皮膚における好酸球性リンパ濾胞増殖症 - 日本皮膚科学会雑誌 検索

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昭和41年3月20日
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病,好エオジン球性リンパ肉芽腫症,軟部(組織の)
好酸球(性)肉芽腫と称された疾患について
川田 陽弘*,高橋 久゛,安西 喬**
Eosi皿ophilic
Lymplifolliculosis
Akihiro
Kawada,
of the十Skin(Kimura゛s
Hisashi Takahashi
and
Takashi
Disease)
Anzai
ここに報告する4症例は臨床的に顔面,肘,鼠径部あ
与えることに多少の異論を持っているので,ここに自家
るいはその他の部位に発生する皮膚腫瘤で,組織学的に
経験例を総括的に報告し,合わせてわれわれの見解を述
リンパ濾胞様構造の増殖と好酸球の増多を主徴とする特
べてみたいと思う.
異な疾患である.われわれぱ昭和81年以来かか乙症例に
症 例
遭遇して文献を渉亘していた際,遇々木村(哲)ら1)が
第1例 49才男,会杜員.初診:昭和31年4月.家族
昭和28年に“リンパ組織増生変化を伴なう異常肉芽腫”
歴に特記すべきものはない.生来健康で著座を知らず,
として症例を報告,次いで飯塚2)が昭和84年“好エオジ
また特にアレルギー性疾患の既往を有しない.現病歴z
ン球性リンパ腺炎およびリンパ肉芽腫症”として一種の
昭和24年春(初診時より約7年前)右耳前部に柵指頭大
表在リンパ節の腫大せる症例を記載,うち8例に木村ら
の隆起せる腫瘤を気附いたが,自覚症状なきままに放
の症例並びに後にわれわれの経験した症例と同症と考え
置,この腫瘤は徐々に増大し,昭和27年には右凩径部次
られる病変を報告しているのを知った.当時かかる特異
いで反対側,さらに左肘寓部に類似の腫瘤が発生してき
な皮膚病変は皮膚科領域で未だ記載されていないところ
た.昭和28年10月頃右耳前部のものは手掌大に増大,こ
から,昭和86年2月第883回東京地方会に報告s),その後
の頃切除術をうけた.昭和29年一部化膿し切開を受けた
“皮膚科の臨床”誌4)においてリンパ濾胞の増殖を主徴と
こと亀ある.
する皮膚疾患との関聯において上記の症例の概要を紹介
初診時栄養良好で,胸腹部内景に異常を罫めない.局
した.それ以後皮膚科領域での本症の報告か散見される
所所見=1)右頬全面に板状に隆起した,約手掌大の境
ようにだってきた.一方昭和87年に到り綿貫,粟根5)は,
界比較的明確な腫瘤があり,被覆皮膚と密に癒着してい
われわれの報告とは別個に,本症の12症例を報告すると
るが,下層に対しては良く運動性が保たれている.硬さ
ともに,文献例を収集し,本症は従来Mikulicz病とし
は一様で,弾力性軟.表面皮膚に禰漫性の褐色色素沈着
て報告されているものか少なくないが,本症をMikuli-
を聡め,腫瘍の下13 VCはヵヽつて受けた切除ないし切開の
cz病と呼ぶべきではないとし,新たに“軟部組織の好酸
廠痕がみられる(第1図).耳介後部及び同下部,側頚
球肉芽腫”と命名することを提案した.最近においては
部に約大豆大の軟かいリンパ節数コをふれる.2)左耳
好酸球性肉芽腫eosinophilic
後部に弾性軟の鶏卵大腫瘤11.3)左肘高内側に鶏卵
lymphoid eranulomaあ
るいは木村氏病(飯塚)として報告されているものが多
大の腫瘤11.4)左右蝋径部内側から陰股部にかけ鶏
りy
卵大の腫瘤各1コあり,これらはいずれも扁平に隆起
従来水症にっいての皮膚科的な観察,検討が乏しく,
し,境界は不鮮明である(第2図).両側凧径リンパ節
またわれわれは本症に対して好酸球性肉芽腫なる病名を
は大豆大のもの数コをふれる.
゛東京大学医学部皮膚科教室(主任 川村太郎教授)
**関東労災病院皮膚科(部長 安西 喬博士)
昭和40年12月21日受付
―
117 ―
118
日本皮膚科学会雑誌 第76巻 第3号
臨床所見の略図
検査所見=梅毒血清反応陰性.血液像は第1表の如く
で,47%に及ぶ好酸球増多,骨髄像においては第1表に
第/例49才男
昭和31.4.1とλ初診
みる如く好酸球増多以外に異常を認めない.血清総蛋白
量6.1g/dl,
A/G比2.17 ; 総コレステロール173ing/dl ;
高田反応(−).尿の蛋白,糖,ウロビリノーゲンいずれ
も異常なし.糞便に寄生虫卵を認めず.皮膚腫瘤片の真
菌培養陰性.
組織学的所見:右頬,左肘,左右蝋径部及び左耳後部
の皮膚腫瘤,右耳後部及び側頚部のリンパ節を剔除して
組織検査に供した.その組織学的所見は各症例にほぼ共
通した変化がみられるので後に一括して述べる.
治療及び経過z同年4月20日よりナイトロミソ1日1
回,1回量25∼30∼40∼50呵静注,41回計l,355iiigを投
与したが,腫瘤自体は縮小せず,次いで6月13日より7
月4日までに右頬にレ線照射(
第2例2/才男
昭和32.10.1.初診
170KV,
3 mA,
に ∂
‘︶・y八
J
第4例2j才,男
昭和314.初診
30cm)
1回200
R,
18回計3,600Rを照射,これにより
右頬の腫瘤は縮小を示し(12×10cm−10×7
cm),硬さも
軟化してきた.このためさらに10月8日から同月30日ま
でに計4,200Rを追加照射した.その後しばらく連絡が
絶えたが,昭和38年4月即ち初診時より7年後に診察し
た時には,初診時とは全く所見を異にし,右頬は健側に
比し萎縮し,腫瘤を触れず,皮膚は下層と癒着してい
た(第3図).右蝋径部内側の,入院中切除した部位に
第丿例ざ7才男
昭和33、7J、初診
は癈痕の他に取残したと思われる軟い腫瘤をふれるが,
入院時に比し顕著に縮小している.右頬および右蝋径部
につき組織検査を行なったが,頬では特異な組織変化は
り:皮膚腫瘍
消失し,細い膠原線維を認めるのみであり,凩径部の腫瘤
`:表在リンパ腺
では好酸球の浸潤,浮腫性の膠原組織の中にわずかの不
完全なリンパ濾胞様構造を認めるのみであった.この際
第1表 血
赤血球数
血色素量
(%) (×104)
検査日時
第1例
第2例
昭31.
4.
Bg38.
4 .
昭32.
10.
Bg38.
10.
昭33.
7.
第3例
10
1
BS37.
第4例
好中球
好酸球
単球
リンパ球
0
2
18
27
0
5
19.0
70.0
0,5
1.0
400
8,900
2 1 31
88
440
9,600
44
92
414
13,600
466
28,400
71
444
12,000
9. 12
/
/
78
374
13 13.3 g組 383
0
24
9.5
19
66
3
3
13
42
8
0
4
5,500
17
43.5
6.5
0
8
25
6,200
2.5
67.5
3.5
0
3
23.5
18
49
10
0
10,400
0
好 塩
基 球
47
85
/
4.
