GA を用いた動的巡回セールスマン問へのアプローチ - TOPIC

計抑自動制御学会東北支部 第1占7回研究集会(19卯.5.16)
資料番号16T−1
GAを用いた動的巡回セールスマン問題へのアプローチ
Approach to Dynamic Traveling Salesman Problem Using GA
吉田等明,○和賀光悦,恒川佳隆,三浦守
HitoakiYoshida,OKouetsuWaga,YoshitakaTsunekawa,MamoruMiura
岩手大学
Iwate University
キ,ワpド:遺伝的アルゴリズム(GeneticAlgorithm),巡回セールスマン問題汀raYelingSalesman
Problem),動的巡回セ,ルスマン問題(DynamicTravelingSalesmanProblcm),
連絡先:〒020 盛岡市上田4−3−5 岩手大学工学部情報工学科
和賀光悦Tel:(019)6ユ3−5491,Fax:(O19)623−549l,E−mail:waga@cis.iwate−u.aCjp
1.はじめに
遺伝的アルゴリズム(GeneticAlgoritlm:GA)
スマン問題に拡張した.巡回セールスマン問
題とは.複数の都市を全て1回ずつ訪問して
とは,遺伝子を持つ仮想的な生物の集団巷計
最初の都市に戻ってくる経路のうち,最短距
算機内に設定し,あらかじめ定めた環境に適
応している個体が.子孫を残す確率が高くな
離のものを探索する問題である(囲1).
るように世代交代シミュレーションを実行
し,遺伝子を変化させることにより生物集団
を進化させるものである.これは具休的に,
都市b
①初期集団の生成,②適応度の計算及び③遺
伝的操作(淘汰,交差,突然変異)の各処理
から成る.GAは,最大最小値探索問題や組
み合わせ最適化問題のような,探索に非常に
時間のかかる問題に対して有効なアルゴリ
ズムである.本研究では,GAを組み合わせ
最適化間樋の1つである巡回セールスマン
問題に適用し,さらに一般的なアルゴリズム
では計算が困難と思われる動的巡回セール
都市d
都市e
園1.巡回セールスマン問題
2.本研究のねらい
布告b
量子力学では,同時に確定できる物理量の
借が時間的・空間的に変化しない状態のこと
都市。、 竺も
都市c
O
を国有状態と呼ぶ.固有状態では,物理量は
ー
都市軸 ノノ
ある固有値として観測されるが,この状態は
通常ほとんどない.固有状態でないと幸は,
○一′′
物理量の観測値はランダムになるのではな
く期待値として求められる.図2は,電子線
散乱の様子である.
○
〔〕
都市d
都市亡
国3.動的巡回セールスマン間規
都市αは,1箇所に固定されておらず,向l2,
】cllユ,lcユl2の確率で恥恥α2のいずれかの
値を取るものとする.また一定時間後には,
都市ロの位置は再び不確定になるものとす
る.このような統計的かつ動的な経路を最適
化する問題は,通常のアルゴリズムでは取り
扱いが困難である.本研究では,統計的性格
をもつGAを①通常の巡回セールスマン問
題及び②動的巡回セールスマン問題に適用
図2.電子線散乱
した結果について報告する.
3.GAを通常の巡回セールスマン
多数の電子がスリットを適ってスクリー
ン上に達したとき,スクリーン上で観測され
問題に用いた場合
る電子は,ある1点だけに集中するのではな
まず,GAの条件を以下のようにして実行
く.また,スクリーン上の全体にランダムに
した.
観測されるわけでもない.電子は,図2のよ
うにある一定の範囲内で統計的に観測され
方法1
る・観測値をα榊(椚=0,1,2,■・・)のいず
・佃件数
れかと㌧その出現確率をIcmlユとすると・
・辻伝手長 月ビット (Ⅲ:都市数)
最大200個
期待値αは(1)式のように表される.
1
・適応度
云=lqlユ鴨+l亡.lα1十】ビュlヱ鴫+・・・(1)
2
(尺:巡回距離)
・突然変異串10%
・淘汰方法 ルーレット方式
・解となる経路 一般の最適化アルゴリズ
この不確定性を持つ状態を,巡回セールスマ
ムで用いられているような適応度が最も大
ン問題で表現すると図3のようになる.ただ
きい個体(エリート〕の経路を解とするので
し.今回は簡単化のために,1都市〟だけ
はく,集団の中で最大個体数巷持つ生物種に
の不確定性状態を扱ってみた.
対応する経路を解とした
2
爪リ
−50世代
一■U
−−−−1抑世代
=・・150世代
一且一
…・川201酒代
∩‘
方法2
ーU
[盟称糊拡
しかし,方法1では正解率が悪く,正解率を
上げるため次のような改良貴行った.
