積雪観察の手引(Ver1.5)

積雪観察の手引き (2015 年版)
(ver.1.5)
積雪観察の手引き(2015 年版)
2015 年 5 月 15 日 (ver.1.5)
発行日
2014.3/9
版数
1.0
内容
2014.3/30
1.1
Koseki
2014.6/30
1.2
§4.3 雪質の変態を追加
§6.3 V 字コンベアの長さの基準をポールからに修正
§9.2 雪氷関係図書に雪氷辞典、他を追加
§7.1、§7.2 積雪断面観測図のテンプレートを SWAG(2010)に合
わせて修正
2015.1/20
2015.2/7
1.3
1.4
Koseki
Koseki
2015. 5/15
1.5
2015 年冬の講習にあわせて講習スケジュールを見直し。
§5.3 シャベルチルトテストの評価を削除
ルッチブロックテスト(RB3)を注意⇒危険に修正
§5.3 深部タップテストを追加
§1 講習地ガイドを修正
§2 講習スケジュール見直し
§7.3 積雪断面観察(3)を追加
初版発行
作成
1
Koseki
Koseki
Koseki
Copyright 2009-2015, 東北ブロック雪崩講習会
2
無断転載・複写複製を禁じます
1
2
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地方雪崩講習会で図表などを引用したい場合はご連絡下さい。MS-Word に貼り付けられる.emf 形式で提供します。
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積雪観察の手引き (2015 年版)
(ver.1.5)
目次
1
講習地ガイド ............................................................................................................................. 3
2
講習スケジュール ...................................................................................................................... 4
2.1 講習内容 ............................................................................................................................. 4
3
ビーコン・チェック ....................................................................................................................... 5
4
積雪断面観察 ........................................................................................................................... 7
4.1 スノーピット .......................................................................................................................... 7
4.2 雪質判断 ............................................................................................................................. 8
4.3 雪質の変態 ......................................................................................................................... 9
5
弱層テスト ............................................................................................................................... 10
5.1 シャベルコンプレッションテスト(CT) ..................................................................................... 10
5.2 拡張カラムテスト(ECT) ...................................................................................................... 11
5.3 スキージャンプテスト .......................................................................................................... 12
5.4 深部タップテスト(DTT)........................................................................................................ 14
5.5 シャベルチルトテスト(TT) .................................................................................................... 15
5.6 弱層テストと危険度判断 ..................................................................................................... 16
5.7 【参考】 傾斜角の測り方 .................................................................................................... 17
6
雪庇断面観察 ......................................................................................................................... 18
6.1 雪庇断面観察 .................................................................................................................... 18
6.2 スクラムジャンプ(デモ) ....................................................................................................... 19
6.3 V 字コンベアによる掘り出し ................................................................................................ 20
7
[付録-1] 積雪断面観察シート ................................................................................................... 22
7.1 積雪断面観察 (1) .............................................................................................................. 22
7.2 積雪断面観察 (2) .............................................................................................................. 23
7.3 積雪断面観察 (3) .............................................................................................................. 24
7.4 フィールド・ノート ................................................................................................................ 25
8
[付録-2] 積雪観察器具、その他 ............................................................................................... 26
9
観察データの整理 ................................................................................................................... 30
9.1 ピットデータ ....................................................................................................................... 30
9.2 アメダスの気象データ ......................................................................................................... 30
10 [付録-3] 参考資料 ................................................................................................................... 32
10.1 雪崩関連図書 .................................................................................................................... 32
10.2 雪氷関係の図書 ................................................................................................................ 34
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1 講習地ガイド
図 1-1
宮城蔵王エコーライン冬期ゲート周辺
C2
C1
B2
A2
B1
A1
蔵王高原
ホテル
スミカワ
スノーパーク
① 積雪断面観察
A1 例年の積雪断面観察ポイント、A2 に比較的大きな斜面があり、2015 年はこちらを使用。
② 弱層テスト、断面観察
特に限定しませんが B1, B2 などの浅い沢筋の北東斜面は気温が上がらないので断面観察と弱層テス
トに向いています。
③ 雪庇観察
C1 は例年の雪庇観察に使用しています。C2 も大きな雪庇が出来るので、寡雪の年は検討の余地があ
ります
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2 講習スケジュール
2.1 講習内容
時間
0700 - 0800
内容
(講習スケジュール、講習区域)
形態
全体
0800 - 0830
講習項目
受付
オリエンテーション
講習地 A2 へ移動
ビーコンチェック
班
0830 - 1000
積雪断面観察
ピットの掘り出し作業
<<断面観察シート>>(記入)
(1) 温度勾配
(2) 簡易硬度計測
(3) 密度計測
(4) 雪質
全体
ルッチブロックテスト
全体
1000 - 1030
1030 - 1130
弱層テスト
シャベルコンプレッションテスト、他
班
1130 - 1210
(昼食)
(ホテル)
班
1210 - 1220
講習地 C1 へ移動
ビーコンチェック
班
1220 - 1310
雪庇断面観察
雪庇掘り出し作業
<<雪庇の断面観察>>
雪庇の構造を理解し、危険性を理解する
スクラムジャンプ(デモ)
2 グルー
プ
1310 - 1330
全体
1400 - 1520
弱層テストと雪質判断
<<フィールド・ノート>>(記入)
斜面を変えて雪質判断、弱層テストを実施
班
1520 - 1530
(移動)
(ホテル)
班
1530 - 1600
修了式
(アンケート記入)
全体
A2 積雪断面観察
C1 スクラムジャンプテスト
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3 ビーコン・チェック
最初の出発時に、講師がリーダ、受講生がメンバーになって実施します。午後の出発時は受講生の一人に
リーダに指定して、同じくビーコンチェックをします。
(1) リーダはビーコンを送信モードにし、メンバーはビーコンを受信モードにします。徐々にリーダに近づきな
がらビーコンの距離表示が正常であることを確認します。
Peep!
Peep!
メンバー(受信)
リーダ(送信)
メンバー(受信)
メンバー(送信)
リーダ(送信)
メンバー(送信)
(2) 確認が終わったらメンバーは通常の送信モードに戻します。
(3) 講師は進行方向に 10m 程進み受信モードにします。
10m以上
リーダ(受信)
メンバー(送信)
(4) メンバーは一人ずつ講師の前を通過し、受講生のビーコン送信(2m 以内)を確認します。
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Peep!
Peep!