液 像
白血球数
31
昭39.7.3
0.5
mmCu+1.0mmA1,照射野10×12cm,焦点皮膚間距離
11
9
33
12
ナイトロミソ投与中好酸球29∼24∼8∼17%
デキサメサソソ内服中好酸球2∼0∼6%
デキサメサソソ中止により奸酸球10∼17%
'flS39.7 , 13115.7g紺 461 1 6,000 1
5 1 48 1 4 1 0 1 3 140
昭和41年3月20日
119
第1例の骨髄像
44,500
1.2
前骨髄球
5.2
骨髄球
後骨髄球
5.0
5.8
梓状核
分葉核
9,2
7.0
川
1.6
1
有核細胞数
骨髄芽球
好中球
1
好酸球
骨髄球
後骨髄球
梓状核
分葉核
1.2
原赤芽球
帽HF
3.2
L4
30.6
剽芦芦
7.2
10.6
7.2
巨核球
(十)
副9
6.0
好塩基球
0.2
単 球
0.4
リンパ球<京
3.2
20.6
形質細胞
0.6
組織肥眸細胞
0.2
貪食性細網細胞
その他の細網細胞
0.4
病的細胞
(−)
0.6
の検査結果は,血液像は第1表の如くで,好酸球は27
治療及び経過:右頬の腫瘤にレ線計1,8OOR照射,腫
%.血沈1時間値2,血圧154/102,
瘤の縮小を認めたのでさらにl,600Rを追加照射したが
値4 %.
BSP排泄試験45分
Fishberg腎機能検査,胸部レ線像,心電図のい
著しい色素沈着を来したので中止.次いでデキサ.gサソ
ずれにも異常所見を認めず,全身状態も良好であった.
ソを試用,1日I噌5日間の内服により顕著に腫瘤は縮
第2例 21才男,洋品商.初診:昭和32年10月.家族
小したが,投与を中止すると投与前の状態に戻った.そ
歴,既往症に特記すべきものはないMantoux反応は
の後治療を加えず,1年に1∼2回来院させて経過を観
14才で陽転.現病歴:昭和30年6月右頬の小腫瘤を気附
察したが,腫瘤の大きさに或る程度の縮小,増大の変動
いた.時に癌踪を感じたが放置,同年9月に至り右耳前
がみられた.昭和33年5月風邪気味で,頭痛及び喘息様
部にも類似の腫瘤発生,両者増大するとともに融合して
の発作を来たした.発熱はなかったが,左膝関節に疼痛
きた.最近右顎下部にも軟い腫瘤が生じてきた.
を感じたとい5.当時咽頭の発赤腫脹は認められなかっ
初診時体格中等大,栄養良好で,触診及びレ線的に胸
た.この際背部一帯に癈禅を伴な5紅斑が多発した.上
腹部内景に異常を認めない.局所所見:右頬中央部に扁
記の症状は一過性に消槌したが,これに引祝いて前記の
平に隆起した,境界不明確な腫瘤があり,その大きさは
右頬の腫瘤は臓肆と発赤を伴なって増大したが,翌日に
12.5×6cmで',弾力性軟の硬度である.さらに右下顎骨
は落屑を伴なって以前の状態に復した.その後は腫瘤自
縁に栂指頭大の極めて軟い腫瘤を認める,右側頚部に2
体に著変を認めないが,徐々に硬度を減じ,右耳前部,
1,左側頚部に1=・,左鎖骨上寫に3コの碗豆大の,表
右口角外上方に2,3の島嶼状の小腫瘤を残してその他
面平滑なリンパ節を触れる.
のものは消槌した.さらに右耳前部の腫瘤も縮小し,初
検査所見:梅毒血清反応陰性.血液像は第1表の如く
診後約6年すなわち昭和38年には上記の右口角附近に
で,70%に及ぶ好酸球増多を示す.血清総蛋白量8.3
g/dl, A/G比1.51,総=lレステロール96司朗,高田反応
陰性,残余窒素21.4mg朗.尿の蛋白,糖,ウロビリノー
ゲンいずれも正常.糞便に寄生虫卵を認めない.皮膚腫
瘤片の真菌培養陰性.
2.5×3.5ca大の腫瘤を認めるのみとなった,しかしリ
ソ・゛節の腫脹はむしろ増える傾向にあって,左右側頚か
ら鎖骨上高にかけ約10コ程触れるようになった.昭和38
年10月における血液像は第1表の如くであるが,白血球
数はむしろ増加し,依然66%に及ぶ好酸球増多を呈して
いる.しかし貧血,その他全身症状に異常を認めない.
組織所見:右頬の腫瘤と側頚部リンパ節につき検索.
現在経過観察中.
その所見は他症例と一括して後述する.
第.3例 67才男.初診:昭和33年7月.家族歴に特記
日本皮膚科学会雑誌 第76巻 第3号
120
すべきことはない.既往症;8才時麻疹,25才頃より両
しては良く運動性が保たれている(第5図).リソ・゛節
眼に視力障害あり,当時東大眼科にて風眼(?)といわれ
腫脹は認められない.
たことかある由.初診時視力障害高度で,指数を弁ずる
検査所見:血液像は第1表の如くで,好酸球は10%.
程度である.現病歴=初診時より5年前抜歯後2ヵ月を
血沈1時間17,
経て右側下顎角のやや前方に約柵指頭大の腫瘤を気附い
比1.23;チモール涸濁試験1.2単位,硫酸亜鉛混濁試験
た.自覚症状を欠くままに放置したが,徐々に増大して
3.3単位,総コレステロール175.9ing紐,黄疸指数6.2,
きた.初診時栄養良好,全身的理学的検査で異常を認め
BSP排泄試験30分値6.2%;残余窒素27.0iiig/dl.
ない.肝,牌も触れない.局所所見:右下顎角のやや前
(一),ASL-O
2時間38.血清総蛋白量7.4g/dl,
166Todd
A/G
CRP
単位.尿に異常なし.糞便に
方の顎下部に鷲卵大,半球状に隆起した腫瘤を認める.
寄生虫卵を認めない.
この腫瘤は皮内から皮下にかけて存在し,硬さは弾力性
組織所見:後に一括記載.
硬,被覆皮膚と癒着しているが,下層に対してはよく運
治療及び経過:同年5月1日より6月15日までナイト
動性が保たれている.被覆皮膚は正常で,潮紅,色素沈
ロ1ソ静注46回計2,300ing投与,白血球減少(
着等の異常なし(第4図).右鎖骨上高に大豆大のリン
を来たせるため中止したが,同剤静注15回目頃から腫瘤
パ節11,その他肢寞に両側とも小豆大のもの2孔蝋
の融合性がなくなり,葡萄の房状になった.腫瘤は全体
径部両側に米粒大のもの2∼3コのリンパ節を触れる.
としてやや縮小.同年8月2日から翌38年1月14日まで
検査所見:血液像は第1表の如くで,好酸球は8%.
再びナイトロミソ静注,週2∼3回で36回計l,800ingを
尿の蛋白,糖,ウロビリノーゲンは正常範囲内.糞便に
投与,この間6月16日よりデキサjサソンの内服を併
2,500)
寄生虫卵を認めない.
用,1日1.0∼1.5iiigを12月4日まで(
組織学的所見:後に一括して述べる.
