抗Mト2抗体陽性皮膚筋炎の1例 ただいま - 日本皮膚科学会雑誌 検索

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日皮会誌:no
(2),
171―175,
2000
(平12)
抗Mト2抗体陽性皮膚筋炎の1例
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柳 田 淳 美
れます。Adobe®
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室 慶 直
要 旨
大学病院内科を受診,同日入院となった.
皮膚筋炎における数少ない特異的な自己抗体である
現症:前額部に境界不明瞭な褐色調の紅斑,頚部か
抗Mト2抗体についての報告は欧米では散見されるも
ら前胸部にかけての色素沈着を伴う紅斑,爪周囲の紅
のの,本邦では同抗体陽性の皮膚筋炎患者の詳細な報
斑,両指関節背面に淡いGottron徴候を認めた(図1).
告は現在までされていない.我々は抗Mト2抗体が検
上眼瞼の浮腫性紅斑は認めなかった.
出された皮膚筋炎を経験し,抗Mi-2抗体陽性と陰性
検査所見:尿所見は正常.
の皮膚筋炎の臨床症状を比較検討した海外での報告に
6,300/μ1, CRP 0.1
mg/dl,
GOT
自験例を照らし合わせた.抗Mi-2抗体陽性の皮膚筋
lU/l,
5,506IU//,
炎患者が欧米に較べ本邦に少ないことはHLAの人種
300 mg/dl 以上,アルドラーゼ47.5
間格差によるものと考えられるが,予後良好な典型的
(+),抗ss-DNA抗体ト),抗ds-DNA抗体(-),
皮膚筋炎の特異マーカー抗核抗体としての抗Mト2抗
抗Jo-1抗体(−),抗U
体の意義が日本人の本症例においても確認された.
真は特に異常なし.胸腹部CT検査では悪性腫瘍を疑
はじめに
し.左上腕二頭筋より行った筋生検病理組織では,筋
RBC
LDH852IUよCPK
1-RNP
431 ×104ふ1, WBC
425 lU/l,
GPT
439
ミオグロビン
IU几杭核抗体
抗体ト).胸部X線写
わせる所見なし.消化管内視鏡検査も特に異常所見な
抗Mト2抗体は皮膚筋炎に特異性の高い自己抗体と
線維の大小不同・萎縮・断裂,筋線維束周囲の多数の
して1985年にTargoffらによって報告され1),その後
壊死線維・再生線維,筋内膜の多数の単核細胞浸潤が
Mト2抗原の構造,抗Mト2抗体の疾患特異性,特徴的
認められた.
な臨床症状,HLAとの関連などにつき主に欧米にて研
経過及び治療:入院後より嘸下困難を認めたが上部
究が進められた2)-9)それらによると抗Mト2抗体は
消化管ファイバー検査にて異常を認めず,
1997年6月
数少ない皮膚筋炎の疾患特異抗体として位置づけら
6日よりプレドニソロン(PSL)50
の内服投与
mg/day
れ,その約15∼30%に見出されるとされている.しか
を開始した.一旦皮疹・筋原性酵素は改善傾向を示し
しながら本邦ではこの抗体を伴った皮膚筋炎の症例の
たが再び筋原性酵素の上昇を認めたため,6月19日よ
報告はほとんどなされていない10)今回我々は抗Mト
りハイドロコーチゾンl
2抗体陽性の皮膚筋炎患者を経験したのでこれまでの
た.その後皮疹・筋原性酵素ともに改善傾向を示した
g/day
の点滴静注を施行し
欧米報告例と比較・検討し,本邦では初めてと思われ
ため, PSL 25 mg/day
る詳細な症例報告をする.
力感は退院時にも認めたが,その後は症状・検査所見
にて9月25日退院した.四肢脱
症 例
ともに落ちついており,現在PSL
患者:45歳,女性.
観察中である(図2).
主訴:爪周囲の紅斑,顔面・頚部から胸部にかけて
抗Mi-2抗体の検出:抗Mi-2抗体標準血清はGen-
の紅斑.
th教授(Univ.
既往歴及び家族歴:特記すべきことなし.
蛍光抗体間接法は市販のHEp-2細胞を基質としたス
現病歴:1997年1月頃より爪周囲の紅斑,顔面・頭
ライド(HEPANAテスト,
部から前胸部にかけて紅斑が出現,以後四肢の筋痛,
既報の方法11)に従って行った.イムノブロット法は5
脱力感も出現した.その後皮疹は軽快せず,四肢の筋
%ポリアクリルアミドゲルを用い,
痛・脱力感が増強してきたため,同年5月29日名古屋
を泳勤し,既報の方法11)で施行した.患者血清は100
10 mg/day
にて経過
of Munich, Germany)より供与された.
