を作製し、試験を実施したとこ ろ高い放散性能が認められた。さらに、上記の計算モデルを用いて、固体吸収材の放散性能を予 測するモデルを構築した。今後、本予測モデルを新規アミンの選定に活用する。 - 36 - 2-5 RITE 提供の化学吸収液をベースとした新規固体吸収材の作製 2-5-1 概要 前項では、吸収材の候補となる化学吸収液を選定した。本項では、その結果に基づき、RITE の化学吸収液をベースとする新規固体吸収材を作製した。 検討項目 ・固体吸収材として最適な 吸収液と支持体の組み合わせ ・アミンの安定的な担持方法 アミン吸収液 ・MEA ・RITE-5A ・RITE-6B ・PEI 等の各種アミン NH 2 NH 2 NH 2 NH 2 多孔質支持体へのアミン吸収液成分の担持 多孔質支持体 ・シリカ ・ポリマー ・粘土鉱物 など NH 2 NH 2 NH 2 NH 2 NH 2NH 2 NH 2 NH 2 NH 2 NH 2 NH 2 NH 2 NH 2 NH 2 NH 2 NH 2 NH 2 NH 2 NH 2 NH 2 NH 2 NH 2 ・アミンを均質に大量に固定化可能 ・アミン吸収材類似の吸収特性 ・再生エネルギーの低減が可能 H2 NH 2 N NH 2 図 2-5-1 新規固体吸収材開発の概念 一級アミン(R-NH2)の水溶液を用いた二酸化炭素の吸収過程は、一般的に以下の式で示され る。 2 R-NH2 + CO2 Æ R-NH3+ + R-NH-COO− [1] 或いは、次の反応で CO2 を吸収する。 R-NH2 + CO2 + H2O Æ R-NH3+ + HCO3− [2a] R-NH-COO− + H2O Æ R-NH2 + HCO3− [2b] 二級アミン溶液(R1R2-NH)の水溶液による吸収反応は以下のとおりである。 - 37 - 2 R1R2-NH + CO2 Æ R1R2-NH2+ + R1R2-N-COO− R1R2-NH + CO2 + H2O Æ R1R2-N-COO− + H2O Æ R1R2-NH2+ + HCO3− R1R2-NH + HCO3− [3] [4a] [4b] 二酸化炭素吸収液が、第二番目に示した経路(式[2a]、[2b]、[4a]、[4b])により二酸化炭素吸 収を行えると、式[1]或いは式[3]で示される反応よりも反応熱が小さくなる。二級アミンを用いる と第二番目に示した経路(式 [4a]、[4b])の反応が起こりやすくなり、反応熱が小さくなるため、 脱離再生のエネルギーを少なくできるというメリットがある。したがって、これらを用いた吸収 液が数多く研究されてきた。ただし、本反応経路は水が関与するため、水分の共存が不可欠であ る。 米国特許 7,288,136 号にはこれらの吸収液成分を固体に担持した固体吸収材として、多孔質の ポリメチルメタクリレート(PMMA)やポリスチレンにテトラエチレンペンタミン(TEPA)、ペンタ エチレンヘキサミン(PEHA)、ヘキサエチレンヘキサミン(HEHA)及び1-(2-ヒドロキシエチ ル)ピペラジンを担持した固体吸収材を利用して、二酸化炭素を除去する方法が記載されている。 そして、アミン類を固体に担持することにより、脱離再生時に水溶液系で存在する余分な水分の 加熱に関わるエネルギーが削減できるため、省エネルギー型の二酸化炭素回収技術となり得ると している。 一方、米国特許 6,908,497 号にはモノエタノールアミン(MEA)、ジエタノールアミン(DEA)、 ジイソプロパノールアミン(DPA)、ポリエチレングリコールジメチルエーテル(PEGDL)をベント ナイトなどの粘土鉱物の層間にしみこませて担持した固体吸収材による二酸化炭素の除去方法が 知られている。 二酸化炭素の回収方法は、燃焼排ガス中からの二酸化炭素の除去、即ち水溶液或いは固体吸収 材への二酸化炭素の吸収工程、及び二酸化炭素を吸収した水溶液或いは固体吸収材からの二酸化 炭素の脱離工程からなるので、効率的に二酸化炭素を回収するためには、当該吸収工程が高効率 に行われるだけでなく、脱離工程も高効率に行われる必要がある。先行技術では、アミンを固体 に担持することにより得られる固体吸収材の二酸化炭素吸収量について報告しているが、これら は脱離工程を高効率に行なうことに関しては検討されていないようである。 前述のように、従来は、二酸化炭素の吸収工程の効率化についての多くの試みはなされている が、二酸化炭素の脱離効率は検討されていないか、または検討されていても、その脱離量及び脱 離速度については不十分な方法しかない。したがって、従来の二酸化炭素回収方法は、二酸化炭 素の吸収と脱離とのバランスが悪く、二酸化炭素回収の効率が悪いという問題点がある。 また、二酸化炭素吸収の反応熱、すなわち二酸化炭素脱離のために使用される熱を小さくする ことにより低コストでの回収を達成することが大きな課題となっている。 - 38 - 先行特許ではアミンを固体に担持することにより得られる固体吸収材の二酸化炭素吸収量につ いて報告しているが、これらは脱離工程を高効率に行なうことに関しては記載がない。効率良く 二酸化炭素を分離回収するためには、脱離量を増やすための改良が必要である。 また、上記(式[1]~[4b])のように、反応熱の小さい吸収経路は第2、3番目に示した経路(式 [2a]、[2b]、[4a]、[4b])であるため、これらの固体吸収材の適用には水の共存が不可欠である。 以上の従来技術の問題点を考慮して、本事業ではガス中二酸化炭素の吸収を高効率で行うだけ でなく、二酸化炭素を吸収した固体吸収材からの二酸化炭素の脱離も高効率に且つ低温で行うこ とができ、高純度の二酸化炭素を回収できる固体吸収材を開発することを目的とした。更には、 単位量あたりの二酸化炭素吸収量や二酸化炭素脱離量が大きく、且つ、二酸化炭素脱離が低温で 行える二酸化炭素分離回収用のアミンを固体に担持した固体吸収材を用いて、効率的に二酸化炭 素を吸収し、且つ脱離して高純度の二酸化炭素を回収しうる技術の開発を目指している。 - 39 - 2-5-2 固体吸収材の作製 (1)各種担体の物性評価 固体吸収材に用いる多孔質の担体を選定する目的で、以下の表に示す材料を購入し、それぞれ の比表面積、細孔容積を測定した。代表的なものを図 2-5-2 および図 2-5-3 に示す。 表 2-5-1 固体吸収材の担体として検討した各種多孔質材料の分析データ 比表面積 細孔容積 2 3 m /g cm /g 蒸気吸着 量 メーカー mol/kg CARiACT Q10 273.03 0.98 CARiACT Q15 144.18 1.05 - FUJI SILYSIA CARiACT Q30 75.41 0.66 - FUJI SILYSIA PMMA(DIAION SEPABEADS) 589.28 0.98 - 三菱化学 クニピア F 33.08 0.05 13.95 クニミネ工業 スメクトン SA 228.89 0.23 22.11 クニミネ工業 Laponite RDS 297.25 0.25 19.66 ROCKWOOD Carbosieve S-III 770.47 0.33 16.63 Supelco Carbosieve G 1092.81 0.51 23.13 Supelco 8.61 Supelco - 9.93 FUJI SILYSIA Carboxen 569 - Carboxen 1000 932.58 0.78 16.98 Supelco Carboxen 1003 1044.26 0.75 19.60 Supelco Carboxen 1012 1505.92 0.68 31.72 Supelco Carboxen 1016 77.09 0.34 0.36 Supelco Carboxen 1018 660.75 0.32 14.17 Supelco Carboxen 1021 500.32 0.24 11.63 Supelco Carbon, mesoporous 699640 216.25 0.49 1.15 Aldrich Carbon, mesoporous 699624 - 0.18 Aldrich Carbon, mesoporous 702110 208.59 4.27 Aldrich Carbon, mesoporous 702102 - 6.99 Aldrich 0.62 - - 40 - 図 2-5-2 アミン担持に用いたシリカビーズ(左から CARiAct Q10、15、30) 図 2-5-3 アミン担持に用いた PMMA ビーズ - 41 - (2)固体吸収材の調製 ここでは前項までの検討結果をもとに2-イソプロピルアミノエタノール(IPAE)の固体吸収材 としての適用可能性を検討した。また、一般によく検討される添加成分としてピペラジン類の効 果を検討した。 具体的には、固体吸収材に用いるアミン化合物として、IPAE を中心に検討するとともに、ま た、IPAE の添加剤としピペラジン(PZ)あるいはピペラジン(PZ)の代わりに2-メチルピペ ラジン(2MPZ)、2-アミノメエルピペラジン(2AMPZ)を種々の濃度で含む固体吸収材を調製し て、二酸化炭素の飽和吸収量と二酸化炭素脱離量の測定を行い、これらの添加効果についても検 討を行った。 また、IPAE の比較としてモノエタノールアミン(MEA)、アミノメチルプロパノール(AMP)、ジ エタノールアミン(DEA)、又はメチルジエタノールアミン(MDEA)同様の手順で担持した固体吸 収材を調製した。 以下の表 2-5-2 にこれらの固体吸収材の調製に用いたアミンを記す。 - 42 - 表 2-5-2 アミン種類 固体吸収材の調製に用いたアミン類 英語名 分子式 (略号) 化学式 2-(イソプロピルアミ 2-(ISOPROPYLAMINO) ノ)エタノール ETHANOL Piperazine Monoethanolamin 2-Amino-2-methyl プロパノール -1-propanol 172 86.14 144 61.8 170 89.14 165 105.14 217 119.16 247 100.16 155 129.21 222 C4H11NO (AMP) ジエタノールアミン 103.16 C2H7NO (MEA) 2-アミノ-2-メチル-1- (℃) C4H10N2 (PZ) モノエタノールアミン 沸点 C5H13NO (IPAE) ピペラジン 分子量 Dietanolamine C4H11NO2 (DEA) メチルジエタノールミ N-Methyldiethanola ン mine (MDEA) 2-メチルピペラジン 2-Methylpiperazine C5H13NO2 C5H12N2 (2MPZ) N-(2-アミノエチル)ピ N-(2-Aminoethyl)pi ペラジン perazine(2-AMPZ) C6H15N3 - 43 - これらのアミン類を用いて以下の手順にて固体吸収材の調製を行なった。 2-(イソプロピルアミノ)エタノール(IPAE)を固体吸収材の 40 重量%となるように所定量(合 計 6.67 g)秤量し、容量 300 cc のなすフラスコに計りとったメタノール(和光純薬工業 特級) 20 g に溶解させた後、別途秤量した各種支持体 10 g に加え、室温で、2 時間撹拌した後に、これ をロータリーエバポレーター(EYELA 社製 N-1000)で 50℃に加熱しながら、系内の圧力が 0.03 MPa になるまで減圧することで、メタノール溶媒を除去し、アミンを支持体に均一に担持した固 体吸収材を調製した。メタノール溶媒の除去は、フラスコと試薬類の合計の重さをあらかじめ計 り取り、メタノール溶媒に相当する 20 g の重量減少が確認できた時点で調製完了とした。調製し た固体吸収材は二酸化炭素吸収性能評価試験に供するまで、なすフラスコに栓をして、デシケー ター中で保管した。アミンを担持する支持体としては主に HP2MG:PMMA(三菱化学株式会社 製ダイヤイオン:ポリメチルメタクリレートビーズ) ;有効径 0.3 mm 以上;比表面積 570 m2/g; 細孔容積 1.3 mL/g を用いた。このようにして得られた各種固体吸収材の外観を図 2-5-4 および 2-5-5 に示す。 図 2-5-4 各種アミン担持固体吸収材 (左から、IPAE、MEA、AMP、DEA、MDEA 担持 PMMA) - 44 - 図 2-5-5 2-5-3 IPAE 担持粘土化合物(モンモリロナイト) まとめ 本研究では二酸化炭素を吸収した固体吸収材からの二酸化炭素の脱離も高効率に且つ低温で行 うことができ、高純度の二酸化炭素を回収できる固体吸収材を開発することを目的として、これ までに RITE が開発していた二酸化炭素分離回収用吸収剤の主要成分である2-イソプロピルア ミノエタノール(IPAE)を中心に、IPAE の添加剤としてピペラジン(PZ)あるいはピペラジン(PZ) の代わりに2-メチルピペラジン(2MPZ)、2-アミノメエルピペラジン(2AMPZ)を所定の濃度 で含む固体吸収材をを調製した。 また、IPAE の比較としてモノエタノールアミン(MEA)、アミノメチルプロパノール(AMP)、 ジエタノールアミン(DEA)、又はメチルジエタノールアミン(MDEA)を同様の手順で担持した固 体吸収材を調製した。 - 45 - 2-6 新規固体吸収材の評価 2-6-1 概要 ここでは前項にて作成した RITE の化学吸収液をベースとする新規固体吸収材の CO2 吸 着・脱着試験を実施した。また新規固体吸収材の CO2 吸着特性、CO2 回収容量、耐久性、安 定性等を評価に関する評価を行なった。 2-6-2 固体吸収材のキャラクタリゼーション 合成物のキャラクタリゼーションは粉末X線回折装置(XRD, RINT-UltimaⅢ, 株式会社リガ ク)、走査型電子顕微鏡(SEM, S-5000, 株式会社日立製作所)、エネルギー分散型X線分析装置 (EDX, Genesis-XM2, エダックス・ジャパン株式会社)、透過型電子顕微鏡(TEM, HF-2000, 株 式会社日立製作所)、比表面積・細孔分布測定装置(ASAP2020, Micromeritics)、自動ガス/蒸気 吸着量測定装置(BELSORP-18, 日本ベル株式会社)、高圧2成分吸着量測定装置(BELSORP-BG, 日本ベル株式会社)および高圧破過曲線測定装置を用いて評価を実施した。 (1)比表面積・細孔容積の測定 図2-6-1および図2-6-2に示す比表面積・細孔分布測定装置ASAP2020(Micromeritics)を用い た。定容法により、液体窒素温度での窒素吸着-脱着曲線を測定し、比表面積・細孔容積の算出が 可能である。本測定では表2-6-1に示す条件で測定した。ここで、比表面積測定ではBET法を用い, 0.05<P/P0<0.3の解析範囲から求めた。 表2-6-1 比表面積・細孔容積の測定条件 サンプル重量 0.06 g~1.8 g 測定温度 77 K 前処理 105℃で 5 時間真空排気 昇温温度 10℃/min 吸着質名称 N2 吸着平衡 30 sec 死容積測定時間 3 時間 低圧時の導入圧 5.00 cm3/gSTP - 46 - 図2-6-1 比表面積・細孔径分布測定装置(ASAP2020 Micromeritics) 図2-6-2 試料管 (2)蒸気吸着量の測定 自動ガス/蒸気吸着量測定装置 Belsorp18-plus(株式会社日本ベル)を用い(図 2-6-3)、定容 法によって測定した。飽和蒸気圧での水蒸気の吸着量を高精度のダイアフラム圧力センサーを使 用しているため再現性良く測定することが可能である。本装置を用いることによって、H2O の単 成分吸着等温線を表 2-6-2 に示す条件で測定した。 - 47 - 測定装置 測定部 前処理ポート 試料管 図 2-6-3 水蒸気吸着量測定装置 - 48 - (Belsorp 18-Plus) 表 2-6-2 蒸気吸着の測定条件 サンプル重量 0.06 g~1.8 g 測定温度 40℃ 前処理 105℃で 8 時間真空排気 昇温温度 10℃ min-1 吸着質名称 H2O 吸着平衡 500 sec 空気恒温層温度 60℃ 吸着温度 40℃ 飽和蒸気圧 7.377 kPa 初期導入圧 0.400 kPa 最大吸着圧 p/p0=0.9 最小脱着圧 p/p0=0.05 (3)元素分析 全自動元素分析装置 2400ⅡCHNS/O (株式会社 Perkin Elmer 製)を用いて固体吸収材の元素分 析を行なった。装置構成を図 2-6-4 に示す。有機物をはじめ多くの物質を構成する C、H、N は、 燃焼すると CO2、H2O、NOx ガスとなる。フロンタルクロマトグラフィーによりガスは H2O, CO2, N2 の各成分に分離され, 熱伝導度検出器(TCD)によって検出され、サンプル中の C、H 、N の含 有量を求めることが出来る。 He O2 分離部 オートサンプラー 燃 焼 部 還 元 部 検出部 混合管 図 2-6-4 全自動窒素分析装置の構成 (4)TG-DTA 吸着剤の含水率および有機成分含有量を求めるために、Thermoplus TG8120(株式会社リガ ク)を用いて、TG-DTA 曲線の測定を行った。試料を Pt 製試料ホルダーに充填し、測定装置に セットし、空気流中下で、昇温加熱することにより TG-DTA 曲線を測定した。上記の元素分析結 果とあわせて、アミン担持量を確認している。 - 49 - 2-6-3 吸収・脱離性能の評価方法 固体吸収材の開発のために用いた主な試験装置とそれによる評価方法を以下に示す。 (1)CO2 吸収量、吸収速度、放散量、放散速度測定装置 固体吸収材による CO2 の吸収、放散を測定する装置としては U 字型のガラス菅 6 本を同時 に評価できる装置を製作して用いた。装置の概略フローを図 2-6-5 に、写真を図 2-6-6 に示し た。 図 2-6-5 CO2 吸収・放散試験装置のフロー図 - 50 - CO2 メーターのサンプリング口には 3 個の吸収瓶の出口ガスを 1 分間隔で周期的に切り替え る弁を取付けてあり、3 分間隔で同じ U 字型のガラス菅のガスのデータを得ることができる。 そのデータはもう 1 基の CO2 メーターの出力とともに計 6 件のデータが経時的にパソコン上に プロツトするようにしている。 図 2-6-6 CO2 吸収量、吸収速度、放散速度測定装置 CO2 吸収、放散測定条件は以下の通りである。 ガス圧力 70mmH2O 吸収液量 50ml ガス噴出フィルター 孔径 フィルター面直径 13mm 反応器 U 字型のガラス菅 固体吸収材充填量 約 10g 吸収温度 25℃ 放散温度 50℃ 100μm - 51 - (2)二酸化炭素吸収性能評価試験 試験方法は、25℃の恒温バス中のサンプル瓶に吸収液を入れて、CO2/N2 ガスを 60 分間連続し て吹き込み、吸収後の CO2 濃度を経時変化を測定する。60 分経過後、サンプル瓶を 50℃の恒温 バスに移して同様な測定を継続する。前半が吸収試験であり、後半は放散試験である。以下詳細 に記載する。 図 2-6-7 に示すように、ガラス製の U 字管(内径 15 mm 高さ 150 mm)に前項にて調製した 総アミン含量が 40 重量%である各種固体吸収材を 10 g 充填し、両端をガラスウール(東ソー製 グレード Coarse)で固定した。次に温度が 25℃になるように設定したアクリル製の恒温水槽内 に、先に固体吸収材を充填したガラス製の U 字管を浸漬した。この固体吸収材を充填した U 字 管の片側から、大気圧、0.5 L/min で二酸化炭素 10 体積%及び窒素ガス 90 体積%を含む混合ガ スを供給して吸収させた。 固体吸収材充填槽入口及び固体吸収材充填槽出口のガス中の二酸化炭素濃度を、赤外線式の二 酸化炭素計(堀場製作所製ガス分析計 VA-3001)で連続的に測定して、入口及び出口の二酸化炭 素流量の差から二酸化炭素吸収量を測定した。飽和吸収量は固体吸収材充填槽出口の二酸化炭素 濃度が入口の二酸化炭素濃度に一致する時点における量とした。ついで同じガス気流中で固体吸 収材を充填した反応管の温度を数分にて 50℃に上げて、固体吸収材からの二酸化炭素脱離量を測 定した。吸収試験で用いた 25℃の恒温水槽とは別に、50℃になるように設定した恒温水槽を準備 し、そこに固体吸収材を充填した反応管を浸漬させることで、反応管の温度を上昇させた。 図 2-6-7 固体吸収材を充填したガラス製 U 字菅 - 52 - 化学吸収液に対して実施した CO2 吸収性能評価試験結果の例を図 2-6-8 に示す(上述の固体吸 収材に対する測定条件とはサンプル量、ガス流量、設定温度等が異なる)。 140 吸収(40℃) 放散(70℃) 120 放散量 CO2吸収量(g/L) 100 吸収速度 80 吸収量 30wt%_MEA 60 40 20 0 0 20 40 60 80 100 120 時間(min) 図 3.1.2-5 吸収・放散試験の測定例(MEA30%) 図 2-6-8 吸収・放散試験の測定例(MEA30%溶液:吸収 40℃、放散 70℃) 図中に、吸収量、吸収速度、放散量の定義を示した。固体吸収材の CO2 吸収性能評価試験にお いては、吸収温度は室温近傍の 25℃、また、放散温度はなるべく分離回収エネルギーを小さくす ることを想定して 50℃とした。 - 53 - 2-6-3 結果と考察 試験結果を表 2-6-3 に示す。尚、以下の表中の CO2 吸収量及び脱離量の単位(g/kg)は固体吸収 材 1 kg 当たりの CO2 の吸収量及び脱離量(g)である。wt%とは、重量%を示す。また、アミンの 含有量(重量%)は、固体吸収材に吸収されている二酸化炭素を除いた固体吸収材の重量に対す るアミンの重量を百分率で表したものである。 表 2-6-3 IPAE(+添加剤)担持 PMMA 固体吸収材の CO2 吸収・脱離性能 固体吸収材 アミン重量比 25 ℃ に お け 50 ℃ に お け 中の総アミ (wt%) る CO2 吸収量 る CO2 脱離量 PZ 類 (g/kg) (g/kg) ン含有量 IPAE (wt%) No.1 40 100 0 64 34 No.2 40 98.3 1.67(PZ) 58 32 No.3 40 93 7(PZ) 66 27 No.4 40 80 20(PZ) 82 13 No.5 40 50 50(PZ) 109 16 No.6 40 30 70(PZ) 118 14 No.7 40 17 83(PZ) 114 9 No.8 40 0 100(PZ) 89 5 No.9 40 80 20(2MPZ) 73 31 No.10 40 80 20(2AMPZ) 76 24 表の No.1~8 より、ピペラジン(PZ)の担持量が増大すると二酸化炭素の吸収量の増加が見ら れたることがわかる。一方、ピペラジンの一部を IPAE で置換することにより、固体吸収材の脱 離性能が向上する。これより、IPAE は低温での二酸化炭素脱離に有効であることがわかる。 No.1~3 に示す PZ のアミン重量比が 7%以内の固体吸収材では、二酸化炭素の吸収量に顕著 な差は見られないものの、二酸化炭素脱離量が No.4~7 と比較して多いことがわかる。また、 No.4~7 で、PZ が多くなるに従って二酸化炭素の吸収量は増加するが、二酸化炭素脱離量が顕著 に低下する傾向にあるので、二酸化炭素脱離量の観点からは PZ のアミン重量比は 10%未満がよ いのかも知れない。しかし、No.5~7で PZ のアミン重量比が 50%を超える場合には、吸収性 - 54 - 能が比較例を上回っているので、放散温度がもう少し高い系や吸収性能に主眼をおいた二酸化炭 素回収方法では好ましい固体吸収材となり得る。 これらの No.1~7 の吸収、放散挙動を図 2-6-9 に示す。No. 1~7 の CO2 の吸収及び脱離挙動 を示すグラフである。縦軸は固体吸収材に吸収された総 CO2 量であり、単位は固体吸収材 1 kg あたりの CO2 の質量(g)である。25℃で CO2 を吸収させ、約 1500 秒経過したところで 50℃に 昇温して脱離させた。図からわかるとおり、今回の試験の条件下においては、PZ と IPAE のアミ ン重量比を変えても、二酸化炭素の吸収および脱離速度にはほとんど変化がないことがわかる。 また、図 2-6-9 に示した吸収及び脱離工程を繰り返し実施した結果を図 2-6-10 に示す。縦軸は固 体吸収材充填槽出口のガス中の二酸化炭素濃度、横軸は経過時間である。図 2-6-10 に示すように No.1の IPAE のみを担持した固体吸収材においては繰り返し吸収放散を行なっても、吸収量と 放散量に変化はなく、安定であり、連続使用が可能であることがわかる。一方で、25℃で吸収後、 70℃での放散試験を繰り返し行なうと、徐々に吸収量、脱離量ともに減少する。(図 2-6-11)図 2-6-12 に示すように、IPAE を 40wt%担持したシリカは 120℃で 12h 処理後には IPAE の担持量 は 14%に減少した。これは、高温度では IPAE が徐々に飛散してしまうためである。回収量を増 やすためにより高い温度で脱離を行なうことはできないため、今後、プロセスあるいは材料の改 良等の検討が必要であろう。 図 2-6-9 IPAE+PZ 担持 PMM 固体吸収材の CO2 吸収・脱離挙動 Gas: ∼ 500 mL/min, 10 % CO2/N2 Sorbent: ∼ 40 wt% amine/HP2MG - 55 - 脱離 脱離 50 °C 25 °C 吸収 図 2-6-10 吸収 吸収 IPAE(40wt%)担持 PMMA の CO2 吸収・脱離繰り返し試験 (25℃吸収・50℃放散) Time 図 2-6-11 IPAE(40wt%)担持 PMMA の CO2 吸収・脱離繰り返し試験 (25℃吸収・70℃放散) - 56 - +00 +00 7.60 1050.1 5.00 0.00 +00 99.8 80.0 TG 60.0 800.0 -14.27 % -5.00 40.0 234.1 ℃ DTA -15.00 0.0 -20.0 400.0 -40.0 -20.00 200.0 -25.00 -60.0 -80.0 -30.64 TEMP 0.0 26.1 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 +00 Time/h 図 2-6-12 IPAE(40wt%)/シリカの TG 曲線 - 57 - -100.2 Heat Flow/μV -10.00 Temperature/ Weight/% 20.0 600.0 つぎに、ピペラジン(PZ)に変えて、2-メチルピペラジンの添加量を変えて同様の試験を行な った。2-メチルピペラジン(2MPZ)の担持量が増大すると二酸化炭素の吸収量は増加するが、 一方、2-メチルピペラジン(2MPZ)一部を IPAE で置換することにより、固体吸収材の脱離性 能が向上する(表 2-6-3)。これより、IPAE は低温での二酸化炭素脱離に有効であることがわか る。これらの吸収、放散挙動を図 2-6-13 に示した。 