2.2. 緊急通報・防災訓練当日 本節では、緊急通報・防災訓練を実施した

2.2. 緊急通報・防災訓練当日
本節では、緊急通報・防災訓練を実施した 6 月 24 日の様子を報告する。当日は、30 分
間の直前練習を行った後に、消防署員の方を迎えて緊急通報・防災訓練を行った。
2.2.1.
直前練習
【初級】
事前練習で作成し、当日持参するよう指示していた通報カードを参照しつつ、
前回導入した語彙を確認し、通報の流れに沿ってやり取りを行った。その後、空いた時間
を利用し、用意しておいた消火器のイラスト(全国消防デジタルイラスト集のイラストを
加工したもの)を用いて「消火器の使い方」に関する語彙を紹介した。
【中・上級】
(1)火事・救急の通報の仕方の練習
通報の練習に関しては、通報時のモデル会話を記したポスター(モデル会話の内容は以
下参照)を使って練習し、通報のシミュレーションを行った。言葉の説明だけに頼るより、
ポスターで流れと表現を提示して補助する方法をとった。
紙を巻いて受話器を作り、ポスターを参加者全員の前に示し、交流員と協力して一度通
報の仕方の手本を見せた後、参加者一人一人に通報の練習をしてもらった。この段階では、
住所と目印を明確に伝えることに重点を置いて進めた。ポスターの内容は以下のようなも
のである。
<火事>
消防署員「火事ですか、救急ですか」
参加者「火事です」
消防署員「住所は何市、何町、何丁目、何番、何号ですか」
参加者「
市、
町、
丁目、
番、
号です」
消防署員「何が燃えていますか」
参加者「
が燃えています」
消防署員「目印は?」
参加者「
です」
<救急>
消防署員「火事ですか、救急ですか」
参加者「救急です」
消防署員「住所は何市、何町、何丁目、何番、何号ですか」
参加者「
市、
町、
丁目、
番、
号です」
消防署員「病気ですか、怪我ですか」
参加者「
です」
消防署員「誰がどうしましたか」
参加者「
(人)が
」
<図 3 通報時のモデル会話>
(2)救急に関する状況の説明の練習(怪我、病気、交通事故など)
普段の生活上の会話ができても、怪我や事故にあった時に、実際の状況をうまく伝えら
れるとは限らないので、救急の通報と状況説明の練習を行った。
日常生活で起こりうる怪我、事故、病気の様子を描いたイラスト(詳しくはウェブ参照)
を利用し、救急の通報に使う表現を練習した。イラストの種類と内容は、①人が扇風機で
指を怪我したもの、②人が階段から落ちて怪我したもの(意識あり)
、③人が階段から落ち
て怪我したもの(意識なし)
、④自動車と自転車の事故で人が怪我したもの、⑤人が胸を押
さえて倒れたもの、などを用意した。また、それぞれの日本語の表現を裏の面に書いてお
いた。
参加者と対等な関係を保ち、協同的に学習するという雰囲気をなくさないために、イラ
ストをテーブルに置き、全員で情報を共有して考えたり、話し合ったりできるようにした。
参加者全員にイラストの内容と状況を説明してもらった後、裏に書いてある日本語の表現
を全員で確認し合った。練習を通して実際に使った語彙と表現は以下のとおりである。
事故や病気の状況説明に使った語彙・表現
<事故>
【家庭内事故の場合】
語彙
・体の部位(頭、胸、腰、手、指など)
・出血
・意識
イラスト①
表現
・血が出ています/血は出ていません
・出血があります/出血はありません
・意識があります/意識がありません
・<原因>N で/V て <体の部位>
⇒
を怪我しました
例:扇風機で指を怪我しました。
階段から落ちて腰を怪我しました。
イラスト②
・とても痛がっています
・立てません
イラスト③
【交通事故の場合】
語彙
・車、自転車
・ぶつかる、ひかれる
表現
・
と
⇒
例:自動車と自転車の事故です。
・<人>
⇒
の事故です
が
<体の部位>
を怪我しました
例:男の子が足を怪我しました。
・車にぶつかりました/ひかれました
・血が出ています
・意識があります
・近くに <目印> があります
イラスト④
<病気>
語彙
・倒れる
・押さえる
・呼吸
・息をする
表現
イラスト⑤
・人が倒れています
・胸を押さえています
・意識があります/意識がありません
・呼吸があります/呼吸がありません
・呼吸しています/呼吸していません
・息をしています/息をしていません
・胸が 痛そうです/苦しそうです/痛いと言っています
<緊急通報・防災訓練の練習をよりよいものにするために>
もし時間が許せば、例えばクイズを混ぜたり、自国の火事・救急に関する話題と経験を
話してもらったり、参加者の国々の状況と比較させたりした方が、単なる練習にとどまら
ずに、グループ内で知識を共有し、そして学び合う場が作れる。また、火事の危険性や地
震後に起こる火事など、背景知識も盛り込めればなおよい。緊急通報訓練を行う意義や重
要性などをより認識させることにつながるからである。
例:→日本では、火事/救急の通報は 119 ですが、皆さんの国は?