呵)投与した.デキサタせソン投与により腫瘤は顕著に
168日,計128
経過:昭和33年7月24日腫瘤部を剔除した.手術創治
縮小し,内服終了時には右側の腫瘤は栂指頭大に,左側
癒後来院しなかったが,昭和39年7月即ち初診より6年
のものは殆んど触れなくなった.翌38年1月より4月ま
後に幸いに患者を診察する機会を得た.その際の供述に
で右側の腫瘤に対しハイドロローチソソの局所注射を7
よると,手術創治癒後多少の隆起,硬結か残ったが増大
回施行したが,効果なくむしろ増大する傾向がみられ
せず,術後約1年を経てから漸次隆起,硬結が減じてき
た.以後39年7月に至るまでデキサjサソソを継続的あ
たという.今回の診察では手術の巌痕のみで腫瘤を思わ
るいは間歌的に投与した.この間38年9月より翌39年3
せる変化は認められなかった.この際の血液像は第1表
月までエソドキサソ1回lOOmg静注,計20回投与したが
における如くで,好酸球は正常範囲に恢復(
効果は認められなかった.39年7月頃には右陰股部に指
3.5%)し
ている.尿にも異常を認めない.
頭大ないし栂指頭大の腫瘤数コ集銕,左陰股部には小指
第4例 23才男.初診:昭和37年4月.家族歴,既往
頭大の腫瘤数こ1が集銕.血液像は第1表の如くで,好酸球
歴に特記すべきものはない.現病歴:初診より約12年前
は4%に減少している.血沈は1時間6,2時間19.血
両側陰股部の腫脹を気附いたが,その後大きくなる傾向
清総蛋白量7.6g/dl,A/G比1.5,電気泳動像はA1
はみられなかった.約7年前左側の腫脹部に発赤,硬結
q:,-G1 4.6, ai-Gl 9.2,β-G1 17.0, 7-Gl -21.5%.チモ
を生じ切開を受けたことがある.最近2,3年来疸嫁を
ール混濁試験2.0単位,硫酸亜鉛混濁試験6.0単位.尿
感じ,漸次その部に褐色の色素沈着を認めるようになっ
47.7,
ウロビリノーゲン(1+).
た.
組織学的変化 以上が経験せる4症例の概要である
現症:全身的に異常を認めない.両側凩径部内下方∼
が,これらにみられる皮膚腫瘤の性状,発生部位(頬,
陰股部に,右側は手掌大,左側は鴛卵大の,類円形の腫
耳周囲,顎下部,肘高内側,凩径部∼陰股部),血液好酸
瘤を皮下に触れ,皮膚表面禰漫性に扁平に膨隆し,また
球増多も症例に共通した特徴ではあるが,最も特異な点
暗褐色の色素沈着を呈している.腫瘤は弾力性軟,境界
はその組織病変にある.皮膚腫瘤の割面は蝋白色ないし
は比較的明確,多少の凹凸を触れる.腫瘤の中に索状あ
帯黄白色で,線維腫ないしケロイドの割面に類似してお
るいは結節状の硬いものを触れる.また腫瘤の周辺に柵
り,周囲組織との境界は明瞭でない.組織学的には,表
指頭大までの孤立した硬い皮下腫瘤を数コ触れる.腫瘤
皮に軽度のフカソトーゼ,一部に不全角化(第1例)が
はすべて被覆皮膚とは癒着しているが,基底部組織に対
みられることはおるが,特記すべき変化は通常認められ
121
昭和41年3月20日
第1図 第1例.右頬における腫1巾.
第31刈 第1例.初診後7年後(昭38)の臨床
所兄.萎縮か残して腫瘤は消失.
第2図 第1例.両側爪径部における腫脹. 第4図 第3例.右下顎部における腫瘤.
122
日木皮膚科学会雑誌 第76巻 第3号
第5図
第4例.両側肌径晶における腫脹.
第6図
腫瘤の組織像(第1例).
第7図
リンパ濾胞様構造(第1例).
123
昭和41年3月20日
第8図
リンパ濾胞様構造か構成する細胞
(第3例).
第9図
Pap好銀線維染色標本(第3例).
第10図
唾液腺(顎ド腺)の問質にみられたリ
ソパ濾胞様構造(第3例).
124
日本皮膚科学会雑誌 第76巷 第3号
第11図
血竹壁の肥厚と千社をとり巻く線維化
(第4例).
第12図
顔㈲の筋層内にみられた糾胞浸潤
(第2例).
第13図
ノバミリソパ節口卵例)の組織像
125
昭和41年3月20貝
ない.主要な病変は皮下組織における著るしい細胞増殖
いるとは思われない.第4例では膠原組織の浮腫が高度
である.すなわちいわゆるリンパ濾胞様構造(以下濾胞
であった.かっ増殖した小血管の壁の肥厚が著明で,さ
と一略)を単位として,これが多数島嶼状に増殖し,この濾
らにそれを硝子化した膠原線維が層状に取巻く像がみら
胞を直接取囲んで細網細胞及びリンパ球が種々の程度に
れた(第11図).
増殖,浸潤している.さらにこれに多数の好酸球が集銕
局在リンパ節の組織変化 第1例,第2例につき検索
あるいは混在して浸潤しているのが特異である.そして
した.皮質から髄質にわたって肥大した二次結節(リソ
個々の濾胞を中心とした細胞増殖巣は増殖した膠原組織
・4濾胞,胚中心)が多数認められた.洞に細網細胞の増
の介在によって互に分離されている.この膠原組織は浮
殖はみられるが,高度ではない.好酸球の浸潤もみられ
腫を呈することが多く,またしばしば硝子化を示す.さ
るが,第2例では極めて高度であつたが,第1例ではそ
らに小血管の増生を伴なっていることが多く,かかる血
れ程ではなかった.なお髄質に形質細胞の増殖が目立
管の周囲及び膠原線維の間に多数の好酸球が浸潤してい
つ.リソパ節固有の構造は破壊されておらず,全体とし
る,所によっては形質細胞が巣状に増殖している(第
て好酸球増多及びりソパ濾胞の肥大を伴なった慢性リy
6,7図).上記の増殖した膠原組織は通常弾力線維を
パ腺炎の像である.大小多数のシンパ濾胞は肥大による
欠いている.また浮腫性であってもアルシャソ・ブルー
ものか新生か区別出来ない(第13図).
染色で酸性粘液多糖類は証明されない.ここで前記の主
本症の特徴 附文献的考察
要病変と思われるリソパ濾胞様構造にふれるならば,そ
われわれは本症を1つの疾患単位としてよいと考える
の中心を構成する細胞は大型,円形のいわゆる水泡状の
ものであるが,われわれの症例と同一症と看倣し得る症
核を持った細網細胞が比較的多いが,それにまじって1
例は本邦において相当の例数が報告されている.綿貫ら
∼2コの大きい核小体を有するリソパ芽球ないしはそれ
か,第1例と推定される片山6)の報告以後昭和34,
よりより幼若とみられるいわゆるbasophile
頃までの文献例を4録しているので,ここでは昭和34年
Stammze-
lien (Lennert)が散見される.その他に中型,小型のリ
以降昭和89年までの報告症例を収集し,第2表に一括し
ソ・゛球も混在することがある.核分裂像は極めて少ない
た.木村(哲)らの報告以前の症例は専らMikulicz病
6年
(第8図).しばしばこれら細胞の間にエオジンに無構
として報告されてきたが,その後は少数例を除き好酸球
造にそまる物質がみられる.また通常1∼2本の毛細血
性肉芽腫あるいはそれと類似の呼蒔,好エオジン球性リ
管を伴なっている.この中心部の外殼を小型リンパ球が
ンパ肉芽腫(eosinophilic lymphoid
取囲んでいる.銀線維(Pap染色による)は濾胞内では
は木村氏病等の病名を使用しているものが多い.なお塚
小血管の基底膜を除いては断片的な糸屑状のものがわず
本ら7)の第3,4,6,6例はリンパ節自体の変化とする疑い
かに認められるに過ぎないが,その周辺の細網細胞,リ
ンパ球の増殖巣では密に出現,前者に対して著しい対照
をなす(第9図).すなわちこの濾胞はリンパ節におけ
る二次結節と異なる所がない.しかし上記の特徴的な細
胞増殖は被膜を欠き,明らかにリソパ節自体の変化では
ない.
granuloma)あるい
か大きいので本症報告例から除外した.遠山35),長井ら36)
の症例は本症に編入させるべきか,記載のみからでは判
断しかねたので除外した.
