テーマ:グループホームケアマネジメント - Apollon

第4分科会〈事例発表〉
■テーマ:グ
ループホームケアマネジメント
∼ グループホームにおける介護支援専門員のあり方 ∼
∼ 暮らしを創造するアンテナ360度 ∼
座 長
日本介護支援専門員協会 常任理事
助川未枝保
アドバイザー
日本介護支援専門員協会 認知症共同生活介護部会 部会長
有限会社グッドライフ 認知症高齢者グループホームアウル 総合施設長
宮崎 直人
日本介護支援専門員協会 認知症共同生活介護部会 委員
前・グループホーム シニアケアサザン塚口 ホーム長
現・ビハーラ本願寺 開設準備室 事務長
石川 進
演題発表者
社会福祉法人湖青福祉会 高齢者グループホームかふかの里(滋賀)
○林 繁久
第4分科会
テーマ:グループホームケアマネジメント
∼グループホームにおける介護支援専門員のあり方∼
∼暮らしを創造するアンテナ360度∼
座長:日本介護支援専門員協会 常任理事
助川未枝保
助川 未枝保 氏(すけがわ みしほ)
昭和56年、千葉市療育センター「ふれあいの家」の身体障害者に関する相談員と
して福祉の世界に入り、特に脳卒中などの中途障害者の通所リハビリテーション
の相談を担当していた。昭和62年に退職。
平成7年から船橋市東部在宅介護支援センター、平成15年から船橋市前原在宅介
護支援センターでセンター長を務めた。「認知症でも体に障害があっても暮らし
やすい地域つくり」を掲げて地域福祉に取り組んできた。介護支援専門員としては、利用者本位のケアマ
ネジメントの実現と利用者のエンパワメントを目標にしている。
平成17年4月から千葉県香取郡神崎町にある特別養護老人ホーム「じょうもんの郷」の施設長になり、認知
症ケアと介護予防とリハビリを中心にその人らしい暮らしを進めている。
【資 格】
社会福祉士 介護支援専門員、介護支援専門員指導者
【委 員】
千葉県国民保護協議会委員
千葉県後見支援センター契約締結審査会副委員長
千葉県認知症対策研究会会長
日本介護支援専門員協会常任理事
千葉県介護支援専門員協議会理事
千葉県介護支援専門員指導者
千葉県認知症介護研修指導者
船橋市介護認定審査会委員
習志野市介護認定審査会委員
多古町神崎町2町認定審査会委員
【著書、共著など】
「トータルケアマネジメントにおける理論と実際」
遠藤英俊他、日総研出版
「認知症ケアの再考」
介護サービス事業リスクマネジメント研究会、第1法規
「介護保険制度と福祉経営」
矢野聡・島津淳編著、ミネルヴァ書房
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アドバイザー:日本介護支援専門員協会 認知症共同生活介護部会 部会長
㈲グッドライフ 認知症高齢者グループホームアウル 総合施設長
宮崎 直人
宮崎 直人 氏(みやざき なおと)
北海道室蘭市生まれ。道都大学社会福祉学部卒。
結婚式場の営業マン、飲食店勤務を経て特別養護老人ホーム職員となり福祉の道
へ。
2001年、有限会社グッドライフ・認知症高齢者グループホームアウルを設立、現
在は総合施設長を務める。
ほかに北海道デイサービスセンター協議会幹事、NPO法人北海道認知症高齢者グループホーム協議会副
会長、北海道認知症実務者研修講師など。
アドバイザー:日本介護支援専門員協会 認知症共同生活介護部会 委員
前・グループホーム シニアケアサザン塚口 ホーム長
現・ビハーラ本願寺 開設準備室 事務長
石川 進
石川 進 氏(いしかわ すすむ)
23年間、大阪府内の特別養護老人ホームに勤務
