Googleマップと携帯を用いた教育用マップの開発(pdf - 宮城教育大学

Google マップと携帯を用いた教育用マップの開発
鵜川義弘,清水裕司,伊藤 悟
Development of Educational Map by using Google Map and Mobile Phone.
Yoshihiro UGAWA, Yuji SHIMIZU, Satoru ITOH
Abstract
We have developed an educational map by using Google map. This educational map
is constructed with blog pages linking to Google map, in which photos and comments can be
stored. The blog has an E-mail interface that enables students to post articles from their
mobile phone. By using mobile phone with GPS capabilities, GPS information can be attached
to photos. These photos are automatically placed to Google map at their each position. This
convenient interface encourages students to utilize Web GIS Map in their study.
Keywords
1
ブログ(Blog), Google マップ(Map), Web GIS, GPS, 携帯電話(Mobile Phone)
はじめに
マップは,投稿のし易さ,検索のし易さがあったが,
これまで筆者らは仙台市生き物調査カエルマップな
Web で公開し自由に利用できる地図がなく,上記機
ど,Internet Explorer などの Web ブラウザで直接
能を提供できる地域は限られたものであった(図1).
利用できる Web GIS を使用し,児童生徒が学習をし
た結果を直接入力し,その場で確かめることができ
この状況の中で,2005 年 7 月に Google がゼンリン
る教育用マップを提供してきた.
(伊藤・鵜川,2001)
の地図や DigitalGlobe の航空・衛星写真を使い,だ
れでも閲覧できる日本地図として提供を開始した.
また,様々な情報の重ね合わせができるようネット
また Google は,Google と直接関係のない一般の Web
ワークニュース方式によるマップの開発(鵜川・伊
ページでも無料で Google マップを表示できるよう,
藤,2002)
,
(鵜川,2002),さらにブログ(日記風の
開 発 環 境 の 1 つ で あ る Google マ ッ プ API
簡易投稿が可能な Web ページ)と Web GIS を連携さ
(Application Program Interface)の提供も開始し
せ,GPS による位置情報データを含んだ写真をメー
た.筆者らは Google マップ API を使用し,これまで
ルで送り,位置情報にしたがって自動的に地図に表
開発してきたブログと連動するシステムを Google
示されるマップを開発してきた(鵜川・清水・伊藤,
が提供する地図に対応させ,全国どこでも使える教
2005)
.これまで筆者らが開発したブログと連動する
育用マップを開発した(図2).
鵜川義弘・〒9800845 仙台市青葉区荒巻字青葉 149・
宮城教育大学 022-214-3300
結果の上位に出す PageRank という方法により,人々
が必要としているページを高い確率で探し出すこと
を可能とした.Google マップは 2005 年から米国で
始まり,キーワード検索を行うと,一定の地域内の
駅,店,学校など,目印となる情報を検索し,地図
上に表示することができるものである.
Google マップ は,Ajax(Asynchronous JavaScript
+ XML)技術を使うことで Web ブラウザの動作画面と
は別に随時サーバと通信を行い,これまでの WebGIS
のように移動の度にページを読み込むことなく,マ
ウスのドラッグや矢印キーを使用して,隣接区域に
移動したり,スライダーを使用して別縮尺にシーム
レスに移動することができ,スクロール可能な巨大
図1
青葉山 Blog 地図ブラウザ
地図のように動作する.写真ボタンが用意されてい
て,表示中の地図に対応する衛星写真または航空写
真が切り変わったり,その両方を重ね合わせて表示
することも可能である.
Google マップを,自分たちの地図としてホームペー
ジ等で表示するには,Google マップ API の利用登録
画面で利用規定に同意し,利用場所の URL を申請し
て,API キーと呼ばれる登録番号を取得する.この
作業はオンラインで無料でできる.利用時には,こ
のキーを利用する Web ページから Google マップ API
を呼び出す際,HTML のヘッダ<head>
</head>内に
明示することにより利用可能となる.