これら文献例(綿貫ら5)の論文の文献例のうち中馬37)
の2例は本症から除外する)と自家経験例をもとに本症
上記の組織変化は各症例に共通してみられるが,その
の特徴を列記すれば下記の如くである.すなわち1)性
他に症例によって多少の附髄的な変化が加わっている.
別及び発病年令9砂節男は82例(86%)で,男に頻発
たとえば第2例においては主要病変は皮下組織にある
する.発病年令は1才(河島ら">)から62才(自験第8
が,真皮の汗腺周囲,あるいは真皮深層の血管周囲にも
例)にわたり,発病年令の判明せる66例のうち10才未満
好酸球増多を伴なう細網細胞及びリンパ球の小結節状の
12例,10才代28例,20才代12例,80才代8例,40才代4
浸潤,増殖がみられた.また組織切片に含まれている筋肉
線維の閣質にも類似の病変が認められた(第12図).第
3例では組織切片に顎下腺組織の一部が含まれており,
同腺の間質にも好酸球増多を伴なった濾胞の増殖が散在
性に少数認められた(第10図).しかし主病巣は皮下組
例,60才代,60才代はそれぞれ1例で,約60%が20才以
前に発病している.2)腫瘤の発生部位 顔面では耳下
腺部,耳介の周辺,頬,眼険,下顎部に,その他では肘
腐内側,鼠径部の附近,漬腐部,側頚部,鎖骨上席な
織であって,顎下腺の間質における類似の変化はそれに
ど,表在リンパ節,唾液腺,涙腺の近在皮下組織に好ん
随伴したもので,顎下腺内の変化が病変の中心をなして
で発生する.なお少数ではあるかその他の部位に発生し
日本皮膚科学会雑誌 第76巻 第3号
126
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昭和41年3月20日
た症例かおる.すなわち後頭部(綿貫ら5)の第12例),順
完全に消徒している.副腎皮質ホルモン製剤の内服によ
下部(木村ら1)の第1例,山口ら3e>)乳房部(木村ら1)
って顕著な縮小ないし消失が認められるが,中止すると
の第1例,加藤び,)),腰部(若林ら4o)の第2例),脊部
再び投与前の状態に戻るのか常である.抗癌剤の中に
(高橋26),石川ら3勺,大腿前面(若林ら‘o)の第2例,中
は,例えばウラシール・ヽマスタードの有効を報じた症例
村らU)高橋26)石川ら34)),さらに皮膚以外の部位とし
(石川ら34))もあるが,その他は有効といえない.現段
て口蓋(片山6',綿貫ら5)の第8例),頬及び口唇粘膜下
階においてはレ線照射と腫瘤の全剔除ないし亜全剔除術
(片山6),金“)の第1例),舌下腺部(片山6))汐ト聴道(塚
とを適宜症例に応じて組合せて治療する以外ないであろ
本ら7)の第2例,綿貫らs)の第8例)かあるが,かかる
う.本症の性格からみて抗痛剤の使用には慎重でなけれ
ものは単独ではなく皮膚腫瘤に併発したものである.
ばなるまい.
3)腫瘤の性状 臨床的に皮下から皮内にかけての腫瘤
本症に該当する症例の報告は石川らによれば本邦以外
で,ブヨプヨしたゴム様の軟かいものから弾力性硬まで
に中国に60数例あるといわれる(Changら43))が,欧米
の種々の程度の硬さを呈する.また軟かい腫瘤の中に硬
には本症にっいての文献は見当らない.最近Sneddon“゛
い結節ないしは索状のものをふれることかある.腫瘤の
が臨床的に本症に極めて類似した症例を報告している
境界は一般に不明瞭である.被覆皮膚と癒着するが,基
が,その組織変化は好酸球増多と線維化を伴なった慢性
底組織に対しては移動性か保たれている.表面の皮膚は
肉芽腫であって,リンパ濾胞の増殖は認められていな
腫瘤のために扁平あるいは半球状に膨隆する.表面は潮
い45)かかる症例と本症との関係は今後の問題である.
紅を呈することはなく,正常の皮膚色を呈するのか常で
本症の病因及び病理 本症の経過及び組織変化からみ
あるか,陳旧となったものでは時・々瀾漫性の褐色の色素
て本症カリンバ細網系腫瘍に属さ恋いことは明らかであ
沈着を示す.時に厩疹を訴えることがあるか,一般には
ろう.本症の重要な特徴の1つにリンパ濾胞様構造の増
自覚症状を欠く.腫瘤の発育は緩慢ではあるが進行性に
殖があげられる.慢性炎症過程あるいは種々の刺激な
徐々に増大し,鳩卵大,鶏卵大,手掌大あるいはそれ以
いし病変に対してリンパ細網系の反応性増殖を来し,
上の大きさに達する.眼瞼附近に発生したものでは屡々
その結果リンパ濾胞が出現する現象が知られているか
眼球突出を来す.本症の腫瘤の性状は比較的特徴的であ
CBafverstedt"),
るといえる.局在リンパ節はしばしば碗豆大位までの腫
みられるものも恐らくかかる変化の1つと考えられる.
脹を呈するか,それ以上の異常な腫大を示すことは・稀で
本症の血液及び局所の好酸球増多の原因は全く不明で
ある.皮下腫瘤と関係ない部位の表在リンパ節の腫脹を
ある.われわれの症例も含めて,寄生虫の存在を疑われ
Knoth"',川田ら4),西山ら48ぐ),本症に
伴なうものか少数例認められるが,それについては後に
た症例はない.木村ら12)生田ら14)は広節裂頭条虫,肺
触れる.4)血液像 2,8の例外を除き常に好酸球増多
吸虫,日本住血吸虫,顎口虫の浸出液で皮内反応を試み
一最高r4.5%='-を示すのが特徴的である.白血球数は
たがいずれも陰性に終っている.またわれわれは第1,2
正常範囲ないしは工万台の増多を示すが,幼若な好酸球
例の腫瘤につき真菌の培養を試みたがいずれも陰性であ
は出現しない.骨髄像も好酸球増多を示すが,それ以タト白
った.好酸球増多に関連してアレルギ一機序の関与が一
血病その他の異常所見を呈することはない.5)経過
応問題になるが,それを積極的に考慮させる徴候は認め
極めて慢性で10年以上持続する例は少なくない(藤本12)
られない.ただ少数例に癈輝を伴なう丘疹状あるいは紅
金41)若林ら4o'の第2例,加藤ら39',田中ら9)の第2例,
斑状皮疹の併発する現象(金41),若林ら40)中村ら”),
山崎ら10)中村ら11)生田ら14)常松15)著者らの第1,
著者ら,本間ら2つとか感冒様ないし上気道炎の症状に
2,4例,綿貫ら5)の第2,9,10例,藤田ら25)の第8例,高
随伴して本症の腫瘤が急に腫脹した事実(著者らの第2
橋26)).しかしながら全身的障害を伴なうことはなく,ま
例,石川ら24))は,本症の病理を考察する上に興味ある
たリンパ細網系の悪性腫瘍に発展した例は皆無である.
