職業運転手における睡眠呼吸障害の頻度と,予測因子 - 日本呼吸器学会

日呼吸会誌
49(4)
,2011.
249
●原 著
職業運転手における睡眠呼吸障害の頻度と,予測因子の検討
―特定健診の結果をもとに
篠田 千恵1)
和田
攻1)
林
龍二2)
要旨:睡眠呼吸障害は脳血管障害や虚血性心疾患の原因となることが知られている.また夜間の睡眠障害に
よる日中の眠気が産業事故の原因となるとされ,潜在する患者の早期発見が急務である.今回我々は,40
歳以上の職業運転手 81 名を対象に携帯型モニター装置を用いてスクリーニング検査を施行し,睡眠呼吸障
害の頻度を調査した.また同年の特定健診のデータをもとにその予測因子を検討した.Apnea hypopnea index(AHI)が 15 以上のものが 28.3% に認められた.またロジステイック回帰分析では糖代謝異常(オッ
ズ比 6.745)
,20 歳から 10kg 以上の体重増加(オッズ比 5.374)
,加齢(オッズ比 1.136)が独立した予測
因子であった.特定健診を利用することで,睡眠呼吸障害の高度危険群を抽出できる可能性が示唆された.
これは睡眠呼吸障害の早期発見,産業事故防止のために重要な知見だと思われる.
キーワード:睡眠呼吸障害,職業運転手,糖代謝異常,加齢,体重増加
Sleep-disordered breathing,Commercial drivers,Disorder of glucose metabolism,Aging,
Weight gain
緒
言
睡眠呼吸障害は脳血管障害や虚血性心疾患の原因とな
1)
2)
ることが知られている .2003 年 2 月に発生した山陽
故のリスクも正常者と同等となることも報告されてい
る7).以上より社会的安全性の確保のためにも職業運転
手にはより積極的な介入を行い,睡眠呼吸障害の早期発
見と治療を行うことが重要である.
新幹線の運転士の居眠り事件から,睡眠時無呼吸症候群
平成 20 年度より生活習慣病予防を目的として特定健
と大事故につながるような眠気の関連性が社会に広く認
診が始まり,厚生労働省が作成した「標準的な健診・保
知されるようになった.このことをうけて JR 西日本は
健指導に関するプログラム」に準じて全国規模で組織的
2006 年より全運転士を対象としたスクリーニング検査
に行われている.この特定健診では睡眠呼吸障害を合併
をはじめているが,それ以外の交通機関では進んでいな
しやすい糖尿病,高血圧,脂質異常症などの生活習慣病
いのが現状である.
の評価が行われており,健診データから睡眠呼吸障害を
睡眠呼吸障害の AHI による重症度判定と交通事故と
強く疑う症例を発見できれば有用と考えられる.しかし
の関連性については,いまだ議論のあるところであり,
我々の検索した限り,睡眠呼吸障害のスクリーニング検
交通事故をおこしうる AHI の最低値は明らかでない.
査と特定健診のデータを比較検討した報告はいまだな
しかし,睡眠呼吸障害が中等症以上の場合,眠気の有無
い.
にかかわらず,集中力が低下し,交通事故をおこす危険
今回我々は職業運転手において,睡眠呼吸障害の頻度
性が高い,あるいは AHI が高値であるほど高リスクで
とその予測因子について特定健診の結果をもとに検討し
あるという複数の報告がなされている3)∼5).近年では,
た.本研究では事故のリスクの高い中等症以上をもれな
閉塞型睡眠時無呼吸の患者の集中力低下は飲酒や睡眠制
く診断するため,AHI≧15 を睡眠呼吸障害として解析
限に匹敵するとさえいわれている6).一方,睡眠時無呼
した.
