06-b-13 - Osaka University

正会員 ○小林知広 *1
通風量の簡易予測を目的とした室内外流管解析に関する研究
同 相良和伸 *2
(その 5)CFD 解析による流管性状の把握
4. 環境工学― 10. 空気流動応用
通風
流管解析
CFD
風圧係数
同 山中俊夫 *3
応力方程式モデル
流量係数
同 甲谷寿史 *4
Mats Sandberg*5
1. はじめに 2. CFD 解析の概要
建物の換気量を予測する際、以下に示す換気の式に
既 往 の 研 究 4) で 行 っ た 風 洞 実 験 を 解 析 対 象 と し、
より計算することが多い。
CFD 解析を行った。解析にあたっては、計算負荷を軽
Q = C D AOpening
2
( PW − PL )
ρ
減するため解析領域に対称面を2面設けて空間の 1/4
-(1)
のみ解析を行った。図 2 に室モデル、図 3 及び表 1 に
解析対象空間とメッシュ分割詳細を示す。開口寸法 L
ここで、C D A Opening はチャンバー法によって得られた風
上、風下開口の有効開口面積の結合値であり、両開口
面積が等しいとき C D 値は室全体の流量係数値である。
また、P W 及び P L は風洞実験により測定された開口を
有しない建物の風上・風下開口部位置での風圧である。
は 15、30、45、60、90 mm の 5 条件を設定した(図
4)。乱流モデルに関しては、前報 3) に基き応力方程式
モデル(以下、RSM)を使用した。表 2 に解析概要を
まとめて記す。
しかし、大開口を有する建物では流入した気流の動圧
Y
Leeward
が解消せず動圧を保持したまま室外へ流出する ( 図 1)。
この場合、通風経路全体の圧力損失係数は開口単一で
れてきたが
(b)
X
Windward
を過小評価する。この問題に対して種々の試みがなさ
L
(c)
180
120
、実用的な精度を有する簡易予測手法は
(a)
L
Z
求めた圧力損失係数の結合値より小さくなり、換気量
1)-2)
表 1 メッシュ分割詳細
確立されているとは言い難い。本研究では流管の面積
図 2 室モデル
(d)
(e)
変化による全圧損失に基づく予測手法を提案するため、
L=45mm
L=60mm
L=90mm
Length [mm]
181.1
181.1
181.1
The number
of grids
58
58
58
Length [mm]
22.5
30
45
The number
of grids
20
24
28
Length [mm]
37.5
30
15
The number
of grids
24
20
16
Length [mm]
43.5
36
21
The number
of grids
24
20
16
Length [mm]
0.8
0.8
0.8
The number
of grids
4
4
4
開口に捕えられる流管の性状把握を目的としている。
前報 3) では流管解析のための CFD 解析の精度検証を
行った。本報では圧力損失を計算し、チャンバー法に
より測定された C D 値と比較した。加えて風洞実験で
L=15 mm
L=30 mm
表 2 解析概要
得られた風圧係数と流管の風上・風下の圧力を比較検
討した結果について報告する。
L=45 mm
CFD Code
QUICK
Algorithm
Steady state (SIMPLEC)
Inlet
1) 開口が小さいとき
2) 開口が大きいとき
Velocity : 10 m/s
Turbulent Intensity : 1%
Turbulent Length Scale : 126mm
Outlet
Gauge Pressure : 0 [Pa]
Walls
Wall : no slip
Symmetry : free slip
The number of grids
図 1 通風輪道の有無
L=90 mm
FLUENT 6.1
Finite difference scheme
Boundary condition
L=60 mm
図 4 開口寸法条件
582,624
Turbulence model
Reynolds stress model (RSM)
2,181.6
900
Wall
Wall
1,800
900
(a)
Symmetry Plane
Symmetry Plane
Outlet
Inlet
(d)
(c)
(b)
(b)
Symmetry Plane
500
181.6
1500
Windward
(e)
(e)
Leeward
図 3 解析対象空間
Stream Tube Analysis for Prediction of Cross-Ventilation Rate
Part5. Characteristics of Stream Tube based on CFD Prediction
KOBAYASHI Tomohiro, SAGARA Kazunobu, YAMANAKA Toshio, KOTANI Hisashi, SANDBERG Mats
3. 流管断面積の算出 4. 流管内の全圧・静圧・動圧 開口に捕えられる流管の面積変化を把握することを
流管の面積変化と圧力損失の関係を明らかにする事
目的として、CFD 解析結果に基き開口の縁からパー
を目的として、図 6 で同定された流管断面内で解析メッ
ティクルを飛散させることで流管を同定した。なお、
シュの面積重み付け平均を施して全圧、静圧、スカラー
