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救急に関する調査研究助成事業報告書(概要)
各種搬送資器材におけるAutoPulse使用
の有用性の検討
竹内保男、金子一郎、坂本哲也
帝京大学医学部救命救急センター
はじめに
人 工 蘇 生 シ ス テ ム( 以 下 AutoPulse
) は、
AutoPulseTM
一般的名称を電動式心肺人工蘇生器といい、負荷分散バン
ド( load-distributing band, LDB
以 下L D B ) が 胸 部 を 取
り囲んで胸骨圧迫を行う器具で、胸を締め付けるための電
力作動性のバンドとバックボードで構成されている。アメ
リカ心臓協会( American Heart Association, AHA
)ガイ
ドラインのクラス分類はⅡbに分類され、適切に訓練され
た 要 員 が 院 内 あ る い は 院 外 で、 心 停 止 患 者 へ の 心 肺 蘇 生
( cardiopulmonary resuscitationCPR
以下CPR )に補助
的に用いるのであれば、LDB を用いたCPR(LDB CPR)の使用を考慮しても構わないとされている。
我が国の住宅環境は、狭隘住宅であり二階建て住宅の二
階からの搬送も狭隘な階段が多く、胸骨圧迫の中断時間も
延長していると推測される。今後このような住宅環境では
布担架等を同時に使用した AutoPulse
の使用が胸骨圧迫の
中断時間を短縮し、搬送時間短縮につながるものと考えら
れる。本研究では、布担架とメインストレッチャーにおい
て AutoPulse
を使用し、胸骨圧迫の中断時間と搬送の所要
時間を測定し、 AutoPulse
使用の有用性を検討することを
目的とする。
対象及び方法
1
対象
関 東 地 方 のT 消 防 庁 救 急 隊 四 隊、S 消 防 本 部 救 急 隊 一
隊、H消防本部救急隊一隊、SN消防本部救急隊一隊の合
計 七 隊 の 救 急 隊 を 対 象 に 行 っ た。 対 象 者 に は、 研 究 の 目
的、測定方法を文書及び口頭で説明し、本研究への参加を
依頼した。対象者は、研究の趣旨を十分理解した上で、参
加を承諾し文書による同意を得た。対象者の平均年齢は、
三八・七歳±九歳であった。
2
方法
社 製 Resusci Anne
( 以 下 レ サ シ ア ン )を 傷 病
Laerdal
者 と し て、 対 象 者 の 救 急 隊 三 名 が 救 急 出 場 し、 反 応 の 確
認、 呼 吸 脈 拍 の 確 認 後 二 分 間 のC P R を 実 施 し、 一 回 の
除 細 動 の 後、 す ぐ に メ イ ン ス ト レ ッ チ ャ ー に 傷 病 者 を 収
容し、スロープ一五m を搬送する救急活動の測定を行い、
同 時 に ビ デ オカ メ ラ( SONY DCR-SR300
)を 使 用 し 撮 影
を 行 っ た。 救 急 活動測定終了後、ラップトップコンピューター
( DELL PP01L
)を接続し、 Laerdal
社製 PC Skill Reporting
を使用し記録を行った。
System Ver.2.2.1
被験者の救急隊は、傷病者のレサシアンに対して可能な
限り実際の救急活動を行うこととしたが、除細動に関して
は、現場で一回のみの除細動を行い、その他の救命処置を
行わず、すぐにメインストレッチャーに収容し、約一五m
のスロープを搬送することとした。
右記の設定で次の三種類の救急活動を行い、
測定を行った。
⑴
用手CPR群(以下 M-CPR
群)
「
目撃者なし、現着まで五分以上」という設定により
三名の救急隊が救急出場し、反応の確認、呼吸脈拍の確
認後、二分間の用手CPRを実施し、一回の除細動の後、
メインストレッチャーに傷病者を収容し、スロープ一五