3
図2
青葉山 Blog 地図 Google マップ表示
ブログと連動する Google マップ
Google が提供する地図は,2007 年にサービスが開始
されたマイマップを除けば,Google マップ API を使
2
Google マップ
用したとしても地図上にポイントを表示することが
主であり,自分たちがもつ様々な情報を Google マッ
Google は,2000 年から本格的な活動を開始した Web
プに持たせてデータベースとして使用し表示するこ
検索サイトで,データ収集を行う際,ページ内の検
とはできない.筆者らは,学習用地図として必要な
索キーワードだけでなくページ間のリンクにも注目,
位置情報,文字情報,画像などを,地図専用として
他のページからの被リンク率の高いページほど検索
用意したブログに持たせることにし,ブログのもつ
簡単な入力(投稿)方法や検索機能を用い,蓄積さ
このことにより,従来,児童生徒には難しくてでき
れたデータと,Google マップとを連動させるプログ
なかったホームページの作成,写真のアップロード,
ラムを作成することで,学習用地図として利用でき
位置の確認などの作業をいっさい行わなくても,単
るよう設計した.
に地図上に情報を書き込んで閲覧し,情報を共有す
ることに集中でき,結果として地図を非常に身近に,
位置情報の連動には,ブログ内に書かれた文字列の
簡単に利用できる状況が作れるようになった.
うち,緯度,経度を
GPS_POS:N38.15.21.28E140.50.14.01
4
授業での実践
Google_L_L:38.266257,140.903526
http://docomo.ne.jp/cp/map.cgi?lat
=%2B38.15.30.806&lon=%2B140.49.47.56
など一定の文字パターンで示すもの.また,
2006 年から 2007 年にかけて中学校1校,小学校3
校で,このシステムを学習用地図として使用可能か
どうかテストしてもらった.
MESH:57403606
など基準地域メッシュコードで示すものに対応させ
1)モブログ宮城(仙台市立第二中学校,青葉山探
た.さらに,Mapoint Plugin というブログツール(ブ
検,1学年3クラス,120名)2006/5/19
ログ構築用ソフトウエア)を使い,デジタルカメラ
携帯6台,au から 14 台,デジカメとハンディ GPS
の画像ファイルに,EXIF(Exchangeable Image File
http://moblog.miyakyo-u.ac.jp/miyagi/2006/05/
Format)形式で GPS からの緯度経度情報が入ってい
(モブログとは、モバイルとブログの意味で,携帯
る場合に,Google マップ内に自動的に位置が表示さ
機器からブログを投稿できるものを指す.
)
れるようにした.
ブログへの投稿は全体としては難しくはないが,画
事前指導で携帯からの投稿の仕方の説明を行った.
像を含む情報を投稿する場合だけはサーバへの転送
活動内容から植物が撮影対象のため問題にならない
操作が難しい.筆者らは,児童生徒が扱いやすいよ
が,プライバシーに配慮して顔をとらないこと.交
うに,メールで書き込みができる mail-entry という
通安全のため操作に事前に慣れておき,特に実際の
ブログツールを導入した.この結果,GPS 機能付き
操作は立ち止まって行うことなどを指導した.
携帯電話を使い,調査時に写真を撮り,投稿記事を
事後指導では見つけた植物の位置確認をブラウザで
書き込んでメールで送信すれば,写真付き記事が自
行い,写真を印刷して模造紙へ貼り付ける活動を行
動的に位置情報付きで投稿できるようになった.
った.残念ながら生徒数が多く,Blog による情報活
用の授業を行うまでには至らなかった.
児童生徒の行うべき操作は,以下の4ステップであ
る.
実施後の反省点として,携帯の写真は縦横どちらで
1,調査地点で携帯を使い写真を撮る.
も撮影できるのでブラウザで見たときに回転が必要
2,携帯のサブメニューで GPS 情報を選び,現在地
になることがわかった.ブログに転送後,ブラウザ
の情報を付加.
3,ブログ投稿用メールアドレスに写真付きメール
を送る.
4,投稿されたブログ連動型 WebGIS で情報を共有す
る.
