業種別先物を活用した セクターローテーション戦略 - CME Group

株式市場
業種別先物を活用した
セクターローテーション戦略
2014年4月16日
John W. Labuszewski
Richard Co
マネージング・ディレクター
エグゼクティブ・ディレクター
調査・商品開発部
株式商品部
1 312-466-7469
1 312-930-3227
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CME グループの E-mini S&P 業種別株価指数先物(業種
この業種別先物を利用すれば、業種を絞ってリスクを取
別先物)は、米国株市場の業種(セクター)ごとのリスク
ったり、ヘッジをしたりすることができます。 また、各業
を管理するうえで、高い利便性と費用対効果をもたらして
種の成績を相対的に予想し、そのトレンドを利用すること
くれるツールです。
もできるでしょう。
本稿では、業種間の相対価値の変化を予測したとき、業
種別先物をどのように活用できるか考察します。
こうした比較的成績の低い業種から、好成績を期待でき
る業種に運用資金を移す戦略を「セクターローテーション
戦略」といいます。
なぜ業種なのか?
S&P 500 構成銘柄の業種内訳
スタンダード・アンド・プアーズ 500 種(S&P 500)は、
(2014年3月31日現在)
米国株市場の全体的な成績を測るベンチマークとして最も
IXY
11.5%
IXU
3.4%
人気のある株価指数です。 S&P 500 は、すべての業種を代
IXR
10.6%
IXT
22.0%
表する多種多様な企業の株式で構成されています。
こうした「マクロ指数」は、市場全体をまとめて見るう
IXE
11.0%
IXB
3.6%
えで、とても便利です。しかし、その集約の過程で、多く
IXI
10.1%
のものを見逃してしまう可能性があります。 例えば、S&P
500 が上昇したのは、経済指標の発表がきっかけになるこ
IXV
12.0%
ともあれば、債券から株式への大きな資金シフトやローテ
IXM
15.8%
ーション(転換)が原因となる場合もあるのです。
そこで S&P 500 を、特徴の異なる 9 つの業種で分割しま
した。 公益事業、生活必需品、ヘルスケアは、基本的にか
なりディフェンシブ(安定的)な業種です。 一方、エネル
ギー、資本財・サービス、素材、一般消費財・サービス、
テクノロジー(ハイテク)は、基本的に景気循環的な傾向
が見られる業種といえます
1
。
業種別先物は、投機目的でスプレッドの取引をするのに
便利です。 しかし、株式運用マネジャーが、コア(中核)
部分の投資ポートフォリオを変えることなく、ある業種か
ら別の業種に投資資金を配分・転換する場合にも活用でき
ます。
業種別指数の成績
2011 年 3 月、CME グループは E-mini 型の業種別先物
を上場しました。 業種別先物は、取引単位が指数の 100 ド
ル倍で、差金決済されます。ただし、金融株先物だけは指
数の 250 ドル倍です。
どの業種別指数にも S&P 500 とは正の相関があります。
しかし、S&P500 のリターンに対する業種別指数のリター
ンを統計的に回帰分析して算出されるベータ(β)と相関係
数(R2)は、さまざまです
2
1
10
2
。
過去の未処理の基礎的ベータと、いわゆる「修正ベータ」は、
もともとS&P 500では情報技術と電気通信・サービスに分類
区別して扱われることが多いです。 過去の「未処理」ベータは、
されている2業種を統合し、テクノロジーとして扱っています。
過去のデータに基づいて最小2乗推定法(OLS)で計算されます。
| 業種別先物を活用したセクターローテーション戦略 | 2014 年 4 月 16 日
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例えば、公益事業株指数のベータは 0.566 と保守的で、
2
S&P 500 と 9 つの業種別指数の成績データを以下の表に
また R は 0.261 と弱い相関性を示しました。 一方、金融
まとめてみました。 2009 年 4 月から 2014 年 3 月までの
株、エネルギー株、素材株の指数は、それぞれ 1.237、
過去 5 年間、S&P 500 は+160.79%という目覚ましいリ
1.168、1.137 で、非常に積極的なベータを示しています。 ターン(値動きだけでなく発生した配当金を含む)を上げ
S&P 500 と最も高い相関を示したのは、資本財株指数でし
ています。
た。R2 は 0.888 です。これに一般消費財株指数の 0.852、
そして金融株指数の 0.839 が続いています。
トータルリターン
(2014 年 3 月 31 日現在)
業種別指数の成績(対 S&P 500)
(2012 年 4 月~2014 年 3 月の週次データに基づく)
指数
2014 年 1~3 月期
1年
5年
リターン
リターン
リターン
指数
銘柄記号
ベータ(β)
修正ベータ
R2
S&P 500
1.79%
21.83%
160.79%
一般消費財
IXY
1.082
1.055
0.852
