シンポジウム:修正型電気けいれん療法(mECT) SS2 61 第 쏙쏢 쏞回日本精神神経学会総会 シ ン ポ ジ ウ ム ECTの地域連携の困難さ 齋 藤 諭(医療法人社団倭会ミネルバ病院,札幌医科大学医学部神経精神医学講座) 北海道における精神科医療施設を対象に,電気けいれん療法(ECT)の使用に関するアンケート 調査を実施した.調査に協力の得られた有床施設の 77. 8%で ECT が実施されていたが,そのうち 修正型 ECT が実施可能な施設は 3 5 .6%であった.ECT を実施していない施設でも,そのうちの 61 .3%が ECT の必要性を日常的に感じていたが,外部からの依頼で ECT を実施していたのは, ECT 実施施設の 13.3%であった.受け入れを制限している主な理由としては,修正型 ECT を常時 行うための麻酔科医や手術室の確保が困難なことがあげられていた. 次に,ECT を実施していない施設の 45.0%が自施設で ECT を実施することを希望し,また,従 来型 ECT 実施施設の 48 .3%が自施設で修正型 ECT を実施することを希望していたが,マンパワー や医療コストに関わる問題のために全ての施設が実施を見送っていた. 今回のアンケート結果からは,修正型 ECT の普及には上記のような問題の解決を図っていくこと が必要とされるが,地域毎の対応によって解決が可能な事柄は限られており,都市部と地方における 医療格差の問題への対応を含めた抜本的な対策が必要と える. ec t r oc onvul s i ve t her apy(ECT) atps ychi at r i ci ns t i t ut i onsi n As ur vey on t he us e ofel .8% ofme ns t i t ut i onst hathave Hokkai do wasconduct e d. Among al lr es ponde nt s ,7 7 di c ali .8 i npat i e nt sadmi ni s t erECT;however ,modi fie dECT i spe r f or medi nonl y35 % oft hes ei ns t i t u. hough613% ofi ns t i t ut i onst hatdonotpe r f or m ECT be l i evet hatECT i sne ces s ar y t i ons .Al t f orbet t ert r e at me ntout comes ,onl y13.3 % ofi ns t i t ut i onswi t hECT e qui pmentacc eptout s i de orper f or mi ngECT wer e r ef e r r al s .Thel ackofanane s t hes i ol ogi s torpr oc edur er oom r equi r e df gi ve nast hemai nr e as onsf orr e f us i ngs uchr e que s t s . f or mi ng ECT de s i r et o us eECT,and Fur t he r mor e,45% ofi ns t i t ut i onsnotc ur r e nt l y per .3 48 % of t hos e per f or mi ng non-modi fied ECT hope t o us e modi fied ECT i nt he f ut ur e. hey f ace s ever ec hal l engeswi t he ns ur i ng s uffici enthuman r e s our ce s and Never t hel e s s ,ast nt sar epos t poni ngt hei nt r oduct i onofECT i n managi ngr el at edexpens es ,al loft he s er es ponde t hei rc l i ni cals e t t i ngs . hei s s ue snot edabovei nor dert oi ncr e as e Thi ss ur veys ugge s t st hati ti scr uci alt or es ol vet t scapaci t yt o ECT acc es s i bi