で表示したときに回転できるボタンを設けることと
した.撮影時に接写とそれ以外をスイッチで変更す
るタイプの携帯では,無意識のうちにスイッチに触
りピンぼけになる場合があるので,事前に注意をす
ることとした.
2)Moblog 会津(岩沼市立岩沼小学校6年2組,修
学旅行)2006/6/8-9,携帯6台
http://moblog.miyakyo-u.ac.jp/aizu/
いない不公平感が生じる可能性がある.
3,自ら説明をして理解を深め,Blog でコメントを
受け付けることで交流学習が深まる.
4,修学旅行中の活動で時間が十分とれず道具とし
事前指導として,顔写真をとらない,許可を得てか
て生かし切れていないことが残念.
ら撮影するなどの指導を行った.投稿された写真に
は,福島県立博物館内で許可を得て撮影された展示
物があり,博物館と連絡をして写真の公開許可を得
るなどの作業を行った.
図4
隣接する小学校からのコメント
また,現在は,Blog から地図への流れとなっている
が,地図から調べて Blog へと持って行けないか?と
図3
Moblog 会津
の指摘を受け,地図にはサイドバーを設け,元ブロ
グ記事の一覧を表示し,地図内のアイコンをクリッ
事後指導では,名所旧跡等の名前,場所,その場所
クすれば,デジカメで撮影した画像がコメントとと
までの行き方,見所,感想や記録などをブログに書
もに表示されるようにした.
き込ませた(図3).その際,ブログで情報発信を行
うことの意味,多くの人が見る可能性があることに
3)モブログ宮城2(斎藤報恩会自然史博物館地域
伴う注意を説明した.また,ブログへのコメント投
子ども教室,ビーチコーミング)小学生15人,保
稿機能を使い隣接する小学校と連携を取った(図4).
護者15人.2006/06/17, 10/28
授業者の感想として,次のことがあげられた.
http://moblog.miyakyo-u.ac.jp/miyagi/cat2/06/
1,地図の様々な可能性の中で,児童にとって修学
http://moblog.miyakyo-u.ac.jp/miyagi/2006/10/
旅行先が慣れない場所であるため,写真と地図
浜辺に打ち上げられた漂流物の調査.海岸なので目
を使うことで身近に感じられる点が良い.
標物がなく,GPS を使用して記録を行う意味が特に
2,携帯の数が足りず,他のクラスでは実現できて
ある(図5).
図6
モブログ岩切かけこみ110番の店
を複数のグループにわかれて調査.
図5
閖上浜でのビーチコーミング(漁具)
http://moblog.miyakyo-u.ac.jp/iwakiri/110/
かけこみ110番の店がどのように分布しているか,
4)モブログ岩沼(岩沼市立岩沼小学校,危険箇所
一目でわかる(図6)
.
マップ)2006/11/07
同時アクセス時の対応,書き込みは,ユーザ ID の必
http://moblog.miyakyo-u.ac.jp/iwanuma/
要がないコメントで行ったが,1つの教室から同時
ライオンズクラブが作成した地図を元に子供の目で
にアクセスしたため迷惑コメントと判断されて,頻
取材.
繁に書き込みができない状態となり,児童にわかり
にくい印象を与えてしまった.パスワードを児童生
5)モブログ原町(仙台市立原町小学校,地域マッ
徒に教え,オーナーとして書き込み,編集をすべき
プ)2006/11-12
だったかも知れない.
http://moblog.miyakyo-u.ac.jp/haranomachi/
以下,児童の反応のアンケート結果:
パスワード付き公開
1. 携帯電話を使う学習は
おもしろい34,おもしろくない0(人)
地域取材活動で,グループでの取材に GPS 携帯端末
2. 携帯電話の使い方は
を活用し,その場で写真撮影とマップ上に投稿する
とても難しい1,難しい2,少し難しい21,簡
活動を行った. 校外の学区内への取材は 11 月下旬
単10(人)
に 3 回行い,取材した写真について,コンピュータ
3. Webブラウザで見る地図の使い方は難しいか
室での活動でマップ上に整理した.取材のテーマは
とても難しい0,難しい5,少し難しい19,簡
地域の「歴史を語るもの」と「安全マップ」の 2 つ
単10(人)
を扱った.