リーダ(受信)
メンバー(送信)
メンバー(送信)
(5) チェックの終わったメンバーは更に 10m 程進み後続を待ちます。
10m以上
メンバー(送信)
10m以上
リーダ(受信)
メンバー(送信)
(6) 一定間隔で受講生を通し、全員が通過したらリーダは自分のビーコンを送信モードに戻します。全員が
そろったところでパーティを出発します
【参考】出発前のオリエンテーションでは受講生の装備チェックをします。
 シャベルコンプレッションテストで角柱切り出すときのために、テープでスノーソーやスコップに 30cm
の目印を付けます。
 スコップは必携ですが、背負い紐がないと捜索時に手に持つことになります。ブレードに穴があいて
いないときは自分で開けるか、販売店にお願いします。
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4 積雪断面観察
4.1 スノーピット
2007 年まではクラスを 2 グループに分けて、阿部先生、小杉先生に 2 度説明して貰う方法でしたが、
2009 年からは受講生全員に一度で説明するようにしています。
スノーピットの深さは、上に手が届く程度、つまり 170cm 程度止めます。積雪観察面は受講生の人数で幅
を変え、右側にはスキージャンプテストのエリアを残します。
スノーピットデータは以下の手順で取得します。
 10cm 間隔の雪温測定 1
 簡易硬度(F, 4F, 1F, P, K)による層区分
 10cm 間隔の密度測定
 雪質判断
図 4-1
スノーピット掘り出し
スキー、
つぼ足などの
加重点
断面観察実施の目印
スキージャンプテスト用
雪温測定
雪質観察面
2m
1.5
m
4~5m
観測器具収納用の穴
講習場所は西向きの道路脇であるため、積雪層は深さが一定しません。ブラシで層を明確にし、積雪層の
深さは一ヶ所で測った値に統一したほうが混乱しないで済みます。
例えば、30cm ほど横にずれて簡易硬度を計測したとき、同じ層であれば深さは一定とします。
2008 年からの染色を行っていませんが、デモンストレーションとしては有効です。染色はメチレンブルーを
使用した時期がありましたが、低温で凍ると色がよくでないため、通常のブルーインクを使用するほうが良
いようです。
1
深部では 20cm 間隔でよい
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4.2 雪質判断
表 4-1
雪質観察 1
比重(g/cm3)
直径(mm)
簡易硬度(*1)
乾湿 (*2)
表面霜
n/a
n/a
F
1
あられ
n/a
>2
F, 4F
n/a
新雪
0.05~0.15
1-2
F
1
小しまり雪
0.15~0.25
0.5-1
F, 4F
1~2
4F, 1F, P
1~2
雪質分類
記号
2
しまり雪
0.25~0.5
0.1~0.5
小霜ざらめ雪
0.3 前後
0.5~2
F, 4F, 1F
1
霜ざらめ雪
0.3 前後
2~5
F, 4F, 1F
1
ざらめ雪
0.3~0.5
0.5~2
F, 4F, 1F, P, K
1~5
n/a
n/a
I
n/a
氷板
-
(*1) 簡易硬度
貫入の程度
硬さ
記号
value
非常に柔らかい
F
1
手袋をした 4 本指(4 fingers)が横に入る
柔らかい
4F
2
手袋をした人指し指(1 finger)が入る
やや硬い
1F
3
鉛筆(Pencil)の削っていない側が入る
硬い
P
4
ナイフ(Knife)の刃が横に入る
非常に硬い
K
5
ナイフ(Knife)の刃が入らない3
固形(Solid)
I
6
手袋をした握り拳(Fist)が入る
(*2) 乾湿の目安
Snowball テスト
乾湿
value
握っても固まらない
乾いている
1
握ると固まる、グローブは濡れない
湿っている
2
握ると固まり、グローブが濡れる
濡れている
3
非常に濡れている
4
スラッシュ
5
握ると固まり、水が滴り落ちる
グチャグチャで固まらない
1
比重は全国テキストに合わせて『雪氷辞典』日本雪氷学会編 1990 を参照した。他の項目は『Snow』 Robert Bolognesi,
CICERONE (2007) より引用
2
等温変態の場合のサイズで、小霜ざらめ雪からしまり雪に変化した場合は径が大きくなります。
3
ナイフが入らない場合も想定され、『Snow』では"Solid"という表現していて、記号は特に記載がない。北米では『Staying Alive In
Avalanche Terrain (2nd Eedition)』 Bruce Tremper (2008) で例として挙げているように I の記号が記載されている。
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4.3 雪質の変態
積雪の変化(変態)には、氷点下で起こる等温変態と温度勾配変態、融解による融解凍結変態があります。
 等温変態は厚密や焼結により、積雪が徐々にしまり雪に変化してゆきます。
 温度勾配変態は積雪内の温度差1により昇華蒸発・昇華凝結による再結晶化で、積雪が小霜ざらめ
雪に変化してゆきます。
 融解凍結変態は降雨や温度上昇により水が介在する変態で、積雪がざらめ雪に変化するものです。
図 4-2
雪質の変態過程 2
あられ
新
雪
表面霜
小しまり雪
しまり雪
小霜ざらめ雪
霜ざらめ雪
ざらめ雪
1
2
等温変態
温度勾配変態
融解凍結変態
しまり雪化
霜ざらめ雪化
ざらめ雪化
一般に積雪の平均温度が 0℃に近い場合、1℃/10cm 以上で小霜ざらめ雪化が促進されると言われています。
『Snow』 Robert Bolognesi, CICERONE (2007) より引用
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5 弱層テスト
5.1 シャベルコンプレッションテスト(CT)
講習地の宮城蔵王のように、風によるウインドクラストやざらめ雪が形成されやすい条件では、ハンドテスト
の実施が困難です。講習会では最近ではスノーソーをパーティの共同装備と位置付けて、シャベルコンプ
レッションテストを推奨しています。
スノーソーで行う場合、図 5-1 のように左側に切れ目を入れて、右側の凹部をからスノーソーで背面を切り
離します。掘る深さは、スキーなど行動様式によって足底から 70cm 以上とします。
図 5-1
シャベルコンプレッションテスト
タップ
位置
雪質観察面
30
cm
70cm以上
踏み込んだ
ときの靴底
30cm
● シャベルコンプレッションテスト
破壊の基準
角柱を切り出している最中に崩落した
データコード
CTV
積雪の状態
5 - 非常に不安定
手首を使い、手のひらで 10 回叩くと破断した
CT1~CT10
4 - 非常に悪い
肘から先を使い、拳で 10 回叩くと破断した
CT11~CT20
3 - 結合状態が悪い
腕全体を使い、拳で 10 回叩くと破断した
CT21~CT30
2 - 概ね安定
上記の手順で角柱が破壊しなかった
CTN
1 - 安定
(例) 110cm まで掘って 14 回目に叩いたとき、25cm 下で破壊が起こった場合の表記は『 CT14@↓
25cm; TD110 』となります1。
これに後述する剪断の評価(Q1~Q3)を併記します。
1
データコード CTE, CTM, CTH を使って、例えば CTM14@↓25cm と記載する例を挙げている国内の書籍がありますが、スコアを