表 2-6-4 IPAE(+添加剤)担持 PMMA 固体吸収材の CO2 吸収・脱離性能 固体吸収材 アミン重量比 25℃におけ 50℃におけ 中の総アミ (wt%) る CO2 吸収 る CO2 脱離 量 量 ン含有量 (wt%) IPAE 2MPZ (g/kg) (g/kg) No.1 40 100 0 64 34 No.9 40 80 20 73 31 No.11 40 65 35 76 24 No.12 40 50 50 89 26 No.13 40 0 100 124 7 - 58 - 50 °C 25 °C 図 2-6-13 IPAE+2PZ 担持 PMMA 固体吸収材の CO2 吸収・脱離挙動 Gas: ∼ 500 mL/min, 10 % CO2/N2 Sorbent: ∼ 40 wt% amine/HP2MG (1) IPAE:2MPZ = 100:0 (2) IPAE:2MPZ = 80:20 (3) IPAE:2MPZ = 65:35 (4) IPAE:2MPZ = 50:50 (5) IPAE:2MPZ = 0:100 - 59 - つぎに、上記と同じ装置を用い、同条件で前述の IPAE の比較としてモノエタノールアミン (MEA)、アミノメチルプロパノール(AMP)、ジエタノールアミン(DEA)、又はメチルジエタノー ルアミン(MDEA)を表の濃度で含む固体吸収材を用いて二酸化炭素の飽和吸収量と二酸化炭素脱 離量の測定を行った。得られた結果を表 2-6-5 に示した。 表 2-6-5 各種アミン担持 PMMA 固体吸収材の CO2 吸収・脱離性能 固体吸収材 25℃ に お け 50 ℃ に お け 中の総アミ る CO2 吸収 る CO2 脱離量 量(A) (B) ン含有量 アミンの種類 (wt%) (g/kg) (g/kg) 脱離の割合 (B)/(A)×100 (%) No.1 40 IPAE 64 34 53 No.14 40 MEA 107 8 7.5 No.15 40 AMP 77 30 39 No.16 40 DEA 66 16 24 No.17 40 MDEA 7 1 14 IPAE 40 重量%固体吸収材(No.1)と他のアミンを担持した固体吸収材(No.14~17)を比べ ると、IPAE を担持した固体吸収材は他のアミンを担持した固体吸収材と比較して 50℃での脱離 性能が最も高いことが分かる。AMP は脱離量では IPAE より劣るものの、吸収性能では IPAE を 上回っているので、脱離温度がもう少し高い系や吸収性能に主眼をおいた二酸化炭素回収方法で は好ましい固体吸収材となり得る。図 2-6-14 に IPAE と MEA、MDEA の吸収量・放散量を比較 したグラフを示す。IPAE が最も放散性能が高いことがわかる。 IPAE による脱離性能の向上は、水溶液の系では二酸化炭素を吸収して重炭酸イオンを作る IPAE とカルバミン酸アニオンを作り脱離性能に劣る他のアミンとの違いであると推定されてい るが、本研究のように、水が関与しない系でも他のアミンと比較して脱離性能が優れていること がわかる。 - 60 - C O 2 吸 収 /放 散 量 [ g /k g ] 120 吸収量(25℃) 放散量(50℃) 100 80 60 40 20 0 MEA 図 2-6-14 MDEA RITE液 各種アミンを担持した固体吸収材の性能比較 - 61 - つぎに 40wt%の IPAE のみを担持した固体吸収材の吸収性能に共存水蒸気が及ぼす影響を検 討した結果を示す。固体吸収材充填槽の入り口側前に、供給ガスを加湿するためのバブラーを設 置し、それ以外は前述と同条件で二酸化炭素の飽和吸収量と二酸化炭素脱離量の測定を行った。 得られた結果を表 2-6-6 に示した。 表 2-6-6 IPAE 担持 PMMA 固体吸収材の CO2 吸収・脱離性能に及ぼす水蒸気の影響 固体吸収材 中の総アミ アミン種類・ ン 含 有 量 混合比 供給ガス組成 (wt%) No.1 40 IPAE 100% No.18 40 IPAE 100% No.6 40 No.19 40 10% CO2, 90% N2 (dry) 10% CO2, 90% N2 (wet) IPAE 30% 10% CO2, 90% PZ 70% N2 (dry) IPAE 30% 10% CO2, 90% PZ 70% N2 (wet) 25℃における 50℃における CO2 吸収量 CO2 脱離量 (g/kg) (g/kg) 64 34 62 32 118 14 127 13 表 2-6-6 に示すように、加湿した混合ガスを供給しても、吸収量および脱離量には顕著な変化 が見られなかった。 先に述べたとおり、IPAE による脱離性能の向上は、水溶液の系では二酸化炭素を吸収して重 炭酸イオンを作る IPAE とカルバミン酸アニオンを作る他のアミンとの違いであると推定されて おり、加湿条件(No.18 および No.19)では水が吸着されることにより二酸化炭素の吸収量増大 が予想される。しかし、No.1(乾燥条件)と No.18(加湿条件)或いは No.6(乾燥条件)と No.19 (加湿条件)の二酸化炭素の吸収量及び脱離量ともに顕著な差が見られなかった。このことは、 本固体吸収材では、水溶液系で明らかにされているものとは異なった機構で二酸化炭素が吸収さ れていることを示している。 次に担体としてシリカ(富士シリシア化学製シリカ:CARiACT-Q10)を用いて調製した固体 吸収材を用い、前述と同条件で二酸化炭素の飽和吸収量と二酸化炭素脱離量の測定を行った。粒 子径 75~150μm(100-200 mesh)のシリカを用いた場合を No.20、粒子径 1.18~2.36 mm(8-14 mesh)のシリカを用いた場合を No.21 としして表 2-6-7 に記載している。 - 62 - また、担体として粘土(Rockwood additives Limited 製ラポナイト:Laponite RDS)、および クニミネ工業株式会社製モンモリロナイト(クニピアF)を用いて調製した固体吸収材を用い、 同条件で二酸化炭素の飽和吸収量と二酸化炭素脱離量の測定を行った。(No.22 および No.23) 得られた結果を表 2-6-7 に示した。 表 2-6-7 各種担体に担持した IPAE 担持固体吸収材の CO2 吸収・脱離性能 固体吸収材 中の総アミ アミン ン 含 有 量 種類 支持体 (wt%) No.1 40 25℃にお 50℃にお け る CO2 け る CO2 吸 収 量 脱 離 量 (A) (B) (g/kg) IPAE PMMA 脱離の割合 (B)/(A)×100 (%) (g/kg) 64 34 53 64 48 75 24 20 83 53 26 49 43 23 53 CARiACT-Q10 No.20 40 IPAE シリカ(75~ 150 μm) CARiACT-Q10 No.21 40 IPAE シリカ(1.18 ~2.36 mm) No.22 40 IPAE No.23 40 IPAE 粘土(ラポナ イト) 粘土(モンモ リロナイト) 上記の結果から、PMMA、シリカ、粘土鉱物いずれを支持体として用いても、IPAE を担持し た固体吸収材は、25℃での吸収量に対する 50℃での脱離量の割合が他のアミン類を担持した固体 吸収材(表 2-6-5 No.14~17)と比較して多く、支持体の種類によらず良好な脱離性能を示すこ とがわかる。特にシリカを支持体として用いると、脱離割合が最も高くなった。 これらの事から明らかなように、今回検討した IPAE 担持固体吸収材は、二酸化炭素の吸収性 能及び二酸化炭素の脱離性能がいずれも高く、特に、脱離性能が従来の水溶液と比較して高いた め、二酸化炭素の吸収性能と脱離性能とのバランスがとれているという利点を有している。 - 63 - 本研究では IPAE40 重量%固体吸収材の吸収性能、脱離性能について検討を実施した。二酸化 炭素の吸収性能としての吸収量や吸収速度については、既知のアミン類に較べ優位性はないが、 脱離性能としての脱離量や脱離速度では、既知のアミン類に較べ向上しており、二酸化炭素の吸 収性能と脱離性能とのバランスが良かった。また、これらの吸収・脱離性能は固体吸収剤及び供 給ガスに水分を含まない乾燥条件下でも同様の傾向が見られることを見出した。本来これらは重 炭酸イオンの生成によるものであると考えられていたが、水が共存しない系では水溶液系と異な り、嵩高い立体的特性より極めて弱い結合が生成しているものと思われる。 - 64 - 2-6-4 まとめ ガス中二酸化炭素の吸収を高効率で行うだけでなく、二酸化炭素を吸収した固体吸収材からの 二酸化炭素の脱離も高効率に且つ低温で行うことができ、高純度の二酸化炭素を回収できる固体 吸収材を提供することを目的として各種材料の探索を行なった結果、2-イソプロピルアミノエ タノール単独或いはピペラジン類を混合した2-イソプロピルアミノエタノールを、シリカ、ポ リメチルメタクリレート(PMMA)、粘土鉱物等の細孔或いは層間にアミンを保持するための空 間を有する固体に担持することにより高い二酸化炭素吸収性能、更には高い二酸化炭素脱離性能 を顕著に示すことを見出した。 また、上記のように従来のアミン水溶液系で知られていたように、水が関与することにより低 温での脱離再生が可能であったが、水が存在しても存在しなくても、二酸化炭素の吸収性能及び 脱離性能には影響がなく、水溶液系で知られていた挙動とは全く異なる挙動を示すことを見出し た。 これにより二酸化炭素吸収成分であるアミンを水溶液中に分散した状態ではなく、固体の支持 体表面に物理吸着、或いは化学結合させて担持させることにより水溶液を用いた吸収法での脱離 の際に余分な水分を加熱する必要がなくなり、より省エネルギー型の二酸化炭素の回収方法を提 供することができる。 本固体吸収材は二酸化炭素の吸収量が優れると共に、公知の二酸化炭素回収用固体吸収材に比 較して優れた脱離量を有している。また、低温で二酸化炭素を脱離して、高純度の二酸化炭素を 回収することができる。二酸化炭素吸収成分のアミンを固体に担持し、且つ低温で二酸化炭素を 脱離できると、アミン水溶液中の水成分の昇温に要するエネルギーを削減することにつながり、 脱離工程での省エネ効果が極めて大きい。従来の報告例では、重炭酸イオンを生成する反応熱の 小さい吸収経路は水の共存が不可欠な前述の経路(式[2a]、[2b]、[4a]、[4b])とされてきたが、 今回調製した固体吸収材を用いると、反応経路に水が存在しなくても、脱離量に変化はなく、大 きな脱離量が得られる。 以上、各種アミンを担持した固体吸収材の性能比較(担体:PMMA)の結果、低温での CO2 放散 量が大きく、連続使用が可能であることを見出した。 本固体吸収材の課題として、吸収量が十分ではないことと、70℃程度ではアミンが徐々に放散 してしまうため、今後、RITE 液の低温脱離性能を保持しながら熱安定性の高い固体吸収材を探 索(低反応熱高分子アミン・担体・担持方法の検討など)する必要がある。 - 65 - 2-7 2章まとめ 本事業では、国内外の固体吸収材開発の動向について調査するとともに、米国 NETL と固体吸 収材の開発についての情報交換を実施した。双方の現状の技術開発状況について紹介を行なった 後、契約締結後に実施する SOW(Statement of Work)を作成して4つの Task を確認し、今後 の研究協力体制を構築することができた。 得られた情報に基づいて、RITE による新規固体吸収材の開発を開始した。RITE が保有する 化学吸収液に関する知見をいかし、量子化学計算をはじめとする高度な解析手法を用いて、最適 な材料の探索を行った。その結果、高性能が期待できる吸収剤(アミン)の分子構造情報を獲得 するとともに、固体吸収材の放散性能予測モデルを構築することができた。 上記検討に基づいて、RITE の化学吸収液をベースとする新規固体吸収材を調製し、CO2 吸着・ 脱着性能を評価した。その結果、RITE 液を用いた固体吸収材は低温での CO2 放散量が大きく、 連続使用が可能であることを見出した。 - 66 - 2章 参考文献 [1] 川井利長編, “炭酸ガス回収技術”, NTS, 1991.など [2] 新エネルギー・産業技術総合開発機構, 平成 13 年度調査報告書, 51401158-0, “地球温暖化対 策技術開発に関する調査/CO2 の分離・回収技術に関する調査研究” (株式会社三菱総合研究所, 財団法人 地球環境産業技術研究機構), 2002. [3] H. Ohta, S. Umeda, M. Tajika, M. Nishimura, M. Yamada, A. Yasutake, J. Izumi, Int. J. Global Energy Issues, 11 (1998) 203. [4] http://www.ulcos.org/en/ [5] http://www.jisf.or.jp/course50/tecnology02/ [6] http://www.netl.doe.gov/technologies/coalpower/ewr/co2/post-combustion/solid-sorbent.html [7] N. Hiyoshi, K. Yogo and T. Yashima, Chem. Lett. 37, (2008) 1266. [8] 平成 15 年度二酸化炭素・固定化有効利用技術実用化開発 化学吸着法による CO2 分離回収技 術の開発 成果報告書, 独立法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構, 平成 16 年 3 月. [9] 山田和矢, 中川和明, 萩原喜一, 東芝レビュー, 2004, 59 No. 1, 15-18. [10] X. Xu, C. Song, J. M. Andresen, B. G. Miller, A. W. Scaroni, Energy Fuels, 16 (2002) 1463. [11] N. D. Hutson, Chem. Mater. 16 (2004) 4135. [12] J. J. Carroll, J. D. Slupsky, A. E. Mather, J. Phys. Chem. Ref. Data 20 (1991) 1201−1209. [13] M. J. Frisch, G. W. Trucks, H. B. Schlegel, G. E. Scuseria, M. A. Robb, J. R. Cheeseman, G. Scalmani, V. Barone, B. Mennucci, G. A. Petersson, H. Nakatsuji, M. Caricato, X. Li, H. P. Hratchian, A. F. Izmaylov, J. Bloino, G. Zheng, J. L. Sonnenberg, M. Hada, M. Ehara, K. Toyota, R. Fukuda, J. Hasegawa, M. Ishida, T. Nakajima, Y. Honda, O. Kitao, H. Nakai, T. Vreven, J. A. Montgomery, Jr., J. E. Peralta, F. Ogliaro, M. Bearpark, J. J. Heyd, E. Brothers, K. N. Kudin, V. N. Staroverov, R. Kobayashi, J. Normand, K. Raghavachari, A. Rendell, J. C. Burant, S. S. Iyengar, J. Tomasi, M. Cossi, N. Rega, J. M. Millam, M. Klene, J. E. Knox, J. B. Cross, V. Bakken, C. Adamo, J. Jaramillo, R. Gomperts, R. E. Stratmann, O. Yazyev, A. J. Austin, R. Cammi, C. Pomelli, J. W. Ochterski, R. L. Martin, K. Morokuma, V. G. Zakrzewski, G. A. Voth, P. Salvador, J. J. Dannenberg, S. Dapprich, A. D. Daniels, Ö. Farkas, J. B. Foresman, J. V. Ortiz, J. Cioslowski, D. J. Fox, Gaussian 09, Revision A.02, Gaussian, Inc., Wallingford CT, 2009. [14] M. M. Francl, J. Phys. Chem. 89 (1985) 428. [15] K. Fukui, J. Phys. Chem. 74 (1970) 4161. [16] K. Hori, T. Yamaguchi, K. Uezu, M. Sumimoto, J. Comput. Chem. 32 (2011) 778. [17] A. V. Marenich, C. J. Cramer, D. G. Truhlar. J. Phys. Chem. B 113 (2009) 6378. [18] S. Xu, Y.-W. Wang, F. D. Otto, A. E. Mather, Chem. Eng. Sci. 51 (1996) 841. [19] A. K. Saha, S. S. Bandyopadhyay, Chem. Eng. Sci. 50 (1995) 3587. - 67 - [20] H. Bosch, G. F. Versteeg, W. P. M. Van Swaaij, Chem. Eng. Sci. 45 (1990) 1167. [21] A. K. Chakraborty, G. Astarita, K. B. Bischoff, Chem. Eng. Sci. 41 (1986) 997. [22] H. Yamada, S. Shimizu, H. Okabe, Y. Matsuzaki, F. A. Chowdhury, Y. Fujioka, Ind. Eng. Chem. Res. 49 (2010) 2449. [23] F. Eckert, A. Klamt, J. Comput. Chem. 27 (2006) 11. - 68 - 第3章 3-1 化学吸収液の評価を行う標準的手法の開発 NETL とのプロセスシミュレーション技術に関する情報交換 3-1-1 概要 「化学吸収液の評価を行う標準的手法の開発」に関して、RITE はこれまでに低エネルギー・ 低コスト型の化学吸収液(RITE 開発液)を開発している。また、この RITE 開発液の研究開発 を通して、アミン系吸収液の CO2 分離回収性能を把握するとともに、プロセスシミュレーション により RITE 開発液の性能を評価している。一方、NETL は既存の化学吸収液についての高精度 なプロセスシミュレータを構築している。これは CO2 分離回収技術のプロセスシミュレータと発 電システム全体を対象とした評価手法である。 本事業では、RITE の優れた化学吸収液を対象に実験室規模の吸収液評価試験データおよびプ ラント試験データを収集し、RITE 開発液を評価するとともにプロセスシミュレータにより解析 を実施する。更に、得られた結果を NETL のプロセスシミュレーション技術をベースに検討し、 RITE 開発液に対する評価手法の高度化を図る。 以上のプロセスシミュレーション技術の検討を、 化学吸収液の評価を行う標準的手法として発展させることを検討する。 以上の目的を達成するために、RITE-NETL 間の協力体制構築を目的して、平成 22 年 7 月に 米国 Pittsburg の NETL を訪問し、技術情報の交換を実施した。本項に RITE および NETL の技 術情報について記述する。 - 69 - 3-1-2 NETL との情報交換 平成 22 年 7 月に NETL(Pittsburgh, PA)を訪問し、化学吸収液および CO2 回収技術に関し て情報交換するとともに、共同研究について意見交換を実施した。 「化学吸収液の評価を行う標準 的手法の開発」に関して、RITE は平成 16 年度から 20 年度にかけて実施した経済産業省の補助 事業「低品位廃熱を利用する二酸化炭素分離回収技術の開発」プロジェクト(“COCS プロジェク ト“と呼ぶ)の成果を中心に発表した。また、NETL も CO2 回収技術に関する成果を紹介すると ともに、実験室において吸収液性能評価装置の説明を行った。以下に、RITE および NETL の化 学吸収液に関する情報を記述する。 (1)RITE の化学吸収液開発 a. COCS プロジェクトにおける吸収液開発[1] RITE は、経済産業省の補助事業として COCS プロジェクトを企画し、民間企業 4 社(新日本 製鐵、三菱重工業、三歳電力、新日鉄エンジニアリング)の協力のもと、化学吸収法による大規 模 CO2 の分離回収技術に関して、製鉄所からの CO2 分離回収コストを半分以下に低減することを 目標に研究開発を実施した。COCS プロジェクトは、平成 16 年度から平成 20 年度までの 5 ヵ年 計画で、(1)高炉ガスを対象とした低エネルギーでの CO2 再生可能な高性能吸収液の開発、(2)製 鉄所の未利用廃熱の有効活用を図る低品位廃熱回収システムの開発を行った(図 3-1-1)。 COCS Project (2004~08): Low-cost CO 2 capture from blast furnace gas (BFG) stream 1. Development of new absorbents for low-energy regeneration 2. Utilization of waste heat in steelworks Steel plant (Storage) Chemical absorption CO 2 conc. 2% CO 2 conc. 99% (Absorption) (Regeneration) Discharge Gas CO 2 conc. 20% (Reboiler) 1. New Absorbent Reduce CO 2 capture cost by half 図 3-1-1 2. Waste heat Regeneration energy: 2.5 GJ/t-CO2 COCS プロジェクトの概要 特に、RITE は前者の化学吸収液開発に注力し、CO2 高放散性の 2 級アミンを見出すとともに、 これを主成分とする新吸収液(RITE-5 系および RITE-6 系)を開発した。また、実高炉ガスを用 い た ベ ン チ 試 験 結 果 か ら 、 実 機 規 模 で の CO2 分 離 回 収 エ ネ ル ギ ー の 推 算 値 は 目 標 値 の 2.5GJ/t-CO2 を達成できることが確認された。 - 70 - CO2 regeneration energy [GJ/t-CO2] R&D challenge 4.0 4.0 3.0 (New novel solvent) Latent heat of steam - Higher capacity for CO2 capture 2.5 Sensitive heat of solvent - Lower heat of reaction 2.0 2.0 -Formulate amine compounds 1.0 Heat of reaction -Design and synthesize new amines -Focus on formation of bicarbonate ion 0.0 COCS COURSE50 target target MEA30% (est.) ( Ex. Monoethanolamine, MEA) 図 3-1-2 高性能化学吸収液の開発方針 図 3-1-2 は、COCS プロジェクトにおける吸収液開発の方針を示している。棒グラフは化学吸 収法による CO2 分離回収において最重要項目である CO2 分離回収エネルギーの開発目標を示して いる。CO2 分離回収エネルギーは、反応熱、吸収液の昇温熱および蒸気潜熱の合計として表され、 標準的な化学吸収液であるモノエタノールアミン(MEA)の 30%水溶液の場合、4.0GJ/t-CO2 で ある。開発目標である 2.5GJ/t-CO2 への削減の達成のため、CO2 回収容量が大きく、反応熱の小 さな化学吸収液を開発すべきと位置づけ、市販アミンの評価、新規アミンの合成、および他成分 の混合等による開発を実施した。 Steric hindered groups: Absorption rate ・Control of carbamate formation ・Increase in CO2 desorption ・Reduction in heat of reaction R5 R1 N C C R2 R3 R6 OH R4 Example amine molecule Heatofof reaction Hydroxyl groups (OH): ・ Increase in water solubility (Hydrophilic) ・ Elevation of boiling point, Control of volatility ( Hydrogen bonds ) First Step ・Screening commercial amines ・Formulating amine performance Second Step ・Designing/synthesizing new amines Amino group: N ・Primary, Secondary, Tertiary amines、… ・Bond with CO2 (Formation of carbamate or HCO3 anion) 図 3-1-3 アミン系吸収液の特徴と開発 COCS プロジェクトにおける初期の検討において、市販アミンの試験データが蓄積されるに従 い、アミン化合物の構造と CO2 分離回収特性の関係が明確となっていった(図 3-1-3)。アミンに 含まれる立体障害基は、カルバメイトの生成に寄与しており、CO2 脱離性能が高い。また、水酸 基は水への溶解性および揮発性に関係する。更に、吸収速度と反応熱の間には一般的にトレード - 71 - オフの関係が存在することが確認でき、この関係から外れる高吸収速度/低反応熱型の吸収液の 開発が重要であるとの知見を得た。 図 3-1-4 に COCS プロジェクトで実施した試験項目を示している。新規の化学吸収液の開発は、 実験室における吸収液のスクリーニング試験から始まり、気液平衡等の吸収液特性データの測定 を通して、高性能吸収液を選別し、より有望な候補液を 50kg-CO2/d および 1t-CO2/d のプラント により総合的に評価した。また、CO2 回収性能だけでなく、劣化や腐食性といった実用化項目も 評価の対象とした。 