であった.
学区内では,地域の人とも挨拶ができ,他校の実践
6)モブログ岩切1(仙台市立岩切小学校,5年4
で「危険箇所の取材」としたときよりも協力が得ら
組,かけこみ110番マップ作り)2007/2/6 学区内
れやすい印象があった.
7)モブログ岩切2(仙台市立岩切小学校,5年4
参考文献
組 , 岩 切に 残 し た い も の ( 風景 ) マ ッ プ 作 り)
2007/2/21
1. 伊藤
悟・鵜川義弘(2001)環境教育における
http://moblog.miyakyo-u.ac.jp/iwakiri/cat135/
地理情報システムの利用,
「地理情報システム学
環境・歴史など地域を見つめ直し,岩切に残したい
会講演論文集」
,10,249−254.
ものを考える活動を行った.
2. 鵜川義弘・伊藤
悟(2002)クリッカブルマッ
プと電子掲示板を用いた環境学習地図サーバの
5
まとめ
開発,
「地理情報システム学会講演論文集」,11,
225−230
Google マップを使用することで,全国,全世界の地
3. 鵜川義弘(2002)仙台市カエルマップの提供と市
図が無料で利用できるようになった.携帯電話から
販 GIS 利用の問題点,
「GIS で環境学習!」シン
地図へ投稿できる地図の開発で,児童生徒が難しい
ポジウム東京大学空間情報科学研究センター
操作をしなくても身近に地図を使える可能性が出て
http://edb.miyakyo-u.ac.jp/ugawa/20020713/
きた.実践を参観した感じでは,児童生徒にとって
GIS-EE.html(2007/08/01 アクセス)
携帯電話の使い方が特に難しいという印象は持たな
4. 鵜川義弘・清水裕司・伊藤
悟(2005)ブログ
かった.ただ学校の教材として使うには,携帯の維
ツールを用いた環境教育マップの開発,
「地理情
持費の問題や,携帯に対して悪いイメージを持つ世
報システム学会講演論文集」
,14,383-386
代の先生方の理解を得なければならないと感じた.
普及のためには,小学生の3割が持つといわれてい
参考 URL(2007/08/01 アクセス)
る携帯電話の情報モラル教育が必須と思われる.こ
れらの問題を差し引いても,地図をベースとする情
1. 宮城教育大学環境教育実践研究センター
報のインターネットへの蓄積や,交流手段,教材と
「インターネット生きもの調査」
しての可能性は大きいと思われる.
http://map.edb.miyakyo-u.ac.jp/kaeru/
2. Google マップ API の利用登録画面
謝辞
http://www.google.com/apis/maps/signup.html
3. Google マップガイド
本マップは以下の方々のご協力のもとテストし開発
した.この場を借りてお礼を申し上げたい.
http://www.google.co.jp/help/maps/tour/
4. 宮城教育大学環境教育実践研究センター
仙台市立第二中学校,伊東真文教諭.岩沼市立岩沼
「青葉山サイバーマップ」
小学校,五十嵐英樹教諭,及川浩市教諭.斎藤報恩
http://edb.miyakyo-u.ac.jp/aobayama/
会自然史博物館地域子ども教室,佐々木哲弥講師.
仙台市立原町小学校,青木茂教諭.仙台市立岩切小
学校,田村直也教諭,相澤文典教諭.
5. Mapoint
Plugin
http://japo.net/miya/archives/20040904_080000.html
6. mail-entry
MovableType へのエントリー登録が
携帯電話は,宮城教育大学環境教育ライブラリー「え
メールから
るふぇ」の貸し出し教材を使用した.
http://www.mobile-bozu.com/weblog/archives/000153.html
7. Exiftool,
Phil Harvey
http://www.sno.phy.queensu.ca/~phil/exiftool/