一般消費財
-2.80%
23.99%
258.74%
生活必需品
IXR
0.714
0.809
0.598
生活必需品
0.75%
11.23%
137.65%
1.21%
14.57%
130.41%
エネルギー
IXE
1.168
1.112
0.775
エネルギー
金融
IXM
1.237
1.158
0.839
金融
2.59%
24.85%
174.04%
ヘルスケア
IXV
0.805
0.87
0.699
ヘルスケア
5.85%
29.41%
167.06%
資本財
IXI
1.086
1.057
0.888
資本財
0.63%
27.97%
217.18%
素材
IXB
1.137
1.091
0.762
素材
2.84%
23.64%
143.41%
テクノロジー
IXT
0.999
0.999
0.801
テクノロジー
2.12%
22.59%
154.64%
公益事業
IXU
0.566
0.71
0.261
公益事業
10.08%
10.37%
100.06%
出所:ブルームバーグ
出所:ブルームバーグ
したがって、株価の強気を予測すれば、低ベータ業種か
ら高ベータ業種に乗り換えるという単純な戦略が思いつき
ます。 逆に弱気を予想すれば、高ベータ業種から低ベータ
業種へ乗り換えるわけです。
業種別指数は、S&P 500 に連動して総じて上昇していま
す。 なかでも上昇率が高いのは一般消費財で、+258.74%
です。
こ れ に 資 本 財 ( + 217.18 % ) 、 金 融 ( +
174.04%)、ヘルスケア(+167.06%)、テクノロジー
(+154.64%)、素材(+143.41%)、生活必需品(+
137.65%)、エネルギー(+130.41%)、公益事業(+
100.06%)と続いています。
過去 1 年(2013 年 4 月~2014 年 3 月)を見ると、市
一方、修正ベータは、ベータが時間の経過とともに1.0に引き寄
場をけん引したのはヘルスケア(+29.41%)でした。こ
せられるという想定(つまり「平均回帰性」という暗黙の前提)
れに資本財(+27.97%)、金融(+24.85%)、一般消費
のもとに予測された、証券の将来的なベータ値です。 修正ベー
財(+23.99%)、素材(+23.64%)、テクノロジー(+
タは次の式から計算できます。
22.59%)、エネルギー(+14.57%)、生活必需品(+
11.23%)、公益事業(+10.37%)と続いています。
修正ベータ = (0.67 x 未処理ベータ) + (0.33+1)
どのバージョンのベータを参照したほうがよいかは諸説あります。
21
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S&P 500 業種別指数
金融株指数と資本財株指数のスプレッド比率
1.16
1.14
1,300
1.12
1.10
1,200
1.08
1.06
1,100
1.04
1.02
1,000
1.00
0.98
Mar-14
Jan-14
Mar-14
Nov-13
Jul-13
Sep-13
May-13
Jan-13
Mar-13
Sep-12
Nov-12
IXM
IXT
Jul-12
Jan-14
Feb-14
Dec-13
Nov-13
0.94
May-12
IXE
IXB
比率= ($250 x IXM) ÷ ($100 x IXI)
0.96
Jan-12
IXR
IXI
S&P 500
Oct-13
Sep-13
Jul-13
Aug-13
Jun-13
May-13
IXY
IXV
IXU
Apr-13
Mar-13
900
Mar-12
2013年3月28日 = 1,000
1,400
2014 年 1~3 月期にけん引役となったのは公益事業で、
そのために次の計算式が用いられます。Value1 と Value2
トータルリターンは+10.08%でした。 これにヘルスケア
は、スプレッドの対象となる 2 つの株価指数先物の金額で
(+5.85%)、素材(+2.84%)、金融(+2.59%)、テ
す
3
。
クノロジー(+2.12%)が続いています。 一方、エネルギ
ー(+1.21%)、生活必需品(+0.75%)、資本財(+
スプレッド比率
0.63%)、一般消費財(-2.80%)は低調でした。
例 え ば 、 2014 年 2 月 13 日 の S&P 金 融 株 指 数 の 価 格 は
業種別先物のスプレッド
223.16で、S&P資本財株指数の価格は523.55でした。 し
たがって、E-mini S&P業種別金融株先物の名目取引金額は、
ある市場と別の市場との成績の差に着目し、それを優位
5万5790ドル(=250ドル×223.16)となります。 E-mini
性とした市場間スプレッドは、よく活用される売買法のひ
S&P業種別資本財株先物の名目取引金額は、5万2355ドル
とつです。 業種別先物は、まさにその目的にかなっていま
(=100ドル×523.55)です。
す。
両者のスプレッド比率を計算すると、1.066弱となりま
市場間スプレッドを仕掛けるには、いわゆる「スプレッ
ド比率」を出しておかなければなりません。 スプレッド比
