青葉台ぼんえるふ - 住宅生産振興財団

建築協定/現場からの報告
コモンの進化とガイドラインの活用
青葉台ぼんえるふ(第1回住まいのまちなみ賞受賞)
青葉台ぼんえるふ管理組合法人理事
関川進太郎
はじめに
に詳細な規制項目などを建築協定の
たちの所有であること、入居者の年
青葉台ニュータウンは、九州本島
中に規定しており、1994年頃の入居
齢構成が若いこと、まちづくりへの
北端の100万都市・北九州市の北西
開始後、主に宅地部分を建築協定で、
関心も比較的高いこと、などといっ
端に位置しており、市の都心部であ
共有地部分を管理組合規約でコント
た理由もあり、維持管理活動を原則
る小倉北区から、列車とバスを乗継
ロールしてきた。比較的余裕のある
的に自らの手で行うこととした。こ
いで約1時間の場所に新都市型の区
建物配置や緑多い宅地・共有地は、
のことが、近隣関係に代表される地
画整理事業で造成された計画戸数
これらの制度を基礎にかたちづくら
域コミュティの早期形成を助け、日
2,600戸・面積130haの典型的な郊外
れ・維持されており、現在において
常の共有地の管理業務の運営を容易
型団地である。すぐ北側には田園風
もこの考えに沿ったまちづくりが継
にし、さらに居住者の建築協定に対
景、さらに車で10分ほど北には美し
続されている。
する一定の理解などにつながったも
い自然海岸が……と、北九州市の中
のと考えている。
でもリゾートライクな団地でもある。
当初の取り組み
当団地全体には、地区計画で設定
このまちづくりの主体である団地
となる定期的な施設(ハード)管理
された比較的広い宅地とルールを持
管理組合法人、建築協定運営委員会、
(植栽管理、新築建物の届出協議)
った植栽外構などにより、緑が多く、
自治会(以下、
管理組合などと略)は、
に加え、コミュニティ形成やその前
ゆとりある住宅景観が広がっている。
1994年の最初の入居から約2年が経
提となる情報提供などのソフト面も
私たちの居住する「ぼんえるふ」区
過した96年4月、入居が26世帯となっ
重視し、イベントなどの親睦事業・
画(全106戸、約3万㎡)は、その青
た時点で結成され、それ以降、開発
まちづくり学習会を開催してきた。
葉台ニュータウンの東部に位置し、
業者から共有地・施設などが順次移
とくに、建築協定に関する情報提供
コモン(広場的・通路的共有地、約
管された。
に力を入れ、管理組合などの総会で
6,500㎡)に面して、数戸∼10数戸単
管理組合などの設立当時は、これ
「学習会資料」を手づくりしたり、ビ
位の住宅が囲むように配置・形成さ
といった手本・マニュアルがあるわ
ジュアル的でわかりやすいリーフレッ
れている。
けではなく、その運営に試行錯誤し
ト「建築協定ガイド」を作成するなど、
ここでは、地区計画に加え、さら
た記憶があるが、広場・通路が自分
居住者(管理組合員)に対してまち
具体的な取り組みとしては、基礎
づくりの知識アップに努めてきた。
もちろん、こうした取り組みは、
管理組合などの設立の早い時期から、
新築建物の取り扱いなどでご支援を
いただいてきた㈲アーバンセクショ
ンの二瓶正史先生、九州大学の柴田
建先生といった専門家のアドバイス
なしには語れず、お二人の手弁当に
近い協力もあって、私たち管理組合
役員の先生方に対する信頼はとても
図1 青葉台ぼんえるふ街区図
厚いものとなっている。
家とまちなみ 60〈2009.9〉
41
15年経過後の新たな方針づくり
(1)節目を迎えたまちづくり──15
(2)住民意向の確認
ての質問であるが、
「街並みの美しさ」
手始めに実施したのは居住者アン
「個別の住宅の品質・暮らしやすさ」
年が経過して
ケートである。アンケート票は、2007
「子どもの遊び環境」
「コモン広場を
こうして、美しく計画・整備され
年11月に九州大学・福岡大学の学生
介した日常的な近所付合い」
「ぼんえ
た基盤や建物と、精緻に考慮された
によって全戸に配布され、管理組合
るふ全体のコミュニティ活動」
「安心・
建築協定などのシステムで、コモン・
役員が回収を担当した。その結果、
安全な地域環境」
「資産価値の維持
街並みを当初の姿のまま守り続ける
対象となる「ぼんえるふ」102世帯の
向上」
「その他」の8項目より、最大3
「維持・管理型」のまちづくりが確立
うち、77世帯からアンケート票が回
つまでの選択とした。結果は、やは
された。しかしながら、入居開始か
収できた(回収率75%)
。以下にアン
り大半の居住者が「街並みの美しさ」
ら15年目が経過し、入居した家族の
ケート調査の概要を報告する。
と回答している。続いて、
「安心安全
ライフステージ、住宅・外構デザイ
・今後大切にすべき価値
な地域環境」
、
「住宅の暮らしやすさ」
、
ンのトレンド、安心・安全についての
まず、将来のまちづくりに関連し
「近所付合い」も今後の重要な価値と
関心の高まり、など「ぼんえるふ」