現象である.
6)治療 従来レ線照射,枇素剤,抗癌剤(Thio-TEP
本症の第8の特徴は腫瘤の好発部位である.本症の腫
A,ナイトロミン,クロモマイシン,マイトマイシンC,
瘤は,リンパ節自体の変化でないことはすでに述べたよ
エンドキサン,ウラシール・マスタード),副腎皮質ホル
うに明らかであるか,表在リンパ節の近傍の皮下組織に
モン製剤など種々の治療か試みられてきた.レ線照射に
発生する著るしい傾向を示す.皮膚におけるリンパ濾胞
よ口重瘤の縮小を来したとする報告か多く,少数例では
の増殖の発生母地として従来血管外膜細胞が考えられて
130
日本皮膚科学会雑誌 第76巻 第3号
いるが.それのみでは本症の好発部位の解明には不充分
に認められるような膠原組織の増殖を伴なわず,また肥
である.一方木原9によれば,鈴木は胎生期以後成人に
大したリンパ濾胞は新生によるものか,既存の濾胞の肥
達しても表在リンパ節の存在部位の近傍の皮下組織,一
大したものか区別が出来ない.一方所5町ま本症の皮下腫
部結合組織内に不完全な形のリンパ装置すなわちリンパ
瘤に併発せる局在リンパ節の変化には,皮下腫瘤と同格
ふ節,リンパ浸潤の存在することを見出している.本症
と看倣されるものもあるか,それはむしろ例外としてよ
における腫瘤の発生母地を考察する際にはかかる不完全
く,その他は巨大に肥大したリンパ濾胞を呈するものも
なリンパ組織の存在か問題になろう.さらに木原によれ
あれば, meduHare
ば,近年のリンパ系の研究により唾液腺,涙腺の実質及
kulocytoseの目立つものもあり,好酸球の浸潤も多寡
Retikulocytose あるいはSinusreti-
び導管の分岐部にもかかるリンパ組織の存在か確認され
種々あり,全く特徴のない増殖を示すことか少なくない
ている.かかる事実は本症の腫瘤か耳下腺,顎下腺,舌
とし,本症の典型に伴なった局在リンパ節の組織病変ぱ
下腺,涙腺の附近に発生する現象を説明する上に都合か
本症の皮下腫瘤のそれと全く同格であるといえないと述
良い.また本症の少数例には上記の好発部位以外の部位
べている.
(後頭部,順下部,乳房部等)に腫瘤が発生しているか,
最近岸本ら55づ無症候性血尿を主訴とし,膀胱壁に本
かかるものもリンパ節あるいはリンパ装置との関連から
症と類似の変化を認めた症例を報告しているのは極めて
説明出来る可能性がある.この点にっいての今後の検討
興味深い,ちなみに血液好酸球は40%であった.
か望まれる.
なお胃の好酸性肉芽腫として報告された症例のうち,
本症の皮下腫瘤と類似の病変か他臓器にも認められる
篠原56)木山ら57)の症例にはリンパ濾胞の増殖か認めら
ことは興味深い現象である.本症の皮下腫瘤の中に唾液
れている.ただし前者では血液像にっいての記載がな
腺(耳下腺,顎下腺),換言すれば本症の細胞増殖が唾液
く,また後者においては血液好酸球はO%であった.胃
腺の間質にも波及することは著者の第8例の他に,金
の好酸球性肉芽腫といわれる疾患はレ線でしばしば胃癌
(第2例),若林ら,綿貫ら(第5,8例)の症例にも認め
ないし胃潰瘍と誤まられる汎組織学的には通常リンパ
・られているか,本症の皮下腫瘤を伴なわずに単独に表在
濾胞の増殖は認められず,線維芽細胞の増殖か主体で,
リンパ節,膀胱壁に類似の病変を呈したとする報告か散
これに好酸球の浸潤か加わったもので(Helwigら585
見される.
Ackermany),血液の好酸球増多は一般に認められてい
飯塚はかかる特異な表在リンパ節の腫大例を報告し
ない.上記の病名で報告されたものの中には,明らかに
(うち8例は本症と考えられる),リンパ節の組織変化は
寄生虫に対する局所反応と看倣される症例もある(石井
本質的には木村(哲)らの記載したものすなわち本症と
ら60)参木らツ).また血管炎の像を呈するとともに血液
伺じであるとした.その他に吉井ら51≒天木ら52)和田
の好酸球増多を伴なって,アレルギー性変化とされるも
ら5s)等の報告が散見される.そしていずれも血液の好酸
のもあるようである(McCune ら“)).これらはいずれも
球増多を伴なっている.本症は皮下腫瘤の存在部位の局
本症とは別症と考えられるか,岸本らの膀胱壁における
在リンパ節の腫脹を伴なうことは少なくないが,大多数
如く,本症の皮下腫瘤と同じ機序が働いて胃壁に本症と
以碗豆大位の大きさで,それ以上の異常な腫大を呈する
同種の変化を呈する場合は考えられないことではない,
ことはない.ただ少数例において局在リンパ節以外の部
しかしながら本症と同格と看倣し得る確実な胃における
位の表在リンパ節の腫脹を呈したり(塚本らの第1例,
症例は現在まで報告されていない.
木村(信)ら,中村(晋)ら,綿貫らの第1例,藤野
本症と類似疾患との鑑別
ら29)),皮下腫瘤の出現以前に表在リンパ節の腫脹が先行
本症を臨床上1つの疾患単位とするとして,以下類似
したとする例かおる(千葉ら49)藤田(恵)3り.これら
疾患との異同について触れてみる.
の症例のリンパ節の変化か飯塚の記載したものすなわち
1)
好エオジン球性リンパ腺炎と同一であるかどうか判定出
(以下B-S病と略)は本来リンパ節における病変で,多数
来ないか,類似したものであろうと推定される.われわ
の巨大なリンパ濾胞様の結節状の細胞増殖を来すが,今
BriU-Synuners病との関係Brill-Symmers病
れが第1,2例につき局在リンパ節を検索した限りでは,
日リン’4節の細網肉腫の前肉腫状態と看倣す考え(赤崎
リンパ濾胞の肥大と好酸球増多を伴なった慢性リンパ腺
">, Albertini">)と,B-S病はすでにいわゆるmalignant
炎の像で,飯塚の記載したものに甚だ近いが,皮下腫瘤
lymphomaであって,腫瘍細胞が結節状に増殖したもの
昭和41年3月20日
131
とする見解゛に分れている.しかしいずれにしてもその
ているが,そのうち5例は痕跡的(angedeutet)であっ
本体はリンパ細網系の悪性腫瘍の範時に含まれることに
たとい5.これに反し本症では常に顕著な濾胞構造が認
は変りはない.
められている.両症の顕著な差違は血液及び腫瘤局所の
B-S病が稀に皮膚腫瘍を伴なうことが
知られているが(Gall,
Mallory≪≪, Robb-Smith">
好酸球増多と局所の膠原組織の増殖の有無である.前者
Polano">),そしてその組織病変はリンパ節におけるも
では血液の好酸球増多を一過性に示したものはl例(症
のと同一であるといわれているが,
例33"')のみで,局所で顕著であったのは1例(症例32
Polanoの症例はリ
ン・゛球様細胞の単一な増殖を呈していた.