l i t y. However ,ase achl oc aladmi ni s t r at i veaut hor i t ydi ffe r si ni f aci l i t at et he s eki ndsofmedi cali s s ue s ,dr as t i cact i onmus tbet akenbyt heJapane s egove r nnge ffor t st or ect i f yt hedi s par i t i e si nmedi calc ar es ee nbe t wee nur banandr ur al ment ,i ncl udi ar eas . 쏙 쏣 は じ め に 高めるには合併症の少ない修正型の ECT による 電気けいれん療法(ECT)は臨床における有 実施が望まれているが,そのためには麻酔科医の 用性が確認されているものの,未だに作用機序が 確保,手術室や専門ユニットの利用等の条件整備 解明されておらず不明な点が多い.その安全性を が必要となる.20 09年に日本精神神経学会で実 精神経誌(20 11) SS2 62 施された,専門医研修施設を対象にした ECT 全 3 )ECT の施行の有無 国実態調査の結果によると,回答のあった医療機 回答の得られた医療機関のうち,ECT の実施 関のうち約 4割の施設で ECT が行われていた. 率は 7 3 . 8%で,医療機関形態別では単科精神科 そのうち,麻酔担当医が配置されていたのは,約 病院 6 5 . 9%(2741 ) ,総合病院有床精神科 9 0 . 0 半数の施設であったことを %(1 820 )であり,総合病院無床精神科と精神 え る と,修 正 型 ECT がいつでもどこでも誰もが受けられる治療 科クリニックでは実施されていなかった. 法とは現時点では言い難い.また,ECT の実施 状況には地域差が大きいことが以前から指摘され 4 )ECT の実施方法 ていたが,北海道内での総実施件数の過半数,総 ECT 実施施設のうち,単科精神科病院では, 合病院においても約 4割が従来型 ECT であった 修正型 ECT のみを実施しているのが 3施設,修 調査結果から,北海道における修正型 ECT の普 正型と従来型 ECT を併用しているのが 1施設, 及には多くの課題を有していることが予想された. 従来型 ECT のみを実施しているのが 23施設で そのため,先の調査よりも調査対象を拡大し,精 あった.総合病院有床精神科では,修正型 ECT 神科クリニックも含めた北海道内の精神科医療機 のみを実施しているのが 5施設,修正型と従来型 関の全てを対象に,ECT に関する調査をアンケ ECT を併用しているのが 7施 設,従 来 型 ECT ート形式によって行うことで,北海道における のみを実施しているのが 6施設であった. ECT に関する地域連携の現状を確認し,今後の 課題について検討することにした. 5 )ECT の実施件数 実人数は,3 8 3例(修正型 1 4 6例,従来型 2 3 7 쏚 쏣 北海道での ECT使用に関するアンケート調査 例)で,延べ回数は 298 9回(修正型 1 6 64回,従 1 )対象およびアンケート調査方法 来型 13 2 5例)であった.医療機関形態別での修 北海道における精神科医療施設 2 06施設(単科 正型 ECT の実施割合は,単科精神科病院で実人 精神科病院 8 3施設,大学病院を含む総合病院有 数 の 17.4%(36207),延 べ 回 数 の 26.7% 床精神科(以下,総合病院有床精神科)3 0施設, (2 5 79 6 3)で,総合病院有床精神科で実人数の 総合病院無床精神科 8施設,精神科クリニック 6 2 .5%(1101 76 ),延 べ 回 数 の 6 9 .5%(1407 8 5施設)を調査対象とした.調査は,平成 2 1年 2 0 2 6 )であった. 1月 1日から 1 2月 3 1日の 1年間における,ECT の施行の有無,ECT の実施方法,ECT の医療連 6 )ECT の必要性について 携の状況,ECT の地域連携の状況などについて ECT を実施していない施設のうち,「ECT の 行った.方法は,自記式のアンケートを郵送によ 必要性を感じることがある」と返答した施設は り記名(医療機関名,回答者名)にて返答を得た. 6 1 . 3%(4675)で,単 科 精 神 科 病 院 85.7% 調査期間は,平成 2 2年 3月 5日から 4月 1 5日で ある. (1 214 ) ,総合病院有床精 神 科 1 0 0%(22 ),総 合病院無床精神科 85. 