MBL,
Nagoya)を用いて
HeLa細胞抽出液
倍希釈にて使用した.図3に示す様に間接蛍光抗体法
名古屋大学医学部皮膚科学教室(主任 富田 靖教授)
平成11年6月21日受付,平成11年7月29日掲載決定
別刷請求先:(〒466-8550)名古屋市昭和区鶴舞町65
名古屋大学医学部皮膚科学教室 室 慶直
で,自験例の血清は抗Mi-2抗体標準血清と同様に,同
期の細胞ではspeckled
pattern を示し,分裂期の細胞
では染色体部分に蛍光を認めなかった.イムノブロッ
伽牡 室 触:
172
図1 手背の臨床像.爪闘紅斑を認め,手指関節背面に淡いゴットロン徴候を認めた.
<臨床経過表>
考 按
Mi-2抗原とは240
kD の核蛋白を主要抗原とし以
下200 kD,
72 kD,
150 kD,
65 kD,
63 kD,
50 kD,
34 kDの計8種類の核蛋白の複合体でありぷDNAヘリ
ケースとしての機能が想定されている≒最近Zhang
らは, Mi-2抗原が核蛋∩複合体NuRD
remodeling
(nucleosome
histone deacetylase complex)の一部であ
る事を明らかにした几 このNuRD複合体はクロマ
チン構造の改変や細胞周期の調節に関与すると言われ
ている.抗Mi-2抗体は皮膚筋炎に対して特異性が高
く,皮膚筋炎以外の疾患では多発性筋炎において検出
されたとの報告はあるが,他の膠原病での陽性例は殆
どないとされている11ぺI.抗Mi-2抗体はイムノブ
ロット法,ELISA法,免疫沈降法,免疫拡散法によっ
て検出される.自検例ではHEp-2細胞を用いた間接蛍
光抗体法とHeLa細胞を用いたイムノブロット法にて
抗Mi-2抗体を検出した.また家兎胸腺抽出物を使用
図2 治療と臨床経過:プレドニソロン50
mg.May
の内服から開始し,川.増悪傾向認めたためハイド
ロコルチゾン1
した免疫拡散法でも標準血清との同一一件を示す沈降線
を弱いながら確認できている.
g/'day静注点滴を3日間施行した.
212例の筋炎患者を母集団として,筋炎特異自己抗
その後,四肢脱力感は残るも紅斑,筋原性酵素の値
は改善した.退院後もプレドニゾロン紆持量10
mg
/dayにて疾患活動性は安定している.
体であるtRNA合成酵素に対する抗体,抗SRP抗体,
抗Mi-2抗体に特に注目して臨床像との関連について
解析した海外の文献91より,抗Mi-2抗体に特徴的な所
見を主に抜粋し表1に示す.抗Mi-2抗体陽性群は他
ト法では自験例の血清は標準血清と同様に抗Mi-2抗
の2種の抗体陽性群に比べて,爪上皮延長,Vネック
体の主要抗原である約240
サインといった皮膚症状が高率に認められ,皮膚筋炎
4).
kD の蛋白と反応した(図
により特異性が高いといえる.また,悪性腫瘍合併は
抗Mi
図3 HEp
2抗体陽性皮膚筋炎
173
2糾胞を川いた問接蛍光抗体法の染色像.a)抗Mi-2抗体標準血清の染色
像,b)本症例KiL清の染色像.a】と類似の染色パターンを示す.
2
3
10例中1例にのみ認められ,間質性肺炎の合併は1例
も存在しなかった.ステロイド治療に対する反応も良
好なことより,その生命予後は良いとされている≒ ま
た,強皮ぢlとのオーバーラップ15例と慢性関節リウマ
kDa
チとのオーバーラップ5例を含めた計58例の皮膚筋
炎患者を抗Mi-2抗体の有無で臨床症状の比較検討を
行った別の文献帽こよれば,抗Mト2抗体陽性の皮膚筋
炎の臨床的特徴としてVネックサイン,爪周炎を高率
203
に認めるが,肺病変,悪性腫瘍を合併した例は皆無で
あった.また他の報告7では,抗Mi-2抗体陽性患者4
人全員が急性発症であり筋痛,近位筋の筋力低下,ヘ
リオトロープ疹,ゴットロン徴候を伴い,4人中3人が
筋萎縮も伴っていたと報告されている.自験例におい
てもVネックサイン,爪周炎,淡いゴットロン徴候,
筋痛,筋萎縮,近位筋の筋力低下を認め,また肺病変,
悪性腫瘍は認めず,ステロイド治療に対する反応も良
H6
好で,退院後も自覚症状,筋原性酵素の悪化は認めて
いない.以により,本例は抗Mト2抗体陽性の皮膚筋炎
の臨床的特徴をよく兼ね備えていると言えよう.
図/l IIcLa細胞抽出蛋自を川いたイムノブロヽツト法.
日本人における皮膚筋炎患者での抗Mi-2抗体陽性
!.正常人血清、2.抗Mi一一2抗体標準血清、3.本症
例の頻度については殆ど報告がなく明らかではない
例血清.矢印は抗Mi
が,同時に当科で検討しえた本報告以外の皮膚筋炎患
kDの蛋∩を示す.