Investigation of absorbents - Screening Evaluation of engineering performance - Vapor-liquid equilibrium - Degradation - Calorimetry - Corrosion - Computational chemistry Plant tests - 50 kg-CO2/d - 1 t-CO2/d - Process simulation 図 3-1-4 COCS プロジェクトにおける試験検討 - 72 - 図 3-1-5 は吸収液のスクリーニング試験装置で、CO2 吸収量、吸収速度、放散量および放散速 度を測定する。CO2 含有ガスは CO2 および N2 ボンベから所定量供給している。CO2 吸収はガラ ス製の内径 35mm、高さ 250mm、内容積 200ml のガス洗浄瓶を使用した。CO2 含有ガスは直径 13mm、孔径 100μm の平板ガラスフィルターを通して微小気泡化されて吸収液に溶解する。吸 収瓶から同伴される水分やアミンは吸収瓶の上部に設置した冷却間において冷却され、還流する。 CO2 の測定に関しては、赤外線式 CO2 計(HORIBA 3000V)を採用した。 Absorption/desorption performance -Relative cyclic capacity -Relative rate of absorption/desorption (Six-bottle parallel screening system) (Absorption) 140 (Desorption) Cyclic capacity COCO2吸 [g/L] 収量(g/L) 2 loading 120 100 80 Amount of absorption 60 (20/80%) MEA 30% 40 0 0 20 40 60 80 100 After 60min 700ml/min Absorption rate 20 CO 2 analyzer CO 2/N 2 gas 120 Absorbent 50ml (40ºC) 時 間 (m in) Time [min] (70ºC) 図 3-1-5 スクリーニング試験装置 試験方法は、40℃の恒温槽中の吸収瓶に吸収液を入れて、20%CO2 ガスを 60 分間連続して吹 込み、吸収瓶を通過した後のガスの CO2 濃度を経時的に測定する。60 分経過後、吸収瓶を 70℃ の恒温槽に移して同様の測定を継続する。試験の前半が吸収試験で、後半が放散試験である。 スクリーニング試験から、吸収速度は、吸収量が最大値の 50%に達したとき時点の傾きとした。 放散温度が 70℃と通常のプロセスにおける温度 100~120℃に対して低いが、吸収液の蒸発や実験 操作の安全性を考慮し、70℃と設定した。後述する CO2 気液平衡試験装置で測定される 40℃~ 120℃の放散量とスクリーニング試験における 70℃の結果には良好な相関が得られることを確認 している。 - 73 - CO 2 cyclic capacity CO 2 /N 2 gas Autoclave Sampling tube CO2 partial pressure [kPa] CO 2 analyzer Absorbent: 700 ml Pressure: 0.1 ~ 1 MPa Temp.: 40 ~ 120 ºC CO 2 cyclic capacity (40/20 ~ 120/100 [ºC]/[kPa]) CO 2 loading [g/L] 図 3-1-6 気液平衡試験装置 図 3-1-6 は CO2 気液平衡測定装置である。全圧力として常圧から 1MPa の範囲で CO2-吸収液 間の CO2 吸収反応平衡量を測定出来る。吸収装置であるオートクレーブは容積 1L、耐圧 2MPa のステンレス SUS316 製の容器である。このオートクレーブには碇型回転翼を持った攪拌装置、 ガス吹き込み口、ガス出口、液サンプリングおよび熱電対の鞘管を固定した上蓋がある。装置は 外部ヒーターにより加熱され、200℃まで昇温することが出来る。 試験方法は、オートクレーブに吸収液サンプルを入れて、温度、圧力を一定に保持したまま吸 収液中に CO2 を吹込み、入側と出側の CO2 濃度が同一となるまで継続する。その時点で液中の CO2 濃度を測定して吸収液と CO2 の平衡点を求める。図中に MEA30wt%の測定例を示している が、この図において、吸収液の最大吸収容量は温度 40℃、CO2 分圧 20kPa と温度 120℃、CO2 分圧 100kPa における液中 CO2 量の差から求められる。 - 74 - Thermo couple Thermo couple Dummy pipe Dummy pipe CO 2 inlet Heater Reactor Reference 図 3-1-7 反応熱量計 図 3-1-7 は CO2 吸収時のエンタルピー変化(反応熱)を測定するために使用した示差熱型の反 応熱量計(SETARAM 社, DRC)である。反応熱は、所定の CO2 ローディングまで CO2 を吹込ん だときの発熱量を、全有機炭素計(Shimadzu, TOC)により測定した吸収液中の CO2 量で割った CO2 absorption rate [g-CO2/L/min] 数値[MJ/mol-CO2]で評価した。 6 RITE solvents 5 4 Single amines 3 Primary amines Secondary amines Tertiary amines Piperizine Polyalkylene polyamines RITE solvents 2 1 0 50 60 70 80 90 100 Reaction heat [kJ/mol-CO2] 図 3-1-8 吸収液特性におけるトレードオフと RITE 開発液 実験室レベルの試験を通して、吸収液特性の吸収速度と反応熱の間にトレードオフの関係が存 在することが確認された(図 3-1-8)。つまり、一般的なアミン系吸収液は、吸収速度が大きい場 合は反応熱が高く、反応熱が低い場合は吸収速度が小さい。そこで、RITE は、アミン系吸収液 の中から、トレードオフから外れる吸収液を探索し、更に、最適なブレンディングおよび組成検 討を実施し、高吸収速度、低反応熱の先進的な化学吸収液(RITE 開発液)の開発に成功してい る。 - 75 - RITE は、新規の化学吸収液の開発において、数学的な手法による開発液の評価を実施してき た。その手法は、気液平衡データに基づく CO2 分離回収エネルギーの評価であり、図 3-1-9 に示 す概要のもと吸収液を評価した。化学吸収法における課題は、CO2 を吸収した吸収液から脱離回 収するのに必要な熱エネルギーを低減することである。モデルでは、リッチ/リーン熱交換器と放 散塔を対象に、物質収支・熱収支を計算し、CO2 分離回収エネルギーを算出している。 図 3-1-10 は、気液平衡データに基づく RITE 開発液の評価結果を示している。これらの数値は 放散塔・配管等から外部への熱ロスは考慮していないが、RITE-5 系で COCS プロジェクトの目 標値である 2.5GJ/t-CO2 程度を達成しており、RITE-6 では更に低い数値が推定されている。 Stripper Absorber (CO2) QH (Lean solvent) QR Heat exchanger QTotal (CO2, N2, …) (Rich solvent) Reboiler Regeneration energy [GJ/t-CO2] QV 4.0 4 QV 3 2.5 QH 2 QR 1 0 MEA 30wt% COCS target Regeneration energy QTotal = QR + QH + QV QV = WV ⋅ H V --- Latent heat of vapor emitted from stripper top Q H = W S ⋅ Cp ⋅ Δ T --- Sensible heat of a solvent QR = H R --- Heat of CO2 desorption from a rich slovent 図 3-1-9 化学吸収液の CO2 分離回収エネルギーの評価手法 Based on equilibrium stage model Regeneration energy [GJ/t-CO2] 5 4 4.0 2.69 3 2.48 2.33 Target 2 1 0 MEA 30% 図 3-1-10 2.60 RITE5A RITE5B RITE5C RITE6B 化学吸収液の CO2 分離回収エネルギーの評価結果 - 76 - b. プラント試験による RITE 開発液の評価 実験室規模の吸収液開発の結果に基づき選択した候補液は、1t-CO2/d の評価プラントにより、 CO2 回収率および CO2 回収エネルギーを評価する。図 3-1-11 は、実際の製鉄所の高炉ガスを対象 に CO2 分離回収試験を実施した 1t-CO2/d の評価プラントである。 図 3-1-12 に 1t-CO2/d の吸収液評価プラントによる吸収液評価結果を示す。RITE 開発液は、標 準的な化学吸収液 MEA30wt%水溶液に比べて低い CO2 分離回収エネルギーを示した。また、 RITE 開発液の性能は、図 3-1-10 に示した推算結果と同様の順番になっている。実験値は推算値 より高くなっているが、これは装置規模が小さいことによる熱ロスの増加やリッチ/リーン液熱 交換器の性能に影響を受けたためである。 Stripper Absorber Reboiler (Site : Kimitsu Works, NSC) 図 3-1-11 1t-CO2/d の吸収液評価プラント - Results of 1t-CO2 /d test plant Regeneration energy [GJ/t-CO2] 5 4.0 3.8 4 3.6 3.3 3.1 3 Target 2 1 0 MEA 30% RITE5A RITE5B RITE5C* RITE6B* (* : High CO 2 loading condition of a rich solvent) 図 3-1-12 1t-CO2/d の吸収液評価プラントによる吸収液評価結果 - 77 - RITE-6B その他 Heat loss, etc Vapor 蒸気 Solvent 吸収液昇温 Reaction 反応 (Experimental result) Regeneration energy: 3.1GJ/t-CO2 85ºC (Low temperature) Δt=17ºC 0.6 mol-CO2 /mol-amine Regeneration energy [GJ/t-CO2] 4.0 3.5 3.1 3.0 2.5 2.33 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 (High loading) 1 Exp. 115ºC 0.1 mol-CO2/mol-amine 2 3000t/d (est.) 3 Cal. (Equilibrium stage model) - Δt=10ºC - Decrease of heat loss Regeneration energy [GJ/t-CO2] 図 3-1-13 RITE-6 の性能評価 Symbols (Black: plant test result, Red: estimation) 5 : MEA30% : RITE-5B (COCS) : RITE-5C (CASTOR) 4 (MHI) : RITE-6B 3 : CASTOR2 2 : KS-1 : Cansolv COCS target Improvement in heat efficiency by scale-up 1 2.5 GJ/t-CO2 : Fluor 0 0 .1 1 10 100 1000 10000 Plant scale [t/d] (Data from COCS project and from IEA 11 th CO 2 Capture Network) 図 3-1-14 RITE 開発液の性能 1t-CO2/d の評価プラントから得られた CO2 分離回収エネルギーは、設備仕様の影響を受けるた めに、化学吸収液自身の性能とは言い難い。図 3-1-13 は、3000t-CO2/d 規模の実機を想定した熱 ロス、およびリッチ/リーン液熱交換器の温度差 10℃を仮定したときに、RITE 開発液が達成し 得る CO2 分離回収エネルギーを示したものである。RITE-6 は、評価プラントの結果では 3.1GJ/t-CO2 であるが、スケールアップ時には 2.5GJ/t-CO2 を達成し得る可能性を持つ。図 3-1-14 は、RITE-5 および RITE-6 の性能を、プラント規模を横軸にとって示したものである。両開発液 ともに、COCS プロジェクトの開発目標である 2.5GJ/t-CO2 の達成が見込まれる。 - 78 - c. RITE 開発液のプロセスシミュレーション COCS プロジェクトでは、市販ソフト AspenPlus を用いてプロセスシミュレーションを実施し ている。図 3-1-15 に示すようにプロセスフローを作成し、RITE 開発液の物性値をモデル化し、 RITE 開発液を評価している。構築したプロセスシミュレータは、プロジェクトで実施した 1t-CO2/d のプラント試験結果を良好に解析している(図 3-1-16)。 Lean solvent MEA30%, RITE solvent (5C, 6B) L/G 3~7 Absorber (4.2m, 0.16mφ) Stripper BFG 20%-CO2 60 Nm3/h (2.1m, 0.2mφ) Rich solvent Reboiler Heat duty 80~160 MJ/h Heat exchanger 図 3-1-15 プロセスシミュレーションにおける化学吸収法のプロセスフロー Process simulator for new absorbents was programmed with AspenPlus®. COCS: 1 t/d plant MEA30wt% Gas: (CO2=20 [kPa]) (Including heat loss of 1 t/d plant) Regeneration energy [GJ/t-CO2] CO2 recovery rate [%] 100 90 80 70 60 50 2 4 6 8 L/G [L/Nm3 ] 図 3-1-16 RITE-5 RITE-6 Exp. Est. 5 4 3 2 1 0 2 4 6 L/G [L/Nm3 ] プロセスシミュレーションによる吸収液評価 - 79 - 8 (2)NETL のプロセスシミュレーション技術[2] NETL においても CCS および CO2 分離回収技術の開発は最重点課題の一つであり、広範囲の 汚染源からの CO2 排出を削減するための検討がなされている。特に、CO2 排出源の一つである微 粉炭燃焼発電は主要な発電技術であり、多くの研究開発がなされている。ここでは、NETL の技 術情報として、本事業に大きく関係する次の 3 点について以下に取りまとめる。 a. 小型吸収液評価装置 b. CO2 回収技術のプロセスシミュレーション c. 発電システムのプロセスシミュレーション a. 小型吸収液評価装置 NETL は石炭燃焼排ガス中の CO2 分離回収のためのアンモニア水溶液による化学吸収法を検討 している[2]。アンモニア水溶液による CO2 分離回収技術の検討は、中国との国際共同研究として 重炭酸アンモニウム肥料生産への関心とともに始まった。 様々な酸性ガス(例えば CO2, SO2, NOX, HCl)に加えて石炭火力発電所で生産された燃焼排ガスからの微粒子を制御することを目的とし て、NETL は炭素隔離のための CO2 回収の観点から再生式であるアンモニアベースのプロセスの 利用を提案した。アンモニア溶液は肥料生産の副産物として硫酸アンモニウムと硝酸アンモニウ ムを生産するために使用されるが、重炭酸アンモニウム溶液は熱せられて隔離が必要な高純度 CO2 を放出する。再生段階の他の生産物である炭酸アンモニウム溶液はプロセスにおいて再利用 され、CO2 をさらに吸収するために再使用される。再生式の CO2 回収化学は水溶液における炭酸 アンモニウムと重炭酸アンモニウムとの間の可逆的化学によって説明される。以上のプロセスは、 エネルギー効率が良く、O2 や SO2、 NOX 等の劣化影響が小さい特徴を有する。 (NH4)2CO3 + CO2 + H2O ↔ 2 NH4HCO3 つまり、NETL は、燃焼排ガスからの SO2 と NOX の除去のための商業規模で存在するアンモ ニアプロセスを発展させて、CO2 回収のためのガス分離能力を新たな付加価値として提案するこ とについて研究開発した。 NETL は図 3-1-17 に示す小型評価試験装置を設計し、パラメトリック試験を実施している。装 置は、図 3-1-18 に示すプロセスフローのとおり、気液向流接触型の吸収塔、半回分型の液再生用 反応器(再生塔)および立地/リーン熱交換器等の機器から構成されている。吸収塔は内径 3 イン チで Koch-Glitch の規則充填物が設置されている。再生塔は内部にコイル状の配管を設置し、93℃ の熱水を通すことで再生温度を制御することができる。吸収液の評価では、充填塔高さ、吸収温 度、再生温度、気液の流量等、表 3-1-1 に示すパラメータを変更し、CO2 分離回収性能に与える 影響を検討した。また、これらの定量化/最適化検討により、CO2 回収率、アンモニア損失、ア ンモニウム種に対するパラメータの主な影響を確認した。その結果、気液のサンプル分析を実施 し、アンモニアの損失を減らすためには再生温度の過度な高温化は避けられるべきとの知見を得 た。 - 80 - 図 3-1-17 図 3-1-18 小型吸収液評価装置の外観[3] 小型吸収液評価装置のプロセスフロー[3] 表 3-1-1 小型吸収液評価装置の仕様 Absorber (Column) Diameter [inch] Height [inch] Packing (Koch-Glitsch BX gauge) Gas temp. at inlet [ºC] Absorber temp. [ºC] Regenerator (Semi-batch reactor) Regeneration temp. [ºC] Reflux condenser [ºC] Solution flow rate [g/min] Flue gas flow rate [L/min] - 81 - 3 6.75~27 49 27~54 71-88 15 122~209 11.8~47.0 b. CO2 回収技術のプロセスシミュレーション[4] NETL では、モノエタノールアミン(MEA)を対象に市販ソフト AspenPlus によるプロセス シミュレーションを実施している。このシミュレーションは、発電システム等のプロセスシミュ レーションを複合するときに、CO2 分離回収プロセスのユニットコンポーネントを提供出来るよ うに構築しておくことを目的としている。開発で基準として作成したプログラムは、CO2 が約 14vol%の燃焼排ガスを対象に、CO2 を 90%回収する場合に基づいている。 CO2分離回収プロセスを図3-1-19に示す。燃焼排ガスに含まれるCO2は、吸収塔内で吸収液と向 流接触し、吸収液内に反応吸収される。不活性成分等は吸収塔の一番上に設置されている水洗部 の中で循環式水洗いにより洗浄され、充填塔上部から大気中へ放出される。吸収塔下部からのリ ッチ吸収液は熱交換され、CO2を得るために再生塔に供給される。 プロセスシミュレーションにおいて、CO2-MEA-H2O 系の CO2 吸収放散反応は電解質反応(表 3-1-2)であり、物性値推算は ELECNETL モデルを採用する。吸収塔は AspenPlus の平衡段モ デル Radfrac を用いた。シミュレーションでは 10 段と設定し、以下の反応を考慮した。 CO2-MEA-H2O 系の電解質反応[4] 表 3-1-2 MEA+ + H 2O ↔ MEA + H 3O + CO2 + OH − ↔ HCO3 − − HCO3 + H 2O ↔ H 3O + + CO3 −2 MEACOO − + H 2O ↔ MEA + HCO3 − 2 H 2O ↔ H 3O + + OH − なお、バイカーボネートの生成する第 2 式では、反応速度が著しく遅いことから、7.8℃の平衡 からの“ずれ”を考慮した。また、放散塔も同様に Radfrac を用い、12 段のステージを設定して いる。また、リッチ/リーン熱交換器は熱ロスを 25%と仮定している。以上の設定のもとにシミ ュレーションした結果、表 3-1-4~表 3-1-7 にまとめたプロセスデータを得ている。 表 3-1-3 フローシート用の機器[4] C-201 C-202 P-201 P-203 P-204 P-205 P-206 H-201 H-202 H-203 D-202 D-203 F-101 Absorber column Stripper column CO2 rich solvent pump CO2 lean solvent filtrate pump Stripper column solution recycle pump CO2 lean solvent pump Water makeup from filter pump Water wash return cooler Primary MEA solution heat exchanger CO2 lean solvent recycle cooler Stripper column partial condenser Water solvent holdup tank Particulates filter - 82 - 図 3-1-19 CO2 分離回収プロセスフロー[4] - 83 - 表 3-1-4 CO2 分離回収プロセスのシミュレーション結果(1/4)[4] 表 3-1-5 CO2 分離回収プロセスのシミュレーション結果(2/4)[4] - 84 - 表 3-1-6 CO2 分離回収プロセスのシミュレーション結果(3/4)[4] 表 3-1-7 CO2 分離回収プロセスのシミュレーション結果(4/4)[4] - 85 - c. 発電システムのプロセスシミュレーション[5] NETL は発電システムのコストおよび性能に関するシミュレーションを実施している。彼らの 報告書“Cost and Performance baseline for Fossil Energy plants Volume 1: Bituminous coal and natural gas to electricity”では、Integrated Gasification Combined Cycle (IGCC)、 Pulverized Coal Rankine Cycle Plants (PC)、Natural Gas Combined Cycle (NGCC)の各発電シ ステムに関して、CO2 分離回収プロセスの導入を含めてシミュレーションによる検討を実施して いる。 図 3-1-20 は、CO2 回収型の石炭燃焼発電プラントのシステムフローを示している。発電規模は 550MW と設定し、CO2 回収ユニットの設置によるエネルギー消費を、燃焼ボイラー等の発電シ ステムの仕様変更を考慮し、出力一定となるようにシミュレーションしている。また、CO2 回収 に関しては、Fluor の Econamine(主剤 MEA)を想定し、回収量 13,000t-CO2/d を対象として いる。 表 3-1-8~表 3-1-10 にシミュレーション結果を示す。発電効率(高位発熱量基準)は、CO2 回 収プロセスの設置により 28.4%(CO2 回収無し:39.3%)に低下している。 図 3-1-20 CO2 回収型石炭燃焼発電システムのプロセスフロー[5] - 86 - 表 3-1-8 CO2 回収型石炭燃焼発電システムのプロセスシミュレーション結果(1/2)[5] 表 3-1-9 CO2 回収型石炭燃焼発電システムのプロセスシミュレーション結果(2/2)[5] - 87 - 表 3-1-10 CO2 回収型石炭燃焼発電システムのプロセスサマリー[5] - 88 - (3)NETL との共同研究計画策定 RITE-NETL 間の契約書の別紙となる実施計画書(Statement of Work: SOW)の内容について 平成 22 年 7 月に NETL と協議し、共同研究計画を策定した。本事業の「化学吸収液の評価を行 う標準的手法の開発」に関連し、RITE-NETL の研究協力のもとで実施する研究項目を、以下に 記述する。なお、これらの研究項目は、RITE-NETL 間の知的財産権の取り扱いを取極めた共同 研究計画を締結後に開始する。 ・ RITE が開発した先進的な化学吸収液を NETL が保有する小型吸収液評価試験装置により試 験し、石炭燃焼排ガスに対する RITE 開発液の性能を、MEA 水溶液と比較し評価する。 ・ 吸収液評価試験の実験結果に基づき、RITE はシステム解析を実施して、RITE の吸収液に基 づいたスクラビング回収プロセスの技術的・経済的な評価を実施する。評価手法には市販ソ フト ApenPlus を用い、CO2 回収率、CO2 分離回収エネルギー等を評価する。また、比較対 象として MEA 水溶液を用いることで、RITE 開発液の結果に妥当性を与えることになる。 NETL は、RITE の分析と NETL の分析が方法論的に一致するよう、実施を協力する。 3-1-3 まとめ RITE-NETL 間の情報交換を通して、それぞれが保有する技術を理解することが出来た。NETL は、既存の化学吸収液についての高精度なプロセスシミュレーション技術を構築しており、これ は CO2 分離回収技術のプロセスシミュレータと発電プラント全体を対象としたシステムレベルの 評価手法を含んでいる。一方 RITE は、低エネルギー・低コスト型の先進的な化学吸収液を開発 しており、それを用いた CO2 分離回収技術のプロセスシミュレータを構築中である。 以上のことから、NETL の技術情報をベースに RITE のプロセスシミュレータを改良すること が、化学吸収液に対するシステムレベルの評価手法の高度化に繋がると期待出来る。 - 89 - 3-2 RITE 開発液を対象とした CO2 分離回収プロセスのプロセスシミュレータ の改良 3-2-1 概要 RITE は、平成 16 年度から 20 年度にかけて取り組んだ経済産業省補助事業「低品位廃熱を利 用する二酸化炭素分離回収技術開発」において、CO2 分離回収エネルギーを低減し、CO2 分離回 収コストを半減する化学吸収液(以下、RITE 開発液)を開発した。