前 グループホーム「シニアケアサザン塚口」 ホーム長
現 「ビハーラ本願寺」開設準備室委員
大阪府認知症介護指導者
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グループホーム入居者と地域との関わりを通じて
- グループホーム入居後も地域との交流を続ける A 氏 林 繁久 (社会福祉法人湖青福祉会 高齢者グループホームかふかの里 管理者・介護支援専門員)
Key word:自宅への思い、人間関係の再構築、地域への社会参加、地域とのつながり、その人らしい普通の暮らし
【目 的】
ても1人暮らしができると思っているらしい。という
グループホームに入居後も入居者が長年培ってきた
二つの情報があった。
生活を継続するために社会参加や地域との交流の展開
家の周りの草を見て、本人は畑仕事も好きで家にい
をすることを目的とする。
るときは草を引き、野菜を育てていたこともあり、夫
【方 法】
と長年暮らしてきた家を守らなければならないと考え
事例
たのではないか?と思われた。確かにグループホーム
入居前の状態
でもスタッフと一緒に草引きをしたり、畑で野菜を育
1人暮らしで子どもは県外に在住。
てたりもしていた。
市の配食サービスを利用していたが、食事や水分が
グループホームでの生活はスタッフの見守りにより
不足して、栄養失調や脱水症状で入退院を繰り返す。
ほぼ自立した生活が送れているが、帰省したときには
家族が心配して認知症の専門医に受診したところアル
何もせず横になっているだけであった。入居前にも栄
ツハイマー型認知症と診断される。
養失調等の既往があり、誰かに見守られていれば生活
身体状況は杖歩行で尿失禁があり、リハビリパンツを
はできるが、1人での生活は困難であると考えられた。
使用。家族の話では意欲低下がみられ、自宅では何も
よりよい人間関係の構築
しない。
「あそこには嫌な人がいる」ということにスタッフ
入居後
からの情報収集により、入居当初は他の入居者とも話
周辺症状はほとんど見られず、他の入居者とのトラ
をしていたが、他の入居者は物を忘れることが多いこ
ブルもない。家事はスタッフより上手で、意欲的に掃
ともあり、A氏からはあまり話をしていない。
除や食事の準備、後始末を行う。
また、一番仲が良いと思われる方も言葉がきつくA氏
歩行は自立し、尿失禁もみられなくなった。
はあまりよい印象を持っていないのでは・・・と考え
また、趣味としての俳句を嗜む
れる。
A氏の本音
以上の理由からホーム内では仲の良い人がいないと
入居後、一年余りが経過し、2回目の盆帰省された
考えられる。また、「グループホーム内では気の合う
ときに一緒に帰省されていたご家族から、相談したい
人がいなく、新しい友達を見つけるのは難しいのか
ことがあると連絡があった。
なぁ」と思われた。
盆帰省後、本人から「家のことが心配なので家に帰
ということで、「自宅にいた頃、仲の良かった地域
りたい。」
「あそこ (かふかの里)には嫌いな人がいる。」
の人々と一緒に過ごせる時間を作ることによって、
「あそこ (かふかの里)には帰りたくない。」という訴え
ホームに入居することにより、疎遠になっていた人間
があり、困っている。
関係を再構築することで、少しでも自宅にいたころの
なんとか家族が説得して、グループホームへは帰っ
生活が継続できるようにできればA氏にとってよいの
てくることになった。
ではないだろうかと考えた。
本人の思いに沿ったケアをどのように提供していく
しかし、地域の人への面会申し入れをしても本人か
か?