使う方が一般的のようです。
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5.2 拡張カラムテスト(ECT) 1
表層雪崩の発生は弱層破壊が伝搬(propagation)2 することによって起こるという認識から、最近では、こ
の特性を評価できる拡張カラムテストが評価されています。掘り出しは下図の通りで、ブロックの背面は左
右と上面にスノーソーで切れ目を入れ、残りをルッチブロックコードなどで切ります。叩き方はシャベルコン
プレッションテストと同じです。
ECT では叩く回数ではなく、破壊が起こった回数(ECTI)から、その層の破壊が全体に広がる回数(ECTP)
の差(N)を評価しています。(N=0)の場合、破壊が一気に角柱全体に広がり、(N=1)の場合は、破壊が起こ
ってから次に叩いたときに破壊が角柱全体に広がります。
図 5-5-2 拡張カラムテスト
タップ
位置
30
cm
70cm以上
踏み込んだ
ときの靴底
90cm
● 拡張カラムテスト
破壊の基準
角柱を切り出している最中に破壊が全体に広がった
##回目で破壊が始まり同時に全体に広がった、またはそ
の次に叩いた時(##+1 回目)に全体に広がった
##回目で破壊が始まったが、さらに 2 回以上叩いた時に
全体に広がった
##回目で破壊が始まったが、30 回まで叩いても全体に広
がらなかった
30 回叩いても破壊が始まらなかった
データコード
積雪の状態
ECTPV
1 - 非常に不安定
ECTP##
2 - 非常に悪い
3 - 結合状態が悪い(*1)
ECTN##
4 - 概ね安定(*1)
ECTX
5 - 安定
(*1) 面発生の雪崩になりにくいという判断ですが、積雪の安定性を評価している訳ではないので、シャベル
コンプレッションテストなどの結果も参考にします。
1
『THE EXTENDED COLUMN TEST:A FIELD TEST FOR FRACTURE INITIATION AND PROPAGATION』
Ron Simenhois and Karl Birkeland (Proceedings of the 2006 International Snow Science Workshop, Telluride, Colorado)
2
propagation を伝播(でんぱ)とも訳しますが、電波と音がまぎらわしいので、本稿では伝搬(でんぱん)を使います。
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5.3 スキージャンプテスト
ルッチブロックテストの 7 段階評価を他のテストに合わせて 5 段階で評価するテストです。
シャベルコンプレッションテストに較べてブロックサイズが大きいので、バラツキが少なく、より実際の滑降に
近い条件で評価が出来ます。
スキーで背面を切ると 10 分程度でテストが完了しますが、最近のスキーまたはボードでは切れないので、
市販のルッチブロックコードや結び目を付けたロープで背面を切り離します。
図 5-3
スキージャンプテスト
スキーまたはルッチブロック
コードで背面を切る
踏み込んだ
ときの靴底
30度以上の
斜面を選ぶ
1. 5
m
70cm
以上
2m
● スキージャンプテスト
破壊の基準
積雪の状態
ルッチブロックテスト
との対比
RB1
ブロックを掘り出したら崩れた
5 - 非常に不安定
ブロックに乗ったとき崩れた、
または屈伸したら崩れた
4 - 非常に悪い
1 回目のジャンプで崩れた
3 - 結合状態が悪い
RB4
2 回目のジャンプで崩れた
2 - 概ね安定
RB5
スキーを履いてジャンプしても崩れない
1- 安定
RB2
RB3
RB6
RB7
● ルッチブロックテスト
破壊の基準
掘り出し中に破壊
1
データコード
積雪の状態1
RB1
危険
SWAG(2010)の記述に合わせて RB3 を「危険」に変更。『SNOW』では RB3 を注意に分類している。
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破壊の基準
データコード
ブロックに乗った時点で破壊
RB2
素早く沈み込んだときに破壊
RB3
1 回目のジャンプで破壊
RB4
2 回目のジャンプで破壊
つぼ足でジャンプしたときに破壊、または半
分まで下がって数回ジャンプ 1
上記の手順で破壊しない
RB5
RB6
積雪の状態1
注意
基本的に安全
RB7
破壊が起こった場合、以下の破壊の割合(%)と、後述する破壊面の質(Q1~Q3)を記録します。
破壊の割合
目安
データコード
ブロック全体
ブロックの 90~100%
WB
ブロックのほとんど
ブロックの 50~80%
MB
ブロックの縁
ブロックの 10~40%
EB
図 5-4
スキージャンプテスト(2015 年おんたけ休暇村)
※積雪断面観察(3)を参照
RB2 (Q2) WB @↓27cm
RB6 (Q2) EB @↓45cm
1
RB6 は何でもありという感じで、本によってまちまちです。上記の表は『SNOW』(ヨーロッパアルプス)の表を使いました。
『SNOW SENSE』(アラスカ)の本文は、RB5 の後、RB6 で半分まで下がってジャンプするとあり、堅いか深いスラブであれば、試しに
板を脱いで何度かジャンプしても良いとあります。
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5.4 深部タップテスト(DTT)
深部タップテスト(Deep Tap Test)はシャベルコンプレッションでは評価できない 1F より硬い層に覆われた
弱層や、非常に深い位置にある弱層を評価するテストです。テストは強度を評価するというよりは、破断面
の性質を知るために実施します。
テストの前にあらかじめ雪質観察で弱層位置を特定します。弱層の 15cm 上で上層の雪を取り除き、弱層
の約 5cm 下まで背面を切り離します。これは下の層の弱層に影響を与えないためです。その後のテスト手
順はシャベルコンプレッションテストとほぼおなじです。データコード(DTx)と破壊面の深さ、剪断の評価(Q1
~Q3)などを記録します。
図 5-5
深部タップテスト
雪質観察面
水平
タップ
位置
15cm
弱層または
ウィークインターフェイス
5cm
▼
cm
30
30cm
深部タップテスト
破壊の基準
角柱を切り出している最中に崩落した
データコード
DTV
手首を使い、手のひらで 10 回叩くと破断した
DT1~DT10
肘から先を使い、拳で 10 回叩くと破断した
DT11~DT20
腕全体を使い、拳で 10 回叩くと破断した
DT21~DT30
上記の手順で角柱が破壊しなかった
DTN
※深部の弱層をテストするのに効果的ですが、破壊が起こるまで叩いた回数は、人が引き起こす雪崩や周
辺の斜面の雪崩との関係性はないとされています。
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5.5 シャベルチルトテスト(TT)
シャベルコンプレッションテストは表面付近の柔らかい雪にある弱層を検出できないことがあるため、簡易
硬度が 4f 以下の積雪層では以下に説明するシャベルチルトテスト1 を併用するとよいでしょう。
(1) シャベルコンプレッションテストと同様に、シャベルの大きさに合わせて角柱を切り出します。