また、その研究活動におい ては簡易的なプロセスシミュレータにより RITE 開発液のプロセス仕様を検討している。 また、NETL は化学吸収法の総合的な評価技術として、システムレベルのプロセスシミュレー ション技術を有しており、MEA やアンモニア水溶液といった標準的な吸収液の評価に適用されて いる。 そこで本事業では、NETL との情報交換等で収集したプロセスシミュレーションの技術情報を 調査し、RITE が保有するプロセスシミュレータの改良を実施した。また、NETL との情報交換 において、吸収液の物性値がシミュレーション上必要であることを確認し、pH、表面張力、比熱 等の物性値測定を実施した。 3-2-2 RITE 開発液の物性値測定 NETL との情報交換において吸収液の物性値のモデル化がプロセスシミュレータ構築に重要で あることを確認した。そこで、モデルの改良を実施することを念頭に、RITE 開発液および主剤 である IPAE の物性値を測定する。 (1)pH 測定 a. 目的 CO2 吸収液の物性データを収集するため、3 条件の温度(①25℃、②40℃、③60℃)での水 素イオン濃度の測定を行う。 b. 試料及び試料数 No.(1) IPAE 1[mol/L] CO2 ローディング無し No.(2) IPAE 1[mol/L] CO2 ローディング 0.1[mol-CO2/mol-amine] No.(3) IPAE 1[mol/L] CO2 ローディング 0.3[mol-CO2/mol-amine] No.(4) IPAE 1[mol/L] CO2 ローディング 0.5[mol-CO2/mol-amine] No.(5) IPAE 30wt% CO2 ローディング無し No.(6) IPAE 30wt% CO2 ローディング 0.1[mol-CO2/mol-amine] No.(7) IPAE 30wt% CO2 ローディング 0.3[mol-CO2/mol-amine] No.(8) IPAE 30wt% CO2 ローディング 0.5[mol-CO2/mol-amine] - 90 - No.(9) IPAE 50wt% CO2 ローディング無し No.(10)IPAE 50wt% CO2 ローディング 0.1[mol-CO2/mol-amine] No.(11)IPAE 50wt% CO2 ローディング 0.3[mol-CO2/mol-amine] No.(12)IPAE 50wt% CO2 ローディング 0.5[mol-CO2/mol-amine] No.(13)RITE 開発液 CO2 ローディング無し No.(14)RITE 開発液 CO2 ローディング 0.1[mol-CO2/mol-amine] No.(15)RITE 開発液 CO2 ローディング 0.3[mol-CO2/mol-amine] No.(16)RITE 開発液 CO2 ローディング 0.5[mol-CO2/mol-amine] 計 16 検体 c. 分析・試験項目 水素イオン濃度(pH) d. 分析・試験方法 JIS K 0102 12.1 ガラス電極法 e. 試験条件 ①試料は試験を開始するまでの間、冷暗所で保存した。 ②条件1:25℃ ウォーターバスを用いて試料を 25℃まで加熱し、pH 測定用電極(有機溶媒等用)にて 水素イオン濃度を測定した。 ③条件2:40℃ ウォーターバスを用いて試料を 40℃まで加熱し、pH 測定用電極(有機溶媒等用)にて 水素イオン濃度を測定した。 ④条件3:60℃ ウォーターバスを用いて試料を 60℃まで加熱し、pH 測定用電極(有機溶媒等用)にて 水素イオン濃度を測定した。 - 91 - f. 測定結果 表 3-2-1 水素イオン濃度測定結果 No. 分析結果*2 試料名 試料 CO2 ローディング 25℃ 40℃ 60℃ 無し 12.1 11.7 11.4 0.1 10.8 10.5 10.3 0.3 10.2 9.9 9.7 (4) 0.5 9.7 9.5 9.3 (5) 無し 12.4 12.0 11.8 0.1 10.9 10.5 10.2 0.3 10.3 10.0 9.6 (8) 0.5 9.9 9.5 9.3 (9) 無し 12.7 12.2 12.0 0.1 10.9 10.4 10.1 0.3 10.4 9.9 9.5 (12) 0.5 9.9 9.5 9.2 (13) 無し 12.7 12.2 12.0 0.1 11.0 10.5 10.2 0.3 10.4 10.0 9.6 0.5 10.0 9.6 9.2 成分 濃度 (1) (2) (3) (6) (7) (10) (11) IPAE IPAE IPAE (14) RITE (15) 開発液 (16) 1[mol/L] 30[wt%] 50[wt%] 下記参照*1 [mol-CO2/mol-amine] 備考:※1 (13)~(16)の RITE 開発液は IPAE を主剤とするアミン水溶液 ※2 測定温度ごとに試料を替えて測定を行った。 - 92 - (2)表面張力 a. 目的 CO2 吸収液の物性データを収集するため、濃度、CO2 loading の異なる吸収液サンプルに ついて表面張力を促成する。 b. 試料および試料数 (1)IPAE 1[mol/L] 無し (7)IPAE 30wt% 0.3 (2)IPAE 1[mol/L] 0.1 (8)IPAE 30wt% 0.5 (3)IPAE 1[mol/L] 0.3 (9)IPAE 50wt% 無し (4)IPAE 1[mol/L] 0.5 (10)IPAE 50wt% 0.1 (5)IPAE 30wt% 無し (11)IPAE 50wt% 0.3 (6)IPAE 30wt% 0.1 (12)IPAE 50wt% 0.5 計 12 検体 c. 分析試験方法 測定条件(温度): 25℃、60℃ 測定方法: (密度) JIS K 2249 に準拠 (表面張力) 試料を注射器に入れ、針先から落下する直前の液滴を作り、液滴の画像と密度から表面 張力を算出した。 d. 測定装置 (密度) 振動式密度計 (表面張力) 協和界面科学社製 接触角計 Drop Master 500 e. 測定結果 表面張力の測定結果と算出に用いた密度を表 3-2-2 に示した。 - 93 - 表 3-2-2 表面張力の測定結果 試料名 (1)IPAE 1[mol/L] 無し (2)IPAE 1[mol/L] 0.1 (3)IPAE 1[mol/L] 0.3 (4)IPAE 1[mol/L] 0.5 (5)IPAE 30wt% 無し (6)IPAE 30wt% 0.1 (7)IPAE 30wt% 0.3 (8)IPAE 30wt% 0.5 (9)IPAE 50wt% 無し (10)IPAE 50wt% 0.1 50wt% 0.3 (12)IPAE 50wt% 0.5 (11)IPAE 測定温度 密度 表面張力※1 [℃] [g/cm3] [mN/m] 25 0.994 47.3 60 0.978 44.0 25 0.998 48.2 60 0.982 44.6 25 1.010 51.8 60 0.992 47.7 25 1.020 57.6 60 1.001 53.3 25 0.987 37.7 60 0964 35.1 25 1.004 38.4 60 0.979 35.6 25 1.033 39.8 60 1.006 36.6 25 1.056 44.0 60 1.028 39.3 25 0.973 34.4 60 0.945 31.7 25 0.995 34.8 60 0.967 32.1 25 1.038 35.6 60 1.008 32.3 25 1.076 37.6 60 1.046 33.5 ※1 有効数字 3 桁目は参考値。 - 94 - (3)蒸発潜熱 a. 目的 アミン化合物を対象に標準沸点付近での蒸発潜熱を DSC 法により測定し、プロセスシミュレー ションに必要な物性値を収集する。 b. 試料 下記に示す吸収液の原料アミン:計4検体 1)MEA 2)IPAE 3)MDEA 4)1-2HE-PP c. 測定手法 DSC(Differential Scanning Calorimetry; 示差走査熱量計)法 d. 測定条件 1)装 置:Du Pont 社製 DSC910 型 2)昇 温 速 度:10℃/min 3)温 度 範 囲:室温~約 300℃ 4)測定雰囲気:窒素中 5)測 定 圧 力:大気圧 6)試 料 容 器:アルミニウム製密閉容器(ピンホール付き) 7)試 料 量:約 5mg 8)測 定 n 数:2(試料を替えて測定) e. 結果と考察 DSC 測定の結果、いずれの試料も 150~260℃の範囲内に蒸発に伴う吸熱ピーク(蒸発ピーク) が認められた。この蒸発ピークとベースラインとに囲まれた部分が蒸発潜熱に相当する。表 3-2-3 に測定結果のまとめを示す。蒸発潜熱の測定精度は±10%程度と推測される。 なお、本法は動的な(温度を変化させて測定する)手法なので、得られた蒸発潜熱は一定温度の 値ではなく、沸点付近での蒸発潜熱である。 - 95 - 表 3-2-3 蒸発潜熱測定結果 沸点*1 蒸発潜熱*2 (℃) (kJkg-1) 大気圧 169 762 IPAE 大気圧 171 480 MDEA 大気圧 246 339 1-2HE-PP 大気圧 199 269 試料 圧力 MEA *1:試料を替えて 2 回測定時の平均値、測定精度は±3℃程度と推定。 *2:試料を替えて 2 回測定時の平均値、測定精度は±10%程度と推定。 - 96 - (4)比熱 a. 目的 プロセスシミュレータ構築に必要となるアミンの物性値を収集するため、アミン化合物の水溶 液について、25℃および 60℃における比熱を求めること。 b. 試料 アミン水溶液8検体 IPAE 30wt% CO2 ローディング無し IPAE 30wt% CO2 ローディング 0.1[mol-CO2/mol-amine] IPAE 30wt% CO2 ローディング 0.3[mol-CO2/mol-amine] IPAE 30wt% CO2 ローディング 0.5[mol-CO2/mol-amine] IPAE 50wt% CO2 ローディング無し IPAE 50wt% CO2 ローディング 0.1[mol-CO2/mol-amine] IPAE 50wt% CO2 ローディング 0.3[mol-CO2/mol-amine] IPAE 50wt% CO2 ローディング 0.5[mol-CO2/mol-amine] c. 測定方法 DSC(示差走査熱量測定)法 d. 測定条件 測定装置:Perkin-Elmer 社製 示差走査熱量計 DSC-7 昇温速度:10℃/min 標準試料:サファイア(α-Al2O3) 雰 囲 気:乾燥窒素気流中 測定温度:25℃,60℃(温度走査 5℃→60℃) 試料容器:(株)リガク製 アルミニウム密閉容器 測定n数:2(それぞれ異なる試料を用いて測定した) e. 測定結果 測定結果を表 3-2-4 に示す。測定精度は±1%程度である。 - 97 - 表 3-2-4 比熱測定結果 試料 IPAE 30wt% CO2 ローディング無し IPAE 30wt% CO2 ローディング 0.1[mol-CO2/mol-amine] IPAE 30wt% CO2 ローディング 0.3[mol-CO2/mol-amine] IPAE 30wt% CO2 ローディング 0.5[mol-CO2/mol-amine] IPAE 50wt% CO2 ローディング無し IPAE 50wt% CO2 ローディング 0.1[mol-CO2/mol-amine] IPAE 50wt% CO2 ローディング 0.3[mol-CO2/mol-amine] IPAE 50wt% CO2 ローディング 0.5[mol-CO2/mol-amine] 温度 比熱*1 T Cp /℃ /Jkg-1K-1 25 4090 60 4120 25 4060 60 4140 25 4020 60 4120 25 3940 60 4050 25 3700 60 3880 25 3670 60 3840 25 3560 60 3690 25 3480 60 3640 *1:試料を入れ替えて 2 回測定した際の平均値を有効数字 3 桁に丸めた値 比熱の測定精度は±1%程度 - 98 - (5)熱伝導率 a. 目的 化学吸収法のプロセスシミュレータ構築に必要とされるアミン水溶液の熱伝導率を測定する。 b. 試料及び試料数 アミン水溶液 (5)IPAE 30wt% CO2 ローディング無し (6)IPAE 30wt% CO2 ローディング 0.1 (7)IPAE 30wt% CO2 ローディング 0.3 (8)IPAE 30wt% CO2 ローディング 0.5 (9)IPAE 50wt% CO2 ローディング無し (10)IPAE 50wt% CO2 ローディング 0.1 (11)IPAE 50wt% CO2 ローディング 0.3 (12)IPAE 50wt% CO2 ローディング 0.5 計 8 検体 c. 分析・試験方法 測定方法:熱線法 測定規格:JIS R2616 測定温度:25℃,60℃ 試 料 量:約 20ml 測定加熱時間:20 秒 ARC-TC-1000 型(アグネ製) 測定装置:熱伝導率測定装置 d. 分析・試験結果 表 3-2-5:熱伝導率測定結果 No. 熱伝導率 W/(m・K) 試料名 25℃ 60℃ (5) IPAE 30wt% CO2 ローディング無し 0.402 0.412 (6) IPAE 30wt% CO2 ローディング 0.1 0.403 0.410 (7) IPAE 30wt% CO2 ローディング 0.3 0.404 0.412 (8) IPAE 30wt% CO2 ローディング 0.5 0.406 0.414 (9) IPAE 50wt% CO2 ローディング無し 0.361 0.354 (10) IPAE 50wt% CO2 ローディング 0.1 0.365 0.352 (11) IPAE 50wt% CO2 ローディング 0.3 0.364 0.356 (12) IPAE 50wt% CO2 ローディング 0.5 0.366 0.358 - 99 - 3-2-3 プロセスシミュレーションモデル (1)吸収液のモデリング RITE は COCS プロジェクトにおいて、RITE 開発液のプロセスシミュレータを構築し、プラ ント試験との良好な一致を得ていた。しかし、化学吸収液の解析パラメータのモデル化は、吸収 液に含まれるアミン化学種を単成分として取り扱う簡易的な手法であった。しかし、NETL のプ ロセスシミュレータは吸収液に含まれる個々の化学種を正確に組み込んでいる。そこで、RITE 開発液のシミュレータに関して、個々のアミン化学種を考慮するよう改良検討を実施する。 RITE 開発液は、イソプロピルアミノエタノール(IPAE)とピペラジン(PZ)を主たる吸収剤 として使用した化学吸収液である。しかし、AspenPlus の汎用ソフト上に IPAE に関するデータ はまとめられておらず、ユーザーが物性値を入力する必要がある。そこで以下に IPAE のモデル 化に関して記述する。なお、PZ に関しては、MEA-PZ 等の混合水溶液のモデルが構築されてお り、ユーザーはそれを利用することが可能である。 (2)気液平衡データのモデリング a. 概要 IPAE について、Aspen Plus V7.1(以下、A+)を用いて、実験室で測定された気液平衡データを もとに AspenPlus 上にデータを構築する。以下に、具体的な気液平衡データの組み込みに関して 記 述 す る 。 な お 、 IPAE は 2-(Isopropylamino) ethanol (C5H13NO, MW=103.1629, CAS No.=109-56-8)を示し、アニオン化された IPAE を IPAE+、カチオン化された IPAE を IPAECOOとして表示している。 b. NIST からの parameter 読み込み NIST(National Institute of Standards and Technology:アメリカ国立標準技術研究所)のデ ータベースから物性値を読み込み、AspenPlus の parameter に登録する。プロセスシミュレーシ ョンにおいて、A+中の kemea.bkp をベースとして用いた。このファイルを呼び出し、Henry 成 分として N2 を追加し、REVIEW で Parameter をセットしたあとに、”H2S”に関するパラメータ、 反応を削除し、ベースファイルを完成させる。 次に、以下のデータを変更する。 - REVIEW の IPAE に、FREEZEPT,MW,OMEGA,PC,TB,TC,VC,ZC のデータを貼り付ける。 - Data4 の IPAE の RKTZRA を削除する。 Default 値である ZC に設定される。 - Data4 の IPAE+と IPAECOO-の MW を修正 IPAE+(MW=104.1704)、IPAECOO-(MW=146.1654) - DHF0RM と DHAQFM は、MEA のデータを使用する。 また、温度依存性の物性値に関して修正を行う。AspenPlus の以下の項目を変更する。 - Liquid Molar Volume(DNLRAC)の登録 - 100 - - Liquid Vapor Pressure(WAGNER25)の登録、及び、PLXANT(IPAE)の削除 - Heat of Vaporization(DHVLTDEW )の登録。 - Ideal Gas Cp(CPIALEE)の登録、及び、PIG(IPAE)の削除。 - Liquid Viscosity(MULPPDS9)の登録、及び、MULAND(IPAE)の削除。 - Vapor Viscosity(MUVTMLP0)の登録。 - Liquid Thermal Conductivity(KLTMLP0)の登録、及び、KLDIP(IPAE)の削除。 - Liquid Thermal Conductivity(KVTMLP0)の登録、及び、KVDIP(IPAE)の削除。 - SIGDIP(IPAE)の削除。 なお、イオン成分を非揮発性として扱うために、イオン成分の PLXANT=-1e20 とし、GMELCE の IPAE 関連のデータにゼロを入力する。 c. 電解質反応の定義 液中でのイオン解離反応を以下に定義する。なお、以降は以下の反応式番号を使用する。 (1) (2) (3) (4) (5) IPAE + + H 2 O ↔ IPAE + H 3O + CO2 + 2.0 H 2 O ↔ HCO3− + H 3 O + HCO3− + H 2 O ↔ CO32− + H 3 O + IPAECOO − + H 2 O ↔ IPAE + HCO3− 2.0 H 2 O ↔ H 3 O + + OH − (2)(3)(5)式については、AspenPlus の組込みの係数をそのまま使うことにし、(1)(4)の反応式の 定数を決定する。また、上記 Chemistry は、ソフト上で図 3-2-1 に示すとおり定義した。 図 3-2-1 AspenPlus 上の設定画面 - 101 - なお、平衡定数 Ln(Keq)は、以下のように定義されている。 ln( Keq) = A + B / T + C × ln(T ) + D × T 上式の各係数を求めるには、各温度における Ln(Keq)を求め、その後、最小二乗法により各係 数を fitting する方法を取る。 つまり、CO2 分圧、温度に対する Ln(Keq)および CO2 Loading との相関は、図 3-2-2 に示すモ デルを使って、”SEP”の温度、圧力及び Stream”GASIN”の組成を調整し、Ln(Keq)と CO2 Loading の相関を計算させることで、Ln(Keq)の値を算出し、温度依存性の係数を回帰する。 VAP GASIN SEP RC22 LIQ Ln(Keq)と CO2 Loading の相関を計算するための”SEP”ブロック 図 3-2-2 d. 気液平衡データの概要 CO2 Loading (mol CO2/mol Amine) CO2-IPAE-H2O 系の気液平衡データを図 3-2-3 に示す。 1 0.8 120degC 110degC 100degC 70degC 40degC 0.6 0.4 0.2 0 0 50 100 150 200 CO2 Partial Pressure (kPa) 図 3-2-3 250 CO2-IPAE-H2O 系の気液平衡データ - 102 - 試験値を扱うにあたっては留意すべき点がある。液中のイオン解離平衡は定義された反応式の もとで進むため、反応式群のもとではイオンのチャージバランスが取れていることから、2価イ オンである CO3-イオン濃度により、最大 CO2 Loading は下記式で表される。 最大 CO2 Loading 量 =(IPAE のイオン化量)―(CO3-イオン量)+(水に対する CO2 の Henry 溶解) データの fitting には、実際の Absorber-Stripper 系のフィードの CO2 分圧、Absorber 系の温 度、Stripper 系の圧力(CO2 分圧)と温度を考慮して、データの重み付けを行う必要がある。温 度および CO2 分圧をシミュレーションのプロセス設定条件から表 3-2-6 に示すとおり設定した。 表 3-2-6 データの重み付けに係わるプロセス設定条件 系 温度 CO2 分圧 CO2 Loading Absorber 40℃ 26kPa 0.70mol/mol Amine Stripper 110℃ 203kPa 0.12mol/mol Amine e. 25℃における解離定数の決定 25℃における CO2 Loading と pH との関係を、図 3-2-4 に示す。 13 pH 12 11 10 9 0.00 図 3-2-4 0.10 0.20 0.30 0.40 0.50 0.60 CO2_loading (moles CO2/mole Amine) 0.70 25℃における CO2 Loading と pH との関係 - 103 - また、上記グラフ中の「CO2 が Loading されているときの CO2 Loading と pH との関係」は、 下記式で直線回帰される。 pH = −2.0726 × CO2 Loading + 10.945 ・・・・・・・・・・関係式① CO2 Loading がゼロにおいては、以下の二つの解離反応のみが生ずる。 (1) (5) IPAE + + H 2 O ↔ IPAE + H 3O + 2.0 H 2 O ↔ H 3O + + OH − 25℃における pH が与えられているため、式(1)の Ln(Keq)を AspenPlus で算出する; Ln(Keq) = -28.2665 IPAE + + H 2 O ↔ IPAE + H 3O + (at 25 o C ) 次に、任意に CO2 Loading を与えることで式(4)の Ln(Keq)を算出した結果を、図 3-2-5 に 示す。Calc.で示した点は、AspenPlus での CO2 Loading に対する pH の計算結果を示し、Exper. で示したものは、上記関係式①から算出したものである。 11 pH 10 Exper. Calc. 9 8 7 -16 -14 -12 -10 -8 -6 -4 -2 0 Ln(Keq,#4) 図 3-2-5 pH の試験値と計算値の比較 この結果から、式(4)の以下に定義した。 Ln(Keq) = -5.1 IPAECOO − + H 2 O ↔ IPAE + HCO3− (at 25 o C ) 上記で定義された、二つの Ln(Keq)を使って、この値が試験値とフィッティングされているか を検証した結果を図 3-2-6 に示す。 - 104 - 13 pH 12 Exper. Calc. 11 10 9 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 CO2_loading (moles CO2/mole Amine) 図 3-2-6 0.7 pH の試験値と計算値の比較 図 3-2-6 の結果から、25℃における計算された Ln(Keq)の値を用いて計算された CO2 Loading は、十分にフィッティングされた値であることが示される。 f. 40℃における解離定数の決定 25℃における結果及び、MEA の参考データから、反応式(1)及び(4)の Ln(Keq)を適当に変化さ せて CO2 Loading のフィッティングを行う。 CO2 分圧が PCO2=11.50kPa から 217.66kPa の間の 5 点について、反応式(1)と(4)の Ln(Keq) を変化させて CO2 Loading をフィッティングさせた。結果を図 3-2-7~図 3-2-11 に示す。 0.65 CO2 Loading 0.60 Rx4=-6 Rx4=-5 Rx4=-4 Rx4=-3 Rx4=-2 0.55 0.50 0.45 0.40 -29 -28 -27 -26 Ln(Keq,Rx1) 図 3-2-7 ※ 11.5kPa における解離定数 40℃、0.122MPa,PCO2=11.50kPa において、 CO2 Loading =0.594mol-CO2/mol-Amine をフィッティングさせた結果。 - 105 - CO2 Loading 0.75 Rx4=-6 Rx4=-5 Rx4=-4 Rx4=-3 Rx4=-2 0.70 0.65 -33 -32 -31 図 3-2-8 ※ -30 -29 Ln(Keq,Rx1) -28 -27 24.7kPa における解離定数 40℃、0.133MPa,PCO2=24.68kPa において、 CO2 Loading =0.701mol-CO2/mol-Amine をフィッティングさせた結果、この条件で は、反応式(4)の Ln(Keq)が-3 より大きいときは解が無い。 CO2 Loading 0.80 0.75 Rx4=-6 Rx4=-5 Rx4=-4 0.70 0.65 -36 -35 -34 図 3-2-9 ※ -33 -32 -31 Ln(Keq,Rx4) -30 -29 -28 54.07kPa における解離定数 40℃、0.142MPa,PCO2=54.07kPa において、 CO2 Loading =0.791mol-CO2/mol-Amine をフィッティングさせた結果、計算上の最 大 Loading は 0.765714mol/mol-Amine となり、この条件では解が無い。 - 106 - CO2 Loading 0.85 0.80 Rx4=-6 Rx4=-5 Rx4=-5 0.75 0.70 -36 -35 -34 図 3-2-10 ※ -33 -32 -31 Ln(Keq,Rx4) -30 -29 -28 107.8kPa における解離定数 40℃、0.223MPa,PCO2=107.8kPa において、 CO2 Loading=0.862mol-CO2/mol-Amine をフィッティングさせた結果、計算上の最大 Loading は 0.82386mol-CO2/mol-Amine となり、この条件では解が無い。 