7%(67) ,精神科クリニ ック 5 0 .0%(265 2 )であった.ECT の必 要 性 2 )回答率 を感じている施設(精神科クリニックは除く)の 回答率は,58. 3%(1 2 020 6 )であり,単科精 うちで,「自施設でも可能であれば ECT を実施 神科病院 49. 4%(418 3) ,総合病院有床精神科 したい」と返答した施設は 45 .0%(92 0 )であ 6 6. 7%(203 0) ,総 合 病 院 無 床 精 神 科 87. 5% ったが,実際に導入を計画している施設はなかっ (78) ,精神科クリニッ ク 6 1 . 2%(5 28 5 )で あ った. た. シンポジウム:修正型電気けいれん療法(mECT) SS2 63 一方,日常臨床の中での ECT の必要性に関し 7 )ECT の実施依頼の有無 「ECT の必要性を感じることがある」と返答し ては,ECT 未実施施設全体での「ECT の必要性 た施設のうち,「実際に ECT の施行を依頼した を感じることがある」と返答した施設の割合は ことがある」施設は 1 7 .4%(84 6 )で,「どこに 6 1 .3%であったが,精神科クリニック(5 0 .0%) 依頼できるのか情報がない」と返答した施設は を除く医療機関でみると,87 . 0%の施設で必要 47 . 8%(2 246 )であった. 性が確認された.精神科クリニックが他の医療機 関と比べて,「ECT の必要性を感じることがあ 8 )ECT 実施の受け入れの有無 る」と返答した施設の割合が低かったのは,受診 ECT 実施施設のうち,「外部からの ECT の依 している患者の多くが比ퟛ的軽症者である可能性 頼を引き受けている」と返答した施設は 13 . 3% の他,「入院の適否は判断しても,治療法は依頼 (64 5 )で, 「常時受け入れが可能」なのは 1施設 先の判断に任せている」といった内容の返答が複 (修正型 ECT のみを実施施設), 「状況により判 数みられたことから,入院を依頼する際の状況を 断している」施設が 5施設(修正型 ECT のみを 反映しているものと思われた.しかし,ECT の 実施している 1施設と修正型と従来型 ECT を併 必要性を感じても,「実際に ECT の実施を依頼 用 し て い る 4施 設)で あ っ た.ま た,従 来 型 したことがある」と返答した施設の割合は 17 .4 9施設では,外部から ECT のみを実施している 2 %に過ぎず, 「ECT を依頼することが可能な施設 の依頼は引き受けていなかった. を知っている」と返答した施設の割合も 52. 2% にとどまるなど,医療施設間の ECT に関わる地 9 )修正型 ECT の必要性について 域連携が十分にはなされていないことが明らかに 従来型 ECT のみを実施している施設のうち, なった. 「修正型 ECT の必要性を感じることがある」と そうした状況は,受け入れ側施設の返答からも 返答した施設は 8 9 . 7%(2629 )であった.その 明らかで,他の医療機関からの ECT 実施の要請 うちで,「自施設でも可能であれば修正型 ECT に対して,「ECT の依頼を引き受けている」と返 を実施したい」と返答した施設は 48 . 3%(14 答した ECT 実施施設の割合は 1 3 . 3%に過ぎず, 29 )であったが,実際に導入を計画している施設 そのうち「常時受け入れが可能」との返答が得ら はなかった. れたのは 1施設のみであった.受け入れが困難な 理由の主なものは表 1の内容で,複数の施設から 쏛 쏣 察 ECT の適応基準やリスク管理に関する問題につ 今回のアンケート調査の結果では,ECT を外 いての指摘があったが,最も多かった意見は修正 来で実施している施設はなく,有床の精神科施設 型 ECT にまつわるものであった.ECT 実施施 に限られていた.ECT を実施している施設の割 設のうち,修正型 ECT の実施可能な施設の割合 合は,有床の精神科施設の 77 . 8%で,医療機関 は3 5 .6%であったが,そのうちの半数は従来型 形態別では,単科精神科病院(65 .9%)より総 を併用している施設であった.「修正型 ECT を 合病院有床精神科(90 . 0%)での実施率の方が 常時行うことは困難である」と返答した主な理由 高かった.また,修正型 ECT が実施可能な施設 は表 2の内容であり,麻酔科医や手術室の確保な の割合は,ECT 実施施設の 3 5 . 