(2) 通常、弱層位置が判っていない場合は雪面から 40cm 下にシャベルを水平に挿入して角柱を取り出し
ます。このとき、積雪層は斜面の傾斜だけ傾いています。2
(3) 脇などでシャベルを支え、シャベルの柄を持った片手でブロックが落ちないようし、 シャベルを約 5-15
度傾け、積雪層の傾斜が 35 度になるようにします。
(4) シャベルの底を手首だけ使って指先で 10 回叩きます。
(5) (4)で破壊しない場合は、更にシャベルの底を腕から先を使って手のひらで 10 回叩きます。
(6) 破壊が起こった場合、表面からの深さと破断面の雪質・状態を記録します。
図 5-6
シャベルチルトテスト
40 c
m
5-15度
タップ
※シャベルチルトテストには明確なガイドラインが無いので、テスト結果は参考程度に留めておきます。
1
2
『A Proposed Standard for Shovel Tilt Test Procedures』 Karl Klassen (2006)
弱層位置が判っている場合は、弱層の上の 20cm の雪を取り除き、弱層の 20cm 下にシャベルを挿入して角柱を取り出します。
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5.6 弱層テストと危険度判断
シャベルコンプレッションテストのような弱層テストは、弱層の強度を評価しているので、部分的な破壊が起
きやすいかどうかを評価しているといえます。人為的な雪崩の誘発には、部分的な積雪層の破壊が広範囲
に伝搬する必要があります。このためには、積雪層に加わっている力や積雪層構造が関わってきます。積
雪内部には積雪が斜面あることで発生する図 5-7 に示すような歪みがあります。
図 5-7 は降雪直後に積雪層の断面に一定間隔で印を付けた場合、それぞれの点が時間の経過とともにど
のように移動するかを示したものです。積雪層は重力により下方に動きますが、その動き方は積雪層の上
部と下部で異なり、その結果として力学的な歪みが生じます。
図 5-7
積雪内部の歪み
降雪直後の積雪の状態
降雪から一定の時間が
経過した積雪の状態
地
表
この積雪層に加わっている力を判断するには、弱層テストで起こった破壊のしかた、破断面がきれいな面
であるか、でこぼこであるかといった破壊の質を観察します。 (Q1 なら赤信号)
Q1 : きれいな平面で、弾けるように一気に破壊された
Q2 : きれいな平面だが、弾けはしない
Q3 : でこぼこした平面または平面になっていない
積雪層の構造に注目すると、雪崩を誘発する積雪構造は統計的に以下の 5 つ要素があります1。弱層テス
トをする際に断面観察をして、いくつ当てはまるか確認します。( 4 または 5 であれば赤信号)
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
1
霜ざらめ、小霜ざらめ、表面霜がある場合
層間で粒度の違いが 1mm 以上ある場合
層間で硬さの違い(F, 4F, 1F, P, K)が 1 ステップ以上ある場合
弱層の厚さが 10cm 以下の場合
弱層が深さ 1m 以内にある場合
『A field method for identifying structural weaknesses in the snowpack』 ISSW (2002)
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5.7 【参考】 傾斜角の測り方
弱層テストは傾斜角が 30°以上が望ましいのですが、通常の山行では傾斜計を持つことは稀だと思いま
す。そんなとき、『Staying Alive In Avalanche Terrain (2nd Edition)』に書いてある、ストックを使った傾斜
角の測り方を覚えておくと便利です。
ストックの長さ(グリップからリングで)を L として、ストックを雪面に置いて長さ L の印を付けます。次にグリッ
プの頭を一緒に持って、1 本を鉛直方向に向けます。中学生の数学の問題に出てきそうですが、傾斜が 30
度のときは、正三角形を描くので鉛直方向を向く外側のストックはリングの跡に一致します。
図 5-8
ストックを使った傾斜角の測り方
L
δ
θ
底辺の L からのずれを δ とすると、それぞれの角度では以下のように δ(cm)が計算できます。30 度のとき
は δ=0 です。
表 5-1
L
100
105
110
115
120
125
130
傾斜角(θ)と 30 度のマーキングからのズレ(δ)
θ°
28
-6.1
-6.4
-6.7
-7.0
-7.3
-7.6
-7.9
30
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
32
6.0
6.3
6.6
6.9
7.2
7.5
7.8
34
11.8
12.4
13.0
13.6
14.2
14.8
15.4
36
17.6
18.4
19.3
20.2
21.1
21.9
22.8
38
23.1
24.3
25.4
26.6
27.8
28.9
30.1
40
28.6
30.0
31.4
32.8
34.3
35.7
37.1
42
33.8
35.5
37.2
38.9
40.6
42.3
44.0
例えば、リングまでの長さ 115cm のストックを使うと、20cm 以上リングの跡とずれていると 36 度以上の斜
度なので、表層雪崩のスイートスポットにいることになります。逆にリングの跡の内側を指していれば、(上
の斜面にもよりますが・・・)そこそこ安全な斜面です。
17/36
積雪観察の手引き (2015 年版)
(ver.1.5)
6 雪庇断面観察
6.1 雪庇断面観察
スノーピットのあとスクラムジャンプ・テストを行うため、複数のピットを掘り、間を幅 2 メートル残します。観
察するのは側面なので、積雪断面観察ほどの幅は必要ありません。
雪庇が発達しているときは、いきなり大勢で踏み込まないように注意します。上部から確保してルートを切
るまで、受講生は近づけてはいけません。
図 6-1
地点のスノーピット掘り出し
雪庇観察(1)
雪庇破壊テスト
雪庇観察(2)
観察面
2m
2007 年までは雪庇の構造を説明し、雪質、硬度、構造の記録を受講生にとってもらっていました、日帰りコ
ースでは時間がないので説明のみとしています。
 巻き込みにより雪庇の層の傾斜は実際の地形の傾斜より大きくなるため、特に危険です。
 東北では、雪庇が東側に形成され、崩落した雪塊で雪食地形ができます。
 雪庇の下側は吹き溜まりになるので、上載積雪量が増加し崩壊し易くなります。
 弱層を形成する雪(例:あられ)などが吹き溜まることがあります。
 ざらめ層があれば、雨水の進入による濡れざらめ化がないか観察します。
 層が不連続になっていれば、初期段階の崩壊が考えられます。
 巻き込みによる空洞がないか観察します。
18/36
積雪観察の手引き (2015 年版)
(ver.1.5)
6.2 スクラムジャンプ(デモ)
スクラムジャンプ・テストは明確な評価基準がなく1、講習会では雪庇の危険性を認識するデモンストレーシ
ョン的な意味で実施している。雪庇断面観察の結果、受講生に滑り面を予想させ、目印を付けて着ます。背
面はルッチブロックコードで切り離します。
図 6-2
2003 年雪崩講習会のスクラムジャンプ(デモ)