CO2 Loading 0.90 Rx4=-6 Rx4=-5 Rx4=-4 0.85 0.80 -36 -35 -34 図 3-2-11 ※ -33 -32 -31 Ln(Keq,Rx4) -30 -29 -28 107.8kPa における解離定数 40℃、0.224MPa,PCO2=217.66kPa において、 CO2 Loading=0.909mol-CO2/mol-Amine をフィッティングさせた結果、計算上の最大 Loading は 0.82386mol-CO2/mol-Amine となり、この条件では解が無い。 以上、40℃における CO2 Loading をフィッテングさせた結果から、PCO2=26kPa において反応 式(1)と(4)の Ln(Keq)の相関関係を算出し、他の分圧における相関を推算した。結果を図 - 107 - 3-2-12 および図 3-2-13 に示す。 -28 Ln(Keq,#1) -29 11.5kPa 24.7kPa 26kPa 線形 (26kPa) -30 -31 -32 -33 -6 -5 図 3-2-12 -4 Ln(Keq,#4) -3 -2 y = 0.1446x - 31.012 反応式(1)と(4)の Ln(Keq)の相関関係 -18 Ln(Keq,#1) -19 13.6kPa 123.0kPa 248.2kPa 203kPa 多項式 (203kPa) -20 -21 -22 -6 -5 -4 図 3-2-13 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 Ln(Keq,#4) y = -0.0073x3 + 0.0265x2 + 0.0166x - 21.09 反応式(1)と(4)の Ln(Keq)の相関関係 g. 解離定数の係数の最適化 反応式(1)及(4)の Ln(Keq)の温度依存性の式の最適な係数の算出を行う。以下に関係式を定義す る。 y i = ln( Keq #1,i ) = A#1 + B#1 / Ti + D#1 × Ti xi = ln( Keq # 4,i ) = A# 4 + B# 4 / Ti + D# 4 × Ti - 108 - σ 1 = ( y1 + 28.2665) 2 + ( x1 + 5.1) 2 σ 2 = { y 2 − (0.1446 x 2 − 31.012)}2 σ 3 = { y 3 − (−0.0082 x3 3 − 0.0022 x3 2 + 0.0104 x3 − 25.002)}2 σ 4 = { y 4 − (−0.0079 x 4 3 − 0.004 x 4 2 + 0.001x 4 − 23.188)}2 σ 5 = { y 5 − (−0.0061x5 3 + 0.0266 x5 2 − 0.0237 x5 − 22.174)}2 σ 6 = { y 6 − (−0.0073 x6 3 − 0.0265 x6 2 + 0.0166 x6 − 21.09)}2 ここで、下部添え字は、#がある場合は反応式の番号、#が無い場合は温度(1=25℃、2=40℃、 3=70℃、4=110℃、5=110℃、6=120℃)を表す。 6 上記の関係式の条件で、 ∑λ σ i =1 i i が最小となるように、Ln(Keq)の係数の最適値を算出する。こ こで、λi は重み付け係数で、∞の値は等式で扱った(σi がゼロである)ことを意味する。 解離定数の最適計算を実施後の CO2 分圧と CO2 Loading との関係を図 3-2-14 に示す。図中で 試験データは、線で表し、計算点はマーカーで示した。40℃の値は前述したように 20%程度低い CO2 Loading の値を示した。70℃では 26kPa 付近での値、及び 110℃での 203kPa 付近での値は 精度良くフィッティング されている。 CO2 Loading (mol CO2/mol Amine) 1 120degC 110degC 100degC 70degC 40degC 120degC 110degC 100degC 70degC 40degC 0.8 0.6 0.4 0.2 0 0 50 図 3-2-14 100 150 200 CO2 Partial Pressure (kPa) 250 気液平衡データと組み込んだモデルの比較 - 109 - 本モデル化の最後に、AspenPlus で内蔵されている MEA の Ln(keq)と新しく作成された IPAE の Ln(Keq)の値を図 3-2-15 に示す。アニオン及びカチオンを生成する両方の反応式における温度 に対する勾配が大きいことから、図は温度に対する性能が MEA よりも優れていることが示して いる。 5 0 Ln(Keq) -5 MEA+ MEACOOIPAE+ IPAECOO- -10 -15 -20 -25 -30 20 40 60 80 100 Temprature (degC) 図 3-2-15 120 IPAE と MEA の比較 - 110 - 3-2-4 まとめ NETL のシミュレーション技術に関する情報を収集し、それをベースに以下の 2 点を実施した。 ・ RITE 開発液に関する物性値・解析パラメータの収集 より精度のあるシミュレーションを実施するためには、吸収液およびアミンの物性値を正確 にプロセスシミュレータに組み込んでおく必要がある。そこで、本事業では、pH、表面張力、 蒸発潜熱、比熱、熱伝導率の測定を実施した。 ・ 気液平衡データの新規モデル化 RITE は COCS プロジェクトにおいて、RITE 開発液のプロセスシミュレータを構築し、プラ ント試験との良好な一致を得ていた。しかし、化学吸収液の解析パラメータのモデル化は、吸収 液に含まれるアミン化学種を単成分として取り扱う簡易的な手法であったことから、今回個々の 化学種を正確に組み込むことを目的に、IPAE の気液平衡データのモデル化を実施した。その結 果、MEA より大きな CO2 loading を有する IPAE の特性を表せるようになった。 - 111 - 3-3 CO2 分離回収プラントの試験データの集積とプロセスシミュレータ の高度化 3-3-1 概要 化学吸収法のプロセスシミュレータを構築するためには、プラント試験から得られるプロセス データの収集が必要である。本事業において、RITE は国内民間企業が保有するパイロットプラ ント(10t/d 規模)を用いて RITE 開発液を評価し、プロセスデータを入手した。また、RITE は 平成 21 年度に CSIRO(Australian Commonwealth Scientific and Research Organisation,豪 州)と共同実施した RITE 開発液のプラント試験(1t/d 規模)の結果からプロセスシミュレーシ ョンに必要なプロセスデータを調査した。 その他、CO2 回収技術のスケールアップに伴って化学吸収液の環境影響が重要視されつつある。 そこで国外の CO2 回収技術の動向を、環境影響の観点も含めて調査した。 本節では以下の3項目について成果を記載する。 (1)東芝のプラント試験による RITE 開発液のデータ収集 (2)CSIRO の試験データ (3)環境影響等の調査結果 - 112 - 3-3-2 東芝でのパイロットプラント試験 RITE は、本事業の実施項目の一つである RITE 開発液のプロセスデータの収集を東芝に委託 し、(株)シグマパワー三川発電所(図 3-3-1)内に設置された東芝所有の 10t-CO2/d パイロットプ ラント設備にて CO2 分離回収試験を実施した。本試験は、化学吸収法のプロセスシミュレーショ ン技術の構築に利用できるプロセスデータを収集することが目的であり、液ガス比およびリボイ ラー供給熱量等を変化させ、異なる試験条件で安定したプラント運転を実施し、定常状態でプロ セスデータを収集することが必要である。実作業は 10 月 11 日にプラント運転を開始し、延べ 10 日間で 16 条件の試験を実施した。その結果、系統だったプロセスデータを収集すると共に、短期 間の試験ではあるが、吸収液性能を評価し得る結果を得ている。また、プロセスデータとして、 吸収液サンプルの分析、および吸収塔上部からアミン由来のガス生成物を測定するためのガス分 析を実施した。以下に試験結果を紹介する。 (1)RITE開発液のプロセスデータ収集 a.試験方法 図 3-3-1 三川発電所および CO2 回収設備のフロー[6] - 113 - 図 3-3-2 に東芝の 10t-CO2/d パイロットプラント試験設備を示す。㈱シグマパワー三川発電所の 煙道から石炭燃焼排ガスを導入し、CO2 分離回収試験を実施している。設備は 2009 年 3 月着工、 同年 8 月試験運転開始。2010 年 9 月の GHGT-10 では東芝自社開発の TS 液の試験結果を報告し ている。 図 3-3-2 東芝のパイロットプラント試験設備[7] 試験工程を表 3-3-1 に示す。ガス処理量は 2100Nm3/h を基準とした。短期間の試験であり、各 条件について液循環量からリードタイムを設定し、リードタイム終了後に CO2 分離回収が十分に 安定な状態であることを確認し、プロセスデータ収集を行った。 表 3-3-1 No. RITE 開発液の試験条件 再生塔圧力 液ガス比 スチーム供給量 [MPaG] [L/Nm3] 設定[GJ/t-st] ① 0.085 5.0 1.2 再生塔ボトム温度の調整。 ② 0.095 5.0 1.2 目標 115~118℃ ③ 0.12 5.0 1.2 ④ 0.12 5.0 1.4 ⑤ 0.12 5.0 1.0 ⑥ 0.12 3.5 1.4 ⑦ 0.12 3.5 1.2 ⑧ 0.12 3.5 1.0 ⑨ 0.12 2.5 1.4 - 114 - 備考 ⑩ 0.12 2.5 1.2 ⑪ 0.12 2.5 1.0 ⑫ 0.12 2.0 1.2 ⑬ 0.12 2.2 1.3 ⑭ 0.12 2.5 1.2 ⑩と同一運転 ⑮ 0.12 2.5 1.2 ⑩と同一、吸収塔温度改善 ⑯ 0.12 5.0 1.2 ③と同一条件。 連続運転 50h b. 結果と考察 表 3-3-2 にプラント試験③~⑯の 14 条件に関して、CO2 回収率と CO2 回収エネルギーをまと める。①~③の運転は、再生塔ボトム温度を 115℃~118℃辺りになるよう再生塔圧力を変更した トライアンドエラーの試験である。③以降は再生塔圧力を 0.12[MPaG]に設定した。 表 3-3-2 の結果から、以下の 3 点の現象が考察される。 (1) 液ガス比一定の場合、リボイラー供給熱の低減に伴い、CO2 回収エネルギーが低下するが、 CO2 回収率も低下する。供給熱低減は、再生熱量が不足する方向に働く。 (2) リボイラー供給熱一定の場合、液ガス比を下げると、CO2 回収エネルギーが上昇し、且つ CO2 回収エネルギーも低下する。無駄な吸収液の昇温が減ったと考えられる。 (3) 液ガス比が小さな領域は、平衡に基づく液ガス比の限界値に近づいていることと、吸収塔内 の気液接触を悪化させるため、CO2 回収率 90%の達成が難しくなる。 今回の試験から RITE 開発液の最良値は、吸収条件の改善して実施した試験⑮における、CO2 回収率約 90%、CO2 回収エネルギー2.9GJ/t-CO2 であった。 表 3-3-2 リボイラー 供給熱 (設定) [GJ/h] 1.0 1.2 1.3 1.4 RITE 開発液のプラント試験結果 L/G 「L/Nm3] 2.5 2.0 2.2 3.5 ○ Run No. 回収率 [%] CO2回収エネルギー [GJ/t-CO2] ⑪ ⑧ ⑤ 75.7 69.4 2.90 3.14 ⑫ ⑩ ⑭ ⑮ ⑦ ③ 84.9 85.7 86.8 89.5 80.7 2.93 3.03 3.02 2.88 3.19 ⑬ 90.9 2.99 ⑨ ⑥ ④ 92.1 87.0 3.12 3.26 - 115 - 5.0 68.2 3.18 ⑯ 75.3 3.35 84.4 3.47 77.5 3.36 c. まとめ 表 3-3-3 は、今回得られた結果を他社の既往の報告値と比較した結果である。10t-CO2/d 規模の プラント試験では各社、既に長時間運転を実施している。近年の試験は SO2 を数 ppm にまで脱 硫した燃焼排ガスを対象としている。日立は’90 年代半ばに試験を実施、論文の中で SO2 濃度は 30ppm と報告している。また、試験当初 2.7GJ/t-CO2 の CO2 回収エネルギーを報告しているが、 その後 S 分の蓄積と共に、約 1000 時間後に 3.5GJ/t-CO2 に達している。 RITE 開発液について、短時間試験の結果であるが、優れた性能を有することが分かる。 表 3-3-3 石炭燃焼排ガスを対象とした試験結果の比較 吸収液 CO2 回 収 エ ネ ル キ ゙ ー * BASF[8] 三菱[9] 東芝[10] 日立[11] RITE CASTOR-2 KS-1 TS-1 Hitachi RITE H3 開発液 3.5 3.1-3.4 3.2-3.3 2.7-3.5 2.9 24 10 10 5 10 5100 1750 2100 1000 2100 500h 4000h 3000h 2000h 12h 2004-08 2004-06 2009-2010 ~1995 2010 Dong Energy J-Power シグマパワー 東京電力 シグマパワー Esbjerg 発電所 松島火力 三川発電 横須賀火 三川発電 所 力 所 [GJ/t-CO2] 設備能力 [t-CO2/d] ガス処理量 [Nm3/h] 試験期間 [h] 実施時期(又はプロジェク ト期間) 発電所 *90%回収を基準とする - 116 - (2)アミン由来生成物測定のためのガス分析 プラント試験のプロセスデータとして、吸収塔上部から排出される可能性があるアミン由来の アンモニア、アルデヒド類の定量分析を試みた。 a. 装置概要 JIS に記載の、煙道排ガス中に含まれるアンモニア分析法(JIS K 0099)およびホルムアルデ ヒド分析法(JIS K 0303)に基づく分析を実施するための装置である。 装置の概略図を以下に示す。 図 3-3-3 ガスサンプリング装置の一例(JIS K 0303 より引用) この装置図と同様の構成の装置を作成した。 圧力センサ 1 圧力センサ 2 圧力センサ 3 ガス出口 バルブ マスフロー コントローラ 乾燥管 乾式 ガスメーター ポンプ 吸収瓶 a 図 3-3-4 ガスサンプリング装置 - 117 - 吸収瓶 b 装置図 ガス入口 b. ガスサンプリング方法 ① ガラス瓶から吸収瓶 a、b に吸収液を規定量入れる。 (アンモニア分析時は 25ml、アルデヒド分析時は 40ml) ② 各部の接続を確認する ③ ポンプの電源を入れる。 ④ 乾式ガスメーターの指示値を読み取る。 ⑤ マスフローコントローラーの LOCK を解除した後に CLOSE ボタンを押し、バルブ閉を 解除。流量が 1L/min であることを確認する。 ⑥ 規定の時間待つ(2 分~10 分)。 ⑦ マスフローコントローラーの CLOSE ボタンを押し、ガスを止める。 ⑧ 乾式ガスメーターの指示値を読み取る。 ⑨ ポンプの電源を切る。 ⑩ 吸収瓶 a、b の液をガラス瓶に移し、吸収瓶を洗浄・乾燥する。 必要なユーティリティなどは、以下の通り実施した。 ・ポンプ、マスフローコントローラー、データロガー用の電源として、AC100V(100W 程度) が必要。 ・装置はプラスチックの箱の中に組んだ状態で持ち込む。箱のサイズは、 幅 580mm、奥行き 385mm、 高さ 315mm。 ・洗浄用の純水、廃液タンク、キムワイプ等は弊所から持ち込んだ物を使用。 図 3-3-5 実験装置一式 - 118 - c. 試験条件 ガスサンプリングは、対象ガスの濃度等によりサンプリング時間を調整する必要があり、通気 時間を変えて実施した。 試験日: 平成 22 年 10 月 19~20 日 (試験 12 および 13 の実施中にガスサンプリングを実施) ガス通気時間: ・アンモニア分析: 20~60 分 ・アルデヒド分析: 5~20 分 (通気時間 5 分では、アルデヒドは検出下限以下) d. 捕集液サンプルの分析 (アンモニア) アンモニアはホウ酸水溶液に捕集させ、アンモニウムイオン(NH4+)をイオンクロマトグラフ 法で定量分析する。 (アルデヒド) アルデヒドは 2,4-ジニトロフェニルヒドラジン(DNPH)溶液中に捕集し、液体クロマトグラ フ法で定量分析する。 e. 分析結果 表 3-3-4 捕集液サンプルの分析結果 1.3~2.0 ppmv アンモニア濃度 アルデヒド濃度(参考値※) アセトアルデヒド 0.09~0.13 ppmv ホルムアルデヒド 0.08~0.13 ppmv プロピオンアルデヒド Not detected (※アルデヒドについては、分析結果が JIS 規定の定量下限 0.4ppmv よりも小さい) - 119 - 3-3-3 CSIRO でのプラント試験に関するデータ収集 二酸化炭素分離回収・貯留技術(CO2 Capture and Strage: CCS)は地球温暖化対策技術の一 つとして掲げられており、太陽光などの次世代エネルギーシステムの確立までの早期に実施すべ きとして研究開発が進められている。特に、大規模 CO2 発生源である石炭火力発電所からの CO2 回収技術に関しては、アミン系の水溶液を用いた化学吸収法の適用が進められており、欧州では 2004 年から 20t-CO2/d 規模のプラント試験が実施されている(CASTOR、CEASAR プロジェク ト)。また、Mongstad プロジェクトでは数 100t-CO2/d 規模のデモプラントの建設が進められて おり、2011 年から試験が開始される。 現在、CO2 回収技術の研究開発は、実験室レベルで開発した化学吸収液に関して実際の燃焼排 ガスを用いた実証試験の段階に入っている。RITE は、平成 16 年より COCS プロジェクトにお いて新規の化学吸収液の開発を進め、高炉ガスからの CO2 分離回収を対象に、CO2 回収エネルギ ー2.5-2.65GJ/t-CO2 の高性能吸収液(RITE 開発液)を開発している。更に、COCS プロジェク トの研究開発は COURSE50 プロジェクトに引き継いでいる。他方、石炭燃焼排ガスに関しても RITE 開発液の適用を検討すべく、千代田化工建設および CSIRO の協力の下、Loy Yang Power に設置の CSIRO 所有のパイロットプラントで CO2 回収試験を実施した。本報告では、RITE 開 発液の石炭燃焼排ガスへの適用に関して、プラント試験で得られた結果を紹介する。 本試験の目的は、石炭燃焼排ガスを対象とした場合の RITE 開発液の性能と、事前脱硫を省略 した場合のプロセス影響に関して調査した。 (1)CSIRO のパイロットプラント a.パイロットプラント仕様(図 3-3-6) パイロットプラントは CSIRO の設備で、Loy Yang Power に設置されている。Loy Yang Power は石炭火力発電所で、発電所設備に隣接する炭鉱(露天掘り)から直接褐炭を供給している。 吸収塔: 211mmID,2.7m(packing height),2 塔 再生塔: 161mmID,3.9m(packing height) 材質: ステンレス b.プロセスフロー プロセスフローを図 3-3-7 に示す。2 本ある吸収塔は、ガスおよび吸収液の流通方法を変更する ことが可能である。但し本試験では直列に配置したフローとした。 プラントは、事前脱硫設備として NaOH 水溶液による充填塔が設置されており、吸収塔へ導入 される燃焼排ガス中の SO2 は数 ppm 程度まで削減されている。 - 120 - 図 3-3-6 図 3-3-7 CSIRO のパイロットプラント[12] CSIRO のパイロットプラントのプロセスフロー[12] - 121 - c. 試験条件 (吸収液) 試験には COCS プロジェクトで開発した RITE 開発液(RITE-T1)を使用した。COCS プロジェ クトでは、新日鐵君津製鉄所内に設置の 1t/d 試験プラントで CO2 濃度 20%の高炉ガスを使用し た 条 件 に お い て 3.3GJ/t-CO2 の CO2 回 収 エ ネ ル ギ ー を 達 成 し て お り 、 最 適 な 条 件 で は 2.65GJ/t-CO2 の性能を有する。 (ガス条件) 平均的な燃焼排ガス特性は表 3-3-5 の通りである。 表 3-3-5 燃焼排ガス特性 排ガス 温度[℃] 150-170 H2O [%v-wet] 20-22 CO2 [%v-wet] 10-11 O2 [%v-wet] 4-5 SO2 [ppmv-wet] 150 NOx [ppmv-wet] 180 吸収塔入口 34-45 6-9 11-12 5-6 5 195 (試験期間) 試験は SO2 の影響を検討するために、事前脱硫の有無により 2 回の 100 時間相当の運転を実施 した。また、それらの試験の前に RITE 開発液に適した運転条件を検討するための調査運転を実 施した。 表 3-3-6 試験期間 RITE 開発液の運転 調査運転 通常運転 高 SO2 運転 2009.8.12~21 2009.8.24~9.3 2010.1.22~3.10 10 9 19 30 117 114 100~140 140 100 2009.9.4~7 Total number of operation days (延べ日数) 積算時間 [h] ガス量 [m3/h] *再生塔上部温度を指標にリボイラー供給スチームを調整した。 - 122 - 表 3-3-7 Term RITE 開発液の操業計画 G L L/G Stripper [m3/h] [L/min] [L/Nm3] top temp. [C] Campaign 4a (Research operation) ‘09/8/12 ~ ‘09/8/21 Campaign 4a ‘09/8/24 (Low-SO2 run) ~ ‘09/9/3 Campaign 4b ‘10/1/22 (High-SO2 run) ~ ‘10/3/10 100~140 3.5~6.8 2~3.5 90~100 140 5.8 3.0 95 100 3.5~4.3 2.5~3.0 90 d. データ収集判定 プラントの運転は、一日のうちにスタートアップとシャットダウンを繰り返す運転とした。液 循環量にもよるが、本プラントでは 2~3 時間でほぼ定常運転となった。調査運転時は、1 条件に ついて 4~5 時間の運転を実施し、ログデータから安定した範囲を抽出し、平均値を取り出した。 また、長期運転についても 1 日の中で安定した領域のデータの平均値を採用した。 - 123 - e. 物質収支、熱収支解析 ①物質収支 CO2 の物質収支を検討する場合、吸収塔ガス基準、吸収液のリッチ液/リーン液基準、および 再生塔回収 CO2 基準の 3 点を評価すれば良い。微量成分である SO2 については、吸収塔前後のガ ス中および吸収液中の S 分量を評価する。アミン種および水の揮散は、吸収塔入口ガス温度と吸 収塔上部の水洗部から排出されるガス温度を等しくすることで防ぐこととした。 ②熱収支 化学吸収法の CO2 回収エネルギーは、放散塔下部のリボイラーへ供給したスチームのエネルギ ーである。そのため直接スチームの投入エネルギーを評価すればよい(式 1)。但し、小型のプラ ントであるために装置表面からの熱放散(heat loss)が大きい。そこで、CO2 分離回収エネルギ ーを消費熱の積算として表すと、CO2 脱離の反応熱、吸収液昇温の顕熱、および放散塔から散逸 する蒸気潜熱、と前述の heat loss の和となる。本試験では、3 通りの熱評価を実施した。 ・実施の投入熱量基準の CO2 分離回収エネルギー ・反応熱、液昇温熱、蒸気潜熱の和として積算した CO2 分離回収エネルギー ・液昇温の温度差を 5℃と仮定した CO2 分離回収エネルギー Qreboiler (= Qreaction + Qsolvent + Qreflux condenser + Qheat loss ) Case 1or 2 Qreboiler = Qreaction + Qsolvent + Qreflux condenser Qreboiler Qreaction Heat balance 図 3-3-8 High-performance heat exchanger Primary data Case 1 Plant Case 2 CO2 回収エネルギーと熱収支 - 124 - Δt = test data 5ºC Case 2 Qreboiler Reference /measurement Plant test data Qsolvent (Steam input at reboiler) Qreflux Plant Plant test data test data Case 1 Qreboiler Qloss Reference /measurement Qreboiler f. 結果と考察 図 3-3-9 は液ガス比(L/G)を変更した操業における CO2 回収率およびリボイラー供給熱量を 示している。CO2 回収率は L/G の増加とともに上昇するが、リボイラー供給熱量の低減には、L/G 100 12 90 11 80 10 70 9 60 8 50 7 40 6 30 5 20 4 10 3 1.5 CO2 recovery Reboiler heat duty [GJ/t-CO2] [%] 13 CO2 recovery (%) Reboiler heat duty (GJ/ton-CO2) の最適化が必要であることがわかる。 MEA30% RITE-T1(Low-SO2) RITE-T1(High-SO2) MEA30% RITE-T1(Low-SO2) RITE-T1(High-SO2) 0 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 Liquid-to-gas ratio L/G (L/Nm3) 図 3-3-9 リボイラー供給熱量および CO2 回収率 図 3-3-10 は、各キャンペーンでの CO2 回収率の推移を示している。高 SO2 条件の初期に条件 設定が適切でなく回収率が低いが、それ以外では平均 85%程度の CO2 回収率を達成している。 100 CO2 recovery [%] 90 80 70 60 50 40 30 : Low-SO2 20 : High-SO2 10 0 0 20 40 60 80 100 Time [h] 図 3-3-10 連続運転時の CO2 回収率の推移 - 125 - 120 図 3-3-11 は、リボイラー供給熱量の推移を示している。計測値と解析値ともに安定した値で推 移しており、高 SO2 時のほうが低い値を示している。