室モデルの風上側及び室内の流管に関しては流入開口
風速による動圧の算出を行った。図 8 にその結果を示
の縁から、室モデルの風下側の流管は流出開口の縁か
す。これらの結果から、全条件において室への流入前
らパーティクルを飛ばした。さらに、51 個の X 軸に
は面積変化により静圧及び動圧が変化しているにもか
垂直な断面において、図 5 に示すような影部の面積
かわらず全圧は一定でありベルヌーイの式が成立して
を積分する事で流管の断面積を算定した。算定され
いることがわかる。また、全条件において室からの流
た流管断面積の結果を図 6 に示す。図の横軸は室長
出時に全圧の上昇が見られるが、これは流管同定時に
さ (180mm) で無次元化された流入開口からの距離を
生じる誤差のためと考えられる。さらに、全条件にお
示し、縦軸は開口面積により無次元化された流管断面
いて流出直後 (Section5) には静圧が低下し、その後流
積を表している。また、開口面積を開口を有する面の
管の拡大により動圧が低下して静圧が上昇しているこ
見つけ面積で除した開口率 (Porosity) も同時に示す。
とを確認する事ができる。Section6 より下流側の全圧
L=15 mm 及び 30 mm の条件では、後流域で複雑な
に関しては上昇が見られるが、これは周辺気流からの
気流が形成されていたため、室流出後の流管を同定す
エネルギー供給によるものと考えられる。また条件間
る事が不可能であった。これらの結果から、開口が大
の相違点として、L=45mm の条件では室からの流出後
きくなるにつれて無次元断面積の値は全体的に 1.0 に
に動圧の値が小さくなるのに対して、L=90mm の条件
近づき、流管断面積の相対的な変化が小さくなること
では流出後も動圧を保持している事がわかる。
がわかる。また、L=45 mm、60 mm、90 mm の 3 条
件の結果から、流管は図 7 に示すように拡大・縮小を
繰り返していることがわかる。この面積変化に基づき
図 7 に示すような 6 つの検査面を設けることができる。
Section1 は風上側のアプローチフローが保持された領
域であり、Section2 は流入直前で断面積が最大値をと
る断面、Section3 は流入後の縮流断面である 5)。さらに
Section1
p1
P1
Section4 は流出直前の最大断面、Section5 は流出後の縮
流断面で静圧の低下が予測され、流出後に断面積が最
Section2
p2
P2
Particles set out from the opening
25
20
15
10
3
2.5
2
1.5
1
0.5
0
5
-3
0
0
10
20
30
Section6
p6
P6
3.5
Nondimensional cross section Area [-]
Nondimensional cross section Area [-]
Y axis [mm]
30
Section5
p5
P5
図 7 予測される流管形状及び検査面
3.5
35
Section4
p4
P4
P : 全圧 p:静圧
大になる Section6 では全圧が最小になると考えられる。
40
Section3
p3
P3
40
-2
-1
0
1
2
3
4
5
6
7
8
3
2.5
2
1.5
1
0.5
0
9
-3
-2
-1
0
1
2
3
4
5
6
7
X/180 [-]
X/180 [-]
(1)L=15 mm (Porosity 1.3%)
(2)L=30 mm (Porosity 5.2%)
8
9
8
9
Z axis [mm]
図 5 飛散させたパーティクル(Y-Z 断面)
3
2.5
2
1.5
1
0.5
0
-3
-2
-1
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
X/180 [-]
(3)L=45 mm (Porosity 11.6%)
3.5
Nondimensional cross section Area [-]
3.5
Nondimensional cross section Area [-]
Nondimensional cross section Area [-]
3.5
3
2.5
2
1.5
1
0.5
0
-3
-2
-1
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
X/180 [-]
(4)L=60 mm (Porosity 20.7%)
図 6 各条件における流管の面積変化
3
2.5
2
1.5
1
0.5
0
-3
-2
-1
0
1
2
3
4
5
6
7
X/180 [-]
(5)L=90 mm (Porosity 46.5%)
70
70
Total
60
50
Dynamic
30
20
10
0
50
Dynamic
40
30
20
10
0
Static
-10
-2
-1
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
30
20
10
Static
-10
-20
-20
-3
Dynamic
40
0
Static
-10
-20
Total
60
Pressure [Pa]
40
Pressure [Pa]
Pressure [Pa]
50
70
Total
60
-3
-2
-1