吸症候群の患者に CPAP 治療を導入すると集中力や事
〒933―0115 富山県高岡市伏木古府元町 8―5
1)
社会保険高岡病院内科
2)
富山大学第一内科
(受付日平成 22 年 8 月 23 日)
対象と方法
2009 年 12 月,某交通会社の 40 歳以上の職業運転手
のうち本人に同意をえた 100 名に携帯型モニター装置
(SAS-2100Ⓡ)を用いて睡眠呼吸障害のスクリーニング
検査を施行した.このうち同年度に当院の健康管理セン
250
日呼吸会誌
Table 1 Sample Characteristics by health examination
total n=81
n (%)
Sex (male/female)
Age (yr)
40≦yr<50
50≦yr<60
60≦
BMI (kg/m2)
BMI<25
BMI≧25
waist size (cm)
waist<85
waist≧85
blood pressure
systolic blood pressure (sBp)
diastolic blood pressure (dBp)
normal
Hypertension※
lipid metabolism
TG (mg/dl)
HDL (mg/dl)
LDL (IU/dl)
normal
disorders†
glucose metabolism
FBS (mg/dl)
HbA1c (%)
normal
disorders‡
weight gain above 10 kg
yes
no
mean±SD
49(4)
,2011.
が事業主より対象者に一斉に手渡された.この機器は経
鼻カニューレの呼吸センサーと経皮的センサーによる動
脈血酸素飽和度を終夜連続測定するもので,添付されて
いる装着及び測定の方法に関する操作ガイドに従って対
象者がそれぞれ 10 日以内に自宅にて測定した.その後
81/0
51.9±7.7
「スリープメデイカルサー
SAS-2100Ⓡを事業主が回収し,
36 (44.4%)
29 (35.8%)
16 (19.8%)
ビス株式会社」にて付属の計測ソフト QP-021W を用い
て解析が行われた.我々は産業医の立場からこのデータ
24.1±3.2
を受け取り,あらためて当院の睡眠学会認定臨床検査技
52 (64.2%)
29 (35.8%)
師が目視・マニュアル訂正したものを確認した.我々は
AHI≧15 を睡眠呼吸障害と判定し,特定健診の成績と
86.7±8.6
比較検討した.また眠気の自覚あり,なしの 2 択の問診
35 (43.2%)
46 (56.8%)
といびきや頭痛など体調に関する問診を併せて行った.
本研究では対象者全員の同意を得ており,社会保険高
135±16.3
81.9±10.8
岡病院の倫理委員会の承認を得た.
49 (60.5%)
32 (39.5%)
統計学的処理
各値は平均±標準偏差で表示した.対応のない 2 群間
159.3±92.8
50.3±10.9
122.9±31.5
の 比 較 で は t 検 定(Welch 法)を,3 群 間 の 比 較 に は
ANOVA 検 定(Bartlett 法)を 用 い た.睡 眠 呼 吸 障 害
33 (40.8%)
48 (59.2%)
(AHI≧15)に関連する多変量解析については各要因を
2 群にわけてロジステイック回帰分析にて評価した.統
100.8±9.4
5.3±0.6
計学的検討には Windows 日本語版 SPSS(version. 11.0)
を用い,p<0.05 を有意差ありとした.
58 (71.6%)
23 (28.4%)
成
41 (50.6%)
40 (49.4%)
績
特定検診の結果
対象者は 81 名全例が男性で,年齢は 51.9±7.7 歳だっ
※Hypertension: medication use, or sBP≧140 mmHg, or dBP
≧90 mmHg
†disorders: medication use, or TG≧150 mg/dl, or HDL<40
mg/dl, or LDL≧140 IU/dl
‡disorders: medication use, or FBS≧110 mg/dl, or HbA1c
≧5.6%
,腹囲≧
た.BMI≧25kg!
m2 の肥満者が 29 名(35.8%)
85cm の内臓脂肪型肥満者は 46 名(56%)だった.高
血圧のため服薬治療中か,健診での最高血圧 140mmHg
以上または最低血圧 90mmHg 以上を高血圧群,脂質異
常症で加療中か,空腹時中性脂肪≧150mg!
dl,LDL≧140
IU!
ml,HDL<40mg!
dl のいずれかを有するものを脂質
ターで特定健診を受診していた 81 名を検討の対象とし
代謝異常群,糖尿病で治療中か,空腹時血糖≧110mg!
dl
た.残る 19 名は個人の事情により特定健診を受診して
または HbA1c≧5.6% のいずれかを有するものを糖代謝
いなかったため検討から除外した.
異常群とすると高血圧群は 32 名(39.5%)
,脂質代謝異
特定健診は 2009 年 6 月に施行された.身長,体重,
常群は 48 名(59.2%)
,糖代謝異常群は 23 名(28.4%)
腹囲,血圧,脈拍などの身体計測と,糖代謝,脂質代謝,
に認めた.特定健診の 22 項目の問診のうち「20 歳から
肝機能,腎機能について血液検査,尿検査ならびに,服
10kg 以上体重が増えましたか」との問いに「はい」と
薬状況や既往歴,生活習慣に関する「標準的質問票」22
答えてい た も の が 41 名(50.7%)だ っ た(Table 1)
.