→通報する時に、何を伝えればいいですか?
また、どのようなことが聞かれると思いますか?
→どうして住所の言い方は「○丁目△番□号」ですか?
練習と説明の際に、適宜ボディーランゲージや教具(イラスト、絵カードなど)を使用
することは 1 つのポイントであると思う。例を挙げると、参加者が「意識がありません」
という日本語の意味が分からなかった時に、実習生が実際に地面に横になり、交流員が声
をかけてきても反応を示さないように演じることで、参加者がその表現を理解したという
場面があった。
グループ内で全員が学び合う場を作るためには、参加者の前に立って教具を提示するよ
りも、普段のグループ活動通りに、教具をテーブルに置いて全員でディスカッションでき
る方が、対等な関係及び全員で学び合うという雰囲気が出やすいのではないだろうか(勿
論、比較的大きいポスターなら仕方がないのだが)
。また、その際にはできるだけグループ
内の全員に均等に練習の機会を与える心がけが大事である。そこでもし、参加者の中に表
現が分からない、もしくは言いたい語彙・表現が出てこない場合は、参加者同士の助け合
いを促すことも重要なポイントとして挙げられる。
2.2.2.
緊急通報・防災訓練本番の流れと実習生の行ったサポート
消防署員を迎えて行った緊急通報・防災訓練本番の流れは以下の通りである。
<全体の流れ>
(1)消防署員による防災通報訓練の内容とそれを行う意義に関する簡単な説明
(2)通報訓練(火事)
実習生が準備した通報の流れを画用紙に記入したもの(【モデル会話】以下参照)を壁に
貼り、消防署員がそれを指し示しながら通報訓練を行った。
(3)住宅用火災警報器の設置が義務化されていることに関するお知らせ
実習生や交流員は初級者の近くに座り、やさしい日本語その他で参加者が消防署員の話
についていけるよう気を配った。また、コーディネーターの方から、上級者に初級者への
通訳をお願いしたらどうかというアドバイスを受け、そのように取り計らった。
(4)避難訓練
消防署員が避難時の姿勢や注意点を説明している際、実習生は話の流れに沿って準備し
ておいた絵を提示し(【イラストによる理解補助】以下参照)、特に初級者が視覚的情報か
ら何が話されているかを理解しやすくなるよう配慮した。説明の後は避難訓練が実施され、
火災が発生したと仮定して全員で駐車場まで階段を使って避難した。駐車場では消火器を
使って消火訓練を行った。
<実習生の行ったサポート>
消防署員の指導による室内での火災通報訓練、避難訓練では、消防署員と交流員が連携
して初級から上級までの全ての参加者が活動に参加できるように工夫する必要があった。
次は、実習生が訓練本番で行ったサポートの具体例である。
【モデル会話の提示】
事前練習や直前練習でも使用していたモデル会話を提示し、それに沿って消防署員と参
加者がやり取りをする形で通報訓練を行った。こうすることで、初級の参加者も通報訓練
にスムーズに参加することが可能になった。モデル会話は を参照。
※訓練本番では、火災時の通報訓練を行ったため、提示したのは火事の通報の流れ(モ
デル会話)のみである。
・初級の参加者にもわかりやすいように、モデル会話にはルビをふった。
・上級の参加者の場合、モデル会話を隠して演習のように進めてもよい。
【イラストによる理解補助】
消防署員から、住宅用火災警報器、避難の仕方、消火器の使い方などについて説明があ
るとき、初級の参加者にも理解が行きわたるようにイラストを提示した。
・避難する時にはエレベーターを使わず(⑥)
、非常階段を使う(⑦)
×
イラスト⑥
イラスト⑦
・
「非常口」のマーク(⑧)を探し、姿勢を低くして避難する(⑨)
ひじょうぐち
非常口
イラスト⑧
イラスト⑨
このようにイラストを利用することによって、日本語を聞いて理解するのがまだ難しい
初級の参加者にも、防災・避難に関する説明の理解をうながすことができた。
<参考 URL>
全国消防デジタルイラスト集(最終閲覧 2011/02/04)
http://www.city.hiroshima.lg.jp/shobou/m4/irasuto/