B-S病におけ
46))のみで,少数出現したものは2例(症例33,
29"'),
るいわゆる巨大濾胞は異型の強い細網細胞ないしリンパ
残りの6例は好酸球が認められなかった.
芽球よりなるもので,本症にみられる濾胞構造とはその
本症とLabcにみられる濾胞様構造は或る種の刺激に
点鑑別出来よう.もちろん細胞の異型性という点からだ
対する組織の反応性増殖という点で共通したものがある
けでは本症との鑑別に困難を感じることがあるかも知れ
が,本症においてはその上に顕著な好酸球増多が認めら
ないが,B-S病では本症にみられる如き顕著な好酸球増
れーかっこれが本症の病因と極めて密接な関係を持つも
多,膠原組織の増殖等のいわゆる反応性変化を呈さない
のと推定されるので,両症の発生機序は不明にしてもそ
点から鑑別出来よう.
2)
の病因には両症の間に異なった性格か推定される.従っ
Lyxnphadenosis
benigna
cutis (Labc)ない
てわれわれは両症を区別して置くことを主張したい.
しリンパ球腫との関係 Labcの単発型ないし限局型
3)
(solitareru nd regionar multipler TyPus)は従来リ
ソ・゛球腫といわれるものに相当するが,このものは臨床
eosinophile Retikulose 及び eosinophile
retikulare lymphozytomartige
Hyperplasie
(Got-
tron)との関係:これはGottronが上記の呼称を以て記
所見からいっても組織病変の上からいっても明らかに区
載した疾患である.先ずGottronの記載を要約して紹介
別出来る.むしろ本症との関係で問題になるのは播種型
(multipler,ausgedehnter TyPus)すなわちLabc
dis-
し,次いで本症との比較を試みる.供覧された症例は2
persaである.これと本症との差違を総括すれば第3表の
例ある.
如くなろう.
第1例69)−44才女.両顛骨部における布団様(kisse-
Labc
dispersa ではBafverstedt">による
と,濾胞様構造は9例中1例を除いて部分的に認められ
nartig)の浸潤せる局面で,被覆皮膚と癒着しているが,
下層に対してはよく動く.局面の表面はブドー酒様の潮
第3表
紅を呈し,多数の細小血管の拡張が認められる.この他
Labc. dispersa
本 症
に耳前部にアーモンドの実位の大きさの扁平な淡紅色紅
斑,両乳房部,下腹部,両大腿から下腿にかけて帽針頭
皮下腫瘍,一部皮内に
及ぶ
皮下腫瘤
被覆表皮と癒着
同左
る.組織学的には,真皮深層から皮下組織にかけ毛嚢周
潮紅を呈することたし
時に褐色の色素沈着
囲性の結節状の細胞浸潤で,これは円形細胞,リンパ球
臨床 変化が皮内に及ぶとき
は表面に潮紅
しばしば主腫瘍の周辺
に毛嚢性の浸両雄を示
す
発生部
特別の奸発部位なし
位
必ずしも濾胞構造を形
成しない
組織像
血液の
詐゛
かかる変化なし
及びリンパ球様細胞からなり,これに種々の程度に好酸
球が混在する.一部に胚中心(反応中心)の形成がみら
れる.壊死及びStern
唾液腺の附近,肘寓内
側,凩径部に好発
必ず顕著な濾胞構造
を形成
好酸球を欠くか,浸潤
しても少数
常に顕著な好酸球の多
数浸潤
形質細胞略常に出現
形質細胞出現すること
が多い
認原組織の増殖は一般
になし
湿原組織の増殖
(−)
大からレンズ豆大の紅色小結節が相当密に多数散在す
berg巨細胞を欠く.臨床的に顔面
の皮疹はエリテマトーデスが疑われた.神経系その他内
臓諸器官に異常を認めず,また血液好酸球は0∼3%の
範囲を動揺.
第2例"≫―61才男.1年半前より右側腹に小結節及び
膿庖発生.3ヵ月来脊椎から背部右半側にかけ,帯状に
レソズ豆大までの扁平あるいは半球状に隆起した,硬い
褐紅色ないし紫紅色の浸潤せる小結節が多発.この小結
節は被覆皮膚と一部癒着,表面に薄い葉状の鱗屑が附
常に駱められる
着.組織学的所見:多角形あるいは腎形の小形の細網細
胞の増殖が主体で,これにリンパ芽球その他のリンパ球
132
日本皮膚科学会雑誌 第76巻 第3号
系細胞が加わっている.一部に血管の増殖及び出血巣が
がら本症と比較検討するに足る材料に乏しい.
みられる.当初,臨床的及び組織学的所見から電撃型菌
J)虫刺特に節足動物の刺贅により発生せるリンパ細
状息肉症が最も疑われたが,その後の組織検査では,表
細系細胞の反応性増殖との関係:虫刺特にダエ,蚊等の
皮の変化少なく,毛嚢周囲性の円形細胞及び小型の細網
剌首部に緩徐な経過を以て丘疹ないし腫瘤を形成し,組
細胞の増殖で,これに多数の好酸球が浸潤している.リ
織学的に表皮の偽癌性増殖(pseudocarcinomatous
ンパ節腫隈なく,発熱もない.血液像では単球増加(最
perplasia)の他に,真皮に好酸球増多を伴なう細網細胞の
hy-
高11%),リンパ球減少が認められる.血沈値V4,血清蛋
増殖を主体とする肉芽腫が発生することは,“persistent
白の電気泳動像に異常なし.
insect bite” (dermal
eosinophilic granuloma)として
Gottron'"は上記の2例を含めて,最近約10年間に時
A11en72)により記載されたが,最近本邦においても野
々かかる症例を経験し,これをeosinophile
原73’が類似の症例を報告している.
Retikulose
(eosinophileretikulare Hyperplasie)と呼んでいる.
このものはリンパ球及び組織球の浸潤増殖を伴なった
これを総括すると,臨床的に大小の板状及び結節状の浸
高度の好酸球の浸潤,さらに形質細胞の増殖の加わった
潤よりなり,一部は自然に消毯し繊細な萎縮を残すこと
一種の肉芽腫で,時に濾胞構造が出現する(Allen).野
がある.そして組織変化は血管周囲及び皮膚附属器周囲
原の症例は真皮全層から一部皮下組織に及ぶ変化で,胚
における細網細胞の結節状の増殖(flachenhaftでない)
中心を持ったリソパ濾胞様構造が出現し,また間質の結
と多数の好酸球の浸潤(Gottronはその一部は局所的に
合織の増殖が加わって,本症と極めて類似した変化がみ
細網細胞より派生したものとする可能性ありという)よ
られている.本症との差違をあげるならば,1)本症に
りなり,肉芽腫の性格に乏しく,また壊死を欠くとい
は表皮の pseudocarcinomatous
hyperplasia を欠く,
う.リンパ節の変化を欠き,血液像は60%に至る種々の
2)野原症例は血液好酸球増多を欠く,3)主要な浸潤
好酸球増多(ただし上記の2例には認められない)を示
巣は,野原例では真皮全層であるが,本症においては皮
すが,白血球増多及び白血病の変化を示さない.これら
下組織にあること等である.上記の虫剌に因る肉芽腫は
症例はHodgkin病,菌状息肉症eosinophiles
数週,数カ月あるいは1年以上を経て緩徐に発生すると
Leukamoid
(Pfleger & Tappeiner, Hypereosinophilie-Syndrom,後
いわれてい,るので(Allen),患者によっては虫刺の既往
述),好酸球性白血病,寄生虫性疾患による好酸球増多
を忘れていることもあり得るから,本症もかかる虫刺に
その他と区別出来るとしている.