す。 よって、金融株先物10枚と資本財株先物11枚で釣り
合いがとれると分かるわけです。
率とは、スプレッドを構成する両ポジションの取引金額が
スプレッド比率
同等となるよう、それぞれ保有すべき株価指数先物の比率
または枚数の目安となるものです。
3
=
Value 金融株 ÷ Value 資本財株
=
$55,790 ÷ $52,355
=
1.066
=
金融株先物 10 枚:資本財株先物 11 枚
株価指数先物の取引金額を判断するときは、先物の建値から
ではなく、現物の指数値を参照します。 そのほうが、計算をす
るときに持越費用(キャリーコスト)を考慮せずに済むからで
す。
2
3
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金融株の成績が資本財株を上回ると確信すれば、金融株
例えば、金融株の成績が資本財株を上回ると考えた場合、
先物を 10 枚買い、資本財株先物を 11 枚売りたいところで
資本財株への配分を軽くし、その分を金融株に向けること
しょう。
で、この相場観を実現しようとするかもしれません。
金融株の成績が
資本財株を上回ると
金融株先物を 10 枚買い、

予想した場合
資本財株先物を 11 枚売る
これは、単に資本財株を売却して現金化し、金融株を買
うだけでも達成できます。 しかし、CME グループの Emini S&P 500 業種別指数先物を利用しても、同じように
ポートフォリオの再構成ができるのです。 具体的には、E-
「スプレッド比率」は、市場間スプレッドの適切な組み
方の目安となります。 また、時系列でスプレッドの成績を
mini 資本財株先物を売り、E-mini 金融株先物を買うスプレ
ッド取引を仕掛けます。
追う手段としても便利です。 ただし、この比率は動的であ
るため、取引をするときは、現在のスプレッド比率に気を
付けなければなりません。
例えば、1 億ドル相当の株式ポートフォリオを運用する
マネジャーが、金融株を 5%「増量」して、同様に資本財
株を 5%「減量」したいと考えたとしましょう。
また、2 業種の名目取引金額を均衡させる「ドル中立」
スプレッドであることに注意してください。 このアプロー
チと、2 業種のベータを均衡させる「ベータ中立」スプレ
ッドは、区別しておくべきです
4
。
セクターローテーション戦略
その場合、金融株先物を 90 枚[=(5%×1 億ドル)÷5
万 5,790 ド ル ] 買 い 、 資 本 財 株 先 物 を 96 枚 ( =
1.066×90)売ることができます。
金融株先物 90 枚買いと
資本財株先物 96 枚売り
効果的に金融株を 5%増量し、

資本財株を 5%減量
株式運用マネジャーは、運用資金が市場全般にゆきわた
るように業種および個別株に配分するのが一般的です。 そ
こうして、その株式運用マネジャーは(おそらくは運用
のため、ほとんどの場合、ポートフォリオの構成がベンチ
成績のベンチマークになるであろう S&P 500 と比較して)
マーク(ボギー)と一致します。 この戦略によって、ポー
資産財株の「減量」と金融株の「増量」を効果的に実現で
トフォリオの成績をベンチマークと総じて並行させること
きるわけです。
ができるわけです。
このように先物のスプレッドを利用して、ある業種から
しかし、ポートフォリオの価値をさらに高めるため、さ
別の業種に資産を移動させる戦略には、ベンチマークにな
まざまな業種間で、一部配分を見直したり、入れ替えたり
らって比重が掛けられている基本的な株式運用部分に手を
する場合があります。
加えずに済むというメリットがあります。 これがいわゆる
「オーバーレイ戦略」です。
同様に、株価指数先物を利用して、ある国の株式市場か
ら別の国の市場へと投資先を転換することもできます。 例
えば、E-mini S&P 500 先物を売り、日経 225 先物を買う
4
ベータ中立を目指す場合は、未処理ベータと修正ベータのどちら
を利用してもかまいません。利用者が両ベータの優劣をどう解釈
するかにかかっています。
4
3
ことで、米国株投資から日本株投資への転換を効果的に実
現できるわけです。
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結論
期待される業種に運用資産(投資)を移す「セクターロー
テーション」戦略を追求するうえで、有効かつ適切なツー
CME グループの E-mini S&P 業種別株価指数先物は、市
ルとなります。
場平均を下回る成績が予想される業種から、上回る成績が
先物取引とスワップ取引は、あらゆる投資家に適しているわけではありません。損失のリスクがあります。先物とスワップはレバレッジ投資であり、取引
に求められる資金は総代金のごく一部にすぎません。そのため、先物やスワップの建玉に差し入れた当初証拠金を超える損失を被る可能性があります。生活
に支障をきたすことのない、損失を許容できる資金で運用すべきです。また、一度の取引に全額を投じるようなことは避けてください。すべての取引が利益
になることは期待できません。
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