2009 年は幅に対して受講者 7 名が乗ったため、両脇の二人が途中で落ちてしまいました。落ちても構わ
ないような高さに抑え、下面に人、物がないことなどの注意が必要です。
図 6-3
1
2009 年雪崩講習会のスクラムジャンプ(デモ)
したがって、ここではスクラムジャンプと呼び「テスト」とはいわない。
19/36
積雪観察の手引き (2015 年版)
(ver.1.5)
6.3 V 字コンベアによる掘り出し
雪庇の掘り出しのとき、最近話題になっている V 字コンベアによる掘り出し(V-shaped snow conveyor
belt) を試してみます。ラッセルの要領で先頭の交代をリーダが指示します。
図 6-4
V 字掘り出しのローテーション
V 字の形状は埋没者の深さ d と斜面の傾斜θで判断します1。V 字の高さは、平坦地では d に対して 2 倍
(N=2)、20~25 度の斜面では d と同じ(N=1)です。一人がカバーするのは V 字の高さ方向で 80cm を目
安にします。V 字の幅は d と同じです。
例えば、平坦地で埋没者が深さ 2m に埋まっていた場合、2m×2÷80cm = 5 となり、5 人の作業者が必
要です。
なお、最近の解説書では斜面の角度に関わらず N=1.5 としている場合が多く、全国雪崩講習会テキストで
もこれに従っています。
1
『V-Shaped Conveyor-Belt Approach to Snow Transport』 (ISSW 2008)
20/36
積雪観察の手引き (2015 年版)
図 6-5
(ver.1.5)
V 字掘り出しのサイズ
80cm
d×N
d
θ
21/36
積雪観察の手引き (2015 年版)
(ver.1.5)
7 [付録-1] 積雪断面観察シート
7.1 積雪断面観察 (1)
所属
積雪断面観測図
東北雪崩講習会 (http://mwaf.jp/rescue/2013/11/2014223210.php)
観測日時
観測場所
氏名
314
方位
cm
傾斜角
北東
30°
レ
吹き溜まりの影響 □あり
□なし
雪 温 (℃)
-18
-16
時刻
宮城蔵王・エコーライン
1136
標高 m
積雪深
07
2
24
20 年 月 日
-14
-12
-10
-8
-6
-4
-2
天気
乾
湿
cm
雪質
F
粒度
E
11
05
時 分
(東北雪崩講習会)
風向
スキー貫入
密度
ρ
cm
弱層テスト結果、他
(mm) (kg/m3)
(cm)
気温@150cm(日陰)
分 ~
降雪
風雪
靴底貫入
深さ
-H
10 時 10
-8.6℃
0
10
20
30
40
50
60
70
A A
温度勾配変態の
目安(≧1℃/10cm)
0.5-1.0
280
/ /
0.5-1.0
200
○ ●
0.2-2.0
300
●
●
0.2-0.5
280
●
●
0.2-0.5
300
○ ○
0.5-1.0
330
●
●
0.2-0.5
350
○ ○
1.0-2.0
310
●
●
0.5-1.0
240
○ ○
0.5-2.0
370
●
●
0.2-0.5
360
○ ○
1.0-2.0
320440
CT4@↓9cm
CT22@↓48cm
CT25@↓71cm
80
90
100
110
120
130
140
(雪質)
150
160
170
(簡易硬度)
: 新雪
F : こぶし
: こしまり雪
4F : 4本指
: しまり雪
1F : 1本指
: 小霜ざらめ雪
P : 鉛筆
: 霜ざらめ雪
K : ナイフ
: ざらめ雪
I
: 氷板
: 表面霜
: 氷板
180
: クラスト
: あられ
I
K
P
1F
4F F
硬 度
© 2014 東北雪崩講習会
2007 年の講習会では前日まで好天をもたらした移動性高気圧が抜けて、夜半に寒冷前線が通過しました。
気温が急激にさがり、雪面はクラストしていましたが、雪面下 20~40cm に暖かい雪が残っていて、温度勾
配変態の条件が整っています。
また、50cm と 70cm 前後にザラメ雪の層があり、明確な弱層はありませんでしたが、ウイークインタフェー
スを形成していました。
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積雪観察の手引き (2015 年版)
(ver.1.5)
7.2 積雪断面観察 (2)
所属
積雪断面観測図
東北雪崩講習会 (http://mwaf.jp/rescue/2013/11/2014223210.php)
観測日時
観測場所
09
2
22
20 年 月 日
1136
標高 m
積雪深
方位
氏名
cm
傾斜角
北東
30°
レ
吹き溜まりの影響 □あり
□なし
雪 温 (℃)
-18
-16
時刻
宮城蔵王・エコーライン
-14
-12
-10
-8
-6
-4
-2
天気
乾
湿
cm
雪質
F
10
00
時 分
なし
風向
スキー貫入
密度
ρ
cm
弱層テスト結果、他
(mm) (kg/m3)
(cm)
気温@150cm(日陰)
粒度
E
分 ~
(東北雪崩講習会)
降雪
晴れ
靴底貫入
深さ
-H
09 時 00
-0.8℃
温度勾配変態の
目安(≧1℃/10cm)
0
RB7
(No Failure)
10
+ +
0.51.0
170200
/ /
0.51.0
190
○ ○
1.02.0
340
/ /
0.51.0
310
●
●
0.20.5
250
○ ○
1.02.0
340
●
●
0.20.5
300
○ ○
1.02.0
380
20
30
40
50
60
70
80
90
100
110
120
130
140
150
160
170
(雪質)
(簡易硬度)
: 新雪
F : こぶし
: こしまり雪
4F : 4本指
: しまり雪
1F : 1本指
: 小霜ざらめ雪
P : 鉛筆
: 霜ざらめ雪
K : ナイフ
: ざらめ雪
I
: 氷板
: 表面霜
: 氷板
180
: クラスト
: あられ
I
K
P
1F
4F F
硬 度
© 2014 東北雪崩講習会
2009 年の講習会では前日まで強い冬型でしたが、日本海に低気圧が進んで一時的に気温が上昇しまし
た。このため 10cm に強い冷気があり、7℃/10cm の強烈な温度勾配を見ることが出来ました。このような
条件で構造的に弱い雪の層が形成されるので、この後のドカ雪に気を付けないといけません。
23/36
積雪観察の手引き (2015 年版)
(ver.1.5)
7.3 積雪断面観察 (3)
所属
積雪断面観測図
全国雪崩・講師研修会
観測日時
観測場所
1430
標高 m
積雪深
15
2
15
20 年 月 日
182
方位
氏名
傾斜角
東
30°
-8
-7
天気
レ
吹き溜まりの影響 □あり □なし
靴底貫入
-6
-5
深さ
-H
-4
-3
-2
-1
乾
湿
cm
60
雪質
F
分 ~
30
時 分
09
粒度
E
風向
スキー貫入
密度
ρ
20
cm
弱層テスト結果、他
(mm) (kg/m3)
(cm)
気温@150cm(日陰)
08 時 20
村中、小林、坪山、宮田
降雪
曇
cm
雪 温 (℃)
-9
時刻
おんたけ休暇村
-2.1℃
温度勾配変態の
目安(≧1℃/10cm)
0
+
+
1.0–
1.5
10
0.51.0
20
30
○ ○
RB2 (Q2) WB
ECTN12 (Q2) RP
< 0.5
40
○ ○
50
60
1.5–2
●
1.5–2
RB6 (Q2) EB
0.5
1.5
○ ○
1.0
●
●
0.5