よる肉芽腫かも知れないという可能性もあるが,本症に
Gottronのかかる症例と本症を比較するに,前者は濾
みられる顕著な好発部位は虫刺によるものとしては説明
胞構造を恒常的に呈するものではないこと,結合組織の
がっかない.本症は後にも述べるように,主要病変の位
増殖があってもそれほどでないこと,また一方臨床面か
置,血液好酸球増多等の点からみて,外的な病因が局所
らして板状,結節状の浸潤はたしかに類似はあるが,本
に直接働いた結果と看倣すよりは全身的内因的な病因を
症にみる腫瘤は多少板状のこともあるが,主として皮下
考えるべきであろう.
組織に位置し,境界不明瞭で,表面に潮紅を示さない.
5)好酸球性肉芽腫といわれる疾患群との関係:好酸
これに対しGottronの症例は前にも述べた如く小さい
球性肉芽腫とよばれるものは組織学的面からの1つの症
結節が多発しており,かっ必ずそれに潮紅を伴なってい
候であり,従ってnosologyの上からは種々なる疾患が含
る.またGottron-Schonfeldの著書71)の写真(
まれている.このことは皮膚科のみならず,他科の領域
568∼9
頁,90∼94図)にみる如き一種の萎縮がみられることが
においてもいえることではあるが,殊に皮膚科領域では
ある.前記の2例の他に参考とすぺき材料が比較的乏し
従来から好酸球性肉芽腫と呼ぱれた疾患の数は少なくな
いが,われわれの知る範囲では,組織及び臨床的所見か
い. Woerdemann,
らみて同症とし難い点が多い.
の如く分類した.すなわち(A)
Gottron'"がeosinophile
Retikuloseの他に,リンパ
球腫と関連してeosinophile
retikulare lymphozytom-
artige Hyperplasie (eosinophile lymphoretikulare Hyperplasie)と呼んだ症例の方がeosinophile
Retikulose
より本症の組織病変との類似性を考えさせるが,遺憾な
um
Prakken"'はこれらを整理して以下
granuloma
diutinum faciei:granuloma
eosinophilic-
faciale (Lever),顔面
の好酸球性肉芽腫といわれるもの(B)reticulogranuloma eosinophilicum cutis:Hand-Schuller-Christian病,
Letterer-Siwe病,骨の好酸球肉芽腫に併発するもの,
(C) reticuloatanuloma
e osinophilicum
cutis simplex:
昭和41年3月20日
133
(B)におけるものと同じ組織変化を示すが,皮膚のみ
に限局しているもの.
(D)
pemphigoides: Nanta,
granuloma
acute
philia:
Gadrat
eosinophilicum
endotheliosis
and
granuloma
with
nonspecific
i
一大部分allerがc
granulomata
の好酸球性肉芽腫,(E)
cutis varia:
tissue
(1)
reticulo-
涙腺,唾液腺の慢性腫脹で,現今-ごは種々の病因すなわ
ち白血病,
Hodgkin病等のリンパ細網系腫瘍あるいは
(2)
「ections
tissue eosino-
呈することか知られている.そしてかかる病理の判明し
(F)pseudo-
たものを“MikuUcz症候群”と呼び,原因不明のものを
with
chronic
Mikulicz病の疾患概念は不明確な点が多い.本来は
eosinophilia,
granulomatosis
eosinophilica
litis(-losis)なる種々の名将を考慮している.
eosinophilicum
cutis.
結核あるいはサルコイドーシスによっても同様の症状を
Mikulicz病(Mikulicz's
disease proper)と呼ぶ傾向に
本症が上記のいずれの疾患群とも異なることはいうま
ある.さらに後者についてSjogren症候群の1型と看
でもなかろ5.本邦での好酸球性肉芽腫の報告の中の予
倣す見解(Morganら79)80)'\あるいはlymphoepithelial
3S*"の症例は本症と同症と考えられる.なおHypereosinophilie症候群(eosinophiles
lesionと考える人もある(Godwin"').その当否は別に
Leukamoid,
Pfleger,
してMikulicz病ないしMikulicz症候群は涙腺,唾液
Tappeiner'^'),本邦の永井ら76)の“好酸球性白血病様反
腺自体の疾患であることに変りはなく,従って皮下組織
応”に髄伴した皮膚変化”,西村ら77)の“好酸球性類白
を主病巣とする本症はそれに該当しない.
血病性反応?”の症例群との間にも類似した変化はな
本症は最近好酸球性肉芽腫として報告されることか多
く,鑑別上問題にはならない.
いが,もともとこの呼将は組織学的観点からの症候名
本症の命名について
で,一定の内容をもった疾患名ないし概念ではなく,殊
本症μ或る時期MikuHcz病として報告されてきた
に皮膚科領域では従来種々なる疾患に適用されてきたこ
ことは先に述べた通りである.木村(哲)ら1)は本症を
とはすでに述べた通りである.かっ本症は好酸球の増多
報告レ々こ際“本症は少なくともリンフアデノー七令結核
を特徴とすることはもちろんであるが,それと同等,むし
その他の者とは異なる.本態の良く判らない,従来詳述せ
ろそれ以上にリンパ濾胞の新生,増殖がこの疾患の主要
られていない,恐らくただ漫然とMikulicz病に入れら
な特徴を構成しているのでも肌また本症の組織変化に
れていた不明の疾患”と述べているが,後年一時これを
通常の肉芽腫なる用語をあてるのは適当でない.従って
eosinophilic
われわれは本症をeosinophilic
follicular
granuloma'"と呼んだ.飯塚2)
lymphfolliculosis
は本症を“好エオジン球性リンパ肉芽腫症”(eosinophi-
phfolliculosis
lie lymphoid
症)と命名するのが適当と考えるものである.そして本
granulonia)と呼び,好エオジン球性リ
ンパ腺炎の変化と同格とし,木村氏病と命名することを
’症の如く皮膚(皮下組織)に発生した症例に対しては
提案した.その後綿貫ら慌よ“軟部組織の好酸性肉芽腫”,
藤田(恵y2,はeosinophilic
fo田culokentric
eosinophilic
lymphfoUiculosis
of the skin
syndrome
らの症例の如き膀胱壁に発生したものに対しては膀胱の
(好酸球性濾胞増殖t生症候群)と呼穏することを提案し
e.l.の如く,それぞれの発生した臓器名を附加すればよ
た.所5≒ま病理学的観点から本症に対しeosinophilic
hyperplastic
panniculolvmphfoUiculopathy
lie foUiculoplastic
pan
ocytosis), eosinophilic
eosinophi-
「culo-lymphadenosis
lymphf
oiliculoplastic
木村(哲)氏らの症例の組織標本を検討する機会を与
pannicu-
えられた慈恵太病理石川栄世教授に謝意を表する.
献
1)木村哲二,吉村三郎,石川栄世ご目病会誌,
; 東京医事新誌,
2)飯塚 栄:巨大医誌,
65,
18,
いと思う.
(-lymph-
文
179,昭23
37,
216,昭23.
93,昭35(佐藤雅彦,木山 敞:岡山医会誌,
72,
1287,昭35と同一症例).
10)山崎英夫,宮崎 穣:日本外科学会北海道地方
900,昭34.
71,
4)川田陽弘,高橋 久;皮膚臨床,
3,95,昭36.
U)中村 晋,橋本誠二,河合 勝,上谷秀和:十
5,昭37.
全医会誌,
6)片山久寿頼:日外会誌,
17,
763,昭36.
