外付け梁補強と既存梁との接合部破壊性状と耐力評価 - 名古屋大学

外付け梁補強と既存梁との接合部破壊性状と耐力評価
Failure Mechanism of Joint between Existing Beam and External Beam
2. 構造 - 8. 鉄筋コンクリート構造
耐震補強
接合部
せん断摩擦
袖壁補強
梁補強
ねじれ破壊
準会員
○蛭田駿*1
HIRUTA Shun
正会員
中村聡宏*2
正会員
鈴木峰里*3
SUZUKI Mineri
正会員
清水啓介*3
正会員
3
TAGUCHI Takashi
3
KAMIYA Takashi
田口孝*
正会員
神谷隆*
正会員
NAKAMURA Akihiro
SHIMIZU Keisuke
4
勅使川原正臣*
TESHIGAWARA Masaomi
1.はじめに
袖壁補強を施した骨組は,袖壁補強柱の強度や剛性が
高くなり,梁降伏型の崩壊メカニズムになりやすい。そ
のため,梁の曲げ補強を施すことで,袖壁による補強効
2.実験概要
2.1 試験体概要
本研究で対象とする試験体は,鉄筋コンクリート造建
物の外柱梁を模した 3 体である。試験体の配筋図を図 1
果も十分に発揮できるようになり,骨組の保有水平耐力
が向上する。
中村ら 1)は,袖壁補強を施した骨組の既存梁に対する
外付け補強の効果を確認するために,外柱梁を模擬した
加力実験を行い,その補強効果を実験的に明らかにした。
一方で,外付け補強梁と既存梁の軸心のずれに伴う偏心
に,使用材料を表 1 に示す。試験体の形状,縮尺等の詳
細は文献 1)を参照のこと。
試験体パラメータはあと施工アンカーの埋め込み深さ
と補強方法とした。既存の外柱梁に袖壁補強を施した上
で,埋め込み深さが 10da(da:アンカー径)のあと施工アン
カーを用いて CES 構造(鋼板を内蔵した鉄骨鉄筋コンク
モーメントによる,外付け梁補強と既存梁の接合部の破
壊が確認された。
そこで,本研究では文献 1)の実験結果を踏まえて外付
け補強梁と既存梁の接合部に生じる破壊モードを明らか
にし,
その耐力の評価方法を提案することを目的とする。
リート 2))の梁の外付け補強を施した試験体 CES1-S,同
様に埋め込み深さ 15da で補強を施した試験体 CES1-D,
埋め込み深さ 15da で鉄筋コンクリート構造の梁の外付
け補強を施した試験体 RC1-D の計 3 体である。
補強梁側のアンカーの定着は CES 構造の場合は内蔵
鋼板で確保し,鉄筋コンクリート梁の場合は外面に付け
袖壁
柱
表 1.使用材料一覧
A’
梁
2-D6@100(0.53%)
使用部位
300
袖壁
10-D16(1.78%)
300
アンカー筋
120
280
a)試験体アイソメ図
b)A-A’断面
c)柱と袖壁の断面
4-D13(0.8%)
既存部
既存部
補強部
既存部
補強部
補強部
圧縮強度
[N/mm²]
既存梁
普通コンクリート
1.83×104
8.3
繊維補強コンクリート
2.39×104
38.0
補強梁(RC)
普通コンクリート
2.61×104
38.0
使用部位
2-D6@50(0.46%)
弾性係数
[N/mm²]
補強梁(CES)
柱
A
コンクリート種類
呼び径(材質)
弾性係数
[N/mm²]
降伏強度
[N/mm²]
降伏歪[μ]
引張強度
[N/mm²]
梁補強筋
D6(SD295A)
1.84×105
400
2177
501
アンカー筋
D10(SD295A)
1.93×105
357
1853
506
梁主筋
D13(SD295A)
1.74×105
351
2024
500
内蔵鋼板
PL9(SN400B)
1.99×105
290
1458
447
3-D16(1.2%)
I-265×9
350
350
350
2-D6@75(0.47%)
2-D6@75(0.47%)
D10
埋め込み深さ
10da
100=10da
180
(CES1-S)
85
150=15da
180
85
D10
埋め込み深さ
15da
(CES1-D)
d)外付け補強梁と既存梁断面
図 1.試験体図
*1 名古屋大学工学部 学部生
*2 名古屋大学大学院 助教 博士(工学)
*3 矢作建設工業(株) 地震工学技術研究所
*4 名古屋大学大学院 教授 工博
(独立行政法人建築研究所 客員研究員)
D10
埋め込み深さ
15da
150=15da
180
140
(RC1-D)
図 2.試験体セットアップ図
*1 Student, Nagoya University
*2 Assistant Professor, Nagoya University, Dr. Eng.