高 SO2 のキャンペーン時のほうがより適切 Reboiler heat duty [GJ/t-CO2] な運転を実施したと言える。 8 7 6 5 4 3 2 : Low-SO2 1 : High-SO2 0 0 20 40 60 80 100 120 Time [h] 連続運転時のリボイラー供給熱量の推移(×、*は計測値、□、■は解析値) 10 9 8 Reboiler heat duty (GJ/ton-CO2) 図 3-3-11 Low-SO2 (Primary data) 7 6 High-SO2 (Primary data) Low-SO2 (Case 1) 5 High-SO2 (Case 1) 4 Low-SO2 (Case 2) 3 2 2.6~2.7 GJ/t-CO2 High-SO2 (Case 2) 1 0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 Liquid-to-gas ratio L/G (L/Nm3) 図 3-3-12 リボイラー供給熱量の熱収支解析 - 126 - 4.5 1.2 Reboiler heat duty [-] 1 -14% -25% 0.8 Condenser 0.6 0.4 Solvent 0.2 Reaction heat 0 MEA30% 1 Low-SO2 2 High-SO2 3 RITE solvent 図 3-3-13RITE 開発液の性能 図 3-3-12 および図 3-3-13 は、RITE 開発液のリボイラー供給熱量の解析結果である。RITE 開 発液は MEA30wt%水溶液に比べて 14%~25%の消費エネルギーの改善性能を有する。 - 127 - (3)まとめ 高炉ガスからの CO2 分離回収を主たる対象として開発した低エネルギー消費・低コスト型の新 規の化学吸収液について、石炭燃焼排ガスへの適用を 1t/d 規模のプラントを用いて検討した。 その結果、RITE 開発液は CO2 回収エネルギー2.6-2.7GJ/t-CO2 の性能を持つ可能性があることが 確認された。また、プラント試験から多くのプロセスデータを収集しており、RITE 開発液の操 業条件等のシミュレーションによる検討に適用することが期待される。 なお、高 SO2 含有ガスの吸収液への影響を検討したが、100 時間程度の試験時間であり、CO2 回収率や CO2 回収エネルギーに顕著な差異を確認するには至らなかった。本項目については今後 の検討が必要である。 - 128 - 3-3-4 化学吸収液の環境影響に関する調査 化学吸収法によるガス分離は既に商用化済みの技術であり、アンモニアプラント等で CO2 分離 回収が実施されている。しかし近年は、地球温暖化対策技術として CCS が注目される中、 Post-combustion 回収技術への化学吸収法の研究開発が盛んである。また、実証試験段階の手前 まで来ており、エネルギー、コストだけでなく、環境影響への取り組みも始まっている。そこで 本研究では、CO2 回収技術および化学吸収液の環境影響に関する調査を実施した。以下に得られ た情報をまとめる。 (1) National Carbon Capture Center[13, 14,15] 石炭火力発電所の燃焼排ガスを対象とした CO2 分離回収は既に数 10 トンから数 100 トンスケ ールのプラント試験の段階である。今回、Southern Company Services Inc. (SCS)が米国エネル ギー省(DOE: Department of Energy)の支援のもと運営する National Carbon Capture Center (NCCC)を見学し、化学吸収法のプロセス評価に関する情報を収集することとした。 図 3-3-14 に NCCC の概要を示す。NCCC は CO2 回収技術の研究開発の加速のために、パイロ ットプラント規模で、CO2 回収技術を試験し、評価する目的で設立されており、研究開発から実 証/商業化の間の橋渡し的な領域の研究開発を担うことが期待されている。 図 3-3-14 NCCC の概要[13] - 129 - NCCC は Southern Company Service (SCS)が DOE から資金を得て実施する。SCS は、Gaston 発電所(6基のユニットにより 1880MW の発電能力のある石炭火力発電所)に 2t/d~10t/d 規模 のプラント試験設備を提供する(図 3-3-15)。 図 3-3-15 計画予定の試験プラント[13] 今回の見学では 10t/d のプラントのタンクや塔の構造物が組み上がった状態であった。現場の 状態は、9 月の NETL(National Energy Technology Laboratory)会議の公開資料[13]とほぼ同 程度の進捗状況であった(図 3-3-16)。 図 3-3-16 10t/d の試験プラント[13] - 130 - 10t/d 試験プラントは、グランドレベルにタンク類を配置し、2階から塔が建設されている。総 高さは 40m 程度。 吸収液は、調整済みの吸収液の受入れだけでなく、設備内での水溶液調整を考慮し、イオン交 換水の提供および混合用タンクも設置している。さらに、ピペラジン等の固体原料に関しても専 用の容器を準備し、溶解させることが出来る。ピペラジンに関しては、テキサス大学が URS Group 社と共同で、高濃度ピペラジンの CO2 回収試験を実施する予定である。 他のプラントと比較して、NCCC のプラントは 10t/d クラスとしては、敷地面積も、塔のサイ ズも余裕がある装置に見えた。また、計測機器や解析体制がしっかりしている。多様な吸収液に 対して精度良い評価が出来るのではないだろうか。 - 131 - (2) AIChE Annual Meeting CO2 回収技術とシミュレーション技術 近年米国は CCS 技術開発を重視しており、2010 年 2 月にオバマ大統領が発表した 2011 会 計年度予算案では、DOE の化石エネルギー局に 7 億 6,040 万ドルを割り当て、エネルギー安全 保障を改善すること、気候変動対策のための早急な技術開発を支援することを目指している (NEDO レポート No.1065)。AIChE は 4 万人以上の会員数を有する米国の化学工学会であり、 2010 年の年会においては 700 件以上のセッションで 5000 件以上の発表がなされた。この学会に おいても、2008 年の AIChE 学会での CCS 関連の発表(CO2 + capture でプログラムを検索した ときのヒット数)は 55 件であったのに対して 2010 年の学会では 155 件とおよそ 3 倍に増加して おり、米国の化学工学会における CCS への関心も高まっているといえる。そこで、2010 AIChE Annual Meeting に参加し、CO2 分離回収技術に関連する情報収集を実施した。 以下に注目すべき発表を紹介する。 Cryogenic CO2 Capture for Improved Efficiency at Reduced Cost Stephanie Stitt Burt, Sustainable Energy Solutions, Andrew Baxter, Sustainable Energy Solutions, Chris Bence, Sustainable Energy Solutions, Larry L. Baxter, Brigham Young University この発表では、従来の吸収液法に変わる新しい CO2 分離回収プロセスについて報告された。発 表者らが提案しているのは低温炭素回収(CCC)プロセスで、吸収液を使用する CO2 分離プロセス よりもエネルギー効率に優れ、費用対効果の高いプロセスであるとしている。このプロセスでは、 はじめに燃焼ガスを乾燥・冷却し、5~7 bar まで圧縮した後に-107℃まで冷却して不純物を除去 した後、ガスを膨張させて-120~130℃まで冷却して CO2 を固体化し、圧縮して固体及び液体の生 成物を得る。固体の CO2 は 70~80bar まで圧縮して最終的に 150bar まで圧縮して地下に貯留す る。詳細なプロセス解析とラボスケールでの実験から、アミン吸収プロセスと比較して 50%のコ ストとエネルギーを削減するポテンシャルがあることが示された。さらに、CCC では燃焼ガス中 の水分を最も利用しやすい形で回収でき、このことはこのプロセスの上流の修正を最小限にする 完全なボルトオン技術であることを示している。その他の気相の汚染物を除去することもでき、 アミン吸収に関連する多量な危険物と、発電所に典型的でないプロセスを削減できるとしている。 このプロセスを用いたベンチプラントを来年度試験する予定とのことである。 本技術は、おそらく処理後ガスの圧力から電力や動力を回収していると思われる。但し、燃焼 排ガスの全量を加圧・冷却することから、省エネルギーなプロセスが構築できるとは信じがたい。 動力回収や熱回収の考え方によっては、アミン吸収プロセスや固体吸収プロセスの圧力操作(加 圧条件での CO2 回収)に応用できるものと考えられる。 - 132 - Characteristics of Aminosilicones Used for CO2 Capture Sarah Genovese, General Electric, Benjamin R. Wood, General Electric, Robert J. Perry, General Electric, Michael O'Brien, General Electric, Sam D. Draper, GE Energy この発表では、新規材料のキャラクタリゼーションと、新しい CO2 吸収液の CO2 吸収特性につ いて示された。アミノシリコンと hydroxyethers の混合物は、30% MEA のような一般的な CO2 吸収液と比較して dynamic CO2 吸収容量が改善した。実験室における試験で測定した特性を用い て、PC 発電所と CO2 回収システムを統合したモデルを構築し、CO2 回収コストを計算した。 実 験室の検討では、27 または 47 種の液を一度に分析する well reactor を用いた。 CO2 吸収熱は Omnicell カロリーメーターで測定し、加えて比熱、粘度を測定。Corrosion study についても行った。この液は吸収容量が大きいが CO2 放散速度が遅く、吸収に伴って固体が析出 する。この特性から、更なるプロセス改善が可能と推定される。 本技術は固体が析出するということから、高濃度の物質を再生工程に回すことで再生エネルギ ーの低減が見込めるため、興味深いプロセスである。その反面、固体があることによるプロセス 構築上の困難が生じることも予想される。 Post-Combustion CO2 Capture Via Formation of Aminosilicone Carbamate Salt Powders in Spray Dryers Robert M. Enick, University of Pittsburgh, Karl Johnson, University of Pittsburgh, Hong-bin Xie, University of Pittsburgh, Deepak Tapriyal, University of Pittsburgh, Bing Wei, University of Pittsburgh, Robert J. Perry, General Electric, Sarah Genovese, General Electric, Benjamin R. Wood, General Electric, Michael O'Brien, General Electric 末端を一級アミンで処理した特に粘度が低いアミノシリコン化合物(GAP-0 として設計)は気 相の CO2 と非常にすみやかに反応し、CO2 を介してアミのシリコン化合物のアミノ基が繋がって、 長い分子となることにより、白色の固体であるカルバミン酸塩を生成することが明らかになった。 CO2 が GAP-0 と量論比で反応した場合、GAP-0 のカルバミン酸塩に含まれる CO2 は重量比で 18% となる。シリンジポンプを用いて実験室規模のスプレードライヤーのノズルから純粋な液体の GAP-0 を射出し、生じた液滴はスプレーチャンバー中を並流している CO2 ガスと反応した。チャ ンバー内で生成したカルバミン酸塩の粉末を、サイクロンによって CO2 除去後のガスから分離し た。 (スプレードライヤー装置を使用したが、生成した固体の粉末は液体の蒸発によって生じたの ではなく、GAP-0 液と CO2 ガストの反応により生じた)発表者らはこのプロセスが溶液を必要と しない新規な CO2 分離プロセスとして提案した。これにより、水溶液や非水系の溶液に必要な潜 熱や顕熱を必要としないため、再生熱を削減する可能性がある。カルバミン酸塩の粉末はサイク ロンの下部から分離し、加熱することで CO2 を放散させ、GAP-0 液を再生する。GAP-0 液はス プレーチャンバーのノズルに再循環させ、CO2 は貯留のために圧縮される。粒子径(SEM)、融 点(DSC)、再生熱(DSC)、温度・圧力・時間・ガス組成と相変化と CO2 放散の関係(可変容積 - 133 - PVT セル)、アルゴンの温度、CO2 の温度と蒸発や CO2 放散に伴う重量損失の関係(TGMS、TG) から、カルバミン酸塩の生成物の特性を決定した。 この発表は、この前の発表と同様の液を用いた研究成果で、新規プロセス(CO2 回収の部分) と物性に焦点を当てた発表であった。前の発表と同様、現象としては興味深いが、実機のプロセ ス改善を行う際に困難が生じることが予想される。今後、問題点をどのように解決していくかが 興味深い。 Electricity-Carbohydrate-Hydrogen (ECHo) Cycle for Sustainability Percival Zhang, Virginia Polytechnic Institute and State University, Weidong Huang, Virginia Polytechnic Institute and State University 発表者らは、持続可能な発展のために電力-炭水化物-水素(ECHo)サイクルを提案している。こ のエネルギー変換サイクルでは、電力は万能のエネルギーキャリアで、水素はクリーンな電力の キャリア、炭水化物は高エネルギー密度の水素キャリア(14.8 H2 mass%)あるいは電力のキャリア (~10 MJ electricity output/kg sugar) あるいは食料、餌、液体バイオ燃料かつ回復可能な材料で ある。このサイクルのそれぞれの要素は、それぞれの入手可能性、必要性、コストに応じて相互 に可逆的・効率的に変換可能である。このサイクルのギャップを埋めるため、電気や水素を用い て CO2 を生物学的に固定して、炭水化物を生成することができる。これらの人工的な光合成プロ セスは、合成生物学、文献、熱力学的解析により設計した。しかし、生物学者、化学者、電気化 学者、エンジニアによる検証実験とその革新が必要である。大規模な人工光合成の手段により、 食物製造、CO2 利用、電力貯蔵、燃料輸送と製造、真水の転換、野生生物の生態回復にくわえ、 宇宙空間における小さく閉じたエコシステムの維持と人類の生存といった、多数の持続可能性に ついての挑戦が解決される。 発表者らは、この講演では実験データなどを示さなかったものの、アニオン交換膜燃料電池を 用いた糖分からの発電や電解質の劣化の問題などに取り組んでいるようである。会場からは厳し い指摘が相次ぎ、この研究をそのまま何かに応用することは難しいが、例えば原子力発電などに より電力が余りつつ、石油が枯渇するような時代にこのような研究が必要となることは予想され る。 Amine Promotion of CO2 Conversion for Artificial Photosynthesis Wei Zhu, University of Illinois, Urbana-Champaign, Brian A. Rosen, University of Illinois at Urbana-Champaign, Richard I. Masel, University of Illinois at Urbana-Champaign この研究の目的は人工光合成を再生可能燃料の原料としていかに使うかを研究することである。 ここでは、鏡や太陽電池パネルを使って発電を行い、その電力を使って CO2 と水を CO、H2 や蟻 酸へ変換する。現在のところ、これらのプロセスを制限する因子は、CO2 を転換する能力である。 - 134 - 現在のとこ、水銀のような触媒を用いて、過電圧を引火することでそこそこの効率を得ることが できるが、それでも効率は低い。ほとんどの電子は代わりに電気分解に用いられてしまう。 発表者らは、水の電気分解を抑え、CO2 の電気分解を促進するためにアミンを用いる研究を行っ た。コリンクロライドにより、水素の発生電圧が 0.5V 上がり、CO2 転化の過電圧が同程度の電圧 下がることがわかった。この結果は、水素の発生よりも CO2 の電気分解が早い条件であったとい うことを示す。生成物は触媒によって変わり、ニッケル触媒を用いた場合は CO が、パラジウム 触媒の場合は蟻酸が発生する。 この発表についても、原子力発電などにより電力が余りつつ、石油が枯渇するような時代にこ のような研究が必要となることが予想される。 A Fast Method for Developing Accurate Scoping and Screening Cost Estimates for Pilot Plants Richard Palluzi, ExxonMobil Research and Engineering Co 設計に要する情報がわずか或いは全くない状態でも、パイロットプラント設計のためのスコー ピングやスクリーニング検討を行う必要が生じることがある。同様のユニットのコストを用いる ような一般的な方法が広く用いられる一方で、経験を持つひとに尋ねて fast cost を quesstimate したり、そのような仮定が正しいか推測することは工業会において継続的な問題である。あまり にも早い見積を行うと様々な誤差を引き起こすが、必要な情報が得られるまで待ち、現実的な仮 定を行うために時間と努力を費やすことは非常に時間を要することが多い。この講演では、 ExxonMobil Research and Engineering が運用に成功している方法について発表された。この方 法は単純なパイロットプラントコストのデータベースの維持を行ない、これを用いて、サイズ・ 複雑さ・建設の容易さの3つのシンプルな項目に対応して新しいパイロットプラントに適用する。 ここでは、各カテゴリの容量を low – average – high にカテゴリ分けを行い、コスト概算を行っ た。最適な条件では 5%程度の誤差となる一方、最適ケースよりも容量が低いと誤差が大きくなり、 計算結果は実際のコストの 280-80%となった。 プラントの建設コストを概算することは非常に難しい問題だが、大企業(エクソンモービル) のコスト概算手法を知ることができた。コスト計算の前提条件に適したサイズの概算を行う(あ るいはサイズが異なる場合は大きめの誤差を許容する)ことが必要であることが確認された。 Carbon Dioxide Capture Using Ionic Liquid 1-Butyl-3-Methylimidazolium Acetate Mark Shiflett, DuPont Central Research and Development, David Drew, DuPont Engineering, Robert Cantini, DuPont Engineering, A. Yokozeki, DuPont Fluorochemicals アミン水溶液のスクラビングによる燃焼ガスからの CO2 の後処理回収が現在最も実行可能な洗 濯であると考えられている。単純な吸収と脱離設備を用いることで、MEA は燃焼ガスの後処理回 - 135 - 収において効率的に CO2 を回収できることが商業的に実証されている。しかしながら、現状の設 備・運転コストは高く、DOE の目標である燃焼排ガスからの CO2 を 90%回収する際に、COE の 悪化を 35%以内とするという目標を満たしていない。このため、新規の吸収剤、吸着剤や膜材料 といった、最もエネルギー効率の高い CO2 分離テクノロジーの開発が進められている。著者らは 商業的な MEA プロセスからエネルギー損失を 16%削減するようなイオン液体をモデル化した。 選択したイオン液体は 1-butyl-3-methylimidazolium acetate で、未だ最適化されていないが、化 学吸収の特性とその性能を理解するために選択した。原料ガスを圧縮してイオン液体に CO2 を回 収させ、再生工程では単純フラッシュを行うこととした。工学設計による推算の結果、イオン液 体プロセスへの投資額はアミンベースのものに比べて 11%削減でき、装置の設置面積を 12%削減 できると推測された。感度解析により、エネルギー損失は 33%まで削減され、DOE の目標を達 成できることが示された。 イオン液体を用いる際、原料ガスを加圧する必要があるが、このエネルギーを含んでもエネル ギー的な利点があるかは疑問に感じた。さらに、放散塔は単純になるものの大容量のブロワが必 要になることから、このエネルギーおよびコスト推算を厳密にする必要がある。ただし、高圧プ ロセスによる設置面積の減少を利点としてあげており、新規プロセスにおける利点の一つとして 訴求できると推察される。また、溶液中のイミダゾール、アセテートの官能基を ATR-IR で分析 しているが(RITE では NMR で分析しているが)、CO2 吸収の反応機構を考察するうえでもこの ような試験が必要である。 CO2-Philic Oligomers as Alternatives for PEGDME in CO2 Absorption Matthew B. Miller, University of Pittsburgh, Robert M. Enick, University of Pittsburgh, David Luebke, US DOE/NETL 先進型のガス化発電プロセスで採用される水性ガスシフト反応により、CO2、H2 と水を含む高 圧のガス混合物が生成する。poly(ethylene glycol) di-methylethers, PEGDME の polydisperse 混合物を CO2 の吸収液として用いることができる。この研究の目的は、低粘度を示しつつ、混合 ガスから CO2 を選択的に吸収させる代替の物理吸収液を同定することである。発表者らの研究の 第一フェーズは、PEGDME と CO2 への親和性を示すことで知られる低揮発性のオリゴマーの CO2 溶液の強度比較をすることである。これらのオリゴマー溶液の候補には poly(propylene glycol) di-methyl ether (PPGDME), poly(propylene glycol) di-acetate (PPGDAc), poly(butylene glycol) di-acetate (PBGDAc) with linear C4 monomers, poly(dimethyl siloxane) (PDMS), perfluoropolyether (PFPE), and glyceryl tri-acetate (GTA)が含まれる。CO2 と PEGDME n=6, PPGDME n=6, PDMS n=6, PBGDAc n=3.2, PPGDAc n=6.7, および GTA (which is analogous to a trimer of polyvinyl acetate)との擬2相系における、25℃と 40℃における気液平衡を測定し た。ポリマー濃度が高い領域における擬2相系に対するヘンリー定数についても計算した。さら に、PPGDME, PEGDME と PDMS の性能は重量基準では同程度であるが、PPGDME と PDMS - 136 - が CO2 吸収能力からは最適な CO2 吸収剤であった。さらに、これらの化合物の 22℃と 40℃にお ける粘度を測定したところ、PDMS は PEGDME を含む他の物質と比較して極めて低粘度であっ た。加えて、PEGDME は水と完全に混合するのに対して、PDMS と PFPE は基本的に水と混合 せず、PPG- と PBG-ベースのオリゴマーと GTA はわずかに溶解した。この実験で用いた第2相 の低揮発性の CO2 吸収液についても検討した。CO2 と N-formylmopholine, methanol propylene carbonate, acetone, 1,4 dioxane, isooctane, methyl acetate, 2-butoxy ethoxy acetate, and 2-(2-butoxyethoxy) ethyl acetate とのあいだの気液平衡を検討した。アセトンと 1,4-dioxane の 混合物がもっとも CO2 親和性が高かったが、これらは蒸気圧が高いため有望な溶液とはならない とされた。 実用化へはかなり遠い印象があるが、このようなアプローチも NETL により行われており、今 後の情報交換の対象となり得る。 Hyperbranched Polymers as Absorbents for CO2 Capture: Experimental Solubilities and Process Simulation Walter Martini, Technical University of Berlin, Harvey Arellano-Garcia, Technical University of Berlin, Guenter Wozny, Technical University of Berlin メタンから他の有用な物質への直接転換は、不均一性触媒における研究で挑戦的なテーマの一 つである。メタンが触媒的に C2 化合物に転換されるメタンの酸化カップリング (OCM) プロセ スは、天然ガス資源の活用に高いポテンシャルを持つ技術であると考えている。望まれない CO2 生成物を減少させることによりプロセスの効率を大きく向上できるため、高い C2 の収量と選択 性の両方を得ることが課題として残っている。OCM 反応の次に位置する下流のプロセスでは、 原料ガスから CO2 を除去する精製が行われる。これはアミン水溶液を用いた化学吸収法を用いて 行われるが、液の再生に多量のエネルギーが必要などの不都合な点がある。これに対し、CO2 吸 収容量が大きく選択性も高い分岐ポリマーは有望な候補である。