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
-3
-2
-1
0
1
X/180 [-]
X/180 [-]
(1)L=45 mm (Porosity 11.6%)
2
3
4
5
6
7
8
9
X/180 [-]
(2)L=60 mm (Porosity 20.7%)
(3)L=90 mm (Porosity 46.5%)
図 8 各条件における流管の圧力変化
5. チャンバー法及び流管解析に基づく流量係数
通常、チャンバー法を用いて CD 値を測定する際、開
PS1
口のみをチャンバーに設置し、ファンにより強制的に
Chambar
排気してファン流量とチャンバー内外の静圧差の関係
より開口単一の抵抗係数 ζ を算出する(図 9)。このと
きの、C D 値は以下の式のように両開口の抵抗係数 ζ in、
PS 1 − PS 2 = ζ
ζout の結合値を用いて算出する事ができる。
1
ζ In + ζ Out
C D − Σζ =
PS2
Dynamic pressure
is negligible in the
chambar
...(2)
ρ QFan 2
)
(
2 AOpening
Static pressure is almost
equal to total pressure
Opening
しかし、この手法により算出した C D 値は開口間の気
Fan
(Forced exhaust)
流の干渉を無視している事から過小評価される事が既
往の研究 1) により知られている。この影響を考慮する
図 9 チャンバー法による開口単一の抵抗係数の測定
ため、模型全体をチャンバーに設置して室全体の抵抗
係数(総合抵抗係数)を測定する手法も採用されてい
る 6)。このときの C D 値は総合抵抗係数 ξ( 図 10) に基
Chambar
づいて以下の式で算出することができる。
CD −ξ =
1
PS1
...(3)
ξ
PS2

ρ Q
PS 1 − PS 2 = ξ  Fan 
2  AOpening 
Model
ここでは、流管解析に基づいて CD 値を算出し、チャ
ンバー法で算出された C D 値と比較を行う。流管解析
2
Possible to consider the
influence of openings
に基づく C D 値を算出するための圧力差について考え
ると、室への流入前は全圧一定であることから風上側
の圧力は Section1 の全圧 ( P 1) を採用して問題ないと思
Fan
(Forced exhaust)
われる。一方、風下側の圧力に関しては、チャンバー
法が室流出直後の静圧にあたる圧力を測定していると
CD − p 5 =
CD − p 6 =
AOpening
AOpening
QCFD
2
( P − p5 )
ρ 1
QCFD
2
( P − p6 )
ρ 1
...(4)
...(5)
図 11 に式 (2) ∼ (5) から算出した C D 値を示す。C D-Σζ
は両開口の抵抗の単純和より算出されるため、他の値
より小さく算出されている 1)。また C D-p6 は、C D-p5 及び
図 10 チャンバー法による室全体の総合抵抗係数の測定
Discharge Coefficient (CD) [-]
考えられるため、Section5 あるいは Section6 の静圧 (p5、
p6) を採用し、以下の式に基づき CD 値の算出を行った。
1.0
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
C D − Σξ C D − ξ C D − p 5 C D − p 6 C D − Σξ C D − ξ C D − p 5 C D − p 6 C D − Σξ C D − ξ C D − p 5 C D − p 6
11.6 %
20.7 %
46.5 %
Porosity [%]
図 11 チャンバー法及び流管解析による CD 値
CD-ξ より大きく算出されているが、これは流出後の静圧
上昇のためと考えられ、室からの流出後においてチャ
ンバー法の気流場と実際の気流場が異なることを示唆
している。また、C D-p5 と C D-ξ を比較すると、開口が大
きくなるにつれてその差が大きくなっている。これは
図 12 に示す通り風上開口での流入時の気流場が異なる
ことの影響と考えられ、大開口条件ではチャンバー法
は縮流による抵抗値を大きく(C D 値を小さく)評価す
ることを示している。
A2
A
< VC
A1 Aretard
→
AVC
Inlet Opening
∆P1
∆P2
(1)チャンバー法
(2)実際の気流場
図 12 流入開口における気流場の違い
6. 風圧係数及び流管解析に基づく風上及び風下圧力
通風量を予測する際には C D 値の問題と同時に、建物
の風上・風下の圧力差も予測する必要がある。その際、
開口を有しない模型の風洞実験から得られた風圧係数
差を使用するのが一般的ではあるが、その風圧係数差
と通風時の流管内圧力差との違いについて検討を行っ
た。既往の研究 7) で得られた風圧係数の風洞実験値と
流管解析で得られた風上開口面全圧 (P1)、風下開口面静
圧 ( p 5、p 6 ) の結果を図 13 に示す。得られた圧力はアプ
ローチフローによる動圧で無次元化し、風洞実験によ
り得られた風圧係数は風上・風下をそれぞれ C PW、C PL、
また流管解析からは風上側全圧 P 1、風下側静圧 p 5、p 6