*3 Yahagi Construction Co., Ltd.
*4 Professor, Nagoya University, Dr. Eng.
(Visiting Research Engineer, Building Research Institute)
た鋼定着板により確保した。
2.2 加力方法
加力は図 2 のように梁端部をピン支持として水平ジャ
ッキによりせん断力を導入した。加力サイクルは,変形
角 R(加力点の水平変位と梁端から袖壁端までの梁長さ(=
1100mm)の比) 制御の正負交番繰り返し載荷とし,R=1
/1600,1/800,1/400,1/200(2),1/100(2),1/50(2),1/33,1/25,1/20,1/
15 の各サイクルで繰り返した。( )内の数字は繰り返し回
数を表す。
3.実験結果
3.1 最大耐力
(CES1-S)
各試験体の荷重-変形関係および最終ひび割れ状況を
図 3 に示す。
CES1-S は R=1/100 サイクルで補強梁内蔵鋼板,既存梁
引張主筋の降伏が確認された。R=1/50 サイクル以降は耐
力がほぼ一定値を保ち,最終サイクルまで耐力低下がほ
とんど生じなかった。最大耐力は 87.5kN であった。
CES1-D は,R=1/100 までは CES1-S と同様の挙動をし
たが,R=1/50 サイクルで CES1-S と比べて耐力が上昇し,
その後は最終サイクルまで耐力低下がほとんど生じなか
った。最大耐力は 96.1kN であった。
RC1-D も,R=1/50 サイクルで補強梁や既存梁の引張主
筋が降伏し最大耐力となった。最大耐力以後,最終サイ
クル付近では補強梁の柱側端部のコンクリートが大きく
剥落し,耐力が 30%ほど低下した。最大耐力は 116.2kN
であった。
3.2 補強梁と既存梁の接合部の破壊状況
加力終了後に各試験体の袖壁に囲まれた部分を切断し,
補強梁と既存梁の接合部のひび割れ状況を確認した。切
補強梁側
既存梁側
補強梁側
既存梁側
(CES1-D)
補強梁側
既存梁側
(RC1-D)
図 3.各試験体の荷重-変形関係および最終ひび割れ状況
断工法はフラットソーイング工法とした。切断面のひび
割れ図を図 4 に示す。
CES1-S,CES1-D,RC1-D の 3 体ともに,梁主筋から
アンカー筋底面に沿ったひび割れ(図 4 中の太線)が見ら
れた。これは補強梁と既存梁の材軸心がずれていること
による偏心モーメントにより,アンカー筋で接合された
補強梁と既存梁が一体となってねじれたため,アンカー
筋底面位置で既存梁のコンクリートがせん断破壊したと
考えられる。本研究では,このような破壊形式を「ねじ
れ破壊」と表す。
4.既存梁と補強梁の接合部の耐力評価
4.1 接合部で想定される破壊形式
接合部で起こる破壊形式として,図 5 のような接合面
にずれを伴うせん断破壊や,図 6 のような偏心曲げによ
る曲げ破壊だけでなく,3.2 節で示したねじれ破壊が考え
られる。
(CES1-S)
(CES1-D)
(RC1-D)
図 4.各試験体の切断面のひび割れ状況
4.1.1 ずれを伴うせん断破壊
接合面にずれを伴うせん断破壊はせん断摩擦理論を用
いて評価する。せん断摩擦理論はせん断力によって接合
面がずれることにより,接合筋に引張力が生じ,その反
力として接合面に作用する圧縮力によるすべり抵抗機構
縁のアンカー筋が引張耐力に達した時点の曲げモーメン
トを用いる。それぞれの場合の引張耐力については 4.1.3
節に示す。
補強梁の軸心はせん断応力の中心と考え,CES 梁の場
合は鋼板中心位置とする。RC1-D に関しては図 7 の破線
である。本研究では,Mattock3)らの提案式((1)~(3)式)に
より評価する。
部のようにせん断応力が全体に楕円形に分布すると仮定
し,補強部のせん断応力を図 7 中の塗りつぶし部分のよ
うに三角形分布に近似し偏心距離 e を計算する。
4.1.3 アンカー筋の引張耐力
上記の 2 つの破壊形式ではアンカー筋の引張耐力が支
配的となる。ここではアンカー筋の引張破壊の形式とし
2.25 pwa wy
pwa wy  K1 /1.45
 K1  0.8 pwa wy