○ ○
1.0
70
80
0.5
90
○ ●
100
○ ○
●
110
●
○ ○
1.5
0.5-1.0
< 0.5
1.0–
1.5
120
130
140
(雪質)
●
●
0.5
150
160
170
(簡易硬度)
: 新雪
F : こぶし
: こしまり雪
4F : 4本指
: しまり雪
1F : 1本指
: 小霜ざらめ雪
P : 鉛筆
: 霜ざらめ雪
K : ナイフ
: ざらめ雪
I
: 氷板
: 表面霜
: 氷板
: クラスト
180
○ ○
I
K
P
1F
1.5
: あられ
4F F
硬 度
© 2014 JWAF
拡張カラムテスト(ECT)の実施例
(2015.2.15 おんたけ休暇村)
ECTN12 (Q2) RP @↓27cm
24/36
積雪観察の手引き (2015 年版)
(ver.1.5)
7.4 フィールド・ノート
-H (cm) Hardness
Grain
Type
2014. 2/23
Grain
Size(mm)
エコーライン 1150m付近
-H (cm)
0
F
+
+
1.0~1.5
10
4F
/
/
1.0
RB6 (Q3) EB
28
1F
/
/
0.5~1.0
50
P
●
●
0.5
63
P
●
●
0.5
72
1F
●
●
1.0
81
P
/
/
1.0~1.5
123
0830 ~ 0930
Temp. (℃)
0
-3.0
5
-6.3
10
-6.5
20
-6.7
30
-6.6
40
-6.5
50
-6.5
60
-6.5
70
-6.4
80
-6.3
90
-6.2
100
-6.1
110
-6.0
120
-5.9
130
-5.7
140
-5.5
150
-5.4
160
-5.2
1F
●
●
0.5~1.0
P
●
●
0.5
天気 ◎
向き
1F
□
●
1.0
傾斜
最大積雪深
ρ (g/cm^3)
0.06
0.14
0.30
0.29
0.30
0.33
0.33
124
146
160
気温 -4.9℃
NE
30°
265cm
弱層テストをするときは、単にテスト結果を記載するだけではなく、雪質のメモをとる習慣をつけましょう。ノ
ートは防水紙を使ったレベルブック(コクヨ セ-Y31B)に雪質と簡易硬度、観測場所などを記載します。
ブラシで層分けをし、それぞれの層の簡易硬度を測り、ルーペで雪質を判断します。時間に余裕があれば、
断面観測図に準じて結晶の粒度や乾湿、雪温を隣の頁に記載します。
25/36
積雪観察の手引き (2015 年版)
(ver.1.5)
8 [付録-2] 積雪観察器具、その他
積雪断面観察に使用する機材について、使用方法などをピンポイントで解説します。
図 8-1
デジタル温度計
電子式温度計のセンサーにはサーミスタと熱電対の 2 種類あります。前者は安価ですが、室内用に調整し
ているため 0℃付近の精度がよくありません。写真のものは FLUKE 社の『Fluke 51-2』に『80PK-25 突刺
型プローブ(K 型)』を組み合わせています。氷水で温度誤差の補正が出来ます。
図 8-2
スノーサンプラー
写真のスノーサンプラーは特注品で、雪崩講習会でまとめて発注したものを実費で譲って貰いました。ネッ
トで検索しても見つかりますが、個人で所有するには高価です。一緒に写っているバネ秤は(株)三光精衡
所製の 100g 仕様です。ビニール袋の端をセロテープで補強したものにスノーサンプラー(100cm^3)で切り
取った雪片を入れて計測します。
雪が硬くなるとスノーサンプラーだけでは切り出せないので、10cm 幅のヘラで L 字型に切れ目を入れてか
らサンプラーを挿入します。また、小霜ざらめ雪などのようにバラバラになる雪は、挿入したまま上面の雪を
雪へらで取り除いて、そのまま蓋をして取り出します。
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積雪観察の手引き (2015 年版)
図 8-3
(ver.1.5)
折尺
折尺は DIY ショップでグラスファイバー製(2m)が容易に購入できます。2~3 箇所を W クリップで留めてペ
グを刺すと素早く雪の断面に固定できます(写真右)。裏面は上下逆になっていることを確認します1。
図 8-4
スケールルーペ
雪質を判断するに便利なスケールが付いたスケールルーペがあります。写真のものは東海産業の『ピー
ク・スケール・ルーペ SL-10X-SD No.1983』です。スケールグラスが何種類かあり、積雪の粒度を測るに
は 0.5mm 方眼がついた『東海産業 No1983 用 No.7 スケール』が便利です。
図 8-5
クリスタルカード
雪の結晶の粒度を見るためのカードで、1mm 方眼や 2mm 方眼のパターンが印刷されています。また、観
察用の記号や、弱層テストの指標が印刷されているものもあります。積雪層から結晶を取り出すので、ある
程度硬さがあった方が扱い易いようです。
1
DIY ショップにある折尺には、裏面の目盛りが cm ではなく寸になっているものがあります。
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積雪観察の手引き (2015 年版)
図 8-6
(ver.1.5)
レベルブック
雪の中でメモをとるには防水紙を使ったレベルブック(コクヨ セ-Y31B)が適しています。ボールペンなどは
水で流れるので、0.5mm のシャープペンを使います。写真のものは表紙も樹脂製なので、沢登りでの記録
にも重宝します。
図 8-7
ブラシ
積雪層を区分するのにブラシは必携です。DIY ショップで入手できますが、毛足が長く「頬を擦って痛くない」
程度に適度に硬いものの方が層を出しやすいと思います。
図 8-8
傾斜計
断面観察や弱層テストを実施した斜面の傾斜を測るのに使います。DIY ショップで売っているものはかさば
るので専用のものが使いやすいです。この他、傾斜計内蔵のコンパスも市販されています。
28/36
積雪観察の手引き (2015 年版)
図 8-9
(ver.1.5)
スノーソー
30cm2 の角柱を切りだすシャベルコンプレッションテスト(CT)では 35cm の G3 ボーンソーで十分ですが、
最近注目されている拡張カラムテスト(ECT)に使う 90cm×30cm の角柱には足りません。ネットで探すと
70cm のスノーソーがあり、ECT の両側から鋸をいれて切りだすことができます。
図 8-10 ルッチブロックコード
積雪断面観察の後にルッチブロックテストをするとき、背面を切るのに使います。ECT の背面を切るにはや
や長すぎるので、DIY ショップでコーティングされたワイヤーとアルミスリーブを購入し、1.5m 程度の長さで
自作すると便利です。
図 8-11 防水デジタル・カメラ
防水タイプで 1cm まで寄れるカメラが複数発売されています。写真のモデルは OLYMPUS TG-2 で、
40.5mm 径のフィルターアタッチメントにスケールルーペの先端部を接着しています。40mm 径のアクリル
パイプを 20mm に切ったものでも構いません。ズーム全域でマクロ撮影ができるため、雪質の観察、記録
には十分です(写真の背景は 1mm 方眼、手前のスケール目盛りは 0.1mm)。
29/36
積雪観察の手引き (2015 年版)
(ver.1.5)
9 観察データの整理
9.1 ピットデータ
積雪断面観察図(PDF)を以下の URL に置いています。