項目の問診が行われた.その後,わが国の診断基準に基
対象者のメタボリック症候群該当者は 24 名(29.6%)
,
づきメタボリック症候群に関して,基準該当,予備群該
予備群該当者が 19 名(23.4%)
,非該当者が 38 名(47%)
当,非該当の 3 つに判定した8).
だった.
スクリーニング検査は某交通会社と「スリープメデイ
カルサービス株式会社」の契約に基づいて施行された.
Ⓡ
2009 年 12 月 25 日,携帯型モニター装置(SAS-2100 )
スクリーニング検査の結果
対象者の平均 AHI は 10.9±11.8 であり,AHI≧15 の
睡眠呼吸障害が 23 名(28.3%)にみられた.このうち
職業運転手における睡眠呼吸障害の頻度と予測因子
なお今回用いた携帯型モニター装置(SAS-2100Ⓡ)で
Table 2 The prevalence of
Sleep-disordered breathing at
apnea-hypopnea scores
計測した AHI と終夜施行の full-night polysomnography
(PSG)で計測した AHI は,良好な正の相関を示すと報
9)
.我々は事故
告されている(y=1.24x−1.07,r=0.99)
Total n=81
n (%)
AHI<5
5≦AHI<15
15≦AHI<30
30≦AHI
39
19
14
9
251
のリスクの高い中等症以上をスクリーニングからもれる
(48.1%)
(23.5%)
(17.3%)
(11.1%)
ことが無いよう,AHI≧15 を睡眠呼吸障害のカットオ
フポイントとした.
職業運転手の睡眠呼吸障害
AHI: apnea hypopnea index
今回の対象者において AHI≧15 の睡眠呼吸障害は 23
名(28.3%)であった.これまで,自覚症状を問わず AHI
AHI≧30 の重症と考えられるものが 9 名(11.1%)だっ
15 以上の睡眠呼吸障害は成人男性の 25%,女性の 11%
た(Table 2)
.問診で眠気があると答えていたものは 23
とする報告10)11)や,ペンシルバニア州の職業運転手 406
名(28.3%)であった.
名(平 均 年 齢 44 歳,平 均 BMI 29.9)を 対 象 に PSG を
睡眠呼吸障害と関連する要因を探るため,まず AHI
行ったところ中等症以上が 10.5%,重症が 4.7% 潜在し
を臨床背景別に比較検討した(Table 3)
.40 歳代と比
ていたとの報告などがある12).また本邦の近年の研究で,
べて 50 歳代では有意に AHI は高値であった.60 歳代
322 名 の 男 性 労 働 者(平 均 年 齢 43±8.4 歳,平 均 BMI
ではさらに高い傾向が見られたが 50 歳代との間には有
23.7±2.8kg!
m2)を対象にタイプ 3 の携帯型モニター装
2
意な差はみられなかった.BMI が 25kg!
m 以上の肥満
置(Morpheus : Teijin, Tokyo, Japan)でスクリーニン
者,腹囲が 85cm 以上の内臓脂肪型肥満例,糖代謝異常
グ検査をしたところ,RDI が 15 以上の睡眠呼吸障害が
を認めたものの AHI は正常群に比べそれぞれ有意に高
22.3% に認められたと報告している.我々が検討した対
値だった.20 歳から 10kg 以上体重が増加していると答
象者に比べ平均年齢がおよそ 10 歳若く,年代別では 40
えた群は増加していないと答えた群に比べ AHI が有意
代の 23.4%,50 代の 30.6% に睡眠呼吸障害を認めたと
に高値だった.眠気の有無で AHI を比較すると眠気あ
しており13),対象や評価の方法が異なるため比較は難し
り群となし群で有意差はみられなかった.この結果より,
いが,我々の結果はこれらの報告と比較しても格別に高
2
,内臓脂肪型肥満(腹
加齢,肥満者(BMI≧25kg!
m)
囲≧85cm)
,糖代謝異常,20 歳から 10kg 以上の体重増
加が睡眠呼吸障害と関連があることが示唆された.