を取り巻く環境が変化してきて、こ
れまでの街並みの維持やコモンの使
い方とは違った意見も出始めていた。
このような状況下の2005年、二瓶
1%
55
先生より、新しく始まった住宅生産
17%
52
振興財団主催の顕彰制度「住まいの
20%
22
21
まちなみコンクール」に応募しては、
62%
16
との提案があった。これまで、自治
13
9
体レベル受賞経験はあったものの、
1
全国レベルでの実力は到底ないもの
と、半ば冷やかし気分での応募であ
ったが、
「住まいのまちなみ賞」を受
賞し、その上、非常に自由度の高い
28
活動費用の助成を受けることとなり、
48
9
37
18
前述の問題解決などのため、この活
6
動資金を活用することが決定された。
12
もちろん、業務は「ぼんえるふ」
10
12
11
8
14
44
の実情に精通し、また熱い思いがあ
1
4
5
る、両先生にお願いし、快く受けて
いただいた。先生方との協議におい
て、業務のテーマを「高齢化に向け
たまちづくり調査」
、成果イメージを
「ぼんえるふの課題整理と今後の取り
6%
組み」とした。さらにその達成にあ
16%
たっては「住民意向の確認」
「現地状
54%
たことを念頭に置いて作業を進める
こととした。
図2 居住者アンケートの結果(抜粋)
家とまちなみ 60〈2009.9〉
4% 3%
24%
況の把握」
「専門家への諮問」といっ
42
8%
18%
61%
なっている。ここで象徴的なのは、
「子
(3)現地状況の把握
ョップで、将来に向けた取り組みと
供の遊び場環境」が下位にランクさ
居住開始から15年ほど経過してい
して、
「駐車場の増設」
「外壁・屋根
れたことである。
る「ぼんえるふ」において、今回の
の色に関するガイドライン」
「安心・
まちづくりのルールの今後のあり方
現地調査は、当初計画の住環境が、
安全な地域づくり」
「高齢者等対応の
次に、まちづくりツールである建
どのように管理されているか、また
スロープ設置」
「住宅増改築・建替え
築協定などについての質問であるが、
どのような活用の変化が起こってい
時の設計調整」
「コモン広場の新しい
「街並みを維持するため強化」
「現状
るかを明らかにするもので、宅地販
使い方」の6項目を掲げることした。
のまま維持」
「課題に合わせて一部見
売時のガイドライン図面を基に、ア
方針の取りまとめに際しては、スロ
直し」
「個人の自由度のため緩和」
「そ
ーバンセクション・九州大学のスタ
ーガンじみたものでなく、居住者に
の他」の5項目からの択一とした。結
ッフで、目視を中心にコモンごとの
わかりやすい具体的な「作業」レベ
果は、多くの居住者が、ルールの意
調査を行った。
ルのものとした。
義を認めた(別質問からの結果)う
結果は、宅地・共有地ともに概ね
えで、新しい課題に対応するための
良好な管理が行われていることがわ
方針の実現に向けて
一部見直しを望むことが判明した。
かったが、老朽化・破損した舗装材、
この方針づくり(6つの取り組み)
・今後10年間に希望する工事
路上・コモン広場上での迷惑駐車、
のうち、実現の可能性が高いと判断
では、実際にどのような見直しの
建築協定の基準に合致しない屋根の
した3つの取り組みについては、計画
要望があるのか。結果は、住宅外壁
色・ガイドラインの範囲を逸脱する
の完成を待たず着手したが、これに
の塗替え、駐車場の増設、スロープ
外壁の色、などが問題点として明ら
ついての概要を以下に述べる。
設置と続くが、いずれもルールの見
かとなった。
(1)駐車場の増設
直しを含む可能性が高いものとなっ
ている。また、
青葉台の特徴である
「生
(4)将来に向けての方針──6つの
駐車場増設に関しては、喫緊の問
け垣の今後の手入れ」に関しても、
取り組み
題ではないが、景観への影響判断な
多くは現状維持を望むものの、省力
こうした居住者アンケートや現地
ど、解決に時間を要することが予想
化や最近流行のガーデニングスタイ
調査から得られたデータをもとに、
されたため、居住者からの具体的な
ルへの変更などの希望もみられた。
二瓶先生・柴田先生のアドバイスを
要望に先行して検討を行うこととし
・
「ぼんえるふ」の近い将来の姿
受けた管理組合理事によるワークシ
た。また、現実的な案の決めうちと
最後に、居住者の年齢構成などに
ついては、多くの世帯が入居から10
年が経過した現在、世帯主年齢は、
約半数が45∼55歳となっている。大
半の世帯がこのまま住み続けること
が予想されるため、10年∼20年後に
は多くが高齢世帯となる。
一方、将来的に子世帯が家を受け
継ぐことを望む世帯が2/3も存在する
ことから、
「ぼんえるふ」の豊かな住
環境を次世代の「故郷」として継承
するために、先に述べた課題解決を
「高齢化」という視点で、持続的に取
り組むことが必要であることが総括
できた。
図3 現地調査の結果(抜粋)