m を用手CPRを行いながら搬送することとした。
⑵
プロトコルNo 1. (以下 CPR-First
群)
五分の AutoPulse
の取り扱い説明と四〇分の取り扱い
訓練の後、
「目撃者なし、現着まで五分以上」という設
定により三名の救急隊が救急出場し、反応の確認、呼吸
脈拍の確認後、二分間のマニュアルCPRを実施し、一
回の除細動の後 AutoPulse
を装着するというプロトコル
No 1. (図1)に従い救急活動を行うこととした。
⑶
プロトコルNo 2. (以下 AP-First
群)
⑵ の 実 験 終 了 後、「 目 撃 者 な し、 現 着 ま で 五 分 以 上 」
という設定により三名の救急隊が救急出場し、反応の確
認、呼吸脈拍の確認後CPR を開始し、 AutoPulse
到着
後、すぐに装着し、合計二分間のCPRを実施するとい
うプロトコルNo 2. (図2)に従い救急活動を実施し、
一回の除細動の後、メインストレッチャーに傷病者を収
容し、スロープ一五m を搬送することとした。
3
評価
胸 骨 圧 迫 の 深 さ に つ い て は、 レ サ シ ア ン を 使 用 し 測 定
を 行 っ た。 測 定 終 了 後、 ラ ッ プ ト ッ プ コ ン ピ ュ ー タ ー
( DELLPP01L
) を 接 続 し、 胸 骨 圧 迫 の 深 さ の 測 定 に は、
を 使 用 し、 右 記 の コ
PC Skill Reporting System Ver.2.2.1
ンピューターに記録を行った。
の胸骨圧迫の深さ
PC Skill Reporting System Ver.2.2.1
は、救急蘇生法の指針に基づき、四〇㎜ から五〇㎜ に設定
し四〇㎜ 以上の圧迫を適正と評価した。
4
統計的解析
三 群 間 の 検 定 は、 一 元 配 置 分 散 分 析 法 を 用 い た。 群 間
に差が認められる場合は、 Dunnett
法を用いて多重比較を
行った。統計処理の有意水準は、危険率五%未満とした。
結果
傷病者接触から搬送終了までの活動時間(図3)の平均
時間は、 AP-First
群が二二五・一秒と最も短く、次に CPR-
第21号 22
救急救命
群、 M-CPR
群 の 順 で、 AP-First
群、 CPR-First
群が
First
群と比べ有意に短かった。
M-CPR
傷 病 者 接 触 か ら 搬 送 終 了 ま で の 胸 骨 圧 迫 中 断 時 間( 図
4) の 平 均 時 間 も、
群 が 五 五・五 秒 と 最 も 短 く、
AP-First
次 に CPR-First
群、 M-CPR
群 の 順 で、 AP-First
群、 CPR群が M-CPR
群と比べ有意に短かった。
First
前記の救急活動を傷病者接触から搬送開始までと搬送
開始から搬送終了までの二つに分けて比較を行った傷病
者接触から搬送開始までの活動時間、胸骨圧迫中断時間に
有意差は見られなかった。
一 方、 搬 送 開 始 か ら 搬 送 終 了 ま で の 活 動 時 間 は、
群に比べ AP-First
群、 CPR-First
群が短かった。
M-CPR
傷病者接触から搬送開始までの活動時間の胸骨圧迫中断
時 間 は、 M-CPR
群 と 比 べ、 AP-First
群、 CPR-First
群が有
意に短かった。
今回、 AutoPulse
を装着するタイミングを二つのプロト
コ ル で 行 っ た が、 プ ロ ト コ ル No . 1 の CPR群とプロトコルNo .2の AP-First
群で傷
First
病者接触から搬送終了までの活動時間のみで有
意差が見られたが、胸骨圧迫の中断時間では有
意差は見られなかった。
ストレッチャー搬送中の胸骨圧迫の適正率
は 低 く、 AutoPulse