会誌,6号,73頁,昭35.
3)高橋 久,川田陽弘:巨皮会誌,
5)綿貫 詰,粟根康行:臨外,
64,
568
(1960).
12)木村信良,白石佳正,宮永忠彦:日本医事新報
9,411,明41/42.
7)塚本憲甫,渡辺哲敏;癌の臨床,
5,108,昭34.
No.
8)藤田恵一,石原和之:日皮会誌,
70,
13)渡辺 寛,田中睦男,江崎研一郎:小児科紀要,
9)田中 聴,木山 敞,吉田 茂:癌の臨床,6,
(lym-
eosinophilica,好酸球性リンパ濾胞増殖
386,昭35.
1926,
7,466,昭36.
34頁,昭36.
とし,岸本
134
日本皮膚科学会雑誌 第76巻 第3号
14)生田信孝,河村正昭,曾田忠雄:口外誌,
昭36.
15)常松英一:日血会誌,
7,72,
50)木原卓三郎:日本血液学全書,第2巻,東京,
丸善,昭38,
24, 295,昭36.
16)国部正人,長岐健橘,道又 央,池下一也,高
橋 孝:外科領域,
9,247,昭36.
Med.
415頁;鈴木恒二:Acta.
Univ.
Kioto,
30,
174,
Schol・
1952/53.
51)古井恒雄,宍藤 脩:日病会誌j8ユ065,
1959.
52)天木一太,堀内 篤,肥後 埋,中村 宏,芹
17)田坂定孝,友野 隆,斉藤史郎,桑島達郎:日
内会誌,
49, 1356,昭3G.
18)藤田英輔,宗 義朗,朝田康夫,立花和典,早
沢武男,西永経康,中村太郎: 臨床血液,1,
川 実,松尾隆男,南 田鶴子,今村貞夫,藤
沢伸次,伊藤恭子;皮紀要,
57, 3,昭37.
216,昭38.
19)中村 豊,中村豊禰,永井一徳:日臨外会誌,
24,
231, 1963.
20)三好 佑,柏崎 均z口耳咽喉会誌,
66, 379,
昭38.
21)北条 仁:20)への追加.
22)大槻道夫,佐山正男:日臨外会誌,
38.
368,昭35.
53)和田 昭,谷口春生,岩永 剛ご日病会誌,
54)所 安夫:臨外,
17,
175,昭37.
55)岸本 孝,樋口昭男,甲斐祥生,関 裕:臨床
皮泌,
18,
17,
mS3.
56)篠原日出夫:東京医事新誌,68巻,n号,57頁,
昭26
; ロ外会誌,
53,
709,昭27/28.
57)木山 敞,近藤日出海:臨外,
24, 203,昭
23)野原 望,月野木渋徳:皮と泌,
25, 32,昭38.
24)本間 真,吉田邦啓;皮膚,
5,167,昭38.
52,
58)
Helwig,
Obst.,
59)
E.B.
96,
Ackerinan,
ed.,
&
15,
Ranier,
355,
A.:
1058,昭35.
Surg。Gynec.
&
1953.
L.V.: Surgical Pathology,
St. Louis, CV,
Mosbv
Co.,
2nd
1959
25)藤田恵一,布施為松,岸本 孝:目皮会誌,73
665,昭38.
60)石井 守,志田律三,中野晋一:日消病会誌,
53,
50,昭31.
26)高橋 久:目皮会誌,
73, 674,昭38.
27)永井隆吉:同誌,
73, 674,昭38.
28)仮家達朗,岡本英三,勝井富三郎,勝田 隆,
井町恒雄:日外会誌,
64, 727,昭38.
29)藤野和夫,戸田英里,笹森 繁,筒井 完s外
科, 25, 871,昭38. り,
30)古田良夫:日皮会誌,
74, 724,昭39.
31)南 浩,麻生泰成:皮紀要,
59, 54,昭39.
32)藤田恵一:口皮会誌,
74, 531,昭39.
33)河島隆男,笠原潤論,神村政行,杉生丁亮,鈴
木朗夫:外科,
26, 1795,昭39.
34)石川浩一,上垣恵二,菱本久美郎:日本臨床,
22, 126,昭39.
35)遠山 慎:岩手医会誌,
11, 521,昭35.
36)長井萬夫,大塚康吉:岡山医会誌,
73, 215,昭
36.
37)中馬英二:日病会誌,
39, 37,昭25.
38)山口堅太郎,中島芳雄:外科,
13, 102,昭26.
39)加藤信吾,大井 実:日外会誌,
54, 733,昭28.
40)若林 修,宮下公夫:診断と治療,
43, 156,昭
30.
41)金 泳植;口外会誌,
38, 816,昭12/13.
42)藤本 広;医学中央雑誌,
12, 485,大3.
43) Chang, T. & Chen: Chinese
Med・. J・>81,
384, 1962. ―34)より引用.
44) Sneddon, I.B.: Proc. Roy. Soc. Med., 56,
77, 1963.
45) Sneddon: 著者への私信.
46) Bafverstedt.B.: Acta derm, -venereol.,24
Suppl. 11, 1943.
47) Knoth, W.: Dermat. Wschr., 142,1269, 1960.
48)西山茂夫,古谷達孝,西脇宗一:Jap・ J. Der mat. Ser. B, 74, 131, 1964.
49)千葉哲郎,岩瀬和夫,武山勝也z日本皮膚科仝
書,第7巻,第1冊,東京,金原出版,昭32,
255頁(第49表);臨外,
7, 726,昭27.
61)参木:60)に対する追加。
62) McCune,
W.S。Gusack,
M. &
Ann.
Surg・, 142, 510, 1955.
63)赤崎兼義:日病会誌,41,1,昭27.
p. 330.
Newman,
VV.:
64) V. All〕ertini,A. &
Riittner, J ,R.: Dtsch・
med.
Wschr。75,
27, 1950.
65) Lukes, R.J.: 最新医学,
19, 1631,。昭39.
66) Gall, E.A. & Mallory,
T.B.: Am.
J. Path。
18,
381, 1942.
67) Robb-Smi山,
A.H.T.: Brit・
J. Derma t・,56,
151,
1944.
68) Polano, M.K.: Hautarzt,
8, 136, 1957.
69) Gottron, H.A.: Dermat.
Wschr.,
134, 1108,
1956.
70) Gottron,
H.A.: Ibid・,
71)
H.A.: Dermatologie
Gottron,
139,
468,
1959.
und
Venerolo-
gie,
herausg. von Gottron uud Schonfeld,
Stuttgart, G. Thieme,
1960
Bd. IV, S. 567.
72) Allen, A.C.:The
Skin St. Louis, C.V. Mosby
Co.,
1954, p. 513.
73)野原 望:日皮会誌,
74) Woerdemann,
M.J.
motologica,
105,133,
75) Pfleger, L.
exp.
Derm.,
72, 461,昭37.
& Prakken,
J.R.: Der1952.
& Tappcincr,
J.: Arch.
208,98,
1959.
76)永井啄郎,西尾一方:日皮会誌,
66,
khn.
277,昭31.
77)酉村長応,出来利夫,新井恒入,木下愈告:皮
と泌, 18, 594,昭31.
78)木村哲二:梅林慎−郎他(日病会誌46,
32)に対する附議。
79)
Morgan,
Path,
80)
Morgan,
5,
81)
29,
W.S.
471,
& Castleraan,
275,昭
B.. Am.
W.S.: New
England
J,Med・,
251,
1954.
Godwin,
J.
1953.
J.T.: Cancer,
5,1089,
1952.