家とまちなみ 60〈2009.9〉
43
いうより、さまざまな可能性などを
ンに分けてモデル設計を行った。今
振興財団・建築研究所・九州大学が
含め多くの選択肢を揃え、居住者の
後、この設計をもとに、先生方のア
コーディネイト)で、防犯や交通安
ニーズに対応できればと考えた。
ドバイスをいただきながら、景観的
全に関するワークショップを実施し
まず、景観に影響の少ない団地外
なアセスメントを行いたいと考えて
た。
「ぼんえるふ」居住の参加希望者
いる。
に対して、アンケート調査を行った
(既存駐車場、農地借地)や改築を
伴わない(未着工宅地・個人の未利
用車庫のシェア)ものを調査し、続
上で、この調査業務関係者全員によ
(2)安心・安全のまちづくり
る現地点検を行い、見通しの悪い交
いて、コモン広場・宅地外構の改築
居住者アンケートにおいて、比較
差点・歩行ルート上の暗がりなどを
案によるスペース確保などを検討し
的高いニーズであることが判明した
ピックアップし、防犯・交通安全マ
た。宅地の外構改築案については、
「ぼ
「安心・安全」については、2007年2
ップとしてとりまとめた。今年度、こ
んえるふ」宅地をいくつかのパター
月に、国土交通省の調査(住宅生産
のマップや要望をもとに、照明灯の
設置実験を行いたいと考えている。
宅地内での増設についても
モデル設計⇒今後アセスへ
(3)コモンの新しい使い方
コモン広場については、これまで
子供の遊び場所として、植栽の枝折
れや芝生のはげなど、ハードな使用
に耐えてきたが、子供の成長ととも
に静寂さを取り戻し、居住者の中に
もその利用について幅広く考えては
という意見も出始めていた。そこで、
これまでの維持管理型とは違った取
り組みである「コモン広場の新しい
使い方」をモデル的に実施した。
これまでは全コモン広場を同一の
ものとして維持管理を実施してきた
が、同じコモン広場でも、それぞれ
図4 駐車場の増設の検討
異なる課題や要望が存在するため、
ワークショップをブロック単位で実
施した。新しいコモンづくりを共同
作業で行うことを募集したところ、2
つのコモンで応募があった。
1番目のケースは、子供の成長に伴
い、親同士の交流が求められている
コモン広場であることから、共同管
理による花壇、語らいの場となるテ
ーブル・ベンチを設置した。2番目の
ケースは、まだ子供の多いコモン広
場であることから、子供たちの活発
な行動や比較的若い親世代の交流に
も適当な木製デッキやテーブル・ベ
ンチを設置した。いずれの施設も計
図5 安心・安全マップの作成
44
家とまちなみ 60〈2009.9〉
画から整備までを自らの手で行った
と考えている。
「景観」とは、目に映る景色とそれ
を見る人の感情──思いが重なった
ものであると耳にしたことがある。
10数年前に入居した際は、ただ単に
キレイな団地の景色に過ぎなかった
ものが、長い間の近隣とのコミュニ
ケーションや共有地管理などといっ
図6 コモン広場の新しい使い方の提案
たことの経験の蓄積により、少しず
が、このワークショップにおいても、
さいごに
二瓶先生・柴田先生にコーディネイ
本年度以降の作業としては、これ
って誇らしい「景観」へと変容しつ
トやデザイン監修者として、快く参
までに述べた「6つの取り組み」のな
つある。それは、私だけでなく、多
加いただいた。
かで、未着手である「外壁・屋根の
くの居住者にもそう映っているのか
色に関するガイドライン」
「高齢者等
もしれない。
(4)ルールの見直し
つではあるが、この景色が、私にと
対応のスロープ設置」
「住宅リフォー
これらの取組みを進める中で前提
ム・建替え時の設計調整」を中心に
となるルールの見直しについても平
進めていきたいと考えている。現在、
行して検討を行ってきたが、建築協
その活動の財源確保のため、
「住まい・
定の変更は、全員合意という点で非
まちづくり担い手事業」採択に向け
常に困難である上、
「ぼんえるふ」の
て申請業務に着手したところである。
建築協定には自動更新(10年)が備
今後も居住者の「住みやすさ」と
わっており、事実上、将来にわたり
団地全体の「景観」
「コミュニティ」
変更不能と考えられる。そこで、協
の均衡といったデリケートで取扱の
定運営委員会での「運用─ガイドラ
面倒な問題について、われわれ管理
イン」での対応を想定し、今後、法
組合役員が、息切れせぬペースで、
解釈の合理性と住民の賛同について
専門家のアドバイスを受けつつ、積
の作業を行っていく。
極的・持続的に取り組んで行きたい
関川進太郎(せきかわ・しんたろう)
北九州市建築都市局都市交通政策課
勤務。主に都市計画道路網の再編や
マストラ中心の交通計画づくりに携
わる。地域においては、管理組合・
建築協定運営委員会の設立時より、
役員として「まちづくり」に参加
写真1 青葉台ぼんえるふの街並み
家とまちなみ 60〈2009.9〉
45