関連係数・オッズ・非類似度係数 - 東北学院大学情報処理センター

97
人間情報学研究,第10巻
− 研究ノート −
2005年,97∼106頁
関連係数・オッズ・非類似度係数
―2大学における適合職輩出率の分析―
片瀬一男*
Association Index, Odds and Dissimilarity Index:
An Analysis of Production Rates of Conform Occupation in Two
Universities.
Kazuo KATASE
<Abstract>
Discrete data analysis, for example, the analysis of contingency tables is crucial
technique for social research data analysis. In this note, we discussed association
index, odds and dissimilarity index for contingency tables. Using the data of
production rates of conform occupation in two universities, we found that these
indices are useful for description of changing function of university.
Keywords: Association Index, Odds , Dissimilarity Index
*
東北学院大学教授 Touhoku Gakuin University
Journal of Human Informatics Vol.10
March,2005
98
片瀬一男
1.問題の所在
計量社会学すなわち社会調査のデータ分析に
経済学部:金融(銀行・保険・その他)
法学部:公務員
おいては、カテゴリカル・データの分析が中心
的な課題となる(片瀬,1997a,1997b,1998)
。その
3.分析結果
なかでも、クロス表分析は基礎的だが重要な分
3.1.大学ごとの分析
析手法となる(安田・海野,1977)。たとえば、
3.1.1.クロス表の分析
社会移動研究、とりわけ「社会階層と社会移動
まず、A大学の学部と就職先(適合職・非適
に関する全国調査(SSM調査)においては、世
合職)の3行×2列の度数・百分率クロス表を
代間移動の趨勢を明らかにするために、父職と
1993年から2003年の11年分、作成した(表1.1
本人職のクロス表が時系列的に分析されてきた
∼表1.11)
。
(今田,1989、直井・盛山,1990、Ishida,1993、
原・盛山,1999、橋本,1999、原,2000、鹿又,2001)
。
それによって、戦後日本社会における地位継承
の趨勢や、世代間移動における移動障壁の存在
(社会的不平等)が解明されてきた。
本稿では、こうしたクロス表の分析手法のい
表1.1 1993年度適合職輩出状況
学 部
適合職
文学部
経済学部
法学部
注)χ2=0.0107
非適合職
合計
適合職輩出率
43
326
369
126
611
737
0.117
0.171
51
201
252
0.202
V= 0.0028
くつかをとりあげ、紹介・検討を試みたい。デ
ータとして用いるのは、東北地方にあるA大学
(私立)とB大学(国立)の文科系学部の就職
状況(11年間)である。周知のように、1990年
代前半のバブル経済の崩壊以降、とりわけ文科
系学部においては、卒業生の専門性と適合職と
表1.2 1994年度適合職輩出状況
学 部
適合職
非適合職
合計
283
336
53
文学部
経済学部
法学部
適合職輩出率
0.158
168
593
761
0.221
42
241
283
0.148
注)χ2=0.0064 V= 0.0022
の関連が弱まっているように思われる。そこで、
この11年間の大学生の就職先と学部のクロス表
から、大卒労働市場の変容をみてみることにし
よう。
表1.3 1995年度適合職輩出状況
学 部
適合職
文学部
経済学部
2.データと方法
使用するデータは、A大学入試センター発行
『大学案内』に掲載された“RECURUTING
DATA”(1993∼2003年度)、およびB大学の学報
(1997年度∼2003年度)である。
次に、「適合職」を以下のように操作的に定
義した。
文学部:教員
人間情報学研究 第10巻
法学部
非適合職
合計
適合職輩出率
44
331
375
130
639
769
0.117
0.169
34
261
295
0.115
注)χ2=0.0181 V= 0.0035
表1.4 1996年度適合職輩出状況
学 部
適合職
文学部
経済学部
法学部
注)χ2=0.0045
非適合職
合計
352
388
36
適合職輩出率
0.093
144
742
886
0.163
42
254
296
0.142
V= 0.0017
2005年3月
99
関連係数・オッズ・非類似度係数
表1.5 1997年度適合職輩出状況
学 部
適合職
学部
経済学部
法学部
非適合職
合計
表1.11 2003年度適合職輩出状況
適合職輩出率
学 部
適合職
非適合職
合計
適合職輩出率
22
343
365
0.060
文学部
18
326
290
120
656
776
0.155
経済学部
86
611
636
0.135
41
240
281
0.146
法学部
25
201
256
0.098
注)χ2=0.00003
注)χ2=0.00045
V= 0.0002
0.614
V= 0.00062
表1.6 1998年度適合職輩出状況
学 部
適合職
文学部
経済学部
合計
18
342
313
0.058
た1996年度から2003年度の8年間に、学部(文
149
610
693
0.215
学部・経済学部・法学部)と就職先(適合職・
271
308
0.120
非適合職)との関係がどのように変化したかを
37
法学部
注)χ2=0.00001
適合職輩出率
V= 0.00007
みるために、3行×2列の度数・百分率クロス
表を作成した(表は省略)
。
表1.7 1999年度適合職輩出状況
学 部
適合職
文学部
経済学部
非適合職
合計
15
230
245
0.061
124
512
636
0.195
203
250
0.188
47
法学部
注)χ2=0.00001
適合職輩出率
V= 0.00007
適合職
21
文学部
経済学部
法学部
非適合職
合計
次に、適合職排出率Piを以下の¸式より計算
した。
315
336
fij
fi.
