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「組織的な大学院教育改革推進プログラム」(大学院 GP)
平成21年度前期 大学院生提案型研究費 報告書
氏
名
研究題目
花島
知美
専攻
学年
分子物質化学専攻
修士
1年
指導
教員
伊藤
隆
In-cell NMR 法を用いた GB1 の立体構造決定と動態の解析
In-cell NMR 法とは生きている細胞をそのまま測定試料とし,生細胞内における蛋白質
の高分解能異種核多次元 NMR スペクトルの観測を行う方法である.この方法は,蛋白質
が実際に機能している“細胞内”で直接観測できる唯一の方法であり,細胞内蛋白質の情
報を高分解能で得ることができる.近年の NMR ハードウェア性能の向上や,新規測定法
の研究・開発によってこの方法は可能となり,2009 年に初めて蛋白質の立体構造決定成
研究目的 功の報告がなされた.1しかし未だ、その他の蛋白質の立体構造決定成功例は報告されて
いない.
そこで本研究では,プロテイン G B1 ドメイン(GB1)をターゲット試料として,in-cell
NMR 法による立体構造決定を行い,この手法が他の蛋白質においても適用可能であること
を確かめることを目的とした.
[1]Sakakibara et al., Nature 458(7234):102-5, 2009
細胞内の蛋白質の測定には全て in-cell NMR 法を用いた.大腸菌内で 13C/15N 標識した
GB1(分子量 7kDa)を大量に発現させ,培養した細胞を破砕せずにそのまま NMR 測定試料と
した.
蛋白質の構造決定の手順としては,まず NMR 測定で得られた蛋白質主鎖・側鎖シグナ
ルの帰属をし,そこへ原子間の距離情報を加えて構造計算を行う.本研究では蛋白質主鎖
研究方法
シグナルの帰属のため,3 種の 3 重共鳴 3 次元 NMR 測定を行った.また,蛋白質側鎖シ
グナルの帰属のため,2 種の 3 重共鳴 3 次元 NMR 測定を行った.さらに、核オーバーハ
ウザー効果(NOE)由来の距離情報の取得も試みた.蛋白質の高次構造計算に用いられる距
離情報の中で最も重要なのが,この NOE 情報であり,5Å以内に近接した 1H 核間に観測
される.
従来の in-cell NMR 法ではサンプル寿命が短いことや感度が低いことが妨げとなって,
十分な構造情報を得ることができなかった.そこで本研究では①測定サンプルの調製法,
②測定法の二方向から問題解決に取り組んだ.
① サンプル寿命を延ばすためにサンプル調製法と測定条件の検討を行った.培養に用
いる大腸菌の種類,培養ステップ,培養温度,培養時間,培養の際に用いるシェー
研究の
カーの回転数,測定時のサンプル中の培地の組成,サンプル濃度,測定温度を変え
成果
て条件検討を行った.その結果,培養温度と測定温度を変えることで,測定中に細
・
胞が死滅し蛋白質が細胞外へ漏れ出るのを防げるようになった.
自分で
工夫した
② 非線形サンプリング法により測定時間の短縮をし,最大エントロピー法でスペクトルを再
点
構成した.その結果,短時間で良好なスペクトルを得ることに成功し,全ての蛋白質
主鎖シグナルの帰属が完了した.蛋白質側鎖の帰属のため,さらに 2 種の 3 重共鳴
(A4 を 1 枚
3 次元 NMR 測定を行い,現在解析中である.
追加可)
今後は,側鎖の帰属と NOE 解析のための更なる 3 次元 NMR 測定及び解析を行ってい
き,高次構造決定を目指す.これらの成果は第 47 回日本生物物理学会年会(10 月 30 日
~)及び第 48 回 NMR 討論会(11 月 10 日~)にて発表させていただく予定である.
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