くはない.
対象者のメタボリック症候群基準該当者(29.6%)
,
予備群該当者(23.4%)の割合は,平成 16 年度国民健
さらに睡眠呼吸障害の独立した予測因子を探るため
(40 歳以上の男性のメタボリック症
康・栄養調査結果14)
AHI≧15 を睡眠呼吸障害として,その予測因子をロジ
候群該当者が 23.7%,予備群該当者が 27.1% という報
ステイック回帰分析で検討した.臨床背景の中で AHI
告)と比べても顕著な差はみられなかった.すなわち今
2
,内
に有意差を認めた加齢,肥満者(BMI≧25kg!
m)
回の対象は標準的中高年男性の集団と考えられ,この結
臓脂肪型肥満(腹囲≧85cm)
,糖代謝異常,20 歳から 10
果は職業運転手に限らず,一般の企業健診でも応用が可
kg 以上の体重増加を独立変数として,尤度比検定量を
能と考えられる.
基準とした変数選択法を用いた(Table 4)
.この結果よ
潜在する患者の洗い出しに自覚症状が指標になること
り,糖代謝異常(オッズ比 6.745,95%CI : 1.754∼25.931),
も多い.しかし,今回の検討では,睡眠時無呼吸症候群
20 歳から 10kg 以上の体重増加
(オッズ比 5.374,95%CI :
の代表的な症状である眠気の有無で AHI に有意差はみ
1.541∼18.749)
,加齢(オッズ比 1.136,95%CI : 1.039∼
られなかった.眠気は主観的で症状に個人差も大きい.
1.242)が独立した予測因子であることがわかった.モ
また職業運転手にとって「眠気あり」と回答することは
デル χ 検定の結果は p<0.01 で有意であり,各変数も有
就労上不利になるのではないかという自己防衛が働くこ
意(p<0.01)であった.
とも指摘されている.眠気の評価に Epworth sleepiness
2
考
察
scale(ESS)がしばしば用いられるが,職業運転手にお
いては ESS をリスクの判断材料とすることは同様の理
今回我々は,40 歳以上の職業運転手を対象に携帯型
由で困難とする報告が多い5).今回の結果からも,眠気
モニター装置を用いて睡眠呼吸障害のスクリーニング検
に関する簡単な問診で,職業運転手の睡眠呼吸障害の存
査を施行しその有病率を調査した.またその予測因子を
在を予測することは難しいと考えられた.
特定健診の結果から検討した.
252
日呼吸会誌
49(4)
,2011.
Table 3 Results of univariate analysis for Apnea hypopnea index by subgroups
Variables
subgroups
(n)
AHI (mean±SD)
p value
age, yr
40≦yr<50
50≦yr<60
60≦
36
29
16
6.2±8.0
13.9±13.5
15.6±12.6
p<0.01
BMI<25
BMI≧25
29
52
8.0±9.5
16.8±14.5
p<0.01
waist<85
waist≧85
35
46
6.38±8.2
14.2±13.0
p<0.01
normal
Hypertension※
49
32
8.9±10.5
13.8±13.2
NS
normal
disorders†
33
48
8.4±10.0
12.5±12.7
NS
normal
disorders ‡
58
23
8.9±10.4
16.5±13.6
p<0.01
no.
yes.
40
41
6.3±6.6
15.2±14.0
p<0.01
no.
yes.
58
23
10.6±11.6
11.4±12.5
NS
BMI (kg/m2)
waist size (cm)
blood pressure
lipid metabolism
glucose metabolism
Weight gain above 10 kg
daytime somnolence
※Hypertension: medication use, or sBP≧140 mmHg, or dBP≧90 mmHg
†disorders: medication use, or TG≧150 mg/dl, or HDL<40 mg/dl, or LDL≧140 IU/dl
‡disorders: medication use, or FBS≧110 mg/dl, or HbA1c≧5.6%
Table 4 Independent risk factors of SDB according to logistic regression analysis
variables
Partial regression
coefficient
P value (p)
OR
age
Disorders of glucose metabolism
Weight gain above 10 kg
0.127
1.909
1.682
0.005
0.005
0.008
1.136
6.745
5.374
OR (95% C.I)
Lower limit
Upper limit
1.039
1.754
1.541
1.242
25.932
18.749
OR: odds ratio, SDB: sleep disordered breathing
CI: confidence interval
Model chi-square p<0.01
睡眠呼吸障害の予測因子
研究でも糖代謝異常は睡眠呼吸障害の独立した予測因子
であることが統計学的有意差をもって証明された.2 型
1.糖代謝異常
糖尿病は心血管疾患発症の危険因子であり,睡眠呼吸障
2008 年国際糖尿病連合(IDF)は睡眠呼吸障害と 2
害もまた高血圧や脳卒中,心疾患の発症に影響する.早
型糖尿病は関連があるとして注意を喚起した.そこでは,
期に診断し治療することは労働災害の防止だけでなく,
閉塞型睡眠時無呼吸症候群の患者の 40% が糖尿病で,
生活習慣病の予防にもきわめて重要な意義を有すると考
糖尿病有病者の 23% が閉塞型睡眠時無呼吸症候群であ
えられる.