pwa wy  K1 /1.45
M  
   (1)
K1  0.1 fc  5.5( N / mm )    (2)
2
VMu   M bD    (3)
ここで,τM:平均せん断応力度(N/mm2)
pwa:アンカー筋の鉄筋比
σwy:アンカー筋の降伏強度(N/mm2)
fc:既存部コンクリート強度(N/mm2)
VMu:接合面のせん断力(N)
b:接合面の幅(mm)
D:接合面のせい(mm)
σwy の値の決定に際して,アンカー筋の引張耐力時に,
アンカー筋の降伏が起こる場合と,コンクリートの破壊
が起こる場合とがあるので,4.1.3 節に詳しく記述する。
4.1.2 偏心曲げによる破壊
偏心曲げによる曲げ抵抗力は,図 6 のような応力状態
を想定する。すなわち,接合面は平面を保持すると仮定し,
力の釣り合いから中立軸を算定して,曲げモーメント
Mju を計算する。曲げ抵抗力を偏心距離 e で割ることによ
り,曲げ破壊時の接合面のせん断力 Vmu を算定する。
M ju 
 T  j    (4)
a
Vmu  M ju / e    (5)
ここで,Ta:引張側アンカー筋の 1 本当たりの張力(N)
j:応力中心間距離(mm)
また,偏心曲げによる引張側のアンカー筋の破壊は,
アンカー筋の降伏が起こる場合と,コンクリートの破壊
が起こる場合とがある。偏心曲げ破壊の耐力を評価する
際,引張側の最外縁のアンカー筋が降伏する場合は,終
局時の曲げモーメントを,脆性的な破壊となる可能性が
あるコンクリートの破壊が起こる場合は,引張側の最外
てコンクリートのコーン状破壊と付着破壊の複合破壊,
およびアンカー筋の引張降伏を考える。複合破壊におけ
る付着破壊長さ Lb は松崎 4)らが提案している(6)式に
よる。
Lb  0.73Le  30 (mm)    (6)
ここで, Lb:付着破壊長さ(mm)
Le:埋め込み深さ(mm)
Lb ,Le およびコーン状破壊長さ Lc の関係を図 8 に示す。
アンカー筋の引張降伏の耐力は(7)式,コーン状破壊と付
着破壊の複合破壊の耐力は(8)式により算定する 5)。
Ta1   y  ao
   (7)
Ta 2  0.23  B  Ac   a    d a  Lb
   (8)
 a  10 ( B / 21)
   (9)
ここで,Ta1:アンカー筋降伏時のアンカー筋 1 本当たり
の張力(N)
σy:アンカー筋の降伏強度(N/mm2)
ao:アンカー筋の断面積(mm2)
Ta2:コーン状破壊と付着破壊の混合破壊時の
アンカー筋 1 本当たりの張力(N)
σB:既存部コンクリートの圧縮強度(N/mm2)
Ac:コーン状破壊面のアンカー1 本当たりの
有効水平投影面積(mm2)
τa:アンカーの引き抜き力に対する付着強度
(N/mm2)
da:アンカーの直径(mm)
引き抜き
Lb
Le
Lc
コーン状破壊領域
付着破壊領域
図 5.せん断破壊時応力状態 図 6.偏心曲げ破壊時応力状態 図 7.RC1-D 応力状態
図 8.付着領域長さ
4.1.4 ねじれ破壊
ねじれ破壊は補強梁断面の中心と接合面の偏心(e)に
よる偏心モーメントに対し,既存部のアンカー筋底面の
コンクリートのせん断抵抗(Qjs1),梁主筋に沿った部分の
コンクリートのせん断抵抗(Qjs2),およびあばら筋のせん
断抵抗(Qjs3)が釣り合うと仮定して算出する。ねじれ破壊
時の応力状態を図 9 に示す。ここで,コンクリートやあ
ばら筋のせん断強度については鉄筋コンクリート構造計
算規準 6)に示される短期許容せん断応力度を用いる。図
10 のようにアンカー筋底部位置のコンクリートの影響
面積は袖壁幅と梁主筋間距離の積と仮定し,梁主筋に沿
った位置のコンクリートの影響面積は,アンカー筋の埋
め込み深さと袖壁幅と仮定する。接合面中央の O 点を中
心に補強部のせん断抵抗によるモーメントと既存部のね
じれ抵抗によるモーメントが釣り合うと考え,(10)式を
用い,ねじれ破壊時の補強梁と既存梁の接合面のせん断
抵抗を求める。
Q js  e  Q js1  Le  2  Q js 2  lb / 2  2  Q js 3  lb / 2    (10)
ここで,Qjs:補強梁と既存梁の接合部のせん断抵抗(kN)