▲‖リ
・適応度〔訂(屈:巡回距恥
一総当たり法
4 5 8 丁 8 tl10 1112
都指数
国5.者肺放と誤差率
・突然変異率 初期世代 20%
以後1世代につき −0.5%
最小(39世代以後)0.5%
図4からは.総当たり法の場合は.都市数
が増えれば解が出るまでの計算時間が極端
に長くなるが,GAでは,都市数が増えても
以上の2つの方法に対する結果を蓑1に
示す.平均誤差率,平均正解率ともに方法1
解が出るまでの計算時間はあまり変わらな
よりも方法2の方がよい結果が得られてい
いことが分かった.図5から,GAでは,都
る.
市数が多くなれば誤差率も高くなり,世代数
が大きくなれば誤差率は低くなることが分
かるが.100世代以降の誤差率は,あまり変
化していない.また∴総当たり法では.都市
表1.改良前と改良後の比較(5都市)
世代数 平均誤差車 平均正解率
方法1
方法2
数が増えても常に正解となっているのが分
50
3.03!i
3ヰ%
100
50
2.9了%
35%
0.8訓i
¢!摘
100
0.ヰ2!i
85!i
かる.
4.GAを動的巡回セールスマン間
題に用いた場合
2で説明した動的状態を表現するために,
それぞれ,10世代,5世代,3世代に1回の
次に,通常の巡回セールスマン問題でGA
と総当たり法の比較を行った.それぞれ100
割合で都市αの位置巷恥叫,αユの中からラ
回づつシミュレーション杏葉行し,計算時聞
ンダムに再決定し,シミュレーションを行っ
及び誤差率の平均値巷求めた.それらの結果
た・ここで.都市打椚の出現確率hP巷
を図4と図5に示す.
】c。lユ=l亡.ド=トユド
1
として
3
3
100回づつ実行し平均値を求めた.都市数は
5で行った(図6).
2
[s¶匪皆軸薦
[盟副型恥 D
0
都市数
図4.者師敬と計算時間
…‥・・1咄軒宅ごと
−・…5世代ごと
−ヨ世代ごと
50
1(伯
t卯逝
図6.世代放と誤差率
lま1
2側
つJ
虹0
個体数
■‖凸
図6から.3世代ごとに都市の位置を再決
亡U−A︼
定した場合も,5世代ごとも,10世代ごと
n古
も正解からの誤差率が収束しているのがわ
かる.これは,都市の位置を頻繁に再決定し
nU
た場合もそうでない場合も誤差率が収束す
10
2D
30 誤差率%
(A)都市ロの位置ロ♂(84世代目)
個体の分布の様子である.
即抑亜部0
世代ごとに都市の位置を再決定した場合の
L
個体敬
るというGAでの良い点である.
囲7及び図8はそれぞれ10世代ごと,3
__三且
即組側即0
個体数
楷郎
鮎)肺臓動揺僻目㌢
20
lO
D
罰躍率%
(A)都市αの位置叫侶0世代目)
爪U▲‖∨
20
3D 誤差率%
の都市αの位置叫(gO世代目)
爪‖V
6.At2
個佐敷
Oロ
10
0
爪じ
爪U
● ♯市㌔のとき正解となる経路書持つ個体
10
0
20
30誤差率 %
▲ ホ市d、のと卓正解とな五経鞍を持つ個体
〔B)都市αの位置鞄(90世代目)
■ 朝市㌔のと書正解とな各線路を持つ個体
× モの他の経路せ持つ個体
軋 8仁U4−qム
0
圃8.3世代ごとに新市を再決定Lたときの■体の分布
>r
⊥…且_;可
10
訓
告O誤差率 %
国7及び図8の様に,仮想的な生物集団が,
(C)都市αの位置勒(100世代目)
動的環境に適応した結見都市叫「呵Zのそ
● 都市㌔申とき正解となる経路を躊つ個体
れぞれの場合の正解となる個体が常に存在
▲ 相和やと書正解となる経路壷持つ個拝
すること,そして都市の再決定後は,すみや
l都市㌔のとき正解となる経路竜神つ個件
かにその正解となる個体が増える傾向があ
X モの他の経路善持つ個体
ることが分かる.
園丁.10世代ごとに都市を再決定したときの七休の分布
次に.都市αの位置暮それぞれ3個,5
個,10個の中からランダムに再決定し,シ
ミュレーション貴行った(国9,国10及び
囲11).
4
持
川
[凸檜岬濾
..\ゝ㌦.一
加
20
・・…=1叫豊代ごと
帽
−・=司軒仁辻
T。
−3世」仁丑
』嘩些準翠聖恕
5
耗5
0
8
郭
0
1〔0
1茄
祉
1郭
H泊
㈹
(舟斬
郡
加
ほ
柑
10
冨山逼盃
15
︻芭≠州縫
5
5
巨」転−』鵬山
_
0
知
t∝1
柵
㈱7都市
抑
■︼
帽
■一
柏
冒]甘刊姓
n−
[芭甘咄雄
∴′∴
人V
−−
−一十−_㌢ゞ
チl′
き
幻
l00
1相
世代駄
(q9都市
図9.都市αの位置を恥叫,穐の3個の中からラ
図10.都市αの位置を恥一叫の5佃の中からラン
ンダムに再決定した墳合.すなわち.