・・・・・・・・・・・¸
ここで、f ij は各学部の適職輩出者数、
適合職輩出率
0.063
123
528
651
0.189
39
169
208
0.188
注)χ2=0.0000
3.1.2.適合職輩出率Piの計算
Pi =
表1.8 2000年度適合職輩出状況
学 部
同様に、B大学については、資料が入手でき
非適合職
fi.は各学部の就職希望者数を意味する。
そして、各年次別に各学部の適合職輩出率
をグラフにした(A大学は図1a、B大学は図1b)
。
V = 0.00002
表1.9 2001年度適合職輩出状況
学 部
適合職
文学部
経済学部
非適合職
合計
21
303
324
0.065
141
494
635
0.222
198
251
0.211
53
法学部
注)χ2=0.0000
適合職輩出率
V = 0.0000
表1.10 2002年度適合職輩出状況
非適合職
合計
文学部
学 部
適合職
13
273
286
0.045
経済学部
77
429
506
0.152
法学部
34
186
220
0.155
注)χ2=0.00002
適合職輩出率
この図1aからみると、まずA大学では、文学
部の適合職(教員)輩出率は、94年度をピーク
に急激に低下し、97年度以降は0.05(5%)程
V= 0.00013
Journal of Human Informatics Vol.10
March,2005
100
片瀬一男
度で推移していることがわかる。次に、経済学
3.1.3.比率の差の計算
部の適合職(金融業)輩出率は、95年から97年
上記の結果から、各年次別に適合職輩出率の
までは停滞したが、98年から01年にかけては
差 d ij(文学部と経済部、文学部と法学部、経
0.2(20%)と、比較的、高率を維持した。し
済学部と法学部)の絶対値を式¹より計算し、
かし、02年から03年にかけては、0.15程度に低
その推移をグラフにした(A大学は図2a、B大
落した。最後に、法学部の適合職(公務員)輩
学は図2b)
。
出率の場合、95年から97年にかけて0.15(15%)
と低迷したが、98年から01年にかけては、経済
学部と同様、0.2(20%)の水準を維持した。
dij = Pi - Pj ・・・・・・・・・・・・¹
ここでPi、Pjは学部i,jの適合職輩出率を
示す。
しかし、02年から03年にかけては、0.15(15%)
を割るにいたっている。
まず、図2a.によれば、A大学では、文学部と
経済学部の適合職輩出率の差は、95年から98年
次に図1bからB大学についてみると、A大学
にかけて急激に上昇し、98年から02年にかけて
と比べて、文学部の適合職(教員)輩出率が高
高原状態を示した。図1aで明らかになったよう
い。とくに1998年と2001年は、経済学部や法学
に、この時期は文学部の適合職輩出率はずっと
部を超えている。しかし、この文学部でも、
停滞しているので、これは経済学部において適
2002年度以降は急速に適合職輩出率を低下させ
合職輩出率が高まったことによる。また、02年
ている。次に、経済学部の適合職(金融業)輩
から03年にかけて、両者の差異が縮小している
出率は、A大学と同様、96年から98年までは停
のは、この時期、経済学部における適合職輩出
滞したが、99年から01年にかけては、比較的、
率が低下したことに起因する。法学部と文学部
高率を維持した。しかし、02年から03年にかけ
の差異もこれと同様の動きを示す。これに対し
ては低落した。最後に、法学部の適合職(公務
て、経済学部と法学部の差異は、94年と98年に
員)輩出率の場合、95年から97年にかけて0.15
例外的に拡大するが、それ以外は(とくに99年
(15%)と低迷したが、98年に例外的に高くな
以降)、0.02程度の差にとどまっている。94年
っているものの、それ以外の年度はきわめて低
と98年に関しては、図1aからわかるように、経
い水準にある。
済学部の適合職輩出率が上昇したのに対して、
法学部で低下したためと考えられる。
人間情報学研究 第10巻
2005年3月
101
関連係数・オッズ・非類似度係数
ここで r は行数、 c は列数、また
Min(r-1)(c-1) は、(r-1) と (c-1) の小さい方
を入れる。なお、V係数とその意味につ
いては、Bohnstedt and Knoke(1988=1990)
、
安田・海野(1977)および片瀬(1997a)
を参照のこと。
これに対して、図2bのB大学では、文学部と
経済学部の適合職輩出率の差および法学部と文