り,なんらかの睡眠呼吸障害を有するものは 58% にも
2.肥満
及ぶとして,糖尿病患者すべてにその可能性があること
今回 BMI が 25kg!
m2 以上か,腹囲が 85cm 以上の群
を考慮して診療にあたるように勧告している15).我々の
ではそれぞれ正常群に比べ有意に AHI が高値であり
職業運転手における睡眠呼吸障害の頻度と予測因子
(Table 3)
,肥満や内臓脂肪の蓄積は発症の構造的要因
253
cardiovascular outcomes in men with obstructive
としても重要であることが再認識された.しかし,今回
sleep apnea-hypopnea with or without treatment
の検討で注目すべき点は,特定健診における 22 項目の
with continuous positive airway pressure : an obser-
問診のうち「20 歳のときの体重から 10kg 以上増加して
vational study. Lancet 2005 ; 365 : 1046―1053.
いますか」に対し,「あり」と答えたものは,BMI が 25
2)Yaggi HK, Concato J, Kernan WN, et al. Obstructive
以上であることや腹囲が 85cm 以上であること以上に有
sleep apnea as a risk factor for stroke and death. N
意差をもって睡眠呼吸障害(AHI≧15)の独立した予測
Engl J Med 2005 ; 353 : 2034―2041.
因子となっていたことである.20 歳からの体重増加が
3)Ellen RLB, Marshall SC, Palayaw M, et al. Systemic
大きいほど AHI は高くなり,20kg 以上増加したものの
Review of Motor Vehicle Crash Risk in Persons
多くが中等症以上の睡眠呼吸障害だったという報告16)が
with Sleep Apnea. Journal of Clinical Sleep Med
ある.ワンポイントで肥満の有無をみる以上に,20 歳
から 10kg 以上の体重増加があったことが睡眠呼吸障害
を予測するために重要と考えられる.
3.加齢
2006 ; 2 : 193―200.
4)Young T, Blustein J, Finn L, et al. Sleep-Disordered
Breathing and Motor Vehicle Accidents in Population Based Sample of Employed Adults. Sleep 1997 ;
20 : 608―613.
今回の検討では加齢が独立した予測因子であった.
5)Teran-Santos J, Jimenes-Gomes A, Cardero-Guevara
Young らは中高年では年齢依存性に睡眠呼吸障害が増
J, et al. The association between Sleep-apnea and
加することを報告しており10)11),加齢による上気道筋の
the risk of traffic accidents. N Engl J Med 1999 ; 340 :
緊張低下や呼吸調節機能の低下,加齢に伴う体重増加,
さらに中枢性無呼吸の混在などの関与を指摘してい
847―851.
6)Andrew Vakulin, Stuart D Baulk, Peter G Catcheside, et al. Effects of Alcohol and Sleep Restriction
る17).
年齢の関与を明らかにするには,今回 AHI が 15 未満
on Simulated Driving Performance in Untreated Pa-
であった症例であっても,特定健診で体重増加があった
tients with Obstructive Sleep Apnea. Ann Intern
と答えたものや糖代謝異常を認めたものは,定期的にス
クリーニング検査を行うなどして前向きに検討する必要
があると思われる.
Med 2009 ; 151 : 447―455.
7)Horstmann S, Hess CW, Bassett C, et al. SleepinessRelated Accidents in Sleep Apnea Patients. Sleep
2000 ; 23 : 383―389.