Qjs1:アンカー筋底部のせん断耐力(kN)
Qjs2:梁主筋に沿った部分のせん断耐力(kN)
Qjs3:梁あばら筋のせん断耐力(kN)
lb:梁主筋間距離(mm)
4.2 耐力評価
CES1-S, CES1-D, RC1-D の 3 体において,補強梁と
既存梁の接合部において各破壊形式を想定した際のせん
断抵抗力を表 2 にまとめる。接合面破壊,偏心曲げ破壊
時の計算に用いたアンカー筋の強度は,アンカー筋の引
張降伏の場合ではなく,コーン状破壊と付着破壊の複合
破壊の場合となった。表 2 より補強梁と既存梁の接合部
の破壊形式はねじれ破壊と判定され,図 5 に示す既存梁
と補強梁の接合部破壊状況と整合性がとれた。
補強梁のモーメント分布を図 11 のように仮定し,袖壁
に囲まれた位置の補強梁と既存梁の接合部のせん断抵抗
力から補強梁が負担するせん断抵抗力を求める。(袖壁位
置のせん断抵抗を Qjw,柱位置のせん断抵抗を Qjc とする。)
補強梁のせん断抵抗を求め,既存梁の曲げ破壊時のせ
ん断力と合計して,実験結果と比較する。計算結果と実
験時耐力の一覧を表 3 に示す。この表中には最も耐力の
低い破壊形式の値と実験値との比も併せて示す。CES1-S
は耐力の実験値と計算値の比が 1.01 となり,整合性が取
れている。CES1-D は耐力の計算値が実験値を上回り,
過大評価している。RC1-D は耐力の計算値が実験値を下
回り,過小評価している。
図 9.ねじれ破壊時応力状態
図 10.影響面積
表 2. 補強梁と既存梁の
接合部耐力
接合面破壊 曲げ破壊 ねじれ破壊
VMu
Vmu
Qjs
CES1-S
244.2
367.6
207.2
CES1-D
335.5
470.6
289.4
RC1-D
335.5
428.5
263.6
試験体
図 11.モーメント分布
表 3.補強梁と既存梁のせん断力の計算値と実験値 (kN)
試験体 接合面破壊 曲げ破壊 ねじれ破壊 実験値(kN)
CES1-S
93.8
117.6
86.6
87.5
CES1-D
111.4
137.6
102.5
96.1
RC1-D
111.4
129.4
97.5
116.2
実験値/計算値
1.01
0.94
1.19
5.まとめ
外付け補強梁を施した場合の補強梁と既存梁の接合部
が,接合面の破壊や,偏心モーメントによる曲げ破壊,
および既存部側のコンクリートがねじれ破壊する場合に
ついて耐力評価方法を提案した。検討の結果,ねじれ破
壊の耐力が計算による最小値となり,このねじれ破壊の
計算結果は文献 1)における実験結果と比較したところ,
おおむね良い対応を示した。
こうした結果から外付け補強梁を施す場合,既存梁の
コンクリート強度が低いと,補強梁と既存梁の接合部に
おいて,既存梁のねじれ破壊が起こる可能性があること
を確認した。
今後の課題として,耐力評価,特にねじれ破壊の提案
式は多くの仮定を含んでいることから,要素実験等によ
り詳細な検討をしていく必要がある。
参考文献
1)苔前圭介,中村聡宏,清水啓介,鈴木峰里,田口孝,神谷隆,勅使
川原正臣:袖壁補強骨組を対象とした外付け梁補強工法に関する実験
的検討(その 4~6),日本建築学会学術講演梗概集,構造Ⅳ, pp.885-890,
2012.9 2)田口孝,神谷隆,倉本洋:CES 外付耐震補強フレームの開
発研究(その 11),日本建築学会学術講演梗概集, 構造Ⅳ, pp.1151-1152,
2009.8 3)Mattock, A. H., “Shear Friction and High-Strength Concrete”, ACI
Structural Journal, V. 98, No.1, Jan.-Feb., 2001, pp.50-59 4)松崎育弘,川
瀬清孝,永田守正,丹羽亮:樹脂アンカーの支持耐力に関する実験研
究,コンクリート工学年次論文集,Vol.6,pp393-396,1984 5) 日本建築
防災協会:2001 年度改訂版既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震改修
設計指針,2001 6)日本建築学会:鉄筋コンクリート構造計算規準・
同解説,2010