学部の差は、ほとんど同じ動きを示す。また、
経済学部と法学部の差は、それよりも若干、小
さいものの、他の2つの差とほぼ同じ動きを示
している。そして、とりわけ2000年度から2002
この関連係数Vは、学部と適合職との結びつ
年度には、学部間の差異が大きくなったが、
きの強さを示す。図3をみれば、まずA大学で
2003年度にはその差が再び縮小した。
は、93年度から95年度にかけて、V係数はある
程度の水準(といっても0.003から0.0035程度な
3.1.4.関連係数の計算 ので、統計的には有意ではない)を示すが、そ
次に、各年次別に、学部と就職先の関連性を
れ以降は急速に低下し、97年以降はほぼ無相関
みるために、式ºにより、カイ二乗値を計算し
となる。学部と就職先の関連は、ほとんどない
た。その結果は、先の表1.1∼表1.11の下に注記
といってよいだろう。他方、B大学では、97年
した。
と2002年に例外的に学部と就職先の関連が強ま
R
C
x2=ΣΣ
( fˆij - f ij )2
fˆij
っているが、とくに1999年以降はほとんど関係
・・・・・・・・・・・・・・・º
カイ二乗値とその意味については、
Bohnstedt and Knoke(1988=1990)および
片瀬(1997a)を参照のこと。
がないといってよい。
3.2.学部ごとの分析
次に、学部ごとの分析に入ろう。
3.2.1.オッズの計算
これをもとにクラマーの関連係数(コンティ
まず、各年次・各学部ごとに適合職輩出オッ
ンジェンシー係数)V(定義式は式»)を計算
ズ(式 ¼)を計算し、その推移を大学ごとに
し、その推移をグラフにした(図3)
。
グラフにした(図4a、図4b)
。
V=
x2
・・・・・・・・・・・»
N (Min (r-1) (c-1)
Journal of Human Informatics Vol.10
オッズ=
p
1-p
・・・・・・・・・・・・¼
March,2005
102
片瀬一男
ここで、pは事象の生起確率を意味す
次に、図4bからB大学のオッズの推移を見る
る。なお、オッズとその意味については、
と、文学部が適合職を輩出するオッズがもっと
Bohnstedt and Knoke
(1988=1990)
、Knoke,
も低い。経済学部と法学部はほぼ同じ水準にあ
Bohnstedt and Mee( 2002)および片瀬
るだけでなく、2000年および2003年にオッズが
(1997b)を参照のこと。
このオッズは、式¼から明らかなように、適
上昇する傾向を見せている。
3.2.2.非類似係数の計算
合職に就いたものが就かなかった者の何倍いる
最後に、学部間の違いをみるために、非類似
かを示すものである。したがって、学部ごとに
係数を計算した。この非類似係数は、本来、人
適合職への就きやすさを示す。
種による居住地域の分離の分析(Duncan and
Duncan,1955)や、性別による職域の違い(性
別 職 域 分 離 ) の 国 際 比 較 ( Shirahase and
Ishida,1994)に使われてきたが、今回の分析例
では、学部による就職先(適合職につける度合
い)の違いを表示する。
そこで、年次ごとに、非類似指数 D(文学部
と経済部、文学部と法学部、経済学部と法学部)
を計算し(式½)、その推移をグラフにした
まず、図4aからみると、A大学の場合、文学
部では94年をピークにオッズは急速に低下し、
とくに97年以降は0.05前後で推移している。ま
(図5)
。
D=
1
Σ fi - fj
2
・・・・・・・・・・・・・・・・・½
た、経済学部は98年から01年までは、0.25から
ここで f i は行度数、 f j は列度数を意
0.30の間で推移してきた、02年から03年にかけ
味する。なお、非類似係数とその意味に
て大きく低下した。同様に法学部も、98年まで
ついては、安田・海野(1977)および海
オッズが停滞したが、99年から01年にかけて上
野(1977, 1979)を参照のこと。
昇した。この間、法学部の学生は、公務員に就
きやすかったのである。しかし、02年以降、オ
ッズは低下し、以前の水準に戻っている。
この図5によれば、まずA大学の場合、3つ
の学部の非類似度は、95年から98年にかけて上
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関連係数・オッズ・非類似度係数
103
昇し、98年から01年にかけて高原状態を呈して
ブル経済破綻後の構造的不況期にあたる。そ