らしたら、スタッフや他の入居者に気を使いながら話
ホームでのA氏の1年余りの生活を振り返ってみ
さなければならないし、また、本人も施設 (ホーム)
て、スタッフとの会話は積極的に行うが、他の入居者
に入っていると思われたくないと言う思いがあると考
は認知症の症状も違い、A氏が認知症が比較的軽度で、
えられる。よって、地域のサロンに出掛けるように働
他の入居者に対しては積極的に話をすることがなかっ
きかけた。
たように感じられた。
A氏の出身地域にサロンがあるかどうかの情報につ
また、本人の「家のことが心配・・・」という意味を知
いては、地域の事情に詳しいスタッフから聞き、来月
ることが大切であり、家族に家での様子を詳しく聞く
に2回目のサロンが開催される予定であると情報収集
と①家に帰ったときに家の周りは草が一面に生えてい
を行った。たまたま、そのサロンを運営している民生
た。②グループホームでは何でもできるので、家に帰っ
委員が知り合いだったこともあり、比較的スムーズに
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サロンへの参加へとつながった。
辺症状がほとんどないので地域のサロンも受け入れを
サロンへの外出方法についてはどうするかという問
承諾していただけたがサロンによっては受け入れてく
題も出てきた
れないところもあると考えられる。
スタッフの付き添いについては・・・ (案1) 終始付き
そして、距離的な問題も大きい、A氏の行かれてい
添う (案2) 送迎のみの対応という2つの案が出たが、
るサロンは自動車で5分程度の距離にあり近く、何か
終始付き添うということは本人にとって、自由を束縛
あった場合はすぐに対応ができるが、遠くなるとス
することになる恐れがあるではないか。しかし、リス
タッフの送迎にも時間がかかるし、利用者の負担にも
ク面においては付き添うほうが良いが、本人の力を信
なると考えられる。
じ、本人の自由な時間を作ることとなった。
しかし、今回A氏の社会参加を通じてスタッフにも
そして、地域のサロンに参加することとなった
大きな変化が見られるようになった。今まででは外出
【結 果】
の転倒や周辺症状の悪化等に過敏な反応であったが、
A氏の変化
いつでも気軽に外へ出掛けるようになったとともに、
A氏が家に帰るという訴えがスタッフに対しても、
スタッフが入居者を1人の人間として捉えるようにな
家族に対してもなくなった。
り、気軽に外出に誘うようになった。
・・・映画、居酒屋、
また、サロンに参加するだけでなく、サロンの日に
図書館、外食等々
家に寄り道をするときもある。寄り道をすることで、
もうひとつ大きな変化はスタッフが地域の方々や社
長年暮らした自宅の様子を確認することができ、「家
会福祉協議会と接触する中で、ボランティア団体を立
にはいつでも帰れるという」と思うようになったと考
ち上げ地域活動へ参加するようになり、ボランティア
えられる。
の受け手からボランティアの担い手と活動の幅をひろ
また、サロンに行くことで長年付き合ってきた近所
の同年代の方と出会うことで、人間関係の再構築がで
げることができた。
【結 論】
きた。
地域密着型サービスでは「住み慣れた地域で生活が
さらに当ホームで2ヶ月に1回開催している。地域
継続できる」ことを目的にしている。
開放の喫茶をサロンの参加者にチラシを配り、参加を
今回、A氏の事例を通して地域との継続的なつなが
呼びかけるようになり、意欲が出てきた。
りをもっていただこうとし、グループホームに入居し
その他にも外食にいったり、句会に行くこともある。
ても今までのその人らしい普通の暮らしに近づけたと
また、中学生の職場体験実習では畑作業の先生もして
考えられる。
いる。
また、地域密着型サービスは地域からのボランティ
【考 察】
アの受け手だけではない、地域への情報発信をする機
グループホームに入居後も地域との継続的なつなが
関である。A氏の事例を通じて、関係機関からホーム
りをもつことにより、自宅で暮らしていたときの人間
の信頼を得て、最近では地域での講演を依頼していた
関係が継続でき、A氏も意欲的に生活ができるように
だくことが多くなった。
なった。A氏が自宅で暮らしていたときと同じような
地域密着型サービスが地域の社会資源のひとつにな
暮らしができるようになった。
ることで今後本当の意味での地域に密着した機関にな
A氏の場合、ADLはほぼ自立していて、認知症の周
ると考えられる。
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