< http://usa-tarou.la.coocan.jp/avalanche/avalanche_school_memo.html >
●[付録-1] 積雪断面観測図 (pdf)
本稿に掲載している断面観測図は Visio で作成しています。ステンシルという部品を作ってしまえば手で書
くより早いです。
同じ URL に Visio で作成したファイルを置いています。
● [付録-2] VISIO サンプル (vsd)
図 9-1
Visio 2010
9.2 アメダスの気象データ
アメダスの気象データから最高気温、最低気温、降水量、積雪深をグラフ化すると、比較的簡単に気象の
推移を知ることが出来ます。
サンプル・シートは以下の URL に置いています。
< http://usa-tarou.la.coocan.jp/avalanche/avalanche_snowfall.html>
30/36
積雪観察の手引き (2015 年版)
(ver.1.5)
サンプルファイル(.xls)
図 9-2
Excel 2010
31/36
積雪観察の手引き (2015 年版)
(ver.1.5)
10 [付録-3] 参考資料
10.1 雪崩関連図書
『雪崩事故を防ぐための講習会テキスト(Ver.2.0 版)』
日本勤労者山岳連盟中央登山学校 2014年 10 月 31 日
2013 年 10 月 31 日に発行した 2014 年版の改訂版。ECT を追加し、断面観察図も本サイトで
ダウンロードできる新しいものに変えています。雪崩講習会向けのテキストなので非売品です
が、地方講習会でテキストとして配布しています。今回は余裕があったので図版の色も良くなっ
ていて丁寧な製本に仕上がりました。
特に 2 章の雪崩の基礎知識や 3 章の雪の性質は、監修の阿部先生の気合いが入った加筆
で、すごくわかり易い内容になっています。
『Allen & Mike's Avalanche Book: A Guide to Staying Safe in Avalanche Terrain (Allen
& Mike's Series)』
Mike Clelland and Allen O'Bannon;" Falcon Guides" 2012
Kindle 版の雪崩関連図書を探すと、『The Avalanche Handbook』や『Staying Alive in
Avalanche Terrain』、『Secrets of Snow』など結構出ていて、しかも割安になっています。ま
た、リーダーには辞書が内蔵されているので、単語をタッチするだけで和訳が出てきます。この
中に 2012 年 12 月に発行された "Allen & Mike's Avalanche Book"があったので購入しました
構成は『Staying Alive~』に比較的似ていて、イラストは『Self-Rescue』や『Knot & Ropes for
Climbing』と同じイラストレータが書いています。87 ページと薄いので、気負わずに読めて、よく
出来た雪崩解説書だと思います。
『Snow Sense: A Guide To Evaluationg Snow Avalanche Hazard』
Jill Fredstone and Doug Fesler;"Alaska Mountain Safety Center" 2011
『Avalanche Book』を読んでいたら、Avalanche Triangle のベースになっているのはこの
『Snow Sense』と書いていました。『Staying Alive・・・』でヒューマン・ファクターが取り沙汰され
て話題になりましたが、実はこの本がベースになっているようです。初版は 1984 年と古く、
2011 に 5 版が出てきます。ビーコン操作は書いていません が、新しい版では ECT や V 字コン
ベアの記載もあります。
『THE Avalanche HANDBOOK (3rd Edition)』
David McClung and Peter Schaerer "Mountaineers Books" 2006
新版ではビーコン捜索に誘導法が追加になったり、シャベルコンプレッション・テストが載ってい
たりします。2 版に較べて 70 頁ほど増えていてますが、図表や写真はあまり変わってはいない
ようです。
実は 1984 年版(復刻版)も持っていたりするので、パラパラめくってみると、直角法のビーコン捜
索など、かなりの図表が継承されているのがわかります。ただし、雪崩救助犬の訓練法は 2 版
からかなり簡略化されました。
『THE Avalanche HANDBOOK』
David McClung and Peter Schaerer "The Mountaineers" 1993
『Avalanche Safety for Skiers &Climbers』に較べるとボリュームがあり、雪質観察に関わるデ
ータが豊富です。また、防災に関連した内容も載せています。最近はそうでも ないですが、『雪
崩学入門』が最初の雪崩の教科書として出版された頃、雪面間の静的な摩擦係数だけ言われ
て、弱層を破壊することによる面の崩壊まで言って いませんでした。この本を読んで、どうして
だろうと思っていたものです。
32/36
積雪観察の手引き (2015 年版)
(ver.1.5)
『Staying Alive In Avalanche Terrain (2nd Eedition)』
Bruce Tremper "Mountaineers Books" (2008/09)
初版は 2001 年なので 7 年ぶりの改定でした。シャンパングラスのひどい挿図ミスが直っている
のは当然として、写真がかなり追加されて約 30 頁増えています。
Stability(弱層テスト)の章 が ずいぶん変わっていて、シャベルコンプレッションテストの弱点が
書かれています。単独では滑り面(share quality)と雪層構造(snowpack structure)の評価が出
来ないので、これら三つを総合的に評価するように注意しています(※内容は本稿の弱層テスト
に引用しています)。
シャベルコンプレッションよりお勧めなのは、次の二つだそうです。
(1) 拡張コラムテスト(Extended Column Test)
要は 30cmX30cm の角柱(コラム)を 100cmX30cm に拡張したシャベルコンプレッションテスト
で、強度だけではなく弱層の破壊がどの程度起きるか確認できるそうだ。YouTube で実例が見
られます。
(2) 弱層破壊テスト(?)(Propagation Saw Test : 伝搬ノコギリテスト)
こいつは(1)を縦にしたようなもので、弱層とおぼしき層をノコギリの「背」で下から切り抜いてゆく
もの。
『Staying Alive In Avalanche Terrain』
Bruce Tremper "Mountaineers Books" (2001/10)
ショッキングな表紙写真はスイスの"Tele de la Paynee"という所の実際の雪崩現場を撮影した
ものらしいです 2013 年 11 月に起きた立山・真砂岳のニュース映像にもこれに近いシュプール
と破断面が映っていました。(邦訳は『雪崩リスクマネージメント』)
『Snow』
Robert Bolognesi "Cicerone Pr Ltd" (2007/3/30)