結
語
8)メタボリックシンドローム診断基準検討委員会.メ
タボリックシンドロームの定義と診断基準.日本内
今回の検討は男性のみであったが成人の多くが受診す
科学会雑誌 2005 ; 94 : 794―809.
る特定健診から睡眠呼吸障害のハイリスク者を特定でき
9)川崎純一,八百啓介,宮永明子,他.携帯型睡眠時
る可能性を示した.健診で体重増加の目立つもの,糖代
無呼吸測定装置の基礎的検討.愛仁会医学研究誌
謝異常のあったものには特に注意して検査をすすめるこ
とが早期発見に有用であることが示唆された.また睡眠
2008 ; 40 : 325―327.
10)Young T, Shahar E, Nieti FJ, et al. Predictors of
呼吸障害は年齢依存性に増加する傾向がみられ,糖代謝
Sleep Disordered Breathing in Community-Dwe-
異常や体重増加を認める例では定期的に検査をうけるよ
lling Adults. Arch Intern Med 2002 ; 162 : 893―900.
うすすめるべきである.
今回は対象が比較的少数であり,男性の職業運転手と
いう限定された集団での検討であった.今後別の集団に
おいてもこれらの予測因子により睡眠呼吸障害を予測す
ることが可能なのかさらなる検討が必要である.また対
象者の交通事故に関するデータとあわせて睡眠呼吸障害
との関係を検討する必要があり,課題である.
11)Young T, Pepperd PE, Gottlieb DJ. Epidemiology of
Obstructive Sleep Apnea-A Population Health Perspective. Am J Respir Crit Care Med 2002 ; 165 :
1217―1239.
12)Gurubhagavatula I, Maislin G, Nkwuo JE, et al. Occupational screening for obstructive sleep apnea in
commercial drivers. Am J Respir Crit Care Med
2004 ; 170 : 371―376.
謝辞:稿を終えるにあたり,携帯型モニター装置を用いた
13)Nakayama-Ashida Y, Takegami M, Chin K, et al.
SAS 健診支援サービスをご提供いただきました「スリープ
Sleep-disordered breathing in the usual lifestyle set-
メデイカルサービス株式会社」に深謝いたします.
引用文献
1)Marin JM, Carrizo SJ, Vincente E, et al. Long-term
ting as detected with home monitoring in a population of working men in Japan. Sleep 2008 ; 31 : 419―
425.
14)厚生労働省,平成 16 年国民健康・栄養調査結果の
254
日呼吸会誌
49(4)
,2011.
16)津田 徹,森槌康貴,増井太朗,他.健康診断から
概要 報道発表資料 2006.5.8.
15)Jonathan E,
Naresh
M,
John
P, et al.
Sleep-
地域の医療機関への連携,社会資源の活用.日職災
disordered breathing and type 2 diabetes A report
医誌 2003 ; 59 : 262―265.
from the International Diabetes Federation Task-
17)塚田淳也,稲見康司,西村良二,他.高齢者におけ
force on Epidemiology and Prevention. Diabetes re-
る睡眠の変化と睡眠障害.日本臨床 2008 ; 6 : 430―
search and clinical practice 2008 ; 81 : 2―12.
435.
Abstract
The prevalence of sleep-disordered breathing among commercial drivers and analysis of
predictive factors based on health examinations
Chie Shinoda1), Osamu Wada1)and Ryuji Hayashi2)
1)
Shakaihoken Takaoka Hospital
First Department of Internal Medicine, University of Toyama
2)
Sleep-disordered breathing (SDB) is associated with a range of manifestations of cardiovascular disease such
as stroke, ischemic heart disease and heart failure, and it is known to cause excessive daytime somnolence and be
associated with traffic accidents. Therefore, it is important to detect SDB in the early stages. We investigated the
prevalence of SDB using a portable monitoring system in 81 commercial drivers. We then analyzed predictive factors for SDB using their health examination records of the same fiscal year. The prevalence of moderate to severe
levels of SDB reached 28.3% in all subjects. Multivariate analysis showed that the predictive factors which significantly correlated with SDB were : presence of glucose metabolism disorders (odds ratio [OR] 6.745), weight gain
greater than 10kg from age 20 (OR 5.374), and aging (OR 1.136). These results suggest that health examination records could help detect a high-risk group of SDB, which is important because its early diagnosis could prevent
commercial driver traffic accidents.