分岐ポリマーは マクロ分子で、 球状の形状をしておりそれぞれのタイプにより異なる多数の官能基を持つ。デンドリマーと違い、 1 段階の反応で容易に合成でき、分岐と構造の観点から多分散性と不規則性を示すが、多くのア プリケーションでは構造の完全性は要求されない。従って、分岐ポリマーは産業用用途での大規 模なプロセスで有望である。共沸蒸留や抽出から、流動特性の調節、DDS まで、応用の可能性の ある幅は広い。この研究では、市販されている分岐ポリマーについて検討した。CO2 分離におけ る吸収剤のポテンシャルを CO2 の溶解度により評価した。その結果を、283.15~313.15 K の範囲 でヘンリー定数の形で評価した。さらに、ポリマー単体とエタノールに溶解したものについて、 同じ温度範囲で密度を測定した。また、Aspen を用いてプロセス検討を行った。ミニプラントを 用いた検討も実施した。 CO2 分離回収技術の応用先の一例として、OCM プロセスが今後重要になる可能性はある。 Aspen で検討するための基礎データ取得の点では(プロセス検討結果の精度の点で)疑問である。 - 137 - Structural & Energy Considerations in the Design of Carbon Capture Units Angelo Lucia, University of Rhode Island, Anirban Roy, University of Rhode Island, Mikhail Sorin, Natural Resources Canada 発電所における CO2 放散塔はエネルギー消費が大きく、発電量の最大 30%を消費してしまうこ とが知られている。アミンベースの吸収放散プロセスは、よく理解された炭素隔離技術であり、 発電所やその他の CO2 排出源にすぐにでも設置でき、レトロフィット可能な技術である。従来の 吸収放散プロセス装置は、吸収塔と CO2 放散塔に加え、リボイラやコンデンサ、ストリーム感の 熱移動のための熱交換器が連結されている。標準的なプロセスデザインでは、CO2 のリッチ液と リーン液のみが設置されている。この発表では、様々なリーンローディングの条件での MEA ベ ースの吸収放散プロセスについて検討した。この研究における新規な点は 1) データ駆動の気液平 衡. 2)複数のリサイクルストリームによる構造の最適化 3) 最小エネルギーを決定する最短ストリ ップラインのアプローチ、である。ここでは、実験結果を CO2-MEA-水系の気液平衡と化学平衡 データを作成した。 この手法は、実際のデータをモデルパラメータにフィッティングする必要が なく、実験室規模、パイロットプラントと実機で用いるデータでの柔軟性を持たせることができ る。また、複数のリサイクルストリームと 3 つの放散塔、吸収塔の構造最適化についても検討し た。ここでは、リーン(ボトム)と中間(サイドストリーム)の CO2 ローディングの液を吸収塔 にリサイクルさせ、建設費とエネルギーコストのトレードオフ関係について検討した。Lucia ら の研究 (2008)と反復計算の向上法 (Lucia & Hassan, 2010)を用いて、ピンチがある場合とない 場合の最小エネルギーを決定するための最短ストリップラインのアプローチを検討した。これら の検討には Aspen Plus と Rochelle の KEMEA モデル (2003)を使用した。 プロセスへのピンチテクノロジー(熱回収)適用や、CO2 放散条件の最適化など、プロセスの 最適化をすすめる上で参考となった。 CO2 Capture with Ionic Liquid - Amine Solvents Jason E. Bara, University of Alabama イオン液体とアミンからなる吸収液は、燃焼排ガスからの CO2 分離プロセスに用いる際にこれ までのアミン水溶液と比較して異なる利点が生じる。イオン液体を一般的なアミン(MEA, MDEA など)や新規のアミンと混合することで、石炭火力発電所の排ガスのような低圧の燃焼排ガスか ら少なくとも 90%の CO2 を回収できるような吸収液を容易に作り出すことができる。イオン液体 は非揮発性で熱的、化学的に安定であるといった、ガス処理において魅力的な特性をもつ。さら に、イオン液体とアミンの混合液体はエネルギー所要量が少なく、液循環量が小さく、COE への 影響が小さく、プロセスの設置面積が小さくなるという付加的な利益も持つ。Tf2N + MEA/DEA solvent:RTIL-C6, RTIL-OH, water について検討を行ない、優れた特性を示した。特に水が含ま れないと、放散塔での潜熱のロスがないために低エネルギーが期待できる。 - 138 - RITE でも非水溶媒の検討実績がある。また、質疑で水が入ってない場合、放散塔では熱交換 はどうなるかというものがあった。発表者は影響なしと回答していたが、放散速度によっては熱 交換が十分におこなえない影響が現れるおそれがある。 - 139 - (3) Pacifichem 2010 Pacifichem2010(2010 International Congress of Pacific Basin Chemical Societies, 15-20 Dec., 2010, Honolulu)は、環太平洋に属する各国の化学系学会(日本化学会、アメリカ化学会、 カナダ化学会、オーストラリア化学会、ニュージーランド化学会、韓国化学会、中国化学会)が 5 年毎に開催する国際会議である。今回は、235 のシンポジウム、1092 のセッションに、約 13,500 件の発表が計画され、約 12,000 人が参加した。 CO2 分離回収技術に関しては、シンポジウム”Environmental Chemistry”の中にセッショ ン”Chemistry of Post-Combustion Carbon Dioxide Capture (#131)”が開催され、15 日から 18 日までの 3 日間に、化学吸収液及び吸着剤等 40 件強の報告がなされた。また、セッション”Ionic Liquids in a Sustainable World (#92)”においても関連する研究が報告された。 化学吸収液に関しては、MEA(モノエタノールアミン)以外の新規吸収液の開発、MEA、MDEA、 PZ(ピペラジン)等の劣化に関する研究が発表された。吸着剤は無機イオンにアミノ基を担持し た開発が報告されており、ペンシルバニア州立大学の研究は NETL(National Energy Technology Laboratory)がサポートしていた。 以下に、主要な発表内容を紹介する。 (化学吸収液の劣化) “Degradation products of concentrated piperazine used for CO2 capture”, S.A. Freeman and G.T. Rochelle (Texas Univ.) 40wt%(8M)ピペラジン水溶液の劣化挙動に関して、金属イオンの影響(Fe2+、Ni2+、Cr3+、) V5+等)を実験室規模の評価試験により検討した。装置は 0.5inchφ×130mm のステンレス円筒 容器に 10mL のサンプル液を封入し、所定の温度条件で一定時間静置後、イオンクロマトグラフ により分析している。カラムは、カチオン用に Dionex IonPacCS-17、アニオン用に Dionex IonPacAS-15 を使用している。 “Degradation by temperature and oxygen cycling of aqueous methyldiethanolamine / piperazine”, F.B. Closmann and G.T. Rochelle (Texas Univ.) 劣化挙動に関する従来の試験評価法は次の 3 つの形式に分類できる。(1)吸収塔条件(酸素存在 下、温度 50~60℃)でのバッチ試験、(2) 放散塔条件(CO2/H2O 雰囲気、温度 120℃)でのバ ッチ試験、(3)吸収/再生の連続試験。形式(1)、(2)は実験室規模で、(3)は実ガスによるプラント 試験で実施されてきた経緯がある。形式(1)、(2)の情報から、吸収液の劣化メカニズムの検討が進 められているが、実ガス試験との相関を精度良く評価した報告は無い。今回、テキサス大学は、 実験室規模で吸収/放散を繰り返す試験方法を提案し、劣化メカニズム解明に向けた取り組みを 発表した。 - 140 - “Screening model for the thermal degradation of solvents used for CO2-capture”, I. Eide-Haugmo, et al. (NTNU) アミンについて劣化から見たスクリーニング方法について発表がなされた。SUS 容器およびガ ラス容器に 30wt%の吸収液を封入し、135℃、5 週間の劣化試験を実施し、サンプルを LC-MS 分析し、生物分解性評価(OECD guideline306)を実施している。CO2 ローディングがある場合、 および無い場合に比べ、吸収液の劣化速度が大きくなるが、その割合はアミンによって異なる。 化学吸収液の劣化に関して、3 件の研究を紹介したが、テキサス大学のロシェル教授、NTNU スベンソン教授の 2 つのグループが、それぞれに吸収液の基礎研究、吸収液の劣化に関して研究 成果が多い。但し、吸収液の劣化に関する研究は、各研究機関が対象とする実ガスの組成、使用 する吸収液等が異なる場合が多く、研究内容が一致することは難しい。評価手法に関しては研究 者間の情報交換を通して統一することが望まれる。 (プロセス技術、プラント試験) “Pilot plant studies of CO2 capture using concentrated piperazine”, J.M. Plaza, , et al. (Texas univ.) テキサス大学保有のパイロットプラントにより高濃度 PZ 水溶液の性能評価試験を実施してい る。PZ の濃度は 40wt%(8M)と非常に高濃度である。吸収塔へのインタークーラー追加により CO2 回収量 10%増、吸収液循環量 20%減の効果が示された。 “Development of carbon dioxide removal system from the flue gas of coal fired power plant”, T. Ogawa et al. (Toshiba) 東芝の開発液(TS 液)に関して発表があった。大牟田の 10t/d パイロットプラントにおいて実 施した TS 液の長期試験に関しての報告であった。 (環境影響評価) “Investigation into the photochemistry of monoethanolamine (MEA) in the presence of NOx”, D.E. Angove, et al. (CSIRO) CSIRO は、アミン揮散物が大気中で NOx と光反応を起こし、発がん性物質に変化する可能性 を検討している。実験室内にエアチャンバーを製作し、試験を実施中である。CSIRO は環境影響 に関して、ノルウェーのオスロ大学や NILU(Norwegian Institute of Air Research)とも情報交換 を実施している。 - 141 - “Identification and quantification of amine degradation product by ion chromatography”, S.J. Vevelstad, et al. (NTNU) CASTOR プロジェクト(2004-08)で Esbjerg 発電所に建設した化学吸収法のパイロットプラ ント(1t/h)は、後継のプロジェクトでも使用されている。本発表は、このパイロットプラント から得られる吸収液、吸収塔上部洗浄水のサンプルをイオンクロマトグラフで分析している。劣 化物は、Nitrates/Nitrites, Amino acid, Carbonic acid, Aldehyde/Ketone, 揮発アミン, 尿素, Amide, Cyclic amines 等を対象としている。なお、吸収液中の硫酸イオンのうち 80%が SO42-と 報告されている。 (新規吸収液開発) “Effects of catalysis on rates of CO2 absorption in aqueous solvents”, J. Neathery et al. (Kentucky Univ.) 炭酸カリウム水溶液に酵素を添加したときの吸収速度の変化を濡れ壁塔により検討した。酵素 は Novozyme 社製、炭酸カリウム水溶液の濃度は 1.25~2.5mol/L で、酵素の添加量は 1~5wt% の範囲である。本研究は米国エネルギー省(DOE)支援の2つのプロジェクト予算により実施し ており、一つは中国との国際共同研究で、5 年間、$565000/年、もう一つは吸収液開発として 3 年間で計$2.5M の研究である。。 “Aminosilicones as CO2 capture solvents”, R.J. Perry, et al. (GE Energy) DOE の支援プロジェクト、2 年間で$3M。ピッツバーグ大学と共同研究。アミノシリコン (MM’-AP)とトリエチレングリコールの混合溶液を、通常のアミン吸収液と同様のプロセスで 使用することを提案。ラボのスクリーニング段階。MEA に対して 25%増の CO2 回収量、35%減 のコスト削減を目指す。 (Ionic Liquid) “CO2 separations in imidazolium-based room-temperature ionic liquids and polymers”, R.D. Noble; D.L. Gin (Colorado Univ.) イオン液体 [emim][Tf2N]、[hmim][Tf2N]は、CO2 に対するヘンリー定数がそれぞれ 46、40[atm] と、CO2 溶解性が高い。Noble らは、このイオン液体をそのまま使うのではなく、膜として利用 するコンセプトを発表。CO2 分離性能 10000GPU*を目指し、イオン液体のコンポジット膜やゲ ル膜の研究を進めている。本研究は米国エネルギー省(DOE)からの資金を得ている。 * 1GPU=10-6 [cm3(STP)/cm2 s cmHg] “Functionalized ionic liquids for CO2 capture”, J.J. Huang et al. (CSIRO) 通常、イオン液体は物理吸収で CO2 を吸収し、MDEA などに比べ CO2 溶解量は小さい。そこ で、CO2 吸収を促進させるため、金属イオン(Zn2+など)を持つ官能基を修飾したイオン液体を - 142 - 合成し、CO2 分離性能を評価している。イオン液体の低比熱、低揮発性の特徴により、CO2 分離 回収エネルギーが従来液に比べ 1/3(1.3GJ/t-CO2)になると試算している。但し、粘度が 100cP 以上と高い。 “Design and development of one-component reversible ionic liquids for post-combustion CO2 capture”, R. Hart et al. (Georgia Tech) (3-aminopropyl)triethylsilane (“TEtSA”)や(3-aminopropyl)tripropylsilane (“TPSA”)は、2 分 子で 1 分子の CO2 と反応し、イオン液体として振舞う。CO2 分離回収エネルギーの削減が期待さ れる。本研究は米国エネルギー省(DOE)からの資金を得ている。 イオン液体に関して、新規の物理吸収液としての研究は未だ既存物質の物性調査段階である。 合成が難しく、新規イオン液体への取り組みが遅れているように思われる。但し、合成の知識・ 技量を持つ研究者が CO2 分離回収分野に注力した場合、エポックメイキング的な技術分野に発展 する可能性がある。 - 143 - 3-3-5 まとめ 化学吸収法のプロセスシミュレータを構築するために、国内企業の保有するパイロットプラン トでの RITE 開発液評価試験を実施するとともに、平成 21 年度に実施した CSIRO でのプラント 試験データを再検討した。 前者の試験は、石炭燃焼排ガスを対象とする 10t/d 規模のプラントでの試験であり、RITE 開発 液の性能を評価するとともに、プロセスシミュレーションで利用するプロセスデータの収集が実 施できた。その結果、短期間の試験ではあったが、2.9GJ/t-CO2 の性能を確認するとともに 14 条 件のプロセスデータを収集した。 CSIRO の試験結果は、1t/d のプラントでの試験結果であるが、ラボスケールの小型吸収液評価 試験と 10t/d 規模のプラントを関連付けるデータであり、今後のプロセスシミュレータ構築おい て有益な情報になると考えられる。 なお、プラント試験データ収集のほかに、環境影響の観点から CO2 回収技術を調査した結果、 アミンの環境影響は、現時点で最優先課題とは言えないが、CO2 分離回収分野の 1 テーマとして 認知されるに至っている。今後の動向を注視しておく必要がある。 - 144 - 3-4 化学吸収液の評価技術高度化 3-4-1 概要 3-3に取りまとめたの 10t/d 規模のプラントデータを対象に、3-2で構築したプロセスシ ミュレータによるシミュレーションを実施し、得られた結果を検討する。 3-4-2 プロセスシミュレーションモデル RITE 開発新規吸収液(以後吸収液または Amine と表現)を用いた 10ton/day 程度の CO2 分離回収プロセスを、Aspen Plus V7.1(以下、AspenPlus)を用いて構築した。 RITE 開発液の主たる構成成分および組成; - 2-Isopropyl amino ethanol (C5H13NO, MW=103.1629, CAS No.=109-56-8), 以下 IPAE。 - Piperazine (C4H10N2 , MW=86.1357, CAS No.=110-85-0)、以下 PZ。 - H2O RITE 開発液のプロセスシミュレータの構築には、IPAE の試験データから作成した IPAE の Parameter 及 び ソ フ ト の ラ イ ブ ラ リ ー に 標 準 装 備 さ れ て い る モ デ ル Rate_Based_PZ+MEA_Model.bkp に含まれる PZ の Parameter を用いた。 (1)計算条件の設定 Stream 及び Block の計算条件は、下記条件表で設定した。ここで、赤字斜体は、AspenPlus 上 で設定した入力条件を示す。なお、吸収塔コンデンサの温度は、出口 Liquid 温度としている。な お、与条件のうち、AspenPlus 上での扱いでの注意点は以下; - リッチリーン熱交、リッチ液出口圧力の単位は MPag として解釈した。 - 全体系の水バランスをとる1ために、燃焼排ガスの H2O の組成は、1.5%として扱った。 なお、CO2 及び O2 のモル数は与条件とし、バランスは N2 で調整した。 1 与条件の H2O 濃度では、全体の H2O バランスが過剰になるため。 - 145 - 表 3-4-1 Stream 及び Block の条件(赤字はシミュレーションの入力条件) 条件番号 ガス流量 Nm3/h L/G kg/Nm3 1 2 3 4 5 6 2100 2100 2100 2100 2100 2100 5.0 3.5 2.5 2.5 2.5 2.2 【吸収塔コンデンサ】 放散ガス温度 ℃ 24.8 25.3 28.9 27.8 25.2 29.2 ガス洗浄水温度 ℃ 22.6 22.6 25.1 24.0 22.0 25.3 流出 CO2 流量 Nm3/h 56.7 53.4 14.1 35.5 68.1 23.1 リーン液入口温度 ℃ 35.0 35.0 35.1 34.9 35.1 35.6 塔上部ガス温度 ℃ 41.8 51.7 59.7 57.3 55.2 60.1 塔下部リッチ液温度 ℃ 48.4 44.7 40.5 40.4 39.2 37.5 ガス入口温度 ℃ 33.9 33.3 34.5 34.3 33.4 34.1 ガス入口圧力 kPaG 4.17 4.09 4.05 4.10 4.09 4.04 圧力損失 kPa 0.88 0.86 0.80 0.78 0.75 0.74 流入 CO2 流量 Nm3/h 244.4 238.0 247.1 234.8 231.6 241.3 吸収液流量(リーン) t/h 10.50 7.35 5.25 5.25 5.25 4.60 コンデンサ入口ガス温度 ℃ 101.4 101.0 101.2 100.0 98.0 100.0 回収 CO2 ガス温度 ℃ 23.5 22.9 22.5 22.2 21.9 23.1 リフラックス流量 t/h 0.13 0.13 0.16 0.13 0.06 0.10 CO2 回収量 Nm3/h 183.9 192.0 227.6 201.3 175.2 219.3 リッチ液入口温度 ℃ 105.0 103.9 103.8 102.5 100.4 101.8 塔上部ガス温度 ℃ 101.4 101.0 101.2 100.0 98.0 100.0 塔下部リーン液温度 ℃ 111.6 115.2 123.1 119.6 116.9 124.6 塔下部圧力 MPag 0.22 0.22 0.22 0.22 0.22 0.22 投入蒸気エネルギー GJ/h 1.21 1.20 1.39 1.20 1.00 1.29 dry% 12.1 11.8 12.3 11.6 11.5 12.0 dry% 3.0 2.8 0.8 1.9 3.6 1.3 dry% 100 100 100 100 100 100 【吸収塔】 【放散塔コンデンサ】 【放散塔】 【ガス分析】 【燃焼排ガス】 CO2 【吸収塔上部放散ガス】 CO2 【放散塔上部回収 CO2】 CO2 - 146 - H2O % 2.8 2.7 2.6 2.6 2.6 2.7 mol/mol 0.20 0.16 0.05 0.10 0.14 0.01 mol/mol 0.38 0.43 0.50 0.51 0.54 0.56 CO2 回収量 t-CO2/h 0.36 0.38 0.45 0.40 0.34 0.43 CO2 回収率 % 75.3 80.7 92.1 85.7 75.7 90.9 CO2 回収エネルギー GJ/t-CO2 3.35 3.19 3.12 3.03 2.90 2.99 【解析データ】 リーン液 CO2 ローディン グ リッチ液 CO2 ローディン グ 3-4-3 結果と考察 (1)計算結果 計算結果は、以下に示す。なお、Stream table は末尾、表 3-4-10~表 3-4-15 に示す。 なお、塔内温度の結果は、温度分布の安定性から Vapor Temperature を示した。 CO2 Loading および Column の計算方法に関しては表 3-4-2~表 3-4-3 に示すとおり設定した。 表 3-4-2 各条件の CO2 Loading(単位は、CO2-mole/Amine-mole) Lean Amine Rich Amine 条件番号 1 0.34 0.56 条件番号 2 0.29 0.58 条件番号 3 0.16 0.61 条件番号 4 0.22 0.64 条件番号 5 0.30 0.66 条件番号 6 0.16 0.66 表 3-4-3 解析方法 Column の計算方法 Absorber Stripper Equilibrium Rate-Based - 147 - a. 条件番号 1 表 3-4-4 シミュレーション結果(条件番号 1) 項目 実験値 ガス流量 Nm3/h L/G kg/Nm3 2100 5.0 計算値 Note 2100 S"FEED-G”、Flowrate 5.0 Setting Value 【吸収塔コンデンサ】 放散ガス温度 ℃ 24.8 22.6 B"ABS-OHC", Temp ガス洗浄水温度 ℃ 22.6 22.6 B"ABS-OHC"、Temp 流出 CO2 流量 Nm3/h 56.7 15.7 S"SWEETG",CO2Flowrate リーン液入口温度 ℃ 35.0 35.0 S"L-SOL", Temp 塔上部ガス温度 ℃ 41.8 43.2 S"A-VAP", Temp 塔下部リッチ液温度 ℃ 48.4 48.1 S"R-SOL", Temp ガス入口温度 ℃ 33.9 33.9 S"FEED-G”、Temp ガス入口圧力 kPaG 4.17 4.17 B"ABSORBER",#17Pressure 圧力損失 kPa 0.88 0.88 B"ABSORBER", deltaP 流入 CO2 流量 Nm3/h 244.4 243.6 S"FEED-G",CO2Flowrate 吸収液流量(リーン) t/h 10.50 11.63 S"R-SOL", Flowrate コンデンサ入口ガス温度 ℃ 101.4 回収 CO2 ガス温度 ℃ 23.5 23.5 B"STR-OHC", Temp リフラックス流量 t/h 0.13 0.04 S"SOHCLIQ", Flowrate CO2 回収量 Nm3/h 183.9 227.9 S"CO2", Flowrate リッチ液入口温度 ℃ 105.0 107.0 S"R-SOL2", Temp 塔上部ガス温度 ℃ 101.4 92.1 S"S-VAP", Temp 塔下部リーン液温度 ℃ 111.6 105.5 S"L-SOL1", Temp 塔下部圧力 MPag 0.22 0.22 B"ABSORBER",#18Pressure 投入蒸気エネルギー GJ/h 1.21 1.21 B"STRIPPER", Reboiler duty CO2 dry% 12.1 11.8 S"FEED-G”、Composition O2 dry% 7.1 7.0 S"FEED-G”、Composition H2O % 4.0 1.5 S"FEED-G”、Composition 【吸収塔】 【放散塔コンデンサ】 92.1 S"S-VAP", Temp 【放散塔】 【ガス分析】 【燃焼排ガス】 - 148 - 【吸収塔上部放散ガス】 CO2 dry% 3.0 0.8 S"SWEETG”、Composition O2 dry% 7.8 7.6 S"SWEETG”、Composition H2O % 3.0 2.6 S"SWEETG”、Composition CO2 dry% 100 100.0 S"CO2”、Composition H2O % 2.8 0.9 S"CO2”、Composition mol/mol 0.20 0.34 S"L-SOLX", CO2Loading mol/mol 0.38 0.56 S"R-SOL", CO2Loading CO2 回収量 t-CO2/h 0.36 0.442 S"CO2”、CO2Flowrate CO2 回収率 % 75.3 93.6 Calc. CO2 回収エネルギー GJ/t-CO2 3.35 2.73 Calc. 