フィールドで使うことを考えた薄い小冊子で、全ページがカラー図版で分かりやすいです。ただ、
シャベルコンプレッションテストは載っていません。おまけで付いている雪質観察カードは、雪の
結晶の写真が印刷されていたり、雪質ごとの比重 が記載されていて便利です。ただ、傷つきや
すいのでラミネートした方がよいかもしれません。
『決定版 雪崩学―雪山サバイバル 最新研究と事故分析』
北海道雪崩事故防止研究会 山と渓谷社 2002 年
最初に読む雪崩の本として、現状では最適な本かもしれません。前版の『最新雪崩学入門』を
大幅に増訂したもので、全体として説明がわかりやすくなっています。サブタイトルに 「雪山サ
バイバル-最新研究と事故分析」と付けているように、雪崩対策の装備と事例研究のページが
大幅に増えています。裏側カバーの写真はカナダのヘリスキー取 材中に起きた雪崩事故のも
ので、1998 年のブラボースキーに掲載しれたもの。結構ショッキングです。これもすでに絶版に
なっていて 2015 年に続編の『雪崩大全』が出版予定です。
『最新雪崩学入門』
北海道雪崩事故防止研究会編 山と渓谷社 1996 年
すでに決定版が出ているので絶版になったと思いますが、当時の雪崩講習会を受講したとき
は、この本を読んで事前学習のレポートを書かされました。決定版は少し冗長なので、内容を更
新すれば良いのにと思います。
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積雪観察の手引き (2015 年版)
(ver.1.5)
『ドキュメント雪崩遭難』
阿部幹雄 山と渓谷社 2003 年
比較的記憶に新しい白馬の八方尾根ガラガラ沢や源太ヶ岳の雪崩遭難など、詳細に取り上げ
ています。報告の中にいくつかのキーワードがあり、例えば、広大なデブリのデジタルビーコン
受信感度の問題。また、源太ヶ岳では風下斜面の積雪量の推定が重要だったとコメントされて
います。
『雪崩ハンドブック』
David McClung and Peter Schaerer、日本雪崩ネットワーク(訳)
東京新聞出版局 (2007/12/04)
『THE Avalanche HANDBOOK (3rd Edition)』 の邦訳
『雪崩リスクマネージメント』
トレンパー,ブルース、日本雪崩ネットワーク(訳) 山と渓谷社 (2004)
『Staying Alive In Avalanche Terrain』 初版(2001)の邦訳、訳が固いので少し読みづらいです
が、構造的な積雪の脆弱性(ウィークインタフェース)を知るには良いと思います。
『雪崩の掟』
若林隆三 信濃毎日新聞社 (2007/3/1)
新田先生の『雪崩の掟』。タイトルがいま一つですが、雪庇の危険性について詳しく解説してい
ます。また、2000 年の白馬の雪崩についても記載があります。
『全面改訂第二版 低体温症と凍傷』
ゴードン・G・ギースブレヒト、ジェームズ・A・ウィルカースン(著) 栗栖茜(訳) 海山社(2014/9/20)
初版は『低体温症と凍傷、防ぎ方・なおし方』 山洋社, (1989.12)として邦訳されていまし
たが、新しい著者が加わっ 2006 年にて全面改訂されました。しかし、購入したものの医
学用語が難しく挫折。神保町を流していると三省堂で改訂版の邦訳を見つけた。Amazon
の検索だけではわからないもので、やはり店頭に通わないとだめです。
難解だった 1~3 章が丁寧な訳でわかりやすい(※が、医学用語が多いのでネット検索が
欠かせない)。表 4-1 の低体温症の分類もすっきりしている。凍傷にア スピリンが効果が
あるとか、レイヤード・システムの欠点、アイスウォーターからの脱出など、なかなか新鮮
だ。いずれにしろ、目の前の重度の低体温症に陥った仲間に出来ることがほとんど無い
ことに変わりはないので、予兆を知った予防安全に越したことはないようです。
10.2 雪氷関係の図書
『新版 雪氷辞典』
日本雪氷学会編 古今書院 2014 年
1990 年からの 24 年振りの改訂版で、雪崩関連の用語の記載も増えています。
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積雪観察の手引き (2015 年版)
(ver.1.5)
『積雪観測ガイドブック』
日本雪氷学会編 朝倉書店 2010 年
雪崩講習会テキストの参考用に購入。§4 積雪断面観測のプッシュゲージを使った硬度測定が
良いのですが、ネットが価格を見ると個人で所有するには高い気がします。§6 雪粒子の観察と
撮影はややコンデジが古いかなと思います。今では Olympus TG-2 を使うと歪みのない結晶
の撮影が出来ます。また、§8 雪崩斜面における積雪安定性評価と弱層テストは一般的な記述
になっています。
なお、シャベルコンプレッションテスト(CT)の記録方法がデータコード CTx+回数になっていて、
スコアを記録する方法(テスト方法(CT)+回数と異なるのが気になります。
『積雪・雪崩分類』
日本雪氷学会 1998 年
『Field Guide to Snow Crystals』
Edward R. LaChapelle The International Glaciological Society 1992
降雪結晶の書籍は多いが、積雪の変化を書いているものはこの本くらいではないかと思いま
す。地面に落ちてから始まる等温変態、温度勾配変態の過程にある雪の 写真が豊富に掲載さ
れています。また、表面付近の日毎の温度変化によって小霜もざらめ雪に変化する点や、これ
に関連して真の(?) パウダースノーの意味など、雪質観察には欠かせない一冊です。
『Secrets of the Snow』
Edward R. LaChapelle University of Washington Press 2001
『Snow, Weather, and Avalanches: Observational Guidelines for Avalanche Programs
in the United States』
American Avalanche Association 2010
最新の積雪観察、弱層テストのガイドラインが掲載されています。AAA のサイトから PDF 版が
ダウンロード出来ますが、印刷は出来ないようです。製本したものは AAA に直接注文して入手
できます。
『スノーフレーク-雪結晶のふしぎを探る-』
ケネス・リブレクト/パトリシア・ラスムッセン(写真)、でがわあずさ(訳)
山と渓谷社 (2010/12/10)
『氷の科学』
前野紀一 北海道大学図書刊行会 1995/9
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積雪観察の手引き (2015 年版)
(ver.1.5)
『基礎雪氷学講座 3 吹雪と雪崩』
前野紀一・福田正己編 古今書院 2000 年
(内容)
第1章
第2章
第3章
第4章
第5章
第6章
雪の流動化と雪氷混相流
雪崩の分類と発生機構
雪崩の内部構造と運動機構
吹雪の構造と発生機構
吹雪の付随現象
着氷と着雪
雪氷学全般を扱ったシリーズのうち、地表に積もった雪がなんらかの作用で再び運動を始める
現象を扱ったのが本巻。雪崩に関しては自然発生的な雪崩に特化しているので、改訂版が望ま
れるところです。
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