2抗体の対応抗原である約240
者40例については抗Mト2抗体陽性例は存在せず,欧
柳田 淳美 室 慶直
174
表1 筋炎特異自己抗体と臨床像との関連
患者数(%)
臨床症状
抗RNA合成酵素抗体
(n
= 48)
多発性筋炎
抗SRP抗体
(n
= 7)
40
54
皮膚筋炎
他の膠原病の
オーバーラップ
癌合併筋炎
0
100
抗SRP,p<0.001
0
6
91
0
(n = 47)
抗SRP,
−
0
0
0
有意差
(抗Mi-2抗体群に
対して)
抗Mi-2抗体
(n=11)
9
p < 0.001
−
(n=10)
(n = 7)
発熱
関節炎
87
29
10
抗tRNA,
p < 0.001
94
0
20
抗tRNA,
p < 0.001
同質性肺炎
爪上皮延長
89
7
0
0
0
100
抗tRNA,p<0.001
抗tRNA,
p < 0.001
15
0
100
抗tRNA,
p <
Vネックサイン
0.001
文献9)より抜粋
米に比して低いと考えられている.それについては本
なっていたが,
抗体とHLAとの関連について調べた興味深い報告が
照らし合わせるとDR
ある.
プトファンであるのに対して,他のDR(DR3,
Mierauら2)によると抗Mi-2抗体陽性患者から
HLA-DR
B l alleles のアミノ酸配列を
1,2,7のみposition
9 がトリ
4,
は,HLA-DR7,HLA-DQA1*0201が高率に検出さ
6,
れ,またHLA-DR7が単独で検出される率は健常者の
酸であり,HLA−DRの立体構造の変化がMト2抗原の
O%に対し,抗Mi-2抗体陽性患者では31%となって
抗原提示能に何らかの影響を及ぼす可能性を示唆して
いた.各人種でHLA-DR7検出率については日本人で
いる.今後このような遺伝子レペルでの解析をさらに
O%,欧米人では12%であるとの報告があり13)残念
進めることにより皮膚筋炎の病態生理の解明,さらに
ながら本症例のHLAの検索はなされていないが,抗
はその治療においても何らかの成果をみることができ
Mト2抗体陽性率の人種間格差を決定する一つの要因
るのではないかと思われる.
になっているのではないかと考えられる.さらに
稿を終えるにあたり名古屋大学医学部第3内科松尾清一
HLA-DRl,
先生に謝意を表します.なお本症例にっいては第49回中部
2,
7のいずれかが検出される率は健常
者15%に対し,抗Mi-2抗体陽性患者では81%と
支部総会にて発表した.
文
献
1) TargoffIN,
specific
Mi-2
involved
in
Mi-2
Reichlin M
antibodies
: The
and
association between
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Rheum,
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Albert
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Mi-2
Mi-2
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JClmlnvest.96
Renz
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Arthri一
Frank
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matomyositis-specific
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Love
proach
tory
LA,
Leff RL,
Fraser
DD,
et aにA
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Reinberg
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T, Sugiura K, Hagiwara
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Japanese
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M : Low
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against Kト67 antigen
systemic
ACase
of Dermatomyositis
Atsumi Yanada
Department
学,4
: 423ぺ28,1986.
autoimmune
with
AntトMト2 Antibody
and Yoshinao
of Dermatology, Nagoya
Muro
University School of Medicine
(Director
: Dr. Y. Tomita)
(ReceivedJ une 21, 1999 ; accepted for publication July 29, 1999)
We
described a 46-yearべ)ldfemale case of dermatomyositis
with anti-Mi-2 antibody. She had erythema
the forehead and V-neck area, nailfold bleeding, and papular plaques on the knuckles. Muscle
weakness
of the extremities were also noted. Histology ofa muscle biopsy showed
inflammatory
findings indi-
eating myositis. Laboratory
studies disclosed increased levels of serum
1-RNA
antibody. and anti-Jo-1antibody. Using an indirect immunofluorescence
antibody, anti-DNA
with HEp-2
cellsas a substrate, her serum
with the same
sample produced
muscle enzymes
cells.her serum
and absence of anti-U
method
intense speckled staining on the nucleoplasm
pattern as a standard sera with anti-Mi-2 antibody. By an immunoblotting
whole cellprotein of HeLa
on
tenderness and
technique
with the
sample recognized a 240-kD polypeptide as did the standard sera.
She had neither interstitialpneumonitis
nor internal malignancies. Her condition and laboratory findings im-
proved after steroid pulse therapy. We
suggest that anti-Mi-2 antibody can be a useful marker
and good prognosis also for Japanese dermatomyositis
(Jpn J Dermatol
Key words
patients.
110 : 171∼175, 2000)
: anti-Mi-2 antibodies,anti-nuclear antibodies,dermatomyositis
for diagnosis