いる。これは、図1aと対比してみると、この間、
の影響で、若年労働市場が逼迫していたこと
文学部で適合職輩出状況が悪化し、経済・法学
は言を俟たない。
部で好転したことの反映であると考えられる。
まず、労働力の供給サイド(若年労働の輩
これに対して、01年から03年にかけて、非類似
出構造)における変容からみると、とりわけ
度は大幅に低下している。これは、経済・法学
大きかったのは、新規学卒労働力の供給量お
部で適合職輩出率が低下し、適合職への就職状
よびその年齢・学歴構成の変動である。すな
況が文学部に近づいてきたことを示してい
わち、15歳∼29歳の若年労働力人口は、1996
る。また、B大学では、A大学より1年遅れて
年までは「団塊第二世代」の労働市場参入に
1999年から非類似度が高くなり、2002年度以降、
よって上昇した。とくに、1980年代後半から
(1)
再び低下している
。
90年代前半にかけては、この「団塊の第二世
代」の労働力参入によって、高度経済成長期
4.むすび
並の若年労働力の供給があった、とされる
今回は、クロス集計から時系列データの分析
(高梨,2002)。しかし、その後は、少子化に
を行う方法をいくつか示した。これ以外に、時
ともなうこの年代の人口減ならびに高等教育
間(時点)を第三変数にいれて、エラボレーシ
進学率の上昇によって、労働市場への参入時
ョンやログリニア分析を行うことも可能であ
期が遅れるようになった。その結果、1990年
る。エラボレーションについては(安田・海
代には、15歳∼19歳層の労働市場参入者は一
野, 1977),(片瀬,1997a)および(原・海野,
貫して減少し、20歳∼24歳層では94年をピー
2004)を参照されたい。また、ログリニア分析
クに減少に転じ、25歳∼29歳層は一貫して増
(Agresti, 1996=2003, Bishop et.al., 1975, 原,1988、
加している(小杉, 2002)
。その背後には、こ
松田, 1988、盛山・近藤・岩永, 1992、片瀬,
の時期、資本主義の技術的高度化とりわけ
1997b)に時点変数を組み込んだものとして、
ME(マイクロエレクトロ技術)の導入によ
(2)
荒牧(2001)がある
。
り、資本の有機的構成が変化したことがある。
すなわち、機械設備など固定資本に投下され
注
る資本量が増大する一方で、労働力の購入わ
¸ なお、大学生の労働市場については、東北
けても技術的に未熟な新規学卒労働者を雇用
学院大学東北産業経済研究所(1995)、竹内
する資本量(人件費)が相対的にも絶対的に
(1995)
、松繁(2004)などを参照。とくに東
も減少する傾向があった、とされる(高梨,
北学院大学東北産業経済研究所(1987)は、
本稿で扱ったA大学の4年生および卒業生の
就職活動に関する分析をしている。
2002)
。
他方、学歴構成をみると、この間、高等教
育卒業者が著しく増大した。その結果、1990
言うまでもなく、労働市場においては、労
年代における30歳未満の若年労働力の減少
働力の需給バランスによって就職動向がきま
は、相対的に学歴の低い層から始まり、その
る。今回の分析対象となった1990年代は、バ
減少の度合いも大きいという。そして、最近
Journal of Human Informatics Vol.10
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104
片瀬一男
では専門学校卒業者も含む高等教育出身者が
新規学卒労働市場において全体の3分の2を
占めるに至っている。
これによって、若年労働市場では「学歴代
(小杉, 2002)
。
また、業種別にみると、1990年代は、バブ
ル崩壊後に不良債権をかかえた銀行・保険
業、大手建設業、不動産業では労働需要が一
替」すなわち従来は高卒者がついていた職種
気に冷え込み、新規学卒者の雇用はおろか、
(事務職や販売職など)が、高等教育出身者
中高年の正規労働者のリストラ、さらには企
にとって替わられるという現象が生じた。そ
業自体の倒産による大量解雇が相次いだ。さ
の結果、とりわけ学歴の低い層で若年就業希
らに、過剰設備をかかえた鉄鋼・金属などの
望者の完全失業率が大きく上昇した。2000年
素材産業や、過当競争によって採算の悪化し
の失業率を、男女別・年齢別・学歴別にみる
たスーパー等の流通業界でも、新規学卒者の
と、男性の15歳∼24歳層では、高校卒業者よ
求人は減少し、中高年女性のパートタイマー