【放散塔上部回収 CO2】 【解析データ】 リーン液 CO2 ローディン グ リッチ液 CO2 ローディン グ 条件値と計算結果を下記に比較する。Note 中の、S は Stream, は、Column 中の Stage 番号を示す。 - 149 - B は Block、#が付いた数字 b. 条件番号 2 表 3-4-5 シミュレーション結果(条件番号 2) 項目 実験値 ガス流量 Nm3/h L/G kg/Nm3 2100 3.5 計算値 Note 2100 S"FEED-G”、Flowrate 3.5 Setting Value 【吸収塔コンデンサ】 放散ガス温度 ℃ 25.3 22.6 B"ABS-OHC", Temp ガス洗浄水温度 ℃ 22.6 22.6 B"ABS-OHC"、Temp 流出 CO2 流量 Nm3/h 53.4 22.7 S"SWEETG",CO2Flowrate リーン液入口温度 ℃ 35.0 35.0 S"L-SOL", Temp 塔上部ガス温度 ℃ 51.7 49.4 S"A-VAP", Temp 塔下部リッチ液温度 ℃ 44.7 45.3 S"R-SOL", Temp ガス入口温度 ℃ 33.3 33.3 S"FEED-G”、Temp ガス入口圧力 kPaG 4.09 4.09 B"ABSORBER",#17Pressure 圧力損失 kPa 0.86 0.86 B"ABSORBER", deltaP 流入 CO2 流量 Nm3/h 238.0 237.4 S"FEED-G",CO2Flowrate 吸収液流量(リーン) t/h 7.35 コンデンサ入口ガス温度 ℃ 101.0 回収 CO2 ガス温度 ℃ 22.9 22.9 B"STR-OHC", Temp リフラックス流量 t/h 0.13 0.04 S"SOHCLIQ", Flowrate CO2 回収量 Nm3/h 192.0 214.7 S"CO2", Flowrate リッチ液入口温度 ℃ 103.9 104.8 S"R-SOL2", Temp 塔上部ガス温度 ℃ 101.0 90.3 S"S-VAP", Temp 塔下部リーン液温度 ℃ 115.2 109.3 S"L-SOL1", Temp 塔下部圧力 MPag 0.22 0.22 B"ABSORBER",#18Pressure 投入蒸気エネルギー GJ/h 1.20 1.20 B"STRIPPER", Reboiler duty dry% 11.8 11.5 S"FEED-G”、Composition dry% 2.8 【吸収塔】 8.18 S"R-SOL", Flowrate 【放散塔コンデンサ】 90.3 S"S-VAP", Temp 【放散塔】 【ガス分析】 【燃焼排ガス】 CO2 【吸収塔上部放散ガス】 CO2 - 150 - 1.2 S"SWEETG”、Composition 【放散塔上部回収 CO2】 CO2 dry% 100 100.0 S"CO2”、Composition H2O % 2.7 0.9 S"CO2”、Composition mol/mol 0.16 0.29 S"L-SOLX", CO2Loading mol/mol 0.43 0.58 S"R-SOL", CO2Loading CO2 回収量 t-CO2/h 0.38 0.416 S"CO2”、CO2Flowrate CO2 回収率 % 80.7 90.4 Calc. CO2 回収エネルギー GJ/t-CO2 3.19 2.89 Calc. 【解析データ】 リーン液 CO2 ローディン グ リッチ液 CO2 ローディン グ 条件値と計算結果を下記に比較する。Note 中の、S は Stream, は、Column 中の Stage 番号を示す。 - 151 - B は Block、#が付いた数字 c. 条件番号 3 表 3-4-6 シミュレーション結果(条件番号 3) 項目 実験値 ガス流量 Nm3/h L/G kg/Nm3 2100 2.5 計算値 Note 2100 S"FEED-G”、Flowrate 2.5 Setting Value 【吸収塔コンデンサ】 放散ガス温度 ℃ 28.9 25.1 B"ABS-OHC", Temp ガス洗浄水温度 ℃ 25.1 25.1 B"ABS-OHC"、Temp 流出 CO2 流量 Nm3/h 14.1 10.9 S"SWEETG",CO2Flowrate リーン液入口温度 ℃ 35.1 35.1 S"L-SOL", Temp 塔上部ガス温度 ℃ 59.7 55.6 S"A-VAP", Temp 塔下部リッチ液温度 ℃ 40.5 42.9 S"R-SOL", Temp ガス入口温度 ℃ 34.5 33.3 S"FEED-G”、Temp ガス入口圧力 kPaG 4.05 4.05 B"ABSORBER",#17Pressure 圧力損失 kPa 0.80 0.80 B"ABSORBER", deltaP 流入 CO2 流量 Nm3/h 247.1 247.7 S"FEED-G",CO2Flowrate 吸収液流量(リーン) t/h 5.25 コンデンサ入口ガス温度 ℃ 101.2 回収 CO2 ガス温度 ℃ 22.5 22.5 B"STR-OHC", Temp リフラックス流量 t/h 0.16 0.04 S"SOHCLIQ", Flowrate CO2 回収量 Nm3/h 227.6 236.8 S"CO2", Flowrate リッチ液入口温度 ℃ 103.8 104.7 S"R-SOL2", Temp 塔上部ガス温度 ℃ 101.2 88.9 S"S-VAP", Temp 塔下部リーン液温度 ℃ 123.1 120.2 S"L-SOL1", Temp 塔下部圧力 MPag 0.22 0.22 B"ABSORBER",#18Pressure 投入蒸気エネルギー GJ/h 1.39 1.39 B"STRIPPER", Reboiler duty dry% 12.3 12.0 S"FEED-G”、Composition dry% 0.8 【吸収塔】 5.86 S"R-SOL", Flowrate 【放散塔コンデンサ】 88.9 S"S-VAP", Temp 【放散塔】 【ガス分析】 【燃焼排ガス】 CO2 【吸収塔上部放散ガス】 CO2 - 152 - 0.6 S"SWEETG”、Composition 【放散塔上部回収 CO2】 CO2 dry% 100 100.0 S"CO2”、Composition H2O % 2.6 0.9 S"CO2”、Composition mol/mol 0.05 0.17 S"L-SOLX", CO2Loading mol/mol 0.50 0.66 S"R-SOL", CO2Loading CO2 回収量 t-CO2/h 0.45 0.461 S"CO2”、CO2Flowrate CO2 回収率 % 92.1 95.6 Calc. CO2 回収エネルギー GJ/t-CO2 3.12 3.02 Calc. 【解析データ】 リーン液 CO2 ローディン グ リッチ液 CO2 ローディン グ 条件値と計算結果を下記に比較する。Note 中の、S は Stream, は、Column 中の Stage 番号を示す。 - 153 - B は Block、#が付いた数字 d. 条件番号 4 表 3-4-7 シミュレーション結果(条件番号 4) 項目 実験値 ガス流量 Nm3/h L/G kg/Nm3 2100 2.5 計算値 Note 2100 S"FEED-G”、Flowrate 2.5 Setting Value 【吸収塔コンデンサ】 放散ガス温度 ℃ 27.8 24.0 B"ABS-OHC", Temp ガス洗浄水温度 ℃ 24.0 24.0 B"ABS-OHC"、Temp 流出 CO2 流量 Nm3/h 35.5 20.9 S"SWEETG",CO2Flowrate リーン液入口温度 ℃ 34.9 34.9 S"L-SOL", Temp 塔上部ガス温度 ℃ 57.3 54.3 S"A-VAP", Temp 塔下部リッチ液温度 ℃ 40.4 39.1 S"R-SOL", Temp ガス入口温度 ℃ 34.3 34.3 S"FEED-G”、Temp ガス入口圧力 kPaG 4.10 4.10 B"ABSORBER",#17Pressure 圧力損失 kPa 0.78 0.78 B"ABSORBER", deltaP 流入 CO2 流量 Nm3/h 234.8 233.1 S"FEED-G",CO2Flowrate 吸収液流量(リーン) t/h 5.25 コンデンサ入口ガス温度 ℃ 100.0 回収 CO2 ガス温度 ℃ 22.2 22.2 B"STR-OHC", Temp リフラックス流量 t/h 0.13 0.03 S"SOHCLIQ", Flowrate CO2 回収量 Nm3/h 201.3 212.2 S"CO2", Flowrate リッチ液入口温度 ℃ 102.5 103.4 S"R-SOL2", Temp 塔上部ガス温度 ℃ 100.0 87.7 S"S-VAP", Temp 塔下部リーン液温度 ℃ 119.6 115.0 S"L-SOL1", Temp 塔下部圧力 MPag 0.22 0.22 B"ABSORBER",#18Pressure 投入蒸気エネルギー GJ/h 1.20 1.20 B"STRIPPER", Reboiler duty dry% 11.6 11.3 S"FEED-G”、Composition dry% 1.9 【吸収塔】 5.48 S"R-SOL", Flowrate 【放散塔コンデンサ】 87.7 S"S-VAP", Temp 【放散塔】 【ガス分析】 【燃焼排ガス】 CO2 【吸収塔上部放散ガス】 CO2 - 154 - 1.1 S"SWEETG”、Composition 【放散塔上部回収 CO2】 CO2 dry% 100 100.0 S"CO2”、Composition H2O % 2.6 0.9 S"CO2”、Composition mol/mol 0.10 0.22 S"L-SOLX", CO2Loading mol/mol 0.51 0.64 S"R-SOL", CO2Loading CO2 回収量 t-CO2/h 0.40 0.46 S"CO2”、CO2Flowrate CO2 回収率 % 85.7 91.0 Calc. CO2 回収エネルギー GJ/t-CO2 3.03 2.60 Calc. 【解析データ】 リーン液 CO2 ローディン グ リッチ液 CO2 ローディン グ 条件値と計算結果を下記に比較する。Note 中の、S は Stream, は、Column 中の Stage 番号を示す。 - 155 - B は Block、#が付いた数字 e. 条件番号 5 表 3-4-8 シミュレーション結果(条件番号 5) 項目 実験値 ガス流量 Nm3/h L/G kg/Nm3 2100 2.5 計算値 Note 2100 S"FEED-G”、Flowrate 2.5 Setting Value 【吸収塔コンデンサ】 放散ガス温度 ℃ 25.2 22.0 B"ABS-OHC", Temp ガス洗浄水温度 ℃ 22.0 22.0 B"ABS-OHC"、Temp 流出 CO2 流量 Nm3/h 68.1 48.1 S"SWEETG",CO2Flowrate リーン液入口温度 ℃ 35.1 35.1 S"L-SOL", Temp 塔上部ガス温度 ℃ 55.2 52.7 S"A-VAP", Temp 塔下部リッチ液温度 ℃ 39.2 36.0 S"R-SOL", Temp ガス入口温度 ℃ 33.4 33.4 S"FEED-G”、Temp ガス入口圧力 kPaG 4.09 4.09 B"ABSORBER",#17Pressure 圧力損失 kPa 0.75 0.75 B"ABSORBER", deltaP 流入 CO2 流量 Nm3/h 231.6 231.0 S"FEED-G",CO2Flowrate 吸収液流量(リーン) t/h 5.25 5.90 S"R-SOL", Flowrate コンデンサ入口ガス温度 ℃ 98.0 86.0 S"S-VAP", Temp 回収 CO2 ガス温度 ℃ 21.9 21.9 B"STR-OHC", Temp リフラックス流量 t/h 0.06 0.03 S"SOHCLIQ", Flowrate CO2 回収量 Nm3/h 175.2 183.0 S"CO2", Flowrate リッチ液入口温度 ℃ 100.4 101.2 S"R-SOL2", Temp 塔上部ガス温度 ℃ 98.0 86.0 S"S-VAP", Temp 塔下部リーン液温度 ℃ 116.9 109.2 S"L-SOL1", Temp 塔下部圧力 MPag 0.22 0.22 B"ABSORBER",#18Pressure 投入蒸気エネルギー GJ/h 1.00 1.00 B"STRIPPER", Reboiler duty dry% 11.5 11.2 S"FEED-G”、Composition dry% 3.6 【吸収塔】 【放散塔コンデンサ】 【放散塔】 【ガス分析】 【燃焼排ガス】 CO2 【吸収塔上部放散ガス】 CO2 - 156 - 2.6 S"SWEETG”、Composition 【放散塔上部回収 CO2】 CO2 dry% 100 100.0 S"CO2”、Composition H2O % 2.6 0.9 S"CO2”、Composition mol/mol 0.14 0.30 S"L-SOLX", CO2Loading mol/mol 0.54 0.66 S"R-SOL", CO2Loading CO2 回収量 t-CO2/h 0.34 0.356 S"CO2”、CO2Flowrate CO2 回収率 % 75.7 79.2 Calc. CO2 回収エネルギー GJ/t-CO2 2.90 2.80 Calc. 【解析データ】 リーン液 CO2 ローディン グ リッチ液 CO2 ローディン グ 条件値と計算結果を下記に比較する。Note 中の、S は Stream, は、Column 中の Stage 番号を示す。 - 157 - B は Block、#が付いた数字 f. 条件番号 6 表 3-4-9 シミュレーション結果(条件番号 6) 項目 実験値 ガス流量 Nm3/h L/G kg/Nm3 2100 2.2 計算値 Note 2100 S"FEED-G”、Flowrate 2.2 Setting Value 【吸収塔コンデンサ】 放散ガス温度 ℃ 29.2 25.3 B"ABS-OHC", Temp ガス洗浄水温度 ℃ 25.3 25.3 B"ABS-OHC"、Temp 流出 CO2 流量 Nm3/h 23.1 15.5 S"SWEETG",CO2Flowrate リーン液入口温度 ℃ 35.6 35.6 S"L-SOL", Temp 塔上部ガス温度 ℃ 60.1 57.4 S"A-VAP", Temp 塔下部リッチ液温度 ℃ 37.5 35.7 S"R-SOL", Temp ガス入口温度 ℃ 34.1 33.4 S"FEED-G”、Temp ガス入口圧力 kPaG 4.04 4.04 B"ABSORBER",#17Pressure 圧力損失 kPa 0.74 0.74 B"ABSORBER", deltaP 流入 CO2 流量 Nm3/h 241.3 241.5 S"FEED-G",CO2Flowrate 吸収液流量(リーン) t/h 4.60 コンデンサ入口ガス温度 ℃ 100.0 回収 CO2 ガス温度 ℃ 23.1 23.1 B"STR-OHC", Temp リフラックス流量 t/h 0.10 0.03 S"SOHCLIQ", Flowrate CO2 回収量 Nm3/h 219.3 225.9 S"CO2", Flowrate リッチ液入口温度 ℃ 101.8 102.6 S"R-SOL2", Temp 塔上部ガス温度 ℃ 100.0 86.0 S"S-VAP", Temp 塔下部リーン液温度 ℃ 124.6 119.9 S"L-SOL1", Temp 塔下部圧力 MPag 0.22 0.22 B"ABSORBER",#18Pressure 投入蒸気エネルギー GJ/h 1.29 1.29 B"STRIPPER", Reboiler duty dry% 12.0 11.7 S"FEED-G”、Composition dry% 1.3 【吸収塔】 5.17 S"R-SOL", Flowrate 【放散塔コンデンサ】 86.0 S"S-VAP", Temp 【放散塔】 【ガス分析】 【燃焼排ガス】 CO2 【吸収塔上部放散ガス】 CO2 - 158 - 0.8 S"SWEETG”、Composition 【放散塔上部回収 CO2】 100.0 100.0 S"CO2”、Composition 2.7 0.9 S"CO2”、Composition mol/mol 0.01 0.16 S"L-SOLX", CO2Loading mol/mol 0.56 0.66 S"R-SOL", CO2Loading CO2 回収量 t-CO2/h 0.43 0.438 S"CO2”、CO2Flowrate CO2 回収率 % 90.9 93.6 Calc. CO2 回収エネルギー GJ/t-CO2 2.99 2.94 Calc. CO2 dry% H2O % 【解析データ】 リーン液 CO2 ローディン グ リッチ液 CO2 ローディン グ 条件値と計算結果を下記に比較する。Note 中の、S は Stream, は、Column 中の Stage 番号を示す。 - 159 - B は Block、#が付いた数字 3-4-4 まとめ 3-3の 10t/d 規模のプラント試験データの中から 6 条件を対象に、3-2で提案したプロセ スシミュレータによってプロセスデータのトレースを行った。その結果、各条件ともにプロセス データを推算することが可能であった。但し、温度領域、CO2 回収率、CO2 回収エネルギーにつ いて、実験結果と差異が見られる。 今後は、気液平衡データ以外に、物性値や解析パラメータの妥当性を検証し、モデルの高精度 を進める必要がある。 - 160 - FEED-G ABSORBER R-SOL A-VAP SWEETG P-ABS L-SOL AOHCLIQ ABS-OHC 図 3-4-1 L-SOLX MIX L-SOL2 - 161 - E-HX CL-RSOL HX-RSOL Flowsheet (共通) R-SOL1 L-SOL3 MIXER MAKE-UP HX-LSOL L-SOL1 R-SOL2 STRIPPER S-VAP SOHCLIQ CO2 STR-OHC 表 3-4-10 - 162 - Stream Table(条件番号 1) 表 3-4-111 - 163 - Stream Table(条件番号 2) 表 3-4-12 - 164 - Stream Table(条件番号 3) 表 3-4-13 - 165 - Stream Table(条件番号 4) 表 3-4-14 - 166 - Stream Table(条件番号 5) 表 3-4-15 - 167 - Stream Table(条件番号 6) 3-5 3章まとめ 化学吸収液の評価を行う標準的手法の開発として、プロセスシミュレーション技術を用いた評 価手法の構築に着手した。本事業では、NETL との情報交換、RITE 開発液を対象としたプロセ スシミュレータの構築、プラント試験データの収集、およびプラント試験のプロセスシミュレー ションを実施した。以下に得られた知見を記述する。 ・ NETL との情報交換を通して、NETL が小型吸収液評価試験、化学吸収法のプロセスシミュ レーション技術、発電システムのプロセスシミュレーション技術と、ラボスケールの検討か ら発電システムまでの一連の評価技術を保有していることを確認した。今後、更に NETL と の協力を高めることで、RITE における化学吸収液の評価技術を高度化することが期待できる。 ・ RITE 開発液を対象とするプロセスシミュレータについて、吸収液の化学種を個々に考慮する モデルへと改良し、新たなプロセスシミュレータを構築した。 ・ 東芝が保有する 10t/d のパイロットプラント設備において、RITE 開発液の評価試験ならびに プロセスデータの収集を実施した。RITE 開発液は製鉄プロセスを対象に開発した化学吸収液 であるが、今回の試験で 2.9GJ/t-CO2 と低 CO2 分離回収エネルギーを達成した。 ・ パイロットプラント試験で得られたデータを対象に、プロセスシミュレーションを実施し、 プラント試験をトレース出来る基盤を構築した。今後は、物性値や解析パラメータの妥当性 を検証し、モデルの高精度を進める必要がある。 - 168 - 参考文献 [1] K. Goto, H. Okabe, F. A. Chowdhury, S. Shimizu, Y. Fujioka, M. Onoda, Int. J. Greenhouse Gas Control, 5 (2011) 1214-1219. [2] K. P. Rensik, W. Garber, D. C. Hreha, Proc. 23rd Annual Pittsburgh Coal Conf., Pittsburgh, PA. [3] NETL R&D Fact Sheet, Ammonia-based process for Multicomponent removal from flue gas, 9/2007. http://www.netl.doe.gov/publications/factsheets/rd/R&D043.pdf. [4] C. W. White, DOE/NETL-2002/1182. [5] J. Black, DOE/NETl-2010/1397. [6] 北村, 江上, 大橋, 東芝レビュー, 65- (2010) 31-34. [7]東芝, http://www.toshiba.co.jp/about/press/2009_09/pr_j2901.htm [8] Knudsen, J. et al., IEA GHG - 11th Capture Network Meeting, 20-21 May 2008, Vienna, Austria. [9] 岩崎, Clean Coal Day In Japan 2007, L-9-1~L-9-8 [10] Ohashi, Y. et al., GHGT-10, 19-23 September 2010, Amsterdam, Netherlands [11] 山田,他,日本エネルギー学会, 75-8, pp732-740 (1996) [12] CSIRO, Science & Technology Seminar: Amine for post-combustion capture, 26 May, 2009,Kyoto [13] Maxwell D., 2010 NETL CO2 Capture Technology Meeting, September 15, 2010. http://www.netl.doe.gov/publications/proceedings/10/co2capture/presentations/wednesday/Do ug%20Maxwell-NT0000749.pdf [14] NETL Project Fact Sheet, http://www.netl.doe.gov/publications/factsheets/project/Proj585.pdf [15] NEDO 海外レポート No.1066, 2010.9.15 - 169 - 第4章 4-1 結び 本事業の研究成果まとめ 本事業では、 「固体吸収材の開発」、 「化学吸収液の評価を行なう標準的手法の開発」を行い、常 圧ガスからの CO2 吸収分離技術の総合的開発を行い、分離回収エネルギーの低減の可能性を検討 した。 本事業の項目別の研究成果を以下にまとめる。 (1) 固体吸収材の開発 ・固体吸収材および化学吸収液に関する情報交換 本事業では、国内外の固体吸収材開発の動向について調査するとともに、米国 NETL と固体吸収材の開発についての情報交換を実施した。双方の現状の技術開発状況について 紹介を行なった後、契約締結後に実施する SOW(Statement of Work)を作成して4つ の Task を確認し、今後の研究協力体制を構築することができた。 ・新規固体吸収材向けの化学吸収液の選定 NETL の技術情報をベースに RITE でも多孔体にアミンを担持した新規固体吸収材の 開発を実施した。量子化学計算および実験的手法を用いた解析から、高性能が期待できる アミン分子の構造を検討し、ヒンダードアミンを提案した。さらに、固体吸収材の性能と して重要とされる放散性能に関して、量子化学計算を用いた性能予測モデルを構築した。 ・RITE 提供の化学吸収液をベースとした新規固体吸収材の作製 上記の量子化学計算結果を参考にこれまでに RITE がこれまでに検討してきた化学吸収 液として用いられるアミン化合物の中から有望と思われるアミンをいくつか選定し、これ らをベースとする固体吸収材を調製した。 ・新規固体吸収材の評価 前項にて調製した固体吸収材の CO2 吸着・脱着性能を評価した。その結果、CO2 放散 量が大きく、連続使用が可能であることを確認した。 (2) 化学吸収液の評価を行なう標準的手法の開発 ・プロセスシミュレーション技術に関する情報交換 NETL 保有の小型吸収液評価試験装置、化学吸収法のプロセスシミュレーション技術、 および発電システムのプロセスシミュレーション技術に関する情報を収集した。 ・RITE 開発液を対象とした CO2 分離回収プロセスのプロセスシミュレータの改良 RITE 開発液に関して、吸収液中のアミン成分に着目し、個々の成分ごとに物性値およ び解析パラメータをプロセスシミュレータ内で考慮するモデル化を進めた。本事業では、 - 170 - 特に気液平衡データの組込みを実施し、妥当な結果を得た。 ・CO2 分離回収プラントの試験データの集積とプロセスシミュレータの高度化 東芝保有の 10t/d 規模のパイロットプラント設備において、石炭燃焼排ガスを対象に RITE 開発液による CO2 分離回収試験を実施した。その結果、プロセスシミュレーション に必要なプロセスデータを取得するとともに、低 CO2 回収エネルギー(2.9GJ/t-CO2)の 結果を得た。 ・RITE 開発液を対象とした CO2 分離回収プロセスのプロセスシミュレータの改良 プラント試験のプロセスデータをもとに RITE 開発液を用いた化学吸収法のプロセス シミュレーションを実施した。使用したシミュレータは、種々の運転条件において吸収液 の性能を評価可能である。 4-2 研究成果の公表 特許出願(1 件) - 171 -
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