6%で,医療機関 ど他科との医療連携が,緊急時にも対応できるよ 形態別では,単科精神科病院で 14 . 8%,総合病 うな形では実現できていないことによるものであ 院有床精神科で 6 6 .7%と,単科精神科病院のみ った. ならず,総合病院においても多くの施設で修正型 ECT の実施が困難な状況にあった. その一方,精神科クリニックを除いた ECT 未 実施施設の 45. 0%で, 「可能であれば自施設でも 精神経誌(20 11) SS2 64 表1 쓕 ECT の地域連携を行うにあたって問題になって いることは何ですか」との問いに対する返答 修正型 ECT を行っていないため,依頼されても受 けられる状況にない いつでも修正型 ECT を実施できる体制が確保され ていない 麻酔科専門医が不在であり,全身状態が悪い患者の 対応ができない 依頼先の ECT の適応判断が適切かどうかの判断が できない 身体の状態なども 慮しなければ責任が負えない 身体合併症や ECT にともなうリスクだけを背負う のは恐ろしい 病床が常に満床であるため,入院待機期間が長い マンパワーが不足している 表3 쓕 修正型 ECT を導入するにあたって問題になるの はどんなことですか」との問いに対する返答 麻酔科医の確保 精神科医の不足 身体管理ができる体制が整っていない 症例数が少なく,コスト対効果が疑問 修正型 ECT に対する認知度が低い 看護スタッフへの教育 治療機器が高価 表 2 쓕修正型 ECT を実施するにあたって問題になって いることは何ですか」との問いに対する返答 時間外や休日に実施することができない 手術室を使用できる時間帯が決まっている 前週までに手術室の予約をとることが必要である 麻酔科医を確保できる曜日が限られている 事前に麻酔科外来を受診することが必要である 表 4 쓕修正型 ECT の普及にはどのような対策が必要だ と思いますか」との問いに対する返答 ガイドラインの整備 講習会などの普及活動 精神科医への麻酔に関するトレーニングと有資格化 手技のマスターを研修医の研修項目化 地域の拠点病院で実施可能となるための体制の整備 診療報酬体系の整備 地域の実情に見合ったスタイルの 案 ではないため,厳密に比ퟛすることは困難である が,今回の調査結果の方が修正型 ECT の実施割 合が高い結果となった. 最後に,「修正型 ECT の普及には何が必要か」 という問いに対して得られた返答を表 4に示した. いずれも重要な指摘ではあるが実現が容易でなく, 地域毎の個別の対応によって解決が可能な事柄は, ECT を実施したい」と返答が得られたにもかか 非常に限られているように思われた.北海道は, わらず,実際に導入を計画している施設がなかっ その面積が広大なばかりでなく,精神科の医療資 た.また,従来型 ECT のみを実施している施設 源が偏在しているため,医療過疎地域が多く,札 では,その 8 9 . 7%で「修正型 ECT の必要性を 幌圏とその他の地域では医療状況を異にしている. 感じる」と返答し,さらにそのうちの 48 . 3%が 実際,ECT 実施施設のうち,修正型 ECT の実 「自施設でも修正型 ECT を実施したい」との 施 率 は,札 幌 市 内(実 人 数 6 0 .2%,延 べ 回 数 えを示したにもかかわらず,こちらも具体的な導 6 8 . 5%)に対して,札幌以外の地域では(実人 入の計画を有する施設はなかった.ECT の導入 数3 0 . 0%,延べ回数 4 9 . 6%)と,かなりの開き が困難な理由としては,表 3のような内容が指摘 がみられた.ECT にまつわる地域差が,以前か されたが,いずれの施設からの意見でもマンパワ ら指摘されている治療文化や社会的な背景による ーと医療コストに関わる問題が含まれていた. もの以外に,都市部と地方における医療資源の格 2 0 0 9年に実施された ECT 全国実態調査の結果 差による影響も大きいことが,今回の調査の結果 では,北海道内で施行された ECT の延べ回数の から改めて確認された.そうした意味でも,地域 4 4. 2%が修正型 ECT であったのに対して,今回 の実情に見合った対策を検討していくことが,修 の調査対象期間内に実施された ECT における修 正型 ECT が全国的に普及するためには不可欠な 正型 ECT の割合は,実人数で 3 8. 1%,延べ回 ものと える. 数で 55 . 7%であった.調査への協力施設が同一
© Copyright 2024 ExpyDoc