−1
1
とした場合
ダム に 再決定 し た
1 1
1
α≡α0十αI+♂コ
d=α0十αl+α2
1
た墳合
5
1
加
l
抑
一〇
血ロ
︻王叶≠鶉
ウー■U
川
︻凸檜欄濃
相
▲.ケー∧U
5
部
1∞
1助
m
I
8
T
世代数
(郎5都市
10
11
中
t0
11
(郎珊七日
一
幻
n■
エE
叩
き
■−
言曝岬輩
’■
Ⅷ
害掛岬雄
0
モ・{ナ㌧†
一
!氾
1甜
l聞
一
世代敵
書
榊
(印1∝世代目
(印7都市
▲﹁
節
O
叩
t︼
[王線欄鈍
ウl
椅
︻芭甘刊沌
ゴごごご加・−一一−t ̄
8
■V
ノ ■■
4
._.ごニニニニご=抽h.−,.一ノ
′ダ
2
50
Ⅹ0
1知
t【氾
5
8
世代蝕
(q9都市
T
tI
榊
0
10
(q20ロ世代目
図11.都市αの位置を叫∼叫の10個の中からラン
図12.10世代に1匝lの割合で.都市αの位置暮それ
ダム に 再決定 し た場合,すな わ ち
ぞれ,3個.5個.10佃の中からランダムに再決定
_1
1
1
1
α≡αp+叫十=…+両α8+両α,とした
した場合
場合
都市巷3個の中から再決定した場合より
図9,図10及び国11から都市数が多くな
も10個の中から再決定したときの方が誤差
ったり,都市の位置の再決定が頻繁に行われ
れば,誤差率が大書くなることが分かる.そ
率が高くなっている.また,都市数が大書く
なれば誤差率も高くなるが,それでも高々
して,都市数が多い方が誤差率が収束するま
10%程度である.
での世代数が多いが,やはり誤差率は収束し
最後に,10世代ごとに都市αの位置を恥
ている.
叫,叫の3個の中から再決定した場合につ
次に,10世代に1回の割合で,都市α亡D
いて誤差率の時間変化巷調べた(図13).
位置をそれぞれ,3胤 5個,10個の中か
らランダムに再決定した場合右横々な都市
数でシミュレーションを行った(囲12).
6
11
5 まとめ
00
今回は次のこと巷行った.まず,①研究の
御 伽 劇
[竺称 珊 輔
・・・・…仙
基礎として通常の巡回セールスマン問題に
一越当たり法
GAを適用した,次に,②不確定性を持つ状
瓢
態を動的巡回セールスン問題で表現しGA
春用いてシミュレーションを行った.
m空
m6
也4
m8
1
①では,都市数が多い場合には,総当たり
法よりもGAが有用であることが分かった.
昭間[s]
(A)7者師
伸
即
劇
[巴略柵湛
剥
②では,都市数に関係なく,都市の位置の再
決定が,頻繁に行われる場合もそうでない場
合も,仮想的な生物集団が動的環境に適応し
憩
0
た結果,誤差率が収束するという結果が出た.
皿2
吼4
吼8
吼8
このことは,通常のアルゴリズムでは,解を
1
時間[s]
求めることが難しい動的巡回セールスマン
(扮8都市
わ
幸たことを示すものである.
的
今後は,位置の不確定な都市が多い場合に
劇
︻芭甘拙雄
00
問題に対し,GAでは成果を上げることがで
抑
適用することにより.一般性について検討す
0
n2
nl
q8
吐息
る予定である.また,ゆらぎのある系や非平
衡状態の系への応用も検討している.
1
柵』】
〔q9都市
囲13.10世代ごとに都市αの位置を恥恥勉の
参考文献
3個の中から再決定した墳合での誤差率の時間変化
1)安居院猛,長尾智晴:ジェネティックア
ルゴリズム,昭晃堂(1993)
2)米揮保雄:遺伝的アルゴリズムー進化理
図1ヨからわかるように,総当たり法は計
論の情報科学−.森北出版(1993)
算に時間がかからない7都市では常に正解
3)北野宏明(編):遺伝的アルゴリズム,
となっているが,都市の再決定する間隔と同
4ヨ/帆産業図書(1993)
程度の計算時間の8都市では,正解と不正解
4)長倉三郎,中島威(緬):化学と量子論,
l の開巻振動している.そして,それ以上に計
21/諷岩波書店(1979)
算時間がかかる9都市では,常に不正解とな
5)岡部成玄:量子論一連動と方法−,ヱ/ヱも
っている.それに対してGAでは,都市数に
近代科学杜(1992)
関係なく正解からの誤差率が常に収束して
いる.このことは,通常のアルゴリズムでは,
解巷求めることが難しい動的巡回セールス
マン問題に射し,GAでは成果巻上げること
がで卓たこと巷示している.
7