りも大学卒業者で高いものの、25歳∼34歳層
を中心とした雇用の非正規化が進んだ。この
では高校卒業者の失業率は、大学卒業者より
影響をもっとも強く受けたのは、就職を希望
も高くなる(小杉,2002)。このことからは、
する普通科高校の卒業生および人文・社会科
大学卒業者では、就職難を反映して卒業直後
学系の短大・大学卒業生である。経済のサー
は失業者、無業者やフリーターが多いものの、
ビス化(サービス・流通・販売業が経済活動
その後は正規雇用に参入していくのに対し
に占める比重の増大)によって、第三次産業
て、高校卒業者を中心とした低学歴の者は、
従業者のウエイトは高まってきたが、大手金
一度、無業者もしくはフリーターになると、
融・流通業の整理・倒産さらには非正規雇用
その後もそこに滞留していく可能性が示唆さ
への移行によって、高校生や人文・社会系大
れる。
学生の就職状況は一向に好転する気配を見せ
次に労働力需要サイドすなわち企業の雇用
ていない(高梨, 2002)
。
形態における構造変動についてみると、1990
¹ なお、オッズの比をとったものをオッズ比
年代に起こった雇用形態の変動でもっとも著
という。この指標は、これまで階層移動の平
しかったのは、いわゆる「非正規雇用」−パ
等化・不平等化を示すものとして用いられて
ート・アルバイト就業者や派遣労働者の急増
きた(今田, 1989、佐藤, 2000など)
。しかし、
であろう。この傾向は、中高年女性とともに、
この指標のもつ意味は必ずしも自明ではな
若年労働市場で顕著に見られた。15歳∼24歳
い。最近では近藤(2001)が、Sanders(1997)
の就業者の場合、パート・アルバイト就業者
の議論を敷衍しながら、とりわけオッズ比が、
は1990年から2000年の10年間で、男性では
絶対比や比率の比および差と異なる動きをす
6.0%から18.0%へ、女性では9.8%から23.0%
るケース、つまり、オッズ比が増大(もしく
と増大した。非正規雇用者は、男性よりも女
は縮小)しているのに、絶対比や絶対差が縮
性に多い。若年層の失業率は男性の方が高い
小(もしくは増大)するケースについて数理
が、女性では非正規雇用者が多いため、見か
分析を試みている。そして、オッズ比の推移
け上は失業率が低く抑えられているのである
は、かならずしも格差の変動をストレートに
人間情報学研究 第10巻
2005年3月
105
関連係数・オッズ・非類似度係数
表す指標ではないとしたうえで、事象が生起
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ことと、何らかの状態を要約的に把握するこ
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と、とを区別する重要性を主張している。
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片瀬一男
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た、データの収集に当たっては、A大学につい
佐藤俊樹,2000,『不平等社会日本:さよなら中
ては入試センターの協力を得た。また、B大学
については、東北大学大学院文学研究科の菅原
流神話』中公新書。
盛山和夫・近藤博之・岩永雅也,1992,『社会調
真枝助手(当時)ならびに事務補佐員の石神恵
子氏のお手を煩わせた。実際のデータ分析は、
査法』放送大学振興会。
Shirahase, Sawako and Ishida Hirosi,1994,
東北学院大学大学院人間情報学研究科の伊藤幹
d Gender Inequality in the Japanese
佳、大場優美子、岩崎由里ならびに東北学院大
Occupational Structure” International
学教養学部4年生の大橋史江の各氏による。記
Journal of Comparative Sociology .3-
して感謝したい。
4.pp.188-206.
〔2005年2月21日受付〕
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安田三郎・海野道郎,1977,『改訂第2版 社会
統計学』丸善。
付記
今回のデータ分析に当たっては、東北大学大
学院文学研究科の原純輔教授、神林博史助手
(当時)ならびに三輪哲氏、島根大学(当時)
の小林久高教授のご示唆・ご教示を受けた。ま
人間情報学研究 第10巻
2005年3月