から得られたものを C P1、C p5、C p6 として示す。図より
風上側の無次元圧力は約 1.0 程度の値が得られたため、
風圧係数 C PW は C P1 を表していると言える。一方風下
側 に 関 し て は、 風 圧 係
数 C PL は C p5 に近い値を
とる。このことから、風
圧 係 数 は p5 の 値 を 予 測
するものであると考えら
れるが、開口が大きい条
件では静圧の上昇が見ら
れ、風圧係数では正確に
p 5 を予測する事ができな
1.2
1
ない建物から得られた風圧係数を用いて通風量を予測
することの問題点が確認された。今後は CFD 解析によ
りチャンバー法と実際の気流場の違いを明確にすると
同時に、大開口条件での C D 値の新たな予測手法を提案
< 参考文献 >
1) 石原正雄:
「風力換気設計」, 朝倉書店 , pp.213-215, 1969
年
2) 赤林伸一 , 村上周三 , 加藤信介 , 水谷国男 , 金永徳 , 富永禎秀:
「住宅の換気・通風に関する実験的研究(その 9)通気輪道
に沿うエネルギー収支に基づく通風量算定モデル」, 日本建
築学会大会学術講演梗概集 D, pp.549-550, 1990 年 10 月
3) 甲谷寿史 , 相良和伸 , 山中俊夫 , 小林知広 , 吉川貴雄 :「通風
量の簡易予測を目的とした室内外流管解析に関する研究 ( そ
の 4) 乱流モデルの違いが CFD 解析結果に及ぼす影響」日本
建築学会大会学術講演梗概集 D-2, 2005 年 9 月
4) 吉川貴雄 , 相良和伸 , 山中俊夫 , 甲谷寿史 , 小林知広 :「通風
量の簡易予測を目的とした室内外流管解析に関する研究 ( そ
の 3) 風洞実験による流管内圧力分布の把握」日本建築学会
大会学術講演梗概集 D-2、2005 年 9 月
5) Mats Sandberg :「An Alternative View on the Theory of CrossVentilation」The International Journal of Ventilation HybVent-Hybrid
Ventilation. Volume 2, Number 4, March, pp.409-418. March, 2004
6) 古川準 , 山中俊夫 , 甲谷寿史 :「直列配置された複数開口を
持つ建物における通風量算定法に関する基礎研究(その 2)
チャンバー法による干渉係数の測定」, 日本建築学会大会学
術講演梗概集 D-2, pp.551-552, 2000 年 9 月
7) 甲谷寿史 , 山中俊夫 , 古川準 :「直列配置された複数開口を
持つ建物における通風量算定法に関する基礎研究(その 3)
一様流下における通風量算定への干渉係数の適用」, 日本建
築学会大会学術講演梗概集 D-2, pp.553-554, 2000 年 9 月
0.99
1.05
CPW
0.98
CP 1
1.04
CPW
0.95
1.03
CP 1
0.8
0.6
0.4
0.2
Pressure Coefficient [-] (Windward)
いと言える。
*1
*2
*3
*4
*5
風上・風下圧力を算出した。これにより大開口条件で、
チャンバー法を用いた C D 値の算出方法及び開口を有し
本研究の一部は、文部科学省平成 17 年度科学研究費補助金 ( 若手研
究 (B)16760474、研究代表者:甲谷寿史 ) によった。
A1
Inlet Opening
本報では、CFD 解析により開口に捕えられる流管を
定義し、その圧力損失から流管解析に基づく C D 値及び
するための検討を行う所存である。
∆P1 > ∆P2
Aretard
A2
7. まとめ 株式会社大林組 修士(工学)
大阪大学大学院工学研究科地球総合工学専攻 教授・工学博士
大阪大学大学院工学研究科地球総合工学専攻 助教授・博士(工学)
大阪大学大学院工学研究科地球総合工学専攻 講師・博士(工学 )
イエブレ大学居住環境センター 教授・Ph.D
CP 1
CPW
0
11.6
20.7
-0.08
Cp6
Cp5
CPL
Cp6
Cp5
CPL
0.00
Cp6
Cp5
CPL
0.01
-0.16
-0.21
-0.09
46.5
Porosity [%]
0
-0.20
-0.21
-0.22
-0.1
-0.2
-0.3
-0.4
Pressure Coefficient [-] (Leeward)
図 13 風圧係数及び流管解析による風上・風下の圧力
Obayashi Corporation
Professor, Division of Global Architecture, Graduate School of Engineering, Osaka University, Dr. Eng
Associate Prof., Division of Global Architecture, Graduate School of Engineering, Osaka University, Dr. Eng
Assistant Prof., Division of Global Architecture, Graduate School of Engineering, Osaka University, Dr. Eng
Professor, Centre for Built Environment, University of Gävle, Ph.D