の 圧 迫 を 一 〇 〇% 適 正 と 評
価 し た 場 合、 M-CPR
群の胸骨圧迫の適正率は
群に比べ有意に低かった。
AutoPulse
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少なくしているものと考えられる。一つ目の中断時間は、
群 で は、 傷 病 者 を ス ト レ ッ チ ャ ー に 収 容 す る 際 に
M-CPR
発生する胸骨圧迫の中断時間である。この胸骨圧迫中断時
間は、 AutoPulse
を使用することによりゼロにすることが
できた。二つ目の中断時間は AutoPulse
を装着する際に発
生する中断時間である。装着時には傷病者を AutoPulse
に
載せる時とライフバンドを装着する際に胸骨圧迫の中断時
間が発生する。
3
ストレッチャー搬送中の胸骨圧迫
ス ト レ ッ チ ャ ー 搬 送 中 の 胸 骨 圧 迫 で は、 M-CPR
群 は、
適正率が低くストレッチャー移動中の胸骨圧迫は、実際の
救急活動においても適正に行われていない可能性が高いこ
とをうかがわせた。
4
プロトコルについて
プ ロ ト コ ル No . 1 の CPR-First
群 と プ ロ ト コ ル No .
2 の AP-First
群 で は、 傷 病 者 接 触 か ら 搬 送 終 了 ま で の 活
動 時 間 の み で 差 が 見 ら れ、 こ れ は 二 分 間 の C P R を 行
い、一回の除細動を行ってから AutoPulse
を使用する CPR群 に 比 べ、 AP-First
群 は、 こ の 二 分 の C P R の 間 に
First
を装着するため、接触から搬送開始の活動時間
AutoPulse
に有意差は見られないものの、全体の活動時間として AP群の方が短くなっているものと考えられた。
First
結論
ストレッチャーと布担架を使用して、 AutoPulse
使用の
救急活動時間と胸骨圧迫の中断時間の比較を行ったが、活
動時間は短縮され、胸骨圧迫の中断時間も短縮された。
ストレッチャー移動中の胸骨圧迫の適正率も高くなり、
ストレッチャーでの移動中の AutoPulse
の使用は、有用で
あると考えられる。
図4 傷病者接触から搬送終了までの中断時間
考察
1
活動時間について
傷病者接触から搬送終了までの活動時間には
有意差があり、その活動時間を二つに分けた接
触から搬送開始、搬送開始から搬送終了の二つ
の時間のうち、搬送開始から搬送終了までの時
間が有意に短くなったことが全体の活動時間短
縮の一つの要因と考えられる。搬送開始から搬
送 終 了 ま で の 活 動 時 間 は 短 縮 さ れ、 AutoPulse
の 使 用 は、 搬 送 中 も AutoPulse
が胸骨圧迫を継
続しながらストレッチャー搬送時間を短縮させ
ることが可能であった。
ま た、 AutoPulse
を 使 用 す る こ と に よ り、 現
場の滞在時間が長くなると思われたが、接触か
ら搬送開始までの活動時間に有意差は見られ
ず、現場滞在時間の延長は明らかには認められ
なかった。
2
胸骨圧迫の中断時間について
の 使 用 に よ り、 傷 病 者 接 触 か ら 搬
AutoPulse
送終了までの胸骨圧迫中断時間が短縮され、搬
送開始から搬送終了までの胸骨圧迫中断時間の
短 縮 が 一 つ の 要 因 と 考 え ら れ る。 接 触 か ら 搬
送開始までの中断時間では、差が見られなかっ
た。これは次に挙げる二つの中断時間がうまく
差し引きされ、搬送開始までの中断時間の差を
図3 傷病者接触から搬送終了までの活動時間
図2 オートパルスプロトコル No.2
図1 オートパルスプロトコル No.1
目撃なし又は
覚知-現着5分以上
目撃なし又は
覚知-現着5分以上